説明

記憶媒体、情報記憶装置、および記憶媒体製造方法

【課題】潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量を抑制する。
【解決手段】以下の本体部210とボンド層222とフリー層221とを備えた磁気ディスク200を製造する。本体部210は、円板形状を有し情報を記憶するものである。ボンド層222は、潤滑剤で形成され、本体部210の表裏両面に結合したものである。フリー層221は、ボンド層222を覆う、このボンド層222を形成している潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤で形成されたものである。そして、このボンド層222におけるボンド率の分布が、最外周から中央に向かう途中において極大となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、情報を記憶する記憶媒体、そのような記憶媒体が搭載された情報記憶装置、および、そのような記憶媒体を製造する記憶媒体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの分野では、日常的に多量の情報が取り扱われるようになっており、このような多量の情報を記録再生する装置の1つとして、ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)が使用されている。このHDDには、情報を記憶するディスク状(円板形状)の磁気記憶媒体である磁気ディスクが内蔵されている。
【0003】
また、磁気ディスクには、情報が磁気的に記録される磁性膜等を有した本体部の表裏面に、ヘッドとの潤滑性を向上させる潤滑剤からなる潤滑膜が形成されているタイプがある(例えば、特許文献1〜5参照。)。
【0004】
ここで、HDDに搭載された磁気ディスクは、HDDの動作中、HDD内で高速に回転する。そして、このような回転に伴って生じる遠心力や空気流により、潤滑剤が磁気ディスクの外周に向かって流れる潤滑剤マイグレーションという現象がしばしば生じている(例えば、特許文献6および7参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−269822号公報
【特許文献2】特開平4−053027号公報
【特許文献3】特開平5−282663号公報
【特許文献4】特開平10−199056号公報
【特許文献5】特開2001−331902号公報
【特許文献6】特開昭62−226423号公報
【特許文献7】特開2006−147012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が多いと、磁気ディスクの外周側で潤滑膜の膜厚が著しく増大するので、ヘッドの浮上面に潤滑剤が付着し易くなる。その結果、ヘッドの浮上が不安定となり、ヘッドが磁気ディスクと接触するHDI(Head Disk Interface)障害や、ヘッドによる情報記録や情報再生が阻害されるRW(Read Write)障害等が起きやすくなってしまう。近年では、HDDにおける高記録密度の実現のために、ヘッドの低浮上化が進んでおり、潤滑剤マイグレーションによるHDI障害やRW障害の発生が一層問題となってきている。
【0007】
尚、ここまで、HDDと磁気ディスクを例に挙げて、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が多いという課題について説明した。しかしながら、このような課題は、HDDや磁気ディスクに限るものではなく、表面に潤滑剤が塗布され回転駆動される記憶媒体に共通して当てはまる課題である。例えば、SIL(Solid Immersion Lens)を用いたヘッドによって情報記録や情報再生が行われる光磁気ディスクも、表面に潤滑剤が塗布されると考えられる。このため、このような光磁気ディスクにも、上記のような課題が当てはまると考えられる。
【0008】
本件は上記事情に鑑み、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が抑制された記憶媒体、そのような記憶媒体が搭載された情報記憶装置、および、そのような記憶媒体を製造する記憶媒体製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する記憶媒体の基本形態は、以下の本体部と、ボンド層と、フリー層とを備えている。
【0010】
本体部は、円板形状を有し情報を記憶するものである。
【0011】
ボンド層は、潤滑剤で形成され、上記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に結合したものである。
【0012】
フリー層は、上記ボンド層を覆う、そのボンド層を形成している潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤で形成されたものである。
【0013】
そして、この基本形態では、上記ボンド層と上記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚に対するそのボンド層の厚みの比率を示すボンド率が、上記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっている。
【0014】
また、上記目的を達成する情報記憶装置の基本形態は、上記記憶媒体、および、その記憶媒体に対して情報記録及び/又は情報再生を実行するヘッドを備えている。
【0015】
また、上記目的を達成する記憶媒体製造方法の基本形態は、以下の本体部準備過程と層生成過程とを有している。
【0016】
本体部準備過程は、上記本体部を準備する過程である。
【0017】
層生成過程は、上記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布し、その潤滑剤の塗布膜中に、上記ボンド層と上記フリー層とを、次のように生成させる過程である。この層生成過程は、上記ボンド層と上記フリー層とを、上記ボンド率が、上記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大が生じるように生成させる過程となっている。
【発明の効果】
【0018】
本件によれば、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が抑制された記憶媒体、そのような記憶媒体が搭載された情報記憶装置、および、そのような記憶媒体を製造する記憶媒体製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】情報記憶装置の具体的な一実施形態であるハードディスク装置(HDD)の内部構造を示す図である。
【図2】互いに間隔を空けて複数枚重ねられた磁気ディスクを示す模式的な断面図である。
【図3】ボンド率の分布を示す図である。
【図4】カバーあるいはハウジングと対向する面でのボンド率の分布の極大が、他の磁気ディスクと対向する面でのボンド率の分布の極大よりも大きくなっている様子を模式的に示す図である。
【図5】図1や図2に示す磁気ディスクを製造するための磁気ディスク製造方法を示すフローチャートである。
【図6】ボンド率が均一なボンド層を生成する比較例を示す図である。
【図7】図6の比較例で得られるボンド率の一様な分布を示すグラフである。
【図8】図5のボンド率調整過程(ステップS130)の詳細を示す図である。
【図9】図8のUVフィルターにおける紫外線透過率の分布を示すグラフである。
【図10】図5の膜厚調整過程(ステップS140)を示す図である。
【図11】不織布による拭き取りの印加力Fと、その拭き取りで減少分A%だけ減った拭き取り後の潤滑膜220の膜厚との関係を示すグラフである。
【図12】拭き取りによる膜厚の減少分A%の決定について説明する図である。
【図13】ボンド率が均一なボンド層を加熱によって生成する比較例を示す図である。
【図14】図13の比較例で得られるボンド率の一様な分布を示すグラフである。
【図15】第2実施形態のボンド率調整過程の詳細を示す図である。
【図16】図15のヒータにおける加熱時の加熱面温度の分布を示すグラフである。
【図17】加熱による本体部の被加熱面温度の分布と、その加熱によって生成されるボンド層におけるボンド率の分布を示すグラフである。
【図18】第3実施形態の磁気ディスク製造方法を示すフローチャートである。
【図19】ボンド率が均一なボンド層を窒化処理によって生成する比較例を示す図である。
【図20】図19の比較例の窒化処理で窒化された本体部の表裏両面における窒化率の一様な分布と、その窒化率の分布に応じて生成されたボンド率の一様な分布とを示すグラフである。
【図21】本実施形態のボンド率調整過程で実行される窒化処理を示す図である。
【図22】本実施形態における窒化率の分布と、その窒化率の分布に応じたボンド率の分布とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、上記で基本形態について説明した記憶媒体、情報記憶装置、および記憶媒体製造方法の具体的な実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
まず、第1実施形態について説明する。
【0022】
図1は、情報記憶装置の具体的な一実施形態であるハードディスク装置(HDD)の内部構造を示す図である。
【0023】
この図1に示すハードディスク装置(HDD)100は、パーソナルコンピュータ等といった上位装置に組み込まれ、その上位装置における情報記憶手段として利用されるものである。
【0024】
このHDD100には、円板形状を有しディスク軸101を中心に回転する磁気ディスク200が、互いに間隔を空けて複数枚重ねられてハウジング102内に納められている。この磁気ディスク200は、上記で基本形態について説明した記憶媒体の具体的な一実施形態に相当する。
【0025】
また、HDD100のハウジング102内には、各磁気ディスク200の表面あるいは裏面に沿って移動する複数本のスイングアーム110、スイングアーム110の駆動に用いられるアクチュエータ120、および後述の制御回路130も納められている。
【0026】
各スイングアーム110は、磁気ディスク200に対して情報記録と情報再生とを行う磁気ヘッド140を先端に保持している。また、複数本のスイングアーム110は、ベアリング111によってハウジング102に回動自在に支持されている。そして、これらのスイングアーム110は、ベアリング111を中心として所定角度の範囲内で回動することによって、磁気ヘッド140を各磁気ディスク200の表面あるいは裏面に沿って移動させる。この磁気ヘッド140が、上述した情報記憶装置の基本形態におけるヘッドの一例に相当する。
【0027】
磁気ヘッド140による情報記録および情報再生やスイングアーム110の移動は制御回路130によって制御されており、上位装置との情報の遣り取りもこの制御回路130を介して行われる。
【0028】
また、このHDD100では、上記のような各要素が搭載されたハウジング102の上部が、カバー103で覆われている。
【0029】
図2は、互いに間隔を空けて複数枚重ねられた磁気ディスクを示す模式的な断面図である。
【0030】
この図2で最上段に示された磁気ディスク200は、図の上方の面がカバー103と対向し、図の下方の面が、この磁気ディスク200の下側に位置する磁気ディスク200と対向している。また、この図の最下段に示す磁気ディスク200は、図の下方の面がハウジング102と対向し、図の上方の面が、この磁気ディスク203の上側に位置する磁気ディスク200と対向している。そして、これら最上段および最下段に示された磁気ディスク200を除いた他の全ての磁気ディスク200は、表裏面それぞれが他の磁気ディスク200と対向している。
【0031】
これらの磁気ディスク200は、いずれも、情報を記憶する磁性膜やDLC(Diamond Like Carbon)の保護膜等が円板形状の非磁性基板上に形成された本体部210を有している。そして、磁気ディスク200は、その本体部210の表裏両面に、潤滑剤の塗布によって潤滑膜220が形成された構造となっている。
【0032】
本体部210は、上述の基本形態における本体部の一例に相当する。
【0033】
潤滑膜220は、フリー層221とボンド層222とを備えている。ボンド層222は、潤滑剤で形成され、本体部210の表面あるいは裏面に結合したものである。また、フリー層221は、このボンド層222を覆った層である。そして、フリー層221は、このボンド層222を形成している潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤で形成されている。この2層構造の潤滑膜220では、上記のように潤滑剤が流動性を有したフリー層221が、上記の磁気ヘッド140に対する潤滑作用を担っている。第1実施形態では、詳細については後述するように、フリー層221とボンド層222は、本体部210に塗布された潤滑剤に対する紫外線照射によって生成されたものである。
【0034】
フリー層221は、上述の基本形態におけるフリー層の一例に相当し、ボンド層222は、この基本形態におけるボンド層の一例に相当する。
【0035】
ここで、本実施形態では、潤滑膜220の厚みに対するボンド層222の厚みの比率であるボンド率が、最外周から中央に向かう途中において極大となるように分布している。さらに、本実施形態では、カバー103あるいはハウジング102と対向する面でのボンド率の分布の極大が、他の磁気ディスク200と対向する面でのボンド率の分布の極大よりも大きくなっている。
【0036】
また、この図2に示す磁気ディスク200の断面図は、上記のHDD100が未使用で、回転駆動を受ける前の磁気ディスク200の断面を示している。本実施形態では、このような回転前の段階では、図2に模式的に示されているように潤滑膜220の膜厚が外周側で薄くなっている。
【0037】
本実施形態では、上記のような極大を有するボンド率の分布、HDD100内での潤滑剤塗布面の位置によるボンド率の分布における極大の差異、および、磁気ディスク回転前の潤滑膜220の膜厚分布それぞれによって以下のような利点が得られている。
【0038】
まず、ボンド率の分布について説明する。
【0039】
図3は、ボンド率の分布を示す図である。
【0040】
この図3のパート(a)には、ボンド率の分布がグラフ形式で示されている。このパート(a)のグラフG1では、横軸にディスク上の位置を示した半径率がとられ、縦軸にボンド率がとられている。ディスク上の位置を示した半径率は、この位置を通る、半径が伸びる方向(半径方向)で間隔を測るときの、本体部210の最内周から最外周までの間隔に対する本体部210の最内周からこの位置までの間隔の比率である。
【0041】
そして、パート(a)のグラフG1には、磁気ディスク200の最外周から最内周までの、ボンド率の変化を実線で表わす第1ラインL1が記載されている。また、このグラフG1には、本実施形態と異なり最内周から最外周まで均一なボンド率を点線で表わす第2ラインL2が比較例として記載されている。
【0042】
本実施形態では、第1ラインL1の形状が示しているように、最外周から中央に向かう途中の、半径率が「80%」の箇所の近傍において、ボンド率が極大となっている。
【0043】
ここで、上述したようにHDD100内の磁気ディスク200は、HDD100の動作中、HDD100内でディスク軸101を中心に高速に回転する。そして、このような回転に伴って生じる遠心力や空気流により、潤滑剤が磁気ディスク200の外周に向かって流れる潤滑剤マイグレーションという現象が生じる。潤滑膜220は上記のフリー層221とボンド層222とを有しており、潤滑剤マイグレーションでは、流動性を有するフリー層221が外周に向かって流れることとなる。そして、遠心力等の関係から、半径率が「80%」の箇所の近傍で、このフリー層221を形成する潤滑剤が移動し易い。本実施形態では、以下に説明するように、このような潤滑剤の量が、図3のパート(a)に示すボンド率の分布によって抑制されている。
【0044】
図3のパート(b)には、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が、パート(a)に示すボンド率の分布によって抑制されることについて説明するグラフG2が示されている。このパート(b)のグラフG2では、横軸に半径率がとられ、縦軸に潤滑膜220の膜厚がとられている。尚、このグラフG2は、磁気ディスクの回転前は均一の膜厚を有している潤滑膜の、回転後の膜厚分布を表わすグラフである。そして、このグラフG2における第3ラインL3は、ボンド率がグラフG1の第1ラインL1が示すように分布している場合の回転後の膜厚分布を表している。また、このグラフG2における第4ラインL4は、ボンド率がグラフG1の第2ラインL2が示すように均一な場合の回転後の膜厚分布を表している。
【0045】
一般に、ボンド層とフリー層との2層構造を有する潤滑膜では、潤滑剤マイグレーションによってフリー層の潤滑剤が流動する。ここで、たとえフリー層の潤滑剤でも、粘性、表面張力、ボンド層との相互作用等により、どこまでも流れられるわけではなく、元の箇所からある程度ずれるとそれ以上は動けない。そのため、潤滑剤マイグレーションによるフリー層の潤滑剤の流動は、ある程度潤滑剤が流れてしまった段階で止まる。そして、その後の潤滑膜は、磁気ディスクの回転によっても動かない安定した状態となる。
【0046】
図3のグラフG2に示されている膜厚分布は、グラフG1の第1ラインL1が示すようにボンド率が分布している場合と均一な場合との2つの場合それぞれについての、上記の安定した状態に達した潤滑膜の膜厚分布である。
【0047】
ボンド率が均一な場合には、上記のように潤滑剤が移動し易い、半径率が「80%」の箇所の近傍から、フリー層の潤滑剤が外周側に大量に流れてしまう。その結果、グラフG2の第4ラインL4の形状が示すように、潤滑膜の膜厚が外周側で局所的に極端に厚くなってしまう。
【0048】
一方、本実施形態における、グラフG1の第1ラインL1が示すようなボンド率の分布では、潤滑剤が移動し易い上記の部分でのボンド率が大きくなっている。つまり、その部分でのフリー層221が薄くなっている。その結果、潤滑剤マイグレーションでその部分から移動する潤滑剤の量が効果的に抑制されることとなる。これにより、グラフG2の第3ラインL3の形状が示すように、外周側での局所的な膜厚増大が抑制されることとなっている。
【0049】
また、本実施形態では、ボンド率は、このボンド率の分布でのピークでも「100%」よりは小さくなっている。その結果、局所的にフリー層221が無くなって磁気ヘッド140に対する潤滑作用が損なわれる等といった事態が回避されている。
【0050】
以上、説明したように、本実施形態では、図3のグラフG1の第1ラインL1が示すようにボンド率を分布させることで、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が抑制されている。その結果、潤滑膜220の外周側での局所的な膜厚増大が抑えられるので、図1のHDD100におけるHDI障害やRW障害の発生が抑制されることとなる。
【0051】
次に、HDD100内での潤滑剤塗布面の位置によるボンド率の分布における極大の差異について説明する。
【0052】
本実施形態では、図2を参照して上述したように、本実施形態では、カバー103あるいはハウジング102と対向する面でのボンド率の分布の極大が、他の磁気ディスク200と対向する面でのボンド率の分布の極大よりも大きくなっている。
【0053】
図4は、カバーあるいはハウジングと対向する面でのボンド率の分布の極大が、他の磁気ディスクと対向する面でのボンド率の分布の極大よりも大きくなっている様子を模式的に示す図である。
【0054】
この図4に示すように、本実施形態では、カバー103やハウジング102との対向面のボンド層222での極大(第1の極大)P1が、他の磁気ディスク200との対向面のボンド層222での極大(第2の極大)P2よりも大きくなっている。つまり、本実施形態では、カバー103やハウジング102との対向面の潤滑膜220の方が、他の磁気ディスク200との対向面の潤滑膜220よりも、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量に対する抑制効果が高められている。
【0055】
上記のように磁気ディスク200が複数枚重ねられている状態では、カバー103やハウジング102との対向面と、他の磁気ディスク200との対向面との間で、回転によって生じる風の強さ等に差が生じる。そして、このような差に起因して、カバー103やハウジング102との対向面の潤滑膜220の方が、他の磁気ディスク200との対向面の潤滑膜よりも、潤滑剤マイグレーションによって潤滑剤が移動し易くなっている。
【0056】
本実施形態では、このような潤滑剤の動き易さの差を見越して、上記の第1の極大P1が、第2の極大P2よりも大きくなっている。これにより、複数枚重ねられた磁気ディスク200の各面の潤滑膜220について、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が抑制されることとなる。
【0057】
このことは、上述の情報記憶装置の基本形態に対し、以下のような応用形態が好適であることを意味している。この応用形態では、上記ボンド層および上記フリー層が上記本体部の表裏両面に設けられているものとなっている。さらに、この応用形態では、上記記憶媒体が、互いに間隔を空けて複数枚重ねられたものとなっている。そして、この応用形態では、重ねられた複数の記憶媒体のうちの両端の記憶媒体ではボンド率が次のようになっている。即ち、重なりの外側を向いた面に結合したボンド層におけるボンド率の極大が、その重なりの内側を向いた面に結合したボンド層におけるボンド率の極大よりも大きいものとなっている。
【0058】
本実施形態の磁気ディスク200は、この応用形態における記憶媒体の一例にも相当している。また、本実施形態のフリー層221は、この応用形態におけるフリー層の一例にも相当している。さらに、本実施形態のボンド層222は、この応用形態におけるボンド層の一例にも相当している。
【0059】
次に、磁気ディスク回転前の潤滑膜220の膜厚分布について説明する。
【0060】
図2を参照して説明したように、本実施形態では、磁気ディスク200の回転前で潤滑剤マイグレーションが未発生の段階では、潤滑膜220の膜厚が外周側で薄くなっている。本実施形態では、潤滑膜220のこのような回転前の膜厚分布によって、後述するように回転後の膜厚分布の一層の均一化が図られている。
【0061】
ここで、上記の図3のパート(b)のグラフG2において第3および第4ラインL3,L4それぞれが示す膜厚分布は、均一な膜厚の潤滑膜を有する磁気ディスクが回転したときの回転後の膜厚分布である。このグラフG2では、このように膜厚が均一な潤滑膜の回転後の膜厚分布を示すことで、移動する潤滑剤の量に対するボンド率の分布による低減が、回転前の膜厚分布による回転後の膜厚分布の均一化とは切り分けられて示されている。
【0062】
本実施形態では、この図3を参照して説明したように、ボンド率を最外周から最内周に向かう途中において極大とすることで潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量は概ね抑制されている。しかし、まだ、潤滑剤マイグレーションによる潤滑剤の若干の移動は残っている。そのため、図3のグラフG2の第3ラインL3が示すように、外周側での局所的な膜厚増大が完全には無くならず若干生じてしまう。
【0063】
本実施形態では、この若干の膜厚増大を見越して、予め、潤滑膜220の膜厚が外周側で薄くなっている。磁気ディスク200が回転すると、ボンド率の上記のような分布でも抑えきれない若干量の潤滑剤が外周側に流動する。そして、このような流動によって、潤滑膜220の、予め薄くなっている外周側の膜厚がその流動分だけ増大する。その結果、潤滑膜220の膜厚が均される。そして、磁気ディスク200の回転時にこのように潤滑膜220の膜厚が均されることで、回転後の安定した状態では、潤滑膜220の膜厚について、非常に高い均一性が得られることとなる。これにより、本実施形態では、潤滑剤マイグレーションによるHDI障害やRW障害の発生に対する効果的な抑制が図られている。
【0064】
このことは、上述の基本形態に対し、上記ボンド層と上記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜は、上記最外周から上記中央に向かう途中までの膜厚がその途中からの膜厚よりも薄いものであるという応用形態が好適であることを意味している。
【0065】
本実施形態の潤滑膜220は、この応用形態における潤滑剤の膜の一例に相当している。
【0066】
次に、以上に説明した磁気ディスク200を製造するための磁気ディスク製造方法について説明する。
【0067】
図5は、図1や図2に示す磁気ディスクを製造するための磁気ディスク製造方法を示すフローチャートである。
【0068】
この図5のフローチャートが示す磁気ディスク製造方法が、基本形態について上述した記憶媒体製造方法の具体的な一実施形態に相当する。
【0069】
この磁気ディスク製造方法では、まず、円板形状の非磁性基板の表裏両面に、情報を記憶する磁性膜やDLCの保護膜等をスパッタ法等によって形成することで図2の本体部210を得る成膜過程(ステップS110)が実行される。
【0070】
この成膜過程(ステップS110)が、上述の記憶媒体製造方法の基本形態における本体部準備過程の一例に相当する。
【0071】
次に、成膜過程(ステップS110)で得られた本体部210の表裏両面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布過程(ステップS120)が実行される。
【0072】
ここで、本実施形態では、この潤滑剤として、被塗布面に塗布された後で紫外線の照射を受けるとその被塗布面との結合性が高まる潤滑剤が使われる。そして、この潤滑剤では、紫外線の照射量が多いほどその結合性が高まる。
【0073】
次に、潤滑剤塗布過程(ステップS120)で塗布された潤滑剤に対して、以下に説明する紫外線照射によってボンド率を調整することで、上記のようなボンド率の分布を有するボンド層222を生成するボンド率調整過程(ステップS130)が実行される。また、このボンド率調整過程(ステップS130)では、塗布された潤滑剤の本体部210側の一部の層がボンド層222となる。その結果、このボンド層222以外の他の潤滑剤の層がフリー層221となる。
【0074】
上記の潤滑剤塗布過程(ステップS120)とボンド率調整過程(ステップS130)とを合わせた過程が、上述の記憶媒体製造方法の基本形態における層生成過程の一例に相当する。
【0075】
以下、上記のボンド率調整過程(ステップS130)について詳細に説明する。
【0076】
ここで、まず、このボンド率調整過程(ステップS130)に先立って、この本実施形態のボンド率調整過程(ステップS130)と対比するための比較例について説明する。この比較例は、ボンド率が均一なボンド層を生成する例である。
【0077】
図6は、ボンド率が均一なボンド層を生成する比較例を示す図である。
【0078】
この図6の比較例では、UV照射強度が一様な紫外線を、所定の照射範囲に照射するUV照射機510が使われる。そして、このUV照射機510による紫外線の照射範囲中を、潤滑剤が塗布された本体部210が通過する。その結果、一様なUV照射強度で紫外線が潤滑剤に照射される。
【0079】
ここで、UV照射は、この潤滑剤の粘性を高める。その結果、この粘性が高められた潤滑剤と本体部210との結合性が、潤滑剤の塗布膜全体で高まる。そして、本体部210との結合性が高まった潤滑剤のうち本体部210と接触している側が本体部210と結合してボンド層となる。一方、本体部210から離れた箇所の潤滑剤は、この本体部210に対してまだ流動性を有していてフリー層となる。また、UV照射強度が強いほど本体部210と潤滑剤との結合性が高まるので、このUV照射強度が強いほどボンド率が大きくなる。
【0080】
図6の比較例では、一様なUV照射強度で紫外線が潤滑剤に照射されるため、以下に示すように、ボンド率も一様なものとなる。
【0081】
図7は、図6の比較例で得られるボンド率の一様な分布を示すグラフである。
【0082】
この図7のグラフG3では、横軸に上述の半径率がとられ、縦軸にボンド率がとられている。そして、このグラフG3には、図6の比較例で得られるボンド層におけるボンド率の分布を実線で示す第5ラインL5が記載されている。この第5ラインL5の形状が示すように、一様なUV照射強度での紫外線の照射によればボンド率が一様になる。
【0083】
これに対し、図5のボンド率調整過程(ステップS130)では、本体部210上の潤滑剤に対して、UV照射強度が、上記の図3のグラフG1の第1ラインL1が示すボンド率の分布に対応した分布となった紫外線が照射される。
【0084】
図8は、図5のボンド率調整過程(ステップS130)の詳細を示す図である。
【0085】
このボンド率調整過程(ステップS130)では、本体部210より大きい円板形状のUVフィルター520が使われる。そして、このUVフィルター520は、紫外線透過率について次のような分布を有している。
【0086】
図9は、図8のUVフィルターにおける紫外線透過率の分布を示すグラフである。
【0087】
この図9のグラフG6では、横軸に半径率がとられ、縦軸にUVフィルターの透過率がとられている。そして、このグラフG6には、本体部210に、中心が一致するように重ねられたUVフィルター520における、本体部210上での各位置に対向する箇所での紫外線透過率の分布を実線で表わす第6ラインL6が記載されている。
【0088】
この第6ラインL6の形状から分かるように、このUVフィルター520における紫外線透過率の分布は、図3のグラフG1の第1ラインL1が示すボンド率の分布に対応している。つまり、図3のグラフG1でボンド率が大きい部分で紫外線透過率が高く、ボンド率が低い部分で紫外線透過率が低くなっている。
【0089】
図8に示すように、図5のボンド率調整過程(ステップS130)では、潤滑剤が塗布された本体部210と所定の間隔を空けて、UVフィルター520が、本体部210と中心が一致するように重ねて配置される。そして、ボンド率調整過程(ステップS130)では、本体部210が、このように配置されたUVフィルター520とともに、UV照射機510による紫外線の照射範囲中を通過する。その結果、UVフィルター520の紫外線透過率が高い部分を透過する紫外線が照射される箇所ではボンド率が大きくなる。一方、UVフィルター520の紫外線透過率が低い部分を透過する紫外線が照射される箇所ではボンド率が低くなる。これにより、ボンド率が、図3のグラフG1の第1ラインL1が示す分布となったボンド層222が生成されることとなる。図5のボンド率調整過程(ステップS130)では、このような処理が、潤滑剤が塗布された本体部210の表裏両面それぞれについて実行される。
【0090】
また、本実施形態では、カバー103やハウジング102との対向面でのボンド率の極大(図4の第1の極大P1)が、他の磁気ディスク200との対向面でのボンド率の極大(図4の第2の極大P2)よりも大きい。このため、図5のボンド率調整過程(ステップS130)では、紫外線透過率の分布がこれらの各面でのボンド率の極大に対応した2種類のUVフィルター520が使われる。そして、この2種類のUVフィルター520が適宜に使い分けられることで、上記の各面でのボンド率の分布が実現される。
【0091】
このように、図6の比較例ではボンド率が一様となるのに対し、本実施形態では、UVフィルター520を用いることで、ボンド率の分布が所望の分布となったボンド層222を得ることができる。
【0092】
また、以上に説明した図5のボンド率調整過程(ステップS130)によれば、上記のようなUVフィルターを用意すれば、後は、潤滑剤が塗布された本体部210にUVフィルターを重ねて紫外線の照射範囲中を通過させるだけでよい。つまり、このボンド率調整過程(ステップS130)によれば、ボンド率の分布が所望の分布となったボンド層222を手軽に得ることができる。
【0093】
このことは、上述の記憶媒体製造方法の基本形態に対し、以下のような応用形態が好適であることを意味している。この応用形態では、上記潤滑剤が、被塗布面に塗布され紫外線の照射を受けるとその被塗布面とその潤滑剤との結合性が高まる、その紫外線の照射量が多いほどその結合性が高まるものとなっている。そして、この応用形態では、上記層生成過程が、以下の塗布過程と紫外線照射過程とを有する過程となっている。塗布過程は、上記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布する過程である。紫外線照射過程は、上記塗布過程で塗布された潤滑剤に紫外線を、上記円板形状の面の最外周から中央に向かう途中において極大となっている照射量分布で照射する過程である。
【0094】
図5の潤滑剤塗布過程(ステップS120)が、この応用形態における塗布過程の一例に相当する。また、図5のボンド率調整過程(ステップS130)が、この応用形態における紫外線照射過程の一例に相当する。
【0095】
図5の磁気ディスク製造方法では、ボンド率調整過程(ステップS130)に続いて、潤滑膜220の膜厚を外周側で薄くする膜厚調整過程(ステップS140)が実行される。
【0096】
図10は、図5の膜厚調整過程(ステップS140)を示す図である。
【0097】
この図10のパート(a)には、膜厚調整過程(ステップS140)が、模式的な斜視図で示されている。また、図10のパート(b)には、その膜厚調整過程(ステップS140)で得られる潤滑膜220の膜厚分布を示すグラフG5が示されている。
【0098】
図10のパート(a)に示すように、膜厚調整過程(ステップS140)では、潤滑膜220のうち最外周から最内周に向かう途中までの膜部分について潤滑剤が厚み方向に部分的に除かれる。
【0099】
図10のパート(b)のグラフG5では、横軸に半径率がとられ、縦軸に潤滑膜220の膜厚がとられている。そして、このグラフG5には、上記のように外周側の膜部分について潤滑剤が厚み方向に部分的に除かれた潤滑膜220の膜厚分布を実線で示す第7ラインL7が記載されている。
【0100】
本実施形態では、この膜厚調整過程(ステップS140)における潤滑剤の厚み方向の部分的な除去により、外周側の膜部分について膜厚が磁気ディスク200の回転前に予め薄くされている。
【0101】
本件の開発者は、外周側の膜部分について、潤滑剤マイグレーションによる膜厚の増大分を見越して予め膜厚を薄くしておくことで、磁気ディスク200の回転後の安定状態で、膜厚の均一性の高い潤滑膜が得られることを確認している。本実施形態では、この確認を受けて、外周側の膜部分について予め膜厚を薄くしておくことによって、磁気ディスク200の回転後における潤滑膜220の膜厚の均一化が図られている。その結果、上述したように潤滑剤マイグレーションによるHDI障害やRW障害の発生が効果的に抑制されることとなる。
【0102】
このことは、上述の記憶媒体製造方法の基本形態に対し、以下のような応用形態が好適であることを意味している。この応用形態は、上記ボンド層と上記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚を、上記最外周から上記中央に向かう途中までの膜厚を、その途中からの膜厚よりも薄くする膜厚調整過程をさらに有する形態となっている。
【0103】
図5の膜厚調整過程(ステップS140)は、この応用形態における膜厚調整過程の一例に相当する。
【0104】
ここで、本実施形態では、膜厚調整過程(ステップS140)での潤滑剤の除去が、不織布による拭き取りで行われる。このような拭き取りは、作業が簡単であり、潤滑剤を除去する方法として好適である。
【0105】
このことは、膜厚調整過程を有する上記の応用形態に対し、上記膜厚調整過程が、上記潤滑剤の膜のうち上記最外周から上記中央に向かう途中までの膜部分について潤滑剤を拭き取って減らす過程であるという応用形態がさらに好適であることを意味している。
【0106】
図5の膜厚調整過程(ステップS140)は、このさらに好適な応用形態における膜厚調整過程の一例にも相当している。
【0107】
この膜厚調整過程(ステップS140)では、図10のグラフG7の第7ラインL7の形状が示すように、この拭き取りにより、潤滑剤が拭き取りの印加力Fに応じた分だけ除かれて、外周側での潤滑膜220の膜厚が減少する。本実施形態では、この拭き取りによる潤滑膜220の膜厚の減少分が、拭き取り前の膜厚に対する、拭き取りによる減少量の比率A%で表される。
【0108】
ここで、不織布による拭き取りの印加力Fと、その拭き取りによる減少分A%だけ減った拭き取り後の潤滑膜220の膜厚との間には次のような関係がある。
【0109】
図11は、不織布による拭き取りの印加力Fと、その拭き取りで減少分A%だけ減った拭き取り後の潤滑膜220の膜厚との関係を示すグラフである。
【0110】
この図11のグラフG6では、横軸に不織布による拭き取りの印加力Fがとられており、縦軸に拭き取り後の潤滑膜220の膜厚がとられている。そして、このグラフG6には、印加力Fと拭き取り後の膜厚との関係を実線で示す第8ラインL8が記載されている。このグラフG6に示されているように、両者間にはこの第8ラインL8の形状が示す線形関係が成り立っている。
【0111】
図5の膜厚調整過程(ステップS140)では、この線形関係を使って、潤滑膜220の膜厚の減少分A%から不織布による拭き取りの印加力Fが決定される。
【0112】
一方、膜厚の減少分A%は、潤滑剤マイグレーションによる外周側での膜厚増加量を予め計測することで決定される。
【0113】
図12は、拭き取りによる膜厚の減少分A%の決定について説明する図である。
【0114】
この図12には、潤滑剤マイグレーションによる潤滑膜220の膜厚の変化を示すグラフG7が示されている。このグラフG7では、横軸に半径率がとられ、縦軸に潤滑膜220の膜厚がとられている。
【0115】
ここで、膜厚の減少分A%の決定のために実行される計測では、ボンド率が図3のグラフG1に示す分布となっているが、潤滑膜の膜厚は均一となっている計測用のサンプル磁気ディスクが使われる。
【0116】
図12のグラフG7には、このサンプル磁気ディスクにおける潤滑剤マイグレーションの発生前の潤滑膜の均一な膜厚分布を実線で示すL9が記載されている。さらに、このグラフG7には、上記のサンプル磁気ディスクの回転により、フリー層の流動が止まるまで潤滑剤マイグレーションを発生させた後の膜厚分布を点線で示すL10が記載されている。
【0117】
そして、本実施形態では、潤滑剤マイグレーション発生後の最外周の膜厚の増加分が計測される。そして、その増加分の、潤滑剤マイグレーション発生前の最外周の膜厚に対する比率が、拭き取りによる膜厚の減少分A%として使われる。
【0118】
図5の膜厚調整過程(ステップS140)では、このような計測によって予め決定された減少分A%から、図11の線形関係を用いて拭き取りの印加力Fが決定される。そして、その印加力Fでの拭き取りにより、上記の潤滑剤マイグレーションでの増加分に相当する分だけ外周側の膜部分の厚みが減らされる。
【0119】
図5のフローチャートが示す磁気ディスク製造方法では、この膜厚調整過程(ステップS140)を経て、図2に示す磁気ディスク200が完成する。そして、この磁気ディスク製造方法で製造された磁気ディスク200によれば、ボンド率の上述した分布によって潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が抑制される。そして、その抑制を超えた若干量の潤滑剤の移動による外周側での膜厚増加分については、外周側の膜部分の膜厚が予め薄くされていることで吸収される。その結果、この磁気ディスク製造方法で製造された磁気ディスク200によれば、磁気ディスク220の回転後の安定状態において、潤滑膜220の膜厚について高い均一性を得ることができる。その結果、潤滑剤マイグレーションによるHDI障害やRW障害の発生が効果的に抑えられることとなる。
【0120】
次に第2実施形態について説明する。
【0121】
この第2実施形態は、磁気ディスク製造方法において、図5の潤滑剤塗布過程(ステップS120)と同等な潤滑剤塗布過程に続いて行われるボンド率調整過程が上述の第1実施形態と異なっている。そこで、以下では、このボンド率調整過程に注目した説明を行う。
【0122】
尚、この第2実施形態のHDDや磁気ディスク、および磁気ディスク製造方法における処理の流れを示すフローチャートについては、いずれも上述の第1実施形態と同等であるのでここでは重複説明を省略する。また、以下では、第1実施形態の磁気ディスク200を示す図2中の各構成要素を適宜に参照する。
【0123】
本実施形態では、潤滑剤として、被塗布面に塗布され加熱されるとその被塗布面との結合性が高まる潤滑剤が使われる。そして、この潤滑剤では、加熱温度が高いほど結合性が高まることとなる。
【0124】
本実施形態のボンド率調整過程では、本体部210に塗布された潤滑剤に対する加熱によってボンド率を調整して、上記のようなボンド率の分布を有するボンド層222が生成される。
【0125】
ここで、まず、この本実施形態のボンド率調整過程に先立って、この本実施形態のボンド率調整過程と対比するための比較例について説明する。この比較例は、ボンド率が均一なボンド層を加熱によって生成する例である。
【0126】
図13は、ボンド率が均一なボンド層を加熱によって生成する比較例を示す図である。
【0127】
この図13の比較例では、潤滑剤が塗布された本体部210が、内部温度が一様に保たれた炉530の中に配置されて加熱が行われる。
【0128】
ここで、加熱は、この潤滑剤の粘性を高める。その結果、この粘性が高められた潤滑剤と本体部210との結合性が、潤滑剤の塗布膜全体で高まる。そして、本体部210との結合性が高まった潤滑剤のうち本体部210と接触している側が本体部210と結合してボンド層となる。一方、本体部210から離れた箇所の潤滑剤は、この本体部210に対してまだ流動性を有していてフリー層となる。また、加熱温度が高いほど潤滑剤の粘性が高まり本体部210と潤滑剤との結合性が高まるので、この加熱温度が高いほどボンド率が大きくなる。
【0129】
図13の比較例では、潤滑剤が一様な温度で加熱されるため、以下に示すように、ボンド率も一様なものとなる。
【0130】
図14は、図13の比較例で得られるボンド率の一様な分布を示すグラフである。
【0131】
この図14のグラフG8では、横軸に上述の半径率がとられ、縦軸にボンド率がとられている。そして、このグラフG8には、図13の比較例で得られるボンド層におけるボンド率の分布を実線で示す第11ラインL11が記載されている。この第11ラインL11の形状が示すように、一様な温度での加熱によればボンド率が一様となる。
【0132】
これに対し、本実施形態のボンド率調整過程では、本体部210上の潤滑剤に対して、加熱温度が後述のように分布した状態での加熱が行われる。
【0133】
図15は、第2実施形態のボンド率調整過程の詳細を示す図である。
【0134】
この第2実施形態のボンド率調整過程では、表裏面に潤滑剤が塗布された本体部210を挟む2枚の円板形状のヒータ540を使って、潤滑剤の加熱が行われる。
【0135】
このヒータ540は、このヒータ540が本体部210に中心を合わせて重ねられたときに、半径率が「80%」の箇所の近傍に重なるリング状の第1発熱部分541と、この第1発熱部分541以外の部分を占める第2発熱部分542とで構成されている。そして、各発熱部分に電圧が印加され、各発熱部分がその印加電圧に応じた温度で発熱する。
【0136】
ここで、このヒータ540では、ボンド率調整過程において、第1発熱部分541に、第2発熱部分542よりも大きな電圧が印加される。その結果、このヒータ540の、潤滑剤に対する加熱時の加熱面温度は、次のような分布を示すこととなる。
【0137】
図16は、図15のヒータにおける加熱時の加熱面温度の分布を示すグラフである。
【0138】
この図16のグラフG9では、横軸に半径率がとられ、縦軸にヒータの加熱面温度がとられている。そして、このグラフG9には、ヒータ540における加熱時の加熱面温度の分布を実線で示す第12ラインL12が記載されている。
【0139】
この第12ラインL12の形状から分かるように、加熱時には、上記の第1発熱部分541の温度が、他の第2発熱部分542の温度よりも大きくなる。
【0140】
そして、潤滑剤を塗布された本体部210における被加熱面温度は、このような温度分布となったヒータ540で加熱されることで、次のような分布を示すこととなり、その結果、その温度分布に応じてボンド率が分布したボンド層222が生成されることとなる。
【0141】
図17は、加熱による本体部の被加熱面温度の分布と、その加熱によって生成されるボンド層におけるボンド率の分布を示すグラフである。
【0142】
この図17のパート(a)には、加熱による本体部210の被加熱面温度の分布を示すグラフG10が示されている。
【0143】
このパート(a)のグラフG10では、横軸に半径率がとられ、縦軸に本体部210の被加熱面温度がとられている。そして、このグラフG10には、本体部210の被加熱面温度の分布を実線で示す第13ラインL13が記載されている。
【0144】
また、図17のパート(b)には、加熱によって生成されるボンド層222のボンド率の分布を示すグラフG11が示されている。
【0145】
このパート(b)のグラフG11では、横軸に半径率がとられ、縦軸にボンド率がとられている。そして、このグラフG11には、ボンド率の分布を実線で示す第14ラインL14が記載されている。
【0146】
上記の第13ラインL13の形状と第14ラインL14の形状との比較から分かるように、ボンド率の分布、即ち、ボンド率の分布は、本体部210の被加熱面温度の分布に対応する。さらに、第13ラインL13が示す被加熱面温度の分布の極大の位置と大きさは、図16のグラフG9の第12ラインL12が示すヒータ540の加熱面温度の分布の極大の位置と大きさに対応する。そして、このヒータ540の加熱面温度の分布の極大の位置と大きさは、このヒータ540の第1発熱部分541の位置と印加電圧の大きさに対応する。
【0147】
本実施形態のボンド率調整過程では、ボンド率を高くするべき所望の位置に第1発熱部分541が配置されたヒータ540が用意される。そして、この第1発熱部分541にボンド率の極大の大きさに応じた印加電圧が印加される。また、第2発熱部分542には、ボンド率が所望形状に分布するように調整された印加電圧が印加される。これにより、ボンド率が、図17のパート(b)のグラフG11に示すように分布するボンド層222が生成されることとなる。
【0148】
このように、図13の比較例ではボンド率が一様となるのに対し、本実施形態では、ヒータ540を用いることで、ボンド率の分布が所望の分布となったボンド層222を得ることができる。
【0149】
また、この本実施形態のボンド率調整過程では、本体部210の表裏面それぞれについて、ヒータ540の第1発熱部分541への印加電圧が適宜に調整される。これにより、ボンド率の分布の、図4に示すような、各磁気ディスク200毎の相違、あるいは磁気ディスク200の表裏面での相違が実現されることとなる。
【0150】
以上、説明したボンド率調整過程を経て製造される本実施形態の磁気ディスク200でも、上述の第1実施形態と同様に、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が抑制され、HDI障害やRW障害の発生が抑えられることはいうまでもない。
【0151】
また、この本実施形態のボンド率調整過程によれば、ヒータを用いた加熱という非常に簡単な方法でボンド率が所望の分布となったボンド層222が生成される。
【0152】
このことは、上述の記憶媒体製造方法の基本形態に対し、以下のような応用形態が好適であることを意味している。この応用形態は、上記潤滑剤が、被塗布面に塗布され加熱されるとその被塗布面とその潤滑剤との結合性が高まる、加熱温度が高いほどその結合性が高まるものとなっている。そして、上記層生成過程が、以下の塗布過程と加熱過程とを有する形態となっている。塗布過程は、上記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布する過程である。また、加熱過程は、上記塗布過程で塗布された潤滑剤を、上記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっている温度分布で加熱する過程である。
【0153】
図5に示す第1実施形態の潤滑剤塗布過程(ステップS120)と同等な本実施形態の潤滑剤塗布過程が、この応用形態における塗布過程の一例に相当する。また、本実施形態のボンド率調整過程が、この応用形態における加熱過程の一例に相当する。
【0154】
次に第3実施形態について説明する。
【0155】
この第3実施形態は、磁気ディスク製造方法の処理の流れと、その磁気ディスク製造方法で行われるボンド率調整過程が上述の第1実施形態と異なっている。そこで、以下では、このボンド率調整過程に注目した説明を行う。
【0156】
尚、この第3実施形態のHDDや磁気ディスクについては、いずれも上述の第1実施形態と同等であるのでここでは重複説明を省略する。また、以下では、第1実施形態の磁気ディスク200を示す図2中の各構成要素を適宜に参照する。
【0157】
図18は、第3実施形態の磁気ディスク製造方法を示すフローチャートである。
【0158】
尚、この図18では、図5の第1実施形態の磁気ディスク製造方法を示すフローチャートにおける過程と同等な過程については、この図5と同じ符号が付されている。以下では、この同等な過程についての重複説明を省略する。
【0159】
図18のフローチャートに示すとおり、本実施形態の磁気ディスク製造方法では、次のボンド率調整過程(ステップS210)が行われてから、本体部210に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布過程(ステップS220)が行われる。
【0160】
また、本実施形態では、潤滑剤として、窒化処理が施された被塗布面に塗布されると被塗布面との結合性が高まる潤滑剤が使われる。そして、この潤滑剤では、被塗布面の窒化率が高いほど結合性が高まることとなる。
【0161】
本実施形態のボンド率調整過程(ステップS210)では、潤滑剤塗布前の本体部210に窒素ガスが吹き付けられて、表裏両面が窒化される窒化処理が行われる。この窒化処理で本体部210に浸透した窒素は、潤滑剤塗布過程(ステップS220)で塗布される潤滑剤と強く結合する。このため、潤滑剤の膜中の、この窒素が浸透した本体部210との接触部側の部分に、潤滑剤が本体部210と結合したボンド層222が生じ、本体部210から離れたその他の部分が、流動性を有するフリー層221となる。また、本体部210に浸透した窒素の量が多いほど潤滑剤との結合性が高まるので、この窒素の量が多いほどボンド率が大きくなる。
【0162】
本実施形態では、本体部210に、窒化率が所望の分布となる窒化処理を施すことで、ボンド率の所望の分布が実現される。
【0163】
ここで、まず、この本実施形態のボンド率調整過程(ステップS210)に先立って、このボンド率調整過程(ステップS210)と対比するための比較例について説明する。この比較例は、厚みが均一なボンド層を窒化処理によって生成する例である。
【0164】
図19は、ボンド率が均一なボンド層を窒化処理によって生成する比較例を示す図である。
【0165】
この図19の比較例では、潤滑剤塗布前の本体部210が、内部に窒素ガスが満たされたチャンバ550内に配置される。そして、この本体部210に、電源560によって所定のバイアス電圧が印加される。すると、このバイアス電圧に引かれて、窒素粒子が、本体部210に一様に衝突する。その結果、この本体部210の表面が一様な窒化率で窒化することとなる。
【0166】
図20は、図19の比較例の窒化処理で窒化された本体部の表裏両面における窒化率の一様な分布と、その窒化率の分布に応じて生成されたボンド率の一様な分布とを示すグラフである。
【0167】
この図20のパート(a)には、図19の比較例の窒化処理で窒化された本体部210の表裏両面における窒化率の一様な分布を示すグラフG12が示されている。
【0168】
この図20のパート(a)のグラフG12では、横軸に半径率がとられ、縦軸に窒化率が取られている。そして、このグラフG12には、本体部210の表裏両面における窒化率の一様な分布を実線で示す第15ラインL15が記載されている。
【0169】
また、図20のパート(b)には、窒化率の分布に応じて生成されたボンド層222でのボンド率の一様な分布を示すグラフG13が示されている。
【0170】
この図20のパート(b)のグラフG13では、横軸に半径率がとられ、縦軸に窒化率が取られている。そして、このグラフG13には、本体部210の表裏両面における窒化率の一様な分布を実線で示す第15ラインL15が記載されている。
【0171】
これに対し、図18の本実施形態のボンド率調整過程(ステップS210)では、上述のように、本体部210に、窒化率が所望の分布となるように窒化処理を施すことで、ボンド率の所望の分布が実現される。そして、本実施形態では、その窒化率の分布が次のように実現されている。
【0172】
図21は、本実施形態のボンド率調整過程で実行される窒化処理を示す図である。
【0173】
本実施形態のボンド率調整過程(ステップS210)で実行される窒化処理でも、潤滑剤塗布前の本体部210は、内部に窒素ガスが満たされたチャンバ550内に配置される。ただし、本実施形態では、このチャンバ550内に、2枚の金属製メッシュフィルタ570が本体部210を挟んで配置される。そして、本体部210には、本体部用電源580によって本体部用バイアス電圧が印加される。また、各金属製メッシュフィルタ570には、フィルタ用電源590によって本体部用バイアス電圧よりも低圧のフィルタ用バイアス電圧が印加される。
【0174】
本実施形態では、金属製メッシュフィルタ570は、円板形状を有している。そして、金属製メッシュフィルタ570には、この金属製メッシュフィルタ570が本体部210に中心を合わせて重ねられたときに、半径率が「80%」の箇所の近傍に重なるリング状のスリットが空けられている。
【0175】
本実施形態では、窒素粒子は、本体部用バイアス電圧に引かれて本体部210に向かうが、金属製メッシュフィルタ570のスリットを通過するものを除いて、この金属製メッシュフィルタ570でほとんどトラップされる。その結果、本体部210の表裏面での窒化率は、金属製メッシュフィルタ570のスリットに対向する箇所で高く、他の箇所で低くなる。これにより、本体部210の表裏面における窒化率が次のように分布し、その後の潤滑剤塗布過程(ステップS220)でその窒化率の分布に応じてボンド率が分布したボンド層222が生成されることとなる。
【0176】
図22は、本実施形態における窒化率の分布と、その窒化率の分布に応じたボンド率の分布とを示すグラフである。
【0177】
この図22のパート(a)には、本実施形態のボンド率調整過程(ステップS210)での窒化処理による窒化率の分布を示すグラフG14が示されている。
【0178】
この図22のパート(a)のグラフG14では、横軸に半径率がとられ、縦軸に窒化率がとられている。そして、このグラフG14には、窒化率の分布を実線で示す第17ラインL17が記載されている。
【0179】
また、図22のパート(b)には、上記のパート(a)のグラフG14に示す窒化率の分布に応じたボンド率の分布を示すグラフG15が示されている。
【0180】
この図22のパート(b)のグラフG15では、横軸に半径率がとられ、縦軸にボンド率がとられている。そして、このグラフG15には、ボンド率の分布を実線で示す第18ラインL18が記載されている。
【0181】
上記のパート(a)のグラフG14に示すように、窒化率の分布には、金属製メッシュフィルタ570のスリットに対向する箇所に極大が生じる。そして、パート(b)のグラフG15に示すように、そのような窒化率の極大に応じた箇所にボンド率の極大が生じることとなる。
【0182】
ここで、上記のフィルタ用バイアス電圧と本体部用バイアス電圧との差が大きいほど窒化率の極大、延いてはボンド率の極大が鮮明となる。逆に、両者の差が小さいほど窒化率およびボンド率の分布は均一なものに近付く。さらに、フィルタ用バイアス電圧が大きいほど窒化率およびボンド率の極大の大きさが大きくなる。
【0183】
本実施形態のボンド率調整過程(ステップS210)では、ボンド率を高くするべき所望の位置にスリットが設けられた金属製メッシュフィルタ570が用意される。そして、ボンド率が所望の分布となるように調整されたフィルタ用バイアス電圧と本体部用バイアス電圧とが、それぞれ金属製メッシュフィルタ570と本体部210に印加される。これにより、ボンド率が所望の分布となったボンド層222が生成されることとなる。
【0184】
また、この本実施形態のボンド率調整過程(ステップS210)では、本体部210の表裏面それぞれで、フィルタ用バイアス電圧と本体部用バイアス電圧とが適宜に調整される。これにより、ボンド率の分布の、図4に示すような、各磁気ディスク200毎の相違、あるいは磁気ディスク200の表裏面での相違が実現されることとなる。
【0185】
このように、図19の比較例ではボンド率が一様となるのに対し、本実施形態では、金属製メッシュフィルタ570を用いることで、ボンド率の分布が所望の分布となったボンド層222を得ることができる。
【0186】
以上、説明した図18の磁気ディスク製造方法で製造される本実施形態の磁気ディスク200でも、上述の第1実施形態と同様に、潤滑剤マイグレーションで移動する潤滑剤の量が抑制され、HDI障害やRW障害の発生が抑えられることはいうまでもない。
【0187】
また、この本実施形態の磁気ディスク製造方法によれば、潤滑剤が本体部210に塗布される前に、将来生成されるボンド層222におけるボンド率の分布が調整される。このため、その調整中に、接触等によって潤滑剤が取れてしまう等といった不注意による事故の発生が確実に回避されることとなる。
【0188】
このことは、上述の記憶媒体製造方法の基本形態に対し、以下のような応用形態が好適であることを意味している。この応用形態は、上記潤滑剤が、窒化処理が施された被塗布面に塗布されるとその被塗布面とその潤滑剤との結合性が高まる、その被塗布面の窒化率が高いほどその結合性が高まるものとなっている。そして、上記層生成過程が、次の窒化過程と塗布過程とを有する過程であるという形態となっている。窒化過程は、上記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に対し、上記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっている窒化率分布で窒化処理を行う過程である。また、塗布過程は、上記窒化処理が施された面に潤滑剤を塗布する過程である。
【0189】
図18のボンド率調整過程(ステップS210)は、この応用形態における窒化過程の一例に相当する。また、この図18の潤滑剤塗布過程(ステップS220)は、この応用形態における塗布過程の一例に相当する。
【0190】
尚、上記では、磁気ディスクの潤滑膜において、半径率で「80%」の箇所にボンド率の極大が生じる実施形態を例示したが、基本形態について上述した記憶媒体、情報記憶装置、記憶媒体製造方法の実施形態はこれに限るものではない。これらの実施形態は、潤滑剤マイグレーションによって生じるであろう潤滑膜の膜厚変化に応じ、半径率で「80%」の箇所以外の箇所にボンド率の極大が生じる形態であっても良い。
【0191】
また、上記では、基本形態について上述した記憶媒体、情報記憶装置、記憶媒体製造方法の実施形態として、磁気ディスク、HDD、磁気ディスク製造方法を例示したが、上記の実施形態はこれらに限るものではない。記憶媒体の実施形態は、例えば、SILを用いたヘッドによって情報記録や情報再生が行われる光磁気ディスク等であっても良い。また、情報記憶装置の実施形態は、例えば、このような光磁気ディスクに対して情報記録や情報再生を行う光磁気ディスクドライブ等であっても良い。さらに、記憶媒体製造方法の実施形態は、例えば、このような光磁気ディスクを製造する光磁気ディスク製造方法等であっても良い。
【0192】
以下、上述した基本形態を含む種々の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0193】
(付記1)
円板形状を有し情報を記憶する本体部と、
潤滑剤で形成され、前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に結合したボンド層と、
前記ボンド層を覆う、該ボンド層を形成している潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤で形成されたフリー層とを備え、
前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚に対する該ボンド層の厚みの比率を示すボンド率が、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっていることを特徴とする記憶媒体。
【0194】
(付記2)
前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜は、前記最外周から前記中央に向かう途中までの膜厚が該途中からの膜厚よりも薄いものであることを特徴とする付記1記載の記憶媒体。
【0195】
(付記3)
円板形状を有し情報を記憶する本体部と、潤滑剤で形成され、前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に結合したボンド層と、該ボンド層を覆う、該ボンド層を形成している潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤で形成されたフリー層とを備え、前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚に対する該ボンド層の厚みの比率を示すボンド率が、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっている記憶媒体と、
前記記憶媒体に対して情報記憶及び/又は情報再生を実行するヘッドとを備えたことを特徴とする情報記憶装置。
【0196】
(付記4)
前記ボンド層および前記フリー層が前記本体部の表裏両面に設けられているものであり、
前記記憶媒体が、互いに間隔を空けて複数枚重ねられたものであって、その重ねられた複数の記憶媒体のうちの両端の記憶媒体では、重なりの外側を向いた面に結合したボンド層におけるボンド率の前記極大が、該重なりの内側を向いた面に結合したボンド層におけるボンド率の前記極大よりも大きいものであることを特徴とする付記3記載の情報記憶装置。
【0197】
(付記5)
前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜は、前記最外周から前記中央に向かう途中までの膜厚が該途中からの膜厚よりも薄いものであることを特徴とする付記3又は4記載の情報記憶装置。
【0198】
(付記6)
円板形状を有し情報を記憶する本体部を準備する本体部準備過程と、
前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布し、該潤滑剤の塗布膜中に、その塗布された面に結合したボンド層と、該ボンド層を覆う、該ボンド層中の潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤からなるフリー層とを、前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚に対する該ボンド層の厚みの比率を示すボンド率が、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となるように生成させる層生成過程とを有することを特徴とする記憶媒体製造方法。
【0199】
(付記7)
前記潤滑剤が、被塗布面に塗布され紫外線の照射を受けると該被塗布面と該潤滑剤との結合性が高まる、該紫外線の照射量が多いほど該結合性が高まるものであり、
前記層生成過程が、
前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布する塗布過程と、
前記塗布過程で塗布された潤滑剤に紫外線を、前記円板形状の面の最外周から中央に向かう途中において極大となっている照射量分布で照射する紫外線照射過程とを有する過程であることを特徴とする付記6記載の記憶媒体製造方法。
【0200】
(付記8)
前記潤滑剤が、被塗布面に塗布され加熱されると該被塗布面と該潤滑剤との結合性が高まる、加熱温度が高いほど該結合性が高まるものであり、
前記層生成過程が、
前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布する塗布過程と、
前記塗布過程で塗布された潤滑剤を、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっている温度分布で加熱する加熱過程とを有する過程であることを特徴とする付記6記載の記憶媒体製造方法。
【0201】
(付記9)
前記潤滑剤が、窒化処理が施された被塗布面に塗布されると該被塗布面と該潤滑剤との結合性が高まる、該被塗布面の窒化率が高いほど該結合性が高まるものであり、
前記層生成過程が、
前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に対し、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっている窒化率分布で窒化処理を行う窒化過程と、
前記窒化処理が施された面に潤滑剤を塗布する塗布過程とを有する過程であることを特徴とする付記6記載の記憶媒体製造方法。
【0202】
(付記10)
前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚を、前記最外周から前記中央に向かう途中までの膜厚を、該途中からの膜厚よりも薄くする膜厚調整過程をさらに有することを特徴とする付記6から9のうちいずれか1項記載の記憶媒体製造方法。
【0203】
(付記11)
前記膜厚調整過程が、前記潤滑剤の膜のうち前記最外周から前記中央に向かう途中までの膜部分について潤滑剤を拭き取って減らす過程であることを特徴とする付記10記載の記憶媒体製造方法。
【符号の説明】
【0204】
100 ハードディスク装置
101 ディスク軸
102 ハウジング
103 カバー
110 スイングアーム
111 ベアリング
120 アクチュエータ
130 制御回路
140 磁気ヘッド
200 磁気ディスク
210 本体部
220 潤滑膜
221 フリー層
222 ボンド層
510 UV照射機
520 UVフィルター
530 炉
540 ヒータ
541 第1発熱部分
542 第2発熱部分
550 チャンバ
560 電源
570 金属製メッシュフィルタ
580 本体部用電源
590 フィルタ用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板形状を有し情報を記憶する本体部と、
潤滑剤で形成され、前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に結合したボンド層と、
前記ボンド層を覆う、該ボンド層を形成している潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤で形成されたフリー層とを備え、
前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚に対する該ボンド層の厚みの比率を示すボンド率が、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっていることを特徴とする記憶媒体。
【請求項2】
前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜は、前記最外周から前記中央に向かう途中までの膜厚が該途中からの膜厚よりも薄いものであることを特徴とする請求項1記載の記憶媒体。
【請求項3】
円板形状を有し情報を記憶する本体部と、潤滑剤で形成され、前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に結合したボンド層と、該ボンド層を覆う、該ボンド層を形成している潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤で形成されたフリー層とを備え、前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚に対する該ボンド層の厚みの比率を示すボンド率が、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となっている記憶媒体と、
前記記憶媒体に対して情報記憶及び/又は情報再生を実行するヘッドとを備えたことを特徴とする情報記憶装置。
【請求項4】
円板形状を有し情報を記憶する本体部を準備する本体部準備過程と、
前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布し、該潤滑剤の塗布膜中に、その塗布された面に結合したボンド層と、該ボンド層を覆う、該ボンド層中の潤滑剤の流動性よりも高い流動性を有する潤滑剤からなるフリー層とを、前記ボンド層と前記フリー層とを合わせた潤滑剤の膜の膜厚に対する該ボンド層の厚みの比率を示すボンド率が、前記円板形状の最外周から中央に向かう途中において極大となるように生成させる層生成過程とを有することを特徴とする記憶媒体製造方法。
【請求項5】
前記潤滑剤が、被塗布面に塗布され紫外線の照射を受けると該被塗布面と該潤滑剤との結合性が高まる、該紫外線の照射量が多いほど該結合性が高まるものであり、
前記層生成過程が、
前記本体部の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に潤滑剤を塗布する塗布過程と、
前記塗布過程で塗布された潤滑剤に紫外線を、前記円板形状の面の最外周から中央に向かう途中において極大となっている照射量分布で照射する紫外線照射過程とを有する過程であることを特徴とする請求項4記載の記憶媒体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−205350(P2010−205350A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51111(P2009−51111)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】