説明

複合酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池

【課題】サイクル特性に優れた微細な複合酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】LiMnOを基本組成とし、Mnの1〜30原子%がLiおよびMn以外の金属元素から選ばれる少なくとも1種の置換元素で置換された複合酸化物の製造方法であって、
Mnおよび前記置換元素を含み、酸化物、水酸化物および金属塩から選ばれる一種以上の金属化合物を含む金属化合物原料と、水酸化リチウムおよび/または硝酸リチウムを含み目的の前記複合酸化物に含まれるLiの理論組成を超えるLiを含む溶融塩原料と、を混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
前記原料混合物を溶融して前記溶融塩原料の融点以上で反応させる溶融反応工程と、
反応後の前記原料混合物から生成された前記複合酸化物を回収する回収工程と、
を経て前記複合酸化物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極材料として使用される複合酸化物およびその複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型軽量でかつ高容量の二次電池が必要とされている。現在、この要求に応える高容量二次電池としては、正極材料としてコバルト酸リチウム(LiCoO)、負極材料として炭素系材料、を用いた非水二次電池が商品化されている。このような非水二次電池はエネルギー密度が高く、小型化および軽量化が図れることから、幅広い分野で電源としての使用が注目されている。しかしながら、LiCoOは希少金属であるCoを原料として製造されるため、今後、資源不足が深刻化すると予想される。さらに、Coは高価であり、価格変動も大きいため、安価で供給の安定している正極材料の開発が望まれている。
【0003】
そこで、構成元素の価格が安価で、供給が安定しているマンガン(Mn)を基本組成に含むリチウムマンガン酸化物系の複合酸化物の使用が有望視されている。その中でも、4価のマンガンイオンのみを含み、充放電の際にマンガン溶出の原因となる3価のマンガンイオンを含まないLiMnOという物質が注目されている。LiMnOは、今まで充放電不可能と考えられてきたが、最近の研究では4.8Vまで充電することにより充放電可能なことが見出されてきている。しかしながらLiMnOは、充放電特性に関してさらなる改善が必要である。
【0004】
充放電特性の改善のため、LiMnOとLiMO(Mは遷移金属元素)との固溶体であるxLiMnO・(1−x)LiMO(0<x≦1)の開発が盛んである。なお、LiMnOは、一般式Li(Li0.33Mn0.67)Oとも書き表すことが可能であり、LiMOと同じ結晶構造に属するとされている。そのため、xLiMnO・(1−x)LiMOは、Li1.33―yMn0.67−zy+z(0≦y<0.33、0≦z<0.67)とも記載される場合がある。
【0005】
たとえば、特許文献1は、LiMOとLiNOとの固溶体(MはMn、Ni、CoおよびFeから選ばれる一種以上、NはMn、ZrおよびTiから選ばれる一種以上)の製造方法を開示している。この固溶体は、MおよびNに相当する各金属元素の塩を溶解した混合溶液にアンモニア水をpH7になるまで滴下して、さらにNaCO溶液を滴下してM−N系複合炭酸塩を沈殿させ、M−N系複合炭酸塩とLiOH・HOとを混合して焼成することで得られる。
【0006】
また、正極活物質としてLiMnOを含む二次電池を使用する際には、使用に先立ち正極活物質を活性化させる必要がある。しかし、LiMnOの粒径が大きい場合には、粒子の表層しか活性化されないため、使用するLiMnOのほぼ全量を電池として活性な材料とするためにはLiMnOの粒径を小さくすることが必要と考えられている。つまり、簡便な微粒子の合成プロセスの開発も必要とされている。たとえば、特許文献2には、ナノオーダーの酸化物粒子を合成する方法が開示されている。特許文献2の実施例3では、1:1のモル比で混合したLiOH・HOとLiNOにMnOおよびLiを加えて混合し、乾燥工程を経た後、溶融塩として、マンガンの平均酸化数が3.5価であるマンガン酸リチウム(LiMn)を合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−270201号公報
【特許文献2】特開2008−105912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、4価のMnのみを含む微粒子状のリチウムマンガン酸化物系の複合酸化物が求められているが、特許文献1の方法で得られるLiMOとLiNOとの固溶体の粒径は、焼成温度および図5に示されるX線回折パターンより、数μm〜数十μm程度であると推測される。つまり、特許文献1に記載の方法では、ナノオーダーの微粒子を得ることはできない。
【0009】
また、特許文献2の製造方法によれば、溶融塩法によりナノオーダーの微粒子を製造することはできるが、LiMnOを作製することはできていない。特許文献2では、比較的低い温度の溶融塩を用いて複合酸化物を合成することで、非常に微細な複合酸化物を得ている。前述の通り、活性化の観点では、複合酸化物が微細である方が有利である。しかしながら、微細な複合酸化物を正極活物質として用いた場合、二次電池のサイクル特性が低下することがわかった。これは、正極活物質が微細な場合、充電でイオンが引き抜かれる際に複合酸化物が歪み易く、結晶構造が崩れるためであると考えられる。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、マンガンの価数が4価である微粒子状のリチウムマンガン酸化物系の複合酸化物の新規の製造方法であって、サイクル特性に優れた微細な複合酸化物の製造方法を提供することを目的とする。また、この新規の製造方法により得られる複合酸化物を含む正極活物質、それを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の複合酸化物の製造方法は、LiMnOを基本組成とし、Mnの1〜30原子%がLiおよびMn以外の金属元素から選ばれる少なくとも1種の置換元素で置換された複合酸化物の製造方法であって、
Mnおよび前記置換元素を含み、酸化物、水酸化物および金属塩から選ばれる一種以上の金属化合物を含む金属化合物原料と、水酸化リチウムおよび/または硝酸リチウムを含み目的の前記複合酸化物に含まれるLiの理論組成を超えるLiを含む溶融塩原料と、を混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
前記原料混合物を溶融して前記溶融塩原料の融点以上で反応させる溶融反応工程と、
反応後の前記原料混合物から生成された前記複合酸化物を回収する回収工程と、
を経て前記複合酸化物を得ることを特徴とする。
【0012】
本発明の複合酸化物の製造方法では、原料混合物を溶融塩とし、溶融塩中で原料を反応させることにより、微粒子状の複合酸化物が得られる。これは、低温かつ短時間で反応が進むためである。
【0013】
このとき、複合酸化物のMnの一部を他の金属元素で置換することで、正極活物質として用いた場合にも繰り返しの充放電による充放電容量の低下(つまりサイクル特性の低下)を抑制できることが、新たにわかった。溶融塩法により合成された微細な複合酸化物は、繰り返しの充放電にともなうイオンの吸蔵および放出により、結晶構造が崩れやすい。しかし、複合酸化物のMnの一部を金属元素で置換することで複合酸化物の結晶構造が安定し、サイクル特性が向上するものと推測される。
【0014】
また、溶融塩原料として水酸化リチウムおよび/または硝酸リチウムを用いることで、LiMnOを基本組成とする複合酸化物が容易に得られる。LiMnOを基本組成とする複合酸化物を合成するには、高酸化状態で反応活性が高い必要がある。このような状態は、塩基性の溶融塩および反応温度によりもたらされると考えられる。水酸化リチウムの溶融塩は、水酸化物イオンに由来する酸素イオンを生じる。また、硝酸リチウムは、元々、強力な酸化作用を示す。そのため、水酸化リチウムおよび/または硝酸リチウムを溶融塩原料として用いることで、溶融塩中にマンガンがMn4+の状態で存在しやすい高酸化状態が形成される。
【0015】
本発明の複合酸化物の製造方法により得られる複合酸化物は、リチウムイオン二次電池用正極活物質として使用することができる。すなわち、本発明は、本発明の複合酸化物の製造方法により得られた複合酸化物を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質と捉えることもできる。
【0016】
なお、本発明の製造方法により得られる複合酸化物は、LiMnOを基本組成とする。したがって、Mnが置換元素により置換されるのはもちろんのこと、不可避的に生じるLi、MnまたはOの欠損により、基本組成からわずかにずれた複合酸化物をも含む。そのため、Mnは基本的には4価であるが、Mnの平均酸化数は、3.8〜4価まで許容される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、微粒子状であってもサイクル特性に優れたリチウムマンガン酸化物系の複合酸化物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の製造方法により得られたLiMn0.9Ti0.1(実施例1−2)のX線回折測定の結果を示す。
【図2】本発明の製造方法により得られたLiMn0.9Ti0.1(実施例1−2)を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の初期充放電特性を示すグラフである。
【図3】本発明の製造方法により得られたLiMn0.8Ti0.2(実施例1−3)を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の初期充放電特性を示すグラフである。
【図4】本発明の製造方法により得られたLiMn0.9Ti0.1(実施例2−1)を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池の初期充放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の複合酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限aおよび上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0020】
<複合酸化物>
以下に、本発明の複合酸化物の製造方法の各工程を説明する。本発明の複合酸化物の製造方法は、LiMnOを基本組成とし、Mnの1〜30原子%がLiおよびMn以外の金属元素から選ばれる少なくとも1種の置換元素で置換された複合酸化物の製造方法であって、主として、原料混合物調製工程、溶融反応工程および回収工程を含み、必要に応じて、前駆体合成工程および/または加熱焼成処理工程などを含む。
【0021】
原料混合物調製工程は、少なくとも、金属化合物原料と溶融塩原料とを混合して原料混合物を調製する工程である。金属化合物原料は、Mnおよび置換元素を含み、酸化物、水酸化物および金属塩から選ばれる一種以上の金属化合物を含む。溶融塩原料は、水酸化リチウムおよび/または硝酸リチウムを含む。
【0022】
金属化合物原料は、MnおよびMnを置換する金属元素(置換元素)を供給する。置換元素は、合成後の複合酸化物において4価で存在することができる金属元素から選ばれる一種以上であれば、Mnと容易に置換するため、特に限定はない。好ましくは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)である。これらのうちの1種以上でMnが置換されるとよい。
【0023】
4価のMnを供給する原料として、Mnを必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物および金属塩から選ばれる一種以上の金属化合物を用いるとよい。具体的には、二酸化マンガン(MnO)、三酸化二マンガン(Mn)、一酸化マンガン(MnO)、四三酸化マンガン(Mn)水酸化マンガン(Mn(OH))、オキシ水酸化マンガン(MnOOH)、などの金属化合物が挙げられる。また、置換元素を供給する原料として、置換元素となる金属元素を必須とする一種以上の金属元素を含む酸化物、水酸化物および金属塩から選ばれる一種以上の金属化合物を用いるとよい。置換元素がTiであれば、酸化チタン(TiO、Ti、TiO)、水酸化チタン(Ti(OH)、Ti(OH)、Ti(OH))、オルトチタン酸(HTiO)などの金属化合物が挙げられる。また、ジルコニア(ZrO)、水酸化ジルコニル(ZrO(OH))、酸化スズ(SnO、SnO)、水酸化スズ(Sn(OH)、Sn(OH))スズ酸(HSnO)、等も使用可能である。さらに、Mnおよび置換元素をともに含有する金属化合物であってもよいし、これらの酸化物、水酸化物または金属塩の金属元素の一部がCr、Fe、Co、Ni、Al、Mgなどで置換された金属化合物であってもよい。すなわち、金属化合物原料として、Mnおよび置換元素を必須として含むように、例示した金属化合物のうちの一種あるいは二種以上を混合して用いればよい。
【0024】
金属化合物中のMnおよび置換元素は、必ずしも4価である必要はなく、4価以下の金属元素であってもよい。これは、溶融塩中では高酸化状態で反応が進むため、原料混合物において2価や3価の金属元素であっても、合成される複合酸化物中では4価になるためである。
【0025】
また、上記の金属化合物は、前駆体としてあらかじめ合成するとよい。前駆体の合成方法としては、原料混合物調製工程の前に、Mnおよび/または置換元素を必須として含む水溶液をアルカリ性にして沈殿物を得る方法がよい。水溶液としては、水溶性の無機塩、具体的には遷移金属の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩などを水に溶解し、アルカリ金属水酸化物、アンモニア水などで水溶液をアルカリ性にすると、前駆体は沈殿物として生成される。
【0026】
溶融塩原料は、Liの供給源となるが、製造される複合酸化物に含まれるLiの理論組成を超えるLiを含む。溶融塩原料に含まれるLiに対する、目的の複合酸化物に含まれるLiの理論組成(複合酸化物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で1未満であればよいが、0.02〜0.7が好ましく、さらに好ましくは、0.03〜0.5である。0.02未満であると、使用する溶融塩原料の量に対して生成する複合酸化物の量が少なくなるため、製造効率の面で望ましくない。また、0.7以上であると金属化合物原料を分散させる溶融塩の量が不足し、溶融塩中で複合酸化物が凝集したり粒成長したりすることがあるため望ましくない。
【0027】
溶融塩原料は、水酸化リチウムおよび硝酸リチウム以外の化合物は実質的に含まないのが望ましい。硝酸リチウム単独、水酸化リチウム単独、または両者を混合して用いるとよい。ただし、水酸化リチウムは、大気中の二酸化炭素を吸収して炭酸リチウムとなる性質があるため、不純物として微量の炭酸リチウムを含む場合がある。水酸化リチウムは、水和物を用いてもよい。使用可能な水酸化リチウムとしては、LiOH、LiOH・HOなどが挙げられる。
【0028】
本発明の複合酸化物の製造方法では、水酸化リチウムおよび硝酸リチウムは、Liの供給源のみならず、溶融塩の酸化力を調整する役割を果たす。Mnが4価であるリチウムマンガン酸化物系の複合酸化物を合成するには、水酸化リチウムのみを用いて塩基性の高い溶融塩中で反応させるのが好ましい。しかし、低い反応温度で複合酸化物を合成したい場合には、溶融塩原料として硝酸リチウムと水酸化リチウムとを混合して用いるとよい。硝酸リチウムに対する水酸化リチウムの割合(水酸化リチウム/硝酸リチウム)は、モル比で0.2以上が望ましく、0.8以上7.5以下、さらには1以上5以下とするとよい。混合比が0.2未満では、溶融塩の酸化力が不十分であり、反応温度を高くしないと4価のMnを含む所望の複合酸化物を高い選択率で製造することが困難である。水酸化リチウムの含有量が多い方が、所望の複合酸化物が得られやすいが、混合比が7.5を超えると、溶融塩の融点が高くなるため結晶性の高い複合酸化物を合成することはできても粒子が成長し易い。
【0029】
また、溶融塩原料の混合割合を変化させることで得られる複合酸化物の粒子径を変化させることも可能である。たとえば、同一温度の溶融塩反応においては水酸化リチウム/硝酸リチウムのモル比が大きくなるほど合成される粒子の粒子径を小さくすることが可能である。また溶融反応工程での酸素濃度を高くするほど合成される粒子の粒子径は小さくすることが出来る。
【0030】
なお、原料混合物調製工程後、溶融反応工程の前に、原料混合物を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。乾燥は、真空乾燥器を用いるのであれば、80〜150℃で2〜24時間真空乾燥するとよい。ただし、金属化合物原料として吸湿性の高い化合物を使用しない場合には、乾燥工程を省略することができる。
【0031】
溶融反応工程は、原料混合物を溶融して反応させる工程である。反応温度は溶融反応工程における原料混合物の温度であり、溶融塩原料の融点以上であればよい。水酸化リチウムの融点は462℃であるが、硝酸リチウム(融点は261℃)と混合することで融点は低下する。そのため、混合比によっては462℃未満で反応させることも可能となり、300〜900℃程度の幅広い温度域から反応温度を選択可能である。反応温度が低いほど微細な複合酸化物が得られ、反応温度が高いほど結晶性の高い複合酸化物が得られる。しかし、反応温度が低すぎると溶融塩の反応活性が不十分であり4価のMnを含む所望の複合酸化物を高い選択率で製造することが困難となる。そのため、望ましい反応温度は、400℃以上さらには450℃以上である。反応温度の上限は、原料混合物の種類にもよるが、800℃以下、700℃以下さらには650℃以下が望ましい。反応温度が高すぎると、溶融塩中の硝酸リチウムは分解するが、分解後、水酸化リチウムとして存在するため、4価のMnを含む複合酸化物の合成に大きく影響しない。しかし、溶融塩原料が硝酸リチウム単独の場合には、反応温度を300〜700℃さらには500〜600℃とすることで、4価のMnを含む所望の複合酸化物を高い選択率で製造することができる。この反応温度で30分以上さらに望ましくは1〜6時間保持すれば、原料混合物は十分に反応する。
【0032】
水酸化リチウムを単独で溶融塩原料として使用する場合、反応温度が高い場合などには、溶融塩の塩基性が高くなる。そのため、反応には、溶融塩中に成分が溶出しにくい金などの坩堝を使用するのが望ましい。たとえば、塩基性が高い環境でニッケル坩堝を使用すると、Niが溶融塩中に溶出して、複合酸化物以外の不純物(NiOなど)が生成されるため望ましくない。
【0033】
また、溶融反応工程を酸素含有雰囲気、たとえば大気中、酸素ガスおよび/またはオゾンガスを含むガス雰囲気中で行うと、4価のMnを含む複合酸化物が単相で得られやすい。酸素ガスを含有する雰囲気であれば、酸素ガス濃度を20〜100体積%さらには50〜100体積%とするのがよい。
【0034】
回収工程は、反応後の原料混合物(溶融塩)から生成された複合酸化物を回収する工程である。回収方法に特に限定はないが、溶融反応工程にて生成した複合酸化物は水に不溶であるため、溶融塩を十分に冷却して凝固させて固体とし、固体を水に溶解することで複合酸化物が不溶物として得られる。水溶液を濾過して得られた濾物を乾燥して、複合酸化物を取り出せばよい。
【0035】
また、回収工程は、溶融反応工程後の原料混合物を徐冷してから複合酸化物を回収する工程であるとよい。徐冷することで、層状岩塩構造が得られやすく、LiMnOを基本組成とする複合酸化物(層状岩塩構造をもつ)を合成するには、有利である。すなわち、反応終了後の高温の原料混合物を、加熱炉の中に放置して炉冷してもよいし、加熱炉から取り出して室温にて空冷してもよい。具体的に規定するのであれば、溶融反応工程後の原料混合物の温度が、450℃以下になる(つまり、溶融塩が凝固する)まで、2℃/分以上さらには5〜25℃/分の速度で冷却することで、結晶性の高い複合酸化物が得られる。
【0036】
また、回収工程の後に、複合酸化物のLiの一部を水素(H)に置換するプロトン置換工程を行ってもよい。プロトン置換工程では、回収工程後の複合酸化物を希釈した酸などの溶媒に接触させることで、Liの一部が容易にHに置換する。
【0037】
また、回収工程(あるいはプロトン置換工程)の後に、複合酸化物を酸素含有雰囲気中で加熱する加熱焼成処理工程を行ってもよい。加熱焼成工程は、酸素含有雰囲気、たとえば大気中、酸素ガスおよび/またはオゾンガスを含むガス雰囲気中で行うのがよい。酸素ガスを含有する雰囲気であれば、酸素ガス濃度を20〜100体積%さらには50〜100体積%とするのがよい。焼成温度は、300℃以上さらには350〜500℃が望ましく、この焼成温度で20分以上さらには0.5〜2時間保持するのが望ましい。
【0038】
以上詳説した本発明の製造方法により得られた複合酸化物は、好ましくは、一次粒子が単結晶である。一次粒子が単結晶であることは、TEMの高分解能像により確認することができる。複合酸化物の一次粒子のc軸方向の粒径は、シェラーの式より200nm以下さらには20〜100nmであるのが好ましい。なお、半値幅は、回折角度(2θ、CuKα線)18.5度付近に見られるLiMnOの(001)の最大強度をImaxとしたときに、Imax/2で算出される強度のところで測定される値とする。前述のように、一次粒子径が小さい方が活性化されやすいが、小さすぎると、充放電により結晶構造が崩れやすくなり、電池特性が低下することがあるため好ましくない。
【0039】
本発明の複合酸化物の製造方法によれば、LiMnOを基本組成とする複合酸化物を合成可能である。Mnは基本的には4価であるが、前述の通り、Liおよび/またはOの基本組成からの僅かな過不足により、Mnの平均酸化数は3.8〜4価まで許容される。なお、得られた複合酸化物がLiMnOを基本組成とすることは、たとえば、発光分光分析(ICP)および酸化還元滴定によるMnの平均価数分析により確認できる。また、LiMnOが層状岩塩構造に属することに基づき、X線回折(XRD)、電子線回折などを用いても確認することができる。高分解能の透過電子顕微鏡(TEM)を用いた高分解能像では、層状構造を観察可能である。
【0040】
本発明の複合酸化物の製造方法により得られる複合酸化物は、LiMn1−x(Aは置換元素であってLiおよびMn以外の金属元素、xは置換割合であって0.01≦x≦0.3)を主生成物とするのが望ましい。なお、Liは、原子比で60%以下さらには45%以下がHに置換されていてもよい。また、Mnは、1〜30%が置換元素Aで置換されていれば、サイクル特性の向上に寄与するが、好ましい置換率は3〜25%さらには4〜22%である。
【0041】
<リチウムイオン二次電池>
本発明の複合酸化物の製造方法により得られた複合酸化物は、リチウムイオン二次電池用正極活物質として用いることができる。以下に、上記複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池を説明する。リチウムイオン二次電池は、主として、正極、負極および非水電解質を備える。また、一般のリチウムイオン二次電池と同様に、正極と負極の間に挟装されるセパレータを備える。
【0042】
正極は、リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質と、正極活物質を結着する結着剤と、を含む。さらに、導電助材を含んでもよい。正極活物質は、上記の複合酸化物を単独、あるいは上記の複合酸化物とともに、一般のリチウムイオン二次電池に用いられるLiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、Sなどのうちから選ばれる一種以上の他の正極活物質を含んでもよい。
【0043】
また、結着剤および導電助材にも特に限定はなく、一般のリチウムイオン二次電池で使用可能なものであればよい。導電助材は、電極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。結着剤は、正極活物質および導電助材を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0044】
正極に対向させる負極は、負極活物質である金属リチウムをシート状にして、あるいはシート状にしたものをニッケル、ステンレス等の集電体網に圧着して形成することができる。金属リチウムのかわりに、リチウム合金またはリチウム化合物をも用いることができる。また、正極同様、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質と結着剤とからなる負極を使用してもよい。負極活物質としては、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。結着剤としては、正極同様、含フッ素樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0045】
正極および負極は、少なくとも正極活物質または負極活物質が結着剤で結着されてなる活物質層が、集電体に付着してなるのが一般的である。そのため、正極および負極は、活物質および結着剤、必要に応じて導電助材を含む電極合材層形成用組成物を調製し、さらに適当な溶剤を加えてペースト状にしてから集電体の表面に塗布後、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
【0046】
集電体は、金属製のメッシュや金属箔を用いることができる。集電体としては、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂からなる多孔性または無孔の導電性基板が挙げられる。多孔性導電性基板としては、たとえば、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布などの繊維群成形体、などが挙げられる。無孔の導電性基板としては、たとえば、箔、シート、フィルムなどが挙げられる。電極合材層形成用組成物の塗布方法としては、ドクターブレード、バーコーターなどの従来から公知の方法を用いればよい。
【0047】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0048】
電解質としては、有機溶媒に電解質を溶解させた有機溶媒系の電解液や、電解液をポリマー中に保持させたポリマー電解質などを用いることができる。その電解液あるいはポリマー電解質に含まれる有機溶媒は特に限定されるものではないが、負荷特性の点からは鎖状エステルを含んでいることが好ましい。そのような鎖状エステルとしては、たとえば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートに代表される鎖状のカーボネートや、酢酸エチル、プロピロン酸メチルなどの有機溶媒が挙げられる。これらの鎖状エステルは、単独でもあるいは2種以上を混合して用いてもよく、特に、低温特性の改善のためには、上記鎖状エステルが全有機溶媒中の50体積%以上を占めることが好ましく、特に鎖状エステルが全有機溶媒中の65体積%以上を占めることが好ましい。
【0049】
ただし、有機溶媒としては、上記鎖状エステルのみで構成するよりも、放電容量の向上をはかるために、上記鎖状エステルに誘導率の高い(誘導率:30以上)エステルを混合して用いることが好ましい。このようなエステルの具体例としては、たとえば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートに代表される環状のカーボネートや、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールサルファイトなどが挙げられ、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどの環状構造のエステルが好ましい。そのような誘電率の高いエステルは、放電容量の点から、全有機溶媒中10体積%以上、特に20体積%以上含有されることが好ましい。また、負荷特性の点からは、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
【0050】
有機溶媒に溶解させる電解質としては、たとえば、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、LiCSO、LiCFCO、Li(SO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiCnF2n+1SO(n≧2)などが単独でまたは2種以上混合して用いられる。中でも、良好な充放電特性が得られるLiPFが好ましく用いられる。
【0051】
電解液中における電解質の濃度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.7mol/dm、特に0.4〜1.5mol/dm程度が好ましい。
【0052】
また、電池の安全性や貯蔵特性を向上させるために、非水電解液に芳香族化合物を含有させてもよい。芳香族化合物としては、シクロヘキシルベンゼンやt−ブチルベンゼンなどのアルキル基を有するベンゼン類、ビフェニル、あるいはフルオロベンゼン類が好ましく用いられる。
【0053】
セパレータとしては、強度が充分でしかも電解液を多く保持できるものがよく、そのような観点から、5〜50μmの厚さで、ポリプロピレン製、ポリエチレン製、プロピレンとエチレンとの共重合体などポリオレフィン製の微孔性フィルムや不織布などが好ましく用いられる。特に、5〜20μmと薄いセパレータを用いた場合には、充放電サイクルや高温貯蔵などにおいて電池の特性が劣化しやすく、安全性も低下するが、上記の複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は安定性と安全性に優れているため、このような薄いセパレータを用いても安定して電池を機能させることができる。
【0054】
以上の構成要素によって構成されるリチウムイオン二次電池の形状は円筒型、積層型、コイン型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極と負極との間にセパレータを挟装させ電極体とする。そして正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を集電用リードなどで接続し、この電極体に上記電解液を含浸させ電池ケースに密閉し、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0055】
リチウムイオン二次電池を使用する場合には、はじめに充電を行い、正極活物質を活性化させる。ただし、上記の複合酸化物を正極活物質として用いる場合には、初回の充電時にリチウムイオンが放出されるとともに酸素などの気体が発生する。そのため、電池ケースを密閉する前に充電を行うのが望ましい。
【0056】
以上説明した本発明の製造方法により得られる複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、携帯電話、パソコン等の通信機器、情報関連機器の分野の他、自動車の分野においても好適に利用できる。たとえば、このリチウムイオン二次電池を車両に搭載すれば、リチウムイオン二次電池を電気自動車用の電源として使用できる。
【0057】
以上、本発明の複合酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0058】
以下に、本発明の複合酸化物の製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびリチウムイオン二次電池の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0059】
<前駆体(Mn)の合成>
0.2molのMn(NO・6HOを100mLの蒸留水に溶解させて金属塩含有水溶液を作製した。スターラーを用いてこの水溶液を撹拌しながら、50g(1.2mol)のLiOH・HOを300mLの蒸留水に溶解させたものを2時間かけて滴下して水溶液をアルカリ性とし、金属化合物の沈殿を析出させた。この沈殿溶液を、酸素雰囲気下(酸素ガス濃度100%)で1日熟成を行った。得られた沈殿物を濾過、蒸留水を用いて洗浄することによりMn酸化物の前駆体を得た。発光分光分析(ICP)および酸化還元滴定によるMnの平均価数分析から、得られた前駆体はMnであると確認された。
【0060】
なお、Mnの価数評価は、次のように行った。0.05gの試料を三角フラスコに取り、シュウ酸ナトリウム溶液(1%)40mLを正確に加え、さらにHSOを50mL加えて窒素ガス雰囲気中90℃水浴中で試料を溶解した。この溶液に、過マンガン酸カリウム(0.1N)を滴定し、微紅色にかわる終点(滴定量:V1)まで行った。別のフラスコに、シュウ酸ナトリウム溶液(1%)20mLを正確に取り、上記と同様に過マンガン酸カリウム(0.1N)を終点まで滴定した(滴定量:V2)。V1およびV2から下記の式により、高価数のMnがMn2+に還元された時のシュウ酸の消費量を酸素量(活性酸素量)として算出した。
【0061】
活性酸素量(%)={(2×V2−V1)×0.00080/試料量}×100
そして、試料中のMn量(ICP測定値)と活性酸素量からMnの平均価数を算出した。
【0062】
<実施例1−1:LiMn0.95Ti0.05の合成>
0.1molの水酸化リチウムLiOH(4.2g)と0.1molの硝酸リチウムLiNO(6.9g)とを混合して溶融塩原料を調製した。ここに金属化合物原料として合成した前駆体と酸化チタンの混合物であるマンガンチタン混合物(1.0g)を加えて原料混合物を調製した。
【0063】
マンガンチタン混合物は、上記の前駆体(Mn)と酸化チタン(TiO)とを、乳鉢と乳棒を用いて、モル比でMn:Ti=95:5に混合して得た。マンガンチタン混合物1gの遷移金属元素含有量は0.013molである。このとき、目的生成物がLiMn0.95Ti0.05であることから、マンガンチタン混合物のMnおよびTiが全てLiMn0.95Ti0.05に供給されたと仮定して、(目的生成物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で0.13であった。
【0064】
原料混合物を坩堝にいれて、真空乾燥器内において120℃で12時間真空乾燥した。その後、乾燥器を大気圧に戻し、原料混合物の入った坩堝を取り出し、直ちに500℃に熱せられた電気炉に移し、空気中500℃で1時間加熱した。このとき原料混合物は融解して溶融塩となり、茶色の生成物が沈殿していた。
【0065】
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉から取り出し、室温にて冷却した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。茶色の生成物は水に不溶性であるため、水は焦げ茶色の懸濁液となった。懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に茶色固体の濾物と、が得られた。得られた濾物をさらにイオン交換水を用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の黒色固体を120℃で12時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
【0066】
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、発光分光分析(ICP)および酸化還元滴定によるMnの平均価数分析から得られた組成はLiMn0.95Ti0.05であると確認された。
【0067】
<実施例1−2:LiMn0.9Ti0.1の合成>
上記の前駆体(Mn)と、TiOとを、モル比でMn:Ti=9:1に混合し、マンガンチタン混合物を得た。このマンガンチタン混合物1gを、実施例1−1で用いたマンガンチタン混合物の代わりに用いて、実施例1−1と同様の手順で、茶色粉末を合成した。なお、(目的生成物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で0.13であった。
【0068】
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。測定結果を図1に示した。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよび酸化還元滴定によるMnの平均価数分析から得られた組成はLiMn0.9Ti0.1であると確認された。
【0069】
<実施例1−3:LiMn0.8Ti0.2の合成>
上記の前駆体(Mn)と、TiOとを、モル比でMn:Ti=8:2に混合し、マンガンチタン混合物を得た。このマンガンチタン混合物1gを、実施例1−1で用いたマンガンチタン混合物の代わりに用いて、実施例1−1と同様の手順で、茶色粉末を合成した。なお、(目的生成物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で0.13であった。
【0070】
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよび酸化還元滴定によるMnの平均価数分析から得られた組成はLiMn0.8Ti0.2であると確認された。
【0071】
<実施例2−1:LiMn0.9Ti0.1の合成>
溶融塩原料として0.2molの水酸化リチウムLiOH(8.4g)と金属化合物原料としてマンガンチタン混合物(1.0g)を混合して原料混合物を調製した。マンガンチタン混合物は、上記の前駆体とTiOとを、モル比でMn:Ti=9:1に混合して得た。マンガンチタン混合物1gの遷移金属元素含有量は0.013molである。つまり、(目的生成物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で0.13であった。
【0072】
原料混合物は坩堝にいれて、真空乾燥器内において120℃で12時間真空乾燥した。その後、乾燥器を大気圧に戻し、原料混合物の入った坩堝を取り出し、直ちに600℃に熱せられた電気炉に移し、空気中600℃で1時間加熱した。このとき原料混合物は融解して溶融塩となり、茶色の生成物が沈殿していた。
【0073】
次に、溶融塩の入った坩堝を電気炉から取り出し、室温にて冷却した。溶融塩が十分に冷却されて固体化した後、坩堝ごと200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、固体化した溶融塩を水に溶解した。茶色の生成物は水に不溶性であるため、水は焦げ茶色の懸濁液となった。懸濁液を濾過すると、透明な濾液と、濾紙上に茶色固体の濾物と、が得られた。得られた濾物をさらにイオン交換水を用いて十分に洗浄しながら濾過した。洗浄後の黒色固体を120℃で12時間、真空乾燥した後、乳鉢と乳棒を用いて粉砕した。
【0074】
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよび酸化還元滴定によるMnの平均価数分析から得られた組成はLiMn0.9Ti0.1であると確認された。
【0075】
<実施例2−2:LiMn0.8Ti0.2の合成>
上記の前駆体(Mn)と、TiOとを、モル比でMn:Ti=8:2に混合し、マンガンチタン混合物を得た。このマンガンチタン混合物1gを、実施例2−1で用いたマンガンチタン混合物の代わりに用いて、実施例2−1と同様の手順で、茶色粉末を合成した。なお、(目的生成物のLi/溶融塩原料のLi)は、モル比で0.13であった。
【0076】
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよび酸化還元滴定によるMnの平均価数分析から得られた組成はLiMn0.8Ti0.2であると確認された。
【0077】
<比較例1:LiMnOの合成>
上記の前駆体(Mn)1gを、実施例1−1で使用したチタンマンガン混合物の代わりに用いて、原料混合物を調製した。この原料混合物を用いて、実施例1−1と同様の手順で、茶色粉末を合成した。
【0078】
得られた茶色粉末についてCuKα線を用いたXRD測定を行った。XRDによれば、得られた化合物は層状岩塩構造であることがわかった。また、ICPおよび酸化還元滴定によるMnの平均価数分析から得られた組成はLiMnOであると確認された。
【0079】
<リチウムイオン二次電池>
各実施例および比較例1で得られた複合酸化物を正極活物質として用い、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0080】
正極活物質として上記の複合酸化物、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)、結着剤(バインダー)としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、を質量比で、複合酸化物:KB:PTFE=70:20:10で混合し、集電体であるアルミニウム箔上に圧着して、120℃で12時間以上真空乾燥後、直径14mmφの正極を得た。また、正極に対向させる負極は、金属リチウム(φ14mm、厚さ400μm)とした。
【0081】
正極および負極の間にセパレータとして厚さ20μmの微孔性ポリエチレンフィルムを挟装して電極体電池とした。この電極体電池を電池ケース(宝泉株式会社製CR2032コインセル)に収容した。また、電池ケースには、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを1:2(体積比)で混合した混合溶媒にLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解した非水電解質を注入して、リチウムイオン二次電池を得た。
【0082】
<充放電試験>
作製したリチウム二次電池を用いて25℃一定温度下において充放電試験を行った。充電は0.2Cのレートで4.6Vまで定電流充電を行い、その後0.02Cの電流値まで4.6V一定電圧で充電を行った。放電は2.0Vまで0.2Cのレートで行った。各実施例および比較例の複合酸化物を用いた二次電池の10サイクル目の放電容量維持率(初回の放電容量に対する10サイクル目の放電容量)を、表1に示した。また、実施例1−2、1−3および2−1の複合酸化物を用いた二次電池の初期充放電曲線を、図2〜図4にそれぞれ示した。
【0083】
【表1】



【0084】
各実施例および比較例1の複合酸化物は、いずれも溶融塩法により合成され、微細な複合酸化物であると考えられる。たとえば、XRDパターン(図1)の18.7度付近のLiMnOにおける(001)ピークよりシェラーの式を用いてc軸方向の粒子径を算出すると、実施例1−2で合成された複合酸化物の粒子径は、171nmであることがわかった。
【0085】
TiをドープしていないLiMnO(比較例1)に比べ、LiMnOのMnの一部をTiに置換した各実施例の複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池のサイクル特性が、優れることがわかった。特に、実施例1−1、1−2、1−3および比較例1は、いずれも溶融塩の温度を500℃にして複合酸化物を合成したため、結晶性や粒子径に大きな差はないと考えられる。つまり、LiMnOのMnの一部をTiで置換することが、サイクル特性の向上に寄与することがわかった。
【0086】
また、実施例1−1および2−1の複合酸化物を正極活物質として用いた二次電池のサイクル特性は、非常に高かった。このことから、合成温度が高く、LiMnOのMnのTiによる置換率が比較的小さい方が、サイクル特性の面から望ましいことがわかった。つまり、合成温度は500〜650℃さらには570〜630℃が望ましい。また、LiMnOのMnのうちの4〜11原子%さらには4〜6原子%をTiで置換された複合酸化物が望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiMnOを基本組成とし、Mnの1〜30原子%がLiおよびMn以外の金属元素から選ばれる少なくとも1種の置換元素で置換された複合酸化物の製造方法であって、
Mnおよび前記置換元素を含み、酸化物、水酸化物および金属塩から選ばれる一種以上の金属化合物を含む金属化合物原料と、水酸化リチウムおよび/または硝酸リチウムを含み目的の前記複合酸化物に含まれるLiの理論組成を超えるLiを含む溶融塩原料と、を混合して原料混合物を調製する原料混合物調製工程と、
前記原料混合物を溶融して前記溶融塩原料の融点以上で反応させる溶融反応工程と、
反応後の前記原料混合物から生成された前記複合酸化物を回収する回収工程と、
を経て前記複合酸化物を得ることを特徴とする複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記置換元素は、前記複合酸化物において4価で存在することができる金属元素から選ばれる一種以上である請求項1記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記置換元素は、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)から選ばれる一種以上である請求項2記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記置換元素は、Mnの5〜25原子%を置換する請求項1〜3のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記複合酸化物は、LiMn1−xTi(0.01≦x≦0.3)を主生成物とする請求項1〜4のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記金属化合物原料は、Mnを含む金属化合物および前記置換元素を含む金属化合物の混合物である請求項1〜5のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記原料混合物は、前記溶融塩原料に含まれるLiに対する、目的の前記複合酸化物に含まれるLiの理論組成(複合酸化物のLi/溶融塩原料のLi)がモル比で0.02以上0.7以下である請求項1〜6のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記溶融塩原料は、硝酸リチウムに対する水酸化リチウムの割合(水酸化リチウム/硝酸リチウム)がモル比で0.2以上7.5以下である請求項1〜7のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記溶融反応工程は、酸素含有雰囲気中で行う請求項1〜8のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記回収工程は、前記溶融反応工程後の前記原料混合物を徐冷してから前記複合酸化物を回収する工程である請求項1〜9のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法における回収工程の後に、前記複合酸化物を酸素含有雰囲気中で加熱する加熱焼成処理工程を行うことを特徴とする複合酸化物の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の複合酸化物の製造方法により得られた複合酸化物を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項13】
前記複合酸化物の一次粒子が単結晶である請求項12に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項14】
前記複合酸化物の一次粒子のc軸方向の粒径は、200nm以下である請求項12または13記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質と、を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項16】
請求項15に記載のリチウムイオン二次電池を搭載したことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−66944(P2012−66944A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210427(P2010−210427)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】