説明

複合粒子及びその製造方法

【課題】 有効成分を安定に内包するものの、例えば酸等に触れることによりすばやく、有効成分が溶出する複合粒子を得る。
【解決手段】 多孔質の無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆された複合粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、食品、化粧品、農薬等に用いられる有効成分が内包された無機複合粒子及びその製造方法に関し、詳しくは、有効成分が担持された多孔質無機粒子の表面に、無機ナノ粒子が被覆された複合粒子及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医薬の有効成分は、一種独特の苦味や刺激のあるものが多数存在し、服用が困難な要因となっている。これらの苦味や刺激を緩和させるために、有効成分をマイクロカプセルに封入するか、高分子化合物や無機粒子で有効成分をコーティングすることが行われている。
【0003】
高分子化合物や無機粒子で有効成分をコーティングする例としては、多孔性粉体の穴に第三物質を充填し、その表面が無機微粉体あるいは有機微粉体で被覆されたマイクロスフェアが提案されている(例えば、特許文献1:特開昭61−227520号公報参照)。
【0004】
また、多孔性カルシウム殻に有用生菌を減圧含浸で封入し、さらに多孔性カルシウム殻を添加して、封入しきれなかった有用生菌を取り込んだ粒子が提案されている(例えば、特許文献2:特開平10−155876号公報参照)。あるいは、静電気吸着を利用して、油状生理活性物質粒子に多孔質物質を吸着させ、さらにその隙間を他の物質で塞いだ生理活性物質封入粒子(例えば、特許文献3:特開2003−63952号公報参照)、細孔構造を有する粒子に不快な物質を担持させ、この担持粒子を封入処理する技術(例えば、特許文献4:特開平04−327528号公報参照)が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1で提案されているマイクロスフェアは、第三物質の水への徐放性を目的として開発されたものであり、内包されている有効成分の放出に時間がかかってしまい、例えば、医薬有効成分を内包して用いた場合に、即効性は期待できない。さらに、内包されている有効成分の隔離性に問題があり、このマイクロスフェアをなめた場合に、例えば中身の第三物質が苦味のある有効成分であるなら、その有効成分が溶出して苦味を感じてしまうことが問題であった。
【0006】
また、上記特許文献2には、多孔質カルシウム殻に有用生菌を封入しているが、腸まで生菌を届けるために多孔性の穴を硬化油等で塞いで耐酸性構造にしているため、胃酸で溶かして中身を即放出させることは困難なものとなっている。
【0007】
上記特許文献3には、静電気吸着により微粒な物質で塞いだ生理活性物質封入粒子及びその製造方法であるが、微粒な物質が数μmの大きさであり、そのままでは表面への静電吸着性が弱いため、複合粒子が崩壊して内包した有効成分がもれやすいことが難点である。従って、微粒な物質の固定化のために乳蛋白等を固着剤として用いる必要があった。
【0008】
以上のことから、有効成分を安定に内包し、例えば(胃)酸等に触れることによりすばやく、有効成分が溶出する複合粒子が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−227520号公報
【特許文献2】特開平10−155876号公報
【特許文献3】特開2003−63952号公報
【特許文献4】特開平04−327528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、有効成分を安定に内包するものの、例えば酸等に触れることによりすばやく、有効成分が溶出する複合粒子及びその製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、多孔質無機粒子に有効成分を担持させた後、この多孔質無機粒子の表面を平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆することにより、固着剤を用いなくともその表面活性の力で無機ナノ粒子が多孔質無機粒子の表面に強固に吸着し、その表面を被覆することができ、有効成分が安定に内包された複合粒子となることを知見した。また、無機ナノ粒子を平均粒径0.10μm以下のナノ粒子にすることで、粒子表面の活性が非常に高くなり、微粒子同士の凝集性が増し、ナノ粒子が連なって結合した強固な被覆膜を形成できることを見出した。さらに、多孔質無機粒子と、平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子の分散液とを混合することにより、多孔質無機粒子の表面に無機ナノ粒子が強固に吸着して複合粒子化することを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
本発明の多孔質無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆された複合粒子は、有効成分を封入した一種のマイクロカプセルであり、以下に示される効果が発揮される。
(1)本発明の複合粒子は、有効成分を安定に内包し、有効成分の経時安定性、耐久性に優れる。
(2)本発明の複合粒子は、無機成分からなり、その平均粒径は数〜数十μmと小さいため、機械的な力によって壊れにくい。例えば、錠剤成型の際の打錠機によって破壊されにくく、また、医薬品として服用する際に噛んでも壊れにくい。
(3)本発明の複合粒子は、有効成分を安定的に内包するため、有効成分の苦味、刺激性等をマスキングすることができる。
(4)酸溶解性の無機成分で無機ナノ粒子を、又は無機ナノ粒子及び多孔質無機粒子を構成した場合、酸、特に胃酸で溶解しやすい複合粒子ができる。とりわけ、被覆に用いる無機ナノ粒子は、粒子自体の表面積が大きく、酸による溶解性が速くなるため、例えば胃で急速に溶解して有効成分の即効性が発揮される。
【0013】
従って、本発明は
[1].多孔質無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆された複合粒子、
[2].無機ナノ粒子が、酸により溶解する無機化合物からなることを特徴とする[1]記載の複合粒子、
[3].多孔質無機粒子が、酸により溶解する無機化合物からなることを特徴とする[2]記載の複合粒子、
[4].有効成分を多孔質無機粒子に担持させた後、この多孔質無機粒子と、平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子を分散させた分散液とを混合し、多孔質無機粒子表面を前記無機ナノ粒子で被覆することを特徴とする、[1]記載の複合粒子の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多孔質無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆することにより、有効成分が安定に内包された複合粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の複合粒子は、多孔質無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆されたものである。
[多孔質無機粒子及び無機ナノ粒子]
多孔質無機粒子は多孔質の無機粒子であり、多孔質無機粒子及び無機ナノ粒子に用いられる無機化合物としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、フッ化カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、第二リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化アパタイト等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上を適且組み合わせて用いることができる。これらの中でも、特に、酸(pH0〜6)で溶解する成分が好ましく、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、第二リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト等が挙げられる。無機ナノ粒子、又は無機ナノ粒子及び多孔質無機粒子を、酸で溶解する無機化合物とすることで、本発明の無機複合粒子は、酸により無機ナノ粒子が溶解し、又は無機ナノ粒子及び多孔質無機粒子が溶解して、内包した有効成分を放出することができる。
【0016】
多孔質無機粒子と、その表面被覆に用いられる無機ナノ粒子との組み合わせは、特に限定されないが、その接着・吸着性の点から、同種の成分の組み合わせであることが好ましい。
【0017】
多孔質無機粒子の平均粒径は、酸による溶解性、内包有効成分の放出性、機械的な力による破壊防止性の点から、数〜数十μmが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。なお、多孔質無機粒子の平均粒径は、レーザー回析散乱法による測定値である。測定に用いる装置としては、堀場製作所 レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置LA−920等が挙げられる。多孔質無機粒子の空隙率は、有効成分を担持させるに十分な大きさがあることが好ましく、例えば、その指標としてJIS K5101に準ずる吸油量を用いた場合、約60〜400(mL/100g)の範囲を示すものが好ましく、より好ましくは100〜350(mL/100g)、さらに好ましくは、100〜300(mL/100g)である。
【0018】
無機ナノ粒子の平均粒径は、表面活性による粒子同士の凝集性の強さの点から、0.10μm(100nm)以下である。平均粒径は、より小さい方が表面活性及び凝集性が強くなる傾向にあるため、好ましくは0.05μm(50nm)以下、より好ましくは0.03μm(30nm)以下である。下限は特に限定されないが、0.001μm(1nm)である。なお、無機ナノ粒子の平均粒径の測定は動的光散乱法による測定値である。測定に用いる装置としては、(株)日機装製の粒度分析計(マイクロトラックUPA)等が挙げられる。
【0019】
[有効成分]
本発明に用いられる有効成分としては、医薬、食品、農薬、化粧品等に使用される有効成分が好ましく、1種単独で又は2種以上を適且組み合わせて用いることができる。かかる有効成分としては、例えば、催眠鎮静剤、睡眠導入剤、抗不安剤、抗てんかん剤、抗うつ薬、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、中枢神経系用剤、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、解熱鎮痛消炎剤、鎮けい剤、鎮暈剤、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、循環器官用薬、高脂血症用剤、呼吸促進剤、鎮咳剤、去たん剤、鎮咳去たん剤、気管支拡張剤、止しゃ剤、整腸剤、消化性潰瘍用剤、健胃消化剤、制酸剤、下剤、利胆剤、消化器官用剤、副腎ホルモン剤、ホルモン剤、泌尿器官用剤、ビタミン剤、止血剤、肝臓疾患用剤、痛風治療剤、糖尿病用剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー薬、抗生物質、抗菌剤、抗悪性腫瘍剤、抗炎症剤、化学療法剤、総合感冒剤、滋養強壮保健薬、骨粗しょう症薬、化粧成分、各種農薬等が挙げられる。
【0020】
具体的には、催眠鎮静剤としては、フェノバルビタール、チオペンタール、フルラゼパム、ニトラゼパム、トリアゾラム、睡眠導入剤としては、ブロムワレリル尿素、抗てんかん剤としては、ジアゼパム、タザノラスト、トラニラスト、イブジラスト、フェノバルビタール、精神神経用剤としては、クロルプロマジン、ホパテン酸カルシウム、塩酸ノルトリプチリン、中枢神経系用剤としては、塩酸メチルエフェドリン(d体、dl体を含む)、塩酸エフェドリン、臭化水素酸デキストロメトルファン、塩酸メクロフェノキサート、局所麻酔剤としては、オキセサゼイン、解熱鎮痛消炎剤としては、アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、エテンザミド、クロモグリク酸ナトリウム又はその塩類、ケトプロフェン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、サリチル酸ナトリウム、スルピリン、トルメチンナトリウム、フルフェナム酸、鎮けい剤としては、バルプロ酸ナトリウム、塩酸ベンジダミン、強心剤としては、ジギトキシン、塩酸エチレフリン、不整脈用剤としては、塩酸プロプラノロール、塩酸ジルチアゼム、塩酸アルプレノロール、利尿剤としては、アミノフィリン、カフェイン、無水カフェイン、スピロノラクトン、血圧降下剤としては、アラセプリル、鎮咳剤としては、コデイン、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、ジメモルファン、ノスカピン、去たん剤、鎮咳去たん剤としては、グアイフェネシン、止しゃ剤としては、塩酸ロペラミド、消化性潰瘍用剤としては、シメチジン、ファモチジン、塩酸ラニチジン、ニザチジン、ヨウ化イソプロパミド、塩酸ピレンゼピン、塩酸ロキサチジンアセタート、制酸剤としては、臭化ブチルスコポラミン、利胆剤としては、ケノデオキシコール酸、消化器官用剤としては、酵素、塩酸メトクロプラミド、副腎ホルモン剤、ホルモン剤、泌尿器官用剤、ビタミン剤としては、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンD、ビタミンE、オクトチアミン、シコチアミン、ジベンゾイルチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、チアミンピロリン酸、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、フルスルチアミン、ベンフォチアミン、リン酸リボフラビンナトリウム、硝酸チアミン、硝酸ビスチアミン、塩酸フルスルチアミン、塩酸ジセチアミン、塩酸チアミン、フィトナジオン、メナテトレノン、塩酸ピリドキシン、抗ヒスタミン剤としては、d−マレイン酸クロルフェニラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン又はその塩類、ジメンヒドリナート、メキタジン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸プロメタジン、塩酸シプロヘプタジン、塩酸アゼラスチン、オキサトミド、ベラドンナ(総)アルカロイド、マレイン酸カルビノキサミン、塩酸イソチペンジル、塩酸イプロヘプチン、抗アレルギー薬としては、オキサトミド、アンレキサノクス、ジフェニルピラリン又はその塩類、トシル酸スプラタスト、フマル酸エメダスチン、フマル酸クレマスチン、レピリナスト、塩酸オザグレル、塩酸トリプロリジン、塩酸ホモクロルシクリジン、抗生物質としては、エリスロマイシン、オフロキサシン、クロラムフェニコール、エノキサシン、ステアリン酸エリスロマイシン、ペミロラスト又はその塩類、抗菌剤としては、塩化デカリニウム、グアヤコールスルホン酸、グアヤコールスルホン酸カリウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、抗悪性腫瘍剤としては、テガフール、抗炎症剤としては、トラネキサム酸、塩酸ブロムヘキシン、塩化リゾチーム、滋養強壮保健薬としては、ウルソデオキシコール酸、その他、DHA、EPA、タンパク質、DNA等のほか、アロエ、ウイキョウ、ウコン、ウヤク、エンゴサク、エイジツ、オウギ、オウゴン、オウバク、オウセイ、オンジ、ガラナ、クコシ、ジオウ、トウキ、トチュウ、ニンジン、アマロゲンチン、オウゴン、オウバク、オウレン、ガジュツ、カスカラサグラダ、カッコウ、カスカリラノキ、カノコ草、カロウコン、キキョウ、キジツ、キョウニン、キハダ、クコ、クジン、ケイガイ、ケイヒ、ケツメイシ、ケンゴシ、ゲンチアナ、ゲンノショウコ、コウジン、コウブシ、コウボク、ゴオウ、ゴシツ、ゴシュユ、ゴミシ、コロンボ、コンズランゴ、サイコ、サンシシ、サフラン、サンズコン、ジオウ、シコン、シソシ、シャクヤク、シャジン(ツリガネニンジン)、シャゼン(オオバコ)、ジャ香、ショウキョウ、ショウマ、セイヒ、セキショウコン、センキュウ、センコツ、センタウリウム草、センブリ、センボウ、センソ、センナ、ソウジュツ、ソウハクヒ、ソヨウ、ダイオウ、竹節人参、チモ、チレッタ草、チンピ、トウヒ、トウニン、トコン、ニガキ、ヒノキ、ヒノキチオール、ビャクシャク、ビャクジュツ、ベラドンナコン、ヤクチ、ユウタン、ヨモギ、ニガヨモギ、ジシュユ、ホップ、ホミカ、ボウイ、マオウ、モクツウ、モッコウ、リュウタン、リンドウ、ルソンカ、レンギョウ等の生薬末及びそのエキス等が挙げられる。これらの有効成分のうち、特に水不溶あるいは水難溶成分であることが好ましい。
【0021】
[各成分の比率]
複合粒子を構成する多孔質無機粒子と無機ナノ粒子の質量比率は、1:3〜3:1が好ましく、より好ましくは1:2〜2:1、さらに好ましくは2:3〜3:2である。無機ナノ粒子の比率が大きくなると、被覆厚が厚くなるので、酸によって被覆した粒子が溶解するまでの時間が長くなり、内包された有効成分の放出速度が遅くなる懸念がある。また、無機ナノ粒子の比率が小さくなると、十分に多孔質無機粒子表面を被覆できなくなり、有効成分のマスキング性に難が生じる可能性がある。なお、本発明の効果を妨げない範囲において、複合粒子中には上記成分以外を含んでいてもよく、複合粒子中の多孔質無機粒子と無機ナノ粒子との合計含有量は、60〜99質量%が好ましく、より好ましくは80〜95質量%である。
【0022】
複合粒子中の有効成分の含有量は、約1〜40質量%が好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。有効成分が少なすぎると、十分な効果が認められない場合があり、また、40質量%を超えると有効成分を保持できる空間よりもあふれてしまい、満足に封入できない場合がある。
【0023】
[複合粒子]
本発明の複合粒子は、多孔質無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆されたものであり、有効成分が担持された多孔質無機粒子と、この粒子表面上に形成された平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子からなる被覆層とを有する複合粒子である。有効成分は多孔質無機粒子の孔部等に担持され、被覆は、多孔質無機粒子の一部でもよいが、多孔質無機粒子の全表面を覆うことが好ましい。被覆により形成される被覆層の厚さは0.2〜10μmが好ましく、より好ましくは0.5〜5μmである。なお、被覆層の厚さの測定は、レーザー回析散乱法により測定した複合粒子の平均粒径から複合前の多孔質無機粒子の平均粒径を差し引くことで求めることができる。
【0024】
[複合粒子の製造方法]
本発明の複合粒子の製造方法を下記の沿って説明する。
[1]有効成分を多孔質無機粒子に担持させる工程。
[2]平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子を得る工程。
[3]有効成分が担持された多孔質無機粒子の表面を、平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆する工程。
【0025】
[1]有効成分を多孔質無機粒子に担持させる工程。
有効成分は、有効成分単独、有効成分の融解液、又は有効成分を油分に溶解させた溶解液に、多孔質無機粒子を含浸させることにより、有効成分を多孔質無機粒子に担持させることができる。溶解させる油分としては、油脂類を1種単独で又は2種以上を適且組み合わせて用いることができる。この中でも、有効成分の即効性を発揮させることを考えると、液状で拡散放出されやすいものが好ましい。本発明に用いられる油分としては、例えば、流動パラフィン、サラダ油、オリーブ油、ゴマ油、ヒマシ油、大豆油、コーン油、パーム油、ラード、ミツロウ、綿実油、スクワラン等が挙げられる。有効成分と油分との配合質量比は、1:10〜1:1が好ましい。
【0026】
含浸の方法としては、多孔質無機粒子を減圧で真空状態にしたところに、有効成分単独、有効成分の融解液、又は有効成分を油分に溶解させた溶解液を、直接滴下し混合する方法が挙げられる。
【0027】
さらに、上記有効成分単独、有効成分の融解液、又は有効成分を油分に溶解させた溶解液をエタノールやヘキサン等の揮発性溶媒に溶解した液にして、減圧下に多孔質無機粒子に直接滴下し混合する方法が好ましい。この方法によれば、有効成分の粘度が高かったり、融点が高くて流動性が確保しにくい場合に、特に有効である。有効成分と揮発性溶媒との混合質量比は、2:1〜1:5が好ましく、より好ましくは1:1〜1:4である。含浸後に揮発性溶媒は、揮発除去させることにより、有効成分含浸粒子が形成される。
【0028】
[2]平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子を得る工程。
無機ナノ粒子は、ミクロン程度の大きさの無機粒子を、溶媒分散液中で湿式粉砕することにより、溶媒分散液の形で得ることが好ましい。無機ナノ粒子の製造を効率よく行うためには、粉砕前の無機粒子として一次粒子が0.1μm以下の粒子からなる凝集体を用いることが好ましい。このような無機粒子としては、例えば、ハイドロキシアパタイトなら、白石カルシウム(株)製のメカールP、炭酸カルシウムなら、白石カルシウム(株)製のポアカル−N等が挙げられる。
【0029】
分散に供する溶媒としては、水やアルコール類、多価アルコール類等が挙げられ、より具体的には、水、エタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適且組み合わせて用いることができる。これらの中でも、有効成分の漏出を防ぐ点から、水で行うことが好ましい。無機ナノ粒子の溶媒分散液中の濃度は1〜30質量%が好ましく、より好ましくは2〜20質量%である。濃度が30質量%よりも高くなると、無機粒子を粉砕するにつれて生成した無機ナノ粒子同士の相互作用により、系の粘度が上昇して流動性が低下する場合がある。
【0030】
無機ナノ粒子の溶媒分散液には、ノニオン性界面活性剤や、カルボン酸基を持つ化合物、例えば、クエン酸3ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の分散安定化剤を添加することが好ましい。その際の無機ナノ粒子と分散安定化剤の質量比(無機ナノ粒子:分散安定化剤)は、分散安定化剤の種類によって異なるが、ノニオン性界面活性剤の場合は、10:1〜2:1が好ましい。カルボン酸基を持つ化合物の場合は、10:1〜1:3が好ましい。分散安定化剤の配合量が多すぎると、無機ナノ粒子自体が安定化されてしまい、多孔質無機粒子との複合化ができなくなる場合がある。
【0031】
粉砕装置としては特に限定されないが、例えば、ビーズミル、ボールミル、各種メディアレスミル、超音波分散機、高圧ホモジナイザー等を用いることができる。例えば、ビーズミルとしては、ウルトラアペックスミル(寿工業(株)製)、スターミル(アシザワ・ファインテック(株)製)等、メディアレスミルとしては、CLEAR SS−5(エムテクニック(株)製)、クレアミックス(エムテクニック(株)製)、マイルダー((株)荏原製作所製)、フィルミックス(特殊機化工業(株)製)、ディスコプレックス(ホソカワアルピネ社製)、ACM−Aパルベライザ(ホソカワミクロン(株)製)等、超音波分散機としては、超音波分散機UH−600SR((株)エスエムテー製)、超音波ホモジナイザー(Dr.Hielscher社製)等、高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンホモジナイザー(APV製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディックス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)等が挙げられる。例えば、装置としてビーズミルを用いる場合は、0.03〜2mm径、好ましくは0.5〜1mm径のビースを用いて、周速5〜20m/secで、15〜120分、好ましくは30〜60分粉砕するとよい。
【0032】
[3]有効成分が担持された多孔質無機粒子の表面を、平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆する工程。
上記[1]の工程で得られた有効成分が担持された多孔質無機粒子と、上記[2]の工程で得られた粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子の分散液とを混合し、多孔質無機粒子表面を前記無機ナノ粒子で被覆する方法が好ましい。
混合は、通常の撹拌混合機を用いて行うことができる。例えば、マグネチックスターラー、プロペラ撹拌機、パドル撹拌機、ホモミキサー、ディスパー撹拌機等が挙げられる。その混合手順は、無機ナノ粒子分散液を撹拌しているところに、有効成分が担持された多孔質無機粒子を添加することによって、この多孔質無機粒子の表面に無機ナノ粒子が凝集し、被覆する。ただし、無機ナノ粒子は、それ自身の凝集性が高く、時間が経ってしまうと無機ナノ粒子単独で凝集して、多孔質無機粒子の表面被覆がしにくくなる場合がある。そこで、無機ナノ粒子分散液を調製している装置に直接、有効成分を内包した多孔質無機粒子を投入して被覆させることが好ましい。その際、機械力等によって多孔質無機粒子が破壊されてしまわないように、例えばビーズミルを用いる場合、周速を5m/sec以下にする等の、機械力を抑えた運転を行うことが望ましい。
【0033】
このように得られた複合粒子分散液は、用途に応じてそのままの分散液の形で用いることが可能であるが、蒸発乾燥や凍結乾燥等の手段を用いて乾燥し、複合粒子粉末とすることもできる。複合粒子分散液は、その他の有効成分、製剤に応じた味覚調整剤、粘度調整剤等を添加混合して、ドリンク剤、ゼリー剤として製剤化することができる。また、乾燥させた複合粒子粉末は、そのまま粉末製剤として利用できる他、他の有効成分、製剤に応じた保形剤、崩壊剤と混合して打錠し、錠剤として製剤化することもできる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0035】
[実施例1,2、比較例1,2]
有効成分:オキセサゼイン及び多孔質無機粒子:多孔質炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製ポアカル−N,平均粒径17μm(測定:東日コンピュータアプリケーションズ(株)製粒度分析計 LDSA−1400Aにて測定)、吸油量100〜140(mL/100g))を用いて、下記調製方法で粒子を得た。
【0036】
[実施例1]
(1)有効成分オキセサゼインが担持された多孔質無機粒子の調製
オキセサゼイン2.5gをエタノール9gに1:3.6の比率で溶解した液11.5gを、フラスコに入れた多孔質炭酸カルシウム10gに撹拌・減圧下で噴霧して含浸させた。さらにエタノールを減圧揮散させて、オキセサゼインを20質量%含浸した多孔質炭酸カルシウム粒子(オキセサゼイン担持多孔質炭酸カルシウム粒子)を得た。この粒子の大きさを堀場製作所 レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置LA−920で測定したところ、平均粒径20μmであった。
【0037】
(2)無機ナノ粒子の調製
多孔質炭酸カルシウム(白石カルシウム(株)製ポアカル−N,平均粒径17μm、吸油量100〜140(mL/100g))14gを純水686gに分散させた2質量%水分散液を得た。この水分散液を、寿工業(株)製ビーズミル(ウルトラアペックスミル:UAM−015)で、0.1mm径のジルコニアビーズを用いて、周速10m/sec(ローター回転数4,300rpm)の条件で1時間粉砕を行い、炭酸カルシウムナノ粒子分散液を得た。炭酸カルシウムナノ粒子の平均粒径を、(株)日機装製の粒度分析計(マイクロトラックUPA)にて測定したところ、平均粒径20nmであった。
【0038】
(3)上記(2)で得られた炭酸カルシウムナノ粒子分散液48gをビーカーにサンプリングし、これに(1)で得られたオキセサゼイン担持多孔質炭酸カルシウム粒子1.3gを直ちに添加して、スターラーにて混合し複合化を行い、複合粒子分散液を得た。得られた複合粒子を堀場製作所 レーザー回析/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて、その平均粒径を測定したところ27μmであった。複合前のオキセサゼイン担持多孔質炭酸カルシウム粒子の平均粒径を差し引いて、被覆層の厚みを求めると平均3.5μmであった。続いて、得られた複合粒子分散液から複合粒子を吸引ろ過によりろ別(1μmポアのろ紙使用)、水洗浄し、減圧乾燥させて水分を除去して複合粒子粉末を得た。
【0039】
[成分分析]
(3)で得られた複合粒子粉末と重メタノールとを、NMRチューブ中に加え、分散させ、さらに重塩化水素水を滴下して複合粒子粉末を溶解させた。1,1,2,2−テトラクロロエタンを内部標準物質として添加し、1H−NMRを用いて1.54ppmのピークからオキセサゼインの定量(内部標準の1,1,2,2−テトラクロロエタンのピークは6.5ppm)を行った結果、複合粒子中にオキセサゼインは12.2質量%含まれていた。
【0040】
[実施例2]
上記実施例1(2)で炭酸カルシウムナノ粒子分散液を調製する際に、クエン酸3ナトリウムを分散安定化剤として、炭酸カルシウム14gに対して36.1g添加する以外は、実施例1と同様の操作で複合化させて複合粒子分散液を調製した。得られた複合粒子の平均粒径を堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて測定したところ、平均粒径28μmであった。複合前のオキセサゼイン担持多孔質炭酸カルシウム粒子の平均粒径を差し引いて、被覆層の厚みを求めると平均4μmであった。続いて、得られた複合粒子分散液から複合粒子を吸引ろ過によりろ別、水洗浄し、減圧乾燥させて水分を除去して複合粒子粉末を得た。
【0041】
[成分分析]
実施例1記載の方法に従い、オキセサゼインの定量を行ったところ、複合粒子中にオキセサゼインは10.3質量%含まれていた。また、同様に1H−NMRを用いて3.01ppmのピークを用いてクエン酸分を測定し、クエン酸3ナトリウム量に換算したところ、複合粒子中にクエン酸3ナトリウムは5.5質量%含まれていた。
【0042】
[比較例1]
被覆に用いる炭酸カルシウムナノ粒子分散液を以下(2´)の方法で調製し、下記方法で複合粒子を得た。
(2´)
多孔質炭酸カルシウム14gを純水686gに分散させた2質量%水分散液を得た。この水分散液を、エムテクニック(株)製のクレアミックス(ローター径30mm)を用いて、周速14.1m/sec(ローター回転数9,000rpm)で5分間、粉砕を行い炭酸カルシウムナノ粒子分散液を得た。得られた炭酸カルシウムナノ粒子の粒径を、(株)日機装製の粒度分析計(マイクロトラックUPA)にて測定したところ、平均200nmであった。
【0043】
(3´)
上記(2´)で得られた炭酸カルシウムナノ粒子分散液48gをサンプリングし、これに実施例1(1)で得られたオキセサゼイン担持多孔質炭酸カルシウム粒子1.3gを添加して、スターラーにて混合し複合化を行い、複合粒子分散液を得た。得られた複合粒子の平均粒径を堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて測定したところ、10〜30μmと0.2〜2μmとの2山ピークが現れた。前者は、複合粒子の粒径であり、後者は被覆に使われなかった炭酸カルシウムナノ粒子のピークであると思われる。続いて、得られた複合粒子分散液から複合粒子を吸引ろ過によりろ別、水洗浄し、減圧乾燥させて水分を除去し、複合粒子粉末を得た。
【0044】
[成分分析]
実施例1記載の方法に従い、複合粒子中のオキセサゼインを定量したところ、複合粒子中にオキセサゼインは13.1質量%含まれていた。
【0045】
[比較例2]
実施例1(1)で得られたオキセサゼイン担持多孔質炭酸カルシウム粒子を比較例2の粒子とした。
【0046】
[評価方法1](マスキング性)
上記実施例1,2及び比較例1,2のオキセサゼイン内包の複合粒子を用いて、舌でなめることにより、オキセサゼイン特有の麻酔作用のマスキングを、下記評価基準で評価した。結果を表1に示す。
<マスキング性評価基準>
○;なめた直後しびれず、1分後もしびれない。
△;なめた直後しびれず、1分後はしびれる。
×;なめた直後にしびれる。
【0047】
【表1】

【0048】
オキセサゼイン粉末を、直接舌でなめると、その麻酔作用のために舌がしびれてしまったが、比較例2の粒子では、麻酔作用が緩和されるものの舌がしびれる感覚は残り、マスキング性は不十分であった。一方、実施例1及び2の複合粒子は、オキセサゼインの麻酔作用が全く感じられず、マスキング良好であった。また、比較例1の0.2μmの炭酸カルシウム粒子で被覆した複合粒子は、なめた初期のマスキング効果はあるものの、その持続力に難があることが分かった。
【0049】
[評価方法2](酸による溶解性)
日本薬局方の人工胃液(日本薬局方「崩壊試験法」の第1液)を用いて、上記実施例1,2、比較例1で調製した複合粒子の溶出性を評価した。50mLビーカーに上記人工胃液を30mL注入し、20mmスターラーピースを挿入し、マグネチックスターラーで撹拌しているところに、複合粒子を0.1g添加して撹拌を継続し、30秒後、1分後、2分後、5分後に液をサンプリングして、1H−NMRを用いて、1.54ppmのピークからオキセサゼインの定量(内部標準の1,1,2,2−テトラクロロエタンのピークは6.5ppm)を行い、複合粒子から溶け出たオキセサゼイン比率を求めた。
結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例1及び2の複合粒子は、粒子が速く溶解して内包しているオキセサゼインが溶出することが確認された。一方、比較例1の複合粒子は、実施例に比べ複合粒子の溶解が遅く、オキセサゼインの溶出が遅いことが確認された。
【0052】
以上のように、多孔質無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆された複合粒子は、有効成分を安定に封入できる点で、医薬品、食品、化粧品、農薬等への用途に用いるのに好適である。また、その加工剤型としては、ドリンク剤、粉末製剤、錠剤等が挙げられる。
【0053】
また、本発明の複合粒子は、無機ナノ粒子、無機ナノ粒子及び多孔質無機粒子が、酸で溶解する無機化合物からなるときには、口腔内では有効成分の苦味や刺激性のマスキングが発揮され、さらに、胃酸等で即溶解して内包している有効成分を放出し、即効性を発揮できる。従って、環境応答型のドラッグデリバリーシステム、酸性土壌改良剤、農薬放出コントロール剤等への応用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質無機粒子に有効成分が担持され、この無機粒子の表面が平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子で被覆された複合粒子。
【請求項2】
無機ナノ粒子が、酸により溶解する無機化合物からなることを特徴とする請求項1記載の複合粒子。
【請求項3】
多孔質無機粒子が、酸により溶解する無機化合物からなることを特徴とする請求項2記載の複合粒子。
【請求項4】
有効成分を多孔質無機粒子に担持させた後、この多孔質無機粒子と、平均粒径0.10μm以下の無機ナノ粒子を分散させた分散液とを混合し、多孔質無機粒子表面を前記無機ナノ粒子で被覆することを特徴とする、請求項1記載の複合粒子の製造方法。

【公開番号】特開2006−316005(P2006−316005A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140884(P2005−140884)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】