説明

触媒製造方法、当該方法により製造される燃料電池用電極触媒、及び、触媒製造装置

【課題】担体への金属等の担持ムラを防ぐ触媒製造方法、当該方法により製造される燃料電池用電極触媒、及び、触媒製造装置を提供する。
【解決手段】担体に金属又は合金を担持する触媒の製造方法であって、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の領域を形成する工程、担体の温度を、独立に、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の領域を形成する工程、及び、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、前記第1の領域から前記第2の領域へ直接移送し、前記第2の領域内で、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体と、当該第1の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する前記担体とを混合することにより、前記金属又は合金を前記担体に担持させる工程、を有することを特徴とする、触媒製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体への金属等の担持ムラを防ぐ触媒製造方法、当該方法により製造される燃料電池用電極触媒、及び、触媒製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を電気的に接続された2つの電極に供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。火力発電とは異なり、燃料電池はカルノーサイクルの制約を受けないので、高いエネルギー変換効率を示す。燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜・電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。
【0003】
燃料電池の電極は、通常、電極触媒を含む。近年、燃料電池用の電極触媒の製造方法として、超臨界流体を用いて触媒金属を担体に担持させる方法が注目を集めている。特許文献1には、超臨界流体に金属前駆体を溶解させて前駆体流体を調製する溶解工程と、基材に上記前駆体流体を接触させるコート工程とにより金属担持物を得ることを特徴とする金属担持物の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1)。
【0004】
一方、特許文献2には、金属を担持させたカーボンナノ構造体の製造方法であって、予め基板に形成され、且つ、300〜800℃に加熱されたカーボンナノ構造体に、前記金属の化合物を超臨界流体に溶解した状態で接触処理する処理工程を有することを特徴とする、金属を担持させたカーボンナノ構造体の製造方法が開示されている(特許文献2の請求項4及び5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−017442号公報
【特許文献2】特開2006−273613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、多孔質基材の存在下で、白金前駆体を超臨界二酸化炭素に溶解させ、多孔質基材に白金前駆体を吸着させた後に超臨界二酸化炭素を除去し、焼成を行うことにより、多孔質基材に白金を担持させる旨が記載されている(特許文献1の明細書の段落[0023]−[0025])。しかし、本発明者らが検討したところ、このような手順では、例えば、1時間未満という短い処理時間内に多孔質基材に白金前駆体が十分量吸着しないという問題があることが明らかとなった。
特許文献2の図2には、カーボンナノ構造体へ白金を担持させる装置として、カーボンナノ構造体が形成されたシリコン基板及びマイクロヒーターを備える反応槽、超臨界二酸化炭素に溶解した白金触媒を収容する攪拌槽、及び、当該反応槽と当該攪拌槽とを接続/遮断するバルブを備える装置の構成図が掲載されている。しかし、本発明者らが検討したところ、このような装置を用いると、超臨界流体の温度が正確に制御できないという問題があることが明らかとなった。
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、従来技術よりも短い処理時間による担持処理の際の、担体への金属等の担持ムラを防ぐ触媒製造方法、当該方法により製造される燃料電池用電極触媒、及び、触媒製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の触媒製造方法は、担体に金属又は合金を担持する触媒の製造方法であって、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の領域を形成する工程、担体の温度を、独立に、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の領域を形成する工程、及び、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、前記第1の領域から前記第2の領域へ直接移送し、前記第2の領域内で、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体と、当該第1の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する前記担体とを混合することにより、前記金属又は合金を前記担体に担持させる工程、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明の製造方法においては、前記第1の領域に、前記第1の超臨界流体の温度を制御する第1の熱交換器がさらに設けられ、前記第1の超臨界流体を、前記第1の熱交換器と前記担体との間で循環させることが好ましい。
【0009】
本発明の製造方法においては、前記担持工程において、担持により消費された前記金属又は合金の前駆体に略相当する量の金属又は合金の前駆体を、連続的又は断続的に前記第1の超臨界流体に追加してもよい。
【0010】
本発明の製造方法においては、前記担持工程は、前記金属又は合金の前駆体を前記担体に吸着させる工程、及び、前記金属又は合金の前駆体を熱分解し、前記金属又は合金を前記担体に析出させる工程を有することが好ましい。
【0011】
本発明の製造方法においては、前記吸着工程における前記担体の温度が、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く、且つ、前記金属又は合金の前駆体が熱分解する温度未満であることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法においては、前記第1の超臨界流体の温度と、前記吸着工程における前記担体の温度との差を5〜100℃とすることが好ましい。
【0013】
本発明の製造方法においては、前記析出工程における前記担体の温度が、前記吸着工程における前記担体の温度よりも高いことが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法においては、前記吸着工程における前記担体の温度と、前記析出工程における前記担体の温度との差を20〜500℃とすることが好ましい。
【0015】
本発明の製造方法においては、前記析出工程における前記担体の温度が、前記金属又は合金の前駆体が熱分解する温度以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の製造方法においては、前記金属又は合金の前駆体は、白金、コバルト、パラジウム、銅、チタン、金、銀、ルテニウム、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、ロジウム、イリジウム、及びスズからなる群より選ばれる、1種の金属の前駆体又は2種以上の金属を含む合金の前駆体であることが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法においては、前記担体は、カーボンナノチューブ、カーボン粉末、チタン、シリコン、スズ、銅、チタニア、シリカ、及び酸化スズからなる群より選ばれる少なくとも1種の担体であることが好ましい。
【0018】
本発明の製造方法においては、前記第1の超臨界流体は、二酸化炭素、及びトリフルオロメタン(CHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体であることが好ましい。
【0019】
本発明の製造方法においては、さらに、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体の温度を独立に制御する、第3の領域を形成する工程、前記担体の温度を、独立に、前記第2の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第4の領域を形成する工程、並びに、前記アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、前記第3の領域から前記第4の領域へ直接移送し、前記第4の領域内で、前記アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体と、当該第2の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する前記担体及び当該担体に担持された金属又は合金とを混合することにより、前記担体及び当該担体に担持された金属又は合金にアイオノマーを被覆する工程を有することが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法においては、前記第3の領域に、前記第2の超臨界流体の温度を制御する第2の熱交換器がさらに設けられ、前記第2の超臨界流体を、前記第2の熱交換器と前記担体との間で循環させることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法においては、前記被覆工程において、被覆により消費された前記アイオノマーに略相当する量のアイオノマーを、連続的又は断続的に前記第2の超臨界流体に追加してもよい。
【0022】
本発明の製造方法においては、前記第2の超臨界流体の温度と、前記被覆工程における前記担体との差を5〜100℃とすることが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法においては、前記アイオノマーは、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン酸樹脂、芳香族ポリイミドスルホン酸樹脂、及びポリベンズスルホン酸樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のアイオノマーであることが好ましい。
【0024】
本発明の製造方法においては、前記第2の超臨界流体は、トリフルオロメタン(CHF)、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCHF)、及びペンタフルオロエタン(CFCHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体であることが好ましい。
【0025】
本発明の燃料電池用電極触媒は、上記触媒製造方法により製造されることを特徴とする。
【0026】
本発明の触媒製造装置は、担体に金属又は合金が担持した触媒の製造装置であって、ある1つの反応容器内に、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の温度制御手段、担体の温度を、独立に、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の温度制御手段、及び、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を前記担体へ直接移送する、第1の移送手段、を備えることを特徴とする。
【0027】
本発明の製造装置においては、前記第1の温度制御手段として第1の熱交換器を備え、前記第1の超臨界流体は、前記第1の熱交換器と前記担体との間で循環することが好ましい。
【0028】
本発明の製造装置においては、担持により消費された前記金属又は合金の前駆体に略相当する量の金属又は合金の前駆体を、連続的又は断続的に前記第1の超臨界流体に追加する手段をさらに備えてもよい。
【0029】
本発明の製造装置においては、前記金属又は合金の前駆体は、白金、コバルト、パラジウム、銅、チタン、金、銀、ルテニウム、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、ロジウム、イリジウム、及びスズからなる群より選ばれる、1種の金属の前駆体又は2種以上の金属を含む合金の前駆体であることが好ましい。
【0030】
本発明の製造装置においては、前記担体は、カーボンナノチューブ、カーボン粉末、チタン、シリコン、スズ、銅、チタニア、シリカ、及び酸化スズからなる群より選ばれる、少なくとも1種の担体であることが好ましい。
【0031】
本発明の製造装置においては、前記第1の超臨界流体は、二酸化炭素、及びトリフルオロメタン(CHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体であることが好ましい。
【0032】
本発明の製造装置においては、さらに、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体の温度を独立に制御する、第3の温度制御手段、前記担体の温度を、独立に、前記第2の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第4の温度制御手段、並びに、前記アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、前記担体及び当該担体に担持された前記金属又は合金へ直接移送する、第2の移送手段を備えることが好ましい。
【0033】
本発明の製造装置においては、前記第3の温度制御手段として第2の熱交換器を備え、前記第2の超臨界流体は、前記第2の熱交換器と前記担体との間で循環することが好ましい。
【0034】
本発明の製造装置においては、被覆により消費された前記アイオノマーに略相当する量のアイオノマーを、連続的又は断続的に前記第2の超臨界流体に追加する手段をさらに備えていてもよい。
【0035】
本発明の製造装置においては、前記アイオノマーは、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン酸樹脂、芳香族ポリイミドスルホン酸樹脂、及びポリベンズスルホン酸樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のアイオノマーであることが好ましい。
【0036】
本発明の製造装置においては、前記第2の超臨界流体は、トリフルオロメタン(CHF)、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCHF)、及びペンタフルオロエタン(CFCHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明の触媒製造方法によれば、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度と、担体の温度が、それぞれ独立に制御され、且つ、当該第1の超臨界流体を直接担体へ移送するため、当該第1の超臨界流体の温度を維持したまま、当該担体に所定の温度の当該第1の超臨界流体を連続的に供給し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る触媒製造装置の典型例を示す断面模式図である。
【図2】本発明に係る触媒製造方法の典型例を示すフローチャートである。
【図3】本発明における被覆工程の典型例を示すフローチャートである。
【図4】従来の触媒製造装置を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の触媒製造方法は、担体に金属又は合金を担持する触媒の製造方法であって、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の領域を形成する工程、担体の温度を、独立に、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の領域を形成する工程、及び、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、前記第1の領域から前記第2の領域へ直接移送し、前記第2の領域内で、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体と、当該第1の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する前記担体とを混合することにより、前記金属又は合金を前記担体に担持させる工程、を有することを特徴とする。
【0040】
本発明の触媒製造方法を実行するための好適な本発明の触媒製造装置は、担体に金属又は合金が担持した触媒の製造装置であって、ある1つの反応容器内に、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の温度制御手段、担体の温度を、独立に、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の温度制御手段、及び、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を前記担体へ直接移送する、第1の移送手段、を備えることを特徴とする。
【0041】
以下、主に本発明の触媒製造方法について述べ、当該触媒製造方法を具現化する触媒製造装置については、必要に応じて適宜述べることとする。
【0042】
上記特許文献1に記載された様な、担体、金属前駆体、及び超臨界流体を同じ反応容器内に共存させただけの構成では、量産プロセスで要求される水準の短い処理時間(例えば、1時間未満の処理時間等)では、金属前駆体は担体に十分量吸着しない。これは、担体と金属前駆体が自発的に吸着平衡状態に達するまでに、数時間から数十時間要することによる。吸着平衡状態に達するまでの間に、担体以外の場所、例えば反応容器の内壁面にも金属前駆体が吸着するため、金属前駆体の担体への吸着量が低下し、得られる触媒の収率も低下する。したがって、吸着平衡状態に至るまでの時間を短縮するためには、金属前駆体を担体に吸着させる推進力が必要である。
【0043】
また、上記特許文献2に記載された様な、反応槽に担体を加熱するヒーターが単に設けられた構成でも、金属前駆体は担体に十分量吸着しない。これは、ヒーターからの放熱により、経時的に超臨界流体及び反応容器内壁面が加熱され、当該超臨界流体中や反応容器内壁面で金属前駆体が析出するため、金属前駆体の担体への吸着量が低下し、得られる金属触媒の収率も低下することによる。また、反応の初期段階においても、超臨界流体に溶けた金属前駆体が、高温の担体表面に触れた瞬間に析出するため、金属前駆体が担体内部に浸み込まず、担体表面に偏って析出するという課題もある。したがって、上記課題を解決するためには、超臨界流体の温度を正確に制御する必要がある。
【0044】
本発明者らは、鋭意努力の結果、超臨界流体と担体とをそれぞれ独立に、かつ正確に温度制御すると共に、正確に温度制御された超臨界流体を担体に直接供給することにより、担体への金属前駆体の吸着を促進できることを見出し、本発明を完成させた。
【0045】
本発明の製造方法は、金属又は合金の前駆体(以下、前駆体と称する場合がある。)が溶けた超臨界流体の温度が独立して制御される領域(第1の領域)と、担体の温度が独立して制御される領域(第2の領域)を設け、且つ、担体へ当該超臨界流体を直接供給することを主な特徴とする。なお、本明細書において、担体に供給される「超臨界流体」とは、超臨界流体そのもののみならず、前駆体が溶けた超臨界流体も指すものとする。
本発明の製造方法は、(1)第1の領域を形成する工程、(2)第2の領域を形成する工程、及び、(3)金属又は合金を担体に担持させる工程を有する。本発明は、必ずしも上記3工程のみに限定されることはなく、上記3工程以外にも、例えば、後述するようなアイオノマーを被覆する工程等を有していてもよい。
以下、上記工程(1)〜(3)及びアイオノマーを被覆する工程について、順に説明する。
【0046】
1.第1の領域を形成する工程
本工程は、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の領域を形成する工程である。
【0047】
第1の超臨界流体に前駆体を溶かす手順は、特に限定されない。第1の領域において、第1の超臨界流体及び前駆体を混合し、前駆体を第1の超臨界流体に溶かしてもよいし、予め前駆体を溶かした第1の超臨界流体を第1の領域に移してもよい。
【0048】
以下、第1の領域において、第1の超臨界流体及び前駆体を混合し、前駆体を第1の超臨界流体に溶かす例を示す。
まず、第1の領域内において、原料となる気体を昇温・昇圧し、超臨界状態とする。昇温は後述する第1の熱交換器により行う。昇温の具体例としては、加熱管に温水等の熱媒を流す方法が挙げられる。次に、前駆体を第1の領域に投入する。前駆体をそのまま投入してもよいし、前駆体を予め溶媒等に溶かした溶液を投入してもよい。また、前駆体は、第1の超臨界流体の調製前から第1の領域に投入してもよい。続いて、後述する循環機構により、第1の熱交換器と、後述する担体との間に循環流れを発生させる。なお、後述する第2の領域におけるヒーターによる加熱は行わない。
このように、反応系内に循環流れを発生させることで、第1の超臨界流体を効率よく攪拌でき、前駆体を第1の超臨界流体に短時間で溶かすことができる。
【0049】
本発明に用いられる金属の前駆体は、白金、コバルト、パラジウム、銅、チタン、金、銀、ルテニウム、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、ロジウム、イリジウム、及びスズの前駆体であることが好ましい。また、本発明に用いられる合金の前駆体は、上記金属を2種以上含む合金の前駆体であることが好ましい。
本発明において金属又は合金の前駆体とは、後述する担持工程において金属又は合金へと変化する金属化合物を指し、好適には金属又は合金へ熱分解する金属化合物を指す。金属又は合金の前駆体は、金属錯体又は合金錯体であってもよい。錯体の場合には、担持工程において配位子が除去されることにより、金属又は合金へと変化する。
合金触媒を製造する場合には、2種以上の金属原子を含む前駆体1種類を調製し、本製造方法に供してもよいし、異なる金属原子を含む前駆体を2種類以上調製し、本製造方法に供してもよい。異なる金属原子を含む前駆体を2種類以上調製して用いる場合としては、例えば、白金錯体及びコバルト錯体を第1の超臨界流体に混合し、後述する担持工程において白金及びコバルトを合金化することにより、白金・コバルト合金が担持した触媒が得られる。
【0050】
本発明に用いられる第1の超臨界流体は、二酸化炭素又はトリフルオロメタン(CHF)であることが好ましい。本発明には、上記超臨界流体のうち1種のみを用いてもよいし、2種類を組み合わせて用いてもよい。上記超臨界流体の中でも、調製が簡便であることから、二酸化炭素の超臨界流体(以下、超臨界COと称する場合がある。)を用いることがより好ましい。
【0051】
第1の領域においては、前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度が独立に制御される。本発明において、「第1の超臨界流体の温度」とは、第1の超臨界流体自体の温度、及び前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度のいずれも含む。温度制御の方法は特に限定されないが、温度管理が簡便であるという観点から、熱交換器(以下、第1の熱交換器と称する。)による制御が好ましい。第1の熱交換器は、第1の領域に設けられていることが好ましい。
第1の熱交換器は、前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を常に一定に保つ温調機能を有する。第1の領域において第1の超臨界流体そのものを調製する場合には、第1の熱交換器は加熱機能を有することが好ましい。一方、後述する第2の領域において加熱された、前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、第1の領域内において直接除熱し、熱を効率的に反応系外(具体的には、反応容器外等)に排出するために、第1の熱交換器は冷却機能を有することが好ましい。
【0052】
第1の熱交換器は、冷媒が内部を導通する冷却管、及び/又は、熱媒が内部を導通する加熱管を備えていてもよい。冷却管及び加熱管は、第1の領域内部における、前駆体が溶けた第1の超臨界流体の流通経路に沿って設けられ、当該第1の超臨界流体と直接接することができる構造であることが好ましい。冷却管及び加熱管は、前駆体が溶けた第1の超臨界流体との接触面積を最大限に確保し、冷却効率又は加熱効率を高める観点から、梯子型や螺旋型等の、表面積が大きい構造であることが望ましい。
特に、冷却管の設置により、第2の領域において第1の超臨界流体が受けた熱を効率的に反応系外に放熱でき、第1の領域の温度、及び第1の超臨界流体の温度を均一に保持できるため、後述する担持工程において、担体以外への金属等の析出を抑制でき、触媒の収率を向上させることができる。
【0053】
第1の領域から後述する第2の領域への対流を発生させ、第1の領域内に残る前駆体を短時間で担体に輸送できるという観点から、前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、第1の熱交換器と担体との間で循環させることが好ましい。
循環の態様は特に限定されないが、第1の領域内において、前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を均一に保つという観点から、例えば、循環ファン等の循環機構を用いてもよい。また、循環機構と併せて、前駆体が溶けた第1の超臨界流体を担体へ直接吹付ける構造のノズルを用いてもよい。ノズル内部には、前駆体が溶けた第1の超臨界流体を担体に均一に吹付けるための整流板を設けてもよい。
【0054】
上記第1の熱交換器、上記循環機構、及び後述するヒーターを併用することにより、第1の領域と第2の領域の温度差を常に維持できる。その結果、前駆体が溶けた第1の超臨界流体を十分に冷却しつつ担体サンプル表面に吹付けることができ、担体サンプル内部まで前駆体を輸送できる。なお、ここで「担体サンプル」とは担体の集合体を指し、「担体サンプル内部まで前駆体を輸送できる」とは、当該集合体表面の担体のみならず、当該集合体内部の担体まで前駆体が輸送できることを意味する。
【0055】
2.第2の領域を形成する工程
本工程は、担体の温度を、独立に、上記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の領域を形成する工程である。
【0056】
本発明に用いられる担体は、通常金属触媒に用いられる担体であれば、特に限定されない。
担体は、カーボンナノチューブ、カーボン粉末、チタン、シリコン、スズ、銅、チタニア、シリカ、又は酸化スズであることが好ましい。本発明には、上記担体を1種類のみ用いてもよいし、2種類以上の担体を組み合わせて用いてもよい。
比表面積の大きさの観点から、本発明には担体としてカーボンナノチューブを用いることがより好ましい。
【0057】
担持処理を確実に進行させる観点から、担体は基板等に固定されていてもよく、また、マトリックスを用いてもよい。基板に固定された担体の例としては、シリコン基板に固定されたカーボンナノチューブや、メンブレンフィルタ等でパウチされたカーボンブラック粉体等が挙げられる。マトリックスを用いる例としては、カーボンブラック粉体をPTFE等の樹脂と混練してインク等に調製したものが挙げられる。当該インクは、基板上に塗布して本発明に供することもできる。
【0058】
第2の領域において、担体の温度は、第1の超臨界流体の温度よりも高い温度に独立して制御される。温度制御の方法は特に限定されないが、担体のみを局所的に加熱できるという観点から、ヒーターによる温度制御が好ましい。ヒーターは、第2の領域に設けられていることが好ましい。
超臨界流体は、液体と気体の両方の性質を有すると考えられる。すなわち、超臨界流体は、物質を溶かすという液体に類似した性質(溶解性)と、物質内に浸み込むという気体に類似した性質(透過性)を併せ持つ。このような超臨界流体の性質は、温度により簡便に制御できる。超臨界流体の温度が高いと、超臨界流体の密度が小さくなる結果、超臨界流体の気体に類似した性質が強まり、透過性が向上する半面、溶解度が低下する。一方、超臨界流体の温度が低いと、超臨界流体の密度が大きくなる結果、超臨界流体の液体に類似した性質が強まり、溶解度が向上する半面、透過性が低下する。したがって、理想的には、担体サンプルの温度を第1の超臨界流体の温度よりも高くし、第1の超臨界流体の溶解度を担体サンプル表面で下げることにより、前駆体の担体への吸着を促進し、担持処理時間を短縮することができる。
本発明においては、好ましくは担体を局所加熱するヒーターを設けることにより、前駆体が溶けた第1の超臨界流体と担体サンプル表面との間に温度差を設けることができる。
【0059】
図1は、本発明に係る触媒製造装置の典型例を示す断面模式図である。図1内の白矢印は、第1の超臨界流体、及び前駆体が溶けた第1の超臨界流体の循環時の流れ方向を表す。なお、本発明の製造装置は、本典型例に必ずしも限定されるものではない。
本典型例100は、高圧反応容器1を備える。高圧反応容器1には、供給弁2及び排出弁3が取り付けられており、供給弁2からは、第1の超臨界流体、前駆体が溶けた第1の超臨界流体、前駆体及びその溶液、並びに後述するアイオノマー及びその溶液等が供給される。一方、排出弁3からは、過剰の超臨界流体等が排出される。
高圧反応容器1は、前駆体が溶けた第1の超臨界流体を吹き付ける吹付ノズル4(第1の移送手段)を備える。供給弁2から供給された、前駆体が溶けた第1の超臨界流体は、吹付ノズル4の根元部分に設けられた循環ファン5によって、吹付ノズル4内に集められる。吹付ノズル4内には、第1の熱交換器(第1の温度制御手段)として冷却管6が設けられており、前駆体が溶けた第1の超臨界流体は冷却管6により温度Tに制御される。なお、冷却管6の設置場所は吹き付けノズル4内部に必ずしも限定されず、前駆体が溶けた第1の超臨界流体のほぼ全てが流通する部位であれば、吹き付けノズル4外部であってもよい。また、本典型例100においては、冷却管6は紙面に垂直に設けられ、それに伴い冷却管6内の冷媒も、紙面に垂直方向に導通するものとする。
温度Tの前駆体が溶けた第1の超臨界流体は、整流板7を透過して、ロール搬送された担体サンプル8へ直接到達する。担体サンプル8は、サンプルロール9によりロール搬送されるシート上の、整流板7に向き合う面に設けられている。担体サンプル8を載せたシートを挟んで、整流板7の反対側に、サンプルヒーター10(第2の温度制御手段)が設けられ、当該サンプルヒーター10により担体サンプル8の加熱が可能となる。
担体サンプル8を通過した第1の超臨界流体は、高圧反応容器1内を循環し、再度循環ファン5により吹付ノズル4内に集められる。
なお、高圧反応容器1内において、担体サンプル8、サンプルロール9、及びサンプルヒーター10が上記第2の領域に相当し、高圧反応容器1内の上記第2の領域以外の全ての領域が、上記第1の領域に相当する。
【0060】
3.金属又は合金を担体に担持させる工程
本工程は、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、第1の領域から第2の領域へ直接移送し、第2の領域内で、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体と、当該第1の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する担体とを混合することにより、金属又は合金を担体に担持させる工程である。
本工程において、独立に温度制御された前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、独立に温度制御された担体へ直接供給することにより、従来とは異なり、前駆体が溶けた第1の超臨界流体と、供給先である担体との間の温度差を常に維持できる結果、担体への前駆体の吸着ムラを防ぐと共に、前駆体の熱分解ムラを防止できる。
【0061】
本担持工程において、担持により消費された前駆体に略相当する量の前駆体を、連続的又は断続的に第1の超臨界流体に追加してもよい。このように前駆体を適宜追加することにより、第1の超臨界流体自体を追加することなく、担体へ途切れることなく前駆体を供給できる。消費された分の前駆体を追加する手段としては、例えば、上述した供給弁から直接前駆体又はその溶液を投入する手段等が挙げられる。
【0062】
本担持工程は、さらに、前駆体を担体に吸着させる工程と、前駆体を熱分解し、金属又は合金を担体に析出させる工程とに分けて実施することが好ましい。すなわち、前駆体を担体に吸着させる温度と、前駆体を熱分解させる温度は、異なるほうが好ましい。吸着工程と析出工程を同時に行う場合には、担持工程の初期から担体サンプルの表面側で前駆体の分解が発生する結果、担体サンプル内部への前駆体の拡散が不十分となり、担持ムラが発生するおそれがある。
以下、担持工程を吸着工程と析出工程に分けて実施する場合について説明する。
【0063】
吸着工程における担体の温度(T)は、第1の超臨界流体の温度(T)よりも高く、且つ、前駆体が熱分解する温度未満であることが好ましい。吸着工程においては、第1の超臨界流体の温度と担体の温度との差を比較的小さくすることで、前駆体を担体へ短時間で吸着させ、担持処理時間を短縮できると共に、担体サンプル表面への局所的な吸着を抑制し、担体サンプル表面から内部にかけて均一に担持処理できる。
【0064】
第1の超臨界流体の温度(T)と、吸着工程における担体の温度(T)との差を5〜100℃とすることが好ましい。温度Tと温度Tとの差が5℃未満では、温度差が小さすぎるため、超臨界流体の溶解度の差がつきにくく、前駆体の担体への吸着が速やかに進行しないおそれがある。したがって、温度Tと温度Tとの差が5℃未満では、容器内の前駆体を全量担体に吸着させることができず、触媒の収率が低くなるおそれがある。一方、温度Tと温度Tとの差が100℃を超える場合には、温度差が大きすぎるため、前駆体が担体サンプル表面に局所的に吸着し、担体サンプル内部まで浸み込まない結果、担持ムラが著しく生じるおそれがある。
温度Tと温度Tとの差は、10〜80℃とすることがより好ましく、20〜50℃とすることがさらに好ましい。
【0065】
吸着工程においては、担体の温度Tを一定時間保持する。保持時間は、反応系内(反応容器内)の前駆体が全量担体表面に吸着し、反応系内の前駆体が全量消費されるのに十分な時間とする。
吸着工程の時間は、反応規模によるが、5分間〜2時間程度が好ましい。
【0066】
析出工程における担体の温度(T)は、吸着工程における担体の温度(T)よりも高いことが好ましく、前駆体が熱分解する温度以上であることがより好ましい。このように、析出工程においては、上記吸着工程を経た後に前駆体を熱分解することで、担体サンプル表面における局所的な熱分解を防ぎ、担体サンプル表面から内部にかけて均一に担持処理ができる。また、本析出工程においては、上述した第1の熱交換器で第1の超臨界流体の温度(T)を維持しながら、担体のみを独立に昇温できることから、第1の超臨界流体の昇温を抑制できると共に、反応容器の上限圧力の範囲内で担体の温度をより高くできる。
【0067】
吸着工程における担体の温度(T)と、析出工程における担体の温度(T)との差を、20〜500℃とすることが好ましい。温度Tと温度Tとの差が20℃未満では、温度差が小さすぎるため、前駆体の熱分解が進行しにくいおそれがある。一方、温度Tと温度Tとの差が500℃を超える場合には、温度差が大きすぎるため温度制御が困難である。
【0068】
析出工程においては、担体の温度Tを一定時間保持し、熱分解を完全に進行させる。保持時間は、担体に担持した前駆体が全量熱分解し、金属又は合金が生成するのに十分な時間とする。
析出工程の時間は、反応規模によるが、5分間〜1時間程度が好ましい。
【0069】
析出工程においては、担体の昇温と併せて、熱分解によるメタル化を促進させる手段を採用してもよい。メタル化を促進させる手段としては、例えば、反応系外(反応容器外)から水素ガス等の還元剤を添加する手段が挙げられる。
【0070】
図2は、本発明の製造方法の典型例を示すフローチャートである。なお、図2中の温度T、T、及びTは、上述した第1の超臨界流体の温度T、吸着工程における担体の温度T、及び析出工程における担体の温度Tにそれぞれ対応する。以下、図2のフローチャートに従い、図1に示した製造装置の典型例を用いて触媒を製造する例について説明する。なお、本発明の製造方法は、本典型例に必ずしも限定されるものではない。
まず、図1の高圧反応容器1内に流体を導入し、昇温且つ昇圧することにより第1の超臨界流体を調製する(S1)。S1において、攪拌ファン5により第1の超臨界流体を循環させることが好ましい。
次に、前駆体を高圧反応容器1内に投入する(S2)。上述したように、前駆体そのものを投入してもよいし、前駆体の溶液を投入してもよい。第1の超臨界流体を温度Tで一定時間保持し、第1の超臨界流体に前駆体を溶かす(S3)。S3において、高圧反応容器1内に、前駆体が溶けた第1の超臨界流体が行き渡る。
続いて、担体の温度をTからTに昇温し、一定時間保持することにより、前駆体を担体に吸着させる(吸着工程、S4、S5)。吸着工程終了後には、前駆体は全て担体サンプルの表面から内部にかけて吸着され、第1の超臨界流体内には残らない。なお、前駆体が足りない場合には、この段階で高圧反応容器1内に前駆体を追加してもよい。
次に、担体の温度をTからTに昇温し、一定時間保持することにより、前駆体を熱分解する(析出工程、S6、S7)。析出工程終了後には、前駆体は全て熱分解され、金属又は合金が担体上に生成する。
最後に、サンプルヒーター10を切り、流体を降温且つ降圧した後、目的物である触媒を高圧反応容器1内から取り出す(S8、S9)。
【0071】
4.アイオノマーを被覆する工程
触媒にアイオノマーを被覆する好適な方法は、(1)第3の領域を形成する工程、(2)第4の領域を形成する工程、及び、(3)アイオノマーを触媒に被覆する工程を有する。本発明は、必ずしも上記3工程のみに限定されることはなく、上記3工程以外にも、例えば、容器内を降温・降圧後、サンプルを取り出す工程等を設けてもよい。
以下、上記工程(1)〜(3)について、順に説明する。
【0072】
4−1.第3の領域を形成する工程
本工程は、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体の温度を独立に制御する、第3の領域を形成する工程である。
本工程は、上記第1の領域を形成する工程において、金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を用いる替わりに、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を用いること以外は、上記第1の領域を形成する工程と同様に行うことができる。したがって、本工程には、上記製造装置の典型例をそのまま使用できる。第3の領域としては、第1の領域と同じ領域を用いてもよいし、第1の領域とは異なる領域を用いてもよい。
【0073】
第3の領域においては、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体の温度が独立に制御される。温度制御の方法は特に限定されないが、温度管理が簡便であるという観点から、熱交換器(以下、第2の熱交換器と称する。)による制御が好ましい。第2の熱交換器は、第3の領域に設けられていることが好ましい。
第2の熱交換器は、後述する第2の領域において加熱された、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、第3の領域内において直接除熱し、熱を効率的に反応系外(具体的には、反応容器外等)に排出可能な冷却機能を有するものであれば特に限定されず、上記第1の熱交換器と同様のものを用いてもよい。第2の熱交換器としては、例えば、上記冷却管及び加熱管を用いることができる。
【0074】
第3の領域から後述する第4の領域への対流を発生させ、第3の領域内に残るアイオノマーを短時間で担体表面に輸送できるという観点から、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、第2の熱交換器と担体との間で循環させることが好ましい。循環ファン、吹付ノズル、及び整流板を使用できる点は、上記第1の領域を形成する工程と同様である。
上記第2の熱交換器、上記循環ファン、及び後述するヒーターを併せて用いることにより、第3の領域と第4の領域の温度差を常に維持できる。その結果、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を十分に冷却しつつ担体サンプル表面に吹付けることができ、担体サンプル内部までアイオノマーを輸送できる。
【0075】
以下、第3の領域において、第2の超臨界流体及びアイオノマーを混合し、アイオノマーを第2の超臨界流体に溶かす例を示す。
まず、第3の領域内において、第2の超臨界流体を昇温・昇圧し、超臨界状態とする。昇温は第2の熱交換器により行う。昇温の具体例としては、加熱管に温水等の熱媒を流す方法が挙げられる。
次に、アイオノマーを第2の領域に投入する。アイオノマーをそのまま投入してもよいし、アイオノマーを予め有機溶媒等に溶かした溶液を投入してもよい。また、アイオノマーは、第2の超臨界流体の調製前から第3の領域に投入してもよい。
続いて、循環ファンにより、第2の熱交換器と、後述する担体との間に循環流れを発生させる。なお、後述するヒーターによる加熱は行わない。
このように、反応系内に循環流れを発生させることで、第2の超臨界流体を効率よく攪拌でき、アイオノマーを第2の超臨界流体に短時間で溶かすことができる。
【0076】
本発明に用いられるアイオノマーは、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂;芳香族ポリエーテルスルホン酸樹脂、芳香族ポリイミドスルホン酸樹脂、及びポリベンズスルホン酸樹脂等の炭化水素系スルホン酸樹脂;等を用いることができる。これらのアイオノマーのうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのアイオノマーのうちナフィオン(商品名)等のパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂を用いることが好ましい。
【0077】
第2の超臨界流体は、トリフルオロメタン(CHF)、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCHF)、ペンタフルオロエタン(CFCHF)、水、エタノール、又はメタノールを用いることが好ましい。これらの超臨界流体のうち1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの超臨界流体の中でも、調製が簡便であることから、CHFの超臨界流体(以下、超臨界CHFと称する場合がある。)を用いることがより好ましい。
【0078】
4−2.第4の領域を形成する工程
本工程は、上記担体の温度を、独立に、第2の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第4の領域を形成する工程である。
【0079】
第4の領域において、担体の温度は、第2の超臨界流体の温度よりも高い温度に独立して制御される。温度制御の方法は特に限定されないが、担体のみを局所的に加熱できるという観点から、ヒーターによる温度制御が好ましい。ヒーターは、第4の領域に設けられていることが好ましい。本工程に用いられるヒーターは、上述した担持に用いられるヒーターと同様のものを用いてもよい。
本工程においては、担体を局所加熱するヒーターを設けることにより、担体サンプル表面とアイオノマーが溶けた第2の超臨界流体との間に温度差が生じる結果、第2の領域を形成する工程の説明において既に述べた様な、アイオノマーの担体表面への吸着を促進し、被覆処理時間を短縮することができる。
金属触媒にアイオノマーを被覆する場合においても、図1に示した様な製造装置の典型例を使用できる。したがって、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体の温度を独立に制御する、第3の温度制御手段としては、上記第1の温度制御手段と同様の手段を用いることができる。また、担体の温度を、独立に、第2の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第4の温度制御手段としては、上記第2の温度制御手段と同様の手段を用いることができる。さらに、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、担体及び当該担体に担持された金属又は合金へ直接移送する、第2の移送手段としては、上記第1の移送手段と同様の手段を用いることができる。
【0080】
4−3.アイオノマーを触媒に被覆する工程
本工程は、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、第3の領域から第4の領域へ直接移送し、第4の領域内で、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体と、当該第2の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する担体及び当該担体に担持された金属又は合金とを混合することにより、担体及び当該担体に担持された金属又は合金にアイオノマーを被覆する工程である。
【0081】
本被覆工程において、被覆により消費されたアイオノマーに略相当する量のアイオノマーを、連続的又は断続的に第2の超臨界流体に追加してもよい。このように適宜アイオノマーを追加することにより、第2の超臨界流体自体を追加することなく、担体へ連続的にアイオノマーを供給できる。消費された分のアイオノマーを追加する手段としては、例えば、上述した供給弁から直接アイオノマー又はその溶液を投入する手段等が挙げられる。
【0082】
被覆工程における担体の温度(T)は、第2の超臨界流体の温度(T)よりも高い。被覆工程においては、第2の超臨界流体の温度と、担体の温度との差を比較的小さくすることで、アイオノマーにより金属又は合金を短時間で被覆し被覆処理時間を短縮できると共に、担体サンプル表面に担持された金属又は合金への局所的な被覆を抑制し、担体サンプル表面から内部にかけて均一に被覆処理ができる。
【0083】
第2の超臨界流体の温度(T)と、被覆工程における担体に担持された金属又は合金の温度(T)との差を5〜100℃とすることが好ましい。温度Tと温度Tとの差が5℃未満では、温度差が小さすぎるため、超臨界流体の溶解度の差がつきにくく、アイオノマーの被覆が速やかに進行しないおそれがある。したがって、温度Tと温度Tとの差が5℃未満では、容器内のアイオノマーを触媒に全量被覆させることができず、触媒の収率が低くなるおそれがある。一方、温度Tと温度Tとの差が100℃を超える場合には、温度差が大きすぎるため、アイオノマーが担体サンプル表面の金属又は合金に局所的に被覆し、担体サンプル内部の金属又は合金がアイオノマーによって被覆されない結果、被覆ムラが著しく生じるおそれがある。
温度Tと温度Tとの差は、10〜100℃とすることがより好ましく、20〜100℃とすることがさらに好ましい。
【0084】
被覆工程においては、担体の温度Tを一定時間保持する。保持時間は、反応系内のアイオノマー全量が触媒を被覆し、反応系内のアイオノマーが全量消費されるのに十分な時間とする。
被覆工程の時間は、反応規模によるが、5分間〜2時間程度が好ましい。
【0085】
図3は、アイオノマーを被覆する工程の典型例を示すフローチャートである。なお、図3中の温度T及びTは、上述した第2の超臨界流体の温度T、及び被覆工程における担体の温度Tにそれぞれ対応する。以下、図3のフローチャートに従い、図1に示した製造装置の典型例を用いて触媒を製造する例について説明する。なお、アイオノマーを触媒に被覆する方法は、本典型例に必ずしも限定されるものではない。
まず、図1の高圧反応容器1内に流体を導入し、昇温且つ昇圧することにより第2の超臨界流体を調製する(S11)。S11において、攪拌ファン5により第2の超臨界流体を循環させることが好ましい。
次に、アイオノマーを高圧反応容器1内に投入する(S12)。第2の超臨界流体を温度Tで一定時間保持し、第2の超臨界流体にアイオノマーを溶かす(S13)。S13において、高圧反応容器1内に、アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体が行き渡る。
続いて、担体の温度をTに昇温し、一定時間保持することにより、アイオノマーにより触媒、すなわち、担体及び当該担体に担持された金属又は合金を被覆する(被覆工程、S14、S15)。循環ファン及び冷却機構を作動させ、且つ、第2の超臨界流体と担体との間に温度差を設けることにより、担体サンプル表面に偏ってアイオノマーが被覆すること、及び高圧反応容器1の壁面等の担体サンプル以外の箇所へのアイオノマーの析出を抑制できる。
被覆工程終了後には、アイオノマーは全て消費され、第2の超臨界流体内には残らない。なお、アイオノマーが不足する場合には、この段階で高圧反応容器1内にアイオノマーを追加してもよい。
最後に、サンプルヒーター10を切り、流体を降温且つ降圧した後、担体及び当該担体に担持された金属又は合金にアイオノマーが被覆された触媒を高圧反応容器1内から取り出す(S16、S17)。
【0086】
本発明の燃料電池用電極触媒は、上記触媒製造方法により製造されることを特徴とする。
本発明の燃料電池用電極触媒は、担体の表面から内部にかけてムラなく触媒金属又は触媒合金が担持しているため、従来の燃料電池用電極触媒と比較して触媒能が高い。また、本発明の好適な燃料電池用電極触媒は、担体の表面から内部にかけてムラなくアイオノマーが被覆しているため、従来の燃料電池用電極触媒と比較してイオン伝導性が高い。
【実施例】
【0087】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0088】
1.白金担持カーボンナノチューブの作製
[実施例1]
図1に模式的に示した製造装置を用いて、カーボン担体へ白金を担持させた。
まず、ジメチル(シクロオクタジエニル)白金(II)(白金前駆体)のn−ヘキサン溶液を調製した。次に、高圧反応容器1内のサンプルロール9によりロール搬送されるシート上に、担体としてカーボンナノチューブ(MWCNT、平均径10nm、平均長さ10μm)を載せた。続いて、高圧反応容器1内に二酸化炭素を充填し、冷却管6に70℃の温水を供給すると共に、高圧反応容器1内の圧力を10MPaに設定して、二酸化炭素を超臨界流体(第1の超臨界流体)とした。この超臨界COで満たされた高圧反応容器1内に、上記白金前駆体のn−ヘキサン溶液を加えた。当該n−ヘキサン溶液添加後、10分間放置し、白金前駆体を超臨界COに溶解させた。なお、当該n−ヘキサン溶液添加とほぼ同時に、循環ファン5による高圧反応容器1内における超臨界COの循環を開始した。この循環により、白金前駆体が溶けた超臨界CO(温度T=70℃)が、高圧反応容器1内に行き渡ることとなった。
次に、サンプルヒーター10の温度を100℃に上げ、白金前駆体が溶けた超臨界CO(温度T=70℃)を、サンプルロール9のシート上のカーボンナノチューブ(温度T=100℃)に直接供給し続けた。
【0089】
白金前駆体が溶けた超臨界COの供給開始から30分後、サンプルヒーター10の温度を300℃に上げ、カーボンナノチューブ(温度T=300℃)に吸着された白金前駆体を熱分解させて、白金をカーボンナノチューブに担持させた。そのまま10分間維持し、実施例1の白金担持カーボンナノチューブを得た。
【0090】
[実施例2]
白金前駆体を超臨界COに溶かすまでは、実施例1と同様である。
次に、サンプルヒーター10の温度を150℃に上げ、白金前駆体が溶けた超臨界CO(温度T=70℃)を、サンプルロール9のシート上のカーボンナノチューブ(温度T=150℃)に直接供給し続けた。
白金前駆体が溶けた超臨界COの供給開始から10分後、サンプルヒーター10の温度を300℃に上げ、カーボンナノチューブ(温度T=300℃)に吸着された白金前駆体を熱分解させて、白金をカーボンナノチューブに担持させた。そのまま10分間維持し、実施例2の白金担持カーボンナノチューブを得た。
【0091】
[比較例1]
白金前駆体を超臨界COに溶かすまでは、実施例1と同様である。
次に、サンプルヒーター10の温度を300℃に上げ、白金前駆体が溶けた超臨界CO(温度T=70℃)を、サンプルロール9のシート上のカーボンナノチューブ(温度T=300℃)に直接供給し続け、且つ、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体を熱分解させて、白金をカーボンナノチューブに担持させた。そのまま10分間維持し、比較例1の白金担持カーボンナノチューブを得た。
すなわち、比較例1においては、実施例1と異なり、カーボンナノチューブへの白金前駆体の吸着と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体の熱分解を同時に行った。
【0092】
[比較例2]
比較例2においては、図1に示す触媒製造装置の替わりに、図4に示す従来の触媒製造装置を用いた。図4は、従来の触媒製造装置を示す断面模式図である。図4に示す従来の触媒製造装置200は、図1に示す触媒製造装置と異なり、高圧反応容器1内に、サンプルロール9、当該サンプルロール9によりロール搬送されるシート上の担体サンプル8、及びサンプルヒーター10のみが設けられている。
白金前駆体を超臨界COに溶かすまでは、図1に示す触媒製造装置の替わりに図4に示す従来の触媒製造装置を用いたこと以外、実施例1と同様である。
次に、サンプルヒーター10の温度を300℃に上げ、白金前駆体が溶けた超臨界CO(温度T≧70℃)を、サンプルロール9のシート上のカーボンナノチューブ(温度T=300℃)に直接供給し続け、且つ、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体を熱分解させて、白金をカーボンナノチューブに担持させた。そのまま10分間維持し、比較例2の白金担持カーボンナノチューブを得た。
すなわち、比較例2においては、実施例1と異なり、循環ファン及び熱交換器のない反応容器を使用し、且つ、カーボンナノチューブへの白金前駆体の定着と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体の熱分解を同時に行った。
【0093】
2.白金担持カーボンナノチューブの評価
実施例1−実施例2、及び比較例1−比較例2の白金担持カーボンナノチューブについて、サンプルの断面方向における白金の担持状態の均一性を評価した。
測定方法の詳細は以下の通りである。まず、担持処理後のカーボンナノチューブサンプルを、樹脂包理した後、ミクロトームにより観察面である断面を平坦に切り出した。次に、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)により、サンプルの上部、中部、下部の3点を観察し、白金の存在量を評価した。また、走査型電子顕微鏡によるエネルギー分散型X線分光法(Scanning Electron Microscope−Energy Dispersive X−ray Spectroscopy;SEM−EDX)により、サンプルの上部から下部にかけての白金の存在量の分布を評価した。
下記表1は、実施例1−実施例2、及び比較例1−比較例2の製造条件及び結果をまとめた表である。なお、下記表1における「サンプル」とは、サンプルロール9のシート上のカーボンナノチューブの集合体を指す。また、収率は、実施例1−実施例2のいずれもほぼ100%であった。
【0094】
【表1】

【0095】
上記表1から分かるように、従来の触媒製造装置である図4に示した装置を使用し、且つ、カーボンナノチューブへの白金前駆体の吸着と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体の熱分解を同時に行った比較例2においては、サンプルに白金は全く担持されなかった。この結果は、循環機構及び熱交換器を備えない図4に示した装置を使用した場合には、超臨界CO溶液の温度がサンプルヒーター10により徐々に上昇し、白金前駆体が溶けた超臨界COの温度とカーボンナノチューブの温度との差が縮まる結果、超臨界CO中における溶解度と、カーボンナノチューブのサンプル表面における溶解度との差が縮まり、白金担持が全く効果的に行われないことを示す。
【0096】
また、上記表1から分かるように、図1に示した触媒製造装置を使用し、且つ、カーボンナノチューブへの白金前駆体の吸着と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体の熱分解を同時に行った比較例1においては、サンプルの表面側にのみ白金が偏って担持された。この結果は、カーボンナノチューブへの白金前駆体の吸着と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体の熱分解を同時に行った場合には、300℃のカーボンナノチューブにおける溶解度と、70℃の超臨界COにおける溶解度との差が大きすぎるため、超臨界COに溶けた白金前駆体がカーボンナノチューブのサンプル表面に触れた瞬間に析出し、サンプル内部まで白金前駆体が浸み込まないことを示す。
【0097】
一方、上記表1から分かるように、図1に示した触媒製造装置を使用し、且つ、白金前駆体をカーボンナノチューブへ150℃で吸着させ、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体を300℃で熱分解させた実施例2においては、サンプルの表面側に白金がより多く偏って担持された。この結果は、カーボンナノチューブへ白金前駆体が吸着する工程と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体が熱分解し、白金が析出する工程を分けることにより、吸着工程において白金前駆体をサンプル内部にまで輸送できることを示す。ただし、この結果は、150℃のカーボンナノチューブにおける溶解度と、70℃の超臨界COにおける溶解度との差が依然大きく、超臨界COに溶けた白金前駆体の多くがカーボンナノチューブのサンプル表面に触れた瞬間に析出し、サンプル内部に輸送される白金前駆体の量がサンプル表面よりも少ないことを示す。
【0098】
また、上記表1から分かるように、図1に示した触媒製造装置を使用し、且つ、白金前駆体をカーボンナノチューブへ100℃で吸着させ、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体を300℃で熱分解させた実施例1においては、サンプルの表面から内部に至るまで、均一に白金が担持された。この結果は、カーボンナノチューブへ白金前駆体が吸着する工程と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体が熱分解し、白金が析出する工程を分けた上で、超臨界COの温度(T=70℃)と、吸着時のカーボンナノチューブの温度(T=100℃)との差を実施例2よりも小さくし、且つ、吸着工程を実施例2よりも長く行うことにより、サンプル内部に十分な量の白金前駆体が輸送され、サンプル全体に均一に白金前駆体が浸み込むことを示す。
実施例1及び実施例2の結果と、比較例1及び比較例2の結果とを比較すると分かるように、カーボンナノチューブへ白金前駆体が吸着する工程と、カーボンナノチューブに吸着された白金前駆体が熱分解し、白金が析出する工程を分けることにより、従来よりも短時間の加熱処理で、カーボンナノチューブのサンプルの内部まで均一な白金担持が可能であることが分かる。
【0099】
3.アイオノマー被覆白金担持カーボンナノチューブの作製
[実施例3]
図1に模式的に示した装置を用いて、白金担持カーボンナノチューブへアイオノマーを被覆した。
まず、高圧反応容器1内のサンプルロール9によりロール搬送されるシート上に、上記実施例1の白金担持カーボンナノチューブを載せた。次に、高圧反応容器1内にトリフルオロメタン(CHF)を充填し、冷却管6に50℃の温水を供給すると共に、高圧反応容器1内の圧力を10MPaに設定して、トリフルオロメタンを超臨界流体(第2の超臨界流体)とした。この超臨界CHFで満たされた高圧反応容器1内に、市販のナフィオン(商品名)溶液(デュポン社製、DE2020CS)を加えた。当該ナフィオン溶液添加後、10分間放置し、ナフィオンを超臨界CHFに溶解させた。なお、当該ナフィオン溶液添加とほぼ同時に、循環ファン5による高圧反応容器1内における超臨界CHFの循環を開始した。この循環により、ナフィオンが溶けた超臨界CHF(温度T=50℃)が、高圧反応容器1内に行き渡ることとなった。
次に、サンプルヒーター10の温度を70℃に上げ、ナフィオンが溶けた超臨界CHF(温度T=50℃)を、サンプルロール9のシート上の白金担持カーボンナノチューブ(温度T=70℃)に直接30分間供給し続け、実施例3のアイオノマー被覆白金担持カーボンナノチューブを得た。
【0100】
[実施例4]
ナフィオンを超臨界CHFに溶かすまでは、実施例3と同様である。
次に、サンプルヒーター10の温度を150℃に上げ、ナフィオンが溶けた超臨界CHF(温度T=50℃)を、サンプルロール9のシート上の白金担持カーボンナノチューブ(温度T=150℃)に直接10分間供給し続け、実施例4のアイオノマー被覆白金担持カーボンナノチューブを得た。
【0101】
[比較例3]
比較例3においては、図1に示す触媒製造装置の替わりに、図4に示す従来の触媒製造装置を用いた。ナフィオンを超臨界CHFに溶かすまでは、図1に示す触媒製造装置の替わりに図4に示す従来の触媒製造装置を用いたこと以外、実施例3と同様である。
次に、サンプルヒーター10の温度を70℃に上げ、ナフィオンが溶けた超臨界CHF(温度T≧50℃)を、サンプルロール9のシート上の白金担持カーボンナノチューブ(温度T=70℃)に直接10分間供給し続け、比較例3のアイオノマー被覆白金担持カーボンナノチューブを得た。
すなわち、比較例3においては、実施例3と異なり、循環ファン及び熱交換器のない反応容器を使用し、且つ、ナフィオンの超臨界CHF溶液の供給時間を10分間とした。
【0102】
4.アイオノマー被覆白金担持カーボンナノチューブの評価
実施例3−実施例4、及び比較例3のアイオノマー被覆白金担持カーボンナノチューブについて、サンプルの断面方向におけるアイオノマーの被覆状態の均一性を評価した。
測定方法の詳細は以下の通りである。まず、被覆処理後のサンプルをオスミウム染色後、樹脂包理し、ミクロトームにより観察面である断面を平坦に切り出した。次に、TEMにより、サンプルの上部、中部、下部の3点を観察し、アイオノマーの被覆厚さを評価した。また、SEM−EDXにより、サンプルの上部から下部にかけてのアイオノマーの存在量(F成分)の分布を評価した。
下記表2は、実施例3−実施例4、及び比較例3の製造条件及び結果をまとめた表である。なお、下記表2における「サンプル」とは、サンプルロール9のシート上の白金担持カーボンナノチューブの集合体を指す。また、収率は、実施例3−実施例4のいずれもほぼ100%であった。
【0103】
【表2】

【0104】
上記表2から分かるように、従来の触媒製造装置である図4に示した装置を使用した比較例3においては、アイオノマーの大部分が反応容器壁面に析出した。この結果は、循環機構及び熱交換器を備えない図4に示した装置を使用した場合には、超臨界CHFの温度がサンプルヒーター10により徐々に上昇し、超臨界CHF中における溶解度が低下した結果、大部分のアイオノマーが、サンプルに触れる前に反応容器壁面に析出したことを示す。
【0105】
一方、上記表2から分かるように、図1に示した触媒製造装置を使用し、且つ、白金担持カーボンナノチューブをアイオノマーにより150℃で被覆させた実施例4においては、アイオノマーのほぼ全量がサンプルを被覆したが、サンプルの表面側にアイオノマーが偏って被覆した。この結果は、図1に示した触媒製造装置を使用することにより、超臨界CHFの温度を、サンプルの温度よりも常に低くし、超臨界CHFにおける溶解度を、サンプル表面における溶解度よりも高くすることにより、サンプルへアイオノマーを効率よく被覆できることを示す。ただし、この結果は、150℃の白金担持カーボンナノチューブのサンプル表面における溶解度と、50℃の超臨界CHFにおける溶解度との差が大きく、超臨界CHFに溶けたアイオノマーの多くが白金担持カーボンナノチューブのサンプル表面に触れた瞬間に析出し、サンプル内部に輸送されるアイオノマーの量がサンプル表面よりも少ないことを示す。
【0106】
また、上記表2から分かるように、図1に示した触媒製造装置を使用し、且つ、白金担持カーボンナノチューブをアイオノマーにより70℃で被覆させた実施例3においては、アイオノマーのほぼ全量がサンプルを被覆し、且つ、サンプルの表面から内部に至るまで、アイオノマーにより均一に被覆された。この結果は、超臨界CHFの温度(T=50℃)と、アイオノマー被覆時の白金担持カーボンナノチューブの温度(T=70℃)との差を実施例4よりも小さくし、且つ、被覆工程を実施例4よりも長く行うことにより、サンプル内部に十分な量のアイオノマーが輸送され、サンプル全体に均一にアイオノマーが浸み込むことを示す。
【符号の説明】
【0107】
1 高圧反応容器
2 供給弁
3 排出弁
4 吹付ノズル
5 循環ファン
6 冷却管
7 整流板
8 担体サンプル
9 サンプルロール
10 サンプルヒーター
100 本発明に係る触媒製造装置の典型例
200 従来の触媒製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に金属又は合金を担持する触媒の製造方法であって、
金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の領域を形成する工程、
担体の温度を、独立に、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の領域を形成する工程、及び、
前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を、前記第1の領域から前記第2の領域へ直接移送し、前記第2の領域内で、前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体と、当該第1の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する前記担体とを混合することにより、前記金属又は合金を前記担体に担持させる工程、を有することを特徴とする、触媒製造方法。
【請求項2】
前記第1の領域に、前記第1の超臨界流体の温度を制御する第1の熱交換器がさらに設けられ、
前記第1の超臨界流体を、前記第1の熱交換器と前記担体との間で循環させる、請求項1に記載の触媒製造方法。
【請求項3】
前記担持工程において、担持により消費された前記金属又は合金の前駆体に略相当する量の金属又は合金の前駆体を、連続的又は断続的に前記第1の超臨界流体に追加する、請求項1又は2に記載の触媒製造方法。
【請求項4】
前記担持工程は、
前記金属又は合金の前駆体を前記担体に吸着させる工程、及び、
前記金属又は合金の前駆体を熱分解し、前記金属又は合金を前記担体に析出させる工程を有する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項5】
前記吸着工程における前記担体の温度が、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く、且つ、前記金属又は合金の前駆体が熱分解する温度未満である、請求項4に記載の触媒製造方法。
【請求項6】
前記第1の超臨界流体の温度と、前記吸着工程における前記担体の温度との差を5〜100℃とする、請求項4又は5に記載の触媒製造方法。
【請求項7】
前記析出工程における前記担体の温度が、前記吸着工程における前記担体の温度よりも高い、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項8】
前記吸着工程における前記担体の温度と、前記析出工程における前記担体の温度との差を20〜500℃とする、請求項4乃至7のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項9】
前記析出工程における前記担体の温度が、前記金属又は合金の前駆体が熱分解する温度以上である、請求項4乃至8のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項10】
前記金属又は合金の前駆体は、白金、コバルト、パラジウム、銅、チタン、金、銀、ルテニウム、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、ロジウム、イリジウム、及びスズからなる群より選ばれる、1種の金属の前駆体又は2種以上の金属を含む合金の前駆体である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項11】
前記担体は、カーボンナノチューブ、カーボン粉末、チタン、シリコン、スズ、銅、チタニア、シリカ、及び酸化スズからなる群より選ばれる少なくとも1種の担体である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項12】
前記第1の超臨界流体は、二酸化炭素、及びトリフルオロメタン(CHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体である、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項13】
さらに、
アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体の温度を独立に制御する、第3の領域を形成する工程、
前記担体の温度を、独立に、前記第2の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第4の領域を形成する工程、並びに、
前記アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、前記第3の領域から前記第4の領域へ直接移送し、前記第4の領域内で、前記アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体と、当該第2の超臨界流体の温度よりも高い温度を有する前記担体及び当該担体に担持された金属又は合金とを混合することにより、前記担体及び当該担体に担持された金属又は合金にアイオノマーを被覆する工程を有する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項14】
前記第3の領域に、前記第2の超臨界流体の温度を制御する第2の熱交換器がさらに設けられ、
前記第2の超臨界流体を、前記第2の熱交換器と前記担体との間で循環させる、請求項13に記載の触媒製造方法。
【請求項15】
前記被覆工程において、被覆により消費された前記アイオノマーに略相当する量のアイオノマーを、連続的又は断続的に前記第2の超臨界流体に追加する、請求項13又は14に記載の触媒製造方法。
【請求項16】
前記第2の超臨界流体の温度と、前記被覆工程における前記担体との差を5〜100℃とする、請求項13乃至15のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項17】
前記アイオノマーは、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン酸樹脂、芳香族ポリイミドスルホン酸樹脂、及びポリベンズスルホン酸樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のアイオノマーである、請求項13乃至16のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項18】
前記第2の超臨界流体は、トリフルオロメタン(CHF)、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCHF)、及びペンタフルオロエタン(CFCHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体である、請求項13乃至17のいずれか一項に記載の触媒製造方法。
【請求項19】
前記請求項1乃至18のいずれか一項に記載の触媒製造方法により製造されることを特徴とする、燃料電池用電極触媒。
【請求項20】
担体に金属又は合金が担持した触媒の製造装置であって、
ある1つの反応容器内に、
金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体の温度を独立に制御する、第1の温度制御手段、
担体の温度を、独立に、前記第1の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第2の温度制御手段、及び、
前記金属又は合金の前駆体が溶けた第1の超臨界流体を前記担体へ直接移送する、第1の移送手段、を備えることを特徴とする、触媒製造装置。
【請求項21】
前記第1の温度制御手段として第1の熱交換器を備え、
前記第1の超臨界流体は、前記第1の熱交換器と前記担体との間で循環する、請求項20に記載の触媒製造装置。
【請求項22】
担持により消費された前記金属又は合金の前駆体に略相当する量の金属又は合金の前駆体を、連続的又は断続的に前記第1の超臨界流体に追加する手段をさらに備える、請求項20又は21に記載の触媒製造装置。
【請求項23】
前記金属又は合金の前駆体は、白金、コバルト、パラジウム、銅、チタン、金、銀、ルテニウム、クロム、鉄、マンガン、ニッケル、ロジウム、イリジウム、及びスズからなる群より選ばれる、1種の金属の前駆体又は2種以上の金属を含む合金の前駆体である、請求項20乃至22のいずれか一項に記載の触媒製造装置。
【請求項24】
前記担体は、カーボンナノチューブ、カーボン粉末、チタン、シリコン、スズ、銅、チタニア、シリカ、及び酸化スズからなる群より選ばれる、少なくとも1種の担体である、請求項20乃至23のいずれか一項に記載の触媒製造装置。
【請求項25】
前記第1の超臨界流体は、二酸化炭素、及びトリフルオロメタン(CHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体である、請求項20乃至24のいずれか一項に記載の触媒製造装置。
【請求項26】
さらに、
アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体の温度を独立に制御する、第3の温度制御手段、
前記担体の温度を、独立に、前記第2の超臨界流体の温度よりも高く制御する、第4の温度制御手段、並びに、
前記アイオノマーが溶けた第2の超臨界流体を、前記担体及び当該担体に担持された前記金属又は合金へ直接移送する、第2の移送手段を備える、請求項20乃至25のいずれか一項に記載の触媒製造装置。
【請求項27】
前記第3の温度制御手段として第2の熱交換器を備え、
前記第2の超臨界流体は、前記第2の熱交換器と前記担体との間で循環する、請求項26に記載の触媒製造装置。
【請求項28】
被覆により消費された前記アイオノマーに略相当する量のアイオノマーを、連続的又は断続的に前記第2の超臨界流体に追加する手段をさらに備える、請求項26又は27に記載の触媒製造装置。
【請求項29】
前記アイオノマーは、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂、芳香族ポリエーテルスルホン酸樹脂、芳香族ポリイミドスルホン酸樹脂、及びポリベンズスルホン酸樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種のアイオノマーである、請求項26乃至28のいずれか一項に記載の触媒製造装置。
【請求項30】
前記第2の超臨界流体は、トリフルオロメタン(CHF)、テトラフルオロエチレン(CF=CF)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(CHFCHF)、及びペンタフルオロエタン(CFCHF)からなる群より選ばれる少なくとも1種の超臨界流体である、請求項26乃至29のいずれか一項に記載の触媒製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49005(P2013−49005A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187703(P2011−187703)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】