説明

記録ヘッド

【課題】 インクジェット記録ヘッドの吐出口をテープで保護、封止した状態で物流可能なインクジェット記録ヘッドを提供すること。
【解決手段】 吐出口が形成された吐出口面上で、吐出口周辺領域に設けられた溝幅または溝間距離とそれ以外の領域に設けられた溝幅または溝間距離とが異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐出口形成面に対して保護テープが付されて物流時に供されるインクジェット記録ヘッドに関する。特に、保護テープが付される吐出口形成面の構成を適切に構成することで、保護テープによる適切な保護と引き剥がしを達成できるインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェット記録装置に搭載されるインクジェット記録ヘッドは、安全に物流に供されるように吐出口形成面に対して保護部材を配している。一構成例として、特許文献1に開示され、図12に示されるような構成が知られている。この例では、保護テープC2でインクジェット記録ヘッドH1の吐出口形成面H2を覆い、さらにキャップ部材C1によって保護テープC2を覆うことでシール性の信頼性を確保する構成を採用する。この構成によって、吐出口からの水分の蒸発を抑制し、インクの増粘による吐出口の目詰まりを防止すること、あるいは周囲のゴミなどが吐出口周辺や吐出口に付着することを防止することが可能となる。
【0003】
吐出口保護のための保護テープには接着層が設けられ、吐出口形成面に対して接着される構成が採用されている。このような接着層を備えた保護テープでは、適切な接着層を構成しない場合、接着層を構成する接着材が吐出口内に入り込んでしまったり、保護テープを剥がした際に接着材が吐出口形成面に残ってしまったりして吐出に影響を与えることがあった。この課題を改善する目的で例えば、特許文献2に開示され、図13(a)(b)に示される構成が提案されている。この構成は、吐出口形成面H2と比較し、吐出口形成面H2の周辺H20における保護テープC2の単位面積あたりの接着面積を小さくする構成を採用することで、保護テープが剥がしやすく吐出口形成面に対して接着材が残存しにくくすることを目的としている。
【特許文献1】特開平03−176156号公報
【特許文献2】特開2000−313117号公報
【特許文献3】特開2006−212796号公報
【特許文献4】特開平04−169238号公報
【特許文献5】特開2001−260361号公報
【特許文献6】特開2006−175657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット記録では、銀塩写真と同等の高品位カラー記録を達成することを目的に、被記録体上でドットが見えにくい(粒状感が目立たない)ようにインクジェット記録ヘッドから吐出されるインクの滴の大きさを小ドット化するヘッド構成が採用されてきた。例えば、小ドットインク滴としては、約5pl(ピコリットル、10−12リットル)、ドット径40〜50μm、解像度600×1200〜1200×1200dpi(dpiは1インチ当たりのドット数を示す単位)程度が必要とされてきた。
【0005】
しかし、近年のカラーフォト画像における中間調、ハイライト部での粒状感をさらに軽減させたいとのユーザーニーズに応えるために、さらに小ドットのインク滴を、より高密度に吐出することが必要となってきた。
【0006】
熱を利用してインクを吐出させる形態のインクジェット記録ヘッドは、電気熱変換素子を上層に形成した基板上に、任意数の電気熱変換素子に対応するようなインク流路と、各々のインク流路に連通した吐出口が形成されたノズル部を有する構造をとる場合が多い。このようなヘッド構造は、インク滴の吐出量に影響する吐出口やインク流路の寸法を容易に変更できるため、微小なインク滴を吐出する高精細記録用のインクジェット記録ヘッドに適している。
【0007】
上述したようなノズル部を有する記録ヘッドの、特に吐出口6の周辺部は、図14に示されるように、内部にインク流路7や電気熱変換素子2を有しているため中空構造となっている。その結果、吐出口形成面が外力に対して脆弱になりやすい。より小ドットのインク滴を、より高密度に吐出する場合は、必然的に、各々のインク流路同士のピッチが狭くなり、ノズル部に占めるインク流路、言い換えると中空構造の割合が高くなる。従って、吐出口形成面の外力に対しての強度はさらに低下する。このような構成を有するインクジェット記録ヘッドに従来と同様の吐出口保護テープを採用すると、接着層の接着力が高すぎ保護テープを剥がす際に、その引き剥がし力によって吐出口周辺部にクラックが生じる可能性がある。甚だしい場合には、吐出口形成部材(ノズル部)が基板から剥れてしまう可能性もある。
【0008】
このような現象を防ぐために、例えば保護テープの粘着材の種類を変更してテープの引き剥がし力を下げたり、例えば特許文献3に開示されるように、保護テープ側の接着領域を調整することが提案されている。このような対処によれば前述したような吐出口周辺のクラックや剥れの問題は回避可能である。しかし、吐出口が形成された吐出口形成面と保護テープとの接着強度が低下するため、吐出口からのインクの染み出しという現象が発生する可能性がでてくる。インクの染み出しは、特に1ヘッドに複数色、例えばシアン、マゼンタ、イエローを吐出する吐出口を有する記録ヘッドでは、吐出口から染み出したインクが混色し、それが元の吐出口に引き込まれ、インク流路内まで混色するといった現象を引き起こしてしまうことがある。
【0009】
さらに、複数種類のサイズ、例えば5pl及び2pl程度のインク滴を吐出可能な構成のインクジェット記録ヘッドでは、インク滴の吐出量に応じて寸法の異なる吐出口やインク流路が混在する。異なる形状の吐出口周辺部では、外力に対しての強度がそれぞれ異なる。吐出口周辺部へのクラック発生や吐出口からのインク染み出しに起因する混色を引き起こさないようにするためには、これまで提案されてきた保護テープの引き剥がし力を適正化する提案では十分ではない。例えば保護テープの粘着材や保護テープ自体の種類を変更するにしてもその材料選定は困難であり、保護テープ側の接着領域を調整するにしても接着領域と吐出口の位置関係を調整することは極めて複雑となる。
【0010】
保護テープと吐出口形成面との接着性の調整に関しては、上述した特許文献2に示されるように、インクジェット記録ヘッドの吐出口から離れた領域の接着面積を小さくし、接着応力を低減させる構成も考えられる。たとえば、吐出口形成面の表面の構成を調整する技術が幾つか提案されている(特許文献4、特許文献5)。一例として例えば、図15に示される特許文献6が挙げられる。しかし、この種の提案には、インクの吐出状態を改善する観点による着想しかなく、物流時の保護テープと吐出口形成面との接着性を調整するという観点についての着想は一切議論されていない。
【0011】
本発明は、上述したような課題を解決し、適切に吐出口形成面を保護テープで保護、封止し、且つ保護テープを剥がしてもクラックや剥れを発生しないインクジェット記録ヘッドを提供することを目的とする。特に、本発明は、吐出量の違う吐出口(開口径が異なる吐出口)を備えたインクジェット記録ヘッドに応じて、吐出口面と保護テープとの接着強度、接着状態を容易に適正に調整することを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するため、本発明のインクジェット記録ヘッドは、液体を吐出する吐出口が形成された基板を備える記録ヘッドにおいて、前記基板の前記吐出口が形成された吐出口面が、前記吐出口を中心として点対称な連続した溝を複数備え、前記吐出口の近傍の領域とそれ以外の領域とで前記複数の溝の形状が異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェット記録ヘッドの吐出口形成面と保護テープとの接着状態がヘッドの構成に応じて適切に調整できる。そのため、保護テープの引き剥がしによる吐出口周辺部へのクラック発生や吐出口からのインク染み出しに起因する混色を引き起こすことがない。適切な状態で吐出口を保護テープで保護、封止して物流に供することを可能にするインクジェット記録ヘッドおよびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明のインクジェット記録ヘッドとその製造方法の具体的実施例を、図1および図2を用いて説明する。
【0016】
第1の実施例では、2plのインク滴を吐出する小径かつ小配列ピッチの吐出口を中心として円状に点対称に微細な連続した溝を設けた。溝は複数備えている。かつ、吐出口の周辺近傍の領域とそれ以外の領域とで複数の溝のピッチが異なるインクジェット記録ヘッドを作製した。ここで溝のピッチとは、溝の中心間を結ぶ溝間距離のことを表す。以下、溝間距離と記す。
【0017】
以下、さらに詳細に説明する。図1(a)は、本発明が適用された記録素子基板H1103を備えたインクジェット記録ヘッドH1003を示す外観斜視図である。図1(a)で示されたインクジェット記録ヘッドH1003の記録素子基板H1103を矢印A方向から見て吐出口面を拡大し、その一部を図1(b)として示した。さらに記録素子基板H1103の吐出口306の一部を拡大して図1(c)に示した。この吐出口306周辺領域には、図1(c)に示されるように溝300が設けられている。溝300は、吐出口の周辺近傍の領域とそれ以外の領域とで溝のピッチを異ならせて構成している。吐出口近傍に設けられた溝300の一部を拡大して、その断面を示したのが図1(d)である。また、吐出口から離れた領域に設けられた溝300の一部を拡大して、その断面を示したのが図1(e)である。なお、図1(b)、(c)は図1(a)の矢印A方向から見た図であり、図1(d)、(e)は、これと直交する図1(a)の矢印B方向の断面図である。
【0018】
図1(b)に示されるように、記録素子基板H1103には3つのインク供給口307が形成されており、各々のインク供給口307からシアン、マゼンタ、イエローの何れかのインクが供給される。各インク供給口307を中心として線対称となる位置には吐出口306が列状に配列されており、各々から約2plのインク滴が吐出されるように、吐出口およびインク流路の寸法が調整されている。図1(c)(d)に示すように、吐出口306の周辺部には、吐出口を中心として同心円状に、深さ約2μm、幅約2μmの溝300が設けられている。溝300そのものの形状は同じであるが、図1(d)と図1(e)に示されるように、吐出口307から離れるに従って溝間距離が異なっている。具体的には、吐出口306の周辺部では、図1(d)で示すように、約4μmの溝間距離で形成されている。一方、吐出口から離れるに従い、図1(e)に示すように、徐々にその溝間距離は大きくなっている。つまり、吐出口の周辺領域側に設けられた溝の溝間距離が、吐出口から離れた領域側に設けられた溝の溝間距離よりも小さくなっている。
【0019】
このようなインクジェット記録ヘッドH1003に保護テープを吐出口を塞ぐ形で貼りつける。保護テープは厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートを用いたテープ基材の一面にアクリル系の粘着材が塗布されたものである。保護テープは、インク中の水分蒸発に起因するインクの増粘固着や物流中のインク飛散を防ぐため、吐出口を塞ぐ形で貼りつけられている。
【0020】
この状態のインクジェット記録ヘッドH1003に、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして印字を行った。保護テープを剥がした際、基板からのノズル部の剥がれは認められず、吐出口が形成されている吐出口面を金属顕微鏡を使用して観察したが、吐出口周辺部にクラック等は発生していなかった。また保護テープを剥がした後の印字も良好であり、インクの増粘固着に起因する不吐等は確認されなかった。
【0021】
吐出口周辺部に設けた溝が非常に効果的であった。すなわち、吐出口周辺部に比較的狭い溝間距離で溝を設けることにより、吐出口面と保護テープの粘着材との接着面積が少なくなる。したがって、保護テープを剥がす際の引き剥がし力は低下するため、基板からのノズル部の剥がれや吐出口周辺部へのクラック等の発生を回避できる。これに対して、吐出口から離れた領域では比較的広い溝間距離で溝を設けることにより、吐出口面と保護テープの粘着材との接着面積が多くなる。保護テープを剥がす際の引き剥がし力は強くなるが、この領域はインク流路からも離れているため中空構造とはなっておらず、外力に対して比較的強いため、基板からのノズル部の剥がれ等も回避できる。また、この領域において吐出口面と保護テープとの接着面積を確保しており、接着力が強くなる。万が一、吐出口からインクが染み出してしまった場合でも、インクが混色して元の吐出口に引き込まれ、インク流路内まで混色するといった問題を防ぐことが可能である。
【0022】
図2は上述したインクジェット記録ヘッドのノズル部の基本的な製造工程の一例を示す模式的な断面図である。
【0023】
まずは、エネルギー発生素子である電気熱変換素子302を備えたSi基板301を用意する。
【0024】
図2(a)に示されるように、Si基板301上には電気熱変換素子302が複数個配置されている。次いで電気熱変換素子302を含むSi基板上に、溶解可能な樹脂で液体流路(インク流路)となる型材303を形成する。型材303は後に液体流路となる部分を占有している。型材(ODUR、東京応化工業(株)製)はスピンコートにより塗布した後、露光、現像を行ってパターン形成する。
【0025】
次に図2(b)に示すように、ノズル形成部材304をスピンコートにより塗布する。ノズル形成部材304は、エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤を溶剤に溶解して作製する。
【0026】
続いて図2(c)に示すように、ノズル形成部材304にミラー・プロジェクション・マスクアライナー(MPA−600 Super、キヤノン(株)製)を使用して、マスクを介して露光を行う。このとき最終的に吐出口となる部分には露光を行わず、露光が行われなかった領域を現像液で除去する。
【0027】
さらに図2(d)に示すように、ノズル形成部材304を再度塗布する。
【0028】
続いて図2(e)に示すように、ミラー・プロジェクション・マスクアライナー(MPA−600 Super、キヤノン(株)製)を使用して、マスクを介して露光を行う。このとき最終的に吐出口および溝となる部分には露光を行わず、露光が行われなかった領域を現像液で除去することにより吐出口306および溝300を形成する。
【0029】
次に図2(f)に示すように、吐出口306および溝300が形成されたノズル形成部材304上に撥水部材305をスピンコートにより塗布する。さらに、ミラー・プロジェクション・マスクアライナー(MPA−600 Super、キヤノン(株)製)を使用する。撥水部材305へマスクを介して露光を行った後、露光が行われなかった領域を現像液で除去することにより、溝300の内部も含めた吐出口面全域に撥水処理を行った。
【0030】
さらに図2(g)に示すように、型材303、ノズル形成部材304、撥水部材305がパターニングされた基板を、約80℃に加熱温調したTMAH22wt%水溶液に浸漬することによりSiをエッチングしてインク供給口307を形成する。
【0031】
最後に図2(h)に示すように、型材303を、吐出口306及びインク供給口307から溶出させることにより、インクジェット記録ヘッドのノズル部を形成する。ノズル部が形成されたSi基板は、ダイシングソーにより分離切断、チップ化される。チップ化された記録素子基板H1103を使用し、図1(a)に示すインクジェット記録ヘッドH1003を作製した。
【実施例2】
【0032】
本実施例では、実施例1と同様に、2plのインク滴を吐出する吐出口を設けている。実施例2では吐出口を中心として点対称に角状に微細な連続した溝を設けている。吐出口の周辺近傍領域とそれ以外の領域とで溝の幅(溝形状)とピッチ(溝間距離)が異なるインクジェット記録ヘッドを作製し、その効果を確認した。
【0033】
インクジェット記録ヘッドにおけるノズル部の製造工程は実施例1と同様であるが、露光を行う際に使用するマスクに施したパターンを変えることにより実施例1とは溝部の形状を変えることが容易に可能となる。まず、インクジェット記録ヘッドのノズル部を形成し、その後ダイシングソーにより分離切断、チップ化した。チップ化された記録素子基板H1104を使用し、第1の実施例と同じ工程により図3に示すインクジェット記録ヘッドH1004を作製した。
【0034】
図3(a)の記録ヘッドを矢印C方向から見た吐出口面拡大図が図3(b)であり、さらに吐出口406部分を拡大したものが図3(c)である。この吐出口406周辺領域に設けられた溝400を拡大した断面図が図3(d)、吐出口から離れた領域に設けられた溝を拡大した断面図が図3(e)である。なお、図3(b)、(c)は図3(a)の矢印C方向である吐出口面側から見た図であるが、図3(d)(e)は、これと直交する図3(a)の矢印D方向の断面図である。
【0035】
この例で示される記録素子基板H1104にも3つのインク供給口407が形成されている。各インク供給口を中心として対向する位置には吐出口406が配置され、各々から約2plのインク滴が吐出されるように、吐出口およびインク流路の寸法は調整されている。吐出口406の周辺部には、図3(d)で示すように、吐出口を中心として対称に同心角状に、約9μmの溝間距離で溝400が設けられている。溝400自体の形状は、吐出口406の周辺部では、深さ約2μm、幅約6μmで形成されているが、図3(e)で示すように、吐出口から離れるに従い、徐々にその溝幅は狭くなっている。つまり、吐出口の周辺領域側に設けられた溝の溝幅に対して、吐出口から離れた領域側に設けられた溝の溝幅が狭くなっている。
【0036】
このようなインクジェット記録ヘッドH1004に保護テープを貼りつける。保護テープは実施例1で示したものと同様のものを使用し、吐出口を塞ぐ形で貼りつけられている。この状態のインクジェット記録ヘッドH1004に、60Dに保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして印字を行った。実施例1と同様に、基板からのノズル部の剥がれや吐出口周辺部へのクラック等の発生はなく印字も良好であり、吐出口周辺部に設けた溝が非常に効果的であった。すなわち、吐出口周辺部に比較的広い幅の溝を設けることにより、吐出口面と保護テープの粘着材との接着面積が少なくなり、保護テープを剥がす際の引き剥がし力が低下するため、基板からのノズル部の剥がれや吐出口周辺部へのクラック等の発生を回避できる。これに対して、吐出口から離れた領域では周辺部に設けた溝よりも狭い幅の溝を設けることにより、各溝間距離を大きく取ることができる。従って、吐出口面と保護テープの粘着材との接着面積が多くなり、保護テープを剥がす際の引き剥がし力が強くなる。しかし、この領域はインク流路407からも離れているため、中空構造とはなっておらず、外力に対して比較的強く、基板からのノズル部の剥がれ等も回避できる。また、この領域においては吐出口面と保護テープとの接着力が強く、万が一、吐出口からインクが染み出してしまった場合でも、インクが混色して元の吐出口に引き込まれ、インク流路内まで混色するといった問題を防ぐことが可能である。例えば、あるインク色の吐出口に設けられた、その吐出口から最も離れた位置にある溝と、隣接する他色の吐出口に設けられた、その他色の吐出口から最も離れた位置にある溝とがなす距離を最も大きくする構成をとる。万が一、ある色の吐出口からインクが漏れた場合であっても、隣接する色間に設けられた隣接する溝間距離を、同色間の溝間距離よりも大きくすることによって、各色のインクが混ざることを防止することができる。
【0037】
このように、異なる色の吐出口間の隣接する溝間距離を大きくすることで、異なる色間の保護テープの接触面積を確保できる。
【実施例3】
【0038】
本実施例では、図4に示されるように、複数種類のサイズのインク滴を吐出する吐出口506、506‘を有する形態において、各吐出口を中心として同心円状に微細な溝500を設けている。吐出されるインク滴のサイズによって吐出口径と溝の形状が異なるインクジェット記録ヘッドを作製し、その効果を確認した。吐出口506の径に対して吐出口506‘の径は小さくなっており、これら2種類の吐出口が同一基板上に設けられた構成になっている。第1の実施例および第2の実施例と異なる点は、この吐出口形状およびノズル溝の製造方法である。本実施例では、レーザー照射によるレーザー加工により吐出口506、506’および溝500を形成している。レーザーとしては、紫外光を発振可能なエキシマレーザーが好ましく、エキシマレーザーは高強度で、単色性が良い、指向性がある、短パルス発振できる、レンズで集光することでエネルギー密度を非常に大きくできる等の利点を有する。またエキシマレーザー発振器は希ガスとハロゲンの混合気体を放電励起することで、短パルス(15〜35ns)の紫外光を発振できる装置であり、Kr−F、Xe−Cl、Ar−Fレーザーがよく用いられる。これらの発振エネルギーは数100mJ/パルス、パルス繰り返し周波数は30〜100Hzである。このようなエキシマレーザービームの高輝度の短パルス紫外光を樹脂表面に照射すると、照射部分が瞬間的にプラズマ発光と衝撃音を伴って分解、飛散する。Ablative Photodecomposition(APD)過程が生じ、この過程によって樹脂への加工が可能となる。
【0039】
図5は本発明のインクジェット記録ヘッドにおけるノズル部の基本的な製造工程の一例を示す断面模式図である。図5(a)に示されるSi基板501上には電気熱変換素子502が複数個配置されており、このSi基板501上に溶解可能な樹脂でインク流路となる型材503を形成する。型材(ODUR、東京応化工業(株)製)はスピンコートにより塗布した後、露光、現像を行ってパターン形成する。次に図5(b)に示すように、ノズル形成部材504をスピンコートにより塗布した後、加熱することにより硬化させる。ノズル形成部材504は、エポキシ樹脂と光カチオン重合開始剤を溶剤に溶解して作製する。続いて図5(c)に示すように、ノズル形成部材504とエキシマレーザー発振器との間に、吐出口および溝の形状に対応したレーザー透過部分と非透過部分を有するマスク510を設置する。エキシマレーザー光511を照射し、照射部分の樹脂を分解除去することにより、図5(d)に示すように、吐出口506、506‘あるいは溝500を形成する。このとき吐出口部と溝部とでレーザー透過率を変える、すなわち、溝部に対応する部分にはグラデーションを施したマスクを使用することにより、吐出口部と比較して、溝部は低強度のエキシマレーザー光が照射される。これにより、ノズル形成部材504の表面からの深度が異なる吐出口や溝を形成することが可能となる。次に図5(e)に示すように、吐出口506あるいは506‘、溝500が形成されたノズル形成部材504上に撥水部材505をスピンコートにより塗布する。さらに、ミラー・プロジェクション・マスクアライナー(MPA−600 Super、キヤノン(株)製)を使用する。撥水部材505へマスクを介して露光を行った後、露光が行われなかった領域を現像液で除去することにより、溝500の内部も含めた吐出口面全域に撥水処理を行った。
【0040】
さらに第1の実施例である図2と同様の工程を経て、インクジェット記録ヘッドのノズル部を形成し、ダイシングソーにより分離切断、チップ化した。チップ化された記録素子基板H1105を使用し、前述した工程により図4に示すインクジェット記録ヘッドH1005を作製した。図4(a)の記録ヘッドを矢印E方向から見た吐出口面拡大図が図4(b)であり、さらに吐出口506部分を拡大したものが図4(c)である。記録ヘッドH1005に設けられた小径の吐出口506‘部分を拡大したものが、図4(e)である。この吐出口506’周辺領域に設けられた溝500を拡大した断面図が図4(f)である。なお、図4(b)、(c)、(e)は、図4(a)の記録ヘッドを矢印E方向である吐出口面側から見た図である。図4(d)、(f)は、これと直交する矢印F方向の断面図である。
【0041】
記録素子基板H1105には3つのインク供給口507が形成されており、各インク供給口を中心として対向する位置には大径の吐出口506と小径の吐出口506‘が配置されている。インク供給口を挟んで片側からは約5plのインク滴、反対側からは約2plのインク滴が吐出されるように、吐出口およびインク流路の寸法は調整されている。約5plのインク滴が吐出される吐出口506の周辺部には、吐出口を中心として同心円状に、深さ約2μm、幅約2μmの溝500が約4μmのピッチ(溝間距離)で形成されており、吐出口から離れるに従い、徐々にそのピッチは大きくなっている。一方、約2plのインク滴が吐出される吐出口506’の周辺部には、吐出口を中心として同心円状に、深さ約2μm、幅約2μmの溝が約12μmのピッチ(溝間距離)で形成されている。このようなインクジェット記録ヘッドH1005に保護テープを貼りつける。保護テープは前述と同様のものを使用し、吐出口を塞ぐ形で貼りつけられている。この状態のインクジェット記録ヘッドH1005に、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして印字を行った。実施例1および2と同様に、基板からのノズル部の剥がれや吐出口周辺部へのクラック等の発生はなく印字も良好であり、吐出口周辺部に設けた溝が非常に効果的であった。
【0042】
ここで図6を用いてノズル径、ノズル配列ピッチ、流路の中空構造と外力に対しての強度について説明する。
【0043】
図6は、5plの液滴を吐出する吐出口506(以下大径と記す)、2plの液滴を吐出する吐出口506‘(以下小径と記す)、インク供給口507を吐出口面から見た模式図である。図6(a)は、大径吐出口をある配列ピッチで並べている。ここで、吐出口の配列ピッチとは、吐出口の中心間距離のことを意味する。図6(b)はこれに対して同じ大径の吐出口をより狭い配列ピッチで並べている。図6(c)は吐出口面と交差する断面図であり、大径吐出口流路の構成を示す模式図である。図6(a)(b)からわかるように、吐出口径が同じである場合、吐出口の配列ピッチが大きい方図6(a)が保護テープとの接触面積を確保できる。これは小径吐出口を配置した図6(d)(e)を比較しても同じであり、配列ピッチが大きい図6(d)の方が保護テープとの接触面積を確保できる。
【0044】
次に図6(a)と(d)を比較する。この2つは吐出口径が異なるものの、吐出口の配列ピッチを同じにしている。この場合、吐出口の配列ピッチが等しい場合、吐出口径が小さい方(d)が保護テープとの接触面積を確保できる。
【0045】
さらに流路の断面図を図6(c)(f)で見ると、図6(c)で示される大径吐出口の場合、流路断面の中空構造そのものが大きいことが分かる。これに対して、図6(f)で示される小径吐出口の場合、径が小さい分流路断面の中空構造そのものが図6(c)に比較して小さくなっている。吐出口の配列ピッチが等しい場合、その中空構造は、大径吐出口の方が小径吐出口に比べて空間が多くなり外力に対して弱くなる。しかし、実際は、小径吐出口の場合図6(e)で示すように、高密度の配列ピッチをとることが可能になる。よって、流路の数そのものが増えるため中空構造としての空間が多くなり、外力に対して弱くなる。保護テープとの接触面積を確保しても、中空構造の空間が多ければ外力に対して弱くなる。第3の実施例では、吐出口周辺部に溝を設け、かつ、吐出量の違いに応じて溝の形状を変えている。本実施例では、大小の吐出口の配列ピッチは同じである。よってその中空構造は大径の方が空間の割合が大きく、小径のほうが中空構造の空間の割合が小さい。つまり、外力に対しての強度が比較的高い約2plのインク滴が吐出される吐出口506‘周辺部には図4(e)(f)で示すように、比較的広い溝間距離で溝を設けて保護テープとの接触面積を確保してある。これに対して外力に対しての強度が比較的低い約5plのインク滴が吐出される吐出口506周辺部には図4(c)(d)で示すように、比較的狭いピッチで溝を設けてある。このように、外力に対しての強度の違いに応じて溝の形状を変え、吐出口面と保護テープの粘着材との接着面積を変える。これによって、吐出口周辺のクラック発生やインク染み出しに起因する混色を引き起こすことを防止することができる。従って、吐出口をテープで保護、封止した状態で物流可能なインクジェット記録ヘッドを容易に提供することができる。保護テープとの接触面積を確保する方法として、一つは溝形状そのものを変える方法がある。予め定められた吐出口面の全面積のなかで、溝幅を広くすると吐出口面での保護テープとの接触面積は小さくなり、溝幅を狭くすると吐出口面での保護テープとの接触面積が大きくなる。これに対して溝間距離を変えることで接触面積を調整することも可能である。溝間距離を狭くとると保護テープとの接触面積は小さくなり、溝間距離を広く取ると接触面積を大きくすることができる。
【0046】
本出願にかかる発明の思想に沿うものであれば、実施形態は、本明細書の実施例やその他の具体的形状に限定されるものではなく、溝形状や溝間距離を随時調整しても構わない。吐出口周辺領域と、それ以外の離れた領域において溝形状や溝間距離を異ならせることによって、保護テープと吐出口面との接触面積を異なるものとすることである。吐出口周辺領域は接触面積を小さく、吐出口から離れたその他の領域は大きくすることである。このような構成によって、保護テープの引き剥がしによる吐出口周辺部へのクラック発生や、吐出口からのインク染み出しによる混色を防止することができる。
【0047】
図7から図9は、本発明が実施または適用される好適なインクジェット記録ヘッドを説明するための説明図である。また、図10インクジェット記録ヘッドが搭載されて使用されるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【0048】
以下、これらの図面を参照して各構成要素について説明する。
【0049】
本発明のインクジェット記録ヘッドは図7に示すようにインクタンク一体構成となっている。図7中のインクジェット記録ヘッドH1000は、インクジェット記録装置本体に載置されているキャリッジの位置決め手段及び電気的接点によって固定支持されるとともに、キャリッジに対して着脱可能となっている。内部のインクが消費されると、ヘッドと共に交換される。
【0050】
次にインクジェット記録ヘッドを構成しているそれぞれの構成要素毎に順を追って説明する。
【0051】
(1)インクジェット記録ヘッド
インクジェット記録ヘッドH1000は、膜沸騰を用いた方式の記録ヘッドであり、電気熱変換素子とインク滴が吐出する吐出口とが対向するように配置された型式の記録ヘッドである。図7に示すように、記録素子基板H1100、電気配線テープH1300、インク供給保持部材H1500、フィルタH1700、インク吸収体H1600、蓋部材H1900、及び蓋部シール部材H1800から構成されている。
【0052】
(1−1)記録素子基板
図8は記録素子基板H1100の構成を説明するために一部破断して示す斜視図である。記録素子基板H1100は、例えば、厚さ0.5〜1mmのSi基板H1110にインク流路である長溝状の貫通口のインク供給口H1102がSiの結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラストなどの方法で形成されている。
【0053】
インク供給口H1102を挟んだ両側には、電気熱変換素子H1103が配置されており、さらに電気熱変換素子H1103に電力を供給するAlなどからなる不図示の電気配線が形成されている。これら電気熱変換素子H1103と電気配線とは成膜技術により形成されている。この電気配線に電力を供給したり、電気熱変換素子H1103を駆動するための電気信号を供給するための電極部H1104が電気熱変換素子H1103の両外側の側辺に沿って配列して形成されている。電極部H1104上にはAuなどからなるバンプH1105が形成されている。
【0054】
また、Si基板H1110上には、電気熱変換素子H1103に対応したインク流路を形成するインク流路壁H1106とその上方を覆う天上部とを有し、天井部に吐出口H1107が開口された、ノズル部が形成されている。吐出口H1107は、電気熱変換素子H1103に対向して設けられており、吐出口群H1108を形成している。この記録素子基板H1100において、インク供給口H1102から供給されたインクは各電気熱変換素子H1103の発熱によって発生した気泡の圧力によって、各電気熱変換素子H1103に対向する吐出口H1107から吐出される。
【0055】
(1−2)電気配線テープ
図7、図9に示すように電気配線テープH1300は、記録素子基板H1100に対してインクを吐出するための電気信号を印加する電気信号経路を形成するものである。記録素子基板を組み込むための開口部H1303が形成されており、この開口部の縁付近には、記録素子基板の電極部H1104に接続される電極端子H1304が形成されている。また、電気配線テープH1300には、本体装置からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1302が形成されており、電極端子H1304と外部信号入力端子H1302は連続した銅箔の配線パターンでつながれている。
【0056】
電気配線テープH1300と記録素子基板H1100の電気的接続は、例えば以下の構成からなる。記録素子基板H1100の電極部H1104に形成されたバンプH1105と、記録素子基板H1100の電極部H1104に対応する電気配線テープH1300の電極端子H1304とが熱超音波圧着法により電気接合されている。
【0057】
(1−3)インクタンク部
インクタンク部H1500は、例えば、樹脂成形により形成されている。樹脂材料には、形状的剛性を向上させるためにガラスフィラーを5〜40%混入した樹脂材料を使用することが望ましい。図7に示すように、インクタンク部H1500は、内部にインクを保持し負圧を発生するための吸収体H1600を有している。インク貯留の機能と、記録素子基板H1100にそのインクを導くためのインク流路を形成することでインク供給の機能とを備えている。インク吸収体H1600としては、PP繊維(ポリプロピレン繊維)を圧縮したものが使われているが、ウレタン繊維を圧縮したものでもよい。インク流路の上流部であるインク吸収体H1600との境界部には、記録素子基板H1100内部にゴミの進入を防ぐためのフィルタH1700が溶着により接合されている。フィルタH1700は、SUS金属メッシュタイプでも良いが、SUS金属繊維焼結タイプのほうが好ましい。
【0058】
インク流路の下流部には、図9に示されるように、記録素子基板H1100にインクを供給するためのインク供給口H1200が形成されている。記録素子基板H1100のインク供給口H1102がインク供給保持部材H1500のインク供給口H1200に連通するよう、記録素子基板H1100がインク供給保持部材H1500に対して位置精度良く接着固定される。この接着に用いられる第1の接着剤は、低粘度で硬化温度が低く、短時間で硬化し、硬化後比較的高い硬度を有し、かつ、耐インク性のあるものが望ましい。例えば、第1の接着剤としては、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化接着剤が用いられ、その際の接着層の厚みは50μm程度が望ましい。
【0059】
また、記録素子基板H1100の接着面周囲の平面には、電気配線テープH1300の一部の裏面が第2の接着剤により接着固定される。記録素子基板H1100と電気配線テープH1300との電気接続部分は、第1の封止剤H1307及び第2の封止剤H1308(図9参照)により封止され、電気接続部分をインクによる腐食や外的衝撃から保護されている。第1の封止剤H1307は、主に電気配線テープH1300の電極端子H1304と記録素子基板のバンプH1105との接続部の裏面側と記録素子基板の外周部分を封止し、第2の封止剤H1308は、上述の接続部の表側を封止している。そして、電気配線テープH1300の未接着部は折り曲げられ、インク供給保持部材H1500の記録素子基板H1100の接着面にほぼ垂直な側面に熱カシメもしくは接着等で固定される。
【0060】
(1−4)蓋部材
図7に示されるように、蓋部材H1900は、インクタンク部H1500の上部開口部に溶着されることで、インクタンク部H1500を閉空間として構成するものである。但し、蓋部材H1900にはインクタンク部H1500内部の圧力変動を逃がすための微細口H1910とそれに連通した微細溝H1920を有している。微細口H1910と微細溝H1920のほとんどをシール部材H1800で覆い微細溝H1920の一端部を開口することで大気連通口を形成している。また、インクジェット記録ヘッドをインクジェット記録装置に固定するための係合部H1930を有している。
【0061】
(1−5)インクジェット記録ヘッドのインクジェット記録装置への装着
図7に示すように、インクジェット記録ヘッドH1000には、インクジェット記録装置本体のキャリッジの装着位置に案内するための装着ガイドH1560を備えている。さらにヘッドセットレバーによりキャリッジに装着固定するための係合部H1930を備えている。キャリッジの所定の装着位置に位置決めするための突き当て部を備えている。具体的には、X方向(キャリッジスキャン方向)の突き当て部H1570、Y方向(被記録体搬送方向)の突き当て部H1580、Z方向(インク吐出方向)の突き当て部H1590である。上述した突き当て部により位置決めされることで、電気配線テープH1300上の外部信号入力端子H1302がキャリッジ内に設けられた電気接続部のコンタクトピンと正確に電気的接触を行う。
【0062】
(2)インクジェット記録装置
次に、上述したようなカートリッジタイプのインクジェット記録ヘッドを搭載可能なインクジェット記録装置について説明する。図10は、本発明のインクジェット記録ヘッドを搭載可能な記録装置の一例を示す説明図である。
【0063】
図10に示す記録装置において、図7に示したインクジェット記録ヘッドH1000がキャリッジ102に位置決めして交換可能に搭載されている。キャリッジ102には、記録ヘッドH1000上の外部信号入力端子を介して各吐出部に駆動信号等を伝達するための電気接続部が設けられている。
【0064】
インクジェット記録ヘッドH1000は、吐出口の並び方向がキャリッジ102の走査方向に対して交差するようにキャリッジ102に搭載され、これらの吐出口からインクを吐出して記録を行なう。
【0065】
なお、本発明が適用されるインクジェット記録ヘッドが搭載可能な記録装置は、一般的なインクジェット記録装置のほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部を有するワードプロセッサ等の装置を含む。さらには、これらの装置を複合した多機能インクジェット記録装置等も含む。
【0066】
[比較例]
図11に示すように、同径の吐出口206が形成され、チップ化された記録素子基板H1102を使用し、図11に示すインクジェット記録ヘッドH1002を作製した。吐出口206は2plのインク滴を吐出する。記録素子基板H1102には3つのインク供給口207が形成されており、各々からシアン、マゼンタ、イエローの何れかのインクが供給されるようにインク供給保持部材内に各インクが保持されている。各インク供給口を中心として対向する位置には吐出口206‘が形成されており、各々から約2plのインク滴が吐出されるように、吐出口およびインク流路の寸法は調整されている。このようなインクジェット記録ヘッドH1002に保護テープを貼りつける。保護テープは実施例と同様のものを使用し、吐出口を塞ぐ形で貼りつける。この状態のインクジェット記録ヘッドH1002に、60℃に保たれた環境下で2ヶ月間保存する加速試験を行った後、保護テープを剥がして印字を行った。保護テープを剥がした後、吐出口面を金属顕微鏡で観察すると、吐出口周辺部にクラックが確認された。インクジェット記録ヘッドH1002は、吐出口間の配列ピッチが狭いピッチで配置されている。ノズル部に占めるインク流路、言い換えると中空構造の割合が高くなるため、外力に対しての強度が低下していることが予想された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(a)ないし(e)は、第1の実施例のインクジェット記録ヘッドと吐出口周辺の構成を示す概略模式図である。
【図2】(a)ないし(h)は、第1の実施例のインクジェット記録ヘッドの吐出口部分の製造工程を示す模式図である。
【図3】(a)ないし(e)は、第2の実施例のインクジェット記録ヘッドと吐出口周辺の構成を示す概略模式図である。
【図4】(a)ないし(f)は、第3の実施例のインクジェット記録ヘッドと吐出口周辺の構成を示す概略模式図である。
【図5】(a)ないし(e)は、第3の実施例のインクジェット記録ヘッドの吐出口部分の製造工程を示す模式図である。
【図6】(a)ないし(f)は、吐出口面の種類とインク流路を示す模式図である。
【図7】(a)ないし(b)は、インクジェット記録ヘッドを分解して示す模式的分解斜視図である。
【図8】記録素子基板の一部を破断して示す模式的斜視図である。
【図9】インクジェット記録ヘッドの一部を示す模式的断面図である。
【図10】インクジェット記録装置の一構成例を示す模式図である。
【図11】(a)ないし(b)は、従来技術のインクジェット記録ヘッドと吐出口周辺の構成を示す概略模式図である。
【図12】従来技術のインクジェット記録ヘッドに対する保護シール形態の一例を示す概略斜視図である。
【図13】従来技術のインクジェット記録ヘッドに対する保護シール形態の他の例を示す概略斜視図である。
【図14】従来技術のインクジェット記録ヘッドノズル部の一構成例を示す模式図である。
【図15】(a)ないし(b)は、従来技術のインクジェット記録ヘッドノズル部の他の構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0068】
H1003 インクジェット記録ヘッド
H1103 吐出口形成面
300 溝
306 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口が形成された基板を備える記録ヘッドにおいて、
前記基板の前記吐出口が形成された吐出口面が、前記吐出口を中心として点対称な連続した溝を複数備え、前記吐出口の近傍の領域とそれ以外の領域とで前記複数の溝の形状が異なることを特徴とした記録ヘッド。
【請求項2】
前記複数の溝の形状が、各溝の幅もしくは各溝の中心を結ぶ溝間距離であることを特徴とした請求項1に記載された記録ヘッド。
【請求項3】
前記吐出口の周辺領域側の前記溝幅が、該吐出口から離れた領域側の溝幅よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載された記録ヘッド。
【請求項4】
前記吐出口の周辺領域側の前記溝間距離が、該吐出口から離れた領域側の溝間距離よりも狭いことを特徴とする請求項2に記載された記録ヘッド。
【請求項5】
前記吐出口が異なる色の液体を吐出する複数の吐出口から構成され、隣接する異なる色の隣接する溝間距離が、同色間の溝間距離よりも大きいことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された記録ヘッド。
【請求項6】
前記溝が前記吐出口を中心として円状または角状に設けられていることを特徴とした請求項1から5のいずれかに記載された記録ヘッド。
【請求項7】
前記吐出口面および前記複数の溝が撥水処理を施されていることを特徴とした請求項1から6のいずれかに記載された記録ヘッド。
【請求項8】
前記吐出口面が接着剤を介してテープにて保護されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載された記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−107328(P2009−107328A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200945(P2008−200945)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】