説明

触媒担体及び排ガス浄化用触媒

【課題】貴金属触媒粒子のシンタリング抑制効果に優れた触媒担体及び排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】貴金属元素(Pt)が接近若しくは接触することによりその貴金属元素から電子を受容する電子受容性があり且つ酸化還元反応で原子価の変化がない電子受容性元素(La)、及び他の元素(Si)の複合酸化物から構成されている、貴金属担持用触媒担体とする。また、この触媒担体に貴金属触媒粒子が担持されている排ガス浄化用触媒とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属触媒粒子を担持するための触媒担体、及びこの触媒担体に貴金属触媒粒子が担持されてなる排ガス浄化用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貴金属粒子を触媒成分として担体に担持した触媒では、その活性を良好なものとするために、貴金属粒子を微粒状で担体に担持させている。これは、触媒成分の比表面積を可及的に広くするためである。しかしながら、触媒成分の粒径を小さくすると、その表面エネルギが増大し、従って相互に焼結(シンタリング)しやすくなる。特に、排ガス浄化触媒においては、排ガスの有する熱や反応による生じる熱によって、触媒が数百度の高温に曝されるので、貴金属粒子のシンタリングが進行し、その粒径が増大して活性が低下する傾向がある。
【0003】
貴金属触媒粒子のシンタリングを防止することのできる触媒担体が、特許文献1や特許文献2に記載されている。
【0004】
特許文献1では、高活性セリア粉末に白金属触媒金属をコロイド粒子の大きな粒子として担持させた排ガス浄化触媒を開示している。特許文献1では、この排ガス浄化触媒によれば、触媒金属同士のシンタリング及びセリア粉末との固溶を防止できる、としている。
【0005】
特許文献2では、担体上に中間層を配置し、この中間層上に、ペロブスカイト型複合酸化物粒子と白金等の貴金属粒子との複合物からなる窒素酸化物除去触媒を担持させた排ガス浄化触媒を開示している。ここでこの中間層は、窒素酸化物除去触媒及び担体の双方に親和性があり、且つ窒素酸化物除去触媒成分を変質させ難い材料、例えばジルコニア、酸化セリア、酸化バリウム、チタニア、希土類酸化物で形成されている。特許文献2では、この中間層によって、窒素酸化物除去触媒のシンタリングを防止でき、且つ窒素酸化物除去触媒が担体と反応して変質することを抑制できる、としている。
【0006】
また、特許文献3〜5では、ジルコニア系触媒担体を用いた触媒の耐熱性を改良するために、ジルコニアに、アルカリ土類金属、希土類等の安定化元素を添加して、ジルコニアのBET比表面積、熱的安定性等を改良することを開示している。
【0007】
【特許文献1】特開平4−180835号公報
【特許文献2】特開2002−346387号公報
【特許文献3】特開平9−141098号公報
【特許文献4】特開平4−284847号公報
【特許文献5】特開2001−314763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1に記載されているように、セリア上に白金などの貴金属触媒粒子を担持させると、両者の相互作用によって貴金属触媒粒子が担体に対して固定される。しかしながら、セリアは酸化雰囲気で酸素を吸蔵し、還元雰囲気で酸素を放出するいわゆる酸素吸蔵能(OSC)がある。従ってセリアは、還元雰囲気では酸素を放出して原子価が4価から3価に変化するので、貴金属粒子との相互作用が低下する。よって、還元雰囲気では、貴金属粒子のシンタリング抑制効果が低下し、若しくはシンタリングを促進してしまう可能性があった。
【0009】
上記の特許文献2に記載された触媒によれば、窒素酸化物除去触媒粒子のシンタリングを防止することができる。しかしながらこの特許文献2の触媒では、窒素酸化物除去触媒粒子を、ペロブスカイト型複合酸化物と貴金属粒子との混合物として構成する必要があり、また上記の中間層を設けなければならないので、構成が複雑化する。また、貴金属粒子を単独で担持した場合には、そのシンタリングを必ずしも防止若しくは抑制できない可能性がある。
【0010】
特許文献3〜5でのように、ジルコニアに、アルカリ土類金属、希土類等の安定化元素を添加して、ジルコニアのBET比表面積、熱的安定性等を改良することができる。しかしながら、これらの安定化ジルコニア担体は、そこに担持される貴金属粒子、特に白金及びパラジウム粒子のシンタリング防止に関しては十分でないことがあった。
【0011】
本発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、担持している金属触媒粒子のシンタリングを防止することのできる触媒担体、及びその担体を使用した排ガス浄化用触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の貴金属担持用触媒担体は、貴金属触媒粒子の貴金属元素が接近若しくは接触することによりその貴金属元素から電子を受容する電子受容性があり且つ酸化還元反応で原子価の変化がない電子受容性元素と他の元素との複合酸化物から構成されている。
【0013】
本発明の触媒担体では、電子受容性元素は、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群、特にランタン、ネオジム及びそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。
【0014】
本発明の触媒担体では、他の元素は、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群、特にケイ素、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。
【0015】
本発明の触媒担体では、複合酸化物の電気陰性度が、2.55〜2.80であってよい。
【0016】
本発明の触媒担体では、電子受容性元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が、0.3以上であってよい。
【0017】
本発明の触媒担体の1つの態様では、電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、他の元素が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ電子受容性元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が、0.3以上である。
【0018】
また、本発明の触媒担体の1つの態様では、電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、他の元素が、ケイ素であり、且つ電子受容性元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が0.5〜0.7である。特に、本発明の触媒担体のこの態様では、電子受容性元素がランタンであり、他の元素がケイ素であり、且つランタンとケイ素との合計に対するランタンのモル比(La/(La+Si))が、0.5〜0.7である。
【0019】
また更に、本発明の触媒担体の1つの態様では、電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、他の元素が、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ電子受容性元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が、0.3〜0.7である。特に、本発明の触媒担体のこの態様では、電子受容性元素がネオジムであり、他の元素がジルコニウムであり、且つネオジムとジルコニウムとの合計に対するネオジムのモル比(Nd/(Nd+Zr))が、0.3〜0.7である。
【0020】
本発明の触媒担体では、複合酸化物がこの複合酸化物より相対的に耐熱性の高い他の担体粒子に担持されていてよい。
【0021】
本発明の排ガス浄化触媒は、本発明の触媒担体に、貴金属触媒粒子が担持されてなる。ここでこの貴金属触媒粒子は特に、白金、パラジウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択することができる。
【0022】
〔触媒担体を製造する本発明の方法〕
本発明の触媒担体を製造する本発明の方法は、疎水性溶媒相中に水性相が分散している分散液を提供すること;分散液中に分散している水性相中において、電子受容性元素の塩及び他の元素の塩を加水分解して、金属酸化物前駆体を析出させ、この金属酸化物前駆体を凝集させること;並びに凝集させた金属酸化物前駆体を乾燥及び焼成することを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明の触媒担体は、電子受容性元素と他の元素との複合酸化物から構成されていることによって、この触媒担体に貴金属触媒粒子を担持させたときに、貴金属元素の有する電子が、担体を構成している複合酸化物に配位されて、両者が結合する。更に、本発明の触媒担体では、電子受容性元素の原子価は、酸化還元反応で変化しないので、複合酸化物と貴金属元素との結合状態は特には変化しない。そのため、排ガスが酸化雰囲気や還元雰囲気に変化しても、貴金属触媒粒子が担体に強固に固定された状態が維持され、その結果、貴金属触媒粒子の移動やそれに起因するシンタリングを防止若しくは抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の触媒担体は、貴金属触媒粒子を担持するためのものであり、複合酸化物から構成されている。ここで、この複合酸化物は、触媒粒子を構成する貴金属元素から電子を受容する電子受容性があり、且つ酸化還元反応で原子価の変化しない電子受容性元素と、他の元素とから構成される。
【0025】
本発明の触媒担体では、図1において電子受容性元素としてのランタン(La)及びその他の元素としてのケイ素(Si)に関して示す機構で、貴金属元素が配位結合的に電子受容性元素に電子を供給して担体に結合して、貴金属元素が担体上で固定されているものと考えられる。また、400℃でのH還元後のXPS分析によれば、還元後にも関わらず白金が酸化されており、この機構を支持する結果が得られている。
【0026】
特に、この図1で示されているように、他の元素がケイ素(Si)のような金属酸化物としての電気陰性度が大きい元素である場合、ランタン(La)のような電子受容性元素から電子を強く引きつけ、Laイオンの安定化効果が大きくなる。
【0027】
尚、本発明に関して、「金属酸化物としての電気陰性度」は、金属酸化物を構成する金属元素及び酸素のポーリングによる電気陰性度を、金属酸化物に含有されるこれらの元素の比に応じて加重平均した値である。すなわち例えば、シリカ(SiO)の金属酸化物としての電気陰性度は、下記のようにして計算される:
{1.90(ケイ素の電気陰性度)×1+3.44(酸素の電気陰性度)×2}/3
≒2.93
【0028】
参考のために、いくつかの金属について、金属酸化物としての電気陰性度を下記の表1に示す:
【0029】
【表1】

【0030】
〔電子受容性元素〕
電子受容性元素は、他の元素と共に複合酸化物を構成している。この電子受容性元素は、他の元素と組み合わせて複合酸化物としたときに、貴金属触媒粒子が接近若しくは接触することによりその貴金属元素から電子を受容する電子受容性があり且つ酸化還元反応で原子価の変化がない元素として選択できる。
【0031】
特に電子受容性元素は、アルカリ土類金属又は希土類元素の少なくとも一種であり、具体的には、電子受容性元素は例えば、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択される元素である。
【0032】
より特に電子受容性元素は、希土類元素のイオンで典型的な元素のうち原子番号が若く、4f軌道に空きがある(空きが多い)イオンとなる元素である。従って、好ましい電子受容性元素は、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される元素である。
【0033】
上述のように、本発明では、貴金属触媒粒子を、担体を構成する複合酸化物に配位結合によって担持若しくは固定させることを意図している。しかしながら、触媒の置かれる環境は、酸化雰囲気及び還元雰囲気の両方に変化する可能性がある。そこで、いずれの雰囲気でも安定的に貴金属触媒粒子を担持させるために、本発明の触媒担体では、酸化還元反応で原子価が変化しない元素を電子受容性元素として用いている。この点で、本発明の触媒担体は、セリアを用いる従来の触媒担体とは異なっている。
【0034】
〔他の元素〕
電子受容性元素は単独で用いずに、他の元素、特に他の金属元素との複合酸化物として用いられる。これは、耐熱性を向上させることに加えて、電子受容性元素の塩基性を弱めて、複合酸化物が全体として中性若しくは中性に近くなるようにするためである。従って、当該他の元素は、従来、排ガス用触媒の担体若しくは基材として用いられている金属元素で良く、具体的には、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)及びそれらの組み合わせからなる群より選択できる。
【0035】
上述のように、他の元素がケイ素(Si)のような金属酸化物としての電気陰性度が大きい元素である場合、ランタン(La)のような電子受容性元素から電子を強く引きつけ、それによって貴金属元素と電子受容性元素との間の配位結合的な結合を促進することができる。従って好ましくは他の元素は、ケイ素(Si)、チタン(Ti)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0036】
〔複合酸化物の電気陰性度〕
本発明の触媒担体を構成している複合酸化物は、電気陰性度が、好ましくは2.55〜2.80、より好ましくは2.60〜2.73である。この電気陰性度によれば、適度な酸塩基性によって、触媒活性を良好な状態に維持することができる。
【0037】
ここで、複合酸化物の電気陰性度とは、上記の金属酸化物としての電気陰性度の場合でのように、複合酸化物を構成している各元素毎のポーリング値(Pauling値)を加重平均した値である。量子化学的に電気陰性度を求める方法もあるが、手法や条件設定などによって一義的な値を得られないので、本発明では単純な加重平均を採用している。
【0038】
本発明で使用する複合酸化物は、中性若しくは中性に近いものであり、電気陰性度が上記の範囲を外れると、貴金属触媒粒子のシンタリング抑制効果が低減する。
【0039】
尚、本発明に関して、金属酸化物の電気陰性度の計算のために使用される酸素の電気陰性度は3.44であり、また本発明に関して使用できる電子受容性元素及び他の元素についての電気陰性度は下記のようなものである。
【0040】
電子受容性元素:La(1.10)、Nd(1.14)、Y(1.22)、Mg(1.31)。
【0041】
他の元素:Si(1.90)、Al(1.61)、Zr(1.33)、Ti(1.54)。
【0042】
尚、排ガス浄化触媒のための触媒担体では、アルミナ(Al、電気陰性度:2.71)を基準として、アルミナよりも電気陰性度が大きい金属酸化物は酸性であり、またアルミナよりも電気陰性度が小さい金属酸化物は塩基性であると考えることができる。
【0043】
一般に、排ガス浄化触媒のための触媒担体の塩基性が強い場合、炭化水素(HC)が担体に吸着しにくく、従ってHCの酸化性能が低くなる傾向がある。またこの場合、酸素が過剰であるリーン雰囲気においては酸素が触媒担体に吸着し、それによってこの触媒担体に担持されている白金等の貴金属も酸素被毒し、結果として触媒活性が低下することがある。一方で、排ガス浄化触媒のための触媒担体の酸性が強い場合、その上に担持されている貴金属から電子を引きつけ、それによって貴金属上でのNOの還元反応を妨げることがある。
【0044】
従って排ガス浄化触媒のための触媒担体としては、アルミナと同様な比較的中性の電気陰性度を有することが好ましいことがある。これに関し、複合金属酸化物の電気陰性度を、酸性金属酸化物としてのシリカ(SiO)と塩基性金属酸化物としての酸化ランタン(La)との比率に対して、下記の表2に示す。尚、アルミナ(Al)の電気陰性度は2.71である。
【0045】
【表2】

【0046】
〔電子受容性元素のモル比〕
ネオジム、ランタン等の元素をジルコニウム等の他の元素の酸化物に添加する場合、ネオジム等の元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が0.01〜0.3程度のときには、一般に、ネオジム等の元素によって他の元素の酸化物が安定化され、触媒担体としての耐熱性が向上することが知られている。
【0047】
しかしながら、本件発明者等は予想外に、このネオジム等の元素のモル比が大きいとき、例えば0.3以上、特に0.4以上であるときに、担体の耐熱性が低下し、それによって担体表面積が減少する場合であっても、ネオジム等の元素と貴金属との親和性によって、担体に担持される貴金属のシンタリングが防止されることを見出した。
【0048】
従って例えば、本発明の触媒担体では、電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、他の元素が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ電子受容性元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が、0.3以上、特に0.4以上である。
【0049】
また本発明の触媒担体では、触媒担体を構成する複合酸化物がアパタイト型の複合酸化物を構成するようにして、触媒担体を安定化することができる。
【0050】
参考までに、1,500℃で焼成したLaSiOの組成のアパタイト型複合酸化物の結晶構造を、S.Nakayama,T.kageyama,H.Aono,and Y.Sadaoka,J.Mater.Chem.,5,1801−1805(1995)から引用して図2に示す。この図2から理解されるように、本発明の触媒担体を構成する複合酸化物としてアパタイト型複合酸化物を用いる場合、ランタン等の電子受容性元素に対して貴金属粒子が比較的接近しやすい状態になっており、それによって貴金属粒子のシンタリングが特に抑制される。
【0051】
アパタイト型複合酸化物を用いる場合、例えば本発明の触媒担体では、電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、他の元素が、ケイ素であり、且つ電子受容性元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が0.5〜0.7である。またこの場合特に、触媒担体では、電子受容性元素がランタンであり、他の元素がケイ素であり、且つランタンとケイ素との合計に対するランタンのモル比(La/(La+Si))が、0.5〜0.7である。
【0052】
また本発明の触媒担体では、触媒担体を構成する複合酸化物がパイロクロア型又はペロブスカイト型の複合酸化物を構成するようにして、触媒担体を安定化することができる。
【0053】
この場合、本発明の触媒担体では、電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、他の元素が、アルミニウム、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ電子受容性元素と他の元素との合計に対する電子受容性元素のモル比が、0.3〜0.7である。またこの場合特に、本発明の触媒担体では、電子受容性元素がネオジムであり、他の元素がジルコニウムであり、且つネオジムとジルコニウムとの合計に対するネオジムのモル比(Nd/(Nd+Zr))が、0.3〜0.7である。
【0054】
〔複合酸化物の形態〕
本発明の触媒担体では、電子受容性元素と他の金属との複合酸化物を、粒子状に形成して用いることができる。
【0055】
またこの複合酸化物は、この複合酸化物より相対的に耐熱性の高い他の担体粒子に担持させることができる。これによれば、排ガス浄化用触媒などとして構成することにより高温に曝された場合であっても、上記の複合酸化物の構造を維持しやすく、その結果、耐熱性を更に向上させることができる。
【0056】
〔排ガス浄化触媒〕
上記の担体に貴金属触媒を担持することにより、本発明の排ガス浄化用触媒が得られる。この貴金属触媒は、具体的には白金(Pt)、ロジウム(ロジウム)、パラジウム(Pd)及びそれらの組み合わせからなる群より選択される貴金属を挙げることができ、特に排ガス浄化触媒としての使用の間に比較的シンタリングする傾向が大きい白金粒子、パラジウム及びそれらの組合せからなる群より選択される貴金属を挙げることができる。貴金属の担持のためには、従来知られている含浸法(スラリー法)、浸漬法等を用いることができる。
【0057】
本発明の排ガス浄化触媒によれば、貴金属触媒粒子のシンタリングを防止して、長期に亘って排ガス浄化能に優れる触媒を得ることができる。
【0058】
〔触媒担体を製造する本発明の方法〕
本発明の触媒担体を製造する本発明の方法は、疎水性溶媒相中に水性相が分散している分散液を提供すること;分散液中に分散している水性相中において、電子受容性元素の塩及び他の元素の塩を加水分解して、金属酸化物前駆体を析出させ、この金属酸化物前駆体を凝集させること;並びに凝集させた金属酸化物前駆体を乾燥及び焼成することを含む。
【0059】
本発明の方法によれば、電子受容性元素及び他の元素を含有している金属酸化物前駆体を微小な水滴内で析出させることによって、電子受容性元素の酸化物及び他の元素の酸化物の前駆体が高度に分散している金属酸化物前駆体を得ることができる。従って本発明の方法によれば、本発明の触媒担体を得ることができる。
【0060】
本発明の触媒担体を製造する本発明の方法では始めに、一般に界面活性剤の使用によって、疎水性溶媒相中に水性相が分散している分散液、特に水性相の滴の径が2〜100nm、好ましくは2〜50nm、より好ましくは2〜40nmであるマイクロエマルションを提供する。
【0061】
ここで用いることができる疎水性溶媒としては、シクロヘキサン、ベンゼンのような炭化水素、ヘキサノールのような直鎖アルコール、アセトンのようなケトン類を用いることができる。
【0062】
またここで提供される分散液を得るために用いることができる界面活性剤は、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤のいずれでもよく、疎水性溶媒と組み合わせて選択することができる。
【0063】
非イオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレン(n=10)オクチルフェニルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系、ポリオキシエチレン(n=7)セチルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤を挙げることができる。またアニオン系界面活性剤としては、ジ−2−エチレンヘキシルスルフォコハク酸ナトリウム等を挙げることができ、カチオン系界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロライドやセチルトリメチルアンモニウムプロマイドなどを挙げることができる。
【0064】
本発明の触媒担体を製造する本発明の方法では次に、上記のようにして得た分散液中に分散している水性相中において、電子受容性元素の塩及び他の元素の塩を加水分解して、金属酸化物前駆体を析出させ、この金属酸化物前駆体を凝集させる。
【0065】
ここで、水滴内で金属酸化物前駆体を析出させるためには、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基性溶液を分散液に加えることによって、分散液を比較的塩基性の性質にして、電子受容性元素の塩等を加水分解することができる。一般にアンモニア水の使用は、除去が容易な点で好ましい。
【0066】
ここで使用される電子受容性元素の塩及び他の元素の塩としては、水溶性の性質を有する任意の塩を選択することができ、例えば硝酸塩、塩化物のような無機酸塩、又は酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩のような有機酸塩、特に硝酸塩を用いることができる。
【0067】
尚、電子受容性元素及び他の元素の複合酸化物中に更に他の成分の酸化物を含有させる場合、この金属酸化物を構成する金属の塩を、水性相中において、電子受容性元素の塩等と共に加水分解することができる。
【0068】
本発明の触媒担体を製造する本発明の方法では最後に、上記のようにして凝集させた金属酸化物前駆体を乾燥及び焼成する。
【0069】
金属酸化物前駆体の乾燥及び焼成は、電子受容性元素の塩及び他の元素の複合酸化物を得ることができる任意の温度で行うことができる。これは例えば、金属酸化物前駆体を120℃のオーブンに入れて乾燥させ、そしてこのように乾燥した金属酸化物前駆体を、金属酸化物合成において一般的に用いられる温度、例えば500〜1100℃の温度で焼成して行うことができる。
【0070】
以下では、実施例及び比較例を用いて本発明を説明する。但し、これらの実施例及び比較例は本発明をいかようにも限定するものではない。
【実施例1】
【0071】
〔本発明の酸化ランタン−シリカ複合酸化物触媒担体の合成〕
下記に様にしてマイクロエマルション法によって、La10Si27の組成の酸化ランタン−シリカ複合酸化物触媒担体を合成した。
【0072】
先ず、ランタン(La)源として、硝酸ランタン水溶液(0.3016mol、濃度1.675M)とアンモニア水(0.3748mol、濃度2.082M)との混合水溶液180mlを、2−ブタノール22.6mlと共に、アルキル系界面活性剤BC−5.5(商品名)456.9gをシクロヘキサン6485mlに溶解した溶媒中に混合して、マイクロエマルション液を用意した。一方、ケイ素(Si)源として、テトラエトキシシラン(TEOS)0.1809molをシクロヘキサン1000mlに溶解したアルコキシド溶液を用意した。
【0073】
ランタン源としてのマイクロエマルション液に、ケイ素源としてのアルコキシド溶液を混合するとともに、濃度14.8Mのアンモニア水79.85mlと蒸留水7.69mlとを加えた。この状態での有機溶媒と界面活性剤との比率(O/S)は63.6、油相と水相との比率(O/W)は6、ミセルの予想直径(dw)は40nm、pHは8.1である。また、混合時間は5分である。その結果、加水分解が生じ、酸化ランタン−シリカ複合酸化物の前駆体の一次粒子が生じ、またその一次粒子が凝集して二次粒子が生じる。
【0074】
つぎに、エタノール300ml、濃度14.8Mのアンモニア水192.82ml及び蒸留水18.57mlを加えて、マイクロエマルション液を二相領域に持って行き、撹拌しつつ、二次粒子同士を更に凝集させる熟成を行った。そのときのpHは10.0、水相と界面活性剤との比率(W/S)は34.2、継続時間は60分である。
【0075】
その後、凝集物を取り出して付着している界面活性剤のアルコール洗浄、乾燥、焼成を定法に従って行い、酸化ランタン−シリカ複合酸化物(La10Si27)からなる触媒担体を得た。
【0076】
〔本発明の酸化ネオジウム−ジルコニア複合酸化物触媒担体の合成〕
下記に様にしてマイクロエマルション法によって、NdZrO3.5の組成の酸化ネオジウム−ジルコニア複合酸化物触媒担体を合成した。
【0077】
ネオジム(Nd)源として、濃度0.1144Mのオキシ硝酸ジルコニウム0.0137mlと、濃度1.144Mの硝酸ネオジム0.1372mlと、濃度2.093Mのアンモニア水0.2511molとを混合した水溶液120mlを、2−ブタノール45.2mlと共に、アルキル系界面活性剤BC−5.5(商品名)304.6gをシクロヘキサン4323mlに溶解した溶媒中に混合して、マイクロエマルション液を用意した。一方、ジルコニウム(Zr)源として、111mlのシクロヘキサン溶液に、0.0124molのジルコニウム−2−ブチレートを溶解したアルコキシド溶液を用意した。
【0078】
ネオジム源としてのマイクロエマルション液に、ジルコニウム源としてのアルコキシド溶液を混合した。この状態での有機溶媒と界面活性剤との比率(O/S)は63.6、油相と水相との比率(O/W)は6、ミセルの予想直径(dw)は47nmである。また、混合時間は30秒である。
【0079】
さらに、一次粒子及びこれが凝集した二次粒子を形成させるために、濃度14.8Mのアンモニア水39.85mlと、1000mlのシクロヘキサン溶液に0.1112molのジルコニウム−2−ブチレートを溶解したアルコキシド溶液とを加えた。この状態で、pHは8.1であり、混合時間は1分である。そして、濃度14.8Mの希釈アンモニア水104.2ml及び蒸留水121mlを加えて、マイクロエマルション液を二相領域に持って行き、撹拌しつつ、二次粒子同士を更に凝集させる熟成を行った。そのときのpHは10.0、水相と界面活性剤との比率(W/S)は34.2、継続時間は60分である。
【0080】
その後、凝集物を取り出して、付着している界面活性剤のアルコール洗浄、乾燥、焼成を定法に従って行い、酸化ネオジウム−ジルコニア複合酸化物(NdZrO3.5)からなる触媒担体を得た。
【0081】
〔本発明の酸化イットリウム−シリカ複合酸化物触媒担体の合成〕
下記に様にしてマイクロエマルション法によって、Y10Si27の組成の酸化イットリウム−シリカ複合酸化物触媒担体20gを合成した。
【0082】
先ず、イットリウム(Y)源として、硝酸イットリウム水溶液(0.2014mol、濃度1.343M)と硝酸アンモニウム水(0.163mol、濃度2.776M)との混合水溶液(150ml)(硝酸イオン:0.604mol、4.028M)を、アルキル系界面活性剤であるポリオキシエチレン(n≒5.5)セチルエーテル(BC−5.5(商品名))171.3gをシクロヘキサン2432mlに溶解した溶媒中に混合して、マイクロエマルション液を用意した。一方、ケイ素(Si)源として、テトラエトキシシラン(TEOS)0.120841molをシクロヘキサン1000mlに溶解したアルコキシド溶液を用意した。
【0083】
イットリウム源としてのマイクロエマルション液に、ケイ素源としてのアルコキシド溶液を混合するとともに、濃度14.8Mのアンモニア水32.66mlと蒸留水3.15mlとを加えた。この状態での有機溶媒と界面活性剤との比率(O/S)は63.6、pHは7.2である。また、混合時間は5分である。その結果、加水分解が生じ、酸化イットリウム−シリカ複合酸化物の前駆体の一次粒子が生じ、またその一次粒子が凝集して二次粒子が生じる。
【0084】
つぎに、蒸留水230.0ml、エタノール200.0ml、及び濃度14.8Mのアンモニア水8.16mlを加えて、マイクロエマルション液を二相領域に持って行き、撹拌しつつ、二次粒子同士を更に凝集させる熟成を行った。そのときのpHは8.8、水相と界面活性剤との比率(W/S)は34.2、継続時間は60分である。
【0085】
その後、凝集物を取り出して3回洗浄し、乾燥し、仮焼し、そして800℃で2時間にわたって焼成を行って、酸化イットリウム−シリカ複合酸化物(Y10Si27)からなる触媒担体を得た。
【0086】
〔本発明の酸化マグネシウム−シリカ複合酸化物触媒担体の合成〕
下記に様にしてマイクロエマルション法によって、MgSiOの組成の酸化マグネシウム−シリカ複合酸化物触媒担体30gを合成した。
【0087】
先ず、マグネシウム(Mg)源として、硝酸マグネシウム水溶液(0.298827mol、濃度3.3203M)と硝酸アンモニウム水(0.2499mol、濃度2.776M)との混合水溶液(90ml)(硝酸イオン:0.848mol、9.417M)を、アルキル系界面活性剤であるポリオキシエチレン(n≒5.5)セチルエーテル(BC−5.5(商品名))251.3gをシクロヘキサン4323mlに溶解した溶媒中に混合して、マイクロエマルション液を用意した。一方、ケイ素(Si)源として、テトラエトキシシラン(TEOS)0.298827molをシクロヘキサン1000mlに溶解したアルコキシド溶液を用意した。
【0088】
マグネシウム源としてのマイクロエマルション液に、ケイ素源としてのアルコキシド溶液を混合するとともに、濃度14.8Mのアンモニア水40.33mlと蒸留水3.88mlとを加えた。この状態での有機溶媒と界面活性剤との比率(O/S)は90、油相と水相との比率(O/W)は6、pHは7.8である。また、混合時間は5分である。その結果、加水分解が生じ、酸化マグネシウム−シリカ複合酸化物の前駆体の一次粒子が生じ、またその一次粒子が凝集して二次粒子が生じる。
【0089】
つぎに、蒸留水230.0ml及びエタノール200.0mlを加えて、マイクロエマルション液を二相領域に持って行き、撹拌しつつ、二次粒子同士を更に凝集させる熟成を行った。そのときのpHは7.8、水相と界面活性剤との比率(W/S)は34.2、継続時間は60分である。
【0090】
その後、凝集物を取り出して3回洗浄し、乾燥し、仮焼し、そして800℃で2時間にわたって焼成を行って、酸化マグネシウム−シリカ複合酸化物(MgSiO)からなる触媒担体を得た。
【0091】
〔本発明の酸化ランタン−チタニア複合酸化物触媒担体の合成〕
下記に様にしてマイクロエマルション法によって、LaTiO3.5の組成のパイロクロア構造酸化ランタン−チタニア複合酸化物触媒担体30gを合成した。
【0092】
ランタン(La)源として、硝酸ランタン水溶液(0.0824mol、1.030M)80mlと、耐電促進剤としての0.18M塩化コリン3.016mlとを混合した水溶液を、アルキル系界面活性剤BC−5.5(商品名)104.5gをシクロヘキサン2594mlに溶解した溶媒中に混合して、マイクロエマルション液を用意した。一方、チタン(Ti)源として、シクロヘキサン1000mlに、0.0824molのチタン−ブチレートを溶解したアルコキシド溶液を用意した。
【0093】
上記のマイクロエマルション液に、一次粒子及びこれが凝集した二次粒子を形成させるために、濃度13.5Mのアンモニア水66.57ml、35%アルキルアンモニウム4.27ml、及びシクロヘキサン溶液1000mlに0.0824molのチタン−ブチレートを溶解したアルコキシド溶液を加えた。この状態で、pHは10.0であり、また混合時間は5分である。そして、蒸留水230.0ml及びエタノール200mlを加えて、水相と界面活性剤との比率(W/S)にして、マイクロエマルション液を二相領域に持って行き、撹拌しつつ、二次粒子同士を更に凝集させる熟成を行った。そのときのpHは10.0、継続時間は5分である。
【0094】
その後、凝集物を取り出して、付着している界面活性剤のアルコール洗浄、乾燥、焼成を定法に従って行い、酸化ランタン−チタニア複合酸化物(LaTiO3.5)からなる触媒担体を得た。
【0095】
〔他の本発明の複合酸化物触媒担体の合成〕
上記と同様にしてマイクロエマルション法によって、本発明の酸化ネオジウム−シリカ複合酸化物(Nd10Si27)触媒担体、酸化ランタン−アルミナ複合酸化物(LaAlO)触媒担体、酸化ネオジウム−アルミナ複合酸化物(NdAlO)触媒担体、酸化ランタン−ジルコニア複合酸化物(LaZrO3.5)触媒担体、酸化マグネシウム−アルミナ複合酸化物(MgAlO2.5)触媒担体、酸化イットリウム−ジルコニア複合酸化物(YZrO3.5)触媒担体、酸化ネオジム−チタニア複合酸化物(NdTiO3.5)触媒担体、及び酸化イットリウム−チタニア複合酸化物(YTiO3.5)触媒担体を合成した。
【0096】
〔従来技術の触媒担体〕
従来技術の触媒担体として、La、Al、ZrO、TiO、SiOを得た。
【0097】
〔評価〕
本発明及び従来技術の触媒担体について電気陰性度を求めた。またこれらの触媒担体に1wt%の白金粒子を定法に従って担持し、空気中において800℃で2時間にわたって焼成した後の白金粒子の粒径を測定した。これらの測定結果を、下記の表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
表3から明らかなように白金粒子のシンタリング抑制に関して、本発明の複合酸化物担体は、比較例のγ一アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカに対して明らかな効果がある。シンタリング抑制効果が大きいのは、酸化ランタン−シリカ複合酸化物(La10Si27)、酸化ネオジウム−ジルコニア複合酸化物(NdZrO3.5)、及び酸化イットリウム−シリカ複合酸化物(Y10Si27)であり、いずれも電気陰性度が2.70付近であってγ一アルミナと同等であった。一般に、この電気陰性度2.70から離れるほど粒子径が大きくなっている。ランタン、ネオジムの4f−LUMO軌道に貴金属電子が配位することによって強い結合が生じたことが、シンタリング抑制を達成していると考えられる。
【0100】
参考までに、酸化ランタン−シリカ複合酸化物(仕込み組成La10Si27)触媒担体のx線回折(XRD)分析結果を図3に示す。
【実施例2】
【0101】
この実施例では、シンタリング抑制効果に対する複合酸化物の組成の影響について説明する。
【0102】
ランタン含有率(La/(La+Si))の異なる複数の酸化ランタン−シリカ複合酸化物を用意し、それぞれに1wt%の白金粒子を担持し、空気中において800℃で2時間にわたって焼成した後で、白金粒子径を測定した。白金(Pt)粒子径についての評価結果を図4に示す。図4から明らかなように、ランタン含有率が50〜70%付近で白金粒子の粒径が小さく維持されており、シンタリング抑制効果が大きいことが認められた。
【0103】
同様に、酸化ネオジム−ジルコニア複合酸化物について、ネオジム含有率(Nd/(Nd+Zr))の影響を調べた。白金粒子の担持量及び焼成条件は、上記の酸化ランタン−シリカ複合酸化物の場合と同様とした。白金(Pt)粒子径についての評価結果を図5に示す。図5から明らかなように、ネオジム含有率が30〜70%と広い範囲で白金粒子の粒径が小さく維持されており、シンタリング抑制効果が大きいことが認められた。また、上記の酸化ランタン−シリカ複合酸化物の場合と比較すると、ネオジム含有率が上記の範囲を外れても白金粒子径の急激な増大がなく、シンタリング抑制効果に対するネオジム含有率の影響が比較的少ないことが認められた。
【0104】
このように、複合酸化物を構成する金属元素の組み合わせによっては、貴金属触媒粒子のシンタリング抑制効果に対する組成の影響が現れるので、実験により好適な組成を求めることが好ましい。
【実施例3】
【0105】
モノリスハニカム基材に、ジルコニアゾルを用いて、120g/基材−Lの量で本発明の酸化ランタン−シリカ複合酸化物(La10Si27)触媒担体をコートし、そして触媒担体がコートされている基材に対して1.2g/基材−Lの白金を担持して、本発明の排ガス浄化触媒を得た。
【0106】
このようにして得た本発明の排ガス浄化触媒に、下記の組成のストイキガスを1,000℃でそれぞれ2時間、10時間及び20時間にわたって供給して耐久を行った。その後、耐久を行っていない本発明の排ガス浄化触媒、及び耐久を行った本発明の排ガス浄化触媒に対して、同じストイキガスを、温度を上昇させながら供給して、HC50%浄化温度(HCの浄化率が50%に達したときの触媒温度)を調べた。
【0107】
【表4】

【0108】
HC50%浄化温度の評価結果を図6に示す。この図6からは、白金粒子のシンタリングはある程度進むが、一方で劣化幅は非常に小さく、ランタン−シリカ複合酸化物担体より白金粒子の移動が抑制されたことは明らかである。すなわちランタン−シリカ複合酸化物と白金粒子との相互作用が非常に高いことが理解される。
【実施例4】
【0109】
本発明に係る複合酸化物担体を、これより耐熱性が高い担体であるγ−アルミナ上に担持した。その構造を模式的に示せば図7のとおりであり、γ−アルミナ粒子1上に酸化ランタン−シリカ複合酸化物2が担持されている。尚、実際には、このγ−アルミナ粒子が凝集して多孔構造を形成している。
【0110】
先ず、γ−アルミナを用意し、これにTEOSアルコール溶液を吸水させ、余分な溶液を吹き払った後で、250℃で1時間にわたって乾燥する。これに続けて、硝酸ランタン溶液を吸水させ、同様に、余分な溶液を吹き払った後で、250℃で1時間にわたって乾燥する。このようにしてケイ素及びランタンを吸水担持させた後、空気中800℃×2時間の焼成を行い、γ−アルミナ上に酸化ランタン−シリカ複合酸化物複合酸化物を担持した触媒担体(La10Si27/γ−アルミナ)を得た。
【0111】
これに触媒成分として1wt%の白金粒子を定法に従って担持し、空気中において800℃で2時間にわたって焼成した後で、白金粒子の粒径を測定した。その結果を、上記の実施例1における酸化ランタン−シリカ複合酸化物複合酸化物(La10Si27)触媒担体についての測定結果及びγ−アルミナについての測定結果と併せて下記の表5に示す。
【0112】
【表5】

【0113】
表5から明らかなように、担体の全体を酸化ランタン−シリカ複合酸化物複合酸化物とした場合、及びγ−アルミナの表面に酸化ランタン−シリカ複合酸化物複合酸化物を形成した場合のいずれであっても、焼成後の白金粒子径が小さく、従来のγ−アルミナからなる担体に比較して貴金属触媒粒子のシンタリング抑制効果に優れていることが確認された。
【実施例5】
【0114】
以下では、白金以外の貴金属粒子のシンタリングを抑制する効果について説明する。
【0115】
貴金属のシンタリングについては、次に示す経験式に従ってシンタリングの進行が起こることが知られている:
1/Spr=1/S+kt …(1)
(Sprは貴金属粒子の表面積、Sは初期の貴金属粒子表面積、k及びnは任意の定数、tは時間である)。
【0116】
ここで次数nは2であることが多く、従って上記の式は下記のように表すことができる:
1/Spr=1/S+kt …(2)
【0117】
シンタリングの影響を正しく評価するためには、この式に実際の物理量を入れる必要がある。
【0118】
まず、縦軸について、触媒担体に担持された貴金属量が同一であるとすると、貴金属粒子の粒子径dは、貴金属粒子の表面積Sprに反比例する。従って貴金属粒子の粒子径dと貴金属粒子の表面積Sprとの関係は以下のようになる:
1/Spr∝d …(3)
∴1/Spr∝d …(4)
(dは貴金属粒子の粒子径、Sprは貴金属粒子の表面積)。
【0119】
よって、縦軸にはdを採ることができる。
【0120】
次に、横軸には時間を採る。ここでは、表面積の異なる担体について担体と貴金属との相互作用を正しく評価するために、無次元化した時間tを横軸に採る方法を用いる。
【0121】
これに関し、担持された貴金属粒子の衝突までの時間は、粒子間の平均距離に比例し、また平均距離は担体の表面積の1/2乗(Ssup1/2)に比例する。すなわち、担体の表面積が大きいと他の粒子と衝突しないで自由に拡散できる時間が長くなり、この平均自由行程時間に対する実時間の割合は小さくなる。
【0122】
従って無次元化した時間tは、実際の熱劣化(耐久)時間tに対して、下記のように表すことができる:
t=t/Ssup1/2 …(5)
【0123】
また、試験におけるそれぞれの試料に対する熱劣化時間tが一定であるとすると、式(5)は下記のように表すことができる:
t∝1/Ssup1/2 …(6)
【0124】
従って、横軸には1/Ssup1/2を採ることができる。
【0125】
式(2)、(4)及び(6)から、貴金属のシンタリングについての式は下記のようになる:
=k’/Ssup1/2+Q …(7)
(dは貴金属粒子の粒子径、Ssupは担体表面積、k’及びQは定数)
【0126】
このような前提の下に、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)のシンタリングについて調べた結果を説明する。パラジウム及びロジウムともリーンでは、酸化物となり、その蒸気圧も小さいため、ほとんどシンタリングしない。そこでパラジウムとロジウムとの粒子のシンタリングについての調査は、理論空燃比で行った。理論空燃比(あるいは真空中)の貴金属のシンタリングは、その融点と密接に関係する。融点は、ロジウム>>白金>パラジウムであり、融点が低いほどシンタリングする。従ってパラジウムで特に大きなシンタリングが起こることになる。
【0127】
まず、シンタリングする傾向が大きいパラジウムについて調べた。ここでは実施例1でのようにして得た担体にパラジウムを担持して触媒を得、この触媒を、ガソリンエンジンの排気系におけるエキゾーストマニホールド位置に搭載し、空燃比を理論空燃比として、排ガス温度900℃で2時間にわたって運転した。また同様にして、シンタリングする傾向が小さいロジウムについて調べた。
【0128】
結果を下記の表6に示す。
【0129】
【表6】

【0130】
パラジウムについての結果を、図8に示す。更にパラジウムについての結果を、先ほどの関係で整理して、図9に示す。この図9では、横軸に担体表面積の−1/2乗を、縦軸にパラジウム粒子の直径の2乗を採っている。
【0131】
これら図8及び9からは、従来技術の担体に対して、本発明の担体では明らかなシンタリング抑制効果が得られたことが理解される。また、シリカ系の複合酸化物で最も大きな効果が得られ、ジルコニア系のものでは効果が小さかった。尚、この図9において、本発明の担体が従来技術の担体の右下側にあることは、本発明の担体では、担体の表面積が比較的小さいにもかかわらず、パラジウムのシンタリングを抑制していることを意味している。
【0132】
また、パラジウムについての結果を、図10に示す。更にパラジウムについての結果を、先ほどの関係で整理して、図11に示す。この図11では、横軸に担体表面積の−1/2乗を、縦軸にパラジウム粒子の直径の2乗を採っている。
【0133】
これら図10及び11からは、従来技術の担体に対して、本発明の担体では明らかなシンタリング抑制効果が得られたことが理解される。先ほどと同様な結果になったが、複合酸化物の対の元素による差は非常に小さくなった。ただし、この温度では担体の表面積の大きさの効果が強く出ており、絶対値ではアルミナ上のロジウム粒子が一番小さかった。
【0134】
このように本発明の担体は表面積が小さいにも拘わらず、貴金属粒子のシンタリングを抑制することが確認できた。
【0135】
以上説明したように、本発明の担体は、貴金属触媒粒子を担持することにより排ガス浄化用触媒とされ、高温下での酸化雰囲気及び還元雰囲気に曝される。本発明の排ガス浄化触媒では、触媒活性のある貴金属粒子のシンタリングが抑制されてその粒径の増大が抑制され、貴金属粒子の比表面積が大きい状態に維持されるので、排ガスの浄化機能が長期に亘って良好に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の触媒担体の機構を概念的に示す図である。
【図2】LaSiOの組成のアパタイト型複合酸化物の結晶構造を示す図である。
【図3】本発明の酸化ランタン−シリカ複合酸化物触媒担体のXRD分析結果を示す図である。
【図4】本発明に係る酸化ランタン−シリカ複合酸化物担体の白金粒子シンタリング抑制効果の測定結果を示す線図である。
【図5】本発明に係る酸化ネオジム−ジルコニア複合酸化物担体の白金粒子シンタリング抑制効果の測定結果を示す線図である。
【図6】本発明の酸化ランタン−シリカ複合酸化物触媒担体に白金担持してなる本発明の排ガス浄化触媒でのHC50%浄化温度を示す図である。
【図7】γ−アルミナ上に本発明に係る酸化ランタン−シリカ複合酸化物担体を担持させた状態を模式的に示す図である。
【図8】パラジウム粒子シンタリングの担体による差を示す図である。
【図9】パラジウム粒子シンタリングの担体による差を経験式に基づいて示す図である。
【図10】ロジウム粒子シンタリングの担体による差を示す図である。
【図11】ロジウム粒子シンタリングの担体による差を経験式に基づいて示す図である。
【符号の説明】
【0137】
1 γ−アルミナ粒子
2 酸化ランタン−シリカ複合酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属触媒粒子の貴金属元素が接近若しくは接触することによりその貴金属元素から電子を受容する電子受容性があり且つ酸化還元反応で原子価の変化がない電子受容性元素、及び
他の元素、
の複合酸化物から構成されている、貴金属担持用の触媒担体。
【請求項2】
前記電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の触媒担体。
【請求項3】
前記電子受容性元素が、ランタン、ネオジム及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項2に記載の触媒担体。
【請求項4】
前記他の元素が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒担体。
【請求項5】
前記他の元素が、ケイ素、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4に記載の触媒担体。
【請求項6】
前記複合酸化物の電気陰性度が、2.55〜2.80である、請求項1〜5のいずれかに記載の触媒担体。
【請求項7】
前記電子受容性元素と前記他の元素との合計に対する前記電子受容性元素のモル比が、0.3以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の触媒担体。
【請求項8】
前記電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、
前記他の元素が、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ
前記電子受容性元素と前記他の元素との合計に対する前記電子受容性元素のモル比が、0.3以上である、
請求項1に記載の触媒担体。
【請求項9】
前記電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、
前記他の元素が、ケイ素であり、且つ
前記電子受容性元素と前記他の元素との合計に対する前記電子受容性元素のモル比が、0.5〜0.7である、
請求項8に記載の触媒担体。
【請求項10】
前記電子受容性元素がランタンであり、前記他の元素がケイ素であり、且つランタンとケイ素との合計に対するランタンのモル比(La/(La+Si))が、0.5〜0.7である、請求項9に記載の触媒担体。
【請求項11】
前記電子受容性元素が、ランタン、ネオジム、イットリウム、マグネシウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、
前記他の元素が、アルミニウム、ジルコニウム、チタン及びそれらの組み合わせからなる群より選択され、且つ
前記電子受容性元素と前記他の元素との合計に対する前記電子受容性元素のモル比が、0.3〜0.7である、
請求項8に記載の触媒担体。
【請求項12】
前記電子受容性元素がネオジムであり、前記他の元素がジルコニウムであり、且つネオジムとジルコニウムとの合計に対するネオジムのモル比(Nd/(Nd+Zr))が、0.3〜0.7である、請求項11に記載の触媒担体。
【請求項13】
前記複合酸化物が、この複合酸化物より相対的に耐熱性の高い他の担体粒子に担持されている、請求項1〜12のいずれかに記載の触媒担体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の触媒担体に、貴金属触媒粒子が担持されてなる、排ガス浄化用触媒。
【請求項15】
前記貴金属触媒粒子が、白金、パラジウム及びそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項14に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項16】
疎水性溶媒相中に水性相が分散している分散液を提供すること、
前記分散液中に分散している水性相中において、前記電子受容性元素の塩及び前記他の元素の塩を加水分解して、金属酸化物前駆体を析出させ、この金属酸化物前駆体を凝集させること、並びに
凝集させた前記金属酸化物前駆体を乾燥及び焼成すること、
を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の触媒担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−144393(P2007−144393A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194548(P2006−194548)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】