説明

複合金属酸窒化物GaN−ZnO光触媒の製造方法

【目的】 組成(ZnO)(GaN)1−XここでXは0.04≦X≦0.30のGa元素を含む光触媒活性を有する化合物の効率的な製造方法の提供
【構成】 Ga粉末とZnO粉末を少なくとも窒素ガス、アンモニアガスおよび飽和炭化水素ガスを含む気相中に浮遊させ600〜1000℃に加熱して光触媒(ZnO)(GaN)1−X、ここでXは0.04≦X≦0.30の範囲である、光触媒、特にNiOを担持させた光水分解触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GaN−ZnO光触媒を効率良く製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属窒化物及び金属酸窒化物を中心とするセラミックス新素材として注目されている。例えば、窒化チタンは優れた導電性を有し、高い強度と優れた耐摩耗性を持つという特徴を有しており、各種導電性材料及びサーメット原料等の切削材料として用いられている(特許文献1)。また、金属窒化物及び複合金属酸窒化物が光触媒活性を有することも解明されている(非特許文献1)。しかし、金属窒化物及び金属酸窒化物の製造方法として、金属酸化物をアンモニアガス等の還元性雰囲気下で加熱焼成する方法やアンモニアの混合ガスに還元性の気体、例えば炭化水素や水素を加えて気相反応させる方法も提案されているが、導電性材料として利用される金属的な電気伝導性を示す金属窒化物及び金属酸窒化物もしくは構造材料や熱伝導材料として利用される単一金属の金属窒化物及び金属酸窒化物の製造に関する方法が提案されているに過ぎない。また、前記公知の複合金属窒化物及び金属酸窒化物光触媒の製造方法は原料、例えばGeOまたはGaを静置してNH気流中下で900℃または950℃で10時間焼成することにより合成されており、窒化反応が進行するのに長時間を必要とすること、製品の歩留まりが悪い、微細で粒度分布の狭い製品を得にくい等の問題点があった。
【0003】
【特許文献1】特許第3089007号公報、請求の範囲
【非特許文献1】高田 剛ら、第23回 光がかかわる触媒化学シンポジウム講演要旨集34−35(2004,6月)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、光活性を持つ複合金属酸窒化物、すなわち光触媒活性をもつ微細で均一な複合金属酸窒化物光触媒粉末を効率的に安定して製造する方法を提供することである。
本発明者らは、前記特許文献1に記載の金属窒化物及び金属酸窒化物の製造方法を、光触媒活性をもつ複合金属酸窒化物の製造方法に適用できないか検討する中で、Ga粉末とZnO粉末との混合物を原料とし、浮遊ガスとして飽和炭化水素を加えた窒素ガスとアンモニアガスの混合ガスを用いることにより光活性、特に水の光分解により水素、酸素を生成させるGaN−ZnO光触媒を得ることができることを見出し、前記課題を解決することができた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、(1)Ga粉末とZnO粉末を少なくとも窒素ガス、アンモニアガスおよび炭化水素ガスを含む気相中に浮遊させ600〜1000℃に加熱してZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒の製造方法である。好ましくは、(2)炭素数5〜7の飽和炭化水素ガスを含む気相中に浮遊させ温度900℃±50℃に加熱することを特徴とする前記(1)に記載のZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒の製造方法であり、より好ましくは、(3)Ga粉末とZnO粉末を多孔質のセラミックフィルター上に供給し、前記粉末を気相中に浮遊させる窒素ガス、アンモニアガスおよび炭化水素ガスを供給し前記気相浮遊部の温度を600〜1000℃に保持させてZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒を生成させる工程を含むことを特徴とする前記(1)または(2)に記載のZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
発明の効果として、開発したGaNとZnOとのZnO比率が4〜30mol%の範囲で固溶した化合物は470nmまでの可視光を吸収する特性を示し、NiO等の助触媒を担持させたものは400nmより長波長の光により水を分解して特に水素生成する触媒として有効に機能することを挙げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の製造目的物である光触媒粒子は、流動床を形成して、GaNの生成と、GaN−ZnO固溶体の生成の反応を進行させることが重要であり、反応相の温度を600℃〜1000℃、好ましくは900℃±50℃に保持し、前記反応が完了する時間、例えば900℃において1時間保持することにより、効率よくZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒粉末を製造することができる。
【0008】
原料粉末の大きさとして、5nm〜100μm程度の粒子径のものを好ましいものとして挙げることができる。原料粉末の粒径は、下限は可能な限り小さなものが良い。上限は、100μmを超える大きさのものは気相中に浮遊させることが困難であり、良好に撹拌された流動床の形成が困難であり、制御された粒径を有し、粒度が揃った光触媒粒子を製造するという観点から好ましくない。
【0009】
原料である金属酸化物粉末を浮遊させる気相は、窒素、アンモニアガスおよび飽和炭化水素からなることが必須である。
炭化水素ガスとしては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の飽和炭化水素類及びベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が好ましい。前記炭化水素類、特に炭素数5〜7の飽和炭化水素を使用すると、原料粉体の窒化が促進されると共に、固溶化を進行させことから好ましい。本発明においては、窒化の進行を制御するために、気相中に前記の各成分の他、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス等の不活性ガス、水素ガス等の還元性ガスおよび水蒸気を添加してもよい。
【0010】
気相中に浮遊させ加熱する方法としては、気相により原料を浮遊させながら加熱する流動焼成炉を用いる方法や気相により原料粉末を移送しながら加熱する流通法を例示できる。GaN−ZnOなどの酸窒化物光触媒を製造する場合には流動床を用いることが安定な製造を行うことができるため好ましい。
【0011】
流動床は、気相導入部、原料粉末保持部、加熱部および気相捕集部が連続した配管系として構成した反応装置を用いて実施できる。このような装置では、例えば、原料金属酸化物を載置でき、かつ、前記原料酸化物を浮遊させる気相を形成させる流速で反応ガスを含む気体を供給、前記原料酸化物を攪拌すると共に、前記原料金属酸化物の窒化および金属窒化物と他の供給金属酸化物と固溶体を形成する反応を進行させる、前記気体成分としてN、NHおよび飽和炭化水素ガスを導入するガス供給管の設けられたガス供給部、前記窒化および固溶体化反応を進行させる所望温度に流動床部を加熱する外部加熱手段が設けられた加熱部、反応完了後の粉末を移送気相から分離して捕集する捕集部を有する構成からなる。前記反応装置には不活性ガスなど他のガスを必要に応じて供給できる管を付設することができる。
【0012】
フィルターから構成される原料粉末供給部に充填した又は供給された原料金属酸化物粉末は、供給される反応ガスを含む気体により撹拌されつつ供給部内の空間に浮遊せしめられ、前記導入される気相(キャリアガス)に乗って加熱部に流動層が形成される。気相は加熱部までの間に、必要に応じて追加のガス成分が導入されてもよく加熱部における所定の気相混合率及び雰囲気圧力に調整される。加熱部において金属酸化物粉末を浮遊させた気相は、外部加熱手段等により600〜1000℃に加熱される。金属酸化物粉末を加熱部に滞留させるのに要する気相流量は、加熱管径、加熱管長、原料平均粒径から調整される。流動床を形成する気相流量は、加熱管平均断面積1cmあたり10〜500ml/分の範囲を例示できる。
【0013】
触媒活性の粉末を製造するために、加熱温度を600〜1000℃に設定し、また、反応時間を所望の特性が得られる窒化・固溶体粉末を得ることができる時間に設定することが好ましい。窒素と還元性ガスの混合ガス100体積部に対して0.01〜0.8体積部の割合で飽和炭化水素ガスを導入するのが好ましい。適当な条件の下では、数秒の加熱でも高純度の金属窒化物粉末を得ることができる。加熱温度が高すぎても光触媒活性が低下する。従って、最高温度は900±50℃までとするのが、光活性触媒を製造する観点から好ましい。
【0014】
流動床で十分な反応を進行させた後、流速を増し移送し捕集部に金属酸窒化物粉末を捕集する。捕集手段は各種集塵装置など公知の粉末捕集手段を利用することができる。また捕集部で回収された気相はアンモニアガス、飽和炭化水素ガスを加える等成分を調整して再利用することができる。
【0015】
本発明の方法によれば、原料金属酸化物粉末の粒度分布、粒径、表面形状等を維持、または固溶化反応において形態を調整、微細化した複合金属酸窒化物粉末を製造できる。特に本発明の方法によれば、これまで静置製造方法では困難であった平均粒子径10nm〜1μmの複合金属酸窒化物含有粉末を容易に製造できる。また、製造に要する時間を短縮して複合金属酸窒化物含有粉末を製造できるという顕著な効果がもたらされる。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、何らこれらに制限されるものではない。
【実施例1】
【0016】
本発明の実施例を製造装置の一態様の図1を参照して説明する。
垂直に設置した内径30mm、長さ1,500mmのアルミナ管(反応管 f)(温度・原料組成によっては石英管を使用できる。)と、その中央部に併設した電気炉(c)を加熱部とする。管の下端には窒素、アンモニア、およびヘキサンガスの導入部(g)を接続し、加熱部中央部にはSiC製の多孔質セラミックフィルターによる試料保持部(e)を設ける。管の上端(a)は気体捕集部(図示せず)に接続する。これを反応装置とし、セラミックフィルター上にGaおよびZnO粉末原料(原料混合物 b)を供給し、ガス混合比率、ガス総流量、および加熱条件を表1に記載の条件にして焼成し複合金属窒化物含有粉末を製造した。
【0017】
前記各原料粉末として、株式会社高純度化学研究所製の純度99.99%のGa粉末および株式会社高純度化学研究所製の純度99.99%のZnO粉末を使用し、混合ガスとして、ジャパン・エア・ガシズ株式会社製の純度99.999%の窒素および住友精化株式会社製の純度99.999%のアンモニアおよび純正化学株式会社製の純度96.0%のヘキサンを用いた。得られた複合金属酸窒化物の粉末の評価をX線回折で行った。図2の上はヘキサンをガス相に加えない場合のX線回折であり、原料Ga粉末が一部(↓で表示のスペクトル)残っている。下側は、ヘキサンをガス相に加えた場合のX線回折である。焼成時に亜鉛成分の一部が揮発するので出発物質より亜鉛の比率が少ない化合物が得られる。
【0018】
【表1】

【0019】
(ZnO)(GaN)1−X、ここでXは0.04≦X≦0.30の範囲(GaN)(ZnO)1−Xの固溶体が得られた。得られた粉末の結晶構造はウルツ型構造であり、その拡散反射スペクトルを図3に示す。ヘキサンをガス相に加えた場合には吸収スペクトルが長波長側にシフトしている。
【実施例2】
【0020】
実施例1で得られた試料番号1の(ZnO)0.27(GaN)0.73の組成の固溶体にNiO(0.5重量%)を担持させた触媒0.2gを純水200mL中に懸濁し、450W 高圧水銀灯を用い、パイレックス製ジャケットを透して290nmより長波長側の光を照射することにより光水分解触媒活性を測定した。 図4に水素および酸素の生成特性を示した。水素生成および酸素生成までに誘導時間があるが、これは一般的な光触媒にもよく見られる現象である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の光活性触媒の製造方法を用いると、比較的短時間において犠牲薬を要することなく、可視光領域までの光エネルギーを利用して水素及び酸素を発生させることができる光触媒が得られることから、実用的な光水分解触媒の製造を可能にするものであり、産業上の貢献は大である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1の(ZnO)0.27(GaN)0.73の組成の固溶体触媒を流動床を利用して製造する装置の概略図
【図2】実施例1で調製した(ZnO)0.27(GaN)0.73の組成の固溶体触媒のX線回折パターンを、ヘキサンをガス相に添加しなかった比較例と共に示す。
【図3】実施例1で調製した(ZnO)0.27(GaN)0.73の組成の固溶体触媒の拡散反射スペクトルを、ヘキサンをガス相に添加しないで調製した比較例と共に示す。
【図4】実施例1で調製した光触媒にNiO助触媒を0.5重量%担持させた触媒の光水分解触媒としての特性を示す
【符号の説明】
【0023】
a 気体捕集部 b 原料混合物 c 電気炉 d 熱電対
e フィルター f 反応管 g ガス導入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga粉末とZnO粉末を少なくとも窒素ガス、アンモニアガスおよび炭化水素ガスを含む気相中に浮遊させ600〜1000℃に加熱するZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒の製造方法。
【請求項2】
炭素数5〜7の飽和炭化水素ガスを含む気相中に浮遊させ温度900℃±50℃に加熱することを特徴とする請求項1に記載のZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒の製造方法。
【請求項3】
Ga粉末とZnO粉末を多孔質のセラミックフィルター上に供給し、前記粉末を気相中に浮遊させる窒素ガス、アンモニアガスおよび炭化水素ガスを供給し前記気相浮遊部の温度を600〜1000℃に保持させてGaN−ZnO光触媒を生成させる工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載のGaN−ZnO光触媒の製造方法で得られたZnOを4〜30mol%固溶化したGaN−ZnO光触媒に助触媒としてNiOを担持させた光水分解触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−116415(P2006−116415A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306474(P2004−306474)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月17日 社団法人日本セラミックス協会発行の「第17回 秋季シンポジウム講演予稿集」に発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】