説明

親水性ポリマー粒子の製造方法

【課題】残留する疎水性溶媒の少ない親水性ポリマー粒子を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】親水性ポリマー粒子の製造方法は、疎水性溶媒に親水性ポリマー及び疎水性溶媒を含有し体積平均粒径が10μm以下で且つ粒子径の変動係数が60%以下である粗ポリマー粒子が分散した懸濁液に置換溶媒を添加すると共に疎水性溶媒を留去する溶媒置換工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は親水性ポリマー粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆相懸濁重合法や分散重合法では、ポリマーを含有する粒子が疎水性溶媒に分散した懸濁液(スラリー)が得られる。そして、必要に応じて疎水性溶媒を置換溶媒で置換することを行う。
【0003】
特許文献1には、疎水性溶媒にポリマー重量に対する水分量が1.5〜10.0重量%の含水親水性ポリマー粒子が分散した懸濁液に置換溶媒を添加した後に疎水性溶媒を留去することが開示されている。
【特許文献1】特開2008−138106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法のように水分量をコントロールするだけでは、疎水性溶媒を効率的に留去できない場合があった。
【0005】
本発明の目的は、疎水性溶媒を効率的に留去し、残留する疎水性溶媒の少ない親水性ポリマー粒子を製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の親水性ポリマー粒子の製造方法は、疎水性溶媒に親水性ポリマー及び該疎水性溶媒を含有し体積平均粒径が10μm以下で且つ粒子径の変動係数が60%以下である疎水性溶媒含有ポリマー粒子が分散した懸濁液に置換溶媒を添加すると共に該疎水性溶媒を留去する溶媒置換工程を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、疎水性溶媒を置換溶媒で置換する前の疎水性溶媒含有ポリマー粒子の体積平均粒径が10μm以下で且つ粒子径の変動係数が60%以下であることから、残留する疎水性溶媒の少ない親水性ポリマー粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施形態に係る親水性ポリマー粒子の製造方法について詳細に説明する。なお、本出願では、製造過程における粒子を「粗ポリマー粒子」とし、最終的に得られる粒子を「親水性ポリマー粒子」として区別する。
【0009】
本実施形態に係るポリマー粒子の製造方法は、重合工程、脱水工程、及び溶媒置換工程を有する。以下、各工程について詳細に説明する。
【0010】
(重合工程)
本実施形態に係る親水性ポリマー粒子の製造方法では、まず、疎水性溶媒を用いた逆相系の重合反応(例えば、懸濁重合法、分散重合法、乳化重合法等)によって親水性ポリマーを合成することにより、粗ポリマー粒子が疎水性溶媒に分散した懸濁液を得る。
【0011】
具体的には、反応槽に、疎水性溶媒を投入し、予め均一に混合させたモノマー、重合開始剤、及び水を投入し、混合装置により乳化分散させる。このとき、分散剤も併せて投入することが好ましい。なお、反応槽に、モノマー、重合開始剤、水、及び疎水性溶媒を一度に投入して攪拌機で乳化分散させてもよい。そして、反応槽内において重合反応を行わせ、粗ポリマー粒子が疎水性溶媒に分散した懸濁液(スラリー)を得る。
【0012】
モノマーとしては、親水性ポリマーを重合するものであり、例えば、アミノ基、アンモニウム基、ピリジル基、イミノ基、ベタイン構造などのカチオン性基含有ビニルモノマー及びその塩(以下、「カチオン性モノマー」という。);ヒドロキシ基、アミド基、エステル基、エーテル基などの親水性の非イオン性基含有ビニルモノマー(以下、「非イオン性モノマー」という。);カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などのアニオン性基含有ビニルモノマー及びその塩(以下、「アニオン性モノマー」という。)が挙げられる。また、モノマーとして、分子中に少なくとも2個の反応性不飽和基を有する架橋性ビニルモノマー(以下、「架橋性モノマー」という。)が挙げられる。モノマーは、単一種を用いてもよく、また、複数種を用いてもよいが、1種類以上のカチオン性モノマーと1種類以上の非イオン性モノマーとを併用することが好ましい。
【0013】
カチオン性モノマーとしては、例えば、総炭素数2〜44のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、総炭素数2〜44のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリルアミド、総炭素数2〜44のジアルキルアミノ基を有するスチレン、ビニルピリジン、N−ビニル複素環化合物類、ビニルエーテル類などのアミノ基を有するモノマーの酸中和物;これらのモノマーをハロゲン化アルキル(炭素数1〜22)、ハロゲン化ベンジル、アルキル(炭素数1〜18)、アリール(炭素数6〜24)スルホン酸、硫酸ジアルキル(総炭素数2〜8)などにより4級化したもの;ジアリル型4級アンモニウム塩、ベタイン構造を有するビニルモノマー等が挙げられる。これらのカチオン性モノマーのうちアミノ基含有モノマーやアンモニウム基含有モノマーを用いることが好ましく、4級アンモニウム塩型モノマーを用いることがより好ましい。
【0014】
非イオン性モノマーとしては、例えば、ビニルアルコール、ヒドロキシアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリルアミド、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、アルキル(炭素数1〜8)(メタ)アクリルアミド、ジアルキル(総炭素数2〜8)(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−ビニル環状アミド、アルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル、環状アミド基を有する(メタ)アクリルアミドが挙げられる。これらのうち(メタ)アクリルアミド系モノマー、ヒドロキシアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルを用いることが好ましい。
【0015】
アニオン性モノマーとしては、重合性の不飽和基を有するカルボン酸モノマー、その酸無水物(1つのモノマー中に2つ以上のカルボキシル基を有する場合)、重合性の不飽和基を有するスルホン酸モノマー、重合性の不飽和基を有するリン酸モノマー等が挙げられる。これらのうち重合性の不飽和基を有するカルボン酸モノマー、その酸無水物(但し、1つのモノマー中に2つ以上のカルボキシル基を有する場合)、重合性の不飽和基を有するスルホン酸モノマーを用いることが好ましい。
【0016】
なお、アニオン性基は塩基性物質により任意の中和度に中和されてもよく、その場合、生成する親水性ポリマー中の一部乃至全てのアニオン性基は塩を生成する。塩における陽イオンとしては、アンモニウムイオン、総炭素数3〜54のトリアルキルアンモニウムイオン(例えばトリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン)、炭素数2〜4のヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、総炭素数4〜8のジヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、総炭素数6〜12のトリヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。中和は、モノマーで行ってもよく、また、親水性ポリマーが生成した後に行ってもよい。
【0017】
架橋性モノマーとしては、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、ジビニル化合物、ポリアリル化合物、不飽和アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらのうちエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテルを用いることが好ましい。
【0018】
その他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸誘導体等が挙げられる。
【0019】
モノマーは、カチオン性モノマー、非イオン性モノマー、及びアニオン性モノマーのうち少なくとも1種を構成成分として用いることが好ましい。これらの量は、全モノマー量に対して、70〜100質量%とすることが好ましく、85〜100質量%とすることがより好ましい。また、モノマーは、架橋性モノマーを構成成分として用いることが好ましく、その量は、全モノマー量に対して、0.005〜5質量%とすることが好ましく、0.01〜1.0質量%とすることがより好ましい。特に好ましいモノマーの構成は、カチオン性モノマー、非イオン性モノマー、及び架橋性モノマーを含むものである。
【0020】
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、例えば、モノマー成分中で均一に溶解する過酸化物、有機過酸化物及びその塩、無機過酸化物及びその塩、アゾビス系化合物の単独及びそれと還元剤との組み合わせによるレドックス系のものが挙げられる。重合開始剤は、単一種を用いてもよく、また、複数種を用いてもよい。重合開始剤の添加量は、主鎖の重合度を高くすると共に架橋されない高分子鎖の割合を低くし、また、疎水性溶媒や水に溶解しにくくし、重合反応の反応率を高くして残留モノマー量を少なくする観点から、全モノマー100質量部に対して、0.01〜5質量部とすることが好ましく、0.5〜3質量部とすることがより好ましく、0.1〜1質量部とすることがさらに好ましい。
【0021】
水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等が挙げられる。水の量は、全疎水性溶媒量に対して、1〜50体積%とすることが好ましく、5〜40体積%とすることがより好ましい。
【0022】
本出願において「疎水性溶媒」とは、100gの水中における25℃での溶解度が1質量%以下の溶媒をいう。かかる疎水性溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭化水素系溶媒、四塩化炭素、ジクロルエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、アイソバーなどの鉱油等が挙げられる。これらのうち炭化水素系溶媒を用いることが好ましく、へキサン、シクロヘキサンを用いることがより好ましい。疎水性溶媒は、単一種を用いてもよく、また、複数種を混合して用いてもよい。疎水性溶媒の添加量は、全モノマー量に対して、1〜20質量倍とすることが好ましく、1〜10重量倍とすることがより好ましい。
【0023】
分散剤としては、例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、シュガーエステル(三菱化学フーズ社製の商品名)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられる。これらのうち、分散安定性の観点から、ソルビタンモノステアレート、シュガーエステルを用いることが好ましい。分散剤は、単一種を用いてもよく、また、複数種を混合して用いてもよい。分散剤の添加量は、全モノマー100質量部に対して、0.3〜20質量部とすることが好ましく、0.5〜10質量部とすることがより好ましい。
【0024】
乳化分散に用いる混合装置としては、例えば、高圧ホモジナイザー、ラインミキサー、静止型混合器等が挙げられる。
【0025】
静止型混合器としては、混合性に優れている観点から、例えば、縮流・分割タイプの静止型混合器(株式会社フジキン社製 商品名:分散君)が挙げられる。この静止型混合器は、各々、同一の流路孔の構成を有する複数のユニットを、流路孔が連通するように設けて構成することが可能なものである。
【0026】
流路孔の縮流部流路内径は、0.2〜20mmであることが好ましく、0.5〜10mmであることがより好ましく、0.5〜5mmであることが更に好ましい。
【0027】
重合反応は、窒素等の不活性ガスの下で昇温することにより開始させる。この重合操作では、モノマー種により異なるが、重合開始温度を例えば40〜90℃とし、反応時間を例えば1〜24時間とする。
【0028】
得られる懸濁液は、粗ポリマー粒子の含有量(粗ポリマー粒子の質量/(粗ポリマー粒子の質量+疎水性溶媒の質量)×100)が10〜70質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましい。この粗ポリマー粒子の含有量は、疎水性溶媒の添加量によって制御することができる。
【0029】
(脱水工程)
重合工程で得られた懸濁液に含まれる粗ポリマー粒子中の水を脱水する。
【0030】
具体的には、反応槽内を昇温して溶媒を蒸気化し、それをコンデンサーで凝縮した後に水と疎水性溶媒とに静置分離し、分離した疎水性溶媒を反応槽に還流させる一方、水のみを留去する。この脱水操作では、槽内温度を例えば60〜100℃とし、脱水時間を例えば0.5〜20時間とし、必要に応じて槽内圧力を例えば10〜100kPaに減圧する。
【0031】
脱水後の懸濁液は、粗ポリマー粒子の含有量が5〜70質量%であることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましい。
【0032】
脱水後の粗ポリマー粒子の体積平均粒子径は10μm以下であり、0.1〜7μmであることが好ましい。粗ポリマー粒子の体積平均粒子径は、乳化分散時の剪段力、処理時間、分散剤の種類や添加量によって制御することができる。脱水後の粗ポリマー粒子の粒子径の変動係数(以下、「CV値」という。)は60%以下であり、50%以下であることが好ましい。なお、体積平均粒径及びCV値については、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置を用いて求めることができる。
【0033】
脱水後の粗ポリマー粒子のCV値を小さくする観点から、例えば静止型混合機の場合には循環時の静止型混合機における圧力損失を0.01〜0.15MPaにすることが好ましい。
【0034】
脱水後の粗ポリマー粒子中の水の残存含有量は1.5〜10質量%であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましい。
【0035】
(溶媒置換工程)
脱水工程で脱水した懸濁液に置換溶媒を添加すると共に疎水性溶媒を留去する。
【0036】
具体的には、脱水工程で脱水した懸濁液に置換溶媒を添加した後、反応槽内を昇温して疎水性溶媒を蒸気化して留去する。
【0037】
置換溶媒としては、例えば、多価アルコール、界面活性剤、油脂等が挙げられる。置換溶媒は、単一種を用いてもよく、また、複数種を混合して用いてもよい。
【0038】
多価アルコールとしては、例えば、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール、トリメチロールプロパン等の3価アルコール、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の4価以上のアルコールが挙げられる。これらのうちポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0039】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩などの陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、グリセリン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0040】
油脂としては、例えば、脂肪酸グリセリンエステルに代表される脂肪油や脂肪、ワックス類等が挙げられる。
【0041】
置換溶媒の融点は、粗ポリマー粒子から良好に疎水性溶媒を留去すると共に、粗ポリマー粒子/疎水性溶媒/置換溶媒の3成分を馴染み併せる観点から、30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。また、置換溶媒の沸点は、疎水性溶媒との沸点差が大きい方が疎水性溶媒の留去が容易となるという観点から、常圧における沸点が101℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましい。
【0042】
置換溶媒の添加量は、溶媒置換後の懸濁液の流動性を良好にする観点から、最終的に溶媒置換されて得られる懸濁液における置換溶媒の含有量(親水性ポリマー粒子の質量/(親水性ポリマー粒子の質量+置換溶媒の質量)×100)が10〜70質量%となる量とすることが好ましく、20〜50質量%となる量とすることがより好ましい。
【0043】
また親水性ポリマー粒子の重合に用いた全モノマー重量に対する置換溶媒の添加量は、溶媒置換後の懸濁液の流動性を良好にする観点から、0.3〜10kg-溶媒/kg-全モノマーが好ましく0.5〜8kg-溶媒/kg-全モノマーが更に好ましく、0.8〜5kg-溶媒/kg-全モノマーが特に好ましい。
【0044】
疎水性溶媒の留去操作では、槽内温度を例えば60〜100℃とし、留去時間を例えば0.5〜20時間とし、必要に応じて槽内圧力を例えば10〜100kPaに減圧する。
【0045】
この疎水性溶媒の留去操作は、1回のみ行うのではなく、疎水性溶媒の留出が殆ど無くなった時点で、所定量の置換溶媒及び/又は水を添加し、2回目、3回目の疎水性溶媒の留去を行ってもよい。
【0046】
以上の疎水性溶媒の留去後、溶媒置換されて親水性ポリマー粒子が置換溶媒に分散した懸濁液が得られる。このような親水性ポリマー粒子の製造方法によれば、疎水性溶媒を置換溶媒で置換する前の粗ポリマー粒子の体積平均粒径が10μm以下で且つ粒子径のCV値が60%以下であることから、残留する疎水性溶媒の少ない親水性ポリマー粒子を製造することができる。具体的には、親水性ポリマー粒子中において、疎水性溶媒の含有量は例えば2000ppm未満、好適には1000ppm未満にまで低減される。
【0047】
得られた懸濁液は、親水性ポリマー粒子の含有量が10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であることがより好ましい。この粗ポリマー粒子の含有量は、置換溶媒の添加量によって制御することができる。
【0048】
親水性ポリマー粒子の体積平均粒子径及び粒子径のCV値は脱水工程後の粗ポリマー粒子のものとほぼ同一である。
なお、本実施形態では、脱水工程で脱水した懸濁液に対して溶媒置換を行ったが、特にこれに限定されるものではなく、粗ポリマー粒子の凝集が起こらないような場合には脱水工程は必須ではなく、そのような場合には、重合工程で得られた懸濁液に対して直接に溶媒置換を行ってもよい。
本実施形態では、置換溶媒の添加の後に疎水性溶媒の留去を行ったが、特にこれに限定されるものではなく、疎水性溶媒の留去の後に置換溶媒の添加を行ってもよく、また、これらを一部又は全部同時進行で行ってもよい。
【実施例】
【0049】
(親水性ポリマー粒子)
以下の実施例1〜2及び比較例1〜2のようにして親水性ポリマー粒子を製造した。それぞれの内容は表1にも示す。
【0050】
<実施例1>
容量5Lのガラス製ビーカーに、モノマーとして、ジメチルアミノエチルメタクリレートのジエチル硫酸4級化物55.7g(有効分90%)、N,N−ジメチルアクリルアミド143.6g、及びポリエチレングリコールジメタクリレート(EO14モル付加物)0.041gを、重合開始剤として2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.95gを、水277.8gを、疎水性溶媒としてシクロヘキサン1697gを、分散剤としてシュガーエステル1.93gを投入し、それをホモミキサーを用いて回転数9000r/min及び処理時間4分として乳化分散させた。そして、得られた乳化分散液を温調用のジャケット付きの容量5LのSUS製反応槽に移し、反応槽内を窒素ガスの下で55℃に昇温して40分間重合反応させた。
【0051】
反応終了後、槽内温度を80℃にしてシクロヘキサン及び水を反応槽から留出させて脱水操作を行なった。留分はコンデンサーで凝縮した後に水とシクロヘキサンとに静置分離し、分離したシクロヘキサンを脱水操作中は連続的に反応槽に還流させる一方、水のみを反応槽から留去した。留去した水は合計269gであった。
【0052】
得られた懸濁液を冷却した後に粗ポリマー粒子の体積平均粒径及び粒子径のCV値の測定を行った。粗ポリマー粒子の体積平均粒径は4.0μm、及び粒子径のCV値は34.9%であった。なお、体積平均粒径及び粒子径のCV値はレーザー回折散乱法粒度分布測定装置(コールター社製 型番:LS−230)を用いて求めた。
【0053】
そして、得られた懸濁液に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製 商品名:エマルゲン116)246gを添加し、ジャケット温度を80℃に設定すると共に槽内圧力を60kPaに減圧してシクロヘキサンを留去した。シクロヘキサンの留出が目視で確認できなくなった時点で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル49.1gと水5.5gとの混合溶解液を添加し、再度ジャケット温度を80℃に設定すると共に槽内圧力を60kPaに減圧して2回目のシクロヘキサンの留去を行って実施例1の親水性ポリマー粒子を製造した。
【0054】
<実施例2>
容量300LのSUS製反応槽に、モノマーとして、ジメチルアミノエチルメタクリレートのジエチル硫酸4級化物3.1kg(有効分90%)、N,N−ジメチルアクリルアミド8.0kg、及びポリエチレングリコールジメタクリレート(EO14モル付加物)0.0023kgを、重合開始剤として2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.053kgを、水15.4kgを、疎水性溶媒としてシクロヘキサン94.0kgを、分散剤としてシュガーエステル0.11kgを投入し、それを静止型混合器(株式会社フジキン社製 商品名:分散君、流路孔の縮流部流路内径3.5mm、4ユニット)を設置した外部循環ライン用いて混合器部の圧力損失0.09MPa及び処理時間2hとして乳化分散させた。そして、得られた乳化分散液を反応槽に移し、反応槽内を窒素ガスの下で55℃に昇温して40分間重合反応させた。
【0055】
反応終了後、槽内温度を80℃にしてシクロヘキサン及び水を反応槽から留出させて脱水操作を行なった。留分はコンデンサーで凝縮した後に水とシクロヘキサンとに静置分離し、分離したシクロヘキサンを脱水操作中は連続的に反応槽に還流させる一方、水のみを反応槽から留去した。留去した水は合計14.9kgであった。
【0056】
得られた懸濁液を冷却した後に粗ポリマー粒子の体積平均粒径及び粒子径のCV値の測定を行った。粗ポリマー粒子の体積平均粒径は5.1μm、及び粒子径のCV値は28.5%であった。
【0057】
そして、得られた懸濁液に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(花王社製 商品名:エマルゲン116)7.3kgを添加し、ジャケット温度を80℃に設定すると共に槽内圧力を60kPaに減圧してシクロヘキサンを留去した。シクロヘキサンの留出が目視で確認できなくなった時点(残存シクロヘキサン量約1.6質量%)で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル4.5kgと水0.5gとの混合溶解液を添加し、再度ジャケット温度を80℃に設定すると共に槽内圧力を60kPaに減圧して2回目のシクロヘキサンの留去を行って実施例2の親水性ポリマー粒子を製造した。
【0058】
<比較例1>
乳化分散時のホモミキサーの回転数を4500r/min及び処理時間を6分としたことを除いて実施例1と同様の操作で製造した親水性ポリマー粒子を比較例1とした。溶媒置換する前の懸濁液に含まれる粗ポリマー粒子の体積平均粒径は11.1μmであり、粒子径のCV値は34.4%であった。
【0059】
<比較例2>
乳化分散時の混合器部の圧力損失を0.2MPa及び処理時間を2.5時間としたことを除いて実施例2と同様の操作で製造した親水性ポリマー粒子を比較例2とした。溶媒置換する前の懸濁液に含まれる粗ポリマー粒子の体積平均粒径は4.3μmであり、粒子径のCV値は86.7%であった。
【0060】
【表1】

【0061】
(試験評価方法)
実施例1及び2、比較例1及び2のそれぞれについて、2回目のシクロヘキサンの留去の開始からのポリマー粒子懸濁液(ポリマー粒子及び溶媒)量に対する残存シクロヘキサン量を測定した。なお、残存シクロヘキサン量の測定は、酢酸メチルでシクロヘキサンを抽出してガスクロマトグラフ法(内部標準法)にて測定した。
【0062】
(試験評価結果)
試験結果を表1に示す。
【0063】
実施例1では、2回目のシクロヘキサンの留去の開始時点(0時間後)での残存シクロヘキサン量は19,420mg/kg-懸濁液であった。また2回目のシクロヘキサンの留去の開始から12時間後の残存シクロヘキサン量は555mg/kg-懸濁液であった。
【0064】
実施例2では、2回目のシクロヘキサンの留去の開始時点での残存シクロヘキサン量は9,708mg/kg-懸濁液であった。また2回目のシクロヘキサンの留去の開始から12時間後の残存シクロヘキサン量は1,308mg/kg-懸濁液であった。
【0065】
比較例1では、2回目のシクロヘキサンの留去の開始時点での残存シクロヘキサン量は7,228mg/kg-懸濁液であった。また2回目のシクロヘキサンの留去の開始から12時間後の残存シクロヘキサン量は3,460mg/kg-懸濁液であった。
【0066】
比較例2では、2回目のシクロヘキサンの留去の開始時点での残存シクロヘキサン量は11,245mg/kg-懸濁液であった。2回目のシクロヘキサンの留去の開始から13時間後の残存シクロヘキサン量は2,144mg/kg-懸濁液であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は親水性ポリマー粒子の製造方法について有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性溶媒に体積平均粒径が10μm以下で且つ粒子径の変動係数が60%以下である疎水性溶媒含有ポリマー粒子が分散した懸濁液に置換溶媒を添加すると共に該疎水性溶媒を留去する溶媒置換工程を備えた親水性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項2】
上記溶媒置換工程前に、上記疎水性溶媒を用いた逆相系の重合反応によって上記疎水性溶媒含有ポリマー粒子を合成することにより上記懸濁液を得るポリマー重合工程をさらに備えた請求項1に記載された親水性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項3】
上記ポリマー重合工程後で且つ上記溶媒置換工程前に、上記懸濁液に含まれる上記疎水性溶媒含有ポリマー粒子中の水を留去する脱水工程をさらに備えた請求項2に記載された親水性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項4】
上記疎水性溶媒が炭化水素系溶媒である請求項1乃至3のいずれかに記載された親水性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項5】
上記置換溶媒が、多価アルコール、界面活性剤、及び油脂のうち少なくとも1種を含む請求項1乃至4のいずれかに記載された親水性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項6】
上記親水性ポリマーが、カチオン性基含有ビニルモノマー及び/又はその塩、親水性非イオン性基含有ビニルモノマー、並びに分子中に少なくとも2個の反応性不飽和基を有する架橋性ビニルモノマーの共重合体である請求項1乃至5のいずれかに記載された親水性ポリマー粒子の製造方法。

【公開番号】特開2010−138301(P2010−138301A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316523(P2008−316523)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】