説明

親油性または両親媒性治療薬のナノエマルションへの封入

本発明は、連続水相および少なくとも1つの分散油相を含むナノエマルション形態の治療薬製剤であって、油相は、治療薬に加えて少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の可溶化脂質を含み、水相は、少なくとも1種のポリアルコキシル化共界面活性剤を含む製剤に関する。本発明は、この製剤の調製方法および使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に親油性治療薬または両親媒性治療薬を送達するのに有用なナノエマルション型組成物、その調製方法ならびに疾患(特に癌)の治療および診断のためのその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ医療は、ナノテクノロジーと医学との融合によって創出された新しい分野であり、今日では、有効な標的療法の開発、特に腫瘍学にとって最も有望な手段の1つである。
実際、治療薬が充填されたナノ粒子は、受動的および/または能動的標的化によって癌組織を標的化できることにより、薬(特に抗癌薬)の低い選択性を克服する理想的な解決法であり、かつ、重い副作用を減少させる方法である。
【0003】
無機物(例えば、半導体、シリカまたは酸化物)ならびに有機物(天然もしくは合成ポリマー、リポソーム、ナノスフェア、ナノカプセル、マイクロスフェア)の両方の多種多様なナノ粒子が、治療および画像処理用途のために試験されている。
【0004】
ポリマーナノ粒子は、特に有機溶媒の残留物に関連する潜在的細胞毒性、ならびに大規模な再現性および貯蔵寿命問題という製造上の問題点を有することが分かっている。リポソームは、安定性および親油性化合物の封入度の点で限界があり、その製造方法は複雑である。
【0005】
ポリマーナノ粒子に代わるものとして、1990年以降、脂質コアを含み、より多くの場合、生分解性トリグリセリド類を主成分とし、かつポリマーシェルによって囲まれた脂質ナノ粒子が注目されている。生体適合性の脂質類を選択し、かつ溶媒を使用せずにそれらを製造できるため、特にそれらの毒性を減少させることができる(Muller, R. H., Eur J Pharm Biopharm 2000, 50, 161-177; Mehnert, W., et al., Advanced Drug Delivery Reviews(先進のドラッグデリバリー総説)2001, 47, 165-196)。より多くの場合、脂質ナノ粒子は、脂質コアが室温で固体である固体脂質粒子(SLN、「Solid Lipid Nanoparticles(固体脂質ナノ粒子)」の頭字語)からなる。また、脂質ナノ粒子は、ナノ粒子が水溶液に分散された脂質相から形成され、かつ界面活性剤によって安定化されているエマルションからなる場合もある。
【0006】
しかし、SLN技術では、成長の制御がなお不可能であり、ゲル化および予想外の動的多形転移という不測の傾向がある。また、SLNには、固体脂質の結晶構造への組み込み能力に限界がある(Mehnert, W., et al, Advanced Drug Delivery Reviews(先進のドラッグデリバリー総説)2001, 47, 165-196; Westesen, K., et al. International Journal of Pharmaceutics(国際薬剤学雑誌)1997, 151, 35 45; Westesen, K., et al., Journal of Controlled Release 1997, 48, 223-236)。
【0007】
国際公開第WO01/64328号には、有効な医薬成分を封入することができる数ナノメートルの厚さを有する固体シェルに囲まれた液体または半液体コアからなる脂質ナノカプセルについて記載されている。ナノカプセルは熱的方法によって得られ、ここでは、油性および水性成分の混合物が、形成されたエマルションの転相温度(PIT)前後の温度サイクル(60〜85℃)に曝露される。次いで、得られたミクロエマルションを、冷水を添加して冷却する。
【0008】
上記方法は、エマルションの転相を検出するのに特定の機器を必要とし、かつ高温に達するので多くの治療薬に適合しない。また、固体表面シェルの形成によって、その後の生物学的標的リガンドの固定化が難しくなる。さらに、冷却には、大量の冷水の添加(3〜10回の希釈)が必要であり、よって、ナノカプセルの収率を著しく減少させる。その上、脂肪酸トリグリセリド類の化学的性質は転相温度に対して顕著な影響を与え、そのため、それらの選択が制限される。
【0009】
米国特許出願公開第2006/0292186号には、パクリタキセルのような水への溶解が不十分な有効成分の投与のための無水自己ナノ乳化製剤について記載されている。このような製剤は、チロキサポールおよびTPGSなどの合成ポリマー界面活性剤を多く含有する。
【0010】
国際公開第WO2008/042841号には、アニオンリン脂質を含有するパクリタキセルエマルションの前濃縮物について記載されている。水相に分散されたこの製剤は、液滴が負に帯電した水中油型エマルションを形成する。しかし、このようなエマルションは不安定であり、そのため、投与の直前に調製しなければならない。
【0011】
また、Tarrら((1987) Pharm. Res. 4:162-165)は、パクリタキセルのイントラリピド製剤(非経口用途のためのエマルション)について報告しているが、パクリタキセルは大豆油への溶解度が低い(0.3mg/ml)ため、この賦形剤は適さない。
【0012】
また、を治療するための有望な技術である光増感剤型治療薬の有効な投与は、光線力学療法における大きな課題である。この技術の原理は、腫瘍組織に光増感剤を導入し、かつ好適な波長の光放射を用いてこの治療薬を高細胞毒性化合物に変換することに基づいている。光増感剤の細胞毒性は、光照射後の一重項酸素の形成によるものであると仮定されている。
【0013】
上記方法の選択性は、健康な組織に比べて、腫瘍組織、より詳細には実際の腫瘍細胞における光増感剤の選択的な蓄積に依存する。現在のところ、この治療薬の腫瘍選択性が低いために、それらが全身注入された後に、患者に少なくとも6〜8週の長期間にわたる皮膚光線過敏症が生じる。
【0014】
従って、光増感剤のための投与システムを完全なものとすることも、光線力学療法の開発のための重要な課題である。
国際公開第WO00/28971号には、ナノエマルションを含む光線療法および診断法のための5−アミノレブリン酸(5−ALA)局所投与用製剤について記載されている。
【0015】
最後に、皮膚光線過敏症の期間を減少させるために、米国特許出願公開第2005/0215524号には、光増感剤による光線療法の治療の前、間または後に、リン脂質類のエマルションを投与することが提案されている。この例では、光増感剤は、注射されるリン脂質類に直接可溶化され、それにより、血漿および皮膚におけるその迅速なクリアランスが促進される。
【発明の概要】
【0016】
従って、有効な標的化送達を可能にする高用量の親油性もしくは両親媒性治療薬の安定なナノエマルション製剤には依然として課題が残っている。
本発明では、該治療薬が特定の組成の油相を有するナノエマルションに封入された製剤が提案される。
【0017】
本発明は、治療薬を水中油型ナノエマルションに封入した新規な製剤について説明する。
特定の製剤によって、本発明に係るナノエマルションは安定し、かつ治療薬の高度な封入の達成が可能となる。また、該ナノエマルションによって、該分散相の小さな平均径に関連する細胞における高度な内部移行を達成することができる。その製剤は、該連続相中に高濃度の界面活性剤を支持し、かつ驚くほど堅牢である。その理由は、該製剤が安定な状態を維持し、かつ該組成に依存しない治療薬の体内分布を示すからである。最後に、該製剤は、該分散相の界面が低い(さらにはゼロの)ゼータ電位を有するように製剤化され得るために、有益である。ゼータ電位は、該ナノエマルションの体内分布に影響を与える重要なパラメータである。従って、細胞に接触すると、陽ゼータ電位によってエンドサイトーシスが促進される。
【0018】
特に、該ナノエマルションは、有利には、貯蔵中の優れたコロイド安定性(3ヶ月超)、治療薬を封入する良好な能力ならびに該分散相における濃度の上昇を示す。投与中、生体への該ナノ粒子の静脈内注射後に、長い血漿内寿命も観察された(ステルス性(stealthy character))。
【0019】
従って、第1の側面によれば、本発明は、連続水相および少なくとも1つの分散油相を含んでなるナノエマルション形態の治療薬製剤であって、該油相は、該治療薬に加えて、少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の可溶化脂質を含み、該水相は、少なくとも1種のポリアルコキシル化共界面活性剤を含む治療薬製剤に関する。
【0020】
該両親媒性脂質は好ましくはリン脂質である。
該可溶化脂質は、有利には、少なくとも1種の脂肪酸グリセリド、例えば、12〜18個の炭素原子を含んでなる飽和脂肪酸グリセリドを含む。
【0021】
該油相は、少なくとも1種の油、好ましくは3〜6の親水−親油性バランス(HLB)を有する油、特に、大豆油および亜麻仁油から選択される油をさらに含んでいてもよい。
該共界面活性剤は、好ましくは、エチレンオキシド単位またはエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両方の単位から形成された少なくとも1つの鎖を含む。該共界面活性剤は、特に、複合化合物である、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミン(PEG/PE)、脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル、脂肪酸とポリエチレングリコールのエステルおよびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体から選択されてもよい。
【0022】
該治療薬は、特に、有効な医薬成分または光増感剤であってもよい。
第2の側面によれば、本発明は、少なくとも1つの連続水相および少なくとも1つの分散油相を含んでなるナノエマルション形態の治療薬製剤を調製する方法であって、
(i)少なくとも1種の可溶化脂質、両親媒性脂質および治療薬を含んでなる油相を調製する工程と、
(ii)ポリアルコキシル化共界面活性剤を含有する水相を調製する工程と、
(iii)ナノエマルションを形成するのに十分な剪断力の影響下で該油相を該水相に分散させる工程と、
(iv)そのように形成されたナノエマルションを回収する工程と、
を含む方法に関する。
【0023】
剪断力の影響は、好ましくは超音波処理によって生成する。該油相は、有利には、その成分の全てまたは一部を適当な溶媒の溶液に入れ、かつ後に該溶媒を蒸発させることによって調製される。
【0024】
第3の側面によれば、本発明は、疾患または病気を治療するために、ヒトまたは動物に治療薬を投与するための本発明に係る製剤の使用に関する。
本発明に係る製造方法によって、単純で、速く、かつ安価な方法で非常に小さな分散相を含んでなるナノエマルションを製造することができる。また、該方法は堅牢であり、かつ工業規模で容易に実施することができる。さらに、該方法は、有機溶媒を全く使用しないか、極めて少量の有機溶媒を使用するものであり、ヒトの注射用に認可された製品と共に実施することができる。最後に、該製造方法は、適度な加熱のみを必要とするため、不安定な有効成分にさえ使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、透析の前後でCARY300−SCAN分光光度計で測定され、かつそれぞれがAおよびBで表される、それぞれの添加率が0〜1000μM(mTHPP)および0〜2000μM(mTPC)の実施例2Aおよび2Cに係るmTHPPおよびmTPCのナノエマルションの650nmでの光学濃度を示す。
【図2】図2は、Zetasizer(Malvern Instruments社)によって透析後に測定した実施例2A〜2Cに係るエマルションの分散相の平均径についての棒グラフを示す(0.1倍のPBSに1:1000で希釈した試料)。
【図3】図3は、近赤外での共焦点顕微鏡検査で観察された実施例3で得られた細胞の画像を示す。黒い点は、mTHPPによって放射された蛍光を表わす。
【図4】図4は、Ts/Apc型の皮下腫瘍(1千万個の細胞)を有するマウスを示す。
【図5】図5は、cRGDで官能化されたナノエマルションおよび未官能化ナノエマルションに関する、時間の関数として腫瘍から放射された蛍光シグナルと皮膚から放射された蛍光シグナルとの比率の推移を示す。
【図6】図6は、親油性コアに組み込まれた分子の関数として様々なナノエマルションの分散相の平均径を示す。
【図7】図7は、温度T=10℃およびT=60℃についての、製造後のナノエマルションの2種類のH−NMRスペクトルを示す(実施例6)。
【図8】図8は、Universal V3.8B TA機器を用いて(a)製造後、および(b)室温で4ヶ月の貯蔵後のナノエマルションの示差走査熱量測定(DSC)によって得られたサーモグラム(温度(単位:℃)の関数としての熱流(W/g))を示す(実施例6)。
【図9】図9は、3種のナノエマルションに関する、40℃における時間(単位:日数)の関数としてのナノエマルションの液滴の大きさ(単位:nm)の発達を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[定義]
本明細書における意味範囲内で、「ナノエマルション」という用語は、少なくとも2つの相、一般に油相および水相を有する組成物であって、分散相の平均的大きさが、1ミクロン未満、好ましくは10〜500nm、特に20〜100nm、最も好ましくは20〜70nmである組成物を意味する(論文C. Solans, P. Izquierdo, J. Nolla, N. Azemar and M. J. Garcia-Celma, Curr Opin Colloid In, 2005, 10, 102-110を参照)。
【0027】
「治療薬」という用語は、疾患の治療に使用することができ、かつ物理的または生物学的方法において化学的に(例えば、有効な医薬成分として)作用する任意の化合物を指すが、診断薬は含まない。
【0028】
「液滴」という用語は、液体油の液滴そのまま、ならびに油相が固体である水中油型エマルションの固体粒子を包含する。後者の場合、「固体エマルション」という用語が使用されることも多い。
【0029】
本明細書における意味範囲内で、「脂質」という用語は、すべての油脂、または動物脂肪および植物油に存在する脂肪酸を含有する物質を意味する。脂質は、主に炭素、水素および酸素から形成され、かつ水の密度より低い密度を有する疎水もしくは両親媒性分子である。脂質は、ワックスのように室温(25℃)で固体状態であっても、油のように液体であってもよい。
【0030】
「リン脂質」という用語は、リン酸基を有する脂質、特にホスホグリセリド類を指す。最も多くの場合、リン脂質は、置換されていてもよいリン酸基によって形成された親水性末端および脂肪酸鎖によって形成された2つの疎水性末端を含む。特定のリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリンが挙げられる。
【0031】
「レシチン」という用語は、ホスファチジルコリン(すなわち、コリン、リン酸、グリセリンおよび2つの脂肪酸から形成された脂質)を指す。より広くは、リン脂質が主にホスファチジルコリンからなる限り、レシチンとしては、生物源から抽出されたリン脂質、すなわち、植物または動物由来のリン脂質が挙げられる。このようなレシチンは一般に、異なる脂肪酸を有するレシチンの混合物からなる。
【0032】
「脂肪酸」という用語は、少なくとも4個の炭素原子からなる炭素鎖を有する脂肪族カルボン酸を指す。天然の脂肪酸は、4〜28個(一般に偶数)の炭素原子からなる炭素鎖を有する。長鎖脂肪酸は、14〜22個の炭素原子長さの脂肪酸であり、非常に長い長鎖脂肪酸は、22個超の炭素原子を有する脂肪酸である。
【0033】
「界面活性剤」という用語は、水中油型および油中水型界面との特定の親和性を化合物に与え、それにより、これらの界面の自由エネルギーを減少させ、かつ分散系を安定化させることができる両親媒性構造を有する化合物を意味する。
【0034】
「共界面活性剤」という用語は、界面のエネルギーをさらに減少させるように別の界面活性剤と共に作用する界面活性剤を意味する。
「生物学的配位子」という用語は、特定の方法で一般に細胞の表面に配置された受容体を認識する任意の分子を意味する。
【0035】
[エマルション]
第1の側面によれば、本発明は、少なくとも1つの水相および少なくとも1つの油相を含むナノエマルション形態の治療薬製剤であって、油相は、治療薬に加えて、少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の可溶化脂質も含み、水相は、ポリアルコキシル化共界面活性剤を含む治療薬製剤に関する。
【0036】
従って、当該エマルションは、水中油型エマルションである。このエマルションは、単相であってもよいし、特に分散相中に第2の水相を含むことによって多相であってもよい。
【0037】
本発明に係るナノエマルションに封入することができる治療薬は、特に、化学的、生物学的または物理的な方法で作用する有効成分を含む。従って、それらは、有効な医薬成分または生物学的薬剤(例えば、DNA、タンパク質、ペプチド類または抗体)ならびに理学療法で有用な薬剤(例えば、温熱療法で使用される化合物、光によって励起されると一重項酸素を放出する(光線療法に有用な)化合物)および放射薬剤であってもよい。好ましくは、それらは、注射によって投与される有効成分である。
【0038】
当該治療薬は、その親油性または両親媒性の親和性に従って、分散相に封入するか、2つの相の界面に位置づける。
ナノエマルションに封入される治療薬の性質は、特に限定されない。しかし、ナノエマルションは、従来の投与系に製剤化するのが困難な溶解性が不十分な化合物および量子収率を保持しなければならない光線療法に有用な発光性有効成分にとって特に有益である。
【0039】
調製方法の条件が穏やかなため、当該製剤は、高温で分解する治療薬を封入するのに特に有益である。
治療薬として有益である有効な医薬成分の例は、特に、エイズの治療に使用される薬剤、心疾患の治療に使用される薬剤、鎮痛薬、麻酔薬、食欲減退薬、駆虫薬、抗アレルギー薬、抗狭心症薬、抗不整脈薬、抗コリン作用薬、抗凝血剤、抗鬱薬、抗糖尿病薬、抗利尿薬、制吐薬、抗痙攣薬、抗真菌薬、抗ヒスタミン剤、抗高血圧薬、抗炎症薬、片頭痛薬、抗ムスカリン薬、抗抗酸菌薬、抗パーキンソン病薬を含む抗癌剤、抗甲状腺薬、抗ウイルス薬、収斂剤、遮断薬、血液製剤、代用血液、強心剤、心血管作動薬、中枢神経系用薬剤、キレート剤、化学療法剤、造血成長因子、コルチコステロイド、鎮咳薬、外皮用剤、利尿薬、ドーパミン作動薬、エラスターゼ阻害剤、内分泌物質、麦角アルカロイド、去痰薬、胃腸薬、尿生殖器薬剤、成長ホルモン因子開始剤、成長ホルモン、血液作用薬、抗貧血薬、止血剤、ホルモン類、免疫学的薬剤、免疫抑制剤、インターロイキン、インターロイキン類似体、脂質調整剤、ゴナドリベリン、骨格筋弛緩薬、麻薬拮抗薬、栄養物、栄養剤、腫瘍学的治療薬、有機硝酸塩、迷走神経作用薬、プロスタグランジン、抗生物質、腎臓作用薬、呼吸器作用薬、鎮静剤、性ホルモン類、刺激剤、交感神経様作用薬、全身消毒剤、タクロリムス、血栓溶解剤、抗甲状腺薬、注意障害用治療薬、ワクチン、血管拡張薬、キサンチンおよびコレステロール低下薬である。特に関係のある治療薬は、例えば、タキソール(パクリタキセル)、ドキソルビシンおよびシスプラチンなどの抗癌剤である。
【0040】
物理的物質の例は、特に、放射性同位体および光増感剤である。
光増感剤の例は、特に、テトラピロール類(例えば、ポルフィリン、バクテリオクロリン(bacteriochlorine)、フタロシアニン、クロリン、プルプリン、ポルフィセン、フェオフォルビド)の部類に属する光増感剤またはテキサフィリン類またはヒペリシン類の部類に属する光増感剤である。第一世代の光増感剤の例は、ヘマトポルフィリンおよびヘマトポルフィリン誘導体(HpD)(Axcan Pharma社からPhotofrin(登録商標)という商品名で販売されている)の混合物である。第二世代の光増感剤の例は、メタ−テトラ−ヒドロキシフェニルクロリン(mTHPC、商品名:Foscan(登録商標)、Biolitec AG社)およびベンゾポルフィリンのA環の一酸誘導体(QLT and Novartis Opthalmics社からVisudyne(登録商標)という商品名で販売されているBPD−MA)である。輸送体として機能し、かつ腫瘍組織においてそれらの選択的な経路指定を可能にする分子(脂質、ペプチド、糖など)である、これらの光増感剤に関連する第二世代の光増感剤製剤は、第三世代の光増感剤と呼ばれている。
【0041】
生物学的薬剤の例は、オリゴヌクレオチド類、DNA、RNA、siRNA、ペプチド類およびタンパク質である。
当該治療薬は、当然ながら、その活性型またはプロドラッグ形態に直接製剤化してもよい。また、複数の治療薬を一緒にナノエマルションに製剤化することがこともできる。
【0042】
治療薬の量は、関係する目的の投与ならびに薬剤の性質によって異なる。ただし、特に、溶解性の不十分な治療薬を用いる場合は、一般に最大濃度の治療薬を有するナノエマルションを製剤化する試みがなされるため、患者に対して量および/または投与期間の制限がなされる。
【0043】
現在では、油相中に可溶化脂質が存在することにより、大量の化合物あるいは疎水性または両親媒性化合物さえも組み込み可能であることが分かっている。
本発明に係る製剤は、より多くの場合、0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜20重量%、さらにより好ましくは0.1〜10重量%の量の治療薬を含有する。
【0044】
有利には、治療薬を溶液形態のエマルションに組み込み、次いで、例えば蒸発によって溶媒を分離する。この溶液は、その溶解限度に到達し得る様々な量の治療薬を含有する。溶媒の選択は、各治療薬の溶解度に依存する。用いられる溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、シクロヘキサン、DMSO、DMFまたは、さらにトルエンであってもよい。好ましくはヒトに対して毒性のない揮発性溶媒が好ましくは使用される。
【0045】
本発明によれば、ナノエマルションの油相は、少なくとも1種の両親媒性脂質および少なくとも1種の可溶化脂質をさらに含む。
安定なナノエマルションを形成するために、一般に、組成物中に少なくとも1種の両親媒性脂質を界面活性剤として含める必要がある。界面活性剤の両親媒性により、油滴を水性連続相中で安定化させることができる。
【0046】
両親媒性脂質は、親水性部分および親油性部分を含む。両親媒性脂質は一般に、親油性部分が8〜30個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和鎖もしくは不飽和鎖を含む化合物から選択される。両親媒性脂質は、リン脂質類、コレステロール類、リゾ脂質類、スフィンゴミエリン類、トコフェロール類、グルコリピド類、ステアリルアミン類およびカルジオリピン類から選択されてもよく、天然または合成由来であってもよく、すなわち、ソルビタンエステル(例えば、Sigma社からSpan(登録商標)という商品名で販売されているモノオレイン酸ソルビタンおよびモノラウリン酸ソルビタン)などのエーテルまたはエステル基によって親水基に結合されている脂肪酸から形成された分子;重合脂質類;ICI Americas社からTween(登録商標)という商品名で販売され、Union Carbide社からTriton(登録商標)という商品名で販売されている非イオン界面活性剤などのポリエチレンオキシド(PEG)の短鎖に結合された脂質類;モノラウリン酸スクロースおよびジラウリン酸スクロース、モノパルチミン酸スクロースおよびジパルミチン酸スクロース、モノステアリン酸スクロースおよびジステアリン酸スクロースなどの糖エステル類であってもよく、前記界面活性剤は、単独で、あるいは、混合物で使用することができる。
【0047】
レシチンは、好ましい両親媒性脂質である。
特定の一態様では、両親媒性脂質の全部または一部は、反応性官能基(例えば、マレイミド、チオール、アミン、エステル、オキシアミンまたはアルデヒド基)を有してもよい。反応性官能基が存在することにより、官能性化合物を界面でグラフト結合させることができる。反応性の両親媒性脂質は、分散相を安定化させている界面に形成された層に組み込まれており、そこでは、例えば、水相に存在する反応性化合物に結合しやすい。
【0048】
一般に、油相は、0.01〜99重量%、好ましくは5〜75重量%、特に20〜60重量%、最も特に33〜45重量%の両親媒性脂質を含む。
上記量の両親媒性脂質は、有利には、得られたナノエマルションの分散相の大きさを制御するのに有用である。
【0049】
本発明に係るエマルションは、可溶化脂質をさらに含む。この化合物の主な仕事は、ナノエマルションの油相に十分に溶解しない両親媒性脂質を可溶化することである。
可溶化脂質は、両親媒性脂質の可溶化を可能にする両親媒性脂質との十分な親和性を有する脂質である。可溶化脂質は、好ましくは室温で固体である。
【0050】
両親媒性脂質がリン脂質である場合、可能な可溶化脂質は、特にグリセリン誘導体、とりわけ、グリセリンを脂肪酸でエステル化することによって得られるグリセリド類である。
【0051】
使用される可溶化脂質は、有利には、使用される両親媒性脂質に応じて選択される。それは、所望の可溶化をもたらすように、類似した(close)化学構造を一般に有する。それは、油またはワックスであってもよい。可溶化脂質は、好ましくは室温(20℃)で固体であるが、体温(37℃)で液体である。
【0052】
特にリン脂質類にとって好ましい可溶化脂質は、脂肪酸グリセリド類であり、特に、飽和脂肪酸グリセリド類であり、特に、8〜18個の炭素原子、さらにより好ましくは12〜18個の炭素原子を含む飽和脂肪酸グリセリド類である。有利には、異なるグリセリド類の混合物が使用される。
【0053】
好ましくは、少なくとも10重量%のC12脂肪酸、少なくとも5重量%のC14脂肪酸、少なくとも5重量%のC16脂肪酸および少なくとも5重量%のC18脂肪酸を含む飽和脂肪酸グリセリド類が使用される。
【0054】
好ましくは、0%〜20重量%のC8脂肪酸、0%〜20重量%のC10脂肪酸、10%〜70重量%のC12脂肪酸、5%〜30重量%のC14脂肪酸、5%〜30重量%のC16脂肪酸および5%〜30重量%のC18脂肪酸を含む飽和脂肪酸グリセリド類が使用される。
【0055】
Gattefosse社からSuppocire(登録商標)NCという商品名で販売されている半合成グリセリド混合物は、室温で固体であり、ヒトの注射用に認可されており、特に好ましい。タイプNのSuppocire(登録商標)グリセリド類は、脂肪酸とグリセリンの直接エステル化によって得られる。これらは、C8〜C18飽和脂肪酸の半合成グリセリド類であり、その定性−定量組成を以下の表に示す。
【0056】
上述した可溶化脂質によって、安定であるナノエマルション形態の製剤を有利に得ることができる。特定の理論を利用することは望まないが、上述した可溶化脂質によって、無定形コアを有する液滴のナノエマルションが得られると推測される。こうして得られたコアは、結晶性を示さず、内部粘度が高い。結晶化は、ナノエマルションの安定性に対して悪影響を与える。それは、結晶化により、一般に、液滴が凝集しかつ/または封入された分子が液滴から排出するからである。従って、これらの特性によって、長期にわたるナノエマルションの物理的安定性および治療薬の封入の安定性が促進される。
【0057】
可溶化脂質の量は、油相に存在する両親媒性脂質の種類と量の関数として、大きく変動してもよい。一般に、油相は、1〜99重量%、好ましくは5〜80重量%、特に40〜75重量%の可溶化脂質を含む。
【0058】
【表1】

【0059】
油相は、1種または2種以上の他の油をさらに含んでいてもよい。
使用される油は、好ましくは8未満、さらにより好ましくは3〜6の親水−親油性バランス(HLB)を有する。有利には、油は、エマルションの形成前に、化学的または物理的な修正もせずに使用される。
【0060】
提案される用途では、油は、生体適合性の油、特に天然(植物もしくは動物)または合成由来の油から選択することができる。この種の油としては、特に、大豆、亜麻仁、椰子、落花生、オリーブ、ブドウ種子およびひまわり油などの特に天然植物由来の油、ならびに、特に、トリグリセリド類、ジグリセリド類およびモノグリセリド類などの合成油が挙げられる。これらの油は、それらの天然形態であっても、精製されていても、エステル交換されていてもよい。
【0061】
好ましい油は、大豆油および亜麻仁油である。
一般に、上記油は、存在する場合、油相中に1〜80重量%、好ましくは5〜50重量%、特に10〜30重量%の量で含有されている。
【0062】
油相は、適量の他の添加剤(例えば、着色剤、安定剤、防腐剤、フルオロフォア、画像処理用の造影剤)、無機ナノ結晶(例えば、金、酸化鉄または半導体ナノ結晶)または他の有効成分をさらに含有していてもよい。
【0063】
エマルションの分散相のための油相は、単に成分を混合し、かつすべての成分が溶解するまで、必要に応じてそれらを加熱することによって調製することができる。
好ましくは、本発明に係る方法で使用される水相は、水および/またはリン酸緩衝液、例えばPBS(「リン酸緩衝食塩水」)または別の食塩水、特に塩化ナトリウムなどの緩衝液からなる。
【0064】
さらに、水相は、場合により、共界面活性剤などの他の成分も含む。共界面活性剤は、当該ナノエマルションを安定化させる。
また、共界面活性剤は、当該ナノエマルションの目的の用途に加えて他の効果を有してもよい。特に、共界面活性剤は、対象とする配位子を運ぶようにグラフト結合されていてもよい。
【0065】
本発明に係るエマルションで使用され得る共界面活性剤は、好ましくは水溶性界面活性剤である。水溶性界面活性剤は、好ましくはアルコキシル化されており、好ましくは、エチレンオキシド単位(PEOもしくはPEG)またはエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両方の単位からなる少なくとも1つの鎖を含む。好ましくは、鎖の単位数は、2〜500の範囲で変化する。
【0066】
共界面活性剤の例としては、特に、複合化合物である、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)、ICI Americas社からBrij(登録商標)(例えば、Brij(登録商標)35、58、78もしくは98)という商品名で販売されている製品のような脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル類、ICI Americas社からMyrj(登録商標)(例えば、Myrj(登録商標)45、52、53もしくは59)という商品名で販売されている製品のような脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル類、およびBASF AG社からPluronic(登録商標)(例えば、Pluronic(登録商標)F68、F127、L64、L61、10R4、17R2、17R4、25R2もしくは25R4)という商品名で販売されている製品、またはUnichema Chemie BV社からSynperonic(登録商標)(例えば、Synperonic(登録商標)PE/F68、PE/L61もしくはPE/L64)という商品名で販売されている製品のようなエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体が挙げられる。
【0067】
水相は、0.01〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、特に5〜20重量%の共界面活性剤を含む。
好ましい態様では、連続相は、グリセリン、糖、オリゴ糖もしくは多糖、ゴム、さらにはタンパク質(好ましくはグリセリン)のような増粘剤をさらに含む。実際、より粘度の高い連続相の使用によって乳化を容易にし、よって、超音波処理時間を短縮させることができる。
【0068】
水相は、有利には、0〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、特に5〜20重量%の増粘剤を含む。
当然のことながら、水相は、適量の着色剤、安定剤および防腐剤などの他の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0069】
エマルションの連続相のための水相は、異なる成分を選択された水性媒体と単に混合することによって調製してもよい。
[調製方法]
上記ナノエマルションは、剪断力の影響下で好適な量の油相および水相を分散させることによって容易に調製することができる。
【0070】
本発明に係る方法では、最初に異なる油性成分および治療薬を混合してエマルションの分散相のための油性プレミックスを調製する。混合は、場合により、適当な有機溶剤溶液にその成分の一方または完全な混合物を入れることによって容易にすることができる。次いで、有機溶剤を蒸発させて分散相のための均質な油性プレミックスを得る。
【0071】
さらに、全ての成分が液体である温度でプレミックスを生成することが好ましい。
好適な態様によれば、ナノエマルションの分散相は、有益な分子(例えば、生物学的配位子)によって界面でグラフト結合されている。この種のグラフト結合プロセスによって、特定の細胞(例えば、論文S. Achilefu, Technology in Cancer Research & Treatment(癌の研究および治療における技術), 2004, 3, 393-408に記載されているような腫瘍細胞)または特定の人体器官を認識することができる。
【0072】
界面グラフト結合プロセスは、好ましくは、分子またはそれらの前駆体を両親媒性化合物(特に、共界面活性剤)に結合させることによって達成される。この場合、両親媒性化合物は、標的分子を界面に配置させることができるスペーサとして機能する。この結合は、乳化の前もしくは後に行われてもよい。特にpHに関して、使用される化学反応がエマルションのコロイド安定性と両立する場合には、後者が好まれるかもしれない。カップリング反応中のpHは、好ましくは5〜11である。
【0073】
例えば、有益な分子は、生物学的標的リガンド(例えば、抗体、ペプチド類、糖類、アプタマー類、オリゴヌクレオチド類、または葉酸などの化合物)、またはステルス剤(ナノエマルションを免疫系に察知されないようにして生体内でのその循環時間を増加させ、かつその排出を遅くするために添加される物質)であってもよい。
【0074】
また、特に、MRI(磁気共鳴画像)、PET(陽電子放射断層撮影)、SPECT(シングルフォトン断層撮影)、超音波検査、X線撮影、X断層撮影および光学画像処理(蛍光、生体発光、散乱など)用の画像処理剤および/または上に定義した治療薬を、共有結合またはそれ以外によって、その界面において、あるいはその上に吸着させてナノ粒子内に導入することもできる。
【0075】
油相と水相の割合は非常に変動的である。ただし、通常、ナノエマルションは、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、特に10〜30重量%の油相および50〜99重量%、好ましくは60〜95重量%、特に70〜90重量%の水相によって調製される。
【0076】
有利には、油相を、液体状態で水相に分散させる。相のうちの1つが室温で凝固する場合、1つまたは好ましくは2つの相を有する混合物の温度を融解温度以上に加熱することが好ましい。
【0077】
剪断力の影響下での乳化は、好ましくは超音波処理器またはミクロ流動化装置を用いて生じさせる。好ましくは、水相および次いで油相を、所望の割合で適当な円筒状容器に導入し、超音波処理器を媒体に浸漬させ、ナノエマルションを得るのに十分な長さの間(通常、数分間)作動させる。
【0078】
これにより、油滴の平均径が10nm超〜200nm未満、好ましくは20〜50nmである均質なナノエマルションが生成される。
ゼータ電位の絶対値は、好ましくは20mV未満(すなわち、−20〜20mV)である。
【0079】
コンディショニング前に、例えば、濾過または透析によって、エマルションを希釈および/または殺菌してもよい。この工程によって、エマルションの調製中に形成され得るどんな凝集体も除去することができる。
【0080】
必要であれば希釈後に、こうして得られたエマルションは、すぐに使用することができる。
[使用方法]
本発明に係る製剤は、ヒトまたは動物への(1種または2種以上の)治療薬の投与のために、そのままで、あるいは、例えば希釈により目的の用途に合わせて使用してもよい。
【0081】
当該製剤は、ヒト用に認可された成分のみから調製され得るという事実から、非経口投与に特に適している。ただし、投与は、他の経路、特に経口または局所投与によって達成することもできる。
【0082】
従って、開示される製剤によって、特に化学療法または光線療法による病気(例えば癌)の治療のために必要な治療薬を投与するための単純な方法が可能となる。
また、本発明は、治療を必要としている哺乳動物(好ましくはヒト)に対して上に定義したとおりの治療的有効量の製剤を投与することを含む治療法にも関する。
【0083】
以下、本発明を、以下の実施例および添付の図によってより詳細に説明する。
図1は、透析の前後でCARY300−SCAN分光光度計で測定され、かつそれぞれがAおよびBで表される、それぞれの添加率が0〜1000μM(mTHPP)および0〜2000μM(mTPC)の実施例2Aおよび2Cに係るmTHPPおよびmTPCのナノエマルションの650nmでの光学濃度を示す。透析前の直線的線形相関の方程式は、mTHPPについては、y=0.0042x+0.2331(R=0.99)であり、mTPCについては、y=0.0049x+0.023(R=0.99)である。透析後の直線的線形相関は、mTHPPについては、y=0.0056x+0.1503(R=0.99)であり、mTPCについては、y=0.0059x+0.0584(R=0.99)である。
【0084】
図2は、Zetasizer(Malvern Instruments社)によって透析後に測定した実施例2A〜2Cに係るエマルションの分散相の平均径についての棒グラフを示す(0.1倍のPBSに1:1000で希釈した試料)。
【0085】
図3は、近赤外での共焦点顕微鏡検査で観察された実施例3で得られた細胞の画像を示す。黒い点は、mTHPPによって放射された蛍光を表わす。
図4は、Ts/Apc型の皮下腫瘍(1千万個の細胞)を有するマウスを示す。麻酔されたマウスへの50μMのフルオロフォアを含むナノエマルション溶液200μL(A:DiDを封入したナノエマルション、B:ICGを封入したナノエマルション)の静脈注射から24時間後の観察。
【0086】
図5は、cRGDで官能化されたナノエマルションおよび未官能化ナノエマルションに関する、時間の関数として腫瘍から放射された蛍光シグナルと皮膚から放射された蛍光シグナルとの比率の推移を示す。
【0087】
図6は、親油性コアに組み込まれた分子の関数として様々なナノエマルションの分散相の平均径を示す。
図7は、温度T=10℃およびT=60℃についての、製造後のナノエマルションの2種類のH−NMRスペクトルを示す(実施例6)。
【0088】
図8は、Universal V3.8B TA機器を用いて(a)製造後、および(b)室温で4ヶ月の貯蔵後のナノエマルションの示差走査熱量測定(DSC)によって得られたサーモグラム(温度(単位:℃)の関数としての熱流(W/g))を示す(実施例6)。
【0089】
図9は、3種のナノエマルションに関する、40℃における時間(単位:日数)の関数としてのナノエマルションの液滴の大きさ(単位:nm)の発達を示す。菱形は可溶化脂質を含有せずかつ油を含むナノエマルションを表し、三角形は可溶化脂質と油の50:50混合物を含むナノエマルションを表し、かつ、丸は油を含有せずかつ可溶化脂質を含有するナノエマルションを表す(実施例6)。
【実施例】
【0090】
実施例1
パクリタキセルを封入したナノエマルションの調製
パクリタキセルを封入したナノエマルション2mL(パクリタキセルの初回添加量:1mM、すなわち850μg/mL)を以下の方法で調製した。
【0091】
油相は、Suppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)という商品名で販売されている半合成グリセリド190mgおよび大豆レシチン(Fluka社から販売されているL−α−ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン30%以上)138mgを、50℃まで加熱した適切な容器に入れて調製した。クロロホルム1mLに溶解したパクリタキセル(Sigma−Aldrich社から販売されている)17mg(すなわち、パクリタキセル0.002mmol)をこの混合物に添加した後、混合物をボルテックス混合によって均質化した。次いで、溶媒を、徐々に圧力を減少させながらロータリーエバポレーターにおいて40〜45℃で真空蒸発させた。
【0092】
水相は、Myrj53(Sigma−Aldrich社から販売されているポリエトキシル化界面活性剤)228mgを2mLのバイアルに入れ、次いで、食塩水1.38mL(1444mg)([NaCl]=154mM)を添加して調製した。混合物を50℃まで加熱して界面活性剤を溶解し、次いで、得られた溶液をボルテックス混合によって均質化した。水溶液を50℃に維持した。
【0093】
油相、次いで水相(50℃)を、50℃の水浴に浸したフラスコに入れた。次いで、二相溶液を、円錐形プローブを備えた超音波処理器(Bioblock Scientific社から販売されているVibra-cell 75115)に接触させ、円錐形プローブを混合物中に約1cm浸した。最大出力を25%に調整した超音波処理器で混合物を5分間軽く超音波処理した。その際、10秒間の超音波処理・30秒間の停止という一連のパルスを用いた。
【0094】
次いで、得られたナノエマルションを0.2mMのフィルタで濾過して、封入されていないタキソールを分離した。得られたナノエマルション中の脂質ナノ粒子の濃度は、約25重量%であった。
【0095】
次いで、ナノエマルションを、医薬用途のためにすぐに使用可能な状態にし、治療的注射のためにすぐに使用可能な食塩緩衝液(154mMのNaCl)中にパクリタキセル612μg/mL(すなわち、30mgの治療用量に対して注射溶液50mL)として決定された量に濃縮した。この製剤について、以下の表2にまとめる。
【0096】
【表2】

【0097】
封入されたタキソールの分析
得られたナノエマルションに封入されたパクリタキセルは、S.Kimら(S.C. Kim, J. Yu, J. W. Lee, E.-S. Park, S.-C. Chi, Journal of Pharmaceutical and Biomedical analysis, 2005, 39 170-176)の研究で開発された方法に従って、HPLC分析した。
【0098】
最初に、超音波および加熱処理(60℃で4時間)を行った後および分析条件下(アセトニトリル/水の混合液中)で分解が生じていないことを確認することで、ナノエマルションの調製および分析条件下におけるタキソールの良好な物理化学的挙動を確認した。
使用したHPLC(高速液体クロマトグラフィー)装置は、以下のとおりであった:
検出モジュール:Dual λ Absorbance Detector Waters 2487、227nmでのUV検出
分離モジュール:Separations module Waters 269
カラム:Supelco phase Supelcosil C18 250×4.6 mm、5μm、流速1mL/分
注入量:20μL溶液(1mg/mL(すなわち1.17mM)のタキソールのメタノール溶液)
移動相:CHCN/H
タキソールの保持時間は、以下の表3に示す溶離勾配ではt=14.64分であった:
【0099】
【表3】

【0100】
定量分析のために、内部標準は、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル(EI)(Sigma−Aldrich社から販売されているC1115NO)を使用し、この保持時間は、上で詳述した条件下で、t(El)=15.256分であった。エマルションを破壊し、タキソールを混合物から抽出し、かつHPLC分析のための公知の量の内部標準を添加することによって封入されたタキソールをナノエマルションから抽出した。得られた結果を、タキソールと内部標準とのピーク領域A間の比を表わす予め準備した較正曲線と比較した。
【0101】
タキソール濃度は0.597mM(理論上の濃度は0.83mM)であり、よって、少なくとも72%の封入度であることが分かった。
実施例2A
光増感剤(mTHPP)を封入したナノエマルションの調製
Sigma−Aldrich社から販売されている5,10,15,20−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)−(21H,23H)−ポルフィリン(mTHPP)を封入したナノエマルションを、以下のように調製した。
【0102】
大豆油(Sigma−Aldrich社)0.05gを、半合成グリセリド(Suppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)という商品名で販売されている)0.150gおよび大豆レシチン(75%ホスファチジルコリン含有、Lipoid(登録商標)S75という商品名でLipoid社から販売されている)0.100gと共に適切な容器に入れた。0.27mg〜1.37mgの量の5,10,15,20−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)−21H,23H−ポルフィリン(Sigma−Aldrich社から販売されているmTHPP)を、このプレミックスのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液に添加した。真空下で溶媒を蒸発させた後、残留物を50〜60℃まで加熱し、乳化のために液体混合物をこの温度に維持した。
【0103】
別の容器に、グリセリン0.05g、50モルのエチレンオキシドを有するステアリン酸ポリオキシエチレン(ICI Americas社からMyrj(登録商標)53という商品名で販売されている)0.331gおよび塩化ナトリウムの154mM水溶液の混合物を調製して1.7gを得た。得られた水溶液を、熱い状態(50〜60℃)に維持した。
【0104】
50℃まで加熱した油相、次いで水相を、50℃の水浴に浸したフラスコに入れた。次いで、二相溶液を、直径3mmの円錐形プローブを備えたAV505(登録商標)超音波処理器(Sonics、Newtown社)に接触させて、円錐形プローブをこの溶液中に約1cm浸した。次いで、最大出力を25%に調整した超音波処理器でこの溶液を5分間超音波処理した。その際、10秒間の超音波処理・30秒間の停止という一連のパルスを用いた。超音波処理の間、この溶液を水浴で50℃に維持した。
【0105】
得られたエマルションを、12000に等しいカットオフ閾値を有するSpectra/Por(登録商標)透析膜によって154mMの塩化ナトリウム溶液に対して透析して、反応しなかった反応物を除去した。次いで、得られたエマルションを0.22μmのフィルタで濾過してそれを殺菌し、凝集体および過剰の光増感剤を除去した。
【0106】
このエマルションは、そのまま維持した後、治療的投与のための可能な希釈後に、再懸濁のような事前の特別な処理をせずに直接使用することができる。
以下の表4は、透析前に得られた製剤の組成をまとめたものである。光学濃度から算出された、mTHPPのナノエマルションへの平均的取り込み度は約75%であった(図1)。
【0107】
【表4】

【0108】
図2に示すように、このようにして得られたエマルションの光散乱法(ZeiterSizer Nano、Malvern Instrument社)によって測定された分散相の平均径は29nmであった。
さらに、この光増感剤製剤は、図2Aおよび図2Bに示すように、長期にわたる分散相の平均径の安定性によって実証されるように、少なくとも40日間にわたって非常に安定していた。
【0109】
従って、これらの全ての特性に関して、本発明に係る製剤は、すぐに使用可能な形態で市販することができる。
実施例2B
光増感剤(mT20M2P)を封入するナノエマルションの調製
プレミックス中で直接、光増感剤を2.3mgの量の5,10,15,20−テトラキス(4−オクタデシルオキシメチルフェニル)−21H,23H−ポルフィリン(mT20M2P、Porphyrin systems社から販売されている)に置き換えたこと以外は同じ方法で、実施例2Aを繰り返した。
【0110】
上の表4は、透析前に得られた製剤の組成をまとめたものである。光学濃度から算出された、mT20M2Pの得られたナノエマルションへの平均的取り込み度は約89%であった。
【0111】
実施例2C
光増感剤(mTPC)を封入するナノエマルションの調製
光増感剤を10mMのトルエン溶液の形態で添加される0.24mg〜2.4mgの量のメソ−テトラフェニルクロリン(mTPC、Porphyrin Systems社から販売されている)に置き換えたこと以外は同じ方法で、実施例2Aを繰り返した。
【0112】
上の表4は、透析前に得られた製剤の組成をまとめたものである。光学濃度から算出された、mTPCの得られたナノエマルションへの平均的取り込み度は約83%であった(図1)。
【0113】
蛍光量子収率の測定
ナノエマルションおよび溶媒に製剤化された様々な光増感剤の蛍光量子収率を、ナイルブルー過塩素酸塩のエタノール溶液を基準(λexc605nm(Fref=0.27))にして測定した。結果を表5にまとめる。その収率は、実質的にそれらの各溶媒中の光増感剤の収率であることが分かった。従って、ナノエマルション製剤は、試験した光増感剤の蛍光量子収率に影響を及ぼさなかった。
【0114】
【表5】

【0115】
実施例3
腫瘍細胞におけるナノエマルションの内部移行
U373株の腫瘍細胞における実施例2Aに従って得られたmTHPP(添加率600μM)を封入するナノエマルションの内部移行を、蛍光顕微鏡法によって生体外で監視した。
【0116】
最終濃度を2μMにし、実施例2に従ってナノエマルションに製剤化されたmTHPPの存在下で5%のCOを含有する制御雰囲気で、スライド(Labtech、Nunc社)上に置いて培養庫に入れたU373腫瘍細胞をDMEM培地(Gibco、Invitrogen社によって供給されている)で24時間インキュベートした。DMEMを用いた一連の洗浄操作および4%パラホルムアルデヒド溶液中37℃で固定後に、細胞を蛍光のための特別な封入媒体(長期抗退色剤(Prolong anti-fade)、Invitrogen社)に入れ、スライドをカバーガラスで覆った。
【0117】
試料の共焦点顕微鏡検査(Leica TS2)は、図3に示すように、腫瘍細胞における蛍光を示し、これにより、ナノエマルションに製剤化されたmTHPPの腫瘍細胞の外部から内部への通過が実証された。
【0118】
実施例4
様々な腫瘍モデルにおける受動的蓄積
非侵襲的蛍光画像処理を用いて、腫瘍を有するマウスにおける本発明に係るナノエマルションの体内分布を研究した。
【0119】
このような要件のために、封入された治療薬の代わりに、国際特許出願番号PCT/FR2007/000269に記載されているような非侵襲的蛍光画像処理に適する親油性もしくは両親媒性有機フルオロフォア(フルオロフォアDiDもしくはDiR、Invitrogen社およびICG Sigma社)を生体内で使用したこと以外は、実施例1および2に従ってナノエマルションを調製した。
【0120】
腫瘍モデルとなる細胞は、ネズミの乳癌由来のTs/Apc細胞(Ts/Apc)であった(Lollini, P.L.; Degiovanni, C.; Landuzzi, L.; Nicoletti, G.; Frabetti, F.; Cavallo F.; Giovarelli, M.; Forni, G,; Modica, A,; Modesti, A,; Musiani, P,; Nanni, P,; Human Gene Therapy(ヒトの遺伝子治療) 1995, 6, (6), 743-752)。Ts/Apc細胞を、10%のFCS、50U/mLのペニシリン、50μg/mLのストレプトマイシン、2.5×10−5Mの2−メルカプトエタノール(Sigma−Aldrich社から販売されている)を含むRPMI1640培地で培養した。この細胞を、5%のCOを含む湿潤雰囲気下で37℃に維持した。ナノエマルションが注射される2週前に、5〜6週齢の雌のヌードマウス(フランスのマルシーレトワール(Marcy l'Etoile)所在のIFFA−Credo社)の背中に10の細胞を皮下注射した。このマウスをガス(イソフルラン)で全身麻酔している間に、すべての注射および画像の取得を行なった。この麻酔された動物を、封入されたフルオロフォアの分光特性に適合した蛍光反射撮像(FRI)装置によって撮像した。
【0121】
図4は、注射の24時間後に得られた蛍光シグナルを示す。この画像は、2種類の異なるフルオロフォアについて、腫瘍における蛍光トレーサーの蓄積を明らかに示している。
実施例5
官能化ナノエマルションの調製
ナノエマルションは、官能化可能な界面活性剤を用いて官能化して、能動的標的化現象によって腫瘍中のその蓄積を増加させることができる。
【0122】
例えば、実施例4に従って調製したDiDを封入したナノエマルションを、膜状の受容体(αβインテグリン)に固定することができる環状ペプチド(cRGD)で官能化した。このようなインテグリンは、血管新生(すなわち、特に大部分の腫瘍成長に伴う新しい血管の形成)現象の間に過剰発現した。
【0123】
官能化は、乳化の前後に実行することができた。以下、乳化前に共界面活性剤を官能化し続ける方法に関して説明する。
グラフト結合型共界面活性剤で官能化された標的ペプチドの調製
内皮細胞の界面で過剰発現されるαβインテグリンの標的環状ペプチドである、メルカプト酢酸の形態の保護されたチオール基を有するc(RGCf[ε−S−アセチルチオアセチル]キナーゼ)(Ansynth Service BV社(オランダ)から販売されている)(以下、cRGDと呼ぶ)を、グラフト結合型共界面活性剤(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリ(エチレングリコール)5000−マレイミド(Avanti Polar Lipids社から販売されているDSPE−PEG(5000)−マレイミド)と結合させた。ここで、後者は、0.05Mのヒドロキシルアミン濃度を有する4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタン/エチレンジアミン四酢酸(HEPES/EDTA)のスルホン酸緩衝溶液中で1:1のモル比でcRGDと混合されている。この溶液を、微量のアルゴン流下において室温で4時間ゆっくり撹拌し、低圧で蒸発させた後、第2の工程の前にクロロホルムに再溶解した。
【0124】
次いで、官能化ナノエマルションを、2重量%の油を上記のように調製した等価量のペプチドに置き換えたこと以外は、実施例2に示す手順に従って調製した。
cRGDで官能化され、DiDでドープされたナノエマルション溶液、および比較としてDiDでドープされた未官能化ナノエマルションを、Hek−β細胞由来の腫瘍を有するマウスに注射した。この腫瘍細胞は、上述のように、類似した手順に従って雌のヌードマウスの背中に移植したものである。
【0125】
cRGDで官能化されたナノエマルションで処置されたマウスの皮膚の腫瘍の、未官能化ナノエマルションを投与された腫瘍に対する比率の推移の比較により、cRGDで官能化されたナノ粒子の腫瘍における好ましい蓄積が実証された。それは、関係する分子の方向づけ(vectorization)に対する能動的標的化を実証した。
【0126】
従って、本発明に係るナノエマルションは、より標的化した投与を可能にし、よって、投与される用量の減少ならびにこれによる治療期間の短縮および望ましくない副作用の減少に寄与することができる治療薬製剤を構成する。
【0127】
また、治療薬の添加によって、それらの生体内での体内分布で作用する主な因子である分散相の大きさ、界面の性質およびその添加に関しては、調製されるナノエマルションの特性をほとんど変えないことが分かった。最後に、パクリタキセルまたは光増感剤のような有効成分を封入したナノエマルションは、腫瘍中に受動的に蓄積し、この蓄積は、例えばcRGDなどの生物学的配位子をグラフト結合させることによる能動的標的化によって増強することができる。
【0128】
従って、本発明に従って提供されるナノエマルションは、受動的または能動的な方法で、腫瘍の方へ治療薬を方向づけする(vectorizing)有効な手段を構成し、従って、特に化学療法または光線療法手段による癌などの疾患の診断および治療を向上させる有益な手段を構成する。
【0129】
実施例6
ナノエマルションの安定性の確認
可溶化脂質によってナノエマルションに与えられる安定性を実証するために以下の実験を行なった。
【0130】
実施例6A:NMRによる液滴の内部粘度の高いことの確認
Suppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)(可溶化脂質)255mg、大豆油(Sigma Aldrich社)(油)85mg、Myrj52(登録商標)(ICI Americas社)(共界面活性剤)345mg、Lipoid(登録商標)s75(レシチン、両親媒性脂質)65mgおよびリン酸緩衝液(PBS)を含むナノエマルションを、実施例1の手順に従って調製した。
【0131】
ナノエマルションは、プロトン核磁気共鳴によって、10℃と60℃で分析した。特に温度が低かった場合は、H−NMRスペクトルで観察されたナノエマルション(油/可溶化脂質および両親媒性脂質)の液滴のコア成分に関連するピーク(0.9;1.5;1.6;2.0;2.2;4.1;4.2ppm)は、基準(4,4−ジメチル−4−シラペンタン−1−スルホン酸(DSS)を0ppmとする)と比較して広がっており、よって、液滴の内部粘度が高いことを明らかにした。共界面活性剤Myrj53(登録商標)に関連するピーク(3.7ppm)は拡がりをしめさず、共界面活性剤が液滴の表面に残存し、かつポリオキシエチレン鎖が水性緩衝液に可溶化されていることを示す(図7)。
【0132】
実施例6B:示差走査熱量測定による液滴中に結晶化が生じていないことの確認
Suppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)(可溶化脂質)150mg、大豆油(Sigma Aldrich社)(油)50mg、Myrj53(登録商標)(ICI Americas社)(共界面活性剤)228mg、Lipoid(登録商標)s75(レシチン、両親媒性脂質)100mgのおよびリン酸緩衝液(PBS)を含むナノエマルションを、実施例1の手順に従って調製した。
【0133】
調製後および室温で4ヶ月の貯蔵後に、ナノエマルションの示差走査熱量測定分析によって得られたサーモグラムは、製造後および4ヶ月を超える室温での貯蔵後のいずれにおいても融解ピークが観察されなかったことを示し、これは、液滴が結晶化しなかったことを示す(図8)。
【0134】
実施例6C:物理的安定性に対するナノエマルション組成物の影響を明らかにする
Myrj53(登録商標)(ICI Americas社)(共界面活性剤)228mg、Lipoid(登録商標)s75(レシチン、両親媒性脂質)100mg、リン酸緩衝液(PBS)1600μL、表6に示す量のSuppocire(登録商標)NC(Gattefosse社)(可溶化脂質)および大豆油(Sigma Aldrich社)(油)を含む3種類のナノエマルションを、実施例1の手順に従って調製した。
【0135】
【表6】

【0136】
得られた3種類のナノエマルション対して40℃における安定性の促進試験を行なった。経時的なナノエマルションの大きさ/多分散性を監視することで、可溶化脂質の安定化作用を確認することができた。可溶化脂質を含有していないナノエマルションの大きさは、40℃では、ほぼ170日後に著しく増加したのに対して、可溶化脂質を含有するナノエマルションは、液滴の大きさに顕著な変化を示さなかった(図9)。この結果は、可溶化脂質をナノエマルションの組成物に添加することによって、液滴およびナノエマルションに対して、より良好な物理的安定性を与えることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続水相および少なくとも1種の分散油相を含むナノエマルション形態の治療薬製剤であって、該水相は、少なくとも1種のポリアルコキシル化共界面活性剤を含み、該油相は、該治療薬に加えて、飽和脂肪酸グリセリドの混合物からなる少なくとも1種の可溶化脂質および少なくとも1種の両親媒性脂質を含み、該飽和脂肪酸グリセリドが、
少なくとも10重量%のC12脂肪酸、
少なくとも5重量%のC14脂肪酸、
少なくとも5重量%のC16脂肪酸、および
少なくとも5重量%のC18脂肪酸、
を含む治療薬。
【請求項2】
可溶化脂質が飽和脂肪酸グリセリドの混合物からなり、該飽和脂肪酸グリセリドが、
0重量%〜20重量%のC8脂肪酸、
0重量%〜20重量%のC10脂肪酸、
10重量%〜70重量%のC12脂肪酸、
5重量%〜30重量%のC14脂肪酸、
5重量%〜30重量%のC16脂肪酸、および
5重量%〜30重量%のC18脂肪酸、
を含む、請求項1に記載の治療薬製剤。
【請求項3】
両親媒性脂質がリン脂質である、請求項1または請求項2に記載の治療薬製剤。
【請求項4】
油相が少なくとも1種の油をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の治療薬製剤。
【請求項5】
油が3〜6の親水−親油性バランス(HLB)を有する、請求項4に記載の治療薬製剤。
【請求項6】
共界面活性剤が、エチレンオキシド単位またはエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの両方の単位からなる少なくとも1つの鎖を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の治療薬製剤。
【請求項7】
共界面活性剤が、複合化合物である、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)、脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル、脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーから選択される、請求項6に記載の治療薬製剤。
【請求項8】
治療薬が医薬成分である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の治療薬製剤。
【請求項9】
治療薬が光増感剤である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の治療薬製剤。
【請求項10】
官能化されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の治療薬製剤。
【請求項11】
少なくとも1つの連続水相および少なくとも1つの分散油相を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載のナノエマルション形態の治療薬製剤を調製する方法であって、
(i)治療薬、両親媒性脂質、および飽和脂肪酸グリセリドの混合物からなる少なくとも1種の可溶化脂質を含む該油相を調製する工程であって、該飽和脂肪酸グリセリドが、
少なくとも10重量%のC12脂肪酸、
少なくとも5重量%のC14脂肪酸、
少なくとも5重量%のC16脂肪酸、および
少なくとも5重量%のC18脂肪酸、
を含む工程と、
(ii)ポリアルコキシル化共界面活性剤を含む水相を調製する工程と、
(iii)ナノエマルションを形成するために十分な剪断力の影響下で該油相を該水相に分散させる工程と、
(iv)そのように形成されたナノエマルションを回収する工程と、
を含む方法。
【請求項12】
可溶化脂質が飽和脂肪酸グリセリドの混合物からなり、該飽和脂肪酸グリセリドが、
0重量%〜20重量%のC8脂肪酸、
0重量%〜20重量%のC10脂肪酸、
10重量%〜70重量%のC12脂肪酸、
5重量%〜30重量%のC14脂肪酸、
5重量%〜30重量%のC16脂肪酸、および
5重量%〜30重量%のC18脂肪酸、
を含む、請求項11に記載の調製方法。
【請求項13】
剪断力の影響が超音波処理によって生成される、請求項11または請求項12に記載の調製方法。
【請求項14】
油相を、その成分の全てまたは一部を適当な溶媒の溶液に入れ、その後に該溶媒を蒸発させることによって調製する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の調製方法。
【請求項15】
疾患または病気を治療するためにヒトまたは動物に治療薬を投与するために使用される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項16】
治療を必要としている哺乳動物に請求項1〜10のいずれか1項に記載の治療的有効量の製剤を投与することを含む治療法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2012−504107(P2012−504107A)
【公表日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522520(P2011−522520)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060539
【国際公開番号】WO2010/018223
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(511039614)
【Fターム(参考)】