説明

解析装置および解析方法

【課題】物質を解析するための処理が複雑であるという問題を解決する解析装置を提供する。
【解決手段】記憶部1は、基準物質の吸収スペクルの特性を示す吸収特性データを、基準物質を示す物質データごとに対応付けて記憶する。取得部3は、対象物質からの光のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する。作成部2は、記憶部1に記憶された物質データのそれぞれについて、その物質データに対応する吸収特性データに基づいて、該物質データが示す物質からの光のスペクトルデータを基準スペクトルデータとして作成する。解析部4は、取得部3が取得した対象スペクトルデータと、作成部2が作成した基準スペクトルデータとに基づいて、対象物質を解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物質の吸収スペクトルデータに基づいて、その対象物質を解析するための解析装置および解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の吸収スペクトルデータに基づいて、その物質を解析する解析方法が知られている。このような解析方法を用いて物質を特定する技術には、特許文献1に記載の材質判別方法、特許文献2に記載の添加物質含有判定プログラム、および、特許文献3に記載の解析装置がある。
【0003】
これらの技術では、様々な物質の吸収スペクトルデータが基準スペクトルデータとしてデータベースに登録される。また、プラスチックや細胞などの対象物質に光を照射し、その対象物質からの反射光または透過光のスペクトルデータから、その対象物質の吸収スペクトルデータが取得される。
【0004】
そして、その取得された対象物質の吸収スペクトルデータと、データベース内の基準スペクトルデータとが照合され、そのデータベースの中から、その対象物質の吸収スペクトルデータに最も近い基準スペクトルデータが選択される。
【0005】
これにより、対象物質を形成する物質が、その選択された基準スペクトルデータに対応する物質と特定される。
【特許文献1】特開2002−26761号公報
【特許文献2】特開2005−283336号公報
【特許文献3】特開2006−200987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
物質からの反射光や透過光から取得される吸収スペクトルデータは、同じ物質でも、周囲の環境に応じて異なる。例えば、外乱の少ない研究室などで取得した吸収スペクトルデータと、屋外などの実フィールドで取得した吸収スペクトルデータとでは、互いに異なる。
【0007】
このため、データベース内の基準スペクトルデータと、その基準スペクトルデータを取得したときの環境とは異なる環境で取得された吸収スペクトルデータと、を照合する際には、取得された吸収スペクトルデータから外乱成分を取り除く処理などの補正を行う必要がある。しかしながら、様々な環境に応じて適切な補正を吸収スペクトルデータに行うことは、非常に困難である。このため、物質を解析するための処理が複雑であるという問題がある。特に、対象物質がガスなどの気体の場合、物質の吸収スペクトルデータに与える外乱の影響が大きいため、物質を解析するための処理が非常に複雑化する。
【0008】
本発明の目的は、上記の課題である、物質を解析するための処理が複雑であるという問題を解決する解析装置および解析方法を提供することでなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による解析装置は、物質の吸収スペクルの特性を示す吸収特性データを、前記物質を示す物質データごとに対応付けて記憶する記憶手段と、対象物質からの光のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する取得手段と、前記記憶手段に記憶された物質データのそれぞれについて、該物質データに対応する吸収特性データに基づいて、該物質データが示す物質からの光のスペクトルデータを基準スペクトルデータとして作成する作成手段と、前記取得手段が取得した対象スペクトルデータと、前記作成手段が作成した基準スペクトルデータとに基づいて、前記対象物質を解析する解析手段と、を有する。
【0010】
本発明による解析方法は、物質の吸収スペクルの特性を示す吸収特性データを前記物質を示す物質データごとに対応付けて記憶する記憶手段を有する解析装置による解析方法であって、対象物質からの光のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する取得ステップと、前記記憶手段に記憶された物質データのそれぞれについて、該物質データに対応する吸収特性データに基づいて、該物質データが示す物質からの光のスペクトルデータを基準スペクトルデータとして作成する作成ステップと、前記取得された対象スペクトルデータと、前記作成された基準スペクトルデータとに基づいて、前記対象物質を解析する解析ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、物質を解析するための処理の簡素化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同じ機能を有する構成には同じ符号を付け、その説明を省略する場合がある。
【0013】
図1は、本発明の第一の実施形態の解析装置の構成を示したブロック図である。図1において、解析装置は、記憶部1と、作成部2と、取得部3と、解析部4とを有する。
【0014】
記憶部1は、基準物質の吸収スペクトルデータの特性を示す吸収特性データを、その基準物質を示す物質データごとに記憶する。
【0015】
本実施形態では、吸収特性データは、物質の吸収波長域と、その吸収波長域内の光吸収率とを示す。ここで、光吸収率は、波長ごとに異なっていることが望ましい。また、吸収波長域は、その吸収波長域の中心の波長(以下、吸収中心波長と称する)と、その吸収波長域の幅(以下、吸収波長範囲と称する)で定義されるものとする。
【0016】
基準物質は、特に限定されないが、以下では、少なくとも赤外域に吸収波長域を有するガスであるとする。また、吸収特性データは、物質の所定の波長域に含まれる吸収スペクトルデータを示してもよい。所定の波長域は、例えば、赤外域である。なお、赤外域は、0.7μm〜1000μmの波長域である。
【0017】
図2は、記憶部1に記憶された記憶データの一例を示した説明図である。図2において、記憶データ10は、識別番号11と、ガス名12と、吸収特性データ13とを含む。ここで、識別番号11およびガス名12は、物質データである。
【0018】
識別番号11は、基準物質であるガスを特定する識別情報である。ガス名12は、基準物質であるガスの名前を示す。吸収特性データ13は、識別番号11およびガス名を有する物質データにて示されるガスの吸収スペクトルデータの特性を示す。
【0019】
図1に戻る。作成部2は、記憶部1に記憶された物質データごとに、その物質データに対応する吸収特性データに基づいて、その物質データが示す物質からの光のスペクトルデータを基準スペクトルデータとして作成する。
【0020】
具体的には、作成部2は、その物質に対応する吸収特性データを有する吸収スペクトルデータを作成し、その作成した吸収スペクトルデータを、黒体輻射のスペクトルデータから減算して基準スペクトルデータを作成する。
【0021】
黒体輻射のスペクトルデータWは、プランクの黒体輻射の公式である数1で表すことができる。
【0022】
【数1】

【0023】
ここで、hは、プランク定数(6.6261×10−34[Ws])であり、cは、光速(2.9979×10[m/s])であり、kは、ボルツマン定数(1.3807×10−23[Ws/K])であり、Tは、絶対温度[K]であり、λは、波長[μm]である。
【0024】
したがって、吸収スペクトルデータA=F(w、λc、α)とすると、基準スペクトルデータSは、数2で表すことができる。
【0025】
【数2】

【0026】
ここで、吸収スペクトルデータAは、数3で表すことができる。
【0027】
【数3】

【0028】
ここで、wは、吸収波長範囲である。λcは、吸収中心波長である。α(λ)は、光吸収率であり、波長の関数である。また、絶対温度Tは、例えば、20℃などの常温に予め作成部2に設定されているものとする。
【0029】
図3は、数1で表した黒体輻射のスペクトルデータWの一例を示した説明図であり、図4は、数2で表した基準スペクトルデータSの一例を示した説明図である。図3および図4では、横軸は、波長を示し、縦軸は、放射強度を示す。なお、図3では、絶対温度Tが273K、300Kおよび323Kのそれぞれの場合における黒体輻射のスペクトルデータを示している。また、図4では、絶対温度Tが300Kであるとしている。
【0030】
図3および図4で示されたように、基準スペクトルデータSは、基準物質の吸収スペクトルデータを有するスペクトルデータとなる。
【0031】
以下、基準スペクトルデータSの具体例をフルオロカーボン152a(HFC−152a:1,1-difluoroethane)とアセトンを用いて説明する。
【0032】
図5は、フルオロカーボン152aの赤外域の吸収スペクトルデータを示したスペクトルデータ図であり、図6は、アセトンの赤外域の吸収スペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。図5において、横軸は、波数(Wave number)[cm−1]を示す、縦軸は、相対透過率(Relative Transmittance)を示す。また、図6において、横軸は、波数[cm−1]を示し、縦軸は、吸収係数[(micromol/mol)−1−1(base10)]を示す。なお、吸収係数は、常用対数の形式での値、つまり、常用対数で表した吸光度を距離で除算した値を示す。
【0033】
なお、図5および図6は、NIST・Chemisty・webBook(http://webbook.nist.gov/chemistry)からの引用である。
【0034】
図5および図6で示されたように、フルオロカーボン152aおよびアセトンには、固有の吸収特性がある。しかしながら、様々な環境におけるフルオロカーボン152aおよびアセトンのスペクトルデータは、外乱などの影響によって、互いに異なる。
【0035】
図7は、フルオロカーボン152aの赤外域の吸収スペクトルデータを示したスペクトルデータ図であり、図8は、アセトンの赤外域の吸収スペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。図7および図8において、横軸は、波長[μm]であり、縦軸は、放射強度[eV]である。なお、図7および図8では、様々な環境におけるフルオロカーボン152aおよびアセトンの赤外域のスペクトルデータが示されている。
【0036】
図7および図8で示されたスペクトルデータは、特定の波長域の光が吸収されるので、その特定の波長域の放射強度が他の波長域に比べて小さくなるという特性を有するが、吸収波長範囲や光吸収率にはばらつきが生じる。
【0037】
図9は、赤外域におけるフルオロカーボン152aに対応する基準スペクトルデータを示したスペクトルデータ図であり、図10は、赤外域におけるアセトンに対応する基準スペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。図9および図10において、横軸は、波長[μm]であり、縦軸は、放射強度[eV]である。
【0038】
図9および図10で示された基準スペクトルデータは、数2から算出される。また、図9および図10では、絶対温度Tは、常温であるとし、吸収中心周波数λcおよび吸収波長範囲wは、一定値であり、吸収率αの変化させたときの基準スペクトルデータが示されている。例えば、図10で示したアセトンの基準スペクトルデータの場合、吸収中心波長λc=8.30μmであり、吸収波長範囲w=0.180μmである。また、吸収率αは、94.8%〜99.8%内の値で波長ごとに変化している。
【0039】
図9および図10で示されたように、吸収率αを適切な値に固定すれば、外乱の影響など環境に依存しない基準スペクトルデータを作成することができる。
【0040】
図1に戻る。取得部3は、例えば、ハイパースペクトルデータセンサであり、対象物質からの光を分光し、その分光された光のそれぞれの光強度を測定することで、その光のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する。
【0041】
解析部4は、取得部3が取得した対象スペクトルデータと、作成部2が作成した基準スペクトルデータとに基づいて、対象物質を解析する。
【0042】
具体的には、先ず、解析部4は、その対象スペクトルデータと基準スペクトルデータとの類似度(照合度)を算出する。そして、解析部4は、その類似度が最大となる基準スペクトルデータに対応する物質を対象物質として判別する。または、解析部4は、その類似度に応じて、その類似度の算出に用いた基準スペクトルデータに対応する物質データにて示される物質が対象物質である確率を求める。
【0043】
スペクトルデータの類似度の算出する方法には、例えば、SAM(Spectral Angle Mapper)法、SFF(Spectral Feature Fitting)法およびBE(Binary Encoding)法などがある。なお、SAM法、SFF法およびBE法は、公知技術である。
【0044】
SAM法では、各スペクトルデータをバンド数と同じ次元の空間ベクトルに変換し、それらの空間ベクトル間の角度を計算することで、スペクトルデータの類似度を算出する。なお、角度が大きいほど、類似度が低く、角度が小さいほど、類似度が高い。例えば、図11で示したように、バンドA―B間のスペクトルデータをバンドAからバンドBまでの空間ベクトルに変換し、それらの空間ベクトル間の角度を計算する。
【0045】
また、SFF法では、図12で示したように、各スペクトルデータを連続体(Continuum)からの落ち込み(吸収)について、バンドごとの差のRMS(Root Mean Square:二乗平均平方根)を算出することで、スペクトルデータの類似度を算出する。なお、RMSが大きいほど、類似度が低く、RMSが小さいほど、類似度が高い。また、連続体とは、局部的に最大値となる点を滑らかにつないだ曲線のことである。
【0046】
また、BE法では、図13で示したように、先ず、スペクトルデータsおよびtのそれぞれの強度の平均値を閾値s1およびt1とする。続いて、各スペクトルデータsおよびtのそれぞれについて、バンドごとに、そのバンドの強度がそのスペクトルデータの閾値s1またはt2より大きいか否かを判断し、強度が閾値より大きいバンドを1、強度が閾値より小さいバンドを0とする。そして、各スペクトルデータについて、各バンドの1と0とが一致している割合を算出することで、スペクトルデータの類似度を算出する。なお、その割合が小さいほど、類似度が低く、その割合が大きいほど、類似度が高い。
【0047】
次に動作を説明する
図14は、本実施形態による解析装置の動作例を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、図15で示されたよう分布されたガス100を対象物質として解析するものとする。
【0048】
先ず、取得部3は、ガス100からの光を分光し、その分光された光のそれぞれの光強度を測定して、ガス100のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する。取得部3は、その対象スペクトルデータを作成部2に出力する(ステップS1)。
【0049】
続いて、作成部2は、対象スペクトルデータを受け付けると、記憶部1に記憶された吸収特性データのそれぞれを取得する。作成部2は、その吸収特性データのそれぞれに基づいて、吸収特性データを有する吸収スペクトルデータを作成し、その作成したスペクトルデータを、黒体輻射のスペクトルデータから減算して基準スペクトルデータを作成する。作成部2は、その作成した基準スペクトルのそれぞれに、その基準スペクトルの作成に用いた吸収特性データに対応する物質データ内の識別番号を付ける(ステップS2)。
【0050】
図16は、基準スペクトルデータの一例を示した説明図である。図16では、基準スペクトルデータD1〜D3が示されている。基準スペクトルデータD1〜D3のそれぞれは、固有の吸収波長域(吸収中心波長λD1〜λD2)を有する。
【0051】
図14に戻る。作成部2は、その作成した基準スペクトルデータと、その受け付けた対象スペクトルデータとを解析部4に出力する。解析部4は、その基準スペクトルデータおよび対象スペクトルデータを受け付けると、SAM法、SFF法またはBE法を用いて、対象スペクトルデータと基準スペクトルデータとの類似度を、基準スペクトルデータごとに算出する(ステップS3)。
【0052】
解析部4は、取得部3が取得した対象スペクトルデータと、作成部2が作成した基準スペクトルデータとの類似度とに基づいて、ガス100を解析し(ステップS4)、動作を終了する。
【0053】
以下、解析部4の動作を具体的に説明する。
【0054】
先ず、解析部4は、その対象スペクトルデータと基準スペクトルデータとの類似度を、基準スペクトルデータごとに算出する。
【0055】
図17は、基準スペクトルデータと類似度の一例を示した説明図である。図17では、基準スペクトルデータD1〜D3と、その基準スペクトルデータD1〜D3のそれぞれの、対象スペクトルデータとの類似度が示されている。
【0056】
解析部4は、その類似度が最大となる基準スペクトルデータを選択する。そして、解析部4は、その選択した基準スペクトルデータに付けられた識別番号を有する物質データを記憶部1から取得し、その取得した物質データが示す基準物質をガス100として判別する。例えば、図17の場合、基準スペクトルD1の類似度が最も高いので、解析部4は、基準スペクトルD1に付けられた識別番号を有する物質データが示す基準物質を、ガス100として判別する。
【0057】
または、解析部4は、その類似度の基準スペクトルデータに付けられた識別番号を有する物質データを記憶部1から取得し、その取得した物質データが示す基準物質がガス100である確率を、その類似度に応じて求める。例えば、解析部4は、基準スペクトルデータのそれぞれの類似度を、基準スペクトルデータの類似度の和で割った値を、その基準スペクトルデータに対応する物質がガス100である確率として求める。図17の場合、解析部4は、基準スペクトルデータD1に対応する物質がガス100である確率を、50%と求め、基準スペクトルデータD2に対応する物質がガス100である確率を、33%と求め、基準スペクトルデータD3に対応する物質がガス100である確率を、17%と求める。
【0058】
このように、対象物質であるガス100を解析することで、ガス100を定性的に評価することが可能になり、ガス100の分布を的確にとらえることが可能になる。
【0059】
例えば、図18で示したある波長における画像において、暗部200で示されたようにガスが分布されているときに、類似度(確率)が所定値より高い箇所を、ガスが存在する箇所として特定することで、図19で示した画像の暗部300のように特定することができる。
【0060】
次に効果を説明する。
【0061】
本実施形態によれば、記憶部1は、基準物質の吸収スペクルの特性を示す吸収特性データを、基準物質を示す物質データごとに対応付けて記憶する。取得部3は、対象物質からの光のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する。作成部2は、記憶部1に記憶された物質データのそれぞれについて、その物質データに対応する吸収特性データに基づいて、該物質データが示す物質からの光のスペクトルデータを基準スペクトルデータとして作成する。解析部4は、取得部3が取得した対象スペクトルデータと、作成部2が作成した基準スペクトルデータとに基づいて、対象物質を解析する。
【0062】
この場合、基準スペクトルデータが基準物質の吸収スペクルの特性を示す吸収特性データに基づいて作成される。また、その作成された基準スペクトルデータと、対象物質からの光のスペクトルデータである対象スペクトルデータとに基づいて、対象物質が解析される。
【0063】
このため、基準スペクトルデータを周囲の環境に依存しないようにモデル化できるので、対象スペクトルデータから外乱成分を取り除く処理などの補正を行わなくてもよくなる。したがって、物質を解析するための処理の簡素化を図ることが可能になる。このため、例えば、物質を解析するための処理速度を向上させることが可能になる。
【0064】
また、本実施形態では、吸収特性データは、基準物質の吸収波長域と、基準物質の吸収波長域内の光吸収率とを示す。この場合、基準物質の吸収スペクトルデータの特性をより正確に示すことが可能になので、基準スペクトルデータを適切にモデル化することが可能になる。
【0065】
また、本実施形態では、作成部2は、物質データのそれぞれについて、その物質データに対応する吸収特性データを有する吸収スペクトルデータを、黒体輻射のスペクトルデータから減算して基準スペクトルデータを作成する。
【0066】
この場合、黒体輻射のスペクトルデータは吸収波長域のないスペクトルデータなので、基準スペクトルデータを適切にモデル化することが可能になる。
【0067】
また、本実施形態では、解析部4は、対象スペクトルデータと基準スペクトルデータとの類似度を算出し、該類似度が最大となる基準スペクトルデータに対応する物質データが示す物質を、対象物質として判別する。
【0068】
この場合、物質を解析するための処理の簡素化を図かりながら、対象物質を判別することが可能になる。
【0069】
また、本実施形態では、解析部4は、対象スペクトルデータと基準スペクトルデータとの類似度を算出し、その類似度に応じて、その類似度の算出に用いた基準スペクトルデータに対応する物質データにて示される物質が対象物質である確率を求める。
【0070】
この場合、物質を解析するための処理の簡素化を図かりながら、ある対象物質が存在している確率を求めることが可能になる。
【0071】
以上説明した実施形態において、図示した構成は単なる一例であって、本発明はその構成に限定されるものではない。
【0072】
例えば、物質の吸収波長域は、その吸収波長域の最大値および最小値で定義されてもよい。
【0073】
また、解析装置は、温度センサを有し、その温度センサで計測した温度を、プランクの黒体輻射の公式である数1に代入して、基準スペクトルデータを作成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第一の実施形態の解析装置の構成を示したブロック図である。
【図2】記憶部に記憶された記憶データの一例を示した説明図である。
【図3】黒体輻射のスペクトルデータの一例を示した説明図である。
【図4】基準スペクトルデータの一例を示した説明図である。
【図5】フルオロカーボン152aの赤外域の吸収スペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。
【図6】アセトンの赤外域の吸収スペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。
【図7】フルオロカーボン152aからの光のスペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。
【図8】アセトンからの光のスペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。
【0075】

【図9】遠赤外域におけるフルオロカーボン152aに対応する基準スペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。
【図10】遠赤外域におけるアセトンに対応する基準スペクトルデータを示したスペクトルデータ図である。
【図11】SAM法によるスペクトルデータの類似度の算出を説明するための説明図である。
【図12】SFF法によるスペクトルデータの類似度の算出を説明するための説明図である。
【図13】BE法によるスペクトルデータの類似度の算出を説明するための説明図である。
【図14】解析装置の動作例を説明するためのフローチャートである。
【図15】対象物質であるガスの分布を示した説明図である。
【図16】基準スペクトルデータの一例を示した説明図である。
【図17】基準スペクトルデータと類似度の一例を示した説明図である。
【図18】ある波長におけるガスが漂っている画像を示した説明図である。
【図19】解析結果で特定されたガスを示した説明図である。
【符号の説明】
【0076】
1 記憶部
2 作成部
3 取得部
4 解析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質の吸収スペクルの特性を示す吸収特性データを、前記物質を示す物質データごとに対応付けて記憶する記憶手段と、
対象物質からの光のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する取得手段と、
前記記憶手段に記憶された物質データごとに、該物質データに対応する吸収特性データに基づいて、該物質データが示す物質からの光のスペクトルデータを基準スペクトルデータとして作成する作成手段と、
前記取得手段が取得した対象スペクトルデータと、前記作成手段が作成した基準スペクトルデータとに基づいて、前記対象物質を解析する解析手段と、を有する解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の解析装置において、
前記吸収特性データは、前記物質の吸収波長域と、該物質の吸収波長域内の光吸収率と、を示す、解析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の解析装置において、
前記作成手段は、前記物質データのそれぞれについて、該物質データに対応する吸収特性データを有する吸収スペクトルデータを、黒体輻射のスペクトルデータから減算して前記基準スペクトルデータを作成する、解析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の解析装置において、
前記解析手段は、前記対象スペクトルデータと前記基準スペクトルデータとの類似度を算出し、前記類似度が最大となる基準スペクトルデータに対応する物質データが示す物質を、前記対象物質として判別する、解析装置。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の解析装置において、
前記解析手段は、前記対象スペクトルデータと前記基準スペクトルデータとの類似度を算出し、前記類似度に応じて、該類似度の算出に用いた基準スペクトルデータに対応する物質データにて示される物質が前記対象物質である確率を求める、解析装置。
【請求項6】
物質の吸収スペクルの特性を示す吸収特性データを前記物質を示す物質データごとに対応付けて記憶する記憶手段を有する解析装置による解析方法であって、
対象物質からの光のスペクトルデータを対象スペクトルデータとして取得する取得ステップと、
前記記憶手段に記憶された物質データごとに、該物質データに対応する吸収特性データに基づいて、該物質データが示す物質からの光のスペクトルデータを基準スペクトルデータとして作成する作成ステップと、
前記取得された対象スペクトルデータと、前記作成された基準スペクトルデータとに基づいて、前記対象物質を解析する解析ステップと、を有する解析装置。
【請求項7】
請求項6に記載の解析方法において、
前記吸収特性データは、前記物質の吸収波長域と、該物質の吸収波長域内の光吸収率と、を示す、解析方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の解析方法において、
前記作成ステップでは、前記物質データのそれぞれについて、該物質データに対応する吸収特性データを有する吸収スペクトルデータを、黒体輻射のスペクトルデータから減算して前記基準スペクトルデータを作成する、解析方法。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか1項に記載の解析方法において、
前記解析ステップでは、前記対象スペクトルデータと前記基準スペクトルデータとの類似度を算出し、前記類似度が最大となる基準スペクトルデータに対応する物質データが示す物質を、前記対象物質として判別する、解析方法。
【請求項10】
請求項6ないし8のいずれか1項に記載の解析方法において、
前記解析ステップでは、前記対象スペクトルデータと前記基準スペクトルデータとの類似度を算出し、前記類似度に応じて、該類似度の算出に用いた基準スペクトルデータに対応する物質データにて示される物質が前記対象物質である確率を求める、解析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−112926(P2010−112926A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287770(P2008−287770)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】