説明

記録ヘッド

【課題】熱機械アクチュエータを用いる記録ヘッドにおいて、吐出効率を向上させ、吐出方向を安定化させることにより印字品質の向上を図る。
【解決手段】第1の層と、第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、機械的アクチュエータの第1の層は、発熱層からなり、第2の層は、複数の誘電体層からなる。熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含んでいる。複数の誘電体層は、発熱層に対して液体吐出側であって固定端と自由端との間に同じ膜厚で積層され、固定端側の誘電体層の線膨張率は、発熱層の線膨張率より小さく、自由端側の誘電体層の線膨張率は、発熱層の線膨張率より大きい。あるいは、複数の誘電体層のうちの第1の誘電体層は、固定端側であって、発熱層に対して液滴吐出側に積層され、第2の誘電体層は、自由端側であって、発熱層に対して固定端側の第1の誘電体層と反対側に積層されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドに関し、より詳細には、熱機械的アクチュエータによりインクを吐出し、記録を行う記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドのインク吐出方式には、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させる方式、圧電素子による電気機械的アクチュエータを用いた方式などが知られており、実用化されてきた。また、近年では、熱機械的アクチュエータを用いた方式も加工の容易性と、インク組織の自由度から開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、片持ち梁構造の発熱層と誘電体層の2層からなる熱機械的アクチュエータを用いた記録ヘッドが開示されている。このような片持ち梁構造の発熱層と誘電体層の2層からなる熱機械的アクチュエータの例を図8(a)乃至(c)を用いて簡単に説明する。
【0004】
図8(a)は、記録ヘッド吐出部の上面図(ここで、上面図とは、インク液滴が吐出する方向から見た図をいう。)である。図8(b)は、図8(a)に示す記録ヘッド吐出部のA−A線に沿う断面図である。図8(c)は、図8(a)、(b)に示す記録ヘッド吐出部から液滴が吐出する状態を説明する図である。
【0005】
図8(a)、(b)に示されるように、シリコン基板1の上に液室2が形成され、ノズル3からインク液滴が吐出される。液室2には、熱機械的アクチュエータとしての片持ち梁(以下、「カンチレバー」という。)4が形成されている。カンチレバー4は、スリットにより2つの発熱部に分割された発熱層20、2つの発熱部に電流を供給する配線部5(5a、5b)及び2つの発熱部を接続する折り返し電極11を形成する導体層、及び誘電体層21を含んでいる。カンチレバー4は、最初に発熱層20が形成され、該発熱層20の上に導体層が積層され、最後に発熱層20及び導体層の上に誘電体層21が積層されることで形成される。誘電体層21の線膨張率は、発熱層20の線膨張率より小さく設定されている。なお、カンチレバー4全体は、インクに接触するため、不図示の薄い絶縁膜で覆われている。カンチレバー4の2つの発熱部が通電により発熱すると、発熱層20と誘電体層21の線膨張率の差により、図8(c)に示されるように、カンチレバー4は上方(ノズル3側)に湾曲する。これにより、液室2に満たされたインク7は、ノズル3より液滴8となって吐出する。
【0006】
特許文献2には、誘電体層21が2つの発熱層20、20にサンドイッチ状に挟まれたカンチレバー4が開示されている。この例では、最初に、上側の発熱層20に通電することによりカンチレバー4をノズル3とは反対方向に湾曲させる。次に、下側の発熱層20に通電することにより、図8(c)に示されるようにカンチレバー4をノズル3側に湾曲させる。このようにすることで、大きな駆動力により液滴を吐出することが可能となる。
【0007】
また、特許文献3には、カンチレバー4の固定端9側の幅が自由端10側の幅より大きい台形形状のカンチレバー4が開示されている。このようにすることでも大きな駆動力が得られ、液滴8を好適に吐出させることができる。
【0008】
これらの記録ヘッド吐出部は、高密度に配列されることを可能とするために、図9に示されるように千鳥状に配列される。このような配列を採用することで、インク供給のため、液室2の幅を広くとってもノズルピッチを細かく配列することが可能となる。
【0009】
【特許文献1】特開2003−260696号公報
【特許文献2】特開2004−1517号公報
【特許文献3】特開2004−82733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような片持ち梁構造の発熱層と誘電体層からなる熱機械的アクチュエータにおける問題点に付いて、図10(a)、(b)を用いて説明する。
【0011】
図10(a)に示されるように、カンチレバー4が最大に湾曲したとき、すなわち、カンチレバー4の自由端10側が液室2の内壁天井部に最接近したとき、カンチレバー4は自由端10側から固定端9側に傾斜した状態となる。この状態では、図中矢印Aで示すように、液滴吐出のための圧力が固定端9側に一部逃げてしまい、吐出エネルギーを完全に利用することができず、エネルギー効率が不十分となる恐れがある。
【0012】
また、カンチレバー4が傾斜していることで、カンチレバー4の自由端10側は、ノズルフェイス面に対して平行とならない。したがって、ノズルフェイス面に対して垂直に吐出圧力が作用しないため、液滴8の吐出方向は、図10(a)に示されるように、ノズルフェイス面垂直線に対して角度θだけ傾斜する。記録ヘッド吐出部が図9に示されるように千鳥状に配列されると、隣接する記録ヘッド吐出部のノズル3から吐出される液滴8は、図10(b)に示されるように、反対側に−θだけ傾斜する。すなわち、図10(a)で示すノズルを奇数番目とすると、図10(b)に示すノズルは偶数番目に配列されるが、偶奇それぞれのノズル3から吐出される液滴の着弾点がずれる恐れがある。
【0013】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたものである。本発明の目的は、熱機械的アクチュエータを用いた記録ヘッドにおいて、該記録ヘッドの吐出部、延いてはノズルが高密度に配列されても吐出される液滴の着弾点のずれを無くすことができる記録ヘッドを提供することにある。本発明のさらなる目的は、熱機械的アクチュエータを用いた記録ヘッドにおいて、吐出効率の高い記録ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係る記録ヘッドは、少なくとも1つの第1の層と、1つの第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、前記機械的アクチュエータの第1の層は、発熱層からなり、前記第2の層は、線膨張率がそれぞれ異なる複数の誘電体層からなることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る記録ヘッドは、なくとも1つの第1の層と、1つの第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、前記熱機械アクチュエータの第1の層は、発熱層からなり、前記第2の層は、線膨張率がそれぞれ異なる複数の誘電体層からなり、前記熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含み、前記複数の誘電体層は、前記発熱層に対して液体吐出側であって固定端と自由端との間に同じ膜厚で積層され、固定端側の誘電体層の線膨張率は、前記発熱層の線膨張率より小さく、自由端側の誘電体層の線膨張率は、前記発熱層の線膨張率より大きいことを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明に係る記録ヘッドは、少なくとも1つの第1の層と、2つの第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、前記熱機械アクチュエータの第1の層は、第1の発熱層からなり、2つの第2の層は、第1及び第2の誘電体層からなり、前記熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含み、第1の誘電体層は、熱機械アクチュエータの固定端側であって、前記第1の発熱層に対して液滴吐出側に積層され、第2の誘電体層は、熱機械アクチュエータの自由端側であって、第1の発熱層に対して固定端側の第1の誘電体層と反対側に積層されることを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明に係る記録ヘッドは、少なくとも1つの第1の層と、2つの第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、前記熱機械アクチュエータの第1の層は、第1の発熱層からなり、2つの第2の層は、第1及び第2の誘電体層からなり、前記熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含み、第1の誘電体層は、第1の発熱層に対して液滴吐出側に積層され、第2の誘電体層は、熱機械アクチュエータの固定端側であって、第1の誘電体層に対してさらに液滴吐出側に積層されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上の構成によれば、熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバーの最大湾曲時に液室の内壁天井部とカンチレバーの自由端部の吐出圧力作用部が平行となるため、吐出圧力の横方向への逃げを防止することができ、吐出効率を高めることができる。また、吐出圧力の作用方向と液滴吐出方向を一致させることができ、主滴、サテライト滴ともに吐出方向がノズルフェイス面に垂直で安定化させることができるので印刷品質を向上させることができる。さらに、液室を千鳥状に配列する場合では、偶奇での液滴の吐出方向差を減らすことができ、着弾点ずれを減らし、印刷品質を向上させることができる。また、熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバーの最大湾曲時の液室内壁とカンチレバーの吐出圧力作用部の間隙のインク吐出残量を小さくすることができ、気泡が発生しても気泡ごと吐出させることができるため、気泡の滞留を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施例1)
図1(a)ないし(c)は、本発明に係る第1の実施例を説明する記録ヘッドの吐出部の断面図である。本実施例における記録ヘッド吐出部の構造は、カンチレバー4の構成を除き図8(a)、(b)に示す従来例と略同じ構成を有する。以下に、図1(a)を用いて簡単に説明する(図8(a)、(b)参照)。
【0020】
記録ヘッド吐出部は、シリコン基板1、該シリコン基板1の上に形成された液室を含んでいる。インク液滴は、ノズル3から吐出される。液室2には、シリコン基板1に支持される熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4が延在する。カンチレバー4は、スリットにより2つの発熱部に分割された第1の層としての発熱層20、該2つの発熱部に電流を供給する配線部5及び2つの発熱部を接続する折り返し電極11を形成する導体層、及び第2の層としての誘電体層23、24を含んでいる。
【0021】
本実施例における熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4は、図1(a)に示されるように、発熱層20からなる第1の層及び第1の誘電体層23と第2の誘電体層24とからなる第2の層を含んでいる。第1の層としての発熱層20は、抵抗体よりなり、第2の層としての誘電体層は、絶縁体よりなる。本実施例のカンチレバー4においては、第1の誘電体層23が、発熱層20の上面(液滴を吐出する側)であって固定端9側に部分的に積層される。また、第2の誘電体層24は、同じく発熱層20の上面(液滴を吐出する側)であって、自由端10側に部分的に積層される。第1の誘電体層23及び第2の誘電体層24は、同じ膜厚を有している。
【0022】
熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4の固定端9側の部分を十分大きな曲率で湾曲させるために、第2の層を構成する固定端9側の第1の誘電体層23は、第1の層を構成する発熱層20に対して線膨張率が十分に小さい材料が選択される。カンチレバー4の自由端10側の部分は、曲率を小さくするために、第2の層の自由端10側の第2の誘電体層24は、第1の層の発熱層20に対してあまり小さくない線膨張率の材料が選択される。すなわち、本実施例においては、第1の誘電体層23と第2の誘電体層24は、線膨張率が異なる材料が選択される。これにより、図1(b)に示すように、カンチレバー4の自由端10側の曲率は十分小さくなり、略直線状となる。したがって、カンチレバー4が最大湾曲したときでも、従来のカンチレバーと比べて液室内壁(天井部)に対してより平行に近くなる。
【0023】
さらに、第2の層の自由端10側の第2の誘電体層24は、第1の層の発熱層に対してより大きい線膨張率を有することが好ましい。あるいは、自由端10側の第2の誘電体層24の部分に代えて、発熱層20の上面に薄い絶縁層を挟んで線膨張率が発熱層20より大きい金属層27を積層させてもよい。これにより、図1(c)に示されるように、カンチレバー4の自由端10側は、ノズル3と反対側に下向きに湾曲する(ノズル3に向かって上に凸に湾曲する)。第1の誘電体層23と金属層27の線膨張率及び積層される占有範囲を適切に選択することにより、カンチレバー4が最大湾曲したとき、カンチレバー4の自由端10側は、液室内壁(天井部)に対して略平行にすることができる。したがって、液室2内壁とカンチレバー4の自由端10側(吐出圧力作用部)との間の間隙を小さくすることができ、それによりインク吐出残量を減少させることができる。また、該間隙が小さくできることで、カンチレバー4の自由端10側により発生した気泡を同時に吐出させることができる。
【0024】
このように熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4を構成することで、図2(a)に示すように、液滴8をノズルフェイス面3aに対して垂直に吐出させることが可能となる。このことは、吐出部を千鳥状に配列したときでも、図2(a)、(b)に示されるように、隣り合う吐出部からの液滴8をいずれもノズルフェイス面3aに対して垂直に吐出させることができることを示す。すなわち、吐出部を千鳥状に配列したとき、図2(a)で示される吐出部を奇数番目とし、図2(b)で示される吐出部を偶数番目とすると、液滴8の吐出方向を偶奇で略一致させることができる。
【0025】
本実施例では、カンチレバー4を構成する第2の層として、線膨張率の異なる2つの誘電体層23、24が固定端9側から自由端10側まで発熱層20の上面に連続する1つの層を形成する例を示したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、カンチレバー4の第2の層は、適宜選択された線膨張率の異なる3以上の誘電体層から形成されていてもよい。また、各誘電体層は、固定端9側から自由端10側まで第1の層である発熱層20の上面に必ずしも連続して形成されていなくてもよい。
【0026】
(実施例2)
図3(a)ないし(c)は、本発明に係る第2の実施例を説明する記録ヘッドの吐出部の断面図である。
【0027】
本実施例における熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4は、第1の実施例のカンチレバー4にさらに第2の発熱層22を積層したものである。すなわち、本実施例におけるカンチレバー4は、第1の実施例における第1の誘電体層23と第2の誘電体層24とからなる第2の層の上面に第3の層としての第2の発熱層22をさらに積層したものである。本実施例の場合、第1の実施例と同様、第2の誘電体層24に代えて、金属層27としてもよい。この場合、金属層27と第1の発熱層20及び第2の発熱層22との間には薄い絶縁層が積層される。
【0028】
このように構成することで、本実施例のカンチレバー4は、まず、第2の発熱層22に通電し、発熱させる。カンチレバー4の固定端9側は、第2の発熱層20に対し第1の誘電体層23の線膨張率が小さいため、カンチレバー4の固定端9側は、図3(b)に示すように、ノズル3に対して反対側に湾曲する。また、カンチレバー4の自由端10側は、第2の発熱層22に対し第2の誘電体層24の線膨張率があまり小さくないため、カンチレバー4の自由端10側は、略直線状に延びる。あるいは、第2の誘電体層24が金属層に置き換えられた場合、金属層27の線膨張率が大きいため、カンチレバー4の自由端10側は、さらにノズル3側に逆に湾曲する。この時、第1の発熱層20は、第2の層の湾曲に追随する。続いて、カンチレバー4の冷却(第2の発熱層22を非通電とする)後、図3(c)に示されるように、第1の発熱層20に通電し、発熱させる。カンチレバー4の固定端9側は、ノズル3方向に湾曲する。また、カンチレバー4の自由端10側は、ノズル3に対して反対側に湾曲する。カンチレバー4をこのように湾曲動作させることで、カンチレバー4の自由端10側、すなわち、吐出圧力作用部の振幅を大きくでき、それにより、液滴8を吐出するためのより大きな吐出圧力が得られる。
【0029】
(実施例3)
図4(a)、(b)は、本発明に係る第3の実施例を説明する記録ヘッドの吐出部の断面図である。
【0030】
本実施例における熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4は、第1の実施例のカンチレバー4を変形させたものである。すなわち、本実施例におけるカンチレバー4は、固定端9側が発熱層20の上面(液滴を吐出する側)に第2の誘電体層26が部分的に積層され、自由端10側が発熱層20の下面に第1の誘電体層25が部分的に積層されることで形成されている。本実施例では、第2の層を構成する第1の誘電体層25及び第2の誘電体層26が、第1の層を構成する発熱層20を挟んで反対側に積層されている。このような構造を有するカンチレバー4は、最初に、基板1上に第1の誘電体層25が部分的に形成され、この上に発熱層20が積層され、さらにその上に第2の誘電体層26が部分的に積層されることで作成される。第1の誘電体層25及び第2の誘電体層26において、それらの材料は、発熱層20の線膨張率より小さい材料が選択される。なお、第1の誘電体層25及び第2の誘電体層26は、線膨張率が同じ材料であってもよい。
【0031】
本実施例のカンチレバー4は、このようの構成されることで、発熱層20に通電し、発熱させると、図4(b)に示されるように、カンチレバー4の固定端9側は、上方に、自由端10側は、下方に湾曲し、上記実施例1及び2と同様の作用効果が得られる。したがって、第1の誘電体層25と第2の誘電体層26の線膨張率及び積層される占有範囲を適切に選択すれば、カンチレバー4が最大湾曲したとき、その自由端10側を液室内壁(天井部)に対し平行にすることもできる。
【0032】
(実施例4)
図5(a)ないし(C)は、本発明に係る第4の実施例を説明する記録ヘッドの吐出部の断面図である。
【0033】
本実施例における熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4は、上記第3の実施例のカンチレバーの上面(液滴を吐出する側)にさらに第3の層としての第2の発熱層22を積層させることにより形成されたものである。カンチレバー4をこのように構成することで、最初に、第2の発熱層22に通電し、発熱させると、図5(b)に示すように、カンチレバー4はノズル3と反対側に湾曲する。この場合、カンチレバー4の固定端9側の第2の発熱層22の下に位置する第1の誘電体層25の線膨張率は、第2の発熱層22の線膨張率に対して十分に小さい。したがって、カンチレバー4の自由端10側は、下方に向かって大きな変位量を得ることができる。次に、冷却後、第1の発熱層20に通電し、発熱させると、カンチレバー4は、図5(c)に示されるように、ノズル3側に湾曲する。さらに、カンチレバー4の自由端10側は、第3の実施例と同様、ノズルフェイス面に対して平行にすることができる。本実施例におけるカンチレバー4は、第1ないし3の実施例より大きな吐出圧力を提供することができる。
【0034】
(実施例5)
図6は、本発明に係る第5の実施例を説明する記録ヘッドの吐出部の断面図である。
【0035】
本実施例における熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4は、第1の実施例のカンチレバー4を変形させたものである。すなわち、本実施例におけるカンチレバー4は、第1の層としての発熱層20の上面に第2の層としての第1の誘電体層23が積層され、さらに、その上面(液滴を吐出する側)の固定端9側に部分的に第2の誘電体層24が積層されることで形成される。本実施例においては、第1の誘電体層23の線膨張率は、発熱層20に対してあまり小さくない材料が選択され、第2の誘電体層24の線膨張率は、第1の誘電体層23と同じか小さい材料が選択される。また、第1の誘電体層23及び第2の誘電体層24の膜厚は異なっていてもよい。
【0036】
本実施例におけるカンチレバー4は、このように構成されることでカンチレバー4の固定端9側の膜厚が2層分となり、さらに誘電体層に比較的熱伝導率の低い材料を選択することにより、誘電体層内部で膜厚方向に温度分布が形成される。したがって、本実施例におけるカンチレバー4の固定端9側は、より大きな曲率で湾曲し、液滴吐出のための強い駆動力が得られる。また、カンチレバー4の自由端10側は、第1の誘電体層23のみであり、固定端9側に比べて曲率は小さくなり、第1の実施例と同様の作用効果を得ることができる。すなわち、カンチレバー4の最大湾曲時、カンチレバー4の自由端10側は、略直線状に延びることになり、液室2内壁(天井部)に対して、従来例に比べて平行に近くすることができる。さらに、第1の実施例で述べたように、カンチレバー4の自由端部10側の部分を金属層に置き換えてもよい。
【0037】
(実施例6)
図7は、本発明に係る第5の実施例を説明する記録ヘッドの吐出部の断面図である。
【0038】
本実施例における熱機械的アクチュエータとしてのカンチレバー4は、上記第4の実施例のカンチレバーの上面(液滴を吐出する側)にさらに第2の発熱層22を積層させることにより形成されたものである。カンチレバー4をこのように構成することで、最初に、第2の発熱層22に通電し、発熱させると、カンチレバー4はノズル3と反対側に湾曲する。次に、冷却後、第1の発熱層20に通電し、発熱させると、カンチレバー4は、ノズル3側に湾曲する。したがって、本実施例におけるカンチレバー4は、液滴の吐出のためにより大きな吐出圧力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る第1の実施例を説明するための図であり、(a)は、第1の実施例に係る記録ヘッド吐出部の断面図である。また、(b)は、自由端側に第2の誘電体層が積層されている場合の液滴吐出を説明するための記録ヘッド吐出部の断面図である。さらに、(c)は、自由端側に線膨張率の大きい金属層が積層されている場合の液滴吐出を説明するための記録ヘッド吐出部の断面図である。
【図2】図1(a)の本発明の第1の実施例に係る記録ヘッド吐出部が千鳥状に配列された場合、隣り合う記録ヘッドから液滴が吐出する状態を説明する図である。(a)は、千鳥状に配列された記録ヘッド吐出部のうち、奇数番目に配列される記録ヘッド吐出部からの液滴の吐出を示す。(b)は、偶数番目に配列される記録ヘッド吐出部の液滴の吐出を示す。
【図3】本発明に係る第2の実施例を説明するための図であり、(a)は、第2の実施例に係る記録ヘッド吐出部の断面図である。また、(b)は、熱機械的アクチュエータの自由端側をノズルと反対側に湾曲させた状態を示す。さらに、(c)は、熱機械的アクチュエータの自由端側をノズル側に湾曲させ、液滴が吐出される状態を示す。
【図4】本発明に係る第3の実施例を説明するための図であり、(a)は、第2の実施例に係る記録ヘッド吐出部の断面図である。また、(b)は、熱機械的アクチュエータの自由端側をノズル側に湾曲させ、液滴が吐出される状態を示す。
【図5】本発明に係る第4の実施例を説明するための図であり、(a)は、第4の実施例に係る記録ヘッド吐出部の断面図である。また、(b)は、熱機械的アクチュエータの自由端側をノズルと反対側に湾曲させた状態を示す。さらに、(c)は、熱機械的アクチュエータの自由端側をノズル側に湾曲させ、液滴が吐出される状態を示す。
【図6】本発明に係る第5の実施例を説明するための図であり、該第5の実施例に係る記録ヘッド吐出部の断面図である。
【図7】本発明に係る第6の実施例を説明するための図であり、該第6の実施例に係る記録ヘッド吐出部の断面図である。
【図8】従来の記録ヘッド吐出部の図であり、(a)は、上面図であり、(b)は、断面図であり、(c)は、熱機械的アクチュエータの自由端側をノズル側に湾曲させ、液滴が吐出される状態を示す。
【図9】従来または本発明に係る記録ヘッド吐出部を千鳥状に配列した状態を明瞭に示す上面図である。
【図10】千鳥状に配列された従来の記録ヘッド吐出部からの液滴の吐出を説明するための図である。(a)は、千鳥状に配列された記録ヘッド吐出部のうち、奇数番目に配列される記録ヘッド吐出部からの液滴の吐出を示す。(b)は、偶数番目に配列される記録ヘッド吐出部の液滴の吐出を示す。
【符号の説明】
【0040】
4 熱機械的アクチュエータ(カンチレバー)
8 液滴
9 (熱機械的アクチュエータの)固定端
10 (熱機械的アクチュエータの)自由端
20 (第1の)発熱層
22 第2の発熱層
23、25 第1の誘電体層
24、26 第2の誘電体層
27 金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第1の層と、第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、
前記機械的アクチュエータの第1の層は、発熱層からなり、前記第2の層は、線膨張率がそれぞれ異なる複数の誘電体層からなることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含み、前記複数の誘電体層は、前記発熱層に対して液体吐出側であって固定端と自由端との間に同じ膜厚で積層され、固定端側の誘電体層の線膨張率は、自由端側の誘電体層の線膨張率より小さいことを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
少なくとも1つの第1の層と、第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、
前記熱機械アクチュエータの第1の層は、発熱層からなり、前記第2の層は、線膨張率がそれぞれ異なる複数の誘電体層からなり、
前記熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含み、前記複数の誘電体層は、前記発熱層に対して液体吐出側であって固定端と自由端との間に同じ膜厚で積層され、固定端側の誘電体層の線膨張率は、前記発熱層の線膨張率より小さく、自由端側の誘電体層の線膨張率は、前記発熱層の線膨張率より大きいことを特徴とする記録ヘッド。
【請求項4】
前記機械的アクチュエータの第2の層を形成する複数の誘電体層のうち、自由端側の誘電体層には、当該誘電体層を介してさらに金属層が積層され、
該金属層の線膨張率が、発熱層の線膨張率より大きいことを特徴とする請求項3に記載される記録ヘッド。
【請求項5】
少なくとも1つの第1の層と、第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、
前記熱機械アクチュエータの第1の層は、第1の発熱層からなり、第2の層は、第1及び第2の誘電体層からなり、
前記熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含み、第1の誘電体層は、熱機械アクチュエータの固定端側であって、前記第1の発熱層に対して液滴吐出側に積層され、第2の誘電体層は、熱機械アクチュエータの自由端側であって、第1の発熱層に対して固定端側の第1の誘電体層と反対側に積層されることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項6】
第3の層としての第2の発熱層が第1の誘電体層及び第1の発熱層に対して液滴吐出側にさらに積層されることを特徴とする請求項5に記載の記録ヘッド。
【請求項7】
少なくとも1つの第1の層と、第2の層とを有する熱機械アクチュエータによって液滴を吐出する記録ヘッドにおいて、
前記熱機械アクチュエータの第1の層は、第1の発熱層からなり、第2の層は、第1及び第2の誘電体層からなり、
前記熱機械アクチュエータは、固定端と自由端とを含み、第1の誘電体層は、第1の発熱層に対して液滴吐出側に積層され、第2の誘電体層は、熱機械アクチュエータの固定端側であって、第1の誘電体層に対してさらに液滴吐出側に積層されることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項8】
前記第1及び第2の誘電体層は、膜厚が異なることを特徴とする請求項7に記載の記録ヘッド。
【請求項9】
前記第1及び第2の誘電体層は、線膨張率が異なることを特徴とする請求項7または8に記載の記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−960(P2008−960A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171691(P2006−171691)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】