説明

複層塗膜形成方法

【課題】様々な水性塗料を使用する複層塗膜の製造方法に適用しうる、黄変抑制法を提供する。
【解決手段】被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、該中塗り塗膜の上に形成されたベース塗膜、および該ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、該方法が:
該中塗り塗膜の上にベース塗料を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程;
時間t(分)および温度A(℃)が、3≦t≦20かつ-40/17(t-54)≦A≦140、または20<t≦30かつ80≦A≦140を満たす時間および温度条件で、未硬化のベース塗膜をプレヒート処理する工程;
プレヒート処理された未硬化のベース塗膜の上にクリア塗料を塗装して、未硬化のクリア塗膜を形成する工程;ならびに
未硬化のベース塗膜およびクリア塗膜を加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程;
を含む、前記複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物上に、中塗り塗料、ベース塗料およびクリア塗料を塗装する複層塗膜の形成方法であって、黄変発生を抑制する効果を具備する前記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装は、通常、被塗装物上に電着塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜を順次形成することによって実施される。従来の方法では、被塗装物を電着塗料中に浸漬することによって電着塗装した後、高温で焼付処理することにより塗料を硬化させて電着塗膜を形成し、その後、電着塗膜上に中塗り塗料を塗装した後、焼付処理して中塗り塗膜を形成し、さらに中塗り塗膜上に上塗り塗料を塗装した後、焼付処理して上塗り塗膜を形成する工程が一般的であった。しかしながら、上記のように各塗膜の形成時に毎回焼付処理を行うのは、資源およびコスト削減を図る観点から好ましくない。それ故、近年では、中塗り塗料および/または上塗り塗料の塗装後に焼付処理を行わず、未硬化の塗膜上に次工程の塗料を重ねて塗装する、ウェット・オン・ウェット塗装が行われるようになっている。
【0003】
例えば、近年主流となっているメタリック塗色やマイカ塗色は、上塗り塗料として、光輝性顔料を含むベース塗料および透明なクリア塗料を使用する。これらの塗色の複層塗膜の場合、焼付処理された中塗り塗膜上に、前記ベース塗料およびクリア塗料をウェット・オン・ウェット塗装して未硬化塗膜を形成した後、得られた未硬化塗膜を1回の焼付処理で硬化させる、3コート2ベーク方式の塗装方法で形成されている。
【0004】
ところで、近年高まっている環境負荷軽減に対する社会的な要請により、自動車車体の塗装分野においても、環境中に放出される有機溶剤を削減するため、希釈溶剤として有機溶剤の代わりに水を使用する、水性塗料の活用への取り組みが活発である。例えば、特許文献1には、アミド基含有エチレン性不飽和モノマーと、酸性基含有エチレン性不飽和モノマーと、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーと、他のエチレン性不飽和モノマー残量とのコポリマーに含まれる酸性基を少なくとも一部中和して得られる皮膜形成性ポリマーおよびカルボキシル基含有アクリル樹脂粒子の水分散体を含有する水性塗料組成物が記載されている。また、特許文献2には、水酸基含有樹脂、メラミン樹脂ならびにジエステル化合物を含有する水性ベース塗料組成物が記載されている。上記のような水性塗料の場合、該塗料成分に含まれるカルボキシル基などの酸性基を中和するために、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミンなどのアミン類を塩基として加えることが一般的である(特許文献1および2)。しかしながら、このような水性塗料をベース塗料およびクリア塗料に使用してウェット・オン・ウェット塗装を行うと、ベース塗料に含まれるアミン類がクリア塗膜に移行して黄変を発生させる結果となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-53913号公報
【特許文献2】特開2008-138179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、水性塗料を使用したウェット・オン・ウェット塗装の場合、アミン類のような揮発性塩基の移行に起因する黄変が生じて、得られる複層塗膜の品質低下を招くという問題点が認識されていた。かかる問題点を克服するための対策として、クリア塗膜の焼付処理温度を低く設定したり、焼付処理時間を短縮したりするなどの方法が挙げられるが、このような対策の場合、最終的な複層塗膜の意匠性および/または耐候性が低下し、所望の複層塗膜を得ることが困難であった。それ故本発明は、簡便な方法で黄変発生を抑制する方法を開発することにより、様々な水性塗料を使用する複層塗膜の製造方法に適用しうる、黄変発生抑制の手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、複層塗膜の形成時に使用されるベース塗料の塗装後に行うプレヒート処理の好適な条件を見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、第一に、本発明は、被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、該中塗り塗膜の上に形成されたベース塗膜、および該ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、該方法が:
該中塗り塗膜の上にベース塗料を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程;
時間t(分)および温度A(℃)が、3≦t≦20かつ-40/17(t-54)≦A≦140、または20<t≦30かつ80≦A≦140を満たす時間および温度条件で、未硬化のベース塗膜をプレヒート処理する工程;
プレヒート処理された未硬化のベース塗膜の上にクリア塗料を塗装して、未硬化のクリア塗膜を形成する工程;ならびに
未硬化のベース塗膜およびクリア塗膜を加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程;
を含む、前記複層塗膜の形成方法である。
【0009】
前記複層塗膜の形成方法は、未硬化のベース塗膜およびクリア塗膜を加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程が、被塗装物を120〜160℃で15〜60分間加熱することによって実施されることが好ましい。
【0010】
第二に、本発明は、上記の方法で形成された複層塗膜を備える塗装物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、様々な水性塗料を使用する複層塗膜の製造方法に適用しうる、黄変発生抑制の手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜5および比較例の塗板について、黄変性を比較した結果を示す図である。
【図2】プレヒート処理工程における、プレヒート温度およびプレヒート時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1.複層塗膜
本発明の複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜は、被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、該中塗り塗膜の上に形成されたベース塗膜、および該ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む。前記中塗り塗膜は、所望により1以上の異なる塗膜をさらに含んでもよい。また、本発明の複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜は、被塗装物の上に電着塗膜をさらに含むことができる。この場合において、前記複層塗膜は、被塗装物の上に形成された電着塗膜、該電着塗膜の上に形成された中塗り塗膜、該中塗り塗膜の上に形成されたベース塗膜、および該ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む。上記のような構成を含むことにより、色再現性や意匠性の高い、良好な塗装外観を有する複層塗膜を得ることが可能となる。
【0014】
本明細書において、「被塗装物」は、本発明の複層塗膜形成方法によってその表面に塗膜の形成が予定される物を意味し、「塗装物」は、本発明の複層塗膜形成方法によって該被塗装物の表面に塗膜が形成された物を意味する。本発明の複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜に使用される被塗装物の材料としては、金属もしくはそれらを含む合金またはプラスチックを使用することができる。前記複層塗膜が、被塗装物の上に形成された電着塗膜をさらに含む場合において、該被塗装物の材料としては、導電性の金属もしくはそれらを含む合金、またはあらかじめ導電処理を施したプラスチックを使用することが好ましい。一例として、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などの金属またはそれらを含む合金が特に好ましい。また、本発明の複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜に使用される被塗装物の用途としては、例えば、乗用車、トラック、オートバイなどの自動車車体および部品が好ましく、該被塗装物の形状としては、上記のような用途に使用するための形状が好ましい。本発明の複層塗膜形成方法において、特に好ましい被塗装物は、上記の好適な金属もしくはそれらを含む合金からなる、自動車車体および/または部品を製造するための板ならびに成型物である。上記のような材料および形状からなる被塗装物に本発明の複層塗膜形成方法を適用することにより、それぞれの用途に適した複層塗膜を形成することが可能となる。
【0015】
本明細書において、「電着塗料」は、上記のような被塗装物の表面に塗装されることにより塗装物の錆、腐食を防止するとともに、塗装物表面の耐衝撃性を強化するために使用される塗料を意味する。本発明の複層塗膜形成方法に使用される電着塗料は、当業界で慣用される水性塗料であることが好ましく、カチオン型電着塗料またはアニオン型電着塗料のいずれも使用することができる。耐錆性の観点から、エポキシ系基剤樹脂からなる基剤ならびに水および/または親水性有機溶剤からなる水性媒体を少なくとも含むカチオン型電着塗料を使用することがより好ましい。上記の好適な構成の電着塗料を塗装することにより、耐錆性および耐衝撃性の高い電着塗膜を得ることが可能となる。
【0016】
本明細書において、「中塗り塗料」は、塗膜の表面平滑性を確保し、かつ耐衝撃性および耐チッピング性(小石などの障害物の衝突によって生じる塗膜の損傷に対する耐性)などの塗膜物性を強化するために使用される塗料を意味する。本発明の複層塗膜形成方法に使用される中塗り塗料は、当業界で慣用される水性塗料であることが好ましく、例えばポリエチレン、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などからなる基剤樹脂ならびに水および/または親水性有機溶剤からなる水性媒体を少なくとも含む塗料が好ましい。また、中塗り塗料を塗装することによって形成される中塗り塗膜の乾燥膜厚は、30〜40μmであることが好ましい。上記の好適な構成の中塗り塗料を塗装することにより、表面平滑性が高く、耐衝撃性および耐チッピング性に優れた中塗り塗膜を得ることが可能となる。
【0017】
本明細書において、「ベース塗料」は、下地となる電着塗膜および中塗り塗膜を隠蔽するとともに、複層塗膜に意匠性を付与するために使用される塗料を意味する。自動車塗装分野では、意匠性の観点から、光輝性顔料を含むベース塗料を使用する、メタリック塗色やマイカ塗色が主流となっている。本明細書においては、光輝性を付与するために使用される塗料を単に「ベース塗料」と表記することとし、さらに色彩を付与するために追加的に使用される塗料を「カラーベース塗料」と表記することとする。前記ベース塗料およびカラーベース塗料は、互いに別個の塗料として使用されてもよく、または両塗料の構成を含む、少なくとも1個の同一塗料として使用されてもよい。本発明の複層塗膜形成方法に使用されるベース塗料は、所望の光輝性を付与するための光輝材に加え、例えばアクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂などからなる基剤樹脂ならびに水および/または親水性有機溶剤からなる水性媒体を少なくとも含む塗料が好ましい。また、本発明の複層塗膜形成方法に使用されるカラーベース塗料は、所望の色彩を付与するための着色顔料に加え、例えばポリエチレン、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などからなる基剤樹脂ならびに水および/または親水性有機溶剤からなる水性媒体を少なくとも含む塗料が好ましい。本発明の複層塗膜に含まれるベース塗膜およびカラーベース塗膜は、以下において詳細に説明する本発明の複層塗膜形成方法に、上記のベース塗料およびカラーベース塗料を使用することによって形成される。本発明の複層塗膜がカラーベース塗膜を含む場合、中塗り塗膜の上にカラーベース塗膜が形成され、さらに該カラーベース塗膜の上にベース塗膜が形成される。この場合において、前記カラーベース塗膜の乾燥膜厚は30〜40μmであることが好ましい。また、前記ベース塗膜の乾燥膜厚は10〜20μmであることが好ましい。上記の好適な構成のベース塗料およびカラーベース塗料を塗装することにより、下地塗膜を隠蔽することができる乾燥膜厚を有し、かつ意匠性に優れた複層塗膜を得ることが可能となる。
【0018】
本明細書において、「クリア塗料」は、ベース塗膜の凹凸を平滑にするとともに、ベース塗膜を保護するために使用される塗料を意味する。本発明の複層塗膜形成方法に使用されるクリア塗料は、例えば酸性アクリル樹脂およびエポキシアクリル樹脂の組み合わせなどからなる基剤樹脂ならびに水および/または親水性有機溶剤からなる水性媒体を少なくとも含む塗料が好ましい。本発明の複層塗膜に含まれるクリア塗膜は、以下において詳細に説明する本発明の複層塗膜形成方法に、上記のクリア塗料を使用することによって形成される。この場合において、前記クリア塗膜の乾燥膜厚は、25〜50μmであることが好ましい。上記の好適な構成のクリア塗料を塗装することにより、ベース塗膜の保護に十分な乾燥膜厚を有し、かつ表面平滑性に優れたクリア塗膜を得ることが可能となる。
【0019】
2.複層塗膜形成方法
上記で述べたように、自動車塗装分野ではメタリック塗色やマイカ塗色が主流となっている。このうち、ホワイトパール系塗色の塗装方法としては、3コート2ベーク方式および4コート3ベーク方式の塗装方法が慣用されている。3コート2ベーク方式の塗装方法は、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリア塗膜の3塗膜層からなる複層塗膜の形成方法であって、中塗り塗料の塗装後には高温で焼付処理して未硬化の中塗り塗膜を加熱硬化させるが、ベース塗料の塗装後には焼付処理を行わず、未硬化のベース塗膜上にクリア塗料を重ねて塗装(ウェット・オン・ウェット塗装)し、得られた未硬化塗膜を1回の焼付処理で加熱硬化させる方法である。また、4コート3ベーク方式の塗装方法は、前記3コート2ベーク方式の塗装方法において、中塗り塗膜の上にベース塗膜と同系色の中塗り塗膜を追加し、これら2層の中塗り塗膜にベース塗膜およびクリア塗膜を加えた4塗膜層からなる複層塗膜とする形成方法である。いずれの方式の塗装方法においても、所望によりベース塗料の塗装後に、ベース塗料の硬化温度未満で加熱するプレヒート処理を追加することが可能である。
【0020】
本発明の複層塗膜形成方法によって形成される複層塗膜は、被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、該中塗り塗膜の上に形成されたベース塗膜、および該ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む。本発明の複層塗膜形成方法において使用される塗料は、上記で述べた好適な塗料から選択されることが好ましい。前記塗料は、例えばエアスプレー塗装、回転霧化式静電塗装などによって塗装されることが好ましい。かかる塗料および塗装方法を使用することにより、上記で述べた好適な乾燥膜厚の塗膜を形成することができる。このような条件で複層塗膜を形成することにより、塗装工程におけるムラ、タレなどの好ましくない不具合を生じることなく、色再現性や意匠性の高い、良好な塗装外観を得ることが可能となる。
【0021】
本明細書において、「黄変」は、複層塗膜形成時において、ベース塗膜およびクリア塗膜を形成するための焼付処理に伴って発生する、該複層塗膜の色彩の変化を意味する。前記黄変は、ベース塗料に酸性官能基の対イオンとして含まれる、アミン類などの揮発性塩基がクリア塗膜の層に移行し、クリア塗料に含まれるエポキシ基と反応することによって発生すると考えられている。それ故、以下において説明するプレヒート処理をクリア塗膜の形成前に実施することにより、黄変の原因となる揮発性塩基をあらかじめ蒸発除去しておくことが好ましい。上記の工程を実施することにより、複層塗膜の色再現性や意匠性を低下させる原因となる黄変の発生を抑制することが可能となる。
【0022】
本明細書において、「焼付処理」は、未硬化の塗料が表面に塗装された塗装物を高温条件下で加熱することにより、塗料中に含まれる水性媒体を蒸発させるとともに、基剤樹脂を硬化させ塗膜を形成させる処理を意味する。基剤樹脂の加熱硬化のためには、該基剤樹脂の架橋に必要な硬化温度を超える温度で加熱処理しなければならない。しかしながら、一般に180℃を超える温度で焼付処理を行うと、塗膜が固くなり過ぎて脆くなり、また110℃未満の温度で焼付処理を行うと、基剤樹脂の硬化が不十分となり、いずれも好ましくない。それ故、前記焼付処理は、使用される塗料に含まれる基剤樹脂の硬化温度より10〜50℃高い温度であることが好ましい。本発明の複層塗膜形成方法において、未硬化の中塗り塗膜の焼付処理の温度は、120〜160℃であることが好ましい。前記未硬化の中塗り塗膜の焼付処理の時間は、15〜60分であることが好ましい。また、本発明の複層塗膜形成方法において、未硬化のベース塗膜およびクリア塗膜の焼付処理の温度は、120〜160℃であることが好ましい。前記未硬化のベース塗膜およびクリア塗膜の焼付処理の時間は、12〜16分であることが好ましい。かかる温度で焼付処理を行うことにより、高い架橋度の塗膜を得ることが可能となる。
【0023】
本明細書において、「プレヒート処理」は、塗料が表面に塗装された塗装物を、該塗料に含まれる未硬化の基剤樹脂が硬化しないかまたは実質的に硬化しない時間および温度条件で加熱することにより、該塗料に含まれる水性媒体および/または他の揮発性物質を、最終的に得られる複層塗膜の品質に実質的に影響を与えない含有量まで蒸発除去する処理を意味する。従来技術のプレヒート処理で採用されている時間および温度条件では、塗料に含まれる揮発性物質、特に塩基性のアミン類が十分に除去されずに未硬化の塗膜中に残存するため、黄変の原因となる。それ故、本発明の複層塗膜形成方法において、プレヒート処理温度は、80〜140℃であることが好ましい。また、プレヒート処理時間は、3〜30分であることが好ましい。より好ましくは、前記プレヒート処理は、時間t(分)および温度A(℃)が、3≦t≦20かつ-40/17(t-54)≦A≦140、または20<t≦30かつ80≦A≦140を満たす時間および温度条件で実施される。かかる温度でプレヒート処理することにより、黄変発生が大きく抑制された複層塗膜を得ることが可能となる。
【0024】
以上説明したように、本発明の複層塗膜形成方法を、様々な被塗装物、好ましくは金属またはそれらを含む合金からなる自動車車体および/または部品を製造するための板または成型物に適用することにより、従来技術による複層塗膜と比較して黄変発生が大きく抑制された複層塗膜を備える塗装物を得ることが可能となる。これにより、本発明の方法で形成された複層塗膜を備える塗装物は、色再現性や意匠性の高い良好な塗装外観を有することが可能となる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
3コート2ベーク方式のホワイトパール塗装において、以下の手順で本発明の効果を検証した。使用した塗料は以下の通りである。
中塗り塗料:TP-65 7018(関西ペイント社製)
ベース塗料:WBC-713T 070マイカベース(関西ペイント社製)
クリア塗料:KINO-1210TW(関西ペイント社製)
なお、前記塗料を用いた塗装は、いずれもエアスプレー塗装にて行った。
【0026】
(塗装工程の手順)
あらかじめ電着塗装を施した鋼板に、乾燥膜厚が35μmとなるように中塗り塗料を塗装し、140℃で18分間、焼付処理を行った。中塗り塗膜が形成された塗板に、乾燥膜厚が15μmとなるようにベース塗料を塗装し、以下に示す条件でプレヒート処理を行った(表1)。その後、ベース塗膜が形成された塗板に、乾燥膜厚が35μmとなるようにクリア塗料を塗装し、140℃で18分間、160℃で18分間または160℃で60分間、焼付処理を行うことにより、複層塗膜が形成された塗板を作製した。
【0027】
【表1】

【0028】
(複層塗膜の評価)
上記の実施例1〜5および比較例の複層塗膜が形成された塗板について、分光測色計(CM-512m3;ミノルタ社製)を用いて75°方向から測定を行い、黄変性を評価した。結果を図1に示す。
【0029】
図1に示すように、比較例の塗板では、ベース塗膜およびクリア塗膜形成のための焼付処理条件が140℃で18分間の場合であっても、b値が5.46に相当する黄変が生じており、該焼付処理の温度上昇および時間延長により、発生する黄変がさらに顕著になった。これに対して、実施例1〜5の塗板では、ベース塗膜およびクリア塗膜形成のための焼付処理条件が140℃で18分間の場合には、b値が2.44〜2.59に留まり、該焼付処理条件が160℃で60分間の場合であっても、b値は4未満の値を示した。
【0030】
以上の結果を考察する。ベース塗膜およびクリア塗膜形成のための焼付処理後の複層塗膜で観察される黄変は、主としてベース塗料に残存するアミン類などの揮発性塩基がクリア塗膜の層に移行し、クリア塗料に含まれるエポキシ基と反応することによって黄色系の発色基を形成することに起因する。表1に示すように、実施例1〜5は、従来技術(比較例)に比べて高温でベース塗膜のプレヒート処理を行った。このため、ベース塗料に残存する揮発性塩基、特にアミンの除去率が向上し、結果としてベース塗膜およびクリア塗膜形成のための焼付処理後の黄変発生が大きく抑制されたと考えられる。また、実施例1〜5の塗板で測定されたb値は、ベース塗膜およびクリア塗膜形成のための焼付処理の温度および時間を変化させてもその値に大きな変化は認められなかったことから、上記の条件でプレヒート処理を行えば、ベース塗膜およびクリア塗膜形成のための焼付処理の温度および/または時間を適宜変化させても、本発明の有利な効果を得ることができると考えられる。さらに、実施例1〜5の結果はほぼ同等であり、互いに顕著な差を示さなかったことから、実施例1〜5で設定された温度および時間条件の組合せの範囲内でベース塗膜形成後のプレヒート処理を行うことにより、本発明の有利な効果を得ることができると考えられる(図2)。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の複層塗膜形成方法は、ベース塗膜形成後のプレヒート処理条件を変更することにより、従来のベース塗膜およびクリア塗膜形成のための焼付処理条件を変更することなく、黄変発生が大きく抑制された複層塗膜を提供することができる。これにより、複層塗膜の意匠性および/または品質に影響を与えることなく、該複層塗膜の黄変発生を大きく抑制することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、該中塗り塗膜の上に形成されたベース塗膜、および該ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、該方法が:
該中塗り塗膜の上にベース塗料を塗装して、未硬化のベース塗膜を形成する工程;
時間t(分)および温度A(℃)が、3≦t≦20かつ-40/17(t-54)≦A≦140、または20<t≦30かつ80≦A≦140を満たす時間および温度条件で、未硬化のベース塗膜をプレヒート処理する工程;
プレヒート処理された未硬化のベース塗膜の上にクリア塗料を塗装して、未硬化のクリア塗膜を形成する工程;ならびに
未硬化のベース塗膜およびクリア塗膜を加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程;
を含む、前記複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
未硬化のベース塗膜およびクリア塗膜を加熱硬化させて複層塗膜を形成する工程が、塗装物を120〜160℃で15〜60分間加熱することによって実施されることを特徴とする、請求項1の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1または2の方法で形成された複層塗膜を備える塗装物。


【図1】
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【図2】
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