観察装置、画像観察方法、及び被検体
【課題】誤差の少なく信頼性の高い画像取得が可能な観察装置、画像観察方法、及び被検体を提供する。
【解決手段】被検物を保持するステージと、タイム・ディレイ・インテグレーション方式により被検物を撮像する第1の撮像素子と、被検物と第1の撮像素子とを相対移動させる移動機構と、ステージに保持される被検物を撮像することで所定の情報を取得する第2の撮像素子と、第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送状態を制御する制御部と、を備える。
【解決手段】被検物を保持するステージと、タイム・ディレイ・インテグレーション方式により被検物を撮像する第1の撮像素子と、被検物と第1の撮像素子とを相対移動させる移動機構と、ステージに保持される被検物を撮像することで所定の情報を取得する第2の撮像素子と、第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送状態を制御する制御部と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置、画像観察方法、及び被検体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数のマイクロウェルを備えるいわゆる大規模集積アレイの各ウェルに配置された被検体(例えば、所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質)から蛍光を発生させて、測定し、各ウェルの測光値を数値データ化する技術として、タイム・ディレイ・インテグレーション(Time Delay Integration:TDI)方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなTDI方式による画像取得方法では、被検物の移動速度と撮像素子の画素蓄積電荷の転送速度を同期させることによって、高感度且つ高速に画像を取得できる。
【0003】
一般的に画素蓄積電荷の転送速度の誤差は小さいものの、被検物を保持した状態で移動するステージの移動速度は摩擦等の外的要因を受け易く、誤差が大きくなる場合がある。すると、ステージによる被検物の移動速度と画素蓄積電荷の転送速度とがずれてしまい、像が歪んで適切な蛍光観察を行うことができなくなるおそれがある。
【0004】
このような問題を解決すべく、ステージにリニアエンコーダを設け、ステージ移動速度をリアルタイムで検出し、それに合わせて画素蓄積電荷の転送速度を制御する技術がある(例えば、特許文献2には、旋回アームに設けられたロータリエンコダの回転速度、回転角を検出し、それに同期させて画像蓄積電荷の転送速度を制御する方法が開示されている。旋回アームは回転運動であるが、ステージの直線運度と原理的には同じである)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4020893号公報
【特許文献2】特許第3291406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のTDI方式による画像取得では、ステージの速度と画素蓄積電荷の転送速度を同期させることが重要である。上記従来技術では、ステージの速度として、ステージの実速度ではなく、結像光学系を介して撮像素子の撮像面上に投影された被検物の仮想的な移動速度で定義したものを用いている。
【0007】
しかしながら、上述したようなステージに設けたリニアエンコーダからの信号と結像光学系の設計倍率から換算された仮想的な速度は、結像光学系の倍率誤差、被検物の製造時の寸法誤差、膨張又は収縮による誤差、画像の観察光軸とステージのリニアエンコーダ信号検出部とが一致していないことによるアッベ誤差を含んでしまうため、信頼性の高い画像取得を行うことが難しかった。そこで、TDI方式による撮像方法において、誤差が少なく、より信頼性の高い検出結果を得ることができる新たな技術の提供が望まれている。
【0008】
本発明の態様は、誤差の少ない信頼性の高い画像取得が可能な観察装置、画像観察方法、及び被検体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るに観察装置は、被検物を保持するステージと、タイム・ディレイ・インテグレーション方式により前記被検物を撮像する第1の撮像素子と、前記被検物と前記第1の撮像素子とを相対移動させる移動機構と、前記ステージに保持される前記被検物を撮像することで所定の情報を取得する第2の撮像素子と、前記第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送状態を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の画像観察方法は、被検物を保持するステージに対して相対移動する第1の撮像素子を用いて、前記被検物をタイム・ディレイ・インテグレーション方式による撮像を行う画像観察方法であって、前記第1の撮像素子とは異なる第2の撮像素子が前記被検物に設けられたパターンマークを撮像して取得した情報に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送状態を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明の被検体は、撮像素子によるタイム・ディレイ・インテグレーション方式の撮像に用いられる被検体であって、前記撮像素子により撮像される撮像対象物を収容する収容部が設けられた基板を備え、前記基板には、前記撮像素子とは別の撮像素子により撮像されるパターンマークが形成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、誤差の少ない信頼性の高い画像取得ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】顕微鏡装置の全体構成を示す斜視図。
【図2】ステージに保持されている基板の形状を示す図。
【図3】撮像素子の構成を示す図。
【図4】TDI方式の撮像動作時の撮像素子の動きの説明図。
【図5】TDI方式の信号電荷の転送状態を説明図。
【図6】撮像素子に蓄積される信号電荷の電荷量の変化を示す図。
【図7】第二実施形態に係る撮像部の構成を示す図。
【図8】第三実施形態に係る撮像部の構成を示す図。
【図9】第三実施形態に係る基板の構成を示す平面図。
【図10】第四実施形態に係る第1の撮像素子の画素とウェルとの対応関係を示す図。
【図11】第五実施形態に係る撮像部の平面構成を示す図。
【図12】制御部が照明装置の強度を調整するフローを示す図。
【図13】第1の撮像素子が取得した蛍光信号の補正方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、観察装置として、TDI方式を用いた顕微鏡装置を例に挙げて説明する。以下の各図において、観察装置の構成を説明するにあたり、XYZ空間座標系を用いる場合がある。本実施形態では、観察装置が載置される床面に平行な方向をそれぞれX方向及びY方向とし、当該床面(XY平面)に垂直な方向をZ方向とする。ただし、X軸及びY軸は、直交している。
【0015】
図1は本実施形態に係る顕微鏡装置1の全体構成を示す斜視図である。図1に示すように、顕微鏡装置1は、基板ステージ2と、基板ステージ2を移動させるステージ駆動部3と、照明装置4と、撮像部5と、を備えている。
【0016】
基板ステージ2は、基板Sを保持するとともに、ステージ駆動部3により撮像部5に対して移動可能になっている。基板ステージ2の表面には、XY方向に沿ってスケール21が形成されている。計測部22は、計測結果を制御部CONTに出力する。制御部CONTでは、計測部22による計測結果に基づいて基板ステージ2のX,Y方向の位置を求めることができるようになっている。このように、スケール21、計測部22及び制御部CONTにより、基板ステージ2のX,Y方向における位置を検出する位置検出部が構成されている。
【0017】
ステージ駆動部3は、制御部CONTと電気的に接続されている。ステージ駆動部3は、基板ステージ2を駆動するアクチュエータである。ステージ駆動部3としては、例えばリニアモータ機構などを用いることができる。ステージ駆動部3は、制御部CONTの制御(移動量、移動のタイミングなど)に基づいて、基板ステージ2をXY方向に移動させる。このような構成に基づき、撮像部5は基板ステージ2上の基板Sに対し、相対的に移動するようになっている。
【0018】
照明装置4は基板Sに所定の励起光を照射するものであり、例えばケーラー照明が可能なコンポーネントを有している。照明装置4が照射した励起光は、ダイクロイックミラー8により反射された後、対物レンズ7を介して基板Sに照射される。ダイクロイックミラー8は、基板Sからの戻り光(蛍光)を透過させるようになっている。
【0019】
撮像部5は、投影レンズ50、第1の撮像素子51、第2の撮像素子52、対物レンズ7、及びダイクロイックミラー8を含む。対物レンズ7は、基板ステージ2と対向する位置に配置されている。投影レンズ50には、ダイクロイックミラー8を透過した基板Sからの戻り光が入射する。投影レンズ50は、入射した光を所定の位置に集光(結像)する。
【0020】
第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は、基板S上の異なる対象をそれぞれ撮像している。第1の撮像素子51は、基板Sからの戻り光のうち、後述する試料Bが発した蛍光を検知可能な位置に配置されている。また、第2の撮像素子52は、基板Sからの戻り光のうち、後述するパターンマークPAからの戻り光を検知可能な位置に配置されている。第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は、制御部CONTに電気的に接続されており、撮像結果を制御部CONTに出力するようになっている。
【0021】
図2(a)は基板ステージ2に保持されている基板Sの形状を示す図であり、図2(b)は、基板Sの要部を示す拡大断面図である。基板Sは、いわゆるマイクロアレイチップと呼ばれる板状部材であり、例えば矩形に形成されている。
【0022】
基板Sは、例えばガラス板やプラスチック板などの材料で形成されている。基板Sは、一方向に長手となるように形成されている。基板Sは、当該長手方向がX方向に平行になるように基板ステージ2に保持されている。基板Sの表面Saには、ウェルWがマトリクス状に形成されている。このように、マトリクス状に配置された複数のウェルWにより、基板Sにウェル列WLが形成されている。
【0023】
基板Sの表面Saには、長手方向(X方向)に沿って所定のパターンマークPAが形成されている。パターンマークPAは、顕微鏡装置1(撮像部5)の視野VWのうち、第2の撮像素子52の撮像領域に配置されている。このパターンマークPAは、例えば明暗パターンが交互に繰り返すものから構成されており、上記ウェルWを形成する工程と同一の工程で形成されている。これにより、パターンマークPAは、例えば、基板Sが外部環境温度の変化で膨張或いは収縮した場合でも、パターンマークPAがウェルWとともに膨張或いは収縮するので、パターンマークPAは常にウェルWに対して所定の位置関係で配置されたものとなる。よって、パターンマークPAはウェルWの位置情報を示す指標として信頼性の高いものとなっている。
【0024】
パターンマークPAは、基板Sの短手方向(Y方向)に沿って複数配置されている。具体的に、パターンマークPAは、撮像部5の視野VWの幅毎に基板Sに設けられている。これにより、撮像部5が基板Sの全面を走査する際、基板S上で改行した場合でも、撮像部5の視野VW内にパターンマークPAが常に配置されるようになっている。これにより、第2の撮像素子52は、常にパターンマークPAを検出し、撮像部5が基板Sの全面を移動する際、基板Sの移動速度及び位置情報を取得可能となっている。また、パターンマークPAは、ウェル列WLよりも外側まで延出した延出部PA1,PA2を有している。
【0025】
ウェルWは、Z方向視で例えば円形に形成されている。そして、ウェルW内には、図2(b)に示すように、測定対象である試料Bとして被検体(例えば、所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質)が配置されている。試料Bは、照明装置4から所定の励起光が照射されると励起されて蛍光を発する。
【0026】
図3は第1の撮像素子51の構成を示す図であり、図3(a)は平面図を示し、図3(b)は第1の撮像素子51の画素53とウェルWとの対応関係を説明するための図である。なお、図3(a)では、図を見やすくするため、基板SにおけるパターンマークPAの図示を省略している。撮像部5の第1の撮像素子51は、図3(a)に示すように、光電変換素子であるCCDカメラから構成されており、複数の画素53を備えている。
【0027】
具体的に、第1の撮像素子51は、ライン状に配列された複数の画素53が垂直方向にも複数列配置されることで構成されている。本実施形態では、例えば、1024×128画素、すなわち1024個の画素53がライン状にY方向に沿って配列された画素ライン53Rと、該画素ライン53Rが垂直方向に128列配置された画素列53Lとを含む第1の撮像素子51を用いた。第1の撮像素子51は、後述のように、基板ステージ2の移動に対応して、画素列53L単位で信号電荷の転送をすることでTDI方式による撮像を行うことが出来る。
【0028】
第1の撮像素子51の画素53の画素サイズは、図3(b)に示すように、ウェルWの外径に対応しており、平面視した状態で画素53内にウェルWが配置される大きさとなっている。また、画素53のX,Y方向に沿った配列ピッチは、基板SのウェルWの配置ピッチに対応している。ここで、ウェルWの外径及び配置ピッチに対応するとは、投影レンズ50を介して拡大又は縮小した状態のウェルWと画素53との外径又はピッチとを比較する場合も含む。
【0029】
図1に戻って、第2の撮像素子52は、光電変換素子から構成されており、具体的に本実施形態ではフォトダイオードから構成されている。第2の撮像素子52は、図2に示した基板Sの表面Saに形成されたパターンマークPAを撮像するためのものである。
【0030】
第2の撮像素子52は、パターンマークPAを撮像することで、投影レンズ50を介して当該第2の撮像素子52の撮像面上に投影される基板Sの移動速度及び位置を検出可能となっている。第2の撮像素子52は、制御部CONTに電気的に接続されており、パターンマークPAに基づいて算出した上記基板Sの移動速度及び位置を制御部CONT内の信号処理部に送信するようになっている。
【0031】
また、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は保持部材(不図示)に一体に保持されており、同一の光学系(対物レンズ7及び投影レンズ50)を介して基板S上を撮像している。すなわち、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52における基板S上の撮像領域は、顕微鏡装置1の同一視野内に存在している。したがって、顕微鏡装置1は、第1の撮像素子51が基板SのウェルWからの蛍光を撮像するとともに、第2の撮像素子52がパターンマークPAを撮像するようになっている。
【0032】
第2の撮像素子52は、顕微鏡装置1の視野VWのうち、第1の撮像素子51のスキャン方向の前方側(−X方向)を撮像可能な位置に配置されている。また、基板Sの表面Saの長手方向(X方向)に沿って形成されたパターンマークPAは、ウェル列WLの外側まで延出した延出部PA1、PA2を有しているので、第2の撮像素子52は、撮像部5が基板Sに対してスキャンする際、第1の撮像素子51がウェルWからの蛍光を撮像するよりも前に、パターンマークPAの延出部PA1を撮像するようになっている。
【0033】
第2の撮像素子52がパターンマークPAの延出部PA1を撮像している期間は、基板ステージ2が駆動を開始することで撮像部5の基板Sに対する移動速度の変動が大きくなる加速期間を含んでしまう。延出部PA1は、撮像部5の基板Sに対する速度が所定値に到達するまでの間、第1の撮像素子51の画素53にウェルWからの蛍光を入射させない長さに設定されている。これにより、第1の撮像素子51がウェルWからの蛍光を撮像する際には、撮像部5が基板Sに対して一定速度で移動した状態となるため、後述のTDI方式による撮像を良好に行うことができる。
【0034】
また、第2の撮像素子52がパターンマークPAの延出部PA2を撮像している期間は、基板ステージ2が駆動を停止することで撮像部5の基板Sに対する移動速度の変動が大きくなる減速期間を含んでしまう。延出部PA2は、第1の撮像素子51の全ての画素53がウェルWからの蛍光を撮像し終わるまでの間、第2の撮像素子52が当該延出部PA2を撮像し続けることができる長さに設定されている。これにより、第2の撮像素子52は、少なくとも第1の撮像素子51が基板S上のウェルWについて撮像を終了するまではパターンマークPAを撮像し続けることが可能となっている。
【0035】
第2の撮像素子52は、パターンマークPAを撮像することで、当該第2の撮像素子52(撮像部5)の撮像面内における基板Sの移動速度を測定することができる。
ここで、上述のように第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は一体に保持され、同一の対物レンズ7及び投影レンズ50を介して基板S上を撮像しているため、第2の撮像素子52の撮像面内における基板Sの移動速度と、第1の撮像素子51の撮像面内における基板S(ウェルWからの蛍光)の移動速度とは略等しくなる。
【0036】
したがって、制御部CONTは、第2の撮像素子52が検出したパターンマークPAの検出結果に基づき、第1の撮像素子51の撮像面(画素53)内におけるウェルWからの蛍光の移動速度を算出可能となっている。
【0037】
続いて、撮像部5によるTDI方式の撮像動作について説明する。
図4は、基板Sに対する第1の撮像素子51の動作を説明するための図である。また、図5(a)〜(c)は、TDI方式の信号電荷の転送の概念を説明するための図である。また、図6(a)〜(c)は、第1の撮像素子51のスキャン方向における第一列目、第二列目、及び第三列目を構成する画素53に蓄積される信号電荷の電荷量の変化を示す図である。なお、本実施形態においては基板ステージ2を動かすことで撮像部5(第1の撮像素子51)と基板Sとを相対移動させようにしている。しかしながら、図4〜6においては、図示の容易化のため、第1の撮像素子51が基板S上を移動する形態で示すものとする。
【0038】
また、本実施形態では、ステージ駆動部3が基板ステージ2を移動させることで第1の撮像素子51と基板Sとを相対移動可能な構成としたが、ステージ駆動部3が基板ステージ2上の基板Sに対して撮像装置5を移動させる構成であっても構わない。
【0039】
図4に示すように、第1の撮像素子51は、基板Sの移動方向における上流端(+X方向の端部)側から下流端(−X方向の端部)側に向かって当該基板S上を相対移動することで撮像を行う。
【0040】
撮像部5が基板Sに対してスキャンを開始すると、顕微鏡装置1の視野VWのうち、第2の撮像素子52内の視野領域にパターンマークPAの延出部PA1が入り込んでくる。
制御部CONTは、パターンマークPA(延出部PA1)の検出結果に基づき、撮像部5の撮像面内における基板Sの移動速度を算出し、蓄積された信号電荷(蓄積電荷信号)の転送のタイミングと基板Sの移動速度とを同期させるために、蓄積電荷信号の転送のタイミングを調整する。
【0041】
基板ステージ2の移動速度が一定となった後、図5(a)に示されるように、基板Sの移動方向先端のウェル列WLのウェルWaが第1の撮像素子51の移動方向(以下、スキャン方向(−X方向)と呼ぶ場合もある)における第一列目53L1の画素53上に投影される。すると、第一列目53L1の画素53には、図6(a)に示すように、ウェルWaからの蛍光に対応した強度の信号電荷が蓄積される。
【0042】
図5(b)に示すように、第1の撮像素子51がスキャン方向に沿って画素列53Lの一つ分だけ移動すると、図5(b)に示す光学系は倒立像を結ぶので、第1の撮像素子51の移動と同時に、第一列目53L1の画素53に蓄積された信号電荷(蓄積電荷信号)は、スキャン方向とは反対方向である(撮像素子51に形成された像の移動方向と同じ方向)第二列目53L2の画素53に転送される。
【0043】
そして、ウェルWaからの蛍光が、第一列目53L1及び第二列目53L2の画素53によって撮影される。なお、第一列目53L1の画素53は、基板Sの2列目のウェルWb(図3(b)参照)からの蛍光を撮像している。
【0044】
したがって、第二列目53L2の画素53には、図6(b)に示すように、前回時に蓄積された信号電荷と今回の撮影時に蓄積された信号電荷が加算されることになる。つまり、第二列目53L2の画素53には、前回及び今回の撮影で得られた信号電荷が累積される。このように、図5(a)に示す状態から、図5(b)に示す状態のように電荷転送が行われる。
【0045】
ところで、本実施形態に係る制御部CONTは、第2の撮像素子52の検出結果に基づいて算出した、第1の撮像素子51の撮像面(画素53)内におけるウェルWの移動速度に合わせて、画素53間での信号電荷の転送を行うようにしている。すなわち、制御部CONTは、第2の撮像素子52の検出結果に基づいて、第1の撮像素子51における信号電荷の転送と、撮像部5と基板Sとの相対移動とを同期させる同期部を構成している。なお、信号電荷の転送と相対移動とを同期させる方法としては、転送のタイミングを調整する、或いは基板ステージ2の移動速度を調整することが考えられる。転送のタイミングを調整する方法としては、信号電荷の転送を開始する若しくは停止するタイミングを調整する、或いは第1の撮像素子51における転送速度自体を変化させることが挙げられる。
【0046】
本実施形態では、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は、同一の光学系(対物レンズ7及び投影レンズ50)を介して基板S上を撮像しているため、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52の撮像面上において光学系の倍率誤差の影響を防止できる。また、第1の撮像素子51における観察光軸と第2の撮像素子52における観察光軸とが略一致するため、アッベ誤差の影響を小さくできる。
【0047】
また、第2の撮像素子52が撮像するパターンマークPAは、ウェルWと同一の工程で基板Sに形成されているため、例えば、基板Sが外部環境温度の変化で膨張或いは収縮した場合でも、パターンマークPAがウェルWとともに膨張或いは収縮する。このように、第2の撮像素子52は、ウェルWに対して所定の位置関係で配置されたパターンマークPAを撮像するので、信頼性の高い撮像結果を得ることができる。したがって、制御部CONTは、信号電荷の転送と相対移動とを精度良く同期させることができる。
【0048】
さらに、図5(c)に示す光学系は倒立像を結ぶので、第1の撮像素子51がスキャン方向に沿って画素列53Lの一つ分だけ移動すると、ウェルWaの撮像が続行される。このとき、図5(c)に示すように、第1の撮像素子51の移動と同時に、第二列目53L2の画素53に蓄積された信号電荷が、スキャン方向とは反対方向である(撮像素子51に形成された像の移動方向と同じ方向)第三列目53L3の画素53に転送される。また、第一列目53L1の画素53に蓄積された信号電荷が、第二列目53L2の画素53に転送される。そして、ウェルWaからの蛍光が、第一列目53L1、第二列目53L2、及び第三列目53L3によって撮影される。このとき、第二列目53L2の画素53は、基板Sの2列目のウェルWb(図3(b)参照)からの蛍光を撮像し、第一列目53L1の画素53は、基板Sの3列目のウェルWc(図3(b)参照)からの蛍光を撮像する。
【0049】
したがって、第三列目53L3の画素53には、図6(c)に示すように、今回の撮影時に得られた信号電荷が、加算されていくことになる。よって、第三列目53L3の画素53には、前々回、前回及び今回の撮影で得られた信号電荷が、蓄積される。なお、第二列目53L2の第1の撮像素子51には、前回及び今回の撮影時に得られた信号電荷が蓄積される。
【0050】
撮像部5は、1つのウェルWに対して上記動作を第1の撮像素子51の画素列53Lの数(128個)だけ繰り返し行うこととなる。これにより、ウェルWの同一箇所に対応する信号電荷が、128回だけ蓄積されることになる。このように、TDI方式では、撮像面に投影されるウェルWからの蛍光が、基板ステージ2の移動に伴ってシフトするが、それに同期して第1の撮像素子51に蓄積される信号電荷をシフトさせている。したがって、上記動作を128回だけ続けた場合、TDI方式を採用した撮像部5は、リニアイメージセンサに比べて、128倍の感度を実現できる。すなわち、128倍のコントラストと、√128だけノイズを軽減することが可能となる。
【0051】
撮像部5は、第1の撮像素子51を基板S上に複数回往復させることで全てのウェルW内の試料Bの蛍光を撮像することができる。そのため、撮像部5は、第1の撮像素子51が基板Sの−X方向における端部まで移動し終わると、図4に示したように撮像が終了していない他のウェルWと第1の撮像素子51の画素53とを位置合わせすべく、撮像部5を初期位置(基板Sの左端)に戻すとともに、顕微鏡装置1の1視野VW分だけ−Y方向に移動する。そして、ステージ駆動部3が基板ステージ2を移動し、第1の撮像素子51を基板Sに対して−X方向に沿って移動させつつ、上述のTDI方式による2回目の撮像を開始する。以下同様のシーケンスで基板Sの全面について撮像を行う。
【0052】
以上の述べたように、本実施形態に係る撮像部5によるTDI方式の撮像動作によれば、基板ステージ2の移動と同期して信号電荷が最適なタイミングで転送されるので、誤差の少ないTDI方式の撮像を行うことができる。
なおパターンマークPAにおいて明暗パターンの明の部分には蛍光物質が含まれており、各ウェルの蛍光を測定するために照射する励起光により発光する。パターンマークPAの蛍光波長はウェルWから発する蛍光波長とは異なるように蛍光物質を選ぶのが好ましい。
さらにパターンマークPAの代わりにウェルを1列設けて、そこにウェルWとは異なる蛍光波長を持つ蛍光物質を入れて、パターンマークPAの代わりに位置検出をすることも可能である。
また明暗を透過率の異なるパターンとし、これを透過照明で検出しても良い。
【0053】
(第二実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第二実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第2の撮像素子の構成である。なお、それ以外の部材及び構成については、上記実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0054】
図7は本実施形態に係る撮像部5の構成を示す平面図である。図7に示すように、第2の撮像素子152は、光電変換素子から構成されており、本実施形態では複数の画素153がライン状に配置されたCCDラインセンサから構成されている。
【0055】
具体的に、第2の撮像素子152は、複数の画素153がX方向に沿ってライン状に配列されている。すなわち、第2の撮像素子152は、パターンマークPAの延在方向に沿って画素153が配列されている。なお、画素153の数は、同図では簡略化して記載しているが、例えば第1の撮像素子51における画素列53Lと同じ値の128に設定されている。
【0056】
本実施形態においても、第2の撮像素子152は、パターンマークPAを撮像することで基板Sの移動速度及び位置を検出可能となっている。第2の撮像素子152は、複数の画素153によってパターンマークPAを検出する。そして、第2の撮像素子152は、各画素153が取得したデータを比較し、他と明らかに異なるデータを排除して平均化した値を算出する。これにより、パターンマークPA上の途中にゴミ等の異物が付着していた場合であっても、第2の撮像素子152は他の画素153が取得したデータからパターンマークPAから所定のデータを取得することができる。
【0057】
よって、本実施形態に係る構成であっても、第2の撮像素子152が基板ステージ2の移動と同期して信号電荷を最適なタイミングで転送できるので、誤差の少ないTDI方式の撮像を行うことができる。
【0058】
また、仮に撮像部5に対して基板Sが傾いて移動している場合、第2の撮像素子152の画素153からパターンマークPAが外れて撮像できなくなる。よって、第2の撮像素子152の画素153は、基板Sのスキャン方向における傾きを検出することができる。なお、ステージ駆動部3が基板ステージ2をZ軸周りで回転可能な構成の場合、制御部CONTは上記第2の撮像素子152が基板ステージ2上に基板Sが傾いた状態で載置されているのを検出した場合、ステージ駆動部3により基板ステージ2を回転させることで、撮像部5に対する基板ステージ2の向きを補正することができる。
【0059】
(第三実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第三実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第1の撮像素子として信号電荷の読み出し方向が双方向のものを用いた点と、第2の撮像素子の構成が異なる点と、パターンマークの構成が異なる点と、である。なお、それ以外の部材及び構成については、上記実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0060】
図8は本実施形態に係る撮像部5の構成を示す平面図である。図8に示すように、第2の撮像素子252は、光電変換素子から構成ており、本実施形態ではフォトダイオード252aとフォトダイオード252bとを備えている。フォトダイオード252a及びフォトダイオード252b(以下、フォトダイオード252a,252bと称す場合もある)は、制御部CONTに電気的に接続されている。第1の撮像素子51は、信号電荷の読み出し方向が双方向に対応している。
【0061】
図9は本実施形態に係る基板Sの構成を示す平面図である。
図9に示すように、基板Sの表面Saには、長手方向(X方向)に沿ってパターンマークPAが形成されている。本実施形態においても、パターンマークPAがウェルWを形成する工程と同一の工程で形成されている。パターンマークPAは、パターンマークPAaとパターンマークPAbとを含む。これらパターンマークPAa及びパターンマークPAb(以下、パターンマークPAa、PAbと称す場合もある)は、それぞれ長手方向(X方向)に沿って配置されている。
【0062】
ここで、パターンマークPAaは、顕微鏡装置1(撮像部5)の視野VWのうち、第2の撮像素子252におけるフォトダイオード252aの撮像領域に配置されている。また、パターンマークPAbは、上記視野VWのうち、第2の撮像素子252におけるフォトダイオード252bの撮像領域に配置されている。なお、パターンマークPAa,PAbは、図示を省略するものの、上記実施形態と同様、ウェル列WLよりも外側まで延出した延出部を有している。
【0063】
パターンマークPAa及びパターンマークPAbは、それぞれ明暗パターンが交互に繰り返され、90度位相が異なるものから構成されている。このような構成に基づいて、制御部CONTは、フォトダイオード252a,252bの検出に基づいて撮像部5における基板Sに対するスキャン方向を検出することができる。
【0064】
続いて、本実施形態におけるTDI方式の撮像動作について図9を参照しつつ説明する。
図9に示すように、撮像部5(第1の撮像素子51)は、基板Sの移動方向における上流端(+X方向の端部)側から下流端(−X方向の端部)側に向かって当該基板S上を相対移動することで撮像を行う。
【0065】
撮像部5が基板Sに対して−X方向に沿ってスキャンすると、第2の撮像素子252のフォトダイオード252a,252bがそれぞれパターンマークPAa、PAbを検出する。このとき、制御部CONTは、上述したように第2の撮像素子252の検出結果から、撮像部5のスキャン方向を取得している。
【0066】
本実施形態においても、制御部CONTは、第2の撮像素子252の検出結果に基づいて、第1の撮像素子51における信号電荷の転送と、撮像部5と基板Sとの相対移動とを同期させてTDI方式の撮像を行う。このように基板ステージ2の移動と同期して信号電荷が最適なタイミングで転送されるので、誤差の少ないTDI方式の撮像を行うことができる。
【0067】
撮像部5は、第1の撮像素子51を基板S上に複数回往復させることで全てのウェルW内の試料Bを撮像する。撮像部5は、第1の撮像素子51が基板Sの−X方向における端部まで移動し終わると、図9に示したように顕微鏡装置1の1視野VW分だけ−Y方向に移動する。そして、撮像部5が反対方向(図9中の+X方向)にスキャンし始める。撮像部5が反対方向にスキャンし始めると、フォトダイオード252a,252bがパターンマークPAa、PAbから検出する明暗パターンの位相が切り替わるので、制御部CONTはこれに合わせて第1の撮像素子51における信号電荷の転送方向を反対方向に切り替える。すなわち、本実施形態においては、制御部CONTが第1の撮像素子51における信号電荷の転送方向を制御するようになっている。
【0068】
これにより、第1の撮像素子51は、図9中の+X方向にスキャンしつつ、TDI方式による2回目の撮像を開始する。以下同様のシーケンスで基板Sの全面について撮像を行うことができる。
【0069】
このように本実施形態においては、図9に示したように撮像部5が基板Sに対する往路(−X方向へのスキャン)に加え、復路(+X方向へのスキャン)においてもTDI方式の撮像を行うことができる。よって、図9に示したように、撮像部5を初期位置(基板Sの左端)に戻すための空走区間(撮像部5が基板Sの撮像を行うことなく移動する区間)が不要となるため、画像取得時間を短縮できる。
【0070】
(第四実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第四実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第1の撮像素子の画素とウェルとの対応関係(倍率)が異なる点である。
【0071】
具体的に上述したような顕微鏡装置においては、より多くのウェルWの蛍光輝度データをより短時間で取得することが求められる。そのため、上記第一乃至第三実施形態では説明を簡単にするため、最も効率が高い、第1の撮像素子51の1つの画素53にウェルWを1つ割り当て、1回の撮像で画素53と同じ数のウェルWの蛍光輝度データを得る場合について説明した。
【0072】
しかしながら、現実的には、隣り合うウェルWからの漏れ光や、ウェルWのピッチ誤差、基板ステージ2の位置決め誤差等を考慮する必要がある。そこで、本実施形態では、図10に示すように1つのウェルWを3×3=9個の画素53で撮像するように、投影レンズ50及び対物レンズ7の倍率を設定している。すなわち、ウェルWのピッチが第1の撮像素子51における画素53のピッチの整数倍(同図では3倍)となっている。なお、それ以外の部材及び構成については、第一実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0073】
本実施形態では、ウェルWの配列ピッチが基板Sに形成されるパターンマークPAのピッチの整数倍(例えば、1倍)となるように設定されており、パターンマークPAがウェルWと同一工程で基板Sに形成されている。これにより、パターンマークPAは、例えば、基板Sが外部環境温度の変化で膨張或いは収縮した場合でも、パターンマークPAがウェルWとともに膨張或いは収縮するので、パターンマークPAは常にウェルWに対して所定の位置関係で配置されたものとなっている。
【0074】
よって、制御部CONTは、第2の撮像素子52のパターンマークPAの検出結果に基づき、第1の撮像素子51の撮像面(画素53)内におけるウェルWからの蛍光の移動速度を算出できる。
【0075】
本実施形態では、上述したようにウェルWのピッチが画素53のピッチの3倍となっているため、第2の撮像素子52が次のパターンマークPAを検出したとき、第1の撮像素子51の撮像面内においてはウェルWからの蛍光が画素53、三個分だけ移動する。制御部CONTは、図10に示した9つの画素53における信号電荷を合算して、隣の9つの画素53に合算電荷を転送する。
【0076】
一方、第1の撮像素子51内の撮像面内において、ウェルWからの蛍光が画素ピッチとずれて移動する場合、いずれの画素53の電荷を合計すれば不明であるため、例えば最も輝度値の高い画素を検出し、該画素を中心とする9つの画素を算出して、各信号電荷を合算する必要がある。そのため、計算に時間がかかるため、TDI方式の撮像時間が長くなってしまう。
【0077】
このように本実施形態によれば、決まった9個の画素53における信号電荷を合算した値を転送することでTDI方式の撮像を行うことができる。よって、9つの画素53で1つのウェルWを撮像する場合であっても、TDI方式の撮像を短時間で行うことができる。
【0078】
(第五実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第五実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第3の撮像素子の検出結果を用いて照明装置の強度を調整する点である。なお、それ以外の部材及び構成については、上記実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0079】
図11は本実施形態に係る撮像部105の平面構成を示す図である。撮像部105は、第1の撮像素子51と、第3の撮像素子352と、を有している。図示を省略するものの、第1の撮像素子51及び第3の撮像素子352は一体に保持され、同一の対物レンズ7及び投影レンズ50を介して基板Sを撮像している。
【0080】
図11に示すように、第3の撮像素子352は、光電変換素子から構成ており、本実施形態では複数の画素353がライン状に配置されたCCDラインセンサから構成されている。具体的に、第3の撮像素子352は、複数の画素353がY方向に沿ってライン状に配列されている。なお、画素53の数は、同図では簡略化して記載しているが、例えば第1の撮像素子51における画素ライン53Rと同じ値の1024個に設定されている。すなわち、各画素353はウェル列WLの各ウェルWからの蛍光を撮像するようになっている。また、第2の撮像素子352は、第1の撮像素子51のスキャン方向(−X方向)における前方に配置されている。
【0081】
ところで、被検体である多数のウェルWの中に極めて強い蛍光を発するウェルWがあると、第1の撮像素子51ではそのウェルWに対応する画素353が飽和してしまうため正しい光量を測定することができない。さらにTDI方式では順次行われる次の画素353への電荷転送においてすべての電荷を送り出すことができず、影響が飽和を起こしたウェルWに続く他のウェルWの画像にも及んでしまう可能性がある。
【0082】
本実施形態においては、第1の撮像素子51がウェルWの蛍光を撮像するに先立ち、第3の撮像素子352がウェルWの蛍光を撮像するようにしている。第3の撮像素子352は制御部CONTに電気的に接続されており、ウェルWの蛍光の計測値を制御部CONTに送信するようになっている。本実施形態では、制御部CONTが後述するように第3の撮像素子352の測定結果に基づいて、照明装置4の出力を調整するようにしている。
【0083】
図12は制御部CONTが照明装置4の強度を調整するフローを示す図である。以下の説明において、照明装置4における初期状態の光強度(信号強度)をI1とする。
【0084】
照明装置4は、光強度I1により基板Sに励起光を照射する。これにより、基板Sの各ウェルWから蛍光が発せられる。第2の撮像素子352は、基板S上を−X方向にスキャンすることでウェル列WL内の各ウェルWの蛍光強度を順次測定していく。
【0085】
制御部CONTは、第3の撮像素子352が計測したウェル列WLの蛍光強度(強度信号)について所定の信号強度に対する大小を判定する(ステップS1)。そして、制御部CONTは、第2の撮像素子352の計測値がウェルWの蛍光強度(強度信号)が所定の信号強度よりも大きくなった場合、照明装置4の光強度(信号強度)をI1よりも弱いI2とする(ステップS2)。一方、制御部CONTは、第3の撮像素子352がウェルWの蛍光強度(強度信号)が所定の信号強度の場合、照明装置4の光強度(信号強度)をI1に維持する(ステップS3)。
【0086】
次に、制御部CONTは、所定の信号強度を超える蛍光を発していたウェルWが第1の撮像素子51の最終画素53aを通過するまでの間に、前記所定の信号強度×I2/I1(以下、信号強度Rと称す)よりも蛍光強度の強いウェルWが存在するか否か判定する(ステップS4)。そして、制御部CONTは、信号強度Rが存在しなかった場合、照明装置4の強度をI1に戻す(ステップS5)。一方、制御部CONTは、信号強度Rが存在した場合、そのウェルWが第1の撮像素子51の最終画素353aを通過するまで照明装置4の光強度(信号強度)をI2に維持する(ステップS6)。制御部CONTは、照明装置4の光強度を上述のように変更しつつ、基板Sの全面を走査した後、第1の撮像素子51が取得した蛍光信号を励起光強度の積分値に基づいて補正する(ステップS7)。
【0087】
以下、図13を参照しつつ、第1の撮像素子51が取得した蛍光信号を補正する方法について説明する。図13は第2の撮像素子352とウェルWとの対応関係を示す図である。図13において、第1の撮像素子51における画素53のライン数をNとする。また、図13における基板Sの長さ方向に沿うウェルWのウェル列WLのライン番号をXで表し、非常に強い蛍光を発したウェルWを含むウェル列WLのライン番号をX0とする。
【0088】
この場合、X≦X0−Nとなるライン番号における蛍光信号量(第1の撮像素子51における蓄積電荷信号)では、NI1の励起光量により得られているため、励起光量をNI1とする。
【0089】
また、X≧X0−Nとなるライン番号における蛍光信号量(第1の撮像素子51における蓄積電荷信号)では、NI1の励起光量により得られているため、励起光量をNI1とする。
【0090】
X0−N+1≦X≦X0+N−1となるライン番号における領域(同図斜線で示される領域)は、蛍光信号量が個々のウェル列WLごとにI1の励起光量で照明されていた時間と、I2の励起光量で照明されていた時間と、が異なる割合で含まれている。
【0091】
そのため、励起光量は、((X0−X)I1+(N−(X0−X))I2)であるから、得られた蛍光信号量にNI1/((X0−X)I1+(N−(X0−X))I2)をかけることでNI1の励起光量で励起された場合に得られるはずの蛍光信号量を算出することができる。
【0092】
よって、制御部CONTは、上記ウェル列WLのライン番号に対応する第1の撮像素子51の各画素列53Lで撮像した信号電荷を補正することで、照明装置4の光強度をI1とした状態でウェルW内に蛍光を発生させていた場合と同様の撮像結果を得ることができる。
【0093】
なお、本実施形態においては、第3の撮像素子352の検出結果を用いて、照明装置4の光強度を調整する場合について説明したが、第3の撮像素子352がウェルWの蛍光を検出した結果を用いて、第2の撮像素子352の撮像面上における基板Sの移動速度を算出し、信号電荷の転送と、撮像部5と基板Sとの相対移動とを同期させる同期部として機能させるようにしてもよい。
【0094】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
【0095】
また、上記実施形態では、測定対象としてウェルWに配置した被検体(例えば、所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質)から蛍光を発生させてTDI方式の撮像を行う場合について説明したが、本発明の観察装置は顕微鏡装置に限定されることはなく、例えば高速で移動する物体の観察等といったTDI方式を用いた撮像にも適用することができる。すなわち、測定対象物に対して励起光を照射する必要が無い場合、観察装置は照明装置を構成要素として備えていなくても構わない。
【符号の説明】
【0096】
CONT…制御部(同期部)、PA,PAa,PAb…パターンマーク、S…基板、W…ウェル、1…顕微鏡装置(観察装置)、2…基板ステージ(ステージ)、3…ステージ駆動部(移動機構)、5…撮像装置(撮像部)、53…画素
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察装置、画像観察方法、及び被検体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多数のマイクロウェルを備えるいわゆる大規模集積アレイの各ウェルに配置された被検体(例えば、所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質)から蛍光を発生させて、測定し、各ウェルの測光値を数値データ化する技術として、タイム・ディレイ・インテグレーション(Time Delay Integration:TDI)方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなTDI方式による画像取得方法では、被検物の移動速度と撮像素子の画素蓄積電荷の転送速度を同期させることによって、高感度且つ高速に画像を取得できる。
【0003】
一般的に画素蓄積電荷の転送速度の誤差は小さいものの、被検物を保持した状態で移動するステージの移動速度は摩擦等の外的要因を受け易く、誤差が大きくなる場合がある。すると、ステージによる被検物の移動速度と画素蓄積電荷の転送速度とがずれてしまい、像が歪んで適切な蛍光観察を行うことができなくなるおそれがある。
【0004】
このような問題を解決すべく、ステージにリニアエンコーダを設け、ステージ移動速度をリアルタイムで検出し、それに合わせて画素蓄積電荷の転送速度を制御する技術がある(例えば、特許文献2には、旋回アームに設けられたロータリエンコダの回転速度、回転角を検出し、それに同期させて画像蓄積電荷の転送速度を制御する方法が開示されている。旋回アームは回転運動であるが、ステージの直線運度と原理的には同じである)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4020893号公報
【特許文献2】特許第3291406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のTDI方式による画像取得では、ステージの速度と画素蓄積電荷の転送速度を同期させることが重要である。上記従来技術では、ステージの速度として、ステージの実速度ではなく、結像光学系を介して撮像素子の撮像面上に投影された被検物の仮想的な移動速度で定義したものを用いている。
【0007】
しかしながら、上述したようなステージに設けたリニアエンコーダからの信号と結像光学系の設計倍率から換算された仮想的な速度は、結像光学系の倍率誤差、被検物の製造時の寸法誤差、膨張又は収縮による誤差、画像の観察光軸とステージのリニアエンコーダ信号検出部とが一致していないことによるアッベ誤差を含んでしまうため、信頼性の高い画像取得を行うことが難しかった。そこで、TDI方式による撮像方法において、誤差が少なく、より信頼性の高い検出結果を得ることができる新たな技術の提供が望まれている。
【0008】
本発明の態様は、誤差の少ない信頼性の高い画像取得が可能な観察装置、画像観察方法、及び被検体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るに観察装置は、被検物を保持するステージと、タイム・ディレイ・インテグレーション方式により前記被検物を撮像する第1の撮像素子と、前記被検物と前記第1の撮像素子とを相対移動させる移動機構と、前記ステージに保持される前記被検物を撮像することで所定の情報を取得する第2の撮像素子と、前記第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送状態を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の画像観察方法は、被検物を保持するステージに対して相対移動する第1の撮像素子を用いて、前記被検物をタイム・ディレイ・インテグレーション方式による撮像を行う画像観察方法であって、前記第1の撮像素子とは異なる第2の撮像素子が前記被検物に設けられたパターンマークを撮像して取得した情報に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送状態を制御することを特徴とする。
【0011】
本発明の被検体は、撮像素子によるタイム・ディレイ・インテグレーション方式の撮像に用いられる被検体であって、前記撮像素子により撮像される撮像対象物を収容する収容部が設けられた基板を備え、前記基板には、前記撮像素子とは別の撮像素子により撮像されるパターンマークが形成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、誤差の少ない信頼性の高い画像取得ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】顕微鏡装置の全体構成を示す斜視図。
【図2】ステージに保持されている基板の形状を示す図。
【図3】撮像素子の構成を示す図。
【図4】TDI方式の撮像動作時の撮像素子の動きの説明図。
【図5】TDI方式の信号電荷の転送状態を説明図。
【図6】撮像素子に蓄積される信号電荷の電荷量の変化を示す図。
【図7】第二実施形態に係る撮像部の構成を示す図。
【図8】第三実施形態に係る撮像部の構成を示す図。
【図9】第三実施形態に係る基板の構成を示す平面図。
【図10】第四実施形態に係る第1の撮像素子の画素とウェルとの対応関係を示す図。
【図11】第五実施形態に係る撮像部の平面構成を示す図。
【図12】制御部が照明装置の強度を調整するフローを示す図。
【図13】第1の撮像素子が取得した蛍光信号の補正方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態では、観察装置として、TDI方式を用いた顕微鏡装置を例に挙げて説明する。以下の各図において、観察装置の構成を説明するにあたり、XYZ空間座標系を用いる場合がある。本実施形態では、観察装置が載置される床面に平行な方向をそれぞれX方向及びY方向とし、当該床面(XY平面)に垂直な方向をZ方向とする。ただし、X軸及びY軸は、直交している。
【0015】
図1は本実施形態に係る顕微鏡装置1の全体構成を示す斜視図である。図1に示すように、顕微鏡装置1は、基板ステージ2と、基板ステージ2を移動させるステージ駆動部3と、照明装置4と、撮像部5と、を備えている。
【0016】
基板ステージ2は、基板Sを保持するとともに、ステージ駆動部3により撮像部5に対して移動可能になっている。基板ステージ2の表面には、XY方向に沿ってスケール21が形成されている。計測部22は、計測結果を制御部CONTに出力する。制御部CONTでは、計測部22による計測結果に基づいて基板ステージ2のX,Y方向の位置を求めることができるようになっている。このように、スケール21、計測部22及び制御部CONTにより、基板ステージ2のX,Y方向における位置を検出する位置検出部が構成されている。
【0017】
ステージ駆動部3は、制御部CONTと電気的に接続されている。ステージ駆動部3は、基板ステージ2を駆動するアクチュエータである。ステージ駆動部3としては、例えばリニアモータ機構などを用いることができる。ステージ駆動部3は、制御部CONTの制御(移動量、移動のタイミングなど)に基づいて、基板ステージ2をXY方向に移動させる。このような構成に基づき、撮像部5は基板ステージ2上の基板Sに対し、相対的に移動するようになっている。
【0018】
照明装置4は基板Sに所定の励起光を照射するものであり、例えばケーラー照明が可能なコンポーネントを有している。照明装置4が照射した励起光は、ダイクロイックミラー8により反射された後、対物レンズ7を介して基板Sに照射される。ダイクロイックミラー8は、基板Sからの戻り光(蛍光)を透過させるようになっている。
【0019】
撮像部5は、投影レンズ50、第1の撮像素子51、第2の撮像素子52、対物レンズ7、及びダイクロイックミラー8を含む。対物レンズ7は、基板ステージ2と対向する位置に配置されている。投影レンズ50には、ダイクロイックミラー8を透過した基板Sからの戻り光が入射する。投影レンズ50は、入射した光を所定の位置に集光(結像)する。
【0020】
第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は、基板S上の異なる対象をそれぞれ撮像している。第1の撮像素子51は、基板Sからの戻り光のうち、後述する試料Bが発した蛍光を検知可能な位置に配置されている。また、第2の撮像素子52は、基板Sからの戻り光のうち、後述するパターンマークPAからの戻り光を検知可能な位置に配置されている。第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は、制御部CONTに電気的に接続されており、撮像結果を制御部CONTに出力するようになっている。
【0021】
図2(a)は基板ステージ2に保持されている基板Sの形状を示す図であり、図2(b)は、基板Sの要部を示す拡大断面図である。基板Sは、いわゆるマイクロアレイチップと呼ばれる板状部材であり、例えば矩形に形成されている。
【0022】
基板Sは、例えばガラス板やプラスチック板などの材料で形成されている。基板Sは、一方向に長手となるように形成されている。基板Sは、当該長手方向がX方向に平行になるように基板ステージ2に保持されている。基板Sの表面Saには、ウェルWがマトリクス状に形成されている。このように、マトリクス状に配置された複数のウェルWにより、基板Sにウェル列WLが形成されている。
【0023】
基板Sの表面Saには、長手方向(X方向)に沿って所定のパターンマークPAが形成されている。パターンマークPAは、顕微鏡装置1(撮像部5)の視野VWのうち、第2の撮像素子52の撮像領域に配置されている。このパターンマークPAは、例えば明暗パターンが交互に繰り返すものから構成されており、上記ウェルWを形成する工程と同一の工程で形成されている。これにより、パターンマークPAは、例えば、基板Sが外部環境温度の変化で膨張或いは収縮した場合でも、パターンマークPAがウェルWとともに膨張或いは収縮するので、パターンマークPAは常にウェルWに対して所定の位置関係で配置されたものとなる。よって、パターンマークPAはウェルWの位置情報を示す指標として信頼性の高いものとなっている。
【0024】
パターンマークPAは、基板Sの短手方向(Y方向)に沿って複数配置されている。具体的に、パターンマークPAは、撮像部5の視野VWの幅毎に基板Sに設けられている。これにより、撮像部5が基板Sの全面を走査する際、基板S上で改行した場合でも、撮像部5の視野VW内にパターンマークPAが常に配置されるようになっている。これにより、第2の撮像素子52は、常にパターンマークPAを検出し、撮像部5が基板Sの全面を移動する際、基板Sの移動速度及び位置情報を取得可能となっている。また、パターンマークPAは、ウェル列WLよりも外側まで延出した延出部PA1,PA2を有している。
【0025】
ウェルWは、Z方向視で例えば円形に形成されている。そして、ウェルW内には、図2(b)に示すように、測定対象である試料Bとして被検体(例えば、所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質)が配置されている。試料Bは、照明装置4から所定の励起光が照射されると励起されて蛍光を発する。
【0026】
図3は第1の撮像素子51の構成を示す図であり、図3(a)は平面図を示し、図3(b)は第1の撮像素子51の画素53とウェルWとの対応関係を説明するための図である。なお、図3(a)では、図を見やすくするため、基板SにおけるパターンマークPAの図示を省略している。撮像部5の第1の撮像素子51は、図3(a)に示すように、光電変換素子であるCCDカメラから構成されており、複数の画素53を備えている。
【0027】
具体的に、第1の撮像素子51は、ライン状に配列された複数の画素53が垂直方向にも複数列配置されることで構成されている。本実施形態では、例えば、1024×128画素、すなわち1024個の画素53がライン状にY方向に沿って配列された画素ライン53Rと、該画素ライン53Rが垂直方向に128列配置された画素列53Lとを含む第1の撮像素子51を用いた。第1の撮像素子51は、後述のように、基板ステージ2の移動に対応して、画素列53L単位で信号電荷の転送をすることでTDI方式による撮像を行うことが出来る。
【0028】
第1の撮像素子51の画素53の画素サイズは、図3(b)に示すように、ウェルWの外径に対応しており、平面視した状態で画素53内にウェルWが配置される大きさとなっている。また、画素53のX,Y方向に沿った配列ピッチは、基板SのウェルWの配置ピッチに対応している。ここで、ウェルWの外径及び配置ピッチに対応するとは、投影レンズ50を介して拡大又は縮小した状態のウェルWと画素53との外径又はピッチとを比較する場合も含む。
【0029】
図1に戻って、第2の撮像素子52は、光電変換素子から構成されており、具体的に本実施形態ではフォトダイオードから構成されている。第2の撮像素子52は、図2に示した基板Sの表面Saに形成されたパターンマークPAを撮像するためのものである。
【0030】
第2の撮像素子52は、パターンマークPAを撮像することで、投影レンズ50を介して当該第2の撮像素子52の撮像面上に投影される基板Sの移動速度及び位置を検出可能となっている。第2の撮像素子52は、制御部CONTに電気的に接続されており、パターンマークPAに基づいて算出した上記基板Sの移動速度及び位置を制御部CONT内の信号処理部に送信するようになっている。
【0031】
また、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は保持部材(不図示)に一体に保持されており、同一の光学系(対物レンズ7及び投影レンズ50)を介して基板S上を撮像している。すなわち、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52における基板S上の撮像領域は、顕微鏡装置1の同一視野内に存在している。したがって、顕微鏡装置1は、第1の撮像素子51が基板SのウェルWからの蛍光を撮像するとともに、第2の撮像素子52がパターンマークPAを撮像するようになっている。
【0032】
第2の撮像素子52は、顕微鏡装置1の視野VWのうち、第1の撮像素子51のスキャン方向の前方側(−X方向)を撮像可能な位置に配置されている。また、基板Sの表面Saの長手方向(X方向)に沿って形成されたパターンマークPAは、ウェル列WLの外側まで延出した延出部PA1、PA2を有しているので、第2の撮像素子52は、撮像部5が基板Sに対してスキャンする際、第1の撮像素子51がウェルWからの蛍光を撮像するよりも前に、パターンマークPAの延出部PA1を撮像するようになっている。
【0033】
第2の撮像素子52がパターンマークPAの延出部PA1を撮像している期間は、基板ステージ2が駆動を開始することで撮像部5の基板Sに対する移動速度の変動が大きくなる加速期間を含んでしまう。延出部PA1は、撮像部5の基板Sに対する速度が所定値に到達するまでの間、第1の撮像素子51の画素53にウェルWからの蛍光を入射させない長さに設定されている。これにより、第1の撮像素子51がウェルWからの蛍光を撮像する際には、撮像部5が基板Sに対して一定速度で移動した状態となるため、後述のTDI方式による撮像を良好に行うことができる。
【0034】
また、第2の撮像素子52がパターンマークPAの延出部PA2を撮像している期間は、基板ステージ2が駆動を停止することで撮像部5の基板Sに対する移動速度の変動が大きくなる減速期間を含んでしまう。延出部PA2は、第1の撮像素子51の全ての画素53がウェルWからの蛍光を撮像し終わるまでの間、第2の撮像素子52が当該延出部PA2を撮像し続けることができる長さに設定されている。これにより、第2の撮像素子52は、少なくとも第1の撮像素子51が基板S上のウェルWについて撮像を終了するまではパターンマークPAを撮像し続けることが可能となっている。
【0035】
第2の撮像素子52は、パターンマークPAを撮像することで、当該第2の撮像素子52(撮像部5)の撮像面内における基板Sの移動速度を測定することができる。
ここで、上述のように第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は一体に保持され、同一の対物レンズ7及び投影レンズ50を介して基板S上を撮像しているため、第2の撮像素子52の撮像面内における基板Sの移動速度と、第1の撮像素子51の撮像面内における基板S(ウェルWからの蛍光)の移動速度とは略等しくなる。
【0036】
したがって、制御部CONTは、第2の撮像素子52が検出したパターンマークPAの検出結果に基づき、第1の撮像素子51の撮像面(画素53)内におけるウェルWからの蛍光の移動速度を算出可能となっている。
【0037】
続いて、撮像部5によるTDI方式の撮像動作について説明する。
図4は、基板Sに対する第1の撮像素子51の動作を説明するための図である。また、図5(a)〜(c)は、TDI方式の信号電荷の転送の概念を説明するための図である。また、図6(a)〜(c)は、第1の撮像素子51のスキャン方向における第一列目、第二列目、及び第三列目を構成する画素53に蓄積される信号電荷の電荷量の変化を示す図である。なお、本実施形態においては基板ステージ2を動かすことで撮像部5(第1の撮像素子51)と基板Sとを相対移動させようにしている。しかしながら、図4〜6においては、図示の容易化のため、第1の撮像素子51が基板S上を移動する形態で示すものとする。
【0038】
また、本実施形態では、ステージ駆動部3が基板ステージ2を移動させることで第1の撮像素子51と基板Sとを相対移動可能な構成としたが、ステージ駆動部3が基板ステージ2上の基板Sに対して撮像装置5を移動させる構成であっても構わない。
【0039】
図4に示すように、第1の撮像素子51は、基板Sの移動方向における上流端(+X方向の端部)側から下流端(−X方向の端部)側に向かって当該基板S上を相対移動することで撮像を行う。
【0040】
撮像部5が基板Sに対してスキャンを開始すると、顕微鏡装置1の視野VWのうち、第2の撮像素子52内の視野領域にパターンマークPAの延出部PA1が入り込んでくる。
制御部CONTは、パターンマークPA(延出部PA1)の検出結果に基づき、撮像部5の撮像面内における基板Sの移動速度を算出し、蓄積された信号電荷(蓄積電荷信号)の転送のタイミングと基板Sの移動速度とを同期させるために、蓄積電荷信号の転送のタイミングを調整する。
【0041】
基板ステージ2の移動速度が一定となった後、図5(a)に示されるように、基板Sの移動方向先端のウェル列WLのウェルWaが第1の撮像素子51の移動方向(以下、スキャン方向(−X方向)と呼ぶ場合もある)における第一列目53L1の画素53上に投影される。すると、第一列目53L1の画素53には、図6(a)に示すように、ウェルWaからの蛍光に対応した強度の信号電荷が蓄積される。
【0042】
図5(b)に示すように、第1の撮像素子51がスキャン方向に沿って画素列53Lの一つ分だけ移動すると、図5(b)に示す光学系は倒立像を結ぶので、第1の撮像素子51の移動と同時に、第一列目53L1の画素53に蓄積された信号電荷(蓄積電荷信号)は、スキャン方向とは反対方向である(撮像素子51に形成された像の移動方向と同じ方向)第二列目53L2の画素53に転送される。
【0043】
そして、ウェルWaからの蛍光が、第一列目53L1及び第二列目53L2の画素53によって撮影される。なお、第一列目53L1の画素53は、基板Sの2列目のウェルWb(図3(b)参照)からの蛍光を撮像している。
【0044】
したがって、第二列目53L2の画素53には、図6(b)に示すように、前回時に蓄積された信号電荷と今回の撮影時に蓄積された信号電荷が加算されることになる。つまり、第二列目53L2の画素53には、前回及び今回の撮影で得られた信号電荷が累積される。このように、図5(a)に示す状態から、図5(b)に示す状態のように電荷転送が行われる。
【0045】
ところで、本実施形態に係る制御部CONTは、第2の撮像素子52の検出結果に基づいて算出した、第1の撮像素子51の撮像面(画素53)内におけるウェルWの移動速度に合わせて、画素53間での信号電荷の転送を行うようにしている。すなわち、制御部CONTは、第2の撮像素子52の検出結果に基づいて、第1の撮像素子51における信号電荷の転送と、撮像部5と基板Sとの相対移動とを同期させる同期部を構成している。なお、信号電荷の転送と相対移動とを同期させる方法としては、転送のタイミングを調整する、或いは基板ステージ2の移動速度を調整することが考えられる。転送のタイミングを調整する方法としては、信号電荷の転送を開始する若しくは停止するタイミングを調整する、或いは第1の撮像素子51における転送速度自体を変化させることが挙げられる。
【0046】
本実施形態では、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52は、同一の光学系(対物レンズ7及び投影レンズ50)を介して基板S上を撮像しているため、第1の撮像素子51及び第2の撮像素子52の撮像面上において光学系の倍率誤差の影響を防止できる。また、第1の撮像素子51における観察光軸と第2の撮像素子52における観察光軸とが略一致するため、アッベ誤差の影響を小さくできる。
【0047】
また、第2の撮像素子52が撮像するパターンマークPAは、ウェルWと同一の工程で基板Sに形成されているため、例えば、基板Sが外部環境温度の変化で膨張或いは収縮した場合でも、パターンマークPAがウェルWとともに膨張或いは収縮する。このように、第2の撮像素子52は、ウェルWに対して所定の位置関係で配置されたパターンマークPAを撮像するので、信頼性の高い撮像結果を得ることができる。したがって、制御部CONTは、信号電荷の転送と相対移動とを精度良く同期させることができる。
【0048】
さらに、図5(c)に示す光学系は倒立像を結ぶので、第1の撮像素子51がスキャン方向に沿って画素列53Lの一つ分だけ移動すると、ウェルWaの撮像が続行される。このとき、図5(c)に示すように、第1の撮像素子51の移動と同時に、第二列目53L2の画素53に蓄積された信号電荷が、スキャン方向とは反対方向である(撮像素子51に形成された像の移動方向と同じ方向)第三列目53L3の画素53に転送される。また、第一列目53L1の画素53に蓄積された信号電荷が、第二列目53L2の画素53に転送される。そして、ウェルWaからの蛍光が、第一列目53L1、第二列目53L2、及び第三列目53L3によって撮影される。このとき、第二列目53L2の画素53は、基板Sの2列目のウェルWb(図3(b)参照)からの蛍光を撮像し、第一列目53L1の画素53は、基板Sの3列目のウェルWc(図3(b)参照)からの蛍光を撮像する。
【0049】
したがって、第三列目53L3の画素53には、図6(c)に示すように、今回の撮影時に得られた信号電荷が、加算されていくことになる。よって、第三列目53L3の画素53には、前々回、前回及び今回の撮影で得られた信号電荷が、蓄積される。なお、第二列目53L2の第1の撮像素子51には、前回及び今回の撮影時に得られた信号電荷が蓄積される。
【0050】
撮像部5は、1つのウェルWに対して上記動作を第1の撮像素子51の画素列53Lの数(128個)だけ繰り返し行うこととなる。これにより、ウェルWの同一箇所に対応する信号電荷が、128回だけ蓄積されることになる。このように、TDI方式では、撮像面に投影されるウェルWからの蛍光が、基板ステージ2の移動に伴ってシフトするが、それに同期して第1の撮像素子51に蓄積される信号電荷をシフトさせている。したがって、上記動作を128回だけ続けた場合、TDI方式を採用した撮像部5は、リニアイメージセンサに比べて、128倍の感度を実現できる。すなわち、128倍のコントラストと、√128だけノイズを軽減することが可能となる。
【0051】
撮像部5は、第1の撮像素子51を基板S上に複数回往復させることで全てのウェルW内の試料Bの蛍光を撮像することができる。そのため、撮像部5は、第1の撮像素子51が基板Sの−X方向における端部まで移動し終わると、図4に示したように撮像が終了していない他のウェルWと第1の撮像素子51の画素53とを位置合わせすべく、撮像部5を初期位置(基板Sの左端)に戻すとともに、顕微鏡装置1の1視野VW分だけ−Y方向に移動する。そして、ステージ駆動部3が基板ステージ2を移動し、第1の撮像素子51を基板Sに対して−X方向に沿って移動させつつ、上述のTDI方式による2回目の撮像を開始する。以下同様のシーケンスで基板Sの全面について撮像を行う。
【0052】
以上の述べたように、本実施形態に係る撮像部5によるTDI方式の撮像動作によれば、基板ステージ2の移動と同期して信号電荷が最適なタイミングで転送されるので、誤差の少ないTDI方式の撮像を行うことができる。
なおパターンマークPAにおいて明暗パターンの明の部分には蛍光物質が含まれており、各ウェルの蛍光を測定するために照射する励起光により発光する。パターンマークPAの蛍光波長はウェルWから発する蛍光波長とは異なるように蛍光物質を選ぶのが好ましい。
さらにパターンマークPAの代わりにウェルを1列設けて、そこにウェルWとは異なる蛍光波長を持つ蛍光物質を入れて、パターンマークPAの代わりに位置検出をすることも可能である。
また明暗を透過率の異なるパターンとし、これを透過照明で検出しても良い。
【0053】
(第二実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第二実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第2の撮像素子の構成である。なお、それ以外の部材及び構成については、上記実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0054】
図7は本実施形態に係る撮像部5の構成を示す平面図である。図7に示すように、第2の撮像素子152は、光電変換素子から構成されており、本実施形態では複数の画素153がライン状に配置されたCCDラインセンサから構成されている。
【0055】
具体的に、第2の撮像素子152は、複数の画素153がX方向に沿ってライン状に配列されている。すなわち、第2の撮像素子152は、パターンマークPAの延在方向に沿って画素153が配列されている。なお、画素153の数は、同図では簡略化して記載しているが、例えば第1の撮像素子51における画素列53Lと同じ値の128に設定されている。
【0056】
本実施形態においても、第2の撮像素子152は、パターンマークPAを撮像することで基板Sの移動速度及び位置を検出可能となっている。第2の撮像素子152は、複数の画素153によってパターンマークPAを検出する。そして、第2の撮像素子152は、各画素153が取得したデータを比較し、他と明らかに異なるデータを排除して平均化した値を算出する。これにより、パターンマークPA上の途中にゴミ等の異物が付着していた場合であっても、第2の撮像素子152は他の画素153が取得したデータからパターンマークPAから所定のデータを取得することができる。
【0057】
よって、本実施形態に係る構成であっても、第2の撮像素子152が基板ステージ2の移動と同期して信号電荷を最適なタイミングで転送できるので、誤差の少ないTDI方式の撮像を行うことができる。
【0058】
また、仮に撮像部5に対して基板Sが傾いて移動している場合、第2の撮像素子152の画素153からパターンマークPAが外れて撮像できなくなる。よって、第2の撮像素子152の画素153は、基板Sのスキャン方向における傾きを検出することができる。なお、ステージ駆動部3が基板ステージ2をZ軸周りで回転可能な構成の場合、制御部CONTは上記第2の撮像素子152が基板ステージ2上に基板Sが傾いた状態で載置されているのを検出した場合、ステージ駆動部3により基板ステージ2を回転させることで、撮像部5に対する基板ステージ2の向きを補正することができる。
【0059】
(第三実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第三実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第1の撮像素子として信号電荷の読み出し方向が双方向のものを用いた点と、第2の撮像素子の構成が異なる点と、パターンマークの構成が異なる点と、である。なお、それ以外の部材及び構成については、上記実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0060】
図8は本実施形態に係る撮像部5の構成を示す平面図である。図8に示すように、第2の撮像素子252は、光電変換素子から構成ており、本実施形態ではフォトダイオード252aとフォトダイオード252bとを備えている。フォトダイオード252a及びフォトダイオード252b(以下、フォトダイオード252a,252bと称す場合もある)は、制御部CONTに電気的に接続されている。第1の撮像素子51は、信号電荷の読み出し方向が双方向に対応している。
【0061】
図9は本実施形態に係る基板Sの構成を示す平面図である。
図9に示すように、基板Sの表面Saには、長手方向(X方向)に沿ってパターンマークPAが形成されている。本実施形態においても、パターンマークPAがウェルWを形成する工程と同一の工程で形成されている。パターンマークPAは、パターンマークPAaとパターンマークPAbとを含む。これらパターンマークPAa及びパターンマークPAb(以下、パターンマークPAa、PAbと称す場合もある)は、それぞれ長手方向(X方向)に沿って配置されている。
【0062】
ここで、パターンマークPAaは、顕微鏡装置1(撮像部5)の視野VWのうち、第2の撮像素子252におけるフォトダイオード252aの撮像領域に配置されている。また、パターンマークPAbは、上記視野VWのうち、第2の撮像素子252におけるフォトダイオード252bの撮像領域に配置されている。なお、パターンマークPAa,PAbは、図示を省略するものの、上記実施形態と同様、ウェル列WLよりも外側まで延出した延出部を有している。
【0063】
パターンマークPAa及びパターンマークPAbは、それぞれ明暗パターンが交互に繰り返され、90度位相が異なるものから構成されている。このような構成に基づいて、制御部CONTは、フォトダイオード252a,252bの検出に基づいて撮像部5における基板Sに対するスキャン方向を検出することができる。
【0064】
続いて、本実施形態におけるTDI方式の撮像動作について図9を参照しつつ説明する。
図9に示すように、撮像部5(第1の撮像素子51)は、基板Sの移動方向における上流端(+X方向の端部)側から下流端(−X方向の端部)側に向かって当該基板S上を相対移動することで撮像を行う。
【0065】
撮像部5が基板Sに対して−X方向に沿ってスキャンすると、第2の撮像素子252のフォトダイオード252a,252bがそれぞれパターンマークPAa、PAbを検出する。このとき、制御部CONTは、上述したように第2の撮像素子252の検出結果から、撮像部5のスキャン方向を取得している。
【0066】
本実施形態においても、制御部CONTは、第2の撮像素子252の検出結果に基づいて、第1の撮像素子51における信号電荷の転送と、撮像部5と基板Sとの相対移動とを同期させてTDI方式の撮像を行う。このように基板ステージ2の移動と同期して信号電荷が最適なタイミングで転送されるので、誤差の少ないTDI方式の撮像を行うことができる。
【0067】
撮像部5は、第1の撮像素子51を基板S上に複数回往復させることで全てのウェルW内の試料Bを撮像する。撮像部5は、第1の撮像素子51が基板Sの−X方向における端部まで移動し終わると、図9に示したように顕微鏡装置1の1視野VW分だけ−Y方向に移動する。そして、撮像部5が反対方向(図9中の+X方向)にスキャンし始める。撮像部5が反対方向にスキャンし始めると、フォトダイオード252a,252bがパターンマークPAa、PAbから検出する明暗パターンの位相が切り替わるので、制御部CONTはこれに合わせて第1の撮像素子51における信号電荷の転送方向を反対方向に切り替える。すなわち、本実施形態においては、制御部CONTが第1の撮像素子51における信号電荷の転送方向を制御するようになっている。
【0068】
これにより、第1の撮像素子51は、図9中の+X方向にスキャンしつつ、TDI方式による2回目の撮像を開始する。以下同様のシーケンスで基板Sの全面について撮像を行うことができる。
【0069】
このように本実施形態においては、図9に示したように撮像部5が基板Sに対する往路(−X方向へのスキャン)に加え、復路(+X方向へのスキャン)においてもTDI方式の撮像を行うことができる。よって、図9に示したように、撮像部5を初期位置(基板Sの左端)に戻すための空走区間(撮像部5が基板Sの撮像を行うことなく移動する区間)が不要となるため、画像取得時間を短縮できる。
【0070】
(第四実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第四実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第1の撮像素子の画素とウェルとの対応関係(倍率)が異なる点である。
【0071】
具体的に上述したような顕微鏡装置においては、より多くのウェルWの蛍光輝度データをより短時間で取得することが求められる。そのため、上記第一乃至第三実施形態では説明を簡単にするため、最も効率が高い、第1の撮像素子51の1つの画素53にウェルWを1つ割り当て、1回の撮像で画素53と同じ数のウェルWの蛍光輝度データを得る場合について説明した。
【0072】
しかしながら、現実的には、隣り合うウェルWからの漏れ光や、ウェルWのピッチ誤差、基板ステージ2の位置決め誤差等を考慮する必要がある。そこで、本実施形態では、図10に示すように1つのウェルWを3×3=9個の画素53で撮像するように、投影レンズ50及び対物レンズ7の倍率を設定している。すなわち、ウェルWのピッチが第1の撮像素子51における画素53のピッチの整数倍(同図では3倍)となっている。なお、それ以外の部材及び構成については、第一実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0073】
本実施形態では、ウェルWの配列ピッチが基板Sに形成されるパターンマークPAのピッチの整数倍(例えば、1倍)となるように設定されており、パターンマークPAがウェルWと同一工程で基板Sに形成されている。これにより、パターンマークPAは、例えば、基板Sが外部環境温度の変化で膨張或いは収縮した場合でも、パターンマークPAがウェルWとともに膨張或いは収縮するので、パターンマークPAは常にウェルWに対して所定の位置関係で配置されたものとなっている。
【0074】
よって、制御部CONTは、第2の撮像素子52のパターンマークPAの検出結果に基づき、第1の撮像素子51の撮像面(画素53)内におけるウェルWからの蛍光の移動速度を算出できる。
【0075】
本実施形態では、上述したようにウェルWのピッチが画素53のピッチの3倍となっているため、第2の撮像素子52が次のパターンマークPAを検出したとき、第1の撮像素子51の撮像面内においてはウェルWからの蛍光が画素53、三個分だけ移動する。制御部CONTは、図10に示した9つの画素53における信号電荷を合算して、隣の9つの画素53に合算電荷を転送する。
【0076】
一方、第1の撮像素子51内の撮像面内において、ウェルWからの蛍光が画素ピッチとずれて移動する場合、いずれの画素53の電荷を合計すれば不明であるため、例えば最も輝度値の高い画素を検出し、該画素を中心とする9つの画素を算出して、各信号電荷を合算する必要がある。そのため、計算に時間がかかるため、TDI方式の撮像時間が長くなってしまう。
【0077】
このように本実施形態によれば、決まった9個の画素53における信号電荷を合算した値を転送することでTDI方式の撮像を行うことができる。よって、9つの画素53で1つのウェルWを撮像する場合であっても、TDI方式の撮像を短時間で行うことができる。
【0078】
(第五実施形態)
続いて、本発明の観察装置の第五実施形態に係る構成について説明する。本実施形態と上記実施形態との違いは、第3の撮像素子の検出結果を用いて照明装置の強度を調整する点である。なお、それ以外の部材及び構成については、上記実施形態と同一であることから、その説明については省略若しくは簡略するものとする。
【0079】
図11は本実施形態に係る撮像部105の平面構成を示す図である。撮像部105は、第1の撮像素子51と、第3の撮像素子352と、を有している。図示を省略するものの、第1の撮像素子51及び第3の撮像素子352は一体に保持され、同一の対物レンズ7及び投影レンズ50を介して基板Sを撮像している。
【0080】
図11に示すように、第3の撮像素子352は、光電変換素子から構成ており、本実施形態では複数の画素353がライン状に配置されたCCDラインセンサから構成されている。具体的に、第3の撮像素子352は、複数の画素353がY方向に沿ってライン状に配列されている。なお、画素53の数は、同図では簡略化して記載しているが、例えば第1の撮像素子51における画素ライン53Rと同じ値の1024個に設定されている。すなわち、各画素353はウェル列WLの各ウェルWからの蛍光を撮像するようになっている。また、第2の撮像素子352は、第1の撮像素子51のスキャン方向(−X方向)における前方に配置されている。
【0081】
ところで、被検体である多数のウェルWの中に極めて強い蛍光を発するウェルWがあると、第1の撮像素子51ではそのウェルWに対応する画素353が飽和してしまうため正しい光量を測定することができない。さらにTDI方式では順次行われる次の画素353への電荷転送においてすべての電荷を送り出すことができず、影響が飽和を起こしたウェルWに続く他のウェルWの画像にも及んでしまう可能性がある。
【0082】
本実施形態においては、第1の撮像素子51がウェルWの蛍光を撮像するに先立ち、第3の撮像素子352がウェルWの蛍光を撮像するようにしている。第3の撮像素子352は制御部CONTに電気的に接続されており、ウェルWの蛍光の計測値を制御部CONTに送信するようになっている。本実施形態では、制御部CONTが後述するように第3の撮像素子352の測定結果に基づいて、照明装置4の出力を調整するようにしている。
【0083】
図12は制御部CONTが照明装置4の強度を調整するフローを示す図である。以下の説明において、照明装置4における初期状態の光強度(信号強度)をI1とする。
【0084】
照明装置4は、光強度I1により基板Sに励起光を照射する。これにより、基板Sの各ウェルWから蛍光が発せられる。第2の撮像素子352は、基板S上を−X方向にスキャンすることでウェル列WL内の各ウェルWの蛍光強度を順次測定していく。
【0085】
制御部CONTは、第3の撮像素子352が計測したウェル列WLの蛍光強度(強度信号)について所定の信号強度に対する大小を判定する(ステップS1)。そして、制御部CONTは、第2の撮像素子352の計測値がウェルWの蛍光強度(強度信号)が所定の信号強度よりも大きくなった場合、照明装置4の光強度(信号強度)をI1よりも弱いI2とする(ステップS2)。一方、制御部CONTは、第3の撮像素子352がウェルWの蛍光強度(強度信号)が所定の信号強度の場合、照明装置4の光強度(信号強度)をI1に維持する(ステップS3)。
【0086】
次に、制御部CONTは、所定の信号強度を超える蛍光を発していたウェルWが第1の撮像素子51の最終画素53aを通過するまでの間に、前記所定の信号強度×I2/I1(以下、信号強度Rと称す)よりも蛍光強度の強いウェルWが存在するか否か判定する(ステップS4)。そして、制御部CONTは、信号強度Rが存在しなかった場合、照明装置4の強度をI1に戻す(ステップS5)。一方、制御部CONTは、信号強度Rが存在した場合、そのウェルWが第1の撮像素子51の最終画素353aを通過するまで照明装置4の光強度(信号強度)をI2に維持する(ステップS6)。制御部CONTは、照明装置4の光強度を上述のように変更しつつ、基板Sの全面を走査した後、第1の撮像素子51が取得した蛍光信号を励起光強度の積分値に基づいて補正する(ステップS7)。
【0087】
以下、図13を参照しつつ、第1の撮像素子51が取得した蛍光信号を補正する方法について説明する。図13は第2の撮像素子352とウェルWとの対応関係を示す図である。図13において、第1の撮像素子51における画素53のライン数をNとする。また、図13における基板Sの長さ方向に沿うウェルWのウェル列WLのライン番号をXで表し、非常に強い蛍光を発したウェルWを含むウェル列WLのライン番号をX0とする。
【0088】
この場合、X≦X0−Nとなるライン番号における蛍光信号量(第1の撮像素子51における蓄積電荷信号)では、NI1の励起光量により得られているため、励起光量をNI1とする。
【0089】
また、X≧X0−Nとなるライン番号における蛍光信号量(第1の撮像素子51における蓄積電荷信号)では、NI1の励起光量により得られているため、励起光量をNI1とする。
【0090】
X0−N+1≦X≦X0+N−1となるライン番号における領域(同図斜線で示される領域)は、蛍光信号量が個々のウェル列WLごとにI1の励起光量で照明されていた時間と、I2の励起光量で照明されていた時間と、が異なる割合で含まれている。
【0091】
そのため、励起光量は、((X0−X)I1+(N−(X0−X))I2)であるから、得られた蛍光信号量にNI1/((X0−X)I1+(N−(X0−X))I2)をかけることでNI1の励起光量で励起された場合に得られるはずの蛍光信号量を算出することができる。
【0092】
よって、制御部CONTは、上記ウェル列WLのライン番号に対応する第1の撮像素子51の各画素列53Lで撮像した信号電荷を補正することで、照明装置4の光強度をI1とした状態でウェルW内に蛍光を発生させていた場合と同様の撮像結果を得ることができる。
【0093】
なお、本実施形態においては、第3の撮像素子352の検出結果を用いて、照明装置4の光強度を調整する場合について説明したが、第3の撮像素子352がウェルWの蛍光を検出した結果を用いて、第2の撮像素子352の撮像面上における基板Sの移動速度を算出し、信号電荷の転送と、撮像部5と基板Sとの相対移動とを同期させる同期部として機能させるようにしてもよい。
【0094】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
【0095】
また、上記実施形態では、測定対象としてウェルWに配置した被検体(例えば、所定の反応を触媒する酵素と、その反応によって光応答性物質へ変化する基質)から蛍光を発生させてTDI方式の撮像を行う場合について説明したが、本発明の観察装置は顕微鏡装置に限定されることはなく、例えば高速で移動する物体の観察等といったTDI方式を用いた撮像にも適用することができる。すなわち、測定対象物に対して励起光を照射する必要が無い場合、観察装置は照明装置を構成要素として備えていなくても構わない。
【符号の説明】
【0096】
CONT…制御部(同期部)、PA,PAa,PAb…パターンマーク、S…基板、W…ウェル、1…顕微鏡装置(観察装置)、2…基板ステージ(ステージ)、3…ステージ駆動部(移動機構)、5…撮像装置(撮像部)、53…画素
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物を保持するステージと、
タイム・ディレイ・インテグレーション方式により前記被検物を撮像する第1の撮像素子と、
前記ステージに保持される前記被検物を撮像することで所定の情報を取得する第2の撮像素子と、
前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子と前記被検物とを相対移動させる移動機構と、
前記第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送と前記移動機構による相対移動とを同期させる同期部と、を備える観察装置。
【請求項2】
前記第1の撮像素子と前記第2の撮像素子とは、同一の光学系を介して前記被検物を撮像する請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記同期部は、前記蓄積電荷信号の転送を開始若しくは停止するタイミング、転送速度、又は前記蓄積電荷信号の転送方向を制御する請求項1又は2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記第2の撮像素子は、前記被検物を撮像して該被検物に設けられたパターンマークを検出する請求項1〜3のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項5】
前記第2の撮像素子は、前記第1の撮像素子の前記被検物に対する移動方向における前方に配置される請求項1〜4のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項6】
前記第2の撮像素子は、複数の画素を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項7】
前記同期部は、前記第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、前記移動機構による前記ステージの移動速度を調整する請求項1〜6のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項8】
前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子が一体に保持される請求項1〜7のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項9】
被検物を保持するステージに対して相対移動する第1の撮像素子を用いて、前記被検物をタイム・ディレイ・インテグレーション方式による撮像を行う画像観察方法であって、
前記第1の撮像素子とは異なる第2の撮像素子が前記被検物に設けられたパターンマークを撮像して取得した情報に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送と前記相対移動とのタイミングを同期させる画像観察方法。
【請求項10】
第2の撮像素子は、前記パターンマークに基づいて被検物の前記第1の撮像素子に対する移動速度又は位置に関する情報を取得する請求項9に記載の画像観察方法。
【請求項11】
前記被検物は、複数の被検体が配置されるウェルが複数形成されたアレイ基板である請求項9又は10に記載の画像観察方法。
【請求項12】
撮像素子によるタイム・ディレイ・インテグレーション方式の撮像に用いられる被検体であって、
前記撮像素子により撮像される撮像対象物を収容する収容部が設けられた基板を備え、
前記基板には、前記撮像素子とは別の撮像素子により撮像されるパターンマークが形成される被検体。
【請求項13】
複数の被検体が配置されるウェルが複数形成されたアレイ基板である請求項12に記載の被検体。
【請求項14】
前記アレイ基板は、複数の前記ウェルと前記パターンマークとが同一の製造工程で形成されている請求項12又は13に記載の被検体。
【請求項15】
複数の前記ウェルの配列ピッチは、前記パターンマークのピッチの整数倍で規定される請求項13又は14に記載の被検体。
【請求項16】
前記被検体は特定の波長の蛍光を発し、前記パターンマークは前記特定の波長とは異なる波長の蛍光を発する、請求項12又は13に記載の被検体。
【請求項1】
被検物を保持するステージと、
タイム・ディレイ・インテグレーション方式により前記被検物を撮像する第1の撮像素子と、
前記ステージに保持される前記被検物を撮像することで所定の情報を取得する第2の撮像素子と、
前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子と前記被検物とを相対移動させる移動機構と、
前記第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送と前記移動機構による相対移動とを同期させる同期部と、を備える観察装置。
【請求項2】
前記第1の撮像素子と前記第2の撮像素子とは、同一の光学系を介して前記被検物を撮像する請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記同期部は、前記蓄積電荷信号の転送を開始若しくは停止するタイミング、転送速度、又は前記蓄積電荷信号の転送方向を制御する請求項1又は2に記載の観察装置。
【請求項4】
前記第2の撮像素子は、前記被検物を撮像して該被検物に設けられたパターンマークを検出する請求項1〜3のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項5】
前記第2の撮像素子は、前記第1の撮像素子の前記被検物に対する移動方向における前方に配置される請求項1〜4のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項6】
前記第2の撮像素子は、複数の画素を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項7】
前記同期部は、前記第2の撮像素子の撮像結果に基づいて、前記移動機構による前記ステージの移動速度を調整する請求項1〜6のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項8】
前記第1の撮像素子及び前記第2の撮像素子が一体に保持される請求項1〜7のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項9】
被検物を保持するステージに対して相対移動する第1の撮像素子を用いて、前記被検物をタイム・ディレイ・インテグレーション方式による撮像を行う画像観察方法であって、
前記第1の撮像素子とは異なる第2の撮像素子が前記被検物に設けられたパターンマークを撮像して取得した情報に基づいて、前記第1の撮像素子における蓄積電荷信号の転送と前記相対移動とのタイミングを同期させる画像観察方法。
【請求項10】
第2の撮像素子は、前記パターンマークに基づいて被検物の前記第1の撮像素子に対する移動速度又は位置に関する情報を取得する請求項9に記載の画像観察方法。
【請求項11】
前記被検物は、複数の被検体が配置されるウェルが複数形成されたアレイ基板である請求項9又は10に記載の画像観察方法。
【請求項12】
撮像素子によるタイム・ディレイ・インテグレーション方式の撮像に用いられる被検体であって、
前記撮像素子により撮像される撮像対象物を収容する収容部が設けられた基板を備え、
前記基板には、前記撮像素子とは別の撮像素子により撮像されるパターンマークが形成される被検体。
【請求項13】
複数の被検体が配置されるウェルが複数形成されたアレイ基板である請求項12に記載の被検体。
【請求項14】
前記アレイ基板は、複数の前記ウェルと前記パターンマークとが同一の製造工程で形成されている請求項12又は13に記載の被検体。
【請求項15】
複数の前記ウェルの配列ピッチは、前記パターンマークのピッチの整数倍で規定される請求項13又は14に記載の被検体。
【請求項16】
前記被検体は特定の波長の蛍光を発し、前記パターンマークは前記特定の波長とは異なる波長の蛍光を発する、請求項12又は13に記載の被検体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−163536(P2012−163536A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26262(P2011−26262)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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