説明

複合誘電体用樹脂組成物および複合誘電体、該誘電体を使用した電気回路基板

有機ポリマーへの無機誘電体の分散性に優れ、有機−無機複合誘電体とした場合に、高い誘電率をしめす有機−無機複合誘電体用液状組成物を提供する。無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを含有する複合誘電体用液状組成物。また、該複合誘電体用液状組成物を用いてなる複合誘電体、及び、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ポリマーと無機誘電体とからなる有機−無機複合誘電体用液状組成物と、該組成物を用いてなる複合誘電体、さらに、該誘電体を使用した電気回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の進行とともに、情報伝達の高速度化、これに伴う情報信号の高周波化のニーズがますます高まりつつある。これに対応するため、エレクトロニクス製品に使用される回路基板の高機能化・高密度実装が求められ、この課題を解決するため、抵抗・キャパシター・インダクターといった電子素子を回路基板の中に作りこむ技術であるEPD(Embedded Passive Device Techinology)が注目を集めている。
【0003】
一般に実装に使用されるキャパシターにはセラミック誘電体が用いられているが、EPDに使用した場合に回路基板の孔あけや切断等の後加工性や、接着性が悪いことが問題となる。そこで、後加工性や接着性に優れた誘電体として有機ポリマーと無機誘電体を複合化した有機−無機複合誘電体が提案されている。
【0004】
この有機−無機複合誘電体は、ポリフェニレンオキシド樹脂やエポキシ樹脂等に誘電率の大きい無機誘電体を分散させて成形あるいは成膜させたものである(特許文献1参照)が、これらの樹脂は特に高周波域での誘電率が低いため、誘電率の大きい無機誘電体をできるだけ多く配合することが必要である。しかし、従来使用されているポリフェニレンオキシド樹脂やエポキシ樹脂では、無機誘電体の分散性に劣るため配合量に限界があり、複合誘電体としての誘電率は満足いくレベルには達していない。
【特許文献1】特開平2−225358号公報明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、有機ポリマーへの無機誘電体の分散性に優れ、有機−無機複合誘電体とした場合に、高い誘電率をしめす有機−無機複合誘電体用液状組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、この発明にかかる複合誘電体用液状組成物では、無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを含有することが特徴である。有機ポリマーとしてフッ素化芳香族ポリマーを使用すると、フッ素化芳香族ポリマーは無機誘電体の分散性に優れるため、組成物中に無機誘電体を高配合することができ、複合誘電体として高い誘電率をしめすものが得られる。このため、本発明の複合誘電体用液状組成物により形成される複合誘電体は、複合誘電体が用いられる用途の中でも、電気回路基板を構成するコンデンサー等の電子素子としての使用に好適なものとなる。
【0007】
また、高い誘電率の複合誘電体を得るため、上記組成物は、無機誘電体が、フッ素化芳香族ポリマー100質量部に対して、100〜2,000質量部の範囲にあることが好ましい実施態様である。
【0008】
さらに、本発明には、上記の複合誘電体用液状組成物を用いてなる複合誘電体や、該複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板も含まれる。
【0009】
なお、本発明の複合誘電体とは、無機誘電体を分散させた液状組成物を所定の形状に成形したものをいい、有機ポリマー中に無機誘電体が高分散された成形体および成形膜等を表す。
【0010】
本発明者等は、有機ポリマーに無機誘電体を分散させる有機−無機複合誘電体用液状組成物について鋭意検討を重ねた結果、有機ポリマーとしてフッ素化芳香族ポリマーを含むことにより、組成物中の無機誘電体の配合量を高めることができ、複合誘電体の特に高周波域での誘電率が格段に向上することを見出し、上記の課題をみごと解決できることに想到した。
【0011】
本発明の複合誘電体用液状組成物は、フッ素化芳香族ポリマーと無機誘電体を含有する。
本発明の複合誘電体用液状組成物において、フッ素化芳香族ポリマーと無機誘電体の含有量は、フッ素化芳香族ポリマーの100質量部に対して、無機誘電体が100〜2,000質量部の範囲内であることが好ましい。無機誘電体の含有量が100質量部未満では、液状組成物からなる複合誘電体の誘電率が低くなる恐れがある。一方、無機誘電体の含有量が2,000質量部を超えると該組成物の粘度が高くなり、取り扱い性が低下する恐れがある。無機誘電体の含有量のより好ましい下限は、フッ素化芳香族ポリマーの100質量部に対して500質量部以上であり、700質量部以上が最も好ましい。また、無機誘電体の含有量の好ましい上限は、フッ素化芳香族ポリマーの100質量部に対して1,500質量部以下であり、1,000質量部以下であることがさらに好ましい。
本発明の複合誘電体用液状組成物は、フッ素化芳香族ポリマー及び無機誘電体をそれぞれ1種又は2種以上含有することができる。
【0012】
本発明におけるフッ素化芳香族ポリマーとしては、ガラス転移点温度が150℃以上であることが好ましい。ガラス転移点温度が150℃未満では、液状組成物からなる複合誘電体の耐熱性が低下するおそれがある。フッ素化芳香族ポリマーのガラス転移点温度は150℃〜400℃の範囲内がさらに好ましく、170℃〜300℃の範囲内が最も好ましい。ガラス転移温度は、例えば、DSC(セイコー電子工業社製、商品名「DSC6200」)を用いて、窒素雰囲気下、20℃/分の昇温速度の条件で測定することができる。
【0013】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーの表面抵抗値は、1.0×1015Ω/cm以上であることが好ましい。表面抵抗値が1.0×1015Ω/cm以上未満では、液状組成物からなる複合誘電体の絶縁性が低下する恐れがある。フッ素化芳香族ポリマーの表面抵抗値は1.0×1017Ω/cm以上の範囲内がさらに好ましい。表面抵抗値は、例えば、抵抗値測定装置(ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)製、商品名「High Resistance Meter 4329A & Resistivity Cell 16008A」)を用いて、測定電圧500Vの条件で測定することができる。
【0014】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーの平均分子量は、数平均分子量(Mn)で5,000〜500,000の範囲内であることが好ましい。数平均分子量が5,000未満では液状組成物からなる複合誘電体の耐熱性が低下するおそれがあり、数平均分子量が500,000を超えると樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性が低下する。
【0015】
上記数平均分子量(Mn)は10,000〜200,000の範囲内がさらに好ましく、10,000〜100,000の範囲内が最も好ましい。数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフ分析装置(GPC)(東ソー社製、商品名「HLC−8120GPC」)を用いて、カラムとしてG−5000HXL+GMHXL−L、展開溶媒としてTHF、標準として標準ポリスチレンを用い、流量1mL/分の条件で測定することができる。
【0016】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーは、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合の群より選ばれた少なくとも1つの結合を含む繰り返し単位により構成された重合体であり、具体的には、例えば、フッ素原子を有するポリイミド、ポリエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドエーテル、ポリアミド、ポリエーテルニトリル、ポリエステルなどが挙げられる。
【0017】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーは、少なくとも1つ以上のフッ素基を有する芳香族環と、エーテル結合を含む繰り返し単位を必須部位として有する重合体であることが好ましい。
さらに、本発明のフッ素化芳香族ポリマーは、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルであることが好ましい。フッ素含有芳香族ポリマーがこのような構造を有するものであると、無機誘電体との相互作用が適度に抑制されると考えられ、複合誘電体用液状組成物作製に支障をきたす現象、例えば大幅な増粘、ゲル化、流動性の損失、凝集等が低減される。よって、より多くの無機誘電体を配合した複合誘電体用液状組成物を作製することができ、複合誘電体としてより高い誘電率を示すものとすることができるだけでなく、粘度を低下させることができるため、複合誘電体を薄膜状に成形することが容易となる。なお、一般式(1)で表される繰り返し単位は、同一でも異なっていてもよく、ブロック状、ランダム状等の何れの形態であってもよい。
【0018】

【0019】
(式中、Rは同一又は異なる炭素数1〜150の芳香族環を有する2価の有機鎖を表す。また、Zは2価の鎖又は直接結合を表す。m及びm’は0以上の整数であり、m+m’=1〜8を満たし、同一又は異なって芳香族環に結合しているフッ素原子の数を表す。nは、重合度を表わし、2〜5000の範囲内が好ましく、5〜500の範囲内がさらに好ましい。)
【0020】
上記一般式(1)において、m+m’は2〜8の範囲内が好ましく、4〜8の範囲内がさらに好ましい。
【0021】
上記一般式(1)において、エーテル構造部分(−O−R−O−)が芳香環に結合している位置については、Zに対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0022】
上記一般式(1)において、Rは2価の有機鎖であるが、下記の構造式群(2)で表されるいずれか一つ、あるいは、その組み合わせの有機鎖であることが好ましい。
【0023】

【0024】
(式中、Y〜Yは、同一又は異なって水素基または置換基を表し、該置換基は、アルキル基、アルコキシル基を表す。)
【0025】
上記Rのより好ましい、具体例としては、下記の構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられる。
【0026】

【0027】
上記一般式(1)において、Zは、2価の鎖又は直接結合していることを表す。該2価の鎖としては、例えば、下記構造式群(4)で表される鎖であることが好ましい。
【0028】

【0029】
(式中、Xは、炭素数1〜50の2価の有機鎖である。)
【0030】
上記Xは、例えば、構造式群(3)で表される有機鎖が挙げられ、その中でもジフェニルエーテル鎖、ビスフェノールA鎖、ビスフェノールF鎖、フルオレン鎖が好ましい。
【0031】
本発明のフッ素化芳香族ポリマーの合成方法としては、一般的な重合反応を用いればよく、例えば、縮合重合、付加重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。上記重合反応の際の反応温度や反応時間等の反応条件は適宜設定すればよい。また、上記重合反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0032】
例えば、上記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフッ素原子を有するポリアリールエーテルの合成方法を挙げると、Zが上記構造式群(4)のうちの(4−6)であり、さらに、Xがジフェニルエーテル鎖であるフッ素原子を有するポリアリールエーテルを得る場合、有機溶媒中、塩基性化合物の存在下で、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル(以下、「BPDE」という)と2価のフェノール化合物を加熱する方法等が挙げられる。
【0033】
上記の合成方法における反応温度としては、20℃〜150℃の範囲内が好ましく、50℃〜120℃の範囲内がさらに好ましい。
【0034】
上記の合成方法で使用される有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミドやメタノール等の極性溶媒やトルエン等の芳香族系溶媒が挙げられる。
【0035】
上記の合成方法で使用される塩基性化合物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0036】
上記の合成方法において、2価のフェノール化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(以下、「6FBA」という)、ビスフェノールA(以下、「BA」という)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「HF」という)、ビスフェノールF、ハイドロキノン、レゾルシノール等が挙げられる。
【0037】
上記2価のフェノール化合物の使用量は、4,4′−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロベンゾイル)ジフェニルエーテル1モルに対して、0.8〜1.2モルの範囲内が好ましく、0.9〜1.1モルの範囲内がさらに好ましい。
【0038】
上記の合成方法においては、反応終了後に、反応溶液より溶媒除去を行ない、必要により留去物を洗浄することにより、フッ素化芳香族ポリマーが得られる。また、反応溶液にフッ素化芳香族ポリマーの溶解度の低い溶媒中に加えることにより、該ポリマーを沈殿させ、沈殿物を濾過により分離することにより得ることもできる。
【0039】
本発明における無機誘電体としては、ペルブスカイト結晶構造を有するABO型の誘電体およびこの2元系または3元系の複合ペルブスカイト系誘電体が好ましく、その他、酸化チタンも用いることができる。
【0040】
上記ABO型の誘電体としては、例えば、チタン酸鉛PbTiO、タングステン酸鉛PbWO、亜鉛酸鉛PbZnO、鉄酸鉛PbFeO、マグネシウム酸鉛PbMgO、ニオブ酸鉛PbZbO、ニッケル酸鉛PbNiO、ジルコン酸鉛PbZrO、チタン酸バリウムBaTiO、チタン酸ストロンチウムSrTiO、ジルコン酸カルシウムCaZrO、チタン酸カルシウムCaTiO、チタン酸亜鉛ZnTiO、チタン酸マグネシウムZnTiO、ジルコン酸バリウムBaZrO、ジルコン酸マグネシウムMgZrO、ジルコン酸亜鉛ZnZrO等が挙げられる。
【0041】
上記2元系または3元系の複合ペルブスカイト系誘電体としては、例えば、(BaSr(1−x))(SnTi(1−y))O、Ba(TiSn(1−x))O、BaSr(1−x)TiO、BaTiO−CaZrO3、BaTiO−BiTi12、(BaCa(1−x))(ZrTiO(1−y))O等が挙げられる。
【0042】
本発明の無機誘電体の形状としては、粒子状、繊維状、燐片状、円錐状等が挙げられる。
【0043】
上記無機誘電体の平均粒子径としては、液状組成物を用いてなる複合誘電体の厚みを考慮して適宜選択されるが、薄膜として用いる場合には、0.01〜10μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜5μmの範囲内であることがさらに好ましく、0.5〜3μmの範囲内が最も好ましい。また、無機誘電体の体積当たりの比表面積は、1m/g〜10m/gの範囲内が好ましく、2m/g〜8m/gの範囲内がさらに好ましく、2m/cg〜5m/gの範囲内が最も好ましい。
【0044】
本発明の複合誘電体用液状組成物には、成形性や成膜性を向上し、粘度調節を目的として、溶剤を配合することが好ましい。
【0045】
上記溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、ベンソニトリル等の芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトニトリル等が挙げられる。
また、複合誘電体用液状組成物の安定性を高める、もしくは乾燥性を調整する、もしくは成形物・成形膜の物性を高めるために、いくつかの溶媒を併用した混合溶媒を用いてもよい。
【0046】
上記溶剤の配合量は、液状組成物中1質量%〜70質量%の範囲内が好ましい。溶剤の配合量が2質量%未満では、液状組成物の粘度低減が十分でなく成形性が低下するおそれがある。また、70質量%を超えると得られた複合誘電体中に溶剤が残存して誘電率が低下するおそれがある。溶剤の配合量は、2質量%〜60質量%の範囲内がさらに好ましく、3質量%〜50質量%の範囲内が最も好ましい。
【0047】
本発明の複合誘電体用液状組成物には、必要に応じて、その他の化合物や副資材を含んでもよい。該その他の化合物や副資材としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂等の樹脂、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラス、黒鉛等の無機充填材、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、分散剤等が挙げられる。
【0048】
本発明の複合誘電体用液状組成物における、上記その他の化合物や副資材の配合量は、発明の効果を損なわない範囲であればよく、該組成物100質量部に対して、0.001質量部〜500質量部の範囲内が好ましい。
【0049】
本発明の複合誘電体用液状組成物を用いてなる複合誘電体の成形方法は、求められる複合誘電体の形状により適宜選択される。
【0050】
例えば、複合誘電体を薄層(薄膜)として用いる場合には、フイルムや基板、金属箔上に液状組成物をキャスティング、ディッピングコート、スピンコート、ロールコート、スプレイコート、バーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の方法により塗布して塗膜を形成した後、溶剤を乾燥して、薄層を形成する。
【0051】
本発明の複合誘電体の比誘電率は、30〜10,000の範囲内であることが好ましい。該比誘電率が30未満では、誘電体のキャパシターとして電荷を蓄積する容量が低くなる恐れがある。複合誘電体の比誘電率は、60〜10,000の範囲内がさらに好ましく、80〜10,000の範囲内が最も好ましい。比誘電率は、誘電正接と共に、例えば、インピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード(HEWLETT PACKERD)製、商品名「HP4294A」)を用いて測定することができる。
【0052】
また、本発明の複合誘電体は、一般的な基板素子として必要な特性を備えることが必要であるが、TG−DTA分析における300℃までの熱減量率が1.0質量%以下であることが好ましく、プレッシャークッカー試験(PCT試験、135℃、3気圧、2時間)での吸湿率が1.0質量%以下であることが好ましい。TG−DTA分析は、例えば、サーマルアナライザ(TG−DTA)(島津製作所社製、商品名「島津示差熱熱重量同時測定装置」)を用いて窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で室温から300℃までの重量減少を測定することにより行うことができる。また、PCT試験は、例えば、乾燥したサンプルをプレッシャークッカー(ヒラヤマ(HIRAYAMA)社製、商品名「PC−242HSプレッシャークッカー」)を用い、135℃、3気圧、2時間の条件にさらした後、吸湿率を測定することにより行うことができる。
【0053】
本発明の複合誘電体を薄層(薄膜)として用いる場合の厚みは、0.1μm〜100μmの範囲内が好ましく、0.5μm〜50μmの範囲内がさらに好ましい。
本発明の複合誘電体の用途・機能としては、例えば、バイパスコンデンサー、充電素子、微分素子、終端負荷素子、フィルター、アンテナ、ノイズカット等が挙げられる。
【0054】
本発明の複合誘電体は、充電素子、微分素子、終端負荷素子等に用いることができるものであることから、電気回路基板を構成する部品として好適に用いることができる。このような本発明の複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板もまた、本発明の1つである。本発明の複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板は、複合誘電体から形成される基板素子を基板の外部に設置したビルドアップ基板であってもよく、基板の内部に作り込んだ埋め込み受動素子基板(EPD基板)であってもよい。また、フィルム状基板(フレキシブル基板)上に本発明の複合誘電体から形成される基板素子や、その他の各種素子を薄膜で形成し、これらを積層、電気接続して3次元的に回路を形成した薄型多層フレキシブルシートデバイスであってもよい。本発明の電気回路基板には、各種電子素子の他、配線、端子、孔等のその他の要素が含まれていてもよく、基板に含まれる各種電子素子やその他の要素の種類、及び、基板中における各種電子素子や電極の位置、形状、配線や孔の位置等は、電気回路基板の用途や機能等に応じて適宜選択されることになる。
【0055】
本発明の複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板は、例えば、上記の方法により形成された薄膜の表面あるいは内部に配線層、電極を配置することにより製造することができる。
【0056】
また、上記電気回路基板は、絶縁基板上に接地電極を形成し、該接地電極上に本発明の複合誘電体である薄膜を形成した後、さらにこの薄膜の表面あるいは内部に配線層を配置することにより製造することができる。
また、本発明の複合誘電体を金属箔等の導電性材料に塗布する、導電性材料と密着させる、導電性材料ではさむ等して製造することができる。
本発明の複合誘電体用液状組成物は広範囲に塗布する、均一に塗布する、特定の部位に塗布する、印刷によりパターンを形成することができる。加えて、小型化、容量密度向上のために薄膜化が可能であることも利点の一つである。
さらに上記電気回路基板を、レーザー、溶剤、エッチング等を用いて穴あけ、パターニング、複合誘電体の除去等の加工をすることができる。
【0057】
本発明の電気回路基板において、接地電極を形成する場合の接地電極としては、絶縁基板の一部あるいは全面に形成され、例えば、クロム、銅、アルミニウム、タングステン、銀、白金、金等の材料を蒸着、メッキ、スパッタ、エッチング、スクリーン印刷等の方法により形成することができる。
【0058】
また、本発明の電気回路基板において、配線層としては、例えば、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、トリプレート線路、コプレーナ線路等から構成された配線層が挙げられる。該配線層を形成する方法としては、例えば、上記のように絶縁基板上に接地電極と複合誘電体である薄層を形成した後、例えば、クロム、銅、アルミニウム、タングステン、銀、白金、金等の材料を蒸着、メッキ、スパッタ、エッチング、スクリーン印刷等の方法により形成することができる。このように形成された電気回路基板を図1に示す。
【0059】
本発明の電子回路基板の具体的な形態、及び、その製造方法の具体例としては、「電子材料 2002年9月号 特集1 電子部品内蔵基板の最新技術と将来展望」に記載の各種形態、及び、製造方法等が挙げられ、例えば、基板内部にコンデンサを作り込んだ電子回路基板としては、以下の各種形態、及び、製造方法等を例示することができる。
(1)複合誘電体の薄膜(フィルム)の上下にCu箔等の金属箔を貼着してコンデンサを形成する工程、そのコンデンサの上下に配線層を積層して電子回路基板を形成する工程により製造される電子回路基板。
(2)樹脂基板の上、又は、上下両面に貼着した下部電極上に複合誘電体層を形成し、その上に上部電極を貼着してコンデンサを形成する工程、この基板の上、又は、上下両面にコンデンサの形成された樹脂基板に積層・エッチングにより配線層を形成して電子回路基板を形成する工程により製造される電子回路基板。
(3)Cu箔等の金属箔上に誘電体層を形成し、その上にCu箔等の金属箔を貼着してコンデンサを形成する工程、このCu箔等の金属箔上にコンデンサが形成されたもの全体を反転させて、底面にCu箔等の金属箔が貼着した樹脂基板上に積層する工程、その樹脂基板の上下のCu箔等の金属箔のエッチング、配線層の積層・エッチングにより電子回路基板を形成する工程により製造される電子回路基板。
【0060】
本発明の複合誘電体、該複合誘電体から形成される電気回路用部品(電子素子)、及び、該電子素子を内部に作り込んだ電子回路基板の一例を模式的に図2及び図3に示す。図2(a)は、本発明の複合誘電体用液状組成物により成形された複合誘電体の一例を模式的に表したものであり、図2(b)は、複合誘電体の上下に電極を貼着して形成された電気回路用部品(電子素子)の一例を表したものである。複合誘電体の形状、及び、電極の形状や設置位置等は、用途・機能により適宜決定されることになる。図3は、電子素子を内部に作り込んだ電子回路基板の一例を模式的に表したものである。基板内部における電子素子の設置位置や数は、電子回路基板の用途・機能に応じて適宜決定されることになり、基板の上下及び/又は内部には、必要に応じてICチップ等の他の部品が設置されることになる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の複合誘電体用液状組成物は、上述の構成よりなるので、有機ポリマーへの無機誘電体の分散性、高充填性に優れ、無機誘電体を高配合することができる。また、薄膜形成も可能である。そのため、本発明の複合誘電体用液状組成物より得られた複合誘電体は高い誘電率や容量密度を有する。さらに、フッ素化芳香族ポリマーは高い絶縁性、耐熱性、低吸湿性を有するため、本発明の複合誘電体用液状組成物より得られた複合誘電体は低誘電正接や耐熱性、低吸湿性を兼ね備えるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
[図1]は本発明の電気回路基板の実施態様として基板の斜視図を示すものである。
[図2]は本発明の複合誘電体(a)及び該複合誘電体から形成される電気回路用部品(電子素子)(b)を模式的に表すものである。
[図3]は本発明の複合誘電体から形成される電気回路用部品(電子素子)を内部に作り込んだ電子回路基板を模式的に表すものである。
【符号の説明】
【0063】
1 絶縁基板
2 接地電極
3 複合誘電体層
4 配線層
5 複合誘電体
6、6’ 電極
7 基板
8 他部品(ICチップ等)
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0065】
合成例1
温度計、冷却管、ガス導入管、および攪拌機を備えた反応器に、BPDE16.74部、6−FBA10.14部、炭酸カリウム4.34部および、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)90部を仕込んだ。この混合物を60℃に加熱し、5時間反応した。反応終了後、反応溶液をブレンダーで激しく攪拌しながら、1%酢酸水溶液中に注加した。析出した反応物を濾別し、蒸留水及びメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して、フッ素化芳香族ポリマー(1)を得た。該ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は193℃、数平均分子量(Mn)が72,370、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm以上であった。
【0066】
合成例2
合成例1と同様の反応器に、BPDE16.74部、HF10.5部、炭酸カリウム4.34部、ジメチルアセトアミド90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し、8時間反応した。反応終了後、合成例1と同様にして、フッ素化芳香族ポリマー(2)を得た。該ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は242℃、数平均分子量(Mn)が70,770、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm以上であった。
【0067】
合成例3
合成例1と同様の反応器に、BPDE16.74部、BA5.88部、炭酸カリウム4.34部、ジメチルアセトアミド90部を仕込んだ。この混合物を80℃に加温し、10時間反応した。反応終了後、合成例1と同様にして、フッ素化芳香族ポリマー(3)を得た。該ポリマーのガラス転移点温度(Tg)は180℃、数平均分子量(Mn)が62,750、表面抵抗値は1.0×1018Ω/cm以上であった。
【0068】
実施例1〜9、比較例1〜3
本発明にかかる複合誘電体用液状組成物として、表1に記載した配合量でフッ素化芳香族ポリマー、有機溶剤、分散剤、さらに無機誘電体の順に配合して、ケミスターラーにより均一に混合して、液状組成物を得た。また、比較の液状組成物として、表2に記載した配合量で同様に混合して組成物を得た。
次に、あらかじめ白金膜を形成した、ガラス板上にスピンコーターにより上記の組成物を塗布した後、室温で30分間乾燥後、さらに所定温度のオーブン中で乾燥させ、厚み20μmの複合誘電体を得た。さらに、複合誘電体の表面にイオンスパッタにより白金膜を形成して、評価用の複合誘電体を作製した。この複合誘電体を以下の方法により評価した。その結果を表3および表4に記載した。
【0069】
評価方法
誘電特性
得られた各複合誘電体をインピーダンス・アナライザにより比誘電率および誘電正接を測定した。
(2)耐熱特性
得られた各複合誘電体をサーマルアナライザ(TG−DTA分析)により、300℃までの減量率を測定した。
吸湿特性
得られた各複合誘電体をPCT試験(135℃、3気圧、2時間)を行い、試験後の吸湿率を測定した。
【0070】


【0071】
BaTiO:平均粒子径500nm、比表面積2.2m/g
SrTiO:平均粒子径1.5μm、比表面積7m/g
BYK W9010:商品名、ビックケミージャパン社製
【0072】

【0073】
PTFE:ポリテトラフルオロエチレンディスパージョン、固形分濃度60%、ダイキン工業社製、
フッ素樹脂
YD−127:商品名、東都化成社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂
MT−500:商品名、新日本理化社製、メチルテトラヒドロ無水フタル酸
【0074】


【0075】

【0076】
表3から明らかなように、実施例1〜9の複合誘電体用液状組成物から得られた複合誘電体は有機ポリマーへの無機誘電体の分散性に優れ、良好な成膜性を有している上、高い比誘電率と低い誘電正接を有する。また、耐熱性が高く、吸湿性が低いといった、電気回路基板用材料として理想的な性能を示している。ここで、誘電正接(tanδ)とは誘電体中の位相差δ(90°−θ)の正接のことであり、誘電正接が大きいほど電気エネルギーが熱エネルギーとして消費される量が多くなり、誘電体の発熱によるエネルギーロスと誘電体そのものの熱劣化が起こりやすくなる。
【0077】
一方、表4に示すように、比較例1のフッ素樹脂では、比誘電率を上げるために無機誘電体を高配合すると成膜性等の成形性が低下してしまう。また、比較例2および3のエポキシ樹脂では無機誘電体を高配合しにくい上、樹脂自体の耐熱性が低く、吸湿性が高いため、複合誘電体としての性能も低いものとなる。
ここでいう成膜性が悪いとは、複合誘電体用液状組成物の粘度が不適当、分散状態が悪い等で膜化できない又は成形した膜がもろい等で膜状態を維持できないことを指す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の複合誘電体用液状組成物より得られた複合誘電体は高い誘電率と低い誘電正接、さらに、高い耐熱性を有するものとなるため、EPD(Embedded Passive Device Techinology)用途をはじめとする各種バイパスコンデンサー、充電素子、微分素子、終端負荷素子、フィルター、アンテナ等の電子素子として有効に利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機誘電体とフッ素化芳香族ポリマーを含有することを特徴とする複合誘電体用液状組成物。
【請求項2】
前記無機誘電体が、前記フッ素化芳香族ポリマー100質量部に対して、100〜2,000質量部の範囲にある請求項1記載の複合誘電体用液状組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の複合誘電体用液状組成物を用いてなる複合誘電体。
【請求項4】
比誘電率が、30〜10,000の範囲にある請求項3記載の複合誘電体。
【請求項5】
請求項3または4記載の複合誘電体を構成部位として含む電気回路基板。

【国際公開番号】WO2005/033209
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514395(P2005−514395)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013764
【国際出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】