説明

触媒構造体およびその製造方法

【課題】α−アルミナよりなる担体の表面に銀とアルミナの複合体よりなる触媒を担持してなり、炭素を燃焼するために用いられる触媒構造体において、担体表面にて触媒を薄く均一に担持しつつ、担体からの触媒の脱落を防止しやすくする。
【解決手段】触媒20は、銀とβ−アルミナとの化合物よりなる層21と、銀よりなる層22とが積層されてなる積層体であり、担体10と触媒20との界面にて、担体10の結晶面と触媒20の結晶面とが整合している状態で、触媒20の担持がなされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−アルミナよりなる担体の表面に銀とアルミナの複合体よりなる触媒を担持してなり、炭素を燃焼するために用いられる触媒構造体、および、そのような触媒構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の触媒構造体としては、α−アルミナよりなる担体上へ銀を含む材料よりなる触媒を担持する際に、触媒粒子、無機系の接着成分等を分散したスラリーを用いて担持したものが知られている。
【0003】
また、従来では、溶液から担体上に触媒を析出させる方法として、銀とアルカリ水溶液が含浸されたα−アルミナよりなる担体を、130〜300℃のスチームで熱処理することで、触媒構造体を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。このものでは、スチームを用いて銀塩を分解し、担体上に金属銀を析出させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−123629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来技術では、複雑な形状の担体や、ペレットや粉体のような細かく多数の担体に同時に担持する場合に、触媒を薄く均一に担持することは困難であった。そのため触媒使用量が多くなるなどの問題があった。また、使用される接着成分は触媒機能を阻害しないよう最小限にする必要があり、担持された触媒は常に脱落の危険性があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、α−アルミナよりなる担体の表面に銀とアルミナの複合体よりなる触媒を担持してなり、炭素を燃焼するために用いられる触媒構造体において、担体表面にて触媒を薄く均一に担持しつつ、担体からの触媒の脱落を防止しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、α−アルミナよりなる担体(10)とこの担体(10)の表面に担持された銀とアルミナの複合体よりなる触媒(20)からなり、炭素を燃焼するために用いられる触媒構造体であって、触媒(20)は、銀β−アルミナよりなる層(21)と、銀よりなる層(22)とが積層されてなる積層体であり、担体(10)と触媒(20)との界面にて、担体(10)の結晶面と触媒(20)の結晶面とが整合している状態で、触媒(20)の担持がなされていることを特徴とする。
【0008】
本発明の触媒構造体は、TEM分析により実験的に見出されたものであり、担体(10)の表面上に触媒(20)が薄く均一に形成されるとともに、担体(10)であるα−アルミナの結晶面とそれに担持された触媒(20)の結晶面とが整合して化学的に結合しているため、触媒(20)の担持力が大きいものとなっている。そのため、本触媒構造体によれば、担体(10)表面にて触媒(20)を薄く均一に担持しつつ、担体(10)からの触媒(20)の脱落を防止しやすくすることができる。
【0009】
ここで、担体(10)としては、全体がα−アルミナであってもよいが、請求項2に記載の発明のように、担体(10)はα−アルミナとは異なる材料よりなる芯材上にα−アルミナをコートしてなるものであってもよい。つまり、担体(10)のうち触媒(20)が担持される表面部分がα−アルミナであればよく、内部は別の材料よりなるものであってもよい。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、α−アルミナよりなる担体(10)とこの担体(10)の表面に担持された銀とアルミナの複合体よりなる触媒(20)とよりなり、炭素を燃焼するために用いられる触媒構造体の製造方法であって、担体(10)と銀を含む材料との混合物を、酢酸が存在する環境にて水熱処理を行い、担体(10)の構成材料であるα−アルミナと銀イオンとを反応させることにより、担体(10)の表面に、銀とβ−アルミナとの化合物よりなる層(21)と銀よりなる層(22)とが積層されてなる積層体としての触媒(20)を形成するとともに、担体(10)と触媒(20)との界面にて、担体(10)の結晶面と触媒(20)の結晶面とが整合している状態とすることを特徴とする。
【0011】
それによれば、上記請求項1と同様、銀β−アルミナよりなる層(21)と銀よりなる層(22)とが積層されてなる積層体としての触媒(20)と担体(10)とが両者の結晶面を整合させた状態で、当該触媒(20)が担体(10)の表面に担持されてなる触媒構造体が適切に製造される。そのため、本発明によっても、担体(10)表面にて触媒(20)を薄く均一に担持しつつ、担体(10)からの触媒(20)の脱落を防止しやすくすることができる。
【0012】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の実施形態に係る触媒構造体の概略断面図であり、(b)は(a)中の担体と触媒との界面部分の拡大図であり、(c)は(b)中の触媒のさらなる拡大図である。
【図2】触媒構造体の加熱プロファイルを示す図である。
【図3】実施形態および比較例について煤の燃焼特性を評価した結果を示す図である。
【図4】実施形態と一般的な白金−アルミナ触媒とで平均燃焼速度を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各図相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0015】
図1において、(a)は本発明の実施形態に係る触媒構造体の概略断面構成を示す図であり、(b)は(a)中の担体10と触媒20との界面部分を拡大して示す概略断面図、(c)は(b)中の触媒20をさらに拡大してその詳細構成を示す概略断面図である。
【0016】
なお、図1の(b)、(c)は、本発明者が測定した電子顕微鏡によるTEM像に基づいたものであり、このTEM像を模式的に表したものである。ここで、電子顕微鏡としては、日本電子製のJEM2010F、エネルギー分散型X線分光分析装置としてノーラン製UTW型Si(Li)半導体検出器を用いた。
【0017】
本実施形態の触媒構造体は、触媒20を担持するための担体10と、この担体10の表面に担持された触媒20とにより構成されており、図1(a)に示されるように、全体として粒子状をなすものである。この触媒構造体においては、触媒20の作用により、炭素を燃焼させるものであり、炭素としては、たとえばディーゼルエンジンに発生する煤などが挙げられる。
【0018】
担体10はα−アルミナよりなる粒子状のものである。その粒子径は、特に限定するものではないが、たとえばサブミクロンから数ミリ程度のものである。
【0019】
また、触媒20については、図1(b)に示されるように、個々のものは粒子状であるが、この粒子状の触媒20が、担体10の表面にて高密度に密集して設けられており、全体としては、担体10の表面に薄く均一に触媒20の層が形成された状態とされている。この触媒20の層厚は、合成条件によって異なるが、サブミクロンから数ミクロン程度である。
【0020】
さらに、個々の粒子状の触媒20は、図1(c)に示されるように、銀とβ−アルミナとの化合物よりなる層21と、銀よりなる層22とが積層されてなる積層体として構成されている。
【0021】
そして、この積層体としての触媒20が担体10の表面に担持されており、担体10と触媒20との界面にて、担体10であるα−アルミナの結晶面と触媒20の結晶面とが整合している。なお、上述したように、この本実施形態の触媒20の構造は、分析型電子顕微鏡によるTEM像により確認されている。
【0022】
このように、本実施形態の触媒構造体によれば、担体10の表面にて触媒20を薄く均一に担持しつつ、担体10の結晶面と触媒20の結晶面とが整合し、化学的に結合しているため、担体10からの触媒20の脱落を防止しやすくすることができる。
【0023】
また、触媒20は、触媒特性も優れている。本実施形態の触媒20は、銀β−アルミナよりなる層21を有するが、この層21では、当該層21中を銀イオンが移動して、一種の局所電池を形成する。そのため、炭素の燃焼時には、触媒20が燃焼雰囲気中の酸素を電気化学的に還元して活性化するので、この活性化された酸素によって炭素の燃焼がより低温で可能となると推定される。
【0024】
次に、この触媒構造体の製造方法について述べる。本製造方法は、α−アルミナよりなる担体10と酸化銀あるいは酢酸銀との混合物を、酢酸が存在する環境にて水熱処理を行い、担体10の構成材料であるα−アルミナと銀イオンとを反応させることにより、担体10の表面に、銀β−アルミナよりなる層21と銀よりなる層22とが積層されてなる積層体としての触媒20を形成するものである。
【0025】
このような製造方法の一具体例を述べる。まず、担体10として直径1mmのα−アルミナボールを100g、銀を含む材料として酸化銀を1.16g、酢酸を1.2g用意し、これらに約35mLの蒸留水を加えて、混合する。
【0026】
そして、この混合液を圧力容器に封入して、175℃で24時間、水熱処理を行う。これにより、上記図1に示したような、α−アルミナよりなる担体10の表面に、上記積層体としての触媒20が形成されてなる本実施形態の触媒構造体ができあがる。
【0027】
次に、この具体例により製造された本実施形態の触媒構造体について、本発明者が行った触媒特性評価の結果について述べる。まず、燃焼させる炭素として、ディーゼルエンジンより採集した煤を用い、この煤を触媒構造体の表面にコーティングし、本実施形態のサンプルを作製した。
【0028】
また、上記積層体としての触媒を単独で合成し、これをディップコーティングにより、担体10の表面に担持させた触媒構造体を作製し、このものについても上記同様に、その表面に煤をコーティングし、そして、これを1つ目の比較例のサンプルとした。
【0029】
なお、この1つ目の比較例の触媒構造体は、触媒特性は本実施形態のものと同等であるが、本実施形態のものに比べて担体と触媒とで結晶面が整合されているとはいえず、触媒と担体とが点接触に近いものであり、触媒の脱落が発生しやすいものである。また、触媒を担持しない担体10の表面に煤をコーティングしたものを作製し、これを2つ目の比較例のサンプルとした。
【0030】
そして、これら本実施形態および両比較例それぞれについて、サンプルを加熱していったときの重量変化について、示差熱熱重量同時測定装置による測定を行った。なお、示差熱熱重量同時測定装置としては、(株)エスエスアイナノテクノロジー製のEXSTAR6000 TG/DTAを用いた。
【0031】
図2はこの装置を用いて触媒構造体を加熱したときの加熱プロファイルを示す図であり、横軸に時間(単位:分)、縦軸にサンプルの温度(単位:℃)を表してある。このプロファイルでは、まず窒素100vol%の雰囲気にて室温を10分間続け、その後50℃/分の加熱速度で昇温を行い、温度を425℃とする。この425℃となった時点を測定のスタート時点とし、図2では、これを時間0として示してある。
【0032】
そして、このスタート時点からは、それ以降の雰囲気を10vol%の酸素ガスと90vol%の窒素ガスとからなる混合ガス雰囲気とし、さらに、50℃/分の加熱速度で昇温を行い、温度を500℃とする。その後、この500℃の温度を30分間続ける。そして、最後には、残った煤を燃焼し尽くすために、50℃/分で温度を700℃まで上昇させる。
【0033】
このような加熱プロファイルにおいて、500℃における触媒特性、すなわち500℃における煤の燃焼特性を評価した。ここで、一般のものでは燃焼は主として600℃くらいで行われるため、500℃で良好な燃焼が行われるならば、低温での燃焼特性が優れた触媒構造体であると言える。
【0034】
図3は、本実施形態および上記各比較例について、この500℃における煤の燃焼特性を評価した結果を示す図である。ここでは、横軸に時間(単位:秒)、縦軸に重量減少(単位:mg)を表してある。
【0035】
図3に示されるように、本実施形態のサンプルは、同じ触媒を有する1つ目の比較例と同様に、500℃で重量減少が顕著である。すなわち、本実施形態によれば、500℃という従来に比べて低温の領域で、良好に煤を燃焼させることができる。
【0036】
また、図4は、上記した本実施形態のサンプルと一般的な白金−アルミナ触媒とで、平均燃焼速度を測定したものであり、横軸に温度(単位:℃)、縦軸に平均燃焼速度(単位:g/分/m)を表してある。この平均燃焼速度は、ある温度にて16分間燃焼を行った時の平均燃焼速度であり、上記図3に示されるような燃焼特性評価の結果から容易に算出されるものである。
【0037】
この平均燃焼速度が大きい方が燃焼特性に優れた触媒構造体であると言えるが、図4に示されるように、本実施形態では、一般的な白金−アルミナ触媒の600℃での平均燃焼速度を、520〜530℃で実現している。このことからも、本実施形態の燃焼特性は低温で優れたものであると言える。
【0038】
(他の実施形態)
なお、担体10としては、全体がα−アルミナであってもよいが、担体10のうち触媒20が担持される表面部分がα−アルミナであればよく、内部は別の材料よりなるものであってもよい。具体的には、担体10は、コージェライトなどのα−アルミナとは異なる材料よりなる芯材上に、α−アルミナを塗布・溶射などによってコーティングしたものであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
10 担体
20 触媒
21 銀β−アルミナよりなる層
22 銀よりなる層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アルミナよりなる担体(10)とこの担体(10)の表面に担持された銀とアルミナの複合体よりなる触媒(20)とよりなり、炭素を燃焼するために用いられる触媒構造体であって、
前記触媒(20)は、銀β−アルミナよりなる層(21)と、銀よりなる層(22)とが積層されてなる積層体であり、
前記担体(10)と前記触媒(20)との界面にて、前記担体(10)の結晶面と前記触媒(20)の結晶面とが整合している状態で、前記触媒(20)の担持がなされていることを特徴とする触媒構造体。
【請求項2】
前記担体(10)はα−アルミナとは異なる材料よりなる芯材上にα−アルミナをコートしてなるものであることを特徴とする請求項1の触媒構造体。
【請求項3】
α−アルミナよりなる担体(10)とこの担体(10)の表面に担持された銀とアルミナの複合体よりなる触媒(20)からなり、炭素を燃焼するために用いられる触媒構造体の製造方法であって、
前記担体(10)と酸化銀あるいは酢酸銀との混合物を、酢酸が存在する環境にて水熱処理を行い、前記担体(10)の構成材料であるα−アルミナと銀イオンとを反応させることにより、
前記担体(10)の表面に、銀β−アルミナよりなる層(21)と銀よりなる層(22)とが積層されてなる積層体としての前記触媒(20)を形成するとともに、前記担体(10)と前記触媒(20)との界面にて、前記担体(10)の結晶面と前記触媒(20)の結晶面とが整合している状態とすることを特徴とする触媒構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−88110(P2011−88110A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245418(P2009−245418)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】