説明

計測器ドリフト検知装置および計測器ドリフト検知方法

【課題】ドリフト検知の対象計測器やドリフト判定モデルを選択する際の作業負担を軽減できる計測器ドリフト検知装置を提供すること。
【解決手段】計測器ドリフト検知装置において、ドリフト判定の対象とする計測器の一覧を提示する表示画面、各計測器のドリフト判定に適用可能なドリフト判定モデルを提示する表示画面およびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを提示する表示画面を出力するHMI手段16を備えるようにした。これにより、ドリフト判定対象とする複数の計測器を抽出する作業や、計測器毎に適切なドリフト判定モデルおよびパラメータを割り当てる作業負担が軽減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電プラントや化学プラントなどに設けられてプラントのプロセス量を計測する計測器のドリフト検知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、計測器ドリフト検知技術として、
(1) 特定の計測器で計測されたプロセス量の積算量或いは変化量と、この計測器と相関を有する複数の計測器で計測されたプロセス量の積算量或いは変換量との偏差量を算出し、算出した偏差量を用いて計測器のドリフトを検知するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
(2) また、複数の計測器で計測されたプロセス量に関する統計分布および各計測器のドリフト量に関する統計分布を取得し、これらの統計分布を確率理論に照らして各計測器のドリフト量を推定するものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-63586号公報
【特許文献2】特開2003-271231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の計測器ドリフト検知技術では、互いに関連するプロセス量を計測する計測器の相関を利用して計測器のドリフト検知が行われる。そのため、計測器のドリフト検知に際して相関のある計測器を選び出す作業が必要になるが、この作業負担はプラントに設けられる計測器の数の増加と共に大きくなる。特に、原子力発電プラントのように数千個の計測器が設けられるプラントにあっては、相関ある計測器を選び出す作業は容易なものではない。
【0006】
また、計測器毎に適切なドリフト判定モデルを選択する場合、その作業負担は計測器の数やドリフト判定モデルの種類の増加と共に大きくなる。例えば、プラントにおいて比較的重要度の高いプロセス量は複数の計測器で計測されることが多く、この場合、計測器の相関を利用するドリフト判定モデルを用いて計測器のドリフト検知を行うことができる。しかしながら、比較的重要度の低いプロセス量は単独の計測器で計測されることも多い。この場合、計測器の相関を利用しないドリフト判定モデルを用いて計測器のドリフト検知を行う必要がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ドリフト検知の対象計測器やドリフト判定モデルを選択する際の作業負担を軽減できる計測器ドリフト検知装置および計測器ドリフト検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明に係る計測器ドリフト検知装置では、複数の計測器により計測されたプラントのプロセス量から生成した各プロセスデータを受信するプロセスデータ受信手段と、前記プロセスデータ受信手段が受信したプロセスデータを記録するプロセスデータ記録手段と、ドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに用いられるパラメータをドリフト判定手法として記録するドリフト判定手法記録手段と、前記プロセスデータ記録手段が記録したプロセスデータのうち選択されたプロセスデータに対し、前記ドリフト判定手法記録手段が記録したドリフト判定手法を適用して、計測器のドリフト判定を行うドリフト判定手段と、前記プロセスデータ記録手段が記録したプロセスデータ、このプロセスデータに適用可能なドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを何れも選択可能に画面表示すると共に選択されたドリフト判定モデルおよびパラメータを前記ドリフト判定手法記録手段に記録するドリフト検知支援手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る計測器ドリフト検知方法では、
(a) 複数の計測器により計測されたプラントのプロセス量から生成した各プロセスデータを受信するステップと、(b) 前記ステップ(a)で受信したプロセスデータを記録するステップと、(c) 前記ステップ(b)で記録したプロセスデータ、このプロセスデータに適用可能なドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを選択可能に提示するステップと、(d) 前記ステップ(c)で提示したドリフト判定モデルおよびパラメータの中から特定のドリフト判定モデルおよびパラメータが選択されたときに、選択されたドリフト判定モデルおよびパラメータをドリフト判定手法として記録するステップと、(e) 前記ステップ(c)で選択されたプロセスデータに対してステップ(b)で記録したドリフト判定手法を適用し、計測器のドリフト判定を行うステップと、を計算機に実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ドリフト検知の対象計測器やドリフト判定モデルを選択する際の作業負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態の計測器ドリフト検知装置を示すブロック図。
【図2】プロセスデータ記録手段におけるデータの記録形式を示す図であり、(a)は第一記録構造を示す図、(b)は第二記録形式を示す図。
【図3】ドリフト判定手法記録手段におけるデータの記録構造を示す図であり、(a)は第一記録構造を示す図、(b)は第二記録構造を示す図、(c)は第三記録構造を示す図。
【図4】HMI手段にて実行される処理の流れを示すフローチャート。
【図5】HMI手段が出力する基本画面を示す図。
【図6】HMI手段が出力するドリフト判定モデル選択画面を示す図。
【図7】HMI手段が出力するドリフト判定実行時の基本画面を示す図。
【図8】HMI手段が出力する第二のドリフト判定モデル選択画面を示す図。
【図9】第2実施形態の計測器ドリフト検知装置を示すブロック図。
【図10】ドリフト判定モデル選択画面を示す図。
【図11】第3実施形態の計測器ドリフト検知装置を示すブロック図。
【図12】プロセスデータ分類手段における相関係数の算出概念を示す図。
【図13】ドリフトト判定モデル選択画面に類似プロセスデータ表示フィールドを表示した状態を示す図。
【図14】第4実施形態の計測器ドリフト検知装置を示すブロック図。
【図15】第5実施形態の計測器ドリフト検知装置を示すブロック図。
【図16】ドリフト判定手法記録手段におけるドリフト影響度の記録形式を示す図。
【図17】第6実施形態にて行われる計測器のドリフト進展予測の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る計測器ドリフト検知装置(計測器ドリフト検知方法)の実施形態を、添付図面を参照して説明する。
【0013】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態の計測器ドリフト検知装置10を示すブロック図である。
【0014】
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10は、図1に示すように、プロセスデータ受信手段11と、プロセスデータ記録手段12と、ドリフト判定手法記録手段13と、ドリフト判定手段14と、ドリフト判定手法設定手段15と、HMI(ヒューマン・マシンインタフェース)手段16とを備える。
【0015】
プロセスデータ受信手段11は、ネットワークインターフェースを有して構成され、複数の計測器で計測されたプラントのプロセス量から生成される各プロセスデータを周期的に受信する。
【0016】
プロセスデータ記録手段12は、大容量の記録装置を備えたデータベース管理システムにより構成される。このプロセスデータ記録手段12は、プロセスデータ受信手段11が受信したプロセスデータを記録する。なお、記録装置としては、ハードディスク装置、半導体記録装置、光磁気ディスク装置或いは磁気テープ装置などが用いられる。
【0017】
プロセスデータ記録手段12が記録するデータを、次の(A1)〜(A4)に例示する。
(A1) プロセスID……プロセスデータを一意的に識別する識別名。
(A2) プロセスデータ名称……プロセスデータに付けられた名称。
(A3) プロセスデータ値……計測にかかるプロセス量から生成されたプロセスデータであり、プロセス量の計測開始日時および計測終了日時の関数。
(A4) 系統名……プロセス量と関係するプラントの系統名。
【0018】
図2はプロセスデータ記録手段12におけるデータ(A1)〜(A4)の記録構造を示す図であり、(a)は第一記録構造を示す図、(b)は第二記録構造を示す図である。
【0019】
図2に示すように、プロセスデータ記録手段12におけるデータ(A1)〜(A4)の記録構造は2種類用意される。
【0020】
第一記録構造100は、図2(a)に示すように、カラム101およびカラム102から成る。各カラムには、それぞれプロセスIDおよびプロセスデータ名称が記録される。
【0021】
第二記録構造200は、図2(b)に示すように、カラム201、カラム202、カラム203およびカラム204から成る。各カラムには、それぞれ、プロセスID、プロセスデータを生成するプロセス量の計測開始日時、このプロセス量の計測終了日時およびプロセスデータ値が記録される。このプロセスIDは、第一記録構造100に記録されるものと同一のプロセスIDである。
【0022】
また、プロセスデータ記録手段12は、データ(A1)〜(A4)の記録機能に加えて、次の(B1)〜(B4)に示す機能を有する。
(B1) プロセスID、プロセス量計測時刻およびプロセスデータ値が与えられたときに、これらの情報を記録する。
(B2) プロセスIDが与えられたときに、そのプロセスIDに対応するプロセスデータ名称を外部出力する。
(B3) プロセスIDおよびプロセス量計測時刻が与えられたときに、そのプロセスIDおよびプロセス量計測時刻に対応するプロセスデータ値を外部出力する。
(B4) プロセスIDおよびプロセス量計測時間が与えられた場合は、そのプロセスIDおよびプロセス量計測時間に対応するプロセスデータ値を外部出力する。
【0023】
ドリフト判定手法記録手段13は、プロセスデータ記録手段12と同様、データベース管理システムにより構成される。
【0024】
ドリフト判定手法記録手段13は、計測器のドリフト判定に適用されるドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに入力されるパラメータの各データを記録する。このドリフト判定手法記録手段13へのデータの記録は、ドリフト判定手法設定手段15により行われる。そして、このドリフト判定手法記録手段13に記録された各データは、ドリフト判定手段14におけるドリフト判定に用いられる。
【0025】
ドリフト判定手法記録手段13が記録するデータを、次の(C1)〜(C6)に例示する。
【0026】
(C1) プロセスID……プロセスデータを一意的に識別する識別名であり、プロセスデータ記録手段12に記録されるものと同一のプロセスID。
【0027】
(C2) プロセスデータ名称……プロセスデータに付けられた名称であり、プロセスデータ記録手段12に記録されるものと同一のプロセスデータ。
【0028】
(C3) 系統名……プロセス量と関係するプラントの系統名であり、プロセスデータ記録手段12に記録されるものと同一の系統名。
【0029】
(C4) 計測器名……プロセスデータを計測する計測器の名称であり、ドリフト判定の対象計測器の名称。
【0030】
(C5) ドリフト判定モデル……ドリフトを判定するモデルであり、次のものである。
(i) 「しきい値」……計測器で計測されたプロセス量から生成されるプロセスデータ値と、各プロセスデータ値に対してあらかじめ設定された下限値および上限値とを比較することによりドリフトの有無を判定するドリフト判定モデル。
(ii) 「基準期間との比較」……基準期間におけるプロセスデータ値と検定期間におけるプロセスデータ値とを統計的手法を用いて比較することによりドリフトの有無を判定するドリフト判定モデル。なお、基準期間はプロセス量の計測期間の中から任意に選択される期間である。検定期間は計測器のドリフト有無が判定される期間であり、プロセス量計測期間の中から任意に選択される期間である。
(iii) 「相関」……いわゆる相関法であり、複数のプロセスデータ間の相関を用いてドリフトの有無を判定するドリフト判定モデル。例えば、各プロセスデータの相関係数を計算し、その相関係数の変化からドリフトの有無を判定するドリフト判定モデル。
【0031】
(C6) パラメータ……ドリフト判定モデルを実行するプログラムが必要とするパラメータであり、ドリフト判定モデル毎に用意される。以下、単に「パラメータ」というときは、このパラメータをいうものとする。パラメータの内容を、次の(i)〜(iii)に例示する。 (i) ドリフト判定モデル「しきい値」に関わるパラメータ:
・ドリフト判定モデルの識別情報
・しきい値
・プロセスデータのサンプリング周期およびサンプリング期間
(ii) ドリフト判定モデル「基準期間との比較」に関わるパラメータ:
・有意水準
・基準期間
・検定期間
(iii) ドリフト判定モデル「相関」に関わるパラメータ:
・ドリフト判定モデルの識別情報
・相関のあるプロセスデータを識別するためのプロセスデータID
・基準にするプロセスデータのサンプリング周期およびサンプリング期間
・検定対象にするプロセスデータのサンプリング周期およびサンプリング期間
【0032】
図3はドリフト判定手法記録手段13におけるデータの記録構造を示す図であり、(a)は第一記録構造を示す図、(b)は第二記録構造を示す図、(c)は第三記録構造を示す図である。
【0033】
図3に示すように、ドリフト判定手法記録手段13におけるデータ(C1)〜(C6)の記録構造は3種類用意される。
【0034】
第一記録構造300は、図3(a)に示すように、カラム301、カラム302、カラム303、カラム304、カラム305、カラム306およびカラム307により構成される。各カラムには、それぞれ、プロセスID、プロセスデータ名称、系統名、計測器名、グループ番号、ドリフト判定モデルおよびパラメータが記録される。なお、グループ番号は、互いに関連のあるプロセスデータに与えられる共通の番号である。
【0035】
第二記録構造400は、図3(b)に示すように、カラム401、カラム402およびカラム403により構成される。各カラムには、それぞれグループ番号、ドリフト判定モデルおよびパラメータが記録される。なお、グループ番号は、第一記録構造300に記録されるものと同一のグループ番号である。
【0036】
第三記録構造500は、図3(c)に示すように、カラム501およびカラム502により構成される。各カラムには、それぞれ、ドリフト判定モデル、ドリフト判定モデルを実行するプログラムのコード実体が記録される。なお、ドリフト判定モデルは、第一記録構造300に記録されるものと同一のドリフト判定モデルである。
【0037】
第一記録構造300〜第三記録構造500の関係を説明する。例えばドリフト判定モデルとして「相関」が選択されたとき、図3(a)に示すように、プロセスIDがLT01A、LT01BおよびLT01Cであるプロセスデータは互いに相関を有するということで、カラム305に共通のグループ番号「1」が記録される。グループ番号「2」も同様の基準で記録される。グループ番号「1」および「2」のプロセスデータについては、第二記録構造400が用意される。各プロセスデータは、図3(b)に示すように、この第二記録構造400において共通のドリフト判定モデル「3」が割り当てられた状態で記録される。なお、この例はドリフト判定モデル「3」にドリフト判定モデル「相関」が割り当てられた例である。
【0038】
他方、プロセスIDがFT01、FT02およびPT01であるプロセスデータは互いに相関を有しないということで、カラム305にグループ番号「NULL」が記録される。グループ番号「NULL」のプロセスデータについては、第三記録構造500が用意される。各プロセスデータは、図3(c)に示すように、計測器ドリフト検知装置10の操作者により選択されたドリフト判定モデルを実行するプログラムのコード実体が割り当てられた状態で記録される。
【0039】
すなわち、ドリフト判定手法記録手段13は、互いに相関を有するプロセスデータと互いに相関を有しないプロセスデータとを分別記録して、各プロセスデータをそのプロセスデータに適用されたドリフト判定モデルとの対応を保持した状態で記録する。
【0040】
ドリフト判定手段14は、Webサーバのサーバサイドスクリプトにより構築されたプログラムとして構成される。
【0041】
ドリフト判定手段14は、ドリフト判定の対象として操作者により選択された対象計測器についてドリフト判定を行う。このドリフト判定は、プロセスデータ記録手段12に記録されたプロセスデータのうち操作者が選択したプロセスデータに対し、ドリフト判定手法記録手段13に記録されたドリフト判定モデルおよびパラメータを適用して行われる。
【0042】
ドリフト判定手段14において、プロセスデータとこのプロセスデータを計測した計測器との対応関係や、各プロセスデータに適用されるドリフト判定モデルとこのドリフト判定モデルに用いられるパラメータは、ドリフト判定手法記録手段13の記録構造から読み取られる。
【0043】
ドリフト判定手法設定手段15は、Webサーバのサーバサイドスクリプトにより記述されたプログラムとして構成される。
【0044】
このドリフト判定手法設定手段15の機能は主に2つある。1つは、HMI手段16の要求に応じてプロセスデータ記録手段12からプロセスデータを取り出し、取り出したプロセスデータをHMI手段16に送信する機能である。後述するが、HMI手段16はドリフト判定手法設定手段15から受信したプロセスデータを表示部に画面表示し、ドリフト判定に用いるプロセスデータを操作者が容易に選択できるようにする。
【0045】
もう1つは、上述したデータ(C1)〜(C6)をHMI手段16から受信し、これらのデータをドリフト判定手法記録手段13に記録する機能である。
【0046】
HMI手段16は、Webブラウザを搭載したパーソナルコンピュータにより構成され、表示部、記録部および入力操作部(いずれも不図示)を備える。なお、表示部としては、液晶ディスプレイ或いはCRTディスプレイなどが用いられ、入力操作部としてはキーボード、マウス、トラックパッド等のポインティングデバイスなどが用いられる。表示部は、ドリフト判定に適用されるドリフト判定モデルやパラメータの選択画面出力の用に供される。入力操作部は、表示部に出力された選択画面に従って操作者が各データを選択する用に供される。
【0047】
ドリフト検知支援手段21は、選択されたドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを選択可能に画面表示するヒューマン・マシンインタフェース手段16と、選択された特定のドリフト判定モデルおよびパラメータをドリフト判定手法記録手段13に記録するドリフト判定手法設定15とを備えている。
【0048】
このドリフト検知支援手段21は、プロセスデータ記録手段12が記録したプロセスデータ、このプロセスデータに適用可能なドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを何れも選択可能に画面表示すると共に選択されたドリフト判定モデルおよびパラメータをドリフト判定手法記録手段13に記録する機能を有している。
【0049】
図4はHMI手段16にて実行される処理の流れを示すフローチャートである。図5はHMI手段16が出力する基本画面20を示す図である。図6はHMI手段16が出力する第一のドリフト判定モデル選択画面30を示す図である。図7はHMI手段16が出力するドリフト判定実行時の基本画面20aを示す図である。図8はHMI手段16が出力する第二のドリフト判定モデル選択画面30aを示す図である。以下、図4に示すフローチャートにおける各ステップを、図5〜図8を参照しながら説明する。
【0050】
ステップS1は、初期値を設定するステップである。このステップS1では、ドリフト判定手法設定手段15がプロセスデータ記録手段12から取得したプロセスデータ値、プロセスデータ名称および系統名を、判定手法設定手段15から取得する。
【0051】
ステップS2は、ステップS1に続き、HMI手段16の表示部における表示画面を更新するステップであり、計測器ドリフト検知装置10の起動時は、図5に示す基本画面20を表示する。基本画面20のプロセスデータ選択フィールド22には、ステップS1で取得したプロセスデータの一覧が表示される。この一覧には、プロセスデータ名称および系統名が含まれる。
【0052】
ステップS3は、ステップS2に続き、操作者によるプロセスデータの選択要求の待ち状態となるステップである。操作者は、HMI手段16の入力操作部を操作してHMI手段16に対し所望のプロセスデータを選択要求できる。以降の各ステップにおいてHMI手段16に対し各データを選択要求する場合も同様である。
【0053】
ステップS4は、ステップS3に続き、操作者によるプロセスデータの選択要求の有無を判断するステップである。
【0054】
ステップS5は、ステップS3で<Yes>の場合に行われるステップであり、選択要求を受けたプロセスデータを選択するステップである。そして、ステップS2に移行し、図6に示すドリフト判定モデル選択画面30を表示する。
【0055】
また、このステップS5では、選択要求を受けたプロセスデータのトレンドを基本画面20のトレンド表示フィールド21に表示する。プロセスデータが選択要求されない間は、このトレンド表示フィールド21はブランクとなる。図5は「FT−0002移送ポンプ流量」で識別されるプロセスデータが選択された例である。なお、プロセスデータ選択フィールド22には、選択要求されたプロセスデータの項目を強調表示する。
【0056】
ステップS6は、ステップS3で<No>の場合に行われるステップであり、プロセスデータ選択フィールド22のスクロール要求の有無を判断するステップである。
【0057】
ステップS7は、ステップS6で<Yes>と判断した場合に行われるステップであり、操作者が移動させたスクロールバー23の位置に応じてプロセスデータ選択フィールド22の表示領域をスクロールするステップである。
【0058】
ステップS8は、ステップS6で<No>と判断した場合に行われるステップであり、ドリフト判定モデルの選択要求の有無を判断するステップである。
【0059】
ステップS9は、ステップS8で<Yes>と判断した場合に行われるステップであり、選択要求を受けたドリフト判定モデルを選択するステップである。ここで、操作者は、HMI手段16に対し、図6に示すドリフト判定モデル選択画面30の表示に従いドリフト判定モデルを選択要求できる。このドリフト判定モデル選択画面30に表示されるドリフト判定モデルは、ステップ5で選択したプロセスデータに適用可能なドリフト判定モデルである。
【0060】
ドリフト判定モデル選択画面30は、主にドリフト判定モデル選択フィールド31およびパラメータ選択フィールド32から成る。なお、OKボタン33は現在の選択要求を決定し、キャンセルボタン34は現在の選択要求を解除する場合に選択される。終了ボタンFは、現在の画面表示を解消する場合に選択される。
【0061】
ドリフト判定モデル選択フィールド31に表示されるドリフト判定モデルのうち、例えば「基準期間との比較」が選択要求されると、その項目の左隣のチェックボックスの色調を変更する。それと共に選択要求を受けたドリフト判定モデル「基準期間との比較」を実行するプログラムが必要とするパラメータを選択するためのパラメータ選択フィールド32を表示する。
【0062】
操作者は、表示されたパラメータ選択フィールド32において、例えばパラメータ「有意水準」を選択要求できる。操作者によりOKボタン33が選択されたときは、ステップS2に移行し、図5に示す基本画面20を表示する。このときの基本画面20のプロセスデータ選択フィールド22には、操作者により選択要求を受けたドリフト判定モデル「基準期間との比較」を表示する。
【0063】
ステップS10は、ステップS8で<No>と判断した場合に行われるステップであり、操作者による「始点日時」の選択要求の有無を判断するステップである。「始点日時」は、ドリフト判定モデル「基準期間との比較」に必要な基準期間の始点日時を意味する。操作者は、始点バー24aを移動させることにより「始点日時」を選択要求できる。
【0064】
ステップS11は、ステップS8で<Yes>と判断した場合に行われるステップであり、操作者により移動された始点バー24aの位置に応じて「始点日時」を変更するステップである。また、始点バー24aの位置に応じた「始点日時」を、基本画面20の始点日時表示フィールド26aに数値表示する。さらに、現在選択されている「始点日時」と「終了日時」の間隔にあるプロセスデータの回帰直線式および標準偏差を算出し、回帰直線式表示フィールド28に表示する。
【0065】
ステップS12およびステップS13は、「終点日時」の選択に関わるステップであり、ステップS10およびステップS11と同様のステップであるので説明を省略する。なお、「終点日時」は、ドリフト判定モデル「基準期間との比較」に用いられる基準期間の終点日時を意味する。
【0066】
基準期間の「終点日時」の選択を終えると、HMI手段16は、図7に示すように、基本画面20aにドリフト判定に用いる検定期間の「始点日時」を選択するための始点バー24bおよび検定期間の「終点日時」を選択する終点バー25bを表示する。検定期間についての「始点日時」および「終点日時」の選択に関わるステップは、ステップS10〜ステップS13と同様であるので説明を省略する。
【0067】
ステップS14は、ステップS12で<No>と判断した場合に行われるステップであり、現在選択されているドリフト判定モデル「基準期間との比較」、パラメータ「有意水準」、「始点日時」および「終点日時」の選択処理を終了するステップである。
【0068】
ステップS15は、各ステップで選択した各データをドリフト判定手法設定手段15に送信するステップである。なお、ドリフト判定手法設定手段15は受信した各データをドリフト判定手法記録手段13に記録する。ドリフト判定手段14は、ドリフト判定手法記録手段13に記録された各データを用いて対象計測器のドリフト判定を実行する。
【0069】
ステップS15を終了すると、ドリフト判定の結果を基本画面20aの判定結果表示フィールド29に表示する(図7参照)。
【0070】
なお、図8は、ステップS9でドリフト判定モデル「しきい値」を選択した場合のドリフト判定モデル選択画面30aである。ドリフト判定モデル「しきい値」を選択したときは、ドリフト判定モデル選択画面30aのパラメータ選択フィールド32に、しきい値の「上限値」および「下限値」を選択可能に表示する。
【0071】
(作用)
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10では、2つのデータの流れが形成される。1つのデータの流れは、プロセスデータに関するものである。このプロセスデータは、プロセスデータ受信手段11→プロセスデータ記録手段12→ドリフト判定手段14という経路で流れ、ドリフト判定手段14におけるドリフト判定に用いられる。このドリフト判定に用いられるプロセスデータは、プロセスデータ記録手段12に記録されたプロセスデータのうち操作者により選択された対象計測器に関わるプロセスデータである。なお、ドリフト判定モデルとして「相関」が用いられる場合は、相関のある他のプロセスデータも含まれるが、このプロセスデータも操作者により選択される。そして、プロセスデータの選択は、HMI手段16が出力する基本画面20(図5参照)に従い行われる。
【0072】
もう1つのデータの流れは、ドリフト判定モデルおよびドリフト判定モデルを実行するプログラムが必要とするパラメータに関するものである。このドリフト判定モデルおよびパラメータは、HMI手段16→ドリフト判定手法設定手段15→ドリフト判定手法記録手段13→ドリフト判定手段14という経路で流れ、ドリフト判定手段14におけるドリフト判定に用いられる。このドリフト判定に用いられるドリフト判定モデルおよびパラメータは、操作者により選択されたドリフト判定モデルおよびパラメータである。そして、ドリフト判定モデルおよびパラメータの選択は、HMI手段16の表示部におけるドリフト判定モデル選択画面30(図6参照)に従い行われる。
【0073】
ここで、HMI手段16の表示部には、先ず基本画面20が出力される。この基本画面20のプロセスデータ選択フィールド22には、プロセスデータ記録手段12が記録したプロセスデータが、その識別情報と共にすべて表示される。操作者は、この基本画面20に従いドリフト判定の対象とする対象計測器に係るプロセスデータを選択できる。
【0074】
また、プロセスデータ選択フィールド22にて特定のプロセスデータが選択されると、HMI手段16の表示部にはドリフト判定モデル選択画面30が表示される。この画面中のドリフト判定モデル選択フィールド31には、操作者が選択したプロセスデータに関わる計測器のドリフト判定に適用可能なドリフト判定モデルが表示される。操作者は、このドリフト判定モデル選択画面30に従いドリフト判定モデルを選択できる。
【0075】
そして、ドリフト判定モデル選択フィールド31にて特定のドリフト判定モデルが選択されると、ドリフト判定モデル選択画面30にはパラメータ選択フィールド32が表示される。この画面中のパラメータ選択フィールド32には操作者が選択したドリフト判定モデルを実行するプログラムに入力可能なパラメータが表示される。操作者は、このドリフト判定モデル選択画面30に従い必要なパラメータを選択できる。
【0076】
なお、プロセスデータ選択フィールド22にて特定のプロセスデータが選択されたときは、基本画面20のトレンド表示フィールド21に、操作者が選択したプロセスデータのトレンドが表示される。このため、例えばドリフト判定モデル「基準値との比較」を選択した場合にあっては、プロセスデータの傾向を目視しながら基準期間および検定期間を設定できる。
【0077】
(効果)
この結果、計測器ドリフト検知装置10にあっては、入力ドリフト検知の対象計測器やドリフト判定モデルを選択する際の作業負担を軽減できる。
【0078】
さらに、プロセスデータ記録手段12が記録したプロセスデータはプロセス識別情報と共に選択可能に画面表示される。次いで、画面表示したプロセスデータの中から特定のプロセスデータが選択されたことを条件に、選択されたプロセスデータに関わる計測器のドリフト判定に適用可能なドリフト判定モデルが選択可能に画面表示される。そして、画面表示したドリフト判定モデルの中から特定のドリフト判定モデルが選択されたことを条件に、選択されたドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータが選択可能に画面表示される。つまり、操作者は、HMI手段16が出力する表示画面に従いドリフト検知を行うことができるので、ドリフト判定に必要なデータの誤入力を低減できる。
【0079】
[第2実施形態]
第2実施形態は、第1実施形態の計測器ドリフト検知装置10の構成にプロセスデータ相関評価手段17Aを追加した例である。なお、第1実施形態と同様の構成は対応する構成に同一符号を付して説明を省略し、第1実施形態の構成を変更し或いは新たに追加した構成は符号末尾に「A」を付して説明する。
【0080】
図9は第2実施形態の計測器ドリフト検知装置10Aのシステム構成を示すブロック図である。図10はHMI手段16が出力するドリフト判定モデル選択画面30Aを示す図である。
【0081】
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10Aは、図9に示すように、プロセスデータ相関評価手段17Aを備える。プロセスデータ相関評価手段17Aは、プロセスデータ記録手段12Aに記録されたプロセスデータ間の相関評価を行い、相関の高いプロセスデータのリストを作る。なお、プロセスデータ間の相関評価は、例えばニューラルネットを用いて行われる。
【0082】
HMI手段16は、プロセスデータ相関評価手段17Aにより行われた相関評価の結果を参照し、相関の程度が設定基準を超えるプロセスデータを画面表示する。
【0083】
(作用)
図4のフローチャートにおけるステップS9でドリフト判定モデル「相関」が選択された場合、図10に示すように、ドリフト判定モデル選択画面30Aに相関表示フィールド35Aが表示される。そして、この相関表示フィールド35Aには、対象計測器との相関係数が設定基準を超える計測器に関わるプロセスデータが表示される。図10は、設定基準として0.95が設定された例を示す。なお、他の作用は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0084】
(効果)
この結果、ドリフト判定モデルとして、他の計測器との相関を用いて対象計測器のドリフト判定を行う相関法を用いた場合に、対象計測器と相関の高い計測器を選び出す作業負担を軽減できる。
【0085】
[第3実施形態]
第3実施形態は、第1実施形態の計測器ドリフト検知装置10の構成にプロセスデータ分類手段18Bを追加した例である。なお、第1実施形態と同様の構成は、対応する構成に同一符号を付して説明を省略し、第1実施形態の構成を変更し或いは新たに追加した構成は、符号末尾に「B」を付して説明する。
【0086】
図11は第3実施形態の計測器ドリフト検知装置10Bのシステム構成を示すブロック図である。図12はプロセスデータ分類手段18Bにおける相関係数の算出概念を示す図である。図13はドリフト判定モデル選択画面30Bに類似プロセスデータ表示フィールド36Bを表示した状態を示す図である。
【0087】
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10Bは、図11に示すように、プロセスデータ分類手段18Aを備える。
【0088】
プロセスデータ分類手段18Bは、図12に示すように、先ずプロセスデータを計測器の種類に応じて幾つかのグループに分類する。図12は、流量計のグループに分類されたプロセスデータを例示したものである。
【0089】
次いで、同一のグループに属するプロセスデータの相関係数を計算する。図12は、ドリフト判定の対象となる対象流量計で計測された「FT-0002 移送ポンプ流量」で識別されるプロセスデータと、他の計測器で計測された「FT-0003 移送水流量」、「FT-0008 熱交入口流量」および「FT-0009 熱交出口流量」で識別される各プロセスデータとの相関係数が、それぞれ「0.98」、「0.85」および「0.84」と算出された例である。
【0090】
最後に、相関係数が設定基準以上のプロセスデータを、相関のあるプロセスデータと決定する。設定基準を「0.8」に設定したときは、「FT-0002 移送ポンプ流量」で識別されるプロセスデータは、「FT-0003 移送水流量」、「FT-0008 熱交入口流量」および「FT-0009 熱交出口流量」で識別されるプロセスデータのすべてと相関を有していると決定される。
【0091】
本実施形態では、図4に示すフローチャートにおけるステップS5で画面表示したプロセスデータの中から特定のプロセスデータが選択されたとき、HMI手段16はドリフト判定モデル選択画面30Bに類似プロセスデータ表示フィールド36Bを表示する。そして、HMI手段16はプロセスデータ分類手段18Bにより行われた相関評価の結果を参照し、選択されたプロセスデータが属する分類と同じ分類に属するプロセスデータを、この選択されたプロセスデータとの相関係数と共に類似プロセスデータ表示フィールド36Bに表示する。
【0092】
(作用)
操作者は、類似プロセスデータ表示フィールド36Bの表示を確認して、選択したプロセスデータとの相関度が強いプロセスデータを知ることができる。そして、選択したプロセスデータに関わる計測器のドリフト判定において、この相関度の強弱に基づいて適切なドリフト判定モデルを用いることができる。
【0093】
図13は「FT-0002 移送ポンプ流量」で識別されたプロセスデータに対してドリフト判定モデル「相関」を割り当て、「FT-0008 熱交入口流量」および「FT-0009 熱交出口流量」で識別されたプロセスデータに対してドリフト判定モデル「しきい値」を割り当てた例である。なお、他の作用は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0094】
(効果)
この結果、計測器毎に適切なドリフト判定モデルを割り当てる作業負担を軽減できる。
【0095】
[第4実施形態]
第4実施形態は、第2実施形態の計測器ドリフト検知装置10Aの構成に接続情報記録手段19Cを追加した例である。なお、第2実施形態と同様の構成は、対応する構成に同一符号を付して説明を省略し、第2実施形態の構成を変更し或いは新たに追加した構成は、符号末尾に「C」を付して説明する。
【0096】
図14は第4実施形態の計測器ドリフト検知装置10Cのシステム構成を示すブロック図である。
【0097】
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10Cは、図14に示すように、接続情報記録手段19Cを備える。
【0098】
接続情報記録手段19Cは、プラントのプロセス実行に供される機器・配管の接続情報を記録する。接続情報記録手段19Cが記録する接続情報を、次の(D1)〜(D4)に例示する。
(D1) 流体の移動を伴うプロセス実行に供される機器・配管の接続情報。
(D2) 物体の回転や振動を伴うプロセス実行に供される機器・配管の接続情報。
(D3) 電流の変化を伴うプロセス実行に供される機器・配線の接続情報。
(D4) 熱の移動を伴うプロセス実行に供される機器・配管の配置および接続情報。
そして、HMI手段16は、操作者の求めに応じて機器・配管の接続情報(D1)〜(D4)を画面表示する。
【0099】
(効果)
この結果、操作者の経験に基づいて計測器の相関強弱を推定する作業負担を軽減できる。すなわち、対象計測器に適切なドリフト判定モデルを割り当てる作業負担が軽減される。
【0100】
[第5実施形態]
第5実施形態は、第1実施形態の計測器ドリフト検知装置10の構成にドリフト影響評価手段20Dを追加した例である。なお、第1実施形態と同様の構成は、対応する構成に同一符号を付して説明を省略し、第1実施形態の構成を変更し或いは新たに追加した構成は、符号末尾に「D」を付して説明する。
【0101】
図15は第5実施形態の計測器ドリフト検知装置10Dのシステム構成を示すブロック図である。図16はドリフト判定手法記録手段13が記録する情報であり計測器のドリフトがプラント運転に与える影響度を示す図である。
【0102】
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10Dは、図15に示すように、ドリフト影響評価手段20Dを備える。
【0103】
ドリフト影響評価手段20Dは、ドリフト判定手段14により判定された対象計測器のドリフトがプラントの運転に与える影響を評価する。
【0104】
ドリフト判定手法記録手段13は、ドリフト影響度を保有する。ドリフト影響度の記録構造600は、図16に示すように、カラム601、カラム602、カラム603およびカラム604から成る。各カラムには、それぞれプロセスID、+ドリフト重要度、−ドリフト重要度および関連情報の所在URLが、あらかじめ記録される。なお、プロセスIDは、第1実施形態と同一のプロセスIDであり、プロセスデータを一意的に識別する識別名である。
【0105】
+ドリフト重要度は、計測器が真のプロセス量より大きいプロセス量を計測する方向にドリフトした場合において、そのドリフトがプラントの運転に与える影響の重要度を示すものである。−ドリフト重要度は、計測器が真のプロセス量より小さいプロセス量を示す方向にドリフトした場合において、そのドリフトがプラントの運転に与える影響の重要度を示すものである。関連情報は、計測器のドリフトがプラントの運転に与える影響に関する詳細情報である。
【0106】
本実施形態は、ドリフト重要度を3つのレベルに分けた例であり、各レベルの内容は次のように定められる。
レベル1:プラントへの影響は大きく、プラント運転の継続は認められない。
レベル2:プラントへの影響はあるが、適切な処置を行うことでプラント運転を継続できる。
レベル3:プラントへの影響は殆ど無い。
【0107】
図16に示す例によれば、ドリフト影響評価手段20Dは、プロセスID「FT01」で識別されるプロセスデータ関わる計測器がプラス側にドリフトすれば、ドリフト影響度は「レベル2」と評価する。すなわち、プラントへの影響はあるが、適切な処置を行うことでプラント運転を継続できると評価する。一方、この計測器がマイナス側にドリフトすれば、ドリフト影響度は「レベル1」と評価する。すなわち、プラントへの影響は殆ど無いと評価する。
【0108】
そして、HMI手段16は、操作者の求めに応じてドリフト影響評価手段20Dにより行われたドリフト影響評価の結果を画面表示する。画面表示の態様は特に制限されない。例えば、ドリフト判定実行時の基本画面20a(図7参照)にドリフト影響評価の結果を表示させるボタンを表示し、このボタンが選択されたときに基本画面20の適所に、ドリフト影響評価の結果を表示させるようにしても良い。この際に、計測器のドリフトがプラントの運転に与える影響に関する関連情報或いはこの関連情報の所在URLを表示させるようにしても良い。
【0109】
(効果)
操作者は対象計測器のドリフト判定実行後に、対象計測器のドリフトがプラント運転に与える影響を把握できる。
【0110】
[第6実施形態]
第6実施形態は、第1実施形態の計測器ドリフト検知装置10にドリフト進展予測の機能を追加した例である。なお、本実施形態の計測器ドリフト検知装置の構成は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0111】
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10(図1参照)におけるHMI手段16は、ドリフト進展予測モデルを有する。ドリフト進展予測モデルは、過去のプロセス量の計測履歴を最小二乗法によって回帰分析し、信頼区間すなわち将来のドリフトの真値が入ると推定される区間と、信頼区間がドリフト許容範囲を超えると予測される時期を計算するものである。
【0112】
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10では、操作者はHMI手段16により画面表示されたドリフト判定モデルの中からドリフト進展予測法を選択できる。操作者によりドリフト進展予測法が選択されたときは、ドリフト判定手法設定手段15が、そのドリフト進展予測法およびこのドリフト進展予測法を実行するプログラムに入力される予測用パラメータをドリフト判定手法記録手段13に記録する。そして、ドリフト判定手段14は、ドリフト判定手法記録手段13に記録されたドリフト進展予測法および予測用パラメータを用いて計測器のドリフトの進展を予測する。
【0113】
(作用)
本実施形態の計測器ドリフト検知装置10では、ドリフト判定手段14において計測器のドリフト判定が行われた後、ドリフト判定された計測器について将来的なドリフトの進展が予測される。なお、他の作用は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0114】
図17は計測器のドリフト進展予測の結果を示す図である。
【0115】
この図17は時間を横軸として信頼区間をプロットしたグラフである。横軸は現在を中心として過去6ヶ月から将来の6ヶ月までの期間を示す。縦軸は計測器のドリフト量を示す。図中の実線Laは信頼区間の上限値を示し、実線Lbは信頼区間の下限値を示す。計測器のドリフト進展予測が行われると、図17に示すグラフが出力される。このとき、計測器のドリフト量の許容範囲が−2%〜+2%に設定されている場合、操作者は凡そ3ヶ月後に信頼区間の上限が許容範囲を超過すると予見できる。
【0116】
(効果)
この結果、操作者は、ドリフトが大きく進展する前に適切な処置を構じることができ、プラントの運転を健全に維持できる。
【0117】
以上、本発明に係る計測器ドリフト検知装置を第1実施形態〜第6実施形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0118】
例えば、ドリフト判定手法記録手段13とプロセスデータ記録手段12を、1つのデータベース管理システムにより構成しても良い。
【0119】
また、ドリフト判定手段14は、HMI手段16の1つのアプリケーションとして構成しても良い。
【0120】
また、ドリフト判定手法設定手段15は、パーソナルコンピュータのアプリケーションプログラムとして構成しても良い。或いは、HMI手段16をパーソナルコンピュータにより構成したときは、このドリフト判定手法設定手段15をHMI手段16における1つのアプリケーションプログラムとして構成しても良い。
【符号の説明】
【0121】
10,10A,10B,10C,10D 計測器ドリフト検知装置
11 プロセスデータ受信手段
12 プロセスデータ記録手段
13 ドリフト判定手法記録手段
14 ドリフト判定手段
15 ドリフト判定手法設定手段
16 HMI(ヒューマン・マシンインタフェース)手段
17A プロセスデータ相関評価手段
18B プロセスデータ分類手段
19C 接続情報記録手段
20D ドリフト影響評価手段
21 ドリフト検知支援手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の計測器により計測されたプラントのプロセス量から生成した各プロセスデータを受信するプロセスデータ受信手段と、
前記プロセスデータ受信手段が受信したプロセスデータを記録するプロセスデータ記録手段と、
ドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに用いられるパラメータをドリフト判定手法として記録するドリフト判定手法記録手段と、
前記プロセスデータ記録手段が記録したプロセスデータのうち選択されたプロセスデータに対し、前記ドリフト判定手法記録手段が記録したドリフト判定手法を適用して、計測器のドリフト判定を行うドリフト判定手段と、
前記プロセスデータ記録手段が記録したプロセスデータ、このプロセスデータに適用可能なドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを何れも選択可能に画面表示すると共に選択されたドリフト判定モデルおよびパラメータを前記ドリフト判定手法記録手段に記録するドリフト検知支援手段と、
を備えたことを特徴とする計測器ドリフト検知装置。
【請求項2】
前記ドリフト検知支援手段は、
前記プロセスデータ記録手段が記録したプロセスデータをプロセス識別情報と共に選択可能に画面表示し、画面表示したプロセスデータの中から特定のプロセスデータが選択されたことを条件に、選択されたプロセスデータに関わる計測器のドリフト判定に適用可能なドリフト判定モデルを選択可能に画面表示し、画面表示したドリフト判定モデルの中から特定のドリフト判定モデルが選択されたことを条件に、選択されたドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを選択可能に画面表示するヒューマン・マシンインタフェース手段と、
前記選択された特定のドリフト判定モデルおよびパラメータを前記ドリフト判定手法記録手段に記録するドリフト判定手法設定手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載した計測器ドリフト検知装置。
【請求項3】
前記プロセスデータ記録手段が記録したプロセスデータの相関評価を行うプロセスデータ相関評価手段を備え、
前記ドリフト検知支援手段は、画面表示したドリフト判定モデルの中から相関法が選択されたときは、前記プロセスデータ相関評価手段により行われた相関評価の結果を参照し、選択されたプロセスデータとの相関度が設定基準を超えるプロセスデータを選択可能に画面表示することを特徴とする請求項1に記載の計測器ドリフト検知装置。
【請求項4】
前記プロセスデータ記録手段が記録したプロセスデータを、そのプロセスデータを計測した計測器の種類別に分類し、各分類に属するプロセスデータの相関評価を行うプロセスデータ分類手段を備え、
前記ドリフト検知支援手段は、画面表示したプロセスデータの中から特定のプロセスデータが選択されたときは、前記プロセスデータ分類手段により行われた相関評価の結果を参照し、選択されたプロセスデータが属する分類と同じ分類に属するプロセスデータを、この選択されたプロセスデータとの相関度と共に選択可能に画面表示することを特徴とする請求項1に記載の計測器ドリフト検知装置。
【請求項5】
前記プラントのプロセス実行に供される機器・配管の接続情報を記録する接続情報記録手段を備え、
前記ドリフト検知支援手段は、操作者の求めに応じて前記機器・配管の接続情報を画面表示することを特徴とする請求項1に記載の計測器ドリフト検知装置。
【請求項6】
前記ドリフト判定手段が判定した計測器のドリフトがプラントの運転に与える影響を評価するドリフト影響評価手段を備え、
前記ドリフト検知支援手段は、操作者の求めに応じて前記ドリフト影響評価手段により行われた影響評価の結果を画面表示することを特徴とする請求項1に記載の計測器ドリフト検知装置。
【請求項7】
前記ドリフト判定モデルは、プロセスデータの計測履歴を用いて計測器のドリフト進展を予測するドリフト進展予測法を有することを特徴とする請求項1に記載した計測器ドリフト検知装置。
【請求項8】
(a) 複数の計測器により計測されたプラントのプロセス量から生成した各プロセスデータを受信するステップと、
(b) 前記ステップ(a)で受信したプロセスデータを記録するステップと、
(c) 前記ステップ(b)で記録したプロセスデータ、このプロセスデータに適用可能なドリフト判定モデルおよびこのドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを選択可能に提示するステップと、
(d) 前記ステップ(c)で提示したドリフト判定モデルおよびパラメータの中から特定のドリフト判定モデルおよびパラメータが選択されたときに、選択されたドリフト判定モデルおよびパラメータをドリフト判定手法として記録するステップと、
(e) 前記ステップ(c)で選択されたプロセスデータに対してステップ(b)で記録したドリフト判定手法を適用し、計測器のドリフト判定を行うステップと、
を計算機に実行させることを特徴とする計測器ドリフト検知方法。
【請求項9】
前記ステップ(c)では、
前記ステップ(b)で記録したプロセスデータをプロセス識別情報と共に提示し、提示したプロセスデータの中から特定のプロセスデータが選択されたことを条件に、選択されたプロセスデータに関わる計測器のドリフト判定に適用可能なドリフト判定モデルを提示し、提示したドリフト判定モデルの中から特定のドリフト判定モデルが選択されたことを条件に、選択されたドリフト判定モデルを実行するプログラムに適用可能なパラメータを提示することを特徴とする請求項8に記載の計測器ドリフト検知方法。
【請求項10】
(f) 前記ステップ(b)で記録したプロセスデータの相関評価を行うステップを計算機に実行させ、
前記ステップ(c)では、このステップで提示したドリフト判定モデルの中から相関法が選択されたときに、ステップ(f)で行われた相関評価の結果を参照し、この選択されたプロセスデータとの相関度が設定基準を超えるプロセスデータを選択可能に提示することを特徴とする請求項8に記載の計測器ドリフト検知方法。
【請求項11】
(g) 前記ステップ(b)で記録したプロセスデータを、そのプロセスデータを計測した計測器の種類別に分類し、各分類に属するプロセスデータの相関評価を行うステップを計算機に実行させ、
前記ステップ(c)では、このステップで提示したプロセスデータの中から特定のプロセスデータが選択されたときに、ステップ(g)で行われた相関評価の結果を参照し、この選択されたプロセスデータが属する分類と同じ分類に属するプロセスデータを、選択されたプロセスデータとの相関度と共に提示することを特徴とする請求項8に記載の計測器ドリフト検知方法。
【請求項12】
(h) プラントのプロセス実行に供される機器・配管の接続情報を記録するステップを計算機に実行させ、
前記ステップ(c)では、前記ステップ(h)で記録した機器・配管の接続情報を提示することを特徴とする請求項8に記載の計測器ドリフト検知方法。
【請求項13】
(i) 前記ステップ(e)で判定した計測器のドリフトがプラント運転に与える影響を評価するステップを計算機に実行させ、
前記ステップ(c)では、前記ステップ(i)で行われた影響評価の結果を提示する請求項8に記載の計測器ドリフト検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−181949(P2010−181949A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22621(P2009−22621)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】