説明

触媒の調製方法

【課題】 液相還元を行うにあたり、溶媒純度を低下させずに、且つ、高活性の銅含有水素化触媒を調製する方法、並びに効率的なアルコールの製造法の提供。
【解決手段】 溶媒の存在下に、水素ガス又は水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを供給して、50〜150℃の温度で銅含有水素化触媒前駆体の成形体を還元し銅含有水素化触媒を調製する方法であって、銅含有水素化触媒の平均還元速度が3.0重量%/時間以下となる様に還元を行う、銅含有水素化触媒の調製方法、並びにこの方法により銅含有水素化触媒を調製し、次いで得られた銅含有水素化触媒の存在下、有機カルボン酸又は有機カルボン酸エステルを水素で接触還元する、アルコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅含有水素化触媒の調製方法、並びにアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸あるいはカルボン酸エステルを水素化して脂肪族アルコールや脂環式アルコールあるいは芳香族アルコールを製造する方法については、1930年代以降数多くの方法が開示されてきている。ここでカルボン酸エステルの水素化、特に脂肪酸エステルの水素化に供される触媒としては主に銅系触媒が提案されている。
【0003】
これらの触媒の還元活性化条件は、使用形態、使用方法、反応方式等を考慮して決められる。例えば固定床反応方式を採用する場合、成形触媒の還元活性化には気相還元法が専ら採用されており、急速な触媒還元による局部過熱を回避すべく、工業的には数パーセントから数十パーセントの水素濃度を有する不活性ガスの流通下、所定の温度で注意深く触媒還元を行うのが一般的である。例えば、特許文献1ではこのような還元活性化に要する時間は4〜14日間もかかるとしており、アルコールの生産性に関する気相還元活性化法の不利益性を示している。
【0004】
このように固定床反応方式においては気相還元が一般的であるが、液相還元により銅含有触媒前駆体を活性化する方法も知られている。例えば特許文献2には銅含有水素化触媒前駆体の成形体を液相還元するに際し、50〜140℃の温度範囲内で液相還元を行うことが開示されている。この方法に従えば、気相還元法に比較して触媒活性及び選択性が著しく改良された銅含有水素化触媒の調製が可能である。ここで、特許文献2の実施例と比較例によると、還元を130℃で行う実施例1と、同200℃で行う比較例2とでは、選択性は、ほぼ同等ながら、触媒活性については、むしろ比較例2の方が、約10%高い結果となっている。つまり、高温で還元する方が触媒活性が向上するにも関わらず、還元温度に上限を定めなければならない理由は、特許文献2の段落0010及び0011に記載されている様に、あまり高温で液相還元を行うと、還元処理中に生成する水や脂肪酸によって触媒が劣化したり、エステルワックスや炭化水素などにより溶媒の純度が著しく低下する為である。
【0005】
この様に、溶媒の劣化を考慮すると、還元温度を上げる事、つまりはより高活性の触媒を調製することができなかったのである。
【0006】
一方、特許文献3には、同じく触媒活性及び選択性を高めることを目的に、銅含有水素化触媒の成形前駆体を、140℃の経過時点で酸化銅の少なくとも10重量%が還元されるように20〜140℃で1段目の液相還元を行い、その後140〜250℃で更に2段目の液相還元を行う2段還元法が開示されている。特許文献3の実施例と比較例によると、比較例1の気相還元法に対して、実施例の触媒は1.2〜1.5倍の相対活性を有しており、開示された液相還元法の優位性は明白である。しかしながら、いずれも最終的には、還元温度を170〜200℃に上げており、やはり溶媒純度の低下が起こっていることが推察される。
【0007】
この様に、従来法では、液相還元を行うにあたり、溶媒純度を低下させずに、且つ、高活性の触媒を調製する還元方法は依然として確立されていなかった。
【特許文献1】特開昭61−161146号公報
【特許文献2】特許第2990568号公報
【特許文献3】特許第3195357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、液相還元を行うにあたり、溶媒純度を低下させずに、且つ、高活性の銅含有水素化触媒を調製する方法、並びに効率的なアルコールの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、溶媒の存在下に、水素ガス又は水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを供給して、50〜150℃の温度で銅含有水素化触媒前駆体の成形体を還元し銅含有水素化触媒を調製する方法であって、銅含有水素化触媒の平均還元速度が3.0重量%/時間以下となる様に還元を行う、銅含有水素化触媒の調製方法、並びにこの方法により銅含有水素化触媒を調製し、次いで得られた銅含有水素化触媒の存在下、有機カルボン酸又は有機カルボン酸エステルを水素で接触還元する、アルコールの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、溶媒純度を低下させずに、且つ、高活性の銅含有水素化触媒を得ることができ、また本発明の方法により得られる銅含有水素化触媒を用いると、工業生産上非常に有利に高品質なアルコールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[銅含有水素化触媒の調製方法]
本発明に用いられる銅含有水素化触媒前駆体としては、銅−クロム系酸化物、銅−亜鉛系酸化物、銅−鉄系酸化物、銅−アルミ系酸化物あるいは銅−シリカ系酸化物等の触媒前駆体が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。これら銅含有水素化触媒前駆体の中では銅−亜鉛系酸化物が好ましく、具体的には特開平5−177140号公報段落0013〜0014に記載されているCuO−ZnO−[周期律表IIa族元素、IIIb族元素、ランタニド元素及びアクチニド元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物]等の触媒前駆体が挙げられる。
【0012】
本発明に用いられる銅含有水素化触媒前駆体全重量中の酸化銅含有量は、5〜98重量%が好ましく、20〜98重量%がより好ましい。なお、これらの銅含有水素化触媒前駆体を、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、シリカ−アルミナ等の担体に担持させたものを用いてもよい。この場合、ここでいう触媒前駆体全重量とは、これらの担体を含めた重量をいう。
【0013】
本発明においては、銅含有水素化触媒前駆体の成形体を用いる。成形体の形状は、固定床反応器の運転に支障のない範囲内において任意に決めることができる。通常は円柱状に打錠、あるいは押し出し成形された触媒前駆体、もしくは1〜20mmの球状粒子に成形された触媒前駆体が、容易にかつ安価に製造し得るという理由から好ましく使用される。
【0014】
本発明においては、溶媒の存在下に、水素ガス又は水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを供給して銅含有水素化触媒前駆体を還元するが、ここで用いる溶媒としては、酸化銅あるいは金属銅の溶出や不可逆的な吸着及び銅との化合物形成を実質上起こさないものが好ましく、窒素化合物/硫黄化合物/りん化合物等の触媒毒濃度が低いものが好ましい。このような溶媒としては、触媒の還元活性化処理条件下で液体状態を呈するものであり、グリセリド油、エステル、アルコール、炭化水素等が好ましい。更に好ましくは、本発明が主目的とするアルコール製造において、生成アルコールの品質に関して悪影響を与えないグリセリド油、脂肪酸エステル類、脂肪族アルコール類、炭化水素類等が挙げられ、これらは単独であるいは2種以上を併用して使用される。具体的にはグリセリド油としては、炭素数が6〜22の脂肪酸から構成されるモノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドが挙げられる。脂肪酸エステル類としては、炭素数が2〜22の少なくとも1個以上の脂肪酸基を有する脂肪酸と炭素数が1〜22の脂肪族アルコールとのエステルが挙げられる。脂肪族アルコール類としては、炭素数が2〜22で、少なくとも1個の水酸基を有するとともに、触媒還元活性化条件下では液状を呈する脂肪族アルコールが挙げられる。炭化水素類としては、流動パラフィン、環状炭化水素等が挙げられる。
【0015】
但し、溶媒に由来する残存不純物が生成アルコールの品質に重大な影響を与えない限りにおいて、他の溶媒も使用できる。このような他の溶媒として、触媒の還元活性化条件下において液状を呈する、エーテル、アルデヒド、ケトン等を挙げることができる。更に、前記のエステル及びアルコールを含め、これらの有機化合物のアルキル基部分は直鎖、分岐鎖、脂環あるいは芳香族環のいずれか1種以上から成る。
【0016】
本発明の方法において、溶媒の通液速度は、溶媒による触媒の濡れ状態を均一とし、触媒の一部が気相還元されるのを防止する観点から、液空間速度で0.1〔Hr-1〕以上が好ましい。また、経済的な観点から、5.0〔Hr-1〕以下が好ましく、3.0〔Hr-1〕以下がより好ましい。
【0017】
本発明の方法においては、還元剤として、水素ガス又は水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用いるが、ここで用いられる不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、メタン等のガスが挙げられる。不活性ガスを用いることにより、混合ガス中の水素濃度を変更することで、還元速度を制御することができる。更に、不活性ガスによる水素濃度の希釈効果により、還元初期における触媒層入口付近での急激な還元反応の進行が抑制され、高活性の触媒を調製することができるという液相還元の優位性がより顕著に発現する。よって、生産性の観点からは、混合ガス中の水素濃度は、2容量%以上が好ましく、10容量%以上がより好ましく、20容量%以上が更に好ましく、25容量%以上が特に好ましい。一方、より高活性の触媒を調製する観点からは、混合ガス中の水素濃度は、100容量%以下が好ましく、95容量%以下がより好ましく、90容量%以下が更に好ましく、80容量%以下が更により好ましく、60容量%以下が特に好ましい。また、還元活性化に要する時間を考慮した場合、水素分圧として1気圧以上になるような水素濃度に設定するのが望ましい。
【0018】
ガスの供給は、溶媒の存在下、常圧ないし30MPa(300気圧)の圧力条件下で行うのが好ましい。30MPaを越えても、本発明の効果は得られるものの、設備的な負荷が大きくなるため、経済的な観点から30MPa以下が好ましい。
【0019】
またガスの供給は、良好な除熱効果を得、還元生成水を効率的に除去して、十分な触媒性能を得る観点から、ガス空間速度30〔Hr-1〕以上が好ましく、50〔Hr-1〕以上がより好ましい。また設備的な面から、ガス空間速度10000〔Hr-1〕以下が好ましく、5000〔Hr-1〕以下がより好ましい。
【0020】
触媒層入口へ溶媒を導入する際の温度、及びガスを導入する際の温度は、触媒還元を極力温和な条件で開始できるように、通常20〜60℃が好ましく、その後、還元活性化温度まで昇温していく。本発明において還元活性化温度は、十分な触媒還元速度を得る観点から、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。また、エステルやアルコール等の溶媒の品質劣化を防止する観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下が更に好ましい。例えば、アルコールを溶媒に用いて150℃以下の温度で還元活性化を行うと、ワックスエステル、アルデヒド等が生成せず、アルコール純度が低下するという大きな問題が発生しない。
【0021】
尚、本明細書において還元活性化温度とは、実質的に液相還元に最も寄与した温度をいう。例えば触媒還元を極力温和な条件で開始する観点から、前記のように20〜60℃で溶媒や水素ガス等を導入し昇温させていくが、この昇温過程においても還元活性化の反応は少しは進む。しかし、主として50〜150℃の温度域で最も還元活性化が進むため、例えば130℃に一定時間保持して反応させた場合には、「130℃で液相還元を行った」と表現する。
【0022】
また、触媒前駆体の液相還元は、主として一定温度で行われてもよく、昇温中に行われてもよく、それらの両者を含んでいてもよい。また昇温は連続的もしくは不連続的に行ってもよく、その昇温速度も一定である必要はない。従って、途中で一定温度に保持したり昇温速度を変えながら液相還元を行ってもなんら問題はない。
【0023】
なお、本発明において、触媒の還元率、及び平均還元速度は、次の様に求められる。
【0024】
還元率=還元で生成した水の総量/触媒前駆体の理論生成還元水量[重量%]
平均還元速度=還元水量100重量%/還元に要した時間[重量%/時間]
還元に要した時間=昇温開始から還元終了までに要した時間
ここで、触媒前駆体の理論生成還元水量とは、触媒前駆体の酸化金属がすべて金属に還元された場合に生成する還元水の総量である。
【0025】
還元で生成した水の量は、経時的に反応器入口と出口の溶媒水分濃度をカールフィッシャー法など既知の測定方法で測定し、その差分から算出することができる。本発明では、還元で生成した水の量が0.1重量%以下となった時点で還元終了とみなす。また、還元操作開始からの総量が還元によって生成した水の総量となる。この様にして求められる、還元率の経時変化データより、特定区間の還元速度や還元の開始から終了までの平均還元速度を算出することができる。本発明では、平均還元速度を3.0重量%/時間以下に制御して還元を行うことにより、溶媒純度が低下しない比較的低い温度においても、高活性の銅含有水素化触媒を得る事ができる。更には平均還元速度を2.5重量%/時間以下、好ましくは2.2重量%/時間以下、より好ましくは2.0重量%/時間以下とすることが、銅含有水素化触媒の高活性の観点で望ましい。一方、平均還元速度の下限には特に制約は無いが、余りに低い場合には還元操作が長くなり、高温設備の維持や使用する溶媒量の増加などの観点で経済的ではない。また、大量の溶媒を使用すると、溶媒中の極微量の成分が活性点に作用し、触媒活性を低下させる恐れもある。以上の観点より、平均還元速度は、0.5重量%/時間以上、好ましくは0.8重量%/時間以上、より好ましくは1.0重量%/時間以上、更に好ましくは1.2重量%/時間以上とすることが望ましい。
【0026】
銅を含む触媒の還元においては、酸化銅1モル当たり20kcalの還元熱が生じるため、触媒容積が1m3以上の触媒層を有するパイロットや実設備のスケールの装置では触媒層の還元活性化温度が不均一になり易い。還元銅の熱安定性は極めて悪いので、触媒層内の局所的な還元活性化温度も重要である。このため銅含有水素化触媒前駆体の成形体を還元するに際しては、高活性の触媒を得る観点から、還元過程での触媒の還元率を逐次求め、還元速度を3.0重量%/時間以下に制御することが好ましい。また、急激な還元反応の進行や還元熱の蓄積による触媒性能の劣化を抑制する目的で、触媒層入口と触媒層出口の温度差を40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは20℃以下に制御することが好ましい。
【0027】
このように還元速度を制御するためには、還元で生成する水量、即ち触媒層出口での水分量を検出して、触媒層入口のガス量、触媒層入口の水素ガス濃度、触媒層入口のガス温度、溶媒量、溶媒温度、および還元装置のジャケット温度より選ばれる1又は2以上の操作因子を調整することができる。この内、触媒層入口のガス温度を調整して還元速度を制御する方法が、操作簡便性、応答性の観点で好ましい。
【0028】
本発明の方法における液相還元の時間は、上記の温度や水素分圧などの条件により異なるが、還元活性化を十分に進行させる観点から。30時間以上が好ましく、40時間以上がより好ましく、50時間以上が更に好ましい。また経済的観点から、130時間以下が好ましい。
【0029】
本発明の方法において、昇温速度は、触媒前駆体の還元活性化工程に費やす時間が長くなるのを抑制する観点から、0.5℃/Hr以上が好ましく、1℃/Hr以上がより好ましく、5℃/Hr以上が更に好ましい。また急速な触媒還元に伴う還元熱の蓄積により急激な温度上昇が起こるのを防止し、還元反応を制御し易くする観点から、40℃/Hr以下が好ましく、30℃/Hr以下がより好ましく、20℃/Hr以下が更に好ましい。
【0030】
本発明の調製法により得られる銅含有水素化触媒は、固定床連続反応方式により主にアルコールの製造に用いられる他、アルデヒド基あるいはケトン基の水素化、オレフィン類の水素化、ニトロ基の水素化等の各種水素化反応に用いることができる。従って、銅含有水素化触媒前駆体の液相還元を固定床連続反応用の反応器内で行えば、得られる活性化触媒をそのままアルコール等の製造に使用することができ、好ましい。
【0031】
[アルコールの製造方法]
本発明のアルコールの製造方法は、上記のような本発明の調製方法で得られた銅含有水素化触媒の存在下、有機カルボン酸又は有機カルボン酸エステルを水素で接触還元する方法である。
【0032】
原料となる有機カルボン酸としては、ヤシ油、パーム核油、パーム油、牛脂、豚脂等から得られる動植物系の天然の脂肪酸や、合成系脂肪酸等が挙げられ、有機カルボン酸エステルとしては、油脂または脂肪酸エステルが望ましい。油脂としては、炭素数が6〜22の飽和あるいは不飽和脂肪酸から構成されるモノグリセリド、ジグリセリド及びトリグリセリドが、また脂肪酸エステルとしては炭素数が1以上でかつエステル基を1以上含む直鎖、分岐鎖あるいは不飽和の脂肪酸エステルが挙げられる。このような脂肪酸エステルとしては、例えば蟻酸エステル、酢酸エステル、カプロン酸エステル、カプリル酸エステル、カプリン酸エステル、ウンデセン酸エステル、ラウリン酸エステル、ミリスチン酸エステル、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、イソステアリン酸エステル、オレイン酸エステル、アラキン酸エステル、ベヘン酸エステル、シュウ酸エステル、マレイン酸エステル、アジピン酸エステル、セバシン酸エステル等を挙げることができる。ここで、脂肪酸エステルを構成するアルコール部は特に限定されるものではないが、炭素数が1〜22の脂肪族アルコールから構成されるのが好ましい。また本発明において水素化に供されるエステルは、脂肪酸エステルに限定されるものではなく、シクロヘキサンカルボン酸エステル、安息香酸エステル、フタル酸エステルなどの脂環式カルボン酸エステルや芳香族カルボン酸エステル及びその誘導体であっても何等問題がない。
【0033】
本発明では、上記の有機カルボン酸又は有機カルボン酸エステルを水素化するに際し、固定床連続反応方式を採用するのが好ましい。水素化反応は溶媒を使用することも可能であるが、生産性を考慮した場合には無溶媒で反応を行うのが望ましい。溶媒を用いる場合、アルコール、ジオキサンあるいはパラフィン等の反応に悪影響を与えないものが選ばれる。反応温度は130〜300℃が好ましく、160〜250℃がより好ましい。反応圧力は0.0098〜29MPa(0.1〜300kg/cm2)が好ましい。また、原料供給の液空間速度は反応条件に応じて任意に決定されるが、生産性あるいは反応性を考慮した場合、0.2〜5.0〔Hr-1〕の範囲が好ましい。
【実施例】
【0034】
実施例1
まず、特開平5−177140号公報の実施例5記載の方法に従って、TiO2上にCuO、ZnO、BaOを担持させた触媒前駆体を得た。得られた前駆体粉末を円柱状に打錠成形した後、400℃で2時間焼成することにより、下記のような重量組成を有する直径3mm、高さ3mmの成形触媒前駆体を得た。
【0035】
CuO:ZnO:BaO:TiO2=33.0%:3.7%:3.3%:60.0%
かくして得られた500ccの成形触媒前駆体を固定床高圧流通反応器に充填した後、液相還元を以下の通り行った。40〜50℃の温度下、75NL/Hrのガス流速で、水素濃度27容量%、窒素濃度73容量%の混合ガスを導入し、次いで250cc/Hrの流速でラウリルアルコール(花王(株)製、商品名:カルコール−20、純度=99.8%)を通液した。液、ガスの流速が安定した後、20kg/cm2 (ゲージ圧)の圧力下、10℃/Hrの速度で還元温度の130℃まで昇温し、その後、温度一定に保持した。カールフィッシャー法により、経時的に反応器入口と出口の溶媒水分濃度を測定し、還元で生成した水の量が0.1重量%以下となった時点で還元終了とした。昇温開始から還元終了までに要した時間、即ち還元時間は60時間、平均還元速度は1.7重量%/時間であった。
【0036】
触媒前駆体の還元活性化が終了した後、ラウリルアルコールを炭素数が8〜18の鎖長分布を有する脂肪酸メチルエステル(ケン化価=244)に切り換え、反応温度230℃、反応圧力200kg/cm2 、液空間速度1.0(Hr-1)、脂肪酸メチルエステルに対し25モル倍の水素流通条件下、水素化反応を行った。触媒前駆体の還元活性化終了時に回収したラウリルアルコールの純度低下率をガスクロマトグラフにより求めた結果、0.1%以下であった。また、触媒活性を、成形触媒単位容積当たりの1次反応速度定数として求めた。得られた結果を表1に示す。
【0037】
本例では、溶媒純度を低下させずに高い触媒活性を有する触媒を調製することができ、この触媒を用いることにより、効率的にアルコールを製造することが可能であった。また、水素化反応で得られたアルコールも高品質なものであった。
【0038】
比較例1
実施例1に記載の成形触媒前駆体を、実施例1に記載の方法に従って固定床高圧流通反応器に充填した後、窒素ガスで希釈した1.3〜5.0容量%濃度の水素を用い、15kg/cm2(ゲージ圧)の圧力のもと、250(Hr-1)のガス空間速度で窒素/水素の混合ガスを流通しながら、130℃で157時間気相による還元活性化処理を行った。かくして得られた活性化触媒を用い、実施例1に記載の反応条件に従って脂肪酸メチルエステルの水素化反応を行った。得られた結果を表1に示す。
【0039】
本例では、水素化反応で得られたアルコールの品質は実施例1と同等であったが、触媒の活性が低いため、アルコールの生産性は最も劣る結果となった。
【0040】
実施例2〜4、比較例2〜3
触媒還元活性化条件を、表1に示すように変えた以外は実施例1と同様にして、触媒の還元活性化及びアルコールの製造を行った。これらの結果を表1に示す。
【0041】
実施例2〜4では、溶媒純度を低下させずに高い触媒活性を有する触媒を調製することができたが、比較例2〜3では溶媒純度が低下し、また触媒活性も実施例に比較して劣っていた。またいずれの場合も水素化反応で得られたアルコールの品質は実施例1と同等であったが、比較例については触媒の活性が低いため、アルコールの生産性が劣る結果となった。
【0042】
比較例4
触媒還元活性化の昇温条件を10℃/Hrの速度で昇温し、140℃で30時間保持した後、10℃/Hrで昇温し、200℃で6時間保持する以外は実施例1と同様にして触媒の還元活性化及びアルコールの製造を行った。得られた結果を表1に示す。
【0043】
本例では、水素化反応で得られたアルコールの品質は実施例1と同等であったが、還元活性化の終了時に回収したラウリルアルコールの純度が低く、歩留まりが劣る結果となった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒の存在下に、水素ガス又は水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを供給して、50〜150℃の温度で銅含有水素化触媒前駆体の成形体を還元し銅含有水素化触媒を調製する方法であって、銅含有水素化触媒の平均還元速度が3.0重量%/時間以下となる様に還元を行う、銅含有水素化触媒の調製方法。
【請求項2】
溶媒が、グリセリド油、脂肪酸エステル類、脂肪族アルコール類及び炭化水素類からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載の調製方法。
【請求項3】
銅含有水素化触媒前駆体が、銅−クロム系酸化物、銅−亜鉛系酸化物、銅−鉄系酸化物、銅−アルミ系酸化物及び銅−シリカ系酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2記載の調製方法。
【請求項4】
触媒前駆体全重量中の酸化銅含有量が5〜98重量%である、請求項1〜3いずれかに記載の調製方法。
【請求項5】
還元に用いるガス中の水素濃度が2〜100容量%である、請求項1〜4いずれかに記載の調製方法。
【請求項6】
銅含有水素化触媒の平均還元速度を還元生成水量から求める、請求項1〜5いずれかに記載の調製方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の方法により銅含有水素化触媒を調製し、次いで得られた銅含有水素化触媒の存在下、有機カルボン酸又は有機カルボン酸エステルを水素で接触還元する、アルコールの製造方法。

【公開番号】特開2010−64018(P2010−64018A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233586(P2008−233586)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】