説明

複層塗膜形成方法

【課題】フリップフロップ性を有するソリッドカラー塗膜の提供
【解決手段】基材上に、鏡面反射を有する反射膜と着色顔料含有塗膜とを順次備える複層塗膜であり、前記複層塗膜の15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下であることを特徴とする、複層塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリップフロップ性(角度に依存して色相および明るさが変化する意匠をフリップフロップ性といい、以下、FF性と略記する場合もある)を有する複層塗膜および当該複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車体および自動車部品などの高い意匠性を必要とする分野において、例えば、自動車車体の複雑なプレスラインを強調するために、金属粒子感を有する光輝材含有塗料(所謂、メタリック塗料)が好適に使用されている。なお、近年では、ソリッドカラー塗料(金属粒子感のない塗膜が得られる塗料)は、高い意匠性を有する複雑な形状の輪郭を不明瞭にする傾向があるので、その使用は減少している。
【0003】
また、アルミニウムホイールなどの自動車部品には、高い意匠性を際立たせ、より高級感を与えるため、メッキ調の外観(すなわち、金属光沢感を有する外観)を提供し得る塗料が好適に使用されている(例えば、特許文献1参照のこと。)。
【0004】
さらに、ミラー膜またはハーフミラー膜を与える光沢膜形成用塗料が開示されており、自動車などに適用できることが記載されている(例えば、特許文献2参照のこと。)。
【0005】
このように、当該分野では、現在、高い意匠性を強調するために金属感を与える塗料が好適に使用されているが、消費者の購買意欲をさらに刺激するためには、従来の塗料および塗装方法では得られない新しい塗色、例えば、フリップフロップ性を有するソリッドカラーの開発が望まれている。
【特許文献1】特開2006−169269号公報
【特許文献2】特開2006−124583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フリップフロップ性を有するソリッドカラー塗膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を鑑み鋭意研究した結果、鏡面反射を有する反射膜上に着色顔料含有塗膜を形成する際、着色顔料含有塗膜の膜厚を下地隠蔽に必要な膜厚の60%〜100%未満に設定することによって、フリップフロップ効果を有するソリッドカラーの複層塗膜が得られることを見出した。従って、本発明は以下を提供する。
【0008】
基材上に、鏡面反射を有する反射膜と着色顔料含有塗膜とを順次備える複層塗膜であり、前記複層塗膜の15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下であることを特徴とする、複層塗膜。
【0009】
フリップフロップ値が2以上である上記複層塗膜。
【0010】
前記着色顔料含有塗膜上にクリヤー塗膜を備える上記複層塗膜。
【0011】
基材上に、金属粒子含有塗料組成物を塗布して鏡面反射を有する反射膜を形成する工程(1)、前記工程(1)で得られた反射膜上に着色顔料含有塗料組成物を塗布して着色顔料含有塗膜を形成する工程(2)を包含する複層塗膜形成方法であって、
前記着色顔料含有塗膜の下地隠蔽に必要な膜厚が12〜100μmであり、
前記工程(2)で得られる着色顔料含有塗膜の膜厚が下地隠蔽に必要な膜厚の60%〜100%未満であり、かつ、
得られる複層塗膜の15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下であることを特徴とする、複層塗膜形成方法。
【0012】
フリップフロップ値が2以上である上記複層塗膜形成方法。
【0013】
前記着色顔料含有塗料組成物に含まれる着色顔料の含有量が0.01〜18質量%である上記複層塗膜形成方法。
【0014】
さらに、前記工程(2)で得られた着色顔料含有塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜を形成する工程(3)を包含する、上記複層塗膜形成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鏡面反射を有する反射膜の上に特定の着色顔料含有塗膜を形成するだけで、フリップフロップ性(即ち、光輝材を含む塗膜様外観)が得られる。着色顔料含有塗膜は、通常のいわゆるソリッドカラー塗膜と呼ばれる塗膜であって、光輝性顔料などの光輝材を含まず着色顔料のみを含む塗膜である。このようないわゆるソリッドカラー塗膜を、金属粒子含有塗料組成物からなる反射膜の上に、光透過性をある程度確保した状態(すなわち、下地隠蔽に必要な膜厚の60%〜100%未満の膜厚)で形成することにより、下層の反射膜の金属光沢が表面に現れ、これまでに無かったような神秘的な金属光沢外観が得られる。この金属光沢外観は、フリップフロップ性という言葉を用いて表現するしかないが、従来の光輝材を含む塗膜とは違った味わいのある金属光沢外観が得られる。また、反射膜上のソリッドカラー塗膜の光透過性をいろいろと変化させることにより、金属光沢外観が複層塗膜表面で視認できる程度や、金属光沢外観が視認できる角度が変化し、常に金属光沢外観が表に露出している光輝材含有塗膜とは、趣が異なる塗膜外観を選択的に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
複層塗膜
本発明の複層塗膜は、基材上に、鏡面反射を有する反射膜と着色顔料含有塗膜とを順次備える複層塗膜であり、前記複層塗膜の15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下であることを特徴とするものである。
【0017】
(1.基材)
上記基材としては特に限定されず、例えば、鉄、鋼、アルミニウム、マグネシウム、銅またはこれらの合金等の金属類(化成処理されていてもよい);ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリメチルメチン樹脂、FRP等の各種合成樹脂材料;木材、紙や布等の繊維材料等の天然または合成材料等を挙げることができる。本発明の基材としては、好ましくは、鉄(合金)製の自動車車体、または、自動車車体および自動車部品を構成する自動車用プラスチックであり、これらが結合された部材を含む。
【0018】
また、上記基材は当業者によってよく知られている下塗り塗膜(例えば、金属基材の場合、アニオンまたはカチオン電着塗膜など)および/または中塗り塗膜を含んでいてもよい。
【0019】
(2.鏡面反射を有する反射膜)
本発明の複層塗膜を構成する反射膜は、鏡面反射を有する反射膜であり、光をある程度正反射するものである。すなわち、メタリック塗膜のような強い粒子感のある金属光沢ではなく金属そのものの光沢や、メッキ調の金属光沢を有する膜である。このような反射膜は、膜厚が、例えば、0.05〜5μmである。
【0020】
なお、鏡面反射を有する反射膜とは、例えば、その反射膜の60度L*値が150以上のものである。60度L*値が150未満であると、鏡面反射が弱くなり、得られる複層塗膜のフリップフロップ性が弱くなる。ここで、60度L*値は、図1に示すように、測定対象である塗膜に対して垂直位置にある受光部を0度とした場合に、60度となる角度から光源を照射して受光される光のL*値を意味する。L*値は、例えば、変角色差計(例えば、「CM512m−3」ミノルタ社製)等を用いて測定することで決定することができる。反射膜は、例えば、金属粒子含有塗料組成物を基材に塗布することによって得ることができる。
【0021】
(2.1.金属粒子含有塗料組成物)
金属粒子含有塗料組成物としては、具体的には、金属コロイド粒子および/または蒸着金属顔料と、樹脂成分とを含むものを挙げることができる。
【0022】
(2.1.1.金属コロイド粒子)
金属コロイド粒子は、体積平均粒子径が1〜100nmであることが好ましい。上記範囲外であると製造上の問題が発生するおそれがある。なお、体積平均粒子径は、動的光散乱法によって測定して得られたメジアンD50から決定することができる。測定機器としては、例えば、マイクロトラック9340−UPA150(日機装社製)を挙げることができる。
【0023】
上記金属コロイド粒子は、金属微粒子と保護層とからなるものである。金属微粒子の金属種としては特に限定されず、例えば、金、銀、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、および、これらとインジウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン等のその他の金属との合金等を挙げることができる。なかでも、コスト、取り扱いやすさの観点から、金、銀、パラジウム、白金、および、これらとその他の金属との合金が好ましく、金属粒子感を感じさせないという点から、金、銀、およびこれらとニッケルとの合金がさらに好ましい。
【0024】
また、保護層としては特に限定されず、例えば、高分子量重合体に顔料表面に対する親和性の高い官能基が導入されている高分子量顔料分散剤などの層を挙げることができる。上記高分子量顔料分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、ソルスパース27000、ソルスパース41090(以上、アビシア社製)、ディスパービック181、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192(以上、ビックケミー社製)、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550(以上、EFKAケミカル社製)、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745W(以上、共栄社化学社製)、アジスパーPW911、アジスパーPB821(以上、味の素社製)、ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(以上、ジョンソンポリマー社製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
その他の成分としては特に限定されず、例えば、溶媒等を含むことができる。溶媒としては特に限定されず、系中で金属コロイド粒子を安定的に分散することができる水、または、メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類等、適切な有機溶媒を挙げることができる。
【0026】
金属コロイド粒子は上記溶媒に安定的に分散した、金属コロイド粒子溶液として得ることができる。上記金属コロイド粒子溶液の製造方法としては特に限定されず、例えば、高分子分散剤の存在下、所望の金属種を含む金属化合物を還元して金属コロイド粒子を含んだ溶液を得る製造工程、および、上記製造工程で得られた溶液を限外濾過処理する濃縮工程を通じて得る等、当業者によく知られた方法などによって得ることができる。
【0027】
このようにして得られる金属コロイド粒子溶液金属は、固形分中、例えば、83〜99質量%の金属元素を含んでいる。
【0028】
(2.1.2.蒸着金属顔料)
蒸着金属顔料は、フレーク状の金属薄膜であり、プラスチックフィルム上に金属薄膜を蒸着させた後、フィルムを剥離し、蒸着した金属薄膜をフレーク状とすることにより得られる。上記蒸着金属顔料は、フレーク状のまま、または公知の方法により溶剤中に分散させて使用することができる。本発明における蒸着は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、化学気相法(CVD法)等による乾式めっき法を意味する。
【0029】
蒸着金属顔料に用いられる金属としては、上記金属コロイド粒子のところで述べた金属;アルミニウム、インジウム、チタン、ニッケル、スズ等の金属;アルミニウムチタン合金、ニッケル合金、クロム合金等の合金;インジウムスズ酸化物、酸化チタン等の金属酸化物等が挙げられる。好ましくは、アルミニウムおよび/またはアルミニウムチタン合金が使用される。
【0030】
上記蒸着金属顔料は、例えば、平均厚みが0.001〜0.10μmであり、平均粒径が5〜30μmである。また、上記蒸着金属顔料の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される粒径分布のメジアンD50の値である。
【0031】
(2.1.3.樹脂成分)
金属粒子含有塗料組成物は、金属コロイド粒子および/または蒸着金属顔料の他に、樹脂成分を含んでいる。
【0032】
上記樹脂成分としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂等、当業者によく知られている塗膜形成性樹脂が挙げられ、これらは、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
また、上記樹脂成分は硬化剤を含んでもよく、硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、イミダゾール類、イミダゾリン類、多価カルボン酸等を挙げることができる。なお、上記硬化剤は、アミノ樹脂および(ブロック)ポリイソシアネート化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0034】
上記樹脂成分が硬化剤を含む場合には、塗膜形成性樹脂と硬化剤との割合としては、固形分換算で、塗膜形成性樹脂が90〜50質量%、硬化剤が10〜50質量%であり、好ましくは塗膜形成性樹脂が85〜60質量%、硬化剤が15〜40質量%である。硬化剤が10質量%未満では(塗膜形成性樹脂が90質量%を超えると)、塗膜中の硬化が充分ではない。一方、硬化剤が50質量%を超えると(塗膜形成性樹脂が50質量%未満では)、塗料の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなる。
【0035】
(2.1.4.金属粒子含有塗料組成物中の各配合)
金属粒子含有塗料組成物における、上記樹脂成分の含有量は特に限定されず、例えば、上記金属粒子含有塗料組成物の固形分に対する上記樹脂成分の固形分が、0/100〜50/100の質量比率(樹脂成分の固形分/金属粒子含有塗料組成物の固形分)であり、より好ましくは5/100〜40/100である。
【0036】
金属粒子含有塗料組成物における金属コロイド粒子の含有量は、金属粒子含有塗料組成物の固形分に対して、50〜100質量%、好ましくは60〜98質量%である。
【0037】
金属粒子含有塗料組成物における蒸着金属顔料の含有量は、金属粒子含有塗料組成物の固形分に対して、好ましくは0.5〜80質量%である。
【0038】
なお、得られる反射膜のムラを抑制し、60度L*値を高く安定化させるという観点から、上記金属コロイド粒子と上記蒸着金属顔料とを併用していることが好ましい。この場合、上記金属コロイド粒子:上記蒸着金属粒子が、100:0.5〜100:50の質量比率であることが好ましい。上記範囲外であると、ムラ抑制が不充分であったり、金属粒子感が出たりする恐れがある。
【0039】
上記金属粒子含有塗料組成物は、上記金属コロイド粒子および/または蒸着金属顔料、上記樹脂成分、ならびに、上記成分以外にその他の成分を含むことができる。その他の成分としては、紫外線吸収剤、光安定剤、ポリエチレンワックス、沈降防止剤、硬化触媒、酸化防止剤、レベリング剤、シリコーンや有機高分子等の表面調整剤、粘性制御剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋重合体粒子(ミクロゲル)等を挙げることができる。
【0040】
上記金属粒子含有塗料組成物は、溶剤型、水性型、粉体型等の種々の形態をとることができる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料等のような二液型塗料を用いてもよい。
【0041】
上記金属粒子含有塗料組成物は、例えば、上記各成分を混合、分散するなどの当業者に公知の方法によって得ることができる。
【0042】
(2.2.塗布方法)
上記金属粒子含有塗料組成物を塗布する方法としては特に限定されず、例えば、ハケやローラーによる塗布、スプレー塗装、回転霧化型塗装およびこれらの静電塗装、スピンコート、シルクスクリーン、インクジェット等を挙げることができる。被塗装物の形状や得られる反射膜の平滑性および反射特性に応じて適宜選択することができる。また、膜厚としては、上記金属粒子含有塗料組成物の下地(基材)を完全に隠蔽できる膜厚以上であることが好ましく、例えば、乾燥膜厚として0.05〜5μmとなるように塗布する。色相ムラ抑制の観点から0.1〜4.5μmであることがさらに好ましい。
【0043】
(3.着色顔料含有塗膜)
本発明の複層塗膜は、上記鏡面反射を有する反射膜上に着色顔料含有塗膜を有する。上記着色顔料含有塗膜は、いわゆるソリッドカラーのように下地を完全に隠蔽して発色させるものではなく、入射光を透過させつつ発色し、かつ、入射光が下層の反射膜で反射した反射光をさらに透過させつつ発色させるものである。
【0044】
本発明で用いる着色顔料含有塗膜の下地隠蔽に必要な膜厚は12〜100μmであり、かつ、着色顔料含有塗膜としての膜厚は、上記下地隠蔽に必要な膜厚の60%〜100%未満である。上記下地隠蔽に必要な膜厚が12μm未満であると意匠を得られる膜厚が薄くなり過ぎて膜厚の調整が困難になり、平滑かつ均一な着色顔料含有塗膜が得られず、100μmを超えると意匠を得られる膜厚が厚くなり過ぎ、塗布時の作業性が低下する。上記着色顔料含有塗膜の膜厚としては特に限定されず、所望の意匠に応じて適宜設定することができるが、例えば、7.2〜60μm、より好ましくは8〜30μmである。
【0045】
上記着色顔料含有塗膜は、例えば、上記反射膜上に着色顔料含有塗料組成物を塗布することによって得ることができる。
【0046】
(3.1.着色顔料含有塗料組成物)
着色顔料含有塗料組成物としては、具体的には、着色顔料と樹脂成分とを含むものを挙げることができる。
【0047】
上記着色顔料としては、有機系または無機系の各種着色顔料および体質顔料などが挙げられる。着色顔料としては、例えば、有機系のアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、スレン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料など、無機系の黄鉛、亜鉛華、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、酸化チタン(例えば、二酸化チタン)などが挙げられ、また体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、アルミ粉、タルクなどが挙げられる。また、上記着色顔料を1種または2種以上を組み合わせて用いることで、所望の色相の着色顔料含有塗膜を形成することができる。
【0048】
樹脂成分としては特に限定されず、上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0049】
着色顔料含有塗料組成物の着色顔料の含有量(PWC)は、0.01〜18質量%である。なお、PWC(質量%)は、(全顔料の合計質量)/(全顔料および全樹脂成分の固形分の合計質量)×100によって計算される。
【0050】
着色顔料含有塗料組成物の着色顔料の含有量が0.01質量%未満であると、下地隠蔽性が低すぎて所望の意匠を得るために膜厚を厚くする必要があり、塗布時の作業性が低下する恐れがあり、18質量%を超えると、得られる塗膜の平滑性が低下する恐れがある。
【0051】
上記着色顔料含有塗料組成物は、上記着色顔料および樹脂成分に加えて、その他の成分を含むことができる。その他の成分としては特に限定されず、具体的には、上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0052】
同様に、着色顔料含有塗料組成物の形態としても特に限定されず、具体的には、上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0053】
上記着色顔料含有塗料組成物は、例えば、上記各成分をミル、ニーダーまたはロール等を用いて混練、分散するなどの当業者に公知の方法によって得ることができる。
【0054】
上記着色顔料含有塗料組成物の下地隠蔽に必要な膜厚は、塗料組成物の隠蔽力の測定に用いられる隠蔽率測定紙(規格:JIS K5600)を用いて測定することができる。隠蔽膜厚の測定方法は次の通りである。隠蔽率測定紙が有する2×2cm角の白黒の市松模様上に、乾燥膜厚が20〜300μmの膜厚勾配ができるようにスプレー塗装し、その後、焼き付けを行い硬化させる。次いで、目視により、白黒の市松模様が透けて見えない限界の塗膜部位を判定し、その部位の膜厚を実測し、この膜厚を下地隠蔽に必要な膜厚(白黒隠蔽膜厚)と決定する。
【0055】
(3.2.塗布方法)
上記着色顔料含有塗料組成物を塗布する方法としては特に限定されず、下地隠蔽に必要な膜厚の60%〜100%未満、乾燥膜厚として7.2〜60μm、より好ましくは8〜30μmとなるように塗布すること以外は上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0056】
本発明では、着色顔料含有塗料組成物から形成される塗膜の膜厚(乾燥膜厚)を下地隠蔽に必要な膜厚の60〜100%未満に設定することにより、光透過性をある程度確保することができる。従って、形成された複層塗膜は、ソリッドカラーでありながら、見る角度によっては下層の反射膜の金属光沢が表面に現れ、従来の光輝材を含む塗膜では得られなかった神秘的な金属光沢外観が得られる。また、着色顔料含有塗膜の膜厚をさらに調節して光透過性を変化させることによって、金属光沢外観が表面で視認できる程度を変化さることも可能である。
【0057】
(4.クリヤー塗膜)
本発明の複層塗膜は、さらにクリヤー塗膜を備えていてもよい。クリヤー塗膜は、下層の着色顔料含有塗膜を保護したり、その他の機能を付与したりするために備えるものである。上記クリヤー塗膜の膜厚としては特に限定されず、例えば、30〜60μmである。上記クリヤー塗膜は、例えば、上記着色顔料含有塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗装することによって得ることができる。
【0058】
(4.1.クリヤー塗料組成物)
クリヤー塗料組成物としては、具体的には、樹脂成分を含むものを挙げることができる。樹脂成分としては特に限定されず、具体的には、上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0059】
クリヤー塗料組成物は、樹脂成分に加えて、その他の成分を含むことができる。上記その他の成分としては特に限定されず、具体的には、上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0060】
なお、クリヤー塗料組成物は、着色顔料を含む、いわゆるカラークリヤー塗料組成物であってもよいが、得られるクリヤー塗膜の透過性が確保されていなければならないので、下地隠蔽に必要な膜厚が100μmを超える必要がある。
【0061】
クリヤー塗料組成物の塗料形態としては特に限定されず、有機溶剤型、水性型(例えば、水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれでもよい。
【0062】
(4.2.塗布方法)
クリヤー塗料組成物の塗布方法としては特に限定されず、具体的には、乾燥膜厚が30〜60μmとなるように塗布すること以外は、上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0063】
なお、クリヤー塗料組成物は、着色顔料含有塗料組成物を塗装後、未硬化の状態で塗装する、いわゆるウェットオンウェットでの塗膜形成が好ましく、ここで生じる層間のなじみや反転、あるいは、タレ等の防止のため、当業者に公知の粘性抑制剤を含有することができる。粘性制御剤の含有量は、クリヤー塗料組成物の樹脂固形分100質量部に対して0.1〜10質量部であり、好ましくは0.2〜8質量部、より好ましくは0.5〜6質量部の量で添加される。10質量部を越えると、外観が低下し、0.1質量部を下回ると粘性制御効果が得られず、タレ等の不具合をおこす原因となる。
【0064】
クリヤー塗料組成物の製造方法としては、特に限定されず、当業者に公知の方法を用いることができる。
【0065】
本発明の複層塗膜は、15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下である。上記範囲を逸脱した場合は、本発明の効果が得られない。好ましくは15度L*値が55以上であり、また、75度L*値が20以下である。ここで、図1に示すように、15度L*値は、測定対象である塗膜に対して垂直位置にある受光部を0度とした場合に、15度となる角度から光源を照射して受光される光のL*値を意味する。75度L*値も同様に、測定対象である塗膜に対して垂直位置にある受光部を0度とした場合に、75度となる角度から光源を照射して受光される光のL*値を意味する。上記L*値は、例えば、変角色差計(例えば、「CM512m−3」ミノルタ社製)等を用いて測定することで決定することができる。
【0066】
本発明における複層塗膜の15度L*値および75度L*値は、上述の反射膜と着色顔料含有塗膜とによって決定することができ、反射膜および着色顔料含有塗膜のそれぞれのL*値は互いに密接に関連している。なお、反射膜のL*値は、反射膜に含まれる金属種、粒子径、含有量などを調節することによって制御することができる。同様に、着色顔料含有塗膜のL*値は、顔料種、粒子径、含有量などを調節することによって制御することができる。
【0067】
また、複層塗膜のフリップフロップ値は、15度L*値/75度L*値より求めることができる。フリップフロップ値は、塗膜をハイライト方向から見たときと、シェード方向から見たときの色相および明るさ感の相違を数値で示すことができる指標であり、フリップフロップ値が大きいほど明度差が大きく、見た目にメリハリのついた色であることを示し、フリップフロップ性が高いことを示す。ここで、フリップフロップ性とは、光源の入射角度および受光部の方向に依存して塗膜の色相および明度が変化する性質、すなわち、見る角度によって色相や明度が変化する性能をいう。例えば、自動車車体などの被塗物に、フリップフロップ性が高い塗膜を形成することによって、被塗物のボディー形状をより強調させることができる。
【0068】
本発明において、フリップフロップ値は2以上、好ましくは2.5以上である。フリップフロップ値が2を下まわると、本発明の効果であるフリップフロップ性の強い意匠が得られなくなる。
【0069】
複層塗膜形成方法
本発明の複層塗膜形成方法は、基材上に、金属粒子含有塗料組成物を塗布して鏡面反射を有する反射膜を形成する工程(1)、前記工程(1)で得られた反射膜上に着色顔料含有塗料組成物を塗布して着色顔料含有塗膜を形成する工程(2)を包含することを特徴とするものである。
【0070】
本発明の複層塗膜形成方法の第1の工程は、基材に対して、金属粒子含有塗料組成物を塗布して鏡面反射を有する反射膜を形成する工程(1)である。上記金属粒子含有塗料組成物および塗布方法は、上記金属粒子含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0071】
本発明の複層塗膜形成方法の第2の工程は、上記工程(1)で得られた反射膜上に着色顔料含有塗料組成物を塗布して着色顔料含有塗膜を形成する工程(2)である。着色顔料含有塗料組成物および塗布方法は、上記着色顔料含有塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0072】
上記工程(2)終了後、上記加熱硬化する段階を経て、複層塗膜を得ることができる。
【0073】
また、本発明の複層塗膜形成方法は、第3の工程として、上記工程(2)で得られた着色顔料含有塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗布することによってクリヤー塗膜を形成する工程(3)を含んでいてもよい。
【0074】
加熱硬化工程
本発明の複層塗膜形成方法は、各工程(1)および(2)、必要に応じ工程(3)の後、それぞれ、加熱硬化工程を設けてもよい。
【0075】
加熱硬化工程は、従来の加熱硬化炉(例えば、ガス炉、電気炉、IR炉、誘導加熱炉など)を用いて行うことができる。加熱硬化温度は上記金属粒子含有塗料組成物、着色顔料含有塗料組成物およびクリヤー塗料組成物に各々含まれている樹脂成分に応じて適宜設定することができ、例えば、120〜160℃であり、加熱硬化時間は、例えば、10〜30分間である。
【0076】
本発明において、工程(1)の後、工程(2)をウェットオンウェットで行い、その後、加熱硬化工程を行って複層塗膜を形成する方法(2コート1ベーク(2C1B))、工程(3)も行う場合には、工程(1)の後、工程(2)および工程(3)をそれぞれウェットオンウェットで行い、その後、加熱硬化工程を行って複層塗膜を形成する方法(3コート1ベーク(3C1B))が、コスト、簡便性、環境への負荷の観点から好ましい。
【0077】
上記加熱硬化工程の前であって、工程(1)の後、または、工程(3)も行う場合には工程(1)および(2)の後に、インターバルと呼ばれる時間的間隔を空ける操作を行ってもよく、このインターバルによって、塗膜に含まれる溶剤を十分に揮発させることができ、複層塗膜の外観が向上する。インターバルは、例えば10秒〜15分間である。
【0078】
また、インターバルの時間内にプレヒートと呼ばれる乾燥操作を行ってもよく、このプレヒートによって、塗膜に含まれる溶剤の揮発を短時間で効率的に行うことができる。この乾燥操作は、塗膜を積極的に硬化させるものではない。従って、上記乾燥条件としては、例えば、室温〜100℃で5〜10分間である。プレヒートは、例えば、温風ヒーターや赤外線ヒーターなどを用いて行うことができる。
【実施例】
【0079】
以下、具体的に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0080】
製造例1 銀コロイド粒子を含む溶液の調製
2リットルのコルベンに、ディスパービック190(ビックケミー社製顔料分散剤)12g、および、イオン交換水420.5gを入れた。このコルベンをウォーターバスに入れ、ディスパービック190が溶解するまで、50℃で攪拌した。ここに、イオン交換水420.5gに溶解させた硝酸銀100gを攪拌しながら加えて、70℃で10分間攪拌した。次に、ジメチルアミノエタノール262gを加えたところ、液が一瞬で黒変し、液温が76℃まで上昇した。そのまま放置して液温が70℃まで下がったところで、この温度を保ちながら2時間攪拌を続け、黒っぽい黄色を呈する銀コロイドの水溶液を得た。得られた反応液を1リットルのポリ瓶に移し換え、60℃の恒温室で18時間静置した。次に、AHP1010(旭化成社製限外濾過モジュール、分画分子量50000、使用膜本数400本)、マグネットポンプ、下部にチューブ接続口のある3リットルのステンレスカップをシリコンチューブでつないで、限外濾過装置とした。先の60℃の恒温室で18時間静置した反応液をステンレスカップに入れて、さらに2リットルのイオン交換水を加えてから、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。約40分後にモジュールからの濾液が2リットルになった時点で、ステンレスカップに2リットルのエタノールを加えた。その後、濾液の伝導度が300μS/cm以下になったことを確認し、母液の量が500mlになるまで濃縮を行った。続いて、母液を入れた500mlステンレスカップ、AHP0013(旭化成社製限外濾過モジュール;分画分子量50000、使用膜本数100本)、チューブポンプ、および、アスピレーターからなる限外濾過装置を組んだ。このステンレスカップに先に得られた母液を入れ、固形分濃度を高めるための濃縮を行った。母液が約100mlになった時点でポンプを停止して、濃縮を終了し、固形分30%の銀コロイド粒子を含む溶液を得た。この溶液中の銀コロイド粒子の体積平均粒子径は、マイクロトラック9340−UPA150(日機装社製)によって測定して得られたメジアンD50の値から、27nmであった。また、TG−DTA(セイコーインストゥルメント製示差熱分析装置)を用いて、固形分中の金属(銀)の含有率を計測したところ、96質量%であった。
【0081】
製造例2 金コロイド粒子を含む溶液の調製
ディスパービック190に代えてディスパービック191(ビックケミー社製顔料分散剤)の量を13.8g、硝酸銀100gに代えて5質量%の塩化金酸エタノール溶液1350gとした以外は、製造例1と同様にして固形分20%の金コロイド粒子の溶液を得た。製造例1と同様の測定を行うことによって得られたメジアンD50の値から、この溶液中の金コロイド粒子の(体積)平均粒子径は18nmであった。固形分中の金の含有率は、90質量%であった。
【0082】
製造例3 金属粒子含有塗料組成物Aの調製
アクリル樹脂(スチレン/メチルメタクリレート/エチルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸の共重合体、数平均分子量約20000、水酸基価45mgKOH/g、酸価15mgKOH/g、固形分50質量%)と、ユーバン20SE(三井化学社製メラミン樹脂、固形分60質量%)とを80:20の固形分質量比で配合して得た樹脂混合物固形分15部に対し、製造例1で得られた銀コロイド粒子を含む溶液を固形分100部となるように配合した。次いで、有機溶剤(トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチルの質量比=70/15/10/5)とともに攪拌機により塗装適正粘度になるように攪拌混合し、金属粒子含有塗料組成物Aを調製した。
【0083】
製造例4 金属粒子含有塗料組成物Bの調製
製造例1の銀コロイド粒子を含む溶液に代えて、製造例2で得られた金コロイド粒子を含む溶液を用いたこと以外は製造例3と同様にして、金属粒子含有塗料組成物Bを調製した。
【0084】
製造例5 金属粒子含有塗料組成物Cの調製
製造例3において、樹脂混合物固形分15部に対し、さらにMETALURE L−55700(ECKART WERKE社製蒸着金属顔料)を固形分5.0部となるように加えて混合撹拌し、金属粒子含有塗料組成物Cを調製した。
【0085】
製造例6 金属粒子含有塗料組成物Dの調製
製造例4において、樹脂混合物固形分15部に対し、さらにMETALURE L−55700(ECKART WERKE社製蒸着金属顔料)を固形分5.0部となるように加えて混合撹拌し、金属粒子含有塗料組成物Dを調製した。
【0086】
製造例7 赤色着色顔料含有塗料組成物1の調製
日本ペイント社製アクリルエマルション(平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40mgKOH/g)を236部、日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂(不揮発分30.0%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50mgKOH/g)を28.3部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量400、水酸基価278mgKOH/g、一級/二級水酸基価比=63/37、不揮発分100%)を8.6部、および、サイメル204(三井サイテック社製混合アルキル化型メラミン樹脂、不揮発分100%)21.5部を混合撹拌して得られた樹脂成分に対して、イルガジンDPPレッドBO(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製有機赤色顔料)を顔料質量濃度(PWC)が10質量%となるように配合して混合、分散することによって赤色着色顔料含有塗料組成物1を調製した。JIS K 5600による白黒隠蔽試験によって下地隠蔽に必要な膜厚を測定したところ、25μmであった。
【0087】
製造例8 赤色着色顔料含有塗料組成物2の調製
有機赤色顔料をPWCが8質量%となるように配合したこと以外は製造例7と同様にして、赤色着色顔料含有塗料組成物2を調製した。さらに製造例7と同様にして下地隠蔽に必要な膜厚を測定したところ、45μmであった。
【0088】
製造例9 緑色着色顔料含有塗料組成物1の調製
製造例7で用いた樹脂成分に対して、リオノールグリーン6YKP−N(東洋インキ製造社製有機緑色顔料)を顔料質量濃度(PWC)が10質量%となるように配合して混合、分散することによって緑色着色顔料含有塗料組成物1を調製した。さらに製造例7と同様にして下地隠蔽に必要な膜厚を測定したところ、25μmであった。
【0089】
製造例10 緑色着色顔料含有塗料組成物2の調製
有機緑色顔料をPWCが8質量%となるように配合したこと以外は製造例9と同様にして、緑色着色顔料含有塗料組成物2を調製した。さらに製造例7と同様にして下地隠蔽に必要な膜厚を測定したところ、40μmであった。
【0090】
実施例1
化成処理したダル鋼板(長さ300mm、幅100mmおよび厚さ0.8mm)に、パワートップU−50(日本ペイント社製カチオン電着塗料)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けて、電着塗膜を形成した。
得られた電着塗膜上に、オルガTO−65グレー(日本ペイント社製中塗り塗料)を乾燥膜厚が35μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で30分間焼き付けて、中塗り塗膜を形成した。
得られた中塗り塗膜上に、製造例3で得られた金属粒子含有塗料組成物Aを乾燥膜厚が3μmとなるようにスプレー塗装して反射膜を形成し、100℃で10分間プレヒートした。この反射膜の60度L*値を変角色差計(商品名:「CM512m−3」、ミノルタ社製)にて測定したところ、250であった。
次に、反射膜上に、製造例7で得られた赤色着色顔料含有塗料組成物1を乾燥膜厚が17μmとなるようにスプレー塗装して赤色着色顔料含有塗膜を形成した。
さらに、得られた赤色着色顔料含有塗膜上に、マックフローO−1600−1(日本ペイント社製有機溶剤型クリヤー塗料)を乾燥膜厚が35μmとなるようにスプレー塗装してクリヤー塗膜を形成した後、140℃30分間焼き付けて、反射膜、赤色着色顔料含有塗膜およびクリヤー塗膜を硬化して複層塗膜を得た。
得られた複層塗膜をCM512m−3にて15度L*値および75度L*値を測定したところ、15度L*値=59.4および75度L*値=14.7であった。
【0091】
実施例2〜4
製造例3で得られた金属粒子含有塗料組成物Aの代わりに、各々、製造例4〜6で得られた金属粒子含有塗料組成物B〜Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜を得た(実施例2〜4)。
得られた複層塗膜を実施例1と同様にして15度L*値および75度L*値を測定した。測定値は表1に示した。
【0092】
実施例5〜7
製造例7で得られた赤色着色顔料含有塗料組成物1の代わりに、各々、製造例8〜10で得られた赤色着色顔料含有塗料組成物2、緑色着色顔料含有塗料組成物1および2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、複層塗膜を得た(実施例5〜7)。
得られた複層塗膜を実施例1と同様にして15度L*値および75度L*値を測定した。測定値は表1に示した。
【0093】
比較例1
製造例7で得られた赤色着色顔料含有塗料組成物1を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装したこと以外は実施例1と同様にして、複層塗膜を得た。
得られた複層塗膜を実施例1と同様にして15度L*値および75度L*値を測定した。測定値は表1に示した。
【0094】
製造例11 光輝性顔料含有塗料組成物の調製
製造例7で用いた樹脂成分に対して、アルペースト91−0562(東洋アルミニウム社製アルミニウムフレーク顔料)をPWCが10質量%となるように配合したこと以外は製造例7と同様にして、光輝性顔料含有塗料組成物を調製した。さらに製造例7と同様にして下地隠蔽に必要な膜厚を測定したところ、25μmであった。
【0095】
比較例2
製造例3で得られた金属粒子含有塗料組成物Aの代わりに、製造例11で得られた光輝性顔料含有塗料組成物を用い、乾燥膜厚が17μmとなるように塗装したこと以外は実施例1と同様にして光輝性顔料含有塗膜を得た。この塗膜の60度L*値を、実施例1と同様にして測定した。結果は表1に示した。
【0096】
さらに、実施例1と同様にして、赤色着色顔料含有塗膜およびクリヤー塗膜を形成した後、140℃で30分間加熱硬化させて、光輝性顔料含有塗膜、赤色着色顔料含有塗膜およびクリヤー塗膜を硬化して複層塗膜を得た。
【0097】
得られた複層塗膜を実施例1と同様にして15度L*値および75度L*値を測定した。測定値は表1に示した。
【0098】
評価
実施例1〜7ならびに比較例1および2から得られた複層塗膜のフリップフロップ性(正面での色と斜め横から見たときの色の違い)と、金属粒子感とを目視にて評価し、評価結果を表1に示した。なお、評価基準は以下のとおりとした。
【0099】
(1)フリップフロップ性
○:正面から複層塗膜を見たときは、反射膜による金属光沢の明るさと、着色顔料含有塗膜の色相とがあいまった明るい金属光沢外観が感じられ、斜め横から塗膜を見たときには明るさはなく、ソリッドカラー調の色相であった。
△:正面および斜め横から複層塗膜を見たときにはいずれにおいても明るさはなく、正面から見た場合には金属粒子感が感じられ、斜め横から見た場合にはソリッドカラー調の色相であった。
×:正面および斜め横から複層塗膜を見たときには、明るさおよび色相のいずれにおいても変化は無く、ともにソリッドカラー調の色相であった。
【0100】
(2)金属粒子感
○:金属粒子感が見えない。
△:金属粒子感が少し見える。
×:金属粒子感が見える。
【0101】
【表1】

【0102】
本発明の15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下である、鏡面反射を有する反射膜と着色顔料含有塗膜とを順次備える複層塗膜は、正面から見たときは明るく金属光沢のある色相であり、斜め横から見たときはソリッドカラー調の色相であり、フリップフロップ性があった(実施例1〜7)が、着色顔料含有塗膜が反射膜を完全に隠蔽したり(比較例1)、光輝性顔料含有塗膜の場合(比較例2)は、反射膜に金属粒子感が残るため、フリップフロップ性が不充分になり、本発明の効果を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の複層塗膜形成方法によって、フリップフロップ性を有するソリッドカラー塗膜を提供することができ、従来の光輝材を含む塗膜とは違った仕上がり外観が得られる。また、鏡面反射を有する反射膜上のソリッドカラー塗膜の光透過性を様々に変化させることにより、金属光沢外観が表面で視認できる程度が変化し、常に金属光沢外観が表に露出している光輝材含有塗膜とは趣が異なる塗膜外観を選択的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、L*値およびフリップフロップ値の測定方法を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、鏡面反射を有する反射膜と着色顔料含有塗膜とを順次備える複層塗膜であり、前記複層塗膜の15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下であることを特徴とする、複層塗膜。
【請求項2】
フリップフロップ値が2以上である請求項1に記載の複層塗膜。
【請求項3】
前記着色顔料含有塗膜上にクリヤー塗膜を備える、請求項1または2に記載の複層塗膜。
【請求項4】
基材上に、金属粒子含有塗料組成物を塗布して鏡面反射を有する反射膜を形成する工程(1)、前記工程(1)で得られた反射膜上に着色顔料含有塗料組成物を塗布して着色顔料含有塗膜を形成する工程(2)を包含する複層塗膜形成方法であって、
前記着色顔料含有塗膜の下地隠蔽に必要な膜厚が12〜100μmであり、
前記工程(2)で得られる着色顔料含有塗膜の膜厚が下地隠蔽に必要な膜厚の60%〜100%未満であり、かつ、
得られる複層塗膜の15度L*値が50以上であり、かつ、75度L*値が30以下であることを特徴とする、複層塗膜形成方法。
【請求項5】
フリップフロップ値が2以上である請求項4に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項6】
前記着色顔料含有塗料組成物に含まれる着色顔料の含有量が0.01〜18質量%である請求項4または5に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項7】
さらに、前記工程(2)で得られた着色顔料含有塗膜上にクリヤー塗料組成物を塗布してクリヤー塗膜を形成する工程(3)を包含する、請求項4〜6のいずれか1項に記載の複層塗膜形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−183885(P2009−183885A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27487(P2008−27487)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】