説明

記録媒体欠陥検査装置及び欠陥検査方法

【課題】
電子線を用いた、高速かつ高分解能に欠陥検出を可能にする記録媒体欠陥検査技術を提供する。
【解決手段】
電子線2を記録媒体5面に照射しながら、スピンドルモータ6により記録媒体5を回転させ、記録媒体5から発生する2次電子を検出器8により検出して、記録媒体面の凹凸情報を取得する。得られた記録媒体面の凹凸情報をフーリエ変換により処理した後、欠陥を検出する。さらに、電子線を記録媒体に照射しながら、ガス導入手段9により記録媒体面に蒸着ガスを導入することにより、記録媒体面の検出された欠陥場所に蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥検査技術に係り、特に、磁気ディスク装置に用いられる磁気記録媒体、光ディスク装置に用いられる光記録媒体、等の記録媒体面の凹凸または異物付着を含む欠陥の有無、種類等を検査する記録媒体検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置は、磁気ヘッド及び磁気記録媒体からなり、磁気記録媒体を回転させることにより磁気ヘッドを浮上させ、磁気ヘッドにより磁気記録媒体への記録又は磁気記録媒体からの再生が行われる。磁気ディスク装置の大容量化に伴い、強い書き込み磁界が必要となり、磁気ヘッドと磁気記録媒体との間の浮上量は小さくすることが要求されている。磁気ヘッドと磁気記録媒体の間の距離を小さくする方法には、磁気ヘッドの浮上量を下げる方法と磁気記録媒体上に成膜されている保護膜を薄くする方法がある。磁気ヘッドの浮上量を小さくしすぎると、磁気記録媒体上のわずかな突起でも磁気ヘッドは衝突し、磁気ヘッド又は磁気記録媒体を破壊してしまうことがある。また、保護膜を薄くしすぎると磁気記録媒体の衝突耐性の劣化や腐食の原因にもなり、磁気ディスク装置の信頼性の劣化につながる。したがって、磁気記録媒体上に欠陥が発生した場合、欠陥の場所を特定し、欠陥原因を分析し、すみやかに対策を施すことが要求されている。
【0003】
従来の磁気記録媒体の欠陥検査装置として、次の技術が知られている。例えば、特開2002−365232号公報には、光学式欠陥検査装置が提案されている。これは、磁気記録媒体表面にレーザー光を当て、その反射光の偏向から欠陥の有無を検査する。また、検出した欠陥近傍に印(マーク)をつけるためステージ移動機構と磁気記録媒体表面に傷を入れる機構を備えた光学式検査装置も知られている。この装置は、レーザーで欠陥を検出した後、試料を移動させダイヤモンドなどを用いて試料表面に機械的に傷をつける。
【0004】
また、特開2004−349515号公報には、電子線を用いた主に半導体ウェハの欠陥検査装置が提案されている。この電子線による欠陥検査装置は、走査電子顕微鏡を用いて表面から発生する2次電子を検出して欠陥の有無を検出し、その形から異物の種類を分類する。
【0005】
【特許文献1】特開2002−365232号公報
【特許文献2】特開2004−349515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらなる記録密度向上のために、磁気ヘッドの浮上量は小さくなる傾向にある。浮上量が10nm以下になると、磁気記録媒体上の高さ数nmの突起のような欠陥ですら問題となる。しかし、上述した光学式欠陥検査装置の分解能は、約100nmしかなく、光学式検査装置では検出できない微小な欠陥が問題になっている。また、欠陥を検出して、欠陥近傍に印を入れたとしても、その印の位置精度は数10μm程度であるため、別の分析装置内で印から数10nmの欠陥位置を特定し、欠陥を分析することは困難であった。
【0007】
一方、電子線を用いて磁気記録媒体表面を検査する場合、最高分解能は1nm以下であるため分解能は要求を満たしている。しかし、磁気記録媒体の磁性膜は、半導体ウェハなどの単結晶材料とは異なり、直径20nm以下の結晶粒が集まってできている。したがって、この結晶粒に起因した平均表面粗さ1nm程度の凹凸が存在する。電子線方式は分解能が高いが故に、結晶粒による凹凸がノイズとなり、欠陥による凹凸を検出することが難しいという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決し、電子線を用いた、高速かつ高分解能に欠陥検出を可能にする記録媒体欠陥検査技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、電子線を試料(例えば、記録媒体)面に照射しながら、試料から二次的に発生する電子を検出して、試料表面の凹凸情報を取得する。得られた試料表面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値をフーリエ変換により処理した後、欠陥を検出するよう構成する。上記凹凸情報の取得や微分、あるいはフーリエ変換などの計算処理は、装置に設けられた、あるいは装置にネットワーク回線を介して接続された適当な計算手段により処理される。さらに、欠陥位置の近傍に蒸着ガスを導入し、電子線を用いて印(マーク)を付ける。
【0010】
以下、本発明の代表的な構成例を列挙する。
【0011】
(1)本発明の記録媒体欠陥検査装置は、電子源から発した電子線を、偏向電極および集束レンズを介して記録媒体面に照射し走査するための電子光学系と、前記記録媒体を回転させ、移動させるための位置制御手手段と、前記記録媒体面から二次的に発生する電子を検出する検出手段と、前記検出手段の信号から前記記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を計算する手段と、前記凹凸情報もしくは凹凸の微分値からフーリエ変換を施すことにより前記記録媒体面の欠陥を検出する手段と、前記記録媒体面に蒸着ガスを導入するガス導入手段とを具備することを特徴とする。
【0012】
(2)前記記録媒体欠陥検査装置において、前記集束レンズは、前記記録媒体に照射される電子線のスポット径を変化させることができることを特徴とする。
【0013】
(3)前記記録媒体欠陥検査装置において、前記電子線スポット径は、前記記録媒体が磁気記録媒体である場合、初期検査段階では前記記録媒体面において、媒体粒径以上検出したい欠陥サイズ以下であることを特徴とする。
【0014】
(4)前記記録媒体欠陥検査装置において、前記位置制御手段は、前記記録媒体を回転させるスピンドルモータと、前記記録媒体面内のX−Y方向への送りステージとを有し、前記記録媒体に電子線を照射しながら前記記録媒体を回転させて、前記記録媒体面から二次的に発生する電子を検出するよう構成したことを特徴とする。
【0015】
(5)前記記録媒体欠陥検査装置において、前記検出手段は、2つ以上の2次電子検出器を有し、向かい合う2次電子検出器の信号量の差分から前記記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を計算することを特徴とする。
【0016】
(6)前記記録媒体欠陥検査装置において、前記ガス導入手段は、前記電子線を前記記録媒体に照射しながら蒸着ガスを導入することにより、前記記録媒体面の電子線照射領域に蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを設けることを特徴とする。
【0017】
(7)前記記録媒体欠陥検査装置において、前記蒸着ガス導入時の記録媒体面における電子線スポット径は、前記集束レンズの有する能力の最も細い電子線スポット径であることを特徴とする。
【0018】
(8)本発明の記録媒体欠陥検査方法は、電子線を記録媒体面に照射しながら前記記録媒体を回転させて、前記記録媒体から二次的に発生する電子を検出するステップと、検出された信号から前記記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を求めるステップと、前記凹凸情報もしくは凹凸の微分値からフーリエ変換を施すことにより前記記録媒体面の欠陥を検出するステップと、前記電子線を前記記録媒体に照射しながら、前記記録媒体面に蒸着ガスを導入することにより、検出された前記記録媒体面の欠陥場所に前記蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを形成するステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
(9)前記記録媒体欠陥検査方法において、前記記録媒体面の凹凸あるいはその微分値は、1次元あるいは2次元情報であることを特徴とする。
【0020】
(10)前記記録媒体欠陥検査方法において、前記記録媒体が、磁気記録媒体である場合、前記記録媒体表面の凹凸情報もしくはその微分値をフーリエ変換した情報から、磁気記録媒体の粒径以上検出したい欠陥サイズ以下の間の所望とする値で、所望とする値以下に相当する波長成分を除去するようにしたことを特徴とする。
【0021】
(11)前記記録媒体欠陥検査方法において、前記所望とする値以下に相当する波長成分を除去されたフーリエ変換後の情報から、さらに記録媒体面上に人為的につくられた連続構造物の波長成分を除去するようにしたこと特徴とする。
【0022】
(12)前記欠陥検査方法において、前記フーリエ変換された情報を、さらに逆フーリエ変換し、得られた情報から前記記録媒体面の欠陥を検出するようにしたことを特徴とする。
【0023】
(13)本発明の記録媒体欠陥検査装置は、電子源から発した電子線を、偏向電極および集束レンズを介して磁気記録媒体に照射し走査するための電子光学系と、前記磁気記録媒体を回転させ、移動させるための位置制御手段と、2つ以上の検出器を有し、前記磁気記録媒体面から2次電子を検出する検出手段と、向かい合う前記検出器の信号量の差分から前記磁気記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を求める手段と、前記凹凸情報もしくは凹凸の微分値からフーリエ変換を施すことにより前記磁気記録媒体面の欠陥を検出する手段と、前記磁気記録媒体面に蒸着ガスを導入するガス導入手段と、前記電子線を前記磁気記録媒体に照射しながら前記蒸着ガスを導入することにより、前記磁気記録媒体面の電子線照射領域に前記蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを設ける手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電子線を用いた、高速かつ高分解能に欠陥検出を可能にする記録媒体欠陥検査技術を提供できる。また、欠陥近傍に印を付けることが可能な記録媒体欠陥検査技術を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1に、本発明の一実施例になる欠陥検査装置の構成例を示す。本発明は、電子光学系、ステージ機構系、制御系、真空排気系25より構成されている。電子光学系は、電子源1、偏向電極3、集束レンズ4、検出器8より構成されている。ステージ機構系は、位置制御手段であるスピンドルモータ6および送りステージ7により構成されている。制御系は、画像処理・操作・制御部20、ビーム偏向制御部21、電子光学系制御部22、信号検出系制御部23、機構・ステージ制御部24より構成されている。なお、図示されてはいないが、上記画像処理・操作・制御部20には、マウス、キーボードあるいはボタンなどの情報入力手段及び取得した画像を表示する画像表示手段が備わっており、装置ユーザは、制御上必要な情報を、装置に対して入力することができる。
【0027】
まず、電子源1から発した電子線2は、電子光学系により、偏向電極3を通り集束レンズ4で集束されて、被測定物である試料5に照射される。集束レンズ4は電磁界レンズであり、コイルに流す電流量を調節することにより試料5に照射される電子線2のスポット径を変えることが可能である。偏向電極3に電圧を印加することにより試料5の表面上を電子線2で走査することが可能である。
【0028】
試料5は、位置制御手段であるスピンドルモータ6および送りステージ7により、試料面内で回転およびX−Y面内方向及びZ軸方向への移動が可能である。このため、送りステージ7は、X、Y面内及びZ軸方向の駆動機構を備えており、被検査試料をスピンドルモータの回転軸ごと移動することができる。X、Y面内及びZ軸方向のステージ位置制御は、機構・ステージ制御部24により実行される。
【0029】
試料5が、例えば、ディスク形状の磁気記録媒体である場合には、スピンドルモータ6によりディスクを回転した状態で半径方向にも送りステージ7で移動させる。その結果、試料上での電子の軌跡は、図2(a)に示されるようにらせん状になる。また、試料5をスピンドルモータ6で回転させ、半径方向にも送りステージ7で移動させながら、同時に偏向電極3を用いて半径方向にも走査しても良い。この場合、試料上での電子の軌跡は、図2(b)に示されるように、一定の偏向幅を持ったビーム走査の軌跡がらせんを描きながら磁気記録媒体表面を移動していくようになる。もしくは、記録媒体表面を所定の偏向領域に分割して、順次ビーム走査を実行する。この場合、ある偏向領域内での電子ビーム走査終了後、次の偏向領域が一次電子線の照射位置まで移動するよう送りステージ7及びスピンドルモータ6を駆動する。その後、送りステージ7及びスピンドルモータ6を停止させて、次の偏向領域内で電子ビームを走査するステップを繰り返しても良い。この場合、試料上での電子の軌跡は、図2(c)のようになる。図2(c)中に示される矩形形状の領域が偏向領域に相当する。
【0030】
走査方式の違いによる効果の相違としては、図2(a)、(b)の場合、常に電子ビームを走査しているため測定していない時間(デッドタイム)がなく、測定時間を短縮することが可能である。一方、図2(c)の場合、送りステージ7もしくはスピンドルモータ6を移動している間は測定をしていないためデッドタイムが発生し、測定時間が長くなる傾向にある。ただし、測定中は試料が停止しているため試料が振動しにくく、高分解能な測定が可能である。このため、画像表示手段にいずれの走査方式が良いかを入力させる入力要求を表示し、装置ユーザにいずれの走査方式が良いか選択させることで、装置の使い勝手が向上する。
【0031】
試料5に電子線が照射されると、試料表面から二次的に発生する2次電子および反射電子が発生する。これらを捕らえる検出器8として、2次電子検出器もしくは反射電子検出器を2個以上備える。好ましくは、2次電子検出器とする。検出器8を2個設置する場合は、試料5に入射される一次電子線あるいは一次電子線の光軸に対して回転対称になるように設置する。2次電子は、試料表面に対して法線方向にもっとも多く発生する。
【0032】
試料5の電子線2の照射領域に欠陥がなく平坦である場合、2つの検出器8は同じ量の2次電子を検出する。一方、試料5の電子線2の照射領域に欠陥があり表面に凹凸がある場合、2つの検出器8が検出する2次電子の量には差が生じる。2つの検出器8による2次電子検出量の差を表示させると、表面形状の傾きすなわち微分に相当する画像を得ることが可能となる。
【0033】
磁気記録媒体ないし磁気記録媒体に含まれる磁性層は、結晶方位が揃うように直径20nm以下の結晶粒が集まって形成されている。したがって、この結晶粒に起因した平均表面粗さ1nm程度の凹凸が存在する。試料5が磁気記録媒体である場合、電子線2を細く絞ると分解能は高くなるが結晶粒による凹凸まで検出してしまい、欠陥による信号が結晶粒による凹凸からの信号に埋もれてしまう。そこで、集束レンズ4の励磁電流を調整することで、電子線2の試料5の表面におけるスポット径を媒体粒径以上検出したい欠陥サイズ以下にすることが好ましい。媒体の結晶粒に起因する凹凸は平均化されてしまうため、バックグラウンドに埋もれてしまう。その結果、取得画像から欠陥を検出するのが容易になる。
【0034】
電子ビームのスポット径の調整を簡単に行うため、画像処理・操作・制御部20には、電子ビームのスポット径と、当該ビーム径を所望の大きさにするための制御パラメータ、例えば、送りステージ7のZ軸方向位置、試料の厚さ、集束レンズ4の励磁電流などの情報とが対になって格納された記憶手段が設けられている。
【0035】
装置ユーザが、表示画面に表示された電子ビームのスポット径のリストから適当なものを選択すると、画像処理・操作・制御部20は、入力されたスポット径をもとに制御パラメータを呼び出し、電子光学系制御部22に伝達する。電子光学系制御部22は、伝達された情報をもとに、電子ビーム径のスポットサイズを調整する。操作をもっと簡単にするためには、電子ビームスポット径ではなく、結晶粒のサイズを表示し、装置ユーザが希望する欠陥検査の分解能の情報が入力可能なようにする。画像処理・操作・制御部20は、入力された磁性結晶粒のサイズ情報を元に、最適な電子ビームのスポット径を選択し、併せて当該スポット径に対応する制御パラメータを呼び出す。呼び出された制御パラメータは、電子光学系制御部22に伝達され、電子光学系の調整が実行される。
【0036】
検出した欠陥が本物の欠陥なのか誤検出したものなのかは、電子線2を通常の走査電子顕微鏡で用いられる程度までスポット径を小さくした後、欠陥と予想される場所を再度走査し、高分解能な画像から判定すれば良い。電子線のスポット径を大きくすると電子線を走査するピッチを大きくすることができ、走査時間の短縮にも有効である。
【0037】
つぎに、欠陥を検出した後、電子線を用いて欠陥位置の近傍に印(マーク)をつける。具体的には、ガス導入手段9を試料上の電子線照射領域に近づけ、タングステンヘキサカルボナイト(WCO)などの蒸着ガスを導入しながら電子線2で試料5を走査する。このようにすることにより、電子線照射領域にはタングステンが堆積する。電子線を使用していることから、欠陥の極近傍に10nm以下の精度で印を付けることが可能である。堆積したタングステンを目印として、別の分析装置でも欠陥位置を特定することが可能となる。
【0038】
このように、ガス導入手段9から、電子線を試料に照射しながら蒸着ガスを導入することにより、試料面の電子線照射領域に蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを設けることができる。なお、蒸着ガス導入時の試料面における電子線スポット径は、集束レンズ4の有する能力の最も細い電子線スポット径であることが望ましい。
【0039】
以下に、本発明による欠陥検出方法を説明する。図3中のグラフ(10)は、今回用いた擬似欠陥の断面図に対応する。本例では、磁気記録媒体上に約5nmの段差を設けて擬似欠陥を作成した。なお、図中、横軸は、記録媒体面上の位置を示し、縦軸は、高さを示す。
【0040】
かかる擬似欠陥を有する磁気記録媒体面に電子線を照射して得られる検出信号は、上述した2つの検出器の差分であるため、グラフ(10)を微分して計算すると、グラフ(11)となる。
【0041】
まず、欠陥位置を含む領域のプロファイル情報を取得する。作製した擬似欠陥記録媒体を図1に示す装置のスピンドルモータ6にセットし、媒体を回転させる。次に、擬似欠陥を含むトラックに一次電子線を照射し、発生する二次電子を検出する。図4中のグラフ(12)は、上記の手順により、実際に電子線をグラフ(10)に示す擬似欠陥に照射して得られた信号プロファイルである。なお、グラフ(11)とグラフ(12)は正確に同じ場所における信号ではない。グラフ(12)は、検出器に起因する電気的なノイズ、媒体の粒径による細かな凹凸を含んだグラフになっているため高周波ノイズを多く含んでいる。そのため、グラフ(12)から、直接、段差によるピークを検出することは難しい。そこで、グラフ(12)をフーリエ変換し、ある波長以下を除去してから逆フーリエ変換をすると高周波成分を除去できる。いわゆるローパスフィルターである。
【0042】
グラフ(13)は波長46nm以上、グラフ(14)は100nm以上、グラフ(15)は167nm以上、グラフ(16)は350nm以上の周波数成分のみで再構成したグラフである。ある閾値以上を欠陥の候補として検出すれば、フーリエ変換しノイズを除去したグラフ(13)、(14)、(15)、(16)の場合、検出したい欠陥(図中矢印で示す部分)は、確実に少数に絞り込まれた欠陥候補の中に含まれることが分かる。
【0043】
ここで、上記のローパスフィルター処理や逆フーリエ変換処理等の信号処理は、画像処理・操作・制御部20により実行される。また、上記フーリエ変換におけるフィルターは、磁気記録媒体の磁性結晶粒径をr、検出したい欠陥サイズをdとしたとき、r<x<dを満たす所望の値xより小さいサイズのものに相当する波長が除去されるようなカットオフ周波数を設定すると良い。このようなカットオフ周波数は、情報入力手段を介して装置ユーザにより設定される。あるいは、欠陥サイズd、磁性結晶粒径rの情報と対応づけられたカットオフ周波数の設定値を画像処理・操作・制御部20に格納しておき、装置ユーザの入力した欠陥サイズ情報及び結晶粒径情報を検査キーとして適切な値を呼び出して、カットオフ周波数を設定しても良い。
【0044】
今回は1次元のデータに対してフーリエ変換を施しノイズを除去する例を示したが、2次元の画像に対しても同様の処理を適用することができる。また、今回示した例は、試料表面の凹凸の微分値に相当する情報に対して処理したものであるが、試料表面の凹凸情報に対しても同様の処理は有効である。
【0045】
試料の振動によるノイズなど、ランダムに発生するノイズに対しては、同じ場所を2回以上走査し、信号を積算することにより、相対的にノイズを小さくすることが可能である。また、欠陥と思われる信号が検出された場所を候補していくつか挙げておき、候補の場所のみ再度観察する。その際、倍率もしくは走査速度を変えることにより本物の欠陥であるか、ノイズであるのか識別することも可能である。
【0046】
試料5が磁性体部分と非磁性体部分から成る磁気記録媒体で、図5(a)に示すようなディスクリート媒体や、図6(a)に示すようなパターン媒体である場合、磁性体17と非磁性体18で材料は異なるが、本装置は凹凸を検出する装置であるため問題ない。
【0047】
図5(b)および図6(b)は、それぞれ、媒体上に作られた溝や穴を、非磁性体18や磁性体17で埋める前の状態を示す。このような状態で欠陥検査する場合、溝や穴が欠陥検出を妨げる。その場合、フーリエ変換のフィルターの下限値だけでなく上限値も決めておけば良い。磁性結晶粒径をr、検出したい欠陥サイズをd、溝もしくは穴の波長hとしたとき、フーリエ変換におけるフィルターは、r<x<dを満たす所望の値xより小さいサイズのものに相当する波長、およびh以上のサイズに相当する波長を除去するのが良い。
【0048】
例えば、溝が200nm間隔の場合、試料5の粒径以上検出したい欠陥サイズ以下の間の値で、所望とする値以下に相当する波長、および200nm以上の波長を除去してから、欠陥検出を行う。溝に起因する凹凸を除去したデータから欠陥を検出するため欠陥検出が容易になる。上限値以上の波長を全て除去するのではなく、溝の波長のみ除去することも有効である。
【0049】
なお、上述した本発明による手法は、磁気記録媒体だけでなく、光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体ウェハに対しても適用することが可能である。
【0050】
以上詳述したように、本発明によれば、電子線を用いた欠陥検査装置および欠陥検査方法により、高速かつ高分解能に記録媒体の欠陥検出が可能となる。また、欠陥検査装置により検査した検査部品の欠陥の有無は、欠陥情報を蓄積管理することにより、その後行う欠陥の原因分析等の作業に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例になる欠陥検査装置の構成を説明するための図。
【図2】本発明による電子線の軌跡を概略的に示した図。
【図3】欠陥の一例を示す信号波形図。
【図4】本発明による欠陥検出方法により処理された信号波形図。
【図5】記録媒体がディスクリート媒体である場合を示す図。
【図6】記録媒体がパターン媒体である場合を示す図。
【符号の説明】
【0052】
1…電子源、
2…電子線、
3…偏向電極、
4…集束レンズ、
5…試料、
6…スピンドルモータ、
7…送りステージ、
8…検出器、
9…ガス導入手段、
17…磁性体、
18…非磁性体、
20…画像処理・操作・制御部、
21…ビーム偏向制御部、
22…電子光学系制御部、
23…信号検出系制御部、
24…機構・ステージ制御部、
25…真空排気系。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源から発した電子線を、偏向電極および集束レンズを介して記録媒体面に照射し走査するための電子光学系と、前記記録媒体を回転させ、移動させるための位置制御手段と、前記記録媒体面から二次的に発生する電子を検出する検出手段と、前記検出手段の信号から前記記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を計算する手段と、前記凹凸情報もしくは凹凸の微分値からフーリエ変換を施すことにより前記記録媒体面の欠陥を検出する手段と、前記記録媒体面に蒸着ガスを導入するガス導入手段とを具備することを特徴とする記録媒体欠陥検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の記録媒体欠陥検査装置において、前記集束レンズは、前記記録媒体に照射される電子線のスポット径を変化させることができることを特徴とする記録媒体欠陥検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の記録媒体欠陥検査装置において、前記電子線スポット径は、前記記録媒体が磁気記録媒体である場合、初期検査段階では前記記録媒体面において媒体粒径以上検出したい欠陥サイズ以下であることを特徴とする記録媒体欠陥検査装置。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の記録媒体欠陥検査装置において、前記位置制御手段は、前記記録媒体を回転させるスピンドルモータと、前記記録媒体面内のX−Y方向への送りステージとを有し、前記記録媒体に電子線を照射しながら前記記録媒体を回転させて、前記記録媒体面から二次的に発生する電子を検出するよう構成したことを特徴とする記録媒体欠陥検査装置。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の記録媒体欠陥検査装置において、前記検出手段は、2つ以上の2次電子検出器を有し、向かい合う2次電子検出器の信号量の差分から前記記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を計算することを特徴とする記録媒体欠陥検出装置。
【請求項6】
請求項1又は3に記載の記録媒体欠陥検査装置において、前記ガス導入手段は、前記電子線を前記記録媒体に照射しながら蒸着ガスを導入することにより、前記記録媒体面の電子線照射領域に蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを設けることを特徴とする記録媒体欠陥検査装置。
【請求項7】
請求項6に記載の記録媒体欠陥検査装置において、前記蒸着ガス導入時の記録媒体面における電子線スポット径は、前記集束レンズの有する能力の最も細い電子線スポット径であることを特徴とする記録媒体欠陥検査装置。
【請求項8】
電子線を記録媒体面に照射しながら前記記録媒体を回転させて、前記記録媒体から二次的に発生する電子を検出するステップと、検出された信号から前記記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を求めるステップと、前記凹凸情報もしくは凹凸の微分値からフーリエ変換を施すことにより前記記録媒体面の欠陥を検出するステップと、前記電子線を前記記録媒体に照射しながら、前記記録媒体面に蒸着ガスを導入することにより、検出された前記記録媒体面の欠陥場所に前記蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを形成するステップとを含むことを特徴とする記録媒体欠陥検査方法。
【請求項9】
請求項8に記載の記録媒体欠陥検査方法において、前記記録媒体面の凹凸あるいはその微分値は、1次元あるいは2次元情報であることを特徴とする記録媒体欠陥検査方法。
【請求項10】
請求項8に記載の記録媒体欠陥検査方法において、前記記録媒体が、磁気記録媒体である場合、前記記録媒体表面の凹凸情報もしくはその微分値をフーリエ変換した情報から、磁気記録媒体の粒径以上検出したい欠陥サイズ以下の間の値で、所望とする値以下に相当する波長成分を除去するようにしたことを特徴とする記録媒体欠陥検査方法。
【請求項11】
請求項10に記載の記録媒体欠陥検査方法において、前記所望とする値以下に相当する波長成分を除去されたフーリエ変換後の情報から、さらに記録媒体面上に人為的につくられた連続構造物の波長成分を除去するようにしたこと特徴とする記録媒体欠陥検査方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の欠陥検査方法において、前記フーリエ変換された情報を、さらに逆フーリエ変換し、得られた情報から前記記録媒体面の欠陥を検出するようにしたことを特徴とする記録媒体欠陥検査方法。
【請求項13】
電子源から発した電子線を、偏向電極および集束レンズを介して磁気記録媒体に照射し走査するための電子光学系と、前記磁気記録媒体を回転させ、移動させるための位置制御手段と、2つ以上の検出器を有し、前記磁気記録媒体面から2次電子を検出する検出手段と、向かい合う前記検出器の信号量の差分から前記磁気記録媒体面の凹凸情報もしくは凹凸の微分値を求める手段と、前記凹凸情報もしくは凹凸の微分値からフーリエ変換を施すことにより前記磁気記録媒体面の欠陥を検出する手段と、前記磁気記録媒体面に蒸着ガスを導入するガス導入手段と、前記電子線を前記磁気記録媒体に照射しながら前記蒸着ガスを導入することにより、前記磁気記録媒体面の電子線照射領域に前記蒸着ガスの成分を堆積させ、マークを設ける手段とを具備することを特徴とする記録媒体欠陥検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−80327(P2007−80327A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264700(P2005−264700)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】