説明

記録媒体の再使用方法およびそれに用いられる再使用可能な記録媒体

【課題】 有限な記録媒体資源を再利用するための方法およびそれに用いられる再使用可能な記録媒体の提供。
【解決手段】 記録媒体表面に、分解温度100℃〜180℃の熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせを含有する熱消去性インキ組成物を適用して画像を記録した後、記録媒体を100℃〜180℃に加熱することにより該画像を消去して、前記記録媒体表面を再記録可能な状態に戻すことを含む記録媒体の再使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
記録されている画像を加熱により消去して、再記録可能な状態に戻すための記録媒体の再使用方法およびそれに用いられる再使用可能な記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、パソコンやプリンターを含むOA機器の普及により、パソコンなどで作成した情報を紙に印字する機会が非常に増えている。印字した内容をチェックした後、不要になった紙は、下打ち用紙やメモとして利用されるが、その後は大抵、廃棄される。オフィスなどで大量に廃棄された紙は、有効利用の観点から、回収し、再生する事業が既に運営されている。しかし、例えば、家庭で廃棄される少数枚の紙は、一般に可燃ごみとして処分されることが多い。
これに関し、例えば、プリンターで印字した情報画像を熱処理により消去することで、紙を再利用可能な状態の戻す方法が提案されている(特許文献1および2参照)。これらは、熱消去可能なインキ組成物の熱特性を利用したものであるが、画像の印字温度と熱消去温度がそれぞれ異なることから、特殊なプリンターが必要であった。
【0003】
別法として、熱消去可能なインキ組成物を使用したマーカーペンも公知である(特許文献3および4参照)。このマーカーペンは、感熱紙を含む可逆性感熱記録材料へ画像を手書きすることを目的としている。すなわち、感熱紙上に形成された、サーマルプリンターによる感熱記録画像と、その上にマーカーペンで加筆された手書き画像とを1回の熱処理で同時に消去することを特徴とする。
【0004】
【特許文献1】特許第3286214号明細書
【特許文献2】特開平7−81236号明細書
【特許文献3】特開平9−165537号明細書
【特許文献4】特開平10−77437号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最近では、バブルジェットプリンターやレーザプリンターの普及に伴い、感熱紙よりも普通紙を利用することが多い。通常、マーカーペンからのインキ組成物は普通紙に染み込んでしまうため、熱処理による消去が不完全になることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明の目的は、普通紙を含む洋紙、シートまたはフィルムなどへの熱転写プリンター以外の汎用のプリンターによる印字を阻害することなく、これら材料への熱消去可能なインキ組成物の染み込みを防止し、しかも前記インキ組成物で印字または手書きされた画像の熱消去をも容易にすることである。
【0007】
上記目的は、記録媒体表面に特殊なインキ受容層を設けることと、特許第1445357号記載の熱消去性描画材料を熱消去可能なインキ組成物として利用することにより、達成できる事が分かった。ここで、前記特許は、本出願人の先願である。この公報に記載のインキ組成物は、使用時に既に着色状態にあり、これを記録媒体へ単に適用することで、画像が記録される。記録された画像は、常温ではほぼ恒久的に変化しないが、記録媒体を特定の温度に加熱することにより、容易に消去される。これにより、記録媒体表面は、画像記録前の状態に戻るため、画像記録に再使用可能となる。
【0008】
従って、本発明は、記録媒体表面に、分解温度100℃〜180℃の熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせを含有する熱消去性インキ組成物を適用して画像を記録した後、記録媒体を100℃〜180℃に加熱することにより該画像を消去して、前記記録媒体表面を再記録可能な状態に戻すことを含む記録媒体の再使用方法である。
【0009】
本発明は、更に、本発明の前記方法に用いられる、耐熱性および寸法安定性を有する、再使用可能な記録媒体をも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特殊なインキ受容層を表面に有する記録媒体と、熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせを着色成分として含有する熱消去性インキ組成物とを併用することで、前記記録媒体への画像記録と画像の熱消去を繰り返し行うことができ、結果として、記録媒体の省資源化が容易に達成され得る。
本発明では、特殊なインキ受容層を紙のみならず、フィルムやシートなどに設け、そこへ前記熱消去性インキ組成物を適用することで、多種多様な記録媒体の再使用が可能となる。
【発明の実施のための最良の形態】
【0011】
本発明の記録媒体の再使用方法は、記録媒体表面に熱消去性インキ組成物を適用して画像を記録した後、記録媒体を100℃〜180℃に加熱することによりこの画像を消去して、前記記録媒体表面を再記録可能な状態に戻すことを含む。
【0012】
記録媒体およびリライタブル媒体
本発明の方法で使用される記録媒体は、記録された画像を消去する際に付与される加熱温度に対して耐性を示しかつ良好な寸法安定性を有するものであればよく、例えば、プリンターによる印字に通常使用される洋紙、フィルムまたはシート等の形態であってよい。
【0013】
記録媒体表面には、図1に示すようにインキ受容層が設けられている。インキ受容層は、前記組成の熱消去性インキ組成物を適用した場合に所望の画像を鮮明に発現させ、しかも記録媒体中への前記インキ組成物の染み込みを防止して、画像の熱消去を容易にすることを目的とする。このインキ受容層の存在によって、後述する熱消去性インキ組成物の適用により画像が記録された後、記録媒体を100℃〜180℃に加熱すると記録画像が消去されて、再度画像記録可能な状態に戻る。
【0014】
インキ受容層は、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタンから成る群より選択される少なくとも1種を含有していてよい。記録媒体へのインキ受容層の形成は、この分野で公知の方法がいずれも使用でき、例えば、フレキソ塗工、グラビア塗工、メャーバー塗工、リバース塗工、エアーナイフ塗工などが挙げられる。こうして形成されるインク受容層の厚さは、例えば、3μm〜10μmの範囲であってよい。
【0015】
熱消去性インキ組成物
本発明の方法において、前記記録媒体表面のインキ受容層に適用される熱消去性インキ組成物は、前記記録媒体のインク受容層に適用すると発色し、次いで熱処理を施すことによって消色することを特徴とする。このような熱消去性インキ組成物は、着色成分として、分解温度100℃〜180℃の熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせを含有する。ここで、前記熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせは、最も好ましくは、前記特許第1445357号明細書に記載のものであってよい。以降に熱消去性インキ組成物をさらに詳細に説明する。
【0016】
(1)熱分解性顕色剤
本発明で好適に使用される熱分解性顕色剤は、常温で実質上ほとんど分解せず、熱によって分解し昇華性となるもの、特に100℃〜180℃に加熱されると分解して昇華するものである。このような熱分解性顕色剤は、サリチル酸、安息香酸および置換安息香酸を含む芳香族カルボン酸の亜鉛塩、錫塩、ジルコニウム塩およびアルミニウム塩から成る群より選択される少なくとも1種であってよい。具体例としては、サリチル酸亜鉛およびその置換誘導体、安息香酸および置換安息香酸;e.g.サリチル酸誘導体の金属塩[例えば、5-フェニルサリチル酸の亜鉛塩、5-t-アミルサリチル酸の亜鉛塩、5-(4-ヒドロキシフェニル)-サリチル酸の亜鉛塩、3,5-ジ(α-メチルベンジル)-サリチル酸の亜鉛塩、3-メチル-5-フェニル−サリチル酸の亜鉛塩等];またはサリチル酸とホルムアルデヒドの縮合物の亜鉛塩等が挙げられる。
【0017】
熱分解温度、発色性および昇華性の点から、最も好ましい熱分解性顕色剤として、サリチル酸亜鉛を単独で使用する。更には用途に応じ、サリチル酸亜鉛を安息香酸亜鉛などの適当な化合物と併用することで、昇華温度を調整することも可能である。
【0018】
(2)無色のロイコ染料
前記熱分解性顕色剤、特にサリチル酸亜鉛の作用により発色する無力のロイコ染料としては、例えば、ラクトン環を有する化合物:
【0019】
【化1】

【0020】
、ラクタム環を有する化合物:
【化2】

【0021】
、またはロイコオーラミン系化合物:
【化3】

等が使用されてよい。あるいは、上記以外に、無色のスピロピラン系、フルオラン系、フェノチアジン系化合物を補色程度の量で用いてもよい。
【0022】
前記熱消去性インキ組成物において、熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との配合比は、通常、30:1〜30:90、好ましくは約10:1〜10:20であってよい。
【0023】
前記熱消去性インキ組成物は、必要に応じ、記録される画像の描写性を向上する目的で、ワックス類を更に含有していてよい。ワックス類としては、カーボン紙の製造に通常使用されるもののうち、無色に近いものが好ましく、例えば、カルナウバワックス、晒モンタンワックス、オーリキュリーワックス、キャンデリラワックス、酸化マイクロワックス、サゾールワックス、ヘキストワックス、あるいはパラフィンワックス、ステアリン酸、パルチミン酸等であってよい。ワックス類は、熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせを使用する場合は、前記ロイコ染料の溶剤として働き、さらには着色成分、すなわち熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせまたは低温昇華性色素の発色性および消色性をも促進し得る。
【0024】
前記熱消去性インキ組成物は、前記ワックスの可塑剤として、石油系オイル、アルキルナフタリンまたはトリアリルメタン等を含有してよい。
【0025】
前記熱消去性インキ組成物は、前記組成および必要に応じて、当該分野で通常使用される各種添加物(炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムなど、着色成分の消色性に悪影響を及ぼさない体質顔料、樹脂類、ワックス類、分散剤類)を更に含有していてよい。
【0026】
本発明の方法において、前記組成を有する熱消去性インキ組成物は、前記インキ組成物を容器に充填した筆記具(例えば、ボールペン、サインペンまたはマーカーペンなど)の形態、あるいはインキジェットプリンター用のプリンターインキとして使用され得る。
【0027】
図1には、記録媒体1のインキ受容層2上に筆記具3を用いて画像31を記録し、それを熱処理により消去する模式的なプロセス図を表している。このような筆記具に使用される熱消去性インキ組成物は、好ましくは、熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせまたは低温昇華性色素30〜60重量部に必要に応じて、ワックス類10〜20重量部、ワックスの可塑剤5〜10重量部および体質顔料を含む添加物20〜40重量部を互いに混合し、得られる混合物を適当な溶剤(トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ブロモプロパン)に溶解または分散させることにより調製される。
【0028】
あるいは、熱消去性インキ組成物をプリンターインキとして提供する場合は、熱消去性インキ組成物の全重量に対し、熱分解性顕色性と無色のロイコ染料との組み合わせまたは低温昇華性色素30〜60重量部に必要に応じて、ワックス類10〜20重量部、ワックスの可塑剤5〜10重量部および体質顔料を含む添加物合計20〜40重量部を互いに混合し、得られる混合物を適当な溶剤(トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、ブロモプロパン)に溶解または分散させることにより調製される。
【0029】
本発明によれば、前記記録媒体表面のインキ受容層に、好適な形態の熱消去性インキ組成物を用いて画像を記録した後、記録媒体を特定の温度、好ましくは100℃〜180℃、最も好ましくは130〜150℃に加熱することにより、記録されていた画像が消去される。画像の熱消去後、インキ受容層を含む記録媒体自体は、その優れた耐熱性および寸法安定性を維持し、かつ前記インキ受容層は再度記録可能な状態に戻る。
【実施例】
【0030】
実施例1 (再使用可能な、画像形成洋紙)
記録媒体として、その表面にポリエステル樹脂、炭酸カルシウムをグラビアコーターにより塗工することにより予め形成されたインキ受容層(厚さ5μm)を有する洋紙(白紙)を使用した。このインキ受容層上に、以下の組成のインキ組成物を充填したマーカーペンを用いて手書きで画像を記録した。
【0031】
【表1】

【0032】
次いで、前記洋紙を、100℃〜180℃に加熱されたヒートロール装置に適用すると、記入した画像が消去されて、洋紙が白紙の状態に戻った。
【0033】
前記手順(洋紙へのマーカーペンでの画像記録と、その後の熱消色)を50回繰り返し行った。これにより、洋紙が繰り返し再使用に充分耐え得ることを確認した。
【0034】
実施例2(再使用可能な、画像形成フィルム)
リライタブルサーマルフィルムの表面にポリエステル樹脂、炭酸カルシウムから成るインキ受容層を乾燥膜厚3μmで塗布して乾燥させることで、本発明の再使用可能な記録媒体を調製した。
【0035】
この記録媒体のインキ受容層上に、実施例1で使用したマーカーペンで画像を記録した。画像記録後、フィルムを、100℃〜180℃に加熱されたヒートロール装置に適用すると、記入した画像が消去されて、フィルムが記録前の状態に戻った。
【0036】
前記手順(前記フィルムへのマーカーペンでの画像記録と、その後の熱消色)を50回繰り返し行った。これにより、フィルムが繰り返し再使用に十分耐え得ることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の方法の一態様を表す模式的なプロセス図である。
【符号の説明】
【0038】
1…記録媒体、2…インキ受容層、3…熱消去性インキ組成物を容器に充填した筆記具、31…画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体表面に、分解温度100℃〜180℃の熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせを含有する熱消去性インキ組成物を適用して画像を記録した後、記録媒体を100℃〜180℃に加熱することにより該画像を消去して、前記記録媒体表面を再記録可能な状態に戻すことを含む記録媒体の再使用方法。
【請求項2】
熱分解性顕色剤が、サリチル酸、安息香酸および置換安息香酸の亜鉛塩、錫塩、ジルコニウム塩およびアルミニウム塩から成る群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の記録媒体の再使用方法。
【請求項3】
熱分解性顕色剤が、フェノール誘導体とサリチル酸誘導体の亜鉛塩の混合物である請求項2記載の記録媒体の再使用方法。
【請求項4】
熱消去性インキ組成物が、該インキ組成物を容器に充填して成る筆記具を介して適用される請求項1記載の記録媒体の再使用方法。
【請求項5】
熱消去性インキ組成物が、ボールペン、マーカー、インキジェットプリンターインキとして適用される請求項1記載の記録媒体の再使用方法。
【請求項6】
耐熱性および寸法安定性を有する、再使用可能な記録媒体であって、その表面にインキ受容層を有し、該インキ受容層への、分解温度100℃〜180℃の熱分解性顕色剤と無色のロイコ染料との組み合わせを含有する熱消去性インキ組成物の適用により画像が記録され、および画像記録後、100℃〜180℃に加熱されると該画像が消去されて再度画像記録可能な状態に戻ることを特徴とする、再使用可能な記録媒体。
【請求項7】
インキ受容層が、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタンから成る群より選択される少なくとも1種を含有する請求項6記載の再使用可能な記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2006−137905(P2006−137905A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330522(P2004−330522)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000225267)内外カーボンインキ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】