説明

複無機化合物系およびその利用、並びに、複無機化合物系の製造方法

【課題】新たな構造を有する複無機化合物系を提供する。
【解決手段】本発明に係る複無機化合物系1では、主結晶相を構成する元素と副無機化合物を構成する元素とが、第1領域2および第2領域3a〜3cにて少なくとも存在し、第1領域2の面積および第2領域3a〜3cの面積はナノ平方メートルオーダーであり、第1領域と第2領域とは隣接しており、両領域では同種の元素の濃度が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複無機化合物系およびその利用、並びに、複無機化合物系の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な分野において複無機化合物が用いられており、広く活用がなされている。複無機化合物の中でも特に複酸化物の用途としては、例えば、非水電解質二次電池の正極活物質として、LiCoO、LiMnなどが用いられている(特許文献1〜4および非特許文献1)。また、熱電変換材料として、NaCoOなどのコバルト含有複酸化物が用いられ、磁性材料としてZn‐Mnフェライトなどが用いられている。
【0003】
複酸化物の製造方法としては、固相法、水熱法などがあり、種々の複酸化物が製造されている。また、これらの材料について、性能を改善するために酸化物の表面をコーティングする(特許文献1〜4および非特許文献1)、層状の結晶構造とする(特許文献5,6)、焼成温度を調整する(特許文献7)、または、結晶軸の配向性を制御することなどが提案されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-231919号公報(2000年8月22日公開)
【特許文献2】特開平9−265984号公報(1997年10月7日公開)
【特許文献3】特開2001-176513号公報(2001年6月29日公開)
【特許文献4】特開2003-272631号公報(2003年9月26日公開)
【特許文献5】特開2005−93450号公報(2005年4月7日公開)
【特許文献6】特開2004−363576号公報(2004年12月24日公開)
【特許文献7】特開2002−203994号公報(2002年7月19日公開)
【特許文献8】特開2000−269560号公報(2000年9月29日公開)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Mitsuhiro Hibino, Masayuki Nakamura, Yuji Kamitaka, Naoshi Ozawa and Takeshi Yao, Solid State Ionics Volume 177, Issues 26-32, 31 October 2006, Pages 2653-2656.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術によって種々の複酸化物を製造できるものの、所望の性能を有する複酸化物を得られない場合が多い。
【0007】
例えば、LiMnを非水電解質二次電池の正極活物質として用いた場合、充放電に伴ってLiMnからマンガンが溶出する。溶出したMnは充放電の過程において、負極上に金属Mnとして析出する。この負極上に析出した金属Mnは、電解液中のリチウムイオンと反応する結果、電池としての大きな容量低下を生じさせることとなる。上記問題を解決するために、複酸化物の表面をコーティングすることが試みられている。例えば、絶縁体でコーティングがなされている。しかしこの場合、複酸化物表面の電気抵抗が著しく増加し、上記電池の出力特性が低下するといったように、他の問題が生じてしまうため、金属Mnの析出を解決するには至っていない。
【0008】
また、熱電変換材料として、例えばNaCoO単結晶が用いられている。NaCoO中には、CoO層およびNa層の両層が形成されており、上記CoO層に平行な方向と垂直な方向とでは、異方性が生じている。NaCoO単結晶の熱起電力および熱伝導率は、層状構造にあまり依存しないが、電気伝導度は、CoO層に平行な方向と垂直な方向とにおいて大きく異なる。このため、NaCoO単結晶は実用的な熱電変換材料として用いることができず、さらなる改良が必要である。
【0009】
また、磁性材料として、例えばZn‐Mnフェライトがトランスコア材料として用いられている。Zn‐Mnフェライトは成層鉄心において成層数が多く、厚さを薄くするほど渦電流を低減することができるが、成層工程が複雑であり問題となっている。このため、上記問題を克服する複酸化物が求められている。
【0010】
本発明は、上記の問題点を鑑み、複酸化物系を含む複無機化合物系の新たな設計を抜本的に行うことに着目してなされたものであり、その目的は、新たな構造を有する複無機化合物系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る複無機化合物系は、上記課題を解決するために、無機化合物から構成される主結晶相を含む複無機化合物系において、上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、異なる元素組成から構成される副無機化合物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なることを特徴としている。
【0012】
上記複無機化合物の構造によれば、主結晶相および副無機化合物は、同形の非金属元素配列を有しているため、同形の非金属元素配列を介して副無機化合物と主結晶相とが親和性良く接合することが可能となる。従って、副無機化合物が主結晶相の粒界及び界面において安定に存在することができる。それだけではなく、同種の元素が主結晶相および無機化合物の両方に存在しており、主結晶相および副無機化合物の親和性が高いので、主結晶相の内部において、副無機化合物が安定して存在することができる。
【0013】
また、本発明に係る複無機化合物系では、上記無機化合物が無機酸化物であり、上記主結晶相と同一の酸素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副酸化物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副酸化物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なることが好ましい。
【0014】
これにより、上記無機化合物が無機酸化物である場合に、主結晶相および副酸化物は、同一の酸素配列を有しているため、同一の酸素配列を介して副酸化物と主結晶相が親和性良く接合することが可能となる。従って、副酸化物が主結晶相の粒界及び界面において存在することができる。上記複無機化合物系では、主結晶相中に副酸化物が非常に安定して存在している。よって、新たな複無機化合物系の設計を提案することができ、上記複無機化合物系は、種々の用途に用いられ得る。
【0015】
また、本発明に係る複無機化合物系では、主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第3領域にて存在しており、上記第3領域は、上記第1領域および第2領域の少なくとも一方と隣接しており、第3領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域、第2領域および第3領域では、同種の元素の濃度が異なることが好ましい。
【0016】
上記のように、第1領域および第2領域に加えて、第3領域が存在することにより、より性能の高い複無機化合物系を得ることができる。
【0017】
また、本発明に係る複無機化合物系では、上記第1領域、第2領域および第3領域の面積が、5nm以上、300nm以下であることが好ましい。
【0018】
各領域の面積が上記の範囲であることにより、より性能の高い複無機化合物系を得ることができる。
【0019】
また、本発明に係る複無機化合物系では、複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、複無機化合物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記所定の元素に関する強度が凸状に増大していることが好ましい。
【0020】
複無機化合物系における測定距離に応じて所定の元素に関する強度が凸状に増大していることにより、所定の元素に濃度差があることを容易に確認できる。
【0021】
また、本発明に係る複無機化合物系では、正極活物質に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、複無機化合物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記所定の元素の強度が凹状に減少していることが好ましい。
【0022】
複無機化合物系における測定距離に応じて所定の元素に関する強度が凹状に減少していることにより、所定の元素に濃度差があることを容易に確認できる。
【0023】
また、本発明に係る複無機化合物系では、複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記元素に関する強度が凸状に増大しており、上記元素とは異なる元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記異なる元素の強度が凹状に減少していることが好ましい。
【0024】
複無機化合物系における測定距離に応じて所定の元素に関する強度が凸状に増大しており、上記所定の元素とは異なる元素に関する強度が凹状に減少していることにより、両元素に濃度差があることを容易に確認できる。
【0025】
また、本発明に係る非水系二次電池の正極活物質は、上記複無機化合物系を含んでいる。
【0026】
上記の構成によれば、上記構造を有する複無機化合物系を含んだ、新たな非水系二次電池の正極活物質を提供することができる。
【0027】
また、本発明に係る熱電変換材料は上記複無機化合物系を含んでいる。
【0028】
上記の構成によれば、上記構造を有する複無機化合物系を含んだ、新たな熱電変換材料を提供することができる。
【0029】
また、本発明に係る磁性材料は上記複無機化合物系を含んでいる。
【0030】
上記の構成によれば、上記構造を有する複無機化合物系を含んだ、新たな磁性材料を提供することができる。
【0031】
本発明に係る複無機化合物系の製造方法は、無機化合物から構成される主結晶相を含む複無機化合物系の製造方法において、上記無機酸化物から構成される主結晶相を構成する主結晶相原料と、上記主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含む化合物あるいは単体とを焼成する焼成工程によって、(1)上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副無機化合物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、(2)上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、(3)上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる複無機化合物系を製造することを特徴としている。
【0032】
上記の製造方法によれば、主結晶相に存在する金属元素が含まれている化合物あるいは単体と、主結晶相原料とを焼成することによって、主結晶相原料から生成される主結晶相には上記金属元素が含まれ、上記主結晶相原料および化合物あるいは単体から生成される副無機酸化物にも同一の金属元素が含まれる。
【0033】
さらに、上記主結晶相および副無機酸化物は同一の非金属元素配列を有している。このため、主結晶相および副無機酸化物が互いに親和性良く存在することができ、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる複無機化合物系を製造することができる。
【0034】
また、本発明に係る複無機化合物系の製造方法では、上記焼成工程では、上記化合物を分解することによって、主結晶相に固溶する金属元素が存在する主結晶相を形成することが好ましい。
【0035】
これにより、焼成工程で主結晶相に固溶する金属元素を含む上記化合物を分解することによって、主結晶相に金属元素が固溶し、副無機酸化物が主結晶相内部に存在できる。
【0036】
また、本発明に係る複無機化合物系の製造方法では、副無機化合物の原料として主結晶相に含まれる元素、または、主結晶相に含まれる元素と、主結晶相の焼成時に複無機化合物系から排除される元素とからなる化合物とを焼成前に加えることが好ましい。
【0037】
これにより、より容易に主結晶相に金属元素を固溶させることができ、本発明に係る複無機化合物系を容易に製造することができる。
【0038】
本発明に係る複酸化物系(複無機化合物系において無機化合物が無機酸化物である)の製造方法は、上記無機酸化物から構成される主結晶相を構成する主結晶相原料と、上記主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含む化合物あるいは単体とを焼成する焼成工程によって、(1)上記主結晶相を構成する元素と、上記主結晶相と同一の酸素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副酸化物とを含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副酸化物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、(2)上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、(3)上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる複無機化合物系を製造することを特徴としている。
【0039】
上記の製造方法によれば、主結晶相に存在する金属元素が含まれている化合物あるいは単体と、主結晶相原料とを焼成することによって、主結晶相原料から生成される主結晶相には上記金属元素が含まれ、上記主結晶相原料および化合物あるいは単体から生成される副酸化物にも同一の金属元素が含まれる。
【0040】
さらに、上記主結晶相および副酸化物は同一の酸素配列を有している。このため、主結晶相および副酸化物が互いに親和性良く存在することができ、主結晶相において副酸化物が含有された複酸化物系を製造することができる。
【0041】
また、本発明に係る複酸化物系の製造方法では、上記焼成工程では、上記化合物を分解することによって、主結晶相に固溶する金属元素が存在する主結晶相を形成することが好ましい。
【0042】
これにより、焼成工程で主結晶相に固溶する金属元素を含む上記化合物を分解し、主結晶相に金属元素が固溶し、副酸化物が主結晶相内部に存在できる。
【0043】
また、本発明に係る複酸化物系の製造方法では、上記副酸化物の原料として主結晶相に含まれる元素、または、主結晶相に含まれる元素と主結晶相の焼成時に複酸化物系から排除される元素とからなる化合物を焼成前に加えることが好ましい。
【0044】
これにより、より容易に主結晶相に金属元素を固溶させることができ、本発明に係る複酸化物系を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る複無機化合物系は、無機化合物から構成される主結晶相を含む複無機化合物系において、上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、異なる元素組成から構成される副無機化合物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なるものである。
【0046】
このため、上記の構成によれば、同一の非金属元素配列を介して副無機化合物と主結晶相とが親和性良く接合することが可能となる。さらに、金属元素が主結晶相および副無機化合物の両方に存在しており、主結晶相において副無機化合物が安定して存在することができる。従って、上記構造を有する新たな複無機化合物系を提供することができるという効果を奏する。
【0047】
また、本発明に係る複無機化合物系の製造方法は、無機化合物から構成される主結晶相を含む複無機化合物系の製造方法において、上記無機酸化物から構成される主結晶相を構成する主結晶相原料と、上記主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含む化合物あるいは単体とを焼成する焼成工程によって、(1)上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副無機化合物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、(2)上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、(3)上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる複無機化合物系を製造する製造方法である。
【0048】
このため、上記の構成によれば、主結晶相原料から生成される主結晶相には上記金属元素が固溶し、上記主結晶相原料および化合物あるいは単体から生成される副結晶相にも同一の金属元素が固溶することとなる。さらに、上記主結晶相および副無機化合物は同一の非金属元素配列を有している。このため、主結晶相および副無機化合物は、互いに親和性良く存在することができ、主結晶相において副無機化合物が含有された複無機化合物系を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、正極活物質を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態を示すものであり、実施例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図である。
【図3】本発明の実施形態を示すものであり、実施例1にて得られた正極活物質の電子エネルギー損失分光法におけるライン分析結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態を示すものであり、実施例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図およびEDX‐元素マップを示す図である。
【図5】本発明の実施形態を示すものであり、実施例2にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図およびEDX‐元素マップを示す図である。
【図6】本発明の実施形態を示すものであり、実施例3にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図およびEDX‐元素マップを示す図である。
【図7】本発明の実施形態を示すものであり、実施例4にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図およびEDX‐元素マップを示す図である。
【図8】本発明の実施形態を示すものであり、実施例5にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図およびEDX‐元素マップを示す図である。
【図9】比較例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図である。
【図10】比較例1にて得られた正極活物質の電子エネルギー損失分光法におけるライン分析結果を示すグラフである。
【図11】比較例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図およびEDX‐元素マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
<複無機化合物系>
本発明に係る複無機化合物系は、無機化合物から構成される主結晶相を含む複無機化合物系において、上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副無機化合物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なるものである。
【0051】
上記非金属元素配列の「非金属元素」とは、金属元素以外の元素を示す。具体的には、ホウ素、炭素、窒素、酸素、フッ素、ケイ素、リン、硫黄、塩素、臭素、ヨウ素などを挙げることができる。
【0052】
上記「同一の非金属元素配列を有する」とは、主結晶相および副無機化合物の両方に含有する非金属元素において、主結晶相および副無機化合物が同一の非金属元素配列を共に有することを示す。なお、この同一の非金属元素配列は具体的には、互いに等しいあるいは異なる任意の軸方向に、共通にあるいは相違して歪んでいてもよい。また同一の非金属元素配列を有する元素に関して、等しいあるいは異なる一部の欠陥があってもよく、あるいはこの元素の欠損が互いに等しいあるいは異なる規則をもって配列していてもよい。上記主結晶相および副無機化合物の結晶系は立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、三方晶、六方晶あるいは三斜晶のいずれであってもよく、互いに異なっていても、等しくてもよい。このように副無機化合物の非金属元素配列は、主結晶相を構成する無機化合物の非金属元素配列とが同一であるので、同一の非金属元素配列を介して副無機化合物と主結晶相とが親和性良く接合することが可能となる。従って、副無機化合物が主結晶相の粒界及び界面において安定に存在することができる。さらに、主結晶相および副無機化合物が共にスピネル型構造を有する場合、副無機化合物を主結晶相の粒界及び界面にさらに高い親和性にて存在させることができる。
【0053】
〔複無機化合物系の主結晶相および副無機化合物〕
主結晶相を構成する無機化合物は、副無機化合物の元素組成に応じて選択される。したがって、主結晶相の元素組成のみを一義的に決定することはできない。主結晶相を構成する無機化合物の具体例は、副無機化合物を構成する無機化合物と共に後述する。
【0054】
本発明に係る副無機化合物は、上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、上記主結晶相と異なる元素組成から構成されている。また、副無機化合物に含まれる少なくとも1種の金属元素と同一の金属元素が主結晶相に固溶している。
【0055】
主結晶相および副無機化合物を構成する無機化合物の元素組成の例としては、主結晶相を構成する無機化合物がBaAlである場合、副無機化合物としてEuAl、Eu1−xAl(R:希土類元素、0≦x≦0.05)、EuAl2−XGa(0≦x≦2)、EuAl2−XIn(0≦x≦2)などを挙げることができ、主結晶相を構成する無機化合物がBaGaである場合、副無機化合物としてBaAlなどを挙げることができ、主結晶相を構成する無機化合物がMn1−xZnS(0≦x≦0.01)である場合、副無機化合物としてZn1−xMnS(0≦x≦0.05)などを挙げることができる。さらに、主結晶相を構成する無機化合物がKNiFである場合、副無機化合物としてKMnF、KFeF、NaMgFなどを挙げることができる。
【0056】
〔元素の濃度について〕
本発明に係る複無機化合物系は、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる。
【0057】
さらに、本発明に係る複無機化合物系では、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第3領域にて存在しており、上記第3領域は、上記第1領域および第2領域の少なくとも一方と隣接しており、第3領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域、第2領域および第3領域では、同種の元素の濃度が異なることが好ましい。
【0058】
図1は、本実施の形態に係る複無機化合物系1を示す平面図である。同図の左部には複無機化合物系1の全体を、同図の右部には複無機化合物系1の一部を示している。右部のように、複無機化合物系1には、第1領域2、第2領域3a、3b、3cおよび第3領域4a、4bが含まれている。第1領域2と第2領域3a〜3cとは隣接しており、第2領域3b、3cと第3領域4a、4bは互いに隣接している。なお、第1領域2と第3領域4a、4bとが隣接していてもよく、隣接する対象は問われない。また、第1領域2と第2領域3とのみが隣接していてもよく、元素濃度の異なる少なくとも2つの領域が隣接していればよい。また、図1は、薄膜に切断した複無機化合物系を示したものであり、第1領域、第2領域および第3領域は複無機化合物系1の表面に存在してもよいし、複無機化合物系1の内部に存在していてもよい。
【0059】
第1領域2、第2領域3a〜3cおよび第3領域4a、4bの面積は、ナノ平方メートルオーダー(10−9平方メートルオーダー)となっており、各領域での同種の元素の濃度が異なる。すなわち、微細な各領域において濃度差が生じている。このように、上記領域がナノ平方メートルオーダーの微細な領域であることによって、複無機化合物系1に加わった力が濃度差により分散され易いという効果が得られる。
【0060】
上記「ナノ平方メートルオーダーである」とは「微細な領域である」ことを意味するが、具体的には5nm以上、300nm以下であることが好ましい。上記範囲であることにより、第1領域、第2領域および第3領域を適切な面積とでき、主結晶相において、副無機化合物がより安定して存在でき、より性能の高い複無機化合物系を得ることができる。
【0061】
複無機化合物系1での各元素の濃度についてさらに説明する。図1での第1領域2、第2領域3a、3b、3cおよび第3領域4a、4bでの所定の元素濃度は互いに異なっていればよく特に限定されない。また、所定の元素は少なくとも1種類の元素濃度が異なっていればよいが、第1領域2、第2領域3a、3b、3cおよび第3領域4a、4bにおいて、2種類以上の元素濃度が異なっていてもよい。
【0062】
元素の濃度分布が存在することは、複無機化合物系1を公知の電子顕微鏡による観察と元素組成分析測定とにより確認することができる。上記電子顕微鏡としては、HAADF−STEM(高角度散乱暗視野走査(型)透過電子顕微鏡)などを用いることができる。また、上記元素組成分析測定としては、EDX(エネルギー分散型X線分光法)、WDX(波長分散型X線分光法)やEELS(電子エネルギー損失分光法)を用いることができる。
【0063】
特にエネルギー分散型X線分光法および波長分散型X線分光法を用いることにより容易に元素の種類と濃度とを特定することができる。ただし、水素元素やリチウム元素などの軽元素の特定には不向きであるが、電子エネルギー損失分光法を併用することにより、軽元素を含めて特定することができる。これにより、ナノオーダー領域での元素の濃度分布の情報を得ることができる。
【0064】
具体的には、複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、複無機化合物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記所定の元素に関する強度が凸状に増大していることが確認できれば、所定の元素に濃度差があることを容易に確認できる。すなわち、強度が凸状に増大している箇所は検出が容易であるからである。
【0065】
また、複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、複無機化合物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記所定の元素の強度が凹状に減少していてもよい。この場合においても、所定の元素に濃度差があることを容易に確認できる。
【0066】
また、複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記元素に関する強度が凸状に増大しており、上記元素とは異なる元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、上記異なる元素の強度が凹状に減少していることが好ましい。
【0067】
このように、所定の元素に関する強度が凸状に増大しており、上記元素と異なる元素に関する強度が凹状に減少している場合、複無機化合物系における測定距離において、元素の濃度変化が生じていることを著しく容易に確認することができる。
【0068】
なお、凸状に増加、または、凹状に減少しているとは、凸状または凹状強度における頂辺(短辺)と底辺(長辺)との強度比が1.2以上であり、頂辺の距離が10nm以上、100nm以下であることを示す。上記強度比の上限は大きいほど元素の濃度変化を容易に確認できるため、限定されるものではない。また、凸状に増加、または、凹状に減少しているとは、放物線状に増加、または、放物線状に減少していると換言することもできる。
【0069】
<複酸化物系>
本発明に係る複酸化物系は、上記無機化合物が無機酸化物であり、上記主結晶相と同一の酸素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副酸化物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副酸化物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なるものである。
【0070】
上記「同一の酸素配列を有する」とは、主結晶相および副酸化物の両方に含有する酸素元素において、主結晶相および副酸化物が同一の酸素配列を共に有することを示す。なお、この同一の酸素配列は具体的には、互いに等しいあるいは異なる任意の軸方向に、共通にあるいは相違して歪んでいてもよく。また同一の酸素配列に関して、等しいあるいは異なる一部の欠陥があってもよく、あるいは酸素の欠損が互いに等しいあるいは異なる規則をもって配列していてもよい。上記主結晶相および副酸化物の結晶系は立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、三方晶、六方晶あるいは三斜晶のいずれであってもよく、互いに異なっていても、等しくてもよい。
【0071】
立方晶の酸化物の例としてMgAlが、正方晶の酸化物の例としてZnMnが、斜方晶の酸化物の例としてCaMnが挙げられる。なお、これらの副酸化物の組成は化学量論的である必要は無く、MgやZnの一部がLiなどの他の元素で置換されていてもよいし、あるいは欠陥を含んでいてもよい。
【0072】
このように副酸化物の酸素配列は、主結晶相を構成する無機酸化物と酸素配列とが同一であるので、同一の酸素配列を介して副酸化物と主結晶相とが親和性良く接合することが可能となる。従って、副酸化物が主結晶相の粒界及び界面において安定に存在することができる。さらに、主結晶相および副酸化物が共にスピネル型構造を有する場合、副酸化物を主結晶相の粒界及び界面にさらに高い親和性にて存在させることができる。
【0073】
〔複酸化物系の主結晶相および副酸化物〕
本発明に係る複酸化物系は、主たる相として主結晶相を有する。主結晶相は副結晶相を含む複酸化物系の基礎となる相である。主結晶相は無機酸化物から構成されている。上記主結晶相を構成する無機酸化物は、副酸化物の元素組成に応じて選択される。したがって、主結晶相の元素組成のみを一義的に決定することはできない。主結晶相を構成する無機酸化物の具体例は、副酸化物を構成する無機酸化物と共に後述する。
【0074】
本発明に係る副酸化物は、上記主結晶相と同一の酸素配列を有し、上記主結晶相と異なる元素組成から構成されている。また、副結晶相に含まれる少なくとも1種の金属元素と同一の金属元素が主結晶相に固溶している。
【0075】
主結晶相を構成する無機酸化物および副酸化物を構成する無機酸化物の元素組成の例としては、主結晶相を構成する無機酸化物がLiMnである場合、副結晶相を構成する無機酸化物としてMgAl、MgFe、MgAl2-XFe(0≦x≦2)などの固溶体、MgMn、MnAl、ZnMn、CaMn、SnMnなどのMnを有するスピネル型化合物、ZnAl、Zn0.33Al2.45、SnMg、ZnSnO、MgAl等のZn-Sn,Mg-Al系スピネル型化合物、TiZn、TiMn、ZnFe、MnFe、ZnCr、ZnV、SnCo等のスピネル型化合物を挙げることができる。上記副酸化物を構成する無機酸化物は、上記主結晶相を構成する無機酸化物の少なくとも1種類の金属元素を少なくとも含む。
【0076】
また、本発明に係る複酸化物系を熱電材料に用いる場合、熱電材料に係る主結晶相として、NaCoO(0.3≦x≦1)を、副酸化物としてCuCoO、CuFeO、AgAlO、AgGaO、AgInOなどのデラフォサイト型化合物を挙げることができる。
また、本発明に係る複酸化物系を磁性材料に用いる場合、磁性材料に係る主結晶相として、AFe(A=Mn、Co、Ni、Cu、Zn)を、副酸化物として、ZnMn、ZnNi、ZnCuおよびそれらの固溶体を挙げることができる。
【0077】
また、副酸化物に含まれる金属元素は、主結晶相に固溶することが好ましく、特に限定されるものではない。例えば、主結晶相がLiMn、副酸化物がZnMnの場合、金属元素としてはMnを挙げることができる。また、主結晶相がNaCoO(0.3≦x≦1)、副酸化物がCuCoOの場合、金属元素としてCoを挙げることができる。さらに、主結晶相がMnFe、副酸化物がZnMnの場合、金属元素としてMnを挙げることができる。いずれも、主結晶相を構成する無機酸化物と、副酸化物を構成する無機酸化物が、同一の金属元素を固溶しているものとする。
【0078】
〔元素の濃度について〕
本発明に係る複酸化物系は、上記主結晶相を構成する元素と上記副酸化物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる。
【0079】
さらに、本発明に係る複酸化物系では、上記主結晶相を構成する元素と上記副酸化物を構成する元素とが、第3領域にて存在しており、上記第3領域は、上記第1領域および第2領域の少なくとも一方と隣接しており、第3領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、上記第1領域、第2領域および第3領域では、同種の元素の濃度が異なることが好ましい。
【0080】
図1は、本実施の形態に係る複酸化物系1を示す平面図である。図1は、複無機化合物系を示す図として用いたが、複酸化物系を説明する図として援用できる。同図の左部には複酸化物系1の全体を、同図の右部には複酸化物系1の一部を示している。右部のように、複酸化物系1には、第1領域2、第2領域3a、3b、3cおよび第3領域4a、4bが含まれている。第1領域2と第2領域3a〜3cとは隣接しており、第2領域3b、3cと第3領域4a、4bは互いに隣接している。なお、第1領域2と第3領域4a、4bとが隣接していてもよく、隣接する対象は問われない。また、第1領域2と第2領域3とのみが隣接していてもよく、元素濃度の異なる少なくとも2つの領域が隣接していればよい。また、図1は、薄膜に切断した複酸化物系を示したものであり、第1領域、第2領域および第3領域は複酸化物系1の表面に存在してもよいし、複酸化物系1の内部に存在していてもよい。
【0081】
第1領域2、第2領域3a〜3cおよび第3領域4a、4bの面積は、ナノ平方メートルオーダー(10−9平方メートルオーダー)となっており、各領域での同種の元素の濃度が異なる。すなわち、微細な各領域において濃度差が生じている。このように、上記領域がナノ平方メートルオーダーの微細な領域であることによって、複酸化物系1に加わった力が濃度差により分散され易いという効果が得られる。
【0082】
上記「ナノ平方メートルオーダーである」とは「微細な領域である」ことを意味するが、具体的には5nm以上、300nm以下であることが好ましい。上記範囲であることにより、第1領域、第2領域および第3領域を適切な面積とでき、主結晶相において、副酸化物がより安定して存在でき、より性能の高い複酸化物系を得ることができる。
【0083】
複酸化物系1での各元素の濃度についてさらに説明する。図1での第1領域2、第2領域3a、3b、3cおよび第3領域4a、4bでの所定の元素濃度は互いに異なっていればよく特に限定されない。また、所定の元素は少なくとも1種類の元素濃度が異なっていればよいが、第1領域2、第2領域3a、3b、3cおよび第3領域4a、4bにおいて、2種類以上の元素濃度が異なっていてもよい。
【0084】
発明者らは元素の濃度について好適な範囲を研究結果から見出した。まず、本発明に係る複酸化物系を以下の一般式Aで示す。
Li1−xM12−2xM2M32x4−y・・・(一般式A)
(但し、M1はマンガンあるいはマンガンと遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素、M2およびM3は典型金属元素あるいは遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素である。また、yはxと電気的中性を満足する値である。)
上記一般式Aは、以下のように導き出される。なお、xの範囲は、0.01≦x≦0.20である。
【0085】
まず、後述する実施例に係る(1−x)LiMn-xZnSnOを製造する場合を考える。出発原料としては、LiCO、MnO、および酸化物ZnSnOを用いる。LiCOとMnOとは反応して、LiMnとなり、炭酸成分は消えるため、LiMnと記述してよいことが分かる。したがって、(1−x)LiMnとxZnSnOをひとつの式に整理すると、
(1−x)LiMn + xZnSnO
→ Li1−xMn2(1−x)Zn2xSn
となる。
【0086】
また、別の例として、(1−x)LiMnとxMgAlとを考えると、
(1−x)LiMn + xMgAl
→ Li1−xMn2(1−x)MgAl2x
と整理することができる。
【0087】
したがって、酸化物をAと一般化すると、全体の組成式は
(1−x)LiMn + xA
→ Li1−xMn2(1−x)2x
と記述することができる。
【0088】
また、酸化物がAとAとの2種類あるとし、それらを全体のx、x混合して複酸化物系を製造する場合、
【0089】
【化1】

【0090】
と記述することができる。
【0091】
これを元素組成が多く、混合量が多い状態、すなわち一般化すると、
【0092】
【化2】

【0093】
と記述することができる。
ここで、
【0094】
【化3】

【0095】
とし、またMnであるところはMnあるいはMnと遷移金属元素の少なくとも1種類以上で構成されてもよいため、Mn=M1とおくことができ、さらに化合物は電気的中性条件を満足するので、一般式A:
Li1−xM12−2xM2M32x4-y
と記述することができる。
【0096】
本発明に係る複酸化物系を上記一般式Aで示した場合、所定の元素が以下の濃度であれば、複酸化物系の膨張または収縮をさらに抑制することができ好ましい。
【0097】
すなわち、所定の元素がリチウムの場合、正極活物質におけるリチウムの濃度DLiのうち、第1濃度DLi1が(1−x)×100/7≦DLi1(%)であり、第2濃度DLi2が(1−3x)×100/7≦DLi2(%)<(1−x)×100/7であり、第3濃度DLi3がDLi3(%)<(1−3x)×100/7であり、xは0.01≦x≦0.10であり(第1濃度DLi1、第2濃度DLi2および第3濃度DLi3に係るxは一般式A中のxと同一である)、第1領域における第1領域リチウム濃度、第2領域における第2領域リチウム濃度および第3領域における第3領域リチウム濃度は、第1濃度DLi1、第2濃度DLi2および第3濃度DLi3からなる群から選ばれる互いに異なる濃度であることが好ましい。
【0098】
つまり、第3濃度DLi3<第2濃度DLi2<第1濃度DLi1の関係にあるが、第1領域、第2領域および第3領域でのリチウムの濃度は、第1濃度DLi1、第2濃度DLi2および第3濃度DLi3のうち互いに異なる何れかであればよい。
【0099】
また、所定の元素がマンガンである場合、正極活物質におけるマンガンの濃度DMnのうち、第1濃度DMn1が(1−x)×200/7≦DMn1(%)であり、第2濃度DMn2が(1−3x)×200/7≦DMn2(%)<(1−x)×200/7であり、第3濃度DMn3がDMn3(%)<(1−3x)×200/7であり、xは0.01≦x≦0.10であり(第1濃度DMn1、第2濃度DMn2および第3濃度DMn3に係るxは一般式A中のxと同一である)、第1領域における第1領域マンガン濃度、第2領域における第2領域マンガン濃度および第3領域における第3領域マンガン濃度は、第1濃度DMn1、第2濃度DMn2および第3濃度DMn3からなる群から選ばれる互いに異なる濃度であることが好ましい。
【0100】
つまり、第3濃度DMn3<第2濃度DMn2<第1濃度DMn1の関係にあるが、第1領域、第2領域および第3領域でのマンガンの濃度は、第1濃度DMn1、第2濃度DMn2および第3濃度DMn3のうち互いに異なる何れかであればよい。
【0101】
また、所定の元素がスズであり、正極活物質におけるスズの濃度DSnのうち、第1濃度DSn1がx×100≦DSn1(%)である場合、第2濃度DSn2が0<DSn2(%)<x×100であり、第3濃度DSn3がDSn3(%)=0であり、xは0.01≦x≦0.10であり(第1濃度DSn1、第2濃度DSn2および第3濃度DSn3に係るxは一般式A中のxと同一である)、第1領域における第1領域スズ濃度、第2領域における第2領域スズ濃度および第3領域における第3領域スズ濃度は、第1濃度DSn1、第2濃度DSn2および第3濃度DSn3からなる群から選ばれる互いに異なる濃度である。
【0102】
つまり、第3濃度DSn3<第2濃度DSn2<第1濃度DSn1の関係にあるが、第1領域、第2領域および第3領域でのスズの濃度は、第1濃度DSn1、第2濃度DSn2および第3濃度DSn3のうち互いに異なる何れかであればよい。
【0103】
また、上記所定の元素が亜鉛である場合、正極活物質における亜鉛の濃度DZnのうち、第1濃度DZn1がx×100≦DZn1(%)であり、第2濃度DZn2がx≦DZn2(%)<x×100であり、第3濃度DZn3が0≦DZn3(%)<xであり、xは0.01≦x≦0.10であり(第1濃度DZn1、第2濃度DZn2および第3濃度DZn3に係るxは一般式A中のxと同一である)、第1領域における第1領域亜鉛濃度、第2領域における第2領域亜鉛濃度および第3領域における第3領域亜鉛濃度は、第1濃度DZn1、第2濃度DZn2および第3濃度DZn3からなる群から選ばれる互いに異なる濃度である。
【0104】
つまり、第3濃度DZn3<第2濃度DZn2<第1濃度DZn1の関係にあるが、第1領域、第2領域および第3領域での亜鉛の濃度は、第1濃度DZn1、第2濃度DZn2および第3濃度DZn3のうち互いに異なる何れかであればよい。
【0105】
リチウム、マンガン、スズおよび亜鉛について具体的な濃度を示したが、第1領域、第2領域および第3領域において全ての元素の濃度が上記範囲である必要はなく、少なくとも1種以上の元素が上記範囲であればよい。
【0106】
一方、複酸化物系1とは異なり所定元素の濃度差が生じていない場合、つまり、元素が一様に存在している場合、主結晶相からに膨張または収縮が生じた場合に、これらを抑制できず、複酸化物系の全体が膨張または収縮することとなる。そのため、品質の劣る複酸化物系となる。
【0107】
元素の濃度分布が存在することは、複酸化物系1を公知の電子顕微鏡による観察と元素組成分析測定とにより確認することができる。上記電子顕微鏡としては、HAADF−STEM(高角度散乱暗視野走査(型)透過電子顕微鏡)などを用いることができる。また、上記元素組成分析測定としては、EDX(エネルギー分散型X線分光法)、WDX(波長分散型X線分光法)やEELS(電子エネルギー損失分光法)を用いることができる。
【0108】
特にエネルギー分散型X線分光法および波長分散型X線分光法を用いることにより容易に元素の種類と濃度とを特定することができる。ただし、水素元素やリチウム元素などの軽元素の特定には不向きである。しかしながら、電子エネルギー損失分光法を併用することにより、軽元素を含めて特定することができる。したがって、ナノオーダー領域での元素の濃度分布の情報を得ることができる。
【0109】
具体的には、複酸化物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、複酸化物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複酸化物系における測定距離を横軸とした場合、上記所定の元素に関する強度が凸状に増大していることが確認できれば、所定の元素に濃度差があることを容易に確認できる。すなわち、強度が凸状に増大している箇所は検出が容易であるからである。
【0110】
また、複酸化物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、複酸化物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複酸化物系における測定距離を横軸とした場合、上記所定の元素の強度が凹状に減少していてもよい。この場合においても、所定の元素に濃度差があることを容易に確認できる。
【0111】
また、複酸化物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複酸化物系における測定距離を横軸とした場合、上記元素に関する強度が凸状に増大しており、上記元素とは異なる元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複酸化物系における測定距離を横軸とした場合、上記異なる元素の強度が凹状に減少していることが好ましい。
【0112】
このように、所定の元素に関する強度が凸状に増大しており、上記元素と異なる元素に関する強度が凹状に減少している場合、複無機化合物系における測定距離において、元素の濃度変化が生じていることを著しく容易に確認することができる。
【0113】
なお、凸状に増加、または、凹状に減少しているとは、凸状または凹状強度における頂辺(短辺)と底辺(長辺)との強度比が1.2以上であり、頂辺の距離が10nm以上、100nm以下であることを示す。上記強度比の上限は大きいほど元素の濃度変化を容易に確認できるため、限定されるものではない。また、凸状に増加、または、凹状に減少しているとは、放物線状に増加、または、放物線状に減少していると換言することもできる。
【0114】
本発明に係る複酸化物系は、特に応用分野は限定されず、様々な分野にて用いることが可能である。代表的な例として、例えば、非水系二次電池(非水電解質二次電池)用正極活物質、熱電変換材料、磁性材料に用いることができる。なお、以下、本明細書において、非水系二次電池用正極活物質を正極活物質と、非水系二次電池用正極を正極と、非水系二次電池を二次電池と、熱電変換材料を適宜熱電材料と適宜称する。
【0115】
〔正極活物質〕
まず、本発明に係る正極活物質は、上記複無機化合物系を含む。中でも複酸化物系を含むことが好ましい。本発明に係る正極活物質では、マンガンを含有するリチウム含有遷移金属酸化物(以下、適宜「リチウム含有金属酸化物」と略す)を主結晶相とすることができる。上記リチウム含有酸化物は、一般的にスピネル型構造を有することが多いが、スピネル型構造を有していなくとも本願のリチウム含有酸化物として用いることができる。
【0116】
上記リチウム含有酸化物は、少なくともリチウム、マンガンおよび酸素を含んだ組成を有している。また、マンガン以外の遷移金属が含まれていてもよい。マンガン以外の遷移金属としては、正極活物質の作用を妨げなければ特に限定されるものでないが、具体的には、Ti、V、Cr、Ni、Cu、Fe、Coなどを挙げることができる。しかしながら、上記リチウム含有酸化物が遷移金属として、マンガンのみを含んでいる場合、リチウム含有酸化物を簡便に合成することができる観点から好ましい。
【0117】
リチウム含有酸化物の組成比は、スピネル型構造の場合、マンガンを含む遷移金属をMとすると組成比Li:M:Oは1:2:4にて表すことができる。遷移金属Mには、上記Ti、V、Cr、Ni、Cu、Fe、Coなどが含まれていてもよい。
【0118】
しかしながら、スピネル型構造の場合、実際にはLi:M:O=1:2:4の組成比からずれることが多く、本発明に係る正極活物質においても同様である。上記組成比と酸素濃度が異なる不定比化合物の組成比として、Li:M:O=1:2:3.5〜4.5、あるいは、4:5:12を例示することができる。
【0119】
本発明の正極活物質においてリチウム含有酸化物の割合が少ない場合、上記正極活物質を正極材料とする二次電池の放電容量が小さくなるおそれがある。したがって、正極活物質を上述した一般式A:
Li1−xM12−2xM2M32x4−y・・・(一般式A)
(但し、M1はマンガンあるいはマンガンと遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素、M2およびM3は典型金属元素あるいは遷移金属元素の少なくとも1種類以上の元素である。また、yはxと電気的中性を満足する値である。)で示す時、0.01≦x≦0.20であることが好ましい。また、0≦y≦2.0であることが好ましく、0≦y≦1.0であるとさらに好ましく、0≦y≦0.5であれば特に好ましい。また、yはxと電気的中性を満足する値であり、y=0となる場合もある。M2およびM3の具体例としては、M2がSnであり、M3がZnである場合、および、M2がMgであり、M3がAlである場合などが挙げられる。
【0120】
一方、副酸化物は、含有元素として、典型元素およびマンガンを含むことが好ましい。副酸化物の組成がマンガンおよび典型元素を含むことによって、主結晶相と共通の酸素配列を介して構成される副酸化物がより安定化される。これにより、副酸化物からMnが溶出することを低減させることができる。
【0121】
上記典型元素とは、特に限定されるものではないが、マグネシウム、亜鉛などを挙げることができる。なお、典型元素および遷移金属元素の定義については、参考文献(コットン・ウィルキンソン著、中原勝儼訳、「無機化学<上>」(東京、培風館、1991年)に記載されている。
【0122】
なお、遷移金属は不完全に電子が満たされたd軌道をもつ元素、あるいはそのような陽イオンを生じる元素であり、典型元素はそれ以外の元素を指す。例えば、亜鉛原子Znの電子配置は1s2s2p3s3p4s3d10であり、亜鉛の陽イオンはZn2+で、1s2s2p3s3p3d10である。原子も陽イオンも3d10であり、「不完全に満たされたd軌道」を持たないので、Znは典型元素である。
【0123】
また、上記副酸化物は、亜鉛およびマンガンを含むことが好ましい。副酸化物が亜鉛およびマンガンを含むことによって、主結晶相と共通の酸素配列を介して構成される副酸化物が特に安定化される。これにより、副酸化物からMnが溶出することを特に好ましく低減させることができる。
【0124】
特に、副酸化物が亜鉛およびマンガンを含む場合、亜鉛およびマンガンの組成比Mn/Znは、2<Mn/Zn<4であることが好ましく、2<Mn/Zn<3.5であることがさらに好ましい。亜鉛およびマンガンの組成比が上記の範囲内であれば、副酸化物からMnの溶出を好ましく低減でき、ひいては複酸化物系からのMnの溶出を好ましく低減できる。
【0125】
主結晶相が立方晶の時、あるいは近似的に立方晶と考える時の主結晶相の格子定数は8.22Å以上、8.25Å以下であることが好ましい。主結晶相の格子定数が上記の範囲内であれば、副酸化物の任意の面の酸素配列の酸素原子同士の間隔および配列と、主結晶相の任意の面の酸素配列の酸素原子同士の間隔および配列とが一致することにより、副酸化物と主結晶相が親和性良く接合することが可能となる。よって、副酸化物が主結晶相の粒界及び界面において安定に存在することができる。
【0126】
本発明に係る正極活物質は、上記複無機化合物系または複酸化物系を含むものである。このため、上記正極活物質を二次電池の正極材料として用いた場合、充放電の過程において正極活物質が受ける膨張または収縮が抑制され、正極活物質からイオン伝導体へ溶出しようとするMnを主結晶相に含有されている副酸化物によって物理的にブロックすることができる。すなわち、副結晶相がMn溶出を抑制する障壁となるので、Mnの溶出の低減が実現でき、サイクル特性が大きく向上された非水電解質二次電池を実現する可能な正極活物質を提供できる。
【0127】
本発明の正極活物質において副酸化物の混合量が多い場合、正極活物質を二次電池の正極材料として用いた場合、リチウム含有酸化物の相対量が減少することとなり、正極活物質の放電容量を減少させるおそれがある。一方、副酸化物の混合量が少ない場合、主結晶相からのMnの溶出を抑制させる効果が低減し、二次電池のサイクル特性を向上させる効果が低減するため好ましくない。
【0128】
これらの事項を考慮すると、正極活物質に対する上記副酸化物の割合は、放電容量の低下と、サイクル特性を向上させる効果とのバランスを考慮すると、上記一般式Aにおいて、xの範囲が0.01≦x≦0.10であることが好ましく、0.03≦x≦0.07であることがさらに好ましい。
【0129】
また、発明者らはさらに鋭意検討した結果、主結晶相における副酸化物が、回折法(結晶回折法)によって検出可能な結晶性を有することが好ましいことを見出した。なお、回折法にはX線回折法、中性子回折法、電子線回折法などが含まれる。このような副酸化物は結晶性が高く、例えば、正極活物質がリチウムイオン二次電池の正極材料として用いられる場合、主結晶相からリチウムが脱離または挿入される際に生じる膨張または収縮を物理的に好ましく抑制することができる。これによって、正極活物質を構成する結晶粒子群の変形量を低下させることができ、その結果、結晶粒子群の割れ等がより生じ難くなり、放電容量の低下が生じ難い二次電池を実現可能な正極活物質を提供することができる。
【0130】
<複無機化合物系の製造方法>
以下、本発明に係る複無機化合物系の製造方法について説明する。まず、本発明の複無機化合物系の製造方法は、主結晶相の原料である主結晶相原料と、主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含む化合物あるいは単体とを焼成する焼成工程を含んでいる。
【0131】
具体的には、上記化合物を分解することによって、主結晶相に固溶する金属元素が存在する主結晶相を形成することが好ましい。上記化合物の分解は、焼成にて行われる。
【0132】
上記主結晶相原料としては、主結晶相を構成する無機化合物であってもよいし、焼成することによって主結晶相となるものであってもよい。具体的には、主結晶相を構成する無機化合物がBaAlである場合、主結晶相原料は、BaSおよびAlの組み合わせとすることができる。また、主結晶相を構成する無機化合物がMn1−xZnS(0≦x≦0.01)である場合、主結晶相原料は、ZnSおよびMnSの組み合わせとすることができる。
【0133】
また、上記主結晶相と焼成する化合物は、主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含んでいる。例えば、主結晶相原料がBaSおよびAlである場合、これに固溶する金属元素はEuである。上記Euを含む化合物としてEuAl、EuAl2−XGa(0≦x≦2)、EuAl2−XIn(0≦x≦2)などの固溶体を挙げることできる。
【0134】
また、主結晶相を構成する主結晶相原料がZnSおよびMnSである場合、これに固溶する金属元素はZnである。上記Znを含む化合物としてZn1−xCdS(0≦x≦1)を挙げることできる。
【0135】
このように、上記主結晶相原料および上記化合物を用いる例を挙げたが、上記化合物に代えて、Eu、Al、Ga、Sなどの単体を用いてもよいし、化合物と単体を同時に用いてもよい。
【0136】
また、副無機化合物の原料として主結晶相に含まれる元素、または、主結晶相に含まれる元素と、主結晶相の焼成時に複無機化合物系から排除される元素とからなる化合物を、焼成前に加えることが好ましい。
【0137】
上記化合物を加えることによって、より容易に主結晶相に金属元素を固溶させることができ、本発明に係る複無機化合物系を容易に製造することができる。
【0138】
上記「排除される元素」は、その原料が焼成時に遊離反応を起こし、主結晶相および副無機酸化物には含まれない。すなわち、焼成時に複無機化合物系に含まれず、複無機化合物系から排除される元素を意味する。
【0139】
具体的には、主結晶相を構成する無機化合物BaAlの原料をBaSおよびAlとし、Znを含む化合物をZnMgSとした場合、排除される元素はMgである。
【0140】
なお、焼成工程では、上記主結晶相原料および化合物あるいは単体を焼成することによって、本発明に係る複無機化合物系を製造する。
【0141】
主結晶相原料および化合物あるいは単体を焼成する前の準備段階として、主結晶相原料および化合物あるいは単体を設定した配合量にて配合した後、これらを均一に混合する(混合工程)。混合は、乳鉢、遊星型ボールミル等の公知の混合器具を用いて行えばよい。
【0142】
混合方法は、主結晶相原料および化合物あるいは単体の全量を一度に混合してもよいし、主結晶相の材料の全量に対して化合物あるいは単体を少量ずつ追加しながら混合してもよい。後者の場合、例えば、スピネル型化合物の濃度を徐々に増加させることができ、より均一に混合を行うことができるので好ましい。
【0143】
混合された主結晶相原料および化合物あるいは単体を混合する焼成温度は、焼成対象によって設定されるが、概して400℃以上、1300℃以下の温度範囲にて焼成を行うことができる。また、概して焼成時間は48時間以下であることが好ましい。
【0144】
上記のように化合物あるいは単体が、上記主結晶相原料と共に焼成されることによって、金属元素は焼成された主結晶相に一部が固溶されるとともに、主結晶相原料および化合物あるいは単体が焼成されて、金属元素を含む副無機化合物が形成される。ここで、無機化合物に主結晶相に対して固溶しない元素が含まれている場合、上記元素は、結果として、複無機化合物系に取り込まれないので、残存し、排除される。
【0145】
<複酸化物系の製造方法>
以下、本発明に係る複酸化物系の製造方法について説明する。まず、本発明の複酸化物系の製造方法は、主結晶相の原料である主結晶相原料と、上記主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含む化合物あるいは単体とを焼成する焼成工程を含んでいる。
【0146】
具体的には、上記化合物を分解することによって、主結晶相に固溶する金属元素が存在する主結晶相を形成することが好ましい。上記化合物の分解は、焼成にて行われる。
【0147】
上記主結晶相原料としては、主結晶相を構成する無機化合物であってもよいし、焼成することによって主結晶相となるものであってもよい。具体的には、主結晶相を構成する無機酸化物がLiMnである場合、主結晶相原料をLiCOおよびMnOとすることができる。また、その他の主結晶相原料としては、主結晶相がNaCoO(0.3≦x≦1)である場合、NaCOおよびCoとすることができる。また、主結晶相がMnFeである場合、FeCOおよびMnOとすることができる。
【0148】
さらに、例えば、主結晶相を構成する主結晶相原料がLiCOおよびMnOである場合、これに固溶する金属元素はZnである。上記Znを含む化合物として、ZnSnO、ZnAlを挙げることができる。
【0149】
また、主結晶相を構成する主結晶相原料がNaCOおよびCoである場合、これに固溶する金属元素はCuである。上記Cuを含む化合物として、CuGaO、CuYO、CuLaOを挙げることができる。
【0150】
さらに、主結晶相を構成する主結晶相原料がFeCOおよびMnO2である場合、これに固溶する金属元素はZnである。上記Znを含む化合物として、ZnSnO、ZnAlを挙げることができる。
【0151】
このように、主結晶相原料および上記化合物を用いる例を挙げたが、上記化合物に代えて、または、Zn、Al、Sn、Cu、Ga、Mn、La、Y、Oなどの単体を用いてもよいし、化合物と単体を同時に用いてもよい。
【0152】
また、副酸化物の原料として主結晶相に含まれる元素、または、主結晶相に含まれる元素と主結晶相の焼成時に複酸化物系から排除される元素とからなる化合物を、焼成前に加えることが好ましい。
【0153】
上記のように上記化合物を加えることによって、より容易に主結晶相に金属元素を固溶させることができ、本発明に係る複酸化物系を容易に製造することができる。
【0154】
上記「排除される元素」は、その原料が焼成時に遊離反応を起こし、主結晶相および副結晶相には含まれない。すなわち、焼成時に複酸化物系に含まれず、複無機化合物系から排除される元素を意味する。
【0155】
具体的には、主結晶相を構成する無機酸化物LiMnの原料をLiCOおよびMnOとし、Znを含む酸化物をZnSnOとした場合、排除される元素は「Sn」である。
【0156】
焼成工程では、上記主結晶相原料および化合物あるいは単体を焼成することによって、本発明に係る複酸化物系を製造する。主結晶相原料および化合物あるいは単体を焼成する前の準備段階として、主結晶相原料および化合物あるいは単体を設定した配合量にて配合した後、これらを均一に混合する(混合工程)。混合は、乳鉢、遊星型ボールミル等の公知の混合器具を用いて行えばよい。
【0157】
混合方法は、主結晶相原料および化合物あるいは単体の全量を一度に混合してもよいし、主結晶相の材料の全量に対して化合物あるいは単体を少量ずつ追加しながら混合してもよい。後者の場合、例えば、スピネル型化合物の濃度を徐々に増加させることができ、より均一に混合を行うことができるので好ましい。
【0158】
混合された主結晶相原料および化合物あるいは単体を混合する焼成温度は、焼成対象によって設定されるが、概して400℃以上、1000℃以下の温度範囲にて焼成を行うことができる。また、概して焼成時間は48時間以下であることが好ましい。
【0159】
上記のように化合物あるいは単体が、上記主結晶相原料と共に焼成されることによって、金属元素は焼成された主結晶相に一部が固溶されるとともに、主結晶相原料および化合物あるいは単体が焼成されて、金属元素を含む副酸化物が形成される。ここで、無機化合物に、主結晶相に対して固溶しない元素が含まれている場合、上記元素は、結果として、複酸化物系に取り込まれないので、残存し、排除される。
【0160】
具体的に説明すると、主結晶相を構成する無機酸化物LiMnの原料をLiCOおよびMnOとし、Znを含む酸化物をZnSnOとした場合、ZnSnO中のZnはLiMnに固溶し、SnはLiMnに固溶しない元素である。上記LiCO、MnO、ZnSnOが焼成されると主結晶相としてLiMnが形成され、LiMn中には、一部Znが固溶されることとなる。
【0161】
一方、Snは主結晶相に固溶しない。Snは複酸化物系としては含有されず、副酸化物としてZnMnが形成される。上記XおよびYは0.8≦X≦1.2、2≦X/Y≦4の範囲内である。
【0162】
上記焼成時間の範囲であれば、得られる複酸化物系において、主結晶相の一部の元素と、副酸化物の一部の同一あるいは相違する金属元素からなる中間相が主結晶相と副酸化物の界面に存在することができる。このような界面が形成されれば、主結晶相と副酸化物とを強固に結合させることができるため、さらに割れなどが生じ難い正極活物質を得ることができる。
【0163】
また、主結晶相と副酸化物とが固溶しているか否かについては、X線回折法によって確認することができる。具体的には、主結晶相のピークと副酸化物のピークの両方を検出することができれば固溶していない。一方、副酸化物が主結晶相に固溶していれば、副結晶相のピークを検出することができず、さらに、主結晶相のX線回折法プロファイルのピークは、固溶していない場合のピークと比べて大きくシフトすることとなる。
【0164】
長時間焼成を行うと、Znを含む酸化物の全量が主結晶相中に拡散し、完全な固溶体が形成されるおそれがある。完全な固溶体が形成されると、副酸化物が内部に形成されないため、長時間の焼成は好ましくない。
【0165】
焼成は空気雰囲気下で行ってもよく、空気中の酸素濃度を高めた雰囲気下で行ってもよい。また焼成工程は数回繰り返してもよい。その場合、1回目の焼成(仮焼成)温度と2回目以降の焼成温度を同じにしてもよいし、異なる温度で焼成してもよい。さらに、焼成を複数回繰り返す場合、複数の焼成工程の間に一旦試料を粉砕して再度ペレット状に加圧形成することもできる。
【0166】
<二次電池の製造方法>
本発明に係る複酸化物系の製造方法について上述したが、特に、本発明の複酸化物系を正極活物質として用いた二次電池の製造方法について以下に説明する。まず、正極活物質の原料となる副結晶相の原料化合物の製造方法について説明する。
【0167】
〔副酸化物の原料化合物の製造〕
正極活物質が用途である場合の副結晶相の原料化合物であるスピネル型化合物を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の固相法、水熱法などを用いることができる。また、ゾルゲル法、噴霧熱分解法を用いてもよい。
【0168】
固相法によって、スピネル型化合物を製造する場合、スピネル型化合物の原料としては、副酸化物に含まれる元素を含む原料が使用される。上記原料としては、上記元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などの塩化物を用いることができる。
【0169】
具体的には、二酸化マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガン、酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、硝酸亜鉛、酸化鉄、炭酸鉄、硝酸鉄、酸化スズ、炭酸スズ、硝酸スズ、酸化チタン、炭酸チタン、硝酸チタン、五酸化バナジウム、炭酸バナジウム、硝酸バナジウム、酸化コバルト、炭酸コバルト、硝酸コバルトなどを例示することができる。
【0170】
また、上記原料として、副酸化物に含まれる元素Me(Meはマンガン、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、スズ、チタン、バナジウムなど)を含んだ金属アルコキシドの加水分解物Me(OH)(Xは元素Meの価数)または上記元素Meを含んだ金属イオンの溶液を用いることもでき、上記金属イオンの溶液は増粘剤またはキレート剤と混合された状態にて原料として用いられる。上記酸化物は単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0171】
上記増粘剤およびキレート剤としては、公知の増粘剤を用いればよく特に限定されるものではない。例えば、エチレングリコール、カルボキシメチルセルロースなどの増粘剤、および、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンなどのキレート剤を例示することができる。
【0172】
原料中の元素量が目的となる副酸化物の組成比となるように、上記原料を混合して焼成することによって、スピネル型化合物を得ることができる。焼成温度は用いる原料の種類によって調整されるため、一義的に設定することは困難であるが、概して400℃以上、1500℃以下の温度にて焼成を行うことができる。焼成を行う雰囲気は、不活性雰囲気であってもよいし、酸素を含む雰囲気であってもよい。
【0173】
また、密閉容器中にスピネル型化合物に含まれる元素を含む原料である酢酸塩や塩化物等をアルカリ性の水溶液に溶解し、これを加熱する水熱法によっても合成が可能である。水熱法でスピネル型化合物を合成した場合、得られたスピネル型化合物を次の正極活物質を製造する工程にて用いてもよいし、得られたスピネル型化合物に対し熱処理等を行った後に、正極活物質を製造する工程にて用いてもよい。
【0174】
上記の方法によって得られたスピネル型化合物の平均粒径が100μmより大きい場合は、平均粒径を小さくすることが好ましい。例えば、乳鉢や遊星式ボールミル等で粉砕して粒径を小さくすること、または、メッシュ等によってスピネル型化合物の粒径を分別して平均粒子径の小さなスピネル型化合物を次工程で用いることが挙げられる。
【0175】
〔正極活物質の製造〕
次に、(1)スピネル型化合物を単一相の状態にて合成し、その後、合成したスピネル型化合物に、リチウム含有酸化物の原料であるリチウム源材料とマンガン源材料(主結晶相原料)とを混合して焼成することによって正極活物質を製造する、または、(2)スピネル型化合物を単一相の状態にて合成し、さらに、別途、合成したリチウム含有酸化物(主結晶相原料)と混合して焼成することによって正極活物質を製造する。上述のように、本実施の形態に係る正極活物質は、予め得られたスピネル型化合物を用いる方法により製造される。
【0176】
上記(1)の方法を用いる場合、まず、スピネル型化合物と、所望のリチウム含有酸化物に応じたリチウム源材料およびマンガン源材料とを配合する。
【0177】
上記リチウム源材料としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウムなどを挙げることができる。また、上記マンガン源材料としては、二酸化マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガンなどを挙げることができる。なお、マンガン源材料としては、電解二酸化マンガンを用いることが好ましい。
【0178】
また、マンガン源材料にマンガン以外の遷移金属を含有する遷移金属原料を併用してもよい。上記遷移金属としては、Ti、V、Cr、Ni、Cu、Fe、Coなどを挙げることができ、遷移金属原料としては、上記遷移金属の酸化物、および、炭酸塩、塩酸塩などの塩化物を用いることができる。
【0179】
混合するリチウム源材料およびマンガン源材料(遷移金属原料を含む)を選定した後に、上記リチウム源材料中のLiの比率と、マンガン源材料(遷移金属原料を含む)の比率とを、所望のリチウム含有酸化物の比率となるようにリチウム源材料およびマンガン源材料(遷移金属原料を含む)をスピネル型化合物に配合する。例えば、所望のリチウム含有酸化物がLiMの場合(Mはマンガンあるいはマンガンとそれ以外の1種類以上の遷移金属)、LiとMとの比率が1:2となるように、リチウム源材料およびマンガン源材料(遷移金属原料を含む)の配合量を設定する。
【0180】
スピネル型化合物、リチウム源材料およびマンガン源材料を設定した配合量にて配合した後、これらを均一に混合する(混合工程)。スピネル型化合物、リチウム源材料およびマンガン源材料の配合量は、上記一般式Aにおけるxが、0.01≦x≦0.10の範囲内であることが好ましい。上記の範囲であれば、後述する焼成時間および焼成温度にて焼成を行うことによって、本発明に係る正極活物質を好ましく得ることができる。混合の際には、乳鉢、遊星型ボールミル等の公知の混合器具を用いて行えばよい。
【0181】
混合方法として、スピネル型化合物、リチウム源材料及びマンガン源材料の全量を一度に混合してもよいし、スピネル型化合物の全量に対してリチウム源材料およびマンガン源材料を少量ずつ追加しながら混合してもよい。後者の場合、スピネル型化合物の濃度を徐々に増加させることができ、より均一に混合を行うことができるので好ましい。
【0182】
さらに、混合された原料に対して仮焼成を行う(仮焼成工程)。仮焼成とは、後述する焼成工程の前段階として、焼成を行うものである。仮焼成は空気雰囲気下で行ってもよく、酸素濃度を高めた雰囲気下で行ってもよい。後述する焼成工程においても同様である。
【0183】
仮焼成工程における好ましい焼成温度および焼成時間は、混合された原料および正極活物質を一般式Aで表した場合のxの値によって適宜変化する。このため、焼成温度および焼成時間を一義的に決定することは困難であるが、概して、焼成温度を400℃以上、600℃以下、好ましくは400℃以上、550℃以下、焼成時間を12時間とすることができる。
【0184】
仮焼成後、さらに焼成を行うことによって正極活物質を製造する(焼成工程)。上記混合された原料は、焼成の便宜上、ペレット状に加圧成形して焼成することが好ましい。焼成温度は、混合された原料の種類によって設定されるが、概して400℃以上、1000℃以下の温度範囲にて焼成を行うことができる。焼成を長時間行った場合、スピネル型化合物の全量が主結晶相中に拡散し、完全な固溶体が形成され、副酸化物が主結晶相に含有されないため、焼成時間の上限は16時間以下とすることが好ましい。一方、焼成を短時間にて行った場合、固溶体が形成されないため、焼成時間の下限は0.5時間以上であることが好ましい。
【0185】
上記焼成時間の範囲であれば、得られる正極活物質において、主結晶相の一部の元素と、副酸化物の一部の同一あるいは相違する金属元素からなる中間相が主結晶相と副酸化物の界面に存在することができる。このような界面が形成されれば、主結晶相と副酸化物とを強固に結合させることができるため、さらに割れなどが生じ難い正極活物質を得ることができる。
【0186】
なお、上記界面とは、主結晶相と副酸化物とが接している境界を示す。さらに、中間相とは、主結晶相と副酸化物との界面に存在する、主結晶相の元素と副酸化物の元素が混ざり合った領域を示す。中間相では、主結晶相及び副酸化物のそれぞれを構成する元素が、元素の種類ごとに異なる割合で混在する。中間相は、主結晶相及び副酸化物のいずれとも異なり、且つ主結晶相及び副酸化物を構成する元素の全てあるいは1部からなる、1種類あるいは複数種類の化合物で構成される。
【0187】
また中間相を構成する元素の割合は、場所が変われば変化し得る。例えば、中間相のうち、主結晶相に近い場所と、副酸化物に近い場所では、各元素の混在する割合は異なることが考えられる。
【0188】
焼成は空気雰囲気下で行ってもよく、空気中の酸素濃度を高めた雰囲気下で行ってもよい。また焼成工程は数回繰り返してもよい。その場合、1回目の焼成(仮焼成)温度と2回目以降の焼成温度を同じにしてもよいし、異なる温度で焼成してもよい。さらに、焼成を複数回繰り返す場合、複数の焼成工程の間に一旦試料を粉砕して再度ペレット状に加圧形成することもできる。
【0189】
正極活物質の製造方法としては、副酸化物の原料の一部を有するスピネル化合物であるZnSnOを単一相の状態で合成し、その後、リチウム源材料およびマンガン源原料とを混合して焼成する方法によって得られた正極活物質が、二次電池のサイクル特性を大きく向上させることできるため非常に好ましい。
【0190】
〔正極の製造〕
上述のようにして得られた正極活物質は、以下の公知の手順にて正極に加工される。正極は、上記正極活物質、導電剤、結着剤を混合した合剤を用いて形成される。
【0191】
上記導電剤としては公知の導電剤を用いることができ、特に限定されるものではない。一例として、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素類、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)粉末、金属粉末、金属繊維等を挙げることができる。
【0192】
上記結着剤としては公知の結着剤を用いることができ、特に限定されるものではない。一例として、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー等のポリオレフィン系ポリマー、スチレンブタジエンゴム等を挙げることができる。
【0193】
導電剤および結着剤の適切な混合比は、混合する導電剤および結着剤の種類により異なるため、一義的に設定することは困難であるが、概して正極活物質100重量部に対して、導電剤を1重量部以上、50重量部以下、結着剤を1重量部以上、30重量部以下とすることができる。
【0194】
導電剤の混合比が1重量部未満であると、正極の抵抗あるいは分極等が大きくなり、放電容量が小さくなるため、得られた正極を用いて実用的な二次電池が作製できないこととなる。一方、導電剤の混合比が50重量部を超えると正極内に含まれる正極活物質の混合比率が減少するため、正極としての放電容量が小さくなる。
【0195】
また、結着剤の混合比が、1重量部未満であると結着効果が発現しないおそれがある。一方、30重量部を超えると、導電剤の場合と同様に、電極内に含まれる活物質量が減り、さらに、上記に記載のように、正極の抵抗あるいは分極等が大きくなり、放電容量が小さくなるため実用的ではない。
【0196】
合剤には、導電剤や結着剤の他、フィラー、分散剤、イオン伝導体、圧力増強剤およびその他の各種添加剤を用いることができる。フィラーは、構成された二次電池において、化学変化を起こさない繊維状材料であれば特に限定されることなく用いることができる。通常、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラスなどの繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、上記合剤に対して0重量部以上、30重量部以下であることが好ましい。
【0197】
上記正極活物質、導電剤、結着剤、および、各種添加剤などを混合した合剤を正極として形成する方法としては、特に限定されるものではない。一例として、合剤を圧縮によってペレット状の正極を形成する方法、合剤に適切な溶媒を添加してペーストを形成し、このペーストを集電体上に塗布した後に、乾燥、さらに圧縮を行うことによってシート状の正極を形成する方法などが挙げられる。
【0198】
正極中の正極活物質から、または、正極活物質への電子の授受は、集電体によって行われる。このため、得られた正極活物質には集電体を配置する。上記集電体としては、金属単体、合金、炭素などが用いられる。例えば、チタン、アルミニウムなどの金属単体、ステンレス鋼などの合金、炭素などを挙げることができる。また、銅、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、チタン、銀の層が形成されたもの、または、銅、アルミニウムやステンレス鋼の表面を酸化した集電体を用いることもできる。
【0199】
集電体の形状は、箔の他、フィルム、シート、ネット、パンチされた形状を挙げることができ、集電体の構成としては、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体などを挙げることができる。集電体の厚さは1μm以上、1mm以下のものが用いられるが特に限定はされない。
【0200】
〔負極の製造〕
本発明の二次電池が有する負極は、リチウムを含有する物質若しくはリチウムを挿入または脱離可能な負極活物質を含むものである。換言すると、上記負極は、リチウムを含有する物質若しくはリチウムを吸蔵または放出可能な負極活物質を含むものということもできる。
【0201】
上記負極活物質としては公知の負極活物質を用いればよい。一例として、リチウム合金類:金属リチウム、リチウム/アルミ合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金、ウッド合金など、電気化学的にリチウムイオンをドープおよび脱ドープできる物質:導電性高分子(ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン等)、熱分解炭素、触媒の存在下で気相熱分解された熱分解炭素、ピッチ、コークス、タール等から焼成した炭素、セルロース、フェノール樹脂等の高分子より焼成した炭素など、リチウムイオンのインターカレーション/デインターカレーションの可能な黒鉛:天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など、および、リチウムイオンをドープ・脱ドープできる無機化合物:WO、MoOなどの物質を挙げることができる。これらの物質は、単独で用いてもよいし、複数種類からなる複合体を用いることもできる。
【0202】
これらの負極活物質のうち、熱分解炭素、触媒の存在下で気相熱分解された熱分解炭素、ピッチ、コークス、タール等から焼成した炭素、高分子より焼成した炭素などや、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等)を用いると、電池特性、特に安全性の面で好ましい二次電池を作製することができる。特に、高電圧の二次電池を作製するためには黒鉛を用いることが好ましい。
【0203】
負極活物質に導電性高分子、炭素、黒鉛、無機化合物等を用いて負極とする場合、導電剤と結着剤が添加されてもよい。
【0204】
導電剤には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素類や、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)粉末、金属粉末、金属繊維等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0205】
また、結着剤には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー等のポリオレフィン系ポリマー、スチレンブタジエンゴム等を用いることができるがこれに限定されるものではない。
【0206】
〔イオン伝導体および二次電池の形成方法〕
本発明に係る二次電池を構成するイオン伝導体は、公知のイオン伝導体を用いることができる。例えば、有機電解液、固体電解質(無機固体電解質、有機固体電解質)、溶融塩などを用いることができ、この中でも有機電解液を好適に用いることができる。
【0207】
有機電解液は有機溶媒と電解質とから構成される。有機溶媒として、非プロトン性有機溶媒であるプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの置換テトラヒドロフラン類、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタンなどのエーテル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、ギ酸メチル、酢酸メチルなどの一般的な有機溶媒を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0208】
また電解質として、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム、6フッ化砒酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ハロゲン化リチウム、塩化アルミン酸リチウム等のリチウム塩が挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して使用される。上述の溶媒に対し適切な電解質を選択し、両者を溶解することによって有機電解液を調製する。有機電解液を調製する際に使用する溶媒、電解質は、上記に掲げたものに限定されるものではない。
【0209】
固体電解質である無機固体電解質としては、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩などを挙げることができる。例えば、LiN、LiI、LiN−LiI−LiOH、LiSiO、LiSiO−LiI−LiOH、LiPO−LiSiO、硫化リン化合物、LiSiSなどを挙げることができる。
【0210】
固体電解質である有機固体電解質としては、有機電解液を構成する上記電解質と電解質の解離を行う高分子とから構成された物質、高分子にイオン解離基を持たせた物質などが挙げられる。
【0211】
電解質の解離を行う高分子として、例えば、ポリエチレンオキサイド誘導体もしくは該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体もしくは該誘導体を含むポリマー、リン酸エステルポリマーなどを挙げることができる。また、その他に上記非プロトン性極性溶媒を含有させた高分子マトリックス材料、イオン解離基を含むポリマーと上記非プロトン性電解液との混合物、ポリアクリロニトリルを上記電解液に添加する方法もある。また、無機固体電解質および有機固体電解質を併用する方法も知られている。
【0212】
二次電池内において、上記電解液を保持するためのセパレータとしては、電気絶縁性の合成樹脂繊維、ガラス繊維、天然繊維などの不織布、織布、ミクロポア構造材料、アルミナなどの粉末の成形体などが挙げられる。中でも合成樹脂のポリエチレン、ポリプロピレンなどの不織布、ミクロポア構造体が品質の安定性などの点から好ましい。これら合成樹脂の不織布およびミクロポア構造体には電池が異常発熱した場合、セパレータが熱により溶解して正極と負極の間を遮断する機能を付加したものもあり、安全性の観点からこれらも好適に使用することができる。セパレータの厚みは特に限定はないが、必要量の電解液を保持することが可能で、かつ正極と負極との短絡を防ぐ厚さがあればよい。通常、0.01mm以上、1mm以下程度のものを用いることができ、好ましくは0.02mm以上、0.05mm以下程度である。
【0213】
二次電池の形状はコイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型などいずれにも適用できる。コイン型およびボタン型の場合、正極および負極をペレット状に形成し、蓋を備える缶構造の電池缶に正極および負極を入れ、絶縁パッキンを介して蓋をかしめる(固定する)方法が一般的である。
【0214】
一方、円筒型および角型の場合、シート状の正極および負極を電池缶に挿入し、二次電池とシート状の正極および負極とを電気的に接続し、電解液を注入し、絶縁パッキンを介して封口板を封口する、または、ハーメチックシールにより封口板と電池缶とを絶縁して封口し二次電池を作製する。このとき、安全素子を備えつけた安全弁を封口板として用いることができる。安全素子には、例えば、過電流防止素子として、ヒューズ、バイメタル、PTC(positive temperature coefficient)素子などが挙げられる。また、安全弁のほかに電池缶の内圧上昇の対策として、ガスケットに亀裂を入れる方法、封口板に亀裂を入れる方法、電池缶に切り込みを入れる方法等を用いる。また、過充電や過放電対策を組み込んだ外部回路を用いてもよい。
【0215】
ペレット状またはシート状の正極および負極は、予め乾燥または脱水されていることが好ましい。乾燥および脱水方法としては、一般的な方法を利用することができる。例えば、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線及び低湿風等を単独あるいは組み合わせて用いる方法が挙げられる。温度は50℃以上、380℃以下の範囲であることが好ましい。
【0216】
上記電池缶への電解液の注入は、電解液に注入圧力を加える方法、負圧と大気圧との気圧差を利用する方法などが挙げられるが、上記に掲げた方法に限定されない。電解液の注入量も特に限定されないが、正極および負極とセパレータとが完全に浸る量であることが好ましい。
【0217】
作製した二次電池の充放電方法としては、定電流充放電方法、定電圧充放電方法および定電力充放電方法があり、電池の評価目的に応じて使い分けることが好ましい。上記方法は、単独あるいは組み合わせて充放電を行ってもよい。
【0218】
本発明に係る二次電池の正極は上記正極活物質を含んでいるため、Mnの溶出の低減が実現でき、サイクル特性が大きく向上された非水系二次電池を実現することができる。さらに、上記正極を用いて、放電容量の低下が生じ難い非水電解質二次電池を実現できる。
【0219】
なお、上述のように、本発明に係る二次電池の製造方法を詳述したが、本発明の複無機化合物系を用いて、公知の方法により熱電材料、磁性材料およびその他種々の分野における材料を製造することはもちろん可能である。
【実施例】
【0220】
以下、実施例により本発明に係る複無機化合物系を含む正極活物質についてさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において得られた2極式セル(二次電池)および正極活物質について以下の測定を行った。
【0221】
<充放電サイクル試験>
充放電サイクル試験は、得られた2極式セルに対し、電流密度が0.5mA/cm、電圧が3.2Vから4.3Vまでの範囲において、25℃および60℃の条件下において行った。
【0222】
25℃条件下では、6サイクル後から10サイクル後の放電容量の平均値を初期の放電容量とし、198サイクル後から202サイクル後の放電容量の平均値を200サイクル後の放電容量として、放電容量維持率は、{(200サイクル後の放電容量)/(初期の放電容量)}×100から算出した。
【0223】
一方、60℃条件下では、6サイクル後から10サイクル後の放電容量の平均値を初期の放電容量とし、98サイクル後から102サイクル後の放電容量の平均値を100サイクル後の放電容量として、放電容量維持率は、{(100サイクル後の放電容量)/(初期の放電容量)}×100から求めた。
【0224】
<HAADF‐STEM像の撮影>
得られた正極活物質の粉末を、主成分がシリコンである樹脂に取り付け、Gaイオンを用いて正極活物質を10μm角に加工した。さらに、Gaイオンビームを一方方向から照射することによって厚さが100nm以上、150nm以下のSTEM‐EDX分析用薄膜サンプルを得た。
【0225】
上記STEM―EDX分析用薄膜サンプルに対して電界放出型電子顕微鏡(HRTEM、HITACHI社製、品番HF−2210)を用いて、加速電圧を200kV、試料吸収電流を10−9A、ビーム径を0.7nmφに設定し、HAADF−STEM像を得た。
【0226】
<EDX‐元素マップの撮影>
STEM像の撮影にて、得たSTEM―EDX分析用薄膜サンプルに対して電界放出型電子顕微鏡(HRTEM、HITACHI社製、品番HF‐2210)を用いて、加速電圧を200kV、試料吸収電流を10−9A、ビーム径を1nmφに設定し、ビームを40分間照射することによってEDX−元素マップを得た。
【0227】
<電子エネルギー損失分光法におけるライン分析方法>
STEM像の撮影にて、得たSTEM−EDX分析用薄膜サンプルに対してエネルギー損失分析装置(GATAN社製、GIF Tridiem)を用いて、加速電圧200kV、ビーム径を0.7nmφに設定し、ビームを50秒照射することによって、電子エネルギー損失分光法におけるラインスペクトルを得た。なお、得られたラインスペクトルのエネルギー分解能の半値幅は約1.0eVで、ライン分析取り込み時間を2秒/pixelsであった。
【0228】
〔実施例1〕
亜鉛源材料として酸化亜鉛、スズ源材料として酸化スズ(IV)を用い、これらの材料を亜鉛とスズがモル比で2:1になるように秤量した後、自動乳鉢で5時間混合した。さらに、1000℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて焼成を行うことによって焼成物を得た。焼成後、得られた焼成物を自動乳鉢で5時間粉砕および混合し、スピネル型化合物を作製した。
【0229】
リチウム含有酸化物を構成するリチウム源材料として炭酸リチウム、マンガン源材料として電解二酸化マンガンを用い、これらの材料をリチウムおよびマンガンがモル比で1:2になるように秤量した。さらに、スピネル型化合物と主結晶相とが一般式Aにおいてx=0.05となるようにスピネル型化合物を秤量した。炭酸リチウム、電解二酸化マンガンおよびスピネル型化合物を自動乳鉢にて5時間混合し、550℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて仮焼成を行った(仮焼成工程)。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、粉体を得た。
【0230】
上記粉体をペレット状に成型した物を800℃、4時間、空気雰囲気の条件下にて焼成した(焼成工程)。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、正極活物質を得た。
【0231】
また、上記正極活物質を80重量部、導電剤としてアセチレンブラックを15重量部、および、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを5重量部の比率にて混合し、さらに、N−メチルピロリドンと混合することによりペーストにし、厚さ20μmのアルミニウム箔に厚さが50μm以上、100μm以下になるように塗布した。このペースト塗布物を乾燥後、ペースト塗布物を直径15.958mmの円盤状に打ち抜き、真空乾燥させることによって正極を作製した。
【0232】
一方、負極は、所定の厚さの金属リチウム箔を直径16.156mmの円盤状に打ち抜いて作製した。また、非水電解質としての非水電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比で2:1で混合された溶媒に、溶質であるLiPFを1.0mol/lの割合で溶解することにより調製した。なお、セパレータとしては厚さが25μmで空孔率が40%のポリエチレン製の多孔質膜を用いた。
【0233】
上述の正極、負極、非水電解液およびセパレータを用いて2極式セルを作製した。得られた2極式セルに対し、充放電サイクル試験を行った。初期放電容量およびサイクル試験後の容量維持率の25℃における測定結果を表1に、60℃における測定結果を表2に示した。また、得られた正極活物質に対してHAADF‐STEM像の撮影、電子エネルギー損失分光法におけるライン分析、およびEDX‐元素マップの撮影を行った。図2は、実施例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図である。図3は、実施例1にて得られた正極活物質の電子エネルギー損失分光法におけるライン分析結果を示すグラフである。図4は、実施例1にて得られた正極活物質のEDX−元素マップの撮影図である。
【0234】
HAADF−STEM像はビームが照射された部分の厚さ方向の全部を分析しているため、主結晶相に含まれるマンガンに対してスピネル型化合物に含まれる亜鉛およびスズが層状に形成されていることが図2から理解できる。このため、正極活物質において、スピネル型化合物(副酸化物)が形成され、存在していることが明確に理解できる。なお、第1領域2および第2領域3は主結晶相であり、第3領域4は副酸化物を示している。第1領域2、第2領域3および第3領域4のそれぞれの面積は、5nm以上、300nm以下であり、ナノ平方メートルオーダーであった。
【0235】
また、図3は図2の図中央部分に関して電子エネルギー損失分光法による測定を行い、その測定結果におけるスペクトル強度に関して二次微分を行ったライン分析結果を示すグラフである。この図より、ナノオーダーレベルでの元素の濃度分布の存在を確認することができる。特に、Mn元素に関して、二次微分の強度が上に凸となる領域が存在し、Li元素に関して、二次微分の強度が下に凸となる領域が存在した。この結果から、第1領域2および第2領域3と比較して第3領域4に濃度差があることが容易に判断できる。
【0236】
また、第1領域2、第2領域3および第3領域4でのそれぞれのLi濃度は、14.2%、12.8%、11.1であり、第1濃度DLi1、第2濃度DLi2および第3濃度DLi3の値を満たしていた。したがって、Li濃度は、本発明の正極活物質に係る好ましい値となっていた。
【0237】
一方、第1領域2、第2領域3および第3領域4でのMnの濃度は26.8%、24.1%、30.3%であり、第2濃度DMn2、第3濃度DMn3および第1濃度DMn1の値を満たしていた。したがって、Mn濃度も本発明の正極活物質に係る好ましい値となっていた。
【0238】
また、図4の右上図より、Znの存在を示す図中央部から右上部へ延びるZnの存在が顕著に示されている領域がある(実際の測定データでは黄色の領域として示されている)。これにより、ナノオーダーレベルでZnが存在する領域およびZnが存在しない領域を含んでいることが理解できる。
【0239】
〔実施例2〕
仮焼成工程後の焼成工程での焼成時間を4時間から12時間に変更した以外は、実施例1と同様の合成を行った。実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0240】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。その後、実施例1と同様の方法で撮影したHAADF−STEM像およびEDX−元素マップが、図5の像である。図5より、Znの存在を示す領域が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでZnが存在する領域およびZnが存在しない領域を含んでいることが理解できる。また、Snの存在を示す領域(実際の測定データでは紫色の領域として示されている)が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでSnが存在する領域およびSnが存在しない領域を含んでいることが理解できる。
【0241】
〔実施例3〕
仮焼成工程後の焼成工程での焼成時間を4時間から0.5時間に変更した以外は、実施例1と同様の合成を行った。実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0242】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。その後、実施例1と同様の方法で撮影したHAADF−STEM像およびEDX−元素マップが、図6の写真像である。図6より、Znの存在を示す領域が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでZnが存在する領域およびZnが存在しない領域が含まれていると理解できる。また、Snの存在を示す領域が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでSnが存在する領域およびSnが存在しない領域が含まれていると理解できる。
【0243】
〔実施例4〕
スピネル型化合物と主結晶相とが一般式Aにおいてx=0.10となるようにスピネル型化合物を秤量したこと以外は、実施例2と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0244】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。その後、実施例1と同様の方法で撮影したHAADF−STEM像およびEDX−元素マップが、図7の写真像である。図7より、Znの存在を示す領域が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでZnが存在する領域およびZnが存在しない領域が含まれていると理解できる。また、Snの存在を示す領域が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでSnが存在する領域およびSnが存在しない領域が含まれていると理解できる。
【0245】
〔実施例5〕
スピネル型化合物と主結晶相とが一般式Aにおいてx=0.02となるようにスピネル型化合物を秤量したこと以外は、実施例2と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0246】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。その後、実施例1と同様の方法で撮影したHAADF−STEM像およびEDX−元素マップが、図8の写真像である。図8より、Znの存在を示す領域が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでZnが存在する領域およびZnが存在しない領域を含んでいることが理解できる。また、Snの存在を示す領域が顕著に示されている領域がある。これにより、ナノオーダーレベルでSnが存在する領域およびSnが存在しない領域を含んでいることが理解できる。
【0247】
〔比較例1〕
スピネル型化合物を全く混合することなく、リチウム源材料として炭酸リチウム、マンガン源材料として電解二酸化マンガンを用い、これらの材料をリチウムとマンガンがモル比で1:2になるように出発物質の混合比を変化させた以外は、実施例1と同様の合成を行い、正極活物質を得た。さらに、実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示す。
【0248】
また、実施例1と同様の方法で、STEM−EDX分析用サンプルを得た。得られた正極活物質に対してHAADF‐STEM像の撮影、電子エネルギー損失分光法におけるライン分析、およびEDX‐元素マップの撮影を行った。図9は、比較例1にて得られた正極活物質のHAADF‐STEM像を示す図である。図10は、比較例1にて得られた正極活物質の電子エネルギー損失分光法におけるライン分析結果を示すグラフである。図11は、比較例1にて得られた正極活物質のEDX−元素マップの撮影図である。
【0249】
図9および図11より、実施例1〜5とは異なり、副酸化物を確認することはできなかった。さらに、EDX分析において元素が存在しない箇所に特定の元素が検出されているため、EDX分析で得られたZnおよびSnの元素マップはノイズによるものであることが確認できる。
【0250】
さらに、MnおよびLiに関する電子エネルギー損失分光法による測定を行い、その測定結果おけるスペクトル強度に関して二次微分を行ったライン分析結果を図10に示す。図10は、ライン分析結果を示すグラフである。この図より、MnおよびLiのスペクトルの二次微分に大きな変化はなく、MnおよびLiの強度に凸となる領域が存在しないことが理解できる。このことから、MnおよびLiの濃度は一様であり、正極活物質に濃度変化がないことがわかる。
【0251】
〔比較例2〕
主結晶相を構成する原料であるLiMnと、副酸化物を構成する原料であるZnSnOを95:5のモル比にて配合し、自動乳鉢にて5時間粉砕および混合することにより正極活物質を得た。この正極活物質は、製造過程で焼成を行っていない。そのため、当該正極活物質には第1領域および第2領域が存在するものの、実施例1の正極活物質と異なり、各領域の面積は300nmを大きく超えており、ナノ平方メートルオーダーではなくマイクロ平方オーダーで濃度分布がある構造であった。上記正極活物質を用いて実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0252】
〔比較例3〕
Li2CO、MnO、SnOを10:39:5のモル比にて配合し、自動乳鉢にて5時間混合した。その後、550℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて仮焼成を行った。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、粉体を得た。上記粉体をペレット状に成型した物を800℃、4時間、空気雰囲気の条件下にて焼成した。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、正極活物質を得た。当該正極活物質では、Snが均一に固溶しているため濃度分布が存在しなかった。上記正極活物質を用いて実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0253】
〔比較例4〕
LiCO、MnO、ZnOを10:39:5のモル比にて配合し、自動乳鉢にて5時間混合した。その後、550℃、12時間、空気雰囲気の条件下にて仮焼成を行った(仮焼成工程)。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、粉体を得た。上記粉体をペレット状に成型した物を800℃、4時間、空気雰囲気の条件下にて焼成した。その後、得られた焼成物を自動乳鉢にて5時間粉砕および混合し、正極活物質を得た。当該正極活物質では、Znが均一に固溶しているため濃度分布が存在しなかった。上記正極活物質を用いて実施例1と同様の方法で2極式セルを作製し、充放電試験を行った結果を表1および表2に示した。
【0254】
【表1】

【0255】
【表2】

【0256】
表1および表2から分かるように、実施例1〜5において良好な放電容量維持率を得る事ができた。特に、実施例1、3では、25℃および60℃での充放電サイクル試験結果にて、非常に良好な放電容量維持率を得る事ができた。また、実施例5では、25℃の放電容量維持率は良好な結果が得られている。
【0257】
一方、比較例1、2では、60℃での初期放電容量が高いものの、放電容量維持率が低い値となっており、この点で実施例1〜5に劣る結果となっている。また、比較例3、4は60℃での放電容量維持率は実施例5と同等であるものの、25℃での放電容量維持率は実施例5よりも劣っている。このため、比較例3、4の正極活物質は総合的に劣る結果となっている。
【0258】
以上のように、本発明に係る二次電池の正極は、正極材料として上記正極活物質を含んでいる。上記正極活物質では、上記主結晶相および上記副酸化物を構成する元素がナノ平方メートルオーダーで、互いに濃度の異なる第1領域および第2領域に少なくとも存在していることにより、上記正極活物質を使用した二次電池の高温におけるサイクル特性が改善されることがわかった。また、正極活物質において、副酸化物が正極活物質の粒子群の割れなどによる放電容量の低下を低減させることができる。したがって、本発明によれば、非常に高性能な二次電池を提供することができる。
【0259】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0260】
本発明の複無機化合物系によって製造される正極活物質は、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする電動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる非水電解液二次電池に適用可能である。
【符号の説明】
【0261】
1 複無機化合物系(または複酸化物系)
2 第1領域
3・3a・3b 第2領域
4・4a・4b 第3領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物から構成される主結晶相を含む複無機化合物系において、
上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副無機化合物を含むと共に、
上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、
上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、
上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なることを特徴とする複無機化合物系。
【請求項2】
上記無機化合物が無機酸化物であり、
上記主結晶相と同一の酸素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副酸化物を含むと共に、
上記主結晶相を構成する元素と上記副酸化物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、
上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、
上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なることを特徴とする請求項1に記載の複無機化合物系。
【請求項3】
上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第3領域にて存在しており、
上記第3領域は、上記第1領域および第2領域の少なくとも一方と隣接しており、
第3領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、
上記第1領域、第2領域および第3領域では、同種の元素の濃度が異なることを特徴とする請求項1または2に記載の複無機化合物系。
【請求項4】
上記第1領域、第2領域および第3領域の面積が、5nm以上、300nm以下であることを特徴とする請求項3に記載の複無機化合物系。
【請求項5】
複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、
複無機化合物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、
上記所定の元素に関する強度が凸状に増大していることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の複無機化合物系。
【請求項6】
複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、
複無機化合物系を構成する所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、
上記所定の元素の強度が凹状に減少していることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の複無機化合物系。
【請求項7】
複無機化合物系に対する電子エネルギー損失分光法のライン分析において、
所定の元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、
上記元素に関する強度が凸状に増大しており、
上記元素とは異なる元素に関する電子エネルギー損失分光法スペクトルの二次微分の強度を縦軸とし、複無機化合物系における測定距離を横軸とした場合、
上記異なる元素の強度が凹状に減少していることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の複無機化合物系。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の複無機化合物系を含むことを特徴とする非水系二次電池の正極活物質。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項に記載の複無機化合物系を含むことを特徴とする熱電変換材料。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか1項に記載の複無機化合物系を含むことを特徴とする磁性材料。
【請求項11】
無機化合物から構成される主結晶相を含む複無機化合物系の製造方法において、
主結晶相の原料である主結晶相原料と、
上記主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含む化合物あるいは単体とを焼成する焼成工程によって、
(1)上記主結晶相と同一の非金属元素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副無機化合物を含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副無機化合物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、
(2)上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、
(3)上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる複無機化合物系を製造することを特徴とする複無機化合物系の製造方法。
【請求項12】
上記無機化合物が無機酸化物であり、
主結晶相の原料である主結晶相原料と、上記主結晶相に固溶する金属元素を少なくとも1種以上含む化合物あるいは単体とを焼成する焼成工程によって、
(1)上記主結晶相を構成する元素と、上記主結晶相と同一の酸素配列を有し、かつ、主結晶相と異なる元素組成から構成される副酸化物とを含むと共に、上記主結晶相を構成する元素と上記副酸化物を構成する元素とが、第1領域および第2領域にて少なくとも存在しており、
(2)上記第1領域と第2領域とは隣接しており、第1領域の面積および第2領域の面積はナノ平方メートルオーダーであり、
(3)上記第1領域および第2領域では、同種の元素の濃度が異なる複無機化合物系を製造することを特徴とする請求項11に記載の複無機化合物系の製造方法。
【請求項13】
上記焼成工程では、上記化合物を分解することによって、主結晶相に固溶する金属元素が存在する主結晶相を形成することを特徴とする請求項11または12に記載の複無機化合物系の製造方法。
【請求項14】
副無機化合物の原料として主結晶相に含まれる元素、または、主結晶相に含まれる元素と、主結晶相の焼成時に複無機化合物系から排除される元素とからなる化合物とを焼成前に加えることを特徴とする請求項11または12に記載の複無機化合物系の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図10】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−18661(P2013−18661A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150935(P2011−150935)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】