説明

触媒充填方法

【課題】多管式反応器に触媒を落下充填するにおいて、固体触媒の種類に関係なく、簡易に触媒充填後の各反応管の圧力損失を軽減し、各反応管毎の圧力損失のばらつきを均質化することにより、触媒充填にかかる時間と労力を軽減する触媒充填方法を提供する。
【解決手段】固定床反応器内に配設された反応管内に固体触媒を落下充填する触媒充填方法において、触媒充填後の各反応管開口部より定常操業時に反応管に供給するよりも2倍以上高いガス線速度の気体を30秒以上吹き込み処理し、その後反応管の圧力損失を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定床反応器内に配設された反応管内に固体触媒を落下充填する触媒充填方法において、反応器内に配設された各反応管の圧力損失を低減する方法および各反応管の圧力損失のばらつきを均質化する触媒充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固定床反応器内に配設された反応管(以下、多管式反応器と称する場合がある。)に成型触媒または担持触媒などの固体触媒を充填する方法は、反応管上部より固体触媒を落下させて充填する方法が一般的である。この方法では触媒を落下充填させる際の物理的衝撃により触媒が粉化・崩壊してしまう場合がある。触媒が粉化・崩壊した場合には反応管の圧力損失が増大し、運転が困難になったり、反応収率が低下したりするといった問題が生じる。また、触媒の粉化・崩壊により反応管ごとの圧力損失が異なった場合は、ガス流量が不均一となり、各反応管における反応においてばらつきが生じ、反応率や収率の低下を招くなど生産性を低下させる問題が生じる。
【0003】
固体触媒を落下充填する際に粉化・崩壊を抑制し、反応管の圧力損失を低減させる手段として、触媒を反応器に落下充填する際に反応器内に触媒の落下を妨げない形状、太さのひも状物質を介在させる方法(特許文献1)、予め触媒を入れた筒型容器を反応管上部から触媒充填位置まで静かに挿入し、該筒型容器の下部に設けられた開閉機構を有する開口部を開け、粒状物質を反応管に充填する方法(特許文献2)、反応管の上部開口部より挿入した管状物の下部先端から気体を放出させながら触媒を落下させ、挿入した管状物を引き上げながら触媒を充填する方法(特許文献3)、最初に反応管内に液状物を充填し、続いて固体触媒を充填し、しかる後、該液状物を除去する方法(特許文献4)等が提案されている。
【0004】
しかしながら、工業的に用いられる多管式反応器は反応管の本数が数千本以上のものもあり、特許文献1〜特許文献3の方法では全ての反応管に触媒を充填するのに多大な時間と労力を必要とする。また特許文献4の方法は、液状物と接触させると不都合の生じる触媒については適用することができない。
【0005】
一方、各反応管毎の圧力損失のばらつきに起因する生産性低下対策として、触媒充填後の各反応管の圧力損失が反応管圧力損失の平均値の±20%以内になるように充填した触媒を充填し直す方法(特許文献5)が提案されている。該方法は全反応管の圧力損失を定常反応時のガス量に近い流量で測定後、圧力損失を管理範囲内(平均値の±20%、好ましくは±10%)になるように管理範囲外の反応管を充填し直すというものであるが、工業的に使用される固定床反応器内に配設された数千から数万本の全反応管の圧力損失を測定することは多大な時間と労力を要すると共に、圧力損失のばらつきをより少ない範囲で管理しようとすると、充填し直す反応管が多くなり多大な労力と時間を要する。
【0006】
【特許文献1】特開平5−31351号公報
【特許文献2】特開2000−42400号公報
【特許文献3】特開2003−340266号公報
【特許文献4】特開平9−141084号公報
【特許文献5】特開2003−252807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多管式反応器に触媒を落下充填するにおいて、固体触媒の種類に関係なく、簡易に触媒充填後の各反応管の圧力損失を軽減し、各反応管毎の圧力損失のばらつきを均質化することにより、触媒充填にかかる時間と労力を軽減する触媒充填方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、この課題に対して鋭意検討した結果、触媒充填後の反応管にガスを流し反応管を流れるガスの圧力損失を測定したところ、図1(イソブチレンからメタクロレインを製造する複合酸化物触媒を充填した反応管の圧力損失の経時変化)に示すように、圧力損失が急激に低下し一定時間経過後は安定することを見出した。この知見から多管式反応器に触媒を落下充填するにあたり、触媒を充填した後に反応管に気体を供給することで各反応管の圧力損失を低減できること、反応器内に配設された各反応管の圧力損失のばらつきが低減すること、触媒充填後の各反応管の圧力損失状況を測定する場合には、ガス吹き込み処理後の反応管の圧力損失は図1に示す如く安定化しているので圧力損失の測定精度が向上し、測定時間も短縮できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、固定床反応器内に配設された反応管内に固体触媒を落下充填する触媒充填方法において、触媒充填後の各反応管開口部より定常操業時に反応管に供給するよりも高いガス線速度の気体を吹き込むことを特徴とする触媒充填方法を提供するにある。また、上記の触媒充填後の反応管開口部より定常操業時に反応管に供給するよりも高いガス線速度の気体を吹き込み処理後、反応管の圧力損失を測定することを特徴とする触媒充填方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多管式反応器に触媒を落下充填するにおいて、固体触媒の種類に関係なく、簡易に触媒充填後の各反応管の圧力損失を軽減し、各反応管毎の圧力損失のばらつきを低減し、触媒充填にかかる時間と労力を軽減することができる。また、触媒充填後の各反応管の圧力損失状況を測定する場合には、従来よりも短時間で精度良く測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において反応管に充填される固体触媒としては、成型触媒や担持触媒が挙げられる。成型触媒を用いる場合、その形状としては、例えば、円柱状、球状、リング状等が挙げられ、これらの形状は、例えば、押出し成型機、転動造粒機等、通常の成型機を用いて付与することができる。また、担持触媒を用いる場合、その担体の形状としては、上記成型触媒同様、例えば、円柱状、球状、リング状等が挙げられ、その担体の種類としては、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア等が挙げられる。また、触媒粒子を希釈するためや触媒層の前後に加熱や冷却、触媒層の分割などのための不活性層を形成するために不活性粒子が充填される場合があるが、この場合も触媒のみを充填した場合と同様とすることができる。
【0012】
本発明においては、固定床反応器内に配設された反応管内に固体触媒を落下充填した後、触媒充填後の反応管開口部より、定常操業時に反応管に供給するよりも高いガス線速度の気体を吹き込み処理する。気体を供給する方法は特に限定されず、反応管開口部より行えばよく、例えば反応管の内径にあったゴム栓に気体供給ノズルを取り付け、反応管に気体供給ノズルのついたゴム栓を差し込むことで供給すればよい。
【0013】
触媒充填後に反応管に吹き込む気体は固体触媒に対して影響を及ぼさない気体であれば特に限定されず、空気、酸素、窒素、ヘリウム、アルゴンあるいはこれかの混合ガス等使用できるが、コスト、簡便さ等の観点から空気等が好ましい。
【0014】
気体の吹き込み速度は、標準状態基準のガス線速度、すなわち供給ガスの吹き込み速度(m3/秒)を反応管の断面積(m2)で除した値として、通常0.1〜20m/秒、好ましくは0.2〜10m/秒であり、定常操業時のガス線速度以上である。気体の吹き込み速度は適用する反応により一義的ではないが、通常、定常操業時のガス線速度の2倍以上、好ましくは3倍以上の吹き込み速度が適用される。吹き込み速度の上限は触媒が物理的に破壊されない範囲の条件で設定すればよい。
【0015】
気体の供給時間は通常10秒〜1800秒、好ましくは30秒〜600秒であり、圧力損失の測定値が安定化されるまでの時間が確保されていればよい。
【0016】
圧力損失の測定方法は反応管内に所定流量の空気を流し、そのときの大気圧との差圧を差圧計で読み取ることで行われる。触媒充填後の圧力損失は、まず触媒を充填する前の反応管の圧力損失を差圧計にて測定し(ブランク)、続いて、触媒を充填後に再び圧力損失を差圧計にて測定する。触媒充填後の圧力損失とブランクの圧力損失の差を触媒層の圧力損失とする。
【0017】
本発明の方法は、各種固定床反応、特に酸化反応に適用することができ、例えば、プロピレン又はプロパンを原料とするアクロレインおよびまたはアクリル酸の製造、イソブチレン、t−ブチルアルコール又はイソブタンを原料とするメタクロレインおよびまたはメタアクリル酸の製造、o−キシレンを原料とする無水フタル酸の製造、塩化水素を原料とする塩素の製造などに適用することができる。
【0018】
本発明によれば上記したように、多管式反応器に触媒充填した後に、特定の範囲に設定された気体を吹き込むだけで反応管の圧力損失を軽減させることができ、反応器内に配設された各反応管の圧力損失のばらつきも低減すると共に、反応管の圧力損失を精度良く簡便に測定することができるようになり、触媒充填にかかる時間と労力を軽減することができる。また、図2に示すように気体供給ノズルをあらかじめ多数準備しておけば、一度に多数の反応管に対して当該作業を行うことができるので反応管が数千本以上あるような工業的規模の多管式反応器に対しても、極めて簡便かつ短時間に作業を行うことができる。
【実施例】
【0019】
次に本発明の実施例を示すが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0020】
実施例1
内径25mm、長さ4150mmの反応管にモリブデン、ビスマス、鉄などを含む複合酸化物で直径6.5mm、高さ5mmのリング状の押し出し成型触媒1300gを振動式充填機を使用して120秒間で反応管に落下充填した。落下充填が終了した後に、反応管に定常操業時のガス供給速度と同じである1.0m/秒の線速で空気を吹き込みながら、デジタル式差圧計を用い、反応管の圧力損失を測定した。その結果を表1に示す。
【0021】
実施例2
内径25mm、長さ4150mmの反応管923本に実施例1で用いた触媒と同じリング状の押し出し成型触媒1300gを振動式充填機を使用して反応管1本当り120秒間で落下充填した。充填後、図2に示した空気供給ノズル(ノズル孔20本)使用して、元圧0.4MPa(ガス線速約7m/秒)の圧縮空気を各反応管に吹き込み処理した。吹き込み処理時間は長いもので約3分、一番短いもので約30秒吹き込み処理した(空気の噴出する上記ノズルを20本の触媒充填済みの反応管に順次取り付け、空気の吹き込み処理を行った。最初にノズルを取り付けた反応管への空気の吹き込み時間が約3分、最後にノズルを取り付けた反応管への空気の吹き込み時間が約30秒である)。空気吹き込み処理をした後の反応管に定常操業時のガス供給速度と同じである1.0m/秒の線速で空気を吹き込みながら、デジタル式差圧計を用い、各反応管の圧力損失を測定した。その結果、図3に示したヒストグラムの圧力損失分布であった。圧力損失が平均値の±20%以上の反応管は0本、平均値の±10%以上の反応管は0本(全体の0%)であった。
【0022】
比較例1
内径25mm、長さ4150mmの反応管923本に実施例1及び実施例2で用いたと同じリング状の押し出し成型触媒700gを振動式充填機を使用して反応管1本当り60秒間で落下充填した。充填後、空気の吹き込み処理は行わず、反応管に定常操業時のガス供給速度と同じである1.0m/秒の線速で空気を吹き込みながら、デジタル式差圧計を用い、各反応管の圧力損失を測定した。その結果、図4に示したヒストグラムの圧力損失分布であった。圧力損失が平均値の±20%以上の反応管は0本、平均値の±10%以上の反応管は36本(全体の3.9%)であった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ガス吹き込みによる反応管の圧力損失の経時変化を示す
【図2】気体吹き込み用ノズルの取り付け例を示す。
【図3】実施例2の圧力損失分布を示す。
【図4】比較例1の圧力損失分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床反応器内に配設された反応管内に固体触媒を落下充填する触媒充填方法において、触媒充填後の各反応管開口部より定常操業時に反応管に供給するよりも高いガス線速度の気体を吹き込むことを特徴とする触媒充填方法
【請求項2】
気体の反応管への吹き込み速度が、反応管内のガス線速度で0.1〜20m/秒であることを特徴とする請求項1記載の触媒充填方法。
【請求項3】
反応管内への気体の吹き込み時間が、10秒から1800秒であることを特徴とする請求項1記載の触媒充填方法。
【請求項4】
請求項1に記載の吹き込み処理をした後、反応管の圧力損失を測定することを特徴とする触媒充填方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate