説明

触媒コーティングされた膜の製造

触媒コーティングされた膜の製造方法が、少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、第1および第2表面を有するポリマー膜と第1の寸法的に安定な暫定基板とを含む要素に適用する工程であって、コーティング組成物をポリマー膜の第1表面の少なくとも一部に適用する工程と、電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第1電極を要素のポリマー膜上に形成する工程と、少なくとも1つの第1電極に、第2の寸法的に安定な暫定基板を適用する工程と、第1の寸法的に安定な暫定基板を、ポリマー膜から除去する工程と、少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、ポリマー膜の第2表面の少なくとも一部に適用する工程と、ポリマー膜上の電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第2電極、ポリマー膜、少なくとも1つの第1電極、および第2の寸法的に安定な暫定基板を含むサンドイッチを形成する工程と、により提供される。次に、第2の寸法的に安定な暫定基板を除去して、第1および第2電極の間にサンドイッチされたポリマー膜を有する触媒コーティングされた膜を形成しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学電池で使用するための触媒コーティングされた膜、特に燃料電池で使用するための触媒コーティングされた膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電気化学電池が、固体ポリマー電解質(「SPE」)電池と言われることが多い電池のカテゴリに分類される。SPE電池は通常、陽イオン交換ポリマーの膜を用いる。これは、アノードとカソードとの間の物理的なセパレータとして機能する一方で、電解質としても機能する。SPE電池は、電気化学製品を製造するための電解質電池として動作させることもできるし、または燃料電池として動作させても良い。
【0003】
燃料電池は、反応物、すなわち燃料および酸化剤流体のストリームを変換して、電力および反応生成物を出力する電気化学電池である。燃料電池では幅広い反応物を用いることができ、このような反応物は、気体のストリームで送付しても良いし、または液体のストリームで送付しても良い。たとえば燃料のストリームは、実質的に純粋な水素ガス、気体水素含有の改質油ストリーム、または水性アルコール、たとえば直接メタノール型燃料電池(DMFC)におけるメタノールであっても良い。たとえば酸化剤は、実質的に純粋な酸素または希薄酸素ストリームたとえば空気であっても良い。
【0004】
SPE燃料電池では、固体ポリマー電解質膜は通常、酸の形態の過フッ素化されたスルホン酸ポリマー膜である。このような燃料電池は多くの場合、陽子交換膜(「PEM」)燃料電池と言われる。膜は、アノードとカソードとの間に配置され、これらと接触状態にある。アノードおよびカソードにおける電気触媒によって通常、所望の電気化学反応が誘発される。電気触媒は、たとえばメタル・ブラック、基板上にサブストラティードされた合金または金属触媒、たとえばカーボン上のプラチナであり得る。またSPE燃料電池は、各電極と電気的に接触している多孔性導電性シート材料も含んでいる。このシート材料によって、電極への反応物の拡散が可能になる。気体反応物を用いる燃料電池では、この多孔性導電性シート材料は、しばしばガス拡散層と言われ、炭素繊維紙または炭素布によって好適に得られる。膜、アノードおよびカソード、各電極に対するガス拡散層を含むアセンブリはしばしば、膜電極アセンブリ(「MEA」)と言われる。導電性材料から形成され、反応物に対する流れ場を与える両極板が、隣接する多くのMEA間に配置される。多くのMEAおよび両極板がこのようにアセンブルされて、燃料電池スタックが得られる。
【0005】
電極がSPE燃料電池内で効果的に機能するためには、効果的な電気触媒サイトを設けなければならない。効果的な電気触媒サイトには、いくつかの望ましい特性がある。(1)反応物がサイトに接近することができる。(2)サイトは、ガス拡散層に電気的に接続されている。および(3)サイトはイオンにより燃料電池電解質に接続されている。イオン導電性を向上させるために、イオン交換ポリマーを電極内に取り入れることが多い。加えて、イオン交換ポリマーを電極内に取り入れることは、液体供給燃料に対しても有益な効果を有することができる。たとえば直接メタノール型燃料電池では、アノード内にイオン交換ポリマーがあると、液体供給ストリームによってアノードがより濡れやすくなり、電気触媒サイトへの反応物の接近が向上する。
【0006】
気体供給燃料を用いるいくつかの燃料電池に対する電極では、ポリテトラフルオロエチレン(「PTFE」)などの疎水性成分が通常使用され、ある程度、電極が濡れにくくなって「溢れ」が防止されている。溢れとは一般的に、反応生成物として形成される水によって電極内の孔が充満するために、電極を通る気体反応物の流れが妨げられる状況を指す。
【0007】
SPE燃料電池用電極形成に対して、基本的に2つのアプローチが取られている。一方は、電極をガス拡散層上に形成することを、好適な液体媒体中の電気触媒と分散されたPTFE粒子とを、ガス拡散層、たとえば炭素繊維紙上にコーティングすることによって行なう。次に、電極が取り付けられた炭素繊維紙と膜とを、電極が膜と接触状態になるように加圧することによってアセンブルして、MEAにする。このタイプのMEAでは、電極と膜との間に望ましいイオン接触を確立することは、密接していないために難しい。その結果、界面抵抗が、望ましい値よりも高くなる場合がある。電極形成に対する他方のメイン・アプローチは、電極を膜表面上に形成する。このように形成された電極を有する膜はしばしば、触媒コーティングされた膜(「CCM」)と言われる。CCMを用いることで、ガス拡散層上に電極を形成する場合よりも性能を向上させることができるが、CCMの方が通常は製造が難しい。
【0008】
CCMを製造するために、様々な製造方法が開発されている。これらの方法の多くは、電気触媒と、イオン交換ポリマーと、任意にPTFE分散物などの他の材料とを含む電気触媒コーティング・スラリを用いている。膜それ自体内および電気触媒コーティング溶液内のイオン交換ポリマーは、加水分解されたイオン交換ポリマーとすることもできるし、または非加水分解のイオン交換ポリマーとすることもできる(過フッ素化されたスルホン酸ポリマーを用いる場合はスルホニルフルオリドの形態)。後者の場合、ポリマーを、製造方法の間に加水分解しなければならない。膜内の非加水分解ポリマー、電気触媒組成物、または両方を用いる技術は、優れたCCMを製造することができるが、商業生産に適用することは難しい。というのは、加水分解工程とその後の洗浄工程とが、電極を適用した後に必要だからである。ある技術では、「写し絵」を最初に形成する。これは、電気触媒コーティング溶液を他の基板上に堆積させ、溶媒を除去した後に、結果として生じる写し絵を、膜に移して付着させることによって行なう。これらの技術も良好な結果が得られるが、写し絵の機械的な取り扱いおよび写し絵の膜上への配置は、大量生産操業で行なうのが難しい。
【0009】
CCM製造に対して開発されている種々の技術として、加水分解された形態のイオン交換ポリマーを含む電気触媒コーティング溶液を、やはり加水分解された形態の膜に対して直接適用するものがある。しかしこの既知の方法もやはり、大量生産操業で用いるのは難しい。スプレイング、ペインティング、パッチ・コーティング、およびスクリーン印刷などの既知のコーティング技術は通常、遅くて、貴重な触媒を失う可能性があり、比較的厚いコーティングを適用する必要がある。厚いコーティングは、多量の溶媒を含んでおり、膜の膨張を招く。膨張によって膜が、たわみ、落ち、または垂れる結果、膜の寸法制御が失われ、プロセシング中の取り扱いが難しくなり、電極形成が不十分になる。
【0010】
大量生産方法に対するこのような問題を打開するために、種々の試みがなされている。たとえば、米国特許公報(特許文献1)では、エチレンまたはプロピレングリコールなどの液体媒体中の電気触媒を含むスラリを、膜上へスプレイする一方で、膜をトラクタ・クランプ・フィード装置内に保持している。この特許では、液体媒体による膜の事前処理をスプレイ作業の前に行なって、膨張の問題を軽減することを教示している。しかしこのような事前処理工程を用いる方法は複雑であり、制御が難しく、乾燥作業において多量の媒体を除去する必要がある。このような乾燥作業は通常、遅くて、適用される環境要求事項に適合するために多量の媒体を廃棄または再生利用する必要がある。
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,074,692号明細書
【特許文献2】米国特許第3,282,875号明細書
【特許文献3】米国特許第4,358,545号明細書
【特許文献4】米国特許第4,940,525号明細書
【特許文献5】米国特許第3,282,875号明細書
【特許文献6】米国特許第5,547,551号明細書
【特許文献7】米国特許第6,110,333号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、触媒コーティングされた膜の大量生産に適し、従来技術の方法に付随する問題を回避する方法が必要とされている。さらに、加水分解された形態の膜への電気触媒コーティング組成物の直接適用に適し、既知の方法に付随する膨張の問題を回避し、複雑な事前処理または後処理方法工程を必要としない方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様においては、本発明によって、触媒コーティングされた膜の製造方法であって、
(a)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、第1および第2表面を有するポリマー膜と第1の寸法的に安定な暫定基板とを含む要素に適用する工程であって、コーティング組成物をポリマー膜の第1表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(b)電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第1電極を要素のポリマー膜上に形成する工程と、
(c)工程(b)で形成された少なくとも1つの第1電極に、第2の寸法的に安定な暫定基板を適用する工程と、
(d)第1の寸法的に安定な暫定基板を、ポリマー膜から除去する工程と、
(e)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、ポリマー膜の第2表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(f)ポリマー膜上の電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第2電極、ポリマー膜、少なくとも1つの第1電極、および第2の寸法的に安定な暫定基板を含むサンドイッチを形成する工程と、を含むことを特徴とする方法が提供される。第1の態様においては、本発明の方法は、
(g)第2の寸法的に安定な暫定基板を除去して、少なくとも1つの第1および第2電極の間にサンドイッチされたポリマー膜を含む触媒コーティングされた膜を形成する工程もさらに含む。
【0014】
第1の態様においては、本発明によって、少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を適用することをフレキソ印刷によって行なう方法も提供される。
【0015】
第1の態様においては、本発明は、少なくとも1種の非電気触媒コーティング組成物を適用して、電極層によって覆われる基板の同じ領域の少なくとも一部上に、非電気触媒層を形成することもさらに含む。
【0016】
第2の態様においては、本発明によって、電気触媒コーティング組成物の適用および乾燥工程を繰り返して、基板表面の同じ部分を覆う複数の電極層を形成することが提供される。必要に応じて、方法は、組成が変化する複数の電極層を設けることが有利である。加えてまたはその代わりに、電気触媒コーティング組成物の適用によって、好ましくは、電極層にわたって電気触媒の所定の不均一分布を有する電極層を設けても良い。
【0017】
第3の態様においては、本発明によって、
(a)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、第1および第2表面を有するポリマー膜と第1の寸法的に安定な暫定基板とを含む要素に適用する工程であって、コーティング組成物をポリマー膜の第1表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(b)電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第1電極を要素のポリマー膜上に形成する工程と、
(c)工程(b)で形成された少なくとも1つの第1電極に、第2の寸法的に安定な暫定基板を適用する工程と、
(d)第1の寸法的に安定な暫定基板を、ポリマー膜から除去する工程と、
(e)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、ポリマー膜の第2表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(f)ポリマー膜上の電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第2電極、ポリマー膜、少なくとも1つの第1電極、および第2の寸法的に安定な暫定基板を含むサンドイッチを形成する工程と、を含む方法によって作製される触媒コーティングされた膜を含む燃料電池が提供される。
【0018】
本発明による方法は、触媒コーティングされた膜の大量生産に非常に良く適している。電気触媒コーティング組成物を適用するためにどんなタイプの印刷方法を用いても良いが、フレキソ印刷によって、薄くて電気触媒組成物が良好に分布する層が得られ、また多量の溶媒を用いるコーティング技術に付随する問題が回避される。あるいはパッド印刷を用いて、電気触媒コーティング組成物を選択的に適用しても良い。本方法は、非常に多目的であり、広範囲な形状およびパターンの何れかにおいて電極を設けることができ、また必要に応じて、電極にわたって、電極の厚みを通して、または両方において、量または組成が変化する電気触媒または他の電極材料を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明によって、触媒コーティングされた膜の製造方法であって、たとえばフレキソ印刷またはパッド、スクリーン印刷技術などを用いて、電気触媒コーティング組成物を、第1表面および第2表面を有する膜と第1の寸法的に安定な暫定基板とを含む要素上に適用する方法が提供される。コーティングを、膜の第1表面に適用する。乾燥させて第1電極を膜上に形成した後、乾燥させた第1電極上に第2の寸法的に安定な暫定基板を張り付ける。次に、第1の寸法的に安定な暫定基板を除去する。この後、電気触媒コーティング組成物を膜の第2表面上に適用し、乾燥させて、ポリマー膜の両側に第1および第2電極を含むサンドイッチを形成する。第1電極は、第2の寸法的に安定な暫定基板によって保護されている。次に、この基板を除去して、燃料電池を作製する際に有用である触媒コーティングされた膜を形成しても良い。
【0020】
(電気触媒コーティング組成物)
本発明の方法では、好ましくはフレキソ印刷またはパッド印刷方法で使用することに適合された電気触媒コーティング組成物を用いる。組成物は、電気触媒とイオン交換ポリマーとを、好適な液体媒体中に含んでいる。イオン交換ポリマーは、結果として生じる電極中で複数の機能を行なっても良い。これはたとえば、電気触媒に対する結合剤として機能すること、および触媒サイトに対するイオン導電性を向上させることなどである。任意に、他の成分が組成物中に含まれる。たとえば分散形態のPTFEである。
【0021】
組成物中の電気触媒は、CCM用の特定の意図される応用例に基づいて選択する。本発明で用いることに適する電気触媒としては、1つまたは複数の白金族金属たとえばプラチナ、ルテニウム、ロジウム、およびイリジウムと、これらの導電性酸化物と、これらの導電性の還元された酸化物とが挙げられる。触媒は支持しても良いしまたは支持しなくても良い。直接メタノール型燃料電池に対して、(Pt−Ru)Ox電気触媒が有用であることが分かっている。水素燃料電池に対して特に好ましい触媒組成物の1つは、カーボン上のプラチナ、たとえば60重量%カーボン、40重量%プラチナであり、これはイー・テック(E−Tek)社(ナティック、マサチューセッツ州(Natick,MA))から入手できる。これらの組成物は、本明細書で説明される手順に従って使用したときに、1μm未満のサイズの粒子を電極中に発生させた。
【0022】
電気触媒コーティング組成物中で使用されるイオン交換ポリマーは、電気触媒粒子に対する結合剤として機能するだけでなく、基板(たとえば膜)への電極の固定を助ける働きもする。したがって組成物中のイオン交換ポリマーは、膜中のイオン交換ポリマーと共存できることが好ましい。最も好ましくは、組成物中の交換ポリマーは膜中のイオン交換ポリマーと同じタイプである。
【0023】
本発明により使用するためのイオン交換ポリマーは好ましくは、高度にフッ素化されたイオン交換ポリマーである。「高度にフッ素化された」とは、ポリマー中の一価原子の総数の少なくとも90%がフッ素原子であることを意味する。最も好ましくは、ポリマーは過フッ素化されている。また燃料電池内で用いる場合、ポリマーはスルホン酸イオン交換基を有することが好ましい。用語「スルホン酸イオン交換基」は、スルホン酸基またはスルホン酸基の塩の何れか、好ましくはアルカリ金属またはアンモニウム塩を指すことが意図されている。燃料電池の場合と同様に陽子交換用にポリマーが使用される用途の場合には、スルホン酸の形態のポリマーが好ましい。電気触媒コーティング組成物中のポリマーが、使用時にスルホン酸の形態でない場合には、ポリマーを酸の形態に変換するための後処理酸交換工程が、使用前に必要となる。
【0024】
好ましくは、使用されるイオン交換ポリマーは、ポリマーの主鎖と、主鎖に取り付けられた反復する側鎖とを含み、側鎖はイオン交換基を保持する。考えられるポリマーとしては、ホモポリマー、または2つ以上のモノマーからなるコポリマーが挙げられる。コポリマーが形成される1つのモノマーは通常、非機能的で、ポリマー主鎖用のカーボン原子を与える。第2のモノマーは、ポリマー主鎖用のカーボン原子を与えるとともに、陽イオン交換基またはその前駆体を保持する側鎖を与える。前駆体は、たとえばスルホニルフルオリド(−SO2F)などのスルホニルハライド基であり、これはその後に加水分解してスルホン酸イオン交換基にすることができる。たとえば、第1のフッ素化ビニルモノマーととともに、スルホニルフルオリド基(−SO2F)を有する第2のフッ素化ビニルモノマーとからなるコポリマーを用いることができる。考えられる第1のモノマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン、ビニルフルオリド、ビニリジンフルオリド、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、およびこれらの混合物が挙げられる。考えられる第2のモノマーとしては、スルホン酸イオン交換基または前駆体基を有する種々のフッ素化ビニルエーテルが挙げられる。これらは、所望する側鎖をポリマー内に与えられるものである。また第1のモノマーは、スルホン酸イオン交換基のイオン交換機能と干渉しない側鎖を有していても良い。必要に応じて、付加的なモノマーをこれらのポリマー内に取り入れることもできる。
【0025】
本発明で使用することに対して特に好ましいポリマーとしては、高度にフッ素化された、最も好ましくは過フッ素化されたカーボン主鎖に、化学式−(O−CF2CFRfa−O−CF2CFR’fSO3Hで表わされる側鎖を付したものが挙げられる。ここで、Rf、R’fは独立に、F、Cl、または1〜10のカーボン原子を有する過フッ素化されたアルキル基から選択され、a=0、1、または2である。好ましいポリマーとしてはたとえば、米国特許公報(特許文献2)、および米国特許公報(特許文献3)、および米国特許公報(特許文献4)に開示されるポリマーが挙げられる。好ましいポリマーの1つにはペルフルオロカーボン主鎖が含まれ、側鎖は、−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO3Hの化学式で表わされる。このタイプのポリマーは、米国特許公報(特許文献5)に開示されており、その作製は、テトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO2F、ペルフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオリド)(PDMOF)とを共重合した後に、スルホニルフルオリド基の加水分解によりスルホン酸基へ変換し、イオン交換して酸(陽子の形態としても知られる)に変換することによって行なうことができる。米国特許公報(特許文献3)および米国特許公報(特許文献4)に開示されるタイプの好ましいポリマーの1つは、側鎖が−O−CF2CF2SO3Hである。このポリマーの作製は、テトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化ビニルエーテルCF2=CF−O−CF2CF2SO2F、ペルフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホニルフルオリド)(POPF)とを共重合した後に、加水分解および酸交換をすることによって行なうことができる。
【0026】
前述したタイプの過フッ素化されたポリマーの場合、ポリマーのイオン交換容量は、イオン交換比(「IXR」)という形で表わすことができる。イオン交換比は、イオン交換基に対するポリマー主鎖内のカーボン原子の数として規定される。広範囲なIXR値がポリマーに対して可能である。しかし典型的には、過フッ素化されたスルホン酸ポリマーに対するIXR範囲は通常、約7〜約33である。前述したタイプの過フッ素化されたポリマーの場合、ポリマーの陽イオン交換容量は、当量(EW)の形で表わされることが多い。この出願において、当量(EW)を、1等価量のNaOHを中和するのに必要な酸の形態のポリマー重量であると規定する。スルホン酸ポリマーにおいて、ポリマーがペルオロカーボン主鎖を含み、側鎖が−O−CF2−CF(CF3)−O−CF2−CF2−SO3H(またはその塩)である場合、約7〜約33のIXRに対応する当量の範囲は、約700EW〜約2000EWである。このポリマーの場合のIXRに対する好ましい範囲は、約8〜約23(750〜1500EW)であり、最も好ましくは約9〜約15(800〜1100EW)である。
【0027】
触媒コーティング組成物に対する液体媒体は、方法に適合するように選択された媒体である。媒体は、沸点が十分に低く、使用するプロセス条件の下で電極層の急速乾燥が可能であることが有利である。フレキソ印刷またはパッド印刷技術を用いる場合、組成物がそれほど急速に乾燥せずに、フレキソ印刷プレートまたはクラッチ版プレートまたはパッド上で、膜フィルムに移る前に乾燥することが重要である。
【0028】
可燃性の構成成分を使用すべき場合には、選択する際に、このような材料に付随するどんなプロセス・リスクも考慮に入れなければならない。と言うのは特に、材料が使用時に触媒と接触するからである。また媒体は、イオン交換ポリマーの存在下で十分に安定でなければならない。イオン交換ポリマーは、酸の形態では、酸性活性が強い。液体媒体は通常、有極性である。と言うのは、液体媒体は、触媒コーティング組成物中のイオン交換ポリマーに適合しなければならず、また膜を「濡らす」必要があるからである。液体媒体として水を用いることもできるが、組成物中のイオン交換ポリマーが乾燥時に「合体」して、安定した電極層を形成するための加熱などの後処理工程を必要としないように、媒体を選択することが好ましい。
【0029】
広範囲な極性有機液体またはその混合物が、電気触媒コーティング組成物用の安定した液体媒体として機能することができる。印刷方法と干渉しないならば、少量の水分が媒体中に存在していても良い。好ましい極性有機液体の中には膜を大きく膨張させる可能性のあるものがあるが、本発明により適用される電気触媒コーティング組成物中の液体量は十分に少ないため、方法中の膨張からの悪影響は軽微であるかまたは検知されない。イオン交換膜を膨張させる可能性がある溶媒を用いることで、膜に対する電極の接触がより良好になり、膜に電極を適用することがより確実になると考えられる。種々のアルコールが、液体媒体として用いることに適している。
【0030】
好ましい液体媒体としては、好適なC4〜C8アルキルアルコールが挙げられる。たとえば、n−、イソ−、セク−、およびター−ブチルアルコール;異性体5−カーボンアルコール、1,2−および3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル、1−ブタノールなど、異性体6−カーボンアルコール、たとえば1−、2−、および3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル、1−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノールなど、異性体C7アルコールおよび異性体C8アルコール、ならびにドワノール(Dowanol)DPMである。環状アルコールも適している。好ましいアルコールは、n−ブタノール、およびn−ヘキサノールである。最も好ましいのは、n−ヘキサノールである。
【0031】
電気触媒組成物中の液体媒体量は、用いる媒体のタイプ、組成物の構成成分、用いる印刷機器のタイプ、所望する電極厚み、プロセス速度などによって変わる。用いる液体量は、電気触媒組成物の粘度に大きく依存する。粘度は、無駄を最小限に抑えて高品質の電極を実現するためには非常に重要である。液体媒体としてn−ブタノールを用いる場合には、コーティング固形分として約9〜約20重量%が、特に有用なフレキソ印刷またはパッド印刷範囲である。約9%の固形分を下回ると、粘度は好ましくないほどに低くなり、その結果、触媒粒子の急速な沈殿、標準的な圧迫におけるコーティング・アプリケータの「源泉」からの物理的な漏れ、および好ましくないほどに低い印刷堆積重量となる。さらに、n−ブタノールのレベルが約91重量%よりも大きいと、過フッ素化されたスルホン酸膜の好ましくない膨張が起きる可能性がある。さらに約20重量%コーティング固形分を超えると、電気触媒コーティング組成物は、ペースト状の粘度を有するようになって、取り扱い上の問題が伴うことになる。パッド印刷に最も適した電気触媒コーティング組成物の粘度の範囲は、約100〜約2000センチポアズ、より典型的には、約100〜約1000センチポアズ、さらにより典型的には、約150〜約500センチポアズ、最も典型的には、約120〜約250センチポアズである。またフレキソ印刷に最も適した粘度は、約8000〜約15000センチポアズである。以上、1s-1で測定する。
【0032】
電気触媒コーティング組成物の取り扱い特性、たとえば乾燥性能を変えることは、適合した添加剤たとえばエチレングリコールまたはグリセリンを、液体媒体の全重量を基準にして最大25重量%まで含むことによって可能である。
【0033】
過フッ素化されたスルホン酸ポリマーの酸の形態の市販の分散物(本願特許出願人よりナフィオン(Nafion)(登録商標)の商標名で水/アルコールの分散物で販売される)を、フレキソ印刷またはパッド印刷で用いることに適した電気触媒コーティング組成物を調製するための出発材料として使用できることが分かっている。
【0034】
ある調製方法では、市販の分散物中の低級アルコールおよび水を、C4〜C8のアルキルアルコールと、蒸留方法を通して交換することが含まれる。結果は、C4〜C8のアルキルアルコール中の過フッ素化されたスルホン酸ポリマーの非常に安定した分散物で、水分含有量は2%未満、より典型的には0.5%未満である。固形分は、最大20%まで変えることができる。この変更された分散物を電気触媒コーティング組成物用のベースとして用いれば、電極の形成に必要な触媒金属またはカーボン・ブラック支持された触媒金属を加えることで、取り扱いおよび移動特性の良好なコーティング組成物を本発明の方法において得ることができる。
【0035】
他の調製方法では、溶媒システム全体の20%にもなり得る高い混和性水分含有量のC2およびC3アルコールを用いることができる。このようなシステムの有利な点は、前述の配合に比べて、粘度のより低いところで固形分をより高くできる可能性があることである。これらの配合の方がパッド印刷に適しており、より厚い層を堆積できる可能性とともに、安全な不活性ガスを用いること、さらにリザーバ内、ナイフ・ブレード上、クラッチ版プレート上などで余分な分散物の乾燥を制御することができる。不利な点は、粘着性がわずかに減るとともに、印刷層の脆さが加わることである。これらの特徴があるために、印刷層の乾燥および取り扱いにおいて、さらに注意が必要となる。
【0036】
電気触媒コーティング組成物では、電気触媒、イオン交換ポリマー、および他の成分(もしあれば)の量を調整して、電気触媒が、結果として得られる電極の、重量での主成分となるようにすることが好ましい。最も好ましくは、電極内の電気触媒とイオン交換ポリマーとの重量比が、約2:1〜約10:1である。
【0037】
本発明の方法による電気触媒コーティング技術を用いることによって、非常に厚い(たとえば20μm以上)から非常に薄い(たとえば1μm以下)までのどんな厚さにも本質的になり得る広範囲の印刷層を形成することができる。このような厚みの全範囲を、クラッキング、粘着性損失、または他の不均一性の跡を残すことなく形成することができる。フレキソ印刷またはパッド印刷技術を用いて利用可能なパターン位置合わせを用いて複数の層を同じ領域に堆積することで、所望の最終的な厚みを得ることができ、厚い層または複雑な複数の層構造を容易に実現することができる。一方で、数層またはおそらく単一層のみを用いて、非常に薄い電極を形成することができる。通常、1〜2μmの薄い層を、各印刷の固形分の配合を低い%にして、形成することができる。
【0038】
前述した複数の層構造では、電気触媒コーティングの組成を変えることができ、たとえば貴金属触媒の濃度を、基板(たとえば膜)表面からの距離によって変えることができる。加えて、親水性を、コーティング厚みの関数として変化するように形成することができ、たとえばイオン交換ポリマーの当量が変化する層を用いることができる。また保護または耐摩耗性の最上層を、電気触媒コーティングの最終的な層適用のときに、適用しても良い。
【0039】
また電気触媒コーティングされた領域の長さおよび幅にわたって組成を変えることを、適用領域の中心からの距離の関数として適用量を制御することによって、および通過ごとの適用コーティングを変えることによって、行なっても良い。このような制御は、燃料電池の縁および角で生じる不連続点(活性が突然ゼロになる)の対処に対して有用である。コーティング組成またはプレート・イメージ特性を変えることによって、ゼロ活性への変化を緩やかなものにすることができる。加えて、液体供給燃料電池では、電気触媒コーティングを膜の長さおよび幅にわたって変えることによって、入口から出口ポートまでの濃度変化を補償することができる。
【0040】
(要素)
要素には、ポリマー膜と、第1の寸法的に安定な暫定基板とが含まれる。
【0041】
(ポリマー膜)
ポリマー膜は、本発明により使用する場合には、電気触媒コーティング組成物中で使用するための前述したものと同じイオン交換ポリマーで形成することができる。膜は、既知の押し出しまたは鋳造技術によって作製することができ、その厚みは用途によって変えることができ、通常は厚みが約350μm以下である。膜としては、非常に薄いもの、すなわち約50μm以下のものを用いる傾向がある。本発明による方法は、このような薄い膜上に電極を形成する場合に用いることに非常に適している。このような電極形成は、コーティング中に多量の溶媒を用いることに付随する問題が特に目立つ。フレキソ印刷またはパッド印刷方法の間、ポリマーは、アルカリ金属の形態でもまたはアンモニア塩の形態でも良いが、膜中のポリマーは、後処理の酸交換工程を回避するために、酸の形態であることが好ましい。酸の形態の好適な過フッ素化されたスルホン酸ポリマー膜は、ナフィオン(登録商標)の商標名で本願特許出願人より市販されている。
【0042】
補強された過フッ素化されたイオン交換ポリマー膜も、CCM製造において本発明の印刷方法によって用いることができる。補強された膜は、多孔性発泡PTFE(ePTFE)にイオン交換ポリマーを染み込ませることによって、作製することができる。ePTFEは、商標名「ゴアテックス(Goretex)」で、W.L.ゴア・アンド・アソシエーツ(W.L.Gore and Associates)社(エルクトン、メリーランド州(Elkton,MD))から、および商標名「テトラテックス(Tetratex)」でテトラテック(Tetratec)(フィースタービル、ペンシルベニア州(Feasterville,PA))から市販されている。ePTFEに、過フッ素化されたスルホン酸ポリマーを染み込ませることは、米国特許公報(特許文献6)および米国特許公報(特許文献7)に開示されている。
【0043】
(寸法的に安定な基板)
第1および第2の寸法的に安定な基板11または15は、本発明の方法工程中に寸法安定性を有する広範囲な基板から選択することができる。基板は剥離表面を有していても良いし、または基板に剥離表面を設けても良い。これは、基板を処理することによって、または基板を、その後の工程においてCCMから暫定基板を除去することを助ける基板によってコーティングすることによって、行なう。あるいは、寸法的に安定な基板に固有の粘着性または剥離性がない場合には、基板を、コロナもしくは放電プラズマ処理方法などの方法によって処理するか、または非機能的であるかもしくは下流の後プロセシングで除去することができるプライマ・スプレイもしくはサブ・コート層などの薬剤によって処理しても良い。暫定基板は、印刷工程の間ポリマー膜に付着しなければならないが、その後の工程の間は、電極またはポリマー膜にダメージを与えることなく、膜または第1電極から容易に離れる必要がある。寸法的に安定な基板に対する処理の一例は、ナフィオン(商標登録)の直鎖のフルオロ−アイオノマー「ドット」の開口アレイを、基板上に最初に印刷することである。
【0044】
寸法的に安定な基板のいくつかの好適な例としては、ポリエステル、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタネート;ポリアミド、ポリカーボネート、フルオロポリマー、ポリアセタール、ポリオレフィンなどが挙げられる。ポリエステル・フィルムのいくつかの例としては、ミラー(Mylar)(登録商標)またはメリネックス(Melinex)(登録商標)ポリエステル・フィルム(本願特許出願人より)が挙げられる。高温安定性を有するいくつかの暫定基板としては、ポリイミド・フィルム、たとえばカプトン(Kapton)(登録商標)(本願特許出願人より)が挙げられる。寸法的に安定な基板の厚みは、1mil〜10milで変化しても良い。好ましい材料は、厚みが2milであり、表面が非常に滑らかである(たとえばフィルム中にスリップ剤がまったく取り入れられていない)。
【0045】
(CCMを作製する方法)
図1に示すように、第1表面12’および第2表面12”を有するポリマー膜12と、寸法的に安定な基板11とを含む要素10が、少なくとも1つの印刷ステーション13と乾燥ステーション16とを過ぎるように供給される。印刷ステーション13において要素10上に電気触媒コーティング組成物20を適用して、乾燥させ、要素10の膜12の表面12’上に第1電極14を形成しても良い。あるいは、印刷および乾燥ステーションを、単一の装置内に配置しても良い。印刷ステーション13は、広範囲な印刷ステーション、たとえばロータリ・スクリーン印刷、オフセット、グラビア、パッド、またはフレキソ印刷から選択しても良い。通常、フレキソ印刷またはパッド印刷が用いられる。と言うのは、これらは電極を、膜上の所望する位置にのみ適用し、そのため貴重な触媒を失うことが最小限に抑えられるからである。乾燥は周囲温度で行なっても良いし、またはコーティングされた要素の乾燥を、最大60℃の温度で、好ましくは約45〜約55℃の範囲で行なっても良い。印刷またはフィルム・コーティング工業で通常用いられるタイプの赤外または強制送気対流乾燥器を用いても良い。このような機器のいくつかの供給業者としては、基本的な印刷から、マーク・アンディ(MarkAndy)(セント・ルイス、ミズーリ州(St.Louis,MO))、もしくはペマルコ(Pemarco)、またはフィルム・コーティングから、ブラック・クローソン(Black−Clawson)(フルトン、ニューヨーク州(Fulton,NY))、もしくはバコーフェン+メイア(Bachofen+Meier)AG(ブラッシュ、スイス(Bulach,Switzerland))が挙げられる。
【0046】
さらなる印刷ステーション(図示せず)と乾燥ステーション(図示せず)とが、さらなる電気触媒コーティング組成物を要素10に適用するために存在していても良い。第1の寸法的に安定な基板11と、第1電極14が形成された膜12とを含むサンドイッチを、ロール17’および17”を有する低圧ラミネータ17などの適用装置を過ぎるように通して、第2の寸法的に安定な基板15を適用し、第2の寸法的に安定な基板15を第1電極14に隣接させる。その代わりに、第2の第2の寸法的に安定な基板を、第1電極14上に押し付けることで適用しても良い。次に第1の寸法的に安定な基板11を、膜12の表面12”から除去する。これはたとえば、手動または自動で第1の寸法的に安定な基板11を除去するための機器を用いて剥離することによって行なう。電気触媒コーティング組成物20’を膜の表面12”に、少なくとも1つの印刷ステーション13’を用いて適用した後に、乾燥ステーション16’を過ぎるように通して、第2電極14’を膜12上に形成する。さらなる印刷ステーション(図示せず)と乾燥ステーション(図示せず)とが、さらなる電気触媒コーティング組成物を、形成された第2電極14’に適用するために存在しても良い。通常、電気触媒コーティング組成物20’の適用は、乾燥後に第2電極14’が第1電極14と位置合わせするように行なう。このように形成された触媒コーティングされた膜は、第1および第2電極14および14’の間にサンドイッチされた膜12を含むが、依然として、第1電極14の側上で第2の寸法的に安定な基板15によって保護されている。この第2の寸法的に安定な基板15を剥離除去して、燃料電池を作製する際に有用である触媒コーティングされた膜を形成しても良い。
【0047】
次に、このように形成された触媒コーティングされた膜に、種々の後処理を施しても良い。たとえばカレンダリング、水分輸送に影響する蒸気処理、または前述した何れかの先行工程からの微量残留物を除去するための液体抽出などである。使用する膜分散物または溶液が、高度にフッ素化されたアイオノマーの前駆体であった場合には、溶液または分散物を適用した後に、形成されたサンドイッチに化学的処理を施して前駆体をアイオノマーに変換しても良い。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
(ポリマー膜)
ポリマー膜は、陽子交換膜、ナフィオン(商標登録)、タイプNR112(本願特許出願人より)、厚み0.002インチ(0.00508cm)であり、これに0.5milポリエステルのカバー・シートと2milポリエステルのバッキング・シートとを設けた。バッキング・シートは、第1の寸法的に安定な暫定基板として機能する。カバー・シートを除去して、膜の一方の側をコーティング方法用に露出させた。
【0049】
(電気触媒コーティング組成物)
電気触媒コーティング組成物または「カソード・インキ」の調製は、以下の構成成分を0.25インチ(0.635cm)のジルコニア・ミリング媒体を用いて72時間ロール・ミリングすることによって、行なった。混合物がその引火点より下に維持されるように注意した。
【0050】
【表1】

【0051】
(方法)
触媒コーティングされた膜を作製することは、膜の露出側の特定の領域上へカソード・インキを、Pt付与量が0.4mg/cm2となるようにフレキソ印刷することによって行なった。溶媒を、約125°F(51.67℃)で60分間オーブン乾燥することによって除去した。
【0052】
第2の寸法的に安定な暫定基板、タイプ200Dポリエステル・フィルム、0.002インチ(0.00508cm)厚み(本願特許出願人より購入)を、コーティングされた膜のインキ・コーティングされた側へ、70°F(21.1℃)のラミネータ(ウェスタン・マグナム(Western Magnum)社、EIセグンド、カリフォルニア州(Segundo,CA)より)を用いて、適用した。
【0053】
次にラミネートを平坦面上に配置した後に、当初のバッキング材料(第1の寸法的に安定な基板)を剥離によって除去した。
【0054】
第2の電気触媒コーティング組成物(「アノード・インキ」分散物としても知られる)の調製を、前述した同じミリング方法と以下の組成物とを用いて行なった。
【0055】
【表2】

【0056】
このアノード・インキを、フレキソ印刷方法によって膜の特定の領域上に、Pt付与量が0.4mg/cm2となるように印刷した。アノード・インキの印刷は、カソードと位置合わせするように行ない、一方で、カソードの寸法性は、安定な暫定基板によって維持された。溶媒を、約125°F(51.67℃)で60分間オーブン乾燥することによって除去した。
【0057】
当初のコーティングされたサイズに対する最終製品の寸法変化は、0%〜−1%であった。
【0058】
(実施例2)
実施例1を、以下のことを除いて、繰り返した。ポリマー膜は陽子交換膜、ナフィオン(商標登録)、タイプNE112、厚み0.002インチ(0.00508cm)(本願特許出願人より購入)であり、これに独立支持型フィルムを設け、カバー・シートとバッキングとは設けなかった。第1の寸法的に安定な基板、タイプ200Dのポリエステル・フィルム、厚み0.002インチ(0.00508cm)(本願特許出願人より購入)を、温度70°F(21.1℃)で独立支持型膜の一方の側に、リストン(Riston)(登録商標)HRL−24ラミネータ(本願特許出願人より購入)を用いてラミネートした。
【0059】
電気触媒コーティング組成物または「アノードおよびカソード・インキ」の調製は、以下の構成成分を0.25インチ(0.635cm)のジルコニア・ミリング媒体を用いて72時間ロール・ミリングすることによって、行なった。混合物がその引火点より下に維持されるように注意した。
【0060】
【表3】

【0061】
アノードおよびカソード・インキを、膜の両側の特定の領域上に、各適用に対するPt付与量が0.5mg/cm2となるように印刷した。
【0062】
当初のコーティングされたサイズに対する最終製品の寸法変化は、0%〜−0.7%であった。
【0063】
(実施例3)
実施例1を、以下のことを除いて、繰り返した。使用した第2の寸法的に安定な基板は、タイプ516/400メリネックス(商標登録)、厚み0.004インチ(0.001cm)(本願特許出願人より購入)であった。
【0064】
当初のコーティングされたサイズに対する最終製品の寸法変化は、−0.5%〜−2%であった。
【0065】
(対照)
実施例1を、以下のことを除いて、繰り返した。カバーとバッキング・シートとを両方とも、コーティングの前に剥離除去した。アノードおよびカソード・インキは、触媒の代わりにカーボン・ブラックを含んでおり、また以下の組成物を有していた。
【0066】
【表4】

【0067】
第2の寸法的に安定な暫定基板を、コーティングされた膜の第1のインク・コーティングされた側に、第2のインキを適用する前に適用することはしなかった。
【0068】
当初のコーティングされたサイズに対する最終製品の寸法変化は、+1.5%〜−0.8%であった。
【0069】
バッキング・シートまたは第1の寸法的に安定な暫定基板が、第1のコーティングの間に存在せず、および/または第2の寸法的に安定な暫定基板が存在しない結果、電極領域を乾燥する間にxおよびy寸法が減少することが観察された。減少は3%であると測定された。湿度に起因する寸法変化も観察された。ある場合には、膜電極アセンブリを30%の相対湿度変化にさらしたときに8%の長さ変化が観察された。本発明の方法を用いることで、これらの変化は回避されるかまたは最小限に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1および第2の寸法的に安定な暫定基板とコーティング・ステーションとを用いて、膜に電気触媒組成物を適用して膜上に電極層を形成する本発明による方法を示す図である。
【図2】第1表面12’および第2表面12”を有するポリマー膜12と寸法的に安定な基板11とを示す要素10を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒コーティングされた膜の製造方法であって、
(a)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、第1および第2表面を有するポリマー膜と第1の寸法的に安定な暫定基板とを含む要素に適用する工程であって、前記コーティング組成物を前記ポリマー膜の前記第1表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(b)前記電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第1電極を前記要素の前記ポリマー膜上に形成する工程と、
(c)工程(b)で形成された前記少なくとも1つの第1電極に、第2の寸法的に安定な暫定基板を適用する工程と、
(d)前記第1の寸法的に安定な暫定基板を、前記ポリマー膜から除去する工程と、
(e)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、前記ポリマー膜の前記第2表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(f)前記ポリマー膜上の前記電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、前記少なくとも1つの第2電極、前記ポリマー膜、前記少なくとも1つの第1電極、および前記第2の寸法的に安定な暫定基板を含むサンドイッチを形成する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の寸法的に安定な暫定基板を前記ポリマー膜に適用することによって、前記要素を作製することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記適用工程がラミネーションによることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(g)前記第2の寸法的に安定な暫定基板を除去して、前記少なくとも1つの第1および第2電極の間にサンドイッチされたポリマー膜を含む触媒コーティングされた膜を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電気触媒コーティング組成物が、電気触媒、イオン交換ポリマー、および液体媒体を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記イオン交換ポリマーが過フッ素化されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電気触媒コーティング組成物が、フッ素化ポリマーをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記フッ素化ポリマーがPTFEフィブリルであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物の前記適用工程を、フレキソ印刷によって行なうことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記電気触媒コーティング組成物の前記適用および乾燥工程を繰り返して、前記膜表面の同じ部分を覆う複数の電極層を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記電気触媒コーティング組成物の前記適用および乾燥工程を繰り返して、複数の電極層であって、前記複数の層の間で組成が変化する電極層を形成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記電気触媒コーティング組成物の前記適用および乾燥工程が、電極層にわたって電気触媒の所定の不均一分布を有する電極層を設けることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種の非電気触媒コーティング組成物を適用して、電極層によって覆われる前記基板の同じ領域の少なくとも一部上に、非電気触媒層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記非電気触媒層が、前記電極層を覆う耐磨耗性コーティングであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記非電気触媒層が、前記電極層を覆うシーラントであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第2電極を形成するために前記ポリマー膜の反対表面上に適用される電気触媒コーティング組成物が、前記第1表面上の前記第1電極と位置合わせされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第1表面に適用される触媒コーティング組成物が、前記ポリマー膜の前記第2表面に適用される触媒コーティング組成物と異なることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程(c)もしくは(e)または両方における前記適用が、ラミネーションによることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項19】
工程(d)における前記除去が、剥離によることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
乾燥工程を周囲温度で行なうことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第1および第2の寸法的に安定な基板が、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、フルオロポリマー、ポリアセタール、ポリオレフィン、およびポリイミドからなる群から選択される暫定基板からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記第1、第2、または両方の寸法的に安定な基板がポリエステルであることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(a)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、第1および第2表面を有するポリマー膜と第1の寸法的に安定な暫定基板とを含む要素に適用する工程であって、前記コーティング組成物を前記ポリマー膜の前記第1表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(b)前記電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、少なくとも1つの第1電極を前記要素の前記ポリマー膜上に形成する工程と、
(c)工程(b)で形成された前記少なくとも1つの第1電極に、第2の寸法的に安定な暫定基板を適用する工程と、
(d)前記第1の寸法的に安定な暫定基板を、前記ポリマー膜から除去する工程と、
(e)少なくとも1種の電気触媒コーティング組成物を、前記ポリマー膜の前記第2表面の少なくとも一部に適用する工程と、
(f)前記ポリマー膜上の前記電気触媒コーティング組成物を乾燥させて、前記少なくとも1つの第2電極、前記ポリマー膜、前記少なくとも1つの第1電極、および前記第2の寸法的に安定な暫定基板を含むサンドイッチを形成する工程と、を含む方法によって作製される触媒コーティングされた膜を含む燃料電池。
【請求項24】
前記触媒コーティングされた膜を作製する方法が、
(g)前記第2の寸法的に安定な暫定基板を除去して、前記少なくとも1つの第1および第2電極の間にサンドイッチされたポリマー膜を含む触媒コーティングされた膜を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項23に記載の燃料電池。
【請求項25】
第1の寸法的に安定な暫定基板を前記ポリマー膜に適用することによって、前記要素を作製することを特徴とする請求項23に記載の燃料電池。
【請求項26】
前記適用工程がラミネーションによることを特徴とする請求項25に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−507623(P2006−507623A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−572117(P2003−572117)
【出願日】平成15年2月26日(2003.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2003/005706
【国際公開番号】WO2003/073540
【国際公開日】平成15年9月4日(2003.9.4)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】