説明

触媒

使用済みのフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒を再生するための方法であって、使用済みのフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒粒子に対して、ワックス除去処理、4〜30バール(絶対圧)の圧力下での酸化処理、及び還元処理を順次行なうことにより触媒を再生することを含むことを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコバルト触媒に関する。より詳細には、本発明は、使用済みのフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒を再生するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒をフィッシャー‐トロプシュ合成に用いると、該触媒は活性を失って使用済み触媒(spent catalyst)となる。本出願人は、驚くべきことに、本発明の方法により触媒活性を回復できることを見出した。
【0003】
本発明によると、使用済みのフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒を再生するための方法であって、使用済みのフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒粒子に対して、ワックス除去処理、4〜30バール(絶対圧)の圧力下での酸化処理、及び還元処理を順次行なうことにより触媒を再生することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0004】
「バール(絶対圧)」とは、バールで測定して絶対圧力で表した値を意味するものであり、「バール(ゲージ圧)」と表記されるゲージ圧力値を意味するのではない。
【0005】
必要であれば、即ち、もしも更なる触媒再生が要求されるのであれば、本発明の方法は、4〜30バール(絶対圧)の圧力下での酸化処理及びその後の還元処理を含む少なくとも1回の更なる再生サイクルを行なうことを更に含んでもよい。この更なる再生サイクルにおける酸化処理と還元処理は、使用済み触媒に対して最初に行なう触媒再生サイクルの酸化処理及び還元処理と同様でよい。
【0006】
ワックス除去処理は、水素化分解、溶媒洗浄または溶媒抽出、及び溶媒洗浄または溶媒抽出及びその後の水素化分解からなる群より選ばれる1種を含むことができる。したがって、たとえば、ワックス除去処理においては、使用済み触媒をまず適切な溶媒(ヘキサンやキシレンなど)を用いる溶媒抽出に付し、その後に水素を用いて水素化分解に付すことができる。
【0007】
ワックス除去処理の後、触媒は乾燥粉体の形状であり、典型的には5〜20m%の残留炭素/ワックスを含有する。この残留炭素/ワックスを酸化工程で除去する必要がある。
【0008】
本発明の方法は、ワックス除去処理の後で、酸化処理の前に、触媒を不動態化することを更に含むことができる。不動態化は、たとえば、CO2や希釈した酸素を用いて行うことができる。不動態化は、コバルトの表面層を酸化して安全に取り扱えるようにすることである。もしもワックス除去処理を行なうワックス除去段階から酸化処理を行なう酸化段階へのコバルト触媒の移送を安全に行なうことができるのであれば、不動態化処理の必要はない。
【0009】
酸化処理は、ワックス除去した触媒粒子を、高温下と4〜30バール(絶対圧)の高圧力下の酸素含有ガス中で流動させることにより仮焼することによって触媒粒子を酸化させることにより行なうことができる。より具体的には、ワックス除去した触媒粒子の流動化を該高圧力下の反応室中で行ない、その際、触媒粒子を加熱して温度Tまで昇温し、触媒粒子を温度Tに一定時間維持することにより仮焼することができる。
【0010】
触媒粒子の流動中の反応室における空間速度は、100〜20000mln/触媒1g/1時間の範囲内とすることができる。典型的には、空間速度は約1000〜約3000mln/触媒1g/1時間の範囲内とすることができる。酸化処理中の空気の空間速度は一定としてよい。
【0011】
触媒粒子を加熱して温度Tまで昇温する速度は0.1〜10℃/分とすることができる。典型的には、触媒粒子を加熱して温度Tまで昇温する速度を約0.5〜約3℃/分とすることができる。
【0012】
触媒を仮焼する際の加熱の目標温度である温度Tは150℃〜400℃の範囲内とすることができる。典型的には、温度Tは約250℃〜約350℃の範囲内とすることができる。
【0013】
触媒粒子を温度Tに維持する時間は0.1時間〜24時間の範囲内とすることができる。典型的には、触媒粒子を温度Tに維持する時間は約0.1時間〜約12時間の範囲内とすることができる。
【0014】
したがって、本発明の方法は、たとえば、ワックス除去した触媒粒子を高圧力下の反応室で流動させ、その際、空間速度を100〜20000mln/触媒1g/1時間の範囲内で一定の値とし、また、触媒粒子を加熱速度0.1〜10℃/分で加熱して150℃〜400℃の範囲内の温度まで昇温し、触媒粒子をこの温度に0.1時間〜24時間の間維持することにより行なうことができる。
【0015】
より好ましくは、酸化処理を行なう高圧力を4〜12バール(絶対圧)の範囲内とすることができる。1バールは100kPaまたは100kN/m2に等しい。
【0016】
酸化処理を行なう圧力を、酸化工程中に、大気圧から始めて昇圧し、4〜30バール(絶対圧)の好ましい範囲内、より好ましくは4〜12バール(絶対圧)の範囲内とすることができる。
【0017】
酸化処理は空気中、即ち21%濃度の酸素を含有する気相中や、希釈した空気中(たとえば酸素濃度を0.1%〜21%の範囲内とした気相中)で行なうことができる。酸化処理中に酸素レベルを変えてもよく、酸化処理における酸素レベルを、たとえば約1%の低酸素濃度から始めて、約21%の酸素濃度まで徐々に上昇させてもよい。
【0018】
還元処理は、原則として、いかなる公知の手順でも行なうことができる。したがって、還元処理は、高温下と圧力P(但しP 0.8バール(絶対圧))下の水素含有還元性ガスで酸化触媒粒子を処理することにより行なうことができる。
【0019】
本発明の1つの態様においては、還元処理を以下の手順を含む方法で行なうことができる。
第1活性化段階において、酸化触媒粒子を、水素含有還元性ガスまたは窒素含有ガスを用いて、第1加熱速度HR1で、酸化触媒粒子が温度T1(但し80℃ 1 180℃)に達するまで処理して、部分的に処理した触媒前駆体を得、
第2活性化段階において、部分的に処理した触媒前駆体を、水素含有還元性ガスを用いて、第2加熱速度HR2(但し0 HR2 < HR1)で、時間t1(但しt1は0.1〜20時間)の間処理して、部分的に還元した触媒前駆体を得、そして、
第3活性化段階において、部分的に還元した触媒前駆体を、水素含有還元性ガスを用いて、第3加熱速度HR3(但しHR3 > HR2)で、部分的に還元した触媒前駆体が温度T2に達するまで処理し、また、温度T2に時間t2(但しt2は0〜20時間)の間維持して、再生触媒である、活性化したフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒を得る。
【0020】
第1活性化段階、第2活性化段階、及び第3活性化段階における処理は、触媒粒子の流動床を用いて行なうことができる。
【0021】
第1活性化段階においては、まず、酸化触媒粒子を、水素含有還元性ガスまたは窒素含有ガスを用いて、第1加熱速度HR1で即座に処理する。第1活性化段階におけるガスの空間速度(SV1)は、好ましくは、1 SV1 35m3 n/還元可能コバルト1kg/1時間、より好ましくは、3 SV1 15m3 n/還元可能コバルト1kg/1時間である。「還元可能コバルト」とは、通常の還元条件で還元可能なコバルトを意味し、たとえば、触媒が20質量%のコバルトを含有し、そのコバルトの50%が還元可能な場合は、還元可能コバルトの量は0.1g/触媒1gである。第1活性化段階を、触媒粒子が温度T1に達するまで続ける。
【0022】
第1加熱速度HR1は、好ましくは0.5℃/分 HR1 10℃/分の条件を満足し、より好ましくは1℃/分 HR1 2℃/分の条件を満足する。
【0023】
第2活性化段階は、触媒粒子が温度T1に達した時点で始まり、上記のように時間t1の間続く。第2活性化段階での処理時間t1は、より好ましくは1時間 1 10時間の条件を満足し、典型的には2時間 1 6時間の条件を満足する。
【0024】
本発明の1つの態様においては、第2活性化段階において、触媒粒子を温度T1に維持してもよく、即ち、HR2=0でもよい。この場合、温度T1は、触媒粒子を処理時間t1の間維持する維持温度となる。
【0025】
しかし、本発明の他の1つの態様においては、第2活性化段階で、触媒粒子の温度を温度T1から温度TH(但しTH > T1)に変えてもよく、即ちHR2>0でもよく、TH < 200℃である。所望により、触媒粒子をしばらく温度T1に維持した後、温度THに向けて加熱を開始してもよい。
【0026】
第2活性化段階では、第2加熱速度HR2が、0.05℃/分 HR2 0.5℃/分の条件を満足することが好ましく、0.1℃/分 HR2 0.2℃/分の条件を満足することがより好ましい。
【0027】
第3活性化段階は、時間t1が終了した時点で始まる。したがって、本発明の1つの態様においては、第3活性化段階の開始の時点で、触媒粒子はまだ温度T1(但し80℃ 1 180℃)を有する。しかし、本発明の他の1つの態様においては、第3活性化段階の開始の時点で、触媒粒子はより高い温度THを有する。第3活性化段階は、第3処理段階における温度、即ち活性化したフィッシャー-トロプシュ合成用触媒の温度が温度T2に達するまで続ける。好ましくは、温度T2は、300℃ 2 600℃の条件を満足する。より好ましくは、温度T2は300℃〜500℃の範囲内であり、典型的には、温度T2は300℃〜450℃の範囲内である。触媒を温度T2に時間t2(但しt2は0〜20時間)の間維持することができ、好ましくは、時間t2は0時間 < t2 20時間の条件を満足し、より好ましくは、時間t2は1時間 2 10時間の条件を満足し、典型的には、時間t2は2時間 2 6時間の条件を満足する。
【0028】
第2活性化段階においてもガスは空間速度(以下「SV2」と称する)を有し、また、第3活性化段階においてもガスは空間速度(以下「SV3」と称する)を有する。
【0029】
本発明の1つの態様においては、SV1、SV2及び/又はSV3が、それぞれの活性化段階の処理において一定でもよい。たとえば、これらの活性化段階における空間速度の関係は、SV1=SV2=SV3でもよい。しかし、本発明の他の1つの態様においては、SV1、SV2及びSV3がそれぞれの活性化段階において異なってもよい。
【0030】
第1活性化段階においては、水素含有還元性ガスを用いることが好ましく、3つの活性化段階において用いられるガスが同じ組成を有してもよい。「水素含有還元性ガス」とは、水素含有混合ガスを意味し、水素含有混合ガスの水素含量H2は10容量% < H2 100容量%を満足し、より好ましくは、水素含有混合ガスは90容量%を超えるH2と10容量%未満の不活性ガスからなり、最も好ましくは、97容量%を超えるH2と3容量%未満の不活性ガスからなる。不活性ガスは、Ar、He、NH3及びH2Oのいかなる組み合わせでもよく、水素含有還元性ガスの露点は4℃以下であることが好ましく、より好ましくは−30℃以下である。
【0031】
第1活性化段階においては、水素含有還元性ガスの代わりに窒素含有ガスを用いることもできる。「窒素含有ガス」とは、90容量%を超えるN2と10容量%未満の他の成分からなる混合ガスを意味する。他の成分は、Ar、He、及びH2Oのいかなる組み合わせでもよい。窒素含有ガスの露点は4℃以下であることが好ましく、より好ましくは−30℃以下である。窒素含有ガスは水素を一切含有しない(即ち水素=0容量%)。
【0032】
第1活性化段階、第2活性化段階及び第3活性化段階の処理は、同じ圧力下で行なってもよいし、異なる圧力下で行なってもよく、また、いずれもおよそ大気圧下で行なってよく、好ましくは、いずれも0.6〜1.3バール(絶対圧)の圧力下で行なってよい。
【0033】
したがって、本発明のこの態様における触媒還元は、PCT/IB2008/051723号に記載されている方法で行なうことができる(この特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0034】
しかし、本発明の他の1つの態様においては、還元処理を以下の手順を含む方法で行なうことができる。
第1活性化段階において、仮焼された状態の還元可能な酸化コバルトを含み、コバルト原子1モル当たりの酸素原子のモル数が4/3モルを超える式単位を有し、還元可能な酸化コバルトの比表面積がCo34スピネルの比表面積と少なくとも等しい酸化触媒粒子を、純粋水素である還元性ガスを用い、特定の第1供給ガス空間速度SV1を用い、第1加熱速度HR1で処理して、部分的に還元した触媒前駆体を得、そして
第2活性化段階において、部分的に還元した触媒前駆体を、純粋水素である還元性ガスを用い、特定の第2供給ガス空間速度SV2を用い、第2加熱速度HR2で処理して、活性化したフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒を得る(但しSV2 SV1、及び/又はHR2 HR1、但しSV2=SV1の場合、HR2≠HR1であり、HR2=HR1の場合、SV2≠SV1である)。
【0035】
したがって、本発明のこの態様における触媒還元は、WO第03/035257号に記載されている方法で行なうことができる(この特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0036】
フィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒は、具体的には、粒状触媒担体、前駆体活性成分としてのコバルト化合物及び水のスラリーを調製し、コバルト化合物を触媒担体に含浸させ、含浸触媒担体を乾燥させ、含浸触媒担体を仮焼して触媒前駆体を得、得られた触媒前駆体を還元することによって得られる活性化されたフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒でよい。この触媒は当然、フィッシャー‐トロプシュ合成に使用され、使用される間に不活性化して使用済み触媒となり、本発明による再生が必要となる。
【0037】
市販の成形済み多孔性酸化物触媒担体を用いてもよい。その例としては、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、マグネシア(MgO)、SiO2−Al23、及び酸化スズ(ZnO)が挙げられる。触媒担体の平均細孔径は、好ましくは8〜50ナノメーターであり、より好ましくは10〜15ナノメーターである。触媒担体の細孔容積は、0.1〜1.5ml/gでよく、好ましくは0.3〜0.9ml/gである。触媒担体の平均粒子径は、好ましくは1〜500マイクロメーターであり、より好ましくは10〜250マイクロメーターであり、更に好ましくは45〜200マイクロメーターである。
【0038】
触媒担体は、保護された変性触媒担体でよく、たとえば、変性成分としてシリコンを含有することができる。保護された変性触媒担体の例としては、EP特許出願第99906328.2号(EP公開第1058580号)に記載されているものが挙げられる(この特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0039】
より詳細には、保護された変性触媒担体としては、シリコン前駆体、たとえば有機シリコン化合物(テトラエトキシシラン(TEOS)やテトラメトキシシラン(TMOS)等)を含浸法や沈積法や化学蒸着法などにより触媒担体と接触させてシリコン含有変性触媒担体を得て、得られたシリコン含有変性触媒担体を回転炉などで100℃〜800℃、好ましくは450℃〜550℃の温度で、1分〜12時間、好ましくは0.5時間〜4時間の間仮焼することにより得られるものが挙げられる。
【0040】
或いはまた、変性触媒担体は、以下の方法で得られるものでよい。
下記一般式(1):

HOOC−C*R1C*R2−COOH (1)
式中:
*1とC*2中のC*はsp2炭素であり、そして
1とR2は同じでも異なってもよく、各々、水素、カルベニウムまたはアルキルである、
で表わされる多官能性カルボン酸またはその前駆体を、粒状触媒担体の内部及び/又は表面に導入し、その際、多官能性カルボン酸の粒状触媒担体に対する比率を0.3〜4.4μmolのカルボン酸/担体の1m2とし、
所望により、得られたカルボン酸含有触媒担体を乾燥させ、
多官能性カルボン酸を粒状触媒担体の内部及び/又は表面に導入するのと同時に、または、その後で、触媒担体にコバルト塩及び、所望により、還元促進剤を含浸させ、得られた含浸担体を部分的に乾燥させ、そして
得られた部分的乾燥含浸担体を仮焼する、ことを含む方法。
【0041】
コバルトの担持量は、コバルト5g/担体100g〜コバルト70g/担体100gの範囲でよく、好ましくは、コバルト20g/担体100g〜コバルト55g/担体100gの範囲である。
【0042】
コバルト塩は、具体的には、硝酸コバルト、即ち Co(No32・6H2O でよい。
【0043】
触媒担体の含浸は、原則として、いかなる公知の方法や手順でも行なうことができる。たとえば、初期湿潤(incipient wetness)含浸法やスラリー含浸法などで行うことができる。しかし、触媒担体の含浸は、たとえば、米国特許第6455462号や米国特許第5733839号に記載されている方法で行なえばよい(これらの特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0044】
より具体的には、含浸は、たとえば、粒状触媒担体、水及びコバルト塩を含むスラリーを高温下で大気圧以下の圧力下(たとえば5kPa(絶対圧)、好ましくは大気圧〜20kPa(絶対圧))に置き、得られた含浸担体を高温下に上記の大気圧以下の圧力下で乾燥させることにより行なえばよい。更に具体的には、含浸は、たとえば、処理の初期段階で、上記スラリーを高温下で上記の大気圧以下の圧力下に置いて担体にコバルト塩を含浸させ、得られた含浸担体を部分的に乾燥させて部分的乾燥含浸担体を得、その後、処理の後期段階で、該部分的乾燥含浸担体を高温下で上記の大気圧以下の圧力下に置き、その際、処理の後期段階での温度を処理の初期段階での温度よりも高くする、及び/または、処理の後期段階での圧力を処理の初期段階での圧力よりも低くすることにより、処理の後期段階では処理の初期段階よりも急速に含浸担体を乾燥させ、こうして乾燥含浸担体を得る、ことにより行なえばよい。
【0045】
含浸については、触媒担体に対して2段階または3段階以上の含浸を行なって所望のコバルト担持量を得ることもできる。各含浸工程は、上記のように処理の初期段階と処理の後期段階を含むことができる。
【0046】
触媒担体の含浸には、所望のコバルト担持量と担体の細孔容積に応じて、2段階スラリー相含浸法(2-step slurry phase impregnation process)を用いることができる。
【0047】
触媒担体の含浸と乾燥は、典型的には、回転スクリューを有する円錐形の真空乾燥機や、回転式真空乾燥機を用いて行うことができる。
【0048】
コバルト含浸の工程において、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、レニウム(Re)またはこれらの混合物の水溶性前駆体塩を、活性成分の還元性を高めることのできるドーパントとして添加してもよい。
【0049】
上記したように、含浸工程において有機変性剤(たとえばフマル酸やマレイン酸)を添加して触媒活性を高めてもよい。
【0050】
含浸・乾燥した原料を仮焼するためには、当業者に公知のいかなる方法を用いてもよい。たとえば、流動床や回転炉や仮焼炉(calciner)などを用いて、200℃〜400℃で行なえばよい。具体的には、WO第01/39882号に記載されている方法で行なえばよい(この特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる)。
【0051】
より具体的には、触媒前駆体は、(i)WO第99/42214号、WO第02/07883号及び/又はWO第03/12008号に記載されている方法で触媒担体を変性し、(ii)EP公開第0736326号に記載されている方法で触媒担体に含浸を行い、(iii)WO第00/20116号に記載されている方法で触媒担体を乾燥させ、そして(iv)WO第01/39882号に記載されている方法で触媒担体を仮焼することにより得ることができる。得られた触媒前駆体を、PCT/IB2008/051723号に記載されている方法で還元(即ち活性化)することができる。或いは、触媒前駆体の還元(即ち活性化)を、WO第03/035257号に記載されている方法で行なうことができる。これらの特許文献はここに言及することにより本明細書に組み込まれる。
【0052】
フィッシャー‐トロプシュ合成は、水素(H2)と一酸化炭素(CO)を含む合成ガスを180℃〜250℃の高温下と10〜40バールの加圧下において活性化フィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒と接触させることにより、水素と一酸化炭素のスラリー相フィッシャー‐トロプシュ反応を行う方法である。
【0053】
以下の実施例に参照して本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0054】
30g Co/100g Al2O3 の組成を有するスラリー相フィッシャー-トロプシュ合成用触媒(出願人が所有)(以下この触媒を「触媒S」と称する)を、WO第01/39882号に詳述されているフィッシャー-トロプシュ合成用担持コバルト触媒の粒状前駆体を用いて製造した。
【0055】
この予備還元済み触媒前駆体の代表バッチ(representative batch)を以下の手順で製造した。Puralox SCCa 2/150(粒状アルミナ担体)(細孔容積0.48ml/g)(ドイツ国、ハンブルク 22297、ユーバーゼーリング 40の SASOL Germany GmbH 製)を、シリコンで変性し、最終シリコンレベルが2.5Si原子/担体nm2となるようにした。TEOS(テトラエトキシシラン)をエタノールに加え、得られた溶液にアルミナ担体を加え(エタノール1リットル/アルミナ1kg)、得られた混合物を60℃で30分撹拌した。その後、溶媒を、乾燥装置のジャケット温度95℃の真空下で除去した。得られた乾燥変性担体を500℃で2時間仮焼した。17.4kgのCo(NO3)2・6H2O、9.6gの(NH3)4Pt(NO3)2、及び11kgの蒸留水からなる溶液を調製し、20.0kgの上記シリカ変性ガンマ−アルミナ担体をこの溶液に加えた。得られたスラリーを円錐形の真空乾燥機に入れて混ぜ合わせ続けた。このスラリーの温度を60℃に上げてから、20kPa(絶対圧)に加圧した。乾燥工程の最初の3時間においては、温度を徐々に上げて、3時間後に95℃に達した。3時間後に圧力を3〜15kPa(絶対圧)に下げ、初期湿潤含浸法の時点の乾燥速度を2.5m%/1時間とした。含浸と乾燥を完全に行なうのに9時間かかり、その後、含浸乾燥触媒担体を直ぐにそのまま流動床仮焼機に入れた。仮焼機に入れた時点での乾燥含浸触媒担体の温度は約75℃であった。仮焼機への導入には約1〜2分かかり、仮焼機の内部温度は設定温度の約75℃に維持された。乾燥含浸触媒担体を加熱して75℃から250℃に昇温(加熱速度は0.5℃/分で、空気の空間速度は1.0m3 n/Co(NO3)2・6H2Oの1kg/1時間)して、その後250℃を6時間維持した。コバルト担持量が 30g Co/100g Al2O3 の触媒を得るために、第2の含浸/乾燥/仮焼工程を行なった。9.4kgのCo(NO3)2・6H2O、15.7gの(NH3)4Pt(NO3)2、及び15.1kgの蒸留水からなる溶液を調製し、第1の含浸と仮焼を行なった触媒前駆体の20.0kgをこの溶液に加えた。得られたスラリーを円錐形の真空乾燥機に入れて混ぜ合わせ続けた。このスラリーの温度を60℃に上げてから、20kPa(絶対圧)に加圧した。乾燥工程の最初の3時間においては、温度を徐々に上げて、3時間後に95℃に達した。3時間後に圧力を3〜15kPa(絶対圧)に下げ、初期湿潤含浸法の時点の乾燥速度を2.5m%/1時間とした。含浸と乾燥を完全に行なうのに9時間かかり、その後、処理済触媒担体を直ぐにそのまま流動床仮焼機に入れた。仮焼機に入れた時点での乾燥含浸触媒担体の温度は約75℃であった。仮焼機への導入には約1〜2分かかり、仮焼機の内部温度は設定温度の約75℃に維持された。乾燥含浸触媒担体を加熱して75℃から250℃に昇温(加熱速度は0.5℃/分で、空気の空間速度は1.0m3 n/Co(NO3)2・6H2Oの1kg/1時間)して、その後250℃を6時間維持した。こうして、アルミナ担体担持コバルト触媒前駆体を得た。
【0056】
上記触媒前駆体を、流動床還元ユニットにおいて大気圧下で還元し、その際、希釈しないH2還元ガスを総供給ガスとし、同時に以下の温度プログラムを用いた。加熱速度1℃/分で加熱して25℃から425℃に昇温し、425℃を4時間等温に維持する。こうして触媒Sを得た。
【0057】
触媒Sを、半商業的なフィッシャー‐トロプシュ合成用プラントで用いた。具体的には、水素と一酸化炭素を含む合成ガスを高温下に以下のスラリー相フィッシャー-トロプシュ合成(FTS)条件で触媒Sと接触させた。
【0058】
反応器温度 : 230℃
反応器圧力 : 21バール
(H2+CO)転化率(%) : 60±10
【0059】
供給ガス組成
2 : 50〜60容量%
CO : 30〜40容量%
他の成分 : CH4及び/又はCO2
【0060】
この触媒Sを半商業的なFTSプラントで長時間用いた後、触媒がもはや適切な性能を発揮していないことを見出した。具体的には、触媒のFTS活性が初期のFTS活性の80%未満に低下していた。
【0061】
使用済み触媒となった触媒Sの第1サンプル(以下「触媒A」と称する)に対して、以下の実験室的再生手順(比較例)を行なった。
【0062】
ワックス除去
ワックス被覆された使用済み触媒サンプルの10gを実験室スケールの固定床還元ユニットにおいて水素化分解工程に付してワックスを除去した。その際、純粋水素の空間速度は1500ml n/触媒1g/1時間とし、同時に以下の温度プログラムを用いた。加熱速度1℃/分で加熱して220℃に昇温し、220℃を2時間等温に維持し、次に加熱速度1℃/分で加熱して350℃に昇温し、350℃を2時間等温に維持し、その後25℃に冷却する。水素をアルゴンで置換し、得られた乾燥触媒粉体をドライアイス(即ちCO2)に入れて不動態化した。
【0063】
酸化
不動態化した触媒を次に実験室スケールの流動床仮焼ユニット(反応室)において酸化に付した。その際、空気の空間速度は1780ml n/触媒1g/1時間とし、同時に以下の温度プログラムを用いた。加熱速度1℃/分で加熱して250℃に昇温し、250℃を6時間等温に維持した。流動床還元ユニットを0.9バール(絶対圧)に維持し、酸素濃度を21容量%とした。
【0064】
還元
酸化触媒サンプルを次に実験室スケールの固定床還元ユニットにおいて以下の還元工程に付した。水素の空間速度は1500ml n/触媒1g/1時間とした。加熱速度1℃/分で加熱して425℃に昇温し、425℃を16時間等温に維持した。水素中で室温(±25℃)まで冷却したのち、得られた還元(活性化)触媒を取り出してワックス中に入れ、その後再使用した。
【0065】
使用済み触媒となった触媒Sの更に2つのサンプル(以下「触媒B」及び「触媒C」と称する)に対して、上記の再生手順を行ない、但し、酸化工程の圧力を、それぞれ、5バール(絶対圧)と11バール(絶対圧)にした。したがって、これらの触媒サンプルは本発明の方法により再生した。
【0066】
上記3種類の再生触媒について、実験室スケールのマイクロ スラリー反応器でフィッシャー-トロプシュ合成性能の試験を行なった(表1参照)。
【0067】
コバルト触媒に関して報告された下記のFT速度式:
RFT − (kFT pH2 PCO)/(1 + kpCO)2
を適用し、報告された実験についてのアレニウス前指数項(Arrhenius derived pre-exponential factor)kFTを推定した。
【0068】
相対固有比FT活性は以下のように定義される。[(触媒Rの前指数項)/(新鮮触媒の前指数項)] × 100%(但し触媒Rは、触媒A、触媒Bまたは触媒Cを表わす)
【0069】
【表1】

【0070】
0.9バール(絶対圧)での酸化(表2参照)と比較して、本発明による高圧力下での酸化の影響が触媒活性の回復に見ることができる。言い換えると、表2から分かるように、本発明による高圧力下の酸化(触媒再生処理の一部として)により触媒活性をより大きく回復させることができる。
【0071】
【表2】

【0072】
したがって、高圧力下の酸化を用いる本発明の触媒再生方法により、触媒活性をほぼ完全(92%〜98%)に回復できることがわかる。
【0073】
更に、高圧力下の酸化を用いる本発明の触媒再生方法により、メタンの選択性に悪影響を及ぼさずに触媒活性をより大きく回復できることがわかる。
【0074】
また、代替法として、PCT/IB2008/051723号の実施例6において触媒前駆体F2に対して行なう3段階還元工程や、PCT/IB2008/051723号の実施例7において触媒前駆体G2に対して行なう3段階還元工程によっても酸化触媒サンプルを再生することができることがわかる。
【0075】
使用済みフィッシャー‐トロプシュ合成用触媒には炭素が存在すると考えられる。
【0076】
使用済み触媒を[ワックス除去/酸化/還元]に付し、該酸化を高圧力下で行う本発明の触媒再生方法により、より多くの炭素を除去でき、これにより触媒活性をより大きく回復できることが分かる。
【0077】
新鮮FTS触媒を製造する費用よりも、使用済みFTS触媒を再生する費用のほうが安いので、メタンの選択性に悪影響を及ぼさずに触媒活性をより大きく回復できるのであれば、使用済みFTS触媒の再生によりFTSプロセスの経済性を向上することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みのフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒を再生するための方法であって、使用済みのフィッシャー‐トロプシュ合成用コバルト触媒粒子に対して、ワックス除去処理、4〜30バール(絶対圧)の圧力下での酸化処理、及び還元処理を順次行なうことにより触媒を再生することを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
4〜30バール(絶対圧)の圧力下での酸化処理及びその後の還元処理を含む少なくとも1回の更なる再生サイクルを行なうことを更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ワックス除去処理が、水素化分解、溶媒洗浄または溶媒抽出、並びに溶媒洗浄または溶媒抽出及びその後の水素化分解からなる群より選ばれる1種を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ワックス除去処理の後で、酸化処理の前に、触媒を不動態化することを更に含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酸化処理が、ワックス除去した触媒粒子を、高温下と4〜30バール(絶対圧)の高圧力下の酸素含有ガス中で流動させることにより仮焼することによって触媒粒子を酸化させることを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ワックス除去した触媒粒子の流動化を該高圧力下の反応室中で行ない、その際、触媒粒子を加熱して温度Tまで昇温し、触媒粒子を温度Tに一定時間維持することにより仮焼することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
触媒粒子の流動中の反応室における空間速度が100〜20000mln/触媒1g/1時間の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
触媒粒子を加熱して温度Tまで昇温する速度が0.1〜10℃/分であることを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項9】
温度Tが150℃〜400℃の範囲内であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
触媒粒子を温度Tに維持する時間が0.1時間〜24時間の範囲内であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酸化処理を行なう高圧力が4〜12バール(絶対圧)の範囲内であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
酸化処理における酸素レベルを、約1%の低酸素濃度から始めて、約21%の酸素濃度まで上昇させることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
還元処理が、高温下と圧力P(但しP 0.8バール(絶対圧))下の水素含有還元性ガスで酸化触媒粒子を処理することを含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2010−526653(P2010−526653A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507050(P2010−507050)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/IB2008/051862
【国際公開番号】WO2008/139407
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(500159211)サソール テクノロジー(プロプライエタリー)リミテッド (25)
【Fターム(参考)】