説明

視線移動量測定方法

【課題】累進屈折力レンズにおける眼球下転量の測定を、簡単、安価かつ精度高く実施できる眼球下転量測定方法を提供すること。
【解決手段】載置台50に眼鏡100がセットされると、図示しない制御手段により、フレーム支持部材52が移動し、眼鏡レンズ10の遠用アイポイントラインFLと載置面511の位置合わせラインPLとが一致する位置で停止する。次に、インクジェット法により、第一のマーク31、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34を形成する(マーク形成工程)。装着者は、眼鏡100を実際に装着した状態で、近用アイポイントに最も近い線を、第二のマーク32の複数の線の中から判定する(判定工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの視線移動量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人が物を見る際、側方あるいは上下方を見るために頭を回転させたり目を回転させたりする(以降、視覚動作という)。このような頭の回転角度や目の回転角度は個人に特有のものであり、このような個人の視覚動作に対応した眼鏡レンズの設計方法や調整方法が種々提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
累進屈折力レンズは、遠方視に対応する屈折力(度数)を持つ遠用部領域と近方視に対応する屈折力を持つ近用部領域とを備えた非球面レンズである。遠用部領域はレンズの上方位置に設定され、近用部領域はレンズの下方位置に設定され、これら両領域の間で屈折力が累進的に変化する累進帯を備えている。これらの領域には境目がなく1枚のレンズで遠くのものから近くのものまで見ることができる。遠用部領域、近用部領域および累進帯は、個々の使用目的(遠近重視、中近重視、近々重視、フルタイム使用、パートタイム使用、静的使用、動的使用など)に合わせて調整を行う必要がある(光学的フィッティング)。光学的フィッティングの中でも、累進屈折力レンズにおいては眼球下転量が重要である。眼球下転量とは、眼鏡装着者が水平視した状態でのレンズ上の視線位置を遠用アイポイントとし、近用視線の状態でのレンズ上の視線位置を近用アイポイントとしたとき、遠用アイポイントから近用アイポイントまでの距離である。
【0004】
眼鏡装着者に対して眼鏡調整を行う場合、単焦点レンズの場合は、眼鏡情報(検眼情報、眼鏡フレーム情報、眼鏡レンズ情報)を各個体(顔の形や大きさ、首の太さ、鼻、耳、眼の相対位置や形等)に適合させる工学的フィッティングを実施する。一方、累進屈折力レンズの場合は、工学的フィッティングのほかにも、上述の光学的フィッティングを実施する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−523244号公報
【特許文献2】特表2008−521027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2では、頭および眼球運動測定装置を用いて定量的な値を求め、これらの値に基づいて個々に最適なレンズを提供することができるものの、累進屈折力レンズにおける近用アイポイントの決定には、頭および眼球運動だけでなく姿勢も大きく関与するため、精度の高い近用アイポイントを決定することが困難な場合がある。
また、特許文献1および特許文献2のような眼球運動の測定は、お客様に対して時間的な検査負荷が大きすぎるといった問題や、検査機器が高価すぎるという問題もある。
【0007】
本発明の目的は、累進屈折力レンズにおける視線移動量の測定を、簡単、安価かつ精度高く実施できる視線移動量測定方法を提供することである。ここで、視線移動量とは、眼球下転量を含む量である。すなわち、眼球下転量は視線移動量の1種である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の視線移動量測定方法は、装着者が実際に装着する眼鏡フレームに装着される眼鏡レンズの遠用アイポイントから視線を移動させたときの視線移動量を測定する方法であって、前記眼鏡レンズの表面に前記遠用アイポイントを示す第一のマークを形成し、前記眼鏡レンズの表面の前記視線移動があると予測される領域に判定マークを形成するマーク形成工程と、このマーク形成工程で形成した判定マークと各視線方向との一致度を判定する判定工程と、を備えることを特徴とする
【0009】
ここで、視線移動量とは、眼鏡レンズの遠用アイポイントから近用アイポイントまでの距離である眼球下転量と、眼鏡レンズの遠用アイポイントから鼻側および耳側への眼球移動距離である眼球内転量および眼球外転量を含むものである。
この発明では、遠用アイポイントを示す第一のマークと、視線移動があると予測される領域に形成される判定マークと、を眼鏡レンズの表面に形成する。遠用アイポイントは、眼鏡を装着して水平視したときの視線が通る位置であり、測定が容易であるので予めその位置を確定させ、確定させた位置に第一のマークを形成する。また、判定マークは、例えば、眼鏡レンズの下方や側方に位置する。装着者は、このようなマークが形成された眼鏡を実際に装着し、視線移動をしたときの視線と、判定マークの位置との一致度を判定する。なお、一致度の判定は、視線と判定マークが一致するか否か、または視線が判定マークからどの程度離れているかにより行う。
このようにして、判定マークを基準として眼鏡レンズ上での視線の位置を確定させ、遠用アイポイントを示す第一のマークから判定マークまでの距離と、上記一致度と、に基づいた視線移動量を求めることができる。
【0010】
これによれば、装着者が実際に装着する眼鏡フレームを用いて眼鏡レンズ上での視線の位置を確定するので、装着者の視覚動作(眼や頭の動き)だけでなく、装着者が物を見るときの姿勢や癖にも応じた精度の高い測定を行うことができる。
また、測定は、視線移動したときの視線が眼鏡レンズの判定マークとの一致度を判定するだけでよい。したがって、装着者に負担をかけずに簡単に測定を行うことができるとともに、安価に実施することができる。
【0011】
本発明の視線移動量測定方法において、前記判定マークは、前記眼鏡レンズの表面の前記近用アイポイントがあると予測される領域に形成される第二のマークであり、前記第二のマークは、少なくとも隣り合う線が異なる色となる複数の線で形成され、前記判定工程は、前記複数の線のうち、最も前記近用アイポイントに近い線を判定することが好ましい。
【0012】
この発明では、判定マークとして、近用アイポイントと予想される領域に第二のマークを眼鏡レンズの表面に形成する。第二のマークは、少なくとも隣り合う線が異なる色となる複数の線で形成されている。これらの複数の線は、それぞれ異なる色に配色することがより好ましい。判定工程では、近用アイポイントと一致する線、または近用アイポイントに最も近い線を第二のマークの複数の線の中から判定する。
このようにして、第二のマークを基準として近用アイポイントの位置を確定させ、遠用アイポイントを示す第一のマークから第二のマークまでの距離と、上記一致度と、に基づいた視線移動量を求めることができる。
【0013】
これによれば、測定は、近方視したときの視線(近用アイポイント)が眼鏡レンズの第二のマークとの一致度を判定するだけでよいので、装着者に負担をかけずに簡単に測定を行うことができる。
また、第二のマークが色の異なる複数の線で形成されるので、装着者には色を認識しやすく、近用アイポイントがどの線と一致するかの判定を容易に行うことができる。近用アイポイントがどの線とも一致しない場合でも近用アイポイントがどの線に最も近いかを判定することが容易となる。また、近用アイポイントとなる候補が複数あるので、近用アイポイントの位置をより正確に特定することができ、精度の高い測定を行うことができる。
【0014】
本発明の視線移動量測定方法において、前記第二のマークは、前記複数の線を、それぞれ前記遠用アイポイントを通過して水平方向に延びる水平注視野と平行に形成することが好ましい。
【0015】
この発明では、第二のマークである複数の線が水平注視野と平行に形成されているので、装着者が実際に眼鏡を装着して測定を行う際に、近用アイポイントと複数の線のいずれかとの一致度の判定を容易に行うことができる。
【0016】
本発明の視線移動量測定方法において、前記判定マークは、前記遠用アイポイントを通過して水平方向に延びる水平注視野の一端を構成する位置に形成される第三のマークおよび前記水平注視野の他端を構成する位置に形成される第四のマークであることが好ましい。
【0017】
この発明では、判定マークとして、遠用アイポイントを通過して水平方向に延びる水平注視野の両端を構成する位置に第三のマークおよび第四のマークが形成される。
したがって、装着者はこれらのマークが形成された眼鏡レンズを装着して水平視した状態から左右を見たときに、第三のマークおよび第四のマークを基準にして最も右、または最も左に見える位置を判定する。すなわち、眼鏡レンズに形成された第三のマークおよび第四のマークを基準にして、視線の位置を確定させる。
これによれば、装着者が実際に装着する眼鏡フレームを用いて、水平注視野の両端の位置を判定するので、装着者の視覚動作(眼や頭の動き)だけでなく、装着者が物を見るときの姿勢や癖にも応じた精度の高い測定を行うことができる。
【0018】
本発明の視線移動量測定方法において、前記第三のマークおよび前記第四のマークは、それぞれ前記水平注視野と直交する複数の線から構成されることが好ましい。
【0019】
この発明では、第三のマークおよび第四のマークが複数の線で構成されるため、水平注視野の両端となる候補が複数となり、水平注視野の両端の位置を正確に特定することができ、精度の高い測定を行うことができる。また、装着者は、視線が複数の線のうちのいずれかと一致するか、または最も近いかを判定するだけでよいので、簡単に測定を行うことができる。
【0020】
本発明の視線移動量測定方法において、前記マーク形成工程は、前記遠用アイポイントと前記近用アイポイントとの間に形成される累進帯の領域にブラインド用のマークを形成することが好ましい。
【0021】
この発明では、眼鏡レンズの累進帯に相当する領域にブラインド用のマークを形成する。このブラインド用のマークは不透明であり、このマークを通して物を見ることはできない。
したがって、装着者が実際に眼鏡を装着して遠方視から近方視へ視線を移動する際に、ブラインド用のマーク(累進帯の領域)で物を見ないようにする訓練を簡単に行うことができる。特に、装着者への累進帯の説明がより簡単となる。
【0022】
本発明の視線移動量測定方法において、前記マーク形成工程は、前記遠用アイポイントと前記近用アイポイントとの間にある累進帯とこの累進帯の両側に形成される収差部との境界部分に境界用のマークを形成することが好ましい。
【0023】
眼鏡レンズの累進帯の両側に形成される収差部を通して物をみると物が二重に見えたりするため、この領域で物を見ないようにする必要がある。
この発明では、このような収差部に沿って境界用のマークを形成するので、装着者が、収差部で物を見ないようにする訓練を行うのが容易となる。また、このようなレンズを理解するのに役立つ。すなわち、販売店等で装着者に眼鏡レンズの使い方の指導を簡単に行うことができる。また、このような眼鏡レンズを用いれば、装着者の訓練にも役立つ。
【0024】
本発明の視線移動量測定方法において、前記マーク形成工程は、インクジェットを用いてインクを眼鏡レンズに直接形成することが好ましい。
【0025】
この発明では、眼鏡レンズの表面にマークを形成するためにインクジェットを用いる。インクジェットを用いれば、微細なパターンを容易に形成することができるので、所望の形状のパターンを手間をかけることなく簡単に形成することができる。また、インクジェットは、眼鏡レンズの表面に直接インクを塗布することができるため、煩雑な前処理等を行う必要がない。さらに、眼鏡レンズに塗布したインクは、簡単かつ完全に除去することができるため、装着者が実際に使用する眼鏡レンズ(レンズ設計後の眼鏡レンズ)に直接マークを形成し、訓練用として使用した後、インクを除去して日常用として用いることができるので、汎用性が高い。
【0026】
本発明の視線移動量測定方法において、前記マーク形成工程は、インクジェットでそれぞれ異なる色の複数の線を眼鏡レンズに形成することが好ましい。
この発明によれば、インクジェットを用いるので、それぞれ色の異なる複数の線を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態にかかる視線移動量測定冶具を貼り付ける累進屈折力レンズを示す概略図。
【図2】本発明の実施形態において眼鏡レンズにマークを形成した状態を示す平面図。
【図3】前記実施形態においてインクジェットを用いて眼鏡レンズにマークを形成する様子を示す正面図。
【図4】本発明の他の実施形態において眼鏡レンズに形成されたマークを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、眼鏡レンズとして累進屈折力レンズを使用する。また、眼鏡を装着した場合の鉛直方向を眼鏡レンズの上下方向、眼鏡を装着した場合の水平方向を眼鏡レンズの左右方向として説明する。
【0029】
〔第1実施形態〕
(1.眼鏡レンズ)
図1に示すように、眼鏡レンズ10となる累進屈折力レンズは、上方に位置する遠用部領域11と、下方に位置する近用部領域12と、これら遠用部領域11と近用部領域12との間に位置する累進帯13と、累進帯13の両側に隣接して形成される収差部である側方領域14と、を有している。
【0030】
遠用部領域11は、遠方視するのに適した相対的にプラス度数の低い平均度数を備えている。特に、装着者が正面視をした場合に瞳中心を通る水平線(つまり視線)が通過する位置を遠用アイポイントFPとし、遠用アイポイントFPを通過して左右方向に延びる直線を遠用アイポイントラインFLとする。
【0031】
近用部領域12は、近方視(例えば、読書)するのに適した相対的にプラス度数の高い平均度数を備えている。特に、装着者が近方視(下方視)した場合の視線が通過する位置を近用アイポイントNPとし、近用アイポイントNPを通過して左右方向に延びる直線を近用アイポイントラインNLとする。
【0032】
累進帯13は、遠用部領域11と近用部領域12との間で相対的なプラスの平均加入度数が累進的に変化する領域である。
側方領域14は、非点収差領域と呼ばれるエリアである。側方領域14を通して見ると物が二重に見えたりするため、通常、装着者は側方領域14を通して物を見ない。
【0033】
眼鏡レンズ10は、このような累進屈折力レンズを成形加工することにより得られ、得られた眼鏡レンズ10は眼鏡フレーム20に装着されて眼鏡100となる(図2参照)。
眼鏡フレーム20は、眼鏡レンズ10を装着して枠状に取り囲むフレーム枠21と、左右のフレーム枠21を連結するブリッジ22と、フレーム枠21からヒンジを介して回動可能に取り付けられたテンプル23と、を備えている。
【0034】
次に、眼鏡レンズ10の表面に形成されたマークについて説明する。
図2に示すように、眼鏡レンズ10は、遠用アイポイントFPを示す第一のマーク31と、近用アイポイントと予測される領域に形成される第二のマーク32と、遠用アイポイントを通過して眼鏡レンズ10の左右方向に延びる水平注視野の一端を構成する第三のマーク33と、水平注視野の他端を構成する第四のマーク34と、を有している。
【0035】
第一のマーク31は、遠用アイポイントFPの位置を示す遠用アイポイントFPを通過して眼鏡レンズ10の左右方向に直線状に延びる遠用アイポイントラインFLである。遠用アイポイントFPは、装着者が眼鏡100を実際に装着した状態で水平視した場合に視線が通る位置であり、予めその位置が確定されている。
第二のマーク32は、近用アイポイントNPがあると予測される領域(図1の近用部領域12)に形成され、遠用アイポイントラインFLと平行な複数の線で形成される。これらの複数の線は、互いに異なる色の線で構成される。具体的には、眼鏡レンズ10の中心側から順に、線32B(黒)、線32R(赤)、線32G(緑)、線32Y(黄)、線32P(紫)の5本の線で構成される。
【0036】
第三のマーク33は、眼鏡レンズ10における水平注視野の外側の一端に形成された複数の線である。これらの複数の線は、遠用アイポイントラインFLとは直交する方向に直線状に延び、眼鏡レンズ10の中心側から順に、線33B(黒)、線33R(赤)、線33G(緑)、線33Y(黄)、線33P(紫)の5本の線で構成される。
第四のマーク34は、眼鏡レンズ10における水平注視野の内側の一端に形成された複数の線である。これらの複数の線は、遠用アイポイントラインFLと直交する方向に直線状に延び、眼鏡レンズ10の中心側から順に、線34B(黒)、線34R(赤)、線34G(緑)、線34Y(黄)、線34P(紫)の5本の線で構成される。
【0037】
第一のマーク31、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34として形成された複数の線は、それぞれ幅が0.5mm、隣り合う線と線との間隔が0.5mmに形成される。また、各線は、それぞれが異なる色に配色された透明な線である。
ここで、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34は本発明における判定マークである。
【0038】
(2.マークの形成方法)
眼鏡レンズ10の表面に上述の第一のマーク31、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34を形成する方法について説明する。
まず、図2および図3に示すように、装着者が実際に装着する眼鏡100を載置台50にセットする。
載置台50は、眼鏡100を載置したときに眼鏡レンズ10と対向する載置面511を上面として有する直方体状に形成されたベース51と、このベース51の載置面511に沿って一方向に移動自在に設けられ、眼鏡100を適切な位置で支持するフレーム支持部材52と、を備えている。
【0039】
ベース51は、載置面511に垂直に立設された対向する一組の第1側面部512、および対向する別の一組の第2側面部513を有している。眼鏡100は、眼鏡レンズ10の外面が上向きとなる状態に、眼鏡レンズ10が装着されたフレーム枠21が載置面511に載置されるとともに、左右のテンプル23はそれぞれ対向する第1側面部512に沿う状態とされる。載置面511は、平面状に形成されており、載置面511に載置された眼鏡100は載置面511に沿って一方向に移動可能となっている。
また、第1側面部512の上部、すなわち載置面511の近傍には、載置面511と平行に、凹状の切欠部514が直線状に形成されている。
【0040】
フレーム支持部材52は、第2側面部513の左右方向の長さ以上の長さを有する長尺状の部材である。フレーム支持部材52は、その両端がU字状(フック状)に折り曲げられた係合部521を形成している。両方の係合部521の先端は、ベース51の切欠部514に係合し、眼鏡レンズ10の上下方向に移動自在とされている。フレーム支持部材52は、フレーム枠21の下辺211に接した状態で移動することにより、眼鏡100の位置を調整する。なお、眼鏡レンズ10の遠用アイポイントFPと載置面511上の位置合わせラインPLとの位置合わせは、位置合わせラインPL上に遠用アイポイントFPが来たことを検知可能な検知手段を設けることにより行うことができる。
【0041】
載置台50に眼鏡100がセットされると、図示しない制御手段により、フレーム支持部材52が移動し、眼鏡レンズ10の遠用アイポイントラインFLと載置面511の位置合わせラインPLとが一致する位置を検知手段が検知して停止する。
次に、インクジェット法により、上述の第一のマーク31、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34を形成する。図3に示すように、インクジェットヘッド40のノズル41からインクを噴出し、上述の第一のマーク31、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34を眼鏡レンズ10に直接印刷する(マーク形成工程)。
【0042】
(3.視線移動量測定方法)
本実施形態では、視線移動量として、眼球下転量と、水平注視野で示される眼球内転量および眼球外転量と、を測定するものである。
まず、眼球下転量を測定する方法について説明する。
装着者は、第一のマーク31、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34が形成された眼鏡100を装着し、まず、水平視したときの視線が遠用アイポイントFPと一致するか否かを確認する。一致しない場合は、再度遠用アイポイントの位置を調整する。
次に、装着者は、近方視したとき(例えば、読書をしている状態)の視線が通る位置(近用アイポイントNP)に最も近い線を、第二のマーク32の複数の線の中から判定する(判定工程)。複数の線にはそれぞれ色がつけられているので、色の名前を答えればよい。最も近用アイポイントNPに近い線が緑色である場合は、第一のマーク31である遠用アイポイントラインFLから線32Gまでの距離が眼球下転量(視線移動量)の長さLとなる。
【0043】
次に、水平注視野を測定する方法について説明する。
装着者は、水平視した状態で、眼鏡レンズ10に設けられた第三のマーク33である複数の線のうちどの線まで見えるかを判定する。また、眼鏡レンズ10に設けられた第四のマーク34である複数の線のうちどの線まで見えるかを判定する。そして、判定された線と線との距離が水平注視野となる。具体的には、第三のマーク33のうち赤色の線33Rまで見えたと判定され、第四のマーク34のうち黄色の線34Rまで見えたと判定された場合は、線33Rと線34Rとの距離が水平注視野の距離(視線移動量)となる。
【0044】
(4.第1実施形態の作用効果)
以上のような本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
第1実施形態では、眼鏡レンズ10に第一のマーク31および第二のマーク32を形成し、該眼鏡レンズ10を装着者が実際に装着する眼鏡フレーム20に取り付けて、眼球下転量(視線移動量)の測定を行う。
したがって、装着者が実際に使用する眼鏡フレームを装着した状態で測定を行うことができるので、装着者の頭および眼球運動(視覚動作)だけでなく、装着者の姿勢にも応じた測定を行うことができる。すなわち、各個人に最適な眼球下転量(視線移動量)を精度高く測定することができる。
【0045】
また、第1実施形態では、眼鏡レンズ10に第三のマーク33および第四のマーク34をさらに形成し、水平注視野の長さ(視線移動量)を測定している。
したがって、装着者が実際に使用する眼鏡フレームを装着した状態で測定を行うことができるので、装着者の物を見るときの視覚運動および姿勢に応じた測定結果を得ることができる。すなわち、各個人に最適な水平注視野(視線移動量)を精度高く測定することができる。
【0046】
さらに、第1実施形態では、第二のマーク32は、互いに異なる色の複数の線で形成されている。したがって、候補が複数あることにより、近用アイポイントNPの正確な位置を判定することができる。
同様に、第三のマーク33および第四のマーク34は、それぞれ互いに異なる色の複数の線で形成されている。したがって、候補が複数あることにより、水平注視野の端部を正確に判定することができる。
【0047】
また、装着者は見える色を判定するだけでよいので認識が容易となり、装着者に負担をかけることなく簡単に測定を行うことができる。
また、各線は透明であるので、装着者が眼鏡を装着して測定するときに違和感を感じることなく自然な測定を行うことができる。
【0048】
また、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34は、互いに異なる色の複数の線で形成されているので、装着者は、測定時に実際に認識できた色を判定するだけでよい。したがって、装着者に負担をかけることなく簡単に測定を行うことができるため、販売店等で特別な技術を持たない人でも簡単に測定を行うことができ、有用性が高い。
【0049】
さらに、第1実施形態では、眼鏡レンズ10に第一のマーク31、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34を形成するため、インクジェット法を用いて直接眼鏡レンズ10に所定のパターンを形成している。インクジェット法を用いれば、微細なパターンを容易に形成することができるため、測定実施者は、眼鏡100を載置台50に載置するだけで簡単にマークを形成することができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、図4(A)に示すように、眼鏡レンズ10の累進帯に相当する領域に、ブラインド35が形成されている。
ブラインド35は、不透明なエリアであり、このエリアで透視することはできない。
【0051】
このような第2実施形態によれば、上述の第1実施形態と同様の作用効果のほかに、以下の作用効果を奏することができる。
累進屈折力レンズの累進帯では物を見るのに適しないため、装着者は累進帯で物を見ないようにする必要がある。第2実施形態では、累進帯に相当する領域に不透明なブラインド35が形成されているので、装着者は累進帯という領域の場所を容易に認識することができる。また、累進帯(ブラインド35)では物を見ないようにする訓練を容易に行うことができる。
したがって、販売店等で装着者に対して累進屈折力レンズの説明を行う際、説明および指導を簡単に行うことができる。
【0052】
〔変形例〕
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
【0053】
上記実施形態では、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34を複数の線としたが、これに限られない。
例えば、図4(B)に示すように、第二のマーク32、第三のマーク33および第四のマーク34をそれぞれ1本の線で構成してもよい。これによれば、より簡単かつ短時間でマークを形成することができる。また、レンズ設計後の眼鏡レンズにこのようなマークを形成することにより、実際に使用する眼鏡レンズで物を見るための指導を容易に行うことができる。また、装着者は、眼鏡レンズに形成されたマークを参考にしながら、視線の移動の訓練等をより簡単に行うことができる。
【0054】
また、図4(C)に示すように、累進屈折力レンズの側方領域14に相当する領域に不透明のブラインド36を形成してもよい。側方領域14は物を見るのに適さないため、ブラインド36を設けることで、装着者はその領域を容易に認識することができる。したがって、累進屈折力レンズに慣れていない装着者に対して、より簡単に指導を行うことができる。また、側方領域14を通して物を見ないようにする訓練を容易に行うことができる。
さらに、図4(D)に示すように、上述の変形例を組み合わせた形状にしてもよい。このような眼鏡レンズは、累進屈折力レンズの使用方法の装着者への指導を容易にする。
【0055】
また、上記実施形態では、インクジェット法を用いて眼鏡レンズに各種マークを形成したが、眼鏡レンズに各種マークを形成する方法はこれに限られず、種々の印刷方法で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、累進屈折力レンズにおける視線移動量を簡単に測定する方法として、眼鏡の販売店等で広く利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10…眼鏡レンズ、20…眼鏡フレーム、100…眼鏡、31…第一のマーク、32…第二のマーク、33…第三のマーク、34…第四のマーク、50…載置台、51…ベース、52…フレーム保持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装着者が実際に装着する眼鏡フレームに装着される眼鏡レンズの遠用アイポイントから視線を移動させたときの視線移動量を測定する方法であって、
前記眼鏡レンズの表面に前記遠用アイポイントを示す第一のマークを形成し、前記眼鏡レンズの表面の前記視線移動があると予測される領域に判定マークを形成するマーク形成工程と、
このマーク形成工程で形成した判定マークと各視線方向との一致度を判定する判定工程と、
を備えることを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の視線移動量測定方法において、
前記判定マークは、前記眼鏡レンズの表面の前記近用アイポイントがあると予測される領域に形成される第二のマークであり、
前記第二のマークは、少なくとも隣り合う線が異なる色となる複数の線で形成され、
前記判定工程は、前記複数の線のうち、最も前記近用アイポイントに近い線を判定することを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の視線移動量測定方法において、
前記第二のマークは、前記複数の線を、それぞれ前記遠用アイポイントを通過して水平方向に延びる水平注視野と平行に形成することを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の視線移動量測定方法において、
前記判定マークは、前記遠用アイポイントを通過して水平方向に延びる水平注視野の一端を構成する位置に形成される第三のマークおよび前記水平注視野の他端を構成する位置に形成される第四のマークであることを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の視線移動量測定方法において、
前記第三のマークおよび前記第四のマークは、それぞれ前記水平注視野と直交する複数の線から構成されることを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の視線移動量測定方法において、
前記マーク形成工程は、前記遠用アイポイントと前記近用アイポイントとの間に形成される累進帯の領域にブラインド用のマークを形成することを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の視線移動量測定方法において、
前記マーク形成工程は、前記遠用アイポイントと前記近用アイポイントとの間にある累進帯とこの累進帯の両側に形成される収差部との境界部分に境界用のマークを形成することを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の視線移動量測定方法において、
前記マーク形成工程は、インクジェットを用いてインクを眼鏡レンズに直接形成することを特徴とする視線移動量測定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の視線移動量測定方法において、
前記マーク形成工程は、インクジェットでそれぞれ異なる色の複数の線を眼鏡レンズに形成することを特徴とする視線移動量測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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