説明

触媒で被覆された熱交換器

本発明は、触媒で被覆された熱交換器、加えてそれに関連する方法及び燃料改質器に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、合衆国法典第35巻第119条に基づき、2004年8月11日付けで出願された米国仮出願第60/600,583号の優先権を主張し、その内容は、この参照により開示に含まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
本発明は、米国エネルギー省から付与された契約番号DE−FCO2−99EE50580の政府支援を用いてなされた。本発明において、政府は一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、触媒で被覆された熱交換器、加えてそれに関連する方法及び燃料改質器に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
水素は、一連の反応工程を含むプロセスによって、液体またはガス状の炭化水素またはアルコールのような標準的な燃料から作製することができる。第一の工程では通常、燃料を水蒸気と共に加熱するが、ここで、酸化剤(例えば空気)を用いてもよいし、用いないこともある。続いて、この混合されたガスを改質触媒の上を通過させると、改質反応によって、水素、一酸化炭素、二酸化炭素及び残留した水の混合物が生成する。この反応の生成物は、「改質物」と称される。第二の工程では通常、改質物は追加の水と混合される。改質物中の水と一酸化炭素が触媒の存在下で反応し、水性ガスシフト(WGS)反応によって追加の水素と二酸化炭素が形成される。WGS反応は通常、2段階で、すなわち、第一の高温シフト(HTS)反応段階、及び、第二の低温シフト(LTS)反応段階で行われる。HTS及びLTS反応は、水素の生成を最大化し、改質物中の一酸化炭素含量を減少させることができる。必要に応じて、一酸化炭素含量をppmレベル(例えば、50ppmまたはそれ以下)に減少させるためのさらなる工程が含まれてもよく、例えば選択酸化(PrOx)反応である。このようにして得られた改質物は大量の水素を含み、燃料電池のための燃料として用いることができる。上述の反応工程を行うための反応帯域を含む装置は、燃料改質器と呼ばれる。
【発明の開示】
【0005】
要約
一形態において、本発明は、改質反応帯域(例えば、オートサーマル(自動熱)改質反応帯域);流体連絡状態で、かつ改質反応帯域の下流にある、第一の熱交換器;流体連絡状態で、かつ第一の熱交換器の下流にある、第一の水性ガスシフト反応帯域(例えば、HTS反応帯域);及び、流体連絡状態で、かつ第一の水性ガスシフト反応帯域の下流にある、第二の熱交換器を含む燃料改質器を特徴とする。第一及び第二の熱交換器の少なくとも一方の表面は、燃焼触媒、選択酸化触媒、及び、脱硫触媒からなる群より選択される触媒で被覆されている。
【0006】
また、本燃料改質器は、流体連絡状態で、かつ第二の熱交換器の下流に、第二の水性ガスシフト反応帯域(例えば、LTS反応帯域)、及び、流体連絡状態で、かつ第二の水性ガスシフト反応帯域の下流に、選択酸化反応帯域を含んでいてもよい。
【0007】
その他の形態において、本発明は、熱交換器、及び、該熱交換器の下流に選択酸化反応帯域を含む燃料改質器を特徴とする。この熱交換器の表面は、燃焼触媒、選択酸化触媒、及び、脱硫触媒からなる群より選択される触媒で被覆されている。
【0008】
その他の形態において、本発明は、改質反応により生成した改質物と、第一の空気流とを反応させ、熱を発生することを含む方法を特徴とする。改質物と第一の空気流は、第一の燃焼触媒または第一の選択酸化触媒で被覆された外面を有する第一の熱交換器の外側を流れ、それにより、改質物と第一の空気流との反応を容易にする。
【0009】
いくつかの実施形態において、本方法はまた、改質物と第二の空気流とを反応させ、熱を発生させることを含んでいてもよい。改質物と第二の空気流は、第二の燃焼触媒または第二の選択酸化触媒で被覆された外面を有する第二の熱交換器の外側を流れる。
【0010】
いくつかの実施形態において、本方法はさらに、熱交換器の外側を流れる改質物と空気流との反応により発生した熱を用いて、熱交換器を予め決定された温度に加熱することを含んでいてもよい。本方法はまた、流体連絡状態で、かつ熱交換器の下流にある、反応帯域(例えば、HTS反応帯域、または、LTS反応帯域)を予め決定された温度に加熱することを含んでいてもよい。
【0011】
いくつかの実施形態において、第一または第二の熱交換器の内部を所定速度で流れる第一または第二の冷却流体に、改質物と第一または第二の空気流との反応により発生した熱の少なくとも一部が移行する。
【0012】
いくつかの実施形態において、本方法はまた、第一または第二の熱交換器の予め決定された温度が維持されるように、第一または第二の冷却流体の流速を調節することを含んでいてもよい。
【0013】
その他の形態において、本発明は、改質器の起動時間を短縮する方法を特徴とする。本方法は、(1)改質物と空気流が、燃焼触媒または選択酸化触媒で被覆された外面を有する熱交換器の外側を流れる際に、改質反応により生成した改質物と空気流とを反応させ、熱を発生させること、及び、(2)改質器の起動プロセス中に、改質物と空気流との反応により発生した熱を用いて、熱交換器を予め決定された温度に加熱すること、を含む。
【0014】
さらにその他の観点において、本発明は、脱硫触媒で被覆された外面を有する熱交換器の外側に改質反応により生成した改質物を流すことによって、改質物中の硫黄の除去を容易にすることを含む方法を特徴とする。
【0015】
上述の燃料改質器の実施形態は、以下の利点のうち1またはそれ以上を提供することができる。
いくつかの実施形態において、燃焼触媒または選択酸化触媒で被覆された熱交換器の表面で、改質物と空気との酸化反応により発生した熱によって、改質器の起動時間を減少させることができる。改質器の起動時間は、冷たい改質器を温めるのに必要な時間を意味し、すなわち、発火から、燃料電池に使用するのに適した改質物が生成されるのに十分な温度に到達するまでの時間を意味する。上記酸化反応によって、(1)熱交換器を温める、(2)熱交換器下流の反応帯域(例えば、HTSまたはLTS反応帯域)で、より大量の熱が利用可能になるように、改質物を温める、及び、(3)燃料改質反応に使用するための熱交換器中で水蒸気を発生させるための熱を提供することができ、これらはいずれも、起動プロセス中に冷たい改質器を温めるのに必要な時間を減少させる。
【0016】
いくつかの実施形態において、触媒で被覆された熱交換器は、燃料改質器中の追加の反応器として役立たせることができるので、それによって、他の反応帯域の触媒の体積を減少させることができる。例えば、燃料改質器に、PrOx触媒または脱硫触媒で被覆された熱交換器を導入することによって、PrOx反応帯域または脱硫反応帯域に必要な触媒の体積を減少させることができる。
【0017】
いくつかの実施形態において、触媒で被覆された熱交換器は、改質器中の反応帯域の新しい配置を可能にする。例えば、従来の改質器は、反応帯域中の反応温度が、改質物が下流に移動するにつれて減少するように配置された一連の反応帯域を有する。一般的に、改質反応帯域の下流に、強く発熱する反応(例えば燃焼反応)のための帯域を入れることは、適切な反応温度を維持することが困難なために実行不可能である。しかしながら、触媒で被覆された熱交換器から発生した熱は、熱交換器中の冷却流体の流速、加えて酸化剤の流れの流速を調節することによって制御することができる。例えば、燃料改質器中の反応帯域を、以下の順番で配置させることができる:改質反応帯域、HTS反応帯域、触媒で被覆された熱交換器、LTS反応帯域、及び、PrOx反応帯域。
【0018】
本発明の1またはそれ以上の実施形態の詳細を、添付の図面と以下の説明に記載する。説明、図面及び請求項から、本発明のその他の特徴、目的及び利点が明白になると思われる。
【0019】
図面の簡単な説明
図1は、飽和蒸気の温度と圧力の関係を示すプロットである。
図2は、触媒で被覆された熱交換器を用いたオートサーマル改質プロセスの実施形態の概略図である。
【0020】
図3は、それぞれ触媒で被覆された2つの熱交換器を用いたオートサーマル改質プロセスのその他の実施形態の概略図である。
様々な図面中の類似の参考記号は、類似の構成要素を示す。
【0021】
詳細な説明
本発明は、多くの様々な形態での実施形態が可能だが、本発明の開示は、本発明の原理の単なる例証とみなされるべきであり、本発明の広範な形態を説明された特定の実施形態に限定することは目的としないという了解の下で、少なくとも1つの本発明の好ましい実施形態と可能性のある代替的な実施形態をこの開示で詳細に説明することとする。
【0022】
一般的に、燃料改質器中で、様々な反応を異なる温度で行うことができる。例えば、典型的なメタンまたはガソリンの改質反応は、約700℃〜約850℃の範囲温度で行われ、典型的なHTS反応は、約350℃〜約450℃の範囲温度で行われ、典型的なLTS反応は、350℃より低い温度(例えば、325℃より低い、または、300℃より低い温度)で行われ、典型的なPrOx反応は、250℃より低い温度で行われる。熱交換器は、一般的に、異なる反応の間に改質物を冷却するのに用いることができる。改質反応帯域とHTS反応帯域との間に配置された熱交換器は、以下「改質物の冷却器」と称する。改質物の冷却器を用いて、改質反応帯域にある改質物から所定量の熱を除去し、それによって改質物をHTS反応に適した温度に冷却することができる。HTS反応帯域とLTS反応帯域との間に配置された熱交換器は、以下、「低温シフト冷却器(infra−shift cooler)」、または、ISCと称する。ISCを用いて、HTS反応帯域にある改質物から所定量の熱を除去し、それによって、改質物をLTS反応に適した温度に冷却することができる。
【0023】
いくつかの実施形態において、熱交換器は、燃焼触媒、PrOx触媒または脱硫触媒で被覆することができる。燃焼触媒は、水素(例えば、改質物中の)と、酸化剤(例えば空気)との酸化反応を容易にすることができる。燃焼触媒の例は、プロトニクスC−タイプ(PROTONICS C−TYPE,ユミコア(Umicore),ハーナウ−ヴォルフガング,ドイツ)である。PrOx触媒は、改質物中の一酸化炭素の酸化反応と、水素の酸化反応の両方を容易にする。PrOx触媒は、高い温度(例えば、250℃より高い)よりも低い温度(例えば、250℃未満)でより選択的に一酸化炭素の酸化を触媒する。PrOx触媒の例は、セレクトラ・プロックスI(SELECTRA PROX I,エンゲルハード社(Engelhard Corporation),アイスリン,ニュージャージー州)である。脱硫触媒は、改質物からの硫黄の除去(例えば、硫化水素の形態で)を容易にすることができる。例えば、いくつかの脱硫触媒(例えばゼオライト)は、改質物中の硫化水素を吸収するための吸収剤として作用することができる。このような脱硫触媒の例としては、セレクトラ・サーフ−X CNG1(SELECTRA SULF−X CNG1)、及び、セレクトラ・サーフ−X CNG2(SELECTRA SULF−X CNG2)(エンゲルハード社(Engelhard Corporation),アイスリン,ニュージャージー州)が挙げられる。さらに、硫化水素と反応して金属硫化物を形成することによって改質物から硫黄を除去する脱硫触媒(例えば金属酸化物)もある。
【0024】
触媒で被覆された熱交換器は、当業界既知の方法によって製造することができる。例えば、まず触媒キャリアー、活性成分及びドーパントを混合して、触媒スラリーを製造することができる。次に、例えばスラリーを熱伝達表面に噴霧したり、または、スラリーに熱交換器を浸漬したりすることによって、この触媒スラリーを熱交換器の熱伝達表面に塗布することができる。熱伝達表面は、典型的には、機械的及び/または化学的に予備処理される。次に、被覆された触媒を望ましい温度でか焼し、熱伝達表面上に触媒層を形成することができる。触媒の望ましい装填量を達成するために、数種の触媒層が必要とされる場合がある。触媒は、この方法によって、または、当業界既知のその他のあらゆる適切な方法によって、改質物の冷却器及びISCの上に塗布することができる。
【0025】
燃料改質プロセス中に、熱交換器の触媒層で生じる反応温度は、用いられる反応のタイプと触媒に基づいて調節することができる。例えば、改質物の燃焼は、触媒の存在下で、室温で起こり、約200℃〜約300℃の範囲の温度で完了する。改質物の選択酸化は、好ましくは約100℃〜約250℃(例えば、約150℃〜約200℃)の温度で起こる。硫化水素の脱硫は、好ましくは、300℃未満(例えば、200℃未満)で起こる。反応温度は、熱交換器内部の冷却液の流速を調節することによって制御することができる。例えば、2つの相からなる冷却流体(例えば、ガス−液体流)を含む熱交換器では、熱交換器上の触媒層の温度は、冷却流体の温度によって決定することができる。固定圧力での2つの相からなる流れは、固定温度を有することがわかっている。図1は、2つの相からなる水−水蒸気流の圧力と温度との関係を示す。例えば、2つの相からなる流れの温度は、4.76バールで約150℃であり、15.6バールで約200℃である。冷却流体を固定温度に維持するためには、典型的には、冷却流体の背圧を固定し、冷却流体の流速を調節して2つの相からなる流れを維持する。この温度は、順に、触媒反応が起こる温度を決定する。いかなる理論にも縛られることは望まないが、触媒層と、熱交換器の熱伝達表面を通過する冷却流体との間に、温度勾配が生じると考えられる。流れのパターン、及び/または、触媒層の厚さに応じて、冷却流体と触媒層との温度差は、数度から100℃を超える範囲であり得る。冷却流体の温度を維持することによって、熱伝達表面上の触媒層の温度を有効に制御することができる。有効な温度制御が行われないと、熱伝達表面上で、意図した通りの反応が起こらないことがあある。発熱反応でさえ、過熱により触媒にダメージを与えることもある。
【0026】
いくつかの実施形態において、改質物の冷却器またはISCの熱伝達表面で改質物と酸化剤との酸化反応により発生した熱を用いて、(1)改質物の冷却器またはISCを加熱すること;(2)改質物の冷却器下流の反応帯域(例えばHTS反応)、または、ISC(例えばLTS反応帯域)で、より大量の熱が利用可能になるように、改質物を加熱すること;及び、(3)燃料改質反応に使用するための改質物の冷却器またはISC中で水蒸気を生産することが可能である。結果として、起動プロセス中に冷たい改質器を温めるのに必要な時間を、50%未満(例えば30%未満)に有意に短縮することができる。
【0027】
図2は、オートサーマル改質(ATR)プロセスの実施形態の概略図である。反応物の流入の流れは、空気10、燃料11及び水12を含む。空気流10aの一部と燃料11aの一部は、水蒸気14aと混合され、ATR反応帯域1に供給される。この反応物の混合物は、ATR触媒の存在下で反応し、約700℃〜約850℃の範囲温度で改質物13aを形成する。
【0028】
次に、改質物の流れ13aは、改質物の冷却器2aを含む帯域2に入る。改質物の冷却器2aの内部に冷却液12c(例えば水)が流れ、改質物の流れ13aと熱交換する。続いて、冷却液12cは改質物の冷却器2aを出て、改質物の流れ13aと混合され、さらに改質物の流れ13aを冷却し、改質物の流れ13a中で炭素比率の望ましい水蒸気が生じる。改質物の流れ13aは、典型的には、約350℃〜約450℃の範囲内の温度に冷却され、改質物の流れ13bとして改質物の冷却器2aを出る。
【0029】
その後、改質物13bは、HTS反応帯域3に入り、ここで、HTS触媒の存在下で水性ガスシフト反応が起こり、一酸化炭素と水を二酸化炭素と水素に変換する。この反応の間に、HTS反応帯域3に、必要に応じて追加の水を添加することができる。水性ガスシフト反応は熱を生じるため、HTS反応帯域3を出る改質物の流れ13cは、典型的には、改質物の流れ13bよりも高い温度を有する。
【0030】
LTS反応帯域5に入る前に、改質物の流れ13cは、ISC40を有する帯域4中で、適切な温度(典型的には約250℃〜約350℃の範囲)に冷却される。帯域4に、流量計30で制御された空気流10dが供給される。ISC40は、改質物の燃焼を容易にするための燃焼触媒または選択酸化触媒のような触媒の層で被覆されている。また、ISC40も、改質物の流れ13c中の硫黄の除去を容易にするために、脱硫触媒で被覆されていてもよい。ISC40の温度は、実質的に、出てきた冷却流体14dの温度によって決定され、この冷却流体14dは順に、その背圧と流速によって制御される。いくつかの実施形態において、冷却流体14dの温度は、典型的には、約100℃〜約180℃の範囲であり、これは、約1bara〜約10baraの水蒸気の圧力に対応する(図1を参照)。触媒の温度は、相当部分のISC40において、約110℃〜約230℃の範囲であり得る。この温度範囲は、触媒による燃焼、及び、PrOx反応、加えて、同様の反応温度を必要とするその他の触媒反応に適している。
【0031】
ISC40を出る改質物の流れ13dは、LTS反応帯域5に入り、そこで、LTS触媒の存在下でさらなる水性ガスシフト反応が起こり、さらに改質物中の一酸化炭素含量を減少させることができる。LTS反応帯域5に、この反応中に、必要に応じて追加の水を添加することができる。
【0032】
その後、LTS反応帯域5を出る改質物の流れ13eは、PrOx反応帯域6に入り、空気流10cと混合される。この混合物は、帯域6中で、PrOx触媒の存在下で反応し、ここで、水素と一酸化炭素が触媒により燃焼する。熱交換器6aは、PrOx帯域6に存在しており、これは、PrOx反応から発生した熱を冷却流体12e(例えば水)に移行させることができる。PrOx反応温度は、典型的には、約250℃またはそれ未満に制御される。熱交換器6aは、多種多様な設計から選択することができ、例えば、米国特許第6,641,625号で説明されているような、PrOx触媒ペレットに埋め込まれたコイル、または、米国出願番号2004/0037758で説明されているような、触媒を薄く被覆した熱交換器がある。
【0033】
次に、PrOx反応帯域6から、低濃度の一酸化炭素を含む改質物の流れ13fが出る。改質物の流れ13f中の一酸化炭素の濃度が、燃料電池で十分使用できるほど低い(例えば、100ppm未満)場合、改質物の流れ13fを、燃料電池スタック9に供給する。改質物の流れ13fが燃料電池の陽極を通過し、そこで、改質物中の水素が部分的に消費される。次に、陽極の排気ガス13gを燃焼チャンバー7に送り、そこで空気流10bと共に燃焼させることができる。一酸化炭素の濃度が予め決定された値を超える場合(例えば、100ppmより高い)、改質物の流れ13h全体を燃焼チャンバー7に送り、燃焼させる。燃焼によって生じた熱を用いて、燃焼チャンバー7内部の熱交換器7aで水蒸気を生産することができ、または、上記熱を用いて、ATR帯域1中の反応に追加の熱エネルギーを提供することができる。廃棄改質物を燃焼することに加えて、燃焼チャンバーは、燃料11b(例えば炭化水素)を燃焼するのにも用いることができる。
【0034】
図2は、水蒸気が、4ヶ所で、すなわち改質物の冷却器2a、ISC40、PrOx反応帯域6、及び、燃焼チャンバー7で生産可能であることを示す。後者の3つからの水蒸気は、水蒸気セパレーター8で合流させることができ、ここで、液状の水15を水蒸気から分離し、除去することができる。次に、飽和蒸気14aは、ATR反応帯域1に送ることができる。
【0035】
いくつかの実施形態において、水蒸気改質プロセスは、図2で説明したATRプロセスに類似した方法で行うこともできる。水蒸気改質プロセスと、ATRプロセスとの差としては、以下が挙げられる:(1)帯域1で、ATR触媒の代わりに水蒸気の改質触媒が用いられる点;(2)帯域1で、空気流10aを必要としない点;及び、(3)水蒸気改質を維持するのに必要な熱は、主として燃焼チャンバー7で供給される点。
【0036】
以下で、改質プロセスのための典型的な起動プロセスを説明する。一般的に、燃焼チャンバー7が最初に点火して、帯域1中の触媒を温めるための熱を発生し、水蒸気を生産する。帯域1中にある触媒がそこで適切な反応温度(例えば、ATR触媒の場合300℃より高い温度、または、水蒸気改質触媒の場合700℃より高い温度)に到達したらすぐに、帯域1に反応物の混合物を供給する。帯域1で生成した改質物は、帯域2を通過し、約350℃〜約450℃の範囲内の温度で帯域3に入り、帯域3中のHTS触媒に熱を逃す。その後、上記改質物は帯域4に入り、そこでその温度をさらに200℃より低温にすることができる。その結果として、LTS反応帯域5を温めるのに利用可能な熱エネルギーがほぼなくなる。PrOx帯域6において、改質物をPrOx触媒の存在下で燃焼させて帯域6を温めることができるように、空気10cを入れることができる。熱交換器6aに水12eを供給すれば、さらなる水蒸気を生産することができる。局所的な熱源がなくても、帯域4、LTS帯域5、及び、PrOx反応帯域6は、最も時間がかかるなかでも、適切な反応温度に到達することができる。
【0037】
低温での起動の初期に、燃焼チャンバー7中の熱交換器7aで、水蒸気生産が達成される。起動時に、低い起動力で改質をサポートするのに、少量の水蒸気が必要である。反応が始まったら、急速にパワーを高めることが望ましいが、これはより多くの水蒸気生産を要求する。熱交換器7a単独では、水蒸気に対する需要の増加を満足させることが不可能な場合がある。しかしながら、帯域4及び帯域6が温められてやっと、ISC40とPrOx熱交換器6aが水蒸気生産に寄与する。それゆえに、水蒸気生産能力が限定されることも、低温での起動における限定要素の1つである。
【0038】
以下に、起動時間を短縮する典型的な方策を説明する。改質物13cが帯域4に入ったら、帯域4に、流量計30で制御された予め決定された量の空気10dを導入し、燃焼触媒またはPrOx触媒で被覆されたISC40の外側を流れる改質物13cと混合する。空気10dの導入の前に、または、その直後に、ISC40に、水12dを供給することができる。改質物13cの触媒による燃焼は迅速であり、反応物の利用可能性によって制限されるため、空気10dの流速が、改質物の燃焼速度、加えて熱の発生速度を決定する。低温での起動中に、改質物の燃焼より発生した熱を最初に用いて、余分な熱が少しも水に移行しないうちに、ISC40を望ましい動作温度に温めることができる。これは、望ましいISC40の温度に達するまで、水12dの流速を制限することによって達成することができる。例えば、改質物の燃焼から10kWの熱エネルギーが生成する場合、そのうちかなりの部分が、ISC40を熱するのに最初に用いられる。この部分的なエネルギーは、ISC40が温まるにつれて水12dの流速を高めることによって減少させることができ、ISC40が予め決定された温度に到達したらゼロに減少させる。その後、10kWの熱エネルギーは全て、水蒸気を生産するのに用いられ、それにより、5baraで1秒あたり約4グラムの飽和蒸気14dを生産することができる。次に、改質器への燃料の投入量が増加するにつれて、水蒸気14dを用いて、水蒸気14aを補うことができ、それにより、より多くのパワーを生じさせることができる。このような方法は、低温での起動プロセス中に帯域4及び5の昇温を促進するための局所的な熱源を提供する。また、起動中により多くの水蒸気を生産することによって、より速いパワーの増加も提供する。
【0039】
図3は、燃料改質プロセスのその他の実施形態を説明しており、ここで、改質物の冷却器20、及び、ISC40はいずれも、触媒で被覆されている。この実施形態において、帯域2に、流量計31で制御された空気流10eを導入することができる。冷却流体12c(例えば水)は、空気流10eを用いた改質物の燃焼から発生した熱を吸収する。冷却流体12cは、冷却流体14fとして帯域2を出る。このようにして形成された冷却流体14fは水蒸気を含み、この水蒸気は、水蒸気14b(14d、及び、14eなど)、及び、14cと合流し、水蒸気セパレーター8に送られる。留意すべきことは、触媒は熱交換器上にも塗布してもよいことであり、この場合、熱交換器を出る冷却水は、改質物の流れに導入され、例えば図2で説明されている熱交換器2aである。図3で説明されている改質プロセスで用いられるその他の方法(例えば、温度制御方法または起動方法)は、図2に記載のプロセスのものと同様である。
【0040】
図3で説明されているプロセスにおいて、さらなる操作上の柔軟性が達成可能である。例えば、熱は、流量計30または31を調節することによって、熱交換器20及び40から、同時または別々に発生させることもできる(燃焼反応、または、PrOx反応のいずれかを介して)。2つの追加の熱源20及び40を用いて、熱の発生を容易に制御することができ、それにより、改質器中のより優れた熱のバランスが達成される。
【0041】
本発明の多数の実施形態を説明した。それにもかかわらず、当然ながら、本発明の本質及び範囲から逸脱することなく様々な改変が可能である。従って、その他の実施形態は、特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】飽和蒸気の温度と圧力の関係を示すプロットである。
【図2】触媒で被覆された熱交換器を用いたオートサーマル改質プロセスの実施形態の概略図である。
【図3】それぞれ触媒で被覆された2つの熱交換器を用いたオートサーマル改質プロセスのその他の実施形態の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質反応帯域;
流体連絡状態で、かつ改質反応帯域の下流にある、第一の熱交換器;
流体連絡状態で、かつ第一の熱交換器の下流にある、第一の水性ガスシフト反応帯域;及び、
流体連絡状態で、かつ第一の水性ガスシフト反応帯域の下流にある、第二の熱交換器;
を含み、ここで、第一及び第二の熱交換器の少なくとも一方の表面は、燃焼触媒、選択酸化触媒、及び、脱硫触媒からなる群より選択される触媒で被覆されている、燃料改質器。
【請求項2】
第一の熱交換器の表面が触媒で被覆されている、請求項1に記載の改質器。
【請求項3】
前記触媒は、燃焼触媒を含む、請求項2に記載の改質器。
【請求項4】
第二の熱交換器の表面が触媒で被覆されている、請求項1に記載の改質器。
【請求項5】
前記触媒は、燃焼触媒を含む、請求項4に記載の改質器。
【請求項6】
第一の熱交換器と第二の熱交換器の両方の表面が触媒で被覆されている、請求項1に記載の改質器。
【請求項7】
第一の水性ガスシフト反応帯域は、高温シフト反応帯域を含む、請求項1に記載の改質器。
【請求項8】
流体連絡状態で、かつ第二の熱交換器の下流に、第二の水性ガスシフト反応帯域をさらに含む、請求項1に記載の改質器。
【請求項9】
第二の水性ガスシフト反応帯域は、低温シフト反応帯域を含む請求項8に記載の改質器。
【請求項10】
流体連絡状態で、かつ第二の水性ガスシフト反応帯域の下流に、選択酸化反応帯域をさらに含む、請求項8に記載の改質器。
【請求項11】
前記改質反応帯域は、オートサーマル改質反応帯域を含む、請求項1に記載の改質器。
【請求項12】
表面が燃焼触媒、選択酸化触媒、及び、脱硫触媒からなる群より選択される触媒で被覆された熱交換器;及び、
該熱交換器の下流に選択酸化反応帯域、
を含む、燃料改質器。
【請求項13】
前記触媒は、燃焼触媒を含む、請求項12に記載の改質器。
【請求項14】
前記触媒は、選択酸化触媒を含む、請求項12に記載の改質器。
【請求項15】
前記触媒は、脱硫触媒を含む、請求項12に記載の改質器。
【請求項16】
前記熱交換器は、改質反応帯域と高温シフト反応帯域との間に配置される、請求項12に記載の改質器。
【請求項17】
前記熱交換器は、高温シフト反応帯域と低温シフト反応帯域との間に配置される、請求項12に記載の改質器。
【請求項18】
改質反応により生成した改質物と、第一の空気流とを反応させ、熱を発生すること、第一の燃焼触媒または第一の選択酸化触媒で被覆された外面を有する第一の熱交換器の外側に、該改質物と第一の空気流とを流すことにより、該改質物と第一の空気流との反応を容易にすることを含む方法。
【請求項19】
前記改質物と第一の空気流との反応により発生した熱を用いて、第一の熱交換器を予め決定された温度に加熱することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
第一の熱交換器の内部を所定速度で流れる第一の冷却流体に、前記改質物と第一の空気流との反応により発生した熱の少なくとも一部が移行する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
第一の熱交換器の予め決定された温度を維持するために、第一の冷却流体の流速を調節することをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
第一の熱交換器は、高温シフト反応帯域と低温シフト反応帯域との間に配置される、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記改質物と第一の空気流との反応により発生した熱を用いて、第一の熱交換器と低温シフト反応帯域を予め決定された温度に加熱することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第一の熱交換器は、改質反応帯域と高温シフト反応帯域との間に配置される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記改質物と第二の空気流とを反応させ、熱を発生させること、前記改質物と第二の空気流を、第二の燃焼触媒または第二の選択酸化触媒で被覆された外面を有する第二の熱交換器の外側に流すことによって、前記改質物と第二の空気流との反応を容易にすることをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記改質物と第二の空気流との反応により発生した熱を用いて、第二の熱交換器を予め決定された温度に加熱することをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
第二の熱交換器の内部を所定速度で流れる第二の冷却流体に、前記改質物と第二の空気流との反応により発生した熱の少なくとも一部が移行する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
第二の冷却流体の流速を調節して、第二の熱交換器の予め決定された温度を維持することをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
第二の熱交換器は、高温シフト反応帯域と低温シフト反応帯域との間に配置される、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記改質物と第二の空気流との反応により発生した熱を用いて、第二の熱交換器と低温シフト反応帯域を予め決定された温度に加熱することをさらに含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
改質器の起動時間を短縮する方法であって:
改質反応により生成した改質物と空気流とを反応させ、熱を発生させること、該改質物と空気流を、燃焼触媒または選択酸化触媒で被覆された外面を有する熱交換器の外側に流すことにより、該改質物と空気流との反応を容易にすること;及び、
該改質器の起動プロセス中に、該改質物と空気流との反応により発生した熱を用いて、該熱交換器を予め決定された温度に加熱すること、
を含む、上記方法。
【請求項32】
前記熱交換器は、改質反応帯域と高温シフト反応帯域との間に配置される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記改質物と空気流との反応により発生した熱を用いて、前記高温シフト反応帯域を予め決定された温度に加熱することをさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記熱交換器は、高温シフト反応帯域と低温シフト反応帯域との間に配置される、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記改質物と空気流との反応により発生した熱を用いて、前記低温シフト反応帯域を予め決定された温度に加熱することをさらに含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
脱硫触媒で被覆された外面を有する熱交換器の外側に改質反応により生成した改質物を流すことによって、改質物中の硫黄の除去を容易にすることを含む方法。
【請求項37】
前記熱交換器は、改質反応帯域と高温シフト反応帯域との間に配置される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記熱交換器は、高温シフト反応帯域と低温シフト反応帯域との間に配置される、請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−509873(P2008−509873A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525739(P2007−525739)
【出願日】平成17年8月8日(2005.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/028268
【国際公開番号】WO2007/008222
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(505163578)ヌヴェラ・フュエル・セルズ・インコーポレーテッド (16)
【Fターム(参考)】