説明

角膜上皮障害治療用点眼剤

【課題】細胞毒性が低く、かつ、効果的に腐敗が防止されて保存効力が高く、さらに低刺激で使用感が良好な、ヒアルロン酸を0.3w/v%以上の高濃度含有するマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤を提供する。
【解決手段】以下の(a)ないし(c)
(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩
(b)ホウ酸及び/又はホウ砂
(c)以下の(c1)及び/又は(c2)
(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩
(c2)パラオキシ安息香酸エステル
を含有し、該(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩の配合量が、製剤全体に対して0.3w/v%以上であるマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定期間、同一容器から繰返して使用されるマルチドーズ型の角膜上皮障害治療用点眼剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
角膜上皮障害治療剤は、ダメージを受けた角膜上皮に投与されるものであるため、細胞毒性が低いことが求められる。また、点眼剤等の水性組成物は、使用時の微生物汚染等による製品の腐敗を防止する(保存効力を確保する)ことが求められる。しかしながら、一般に保存効力と細胞毒性とは逆相関であり、保存効力を高めると、細胞毒性が強くなるという問題があった。また、角膜上皮障害の治療において、ヒアルロン酸濃度0.1w/v%又は0.3w/v%の製剤が一般に使用されているが、ヒアルロン酸やその塩を含有する製剤は微生物が繁殖しやすく、特に、ヒアルロン酸濃度が0.3w/v%と高濃度であると、ヒアルロン酸濃度0.1w/v%のものと比べ毒性が弱く、このため保存効力を確保しづらいという問題があった。
【0003】
点眼剤は、通常、ユニットドーズ型容器又はマルチドーズ型容器に収納して使用される。マルチドーズ型点眼剤は、開封後一定期間にわたり何度も使用することが前提とされているが、一旦開封した点眼剤は、使用時に雑菌を含んだ空気混入が避けられない。また、使用時に接触した眼組織や皮膚から微生物汚染が引き起こされる可能性が高い。このため、ヒアルロン酸を含有するマルチドーズ型点眼剤においては、その腐敗を防止して保存効力を確保することが必須であり、防腐剤が配合されていることが多い。しかしながら、上述したように、一般に保存効力を高めると、細胞毒性が強くなるという問題がある。
【0004】
ユニットドーズ型容器に収納される場合、開封後一度で使い切ることを前提に防腐剤を非配合とすることも可能であるが、ユニットドーズ型製剤は、一般に長期間の使用において高価であり、保管時にかさばるなどの問題もある。また、1回で使いきれない場合には、残液が無駄になるという問題もある。
【0005】
このため、ヒアルロン酸を高濃度(例えば0.3w/v%以上)含有するマルチドーズ型の角膜上皮治療用点眼剤において、細胞毒性を低くし、かつ保存効力を高くできる技術が求められていた。
【0006】
細胞毒性を低くし、かつ保存効力を高くすることを目的として、防腐剤フリー容器が提案されている(特許文献1〜7)。しかしながら、製造が複雑である、高価であるといった問題点があった。
【0007】
特許文献8には、ヒアルロン酸に、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸エステル及びキレート剤(EDTA)を配合した点眼液が開示されている。しかしながら、防腐効果(保存効力)は改善されるものの、EDTAを配合した製剤は眼への刺激が強いという問題点があった。また、防腐剤として塩化ベンザルコニウムが使用されているが、ヒアルロン酸と共に塩化ベンザルコニウムを使用すると、点眼液が白濁し、霧視等の問題があった。
【0008】
特許文献9には、白濁を抑制する技術として、防腐剤として炭素数12の塩化ベンザルコニウムを用いる配合禁忌防止方法が開示されている。特許文献10には、ヒアルロン酸に、炭素数12の塩化ベンザルコニウム及びエデト酸ナトリウム(EDTA)を配合し防腐効果を高めた点眼剤が開示されている。しかしながら、EDTAを配合した製剤は眼への刺激が強いという問題点があった。
【0009】
特許文献11には、ヒアルロン酸に、塩化ベンザルコニウム及びホウ酸を配合することにより、白濁せず、ヒアルロン酸濃度が0.17%でも防腐効果が得られたことが開示されている。特許文献12には、ヒアルロン酸又はその塩を0.001〜2%含有する水溶液に、防腐剤として塩酸クロルヘキシジンを0.001〜0.01%配合した外用水溶液製剤が開示されている。特許文献13には、ホウ酸よりなるヒアルロン酸を含有する水性製剤の増粘剤が開示されている。
しかしながら、ヒアルロン酸を0.3%以上の高濃度含有するマルチドーズ型点眼剤において、優れた保存効力と低い細胞毒性とを両立させる技術は未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−290316号公報
【特許文献2】特開2004−51170号公報
【特許文献3】特開2004−166978号公報
【特許文献4】特開2002−80055号公報
【特許文献5】特開2002−263166号公報
【特許文献6】特開2005−111094号公報
【特許文献7】特開2005−145470号公報
【特許文献8】特公平07−5456号公報
【特許文献9】特公平06−74212号公報
【特許文献10】特許2530491号
【特許文献11】特許3050898号
【特許文献12】特開平11−5744号公報
【特許文献13】特開平11−43446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み、細胞毒性が低く、かつ、効果的に腐敗が防止されて保存効力が高く、さらに低刺激で使用感が良好な、ヒアルロン酸を0.3w/v%以上の高濃度含有するマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、ヒアルロン酸を0.3w/v%以上含有するマルチドーズ型上皮障害治療用点眼剤において、(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩と共に、(b)ホウ酸及び/又はホウ砂、及び(c)(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又は(c2)パラオキシ安息香酸エステルを配合することにより、該点眼剤の細胞毒性を低くすることができ、しかも該点眼剤における微生物の繁殖を効果的に抑制できることを見出した。このような点眼剤は、一定期間、同一容器から繰返して使用される場合において、該期間を通して微生物等による汚染を防ぐのに十分な保存効力を有しているものであった。本発明者らはまた、防腐剤として使用する(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩の配合量を、眼科用剤に通常使用される量(0.01w/v%)の半分程度としても、十分な保存効力が得られることを見出した。
【0013】
本発明者らは、マルチドーズ型点眼剤において前記(a)〜(c)を配合することにより、ヒアルロン酸濃度が0.3w/v%以上であっても、細胞毒性の低減と保存効力の確保を両立させることができた。前記(a)〜(c)を配合したマルチドーズ型点眼剤は、防腐剤(前記(c))を含有するにもかかわらず、驚くべきことに、防腐剤を含有しないヒアルロン酸含有量0.3w/v%のユニットドーズ型点眼剤よりも細胞毒性が低く、安全性が高いものであった。本発明者らは、上記知見に基づき、更に研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(5)に関する。
(1)以下の(a)ないし(c)
(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩
(b)ホウ酸及び/又はホウ砂
(c)以下の(c1)及び/又は(c2)
(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩
(c2)パラオキシ安息香酸エステル
を含有し、該(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩の配合量が、製剤全体に対して0.3w/v%以上であることを特徴とするマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
(2)さらに、(d)ナトリウムイオン供与性物質及び/又はカリウムイオン供与性物質を含有する前記(1)に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
(3)(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩の配合量が、製剤全体に対して0.01w/v%未満である前記(1)又は(2)に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
(4)浸透圧比が、0.8〜1.2である前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
(5)pHが6〜8である前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ヒアルロン酸を0.3w/v%以上含有するマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤において、細胞毒性を低くし、かつ微生物の繁殖を効果的に抑制して保存効力を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤は、以下の(a)ないし(c)を含有するものである。
(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩
(b)ホウ酸及び/又はホウ砂
(c)以下の(c1)及び/又は(c2)
(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩
(c2)パラオキシ安息香酸エステル
【0017】
「マルチドーズ型点眼剤」とは、マルチドーズ型点眼容器に収納されている点眼剤を意味する。「マルチドーズ型点眼容器」とは、点眼剤を反復使用する期間、例えば数日〜数ヶ月(好ましくは数日〜1ヶ月程度)にわたり、同一容器からの多数回、反復使用が可能なように、開封後も携帯が可能な程度に密閉状態を復元できる容器を意味する。
【0018】
本発明におけるヒアルロン酸は、外用水溶液製剤として使用され得るヒアルロン酸であればよい。ヒアルロン酸及びその薬学的に許容される塩は、1種又は2種以上を使用することができる。ヒアルロン酸の薬学的に許容される塩としては、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウム等が挙げられる。好ましくは、ヒアルロン酸ナトリウムである。
【0019】
ヒアルロン酸及びその薬学的に許容される塩の質量平均分子量は、好ましくは、約30万〜400万であり、より好ましくは約50万〜120万である。
本発明の点眼剤において、(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩の配合量は、製剤全体に対して0.3w/v%以上である。ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩の配合量は、製剤全体に対して約0.3〜2w/v%であることが好ましい。より好ましくは、約0.3〜1w/v%であり、さらに好ましくは、約0.3w/v%である。前記範囲下限を下回ると、充分な薬効が得られないおそれがあり、また、前記範囲上限を超えると、使用時に霧視が発生するなどの問題が生じるおそれがある。前記配合量は、ヒアルロン酸及びその薬学的に許容される塩が配合される場合には、これらの合計量である。
【0020】
ホウ酸及びホウ砂は、外用水溶液製剤として使用され得るものであればよい。本発明においては、ホウ酸として、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸の塩の1種又は2種以上を使用してもよい。
【0021】
ホウ酸の配合量は、製剤全体に対して0.05〜2w/v%であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜1w/v%である。ホウ砂の配合量は、製剤全体に対して0.01〜0.4w/v%であることが好ましく、より好ましくは、0.02〜0.3w/v%である。本発明においては、ホウ酸及びホウ砂を使用することが好ましい。ホウ酸及びホウ砂を使用する場合には、ホウ酸及びホウ砂それぞれの配合量が、前記範囲内となるようにすることが好ましい。ホウ酸及びホウ砂の配合量が前記範囲であると、より細胞毒性を低減しつつ、充分な保存効力を得ることができる。また、低刺激であるため使用感が良好となる。
【0022】
クロルヘキシジン及びその薬学的に許容される塩、並びにパラオキシ安息香酸エステルは、防腐剤として使用される。クロルヘキシジン及びその薬学的に許容される塩は、1種又は2種以上を使用することができる。本発明においては、(c)として(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩を用いることが好ましい。
クロルヘキシジンの薬学的に許容される塩としては、グルコン酸塩、塩酸塩、酢酸塩、等が挙げられる。好ましくは、クロルヘキシジンのグルコン酸塩を使用する。
【0023】
本発明におけるクロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩の配合量は、製剤全体に対して0.0001〜0.01w/v%であることが好ましい。また、配合量の上限は、0.01w/v%未満であることが好ましい。配合量は、より好ましくは、0.0005w/v%以上0.01w/v%未満である。さらに好ましくは、0.0005w/v%を超えて0.01w/v%未満であり、さらにより好ましくは0.001w/v%以上0.01w/v%未満であり、特に好ましくは、0.001〜0.007w/v%である。クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩の配合量が前記範囲であると、より細胞毒性を低減しつつ、十分な保存効力を得ることができる。
【0024】
パラオキシ安息香酸エステルとしては、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル等が使用でき、これらの2種以上を併用しても良い。これらの中でも、特に、パラオキシ安息香酸プロピル及び/又はパラオキシ安息香酸メチルが好ましい。また、パラオキシ安息香酸エステルの配合量は、製剤全体に対して0.001〜0.1w/v%であることが好ましく、0.01〜0.05w/v%であることがより好ましい。前記配合量は、2種以上のパラオキシ安息香酸エステルを使用する場合には、その合計量である。また、例えば、パラオキシ安息香酸プロピル及びパラオキシ安息香酸メチルを用いる場合、その配合比率は、質量比で、パラオキシ安息香酸プロピル1に対してパラオキシ安息香酸メチルを2〜4とすることが好ましい。
【0025】
(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩、及び(c2)パラオキシ安息香酸エステルを同時に配合する場合には、上述の好ましい範囲に対し、各々30%〜90%の配合量とすることが好ましい。
【0026】
前記ヒアルロン酸及びその薬学的に許容される塩、ホウ酸及びホウ砂、クロルヘキシジン及びその薬学的に許容される塩、並びにパラオキシ安息香酸エステルは、例えば、市販されており容易に入手できる。
【0027】
本発明の点眼剤は、さらに、(d)ナトリウムイオン供与性物質及び/又はカリウムイオン供与性物質を含有することが好ましい。より好ましくは、ナトリウムイオン供与性物質及びカリウムイオン供与性物質を用いる。
ナトリウムイオン供与性物質は、水溶液中で解離してナトリウムイオンを発生する化合物であればよい。カリウムイオン供与性物質は、水溶液中で解離してカリウムイオンを発生する化合物であればよい。
【0028】
ナトリウムイオン供与性物質として、ナトリウム塩が好適である。ナトリウム塩として、塩化ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、塩化ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等であり、より好ましくは、塩化ナトリウムである。カリウムイオン供与性物質として、カリウム塩が好適である。カリウム塩として、塩化カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。好ましくは、塩化カリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム等であり、より好ましくは、塩化カリウムである。ナトリウムイオン供与性物質及びカリウムイオン供与性物質は、それぞれ1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
ナトリウムイオン供与性物質の配合量は、通例、製剤全体に対して約0.01〜3w/v%であり、好ましくは、約0.1〜1w/v%、より好ましくは約0.3〜0.8w/v%である。カリウムイオン供与性物質の配合量は、通例、製剤全体に対して約0.01〜3w/v%であり、好ましくは、約0.05〜0.5w/v%、より好ましくは約0.1〜0.3w/v%である。
【0030】
本発明の点眼剤には、上記成分の他に本発明の効果を損なわない範囲で、他の薬物、各種添加剤(安定化剤、pH調整剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、溶解補助剤、酸化防止剤、溶剤、可溶化剤、懸濁剤、着香剤・香料、清涼化剤、着色剤、塩類等)等を添加することができる。これら任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量配合することができる。
【0031】
本発明の点眼剤には、本発明の効果を奏することになる限り、(c)(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩、及び/又は(c2)パラオキシ安息香酸エステル以外の防腐剤が配合されていてもよいが、該(c)を含有することにより、十分高い保存効力を発揮することができるものであることから、該(c)以外の防腐剤を、実質的に防腐効果を奏する量含有しないことが好ましい。より好ましくは、(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩以外の防腐剤を、実質的に防腐効果を奏する量含有しないことが好ましい。また、エデト酸(EDTA)及びその塩は、眼への刺激があることが知られている。本発明の点眼剤は、EDTAやその塩を実質的に含有しないことが好ましい。
【0032】
本発明の点眼剤は、浸透圧比が、0.8〜1.2であることが好ましい。より好ましくは、約0.9〜1.1である。
本発明の点眼剤は、pHが、約6〜8であることが好ましい。より好ましくは、約6.8〜7.8である。浸透圧比やpHの調整は、既述のpH調整剤、等張化剤、塩類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
【0033】
本発明のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤は、通常、前記成分を含有する溶液(角膜上皮障害治療用組成物)が長期間の反復使用に適したマルチドーズ型点眼容器に収納されているものである。マルチドーズ型点眼容器の内容積は、通常5mL〜20mL程度である。マルチドーズ型点眼容器の形状、材質等は特に限定されず、通常点眼剤に使用されるマルチドーズ型容器を使用することができる。容器は、遮光である必要はないが、遮光容器であってもよい。
【0034】
本発明の点眼剤は、通常、前述した(a)〜(c)、並びに必要に応じて配合される(d)やその他の成分を、所定量水に溶解させ、得られた溶液(角膜上皮障害治療用組成物)をマルチドーズ型点眼容器に充填することにより調製される。各成分を水に溶解後に、得られた溶液のpHや浸透圧を公知の方法により適宜調整することが好ましい。通常、前述した(a)〜(c)並びに必要に応じて配合される(d)やその他の成分を含有する溶液の浸透圧及びpH調整後、無菌環境下、ろ過滅菌処理し、洗浄滅菌済みのマルチドーズ型点眼容器に無菌充填することにより、本発明のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤を製造できる。
【0035】
本発明の点眼剤の製造に用いる水は、眼科用剤に使用可能な水であれば特に限定されず、例えば、精製水等を用いることができる。各成分の混合順序、混合方法等は特に限定されず、公知の調製法により各成分を水に溶解させればよい。
【0036】
本発明の点眼剤は、角膜上皮傷害の治療のために好適に使用されるものである。「治療」とは、症状又は疾患及び/又はその付随する症候を緩和し、又は治癒すること、及び緩和することを意味するものとする。
【0037】
「角膜上皮傷害」は、臨床上、欠損部位や病態所見等により細かく分類されるが、本明細書中では角膜上皮傷害と診断される疾患はもとより、コンタクトレンズの装用、薬剤性、外傷、手術等により一時的に角膜表面に生じた傷、ドライアイ等の眼の乾燥、紫外線やX線等の光線の曝露など、様々な外的要因(外因性疾患)により角膜上皮のバリアー機能が損なわれることで生じる眼の不快症状を包含する。またこれに伴って現れる自覚症状としては、眼の不快感、眼の乾き、眼の痒みなどが挙げられる。
【0038】
本発明の点眼剤の好ましい投与対象は、前記角膜上皮傷害を有する又は発症するおそれのある個体(動物)である。好ましくは、前記角膜上皮傷害を有する個体である。個体としてはヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等の哺乳類が好ましく、特にヒトが好ましい。
【0039】
本発明の点眼剤の投与量及び投与回数は、投与対象の症状等に応じて適宜選択することができる。通常、成人に対し1回につき1〜3滴程度を一日あたり1〜6回程度点眼すればよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0041】
(製剤の調製方法)
以下の方法により、眼科用剤1〜14及び参考製剤を調製した。
【0042】
(製剤例1)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.0025gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤1を得た。
【0043】
(製剤例2)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.005gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤2を得た。
【0044】
(製剤例3)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.025gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤3を得た。
【0045】
(製剤例4)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.03gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤4を得た。
【0046】
(製剤例5)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.035gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤5を得た。
【0047】
(製剤例6)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.05gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤6を得た。
【0048】
(製剤例7)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びベンザルコニウム塩化物液(10%液)0.025gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤7を得た。
【0049】
(製剤例8)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びベンゼトニウム塩化物0.0025gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤8を得た。
【0050】
(製剤例9)
パラオキシ安息香酸メチル0.028g、パラオキシ安息香酸プロピル0.014gを温水60g中に加えて加温溶解させ、冷却後ヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加え溶解させた後、ホウ酸0.3g、ホウ砂0.025g、塩化カリウム0.15g、及び塩化ナトリウム0.61gを加え、溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤9を得た。
【0051】
(製剤例10)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて溶解させた後、ホウ酸0.3g、トロメタモール0.026g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.005gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤10を得た。
【0052】
(製剤例11)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて、溶解させた後、クエン酸水和物0.112g、ホウ砂0.3g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.005gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤11を得た。
【0053】
(製剤例12)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて、溶解させた後、リン酸二水素ナトリウム2水和物0.156g、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.452g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.005gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤12を得た。
【0054】
(製剤例13)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて、溶解させた後、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61gを加え、溶解させた後、希塩酸1.0g及び水酸化ナトリウムを適量加え、pHを7.3に合わせた。これにクロルヘキシジングルコン酸塩液(20%液)0.005gを加えて混合した後、精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤13を得た。
【0055】
(製剤例14)
精製水60gにヒアルロン酸ナトリウム0.3gを加えて、溶解させた後、リン酸二水素ナトリウム2水和物0.156g、リン酸水素二ナトリウム12水和物0.452g、塩化カリウム0.15g、塩化ナトリウム0.61g、及びベンザルコニウム塩化物液(10%液)0.025gを加えて溶解させた。これに精製水を加えて全量を100mLとし、眼科用剤14を得た。
【0056】
(参考製剤1)
ヒアレイン(登録商標)点眼液0.1%(参天製薬社製)を、そのまま、参考製剤1として使用した。
【0057】
(参考製剤2)
ヒアレイン(登録商標)点眼液0.1%(参天製薬社製) 100mLにヒアルロン酸ナトリウム0.2gを加えて溶解させ参考製剤2を得た(ヒアルロン酸合計濃度 0.3%)。
【0058】
前記で調製した眼科用剤1〜14の組成を、表1〜2に示す。表1〜2中の数値は、w/v%を意味する。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
前記製剤例で調製した各眼科用剤を試験薬剤として用いて、以下の方法により、細胞毒性試験及び保存効力試験を実施した。
(細胞毒性試験の実施方法)
96 well マイクロプレート に1×10cells /wellの培養角膜細胞を播種し、5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で24時間培養し、細胞をプレート底面に接着させた。その後、培地を取り除き、各試験薬剤を作用させ、試験薬剤接触前(0分)と接触後(30分)にCelltiter-Blue(登録商標) Cell Viability Assay (promega社)を用いて蛍光測定を行い、細胞の生存率を算出した。各群4検体ずつ行った。
【0062】
(評価基準)
細胞毒性の判定は、細胞の生存率(%)から、以下の判定基準を用いて行った。
【0063】
【表3】

【0064】
(保存効力試験の実施方法)
第15局改正 日本薬局方 参考情報 保存効力試験法に準拠し、真菌(アスペルギルス・ニガー)に対する保存効力を調べた。
【0065】
保存効力試験の判定は、接種4日後に接種菌の生存率(全細菌数に対する全生細菌数の%)を測定し、該生存率(%)から以下の判定基準により行った。
【0066】
【表4】

【0067】
細胞毒性試験及び保存効力試験の結果から、以下の基準で総合評価を行なった。
【0068】
【表5】

【0069】
細胞毒性試験及び保存効力試験の結果、並びに総合評価を、表6〜7に示す。表中、−は、未実施を意味する。
【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
眼科用剤4及び5の保存効力試験は未実施であるが、クロルヘキシジングルコン酸塩濃度のみが異なる処方である、眼科用剤3及び眼科用剤6の保存効力試験結果がいずれも0.1%未満であることから、眼科用剤4及び5の保存効力試験結果は、0.1%未満であると考えられた。
表6〜7より、ヒアルロン酸ナトリウムと共に、(b)ホウ酸及び/又はホウ砂、並びに(c)(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩及び/又は(c2)パラオキシ安息香酸エステルを含有する眼科用剤は、低細胞毒性と高い保存効力とを兼ね備えるものであった。特に、クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩の配合量が0.001w/v%以上0.01w/v%未満である眼科用剤は、総合評価において特に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、医療分野等において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)ないし(c)
(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩
(b)ホウ酸及び/又はホウ砂
(c)以下の(c1)及び/又は(c2)
(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩
(c2)パラオキシ安息香酸エステル
を含有し、該(a)ヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩の配合量が、製剤全体に対して0.3w/v%以上であることを特徴とするマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
【請求項2】
さらに、(d)ナトリウムイオン供与性物質及び/又はカリウムイオン供与性物質を含有する請求項1に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
【請求項3】
(c1)クロルヘキシジン又はその薬学的に許容される塩の配合量が、製剤全体に対して0.01w/v%未満である請求項1又は2に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
【請求項4】
浸透圧比が、0.8〜1.2である請求項1〜3のいずれか一項に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。
【請求項5】
pHが6〜8である請求項1〜4のいずれか一項に記載のマルチドーズ型角膜上皮障害治療用点眼剤。

【公開番号】特開2012−62269(P2012−62269A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207110(P2010−207110)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【Fターム(参考)】