説明

記録ディスク製造方法,記録ディスクおよびディスク基板ならびに記録/再生装置

【課題】可撓性を有するシート状の記録ディスクの面振れを安定化させる。
【解決手段】記録ディスクの剛性kを、記録ディスクのヤング率E、面振れ安定化部材の直径b、面振れ安定化部材に押圧される記録ディスクの半径a、記録ディスクの厚みtによって下式にて規定し、かつ面振れ安定化部材が記録ディスクに対して近接して相対的に該記録ディスクを押し込むことにより、該記録ディスク表面の位置が変位する際の当該変位量を記録ディスクの撓み量Wと定義し、記録ディスクの剛性kと記録ディスクの撓み量Wとの積Pをディスクパラメーターとして下式にて規定し、該ディスクパラメーターを調整して記録ディスクを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有する記録ディスクに関し、特に、その記録ディスクの製造方法,およびディスク基板ならびに記録/再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ディスクはリムーバブルであり、かつ大容量であることから、記録および/または再生用の記録媒体として広く普及している。通常は、1.2mmまたは0.6mmのポリカーボネート基板に転写層を成膜して、この転写層に情報を記録し、これを再生するものである。記録/再生のためには記録面上に光を集光する必要があり、光ピックアップに対する記録面の位置精度が必要である。そこで、基板を平坦にし、かつ剛性を持たせ、さらに、光ピックアップにサーボをかけることにより上記位置精度を出している。
【0003】
光ディスクの記録容量を高めるために、対物レンズの開口数(NA)を上げたり、レーザ光を短波長化したりして、光スポットを更に小径化する研究開発が進められている。他方、対物レンズの開口数(NA)を上げるためには、基板のチルト(面振れ)を小さくする必要があるので、製造基板の平面精度を高めること、光ピックアップにチルトサーボを搭載すること、または転写層上に0.1mm程度の薄いカバー層を設けて、このカバー層側から記録/再生することなどにより、チルトマージンを拡大することが行われている。
【0004】
光ディスクの基板の面振れを小さくすることは、材料あるいは製法の工夫により達成することが可能であるが、光ディスクの製造コストが高くなる。また、光ピックアップにチルトサーボを搭載することも同様に、光ピックアップのコストを高くする。
【0005】
また、光ディスクの基板を通さずに転写層側から光ピックアップにて再生するものにおいても、転写層面と対物レンズの距離を0.1mm程度しか確保することができないため、剛体である通常の光ディスクを回転させるときの対物レンズとの衝突を防ぐために、面振れを小さくし、かつ光ディスクのチャッキング装置のチャッキング精度を高くする必要がある。これらも光ディスクや記録/再生装置のコストを高くする要因となる。
【0006】
そこで、剛体の光ディスクの機械的な平面精度を高くするのではなく、光ディスクを可撓性にして、その記録/再生面と反対側であって、かつ光ピックアップの対物レンズと反対側に面振れ安定化部材を設けることにより、この可撓性を有する光ディスクを対物レンズと面振れ安定化部材で挟んだ状態にし、当該光ディスクの回転によって該ディスクを面振れ安定化部材から空気力学的に浮上(ベルヌーイ浮上;非接触)させ、これにより、対物レンズに対する記録面の位置を安定化させ、少なくとも記録面におけるチルト(面振れ)を限りなくゼロに近付けるようにする技術が研究開発されている(例えば特許文献1参照)。
【0007】
可撓性を有するディスクの面振れを低減できる原理は、次の(1)〜(4)の総和により決定される。
(1)面振れ安定化部材がディスクを空気力学的に押し下げる力
(2)ディスクが弾力的に反発する力
(3)面振れ安定化部材とディスク間の圧力場
(4)ディスクの遠心力
前記(4)はディスク回転数により決まり、前記(3)は面振れ安定化部材とディスク間のギャップ量により決まる。また、前記(1)と(2)とは釣り合う関係にあり、前記(2)は、ディスクの剛性と前記(1)を吸収する内部損失がパラメーターとして寄与してくる。よって、これらのパラメーターを管理する必要がある。
【0008】
また、前記可撓性を有する光ディスク(フレキシブルディスク)を製造するための従来工法としては、PET樹脂からなる基板などのフレキシブルシートの表面に熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を塗布して、スタンパの微細凹凸パターンを転写し、これを熱硬化させ、その後、転写層を成膜する熱プレス法、あるいは同じくフレキシブルシートの表面に紫外線硬化型樹脂を塗布して、スタンパの微細パターンを転写し、紫外線硬化させてから転写層を成膜する2P(Photo Polymerization)法(特許文献2)、あるいは可撓性有機物シートを軟加点以上に加熱し、スタンパを圧着させて転写した後、冷却してシートとスタンパを剥離する方法(特許文献3)などがある。
【0009】
また例えば、特許文献4に記載されている従来技術は、透明基板を熱圧着するダイレクトエンボス法である。昇温させてから圧着するが、面内の温度ばらつき,応力ばらつきを極限に均一にすることが困難であるため、光学特性や機械的強度,反りなどにばらつきが発生しやすい。他方、前記2P法は転写性に優れており、この部分に関するポテンシャルは他の転写工法より優れている。
【0010】
2P法の場合、フレキシブルディスクの厚みは、転写する基板,転写層,転写層などの厚みの総和である。ディスク基板自体は工業的に量産されていることにより、その厚み分布は±1μm程度である。しかし、一般的な基板は、厚み振幅こそ±1μm程度であるが、円周方向における厚み変化が激しく、スパイク状に変化している。
【特許文献1】特開2003−115108号公報
【特許文献2】特許第2942430号明細書
【特許文献3】特開平6−60423号公報
【特許文献4】特開平11−273147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載されている面振れ安定化部材とディスクの間に形成される空気軸受によってディスクの面振れを安定化させるようにした発明によれば、ディスク基板またはディスクの可撓性によって面振れを安定化させることができる。
【0012】
一般的にフォーカスサーボの追従性は面振れの高周波領域において限界があり、フォーカスサーボの追従性がフォーカスエラーを増大させて、記録/再生精度を低下させる。これはフレキシブルディスクの記録容量,記録/再生速度を高めるときの大きな課題である。
【0013】
特許文献1に記載されている発明では、面振れ安定化部材とディスクの間に形成される空気軸受が機能して、ディスク基板の剛性とガイド押し込み量によって決定される基板反発力により、ディスクの面振れを安定化させることができる。
【0014】
また特許文献1に記載されている発明では、フレキシブルディスクのうねりが空気軸受で略矯正され、またディスク基板に与える反発力により面振れを安定化することが可能であるが、ディスク円周方向に基板自体の持つ厚みのばらつきが固定値となって、ディスクの面振れに重畳してくるため、前記厚みのばらつきは小さくする必要がある。
【0015】
すなわち、ブルーレイ・ディスクで要求されているディスク基板は、光学透過層としての機能が必要であるため、複屈折を限りなく小さくする必要があるが、特許文献1に記載されている発明に係る光ディスクシステムでは表面記録であるが故に、光学特性はフリーでよい。しかし、表面性状に絡む特性は限りなく抑え込む必要がある。
【0016】
本発明の目的は、前記従来の課題を解決し、可撓性を有するシート状の記録ディスクの面振れを安定化させるために、記録ディスクあるいはディスク基板の剛性,反発力を規定し、そのディスクの厚みのばらつきを可及的に低減するように工夫した記録ディスク製造方法,記録ディスクおよびディスク基板ならびに記録/再生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため、本発明は、可撓性を有する記録ディスクにおける記録/再生面と反対側の面に、任意の形状を有する面振れ安定化部材を近接させ、前記記録ディスクに対して前記面振れ安定化部材と反対側の面にピックアップを配設して、前記記録ディスクの面振れを低減させた状態で前記ピックアップによる記録/再生を行う記録/再生装置に用いられる前記記録ディスクの製造方法において、
前記記録ディスクの剛性kを下式(数1)で規定し、
【0018】
【数1】

(ただし、E:記録ディスクのヤング率、b:面振れ安定化部材の直径、a:面振れ安定化部材に押圧される記録ディスクの半径、t:記録ディスクの厚み)、
かつ、前記面振れ安定化部材が前記記録ディスクに対して近接して相対的に前記記録ディスクを押し込むことにより、前記記録ディスク表面の位置が変位する際の当該変位量を前記記録ディスクの撓み量Wと定義し、前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pをディスクパラメーターとして、下式(数2)で規定し、
【0019】
【数2】

前記ディスクパラメーターを調整して記録ディスクを製造することを特徴とし、記録ディスクの剛性を記録ディスク(ディスク基板として捉えてもよい)のヤング率,厚み,面振れ安定化部材に押圧される記録ディスクの部位における半径,面振れ安定化部材の直径の4つのパラメーターで規定し、さらに前記のようにディスク撓み量を定義し、ディスク剛性とディスク撓み量との積をディスクパラメーターとして、ディスク面振れを空気力学的に安定化させ、記録/再生を行うものである。
【0020】
また、本発明は、前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pを0.6〜2000mNにすることを特徴とし、さらに、前記積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの基板の厚み,ヤング率,材料,円周方向における厚みのばらつきを10μm以下にすることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明は、可撓性を有する記録ディスクにおける記録/再生面と反対側の面に、任意の形状を有する面振れ安定化部材を近接させ、前記記録ディスクに対して前記面振れ安定化部材と反対側の面にピックアップを配設して、前記記録ディスクの面振れを低減させた状態で前記ピックアップによる記録/再生を行う記録/再生装置において、
前記記録ディスクの剛性kを下式(数3)で規定し、
【0022】
【数3】

(ただし、E:記録ディスクのヤング率、b:面振れ安定化部材の直径、a:面振れ安定化部材に押圧される部位における記録ディスク半径、t:記録ディスクの厚み)、
かつ、前記面振れ安定化部材が前記記録ディスクに対して近接して相対的に前記記録ディスクを押し込むことにより、前記記録ディスク表面の位置が変位する際の当該変位量を前記記録ディスクの撓み量Wと定義し、前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pをディスクパラメーターとして、下式(数4)で規定し、
【0023】
【数4】

前記ディスクパラメーターを調整して、ディスク面振れを空気力学的に安定化させて記録/再生を行うことを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの撓み量Wを制御する手段、あるいは前記記録ディスクの回転時の線速度を制御する手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ディスク剛性とディスク撓み量の積をディスクパラメーターとして、ディスク面振れを空気力学的に安定化させることにより、高品質な記録/再生を行うことができ、好ましくは、ディスク剛性とディスク撓み量の積が0.6〜2000mNであるとよい。
【0026】
また、前記ディスクパラメーターに基づき、記録ディスク,ディスク基板を製造することにより、高品質な可撓性を有する記録ディスクが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は本発明の実施形態を説明するための情報記録/再生装置の概略構成図であり、1は可撓性を有するシート状の記録ディスクである光ディスク、2は光ディスク1のハブ3を保持するスピンドルシャフト、4はスピンドルシャフト2を回転駆動するスピンドルモータ、5は、対物レンズ6を具備し、光ディスク1に対して情報の書き込みを行う記録手段、および書き込まれた情報の読み取りを行う再生手段としての光ピックアップ、7は、光ディスク1を介して光ピックアップ5に対向設置され、光ディスク1の面ぶれを防止するための面振れ安定化部材としての安定化ガイド部材である。
【0029】
次に、本実施形態における可撓性を有するシート状の光ディスクの面振れ安定化について説明する。
【0030】
記録/再生時、前記光ディスク1を、光ピックアップ5と安定化ガイド部材7間で回転させる。回転している光ディスク1は、それ自体、小さいながら剛性を持ち、また回転すると遠心力の作用により、真っ直ぐな状態になろうとする力を持つ。したがって、光ディスク1に対して安定化ガイド部材7を近づけて、ベルヌーイの法則に基づく空気流の圧力差による反発力Pを生成して光ディスク1に与えることにより、光ディスク1が真っ直ぐになろうとする力と、安定化ガイド部材7からの反発力の釣り合いによって、大きな面振れ(ディスク回転軸方向の振れ)を減少させることができる。
【0031】
本実施形態では、光ディスク1における記録層11とは反対側である基板12側に対向面が円弧状をなす円柱状の安定化ガイド部材7を配設し、光ディスク1の記録層11に対して記録/再生用の光ビームLを集光して記録/再生を行う。安定化ガイド部材7は記録層11の反対側の基板12側を安定化させる。
【0032】
本実施形態では、前記のような可撓性を有する光ディスク1において、ディスク剛体とディスク撓み量の積をディスクパラメーターとして、ディスク構成要素の設定あるいは駆動制御を行うことにより、ディスク面振れを空気力学的に安定化させている。
【0033】
すなわち、材料力学的知見より、本実施形態のような光ディスク1の場合、スピンドルモータ4のスピンドルシャフト2に固定されている状態で、光ディスク1の任意の半径位置が安定化ガイド部材7により押圧されるモデルは、いわゆる「片持ち梁」構造に相当する。
【0034】
図2に示すように、基板12の撓み量Wは、基板12が受ける力P,ヤング率E,半径位置a,慣性モーメントIとして、下式(数5)に示すような関係にある(なお、ここで基板とはディスク全体とディスク基板単体の概念を含むこととする)。
【0035】
【数5】

ここで、安定化ガイド部材7の位置(Pの位置の直下、すなわち半径位置a)と、撓み量を計測している位置(測定器であるレーザ変位計の直上;長さx)とが同じ位置であるので、x=aより、下式(数6)に示すようになる。
【0036】
【数6】

ここで、ばね係数を考慮して(力F=k×変位量x;kはバネ定数:基板の剛性に相当する)に当てはめることにより、下式(数7)で表すことができる。
【0037】
【数7】

半径位置aでの慣性モーメントIは、図3に示すように、横長さb(安定化ガイド部材7の直径に相当)、高さ(厚み)tとすると、下式(数8)に示すようになる。
【0038】
【数8】

したがって、基板12の剛性kは下式(数9)で与えられる。
【0039】
【数9】

基板12の剛性kは、基板のヤング率E,厚みt,半径位置a、安定化ガイド部材7の直径bの4つのディスクパラメーターで規定されることになる。この基板12の剛性kに基板12の撓み量Wを掛けた値が、安定化ガイド部材7が基板12を押し込む力であり、したがって、下式(数10)にて基板12の反発力Pを定義することができる。
【0040】
【数10】

以下に前記ディスクパラメーターを考慮した光ディスクについて、具体的な実施例と比較例とにより説明する。
【0041】
(実施例1)
実施例1では、光ディスク1の基板12として、後述するような厚みの異なる種々のPC樹脂(ヤング率2.55GPa)製のものを用いた。用いる基板厚みのばらつきは全て1μm以下とした。
【0042】
前記基板12に対して、熱ナノインプリントなどによってスタンパのプリフォーマットパターンをPC基板に形成後、相変化膜をスパッタし、オーバーコート,ハードコートを形成した後、所望の形状に打ち抜く(打ち抜き後にオーバーコート,ハードコートを形成してもよい)ことにより、光ディスク1を完成した。
【0043】
図4は本実施形態の記録/再生装置と同様の構成のディスク評価装置の説明図であり、21はスピンドルモータ4の駆動部、22はディスク回転数を検知する回転センサ、23はディスクの撓み量を検出する撓み量センサ、24は、駆動部21,回転センサ22,撓み量センサ23などから情報を受けて、全体をコントロールする制御部である。
【0044】
図4において、光ディスク1を線速13m/sで回転させ、安定化ガイド部材7を接近させて空気浮上により光ディスク1の面振れを安定化させ、フォーカス,トラッキングサーボをロックさせて記録/再生を行う。安定化ガイド部材7の先端形状は、直径20mmであり、先端の円弧部半径が50mmである。
【0045】
実施例1の構成では、厚み50μmの光ディスク1は安定化ガイド部材7の押し込み量を変えても光ディスク1の反発力不足により、光ディスク1の面振れが安定化せず、記録/再生が不可であった。
【0046】
しかし、図6に示すように、光ディスク1の厚みが70,90,120,160,600,1200μmのものでは、それぞれ安定化ガイド部材7の押し込み量を前記ディスクパラメーターに基づき適正化することにより、所望のディスク反発力(Repellent force)Pが得られ、ディスク面振れ(Axial runout)が安定化し、良好な記録/再生特性が得られた。なお、図5(a)の平面図,図5(b)の正面図に示すように、安定化ガイド部材7を3箇所(主安定化ガイド部材と2つの副安定化ガイド部材)に用いた装置においても、同様にディスク面振れを安定化することができ、良好な記録/再生特性が得られた。
【0047】
(実施例2)
実施例1と同様に可撓性を有する光ディスク1を作製した。基板12としてはPET樹脂(ヤング率5.3GPa)製のものを用いた。実施例1と同様に記録/再生を行ったところ、実施例2の構成では、厚み50μmの光ディスク1は安定化ガイド部材7の押し込み量を変えても、光ディスク1の反発力不足により、ディスクの面振れが安定化せず、記録/再生が不可であった。
【0048】
しかし、図7に示すように、光ディスク1の厚みが75,100,125,188,250μmのものでは、それぞれ安定化ガイド部材7の押し込み量を、前記ディスクパラメーターに基づき適正化することにより、所望のディスク反発力Pが得られ、ディスク面振れが安定化し、良好な記録/再生特性が得られた。なお、図5(a),(b)に示す安定化ガイド部材7を3箇所に用いた装置においても、同様にディスク面振れを安定化することができ、良好な記録/再生特性が得られた。
【0049】
(実施例3)
実施例1と同様に可撓性を有する光ディスク1を作製した。基板12としてはPI樹脂(ヤング率7.2GPa)製のものを用いた。実施例1と同様に記録/再生を行ったところ、図8に示すように、光ディスク1の厚みが50,100,75,125,175μmのものでは、それぞれ安定化ガイド部材7の押し込み量を、前記ディスクパラメーターに基づいて適正化することにより、所望のディスク反発力Pが得られ、ディスク面振れが安定化し、良好な記録/再生特性が得られた。なお、前記と同様に図5(a),(b)に示す安定化ガイド部材7を3箇所に用いた装置においても、同様にディスク面振れを安定化することができ、良好な記録/再生特性が得られた。
【0050】
なお、具体的には、光ディスク1の剛性kと光ディスク1の撓み量Wとの積Pを0.6〜2000mNにすることが望ましく、さらには前記積Pが0.6〜2000mNとなるように、光ディスク1(あるいは基板12)の厚みt、あるいはヤング率Eを設定したり、光ディスク1(あるいは基板12)の材料を選定したり、光ディスク1(あるいは基板12)の円周方向における厚みtのばらつきを10μm以下にすることが考えられる。
【0051】
また、図4に示す構成の記録/再生装置において、前記ディスクパラメーターを調整して、ディスク面振れを空気力学的に安定化させることにより、高精度で安定した記録/再生を行うようにすることができる。
【0052】
例えば、光ディスク1の剛性kと光ディスク1の撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、制御部24により、撓み量センサ23の検知信号に基づき駆動部21をコントロールしたり、回転センサ22の検知信号に基づき駆動部21をコントロールして光ディスク1の回転駆動時における線速度を制御することが考えられる。
【0053】
前記ディスクパラメーターに基づき、光ディスク,ディスク基板を製造することにより、高品質な可撓性を有する光ディスクが得られる。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様に可撓性を有する光ディスクを作製した。ただし、PC製基板は厚み160μmの基板を用い、厚みばらつき(Thickness variation)と、ディスク面振れ(Axial runout)の関係を図9に示す。
【0055】
図9に示すように、同じ厚みのディスクを用いても厚みばらつきが大きくなるとディスク面振れが悪化する。厚みばらつきは、安定化ガイド部材によりディスクを空気安定化しても取りきれない固定面振れとなって重畳する。原理的には、仮に、10μmの厚みばらつきがディスクに存在すると、ディスクの面振れは10μm以下には決してならない。加えて、記録膜成膜時の温度ばらつき,応力ばらつき、さらにはオーバーコート,ハードコートなどの厚みばらつきが重畳し、ディスク面振れがさらに増大することになる。すなわち、空気力学的に十分なディスク反発力を有しても、ディスク面振れを安定化できない。
【0056】
結果的に、比較例1では、ディスク面振れが大きいため、フォーカスサーボの追従性が良好でなく、フォーカスサーボを十分引き込めなかったり、トラッキング不良により、良好な記録/再生特性を得ることができなかった。
【0057】
(比較例2)
実施例1と同様に可撓性を有する光ディスクを作製した。ただし、プリフォーマットパターン転写は射出成形によりPC樹脂からなる厚み1.2mmの成形基板で実施した。安定化ガイド部材の押し込み量を3mm以上にすると、安定化ガイド部材による押し込み力が強過ぎて、ディスクの有する反発力を発生させると、押し込みと反発のバランスが悪くなり、ディスクがガイドと強く擦動する結果となり、空気力学的な安定化現象が発現せず、ディスクの低面振れ化ができなかった。
【0058】
比較例2では、比較例1と同様、ディスク面振れが大きいため、フォーカスサーボの追従性が良好でなく、フォーカスサーボを十分引き込めなかったり、トラッキング不良になったりし、良好な記録/再生特性を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、相変化メモリ,光磁気メモリ,ホログラムメモリなどのディスク状の記録ディスクで活用する記録ディスクを対象にすることができ、光ディスクに限定するものではないが、特に、可撓性を有するシート状の光ディスクの面振れを安定化させる要求に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態を説明するための情報記録/再生装置の概略構成図
【図2】本発明の基本概念、および本実施形態におけるディスクパラメーターの説明図
【図3】本実施形態におけるディスクパラメーターの説明図
【図4】本実施形態の記録/再生装置と同様な構成のディスク評価装置の説明図
【図5】本発明の実施形態である他の情報記録/再生装置の概略構成図であって、(a)は平面図、(b)は正面図
【図6】実施例1におけるディスク反発力とディスク面振れの関係を示す図
【図7】実施例2におけるディスク反発力とディスク面振れの関係を示す図
【図8】実施例3におけるディスク反発力とディスク面振れの関係を示す図
【図9】比較例1におけるディスク厚みばらつきとディスク面振れの関係を示す図
【符号の説明】
【0061】
1 光ディスク
4 スピンドルモータ
5 光ピックアップ
7 安定化ガイド部材
11 ディスクの記録層
12 基板
21 スピンドルモータの駆動部
22 回転センサ
23 撓み量センサ
24 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する記録ディスクにおける記録/再生面と反対側の面に、任意の形状を有する面振れ安定化部材を近接させ、前記記録ディスクに対して前記面振れ安定化部材と反対側の面にピックアップを配設して、前記記録ディスクの面振れを低減させた状態で前記ピックアップによる記録/再生を行う記録/再生装置に用いられる前記記録ディスクの製造方法において、
前記記録ディスクの剛性kを下式(数1)で規定し、
【数1】

(ただし、E:記録ディスクのヤング率、b:面振れ安定化部材の直径、a:面振れ安定化部材に押圧される記録ディスクの半径、t:記録ディスクの厚み)、
かつ、前記面振れ安定化部材が前記記録ディスクに対して近接して相対的に前記記録ディスクを押し込むことにより、前記記録ディスク表面の位置が変位する際の当該変位量を前記記録ディスクの撓み量Wと定義し、前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pをディスクパラメーターとして、下式(数2)で規定し、
【数2】

前記ディスクパラメーターを調整して記録ディスクを製造することを特徴とする記録ディスク製造方法。
【請求項2】
前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pを0.6〜2000mNにすることを特徴とする請求項1記載の記録ディスク製造方法。
【請求項3】
前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの基板の厚みを設定することを特徴とする請求項1記載の記録ディスク製造方法。
【請求項4】
前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの基板のヤング率を設定することを特徴とする請求項1記載の記録ディスク製造方法。
【請求項5】
前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの基板の材料を選定することを特徴とする請求項1記載の記録ディスク製造方法。
【請求項6】
前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの基板の円周方向における厚みのばらつきを10μm以下にすることを特徴とする請求項1記載の記録ディスク製造方法。
【請求項7】
可撓性を有する記録ディスクにおける記録/再生面と反対側の面に、任意の形状を有する面振れ安定化部材を近接させ、前記記録ディスクに対して前記面振れ安定化部材と反対側の面にピックアップを配設して、前記記録ディスクの面振れを低減させた状態で前記ピックアップによる記録/再生を行う記録/再生装置に用いられる前記記録ディスクであって、請求項1〜6いずれか1項に記載の記録ディスク製造方法により製造されたことを特徴とする記録ディスク。
【請求項8】
可撓性を有する記録ディスクにおける記録/再生面と反対側の面に、任意の形状を有する面振れ安定化部材を近接させ、前記記録ディスクに対して前記面振れ安定化部材と反対側の面にピックアップを配設して、前記記録ディスクの面振れを低減させた状態で前記ピックアップによる記録/再生を行う記録/再生装置に用いられる前記記録ディスクを構成するディスク基板であって、請求項3〜6いずれか1項に記載の記録ディスク製造方法における構成を具備することを特徴とするディスク基板。
【請求項9】
可撓性を有する記録ディスクにおける記録/再生面と反対側の面に、任意の形状を有する面振れ安定化部材を近接させ、前記記録ディスクに対して前記面振れ安定化部材と反対側の面にピックアップを配設して、前記記録ディスクの面振れを低減させた状態で前記ピックアップによる記録/再生を行う記録/再生装置において、
前記記録ディスクの剛性kを下式(数3)で規定し、
【数3】

(ただし、E:記録ディスクのヤング率、b:面振れ安定化部材の直径、a:面振れ安定化部材に押圧される部位における記録ディスク半径、t:記録ディスクの厚み)、
かつ、前記面振れ安定化部材が前記記録ディスクに対して近接して相対的に前記記録ディスクを押し込むことにより、前記記録ディスク表面の位置が変位する際の当該変位量を前記記録ディスクの撓み量Wと定義し、前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pをディスクパラメーターとして、下式(数4)で規定し、
【数4】

前記ディスクパラメーターを調整して、ディスク面振れを空気力学的に安定化させて記録/再生を行うことを特徴とする記録/再生装置。
【請求項10】
前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの撓み量Wを制御する手段を備えたことを特徴とする請求項9記載の記録/再生装置。
【請求項11】
前記記録ディスクの剛性kと前記記録ディスクの撓み量Wとの積Pが0.6〜2000mNとなるように、前記記録ディスクの回転時の線速度を制御する手段を備えたことを特徴とする請求項9記載の記録/再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−216173(P2006−216173A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28878(P2005−28878)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年10月11日から15日 社団法人応用物理学会主催の「テクニカル ダイジェスト ISOM2004」において文書をもって発表
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】