説明

複合紡績糸用ポリエステルフィラメント、それを用いた複合紡績糸、及び薄地織編物

【課題】細繊度の複合紡績糸の外周に使用する際の操業性に優れ、織編物とした際の風合いに優れる、安価で生産性の高い複合紡績糸用ポリエステルフィラメントの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエステルを溶融紡糸、冷却後、周速が2000〜3000m/minのゴデットローラー1(GR1)で引き取り、続いてゴデットローラー2(GR2)、更に続いてゴデットローラー3(GR3)に捲回する二段延伸を下記の(1)〜(4)の条件で行い、チーズ状パッケージに巻き取り、単糸繊度が1.5dtex以下で、かつ総繊度が5d〜17dtexで、伸度が25〜45%、沸水収縮率が4〜12%、ウースターノルマル値が12〜20%であるポリエステルフィラメントを製造する。(1)第一段延伸時の延伸倍率が総延伸倍率の70%以上、(2)第一段延伸時の延伸温度が69℃以下、(3)GR2の温度が100℃〜130℃、(4)GR3の温度が160℃以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合紡績糸の外周に位置するポリエステルフィラメントの製造方法、それを用いた複合紡績糸、及び薄地織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート繊維に代表されるポリエステル系繊維は機械的強度、耐薬品性、耐熱性などに優れるため、衣料用途や産業用途などを主体に広く使用されている。
また、従来よりポリエステル系繊維を用いた新合繊フィラメントと呼ばれる素材、例えば異形断面糸、異収縮混繊糸、微粒糸混入糸、染色性改善糸等は新規な風合いまたは機能を有することから市場で人気を呼び、多様化したニーズにマッチし、新しい素材として受け入れられている。そして、新合繊フィラメントと綿、レーヨン等との複合を行い両者の特徴をそれぞれ引き出す複合素材の開発が盛んに行われている。例えば、合成繊維フィラメントが芯、天然繊維ステープルが鞘に配置された芯鞘構造の繊維束の外周に更にフィラメントが巻き付いた複合紡績糸を作成し、膨らみ感、手持ち間、良好な湿潤性能を有し、フィラメントの特徴を有しつつ品位に優れ、かつ複合紡績糸の操業性良く安定して製造する試みがなされている。(例えば、特許文献1参照)
【特許文献1】特開平9−95833号公報
【0003】
しかしながら、外周に位置するフィラメントの総繊度も30dから75dと比較的太いフィラメントを用いた例が開示されており、総繊度が80番手以上となるような細い複合紡績糸については特に開示されておらず、布帛にした際には、アウター用途などの比較的厚みがあって腰のある織編物を得ることが想定されたものと見られる。
【0004】
他にも合成繊維フィラメントと天然繊維ステープルによる複合紡績糸が提案されているが、使用している鞘糸のフィラメントは比較的太いものが多く、複合紡績糸の繊度も比較的大きくて、80番手以上といった細繊度の複合紡績糸は特に開示されていない(例えば、特許文献2、3参照)。
【特許文献2】特開平9−157984号公報
【特許文献3】特開平9−250039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、細繊度の複合紡績糸の外周に使用する際の操業性に優れ、該複合紡績糸を製織編して織編物とした際の風合いに優れる、安価で生産性の高い複合紡績糸用ポリエステルフィラメントの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決することができる本発明の複合紡績糸用ポリエステルフィラメントの製造方法は、以下の構成からなる。
すなわち、本発明は、芯にフィラメント、鞘にステープル繊維が配された芯鞘構造を有する繊維束Aと、その外周にポリエステルフィラメントからなる繊維束Bを巻きつけてなる、繊度が英式綿番手で80番手以上の複合紡績糸の繊維束Bに用いるポリエステルフィラメントの製造方法であって、
ポリエステルを紡糸口金から溶融吐出、冷却後、周速が2000〜3000m/minのゴデットローラー1(GR1)で引き取り、続いてゴデットローラー2(GR2)に捲回する第一段延伸、更に続いてゴデットローラー3(GR3)に捲回する第二段延伸からなる二段延伸を下記の(1)〜(4)の条件で行い、チーズ状パッケージに巻き取り、単糸繊度が1.5dtex以下で、かつ総繊度が5d〜17dtexで、伸度が25〜45%、沸水収縮率が4〜12%、ウースターノルマル値が12〜20%であるポリエステルフィラメントを製造することを特徴とする複合紡績糸用ポリエステルフィラメントの製造方法である。
(1)第一段延伸時の延伸倍率が総延伸倍率の70%以上
(2)第一段延伸時の延伸温度が69℃以下
(3)GR2の温度が100℃〜130℃
(4)GR3の温度が160℃以下
【発明の効果】
【0007】
単糸繊度及び総繊度が細く、ウースターノルマル値の値が高い(すなわち、糸の繊度むらが適度に大きい)ポリエステルフィラメントを複合紡績糸の外周に巻きつけることによって、操業性に優れ、総繊度が極めて小さい複合紡績糸を製造することができる。また、その複合紡績糸を用いて製織編された薄地の織編物は、風合いに優れ、肌に接する用途に使用した場合、肌離れ性、水分拡散性に優れる。また、複合紡績糸の外周に位置するポリエステルフィラメントは、紡糸連続延伸法(スピンドロー方式)で製造されるため、安価で生産性の高いポリエステルフィラメントを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で得られる複合紡績糸用ポリエステルフィラメントは、芯にフィラメント、鞘にステープル繊維が配された芯鞘構造を有する繊維束Aと、その外周にポリエステルフィラメントからなる繊維束Bを巻きつけてなる、繊度が英式綿番手で80番手以上の複合紡績糸の外周の繊維束Bに用いられる。また、繊維束Bは、単糸繊度が1.5dtex以下、かつ糸の総繊度が5〜17dtex、伸度が25〜45%、沸水収縮率が4〜12%、ウースターノルマル値が12〜20%である。
【0009】
芯糸フィラメントが存在しない場合、複合紡績糸の強度が低くなりやすい。鞘の短繊維の吸湿率が6%以上であると、得られる織編物のべとつき感が抑えられ好ましい。より好ましくは8%以上であり、さらに好ましくは12%以上である。このような吸湿性に優れる短繊維としては、例えば、公定水分率が8.5%の綿、あるいは吸湿率が15.0%の羊毛などの天然素材などが挙げられる。前記芯鞘構造を有する繊維束Aの外周にポリエステルフィラメントが配置されていない場合には、肌離れ性が悪くなりやすく、着用時に不快となりやすい。
【0010】
外周に位置するポリエステルフィラメントの単糸繊度が1.5dtexより大きい場合には、複合紡績糸の風合いが硬くなりやすくなるため好ましくない。また総繊度が5dtexより小さい場合には、同フィラメントをスピンドロー方式で生産する場合に、ゴデットローラー上での糸ゆれが大きくなり巻き取ることが困難となりやすくなるため好ましくない。17dtexを超える場合には、細番手の複合紡績糸をつくることが難しくなるため好ましくない。
【0011】
外周に位置するポリエステルフィラメントの伸度が25%より小さい場合には、紡糸糸切れや後工程で糸切れの原因となりやすく、45%より大きい場合には後工程での糸物性の経時変形が大きくなりやすい。沸水収縮率が4%より小さい場合には工業的な生産が難しく、12%より大きい場合には特に鞘糸と吸湿性を有する短繊維との収縮差が大きくなり、ふかつくため好ましくない。
【0012】
ウースターノルマル値が12%未満の場合には、糸ムラが少なすぎるため、合成繊維ライクとなり、天然繊維と複合した際に目的の風合いが得られにくくなり、20%を超えると糸ムラが多くなりすぎ、糸切れも多発しやすくなる。捲き形状は、生産性が高く低コストであるスピンドロー形式でチーズによる捲き取りが好ましい。捲き形状がチーズではなく、パーンの場合には、複合紡績工程で糸解除時の張力変動が大きくなりやすく品位が悪くなりやすい。また、パーンの場合、紡糸後未延伸糸として一旦巻き取り、さらに未延伸糸を延撚する方法が主流だが、二工程を経て手間がかかり、さらには、延撚速度が遅いため、生産性が低くコストが高くなりやすい。
【0013】
本発明で得られるポリエステルフィラメントを外周に用いた複合紡績糸は、80番手以上の細さを有する。より好ましくは90番手以上の細さであり、さらに好ましくは100番手以上の細さである。80番手より太い場合には、布帛の厚みが増し、腰が強い風合いとなりやすく、目的の肌離れ性、水分拡散性を有する薄地の織編物を得にくくなる。100番手より大きい番手で細い場合には、複合紡績製造時に糸切れが多く非常に難しい。
【0014】
本発明において、複合紡績糸の外周に位置させるポリエステルフィラメントを製造する方法としては、ポリエステルを紡糸口金から溶融吐出、冷却後、周速が2000〜3000m/minのゴデットローラー1で引き取ることが好ましい。前記紡糸引き取り速度が2000m/min未満であると生産性が低くやすい。また3000m/minを超える場合には断糸が発生しやすくなる。
【0015】
本発明において、複合紡績糸に用いるポリエステルフィラメントの製造方法としては、紡糸口金から溶融吐出冷却後、ゴデットローラー1(GR1)で引き取り、続いてゴデットローラー2(GR2)に捲回する第一段延伸(第一段延伸時の延伸倍率をDR1とする)、続いてゴデットローラー3(GR3)に捲回する第二段延伸(第二段延伸時の延伸倍率をDR2とする)の二段延伸をして、チーズ状パッケージに巻き取るスピンドロー方式が好ましい。
紡糸後未延伸糸として一旦巻き取り、さらに未延伸糸を延撚する方法もあるが、二工程を経て手間がかかり、さらには、延撚速度が遅いため、生産性が低下する。
【0016】
さらに、二段延伸時には、下記の(1)〜(4)の延伸条件を用いる。
(1)第一段延伸時の延伸倍率が総延伸倍率の70%以上
(2)第一段延伸時の延伸温度が69℃(PETのガラス転移温度)以下
(3)GR2の温度が100℃〜130℃
(4)GR3の温度が160℃以下
【0017】
DR1が総延伸倍率の70%未満でGR1温度が69℃を超えると、ウースターノルマル値が6%以下になり、繊維軸方向に太さの均斉なフィラメントとなりやすい。そのため、織編物とした際の風合いが低下する。GR2温度が100℃未満であると熱セットが不十分となり、沸水収縮率が12%より大きくなりやすい。また、130℃を超えると、糸ゆれが大きくなりやすく、操業性が悪化しやすなる。GR3は160℃を超えると糸ゆれが増加しやすく、また糸切れの頻度も増加しやすくなる。
【0018】
本発明の複合紡績糸を用いた薄地織編物は、肌離れ性を示す値が2.12以下であることが好ましい。より好ましくは2以下で、さらに好ましくは1.9以下である。肌離れ性が2.12より大きいと、発汗時に、肌に生地がまとわりつき、着用時不快となりやすい。
【0019】
本発明の複合紡績糸を用いて製織編された薄地織編物は、水分拡散性を示す拡散面積値が2(cm)以上であることが好ましい。より好ましくは2.5(cm)であり、さらに好ましくは3.0(cm)である。拡散面積が2より小さいと、発汗時の汗を蒸発させることができにくく、着用時不快となりやすい。
【実施例】
【0020】
次に、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0021】
(A)繊維伸度(DE)
等速伸長型強伸度測定機でツカミ間隔20cm、引張速度20cm/分又は、ショッパー型強伸度測定機でツカミ間隔50cm、引張速度50cm/分で試験切断時の強さ(DT)、切断時の伸び(DE)、伸び率10%時の強さ(ST10)を測定し、DT、ST10は1デシテックスに対するセンチニュートン(cN/dtex)で表す。
【0022】
(B)沸水収縮率
0.05g/dの荷重をかけて、50cm間に印をつけて、一旦荷重を外し、沸水中に30分間浸し、再び0.05g/dの荷重をかけ収縮した長さ(l)を測定し%で表す。沸水収縮率(%)=l/50×100(%)(値は2回測定の平均)
【0023】
(C)ウースターノルマル値
ウースターテクノロジーズ社のUT−3装置を用いてフルスケール12.5%、試料速度50m/minで走行させ、撚りを付与しつつ、試料のデニールによりスロットを選択し、ノーマルテストにてチャートスピードを2.5cm/minの速度に調整し2分間測定する。次にチャートを2.5cmに分割し、各々の区間の最大値H1、H2、最小値L1、L2を読み取り、次式により算出する。
URN(%)=[(|H1+H2|/2)+(|L1+L2|/2]×100
【0024】
(D)肌離れ性
摩擦感テスターKES−SE(カトーテック社製)を用いる。オレイン酸、トリオレイン、スクアレンを付着させたPETフィルムを模擬皮膚とし、1.2cm×5cmの湿潤試料との摩擦係数を計測する。湿潤試料には、0.1gの水を付与する。数値が低いほど肌離れ性に優れ、数値が高いほど肌離れ性が悪いことを意味する。
【0025】
(E)水分拡散性、拡散面積
0.04mlの水を編地に滴下して、60秒後の水が拡散した際の最大直径を測定し、面積を算出する。
(F)吸湿率測定
短繊維試料を60〜70℃の温度で1〜2時間予備乾燥を行ない公定水分率以下の吸湿量になるまで乾燥する。この試料を温度20℃±2℃、相対湿度65±2℃の標準状態の試験室または試料容器中に放置し、吸湿を恒常かつ均等とする。水分平衡における恒量は、1時間以上の間隔で2回質量を測定し、その前後の質量差が後の質量の一定割合となった状態をいう。これを乾燥前の質量とする。つぎにこの水分率恒量試料を温度105℃±2℃の乾燥器中に入れ水分を蒸発させ10分間乾燥した前後の質量差が後の質量の一定割合いないになるまで乾燥する。次いで、試料の絶乾質量を測定し、次の式により水分率を求め、2回の平均値でもって示す。
水分率(%)=[(W−W′)/W′]×100
W :乾燥時の質量(g)
W′:絶乾質量(g)
【0026】
(実施例1)
固有粘度0.6dl/gのポリエチレンテレフタレートチップを285℃で溶融し 、吐出孔を12個有する紡糸口金より、吐出量7.54g/分で吐出し、冷風で冷却固化し、油剤を付与した。この後、図1に示す工程図に従い、速度3000m/分の第1ゴデットローラー(温度30℃)で引き取り、引き続いて速度4424m/分の第2ゴデットローラー(温度120℃)間で延伸し、さらに、速度4780m/分の第3ローラー(140℃)で第二段延伸をし、ワインダーで巻き取り17デシテックス12フィラメントの△断面のポリエステル長繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。その糸を複合紡績糸の外周部に配する繊維束Bとした。
【0027】
固有粘度0.6dl/gのポリエチレンテレフタレートチップを290℃で溶融し 、吐出孔を6個有する紡糸口金より、吐出量5.31g/分で吐出し、冷風で冷却固化し、油剤を付与した。この後、図1に示す工程図に従い、速度2800m/分の第一ローラー(温度30℃)で引き取り、引き続いて速度4525m/分の第二ローラー(温度110℃)間で延伸し、さらに、速度4830m/分の第3ローラー(130℃)で第二段延伸をし、ワインダーで巻き取り11デシテックス6フィラメントの○断面のポリエステル長繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。その糸を複合紡績糸を構成する芯鞘構造繊維束Aの芯糸とした。
【0028】
上記で得られたフィラメント(繊維束B)と芯糸のポリエステルフィラメントと1.4デシテックスのステープル米綿を用い、英式綿番手が80番手の複合紡績糸を得た。次いで、この複合紡績糸を用い両面編地を作成した。
得られた複合紡績糸を用いた薄地編物は、軽量で、手持感、品位、ベトツキ、光沢もよく風合いも柔らかかった。また、肌離れ性も非常によく、吸水拡散性も非常によかった。
【0029】
(実施例2)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)に17デシテックス36フィラメントを用いて80番手の複合紡績糸を作成した。その他は実施例1にしたがった。
得られた複合紡績糸を用いた薄地編物は、軽量、風合いが柔らかく、水分拡散性も良かった。
【0030】
(実施例3)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)の製造時に、第1ゴデットローラー温度を110℃とした。その他は実施例1にしたがった。
得られた複合紡績糸を用いた薄地編物は、品位、光沢、風合いがともに良好であった。
【0031】
(比較例1)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)に、PETのマルチフィラメント(22デシテックス、18フィラメント)を、繊維束Aの芯糸フィラメントに、PETのマルチフィラメント(17デシテックス、9フィラメント)を用いて、英式綿番手が60番手の紡績糸を作成した。その他は実施例1にしたがった。品位に優れ、ベトツキも少なかったが、複合紡績糸に用いているPETのマルチフィラメントの繊度が太いため、得られた複合紡績糸を用いた編物は、風合いが硬かった。また、肌離れ性はよかったが、吸水拡散性はよくなかった。
【0032】
(比較例2)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)に、PETのマルチフィラメント(17デシテックス、6フィラメント)を、繊維束Aの芯糸フィラメントにPETのマルチフィラメント(11デシテックス、4フィラメント)を用いて、英式綿番手が80番手の複合紡績糸を作成した。その他は実施例1にしたがった。手持感、品位、ベトツキはよかったが、単糸繊度が太いため、この複合紡績糸を用いた編物は、風合いが硬かった。また、肌離れ性はよかったが、吸水拡散性がよくなかった。
【0033】
(比較例3)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)に、PETのマルチフィラメント(50デシテックス、36フィラメント)を、芯糸フィラメントにPETのマルチフィラメント(17デシテックス、9フィラメント)を用いて、英式綿番手が30番手の複合紡績糸を作成した。その他は実施例1にしたがった。ベトツキ、光沢、肌離れ性、吸水拡散性はよかったが、複合紡績糸に用いるPETのマルチフィラメントの繊度が太いため、この複合紡績糸を用いた編物は風合いが非常に硬かった。
【0034】
(比較例4)
繊維束Bと繊維束Aの芯糸フィラメントにポリエステル繊維を用いず、全てを綿に変更して、複合紡績糸を作成した。その他は実施例1にしたがった。この複合紡績糸を用いた編物は、光沢、風合いはよかったが、強力が低く好ましくなかった。
【0035】
(比較例5)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)の製造時に、第1ゴデットローラー温度を100℃に変更した。得られたPETのマルチフィラメント(17デシテックス、12フィラメント)は、ウースターノルマル値が4.0%と低くなった。このPETのマルチフィラメントを使用し、紡績加工糸、編物を作成した。その他は実施例1にしたがった。得られた編物は、品位が合成繊維ライクとなり、目的の風合いが得られなかった。また、肌離れ性、吸水拡散性はともよくなかった。
【0036】
(比較例6)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)の製造時に、第一ゴデットローラー速度を2500m/ninに変更した。また、GR1速度2500m/minに対して、実施例1と同一のGR2速度、GR3速度に設定した場合、総延伸倍率を高くなりすぎるため、未延伸段階糸の物性に対して、得られたPETのマルチフィラメント(17デシテックス、12フィラメント)はDEが20%と低くなった。このPETのマルチフィラメントを使用し、紡績加工糸、編物を作成した。その他は実施例1にしたがった。得られた編物は風合いが硬く、肌離れ性、吸水拡散性はともによくなかった。
【0037】
(比較例7)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)の製造時に、第1ゴデットローラー速度を3500m/nin、第3ゴデットローラー温度を120℃とした。未延伸段階糸の物性に対して総延伸倍率が低すぎたため、得られたPETのマルチフィラメント(17デシテックス、12フィラメント)のDEが45%と高くなった。このPETのマルチフィラメントを使用し、紡績加工糸、編物を作成した。その他は実施例1にしたがった。得られた編物は、風合いが柔らかかったが、肌離れ性、吸水拡散性はともによくなかった。
【0038】
(比較例8)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)の製造時に、第3ゴデットローラー温度を170℃に変更した。得られたPETのマルチフィラメント(17デシテックス、12フィラメント)は、沸水収縮率が2.0%であった。このPETのマルチフィラメントを使用し、紡績加工糸、編物を作成した。その他は実施例1にしたがった。得られた編物は風合いが非常に硬く品位も悪かった。また、肌離れ性、吸水拡散性ともよくなかった。
【0039】
(比較例9)
複合紡績糸の外周に配するフィラメント(繊維束B)の製造時に、第3ゴデットローラー温度を130℃に変更した。得られたPETのマルチフィラメント(17デシテックス、12フィラメント)は、沸水収縮率が20%と高いものを使用し、紡績加工糸、編物を作成した。その他は実施例1にしたがった。得られた編物は鞘糸と綿繊維との収縮差が大きくなり、風合いが非常に硬く品位も悪かった。また、肌離れ性、吸水拡散性ともよくなかった。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明で製造される複合紡績糸の外周に配されるポリエステルフィラメントは、単糸繊度、総繊度が細く、ウースターノルマル値の値が適度に大きく、複合紡績糸に天然繊維似を与え、またこの複合紡績糸を用いて織編物を作成すると、肌に直接触れる用途に好適に使用できる薄くて柔らかい、肌離れ性、水分拡散性のよい快適性素材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の複合紡績糸用ポリエステルフィラメントの製造工程を示す模式図である。
【符号の説明】
【0044】
1:紡糸口金
2:第1ゴデットローラー
3:第2ゴデットローラー
4:第3ゴデットローラー
5:ワインダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯にフィラメント、鞘にステープル繊維が配された芯鞘構造を有する繊維束Aと、その外周にポリエステルフィラメントからなる繊維束Bを巻きつけてなる、繊度が英式綿番手で80番手以上の複合紡績糸の繊維束Bに用いるポリエステルフィラメントの製造方法であって、
ポリエステルを紡糸口金から溶融吐出、冷却後、周速が2000〜3000m/minのゴデットローラー1(GR1)で引き取り、続いてゴデットローラー2(GR2)に捲回する第一段延伸、更に続いてゴデットローラー3(GR3)に捲回する第二段延伸からなる二段延伸を下記の(1)〜(4)の条件で行い、チーズ状パッケージに巻き取り、単糸繊度が1.5dtex以下で、かつ総繊度が5d〜17dtexで、伸度が25〜45%、沸水収縮率が4〜12%、ウースターノルマル値が12〜20%であるポリエステルフィラメントを製造することを特徴とする複合紡績糸用ポリエステルフィラメントの製造方法。
(1)第一段延伸時の延伸倍率が総延伸倍率の70%以上
(2)第一段延伸時の延伸温度が69℃以下
(3)GR2の温度が100℃〜130℃
(4)GR3の温度が160℃以下
【請求項2】
芯にフィラメント、鞘にステープル繊維が配された芯鞘構造を有する繊維束Aと、その外周にポリエステルフィラメントからなる繊維束Bを巻きつけてなる、繊度が英式綿番手で80番手以上の複合紡績糸であって、
繊維束Bとして請求項1で得られたポリエステルフィラメントを用いることを特徴とする複合紡績糸。
【請求項3】
請求項2の複合紡績糸を用いて製織編されてなる薄地織編物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155786(P2009−155786A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338901(P2007−338901)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】