説明

触媒担持担体の製造方法および電極触媒の製造方法

【課題】異種金属それぞれに固有の還元剤の使用と還元処理のための製造管理や処理時間を不要とでき、合金前駆体を予め製造するといった工程を要することなく、効率的で品質に優れたコアシェル触媒を形成することのできる触媒担持担体の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性担体1に第1の触媒金属2が担持されてなる触媒担持担体の中間体10が溶媒W内に混合されて懸濁液をなし、この懸濁液を熱処理して懸濁液の液電位を低下させる工程、この懸濁液に対して第2の触媒金属3を混合し、中間体10の第1の触媒金属2の表面を第2の触媒金属3が修飾する工程からなる触媒担持担体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の電極触媒を形成する触媒担持担体の製造方法と、この方法で製造された触媒担持担体を使用してなる電極触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の各電極触媒層(電極触媒)とから膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を成し、各電極触媒層の外側にガス流れの促進と集電効率を高めるためのガス拡散層(GDL)が設けられて電極体(MEGA:MEAとGDLの接合体)を成し、このガス拡散層の外側にセパレータが配されて燃料電池セルが形成されている。実際には、これらの燃料電池セルが発電性能に応じた基数だけ積層され、燃料電池スタックが形成されることになる。
【0003】
上記する従来の触媒層の形成方法は、たとえば、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)等の基材表面に、触媒を担持した触媒担持担体、高分子電解質(アイオノマ)、分散溶媒を含んだ触媒溶液(触媒インク)を塗工し、次いで該触媒溶液表面をホットプレート等で乾燥させること(湿式塗工法)で触媒層が形成されている。なお、この塗工作業においては、スプレーで塗布する方法やドクターブレードを使用する方法などがある。
【0004】
ところで、燃料電池の発電性能向上の重要な要素である、電極触媒の効率もしくは活性を上げるべく、これを電極触媒の製造方法やこの電極触媒を構成する触媒担持担体の製造方法からのアプローチで達成せんとする技術が種々発案されている。
【0005】
この開発技術の一つとして、導電性担体の表面に触媒金属の単体を担持させる代わりに、触媒粒子の表面(殻もしくはシェル)にのみ活性の高い白金等を残し、触媒作用に大きく寄与しない粒子の内部(核もしくはコア)を白金とは異なる低活性の金属から構成した、いわゆるコアシェル触媒が担持された触媒担持担体の製造やその開発が注目を浴びている。
【0006】
このコアシェル触媒では、極めて高価でレアな白金使用量を可及的に低減しながら、しかも従来の白金触媒と同程度の微粒子を形成でき、かつ同程度もしくはそれ以上の触媒活性を期待することができる。
【0007】
ここで、このコアシェル触媒を有する電極触媒の製造方法に関する従来の公開技術として、特許文献1に開示の技術を挙げることができる。ここで開示される電極触媒の製造方法は、ミセル内部に塩化ロジウムを含む溶液を含有する逆ミセル溶液と、ミセル内部に白金イオンを含む溶液を含有する逆ミセル溶液とを混合し、ロジウムイオンの還元剤および白金イオンの還元剤を添加し、溶液に導電性担体を分散して複合金属粒子を導電性担体に担持させるものである。
【0008】
特許文献1に開示の製造方法からも理解できるように、異種金属からなるコアシェル触媒を導電性担体表面に形成しようとすると、異種金属それぞれに固有の還元剤を使用する必要があり、また、各金属の還元処理のタイミングも重要となるなど、還元処理に要する製造管理やそのための処理時間、還元剤に要する材料コストなどの問題が生じてしまう。
【0009】
そこで、コアシェル触媒に関する技術ではないものの、特許文献2では、たとえば白金と白金以外の金属からなる合金前駆体を逆ミセル法で製造し、これと炭素粉末を溶媒に添加し、不活性ガスを導入して加熱処理することにより、還元剤を使用することなく、合金触媒からなる電極触媒を製造する技術の開示がある。
【0010】
しかし、この技術では、逆ミセル法を適用して合金前駆体を製造するなど、処理に際しての難易度の高い工程が電極触媒製造に付加されるという大きな問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−196972号公報
【特許文献2】特開2008−130325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、コアシェル触媒が導電性担体に担持されてなる触媒担持担体を製造する方法に関し、異種金属それぞれに固有の還元剤の使用を不要とし、還元処理のための製造管理やそのための処理時間を一切不要とし、合金前駆体を予め製造するといった工程を要することなく、効率的で品質に優れたコアシェル触媒を形成することのできる触媒担持担体の製造方法と、この方法によって得られた触媒担持担体を使用してなる電極触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成すべく、本発明による触媒担持担体の製造方法は、触媒が導電性担体に担持されてなる触媒担持担体の製造方法であって、導電性担体に第1の触媒金属が担持されてなる触媒担持担体の中間体が溶媒内に混合されて懸濁液をなし、この懸濁液を熱処理して懸濁液の液電位を低下させる第1の工程、液電位が低下した前記懸濁液に対して第2の触媒金属を混合し、中間体の第1の触媒金属の表面を第2の触媒金属が修飾する第2の工程からなるものである。
【0014】
本発明の製造方法は、第1の触媒金属(たとえばコア触媒)を予め導電性担体表面に担持させておき、これを純水等の溶媒内に混合させて懸濁液を形成し、第2の触媒金属(たとえばシェル触媒)をこの懸濁液に混合する前に、懸濁液を熱処理することによって該懸濁液の液電位を低下させ、液電位が低下した段階で第2の触媒金属を懸濁液に投入し、混合して第1の触媒を第2の触媒が修飾してたとえばコアシェル触媒を形成し、これが導電性担体に担持されてなる触媒担持担体を製造するものである。なお、コア触媒となる第1の触媒金属には、Pd、Ir、Rhなどの単体もしくはそれらの合金を使用することができる。
【0015】
たとえば溶媒に純水を使用する場合には、この純水を100℃未満の熱湯となるまで加熱処理することにより、懸濁液の温度上昇に伴ってその液電位は低下し、100℃に近い温度となった段階で懸濁液の液電位もたとえば500mV程度の一定値まで低下することが本発明者等によって特定されている。
【0016】
そして、懸濁液の温度が一定値に落ち着き、かつその液電位が一定値未満にまで落ち込んだタイミングでシェル触媒となる第2の触媒金属をこの懸濁液に投入し、混合することにより、コア触媒表面に可及的に均一な厚みの層を成したシェル触媒が形成されてなるコアシェル触媒が得られ、このコアシェル触媒にて導電性担体の表面が修飾(付着、もしくは吸着、もしくは化学結合の意味である)されてなる触媒担持担体が得られることを本発明者等は見出している。
【0017】
たとえば溶媒である水が熱処理によって酸化分解されることにより、懸濁液内に電子が放出され、これが第1の触媒金属表面に吸着される。この懸濁液内に第2の触媒金属を投入すると、第2の触媒金属はこの電子を介して第1の触媒金属表面に還元析出され、この第1の触媒金属の表面を修飾してコアシェル触媒を形成することが本発明者等によって特定されている。
【0018】
なお、シェル触媒となる第2の触媒金属には、Ptを使用することができ、従来の触媒担持担体のように、カーボン担体表面に白金のみが担持されてなる触媒担持担体に比して白金使用量を格段に低減することが可能となる。そして、本発明者等の検証によれば、このように白金使用量を低減しながら、触媒活性も従来触媒に比して良好となる結果が得られている。したがって、従来の製造方法に比して製造コストを廉価としながら、発電性能に優れた燃料電池セルを製造することが可能となるものである。
【0019】
また、本発明による触媒担持担体の製造方法の好ましい実施の形態は、少なくとも前記第1の工程において前記懸濁液を不活性ガスにてバブリング処理するものである。
【0020】
本発明者等によれば、窒素ガス等の不活性ガスにて懸濁液をバブリングしながら熱処理することにより、中間体が混入された懸濁液の液電位の低下は一層顕著となることが実証されている。なお、「少なくとも前記第1の工程において」とは、バブリング処理が第1の工程の間のみにおこなわれる形態であってもよいし、第1〜第2の工程の全工程に亘っておこなわれる形態であってもよいことを意味している。
【0021】
そして、この不活性ガスによるバブリングと熱処理を併用して懸濁液の液電位を低下させ、これに第2の触媒金属を混合することにより、シェルの層形成や、この層の厚みの均一性が一層向上し、より高品質なコアシェル構造の触媒を形成できることが見出されている。なお、使用する不活性ガスとしては、窒素ガスのほかに、アルゴンガス、ヘリウムガスなどがある。
【0022】
導電性担体に担持された第1の触媒金属の周りに溶媒である水が存在し、これが窒素ガス等で十分に飽和されると、第1の触媒金属はその全表面がメタル化され易くなり、この全表面に水が酸化分解される。この酸化分解によって電子が生じ、この電子を介して第2の触媒金属がより一層還元析出され易くなるというものである。
【0023】
また、本発明による触媒担持担体の製造方法の好ましい実施の形態は、前記第1の工程において、前記懸濁液を熱処理して前記溶媒の沸点以下の温度であって、65〜95℃の範囲に調整するものである。
【0024】
既述するように、100℃に近い温度となった段階で懸濁液の液電位もたとえば500mV程度の一定値まで低下することが本発明者等によって特定されているが、100℃に近い高温下における製造は製造コストが高くなる傾向にあり、可及的に懸濁液の温度を低減しながら液電位を所望に低下させるのが好ましい。
【0025】
本発明者等の検証によれば、懸濁液の温度が60℃以下になるとたとえば第2の触媒金属であるPtイオンの第1の触媒金属であるPd上での反応選択性が失われ、カーボン上にPt等の単独粒子が析出することが分かっており、溶媒が水からなる懸濁液において、これを熱処理して65〜95℃の温度範囲に調整することで、カーボン上へのPt等の単独粒子析出を抑制しながら、低コストでコアシェル粒子を製造できることが見出されている。
【0026】
また、本発明による触媒担持担体の製造方法の好ましい実施の形態は、前記第1の工程において前記懸濁液を水素処理するものである。
【0027】
この方法は、たとえば、第1の工程で熱処理をする前の段階や熱処理をした後の段階、不活性ガスによるバブリングをする前の段階、バブリング後の段階のいずれかの段階で、懸濁液を水素処理し、第1の触媒金属の表面もしくはこの表面近傍を水素化(水素イオンが吸着された状態、もしくは水素イオンが近傍を浮遊している状態)しておくものである。このように、この水素処理をおこなう段階は第1の工程中のいずれのタイミングであってもよいが、第2の触媒金属の添加時には残留水素が無いように処理をおこなっておく。
【0028】
本発明者等によれば、第1の触媒金属の表面もしくはこの表面近傍が水素化されていることで、第2の触媒金属が修飾され易くなり、結果として得られたコアシェル触媒の触媒活性も向上することが実証されている。
【0029】
ここで、上記する水素処理として、以下の2種の方法を挙げることができる。
【0030】
その一つは、懸濁液を水素ガスにてバブリングする方法であり、他の一つは、懸濁液に水素化ホウ素ナトリウムを添加する方法である。
【0031】
特に水素化ホウ素ナトリウムを懸濁液に添加する方法においては、この水素化ホウ素ナトリウムのうち、その一部の水素(イオン)は第1の触媒金属表面に吸着され、残りの水素化ホウ素ナトリウムは懸濁液中で分解され、懸濁液中に余分な水素が放出されないことが特定されている。
【0032】
第1の触媒金属表面に水素イオンが吸着された状態で懸濁液に第2の触媒金属を投入することにより、単に第2の工程前に懸濁液を熱処理する上記製造方法や、この熱処理に加えて不活性ガスによるバブリング処理をおこなう上記製造方法よりも、より一層均一な厚みのシェル触媒にてコア触媒の全表面が修飾された高品質なコアシェル触媒が得られる。
【0033】
さらに、本発明は、上記する製造方法にて得られた触媒担持担体を使用する電極触媒の製造方法にも及ぶものであり、上記方法で得られた触媒担持担体と、別途の高分子電解質を別途の分散溶媒に投入し、攪拌して触媒溶液(触媒インク)を生成し、基材表面上でこの触媒溶液からなる層を形成して乾燥処理し、電極触媒を製造するものである。
【0034】
ここで、基材とは、電解質膜やガス拡散層等を意味しており、この基材に触媒溶液がたとえば塗工ブレード等にて層状に引き伸ばされて塗膜が形成され、ホットプレスや温風乾燥炉等を使用した高温乾燥などの乾燥処理を経て、アノード側およびカソード側の触媒層(触媒電極)が形成される。
【0035】
既述するように、本発明の製造方法にて得られた触媒担持担体を使用して触媒インクを生成し、これを使用して得られた電極触媒を有する燃料電池セルは、従来製法による電極触媒を有する燃料電池セルに比してその発電性能が高く、しかも、触媒金属の材料コスト低減に基づく安価な製造コストの下で得られるものである。
【0036】
本発明の導電性担体の製造方法、この方法で製造された導電性担体を使用してなる電極触媒の製造方法で製造された電極触媒を有する燃料電池は、上記のごとき効果を奏するものであることから、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能と低製造コストを要求している電気自動車やハイブリッド車用の燃料電池に好適である。
【発明の効果】
【0037】
以上の説明から理解できるように、本発明の触媒担持担体の製造方法によれば、コアシェル触媒のコア触媒と導電性担体からなる中間体を溶媒に混合して懸濁液を生成し、シェル触媒をこの懸濁液に混合する前に懸濁液を熱処理することにより、より好ましくは、この熱処理に加えて不活性ガスによるバブリング処理をおこなうことにより、より望ましくは、これら熱処理と不活性ガスによるバブリング処理に加えてコア触媒の表面もしくはその近傍を水素化しておくことにより、可及的安価に、しかも触媒活性に優れたコアシェル触媒が導電性担体に担持されてなる触媒担持担体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)は本発明の触媒担持担体の製造方法の一実施の形態の第1の工程を説明した模式図であり、(b)は第1の工程にて電子が第1の触媒金属表面に吸着している状態を説明した模式図である。
【図2】(a)は本発明の触媒担持担体の製造方法の一実施の形態の第2の工程を説明した模式図であり、(b)は第1の触媒金属表面の電子によって第2の触媒金属が吸引されている状態を説明した模式図であり、(c)は第1の触媒金属の表面に第2の触媒金属が修飾されてコアシェル触媒が形成された触媒担持担体を説明した模式図である。
【図3】本発明の触媒担持担体の製造方法の他の実施の形態の第1の工程を説明した模式図である。
【図4】(a)は本発明の触媒担持担体の製造方法のさらに他の実施の形態の第1の工程を説明した模式図であり、(b)は第1の工程にて水素イオンが第1の触媒金属表面に吸着している状態を説明した模式図である。
【図5】触媒の酸素還元活性を検証した実験における、実施例1の製造方法を時系列的に説明したグラフである。
【図6】触媒の酸素還元活性を検証した実験における、実施例2の製造方法を時系列的に説明したグラフである。
【図7】実施例製法と比較例製法双方で得られた触媒担持担体の単位質量当たりの活性に関する実験結果を示す図である。
【図8】(a)は実施例1の製造方法によるコアシェル触媒のTEM−EDX写真図であり、(b)は(a)中のポイント1,2,3におけるコア触媒金属およびシェル触媒金属を含む含有金属原子の質量比を示す図である。
【図9】(a)は実施例1の製造方法によるコアシェル触媒のTEM−EDX写真図であり、(b)は(a)中のポイント1,2,エリア1におけるコア触媒金属およびシェル触媒金属を含む含有金属原子の質量比を示す図である。
【図10】(a)は実施例2の製造方法によるコアシェル触媒のTEM−EDX写真図であり、(b)は(a)中のEDXライン1における白金強度およびパラジウム強度に関する分析結果を示す図である。
【図11】(a)は実施例1,2、比較例3,4の窒素飽和条件における電位変化を示すグラフであり、(b)は実施例1,2、比較例3,4の酸素飽和条件における電位変化を示すグラフである。
【図12】第1の工程における懸濁液の適正温度範囲を検証した実験結果を示す図であり、(a)は80℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図であり、(b)はコアシェル触媒の表面からの距離とPt量およびPd量の関係を示すグラフである。
【図13】(a)、(b)はともに60℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図である。
【図14】Ptの還元析出に必要な溶液中の水素イオン濃度と溶液温度の関係を示すグラフである。
【図15−1】(a)、(b)はともに、40℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図である。
【図15−2】(c)、(d)はともに、40℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図である。
【図16−1】(a)、(b)はともに、60℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図である。
【図16−2】(c)は、60℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図である。
【図17−1】(a)、(b)はともに、80℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図である。
【図17−2】(c)は、80℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して本発明の触媒担持担体の製造方法を概説する。ここで、図1aは、本発明の触媒担持担体の製造方法の一実施の形態の第1の工程を説明した模式図であり、図1bは、第1の工程にて電子が第1の触媒金属表面に吸着している状態を説明した模式図である。また、図2aは、図1に続いて本発明の触媒担持担体の製造方法の一実施の形態の第2の工程を説明した模式図であり、図2bは、第1の触媒金属表面の電子によって第2の触媒金属が吸引されている状態を説明した模式図であり、図2cは、第1の触媒金属の表面に第2の触媒金属が修飾されてコアシェル触媒が形成された触媒担持担体を説明した模式図である。さらに、図3は、本発明の触媒担持担体の製造方法の他の実施の形態の第1の工程を説明した模式図であり、図4aは、本発明の触媒担持担体の製造方法のさらに他の実施の形態の第1の工程を説明した模式図であり、図4bは、第1の工程にて水素イオンが第1の触媒金属表面に吸着している状態を説明した模式図である。
【0040】
図1aで示す製造方法は、まず、第1の工程として、容器Y内に収容された純水からなる溶媒W内に、導電性担体1の表面にコア触媒となる第1の触媒金属2が担持された中間体10を投入して懸濁液を生成し、これを熱処理するものである。
【0041】
この懸濁液の熱処理においては、溶媒Wが純水であることより、その沸点以下である65℃〜95℃の範囲に調整されるのがよい(その根拠を示す実験結果は後述する)。
【0042】
懸濁液が熱処理されてたとえば上記温度範囲中の65℃に近づくにつれて、懸濁液の液電位も漸減していく。第2の工程で第2の触媒金属を投入するタイミングは、この懸濁液の液電位に閾値を設けておき、液電位がこの閾値を下回った段階で第2の触媒金属を投入するようにするのが望ましい。本発明者等によれば、溶媒に純水を使用し、これに中間体を混合して懸濁液を生成し、これを熱処理してその液電位を低下させる場合に、懸濁液の液温度が65〜95℃程度となった段階でコアシェル触媒形成に効果的な液電位雰囲気となることが特定されている。たとえば、懸濁液の液温度が95℃程度となった段階で液電位が500mVを下回ることが特定されている。そこで、懸濁液の液温度が65〜95℃程度、液電位が所定値を下回ったタイミングで第2の触媒金属を投入することにより、従来の製造方法に比して品質のよいコアシェル触媒が形成できることが見出されている。
【0043】
懸濁液を上記温度範囲となるように熱処理することで、図1bで示すように、水中でH2O→2H++1/2O2+2e-の酸化分解が生じ、この電子:e-がコア触媒2の表面に吸着される。
【0044】
この状態で、図2aで示すように、懸濁液中にシェル触媒となる第2の触媒金属3を投入すると、図2bで示すように、シェル触媒3がコア触媒2表面に吸引され、図2cで示すように、コア触媒2の表面をシェル触媒3が修飾してコアシェル触媒4を形成し、このコアシェル触媒4が導電性担体1に担持されてなる触媒担持担体20が得られる。
【0045】
上記する製造方法では、コア触媒、シェル触媒それぞれに固有の還元剤を一切使用しておらず、第1の工程にて中間体が混入された懸濁液を熱処理するのみの極めて簡易な改良製法によるものである。
【0046】
ここで、導電性担体1としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、グラファイトカーボン、高結晶カーボン、アセチレンブラックなどの炭素材料のほか、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、セリアなどのセラミックスなどを挙げることがでる。
【0047】
また、コア触媒金属としては、Pd、Ir、Rh、Au、Re、Os、Ru、Ag、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Mo、Cu、Ptのうちのいずれか一種(単体)、もしくはこれらのうちの2種以上の合金を使用できる。
【0048】
一方、シェル触媒金属としては、Pt、Pd、Ir、Rh、Au、Re、Os、Ru、Ag、Fe、Co、Ni、Cr、Mn、Mo、Cuのうちのいずれか一種(単体)、もしくはこれらのうちの2種以上の合金を使用できる。なお、シェル触媒金属としては4価−1価の金属塩を使用でき、中でも2価−1価のものが好ましい。
【0049】
図3で示す製造方法は、図1aで示す第1の工程と同様に懸濁液を熱処理することに並行して、懸濁液内に導入管Kを介して窒素等の不活性ガスを提供し(X1方向)、バブリング処理するものである。
【0050】
ここで、熱処理時の懸濁液の目標温度を65〜95℃程度とした際に、このバブリング処理のタイミングは、懸濁液がこの目標温度になる前であってもよいし、目標温度に達した後であってもよい。また、第1の工程〜第2の工程の全工程に亘って不活性ガスをバブリング処理するものであってもよい。
【0051】
窒素バブリングにより、懸濁液の液電位は、図1で示す熱処理のみの製造方法の場合よりも顕著に低下することが見出されており、この方法で得られたコアシェル触媒の構造は、コア触媒の表面により一層均一な厚みのシェル触媒からなる層が形成され、触媒活性も一層向上することが分かっている。なお、使用する不活性ガスとしては、窒素ガスのほかに、アルゴンガス、ヘリウムガスなどがあり、これらを10〜1000ml/minの量で懸濁液に提供するのがよい。
【0052】
また、図4で示す製造方法は、図3で示す製造方法、すなわち、第1の工程で懸濁液を熱処理し、これと並行して不活性ガスにてバブリング処理することに加えて、懸濁液を水素処理し、中間体10を形成する第1の触媒金属2の周りを水素化しておくものである。
【0053】
ここで、水素処理には、懸濁液に水素ガスをバブリングする方法のほか、図示するように、水素化ホウ素ナトリウム5を懸濁液に投入する方法がある。
【0054】
水素化ホウ素ナトリウム5の投入のタイミングは、第2の工程の前の段階、たとえば、第1の工程で熱処理をする前の段階や熱処理をした後の段階、不活性ガスによるバブリングをする前の段階、バブリング後の段階のいずれの段階であってもよい。懸濁液を水素処理することにより、図4bで示すように、第1の触媒金属2の表面に水素イオン:H+が吸着された状態が形成され、さらにバブリングされた窒素:N2がこの近傍に浮遊している。
【0055】
本発明者等によれば、第1の触媒金属の表面もしくはこの表面近傍が水素化されていることで、第2の触媒金属が修飾され易くなり、得られたコアシェル触媒の触媒活性がより一層向上することが実証されている。
【0056】
第1の触媒金属2の表面に吸着された水素イオンにより、懸濁液に投入された第2の触媒金属が効果的に還元され、第1の触媒金属表面に厚みが可及的に均一で層状のシェル触媒が形成される。
【0057】
上記する種々の製造方法にてコアシェル触媒が導電性担体に担持されてなる触媒担持担体が得られ、これを使用して電極触媒が製造される。
【0058】
具体的には、用意された容器内に収容された分散溶媒へ、得られた触媒担持担体と高分子電解質(アイオノマ)を投入し、超音波ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミルなどを使用して攪拌等することにより、触媒溶液(触媒インク)を生成する。
【0059】
ここで、投入される高分子電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材である、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを使用することもできる。
【0060】
また、分散溶媒としては、水のほか、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。
【0061】
生成された触媒溶液を、基材である電解質膜、ガス拡散層、支持フィルムのいずれか一種に塗工等し、温風乾燥、ホットプレス等することによって基材表面に電極触媒を形成することができる。ここで、この電解質膜は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成されるものである。また、ガス拡散層は、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等から形成されるものである。さらに、支持フィルムは、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルムなどを挙げることができ、これらの素材からなるシートを2層以上積層して基材としてもよい。なお、市販素材である、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)などを使用することもできる。
【0062】
[触媒の酸素還元活性を検証した実験とその結果]
本発明者等は、以下3種の発明方法(実施例1,2,3)で触媒担持担体を製造するとともに、従来の製造方法を含む比較例1〜4の方法でも触媒担持担体を製造し、これらの酸素還元活性を検証するとともに、そのうちの実施例1,2に関してはTEM−EDX撮影をおこない、含有金属原子の質量比を分析した。
【0063】
まず、実施例1にかかる方法は、Pd担持カーボン(BASF社製、Pd20%/C、C9-20)0.5gを純水500mLに懸濁し、攪拌しながら95℃で還流して懸濁液を生成した(この段階で、懸濁液の液電位は500mVを下回っている)。次いで、K2PtCl40.122g(Pt1原子層相当)を純水200mlに溶かし、懸濁液に1時間かけて滴下し、4時間攪拌した後に水洗いをおこない、濾過後に80℃で送風乾燥して触媒担持担体を得た。
【0064】
実施例2にかかる方法は、Pd担持カーボン(BASF社製、Pd20%/C、C9-20)0.5gを純水500mLに懸濁し、N2バブリングおよび攪拌しながら95℃で還流して懸濁液を生成した。次いで、K2PtCl40.122g(Pt1原子層相当)を純水200mlに溶かしてN2バブリングし、懸濁液に1時間かけて滴下した。次いで、N2バブリングしながら4時間攪拌した後に水洗いをおこない、濾過後に80℃で送風乾燥して触媒担持担体を得た。
【0065】
一方、実施例3にかかる方法は、Pd担持カーボン(BASF社製、Pd20%/C、C9-20)0.5gを純水50mLに懸濁し、水素化ホウ素ナトリウムを0.082g添加して48時間、室温で攪拌しながら残置し、N2バブリングおよび攪拌しながら95℃で還流して懸濁液を生成した。次いで、K2PtCl40.122g(Pt1原子層相当)を純水200mlに溶かしてN2バブリングし、懸濁液に1時間かけて滴下した。次いで、N2バブリングしながら4時間攪拌した後に水洗いをおこない、濾過後に80℃で送風乾燥して触媒担持担体を得た。
【0066】
上記する実施例1〜3の製造方法に対し、比較例1にかかる方法は、実施例1の方法において、懸濁液の液電位が600mVの段階でPtを滴下したものである。
【0067】
比較例2にかかる方法は、実施例1と同様の素材を使用し、無電解メッキ法にてコアシェル触媒を合成したものである。
【0068】
比較例3にかかる方法は、コアシェル触媒でなく、カーボン担体にパラジウムのみが担持されたPd/C(BASF社製、Pd20%/C、C9-20)を製造したものである。
【0069】
さらに、比較例4にかかる方法は、比較例3と同様にコアシェル触媒でなく、カーボン担体に白金のみが担持されたPt/C(田中貴金属社製、Pt30%/C、TEC10E30E)を製造したものである。
【0070】
ここで、図5,6はそれぞれ、実施例1,2の製造方法を時系列的に説明したグラフである。
【0071】
まず、図5で示す実施例1の方法では、熱処理により、懸濁液が一つの閾値である500mVを下回った段階でPtを懸濁液に添加するものである。
【0072】
同図からも明らかなように、この500mVの液電位は、懸濁液の温度が95℃となった段階の温度でもあり、Pt添加によって液電位は上昇に転じる。また、懸濁液のpHは、懸濁液の温度上昇に伴って低下し、pHが4を下回った酸性雰囲気でほぼ一定となる。
【0073】
一方、図6で示す実施例2の方法では、熱処理とN2バブリングを同時に開示し、N2バブリングはPt添加後も継続しておこなうものである。
【0074】
図5,6を比較すると明りょうとなるが、実施例2の方法では、懸濁液の液電位の下限ピーク値は、実施例1が450mV程度であるのに対して300mV程度にまで低下している。
【0075】
また、懸濁液のpHも実施例2の方がより酸性雰囲気となっており、Pt添加後の液電位の傾向は、実施例1が600mV程度に漸増するのに対して、実施例2は700mV近くまで急激に上昇した後、上限ピークを経て急降下する傾向を示している。
【0076】
実施例1〜3、および比較例1〜4の各製造方法によって製造された触媒担持担体の酸素還元活性に関する検証結果を以下の表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に関し、上段の結果は、触媒の白金量とパラジウム量の総計(白金のみの場合は白金量、パラジウムのみの場合はパラジウム量)で発電量を除してなる単位質量活性値であり、中段の結果は、パラジウム量を無視し、白金量のみで発電量を除してなる単位質量活性値であり、下段の結果は、パラジウムの材料コストを白金の1/4と仮定し、このコスト比を質量に反映させて触媒量を調整し、調整された触媒量にて発電量を除してなる単位質量活性値である。このことより、材料コストと触媒活性の双方を加味した単位質量活性値を示す下段の結果を用いることが、車両メーカーにとっては好ましいと言える。
【0079】
表1より、導電性担体に白金やパラジウムが単体で担持されてなる従来構造の触媒担持担体を示す比較例4,3に対し、各実施例は実施例1,2,3の順に触媒活性が向上しており、特に、実施例3においては、比較例4,3に対して活性が2〜3倍も向上することが実証されている。
【0080】
また、図7で示す酸化物ピーク電位シフトと単位質量当たりの酸素還元活性に関するグラフからも、比較例4に対して各実施例は実施例1,2,3の順に電位シフトの増加と還元活性の増加が確認でき、中でも実施例3は比較例4に対しておよそ2.5倍も活性が向上することが確認できる。
【0081】
さらに、図8,9には実施例1の製造方法によるコアシェル触媒のTEM−EDX写真図を、図10には実施例2の製造方法によるコアシェル触媒のTEM−EDX写真図をそれぞれ示すとともに、コア触媒金属およびシェル触媒金属を含む含有金属原子の質量比に関する分析結果を示している。なお、図8においては、図8bで示す各質量比分析グラフの上段、中段、下段がそれぞれ、図8aのポイント1,2,3の結果を示すものである。また、図9においては、図9bで示す各質量比分析グラフの上段、中段、下段がそれぞれ、図9aのポイント1,2とエリア1の結果を示すものである。
【0082】
図8,10で示す実施例1,2のコアシェル触媒ともに、中央のコア触媒金属の周りにシェル触媒が形成されているのが確認できる。また、図8,10を比較すると明りょうとなるが、実施例1に対して実施例2のコアシェル触媒の方が、コアはパラジウムの原子量が支配的であり、シェルは白金の原子量が増大しており、パラジウムコアと白金シェルからなるコアシェル構造がより精度よく形成されていることが分かる。
【0083】
また、図11a,bにはそれぞれ、実施例1,2の製造方法によるコアシェル触媒の電位変化を示している。ここで、図11aは、0.1M HClO4、27℃、N2飽和、100mV/secの条件下の結果であり、図11bは、0.1M HClO4、27℃、O2飽和、10mV/secの条件下の結果である。
【0084】
図11より、実施例1,2ともに触媒金属が白金単独の場合に類似の電気化学特性を有していることが確認できる。
【0085】
[第1の工程における懸濁液の適正温度範囲を検証した実験とその結果]
本発明者等は、第1の工程における懸濁液の適正温度範囲を検証するための実験をおこなった。これは、懸濁液を熱処理して所望温度範囲に調整することでその液電位を低下させ、これにコアシェル触媒のシェルを構成する第2の触媒金属を投入することによって、品質のよいコアシェル触媒が形成できることによるものである。
【0086】
まず、懸濁液を熱処理して60℃、80℃にそれぞれ調整した2種類の懸濁液を使用してコアシェル触媒を形成した。
【0087】
より具体的には、Rd担持カーボンを0.3g用意してこれをイオン交換水300gに投入し、これをN2バブリングした後に、各イオン交換水を60℃、80℃まで昇温し、次いで、K2PtCl40.083g(0.20mmol)をイオン交換水200gに溶かしたものを添加し、攪拌しながら、それぞれの溶液温度を60℃、80℃で5時間保持した。
【0088】
次いで、濾過して60℃のイオン交換水500mLで洗浄を3回実施し、80℃で15時間送風乾燥して触媒担持担体を得た。
【0089】
図12aは、80℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図であり、図12bはコアシェル触媒の表面からの距離とPt量およびPd量の関係を示すグラフである。また、以下の表2は製造されたコアシェル触媒のPd、Pt組成比を示している。
【0090】
【表2】

【0091】
図12および表2より、コアシェル粒子を確認することができ、かつ、PdやPtの単独粒子は存在していない。
【0092】
一方、図13a,bは、60℃の懸濁液の下で製造されたコアシェル触媒のSTEM写真図であり、以下の表3は製造されたコアシェル触媒のPd、Pt組成比を示している。
【0093】
【表3】

【0094】
図13および表3より、コアシェル粒子を確認することができず、Ptの単独粒子が存在している。すなわち、60℃以下になるとPtイオンのPd上への反応選択性が失われ、目的とするコアシェル粒子が製造できなくなることが実証されている。
【0095】
上記する実験結果より、懸濁液を60℃に熱処理した場合にはコアシェル粒子を形成し難いことが分かり、最低でもそれよりも高い温度である65℃以上に懸濁液の温度を調整する必要があり、この65℃以上であって既述する95℃の範囲に調整されるのが良いと結論付けることができる。
【0096】
しかし、懸濁液の温度は、コアシェル粒子を形成できる温度のうちでも、可及的に低い温度であることが製造コストの削減に繋がる。以下、その試算結果の一例を示す。
【0097】
まず、製造時の温度を95℃から80℃へ変更した場合に節約できる熱量を求める。水1gを1K(1℃)上昇させるために必要な熱量を1J(ジュール)とすると、95℃から80℃とした際に、水500g(実施例での使用量)×15(温度差)=7500Jとなり、昇温時に節約できる熱量は7500Jである。
【0098】
次に、この熱量に相当する費用を求める。ここでは、22円/kWhをベースに算出する。一般に、1kWh=1×1000W×3600s=3.6×106Jであり、1J=2.78×10−7 kWhとなることから、7500Jは7500J×2.78×10−7kWh/J=2.1×10−3 kWhとなる。
【0099】
このときのコストは、22円/kWh×(2.1×10-3kWh)=0.046円(コスト低減単価)となる。
【0100】
燃料電池の量産時には、触媒を30kg製造するためスケールを100,000倍にすると水も100,000倍使用するため、0.046円×100,000=4600円となり、1回の製造で4600円程度コスト低減できる試算となる。さらに温度を5時間程度保持する場合もコスト低減単価×時間分のコスト低減を見込むことが可能となる。
【0101】
ところで、H2Oの酸化分解によって得られる電子を利用してPtイオンをPd粒子上へ還元析出させることにより、Pd粒子がPt層で被覆されたコアシェル触媒を製造できるが、既述するように、懸濁液の温度を95℃付近に調整した後にPtを添加し、攪拌をおこなうことでコアシェル触媒が合成される。しかし、実際にはこの温度条件下でコアシェル触媒を合成した場合には、Pd上へPtは還元析出しているものの、理想的なコアシェル構造にはなっていない。その原因の一つとして、カーボン材料(Ketjen)上へのPt析出があり、95℃付近の高温加熱によってカーボン上でのH2O酸化分解が発生しているためである。そこで、加熱温度を65〜80℃の範囲に調整することで、カーボン上でのH2O酸化分解よりもPd上での酸化分解を促進することを本発明者等は見出した。この懸濁液の温度条件によれば、さらに、上記試算で示すように、95℃付近の高温加熱の場合に比して低温でコアシェル触媒を合成することから、製造時のコスト低減を図ることもできる。したがって、本発明の製造方法の第1の工程における懸濁液の温度範囲は65℃〜95℃の範囲に調整されるのが好ましいものの、65℃〜80℃の範囲に調整されるのが望ましいと結論付けることができる。
【0102】
以下、懸濁液を熱処理して40℃、60℃、80℃にそれぞれ調整した3種類の懸濁液を使用した際の、コアシェル触媒の合成の可否を検証した結果を示す。
【0103】
本実験の概要は、Pd30mass%/Ketjen0.3gをイオン交換水500mLに懸濁し、攪拌及びN2バブリングしながら加熱還流し、K2PtCl40.083g(Pt1原子層分)をイオン交換水200mLに溶かしてN2バブリングしたものを500mLのイオン交換水に1時間かけて滴下し、そのまま4時間加熱攪拌した後に濾過および水洗し、80℃で送風乾燥してコアシェル触媒の合成をおこなった。
【0104】
ここで、Ptの還元析出に必要な溶液中の水素イオン濃度(H20の酸化分解)をpH計で追跡し、水素イオン濃度と溶液温度の関係を求めた結果を図14に示している。
【0105】
同図より、懸濁液の温度が55〜80℃程度でのH+生成量は、Pd/Ketjen>Ketjenとなり、この温度範囲ではPd/KetjenのPd上で酸化分解が優先的に進行すると推察される。
【0106】
また、55℃未満ではカーボンによるH20酸化分解が抑制できること、および、55〜88℃ではPd上でのH20酸化分解が優先的に発生することが特定された。
【0107】
そして、40℃、60℃、80℃にそれぞれ調整された3種類の懸濁液を使用した際のコアシェル触媒の合成の可否に関する実験結果を、図15(40℃の結果)、16(60℃の結果)、17(80℃の結果)でSTEM写真図で示すとともに、以下の表4,5,6に示している。なお、表6は表2を含むものであり、表5は表3を含むものである。
【0108】
【表4】

【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
図15、16および表4,5より、懸濁液温度が40℃の合成品、60℃の合成品ともに、観察した金属粒子中にPtの単独粒子が存在していることが観察され、Pd粒子に対するPt被覆が十分におこなわれていないことが分かった。
【0112】
一方、図17および表6より、懸濁液温度が80℃の合成品では、観察した金属粒子中にPtの単独粒子は観察されず、Pd粒子がPtで十分に被覆されているコアシェル触媒が形成されていることが分かった。
【0113】
以上の結果より、本発明の製造方法の第1の工程では、溶媒が水からなる懸濁液の温度を65℃〜95℃の範囲に調整すること、より望ましくは65℃〜80℃の範囲に調整することで品質のよいコアシェル触媒を合成できることが実証された。なお、懸濁液の温度が60℃以下では、Ptの単独粒子が生成されてしまい、十分にコアシェル触媒が合成できていないことも実証されている。
【0114】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0115】
1…導電性担体、2…第1の触媒金属(コア触媒)、3…第2の触媒金属(シェル触媒)、4…コアシェル触媒、3’…皮膜(高分子電解質からなる皮膜)、5…水素化ホウ素ナトリウム、10…中間体、20…触媒担持担体、Y…容器、W…溶媒(純水)、K…導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が導電性担体に担持されてなる触媒担持担体の製造方法であって、
導電性担体に第1の触媒金属が担持されてなる触媒担持担体の中間体が溶媒内に混合されて懸濁液をなし、この懸濁液を熱処理して懸濁液の液電位を低下させる第1の工程、
液電位が低下した前記懸濁液に対して第2の触媒金属を混合し、中間体の第1の触媒金属の表面を第2の触媒金属が修飾する第2の工程からなる触媒担持担体の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が純水からなる、請求項1に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項3】
少なくとも前記第1の工程において前記懸濁液を不活性ガスにてバブリング処理する、請求項1または2に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程でも不活性ガスによるバブリング処理をおこなう、請求項3に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の工程において、前記懸濁液を熱処理して前記溶媒の沸点以下の温度であって、65〜95℃の範囲に調整する請求項1〜4のいずれかに記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程において前記懸濁液を水素処理する、請求項1〜5のいずれかに記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項7】
前記水素処理が懸濁液を水素ガスにてバブリングするものである、請求項6に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項8】
前記水素処理が懸濁液に水素化ホウ素ナトリウムを添加するものである、請求項6に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法で製造された触媒担持担体と、高分子電解質および分散溶媒とから触媒溶液を生成し、
基材表面上で前記触媒溶液からなる層を形成して乾燥処理し、電極触媒を製造する電極触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【公開番号】特開2012−5969(P2012−5969A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144714(P2010−144714)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】