説明

触診装置、寝台装置及びこれらを用いた腹診装置

【課題】位置再現性を確保しつつ触診器具を自由に操作でき、患者に不安を与える虞の少ない定量的腹診装置、及びそれに用いられる触診装置、寝台装置を提供すること。
【解決手段】
胸部支持部と下肢支持部とを有し、胸部支持部と下肢支持部との間に空間が形成されてなる寝台と、寝台を支持する複数の脚部と、を有する寝台装置と、垂直方向上方向からの加重を受ける触診部と、触診部の高さを調節する高さ調節部と、触診部を水平方向に移動させる水平方向移動部と、を有する触診装置と、を備え、触診装置は寝台装置下部に設けられ、触診部は、水平方向移動部及び高さ調節部が駆動することにより寝台装置の空間近傍において三次元的に移動可能である腹診装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触診装置、寝台装置及びこれらを用いた腹診装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、和漢診療学の診断方法には望診、聞診、問診及び切診(触診を意味する)と呼ばれる4つの診察法(四診)がある。なかでも切診は手で脈の性質や形状を診たり(脈診)、直接腹部に触れて腹壁の緊張度又は刺激に対する反応性を診たり(腹診)する診察方法であり、四診の中でも患者の生体情報を直接手で触知しうるという点で極めて特徴的な診察方法である。
【0003】
ところで、和漢診療学の診察方法は五感で得られる情報を基に診断し患者の年齢や体格などに応じて適切な漢方薬などを処方する主観的な診断であるため、膨大な知識や熟練した技量だけでなく経験に基づく推測(いわゆる「勘」)も要求され、習得するのが非常に困難で、客観性に欠ける場合もある。
【0004】
このような課題に対処するため、例えば下記特許文献1には、一定深さまで腹部を押したときの反力の強さを計測することができる定量的腹診装置が開示されている。なお、下記特許文献2には、東洋医学における手首の浮脈、中脈及び沈脈を機械的に検出して脈圧波情報を得ることのできる脈診装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−261546号公報
【特許文献2】特開平11−19055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術は、触診器具の操作を医師の手に任せているため自由に操作できる点で有用であるが、触診器具をあてる位置の再現性、押入する角度の再現精度にかけている。これらはいずれも大変重要な情報であり、位置や角度が異なると測定結果が大きく変化することとなり、安定しない。また、押入する動作が直線に限られているといった課題もある。
【0007】
また特許文献2に記載の技術は、手首の脈診であり、腹診に関するものではない。また押入角度が固定されており、任意に変更することができないといった課題もある。また仮に、本特許文献に記載の技術を腹診に応用しようとする場合、プローブ及びその駆動機構が載置台の上に配置されている、すなわち患者の体の一部が載置台とプローブとの間にはさまれる構成となっているため、患者に不安を与える虞がある。更に万一機械の動作に不具合が発生した場合、体が挟まれた状態となると、患者は容易に脱出できない等危険な状態に陥る可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を鑑み、位置再現性を確保しつつ触診器具を自由に操作でき、患者に不安を与える虞の少ない腹診装置、及びそれに用いられる触診装置、寝台装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の観点に係る腹診装置は、(1)胸部支持部と下肢支持部とを有し、胸部支持部と下肢支持部との間に空間が形成されてなる寝台と、寝台を支持する複数の脚部と、を有する寝台装置と、(2)垂直方向上方向からの加重を受ける触診部と、触診部の高さを調節する高さ調節部と、触診部を水平方向に移動させる水平方向移動部と、を有する触診装置と、を備えている。そして、触診装置は寝台装置下部に設けられ、触診部は、水平方向移動部及び高さ調節部を駆動することにより寝台装置の空間近傍において三次元的に移動可能である。
【0010】
また本発明の第二の観点に係る触診装置は、垂直方向上方向からの加重を受ける触診部と、触診部の高さを調節する高さ調節部と、触診部を水平方向に移動させる水平方向移動部と、を有する。
【0011】
また本発明の第三の観点に係る寝台装置は、胸部支持部と、下肢支持部とを有し、胸部支持部と下肢支持部との間に空間が形成されてなる寝台と、寝台を支持する複数の脚部と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
以上、本発明により、位置再現性を確保しつつ触診器具を自由に操作でき、患者に不安を与える虞の少ない定量的腹診装置、及びそれに用いられる触診装置、寝台装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る腹診装置(以下「腹診装置」という。)1を横(水平方向)から見た場合の断面概略図であり、図2は上から(図1のBから矢印方向を)見た場合の概略図である。これらの図から明らかなように、本腹診装置1は、寝台装置2と、触診装置3とを有して構成されている。具体的には、(1)胸部支持部211と下肢支持部212とを有し、胸部支持部211と下肢支持部212との間に空間213が形成されてなる寝台21と、寝台21を支持する複数の脚部22を有する寝台装置2と、(2)垂直方向上方向からの加重を受ける触診部31と、触診部31の高さを調節する高さ調節部32と、触診部31を水平方向に移動させる水平方向移動部33と、を有する触診装置3と、を備えている。そして、触診装置3は、寝台装置2の下部に設けられ、触診部31は、水平方向移動部33及び高さ調節部32を駆動することにより寝台装置2の空間213近傍において三次元的に移動可能である。
【0015】
また本実施形態に係る腹診装置1は、触診装置3を制御する制御装置4を有しており、触診部31の位置情報を取得する触診部位置情報取得部41と、高さ調節部32及び水平方向移動部32を駆動して接触部アーム31の位置を制御する触診部位置制御部42と、触診部31が検出する加重情報を取得する加重情報取得部43と、を有している。なお、制御装置4は、上記機能を実現することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、いわゆるパーソナルコンピュータのハードディスク等の記録媒体に、上記各機能を実現することが可能なプログラムを格納し、このプログラムを実行することで実現可能である。
【0016】
寝台装置2は、腹診の際に被験者を支持するための台であって、その寝台21は、胸部支持部211と下肢支持部212とを有し、胸部支持部211と下肢支持部212との間に空間213が形成されている。被験者は、腹診の際、腹臥位の姿勢で寝台装置2の上に乗り、腹部の空間213に自己の腹部を下方に垂らした状態とする。
【0017】
寝台21は、胸部支持部211と下肢支持部212との間に空間213を形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えば、胸部支持部211、下肢支持部212の少なくとも一方を複数の短冊状の板を組み合わせて構成されたものとすることが好ましい。そして更に、このそれぞれの板を取り外し可能とすることで、被験者の腹部の位置・大きさ等の体型に基づき空間213の位置、大きさを自在に変化可能とすることができる。
【0018】
また本実施形態の触診装置3は、上記の通り垂直方向上方向からの加重を受ける触診部31と、触診部31の高さを調節する高さ調節部32と、触診部を水平方向に移動させる水平方向移動部33と、を有する。そして、触診装置3は、寝台装置2の下部に設けられており、触診部31は、水平方向移動部33及び高さ調節部32が駆動することにより寝台装置2の空間213近傍において三次元的に移動可能である。このようにすることで、触診部31を被験者の腹部に押し当てることができる。なお、図3に、本腹診装置1を図1と同様の方向から見た場合の触診装置3の部分拡大図を、図4に、本腹診装置1を図3のAから矢印方向を見た場合の触診装置3の部分拡大図をそれぞれ示しておく。
【0019】
本実施形態において触診部31は、垂直方向上方向からの加重を受けることができるものであって、先端にプローブ311と、このプローブ311の受ける荷重を検出する加重センサ312が設けられている。加重センサ312としては、限定されるわけではないが、X、Y、Z軸、すなわち高さ及び水平方向の加重情報を取得することのできる三軸加重センサであることが好ましい一態様である。なおこの加重センサが検出する加重情報は、制御装置4における加重情報取得部43に加重データとして出力され、その後加重データの記録等、各種の情報処理が行われる。また触診部31は、触診部位置情報取得部41にも接続されており、触診部31の位置は制御装置に常時監視されている。この結果、後述の触診部位置制御部42に指示を出し、高さ調整部32、水平方向移動部33を制御して触診部31の位置を調整することができる。
【0020】
高さ調節部32は、上記の通り触診部31の高さを調節するものであって、限定されるわけではないが、本実施形態のように、垂直方向に配置される高さ方向軸321と、高さ方向軸を保持する高さ方向軸保持台322と、高さ方向軸321に配置され、触診部31を支持しつつ触診部31を上下に移動可能である高さ保持アーム323と、を有して構成されていることが好ましい。なお、高さ調節部32は、触診部位置制御部42に接続され、制御される。
【0021】
高さ方向軸321、高さ保持アーム323を採用する場合において、上記の機能を有する限りにおいて限定されないが、例えば、高さ方向軸321を螺旋状に溝が配置された長ネジとする一方、高さ保持アーム323にこの長ネジの溝に対応した歯を有する貫通孔を形成し、この貫通孔と長ネジとをかみ合わせ、長ネジに接続される高さ制御モータ324を用いて長ネジを回転させることで触診部31を高さ方向(垂直方向)に上下させることができる。この場合、高さ制御モータ324が、制御装置4における触診部位置制御部42に接続され、回転が制御される。
【0022】
水平方向移動部33は、触診部31を水平方向に移動可能とする部であって、限定されるわけではないが、本実施形態では、高さ調節部32及び触診部31を支持し、高さ調節部32及び触診部31を水平方向に移動可能とする。なお水平方向移動部33は、触診部位置制御部42に接続され、制御される。
【0023】
水平方向移動部33の構成は、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えば寝台装置2の短軸方向(被験者の頭の向く方向に略垂直な方向、以下「第一の方向」という。)に延びた第一の軸331と、第一の方向と略垂直な方向(被験者の頭の向く方向(身長方向)、以下「第二の方向」という。)に延び、第一の軸331に接続される水平支持台332と、この水平支持台332と同じ方向に延び、高さ調節部32が接続された第二の軸333と、を有して構成されている。このようにすることで、本触診装置3は高さ調節部32及び触診部31を水平方向において自在に移動させることができるようになる。
【0024】
なお上記の構成としては、特に限定されるわけではないが、容易に実現する方法として、第一の軸331を螺旋状に溝が配置された長ネジとする一方、水平支持台332にこの長ネジの溝に対応した歯を有する貫通孔を形成し、この貫通孔と長ネジである第一の軸331とをかみ合わせ、長ネジである第一の軸331に制御モータ334を接続し、この長ネジを回転させることで、触診部31、高さ調節部32、水平支持台332を第一の方向に自在に移動させることができるようになる。また、第二の軸333を螺旋状に溝が配置された長ネジとする一方、高さ方向保持台322にこの長ネジの溝に対応した歯を有する貫通孔を形成し、この貫通孔と長ネジである第二の軸333とをかみ合わせ、長ネジである第二の軸333に接続される制御モータ335を用いて長ネジを回転させることで、触診部31及び高さ調節部32を第二の方向に自在に移動させることができるようになる。なお、本実施形態において、水平支持台の一方は第一の軸311に接続されているが、他方は第一の軸311を支持する土台に例えば車輪を介して支えられていることも移動を寄りスムーズにする上で重要である。
【0025】
なお、本実施形態では、説明の簡便のため、第一の軸331に第二の軸333を、第二の軸333に高さ方向軸321を接続した構成としているが、移動可能である限りにおいて限定はなく、例えば第二の軸に第一の軸を接続させるように逆としてもよく、組み合わせは自由である。ただし、水平方向の移動調節を終えてから高さ調節を行なわせることが位置調整の観点、装置の安定性の観点において好ましいため、高さ保持部32は水平方向移動部33に支持されていることが好ましい。
【0026】
以上、本実施形態により、あらゆる方向の加圧を高い再現精度で実現することができる。さらに、本実施形態にかかる腹診装置によると、和漢診療学の腹診行為のひとつである「押してから左右に動かす」といった、複雑な動作を再現することが可能となり、その際の加重の変化を詳細に記録することができる。また、腹臥位の状態で腹診をおこなうことができるため、被験者は物理的に拘束されることもなく、診断を受けることができ、万一触診装置に不具合が生じた場合であっても、被験者はすぐに起き上がって退避することができるため安全性を確保できる。つまり、位置再現性を確保しつつ触診器具を自由に操作でき、患者に不安を与える虞の少ない定量的腹診装置、及びそれに用いられる触診装置、寝台装置を提供することができる。
【0027】
(実施形態2)
上記の実施形態は、寝台装置の寝台及び第一の軸及び第二の軸を設置面と平行な面上に置くことを前提として説明したが、本実施形態では、寝台及び第一の軸及び第二の軸を設置面から所定の角度傾けた点が特徴である。図5に本実施形態に係る腹診装置1の概略図を示しておく。
【0028】
本図から明らかなように、脚部22の長さに差を設けて寝台21を所定の角度傾け、その角度と同じ角度だけ触診装置3(触診部31、高さ調節部32、水平方向移動部33)を台34を用いて傾けることで、被験者がより簡易に寝台装置により係ることが可能となり、また緊急時における退避も簡易となる。更には、集団検診など、多数の被験者を対象に短時間で診断することが求められる場合、このような姿勢で診断を行なうとより効果的である。
【0029】
なお、寝台装置及び触診部、高さ調節部、水平方向移動部を傾ける方法としては、単に長さの異なる脚部、傾けるための台34を用意して傾けることでも可能であるが、シリンダ等を用いて傾き角度を調節できる傾き調整部を設けておくことは、より腹診の自由度を高めることができ有用である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、腹診装置及びその構成部材として産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態1に係る腹診装置の概略を示す図である。
【図2】実施形態1に係る腹診装置の概略を示す図(図1のBから矢印方向を見た図)である。
【図3】実施形態1に係る触診部の部分拡大図である。
【図4】実施形態1に係る腹診部の部分拡大図(図3のAから矢印方向を見た図)である。
【図5】実施形態2に係る腹診装置の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1…腹診装置、2…寝台装置、3…触診装置、4…制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸部支持部と下肢支持部とを有し、前記胸部支持部と前記下肢支持部との間に空間が形成されてなる寝台と、前記寝台を支持する複数の脚部と、を有する寝台装置と、
垂直方向上方向からの加重を受ける触診部と、前記触診部の高さを調節する高さ調節部と、前記触診部を水平方向に移動させる水平方向移動部と、を有する触診装置と、を備え、
前記触診装置は前記寝台装置下部に設けられ、前記触診部は、前記水平方向移動部及び前記高さ調節部が駆動することにより前記寝台装置の空間近傍において三次元的に移動可能である腹診装置。
【請求項2】
前記触診部の位置情報を取得する触診部位置情報取得部と、
前記高さ調節部及び水平方向移動部を駆動させ前記接触アームの位置を制御する触診部位置制御部と、
前記触診部が検出する加重情報を取得する加重情報取得部と、を有する請求項1記載の腹診装置。
【請求項3】
垂直方向上方向からの加重を受ける触診部と、
前記触診部の高さを調節する高さ調節部と、
前記触診部を水平方向に移動させる水平方向移動部と、を有する触診装置。
【請求項4】
前記触診部は、先端にプローブと、前記プローブに対する加重を検出する加重センサを有する請求項3記載の触診装置。
【請求項5】
胸部支持部と、下肢支持部とを有し、前記胸部支持部と前記下肢支持部との間に空間が形成されてなる寝台と、
前記寝台を支持する複数の脚部と、を有する寝台装置。
【請求項6】
前記胸部支持部、前記下肢支持部の少なくとも一方は、複数の短冊状の板を並べて構成したものである請求項5記載の寝台装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−274011(P2010−274011A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131655(P2009−131655)
【出願日】平成21年5月30日(2009.5.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】