説明

親水化処理剤、アルミニウム含有金属材及びアルミニウム合金製熱交換器

【課題】アルミニウム含有金属材の表面に優れた結露濡れ性及び抗菌性を付与する皮膜を形成させるための、親水化処理剤を提供する。
【解決手段】キトサンの有する一部又は全部の1級アミノ基が、電子吸引性基のα位に炭素−炭素原子間の不飽和基を有する化合物(成分A)により、付加されてなるキトサン誘導体(成分B)を含有する親水化処理剤により、上記課題を解決する。この処理剤で形成した皮膜は、被処理材であるアルミニウム含有金属材に対して結露濡れ性及び抗菌性を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金材を包含するアルミニウム含有金属材料の表面に、優れた結露濡れ性及び抗菌性を与えることができる親水化処理剤、その処理剤で被覆してなるアルミニウム含有金属材及びアルミニウム合金製熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
冷房、暖房、除湿等の機能を備えた空調器(エアコン)は、その熱交換部に熱交換器用フィンを備えている。この熱交換器用フィンを形成するためのフィン材は、一般に、軽量で加工性に優れ、しかも熱伝導性に優れていることが望まれることから、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されている。
【0003】
このようなエアコンを冷房運転すると、熱交換器は室内側で空気中の水分の露点以下になる。そのため、この熱交換器の設けられている室内側フィンには、空気中の水分が凝縮し、その表面に結露水が発生する。この結露水がフィン表面でとる形状はフィン表面の水に対する濡れ性で決まるが、濡れ性の悪いフィン材表面では、結露水が略半球状の水滴となり、更にはフィン間に水のブリッジを形成する。その結果、その水滴又は水のブリッジが熱交換部における通気抵抗となり、熱交換効率を低下させ、さらに、騒音を引き起こすだけでなく、場合によっては結露水が飛散して周辺を汚染する原因にもなる。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、従来においてはフィン材表面を親水化処理することが行われている。例えば、水ガラス等を主成分とする無機系親水化処理剤を用いる方法(特許文献1,2)や、ポリビニルアルコールと特定の水溶性高分子及び架橋剤とを組み合わせた処理剤を用いる方法(特許文献3)、ポリアクリルアミド系樹脂からなる処理剤を用いる方法(特許文献4)、特定の親水性ビニルモノマーを共重合した処理剤を用いる方法(特許文献5)、カルボキシメチルセルロース系高分子、N−メチロールアクリルアミド、ポリアクリル酸、ジルコニウム化合物からなる処理剤を用いる方法(特許文献6)等の有機系親水化処理剤を用いる方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、無機系親水化処理剤を用いる方法においては、フィン材表面に優れた親水性が付与されるが、このフィン材表面に形成される親水性皮膜がシリカ(SiO)を主成分とする硬質成分であり、フィン材のプレス加工時における金型の摩耗が激しいという問題がある。また、環境中の臭気成分を吸着し易い性質を有することから、冷房初期に臭気が感じられるという問題もある。
【0006】
一方、有機系親水化処理剤を用いる方法においては、処理剤原料そのものが微生物の栄養源となることから、処理剤及び親水性皮膜に微生物が発生し易くなり、その繁殖を防止することが必要となる。そのため、必要に応じて、処理剤に抗菌剤を添加することが行われている。しかしながら、処理剤に抗菌剤を添加する方法においては、処理剤の抗菌に多少の効果はあるが、皮膜自身にも抗菌性を付与させようとすると、その添加量が増加し、逆に親水性を阻害するという問題がある。また、親水性皮膜自身の抗菌性を持続させるために皮膜表面から抗菌物質を溶出させる方法もあるが、溶出している間は抗菌性が付与されるものの、その寿命には限度がある。
【0007】
前記の有機系親水化処理剤を用いた場合の課題に対しては、親水性皮膜に抗菌性を付与すべく、皮膜形成材料として抗菌性を有するキトサンを使用し、キトサンを含有した皮膜をフィン材表面に形成することが提案されている(特許文献7)。しかしながら、この方法では、キトサンそれ自体の水溶性が低く、水溶液にするためには有機酸や無機酸を使用する必要がある。その結果、前記結露水によってこれらの酸が流失し、皮膜強度及び抗菌性が失われるという問題がある。
【0008】
また、キトサンを水溶液にするための上記有機酸と併用してポリマー酸を使用することも提案されている(特許文献8)。また、グリセリル化キトサンを使用することも提案されている(特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平2−42389号公報
【特許文献2】特公平3−77440号公報
【特許文献3】特開平1−299877号公報
【特許文献4】特開平1−270977号公報
【特許文献5】特開平6−306247号公報
【特許文献6】特許第2520308号公報
【特許文献7】特開平7−190676号公報
【特許文献8】特開平11−293149号公報
【特許文献9】特開2002−105241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、キトサンを使用する上記特許文献7,8の何れの方法も、皮膜をフィン材表面に焼き付ける際、及びその後においても著しい臭気が発生するという問題がある。また、上記特許文献9の方法では、対水接触角の低い皮膜が得られるものの、実際の結露濡れ性が劣るという問題があり、空調器におけるフィン材としては満足し得ないものであった。
【0011】
また、近年においては、アルミニウム含有金属製熱交換器の小型化が進み、従来に比べてフィン間が狭くなってきており、フィン間に水のブリッジが形成され易くなってきている。このような状況の中、親水性の評価として対水接触角の測定を行ってきたが、低接触角となる皮膜であれば必ずしも結露水が均一にすばやく濡れ広がるというわけではなく、接触角の測定のみでは、実用化された際に問題となる可能性がある。そのため、熱交換器に供するアルミニウム含有金属材に必要な親水性とは、対水接触角が低いだけでは十分でなく、実使用環境において発生する結露水が均一にすばやく濡れ広がること、即ち、本発明の趣旨である結露濡れ性が重要となる。
【0012】
本発明は、前記従来技術の有する問題点を解決するためのものであり、その目的は、アルミニウム含有金属材の表面に優れた結露濡れ性及び抗菌性を付与する親水性皮膜を形成させるための親水化処理剤を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そうした親水化処理剤を用いて処理されたアルミニウム含有金属材及びアルミニウム合金製熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究を重ねている過程で、特定のキトサン誘導体を含む処理剤でアルミニウム含有金属材表面を処理したとき、極めて優れた結露濡れ性と抗菌性を持つことを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明の親水化処理剤は、アルミニウム含有金属材に対して結露濡れ性及び抗菌性を与える皮膜形成用の親水化処理剤であって、キトサンの有する一部又は全部の1級アミノ基が、電子吸引性基のα位に炭素−炭素原子間の不飽和基を有する化合物(成分A)により付加されてなるキトサン誘導体(成分B)を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明の親水化処理剤の好ましい態様は、前記化合物(成分A)の電子吸引性基がカルボニル基であるように構成する。
【0016】
本発明の親水化処理剤の好ましい態様は、前記化合物(成分A)が、式(1)で示されるアクリル酸骨格もしくはメタクリル酸骨格、及び/又は式(2)で示されるアクリルアミド骨格もしくはメタクリルアミド骨格を有する化合物群から選ばれる1種又は2種以上であるように構成する。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
上記式(1)中、RはH又はCHであり、RはH、−(CO)H、−(CH(CH)CHO)H、−(CO)CH、−(CH(CH)CHO)CH 、又は−CSOHを表す。ここで、nは1〜25の整数を表す。また、上記式(2)中、RはH又はCHであり、RはH又は−C(CHCHSOHを表す。
【0020】
本発明の親水化処理剤の好ましい態様は、前記キトサンの1級アミノ基に対する前記化合物(成分A)の付加モル比が0.5〜2.0であるように構成する。
【0021】
本発明の親水化処理剤の好ましい態様は、水溶性架橋剤(成分C)をさらに含有するように構成する。この水溶性架橋剤(成分C)としては、1分子内にカルボキシル基を2個以上有する有機化合物であることが好ましい。
【0022】
上記課題を解決するための本発明のアルミニウム含有金属材は、上記した本発明に係る親水化処理剤でアルミニウム含有金属材の一部又は全部の表面が被覆され、該被覆部が結露濡れ性及び抗菌性を有することを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決するための本発明のアルミニウム合金製熱交換器は、上記した本発明の親水化処理剤でアルミニウム合金製熱交換器の一部又は全部の表面が被覆され、該被覆部が結露濡れ性及び抗菌性を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の親水化処理剤を用いてアルミニウム含有金属材の表面に形成した皮膜は、優れた結露濡れ性と抗菌性を有し、特に初期段階で優れた結露濡れ性を有する。したがって、本発明の親水化処理剤は、結露水発生直後の結露濡れ性が優れ、例えばフィン間に水滴やブリッジとして存在し難いので、実用的価値が極めて高く、エアコン部品の熱交換器用アルミニウム材等に好ましく適用でき、その他の広い用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】一般的な親水性評価方法である「接触角」の結果と、本件で評価方法として用いた「結露濡れ性」の結果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の親水化処理剤、アルミニウム含有金属材及びアルミニウム合金製熱交換器について、実施の形態を挙げて更に詳しく説明する。
【0027】
[親水化処理剤]
本発明の親水化処理剤は、アルミニウム含有金属材に対して結露濡れ性及び抗菌性を与える皮膜形成用の親水化処理剤であって、キトサンの有する一部又は全部の1級アミノ基に、電子吸引性基のα位に炭素−炭素原子間の不飽和基を有する化合物(「成分A」ともいう。)により付加されてなるキトサン誘導体(「成分B」ともいう。)を含有する。そして、この親水化処理剤を被処理材であるアルミニウム含有金属材の表面に塗布・乾燥してなる皮膜(「親水性皮膜」という。)は、そのアルミニウム含有金属材に対して結露濡れ性及び抗菌性を与える。この結露濡れ性は、熱交換器に供するアルミニウム含有金属材に必要な親水性であり、対水接触角が低いだけでは十分でなく、実使用環境において発生する結露水が均一にすばやく濡れ広がることである。
【0028】
以下、親水化処理剤の構成成分について説明する。
【0029】
(成分A)
成分Aは、電子吸引性基のα位に炭素−炭素原子間の不飽和基を有する化合物である。具体的には、電子吸引性基であるカルボニル基(−CO−)、ニトロ基(−NO)、スルホン基(−SOH)等を持つ化合物の、その電子吸引性基のα位に炭素−炭素原子間の不飽和基を有する鎖式化合物である。中でも、電子吸引性基がカルボニル基であることが好ましい。また、電子吸引性基のα位にビニル基を有する化合物であることが好ましい。不飽和基としては、炭素−炭素原子間の二重結合であることが好ましい。
【0030】
成分Aに係る化合物として、例えば下記式(1)で表されるアクリル酸骨格もしくはメタクリル酸骨格を有する化合物群、及び/又は、下記式(2)で表されるアクリルアミド骨格もしくはメタクリルアミド骨格を有する化合物群が好ましい。
【0031】
【化3】

【0032】
【化4】

【0033】
上記式(1)中、RはH又はCHであり、RはH、−(CO)H、−(CH(CH)CHO)H、−(CO)CH、−(CH(CH)CHO)H 、又は−CSOHを表す。ここで、nは1〜25の整数を表す。また、上記式(2)中、RはH又はCHであり、RはH又は−C(CHCHSOHを表す。
【0034】
成分Aは、前記式(1)及び式(2)の化合物群から選ばれる1種を用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。本発明の趣旨である優れた結露濡れ性を得る点では2種の異なる化合物(成分A1と成分A2)を混合して用いることが特に好ましい。なお、本発明の趣旨(結露濡れ性)を損なわない範囲であれば、さらに他種の化合物を加えた3種以上の異なる化合物を混合したものであってもよい。
【0035】
(成分B)
成分Bは、キトサンの有する一部又は全部の1級アミノ基が、上記した成分Aにより付加されてなるキトサン誘導体のことである。キトサンとは、キチンを脱アセチル化して得られた化合物である。その場合の脱アセチル化度は、溶解性と皮膜の親水性の観点から、60%以上100%以下の割合であることが好ましく、本発明では、キチンをその割合で脱アセチル化してなるキトサンを用いることが好ましい。
【0036】
キトサン誘導体(成分B)の製法は、特に限定するものではなく公知の方法で行なうことができ、例えば、キチンを60%以上100%以下の割合で脱アセチル化したキトサンと、上記した成分Aとを水溶液中で混合し、必要に応じて加熱することによって反応させて得ることができる。このキトサン誘導体(成分B)は、必ずしも純粋な状態である必要はなく、前記反応により生じる多少の副生成物や未反応物質を含むものであってもよく、また、粉末状でも水溶液状でもよい。
【0037】
前記製法により得られるキトサン誘導体(成分B)の重量平均分子量は、1万〜300万が好ましく、5万〜100万の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が1万未満では、形成される皮膜の強度が不十分であり、一方、重量平均分子量が300万を超えると、親水化処理剤の粘度が高くなりすぎて実用的ではない。
【0038】
キトサン誘導体(成分B)に対する成分Aの付加モル比は、キトサンの1級アミノ基に対する成分Aの付加モル比で表され、理論上、付加モル比[(成分A)/(キトサンの1級アミノ基)]=2.0が最大である。本発明に使用するキトサン誘導体(成分B)に対する成分Aの付加モル比は、0.5以上2.0以下の範囲が好ましい。付加モル比が0.5未満である場合は、キトサンの水溶化が充分でなく、不溶解分が残る。また、付加モル比が2.0を超える場合には、過剰に未反応物質を含有することとなり、形成される皮膜の耐水性が不十分となり、好ましいものではない。
【0039】
また、2種の異なる化合物(成分A1と成分A2)を混合して用いる際は、前記付加モル比0.5〜2.0の範囲において、混合比(モル比。以下、混合モル比という。)=[(成分A2)/(成分A1+成分A2)]=0.05〜0.95の範囲が好ましい。
【0040】
前記製法により得られるキトサン誘導体(成分B)は、下記式(3)で表される構造を持つ。なお、下記のキトサン誘導体の構造及び上記した付加モル比は、得られたキトサン誘導体をプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトル測定で同定することができる。
【0041】
【化5】

【0042】
式(3)中、RとRは、上記式(1)(2)で表す成分Aが付加したものであり、同一又は異なって、H及び/又は下記式(4)、(5)で表される化合物群である。また、式(3)中のa、bは正数であって、0≦a≦0.4、0.15≦b≦1.0の関係を満たす。
【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
式(4)中、RはH又はCHであり、RはH、−(CO)H、−(CH(CH)CHO)H、−(CO)CH、−(CH(CH)CHO)H 、又は−CSOHを表す。nは1〜25の整数を表す。式(5)中、RはH又はCHであり、RはH又は−C(CHCHSOHを表す。
【0046】
(他の成分)
本発明の親水化処理剤は、得られる皮膜の耐水性向上のため、水溶性架橋剤(成分C)を含有することができる。水溶性架橋剤(成分C)としては特に限定するものではないが、キトサン誘導体(成分B)が有する水酸基又はアミノ基と反応する化合物であることが好ましく、例えば、イソシアネート基、グリシジル基、アルデヒド基、メチロール基、カルボキシル基等の少なくとも1種を有する有機化合物、又は、クロム、ジルコニウム、チタン等の多価金属化合物を挙げることができる。特に好ましくは、1分子内にカルボキシル基を2個以上有する多価カルボン酸類による架橋剤である。多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、イタコン酸、メリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、ピロメリト酸、ナフタレンテトラカルボン酸、プロパンジカルボン酸、ブタンジカルボン酸、ペンタンジカルボン酸、ヘキサンジカルボン酸、ヘプタンジカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロヘキサンテトラカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、ホスホノブタントリカルボン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。親水化処理剤中には、こうした水溶性架橋剤(成分C)を1種又は2種以上含ませることができる。
【0047】
水溶性架橋剤(成分C)の配合量には限定はないが、キトサン誘導体(成分B)100重量部に対し、水溶性架橋剤(成分C)0.1重量部以上100重量部以下で配合することが好ましく、耐水性及び結露濡れ性を両立する点では、1重量部以上50重量部以下で配合することがより好ましい。配合量が0.1重量部より少ないと、対水に対する皮膜の持続性(耐水性)が向上しないことがある。一方、配合量が100重量部より多いと、親水性を示す官能基との結合が過剰となるため、結露濡れ性が低下することがある。
【0048】
さらに、本発明の親水化処理剤には、防錆剤、レベリング剤、コロイダルシリカ、プラスチックピグメント等の充填剤、着色剤、界面活性剤、消泡剤等を、本発明の趣旨や皮膜性能を損なわない範囲で添加することができる。
【0049】
以上説明した本発明の親水化処理剤で形成した皮膜は、優れた結露濡れ性と抗菌性を有し、さらに、長期間経過した後においても、優れた結露濡れ性と高い抗菌性を有している。特に初期段階で結露濡れ性が優れるという効果があるが、こうした効果は、アルミニウム含有金属材、特にアルミニウム合金製熱交換器の表面に、本発明の親水化処理剤を用いて結露濡れ性に優れた皮膜を形成すれば、間隔が狭いフィンに空気中の水が凝縮し、結露水が発生した場合であっても、その結露水が均一に濡れ広がることを意味し、例えばフィン間に水滴やブリッジとして存在し難いことを意味するので、水滴や水のブリッジを形成して通気抵抗となったり飛散の原因になったりすることがない。
【0050】
なお、従来においては、水滴や水のブリッジによる通気抵抗等の問題に対し、親水性の評価として対水接触角の測定を行っていたが、低接触角となる皮膜が必ずしも結露濡れ性に優れるというわけではなく、接触角の測定のみでは実用化された際に問題となる可能性があったが、本発明は実用的な評価手段によって評価した結果、本発明の親水化処理剤のように構成することによって、従来の問題を解決したことに特徴がある。したがって、本発明の親水化処理剤は、実用的価値が極めて高く、エアコン部品の熱交換器用アルミニウム材等に好ましく適用でき、その他の広い用途にも適用することができる。
【0051】
[アルミニウム含有金属材及びアルミニウム合金製熱交換器]
本発明のアルミニウム含有金属材及びアルミニウム合金製熱交換器は、上述した本発明の親水化処理剤からなる皮膜で、その表面の一部又は全面が被覆されている。そして、被覆された被覆部は、優れた結露濡れ性と抗菌性を有している。
【0052】
ここで、親水化処理剤を用いて、被塗布材であるアルミニウム含有金属材乃至アルミニウム合金製熱交換器に皮膜(処理皮膜という。)を形成する方法について説明する。処理皮膜の形成方法は、無処理若しくは清浄化処理したアルミニウム含有金属材を必要に応じて耐食皮膜等で防錆処理した後、そのアルミニウム含有金属材乃至アルミニウム合金製熱交換器の一部又は全面に、上記本発明に係る親水化処理剤を塗布・乾燥して処理皮膜を形成する方法である。
【0053】
被塗布材としては、結露濡れ性が要求される用途に用いられるアルミニウム含有金属材、特にアルミニウム合金製熱交換器である。こうした被塗布材に対しては、予めアルカリ性又は酸性の水系洗浄剤によって清浄化することが好ましいが、洗浄を必要としない場合には清浄化を省略してもよい。また、必要に応じて耐食皮膜を形成してもよい。この際の耐食皮膜は特に限定されないが、公知のクロメート、りん酸亜鉛、チタン系、ジルコン系、有機皮膜等の下地処理皮膜を挙げることができる。
【0054】
次いで、被塗布材に親水化処理剤を適当な塗布手段で必要な皮膜量を得られるように塗布して加熱乾燥させる。塗布手段としては、例えば、ロールコート法、スプレー法、浸漬法等を挙げることができる。加熱乾燥は特に限定されるものではないが、100〜220℃の範囲で5秒〜120分間乾燥することが好ましく、120〜200℃の温度範囲であることがより好ましい。乾燥温度が100℃未満では、造膜が不十分となり、耐水性や結露濡れ性が得られないことがあり、乾燥温度が220℃を超えると、架橋剤と親水性を示す官能基の反応が進みすぎるため結露濡れ性が低下することがある。このような方法で得た親水性皮膜の皮膜量は、0.05〜5.0g/mであることが好ましく、0.05g/m未満では、本発明の目的とする性能が不十分となることがあり、5.0g/mより多いと、均一な皮膜形成が困難となりまた経済的ではない。
【実施例】
【0055】
本発明を、下記実施例と比較例とを挙げて具体的に説明する。実施例1〜21に用いた親水化処理剤及び比較例1〜5に用いた処理剤の作製方法を以下に示す。但し、これらの実施例は、本発明の範囲を特に限定するものではない。
【0056】
〈実施例1〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水94.15g、アクリル酸0.85gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル1」(付加モル比=0.5)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル1が固形分として3%となるように水を添加し、実施例1に係る親水化処理剤を調整した。
【0057】
〈実施例2〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水93.30g、アクリル酸1.70gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル2」(付加モル比=1.0)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル2が固形分として3%となるように水を添加し、実施例2に係る親水化処理剤を調整した。
【0058】
〈実施例3〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水91.60g、アクリル酸3.40gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル3」(付加モル比=2.0)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル3が固形分として3%となるように水を添加し、実施例3に係る親水化処理剤を調整した。
【0059】
〈実施例4〉
実施例3に係る親水化処理剤100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を1g添加し、30分間攪拌して、実施例4に係る親水化処理剤を調整した。
【0060】
〈実施例5〉
実施例3に係る親水化処理剤100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例5に係る親水化処理剤を調整した。
【0061】
〈実施例6〉
実施例3に係る親水化処理剤100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を100g添加し、30分間攪拌して、実施例6に係る親水化処理剤を調整した。
【0062】
〈実施例7〉
実施例3に係る親水化処理剤100gに対し、水溶性無機架橋剤として、固形分3%に調整した炭酸Zrアンモニウム水溶液を1g添加し、30分間攪拌して、実施例7に係る親水化処理剤を調整した。
【0063】
〈実施例8〉
実施例3に係る親水化処理剤100gに対し、水溶性無機架橋剤として、固形分3%に調整した炭酸Zrアンモニウム水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例8に係る親水化処理剤を調整した。
【0064】
〈実施例9〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水89.52g、アクリル酸0.85g、ポリエチレングリコールモノアクリレート(MW=400)4.63gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル4」(付加モル比=1.0、混合モル比=0.50)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル4が固形分として3%となるように水を添加し、実施例9に係る親水化処理剤を調整した。
【0065】
〈実施例10〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水94.15g、アクリル酸0.81g、アクリルアミド0.04gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル5」(付加モル比=0.5、混合モル比=0.05)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル5を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例10に係る親水化処理剤を調整した。
【0066】
〈実施例11〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水91.60g、アクリル酸3.23g、アクリルアミド0.17gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル6」(付加モル比=2.0、混合モル比=0.05)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル6を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例11に係る親水化処理剤を調整した。
【0067】
〈実施例12〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水94.16g、アクリル酸0.04g、アクリルアミド0.80gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル7」(付加モル比=0.5、混合モル比=0.95)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル7を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例12に係る親水化処理剤を調整した。
【0068】
〈実施例13〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水91.64g、アクリル酸0.17g、アクリルアミド3.19gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル8」(付加モル比=2.0、混合モル比=0.95)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル8を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例13に係る親水化処理剤を調整した。
【0069】
〈実施例14〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水94.07g、アクリル酸0.81g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)0.12gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル9」(付加モル比=0.5、混合モル比=0.05)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル9を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例14に係る親水化処理剤を調整した。
【0070】
〈実施例15〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水91.28g、アクリル酸3.23g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)0.49gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル10」(付加モル比=2.0、混合モル比=0.05)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル10を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例15に係る親水化処理剤を調整した。
【0071】
〈実施例16〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水92.64g、アクリル酸0.04g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)2.32gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル11」(付加モル比=0.5、混合モル比=0.95)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル11を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例16に係る親水化処理剤を調整した。
【0072】
〈実施例17〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水85.53g、アクリル酸0.17g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)9.30gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル12」(付加モル比=2.0、混合モル比=0.95)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル12を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例17に係る親水化処理剤を調整した。
【0073】
〈実施例18〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水92.64g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)2.32g、アクリルアミド0.04g、を加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル13」(付加モル比=0.5、混合モル比=0.05)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル13を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例18に係る親水化処理剤を調整した。
【0074】
〈実施例19〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5.00gに、水85.53g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)9.30g、アクリルアミド0.17g、を加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル14」(付加モル比=2.0、混合モル比=0.05)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル14を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例19に係る親水化処理剤を調整した。
【0075】
〈実施例20〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5gに、水94.08g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)0.12g、アクリルアミド0.80g、を加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル15」(付加モル比=0.5、混合モル比=0.95)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル15を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例20に係る親水化処理剤を調整した。
【0076】
〈実施例21〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5gに、水91.32g、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸(ATBS)0.49g、アクリルアミド3.19g、を加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル16」(付加モル比=2.0、混合モル比=0.95)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル16を100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を50g添加し、30分間攪拌して、実施例21に係る親水化処理剤を調整した。
【0077】
〈比較例1〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5gに、水94.66g、アクリル酸0.34gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液はキトサンの未溶解物を多量に含み、処理剤として調整不可能であった。
【0078】
〈比較例2〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5gに、水89.9g、アクリル酸5.1gを加えて溶解し、50℃にて2日間攪拌した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除き、「キトサン誘導体サンプル18」(付加モル比=2.0)を得た。その後、キトサン誘導体サンプル18が固形分として3%となるように水を添加し、比較例2に係る処理剤を調整した。
【0079】
〈比較例3〉
実施例3に係る親水化処理剤100gに対し、水溶性有機架橋剤として、固形分3%に調整したクエン酸水溶液を200g添加し、30分間攪拌して、比較例3に係る処理剤を調整した。
【0080】
〈比較例4〉
キトサン(脱アセチル化度=80%、MW=10万)5gに、水90g、酢酸5gを加え、室温で4時間攪拌溶解した。なお、成分Bの付加物質は加えていない。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除いた後、キトサンが固形分として3%となるように水を添加し、比較例4に係る処理剤を調整した。
【0081】
〈比較例5〉
グリセリル化キトサン(グリセリル化度=1.1、MW=10万)5gに、水90g、ブタンテトラカルボン酸5gを加え、室温で4時間攪拌溶解した。この溶液を吸引濾過して未溶解物を取り除いた後、固形分3%となるように水を添加し、比較例5に係る処理剤を調整した。
【0082】
〈組成一覧〉
下記の表1は、実施例1〜21に用いた本発明に係る親水化処理剤の組成を示し、表2は、比較例1〜5に用いた処理剤の組成を示す。なお、得られたキトサン誘導体の構造及び上記の付加モル比は、得られたキトサン誘導体をプロトン核磁気共鳴装置(H−NMR、日本電子株式会社製:ECX-400)を用い、H−NMRスペクトル測定で同定して確認した。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
表1、2に示す組成により調整した親水化処理剤を用い、下記の親水化処理方法により得られた親水性皮膜処理アルミニウム材について、下記の評価方法により評価を行った。
【0086】
〈試験材〉
アルミニウム合金材料として、厚さ0.8mm、幅70mm、長さ150mmのアルミニウム合金薄板市販品のJIS A 1000相当品を用いた。
【0087】
〈試験材の洗浄方法〉
前記した試験材を、アルカリ系脱脂剤「ファインクリーナー315」(登録商標、日本パーカライジング株式会社製)を薬剤濃度:20g/L、浴温度60℃に調整した処理剤に2分間浸漬処理し、表面に付着しているゴミや油を除去した後、表面に残存しているアルカリ分を水道水により洗浄した。
【0088】
〈親水性皮膜の形成方法〉
前記のように洗浄した試験材を、実施例1〜21及び比較例2〜5の親水化処理剤中にそれぞれ浸漬した後、160℃に調整した送風乾燥機内で吊るして6分間加熱乾燥して親水性皮膜を形成した。親水性皮膜の乾燥皮膜量は0.5g/mであった。これを、以下の評価試験に用いる供試材とした。
【0089】
〈結露濡れ性評価〉
結露濡れ性の評価には、親水化処理された供試材から40mm×40mmサイズを切り出し、脱イオン水に100時間浸漬させた後に乾燥したもの(評価板という。)を用いた。この評価板を温湿度制御可能な恒温恒湿室に投入し、試験雰囲気を温度25℃、湿度60%となるよう調整し、評価板の表面を5℃に冷却し、5分間結露させた際の表面の結露状態を目視にて評価した。
【0090】
〈結露濡れ性評価基準〉
表3に示す結露濡れ性外観を評価基準とし、更に、上位の判定基準に近似する結果には(+)を、下位の判定基準に近似する結果には(−)を用い、実施例1〜21及び比較例2〜5の親水化処理剤で処理した評価板の結露濡れ性を評価した。
【0091】
【表3】

【0092】
〈抗菌性評価〉
抗菌性の評価には、親水化処理された供試材から40mm×40mmサイズを切り出し、脱イオン水に100時間浸漬させた後に乾燥させたもの(評価板)を用いた。この評価板の表面に、栄養源としてNutrient Brothを付着させ、下記に示した菌の混合混濁液を噴霧した。これを30±2℃で14日間培養した。培養後の評価板から菌を減菌水に抽出させ、希釈培養法を用いて菌数測定を行った。
【0093】
使用した菌種:Escherishia coli、 Bacillus subtilis、 Pseudomanos aeruginosa
【0094】
〈抗菌性評価基準〉
◎:菌数10個/m未満
○:菌数10個/m以上、10個/m未満
△:菌数10個/m以上10個/m未満
×:10個/m以上
【0095】
〈耐水性評価試験〉
供試材を脱イオン水に100時間浸漬した後、50℃に調整した送風乾燥器内で1時間加熱乾燥した。室温まで放冷した後、重量測定を行い、下記に示す式により、親水性皮膜の残存率を測定した。
【0096】
親水性皮膜残存率:[(C−A)/(B−A)]×100(%)
A:親水化処理前の供試材重量(g)
B:親水化処理後の供試材重量(g)
C:親水化処理後に100時間脱イオン水中に浸漬した後、乾燥した供試材重量(g)
【0097】
〈耐水性評価基準〉
◎:親水性皮膜残存率が90%以上
○:親水性皮膜残存率が70%以上90%未満
△:親水性皮膜残存率が50%以上70%未満
×:親水性皮膜残存率が50%未満
【0098】
〈親水性評価試験〉
供試材の表面に2μlの脱イオン水を滴下し、形成された水滴の接触角を接触角計(商品名:CA−X型、協和界面科学株式会社製)により測定した。親水化処理直後の皮膜の初期接触角と、脱イオン水に100時間浸漬した後の経時接触角とを測定した。
【0099】
〈親水性評価基準〉
◎:接触角が10°未満
○:接触角が10°以上30°未満
△:接触角が30°以上40°未満
×:接触角が40°以上
【0100】
上記した各性能評価において、結露濡れ性と親水性(初期接触角、浸漬後接触角)については○以上を合格レベルとし、耐水性については、適用環境により許容されるレベルが異なることも踏まえて△以上を合格レベルとした。評価結果を表4に示す。
【0101】
【表4】

【0102】
表4に示す結果から明らかなように、実施例1〜21に係る親水化処理剤を用いて形成された親水性皮膜は、いずれも結露濡れ性と抗菌性に優れ、且つ親水性及びその持続性(初期、浸漬後)、及び耐水性においても優れる。
【0103】
一方、比較例1ではアクリル酸の付加モル比が少ないキトサン誘導体を検討したが、得られたキトサン誘導体はアクリル酸の付加量が少なく、水溶化が不十分であり、キトサンの未溶解物が多量に存在した。また、比較例2では余剰にアクリル酸が配合されたキトサン誘導体を検討したが、このキトサン誘導体を含む処理剤で形成した処理皮膜は、耐水性が大幅に低下し、また、親水持続性、結露濡れ性及び抗菌性に劣る結果となった。また、比較例3では架橋剤を過剰に添加した処理剤を調整したが、この処理剤で形成した処理皮膜は、耐水性の向上は認められるが、結露濡れ性が大幅に劣っていた。また、比較例4では揮発性の酸(酢酸)で溶解したキトサン溶液からなる処理剤を調整したが、この処理剤で形成した処理皮膜は、成膜時に酢酸が揮発することからキトサン単独皮膜とみなせる。比較例5ではキトサンの水溶性を向上させたグリセリル化キトサンを使用し、架橋剤としてブタンテトラカルボン酸を配合した皮膜である。比較例4及び比較例5の皮膜は、実施例1〜21の親水化処理剤で成膜した皮膜に比較して結露濡れ性が大幅に劣っており、本発明のキトサン誘導体の効果が見られる。
【0104】
<接触角と結露濡れ性>
次に、接触角と結露濡れ性について検討する。図1は、本願でも用いた一般的な親水性評価方法である「接触角」の結果と、本願で評価方法として用いた「結露濡れ性」の結果との関係を示すグラフである。図1中のプロットは、実施例1〜21及び比較例2〜5を含む各種親水性皮膜の検討より得られた接触角の値を横軸にとり、結露濡れ性の結果を縦軸にとったものである。なお、結露濡れ性は、表3中の◎を評価4とし、○を評価3とし、△を評価2とし、×を評価1として図1の縦軸に示した。また、図1においては、表3で示した結露濡れ性評価結果における(+)、(−)については加味しないこととした。
【0105】
図1に示すように、接触角が小さくなるほど結露濡れ性は向上する傾向が見られたが、一般的に親水性があると見なせる接触角40℃以下の領域でも、結露濡れ性に差が見られた。すなわち、10°以下の低接触角でも結露濡れ性が十分でないケースもあれば、30°〜40°前後でも結露濡れ性を満たすケースもあった。このことは、接触角により親水性と定義される皮膜であっても、表3中の「△」「×」に示すように結露水が粒子状に成長し、フィン間の目詰まりを起こす場合があり得ることを示している。以上のことから、結露水によるフィンの目詰まりを防止する皮膜の評価方法として、接触角の評価のみでは十分でなく、本願のような結露濡れ性の評価結果を加えて判断することが望ましい。特に、本願のような、早い結露段階(5分間結露させた際の表面の結露状態)での濡れ広がりに着目して評価することが実態に即した評価方法と言うことができ、この評価基準を満たす本発明に係る親水化処理剤が本願の課題を解決することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム含有金属材に対して結露濡れ性及び抗菌性を与える皮膜形成用の親水化処理剤であって、
キトサンの有する一部又は全部の1級アミノ基が、電子吸引性基のα位に炭素−炭素原子間の不飽和基を有する化合物(成分A)により付加されてなるキトサン誘導体(成分B)を含有することを特徴とする親水化処理剤。
【請求項2】
前記化合物(成分A)の電子吸引性基がカルボニル基である、請求項1に記載の親水化処理剤。
【請求項3】
前記化合物(成分A)が、式(1)で示されるアクリル酸骨格もしくはメタクリル酸骨格、及び/又は式(2)で示されるアクリルアミド骨格もしくはメタクリルアミド骨格を有する化合物群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の親水化処理剤。
【化1】

【化2】

(式(1)中、RはH又はCHであり、RはH、−(CO)H、−(CH(CH)CHO)H、−(CO)CH、−(CH(CH)CHO)CH 、又は−CSOHを表す。ここで、nは1〜25の整数を表す。また、式(2)中、RはH又はCHであり、RはH又は−C(CHCHSOHを表す。)
【請求項4】
前記キトサンの1級アミノ基に対する前記化合物(成分A)の付加モル比が0.5〜2.0である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水化処理剤。
【請求項5】
水溶性架橋剤(成分C)をさらに含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水化処理剤。
【請求項6】
前記水溶性架橋剤(成分C)が1分子内にカルボキシル基を2個以上有する有機化合物である、請求項5に記載の親水化処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の親水化処理剤でアルミニウム含有金属材の一部又は全部の表面が被覆され、該被覆部が結露濡れ性及び抗菌性を有することを特徴とするアルミニウム含有金属材。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の親水化処理剤でアルミニウム合金製熱交換器の一部又は全部の表面が被覆され、該被覆部が結露濡れ性及び抗菌性を有することを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−185024(P2010−185024A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30650(P2009−30650)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】