説明

複合粒子及びその製造方法

【課題】 固体粒子が均一にしかも高い割合で含有され、且つサイズ均一性と分散性に優れた複合粒子、及びその製造方法を提供することができる。
【解決手段】 高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子の製造方法であって、(1)モノマーと有機溶剤とを含有する第1の液体と、固体粒子と、を混合して混合液を得る工程、(2)前記混合液と第2の液体とを混合してエマルションを形成する工程、(3)前記エマルションの分散質から第1の液体を分留する工程、及び(4)前記分留の後に前記分散質に残ったモノマーを重合する工程、を有する複合粒子の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料や光学材料、医用材料などを含む広範な産業分野において適用できる複合粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野への応用を指向して、複合粒子に関する研究開発が盛んに行われている。例えば、高分子化合物と磁性体から構成される磁性粒子は多種多用な用途が期待されており、医薬、診断薬等、医療・診断分野における基剤としての用途について特に注目が集められている。
【0003】
高分子化合物と磁性体を含有して構成される複合粒子である磁性粒子(以下、単に「磁性粒子」と表現する)の製造方法として、ソープフリー乳化重合やミニエマルション重合を利用する方法が提案されている。
【0004】
特許文献1では、ナノメートルサイズのマグネタイト微粒子を油性モノマーに分散させてミニエマルション重合する磁性粒子の製造方法が開示されている。しかしながらこの方法は、仕込みマグネタイト量が制限されることや、重合過程におけるマグネタイトの離脱を本質的に回避することが難しい。よって、磁性粒子のマグネタイト含有率が低下してしまう懸念がある。
【0005】
特許文献2では、ナノメートルサイズのマグネタイト微粒子をシード粒子とすることで、ソープフリー乳化重合において粒子径分布の狭い磁性粒子を製造できることが開示されている。しかしながらこの方法では、重合過程におけるシード粒子同士間の合一を回避することが困難であることから、磁性粒子毎のマグネタイト含有率に偏りが生じて磁化が不均一になりやすい。また、合一したシード粒子は強磁性体として振舞う可能性があるため、残留磁化の影響により磁性粒子の分散性が損なわれるという懸念がある。
【特許文献1】特開2004−099844号公報
【特許文献2】特開2006−131771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した公知文献に開示された製造方法で得られる磁性粒子は、磁性体含有率、磁化均一性、粒子径分布、分散性等の点において未だ不十分であり、必ずしも実用性が高いものではないというのが実状である。こうした理由から、磁性体をはじめとする固体粒子が均一にしかも高い割合で含有され、且つサイズ均一性と分散性に優れた複合粒子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により提供される複合粒子の製造方法は、高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子の製造方法であって、(1)モノマーと有機溶剤とを含有する第1の液体と、固体粒子と、を混合して混合液を得る工程、(2)前記混合液と第2の液体とを混合してエマルションを形成する工程、(3)前記エマルションの分散質から第1の液体を分留する工程、及び(4)前記分留の後に前記分散質に残ったモノマーを重合する工程、を有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明により提供される複合粒子は、高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子であって、該複合粒子の数平均粒子径(Dn)と重量平均粒子径(Dw)から算出される多分散度指数(Dw/Dn)が1.3以下であり、水中における平均流体力学的粒子径(Df)と平均乾燥粒子径(Dd)の比(Df/Dd)が1.3以下であると共に、前記複合粒子に占める前記固体粒子の含有量が50wt%以上80wt%以下であり、且つ、該固体粒子の80%以上が20nm以下の粒子であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子材料や光学材料、医用材料などを含む広範な産業分野に適用可能な高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子を提供することができる。特に高分子化合物と磁性体から構成される磁性粒子において、磁性体含有率が高く、磁化均一性やサイズ均一性、分散性に優れる磁性粒子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の複合粒子の製造方法は、高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子の製造方法であって、以下の工程を有するものである。
【0012】
即ち、(1)モノマーと有機溶剤とを含有する第1の液体と、固体粒子と、を混合して混合液を得る工程、
(2)前記混合液と第2の液体とを混合してエマルションを形成する工程、
(3)前記エマルションの分散質から第1の液体を分留する工程、及び
(4)前記分留の後に前記分散質に残ったモノマーを重合する工程、を有するものである。
【0013】
本発明において、第1の液体は少なくとも1種類以上のモノマーと、1種類以上の有機溶剤から構成される。
【0014】
本発明におけるモノマーとしては、重合可能な化合物であれば制限なく使用することができる。
【0015】
例えば、ラジカル重合において用いられるモノマーの具体例としては、以下が挙げられる。
【0016】
即ち、スチレン、クロルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン等の重合性不飽和芳香族類;
(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの重合性不飽和カルボン酸類;スチレンスルホン酸ソーダ等の重合性不飽和スルホン酸もしくはその塩;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレングリコール−ジ−(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル等の重合性カルボン酸エステル類;
(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニル、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル等の、不飽和カルボン酸アミド類、重合性不飽和ニトリル類、ハロゲン化ビニル類あるいは共役ジエン類;
ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリメチルメタクリレートのなどの高分子量セグメントに、ビニル基、メタクリロイル基、ジヒドロキシル基などの重合可能な官能基を持つマクロモノマー類等である。
【0017】
また、本発明では付加重合で用いられるモノマーも使用できる。
【0018】
付加重合に用いられるモノマーの具体例としては、以下が挙げられる。
【0019】
即ち、ジフェニルメタンジイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシレンジイソシアナート、キシレンジイソシアナート、ジシクロヘキサンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナートのような脂肪族、
又は芳香族イソシアナート類、ケテン類、エポキシ基含有化合物類、ビニル基含有化合物類等である。
【0020】
また、上記化合物群と反応させるモノマーとしては、活性化水素を有する官能基、例えば水酸基又はアミノ基を有する化合物が挙げられる。
【0021】
具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、メチレングリコシド、ショ糖、ビス(ヒドロキシエチル)ベンゼンのようなポリオール類;
エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジイソプロピルメチレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンのようなポリアミン類;
オキシム類等が挙げられる。
【0022】
本発明において、モノマーは、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。また、モノマーの他、架橋剤となりうる多官能性化合物を共存させても良い。
【0023】
多官能性化合物の例としては以下が挙げられる。
【0024】
即ち、N−メチロールアクリルアミド、N−エタノールアクリルアミド、N−プロパノールアクリルアミド、N−メチロールマレイミド、N−エチロールマレイミド、N−メチロールマレインアミド酸、N−メチロールマレインアミド酸エステル、ビニル芳香族酸のN−アルキロールアミド(例えばN−メチロール−p−ビニルベンズアミド等)、N−(イソブトキシメチル)アクリルアミド等である。
【0025】
さらに、上述のモノマーのうち、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルシクロヘキサン、1,3−ジプロペニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコール、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマー類は、架橋剤としても使用することが出来る。
【0026】
尚、多官能性化合物は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0027】
本発明における有機溶剤としては、水への溶解性が小さく、且つモノマーと相溶性のある有機溶剤であればいかなる溶剤も適用可能である。好ましくは揮発性有機溶剤であり、特に、モノマーよりも沸点の低い有機溶剤である場合に好適である。
【0028】
このような有機溶剤の例としては、以下が挙げられる。
【0029】
即ち、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、
ケトン類(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、
エーテル類(テトラヒドロフラン、エチルエーテル、イソブチルエーテル等)、
エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、
芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)等である。
【0030】
これらは単独で用いても良いし、2種類以上適宜の割合で混合して用いることもできる。
【0031】
本発明における第2の液体とは、水あるいは水溶液である。
【0032】
本発明において、エマルションを安定化させることを目的として、第1の液体、あるいは第2の液体の何れか一方、あるいは両方に分散剤として界面活性剤を共存させることが好ましい。
【0033】
界面活性剤としては、従来のラテックス重合に使用できるものであれば特に制限されない。
【0034】
アニオン性界面活性剤の例としては、以下が挙げられる。
【0035】
即ち、ドデシルベンゼンスルホネート、デシルベンゼンスルホネート、ウンデシルベンゼンスルホネート、トリデシルベンゼンスルホネート、ノニルベンゼンスルホネート並びにこれらのナトリウム、カリウム、アンモニウム塩等である。
【0036】
カチオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムプロミド、塩化ヘキサデシルピリジニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等である。
【0037】
また、ノニオン性界面活性剤としては、ポリビニルアルコールの他、市販されている各種のものが挙げられる。
【0038】
上述したものの内、アニオン性界面活性剤が好適である。
【0039】
また、前記油溶性モノマーと重合可能な反応性界面活性剤(アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれでも可)を用いることもできる。
【0040】
その反応性界面活性剤における反応基として、例えば、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基等のエチレン性不飽和基を有するものが好適なものである。
【0041】
それらの反応性界面活性剤としては、前記反応性基を有する限り、通常の界面活性能を有するものであれば良く、例えば、特開平9−279073号公報等に記載されるものが挙げられる。
【0042】
具体的には、ラウリル(アリルベンゼン)スルホン酸塩、ラウリルスチレンスルホン酸塩、ステアリル(アリルベンゼン)スルホン酸塩、ステアリルスチレンスルホン酸塩等のアルキルベンゼンスルホン酸塩類、およびそれらのポリエチレンオキサイド付加物類、
ラウリルアリルスルホ琥珀酸エステル、ラウリルビニルスルホ琥珀酸エステル、ステアリルアリルスルホ琥珀酸エステル、ステアリルビニルスルホ琥珀酸エステル等のアルキルスルホ琥珀酸エステル類、及びそれらのポリエチレンオキサイド付加物類、
(メタ)アクリル酸ラウリルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩等のアルキルまたはアルケニルスルホン酸塩類、
(メタ)アクリル酸ステアリル硫酸塩、オレイル硫酸塩等のアルキル又はアルケニル硫酸塩類、及びそれらのポリエチレンオキサイド付加物類等のアニオン性界面活性剤、
ラウリルトリアリルアンモニウムクロライド、ステアリルトリアリルアンモニウムクロライド、ジステアリルジアリルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、
ポリエチレングリコールオクチル(アリルフェニル)エーテル、ポリエチレングリコールノニル(アリルフェニル)エーテル、ポリエチレングリコールオレイルフェニルエーテル等のポリエチレングリコールアルキル類又はアルケニルフェニルエーテル類、
モノステアリル酸モノアリルグリセリル、ジステアリン酸モノアリルグリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル類、及びそれらのポリエチレンオキサイド付加物類、
モノステアリン酸モノアリルソルビタン、トリステアリン酸モノアリルソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、及びそれらのポリエチレンオキサイド付加物類、
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のポリエチレンオキサイドエステル類等のノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0043】
上記界面活性剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
界面活性剤の使用量としてはモノマー100重量部に対し、0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上であり、特に好ましくは0.5重量部以上である。また、通常、50重量部以下、好ましくは30重量部以下の範囲で用いられる。
【0045】
本発明ではエマルションを安定化する目的において、第1の液体に可溶であり、且つ、水に対する溶解度が0.01g/L以下であるハイドロホーブ(共界面活性剤)を第1の液体に共存させておいても良い。
【0046】
本発明で用いられるハイドロホーブの具体例としては、以下が挙げられる。
【0047】
即ち、(a)ヘキサデカン、スクアラン、シクロオクタン等のC8〜C30の直鎖、分岐鎖、環状アルカン類、
(b)ステアリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のC8〜C30アルキルアクリレート、
(c)セチルアルコール等のC8〜C30アルキルアルコール、
(d)ドデシルメルカプタン等のC8〜C30アルキルチオール、
(e)ポリウレタン、ポリエステル、ポリスチレン等のポリマー類、
(f)長鎖脂肪族又は芳香族カルボン酸類、長鎖脂肪族又は芳香族カルボン酸エステル類、長鎖脂肪族又は芳香族アミン類、ケトン類、ハロゲン化アルカン類、シラン類、シロキサン類、イソシアネート類などである。
【0048】
また、過酸化ラウロイルなどの長鎖の油溶性開始剤を使用することもできる。このうち好ましくは、炭素数が12以上のものであり、より好ましくは炭素数12〜20のアルカン類である。
【0049】
本発明における固体粒子とは、気体粒子、液体粒子に対応して用いられる表現であり、結晶質の固体粒子、結晶質でない非晶質(ガラス質)の固体粒子、結晶質の部分と非晶質の部分とを有する固体粒子を包含する概念である。
【0050】
本発明にいう固体粒子は、無機材料粒子、金属材料粒子、酸化物材料粒子、半導体材料粒子等を包含する概念であり、固体粒子はこれらの中から得ようとする複合粒子に応じて適宜選択することができる。
【0051】
本発明において、固体粒子の大きさは必ずしも限定される訳ではないが、エマルション状態を得て複合粒子を得ることからサブミクロンサイズ(1ミクロン以下、即ち1000nm以下)の超微粒子とするのが好ましい。
【0052】
特に、本発明の製造方法を磁性粒子の製造方法として適用する場合には固体微粒子を磁性体とすることができる。そして、より好ましくは常磁性体微粒子とすることができる。
【0053】
常磁性体微粒子は、目的に応じて任意に選択できるが、常磁性体微粒子に5000Oe(エルステッド)の強い磁場をかけた後、ゼロ磁場に戻したときの磁化(残留磁化)が5000Oeの磁場のときの磁化(飽和磁化)の1/3以下となる磁性体が好ましい。
【0054】
これには、例えば、四三酸化鉄(Fe)、γ−重三二酸化鉄(γ−Fe)等の各種フェライト類;
鉄、マンガン、コバルト等の金属、若しくはそれらの合金などが挙げられる。
【0055】
診断等の用途では磁力の強い複合粒子が要求される傾向にあるため、これらのうちバルクで強磁性体に分類されるものが好ましい。こうした観点からすると、より好ましくはフェライト類であり、特にFe(マグネタイト)が好ましい。ただし本発明の目的を達成可能な範囲において磁性体の種類は限定されない。
【0056】
常磁性体微粒子の粒子径は、目的とする複合粒子の粒子径より小さいものを用いる。ここで、磁性体が複合粒子の表面に露出することを避けるためには、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下の粒径の磁性体を用いる。また、常磁性体微粒子としてマグネタイトを用いる場合には、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましい。これは、マグネタイトの粒子径が30nmより大きい場合には、残留磁化の影響が大きくなり複合粒子の分散性が損なわれる可能性があるためである。
【0057】
一方で、磁性体粒子が小さくなればなるほど、エマルションの分散質中に安定に複合粒子を分散させるのが難しくなることから、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは6nm以上のものを用いる。
【0058】
なお、磁性体には、シランカップリング剤に代表される各種カップリング剤、もしくは高級脂肪酸等の公知の表面処理剤により表面処理したものを用いても良い。表面処理の具体例として、疎水化処理、親水化処理が挙げられる。
【0059】
本発明におけるエマルションとは、本発明の目的を達成可能な範囲において如何なる物性のエマルションも含まれるが、好ましくは1ピークの粒子径分布を有し、且つ、平均粒子径が50nmから1000nmの範囲のものである。さらに好ましくは100nmから500nmで、且つ分散度指数1.5以下の単分散エマルションとすることができる。
【0060】
このようなエマルションは従来公知の乳化方法によって調製することが可能である。
【0061】
従来公知の方法には、例えば、断続振とう法、プロペラ型攪拌機、タービン型攪拌機糖のミキサーを利用する攪拌法、コロイドミル法、ホモジナイザー法、超音波照射法等などがある。これらの方法は、単独で用いることも、あるいは複数を組み合わせて用いることも可能である。また、本発明のエマルションは1段階の乳化によって調整しても良いし、多段階の乳化によって調整しても良い。
【0062】
本発明における分留とは、エマルションの分散質から対象となる成分を優先的に抽出する操作を意味する。例えば、上記分散質が機能性物質とモノマー、有機溶剤から構成される場合には、分留条件を選択することにより、有機溶剤を優先的に、あるいは有機溶剤とモノマーを優先的に抽出する等が可能である。ただし、本発明における分留は、モノマーや有機溶剤の抽出の度合いを本発明の目的を達成できる範囲において適宜、変化させても良い。
【0063】
分留は、従来知られる何れの方法でも実施可能であり、減圧分留、分子分留、超音波分留等が採用できる。一般的には、エバポレーター等の減圧装置を利用した減圧操作を含むことが好ましい。これは分留の度合いを減圧条件等により簡便に制御できるためである。分留の対象となるモノマー、あるいは有機溶剤の沸点が低い場合には、単に長時間静置したり加熱したりすることによっても分留することが可能である。しかし、その際にはエマルションの沈降や合一、エマルションからの機能性物質の離脱等を抑制するための十分な措置を講じておくことが必要である。
【0064】
本発明で使用可能な重合開始剤の例としては、以下が挙げられる。
【0065】
即ち、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−メチルブタンニトリル)、1,1’−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、3,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)ヒドロクロリド等のアゾ(アゾビスニトリル)タイプの開始剤、
過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過硫酸塩(例えば過硫酸アンモニウム)、過酸エステル(例えばt−ブチルペルオクテート、α−クミルペルオキシピバレート及びt−ブチルペルオクテート)等の過酸化物タイプの開始剤が挙げられる。
【0066】
また、アスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキシ二硫酸ナトリウム、第三ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、第三ブチルヒドロペルオキシド/Naヒドロキシメタンスルフィン酸が挙げられる。
【0067】
なお、個々の成分、例えば還元成分は、混合物、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとの混合物等のレドックス系開始剤を用いることもできる。
【0068】
なお、重合開始剤は単独で用いても良いし、複数を組み合わせて用いることも可能である。
【0069】
重合開始剤の使用量は、モノマーに対し、通常0.1〜30wt%の範囲から選択され、これらの重合開始剤は乳化前に第1液体、あるいは第2液体に添加しておいても良いし、乳化後に添加しても良い。
【0070】
乳化後に添加する場合には、分留前と分留後のいずれのタイミングで添加しても良い。
【0071】
次に本発明における複合粒子の形成メカニズムについて、一般的なミニエマルション重合を用いる方法と比較して説明する。
【0072】
従来のミニエマルション重合を用いる方法では、固体粒子含有率の高い複合粒子を得ることが困難であることをすでに説明した。これは、製法の原理上、単位モノマー当たりに保持可能な固体粒子の量に上限があることと、重合過程における固体粒子の離脱を本質的に回避することができないことに起因している。
【0073】
ミニエマルション重合における複合粒子形成のメカニズムとして図3に示すものが考えられる。
【0074】
図3のAには、固体粒子11とモノマー10の混合液を示している。Bでは、Aの混合液と水12とを混合して乳化させることでO/W型のエマルションを形成する。Cでは、Bのエマルションにおける分散質のモノマーを重合させることにより高分子化合物と固体粒子とを含有する複合粒子13が水12中に分散する分散液が得られる(尚、図3においては、界面活性剤、ハイドロホーブは省略している)。
【0075】
図3に示したメカニズムによると、ミニエマルション重合においては、以下に説明する2つの問題点により、複合粒子13中に固体粒子11を高い濃度で含有させることが困難であることが推察される。
【0076】
第1の問題点は、図3のAに示した固体粒子11とモノマー10の混合液における固体粒子11の仕込み量を一定量以上に増加させることが困難な点である。
【0077】
これは、固体粒子11の仕込み量を増加させるにともない混合液Aの粘性が増加することから、乳化工程を良好に実施することができず、Bのエマルション(単分散状態)を調製できないためである。特許文献1では、固体粒子11を分散させた有機溶剤とモノマーを混合することにより、モノマー当たりにおける固体粒子11の仕込み量を維持したまま、混合液Aにおける固体粒子11濃度を小さくすることにより、良好な乳化工程を達成している。しかしながら、特許文献1の方法では、下記第2の問題点が顕著になることが推察さるため好ましくない場合がある。
【0078】
第2の問題点は、Bのエマルション(単分散状態)から重合工程を経て複合粒子13に転化させる際に分散質(モノマー10及び固体粒子11)に生ずる体積収縮により、固体粒子11が分散質あるいは複合粒子13から離脱する点である(図3のCを参照)。
【0079】
このような現象は、分散質の液体成分(モノマー)中における固体粒子11の自由度が大きいことに起因して生じるため、混合液Aにおける固体粒子11の濃度を大きくすることにより抑制することが可能である。しかしながら、混合液Aにおける固体粒子11の濃度が増加するにともない、上記第一の問題点が顕著になるため好ましくない場合がある。
【0080】
また、第2の問題点は、添加物や固体粒子11とモノマーの組み合わせを変更する等により抑制することも可能であるが、本質的な問題の回避には至らない。
【0081】
本発明における複合粒子形成のメカニズムを、図1に示す例を用いて説明する。図1は以下の工程を示している。即ち、(1)モノマーと有機溶剤を含む第1の液体21と固体粒子11を混合して得られる混合液Aを得る工程、(2)前記混合液Aを水12(第2の液体:水の代わりに水溶液でもよい)と混合して乳化することによりO/W(Oil/Water)型の単分散エマルションBを調整する工程、(3)単分散エマルションBの分散質からモノマーと有機溶剤とを含む第1の液体21を分留する工程(Cは分留後のエマルションの状態を示している。14は水に分配したモノマーである。)、(4)分留後の単分散エマルションをテンプレートにしてモノマーを重合する工程(重合の中間状態のDでは水に分配したモノマー14同士が結合してオリゴマー15が形成されている。)、(5)更に重合を進めるとEに示すように複合粒子31が分散した分散液が得られる(図1では界面活性剤、ハイドロホーブは省略している)。
【0082】
図1では、分留を行うことにより、図3で説明したミニエマルション重合における2つの問題点が解決される。これについて以下説明する。
【0083】
第1の問題点が解決される理由は、混合液Aを調製する際に、モノマーと有機溶剤の混合液体21を用いるため、理想的には、単位モノマー当たりに対する固体粒子11の仕込み量に制限が生じないためである。特許文献1に例示されているように、モノマーと有機溶剤の混合液体は、ミニエマルション重合にも適用可能である。しかし、分留を実施しないミニエマルション重合に適用した場合には、逆に重合過程での固体粒子11の離脱を促進することを発明者は実験により確認している。
【0084】
第2の問題点が解決される理由は以下の通りである。分留後の単分散エマルションCでは分散質の液体成分が減じられることから、分散質中における固体粒子11同士の相互作用が増大する。また、分留の度合いが大きい場合には、固体粒子11は分散質中で凝集体を形成する。さらに分留の度合いが大きい場合には、分散質中で固体粒子11はモノマー20に分散しているのではなく、固体粒子11の凝集体にモノマー20が濡れている状態となる。それは、有機溶剤の沸点がモノマーの沸点よりも十分に小さい場合には分留によって有機溶剤が優先的に揮発して系外へと除かれるためである。このように分留後の単分散エマルションCにおいては、固体粒子11の自由度が大きく低下している。分留後の単分散エマルションCから重合工程を経て複合粒子31の分散液Eに転化する際に生じる体積収縮によっても、分留後の単分散エマルションあるいは複合粒子31からの固体粒子11の離脱は生じない。
【0085】
また、本発明の製造方法では、ミニエマルション重合とは異なる現象も含んでいる。
【0086】
すなわち、分留後の単分散エマルションCでは、分散質から抽出されたモノマーの一部は水に分配したモノマー14として存在する。このため、分留後の単分散エマルションCから複合粒子の分散液Eに転化する際には、中間状態Dを経由すると考えられる。中間状態Dでは、水に分配したモノマー14が重合反応によりオリゴマー15となり、水への溶解状態を維持できなくなり、複合粒子表面に析出する。この現象は、分留の度合いを制御することにより複合粒子の表面設計が可能であるという本発明の利点の一つを示すものである。
【0087】
以上のように、本発明における複合粒子の製造方法は、ミニエマルション重合を用いた従来の製造方法の改良であるという側面と、ミニエマルション重合とは異なる側面とを併せ持つものである。
【0088】
次に、本発明における複合粒子について説明する。
【0089】
本発明の複合粒子は、高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子である。
【0090】
本発明の複合粒子は、数平均粒子径(Dn)と重量平均粒子径(Dw)から算出される多分散度指数(Dw/Dn)が1.0以上1.3以下である。また、水中における平均流体力学的粒子径(Df)と平均乾燥粒子径(Dd)の比(Df/Dd)が1.0以上1.3以下である。そして、複合粒子に占める固体粒子の含有量が50wt%以上80wt%以下であり、且つ、固体粒子の80%以上が20nm以下の粒子であることを特徴とする。
【0091】
本発明の複合粒子は、多分散度指数(Dw/Dn)が1.3以下であるので、複合粒子としての特性のバラツキを抑制することができる。
【0092】
本発明の複合粒子は、水中における平均流体力学的粒子径(Df)と平均乾燥粒子径(Dd)の比(Df/Dd)を1.3以下であるので、複合粒子を液体に分散させた状態と乾燥させた状態の差を小さくすることができる。それにより、水中における膨潤の程度を小さくし、pH変化や温度変化等の環境変化に対し耐久性や形状安定性を確保することができる。
【0093】
さらに、本発明の複合粒子に占める個体粒子の含有量は50wt%以上であるので、固体粒子の有する機能を十分に発揮させることができる。また、本発明の複合粒子に占める個体粒子の含有量は80wt%以下であるので、複合粒子の表面に固体粒子が多量に露出することによる弊害が生ずるのを防ぐことができる。ここにいう具体的な弊害は、複合粒子からの固体粒子の離脱や分散性をはじめとする表面物性の劣化などである。また、本発明の固体粒子は、その80%以上が20nm以下の粒子であるので、複合粒子表面への固体粒子の露出割合が極めて増大することを抑制することができる。
【0094】
本発明の複合粒子について、規定した数平均粒子径(Dn)と重量平均粒子径(Dw)は、以下のようにして測定することができる。
【0095】
数平均粒子径、及び重量平均粒子径は、従来公知の粒子径計測手法によって測定することができるが、動的光散乱法に基づいて測定することが好ましい。具体的な測定装置としては、大塚電子(株)製ダイナミック光散乱光度計DLS−8000等を用いることができる。
【0096】
また、本発明における、水中における平均流体力学的粒子径(Df)と平均乾燥粒子径(Dd)は、それぞれ、本発明の複合粒子の水中における平均粒子径と、乾燥状態における平均粒子径を意味する。より具体的には、水中における平均流体力学粒子径(Df)は、大塚電子(株)製ダイナミック光散乱光度計DLS−8000等、動的光散乱法に基づいて測定する平均粒子径の値である。平均乾燥粒子径(Dd)は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察される粒子の乾燥状態における平均粒子径の値である。
【0097】
また、複合粒子に占める個体粒子の含有量は、従来公知の方法によって測定、あるいは算出することが可能であるが、熱重量測定法に基づいて測定することが好ましい。
【0098】
また、本発明の本発明の複合粒子は、平均アスペクト比(長径/短径)を1.0から1.5の範囲、より好ましくは1.0から1.2の範囲として、真球性を高めたものとするのが好ましい。このような真球状の複合粒子は、例えば液体に分散させて用いる場合に良好な流動性を示すため有利である。
【0099】
本発明の複合粒子は、目的とする用途に対して平均粒子径を制御することが可能である。
【0100】
本発明の複合粒子の平均乾燥粒子径は、好ましくは50nm以上1000nm以下の範囲であり、より好ましくは50nm以上500nm以下の範囲、さらに好ましくは50nm以上300nm以下の範囲である。平均粒子径を1000nm以下とすることにより複合粒子の比表面積効果が得られ、複合粒子を生物分子等の分離担体として利用する際に有利になる。この比表面積効果は、平均粒子径を500nm以下とすることによりさらに増大し、300nm以下とすることにより極めて顕著になる。また、50nmより平均粒子径を大きくすることにより、複合粒子のハンドリング性を向上させることができる。
【0101】
本発明の複合粒子は、前述した本発明の複合粒子の製造方法を用いて製造することができる。そして、複合粒子の粒子径の制御は、分散剤の添加量や、有機溶剤、モノマー、水の仕込み比率、乳化工程における装置条件等を調整することで行うことができる。
【0102】
また、複合粒子に占める固体粒子の含有量は、固体粒子、有機溶剤、モノマーの仕込み比率等を調整することで制御することができる。
【0103】
本発明の複合粒子における固体微粒子は、前述した通り、無機材料粒子、金属材料粒子、酸化物材料粒子、半導体材料粒子等で構成することができる。中でも、磁性体粒子とするのが、磁性体としての機能を十分に発揮できるので好ましい。磁性体としては常磁性体微粒子が好適である。
【0104】
常磁性体微粒子を用いる場合、これは、目的に応じて任意に使用できる。
【0105】
しかし、常磁性体微粒子に5000Oeの強い磁場をかけた後、ゼロ磁場に戻したときの磁化(残留磁化)が5000Oeの磁場のときの磁化(飽和磁化)の1/3以下となる磁性体が好ましい。
【0106】
例えば、四三酸化鉄(Fe)、γ−重三二酸化鉄(γ−Fe)等の各種フェライト類;鉄、マンガン、コバルト等の金属、若しくはそれらの合金が挙げられる。
【0107】
診断等の用途では磁力の強い複合粒子が要求される傾向にあるため、これらのうちバルクの状態では強磁性体に分類されるものが好ましい。また、フェライト類がより好ましく、Fe(マグネタイト)が特に好ましい。
【0108】
常磁性体微粒子の粒子径は、目的とする複合粒子の粒子径より小さいものを用いる。ここで、磁性体が複合粒子の表面に露出することを避けるために、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下の粒径の磁性体を用いる。
【0109】
一方、磁性体が小さくなればなるほど、エマルションの分散質中に安定に磁性体を分散させるのが難しくなることから、磁性体の粒径は、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは6nm以上である。また、常磁性体微粒子としてマグネタイトを用いる場合には、その粒径は30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。これは、マグネタイトの粒子径を30nm以下とすることにより、残留磁化の影響を小さくし、複合粒子の分散性を良好に保つことができるからである。
【0110】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0111】
(実施例1) 複合粒子1の作製
FeClとFeClを水に溶解させて溶解液とした。この溶解液を室温に保持して、激しく攪拌しながら、アンモニア水を加えてマグネタイトの懸濁液とした。
【0112】
この懸濁液にオレイン酸を加え、攪拌しながら、70℃で1時間、110℃で1時間攪拌することでスラリーとした。このスラリーを大量の水で洗浄し、次いで減圧乾燥することで粉末の疎水化マグネタイトとした。
【0113】
得られた疎水化マグネタイトを透過型電子顕微鏡(TEM)にて評価したところ平均粒子径11nm、分子量分布1.3であった。
【0114】
次いで、2gのスチレンと3gの疎水化マグネタイトを4gのクロロホルム中に秤量してクロロホルム混合液を調整した。一方、12gの水に0.01gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を溶解させてSDS水溶液を調製した。クロロホルム混合液とSDS水溶液を混合して混合液とし、この混合液を、攪拌式ホモジナイザーにて30分間せん断した後、超音波式ホモジナイザーで4分間せん断することによってエマルションを調製した。次に、このエマルションをエバポレータ―にて減圧処理することで、分散質からクロロホルムを優先的に分留した。
【0115】
以上の処理を経たエマルションを、窒素バブリングにより脱酸素した後、0.01gの重合開始剤(2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride)を添加して、70℃、6時間、スチレンを重合して複合粒子を得た。
【0116】
得られた複合粒子を、DLS−8000(大塚電子(株)製)にて評価し、数平均粒子径(Dn)は152nm、重量平均粒子径は187nmであり、多分散度指数(Dw/Dn)は1.23であることを確認した。次に、DLS−8000(大塚電子(株)製)を用いてこの複合粒子の水中における平均流体力学的粒子径(Df)を評価し、透過電子顕微鏡を用いてこの複合粒子の乾燥させた状態での平均乾燥粒子径(Dd)を評価した。平均流体力学的粒子径(Df)は187nm、平均乾燥粒子径(Dd)は182nmであり、Df/Ddは1.03であった。
【0117】
また、この複合粒子をエポキシ樹脂に埋包してミクロトームにて断面だしした後、透過型顕微鏡により観察し、この複合粒子中に含有されるマグネタイトの少なくとも80%以上が20nm以下の粒子であることを確認した。また、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定:Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis)分析により評価し、この複合粒子中の磁性体の含有率は63%であることを確認した。
【0118】
図2に本実施例で得られた複合粒子の透過型顕微鏡写真(上記断面だし前)を示した。
【0119】
(実施例2) 複合粒子2の作製
FeClとFeClを水に溶解させて溶解液とした。この溶解液を激しく攪拌しながら、アンモニア水を加えてマグネタイトの懸濁液とした。
【0120】
この懸濁液にオレイン酸を加え、攪拌しながら、70℃で1時間、110℃で1時間攪拌することでスラリーとした。このスラリーを大量の水で洗浄し、次いで減圧乾燥することで粉末の疎水化マグネタイトとした。
【0121】
得られた疎水化マグネタイトをクロロホルムに分散し、DLS−8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、平均粒子径11nm、分子量分布1.3であった。
【0122】
3gのメチルメタクリレートと3gの疎水化マグネタイトを3gのクロロホルム中に秤量してクロロホルム混合液を調整した。一方、12gの水に0.01gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を溶解させてSDS水溶液を調製した。クロロホルム混合液とSDS水溶液を混合して混合液とし、この混合液を、攪拌式ホモジナイザーにて30分間せん断した後、超音波式ホモジナイザーで4分間せん断することによってエマルションを調製した。
【0123】
次に、このエマルションをエバポレータ―にて減圧処理することで、分散質からクロロホルムを優先的に分留した。
【0124】
以上の処理を経たエマルションを、窒素バブリングにより脱酸素した後、0.01gの重合開始剤(2,2’−Azobis(2−methylpropionamidine)dihydrochloride)を添加して、70℃、6時間、メチルメタクリレートを重合して複合粒子を得た。得られた複合粒子をDLS−8000(大塚電子(株)製)にて評価し、数平均粒子径(Dn)は140nm、重量平均粒子径は168nmであり、多分散度指数(Dw/Dn)は1.20であることを確認した。
【0125】
次に、実施例1と同様に、DLS−8000(大塚電子(株)製)と透過型電子顕微鏡を用いて、この複合粒子の水中における平均流体力学的粒子径(Df)と乾燥させた状態での平均乾燥粒子径(Dd)を評価した。平均流体力学的粒子径(Df)は168nm、平均乾燥粒子径(Dd)は165nmであり、Df/Ddは1.02であった。
【0126】
また、実施例1と同様に、この複合粒子をエポキシ樹脂に埋包してミクロトームにて断面だしした後、透過型顕微鏡により観察し、この複合粒子中に含有されるマグネタイトのうち80%以上が20nm以下の粒子であることを確認した。
【0127】
また、実施例1と同様にTG−DTA分析により評価し、この複合粒子中の磁性体の含有率は52%であることを確認した。
【0128】
(実施例3)複合粒子3の作製
FeClとFeClを水に溶解させて溶解液とした。この溶解液を40℃に保持して、激しく攪拌しながら、アンモニア水を加えてマグネタイトの懸濁液とした。
【0129】
この懸濁液にオレイン酸を加え、攪拌しながら、70℃で1時間、110℃で1時間攪拌することでスラリーとした。このスラリーを大量の水で洗浄し、次いで減圧乾燥することで粉末の疎水化マグネタイトとした。
【0130】
得られた疎水化マグネタイトを実施例1同様に透過型電子顕微鏡(TEM)にて評価したところ、平均粒子径6nm、分子量分布1.2であった。
【0131】
次いで、2gのスチレンと1gのグリシジルメタクリレート、3gの疎水化マグネタイトを3gのクロロホルムに秤量してクロロホルム混合液を調整した。一方、12gの水に0.01gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を溶解させてSDS水溶液を調製した。クロロホルム混合液とSDS水溶液を混合して混合液とし、この混合液を、攪拌式ホモジナイザーにて30分間せん断した後、超音波式ホモジナイザーで4分間せん断することによってエマルションを調製した。次に、このエマルションをエバポレータ―にて減圧処理することで、分散質からクロロホルムを優先的に分留した。
【0132】
以上の処理を経たエマルションを窒素バブリングにより脱酸素した後、重合開始剤である0.01gの過硫酸カリウムを添加して、70℃、6時間、スチレン、及びグリシジルメタクリレートを重合して複合粒子を得た。
【0133】
得られた複合粒子を、実施例1と同様に、DLS−8000(大塚電子(株)製)にて評価したところ、数平均粒子径(Dn)は181.25nm、重量平均粒子径は232nmであり、多分散度指数(Dw/Dn)は、1.28であることを確認した。次に、実施例1と同様にDLS−8000(大塚電子(株)製)と透過型電子顕微鏡とを用いて、この複合粒子の水中における平均流体力学的粒子径(Df)と乾燥させた状態での平均乾燥粒子径(Dd)を評価した。平均流体力学的粒子径(Df)は232nm、平均乾燥粒子径(Dd)は183nmであり、Df/Ddは1.27であった。
【0134】
また、実施例1と同様に、複合粒子をエポキシ樹脂に埋包してミクロトームにて断面だしした後、透過型顕微鏡により観察し、この複合粒子中に含有されるマグネタイトの少なくとも80%以上が20nm以下の粒子であることを確認した。また、実施例1同様にTG−DTA(示差熱熱重量同時測定:Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis)分析により評価したところ、複合粒子中の磁性体の含有率は54%であることを確認した。
【0135】
(比較例1)
クロロホルムを使用しなかった点以外は実施例1と同様の手順及び条件で複合粒子を製造したところ、複合粒子が凝集し均一な粒子を得ることができなかった。
【0136】
(比較例2)
分留工程を実施しなかった点以外は実施例1と同様の手順及び条件で複合粒子を製造した。
【0137】
得られた複合粒子を、実施例1と同様に、DLS−8000(大塚電子(株)製)にて評価し、数平均粒子径(Dn)は151nm、重量平均粒子径(Dw)は181nmであり、多分散度指数(Dw/Dn)は1.20であることを確認した。次に、DLS−8000(大塚電子(株)製)と透過型電子顕微鏡を用いて複合粒子の水中における平均流体力学的粒子径(Df)と、乾燥させた状態での平均乾燥粒子径(Dd)を求めた。平均流体力学的粒子径(Df)は181nm、平均乾燥粒子径(Dd)は179nmであり、Df/Ddは1.01であった。
【0138】
また、この複合粒子をエポキシ樹脂に埋包してミクロトームにて断面だしした後、透過型顕微鏡により観察し、この複合粒子中に含有されるマグネタイトの少なくとも80%以上が20nm以下の粒子であることを確認した。また、TG−DTA(示差熱熱重量同時測定:Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis)分析により評価し、複合粒子中の磁性体の含有率は32%であることを確認した。本比較例では複合粒子中の磁性体含有率が50%に至らず、磁性体としての機能が必ずしも十分に発揮できない。
【0139】
(比較例3)
3gのNイソプロピルアクリルアミド(NIPAM)と0.5gのメタクリル酸(MAc)をトルエンに溶解させ、30分間窒素バブリングを行った後、開始剤である0.01gのアゾビスイソブチルアクリルアミドを添加して、60℃、3時間、重合反応を行った。得られたNIPAM−MAc共重合体のトルエン溶解液を、大量のジエチルエーテル中に添加して析出させる操作を3回繰り返すことで、NIPAM−MAc共重合体を精製した。
【0140】
このNIPAM−MAc共重合体とFeClとを水に溶解させ、1時間窒素バブリングを行った後、アンモニアを添加することで、複合粒子を形成した。複合粒子の水分散液を、磁石を用いたデカンテーション、遠心分離、孔径1μm親水性フィルターを用いたフィルタリングによって精製した。
【0141】
得られた複合粒子を、実施例1と同様にDLS−8000(大塚電子(株)製)にて評価し、数平均粒子径(Dn)は180nm、重量平均粒子径(Dw)は232nmであり、多分散度指数(Dw/Dn)は1.29であることを確認した。次に、実施例1と同様に、DLS−8000(大塚電子(株)製)と透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、この複合粒子の水中における平均流体力学的粒子径(Df)と、乾燥させた状態での平均乾燥粒子径(Dd)を評価した。平均流体力学的粒子径(Df)は232nm、平均乾燥粒子径(Dd)は164nmであり、Df/Ddは1.42であった。ただし、透過型電子顕微鏡により観察したこの複合粒子は不定形であったため、最長径と最短径の平均値を複合粒子の粒子径として算出した。
【0142】
また、実施例1と同様に、複合粒子をエポキシ樹脂に埋包してミクロトームにて断面だしした後、透過型顕微鏡により観察したが、良好な観察状態を得ることができなかった。また、実施例1と同様にTG−DTA分析により評価し、複合粒子中の磁性体の含有率は69%であることを確認した。
【0143】
本比較例の複合粒子は、Df/Ddが1.3を超えており、環境変化に対する安定性が不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明に基づく複合粒子の形成メカニズムを模式的に示す模式図である。
【図2】本発明で得られた複合粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】ミニエマルション重合に基づく複合粒子の形成メカニズムを模式的に示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子の製造方法であって、
(1)モノマーと有機溶剤とを含有する第1の液体と、固体粒子と、を混合して混合液を得る工程、
(2)前記混合液と第2の液体とを混合してエマルションを形成する工程、
(3)前記エマルションの分散質から第1の液体を分留する工程、及び
(4)前記分留の後に前記分散質に残ったモノマーを重合する工程、を有することを特徴とする複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記分留が減圧操作を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が揮発性有機溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記揮発性有機溶剤の沸点が前記モノマーの沸点より低いことを特徴とする請求項3に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第2の液体が水、あるいは水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記固体粒子が磁性体であることを特徴とする請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記固体粒子がマグネタイトであることを特徴とする請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
高分子化合物と固体粒子とを含有して構成される複合粒子であって、該複合粒子の数平均粒子径(Dn)と重量平均粒子径(Dw)から算出される多分散度指数(Dw/Dn)が1.3以下であり、水中における平均流体力学的粒子径(Df)と平均乾燥粒子径(Dd)の比(Df/Dd)が1.3以下であると共に、前記複合粒子に占める前記固体粒子の含有量が50wt%以上80wt%以下であり、且つ、該固体粒子の80%以上が20nm以下の粒子であることを特徴とする複合粒子。
【請求項9】
前記複合粒子の平均乾燥粒子径が50nmから300nmの範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の複合粒子。
【請求項10】
前記固体粒子が磁性体であることを特徴とする請求項8に記載の複合粒子。
【請求項11】
前記固体粒子がマグネタイトであることを特徴とする請求項10に記載の複合粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−30025(P2009−30025A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154263(P2008−154263)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】