説明

複合超電導体

【課題】合金超電導材料(NbTi等)だけでなく、機械的歪みに弱い化合物超電導材料(Nb3Sn、Nb3Al、Bi系超電導材料、Y系超電導材料、MgB2系超電導材料)等からなる超電導体をアルミニウム等の金属材料で被覆した複合超電導体を提供する。
【解決手段】超電導体と、1つ又は2つ以上の部材が超電導体を被覆するように接合され、かつ部材の少なくとも1つがアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材とを有する複合超電導体である。金属部材は、溝部を有する第一部材と、該溝部上部に嵌合される第二部材からなり、第一部材と第二部材が接合されて形成される中空部に超電導体が配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の合金超電導材料(NbTi等)だけでなく、機械的歪みに弱い化合物超電導材料(Nb3Sn、Nb3Al、Bi系超電導材料、Y系超電導材料、MgB2系超電導材料)等からなる超電導体にも適用可能な、超電導体とアルミニウム等の金属材料とを複合化した複合超電導体に関するものである。以下、本明細書でアルミニウムとは規格上の純アルミニウム及びアルミニウム合金をいうものとする。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、その超電導特性を維持するため、液化ヘリウム等の冷媒に浸漬したり、冷凍機等と組み合わせたりして、強制的な方法や間接的な方法により、冷却して使用するのが一般的である。具体的には、アルミニウムの高い比熱、高い熱伝導度、調整しやすい電気伝導度、小さい比重、低い放射性等の特徴を生かし、該アルミニウムとNbTi等の合金超電導材料からなる超電導体と複合化した複合超電導体が実用化されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、さらに高性能な超電導体を得るには、臨界電流密度、臨界磁場、臨界温度といった超電導特性が優れた化合物超電導材料等を超電導体とし、その超電導体とアルミニウム等の金属部材との熱的、機械的、電気的な接触状態が制御された複合超電導体とする必要がある。
【0004】
しかしながら、化合物超電導材料は、原材料を伸線加工や圧延加工等の中間熱処理を繰り返して所定の寸法に加工した後、超電導体として機能させるための化合物超電導体を生成させる熱処理を施すと、機械的歪みに弱くなり、その後の塑性加工は超電導特性を低下させないために、大きな制約を受ける。すなわち、化合物超電導体生成熱処理を施した化合物超電導体(以下、化合物超電導体というときは、化合物超電導体を生成させる熱処理を施したものをいう)を金属部材と複合化した複合超電導体の場合、従来の合金系超電導材料の超電導体に適用されてきた被覆押し出しや複合伸線等の製造方法を適用すると、塑性加工が加わることにより、部分的にその臨界電流特性が低下することがあり、実用化までには至っていない。
【0005】
また、複合超電導体の押し出し被覆法や複合伸線法以外の方法として、2つの銅製の部材を組み合わせた金属部材により形成された中空部にNb3Snからなる化合物超電導体を配置し、前記銅製部材の接合部をハンダ付けしたもの(非特許文献1)があるが、アルミニウムは、熱伝導度が大きく、比熱が高いため大きな熱量を急速に与えなければならないだけでなく、酸化し易く酸化被膜を除去しないとハンダ付けやロウ付けが困難である。
【0006】
従って、前記銅製部材に代えてアルミニウム製部材を金属部材とし、その接合をハンダ付けやロウ付けで行うことは、実用的では無い。一方、アーク溶接(ティグ溶接やミグ溶接)は、溶接時に金属部材に与える熱量の調節が難しく、接合部の寸法精度を損なったり、溶接時の熱歪によって超電導体が変形し、臨界電流特性が部分的に低下したりする危険があるので、実用的では無い。
【0007】
さらに別の方法として、Nb3Alからなる化合物超電導体と管状のステンレス合金からなる金属部材を複合化した複合超電導体の例(非特許文献2)はあるが、この複合超電導体は金属部材の隙間部に液体ヘリウムを流すことにより超電導体を強制的に冷却することを目的としたものであり、超電導体と複合化されるアルミニウムからなる金属部材との接触状態を制御しようとする本発明の目的を達成することはできない。
【特許文献1】特開2000-164053号公報
【非特許文献1】低温工学39巻9号 2004年 383〜390頁、 安藤俊就
【非特許文献2】低温工学38巻8号 2003年 391〜398頁、 小泉徳潔ら
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の合金超電導材料(NbTi等)だけでなく、機械的歪みに弱い化合物超電導材料(Nb3Sn、Nb3Al、Bi系超電導材料、Y系超電導材料、MgB2系超電導材料)等からなる超電導体をアルミニウム等の金属材料で被覆した複合超電導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の複合超電導体の第1の態様は、超電導体と、
1つ又は2つ以上の部材が前記超電導体を被覆するように接合され、かつ前記部材の少なくとも1つがアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材と
を有する複合超電導体である。
【0010】
本発明の複合超電導体の第2の態様は、前記金属部材は、溝部を有する第一部材と、該溝部上部に嵌合される第二部材からなり、前記第一部材と前記第二部材が接合されて形成される中空部に超電導体が配置されていることを特徴とする複合超電導体である。
【0011】
本発明の複合超電導体の第3の態様は、前記超電導体は前記金属部材の中空部に単独または前記超電導体と前記金属部材間の熱伝導を行う伝熱部材と共に配置されており、前記複合超電導体の垂直断面において、前記超電導体と前記伝熱部材の断面積の合計が、前記中空部の断面積に対する割合(以下、この割合を充填率という)70%以上であることを特徴とする複合超電導体である。
前記充填率が70%より小さくなると、超電導体と金属部材との熱的、機械的、電気的な接触状態の制御が著しく困難になるので好ましくない。なお、前記充填率は、前記超電導体に与える圧力によって適宜選択するものとする。
【0012】
本発明の複合超電導体の第4の態様は、前記金属部材は、断面が略円形であることを特徴とする複合超電導体である。
【0013】
本発明の複合超電導体の第5の態様は、前記超電導体は化合物超電導材料からなることを特徴とする複合超電導体である。
ここで、化合物超電導材料の例としては、金属間化合物超電導材のNb3Sn、Nb3Al、MgB2等や、酸化物超電導材料のBi系超電導材料、Y系超電導材料等がある。
【0014】
本発明の複合超電導体の第6の態様は、前記接合は摩擦撹拌接合法(FSW: Friction Stir Welding)により行われることを特徴とする複合超電導体である。
【0015】
本発明の複合超電導体の第7の態様は、前記摩擦攪拌接合法が前記超電導体を加圧しながら行われることを特徴とする複合超電導体である。
【0016】
本発明の複合超電導体の第8の態様は、前記接合はレーザビーム接合法で行われることを特徴とする複合超電導体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、超電導体とアルミニウム等の金属部材との熱的、機械的、電気的接触状態を制御可能とする複合超電導体の構造を見いだし、用途に応じた特性の複合超電導体を得ることができる。特に、超電導体に印加される機械的歪みを制御することが可能になったことにより、臨界電流等を含む化合物超電導材料からなる超電導体の超電導特性の低下を抑制することができるだけでなく、さらに、ある程度の大きさの機械的歪みをかけることにより臨界電流を増大させることができる化合物超電導材料を用いて複合超電導体とした場合には、超電導特性を向上させることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図1〜3を参照し、本発明の複合超電導体を説明する。図1(a)は、断面が矩形状の複合超電導体を説明する。矩形断面の溝型アルミニウム(第一部材)1は、上部の広幅溝6と広幅溝6よりも狭幅の下部の狭幅溝5からなる2段に溝を有する断面矩形のアルミニウム材からなる部材である。狭幅溝5に超電導成形撚線4を配置し、広幅溝6に嵌合するアルミニウムからなる嵌合形材(第二部材)2を嵌合させ、上面に現れる2箇所の継ぎ目8aと8bを摩擦攪拌接合(以下、FSWという)で接合する。
【0019】
FSWで接合する際には、図面で上方からFSWの回転工具7aで押さえつけて接合を行うことは、部材内に配置された超電導体(図1(a)においては、超電導成形撚線4)の幅広面に対して垂直方法に圧力が加わるとともに溝内の空隙を少なくすることができる点で望ましい。また、前記接合にはレーザビーム溶接による接合を適用することも出来る。この場合には、溶接部位の直近を押さえロールで押さえつけるとFSWと同様な効果を得ることができる。狭幅溝5と広幅溝6は1段の溝でも良い。また、金属材からなる嵌合形材(第二部材)2の材質は矩形断面の溝型アルミニウム(第一部材)1と同じでもよいし、異種の金属材でもよい。
【0020】
図1(b)は、フラット部を有し、断面が円形状である複合超電導体を説明する図である。フラット部材の円形断面の溝型アルミニウム部材(第一部材)9の溝10に超電導体成形撚線4を配置し、その上に金属材からなる嵌合形材(第二部材)2を嵌合させ、2箇所の継ぎ目8aと8bの間にFSWの回転工具7aを当て、1回のFSWにより2箇所の継ぎ目8aと8bを1度に接合したものである。この溝10は図1(a)の狭幅溝5と広幅溝6のように2段の溝でも良い。また、金属材からなる嵌合形材2の材質は円形断面の溝型アルミニウム部材9と同じでもよいし、異種の金属材でもよい。
【0021】
図1(c)は、フラット部と開口部を有し、断面が円形状である複合超電導体を説明する図である。開口部を有するフラット部付の円形断面の溝型アルミニウム部材11は、積層超電導体12を配置する開口部の下の溝部13を有し、開口部として1面が開いており、積層超電導体12を前記開いた面から内部に配置し、前記開口部を閉じた後、その継ぎ目14をFSWで接合して、円形断面の溝型アルミニウム部材11の内部に積層超電導体12を配置したものである。なお、前記開口部を閉じる方法としては、前記開口部を積層超電導体12を配置する前に円形断面の溝型アルミニウム部11の弾性領域内で変形させておき、積層超電導体12を溝部13へ配置した後、円形断面の溝型アルミニウム部11の弾性力を利用して閉じる方法や、円形断面の溝型アルミニウム部11が初期状態から前記開口部が積層超電導体12を溝部13に配置するのに十分に開いているものを用いて、サイドロールや締めダイスなどによって、機械的に閉じる方法を用いることができる。
【0022】
図1(d)は2分割された溝型アルミニウムの形材の内部に超電導体が配置されたフラット部を有し、断面が半割型の円形状の複合超電導体を説明する図である。フラット部付の半割型円形断面の溝型アルミニウム部材15a、15bの半割溝16a、16bに、積層超電導体12を配置し、半割部を閉じた後、積層超電導体12を加圧しながら継ぎ目17a、17bをFSWで接合して、内部に積層超電導体12を配置したものである。
積層超電導体12などの超電導体と複合化するアルミニウム部材は、その内部に超電導体を配置できる形状であれば良いが、接合時に、内部に配置した超電導体を溝の底辺に外部より押し付けられる構造とすることが望ましい。
【0023】
次に、複合超電導体に用いる超電導体の形態の例を図2(a)から(g)に示す。図2(a)は複数本の丸線形状の超電導素線3を丸撚りした超電導丸撚線18である。ここでは、超電導素線3を19本丸撚りした超電導丸撚線18を示しているが、特にこれに限られるものではない。図2(b)は複数本の丸線形状の超電導素線3を撚り合わせ平角状に成形した超電導成形撚線4(平角成形撚線)である。ここでは、超電導素線3を8本平角状に成形した超電導成形撚線4を示しているが、特にこれに限られるものではない。図2(c)は超電導成形撚線4の上下を伝熱部材としてアルミニウム板19a、19bで束ねた複合超電導成形撚線20である。ここでは、超電導素線3を8本平角状に成形した超電導成形撚線4を用いているが、特にこれに限られるものではない。また、ここでは伝熱部材としてアルミニウム板19a,19bを用いているが、材質は特にこれに限られるものではない。図2(d)は複数本のテープ形状の超電導素線21を積層した超電導積層導体22である。ここでは、テープ形状の超電導素線21を4枚積層したものを示しているが、特にこれに限られるものではない。図2(e)は,平角成形され超電導成形撚線4を奇数本転位させながら集合させた超電導転位導体23である。ここでは、超電導成形撚線4を9本転位させているが、特にこれに限られるものではない。図2(f)は平角成形された超電導成形撚線4を伝熱部材の媒体としてハンダ24に含浸したものである。ここでは、超電導素線3を8本平角状に成形した超電導成形撚線4を用いているが、特にこれに限られるものではない。また、ここでは伝熱部材の媒体としてハンダ24を用いているが、材質は特にこれに限られるものではない。図2(g)は, 超電導転位導体23の周囲にアルミニウムからなるテープ25を巻きつけた導体である。ここでは、超電導成形撚線4を9本転位させた超電導転位導体23を用いているが、特にこれに限られるものではない。また、ここではテープ25はアルミニウムを用いているが、材質は特にこれに限られるものではない。
【0024】
複合超電導体に用いる超電導体は上記いずれの形態でも良い。モノリス線であってもよい。特に間接冷却される複合超電導体は、溝型アルミニウム部材の内部に超電導体を密に配置して、外側のアルミニウム部材と十分に密着される形状であればよい。超電導体を外側のアルミニウム部材で十分に冷却するためである。そのためには、超電導体が配置される溝(図1(a)では、狭幅溝5)の深さdは、超電導体(図1(a)では、超電導成形撚線4)の厚みtよりも小さく上部から圧縮した場合に、溝型アルミニウム部材の底辺に押し付けられることが、電気的接触状態、機械的安定性、熱伝導性等を保持する点で望ましい。
【0025】
複合超電導体に用いる超電導体を外周の金属からなる部材で臨界温度以下に冷却するためには、超電導体と金属部材とを十分に接触させる必要がある。その手段として、超電導体をハンダ金属に含浸させ、又はアルミニウム等からなるテープを巻きつけて熱伝導体とし、超電導体と外側の金属部材との熱伝導を促進する。そこで、複合超電導体の垂直断面において、前記超電導体と前記伝熱部材の断面積の合計が、前記中空部の断面積に対する割合(以下、この割合を充填率という)を70%以上とする。この充填率が70%より小さくなると、超電導体と金属部材との熱的、機械的、電気的接触状態の制御が著しく困難になるので好ましくない。なお、この充填率は、前記複合超電導を構成する部材の断面設計と超電導体に与える圧力によって適宜選択することができる。
【0026】
図3に長尺の超電導複合体の形態の例を示す。図3(a)は矩形断面の溝型アルミニウム部材1が超電導成形撚線4よりも短く、矩形断面の溝型アルミニウム部材1をつなぎ合わせた複合超電導体を示す。複数の矩形断面の溝型アルミニウム部材1を隙間無く配置し、図1(a)などと同様に複数の矩形断面の溝型アルミニウム部材1の連続した狭幅溝5に超電導成形撚線4を配置し、更に嵌合形材2を広幅溝6に嵌合させ、上面に現れる2箇所の継ぎ目8aと8bをFSWで接合する。複数の矩形断面の溝型アルミニウム部材1同士を接合する際、継ぎ目(周方向)26はFSWやレーザビーム溶接法を用いても良いし、他の接合方法を適用してもよい。また、図1(a)に限らず、図1(b)から(d)に関しても同様に、複数のアルミニウム部材をつなぎ合わせてもよい。図3(b)はアルミニウム部材を予め所定のコイル形状にした後、超電導体の特性を劣化させない歪の範囲内の歪みを印加して、超電導体を溝部に配置させてFSWで接合した長尺複合超電導体を示す。予め所定のコイル形状にした曲げた形状のフラット部付の円形断面の溝型アルミニウム部材9’の曲げた形状の溝10’に、特性を劣化させない歪の範囲内の歪みを印加した曲げた形状の超電導成形撚線4’を配置させ、更に曲げた形状の嵌合形材2’を曲げた形状の溝10’に嵌合し、上面に現れる2箇所の継ぎ目8aと8b の間にFSWの回転工具7aを当て、FSWで接合する。また、図1(b)に限らず、図1(a)、(c)、(d)に関しても同様に、予め所定のコイル形状にして長尺複合超電導体を形成してもよい。
【実施例1】
【0027】
直径0.82mm、銅比1、ブロンズ比2.3、フィラメント径3.5mm、ツイストピッチ25mmの反応熱処理前のNb3Sn超電導素線3をブロンズ法により製作し、素線表面にCrメッキ加工を施した後、該CrメッキNb3Sn超電導素線3を8本撚り合わせて平角成形加工を施し、その後、650℃×96hrsのNb3Sn反応熱処理をアルゴン雰囲気中で行って、幅3.4mm×厚さ1.57mm、撚りピッチ35mmの反応熱処理済みのNb3Sn平角の超電導成形撚線4を得た。
【0028】
一方、幅17mm×厚さ11mmのアルミニウム3004(調質H112)合金の中央に、幅7mm×深さ5mmの広幅溝6と幅3.5mm×深さ1.55mmの狭幅溝5の2段の溝加工を施した断面が矩形の矩形断面の溝型アルミニウム部材1と、幅7mm×深さ5mmの幅広溝に嵌合するアルミニウム3004(調質H112)合金からなる嵌合形材2を製作した。反応熱処理済みのNb3Sn平角の超電導成形撚線4を幅3.5mm×深さ1.55mmの狭幅溝5に挿入した後、嵌合形材2を幅7mm×深さ5mmの広幅溝6に嵌合させ、矩形断面の溝型アルミニウム部材1と嵌合形材2の2箇所の継ぎ目8b,8cを、それぞれFSWによって接合した。接合の際、FSWの回転工具7aを嵌合形材2に押し当てることにより、間接的に反応熱処理済みのNb3Sn平角の超電導成形撚線4の幅広面に対して垂直に面圧がかかるようにして、幅17mm×厚さ11mmの複合超電導体を得た。なお、接合に際しては鋼製の回転工具を使用し、回転数:2500rpm、接合速度200mm/分で、工具を水平移動させる条件を採用した。
【実施例2】
【0029】
直径0.82mm、銅比1、ブロンズ比2.3、フィラメント径3.5mm、ツイストピッチ25mmの反応熱処理前のNb3Sn超電導素線3をブロンズ法により製作し、素線表面にCrメッキ加工を施した後、該CrメッキNb3Sn超電導素線3を8本撚り合わせて幅3.4mm×厚さ1.57mm、撚りピッチ35mmの超電導成形撚線4を製作した。その後、この超電導成形撚線4を9本55mmピッチで転位させて、幅7.0mm×厚さ8.0mmの転位導体とし、650℃×96hrsのNb3Sn反応熱処理をアルゴン雰囲気中で行うことにより、反応熱処理済みのNb3Snの超電導転位導体23を得た。
【0030】
一方、幅17mm×厚さ17mmのアルミニウム3004(調質H112)合金の中央に、幅7.2mm×深さ12.5mmの溝加工を施した矩形断面の溝型アルミニウム部材と、この溝に反応熱処理済みのNb3Snの超電導転位導体23を挿入した状態で、嵌合するアルミニウム3004(調質H112)合金からなる幅7.1mm×厚さ4.5mmの嵌合形材2を製作した。反応熱処理済みのNb3Snの超電導転位導体23を矩形断面の溝型アルミニウム部材1の溝10に挿入した後、嵌合形材2を溝10に嵌合させ、矩形断面の溝型アルミニウム部材1と嵌合形材2の2箇所の継ぎ目8a,8bを、それぞれFSWによって接合した。接合の際、FSWの回転工具7aを嵌合形材2に押し当てることにより、間接的に反応熱処理済みのNb3Snの超電導転位導体23中のNb3Sn平角の超電導成形撚線4の幅広面に対して垂直に面圧がかかるようにして、幅17mm×厚さ17mmの複合超電導体を得た。なお、接合に際しては実施例1と同様に鋼製の回転工具7aを使用し、回転数:2500rpm、接合速度200mm/分で、工具を水平移動させる条件を採用した。
【比較例】
【0031】
実施例1で作製した反応熱処理済みのNb3Sn平角の超電導成形撚線4と同じものを製作し、従来技術の押し出し被覆法(コンフォーム法)を用いて、実施例1と同じ外形寸法となるようにアルミニウム3004合金と複合化した複合超電導体を作製し比較例とした。
【0032】
本発明による実施例1、2の複合超電導体と比較例の複合超電導体の性能を比較した結果を表1に示す。実施例1の複合超電導では、臨界電流の低下は見られなかったが、従来技術を用いた比較例の複合超電導体では、臨界電流が半分以下に低下した。実施例2の複合超電導体においては、実施例1と同様に臨界電流の低下は殆ど無く、10Tの外部磁場下において10kA以上の通電が可能であり、全断面積当たりの導体電流である臨界電流密度としては、実施例1の複合超電導体の5倍以上であった。
【0033】
これは、超電導体が大きくなっても接合部位は同等の大きさなので、相対的に複合した金属部材の割合を小さくできるためである。尚、複合化したアルミニウム部材の強度については、実施例1および実施例2の複合超電導体では、低下しなかったが、比較例の複合超電導体では強度が低下した。これは、押し出し時に加わる熱のためである。一方、熱伝導性については、実施例1および実施例2の複合超電導体の熱伝導性は、超電導体とアルミニウム部材の金属的な結合が生じる比較例の複合超電導体には及ばないものの、実用レベルは十分満たしていた。
以上より、本発明による複合超電導体は、臨界電流特性の低下を抑制する効果が確認され、さらに、大容量導体に適用した場合の有用性も明らかであることから、総合的に従来技術よりも優れていると評価できる。
【表1】

【0034】
核融合発電機、大型SMES等の間接冷却型の大型超電導体や、パルス型SMES等の伝導冷却型の小・中型超電導体等への適用だけでなく、リニアモーターカー、変圧器、発電機などの幅広い超電導応用機器で使用される超電導体への適用が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】複合超電導体の形態の例を説明する図である。 (a)断面が矩形状で、2箇所の継ぎ目を2回のFSW加工により接合した、2箇所の接合部を有する複合超電導体 (b)断面がフラット部を有する円形状で、2箇所の継ぎ目を1回のFSW加工により接合した、2箇所の接合部を有する複合超電導体 (c)断面がフラット部を有する円形状で、1箇所の継ぎ目を1回のFSW加工により接合した、1箇所の接合部を有する複合超電導体 (d)断面がフラット部を有する円形状で、2箇所の継ぎ目を2回のFSW加工により接合した、2箇所の接合部を有する複合超電導体
【図2】超電導体の形態の例を示す図である。 (a)丸形状の超電導素線を19本撚り合わせた丸撚線 (b)丸形状の超電導素線を8本撚り合わせて圧縮成形した成形撚線 (c)超電導成形撚線を金属部材で上下挟んだ複合成形撚線 (d)テープ形状の超電導素線を4枚積層した積層導体 (e)超電導成形撚線を9本転位させた転位導体 (f)超電導成形撚線をハンダで含浸した導体 (g)超電導成形撚線を9本転位させた転位導体の周囲にテープを巻きつけた導体
【図3】長尺導体の製造形態を説明する図である。 (a)嵌合形材や超電導体よりも溝型金属部材が長手方向に短い場合に、溝型金属部材を長手方向にFSWで接合しながらつなぐ製造形態。 (b)溝型金属部材を予め所定のコイル形状にした後、超電導体の特性を劣化させない歪の範囲内の歪みを印加して、超電導体を溝部に配置した後、嵌合形材を嵌合し、FSWによって接合する製造形態。
【符号の説明】
【0036】
1 矩形断面の溝型アルミニウム部材(第一部材)
2 嵌合形材(第二部材)
2’曲げた形状の嵌合形材
3 超電導素線
4 超電導成形撚線(t=厚さ)
4’曲げた形状の超電導成形撚線
5 下部の狭幅溝(d:溝深さ)
6 上部の広幅溝
7a FSWの回転工具
7b FSW接合部
7c FSW接合部
7d FSW接合部
8a 継ぎ目
8b 継ぎ目
9 フラット部付の円形断面の溝型アルミニウム部材
9’曲げた形状のフラット部付の円形断面の溝型アルミニウム部材
10 溝
10’曲げた形状の溝
11 開口部を有するフラット部付の円形断面の溝型アルミニウム部材
12 積層超電導体
13 開口部の下の溝部
14 継ぎ目
15a フラット部付の半割型円形断面の溝型アルミニウム部材
15b フラット部付の半割型円形断面の溝型アルミニウム部材
16a 半割溝
16b 半割溝
17a 継ぎ目
17b 継ぎ目
18 超電導丸撚線
19a アルミニウム板
19b アルミニウム板
20 複合超電導成形撚線
21 テープ形状の超電導線
22 超電導積層導体
23 超電導転位導体
24 ハンダ
25 テープ
26 継ぎ目(周方向)





【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導体と、
1つ又は2つ以上の部材が前記超電導体を被覆するように接合され、かつ前記部材の少なくとも1つがアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属部材と
を有する複合超電導体。
【請求項2】
前記金属部材は、溝部を有する第一部材と、該溝部上部に嵌合される第二部材からなり、前記第一部材と前記第二部材が接合されて形成される中空部に超電導体が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の複合超電導体。
【請求項3】
前記超電導体は、前記金属部材の中空部に単独または前記超電導体と前記金属部材間の熱伝導を行う伝熱部材と共に配置されており、前記複合超電導体の垂直断面において、前記超電導体と前記伝熱部材の断面積の合計が、前記中空部の断面積に対して70%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合超電導体。
【請求項4】
前記金属部材は断面が略円形であることを特徴とする請求項1に記載の複合超電導体。
【請求項5】
前記超電導体は化合物超電導材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の複合超電導体。
【請求項6】
前記接合は摩擦撹拌接合法(FSW)により行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複合超電導体。
【請求項7】
前記摩擦撹拌接合法(FSW)は、前記超電導体を加圧しながら行われることを特徴とする請求項6に記載の複合超電導体。
【請求項8】
前記接合はレーザビーム接合法で行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の複合超電導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−214121(P2007−214121A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5317(P2007−5317)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(504261077)大学共同利用機関法人自然科学研究機構 (156)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】