記録方法および記録装置
【課題】 記録条件によらず、記録動作中の記録ヘッドの保湿を適切に維持しインクの乾燥を抑制する。
【解決手段】 搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める。同時に、第1の供給口よりもインクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して空間の雰囲気湿度を高める。事前加湿で含水量が高められたシートの部位を、雰囲気湿度が高められた空間に進入させてインクジェット記録ヘッドで記録を行う。その際、記録条件に応じて、第1の加湿空気による加湿量を可変に設定する。
【解決手段】 搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める。同時に、第1の供給口よりもインクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して空間の雰囲気湿度を高める。事前加湿で含水量が高められたシートの部位を、雰囲気湿度が高められた空間に進入させてインクジェット記録ヘッドで記録を行う。その際、記録条件に応じて、第1の加湿空気による加湿量を可変に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドのインクの乾燥を抑制することができる記録方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のインクジェット記録ヘッドがシート搬送方向に沿って並べて配置されたプリンタにおいて、上流側から記録ヘッドのノズルの近傍に加湿気体を供給して流すことで記録ヘッドを保湿しインク乾燥を抑制する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−255053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紙などの材質からなるシートは、湿度に応じた平衡含水量(シートの水分がこれ以上変化しない状態)を有しており、湿度が高ければ空気中の水分を吸着し、湿度が低ければシート中の水分を放出する。加湿空気が送り込まれて湿度が高くなった状態の記録ヘッド近傍にシートが供給されると、シートによる水分の吸着が起きる。そのため、雰囲気の湿度低下が起きて、記録ヘッドを適切に保湿できなくなる畏れがある。とくに、複数の記録ヘッドが加湿空気の導入方向に沿って並べて設けられている構成では、上流から供給された加湿気体が下流側に伝わるまでには時間を要し、その間にシートで水分が吸着されると、下流側の記録ヘッドの保湿が不十分になりがちである。
【0005】
上述の課題に鑑みて、本発明の第1の目的は、記録動作中の記録ヘッドの保湿を適切に維持しインクの乾燥を抑制することができる記録方法および記録装置の提供である。
記録ヘッドの記録動作中のインクの乾燥状態は、記録時の種々の記録条件によって変化する。例えば、周囲環境の湿度が同じであってもシートの種類によってシートの平衡含水量は異なる。インクジェット用のシートの原紙には、レジンコートタイプ(以下RC紙と呼ぶ)のものと、紙ベースタイプ(以下バライタ紙と呼ぶ)などがある。RC紙は樹脂加工が施された原紙であり、バライタ紙に比べて紙の繊維中に水分を吸着しにくい。つまり、シート種類によってシートへの吸湿性(水分吸着の総量や速度)が異なる。そのため、そのため、想定よりも吸湿性の大きなシートを用いた場合は、上流から供給された加湿気体が下流側に伝わるまでには時間を要し、その間にシートで水分が吸着されると、下流側の記録ヘッドの保湿が不十分になりがちである。
【0006】
上述の課題に鑑みて、本発明の第2の目的は、記録条件によらず確実に記録ヘッドの保湿を行うことが可能な記録方法および記録装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の記録方法は、ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部でシートに記録を行う記録方法であって、搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第1ステップと、前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、前記第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップと、記録条件に応じて、前記第1の加湿空気による加湿量を可変に設定する第4ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シートを事前に加湿することでシートによる水分の吸着が抑制され、記録ヘッドの保湿を適切に維持することができ、吐出不良が抑制される。この際、記録条件に応じて加湿空気による加湿量を可変に設定するので、より確実にヘッド保湿がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シートのヒステリシス特性を示す図
【図2】第1実施形態の記録装置の構成図
【図3】加湿装置のシステム図
【図4】制御系のブロック図
【図5】第1加湿部4から記録部9にまでの領域を概念的に示す図である
【図6】シート種類に応じて第1の加湿空気の目標湿度を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図7】シート種類に応じて第1の加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図8】シート種類および環境温度に応じて第1の加湿空気の目標湿度および目標流量を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図9】ループ形成部の構造とループ形成の動作を示す図
【図10】領域2にループ形成部が設けられた形態を示す図
【図11】領域3にループ形成部が設けられた形態を示す図
【図12】シート種類に応じてシートの滞留時間を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図13】両面記録を行うことが可能な第2実施形態の記録装置の構成図
【図14】両面記録における動作シーケンスを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の説明に先立ち、記録媒体であるシート、例えばインクジェット光沢紙のヒステリシス特性について説明する。図1は、水分の吸着と脱離に関するヒステリシス特性を示している。インクジェット光沢紙などの紙は、相対湿度の変化による水分の吸着と脱離の関係は線形ではない。相対湿度が低いA点から相対湿度の高いB点へ雰囲気湿度が変化した場合、インクジェット光沢紙が雰囲気中の水分を吸着する。一方、相対湿度のより高いC点から、B点と同じ相対湿度まで相対湿度を下げると、インクジェット光沢紙が含有する含水量は、B点より多いD点の量まで水分を含有している。つまり、インクジェット光沢紙をある相対雰囲気湿度に曝す場合、相対湿度が低い状態から変化させるよりも、相対湿度が高い状態から変化させたほうがより多くの水分をインクジェット光沢紙は含有することができる。さらに、相対湿度のより高いC点から、D点の相対湿度に変化させた場合、インクジェット光沢紙から離脱する含水量が少ない。そのため、C点あるいはそれ以上の相対湿度に再度インクジェット光沢紙が曝される場合、B点から変化させるよりもD点から変化させる方が、インクジェット光沢紙が吸着する含水量は少ない。
【0011】
つまり、シートが記録部内に搬送される前に意図的にシートに水分を吸着させておけば、記録部内の相対湿度が高い状態でもシートへの水分の吸着を抑制することができる。そのため、記録ヘッドからインクが蒸発しないように、記録ヘッド周囲の相対湿度を高めておいた場合でも、シートによる水分の吸着が抑制されているので、記録ヘッド周囲の相対湿度を高めた状態を保つことができ、インクの乾燥を抑制できる。本発明はこのような考察を基になされている。
【0012】
(第1実施形態)
図2は本発明の第1実施形態にかかる記録装置の構成図であり、図中の黒い矢印は加湿された加湿空気の流れを示している。なお、本実施形態では加湿空気としているが、空気以外の加湿ガスであってもよい。本明細書で「空気」とは空気および空気以外のガスを総称した意味とする。また、本明細書では、シート搬送経路の任意の位置においてシート供給の側に近い方向を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0013】
本例の記録装置はいわゆるロールtoロール方式である。シート供給部41はロール状に巻かれた連続シートであるシート2を供給する。シート巻取部42は記録部9で記録の済んだシートをロール状に巻き取っていく。図2では、シート供給部41は1つのロールを保持するものであるが、複数のロールを保持して選択的にシートを供給するような形態であってもよい。
【0014】
記録部9は、図2の点線で示される筐体を有し、筐体の内部に搬送機構と記録部が設けられてユニット化されている。搬送機構は、シートの支持を補助するプラテン7と、駆動ローラ6および従動ローラ5からなる複数のローラ対を有する。駆動ローラ6は、回転可能な状態でプラテン7に一部が埋め込まれ、駆動源により回転してシートの搬送させる。従動ローラ5は、支持部材8(ホルダ)に支持され、シートを挟んで駆動ローラ6と対向する位置に配置されている。駆動ローラ6と従動ローラ5とのローラ対同士の間には、記録部を構成する記録ヘッド1が設けられている。記録ヘッド1は、シートの幅方向で最大記録幅にわたってインクを吐出するノズルが形成された固定式のフルラインタイプのライン型インクジェット記録ヘッドである。インクジェット方式は、本例では発熱体を用いる方式であるが、これに限らず、ピエゾ素子、静電素子、またはMEMS素子を用いる方式等にも適用可能である。シートの搬送方向に沿って色数分(図2では6色分)だけ記録ヘッド1が搬送方向に並んでおり、複数の記録ヘッド1は支持部材8に一体的に保持されている。記録ヘッド1には、インクタンクなどのインク供給部(不図示)からインクが供給される。なお、それぞれの記録ヘッド1は対応する色のインクを貯蔵するインクタンクと一体のユニットとしてもよい。記録部9は、ラインプリント方式で、移動するシートに対して各色の記録ヘッド1により各色のインクを付与して画像を形成していく。なお、本例ではシートとして連続シートであるロールシートを使用したが、単位長さ毎に折りたたまれた連続シート、あるいはカットシートなど種類は問わない。
【0015】
記録部9よりも、シートの搬送経路の上流側には、第1加湿部4(第1加湿部)が設けられている。第1加湿部4は、シートが記録部9に搬送されるのに先立ち、シートへの加湿を行う。第1加湿部4は、記録部9に進入する前のシートに加湿空気(第1の加湿空気)を供給し、シートに水分を吸着させてシートの含水量を高めるものである。第1加湿部4は、加湿装置、送風装置、供給口43(第1の供給口)及び、吸気口44を有している。加湿装置によって加湿された第1加湿部4内の空気(第1の加湿空気)は、送風装置により供給口43から噴き出して記録部9に進入する前のシートに供給される。吸気口44は、第1加湿部4内に空気を取り入れることができれば、どの位置に設けても良い。シートに沿って供給口43とは間隔をおいた位置に吸気口44を設け、供給口43が加湿された空気をシートに対して平行に近い方向から供給するような向きに供給口43を設けられている。供給口43から供給された空気を吸気口44から吸気できるため、加湿した空気を循環させることができ、加湿装置で使用される水の量を減らすことができる。
【0016】
第1加湿部4とは別に、記録部9内の記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間を加湿するための第2加湿部3(第2加湿部)が設けられている。第2加湿部3により、記録部9のシート導入口から加湿空気(第2の加湿空気)を送り込んで、複数の記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間の雰囲気湿度を高めることができる。これにより、複数の記録ヘッドのノズルが保湿され乾燥が抑制される。第2加湿部3には、第1加湿部4と共通の加湿装置、送風装置及び吸気口が設けられている。第2加湿部3には、供給ダクト46が接続されており、供給ダクト46の先端は加湿空気を噴き出す供給口45(第2の供給口)となっている。供給口45は、記録部9のシート導入口の付近に設けられており、供給口45から記録部9内の狭空間に加湿された空気(第2の加湿空気)を供給する。第1加湿部4の供給口43及び吸気口44は、第2加湿部3の供給口45よりも、記録部9からみて上流側に位置している。第2加湿部3で生成した加湿空気は供給ダクト46を通して供給口45まで導入するので、第2加湿部3の加湿空気生成部は、記録部9と第1加湿部4との間に位置していなくてもよい。
【0017】
第2加湿部3により供給された加湿空気は、記録部9の、シートの搬送経路およびその付近の狭空間を上流から下流に流れる。具体的には、記録ヘッド1の位置では、記録ヘッド1の先端(ノズルが形成された面)とシートとの隙間(以下、「記録ギャップ」と称す)を通過する。また、隣り合う記録ヘッド1同士の間では、加湿空気は支持部材8とシートとの間に形成される隙間を通過する。つまり、2種類の隙間を通過しながら加湿空気が下流側の記録ヘッド1まで伝達される。インクジェット方式においては記録ギャップが通常1mm前後と狭い。加湿した空気が記録ギャップを通過するときには、加湿した空気の流速が上がることとなり、記録を行うときに記録ヘッド1から吐出される吐出液滴(主滴、及びサテライト滴)の着弾精度に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、第2加湿部3から供給される加湿空気は、記録ギャップにおける流速が1m/秒以下となるよう設定することが望ましい。
【0018】
図3は、第1加湿部4と第2加湿部3に加湿空気を供給する加湿装置のシステム図である。外気口51から導入される外気と乾燥部52の排気とが混合器53内で混ぜられ、加湿空気として適する温度を備えた混合空気となる。乾燥部52は記録部9で記録されインクで濡れているシートを、シート巻取部42に巻き取る前に強制乾燥させるためのユニットである(図2では不図示)。乾燥部52からは高湿度で且つ高温の空気が排出され、このエネルギの一部が加湿空気の生成に利用されるので、装置全体のエネルギ効率が高い。加湿器55で混合器53から送られてくる混合空気と水タンク54から供給される水が混合され、シートへの加湿空気の供給に必要な温度と湿度を備えた加湿空気が作られる。加湿器55で作られた加湿空気は加湿空気タンク56に一旦貯蔵される。そして、記録時に必要な量の加湿空気が第1加湿部4と第2加湿部3とへそれぞれ送り込まれ、シートが必要な加湿性能を得るよう、加湿部が動作される。なお、混合器53と加湿器55の中にはヒータが配置されており、混合空気および加湿空気を最適な温度に微調節することができる。
【0019】
第1加湿部4から供給される第1の加湿空気と、第2加湿部3から供給される第2の加湿空気の湿度について説明する。記録ヘッド1の周囲の雰囲気は、記録ヘッド1からインクが蒸発しにくい雰囲気にする必要がある。例えば、温度が30〜40℃であるならば、相対湿度が60〜70%程度である。そのため、第2加湿部3においては、相対湿度として60〜70%程度に設定することが好ましいが、記録ヘッド1からインクが蒸発することを抑制することができれば、この限りではない。第1加湿部4では、平衡含水量になるようにシートに水分を吸着させることが好ましい。シート種類によって吸着できる含水量は変化するので、目安としては、第2加湿部3から供給される加湿空気の絶対湿度と同程度か、それ以上の絶対湿度に加湿した空気を第1加湿部4からシートに供給すればよい。
【0020】
図4は、本例のインクジェット記録装置の制御系のブロック図である。ホストコンピュータ10から記録すべき文字や画像のデータがインクジェット記録装置の受信バッファ11に入力される。また、正しくデータが転送されているかなどを確認するデータや、インクジェット記録装置の動作状態を知らせるデータがインクジェット記録装置からホストコンピュータ10に出力される。受信バッファ11のデータは制御部であるCPU12の管理のもとで、メモリ部13に転送されRAMに一時的に記憶される。メカコントロール部14はCPU12からの指令により、ラインヘッドキャリッジ、キャップおよびワイパ等の機構部(メカ部)15を駆動する。センサ/SW(スイッチ)コントロール部16は、温度センサや湿度センサなど各種センサやSW(スイッチ)からなるセンサ/SW部17からの信号をCPU12に送る。表示コントロール部18は、CPU12からの指令により、液晶表示器等の表示部19を制御する。加湿コントロール部20は、CPU12からの指令により加湿部(第1加湿部4、第2加湿部3)21を制御する。この時、CPU12では、様々な情報、例えば、環境温度、シート種類や厚み、ラインヘッドの温度、および記録される画像データの打ち込み量等から、シートへ供給する含水量を決定し、加湿部21の加湿条件の設定が行われている。記録ヘッドコントロール部22はCPU12からの指令により記録ヘッド1を駆動制御するとともに、記録ヘッド1の状態を示す温度情報等を検出してこれらをCPU12に伝える。
【0021】
以上の構成において、第1加湿部4は、記録部9よりもシートの搬送経路の上流側に設けられ、記録部9に進入する前のシートに第1の加湿空気を供給する。これにより、記録部9に進入する前にシートの含水量が高められる。第2加湿部3は、記録部9の搬送経路を加湿空気が上流から下流に流れるようにシート導入口から第2の加湿空気を供給する。記録部9では、シートが導入される前に予め第2の加湿空気が送り込まれて記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間の雰囲気湿度が高められ、記録ヘッドの保湿がなされる。また、動作として捉えると、第1ステップでは、搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める。同時に、第2ステップでは、第1の供給口よりも記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、ノズルが露出する狭空間に第2の加湿空気を供給して狭空間の雰囲気湿度を高め、ノズルの保湿を行う。そして、第3ステップでは、第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、第2ステップで雰囲気湿度が高められた狭空間に進入させて、インクジェット記録ヘッドで記録を行う。
【0022】
これにより、記録の際にシートが空間を通過する際には、シートは事前に第1の加湿空気により含水量が高められた状態であるので、シートが第2の加湿空気の水分を吸着することが抑制される。そのため、上流側の記録ヘッドから下流側の記録ヘッドに至るまでの狭空間は高い湿度が維持され続けて、ノズルは確実に保湿される。その結果、インクが吐出不能になったり吐出方向が乱れたりなどの、インク吐出不良の発生が抑制される。
【0023】
図5は、第1加湿部4から記録部9にまでの領域を概念的に示す図である。シートの含水量の変化に応じて領域1〜領域4の4つの領域を有している。領域1は、ロールから巻き出されたシートが第1加湿部4に導入される直前の状態である。領域1におけるシートの含水量Q1は記録装置の筐体内部の環境温湿度によって決まる。
【0024】
領域2は、第1加湿部4によって記録前にシートが事前加湿される領域である。第1加湿部4の加湿領域シートが抜ける直前のシートの含水量Q2は、含水量Q1に第1加湿部4でシートに吹き付けられた水蒸気により吸水量ΔQ1が足されたものとなる。すなわち、Q2=Q1+ΔQ1である。吸水量ΔQ1は、領域2でシートに吹きつける加湿空気(第1の加湿空気)の温湿度、および領域2にシートが滞留している時間によって決まる。
【0025】
領域3は、領域2で事前加湿されたシートの含水量が低下する領域である。領域3ではシートの水分の一部が水分離脱量ΔQ2だけ脱離して、記録部9にシートが導入される直前でのシートの含水量Q3は、Q2よりも小さな値となる。すなわち、Q3=Q2−ΔQ2である。水分離脱量ΔQ2は、記録装置の筐体内部の環境温湿度、およびシートが領域3にシートが滞留している時間によって決まる。
【0026】
領域4は、記録部9の内部で複数の記録ヘッド1のノズルが露出する空間を第2加湿部3から供給される加湿空気(第2の加湿空気)が上流から下流に流れる領域である。領域4の環境温湿度におけるシートの平衡含水量をQ4とする。領域4に導入される直前のシートの含水量Q3がQ4とほぼ等しければ、領域4でシートは新たに水分を吸着しないので、シートによってノズル近傍の湿度が低下することはない。したがって、含水量Q3がQ4を大きく下回ることがないように管理することで、記録ヘッド1のノズルの保湿を適切に維持することができる。
【0027】
上述したように、Q3=Q2−ΔQ2、Q2=Q1+ΔQ1の関係があるので、Q3=Q1+ΔQ1−ΔQ2となる。すなわち、含水量Q3は、初期のシート含水量Q1、領域2での吸水量ΔQ1、領域3での水分脱離量ΔQ2によって決定される。そこで、Q3がQ4とほぼ等しくなるように、記録装置の内部の環境温湿度、第1の加湿空気の温湿度および領域2での滞留時間、領域3での滞留時間を設定する。
【0028】
図1に示したシートのヒステリシス特性はシート種類によって変化する。したがって、吸湿性が大きいシートに対してはQ3=Q4とすることができずにQ3<Q4となって、領域4でシートが水分を吸着して、記録ヘッドの保湿が適切になされなくなる畏れがある。そこで、本実施形態では、使用するシート種類等の記録条件に応じて、第1の加湿空気による加湿量を可変に設定するものである。加湿量を可変に設定するための手法はいくつかあるので、順に説明する。
【0029】
(手法1)
加湿量を可変に設定する第1の手法は、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の湿度を可変に調整するものである。加湿空気の湿度が高くなるほど加湿量が大きくなる。図6のフローチャートは、シート種類に応じて第1の加湿空気の目標湿度を設定して制御する手順を示す。
【0030】
ステップS11では、記録に先立って、シート種類を判定するセンサによってシート種類に関する情報を取得する。例えば、シート表面を光学センサで光学的に読み取って表面状態からシート種類を判別するメディアセンサが知られている。また、センサを用いずに、オペレータによって指定されたシート情報から、シート種類に関する情報を取得するようにしてもよい。また、更なる別法として、記録ジョブの記述ファイルに記述されている情報からシート種類に関する情報を取得するようにしてもよい。その他にも周知の方式があり、いずれの方式であってもよい。以下はシートの種類が、光沢紙と半光沢紙いずれかであるかを例に挙げて説明する。この例では、光沢紙のベース紙はバライタ紙、半光沢紙のベース紙はRC紙である。
【0031】
ステップS12では、ステップS11で取得されたシート種類に関する情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の目標温湿度を設定する。表1は、具体的なデータテーブルのパラメータ値の一例である。バライタ紙のほうがRC紙よりも吸湿性が大きいので、半光沢紙よりも光沢紙の目標湿度を大きくしている。この例では目標温度はともに同じ値としているが、異ならせるようにしてもよい。
【0032】
【表1】
【0033】
ステップS13では、ステップS12で設定された目標温湿度に従って第1加湿部4を制御する。加湿コントロール部20のコントロールにより、図3の加湿器55での加湿空気の生成能力が可変とされる。なお、第1加湿部4での事前加湿を制御するとともに、第2加湿部3(供給口45)から供給する加湿空気による加湿量を可変に設定するよう制御してもよい。
【0034】
以上のシーケンスにより、より大きな吸湿性を持つ光沢紙に対しても十分な事前加湿が行われるので、記録動作中にすべての記録ヘッド1のノズルの保湿が適切に行われる。加えて、半光沢紙を用いる場合は、第1加湿部4で使用する水の消費量が少ないので、加湿空気の生成に伴なう消費電力が必要以上に増大することが抑制される。さらに、水補給の頻度が少なく、ランニングコストに優れる。
【0035】
(手法2)
加湿量を可変に設定する第2の手法は、第1加湿部4から供給する第1の加湿空気の単位時間あたりの流量を可変に調整するものである。流量が大きくなるほど加湿量が大きくなる。図7のフローチャートは、シート種類に応じて第1の加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定して制御する手順を示す。
【0036】
ステップS21では、先の図6のステップS11と同様、シート種類に関する情報を取得する。ステップS22では、ステップS21で取得されたシート種類に関する情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4から供給する加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定する。表2は、具体的なデータテーブルのパラメータ値の一例である。バライタ紙のほうがRC紙よりも吸湿性が大きいので、半光沢紙よりも光沢紙の目標流速(流量と比例)を大きくして流量を変えている。なお、供給する加湿空気の流量は変えても、加湿空気の温湿度は一定とする(たとえば、30℃、85%)。
【0037】
【表2】
【0038】
ステップS23では、ステップS22で設定された目標流量に従って第1加湿部4を制御する。単位時間あたりの流量を変化させるには、第1加湿部4の送風装置の送風能力を変える、あるいは供給口43に設けられた開口の面積を変えることで実現する。加湿コントロール部20のコントロールにより、送風装置の送風能力または開口面積が可変とされる。
【0039】
これにより、上述の手法1と同様の効果が得られる。また、手法1に比べて、加湿量を可変にする時間がより短時間になる利点がある。このため、シート供給部41が複数のロールを保持して選択的に供給する形態である場合に、使用するロールを切り替える際により短時間に切り替えを行うことができる。
【0040】
(手法3)
加湿量を可変に設定する第3の手法は、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の湿度を可変に調整するとともに、第1加湿部4から供給する第1の加湿空気の単位時間あたりの流量を可変に調整するものである。さらに、環境温度に応じてこれらの数値を変化させる。図8のフローチャートはその設定と制御の手順を示す。
【0041】
ステップS31では、先の図6のステップS11と同様、シート種類に関する情報を取得する。ステップS32では、記録装置に設けられた温度センサの出力から記録装置内部でシートが通過する領域の環境温度の情報を取得する。
【0042】
ステップS33では、取得したシート種類ならびに環境温度の情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の目標温湿度を設定する。ステップS34では、取得したシート種類ならびに環境温度の情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4から供給する第1の加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定する。表3−1、表3−2はデータテーブルの例を示す。表3−1は環境温度が25℃未満の場合のデータ、表3−2は環境温度が25℃以上の場合のデータであり、両者は目標湿度と目標流量が異なる。
【0043】
低温環境(25℃未満)よりも高温環境(25℃以上)のほうがシートへの加湿量が大きくなるように、表3−1、表3−2のパラメータが設定されている。これは、図5における領域1での初期の含水量Q1、および領域3での水分離脱量ΔQ2は環境温度に依存して変化するためである。すなわち、環境温度が低いほど、初期含水量Q1は大きく、且つ脱離分量ΔQ2は小さくなる。記録部9にシートが導入される直前でのシートの含水量Q3が、平衡含水量Q4を大きく下回らないようにするためには、第1加湿部4での事前加湿を増加させる必要がある。そのため、高温環境(25℃以上)ではシートへの加湿量がより大きくなるようにしている。
【0044】
【表3−1】
【0045】
【表3−2】
【0046】
ステップS35では、ステップS22で設定された目標湿度および目標流量に従って第1加湿部4を制御する。なお、環境温度に応じて、目標湿度と目標流量の両方ではなく、いずれか一方のみを可変にするようにしてもよい。
【0047】
本例によれば、上述の例の効果に加えて、記録動作中に環境温度が変化しても柔軟に対応してパラメータを切り替えることで、記録ヘッド1のノズルの保湿を確実に行うことができる。
【0048】
(手法4)
加湿量を可変に設定する第4の手法は、第1加湿部4の加湿領域(領域2)にシートが滞留する時間を可変に調整するものである。滞留時間を可変にするための具体的な手段として、供給口43の近傍において搬送されるシートにループを形成するループ形成部60を設けて、ループの大きさを変化させることで、加湿領域での実質的な滞留時間を可変にする。ループが大きくなるほど滞留時間が長くなり、加湿量も大きくなる。
【0049】
図9はループ形成部の構造とループ形成の動作を示す図である。図10は領域2(第1加湿部4の加湿領域)にループ形成部が設けられた形態を示す図である。ループ形成部60は、ループ形成ローラ65と、その周囲に沿って移動することができる2つの移動ローラ66を有する。ループ形成ローラ65と2つの移動ローラ66のいずれも回転駆動力を持たずに従動回転する。シートはループ形成ローラ65と移動ローラ66の間を通過する。シート搬送方向に沿って、ループ形成部60の上流と下流にはそれぞれ搬送ローラ61が設けられている。ループ形成ローラ65は移動機構により上下に移動する。図9(A)、図10(A)は、ループ形成ローラ65が上部に位置する状態であり、シートはループが形成されることなく搬送される。一方、図9(B)、図10(b)は、ループを形成するためにループ形成ローラ65が下方に移動した状態である。ループ形成ローラ65の移動に伴なって2つの移動ローラ66が左右に逃げるように移動する。ループ形成ローラ65の下半分にシートが巻き付き、且つ、ループ形成ローラ65と移動ローラ66の間にシートがニップされる。ループ形成ローラ65よってシートが押し下げられた分だけシートの搬送経路長が増大する。この増大したシートの長さを「ループ量」という。
【0050】
図12のフローチャートは、シート種類に応じてシートの滞留時間を設定して制御する手順を示す。ステップS41では、先の図6のステップS11と同様、シート種類に関する情報を取得する。
【0051】
ステップS42では、ステップS11で取得されたシート種類に関する情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、ループ形成部で形成する目標ループ量を設定する。表4は、具体的なデータテーブルのパラメータ値の一例である。バライタ紙のほうがRC紙よりも吸湿性が大きいので、半光沢紙よりも光沢紙の目標ループ量を大きくしている。
【0052】
【表4】
【0053】
ステップS43では、ステップS42で設定された目標ループ量に従ってループ形成部を制御する。図4のメカコントロール部14でメカ部15のループ形成部のモータを駆動を制御する。
【0054】
このように、第1加湿部4の加湿領域においてシートのループ量、すなわちシート搬送経路長を変化させることができる。シート搬送経路長が大きくなるほど、加湿領域にシートが滞留する滞留時間の長くなって、第1の加湿空気による加湿量が増大する。表4に示すように、より大きな吸湿性を持つ光沢紙に対しても十分な事前加湿が行われるので、記録動作中にすべての記録ヘッド1のノズルの保湿が適切に行われる。また、加湿量の調整はループ量を作るだけでよいので、手法1に比べて、加湿量を可変にする時間がより短時間になる利点がある。また、シートが連続シートの場合は、記録部の上流に設けたループ部に記録部でのシート搬送の精度安定性を保つ働きをさせることができ、高い記録精度が実現する。
【0055】
(手法5)
手法5は手法4の変形例である。図11では、領域3(前記第1の供給口と前記第2の供給口の間の非加湿領域)にループ形成部が設けられている。ループ形成部の構成および動作は図9で説明したものと同じである。図11(A)はループ形成ローラ65が上部に位置する状態、図11(b)はループを形成するためにループ形成ローラ65が下方に移動した状態である。領域3は非加湿領域なのでシート中の水分が離脱する。したがって、領域3での滞留時間が長いほど水分の離脱量も多くなってシートの含水量が低下する。第1加湿部4での事前加湿が過剰であった場合に、領域3に設けたループ形成ローラ65でループを形成することで、過剰な水分を離脱させるように制御する。これにより、シート種類が異なる場合にも適切な含水量Q3として記録部9にシートを導入することができる。
【0056】
以上説明した実施形態は、シート種類に応じて事前加湿を制御するものである。これ以外にも影響を及ぼし得る記録条件がある。たとえば、シートサイズ、シート厚み、片面コート紙か両面コート紙か、連続シートかカットシートかなどが挙げられる。シートサイズに関して言えば、シートサイズ(面積)が増えるほどに、全体が平衡含有量になるために必要な水分供給量が増大する。また、シート厚みに関して言えば、厚みが大きいほど必要な水分供給量が増大する。また、片面コート紙か両面コート紙かについて言えば、コート層が片面のみにある場合に比べて両面にある場合のほうが、必要な水分供給量が増大する。また、カットシートか連続シートかについて言えば、連続シートのほうが供給されるシートに途切れが無いので、必要な水分供給量が増大する。よって、これらの記録条件についても、記録条件に応じて第1の加湿空気による加湿量を可変に設定することが好ましい。
【0057】
さらにその他の記録条件として、記録時のシート搬送速度がある。シート搬送速度が大きくなると、領域2でのシート滞留時間が短くなって、平衡含水量に達しないうちに記録部9へと搬送されてしまう可能性がある。そこで、記録部9でのシート搬送速度が一律でない場合には、同様に、シート搬送速度に応じて第1の加湿空気による加湿量を可変に設定することが好ましい。加湿量を変えるには図6〜図8、図12のいずれの手法であってもよい。シート種類に関する情報を取得する代わりに、上述のいずれかの記録条件に関する情報を取得する。また、これら記録条件のうち複数を任意に組み合わせて、加湿量を可変に設定するようにしてもよい。
【0058】
以上説明した例は、固定式のフルラインタイプのライン型インクジェット記録ヘッドを備えたラインプリンタである。本発明は、ラインプリンタに限らずシリアルプリンタにも適用可能である。シリアルプリンタでは、記録ヘッドの走査とシートの所定量のステップ送りの交互動作により画像を形成していく。一回のステップ送り毎の記録ヘッドの走査回数(パス数)は記録モードに応じて1回〜複数回と可変である。つまり、ある時間あたりのシートの移動量、言い換えるとステップ移動の平均のシート搬送速度はパス数によって変化する。記録パス数が実質的にシート搬送速度を決定付け、パス数が多くなるほどシート搬送速度は遅くなる。シリアルプリンタでは、記録ヘッドの走査中はシート搬送は停止するので、シートが第1加湿部4の加湿領域に滞在する時間も記録モード(パス数)に応じて変化する。したがって、シリアルプリンタのシート搬送速度を記録条件として、上述した例と同様に、第1の加湿空気による加湿量を可変に設定することが好ましい。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の記録装置の第2実施形態について説明する。上述の実施形態では、シート種類に応じて事前加湿の加湿量を可変に設定するものである。これに対して本実施形態は、連続シートに対して両面記録を行うことができる記録装置であって、シート表面(第1面)への記録とシート裏面(第2面)への記録とで、事前加湿の加湿量を異ならせるものである。
【0060】
図13は、両面記録を行うことができる第2実施形態の記録装置の全体構成図である。図13(A)は、連続シートの第1面に複数の画像を順次記録する第1面記録モードを実行中の状態を示す。図13(B)は、連続シートの第2面に複数の画像を順次記録する第2面記録モードを実行中の状態を示す。シート供給部41から記録部9までの構成は先の実施形態と同様であり、領域1〜領域4を有している。さらに、カッタ部31、乾燥部32、シート巻取部33を有している。シート巻取部33は、シートを一時的に巻き取って表裏反転させる反転器として機能する。加湿装置は図3で説明したものと同様であるが、図3中の乾燥部52は本実施形態では乾燥部32である。乾燥部32から排出される高温多湿の空気は加湿空気生成のために再利用されるので、装置全体のエネルギ効率が高い。
【0061】
図14のフローチャートは、両面記録における動作シーケンスを示す。これらのシーケンスは制御部の制御によって実行される。ステップS51では、シート供給部41からシートを供給する。シートは第1面が上を向いた連続シートとして供給される。
【0062】
ステップS52では、シートの第1面に対して第1加湿部4で事前加湿を行う。第1実施形態で説明したように、使用するシート種類あるいはその他の記録条件に応じて第1の加湿空気による加湿量が可変に設定される。
【0063】
ステップS53では、事前加湿が行われて記録部9へ搬送されたシートの第1面に、複数の画像を順次記録していく。画像が形成された部位はカッタ部31を連続シートの状態で通過し、乾燥部32で記録されたシートの部位を加熱して乾燥を促進させる。乾燥部32はシートに対して温風を吹き付ける温風器を有している。
【0064】
ステップS54では、乾燥部32を通過したシートを連続シートのままシート巻取部33に巻き取っていく。巻き取りに際してシート巻取部33は反時計回り(図13)に回転する。そして、予定された枚数が画像の記録が済むか、シートのロールをすべて使い切るまで、ステップS51〜ステップS54を継続する。予定された枚数が画像の記録が済んだら、最後に記録した画像の後ろをカッタ部31で切断して、切断位置よりも下流の連続シートはシート巻取部33にすべて巻き取らせる。同時に、切断位置よりも上流に残された連続シートはバックフィードして、シート供給部41にすべて巻き取らせる。以上でシートの第1面への記録が終了する。続いて、シートの第2面への記録を開始する。
【0065】
ステップS55では、シート巻き取り部が時計回り(図13)に逆回転して、いったん巻き取ったシートを再び連続シートとして領域1に向けて供給する。このとき、供給されるシートは表裏が反転して、第2面が上を向いた状態で搬送される。
【0066】
ステップS56では、シートの第2面に対して第1加湿部4で事前加湿を行う。この際、第1の加湿空気による加湿量は、ステップS52での第1面への事前加湿とは異なるように設定される。加湿量を変える手法は、上述の第1実施形態の手法1〜手法5のいずれを採用してもよい。
【0067】
ステップS57では、事前加湿が行われて記録部9へ搬送されたシートの第2面に、第1面の画像に対応した複数の画像を順次記録していく。ステップS58では、記録した画像ごとにカッタ部31でシートをカットしていく。カットされた個々のシートは、乾燥部32を通過して乾燥を促進させる。ステップS59では、乾燥部32を通過したシートを記録装置の外部に1枚ずつ排出していく。こうして、両面に画像が記録された複数のカットシートが得られ、両面記録の動作シーケンスが終了する。
【0068】
ここで、第1面への記録が済んでシート巻取部33に巻き取られたシートは、事前加湿、記録(インク付与)および乾燥の各工程を経た状態である。そのため、シート供給部41での初期の含水量とは異なる状態にある。シートは所望の厚みを有しており、同じシートであっても第1面側と第2面側とで異なる含水量となり得る。シートが第1面の記録後に高温の乾燥部32を通過すると、第2面側の含水量が減少する。すなわち、第1面記録モードにおけるシートの第1面側の含水量よりも、第2面記録モードにおけるシートの第2面側の含水量のほうが少なくなる可能性が高い。そこで、ステップS57の二度目の事前加湿においては、ステップS52の一度目の事前加湿のときよりも加湿量を多くするように設定して、一度目の記録時と二度目の記録時とで記録部9の直前でシートの含水量Q3が大きく異なることがないようにする。
【0069】
なお、以上の説明は乾燥部32が十分な乾燥能力を有している場合である。乾燥部32の乾燥能力が非常に小さい、あるいは乾燥部32自体を省略した装置構成にした場合も考えられる。その場合は、第1面に記録されたシートは乾燥が促進されないままシート巻取部33にシートが巻き取られることになる。そのため、第2面記録のためにシートを供給すると、第1面記録における第1面側の含水量よりも、第2面記録における第2面側の含水量のほうが大きくなる可能性が高い。そこで、ステップS57の二度目の事前加湿においては、ステップS52の一度目の事前加湿のときよりも加湿量を少なくするように設定して、一度目の記録時と二度目の記録時とで記録部9の直前でシートの含水量Q3が大きく異なることがないようにする。
【0070】
このように、両面記録において第1面記録モードか第2面記録モードかに応じて、事前加湿の加湿量が異なるように設定する。加湿量の大小関係は、乾燥部32の有無や乾燥能力、その他、装置固有の条件によって決定する。この結果、いずれのモードでも記録ヘッドのノズルが適切に保湿され、第1面、第2面いずれにも良好な画像形成が可能となる。
【0071】
以上説明してきた各実施形態に共通の効果として、シートを事前に加湿することでシートによる水分の吸着が抑制され、記録ヘッドの保湿を適切に維持することができ、吐出不良が抑制される。この際、記録条件に応じて加湿空気による加湿量を可変に設定するので、より確実にヘッド保湿がなされる。
【符号の説明】
【0072】
1 記録ヘッド
2 シート
3 第2加湿部
4 第1加湿部
9 記録部
31 カッタ部
32 乾燥部
33 シート巻取部
41 シート供給部
42 シート巻取部
43 供給口(第1の供給口)
45 供給口(第2の供給口)
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドのインクの乾燥を抑制することができる記録方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のインクジェット記録ヘッドがシート搬送方向に沿って並べて配置されたプリンタにおいて、上流側から記録ヘッドのノズルの近傍に加湿気体を供給して流すことで記録ヘッドを保湿しインク乾燥を抑制する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−255053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
紙などの材質からなるシートは、湿度に応じた平衡含水量(シートの水分がこれ以上変化しない状態)を有しており、湿度が高ければ空気中の水分を吸着し、湿度が低ければシート中の水分を放出する。加湿空気が送り込まれて湿度が高くなった状態の記録ヘッド近傍にシートが供給されると、シートによる水分の吸着が起きる。そのため、雰囲気の湿度低下が起きて、記録ヘッドを適切に保湿できなくなる畏れがある。とくに、複数の記録ヘッドが加湿空気の導入方向に沿って並べて設けられている構成では、上流から供給された加湿気体が下流側に伝わるまでには時間を要し、その間にシートで水分が吸着されると、下流側の記録ヘッドの保湿が不十分になりがちである。
【0005】
上述の課題に鑑みて、本発明の第1の目的は、記録動作中の記録ヘッドの保湿を適切に維持しインクの乾燥を抑制することができる記録方法および記録装置の提供である。
記録ヘッドの記録動作中のインクの乾燥状態は、記録時の種々の記録条件によって変化する。例えば、周囲環境の湿度が同じであってもシートの種類によってシートの平衡含水量は異なる。インクジェット用のシートの原紙には、レジンコートタイプ(以下RC紙と呼ぶ)のものと、紙ベースタイプ(以下バライタ紙と呼ぶ)などがある。RC紙は樹脂加工が施された原紙であり、バライタ紙に比べて紙の繊維中に水分を吸着しにくい。つまり、シート種類によってシートへの吸湿性(水分吸着の総量や速度)が異なる。そのため、そのため、想定よりも吸湿性の大きなシートを用いた場合は、上流から供給された加湿気体が下流側に伝わるまでには時間を要し、その間にシートで水分が吸着されると、下流側の記録ヘッドの保湿が不十分になりがちである。
【0006】
上述の課題に鑑みて、本発明の第2の目的は、記録条件によらず確実に記録ヘッドの保湿を行うことが可能な記録方法および記録装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の記録方法は、ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部でシートに記録を行う記録方法であって、搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第1ステップと、前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、前記第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップと、記録条件に応じて、前記第1の加湿空気による加湿量を可変に設定する第4ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シートを事前に加湿することでシートによる水分の吸着が抑制され、記録ヘッドの保湿を適切に維持することができ、吐出不良が抑制される。この際、記録条件に応じて加湿空気による加湿量を可変に設定するので、より確実にヘッド保湿がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】シートのヒステリシス特性を示す図
【図2】第1実施形態の記録装置の構成図
【図3】加湿装置のシステム図
【図4】制御系のブロック図
【図5】第1加湿部4から記録部9にまでの領域を概念的に示す図である
【図6】シート種類に応じて第1の加湿空気の目標湿度を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図7】シート種類に応じて第1の加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図8】シート種類および環境温度に応じて第1の加湿空気の目標湿度および目標流量を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図9】ループ形成部の構造とループ形成の動作を示す図
【図10】領域2にループ形成部が設けられた形態を示す図
【図11】領域3にループ形成部が設けられた形態を示す図
【図12】シート種類に応じてシートの滞留時間を設定して制御する手順を示すフローチャート
【図13】両面記録を行うことが可能な第2実施形態の記録装置の構成図
【図14】両面記録における動作シーケンスを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態の説明に先立ち、記録媒体であるシート、例えばインクジェット光沢紙のヒステリシス特性について説明する。図1は、水分の吸着と脱離に関するヒステリシス特性を示している。インクジェット光沢紙などの紙は、相対湿度の変化による水分の吸着と脱離の関係は線形ではない。相対湿度が低いA点から相対湿度の高いB点へ雰囲気湿度が変化した場合、インクジェット光沢紙が雰囲気中の水分を吸着する。一方、相対湿度のより高いC点から、B点と同じ相対湿度まで相対湿度を下げると、インクジェット光沢紙が含有する含水量は、B点より多いD点の量まで水分を含有している。つまり、インクジェット光沢紙をある相対雰囲気湿度に曝す場合、相対湿度が低い状態から変化させるよりも、相対湿度が高い状態から変化させたほうがより多くの水分をインクジェット光沢紙は含有することができる。さらに、相対湿度のより高いC点から、D点の相対湿度に変化させた場合、インクジェット光沢紙から離脱する含水量が少ない。そのため、C点あるいはそれ以上の相対湿度に再度インクジェット光沢紙が曝される場合、B点から変化させるよりもD点から変化させる方が、インクジェット光沢紙が吸着する含水量は少ない。
【0011】
つまり、シートが記録部内に搬送される前に意図的にシートに水分を吸着させておけば、記録部内の相対湿度が高い状態でもシートへの水分の吸着を抑制することができる。そのため、記録ヘッドからインクが蒸発しないように、記録ヘッド周囲の相対湿度を高めておいた場合でも、シートによる水分の吸着が抑制されているので、記録ヘッド周囲の相対湿度を高めた状態を保つことができ、インクの乾燥を抑制できる。本発明はこのような考察を基になされている。
【0012】
(第1実施形態)
図2は本発明の第1実施形態にかかる記録装置の構成図であり、図中の黒い矢印は加湿された加湿空気の流れを示している。なお、本実施形態では加湿空気としているが、空気以外の加湿ガスであってもよい。本明細書で「空気」とは空気および空気以外のガスを総称した意味とする。また、本明細書では、シート搬送経路の任意の位置においてシート供給の側に近い方向を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0013】
本例の記録装置はいわゆるロールtoロール方式である。シート供給部41はロール状に巻かれた連続シートであるシート2を供給する。シート巻取部42は記録部9で記録の済んだシートをロール状に巻き取っていく。図2では、シート供給部41は1つのロールを保持するものであるが、複数のロールを保持して選択的にシートを供給するような形態であってもよい。
【0014】
記録部9は、図2の点線で示される筐体を有し、筐体の内部に搬送機構と記録部が設けられてユニット化されている。搬送機構は、シートの支持を補助するプラテン7と、駆動ローラ6および従動ローラ5からなる複数のローラ対を有する。駆動ローラ6は、回転可能な状態でプラテン7に一部が埋め込まれ、駆動源により回転してシートの搬送させる。従動ローラ5は、支持部材8(ホルダ)に支持され、シートを挟んで駆動ローラ6と対向する位置に配置されている。駆動ローラ6と従動ローラ5とのローラ対同士の間には、記録部を構成する記録ヘッド1が設けられている。記録ヘッド1は、シートの幅方向で最大記録幅にわたってインクを吐出するノズルが形成された固定式のフルラインタイプのライン型インクジェット記録ヘッドである。インクジェット方式は、本例では発熱体を用いる方式であるが、これに限らず、ピエゾ素子、静電素子、またはMEMS素子を用いる方式等にも適用可能である。シートの搬送方向に沿って色数分(図2では6色分)だけ記録ヘッド1が搬送方向に並んでおり、複数の記録ヘッド1は支持部材8に一体的に保持されている。記録ヘッド1には、インクタンクなどのインク供給部(不図示)からインクが供給される。なお、それぞれの記録ヘッド1は対応する色のインクを貯蔵するインクタンクと一体のユニットとしてもよい。記録部9は、ラインプリント方式で、移動するシートに対して各色の記録ヘッド1により各色のインクを付与して画像を形成していく。なお、本例ではシートとして連続シートであるロールシートを使用したが、単位長さ毎に折りたたまれた連続シート、あるいはカットシートなど種類は問わない。
【0015】
記録部9よりも、シートの搬送経路の上流側には、第1加湿部4(第1加湿部)が設けられている。第1加湿部4は、シートが記録部9に搬送されるのに先立ち、シートへの加湿を行う。第1加湿部4は、記録部9に進入する前のシートに加湿空気(第1の加湿空気)を供給し、シートに水分を吸着させてシートの含水量を高めるものである。第1加湿部4は、加湿装置、送風装置、供給口43(第1の供給口)及び、吸気口44を有している。加湿装置によって加湿された第1加湿部4内の空気(第1の加湿空気)は、送風装置により供給口43から噴き出して記録部9に進入する前のシートに供給される。吸気口44は、第1加湿部4内に空気を取り入れることができれば、どの位置に設けても良い。シートに沿って供給口43とは間隔をおいた位置に吸気口44を設け、供給口43が加湿された空気をシートに対して平行に近い方向から供給するような向きに供給口43を設けられている。供給口43から供給された空気を吸気口44から吸気できるため、加湿した空気を循環させることができ、加湿装置で使用される水の量を減らすことができる。
【0016】
第1加湿部4とは別に、記録部9内の記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間を加湿するための第2加湿部3(第2加湿部)が設けられている。第2加湿部3により、記録部9のシート導入口から加湿空気(第2の加湿空気)を送り込んで、複数の記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間の雰囲気湿度を高めることができる。これにより、複数の記録ヘッドのノズルが保湿され乾燥が抑制される。第2加湿部3には、第1加湿部4と共通の加湿装置、送風装置及び吸気口が設けられている。第2加湿部3には、供給ダクト46が接続されており、供給ダクト46の先端は加湿空気を噴き出す供給口45(第2の供給口)となっている。供給口45は、記録部9のシート導入口の付近に設けられており、供給口45から記録部9内の狭空間に加湿された空気(第2の加湿空気)を供給する。第1加湿部4の供給口43及び吸気口44は、第2加湿部3の供給口45よりも、記録部9からみて上流側に位置している。第2加湿部3で生成した加湿空気は供給ダクト46を通して供給口45まで導入するので、第2加湿部3の加湿空気生成部は、記録部9と第1加湿部4との間に位置していなくてもよい。
【0017】
第2加湿部3により供給された加湿空気は、記録部9の、シートの搬送経路およびその付近の狭空間を上流から下流に流れる。具体的には、記録ヘッド1の位置では、記録ヘッド1の先端(ノズルが形成された面)とシートとの隙間(以下、「記録ギャップ」と称す)を通過する。また、隣り合う記録ヘッド1同士の間では、加湿空気は支持部材8とシートとの間に形成される隙間を通過する。つまり、2種類の隙間を通過しながら加湿空気が下流側の記録ヘッド1まで伝達される。インクジェット方式においては記録ギャップが通常1mm前後と狭い。加湿した空気が記録ギャップを通過するときには、加湿した空気の流速が上がることとなり、記録を行うときに記録ヘッド1から吐出される吐出液滴(主滴、及びサテライト滴)の着弾精度に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、第2加湿部3から供給される加湿空気は、記録ギャップにおける流速が1m/秒以下となるよう設定することが望ましい。
【0018】
図3は、第1加湿部4と第2加湿部3に加湿空気を供給する加湿装置のシステム図である。外気口51から導入される外気と乾燥部52の排気とが混合器53内で混ぜられ、加湿空気として適する温度を備えた混合空気となる。乾燥部52は記録部9で記録されインクで濡れているシートを、シート巻取部42に巻き取る前に強制乾燥させるためのユニットである(図2では不図示)。乾燥部52からは高湿度で且つ高温の空気が排出され、このエネルギの一部が加湿空気の生成に利用されるので、装置全体のエネルギ効率が高い。加湿器55で混合器53から送られてくる混合空気と水タンク54から供給される水が混合され、シートへの加湿空気の供給に必要な温度と湿度を備えた加湿空気が作られる。加湿器55で作られた加湿空気は加湿空気タンク56に一旦貯蔵される。そして、記録時に必要な量の加湿空気が第1加湿部4と第2加湿部3とへそれぞれ送り込まれ、シートが必要な加湿性能を得るよう、加湿部が動作される。なお、混合器53と加湿器55の中にはヒータが配置されており、混合空気および加湿空気を最適な温度に微調節することができる。
【0019】
第1加湿部4から供給される第1の加湿空気と、第2加湿部3から供給される第2の加湿空気の湿度について説明する。記録ヘッド1の周囲の雰囲気は、記録ヘッド1からインクが蒸発しにくい雰囲気にする必要がある。例えば、温度が30〜40℃であるならば、相対湿度が60〜70%程度である。そのため、第2加湿部3においては、相対湿度として60〜70%程度に設定することが好ましいが、記録ヘッド1からインクが蒸発することを抑制することができれば、この限りではない。第1加湿部4では、平衡含水量になるようにシートに水分を吸着させることが好ましい。シート種類によって吸着できる含水量は変化するので、目安としては、第2加湿部3から供給される加湿空気の絶対湿度と同程度か、それ以上の絶対湿度に加湿した空気を第1加湿部4からシートに供給すればよい。
【0020】
図4は、本例のインクジェット記録装置の制御系のブロック図である。ホストコンピュータ10から記録すべき文字や画像のデータがインクジェット記録装置の受信バッファ11に入力される。また、正しくデータが転送されているかなどを確認するデータや、インクジェット記録装置の動作状態を知らせるデータがインクジェット記録装置からホストコンピュータ10に出力される。受信バッファ11のデータは制御部であるCPU12の管理のもとで、メモリ部13に転送されRAMに一時的に記憶される。メカコントロール部14はCPU12からの指令により、ラインヘッドキャリッジ、キャップおよびワイパ等の機構部(メカ部)15を駆動する。センサ/SW(スイッチ)コントロール部16は、温度センサや湿度センサなど各種センサやSW(スイッチ)からなるセンサ/SW部17からの信号をCPU12に送る。表示コントロール部18は、CPU12からの指令により、液晶表示器等の表示部19を制御する。加湿コントロール部20は、CPU12からの指令により加湿部(第1加湿部4、第2加湿部3)21を制御する。この時、CPU12では、様々な情報、例えば、環境温度、シート種類や厚み、ラインヘッドの温度、および記録される画像データの打ち込み量等から、シートへ供給する含水量を決定し、加湿部21の加湿条件の設定が行われている。記録ヘッドコントロール部22はCPU12からの指令により記録ヘッド1を駆動制御するとともに、記録ヘッド1の状態を示す温度情報等を検出してこれらをCPU12に伝える。
【0021】
以上の構成において、第1加湿部4は、記録部9よりもシートの搬送経路の上流側に設けられ、記録部9に進入する前のシートに第1の加湿空気を供給する。これにより、記録部9に進入する前にシートの含水量が高められる。第2加湿部3は、記録部9の搬送経路を加湿空気が上流から下流に流れるようにシート導入口から第2の加湿空気を供給する。記録部9では、シートが導入される前に予め第2の加湿空気が送り込まれて記録ヘッド1のノズルが露出する狭空間の雰囲気湿度が高められ、記録ヘッドの保湿がなされる。また、動作として捉えると、第1ステップでは、搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める。同時に、第2ステップでは、第1の供給口よりも記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、ノズルが露出する狭空間に第2の加湿空気を供給して狭空間の雰囲気湿度を高め、ノズルの保湿を行う。そして、第3ステップでは、第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、第2ステップで雰囲気湿度が高められた狭空間に進入させて、インクジェット記録ヘッドで記録を行う。
【0022】
これにより、記録の際にシートが空間を通過する際には、シートは事前に第1の加湿空気により含水量が高められた状態であるので、シートが第2の加湿空気の水分を吸着することが抑制される。そのため、上流側の記録ヘッドから下流側の記録ヘッドに至るまでの狭空間は高い湿度が維持され続けて、ノズルは確実に保湿される。その結果、インクが吐出不能になったり吐出方向が乱れたりなどの、インク吐出不良の発生が抑制される。
【0023】
図5は、第1加湿部4から記録部9にまでの領域を概念的に示す図である。シートの含水量の変化に応じて領域1〜領域4の4つの領域を有している。領域1は、ロールから巻き出されたシートが第1加湿部4に導入される直前の状態である。領域1におけるシートの含水量Q1は記録装置の筐体内部の環境温湿度によって決まる。
【0024】
領域2は、第1加湿部4によって記録前にシートが事前加湿される領域である。第1加湿部4の加湿領域シートが抜ける直前のシートの含水量Q2は、含水量Q1に第1加湿部4でシートに吹き付けられた水蒸気により吸水量ΔQ1が足されたものとなる。すなわち、Q2=Q1+ΔQ1である。吸水量ΔQ1は、領域2でシートに吹きつける加湿空気(第1の加湿空気)の温湿度、および領域2にシートが滞留している時間によって決まる。
【0025】
領域3は、領域2で事前加湿されたシートの含水量が低下する領域である。領域3ではシートの水分の一部が水分離脱量ΔQ2だけ脱離して、記録部9にシートが導入される直前でのシートの含水量Q3は、Q2よりも小さな値となる。すなわち、Q3=Q2−ΔQ2である。水分離脱量ΔQ2は、記録装置の筐体内部の環境温湿度、およびシートが領域3にシートが滞留している時間によって決まる。
【0026】
領域4は、記録部9の内部で複数の記録ヘッド1のノズルが露出する空間を第2加湿部3から供給される加湿空気(第2の加湿空気)が上流から下流に流れる領域である。領域4の環境温湿度におけるシートの平衡含水量をQ4とする。領域4に導入される直前のシートの含水量Q3がQ4とほぼ等しければ、領域4でシートは新たに水分を吸着しないので、シートによってノズル近傍の湿度が低下することはない。したがって、含水量Q3がQ4を大きく下回ることがないように管理することで、記録ヘッド1のノズルの保湿を適切に維持することができる。
【0027】
上述したように、Q3=Q2−ΔQ2、Q2=Q1+ΔQ1の関係があるので、Q3=Q1+ΔQ1−ΔQ2となる。すなわち、含水量Q3は、初期のシート含水量Q1、領域2での吸水量ΔQ1、領域3での水分脱離量ΔQ2によって決定される。そこで、Q3がQ4とほぼ等しくなるように、記録装置の内部の環境温湿度、第1の加湿空気の温湿度および領域2での滞留時間、領域3での滞留時間を設定する。
【0028】
図1に示したシートのヒステリシス特性はシート種類によって変化する。したがって、吸湿性が大きいシートに対してはQ3=Q4とすることができずにQ3<Q4となって、領域4でシートが水分を吸着して、記録ヘッドの保湿が適切になされなくなる畏れがある。そこで、本実施形態では、使用するシート種類等の記録条件に応じて、第1の加湿空気による加湿量を可変に設定するものである。加湿量を可変に設定するための手法はいくつかあるので、順に説明する。
【0029】
(手法1)
加湿量を可変に設定する第1の手法は、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の湿度を可変に調整するものである。加湿空気の湿度が高くなるほど加湿量が大きくなる。図6のフローチャートは、シート種類に応じて第1の加湿空気の目標湿度を設定して制御する手順を示す。
【0030】
ステップS11では、記録に先立って、シート種類を判定するセンサによってシート種類に関する情報を取得する。例えば、シート表面を光学センサで光学的に読み取って表面状態からシート種類を判別するメディアセンサが知られている。また、センサを用いずに、オペレータによって指定されたシート情報から、シート種類に関する情報を取得するようにしてもよい。また、更なる別法として、記録ジョブの記述ファイルに記述されている情報からシート種類に関する情報を取得するようにしてもよい。その他にも周知の方式があり、いずれの方式であってもよい。以下はシートの種類が、光沢紙と半光沢紙いずれかであるかを例に挙げて説明する。この例では、光沢紙のベース紙はバライタ紙、半光沢紙のベース紙はRC紙である。
【0031】
ステップS12では、ステップS11で取得されたシート種類に関する情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の目標温湿度を設定する。表1は、具体的なデータテーブルのパラメータ値の一例である。バライタ紙のほうがRC紙よりも吸湿性が大きいので、半光沢紙よりも光沢紙の目標湿度を大きくしている。この例では目標温度はともに同じ値としているが、異ならせるようにしてもよい。
【0032】
【表1】
【0033】
ステップS13では、ステップS12で設定された目標温湿度に従って第1加湿部4を制御する。加湿コントロール部20のコントロールにより、図3の加湿器55での加湿空気の生成能力が可変とされる。なお、第1加湿部4での事前加湿を制御するとともに、第2加湿部3(供給口45)から供給する加湿空気による加湿量を可変に設定するよう制御してもよい。
【0034】
以上のシーケンスにより、より大きな吸湿性を持つ光沢紙に対しても十分な事前加湿が行われるので、記録動作中にすべての記録ヘッド1のノズルの保湿が適切に行われる。加えて、半光沢紙を用いる場合は、第1加湿部4で使用する水の消費量が少ないので、加湿空気の生成に伴なう消費電力が必要以上に増大することが抑制される。さらに、水補給の頻度が少なく、ランニングコストに優れる。
【0035】
(手法2)
加湿量を可変に設定する第2の手法は、第1加湿部4から供給する第1の加湿空気の単位時間あたりの流量を可変に調整するものである。流量が大きくなるほど加湿量が大きくなる。図7のフローチャートは、シート種類に応じて第1の加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定して制御する手順を示す。
【0036】
ステップS21では、先の図6のステップS11と同様、シート種類に関する情報を取得する。ステップS22では、ステップS21で取得されたシート種類に関する情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4から供給する加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定する。表2は、具体的なデータテーブルのパラメータ値の一例である。バライタ紙のほうがRC紙よりも吸湿性が大きいので、半光沢紙よりも光沢紙の目標流速(流量と比例)を大きくして流量を変えている。なお、供給する加湿空気の流量は変えても、加湿空気の温湿度は一定とする(たとえば、30℃、85%)。
【0037】
【表2】
【0038】
ステップS23では、ステップS22で設定された目標流量に従って第1加湿部4を制御する。単位時間あたりの流量を変化させるには、第1加湿部4の送風装置の送風能力を変える、あるいは供給口43に設けられた開口の面積を変えることで実現する。加湿コントロール部20のコントロールにより、送風装置の送風能力または開口面積が可変とされる。
【0039】
これにより、上述の手法1と同様の効果が得られる。また、手法1に比べて、加湿量を可変にする時間がより短時間になる利点がある。このため、シート供給部41が複数のロールを保持して選択的に供給する形態である場合に、使用するロールを切り替える際により短時間に切り替えを行うことができる。
【0040】
(手法3)
加湿量を可変に設定する第3の手法は、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の湿度を可変に調整するとともに、第1加湿部4から供給する第1の加湿空気の単位時間あたりの流量を可変に調整するものである。さらに、環境温度に応じてこれらの数値を変化させる。図8のフローチャートはその設定と制御の手順を示す。
【0041】
ステップS31では、先の図6のステップS11と同様、シート種類に関する情報を取得する。ステップS32では、記録装置に設けられた温度センサの出力から記録装置内部でシートが通過する領域の環境温度の情報を取得する。
【0042】
ステップS33では、取得したシート種類ならびに環境温度の情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4で生成する第1の加湿空気の目標温湿度を設定する。ステップS34では、取得したシート種類ならびに環境温度の情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、第1加湿部4から供給する第1の加湿空気の単位時間あたりの目標流量を設定する。表3−1、表3−2はデータテーブルの例を示す。表3−1は環境温度が25℃未満の場合のデータ、表3−2は環境温度が25℃以上の場合のデータであり、両者は目標湿度と目標流量が異なる。
【0043】
低温環境(25℃未満)よりも高温環境(25℃以上)のほうがシートへの加湿量が大きくなるように、表3−1、表3−2のパラメータが設定されている。これは、図5における領域1での初期の含水量Q1、および領域3での水分離脱量ΔQ2は環境温度に依存して変化するためである。すなわち、環境温度が低いほど、初期含水量Q1は大きく、且つ脱離分量ΔQ2は小さくなる。記録部9にシートが導入される直前でのシートの含水量Q3が、平衡含水量Q4を大きく下回らないようにするためには、第1加湿部4での事前加湿を増加させる必要がある。そのため、高温環境(25℃以上)ではシートへの加湿量がより大きくなるようにしている。
【0044】
【表3−1】
【0045】
【表3−2】
【0046】
ステップS35では、ステップS22で設定された目標湿度および目標流量に従って第1加湿部4を制御する。なお、環境温度に応じて、目標湿度と目標流量の両方ではなく、いずれか一方のみを可変にするようにしてもよい。
【0047】
本例によれば、上述の例の効果に加えて、記録動作中に環境温度が変化しても柔軟に対応してパラメータを切り替えることで、記録ヘッド1のノズルの保湿を確実に行うことができる。
【0048】
(手法4)
加湿量を可変に設定する第4の手法は、第1加湿部4の加湿領域(領域2)にシートが滞留する時間を可変に調整するものである。滞留時間を可変にするための具体的な手段として、供給口43の近傍において搬送されるシートにループを形成するループ形成部60を設けて、ループの大きさを変化させることで、加湿領域での実質的な滞留時間を可変にする。ループが大きくなるほど滞留時間が長くなり、加湿量も大きくなる。
【0049】
図9はループ形成部の構造とループ形成の動作を示す図である。図10は領域2(第1加湿部4の加湿領域)にループ形成部が設けられた形態を示す図である。ループ形成部60は、ループ形成ローラ65と、その周囲に沿って移動することができる2つの移動ローラ66を有する。ループ形成ローラ65と2つの移動ローラ66のいずれも回転駆動力を持たずに従動回転する。シートはループ形成ローラ65と移動ローラ66の間を通過する。シート搬送方向に沿って、ループ形成部60の上流と下流にはそれぞれ搬送ローラ61が設けられている。ループ形成ローラ65は移動機構により上下に移動する。図9(A)、図10(A)は、ループ形成ローラ65が上部に位置する状態であり、シートはループが形成されることなく搬送される。一方、図9(B)、図10(b)は、ループを形成するためにループ形成ローラ65が下方に移動した状態である。ループ形成ローラ65の移動に伴なって2つの移動ローラ66が左右に逃げるように移動する。ループ形成ローラ65の下半分にシートが巻き付き、且つ、ループ形成ローラ65と移動ローラ66の間にシートがニップされる。ループ形成ローラ65よってシートが押し下げられた分だけシートの搬送経路長が増大する。この増大したシートの長さを「ループ量」という。
【0050】
図12のフローチャートは、シート種類に応じてシートの滞留時間を設定して制御する手順を示す。ステップS41では、先の図6のステップS11と同様、シート種類に関する情報を取得する。
【0051】
ステップS42では、ステップS11で取得されたシート種類に関する情報に応じて、予め制御部のメモリに記憶しているデータテーブルを参照して、ループ形成部で形成する目標ループ量を設定する。表4は、具体的なデータテーブルのパラメータ値の一例である。バライタ紙のほうがRC紙よりも吸湿性が大きいので、半光沢紙よりも光沢紙の目標ループ量を大きくしている。
【0052】
【表4】
【0053】
ステップS43では、ステップS42で設定された目標ループ量に従ってループ形成部を制御する。図4のメカコントロール部14でメカ部15のループ形成部のモータを駆動を制御する。
【0054】
このように、第1加湿部4の加湿領域においてシートのループ量、すなわちシート搬送経路長を変化させることができる。シート搬送経路長が大きくなるほど、加湿領域にシートが滞留する滞留時間の長くなって、第1の加湿空気による加湿量が増大する。表4に示すように、より大きな吸湿性を持つ光沢紙に対しても十分な事前加湿が行われるので、記録動作中にすべての記録ヘッド1のノズルの保湿が適切に行われる。また、加湿量の調整はループ量を作るだけでよいので、手法1に比べて、加湿量を可変にする時間がより短時間になる利点がある。また、シートが連続シートの場合は、記録部の上流に設けたループ部に記録部でのシート搬送の精度安定性を保つ働きをさせることができ、高い記録精度が実現する。
【0055】
(手法5)
手法5は手法4の変形例である。図11では、領域3(前記第1の供給口と前記第2の供給口の間の非加湿領域)にループ形成部が設けられている。ループ形成部の構成および動作は図9で説明したものと同じである。図11(A)はループ形成ローラ65が上部に位置する状態、図11(b)はループを形成するためにループ形成ローラ65が下方に移動した状態である。領域3は非加湿領域なのでシート中の水分が離脱する。したがって、領域3での滞留時間が長いほど水分の離脱量も多くなってシートの含水量が低下する。第1加湿部4での事前加湿が過剰であった場合に、領域3に設けたループ形成ローラ65でループを形成することで、過剰な水分を離脱させるように制御する。これにより、シート種類が異なる場合にも適切な含水量Q3として記録部9にシートを導入することができる。
【0056】
以上説明した実施形態は、シート種類に応じて事前加湿を制御するものである。これ以外にも影響を及ぼし得る記録条件がある。たとえば、シートサイズ、シート厚み、片面コート紙か両面コート紙か、連続シートかカットシートかなどが挙げられる。シートサイズに関して言えば、シートサイズ(面積)が増えるほどに、全体が平衡含有量になるために必要な水分供給量が増大する。また、シート厚みに関して言えば、厚みが大きいほど必要な水分供給量が増大する。また、片面コート紙か両面コート紙かについて言えば、コート層が片面のみにある場合に比べて両面にある場合のほうが、必要な水分供給量が増大する。また、カットシートか連続シートかについて言えば、連続シートのほうが供給されるシートに途切れが無いので、必要な水分供給量が増大する。よって、これらの記録条件についても、記録条件に応じて第1の加湿空気による加湿量を可変に設定することが好ましい。
【0057】
さらにその他の記録条件として、記録時のシート搬送速度がある。シート搬送速度が大きくなると、領域2でのシート滞留時間が短くなって、平衡含水量に達しないうちに記録部9へと搬送されてしまう可能性がある。そこで、記録部9でのシート搬送速度が一律でない場合には、同様に、シート搬送速度に応じて第1の加湿空気による加湿量を可変に設定することが好ましい。加湿量を変えるには図6〜図8、図12のいずれの手法であってもよい。シート種類に関する情報を取得する代わりに、上述のいずれかの記録条件に関する情報を取得する。また、これら記録条件のうち複数を任意に組み合わせて、加湿量を可変に設定するようにしてもよい。
【0058】
以上説明した例は、固定式のフルラインタイプのライン型インクジェット記録ヘッドを備えたラインプリンタである。本発明は、ラインプリンタに限らずシリアルプリンタにも適用可能である。シリアルプリンタでは、記録ヘッドの走査とシートの所定量のステップ送りの交互動作により画像を形成していく。一回のステップ送り毎の記録ヘッドの走査回数(パス数)は記録モードに応じて1回〜複数回と可変である。つまり、ある時間あたりのシートの移動量、言い換えるとステップ移動の平均のシート搬送速度はパス数によって変化する。記録パス数が実質的にシート搬送速度を決定付け、パス数が多くなるほどシート搬送速度は遅くなる。シリアルプリンタでは、記録ヘッドの走査中はシート搬送は停止するので、シートが第1加湿部4の加湿領域に滞在する時間も記録モード(パス数)に応じて変化する。したがって、シリアルプリンタのシート搬送速度を記録条件として、上述した例と同様に、第1の加湿空気による加湿量を可変に設定することが好ましい。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の記録装置の第2実施形態について説明する。上述の実施形態では、シート種類に応じて事前加湿の加湿量を可変に設定するものである。これに対して本実施形態は、連続シートに対して両面記録を行うことができる記録装置であって、シート表面(第1面)への記録とシート裏面(第2面)への記録とで、事前加湿の加湿量を異ならせるものである。
【0060】
図13は、両面記録を行うことができる第2実施形態の記録装置の全体構成図である。図13(A)は、連続シートの第1面に複数の画像を順次記録する第1面記録モードを実行中の状態を示す。図13(B)は、連続シートの第2面に複数の画像を順次記録する第2面記録モードを実行中の状態を示す。シート供給部41から記録部9までの構成は先の実施形態と同様であり、領域1〜領域4を有している。さらに、カッタ部31、乾燥部32、シート巻取部33を有している。シート巻取部33は、シートを一時的に巻き取って表裏反転させる反転器として機能する。加湿装置は図3で説明したものと同様であるが、図3中の乾燥部52は本実施形態では乾燥部32である。乾燥部32から排出される高温多湿の空気は加湿空気生成のために再利用されるので、装置全体のエネルギ効率が高い。
【0061】
図14のフローチャートは、両面記録における動作シーケンスを示す。これらのシーケンスは制御部の制御によって実行される。ステップS51では、シート供給部41からシートを供給する。シートは第1面が上を向いた連続シートとして供給される。
【0062】
ステップS52では、シートの第1面に対して第1加湿部4で事前加湿を行う。第1実施形態で説明したように、使用するシート種類あるいはその他の記録条件に応じて第1の加湿空気による加湿量が可変に設定される。
【0063】
ステップS53では、事前加湿が行われて記録部9へ搬送されたシートの第1面に、複数の画像を順次記録していく。画像が形成された部位はカッタ部31を連続シートの状態で通過し、乾燥部32で記録されたシートの部位を加熱して乾燥を促進させる。乾燥部32はシートに対して温風を吹き付ける温風器を有している。
【0064】
ステップS54では、乾燥部32を通過したシートを連続シートのままシート巻取部33に巻き取っていく。巻き取りに際してシート巻取部33は反時計回り(図13)に回転する。そして、予定された枚数が画像の記録が済むか、シートのロールをすべて使い切るまで、ステップS51〜ステップS54を継続する。予定された枚数が画像の記録が済んだら、最後に記録した画像の後ろをカッタ部31で切断して、切断位置よりも下流の連続シートはシート巻取部33にすべて巻き取らせる。同時に、切断位置よりも上流に残された連続シートはバックフィードして、シート供給部41にすべて巻き取らせる。以上でシートの第1面への記録が終了する。続いて、シートの第2面への記録を開始する。
【0065】
ステップS55では、シート巻き取り部が時計回り(図13)に逆回転して、いったん巻き取ったシートを再び連続シートとして領域1に向けて供給する。このとき、供給されるシートは表裏が反転して、第2面が上を向いた状態で搬送される。
【0066】
ステップS56では、シートの第2面に対して第1加湿部4で事前加湿を行う。この際、第1の加湿空気による加湿量は、ステップS52での第1面への事前加湿とは異なるように設定される。加湿量を変える手法は、上述の第1実施形態の手法1〜手法5のいずれを採用してもよい。
【0067】
ステップS57では、事前加湿が行われて記録部9へ搬送されたシートの第2面に、第1面の画像に対応した複数の画像を順次記録していく。ステップS58では、記録した画像ごとにカッタ部31でシートをカットしていく。カットされた個々のシートは、乾燥部32を通過して乾燥を促進させる。ステップS59では、乾燥部32を通過したシートを記録装置の外部に1枚ずつ排出していく。こうして、両面に画像が記録された複数のカットシートが得られ、両面記録の動作シーケンスが終了する。
【0068】
ここで、第1面への記録が済んでシート巻取部33に巻き取られたシートは、事前加湿、記録(インク付与)および乾燥の各工程を経た状態である。そのため、シート供給部41での初期の含水量とは異なる状態にある。シートは所望の厚みを有しており、同じシートであっても第1面側と第2面側とで異なる含水量となり得る。シートが第1面の記録後に高温の乾燥部32を通過すると、第2面側の含水量が減少する。すなわち、第1面記録モードにおけるシートの第1面側の含水量よりも、第2面記録モードにおけるシートの第2面側の含水量のほうが少なくなる可能性が高い。そこで、ステップS57の二度目の事前加湿においては、ステップS52の一度目の事前加湿のときよりも加湿量を多くするように設定して、一度目の記録時と二度目の記録時とで記録部9の直前でシートの含水量Q3が大きく異なることがないようにする。
【0069】
なお、以上の説明は乾燥部32が十分な乾燥能力を有している場合である。乾燥部32の乾燥能力が非常に小さい、あるいは乾燥部32自体を省略した装置構成にした場合も考えられる。その場合は、第1面に記録されたシートは乾燥が促進されないままシート巻取部33にシートが巻き取られることになる。そのため、第2面記録のためにシートを供給すると、第1面記録における第1面側の含水量よりも、第2面記録における第2面側の含水量のほうが大きくなる可能性が高い。そこで、ステップS57の二度目の事前加湿においては、ステップS52の一度目の事前加湿のときよりも加湿量を少なくするように設定して、一度目の記録時と二度目の記録時とで記録部9の直前でシートの含水量Q3が大きく異なることがないようにする。
【0070】
このように、両面記録において第1面記録モードか第2面記録モードかに応じて、事前加湿の加湿量が異なるように設定する。加湿量の大小関係は、乾燥部32の有無や乾燥能力、その他、装置固有の条件によって決定する。この結果、いずれのモードでも記録ヘッドのノズルが適切に保湿され、第1面、第2面いずれにも良好な画像形成が可能となる。
【0071】
以上説明してきた各実施形態に共通の効果として、シートを事前に加湿することでシートによる水分の吸着が抑制され、記録ヘッドの保湿を適切に維持することができ、吐出不良が抑制される。この際、記録条件に応じて加湿空気による加湿量を可変に設定するので、より確実にヘッド保湿がなされる。
【符号の説明】
【0072】
1 記録ヘッド
2 シート
3 第2加湿部
4 第1加湿部
9 記録部
31 カッタ部
32 乾燥部
33 シート巻取部
41 シート供給部
42 シート巻取部
43 供給口(第1の供給口)
45 供給口(第2の供給口)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部でシートに記録を行う記録方法であって、
搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第1ステップと、
前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、
前記第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップと、
記録条件に応じて、前記第1の加湿空気による加湿量を可変に設定する第4ステップと、
を有することを特徴とする記録方法。
【請求項2】
前記記録部では複数の前記インクジェット記録ヘッドがシートが搬送される方向に沿って上流から下流に並べて保持され、
前記第2ステップでは、前記第2の供給口から供給された前記第2の加湿空気の一部が、複数の前記記録ヘッドの前記ノズルとシートとの間を含む狭空間を前記上流から前記下流に向けて流れることを特徴とする、請求項1記載の記録方法。
【請求項3】
前記記録条件は、シート種類、シートサイズ、シート厚み、シート搬送速度、片面コート紙か両面コート紙か、連続シートかカットシートか、のうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする、請求項1または2記載の記録方法。
【請求項4】
前記記録条件は、シートに対して記録を繰り返す際に一度目の記録時か二度目の記録時かであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の記録方法。
【請求項5】
前記第4ステップでは、前記記録条件に応じて前記第1の供給口から供給する前記第1の加湿空気の湿度、単位時間あたりの流量の少なくとも一方を可変に設定することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の記録方法。
【請求項6】
前記第4ステップでは、前記第1の供給口からの前記第1の加湿空気が供給される加湿領域にシートが滞留する滞留時間を可変に設定することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の記録方法。
【請求項7】
前記第4ステップでは、前記第1の供給口の近傍もしくは前記第1の供給口と前記第2の供給口の間の非加湿領域において搬送されるシートにループを形成し、前記記録条件に応じて前記ループの大きさを変化させることで、前記滞留時間を可変に設定することを特徴とする、請求項6記載の記録方法。
【請求項8】
記録条件に応じて、前記第2の供給口から供給する加湿空気による加湿量を可変に設定するよう制御する第5ステップをさらに有することを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の記録方法。
【請求項9】
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部でシートの第1面と第2面に両面記録を行う記録方法であって、
搬送されるシートの第1面に対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第1ステップと、
前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、
前記第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップと、
シートの表裏を反転させる第4ステップと、
搬送されるシートの第2面に対して前記第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第5ステップと、
前記第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第6ステップと、
前記第6ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第5ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第7ステップと、
を有し、前記第1ステップと前記第5ステップとでは、前記第1の加湿空気による加湿量が異なることを特徴とする記録方法。
【請求項10】
前記第3ステップおよび前記第7ステップでは、記録されたシートの部位を加熱して乾燥させることを特徴とする、請求項9記載の記録方法。
【請求項11】
シートを供給するシート供給部と、
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部と、
前記シート供給部から供給されるシートに対して第1の加湿空気を供給するための、前記第1の加湿空気を噴き出す第1の供給口と、
前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給するための、前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられ前記第2の加湿空気を噴き出す第2の供給口と、
記録条件に応じて、前記第1の供給口から供給する加湿空気による加湿量を可変に設定するよう制御する制御部と、
を有することを特徴とする記録装置。
【請求項12】
前記記録部では複数の前記インクジェット記録ヘッドがシートが搬送される方向に沿って上流から下流に並べて保持され、前記第2の供給口から供給された前記第2の加湿空気の一部は、複数の前記記録ヘッドの前記ノズルとシートとの間を含む狭空間を前記上流から前記下流に向けて流れることを特徴とする、請求項11記載の記録装置。
【請求項13】
前記記録部で記録されたシートを加熱して乾燥させる乾燥部をさらに有し、前記乾燥部から排出される高温多湿の空気は前記第1の加湿空気または前記第2の加湿空気の生成に利用さされることを特徴とする、請求項11または12記載の記録装置。
【請求項1】
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部でシートに記録を行う記録方法であって、
搬送されるシートに対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第1ステップと、
前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、
前記第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップと、
記録条件に応じて、前記第1の加湿空気による加湿量を可変に設定する第4ステップと、
を有することを特徴とする記録方法。
【請求項2】
前記記録部では複数の前記インクジェット記録ヘッドがシートが搬送される方向に沿って上流から下流に並べて保持され、
前記第2ステップでは、前記第2の供給口から供給された前記第2の加湿空気の一部が、複数の前記記録ヘッドの前記ノズルとシートとの間を含む狭空間を前記上流から前記下流に向けて流れることを特徴とする、請求項1記載の記録方法。
【請求項3】
前記記録条件は、シート種類、シートサイズ、シート厚み、シート搬送速度、片面コート紙か両面コート紙か、連続シートかカットシートか、のうち少なくともいずれか一つであることを特徴とする、請求項1または2記載の記録方法。
【請求項4】
前記記録条件は、シートに対して記録を繰り返す際に一度目の記録時か二度目の記録時かであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の記録方法。
【請求項5】
前記第4ステップでは、前記記録条件に応じて前記第1の供給口から供給する前記第1の加湿空気の湿度、単位時間あたりの流量の少なくとも一方を可変に設定することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の記録方法。
【請求項6】
前記第4ステップでは、前記第1の供給口からの前記第1の加湿空気が供給される加湿領域にシートが滞留する滞留時間を可変に設定することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の記録方法。
【請求項7】
前記第4ステップでは、前記第1の供給口の近傍もしくは前記第1の供給口と前記第2の供給口の間の非加湿領域において搬送されるシートにループを形成し、前記記録条件に応じて前記ループの大きさを変化させることで、前記滞留時間を可変に設定することを特徴とする、請求項6記載の記録方法。
【請求項8】
記録条件に応じて、前記第2の供給口から供給する加湿空気による加湿量を可変に設定するよう制御する第5ステップをさらに有することを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の記録方法。
【請求項9】
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部でシートの第1面と第2面に両面記録を行う記録方法であって、
搬送されるシートの第1面に対して第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第1ステップと、
前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられた第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第2ステップと、
前記第1ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第2ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第3ステップと、
シートの表裏を反転させる第4ステップと、
搬送されるシートの第2面に対して前記第1の供給口から第1の加湿空気を供給してシートの含水量を高める第5ステップと、
前記第2の供給口から、前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給して前記空間の雰囲気湿度を高める第6ステップと、
前記第6ステップで含水量が高められたシートの部位を、前記第5ステップで雰囲気湿度が高められた空間に進入させて、前記インクジェット記録ヘッドで記録を行う第7ステップと、
を有し、前記第1ステップと前記第5ステップとでは、前記第1の加湿空気による加湿量が異なることを特徴とする記録方法。
【請求項10】
前記第3ステップおよび前記第7ステップでは、記録されたシートの部位を加熱して乾燥させることを特徴とする、請求項9記載の記録方法。
【請求項11】
シートを供給するシート供給部と、
ノズルが形成されたインクジェット記録ヘッドを含む記録部と、
前記シート供給部から供給されるシートに対して第1の加湿空気を供給するための、前記第1の加湿空気を噴き出す第1の供給口と、
前記ノズルが露出する空間に第2の加湿空気を供給するための、前記第1の供給口よりも前記インクジェット記録ヘッドに近い位置に設けられ前記第2の加湿空気を噴き出す第2の供給口と、
記録条件に応じて、前記第1の供給口から供給する加湿空気による加湿量を可変に設定するよう制御する制御部と、
を有することを特徴とする記録装置。
【請求項12】
前記記録部では複数の前記インクジェット記録ヘッドがシートが搬送される方向に沿って上流から下流に並べて保持され、前記第2の供給口から供給された前記第2の加湿空気の一部は、複数の前記記録ヘッドの前記ノズルとシートとの間を含む狭空間を前記上流から前記下流に向けて流れることを特徴とする、請求項11記載の記録装置。
【請求項13】
前記記録部で記録されたシートを加熱して乾燥させる乾燥部をさらに有し、前記乾燥部から排出される高温多湿の空気は前記第1の加湿空気または前記第2の加湿空気の生成に利用さされることを特徴とする、請求項11または12記載の記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−255573(P2011−255573A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131255(P2010−131255)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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