説明

複雑な幾何形状のボスを含むピストンを有する内燃機関

本発明は、頂点(S)の円錐形の噴射層(28)として燃料を噴霧化する噴射装置(26)に関連付けられた燃焼ボウル(18)を含むピストン(14)がその中で滑動するシリンダ(12)を備え、噴射層(28)が、ボウル(18)の内壁(32)と接触する前にそれぞれ異なる長さを進行する非対称な噴流(30)から形成され、燃焼ボウル(18)が、主軸(A−A)と心合せされた側面環状溝(34)によって構成され、ボス(38)の延びる起点となる底部(36)が側面環状溝(34)に接続されている、機関(10)であって、ボス(38)が、底面が底部(36)の水平面内に含まれ、対称主軸(A−A)に心合せされ、かつ頂点(S’)が対称主軸(A−A)に関して噴射層(28)の頂点(S)と対称位置にある下側円錐台(38A)と、底面が下側円錐台(38A)の水平上面(56)によって形成され、かつ頂点が噴射層(28)の頂点(S)に相当する上側円錐台(38B)とで構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、その燃焼ボウルが複雑な幾何形状のボスを含むピストンを有する直接噴射式内燃機関に関する。
【0002】
上記内燃機関については、特にディーゼルタイプの圧縮点火式の自動車用の内燃機関の例が多数知られており、現在でもなお、消費量、ならびに排気出口において煙に含まれる窒素酸化物(NOx)やスス粒子などの汚染物質の放出を減らしながら、機関の性能を向上させる試みがなされている。
【0003】
機関の性能の向上は、吸気ガスと燃料との混合気の品質を向上させること、すなわち機関のシリンダの燃焼室内、特にピストンの燃焼ボウル内でほぼ均一な混合気を実現することによって得られる。
【0004】
直接噴射式機関の場合、組み合わせにより生成されるほぼ均一な混合気を得ることを可能にするために考慮されるべき主な現象は、基本的に、燃料の噴霧化、ならびにシリンダの軸とほぼ一致するかまたはそれに平行な軸の周りでの吸気ガスの「渦流」型の空気運動、さらには燃料の噴射によって発生する空気運動である。
【0005】
従来技術の一例を示す文献FR−A−2.844.012に記載された型式の直接噴射式内燃機関のシリンダを、図1に示した。
【0006】
内燃機関10は、シリンダヘッド24の下面22によって上部が画定される燃焼室20の下部を画定する燃焼ボウル18をその上面16内側に有するピストン14が、その中で垂直な軸X−X方向に滑動する少なくとも1つのシリンダ12と、シリンダ12の軸X−Xから偏心し、頂点Sを有するほぼ円錐形の噴射層28の形で燃料を噴霧化する噴射装置26とを備え、噴射層28は、燃焼ボウル18の内壁32と接触する前にそれぞれ異なる長さを進行する複数の非対称噴流30から形成され、燃焼ボウル18は、対称主軸A−Aと心合せされた側面環状溝34によって構成され、所定の全高Hにわたって垂直方向に延びるボス38の起点となるほぼ水平な底部36が側面環状溝34に接続される。
【0007】
そのような機関10においては、燃焼室20内で得られる空気/燃料混合気の特性は、噴射装置26により燃料が噴射室20内に噴射されるナップ角(ε)と呼ばれるナップの開度、ならびに噴射装置と協働する燃焼ボウル18の相補形状に直接依存することが知られている。
【0008】
より詳細には、本発明は、一般的に、各シリンダ内に1つの吸気弁と1つの大径排気弁とが設置されることでシリンダ毎に2つの弁を含む内燃機関のように、燃料噴射装置がシリンダの垂直軸X−Xから偏心した位置に配設されている機関に関する。
【0009】
このように噴射装置が偏心している、すなわち中心から外れていると、それぞれ異なる燃料噴流が非対称的に噴射されるために、特に混合気の品質が影響をうけ、混合気は燃焼ボウル18の全体において所望されるほど均質にはならない。
【0010】
図1に示されるように、それぞれ異なる燃料噴流30は、燃焼ボウル18の内壁32と接触する前に、それぞれ異なる長さ、すなわち「自由長」を進行するという意味において非対称形である。
【0011】
より詳細には、長噴流30aと呼ばれる第1部分の噴流は、行程すなわち長さ「L」を進行するが、短噴流30bと呼ばれる第2部分の噴流30bは長さ「l」を進行し、中噴流30cと呼ばれる第3部分の噴流30cはLとlとの間の平均長さを進行し、その後、燃料噴流30a、30bおよび30cはそれぞれ溝34の内壁32に接触する。
【0012】
したがって、燃焼ボウル18は、長さlの短噴流30bが、壁32と接触した後に、閉じ込められ、それ自体で曲がり込み、それによって噴流の重なりを引き起こすことにより、全体的に燃料が濃厚な第1ゾーンAと、長さLの長噴流30aがほとんど浸入せず、したがって全体的に空気が濃厚で燃料が希薄な底部36近傍の第2ゾーンBとを含む。
【0013】
したがって、燃料噴流30の非対称性により燃料および吸気ガスの分布に不均衡が生じ、その結果、燃焼ボウルのこのような幾何形状は満足できないものになる。
【0014】
事実、均質でない空気−燃料混合気は特に煙を発生させる。
【0015】
さらに、ボス38は、通常燃焼ボウル18の対称主軸A−Aを中心とする回転形状を有するので、非対称な噴流30相互間で、また特に長噴流30aおよび中噴流30cとボス38の頂点部分との間で干渉が生じるという大きなリスクが存在する。
【0016】
このような干渉のリスクを制限するために、噴射立体角(ε)を大きくすることにより特に噴射層の開度を変更することが提案された。しかしながら、これは、特に、全体的に空気が濃厚で燃料が希薄な第2ゾーンBにおいて、空気−燃料混合気の品質に大きな影響を与えるので、満足できる解決策ではない。
【0017】
別の公知の方法によれば、干渉のリスクを制限するためにボスの体積を減らすことが提案されたが、そうすると、所望する圧縮比を犠牲にして燃焼ボウルの体積がその分比例して増加することになり、所望の圧縮比が得られなくなる。
【0018】
したがって、このような方法は満足できるものではない。
【0019】
このような理由から、燃焼ボウルおよびボスの幾何形状および配置、並びに関連する噴射装置によって噴霧化される燃料噴流の分布を最適化する試みがなされた。
【0020】
本発明は、これらの不都合を解消し、燃焼ボウルが特にボウル全体において均質で、燃料噴流とボスの頂点部分との間に干渉がない、空気−燃料混合気を得ることを可能にする、複雑な幾何形状のボスを有するピストンを含む内燃機関を提供することを目的とする。
【0021】
この目的のために、本発明は、ボスが、
− 底面が、底部の水平面内に含まれ、対称主軸に心合せされ、かつ頂点が、対称主軸に関して噴射層の頂点と対称位置にある下側円錐台と、
− 底面が、下側円錐台の水平上面によって形成され、かつ頂点が、垂直基準軸が通る噴射層の頂点に相当する上側円錐台と
を有して構成されることを特徴とする、上で記載した種類の自動車用内燃機関を提供する。
【0022】
本発明により、噴射された燃料と内燃機関の吸気ガスとの間の交換が改善され、窒素酸化物(NOx)、スス、その他排気出口で黒煙となる未燃炭化水素などの汚染物質の形成を低減させながら、機関の性能が向上する。
【0023】
本発明のその他の特徴によれば、
− ボスの下側円錐台は、ふくらみ率が連続的に変化する下側壁を含み、この下側壁は、少なくとも
・ 垂直基準軸に心合せされ、最短噴流により画定される噴射層の扇形にほぼ相当する、所定の第1扇形上を延びる下側壁の第1部分と、
・ 垂直基準軸に心合せされ、最長噴流により画定される噴射層の扇形にほぼ相当する、所定の第2扇形上を延びる下側壁の第2部分と
を含み、
− 下側壁の第1部分は、主軸を通る垂直断面内に、直線状の傾斜したプロフィルを有し、その第1勾配と呼ばれる勾配が、水平底部から延びて、最短噴流が側面環状溝の内壁の方向に自然に曲がるのを回避するように決定されており、
− 下側壁の第2部分は、主軸を通る垂直断面内に、直線状の傾斜したプロフィルを有し、その第2勾配と呼ばれる勾配が、少なくとも第2扇形における側面環状溝の体積が第1扇形における側面環状溝の体積未満になるように、第1勾配より大きくなっており、
− ボスの上側円錐台は、噴射層の噴流とボスの上側壁との間の干渉を回避するように連続的に変化するふくらみ率を有する上側壁を含み、
− 上側円錐台の水平上面の高さ(h)は、ボウルの底部からボスの頂点までのボスの全高の半分に等しく、
− 噴射時に噴流とボスの頂点との間に干渉が生じないようにボスの全高が決められ、
− ボスは、ピストンの少なくとも1回のフライス加工作業によって作製され、
− 燃焼ボウルの対称主軸はシリンダの垂直軸X−Xと同一であり、
− ピストンは、機関内において、噴射装置の関連する噴射層のパラメータに応じて割り出される所定の動作位置にピストンを取り付けることができるようにするための、角度割り出し手段を含む。
【0024】
本発明の他の特徴および長所は、以下の説明を添付の図を参照しながら読むことで、より明らかになるであろう。
【0025】
発明の詳細な説明および特許請求の範囲においては、「上側」および「下側」などの表現、並びに「軸方向」、「垂直」、「横」などの方向については、非限定的なものとして使用する。
【0026】
さらに、同一の要素、同様の要素、または類似する要素は、同じ符号で表すことにする。
【0027】
以下において、直接噴射式内燃機関10の一部、特に機関10のシリンダの1つ12を示す図2について、従来技術を示す図1と比較しながら説明することにする。
【0028】
シリンダ12は垂直な対称軸X−Xに沿って軸方向に延びて内径を画定し、この内径中でピストン14が往復運動により軸方向に滑動する。
【0029】
ピストン14は、軸方向に上側のヘッド40および下側のスカート42を含み、ヘッド40の円筒形外壁44は、セグメント48を受ける外周環状溝46を含む。
【0030】
ピストン14は、その上側水平面16内側に、空洞とも呼ばれる燃焼ボウル18を含み、このボウルは、軸方向において燃焼室20の下部を画定し、燃焼室20の上部は、機関のシリンダヘッド24の下面22の一部分によって画定される。
【0031】
シリンダヘッド24は、吸気弁(図示せず)が挿入された入り口オリフィスを介して燃焼室20内に開口する少なくとも1つの吸気管路と、排気弁(図示せず)が挿入されるようになっている出口オリフィスを介して燃焼室20内に開口する少なくとも1つの燃焼ガス排気管路とを含む。
【0032】
シリンダヘッド24は、特に大径弁の設置が可能になるように、シリンダ12の垂直軸X−Xから偏心した少なくとも1つの燃料噴射装置26を支承する。
【0033】
噴射装置26は、機関の燃焼室20内に直接開口する噴射ノズル50を具備し、燃焼ボウル18の方向に燃料を噴霧化する噴射穴52を含む。
【0034】
穴52は例えば軸方向に1列に配置され、噴射ノズル50周りで噴射装置の主軸C−Cに対して環状に分布している。
【0035】
有利には穴52の数は6以上であり、好ましくは穴52は噴射装置26の主軸C−C周りに環状に等間隔で分布する。
【0036】
有利には、内部をピストン14が滑動するシリンダ12の軸X−Xのできるだけ近くで燃料の噴射が行われ、ここでは、噴射装置26の主軸C−Cをシリンダ12の垂直軸X−Xに対して傾斜させることにより、噴射装置26のノズル50がシリンダの軸X−Xに近付けられる。
【0037】
燃料は、ほぼ円錐形の噴射層28の形で穴52から噴霧される。円錐形の噴射層28は、頂点Sによって画定され、この頂点Sは、特に噴射穴52に応じて決まり、ここでは噴射装置26のノズル50のほぼ末端に位置する仮想原点に相当する。
【0038】
燃料の非対称形噴流30の全体は、頂点Sを起点として、噴射層28の開度を決定する噴射立体角(ε)に従って延びる。
【0039】
燃焼ボウル18は、対称主軸A−Aに心合せされた側面環状溝34を含む。
【0040】
対称主軸A−Aは、ここでは、垂直に延び、すなわちシリンダ12の軸X−Xと同軸に延びる。
【0041】
燃焼ボウル18がシリンダ12および機関10のピストン14に心合せされるように、燃焼ボウル18の対称主軸A−Aはシリンダ12の垂直軸X−Xと同一であることが好ましい。
【0042】
燃焼ボウル18は、ほぼ水平で深さが一定な底部36を含み、この底部からボス38が、ある所定の高さHまで垂直にまたは軸方向に延びる。
【0043】
「深さ」とは、ここでは、底部36と、ボウル18の開度を画定する上側円形縁部54を含むピストン14の上部水平表面16との間の軸方向寸法を意味する。
【0044】
上側円形縁部54は、燃焼ボウル18の「リップ」と呼ばれることもあり、ここでは対称主軸A−Aに心合せされた円形プロフィルを有する。
【0045】
(図示しない)一変形形態では、上側円形縁部54は、2005年1月19日に出願人が出願した未公開のフランス特許出願第0550156号に記載されているタイプの非対称形プロフィルを有する。
【0046】
頂点Sの噴射層28の噴射立体角(ε)は、特に、直径または深さ等の関連する燃焼ボウル18の幾何パラメータに応じて決まる。
【0047】
非対称形噴流30は、例えば、ある行程を、つまり短噴流30bの場合は長さl、長噴流30aの場合は長さL、すなわち異なる長さを進行した後、燃焼ボウル18の環状溝34の内壁32に接触する。
【0048】
燃焼ボウル18の軸A−Aに心合せされたタイプの噴射装置26と比較すると、偏心噴射装置26の非対称形噴流30は、これらの噴流が進行する長さLが燃焼ボウル18の半径を上回るときは一般に長噴流30aと呼ばれ、進行する長さlが燃焼ボウル18の半径を下回るときは短噴流30bと呼ばれ、燃焼ボウル18の半径Rにほぼ等しい、Lとlとの中間の長さを進行するときは、中噴流30cと呼ばれる。
【0049】
本発明によれば、ボス38は、底面が、底部36の水平面内に含まれ、対称主軸A−Aに心合せされており、かつ頂点S’が、対称主軸A−Aに関して噴射層28の頂点Sと対称位置にある下側円錐台38Aと、底面56が、下側円錐台38Aの水平上面によって形成され、かつ頂点が、垂直基準軸B−Bが通る噴射層28の頂点に相当する上側円錐台38Bとを有して構成される。
【0050】
図3は、本発明による複雑な幾何形状のボス38の詳細図であり、またボス38を形成する円錐台38Aおよび38Bにそれぞれ対応する、頂点S’およびSをそれぞれ有する理論的円錐台を示している。
【0051】
図3および図4に示されるように、ボス38の下側円錐台38Aは、ふくらみ率が連続的に変化する下側壁58を含み、この下側壁58は、少なくとも
− 最短噴流30bにより画定される噴射層28の扇形にほぼ相当する所定の第1扇形(α)上を延びる下側壁の第1部分60と、
− 最長噴流30aにより画定される噴射層28の扇形にほぼ相当する所定の第2扇形(β)上を延びる下側壁の第2部分62と
を含む。
【0052】
好ましくは、扇形(α)および(β)は、円錐形噴射層28の頂点Sを通る垂直基準軸B−Bに心合せされる。
【0053】
有利には、下側壁58の第1部分60は、主軸A−Aを通る垂直断面内に、第1勾配と呼ばれる勾配が水平底部36から延びて、当該勾配が最短噴流30bが側面環状溝34の内壁32の方向に自然に曲がるのを回避するように決定される、傾斜したプロフィルを有する。
【0054】
同様に、下側壁の第2部分62は、主軸A−Aを通る垂直断面内に、側面環状溝34の体積が、少なくとも第2扇形(β)において、第1扇形(α)における側面環状溝34の体積より小さくなるように、第2勾配と呼ばれる勾配が第1勾配を上回る、傾斜したプロフィルを有する。
【0055】
下側壁58の第1部分60および第2部分62の各傾斜したプロフィルは、有利には、断面が直線状であり、フライス加工によって得られる。
【0056】
ボス38の上側円錐台38Bは、ふくらみ率が連続的に変化する上側壁64を含む。すなわち、軸A−Aを通る垂直断面を軸A−A周りで連続的に回転させた場合に、とりわけ現在対象となっている扇形に沿って垂直断面における上側壁の勾配が連続的に変化する、傾斜したプロフィルを有する。
【0057】
上側壁64のふくらみ率は、噴射層28の噴流30とボス38の上側壁64との干渉を回避するように決定される。
【0058】
したがって、非対称形噴流30a、30bおよび30cのいずれか1つとボス38の上側壁64との間における一切の干渉を回避するために、上側円錐台38Bの上側壁64は、噴射層28の非対称形噴流30によって形成される円錐の体積内にそっくり含まれるのが有利である。
【0059】
有利には、ふくらみ率が連続的に変化する上側円錐台38Bの上側壁64は、少なくとも
− 最短噴流30bにより画定される噴射層28の扇形にほぼ相当する所定の第1扇形(θ)上を延びる上側壁64の第1部分66と、
− 最長噴流30aにより画定される噴射層28の扇形にほぼ相当する所定の第2扇形(Ω)上を延びる上側壁64の第2部分68と
を含む。
【0060】
上側壁64の第1部分66は、主軸A−Aを通る垂直断面内に、溝34の内壁32からボス38の頂点に向かって短噴流30bが発達できるようにするために、第3勾配と呼ばれる勾配が、下側壁58の第1部分60の第1勾配と連続するように決められた、傾斜したプロフィルを有する。
【0061】
上側壁64の第2部分68は、主軸A−Aを通る垂直断面内に、第4勾配と呼ばれる勾配が、噴流30との干渉、特に長噴流30a、および中間的長さの中噴流30cとの干渉を回避するように決められた、傾斜したプロフィルを有する。
【0062】
上側壁64の第1部分66および第2部分68のそれぞれの傾斜したプロフィルは、有利には直線であり、フライス加工によって得られる。
【0063】
本発明によるボス38のおかげで、特に、ボウル18の全体内での体積の分布が噴射層28のパラメータに応じて最適化され、したがって所与の燃焼ボウル18の総体積について最適な圧縮比が得られる。
【0064】
複雑な幾何形状のボス38により、同じ体積の場合、すなわち等体積で、図1に示すような従来技術の燃焼ボウル18と比べて、空気および燃料の最適な混合を得ることが可能になる。
【0065】
事実、ボス38は、ボウルの体積が、有利には径方向に分布して、また内部で空気および燃料が混合される側面環状溝34の体積によってほぼ構成されるように、中心の軸X−X周わりにより大きな材料体積を有する。
【0066】
したがって、本発明により、等体積で、より直径が大きい燃焼ボウル18を実現することができる。
【0067】
有利には、側面環状溝34の体積は、例えば、通常全体的に空気が濃厚で燃料が希薄な、図1の第2ゾーンBに相当する下側壁58の第2部分62の第2扇形(β)においてより小さい。
【0068】
その結果、ボス38の複雑な幾何形状により、第2ゾーンB内において、燃料に対する空気の体積を低減し、それにより、より均質な空気−燃料混合気を得る目的で空気−燃料比を再度均衡させることが可能になる。
【0069】
さらに、側面環状溝34の体積は、径方向で第2ゾーンBに対向する図1の第1ゾーンAに相当する、下側壁58の第1部分60の第1扇形(α)において、より大きい。
【0070】
その結果、ボス38の複雑な幾何形状により、空気と燃料との比を再度均衡させることにより、より均質な混合気が得られるように、反対に、一般に燃料が全体的に濃厚なこの第1ゾーンAに存在する空気の体積を増加させることが可能となる。
【0071】
好ましくは、上側円錐台38Bの底面を形成する下側円錐台38Aの水平上面56の高さhは、ボス38の全高Hの半分、すなわち、ボウル18の底部36からボス38の頂点部分70までの垂直方向の軸方向寸法の半分にほぼ等しい。
【0072】
有利には、ボス38の頂点部分は、凸面に対する変形形態として、全体的に水平な上面70を形成するように、フライス加工によって加工される。
【0073】
したがって、水平上面70により、噴射時に燃料噴流30とボス38の頂点部分との間に干渉が生じない、ボス38の全高Hが決まり、この頂点部分は、垂直方向で、噴射層28の頂点Sから一定の最小距離のところにある。
【0074】
有利には、燃焼ボウル18およびボス38は、特にNCフライス盤を用いてピストン14をフライス加工することによって作製される。
【0075】
燃焼ボウル18の対称主軸A−Aはシリンダ12の対称垂直主軸X−Xと同一であるので、燃焼ボウル18および下側円錐台38Aは、有利には、シリンダ12およびピストン14に対して心合せされる。
【0076】
(図示しない)一変形形態では、燃焼ボウル18の対称主軸A−Aは、シリンダ12の軸X−Xと、噴射層28の頂点Sを通る垂直基準軸B−Bとの距離を短縮するように、シリンダ12の軸X−Xから偏心している。
【0077】
有利には、ピストン14は、機関10内の、関連する噴射装置26の噴射層28のパラメータに応じて割り出すことが可能な所定の動作位置にピストン14を取り付けることができるようにするための、角度割り出し手段(図示せず)を含む。
【0078】
有利には、機関10は、均質な空気−燃料混合気の形成を促進するために、吸気時に、シリンダ12内に「渦流」型の整然とした渦流運動を発生させるための手段を含む。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】従来技術による燃焼ボウルを具備するピストンを含む内燃機関のシリンダの軸方向略断面図である。
【図2】本発明による複雑な幾何形状のボスを含む燃焼ボウルを具備するピストンを含む、図1の内燃機関と同様の内燃機関のシリンダの軸方向略断面図である。
【図3】重ねると本発明によるボスを得ることができる下側円錐台および上側円錐台にそれぞれ相当する理論的円錐を示す、図2によるピストンの燃焼ボウルの軸方向略断面図である。
【図4】本発明による複雑な幾何形状のボスの相補形噴射円錐層を詳細に示す斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室(20)の下部を画定する燃焼ボウル(18)をその上面(16)内側に含むピストン(14)がその中で軸方向に滑動する、垂直な軸(X−X)を有する少なくとも1つのシリンダ(12)と、軸(X−X)から偏心し、頂点(S)のほぼ円錐形の噴射層(28)の形で燃料を噴霧化する噴射装置(26)とを備え、前記噴射層(28)が、燃焼ボウル(18)の内壁(32)と接触する前にそれぞれ異なる長さを進行する複数の非対称な噴流(30)から形成され、前記燃焼ボウル(18)が対称主軸(A−A)と心合せされた側面環状溝(34)によって構成され、所定の全高(H)にわたって垂直方向に延びるボス(38)の起点となるほぼ水平な底部(36)が前記側面環状溝(34)に接続される、直接噴射式内燃機関(10)において、
ボス(38)が、
底面が、底部(36)の水平面内に含まれ、対称主軸(A−A)に心合せされ、かつ頂点(S’)が、対称主軸(A−A)に関して噴射層(28)の頂点(S)と対称位置にある下側円錐台(38A)と、
底面が、下側円錐台(38A)の水平上面(56)によって形成され、かつ頂点が、垂直基準軸(B−B)が通る噴射層(28)の頂点に相当する上側円錐台(38B)と
を有して構成されることを特徴とする直接噴射式内燃機関。
【請求項2】
ボスの下側円錐台(38A)が、ふくらみ率が連続的に変化する下側壁(58)を含み、前記下側壁(58)が、少なくとも
垂直基準軸(B−B)に心合せされ、最短噴流(30b)により画定される噴射層(28)の扇形にほぼ相当する、所定の第1扇形(α)上を延びる下側壁(58)の第1部分(60)と、
垂直基準軸(B−B)に心合せされ、最長噴流(30a)により画定される噴射層(28)の扇形にほぼ相当する、所定の第2扇形(β)上を延びる下側壁(58)の第2部分(62)と
を含むことを特徴とする請求項1に記載の機関(10)。
【請求項3】
下側壁(58)の第1部分(60)が、主軸(A−A)を通る垂直断面内に、直線状の傾斜したプロフィルを有し、その第1勾配と呼ばれる勾配が、水平底部(36)から延びて、最短噴流(30b)が側面環状溝(34)の内壁(32)の方向に自然に曲がるのを回避するように決定されていることを特徴とする請求項2に記載の機関(10)。
【請求項4】
下側壁(58)の第2部分(62)が、主軸(A−A)を通る垂直断面内に、傾斜したプロフィルを有し、その第2勾配と呼ばれる勾配が、少なくとも第2扇形(β)における側面環状溝(34)の体積が第1扇形(α)における側面環状溝(34)の体積未満になるように、第1勾配より大きくなっていることを特徴とする請求項3に記載の機関(10)。
【請求項5】
ボス(38)の上側円錐台(38B)が、噴射層(28)の噴流(30a、30b、30c)とボス(28)の上側壁(64)との間の干渉を回避するように、連続的に変化するふくらみ率を有する上側壁(64)を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の機関(10)。
【請求項6】
下側円錐台(38A)の水平上面(56)の高さ(h)が、ボウル(18)の底部(36)からボス(38)の頂点(70)までのボス(38)の全高(H)の半分に等しいことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の機関(10)。
【請求項7】
噴射時に噴流(30a、30b、30c)とボス(38)の頂点(70)との間に干渉が生じないようにボス(38)の全高(H)が決められることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の機関(10)。
【請求項8】
ボス(38)が、ピストン(14)の少なくとも1回のフライス加工作業によって作製されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の機関(10)。
【請求項9】
燃焼ボウル(18)の対称主軸(A−A)が、シリンダ(12)の垂直軸(X−X)と同一であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の機関(10)。
【請求項10】
ピストン(14)が、機関内において、噴射装置(26)の関連する噴射層(28)のパラメータに応じて割り出される所定の動作位置にピストン(14)を取り付けることができるようにするための、角度割り出し手段を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の機関(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−518574(P2009−518574A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543874(P2008−543874)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【国際出願番号】PCT/FR2006/051244
【国際公開番号】WO2007/066027
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】