説明

親水処理剤

【課題】親水化性能及び防汚性に優れた親水処理剤を提供する。
【解決手段】固体表面にコーティングすることで該固体表面に対する水の接触角を低下させる親水処理剤であって、アセチレングリコール1分子あたりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数が3.5〜50であるアセチレングリコールのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド付加物を含有することを特徴とし、さらに好ましくはカルボン酸系ポリマーを併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理面に親水性を付与して、汚垢を付着し難くすると同時に、一旦付着した汚垢を容易に除去できるように表面処理することが可能な親水処理剤に関し、さらに詳しくは、陶磁器、ガラス等の表面;ステンレス等の金属表面;ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、メラミン、レーヨン等のプラスチック表面;羊毛等の天然素材表面等の固体表面の親水化処理に好適な親水処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、便器等の固体表面に汚垢が付着するのを防止するコーティング剤として、特許文献1に記載されているように、フッ素系両親媒性物質を含有するものが知られている。
【0003】
上記コーティング剤は、固体表面に疎水性を付与する疎水処理剤であり、処理後の固体表面は撥水性を発揮するようになるため、例えば、65〜70%もの水分を含む大便のような含水汚垢の付着を効果的に抑制することが可能となる。
【特許文献1】特開2000−144177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記コーティング剤においては、いったん汚垢が固体表面に付着してしまうと、水洗によって汚垢を除去するのは、コーティング処理されていない表面よりも逆に困難であるという問題が生じていた。
【0005】
その原因について本発明者が種々検討を行なったところ、以下の理由が考えられた。すなわち、上記コーティング剤は水に接触する環境で使用されるため、コーティング剤中に含まれるフッ素系両親媒性物質は水に溶解または分散する性質を有することが必要とされる。
【0006】
つまり、フッ素系両親媒性物質は、疎水性と親水性の両方の性質を備えており、このような化合物によって処理された固体表面は、確かに撥水性は発揮するものの、脂肪酸のような油分をはじく程度にまで疎水化されるには至らない。
【0007】
一方、従来、便器等の固体表面用の親水処理剤として、固体表面の汚垢の付着を防止することを目的として、水の接触角を低くすることができる各種界面活性剤を配合したものが提案されている。確かに、固体表面の水接触角を低くすることは、固体表面の汚垢の付着を防止する上で有効である。しかしながら、水接触角を低くなるように固体表面を処理することは、一度付着した汚垢の除去性には関連性がなく、水接触角を低くした硬質表面に一旦汚垢が付着するとその汚垢の除去が逆に困難になる場合もあることが分かっている。その原因については、現時点で明らかではないが、汚垢が大便の場合を例に挙げると、以下の理由が考えられる。即ち、水接触角を低くなるように処理された便器表面は、空気が介在する雰囲気において、大便に含まれる油性成分を反発することができる。しかしながら、水接触角を低くなるように処理された便器表面に、一旦大便が付着すると、該便器表面と大便との界面は、空気が介在しない雰囲気となり、該界面では、空気が介在する雰囲気とは全く異なる物理化学的作用が働く。このように、一旦大便が付着した場合、その大便の易除去性については、便器表面と大便との間に介在する化合物の種類や性質等によって大きく異なる。そのため、水接触角が低くなるように処理された便器表面に、一旦大便が付着すると、その大便の易除去性については類推すらできない。
【0008】
そこで、本発明は、親水化性能に優れた親水処理剤を提供することを目的とする。特に、本発明は、固体表面に汚垢が付着するのを防止する作用(以下、「汚垢難付着性」と表記することもある)、及び一旦汚垢が固体表面に付着しても、その汚垢を除去し易くする作用(以下、「汚垢易除去性」と表記することもある)を併せ持つ親水処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らが検討を行なった結果、一般式(1)
【0010】
【化1】

(式中、R1〜R4は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は水素を示し、m及びnは整数であり、m+nの平均値が3.5〜50であり、RはC24又はC36を示す。)
で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物が、固体表面に対して優れた親水化性能を有していることを見出した。具体的には、この化合物によって親水化処理された固体表面は水の接触角が低下し、固体表面が水に濡れやすくなることで固体表面に汚垢が付着し難くなると共に、この化合物によって親水化処理された固体表面に一旦汚垢が付着しても、水洗で容易に除去することが可能であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本願発明は、固体表面にコーティングすることで固体表面に対する水の接触角を低下させる親水処理剤であって、上記一般式(1)で表されるアセチレングリコールのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド付加物(以下、アセチレングリコール系化合物と表記する)を含有する親水処理剤を提供するものである。
【0012】
より具体的には、本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供するものである:
項1. 固体表面にコーティングすることで該固体表面に対する水の接触角を低下させる親水処理剤であって、下記一般式(1)
【0013】
【化2】

(式中、R1〜R4は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は水素を示し、m及びnは整数であり、m+nの平均値が3.5〜50であり、RはC24又はC36を示す。)
で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物を含有することを特徴とする親水処理剤。
項2. さらにカルボン酸系ポリマーを含有することを特徴とする項1記載の親水処理剤。
項3. 前記カルボン酸系ポリマーが、(メタ)アクリル酸系ポリマーであることを特徴とする請求項2記載の親水処理剤。
項4. 前記(メタ)アクリル酸系ポリマーが、下記一般式(2)で示す(メタ)アクリル酸系モノマーと、下記一般式(3)で示す(メタ)アリルエーテル系モノマーとの共重合体である項3記載の親水処理剤。
一般式:CH2=C(R5)−COOX ・・・・(2)
一般式:CH2=C(R6)−CH2−O−CH2−CH(Y)−CH2−Z・・・・(3)
(式中、R5およびR6は、水素原子又はメチル基を表し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基のいずれかを表し、YおよびZの少なくとも一方はスルホン酸基(但し、1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、若しくは有機アミン基の塩を含む。)であり、他方は水酸基又はスルホン酸基である。)
項5. 防汚洗浄剤である、項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤。
項6. トイレ用防汚洗浄剤である、項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤。
項7. 水洗により洗浄される硬質表面用の防汚剤である、項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤。
項8. 水洗により洗浄される硬質表面用の防汚洗浄剤である、項5に記載の親水処理剤。
項9. トイレ便器用の防汚洗浄剤である、項8に記載の親水処理剤。
項10. 項1〜9のいずれかに記載の親水処理剤を、水洗により洗浄される固体表面にコーティングすることを特徴とする、防汚方法。
項11. 項1〜9のいずれかに記載の親水処理剤を固体表面にコーティングした後に、前記固体表面に付着した汚垢を、洗浄水で水洗することを特徴とする、洗浄方法。
項12. 項1〜9のいずれかに記載の親水処理剤を固体表面にコーティングした後、前記固体表面に付着した汚れを前記親水処理剤を含有する洗浄水で洗い流すことを特徴とする防汚洗浄方法。
項13. 項1〜9のいずれかに記載の親水処理剤を便器表面にコーティングした後、前記便器表面に付着した汚れを前記親水処理剤を含有する洗浄水で洗い流すことを特徴とするトイレ便器の防汚洗浄方法。
【0014】
本発明において、「防汚」とは、固体表面に対して汚垢難付着性と汚垢易除去性を付与させることを意味する。また、「洗浄」とは、固体表面に付着している汚垢を除去することを意味する。更に、「防汚洗浄」とは、固体表面に対して汚垢難付着性と汚垢易除去性を付与すると共に、固体表面に付着している汚垢を除去して固体表面を洗浄することを意味する。
【0015】
I.親水処理剤
本発明の親水処理剤の使用対象となる固体表面の素材については、特に制限されないが、例えば、陶磁器、ガラス等の表面;ステンレス等の金属表面;ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、メラミン、レーヨン等のプラスチック表面;羊毛等の天然素材表面等の固体表面等が挙げられる。中でも、陶磁器の表面、ガラス表面;ステンレス等の金属表面;ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、メラミン、レーヨン等のプラスチック表面等の硬質表面が好ましい。
【0016】
また、水洗(水流洗浄)による洗浄は、擦り洗いや浸け洗い等の場合と異なり、一般に洗浄効果が低いため、水洗により洗浄される硬質表面は、汚垢を付着し難くしておくと共に、一旦汚垢が付着してもその除去が容易であるように処理されていることが重要であると考えられている。かかる課題と、本発明の作用効果に鑑みれば、本発明の親水処理剤は、水洗により洗浄されている硬質表面に対する親水処理剤として有用である。ここで、水洗により洗浄される硬質表面としては、具体的には、トイレの便器表面、浴槽の表面、窓ガラス、タイル、外壁、車のボディー等が挙げられる。これらの中で、本発明の親水処理剤は、トイレ便器の表面に対して特に好適に使用される。なお、本発明において、「水洗による洗浄」とは、洗浄水を流し、その水流により洗浄することを意味し、擦り洗いや浸け置き洗いとは区別されるものである。ここで、洗浄水は、水に限定されず、洗浄成分や防汚成分を含む水溶液であってもよい。
【0017】
本発明の親水処理剤は、前記一般式(1)で表されるアセチレングリコール系化合物を含有することを特徴とするものである。
【0018】
一般式(1)中、R1〜R4は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は水素を示し、m及びnは整数であり、m+nの平均値が3.5〜50であり、RはC24又はC36を示す。
【0019】
ここで、R1〜R4の炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec−ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基等が例示される。一般式(1)において、好ましくは、R1及びR4がイソブチル基であり、且つR2及びR3がメチル基であるものが挙げられる。
【0020】
また、アセチレングリコール系化合物は、アセチレングリコールのアルキレン(炭素数2〜3)オキサイド付加物であり、アセチレングリコールにアルキレンオキサイドを付加した際のポリアルキレンオキサイドの具体的な形態としてはポリエチレンオキサイドを挙げることができる。
【0021】
また、ポリエチレンオキサイドとは別のポリアルキレンオキサイドの形態としては、親水化性能が低下しない範囲でポリエチレンオキサイドの代わりにポリプロピレンオキサイドを採用してもよいし、ポリエチレンオキサイドにおいてエチレンオキサイドの一部をプロピレンオキサイドに置き換えたものを採用することも可能である。アセチレングリコール系化合物全体におけるアセチレングリコール1分子あたりのアルキレンオキサイド単位の平均付加モル数は3.5モル〜50モルである。アルキレンオキサイドの平均付加モル数が上記範囲内であれば、所望の効果を奏することができ、しかも環境温度による物質形態の変化がなく、取り扱いが容易である。環境温度による粘度変化を抑制して取扱いを容易にさせ、且つ本発明の効果を一層効率的に奏させるという観点から、上記平均付加モル数は10モル〜30モルが好ましい。
【0022】
本発明の親水処理剤は、使用時のアセチレングリコール系化合物の濃度が、例えば0.05〜10000ppm、好ましくは0.1〜1000ppmとなるように水等の適当な溶剤で希釈されて、固体表面に適用される。本発明の親水処理剤は、使用時のアセチレングリコール系化合物の濃度が上記範囲内となるように設計されている限り、該親水処理剤中のアセチレングリコール系化合物の配合割合については特に制限されないが、通常、該剤の総量に対して、1〜100重量%、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは5〜30重量%となる割合が例示される。
【0023】
本発明に係る親水処理剤は、アセチレングリコール系化合物を含有することを特徴とするものであるが、さらにカルボン酸系ポリマーを加えることにより相乗的に汚垢難付着性を高める(固体表面に対する水の接触角を低下させる)と共に汚垢易除去性をも向上させることが可能となる。
【0024】
カルボン酸系ポリマーは、カルボキシル基を有するポリマーを意味し、例えば、カルボキシル基を有する不飽和カルボン酸又はその塩を重合することによって得られる。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸等の一塩基酸や、マレイン酸、フマル酸等の多塩基酸が挙げられる。重合体は、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。その中でも特に、(メタ)アクリル酸又はその塩を重合させて得られる(メタ)アクリル酸系ポリマーが、に汚垢難付着性や汚垢易除去性を高める効果が大きい点で好ましい。カルボン酸系ポリマーとしては、重量平均分子量が1000以上のものを用いると特に相乗効果が高くなる。
【0025】
また、(メタ)アクリル酸系ポリマーの中でも、下記一般式(2)で示す(メタ)アクリル酸系モノマーと、下記一般式(3)で示す(メタ)アリルエーテル系モノマーとの共重合体(以下、アクリル酸・スルホン酸共重合体塩という)が特に好ましい。
一般式:CH2=C(R5)−COOX・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
一般式:CH2=C(R6)−CH2−O−CH2−CH(Y)−CH2−Z・・・・(3)
(式中、R5およびR6は、水素原子又はメチル基を表し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基のいずれかを表し、YおよびZの少なくとも一方はスルホン酸基(但し、1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、若しくは有機アミン基の塩を含む。)であり、他方は水酸基又はスルホン酸基である。)
本発明の親水処理剤にカルボン酸系ポリマーを配合する場合、該カルボン酸系ポリマーの配合比としては、使用するカルボン酸系ポリマーの種類、使用するアセチレングリコール系化合物の種類等によって異なるが、通常、アセチレングリコール系化合物100重量部に対して、カルボン酸系ポリマーが1〜10000重量部、好ましくは10〜1000重量部、更に好ましくは30〜300重量部となる割合が例示される。また、本発明の親水処理剤にカルボン酸系ポリマーを配合する場合、該剤中のカルボン酸系ポリマーの配合割合については、上記配合比に基づいて適宜調節されるが、例えば該剤の総量に対して、カルボン酸系ポリマーが1〜99重量%、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは5〜30重量%となる割合が例示される。
【0026】
本発明に係る親水処理剤は親水化性能(汚垢難付着性及び汚垢易除去性)に優れている。したがって、固体表面に汚垢が付着し難くすると共に、固体表面に汚垢が一旦付着しても固体表面と汚垢との界面に水を容易に浸入させて、固体表面から汚垢を浮かせて除去し易くすることができるため、防汚剤として好適に使用することができる。
【0027】
更に、本発明の親水処理剤は、汚垢難付着性及び汚垢易除去性を付与する目的だけでなく、固体表面を洗浄する目的で使用できるので、防汚洗浄剤としても有用である。
【0028】
本発明の親水処理剤を防汚洗浄剤として使用する場合、アセチレングリコール系化合物のほかに、洗浄成分として界面活性剤を配合すれば、固体表面上に汚垢が付着した場合に、界面活性剤の作用により固体表面と汚垢との界面にいっそう水が浸入しやすくなり、より優れた防汚洗浄剤を得ることができる。即ち、更に界面活性剤を含む本発明の親水処理剤は、汚垢難付着性及び汚垢易除去性に加え、実際に付着した汚垢を除去する作用をも良好に発揮することができ、防汚洗浄剤として有用である。この防汚洗浄剤は、特にトイレ用として好適に使用することができ、疎水性に富んだ脂肪酸を多く含む糞便汚れの付着を効果的に抑制し、更に一旦糞便汚れが付着しても容易に除去することが可能となる。
【0029】
配合される界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤のいずれを使用してもよい。本発明の防汚剤に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合比としては、使用する界面活性剤の種類、使用するアセチレングリコール系化合物の種類等によって異なるが、通常、アセチレングリコール系化合物100重量部に対して、界面活性剤が1〜10000重量部、好ましくは10〜1000重量部、更に好ましくは50〜500重量部となる割合が例示される。また、本発明の親水処理剤に界面活性剤を配合する場合、該剤中の界面活性剤の配合割合については、上記配合比に基づいて適宜調節されるが、例えば該剤の総量に対して、界面活性剤が1〜99重量%、好ましくは5〜50重量%、更に好ましくは5〜30重量%となる割合が例示される。
【0030】
本発明の親水処理剤には、上記界面活性剤のほかに、香料、消臭成分、着色剤、油性成分の乳化可溶化剤、殺菌剤、キレート剤、増量剤、溶解性調整剤、漂白剤、撥水剤、充填剤、pH調整剤、増粘剤、薬剤安定性向上剤、成形性向上剤、無機系ビルダー、有機系ビルダー、酵素等を適宜配合することができる。
【0031】
本発明の親水処理剤は、固体表面に適用可能である限り、その形状については制限されるものではない。例えば、本発明の防汚剤は固形状であってもよく、また液状であってもよい。
【0032】
本発明の親水処理剤を固体表面にコーティングする(親水化処理する)には、親水処理剤を、直接、固体表面に塗布することができる。しかし、この場合、親水処理剤を固体表面に均一にコーティングするのが困難であり、親水性にムラが生じるおそれがある。
【0033】
したがって、親水処理剤を固体表面にコーティングするには、先ず、前述する濃度となるように親水処理剤を水又は適当な溶剤に溶解させ、得られた親水処理剤の溶液を固体表面に接触させるのが好ましく、これにより適量の親水処理剤を均一に固体表面にコーティングすることが可能となる。
【0034】
親水処理剤の溶液を固体表面に接触させる具体的な方法としては、親水処理剤の溶液を固体表面にフラッシング若しくは噴霧したり、該溶液を固体表面に刷毛塗りしたり、あるいは、該溶液中に固体表面を浸漬する方法を採用することが可能である。また、親水処理剤を固形状に成形し、洗浄水に接触させて徐々に水中に溶解するようにし、親水処理剤が溶解した洗浄水で固体表面を洗浄するようにしてもよい。
【0035】
本発明に係る親水処理剤は、固体表面に接触させることによってアセチレングリコール系化合物が固体表面に吸着して優れた汚垢難付着性及び汚垢易除去性を発揮する。しかしながら、アセチレングリコール系化合物は、固体表面に対して化学的に結合しているのではなく、吸着しているにすぎない。したがって、固体表面に付着した汚れを洗浄液によって洗い流すたびに、洗浄液によってアセチレングリコール系化合物が固体表面から徐々に流失し、汚垢難付着性及び汚垢易除去性が低下することになる。
【0036】
そこで、本発明においては、親水処理剤を固体表面にコーティングした後、固体表面に付着した汚れを親水処理剤を含有する洗浄水で洗い流すようにし、これにより良好な防汚性を維持することが可能となる。特に、トイレの便器を洗浄する場合に、親水処理剤をトイレタンクの放水タップの下に配しておくことにより、常時、親水処理剤を含有する洗浄水をフラッシュすることが可能となり、糞便汚れに対して優れた汚垢難付着性及び汚垢易除去性を維持することができる。
【0037】
本発明の親水処理剤は、防汚洗浄剤以外にもその優れた親水化性能(汚垢難付着性及び汚垢易除去性)をいかして各種用途に用いることができるのは勿論である。たとえば、メッキ処理やエッチング処理等のように水溶液中で行なう処理に先立って、試料表面の濡れ性を高めるために用いたり、ガラスや鏡の曇り止め用として、あるいは帯電防止剤等として使用することもできる。この場合、各用途に合わせて配合成分を適宜選択すればよい。
【0038】
本発明の親水処理剤を防汚洗浄剤以外の用途に用いる場合でも、固体表面の親水化効果を高めるためには、固体表面に付着した汚れをできるだけ除去しておくのが望ましい。したがって、防汚洗浄剤以外の用途の場合でも、親水処理剤には、前述のごとく、界面活性剤を配合しておくのが好ましい。
【0039】
II.防汚方法、洗浄方法及び防汚洗浄方法
本発明は、他の観点から、前記親水処理剤を、固体表面にコーティングすることを特徴とする防汚方法を提供する。当該防汚方法によれば、固体表面に、汚垢難付着性と汚垢易除去性を付与することができる。
【0040】
更に、本発明は、前記親水処理剤を固体表面にコーティングした後に、前記固体表面に付着した汚垢を、洗浄水で水洗することを特徴とする洗浄方法を提供する。当該洗浄方法によれば、固体表面に付着した汚垢を水洗という簡便な方法で洗い流すことができる。特に、当該方法において、洗浄水として、上記防親水処理剤を含む水溶液を使用することにより、水洗による汚垢の除去効果を高め、更に同時に、硬質表面に対して汚垢難付着性と汚垢易除去性を付与することも可能になるので、固体表面の防汚洗浄方法として有効である。
【0041】
当該防汚方法、洗浄方法及び防汚洗浄方法の具体的態様については、「I.防汚剤」の欄に記載する通りである。
【発明の効果】
【0042】
本発明では、アセチレングリコール系化合物を含有する親水処理剤を用いて固体表面を処理するため、固体表面を効果的に親水化処理することが可能となり、優れた汚垢難付着性及び汚垢易除去性を付与することができる。特に、本発明の親水処理剤は、防汚洗浄剤として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、実施例等を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
[親水処理剤水溶液の調製]
本発明に係る親水処理剤を使用して固体表面を親水化処理し、その汚垢難付着性及び汚垢易除去性について評価を行なった。具体的には、固体表面として便器表面を用い、親水処理剤としてアセチレングリコール系化合物を単独使用したもの又はアセチレングリコール系化合物とアクリル酸・スルホン酸共重合体塩(重量平均分子量6000)とを併用したものを用い、これを水に溶解させて所定濃度の水溶液を調製し、6種類の本発明品の試験液(No.1〜6)を作製した。
【0044】
なお、アセチレングリコール系化合物としては、具体的に一般式(1)におけるRが−C24−、R1及びR4が−CH2−CH(CH3)−CH3、R2およびR3が−CH3である2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数3.5、10又は30)を使用した。
【0045】
比較品としては、アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(平均付加モル数1.5モル)、フッ素化合物、水溶性カチオン化ポリマー及びアクリル酸・スルホン酸共重合体塩を使用して10ppm濃度の水溶液を調製し、さらに水単体の計6種類の試験液(No.7〜12)を作製した。本発明品及び比較品合わせて12種類の試験液の詳細を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
[便器表面の親水化処理]
表1に示す12種類の試験液を使用して便器の親水化処理を行なった。具体的には、TOTO社製便器(C730)を2×3cmにカットしたテストパネルに各試験液を塗り広げ、室温にて30分間自然乾燥させる工程を3回繰り返し、テストパネルである便器表面が親水処理剤でコーティングされた状態とした。
【0048】
[評価試験]
(1)汚垢難付着性の評価
上記親水化処理をしたテストパネルの表面に蒸留水を着滴させたときの水滴の接触角を接触角計(協和界面化学社製:DropMaster500)を用いて測定し、パネル表面の親水化の程度を評価した。結果を表2に示す。なお、表中のNo.は、対応するNo.の試験液で処理したテストパネルであることを意味する。
【0049】
【表2】

【0050】
(2)実際の便器を使用した汚垢易除去性評価
上記試験液の一部を用い(試験液No.1〜4、No.7〜10及びNo.12)、トイレ用防汚洗浄剤として使用したときの汚垢易除去性について評価した。具体的には、トイレタンク内に上記試験液を収容し、フラッシュして30分間室温で乾燥させる工程を3回繰返し、便器表面(TOTO社製:C730)がコーティングされた状態にする。
【0051】
そこに糞便汚れのモデル汚垢(サラダ油とカーボンブラックとを重量比で100:2の割合で混合したもの)を一定量塗り付ける。汚垢の塗り方としては、汚垢25gを便器ボールの手前中心部(15cm×10cm)に均一に刷毛で塗り広げる。その後、トイレタンク内に収容した試験液をフラッシュし、便器の汚れの残り具合を目視で確認し、汚れの残留程度を判定する。
【0052】
評価は、15cm×10cmに塗り広げたモデル汚垢の当初の面積を100として試験液をフラッシュした後に残留した汚れの面積の割合を算出し、以下の判定基準に基づいて行なった。結果を表3に示す。
【0053】
1:汚れ残留の程度 0% 〜 5%未満
2:汚れ残留の程度 5%以上〜10%未満
3:汚れ残留の程度 10%以上〜30%未満
4:汚れ残留の程度 30%以上〜50%未満
5:汚れ残留の程度 50%以上。
【0054】
なお、予めトイレ用防汚洗浄剤を便器表面にコーティングしなかった場合の汚垢易除去性についても評価を行なった。具体的には、トイレ用防汚洗浄剤がコーティングされていない状態の便器表面に上記方法と同様にしてモデル汚垢25gを塗り広げ、その後、トイレタンク内に収容した試験液(No.4)をフラッシュし、便器の汚れの残り具合を評価した。
結果を表3に示す。なお、表中のNo.は、対応するNo.の試験液で処理したテストパネルであることを意味する。
【0055】
【表3】

【0056】
[評価結果]
表2より、エチレンオキサイド単位の平均付加モル数が3.5以上のアセチレングリコール系化合物を用いた本発明に係る親水処理剤(No.1〜6)で処理したテストパネルは、いずれも水の接触角が21°以下であり、比較品No.7〜12に比べてテストパネル表面が良好に親水化されており、優れた汚垢難付着性が付与されているのが確認された。
【0057】
特に、アセチレングリコール系化合物とアクリル酸・スルホン酸共重合体塩とを併用した本発明品No.5は、それぞれ単独で用いた本発明品No.1及び比較品No.11に比
べて相乗的に著しく接触角が低下しているのが判る。
【0058】
一方、エチレンオキサイドが付加されていない単なるアセチレングリコールを用いた比較品No.7で処理したテストパネルの接触角は36°であり、親水処理剤による処理を行なっていない比較品No.12の接触角(38°)と同等レベルであった。
【0059】
また、エチレンオキサイド単位の平均付加モル数が1.5であるアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物を用いた比較品No.8で処理したテストパネルの接触角は30°であり、本発明品No.1〜6に比べて汚垢難付着性が劣っている。
【0060】
汚垢易除去性については、表3より、本発明品No.1〜4はいずれも汚れ残留の程度の判定値が1〜3であり、比較品に比べて優れているのが判る。しかしながら、予め固体表面を親水化処理せずに、単に汚垢が付着した固体表面に試験液No.4をフラッシュしただけでは、汚れ残留の程度の判定値は最低の5となり、本発明に係る親水処理剤(防汚洗浄剤)は、予め固体表面にコーティングすることで優れた汚垢易除去性を発揮することが確認された。
【0061】
実施例2
次に、親水処理剤として、アセチレングリコール系化合物に洗浄成分として界面活性剤を添加し、さらに硫酸ナトリウム、色素及び香料を加えて混練し、プレス成形したものを作製した。これをトイレ用防汚洗浄剤として用い、実際の便器の汚垢易除去性及び洗浄効果の評価を行なった。以下に詳細を記す。
【0062】
[トイレ用防汚洗浄剤の調製]
各試料の処方を表4に記す。表中、本発明品においては、アセチレングリコール系化合物として実施例1で用いたサーフィノール440、サーフィノール465及びサーフィノール485の3種類を用い、これらを単独で使用するか、あるいはアクリル酸・スルホン酸共重合体塩と併用した。比較品においては、上記アセチレングリコール系化合物の代わりに実施例1で用いたサーフィノール104、サーフィノール420及びアクリル酸・スルホン酸共重合体塩を使用した。
【0063】
界面活性剤としては、洗浄力と持続性とを考慮してアニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤とを併用した。アニオン界面活性剤としては、ラウリルサルコシンNa、ラウリルスルホ酢酸Na及びα−オレフィンスルホン酸Na(C=14〜18)を併用した。また、ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ポリオキシブチレンのブロック共重合体を使用した。
【0064】
【表4】

【0065】
[実際の便器を使用した評価試験]
表4で作製したトイレ用防汚洗浄剤をトイレタンクの放水タップの下に配し、タップから放出された水がトイレ用防汚洗浄剤に接触するようにセットした。次に、タンク内の水をフラッシュしてトイレ用防汚洗浄剤を溶解させ、タンク内に防汚洗浄剤水溶液(トイレ用防汚洗浄剤含有成分の合計濃度:およそ10〜15ppm)が貯蔵されるようにした。
【0066】
ここまで準備した上で、タンク内の防汚洗浄剤の水溶液をフラッシュして30分間室温で乾燥させる工程を3回繰り返し、便器表面が防汚洗浄剤でコーティングされた状態にした。そこに前述のモデル汚垢を実施例1と同様の方法にて塗り付けた後、トイレタンク内の防汚洗浄剤の水溶液を1回だけフラッシュし、便器の汚れの残り具合を目視で確認した。判定基準は実施例1と同様に5段階とした。結果を表4に示す。
【0067】
[評価結果]
表4より、アセチレングリコール系化合物を配合した本発明品13〜17はいずれも汚れ残留の程度の判定値が1〜3となっているのに対して、比較品18〜21はいずれも該判定値は4〜5となった。アセチレングリコール系化合物の中では、エチレンオキサイドの付加モル数が多くなるほど、汚垢易除去性及び洗浄効果が向上している。
【0068】
また、アセチレングリコール系化合物とアクリル酸・スルホン酸共重合体塩とを併用した本発明品No.16は、それぞれを単独で使用した本発明品No.13や比較品20に比べて相乗的に著しく汚垢易除去性及び洗浄効果が向上しているのが確認された。
【0069】
比較試験例1 各種親水処理剤を用いた汚垢難付着性及び汚垢易除去性の評価
[評価方法]
表5に示す組成の親水処理剤含有試験液(比較試験品)を調製した。この試験液を用いて以下の方法で、汚垢難付着性(硬質表面に付与できる水の接触角)及び汚垢易除去性について評価を行った。
【0070】
【表5】

【0071】
[評価試験]
(1)汚垢難付着性の評価
実施例1と同様の方法で、水の接触角を測定した。
【0072】
(2)実際の便器を使用した汚垢易除去性評価
上記試験液をトイレ用防汚洗浄剤として使用したときの汚垢易除去性について評価した。具体的には、トイレタンク内に上記試験液(表7及び8中、前処理液と表記する)を収容し、フラッシュして30分間室温で乾燥させる工程を3回繰返し、便器表面がコーティングされた状態にする。
【0073】
そこに大便のモデル汚垢を一定量塗り付ける。その後、トイレタンク内に収容した表7及び8に示す試験液(表7及び8中、洗浄液と表記する)をフラッシュし、便器の汚れの残り具合を目視で確認すると共に、汚垢が付着している部分の面積を測定した。なお、モデル汚垢は、実施例1で使用したものと同様である。評価についても、実施例1と同様の判定基準に基づいて行なった。結果を表7及び8に示す。また、以下に示す「汚れの残留率」とは、付着させた汚れの面積を100%とした場合に、試験後に残留している汚れの面積の割合(%)のことである。
【0074】
[評価結果]
汚垢難付着性についての評価結果を表6に、汚垢易除去性についての評価結果を表7及び8に示す。この結果から、今回試験した親水処理剤の中には、硬質表面を処理することにより水の接触角を小さくできるものがあることが分かった。その反面、今回試験した親水処理剤の全ての場合において、親水処理剤でコーティングされた硬質表面に一旦汚垢が付着すると、水又は該親水処理剤を含む水溶液で水洗しても汚垢を十分に除去できないことが確認された。
【0075】
【表6】

【0076】
【表7】

【0077】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体表面にコーティングすることで該固体表面に対する水の接触角を低下させる親水処理剤であって、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1〜R4は、同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基又は水素を示し、m及びnは整数であり、m+nの平均値が3.5〜50であり、RはC24又はC36を示す。)
で表されるアセチレングリコールのアルキレンオキサイド付加物を含有することを特徴とする親水処理剤。
【請求項2】
さらにカルボン酸系ポリマーを含有することを特徴とする請求項1記載の親水処理剤。
【請求項3】
前記カルボン酸系ポリマーが、(メタ)アクリル酸系ポリマーであることを特徴とする請求項2記載の親水処理剤。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸系ポリマーが、下記一般式(2)で示す(メタ)アクリル酸系モノマーと、下記一般式(3)で示す(メタ)アリルエーテル系モノマーとの共重合体である請求項3記載の親水処理剤。
一般式:CH2=C(R5)−COOX ・・・・(2)
一般式:CH2=C(R6)−CH2−O−CH2−CH(Y)−CH2−Z・・・・(3)
(式中、R5およびR6は、水素原子又はメチル基を表し、Xは、水素原子、金属原子、アンモニウム基、有機アミン基のいずれかを表し、YおよびZの少なくとも一方はスルホン酸基(但し、1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、若しくは有機アミン基の塩を含む。)であり、他方は水酸基又はスルホン酸基である。)
【請求項5】
防汚洗浄剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤。
【請求項6】
トイレ用防汚洗浄剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤。
【請求項7】
水洗により洗浄される硬質表面用の防汚剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤を固体表面にコーティングした後、前記固体表面に付着した汚れを前記親水処理剤を含有する洗浄水で洗い流すことを特徴とする防汚洗浄方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の親水処理剤を便器表面にコーティングした後、前記便器表面に付着した汚れを前記親水処理剤を含有する洗浄水で洗い流すことを特徴とするトイレ便器の防汚洗浄方法。

【公開番号】特開2006−307148(P2006−307148A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341001(P2005−341001)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】