説明

記録方法及び記録装置

【課題】インクの滲みやすい材質の記録媒体が使用されても、滲みの少ないコード画像を記録できる記録方法及び記録装置を提供する。
【解決手段】透明インク又は白インクでセル形成領域CAの周囲に下地ドット95を印刷する。下地ドット95は滲んで広がり、セル形成領域CAの外周を含むエリアに下地ドット95により滲み抑制部が形成される。つまり、シートは滲み抑制部の部分で滲みにくい材質になる。次に、セル形成領域CAに黒インクで印刷ドット97の印刷が施される。このとき、セル形成領域CAの外周周辺部には下地ドット95による滲み抑制部が存在し、着弾した黒インクは滲みにくいので、印刷ドット97により滲みの少ない黒色のセル90,91が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンター等の流体を噴射することにより記録媒体に記録を施す記録方法及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、シリアルプリンターなどの印刷装置では、キャリッジを主走査方向に往復移動させつつ、その移動途中にキャリッジに設けられた記録ヘッドのノズルからインク滴を噴射してターゲットに文書や画像を印刷する。記録ヘッドのターゲットと対向するノズル形成面には、主走査方向と交差する副走査方向に複数個(例えば180個)のノズルを一定ピッチで配列するノズル列が色毎に形成されている。
【0003】
例えば画像の一部に、バーコードや2次元コードなどのコード画像が印刷される場合がある。コード画像は比較的小さく、さらにバーコードであればそれが数本〜数10本のバー(セル)から構成され、2次元コードであれば数10〜数100個の多数個のセルから構成される。このため、セル1個は非常に小さく、その形状も、四角形状や四角環状のものなどがある。例えば四角形状の小さなセルは、数10ドット〜数100ドットで印刷される。
【0004】
例えば特許文献1には、記録媒体にバーコードを印刷する印刷装置が開示されている。また、特許文献2には、滲みの少ない細幅のバーコードを印刷することができるインクジェット用のインク組成物が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、コード画像の外周を形成するドットの一部あるいは全部を、外周以外のドットよりも小さくするインクジェット記録方法が開示されている。この記録方法によれば、コード画像を記録する黒画像領域のドットが、隣接する白領域へはみ出す量を低減できる。さらに特許文献4には、2次元コードの黒色セルを印刷する際、インク吐出エリアの最外周にインク滲み調整部を設け、インク滲み調整部にはインクを吐出せず、その3方に着弾したインクがインク滲み調整部に向かって滲むことで、黒色セルの滲みを低減する印刷方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−341144号公報
【特許文献2】特開2003−311948号公報
【特許文献3】特開2003−237059号公報
【特許文献4】特開2008−183778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、商業用のインクジェットプリンターで印刷物(製品)を印刷する場合、ユーザー側の都合あるいは製品の都合上、インクが滲みやすい材質の記録媒体が使用される場合がある。例えばインクに対して滲みやすい材質の記録媒体を用いて、バーコードや2次元コード等のコード画像が印刷された場合、コード画像を構成する各セルが滲んで、別々のセルであることが認識できなくなり、読み取りエラーの原因となるという問題があった。
【0008】
例えば特許文献2に記載のインク組成物を用いても、滲みやすい材質の記録媒体が用いられた場合は、インクの滲みの抑制にも限界がある。
また、特許文献3及び4に記載の方法では、コード画像の外周を形成するドットを外周以外のドットよりも小さくしたり、ドットを間引きしたインク滲み調整部にインクが向かうようにインクの滲む方向を制御したりするものの、記録媒体が非常に滲みやすい材質である場合には、インクの滲みを抑制するにも限界がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、流体の滲みやすい材質の記録媒体が使用されても、滲みの少ないコード画像を記録できる記録方法及び記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的の一つを達成するために、本発明の態様の一つは、コード画像を記録媒体に記録する記録方法であって、記録媒体におけるコード画像を構成するセルが形成されるセル形成領域の周囲に、透明、白色又は淡色の第1インクを着弾させて当該第1インクのドットにより滲み抑制部を形成する第1ステップと、前記記録媒体における前記セル形成領域に黒色又は濃色の第2インクを着弾させて当該第2インクのドットにより前記セルを形成する第2ステップと、を備えることを要旨とする。
【0011】
本発明の一実施態様によれば、第1ステップにおいて、記録媒体におけるセル形成領域の周囲に、透明、白色又は淡色の第1インクを着弾させて、第1インクのドットにより滲み抑制部が形成される。そして、第2ステップにおいて、記録媒体におけるセル形成領域に黒色又は濃色の第2インクを着弾させて第2インクのドットによりセルが形成される。従って、インクの滲みやすい材質の記録媒体が使用されても、滲みの少ないコード画像を記録できる。
【0012】
本発明の態様の一つである記録方法では、前記第1記録ステップでは、前記セル形成領域を囲むように前記第1インクでドットを記録することが好ましい。
本発明の一実施態様によれば、セル形成領域を囲むように第1インクでドットが形成されるので、第2インクの滲みを効果的に抑制できる。
【0013】
本発明の態様の一つである記録方法では、前記第1ステップでは、前記セル形成領域から所定距離以内の領域に前記第1インクのドットを着弾させることが好ましい。
本発明の一実施態様によれば、セル形成領域から所定距離以内の領域に第1インクのドットを着弾させるので、第1インクの消費量を少なく抑えつつ、コード画像の滲みを抑制することができる。
【0014】
本発明の態様の一つである記録方法では、前記第1ステップでは、前記セル形成領域の境界線に沿って少なくとも1列のドット列を形成することが好ましい。
本発明の一実施態様によれば、セル形成領域の境界線に沿って少なくとも1列のドット列が形成されるので、第2インクの滲みを効果的に抑制して、コード画像の滲みを抑えることができる。
【0015】
本発明の態様の一つである記録方法では、記録手段が、主走査方向に1回移動して記録を施す主走査と、前記主走査方向と交差する副走査方向へ前記記録手段と前記記録媒体とを相対移動させる副走査とを交互に行ってM回の主走査ごとに1つの画像を形成する構成であり、前記第1ステップは、1回目の主走査で前記第1インクを着弾させることにより行われ、前記第2ステップは、2回目以降の主走査で前記第2インクを着弾させることにより行われることが好ましい。
【0016】
本発明の一実施態様によれば、第1ステップは1回目の主走査で第1インクを着弾させることにより行われ、第2ステップは2回目以降の主走査で第2インクを着弾させることにより行われる。よって、記録手段が1つの画像を記録する主走査回数で、滲みの抑制されたコード画像を効率よく記録することができる。
【0017】
本発明の態様の一つである記録方法では、前記第2ステップでは、前記セル形成領域の内側1列目のドットはそれより内側の領域を記録する際のドットサイズよりも小さなドットサイズで記録することが好ましい。
【0018】
本発明の一実施態様によれば、セル形成領域の内側1列目のドットは、それより内側の領域を記録する際のドットサイズよりも小さなドットサイズで記録される。このため、セルをきれいな形状に記録できる。
【0019】
本発明の態様の一つは、記録媒体にインクを噴射して画像を記録する記録装置であって、インクを噴射する記録手段と、前記記録手段と記録媒体とを相対移動させる相対移動手段と、前記記録手段及び前記相対移動手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記記録媒体にコード画像を形成する場合に、前記記録媒体における前記コード画像を構成するセルが形成されるセル形成領域の周囲に、前記記録手段から噴射させた透明、白色又は淡色の第1インクを着弾させて当該第1インクのドットにより滲み抑制部を形成するように前記記録手段を制御するとともに、前記滲み抑制部の形成後に、前記記録媒体における前記セル形成領域に、前記記録手段から噴射させた黒色又は濃色の第2インクを着弾させて当該第2インクのドットにより前記セルを形成するように、前記記録手段を制御することを要旨とする。本発明の一実施態様の記録装置によれば、上記記録方法に係る発明と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を具体化した第1の実施形態における印刷システムの模式正面図。
【図2】記録ユニットの模式底面図。
【図3】印刷システムの電気的構成を示すブロック図。
【図4】コントローラーの機能構成を説明するブロック図。
【図5】印刷領域の周辺の構成を示す模式平面図。
【図6】コード画像の印刷に用いられる2版の画像データを示す模式図。
【図7】コード画像を構成する一部のセルを示す模式図。
【図8】(a),(b)比較例におけるセルの印刷手順を示す模式図。
【図9】(a)〜(c)本実施形態におけるセルの印刷手順を示す模式図。
【図10】(a)〜(c)シート種類に応じた滲み長の計測方法を説明する模式図。
【図11】滲み長の計測方法を説明する模式図。
【図12】セル印刷時のドット形成方法を説明する模式図。
【図13】ホスト装置内の画像生成装置の機能構成を示すブロック図。
【図14】(a)〜(d)シートにドットを形成する印刷手順を説明する模式断面図。
【図15】印刷処理ルーチンを示すフローチャート。
【図16】第2の実施形態における版画像データを示す模式図。
【図17】セル印刷時のドット形成方法を説明する模式図。
【図18】印刷処理ルーチンを示すフローチャート。
【図19】変形例におけるセル印刷時のドット形成方法を説明する模式図。
【図20】図19と異なる変形例のセル印刷時のドット形成方法を説明する模式図。
【図21】図20と異なる変形例のセル印刷時のドット形成方法を説明する模式図。
【図22】図21と異なる変形例のセル印刷時のドット形成方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明をラテラルスキャン方式のインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図1〜図15に従って説明する。
【0022】
図1に示すように、印刷システム100は、画像データを生成する画像生成装置110と、画像生成装置110から受信した画像データを基に印刷データを生成するホスト装置120と、ホスト装置120から受信した印刷データに基づく画像を印刷する記録装置の一例としてのラテラルスキャン方式のインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター11」と称す)とを備えている。
【0023】
画像生成装置110は、例えばパーソナルコンピューターにより構成され、その本体111内のCPUが画像作成用プログラムを実行することで構築される画像生成部112を備える。ユーザーは、画像生成部112を起動して入力装置113の操作で、モニター114上で印刷用の画像を作成する。例えば製品がラベルの場合、複数個のラベルの画像を縦横に配列した複数コマ画像が作成される。そして、入力装置113を用いて所定の操作をすると、その画像に係る画像データが通信インターフェイスを介してホスト装置120へ送信される。もちろん、ホスト装置120を操作して画像生成装置110から画像データをホスト装置120内に読み込むことも可能である。
【0024】
ホスト装置120は、例えばパーソナルコンピューターにより構成され、その本体121内のCPUがプリンタードライバー用プログラムを実行することで構築されるプリンタードライバー122を備える。プリンタードライバー122は、画像データを基に印刷データを生成し、その印刷データをプリンター11に設けられた制御装置Cへ送信する。制御装置Cは、プリンタードライバー122から受信した印刷データに基づいてプリンター11を制御し、印刷データに基づく画像をプリンター11に印刷させる。モニター123には、メニュー画面や印刷対象の画像等が表示される。メニュー画面での選択操作で表示されるその下位の印刷設定画面では、印刷対象の製品(例えばラベル等)に関する管理情報、及び各種の印刷条件などを入力設定することが可能である。
【0025】
ここで、管理情報には、製品の品番やロット番号、両面印刷の場合に表面印刷か裏面印刷かを指定するための印刷面情報などがある。また、印刷条件には、印刷媒体の種類、サイズ、印刷品質及び版数などがある。印刷媒体の種類には、大きくは紙系とフィルム系がある。例えば紙系には、上質紙、キャスト紙、アート紙、コート紙などがあり、フィルム系には合成紙、PET、PPなどがある。また、印刷媒体のサイズには、長尺状の印刷媒体が巻回されたロールの使用を前提とする本プリンター11では、ロール幅などが設定される。印刷品質には、印刷解像度や記録方式を決める複数種の印刷モードが用意されており、その中から一つ印刷モードを選択する。もちろん、印刷モードに替え、印刷解像度を設定してもよい。また、版数には、印刷媒体の同一エリアに複数の版(画像)を重ねて印刷する複数版印刷を行う場合に、その版(画像)の数が設定される。版数が2以上の場合、版毎に画像を指定することが可能である。
【0026】
次に、図1に示すプリンター11の構成について説明する。なお、以下の明細書中の説明において、「左右方向」、「上下方向」をいう場合は、図1に矢印で示した方向を基準として示すものとする。また、図1において手前側を前側、奥側を後側とする。
【0027】
図1に示すように、プリンター11の直方体状の本体ケース12内には、長尺状のシート13をロールR1から繰り出す繰出し部14と、そのシート13にインク(液体)の噴射により印刷を施す印刷室15と、その印刷によりインクが付着したシート13に乾燥処理を施す乾燥装置16(乾燥炉)と、乾燥処理が施されたシート13をロールR2として巻き取る巻取り部17とが設けられている。
【0028】
本体ケース12内を上下に区画する平板状の基台18よりも上側の領域が印刷室15になっており、この印刷室15内の底部中央位置には、シート13の印刷エリアを支持するための矩形板状の支持台19が基台18上に支持された状態で配置されている。そして、本体ケース12内の基台18より下側の領域には、シート13の搬送方向で上流側となる左側寄りの位置に繰出し部14が配設されると共に、下流側となる右側寄りの位置に巻取り部17が配設されている。そして、繰出し部14と巻取り部17の間のやや上方位置に乾燥装置16が配設されている。なお、支持台19の下面には、支持台19を所定温度(例えば40〜60℃)に加熱するためのヒーター19Aが設けられており、シート13のうち印刷が施された部分は支持台19上で一次乾燥される。そして、一次乾燥の終わったシート13は乾燥装置16内で二次乾燥されるようになっている。
【0029】
図1に示すように、繰出し部14には巻き軸20が回転自在に設けられ、ロールR1がその巻き軸20に対して一体回転可能に支持されている。そして、シート13は、巻き軸20が回転することによりロールR1から繰り出されるようになっている。ロールR1から繰り出されたシート13は、巻き軸20の右側に位置する第1ローラー21に巻き掛けられて上方へ案内される。
【0030】
第1ローラー21によって搬送方向が鉛直上方向に変換されたシート13は、支持台19の左側であって第1ローラー21と上下方向で対応する位置に配置された第2ローラー22に左側下方から巻き掛けられる。そして、第2ローラー22に巻き掛けられて搬送方向が水平右方向に変換されたシート13は、支持台19の上面に摺接するようになっている。
【0031】
また、支持台19の右側には、左側の第2ローラー22と支持台19を挟んで対向する第3ローラー23が設けられている。第2ローラー22及び第3ローラー23は各々の周面の頂部が支持台19の上面と同一高さとなるように位置調整されている。
【0032】
支持台19の上面から下流側(右側)に搬送されたシート13は、第3ローラー23に右側上方から巻き掛けられて搬送方向が鉛直下方向に変換され、その後、支持台19の下側に配置された第4ローラー24及び第5ローラー25間を水平方向に案内される。シート13は、これらローラー24,25間の搬送経路の途中で乾燥装置16内を通過するようになっている。そして、乾燥装置16内で乾燥処理が施されたシート13は、第5ローラー25、第6ローラー26及び第7ローラー27に案内されて巻取り部17の近くまで搬送され、搬送モーター61(図2参照)の駆動力に基づいて巻取り軸28が回転することによりロールR2として巻き取られる。
【0033】
例えば両面印刷時は、表面印刷が施されたシート13が全てロールR2に巻き取られると、そのロールR2を取り外し、裏面印刷供給用のロールR1として再び繰出し部14にセットする。そして、ロールR1からのシート13はその裏面が印刷面になるように図1に二点鎖線で示す経路で第1ローラー21に巻き掛けられる。なお、乾燥装置16と巻取り部17との間における搬送経路の途中に、シート13に印刷された製品部分(例えばラベル)を型抜き可能な型抜き用の加工機(不図示)を設け、プリンター11内で製品部分の型抜き工程まで終えられる構成を採用してもよい。
【0034】
図1に示すように、印刷室15内における支持台19の前後方向両側には、左右方向に延びるガイドレール29(図1では2点鎖線で示す)が一対設けられている。一対のガイドレール29には、記録手段の一例である記録ユニット30が主走査方向Xに往復移動可能に案内される。記録ユニット30は矩形状のキャリッジ31と、キャリッジ31の下面側に支持板32を介して支持された複数の記録ヘッド33とを備えている。キャリッジ31は、第1キャリッジモーター62(図2参照)の駆動に基づき両ガイドレール29に沿って主走査方向X(図1では左右方向)への往復移動が可能な状態で支持されている。また、キャリッジ31は第2キャリッジモーター63(図2参照)の駆動に基づき副走査方向Y(図1では紙面と直交する前後方向)への移動も可能となっている。これにより記録ユニット30は主走査方向Xと副走査方向Yとの2方向への移動が可能となっている。
【0035】
支持台19の上面のほぼ全域に亘る一定範囲が印刷領域となっており、シート13はこの印刷領域に対応する印刷エリア単位で間欠的に搬送される。支持台19の下側には吸引装置34が設けられている。吸引装置34は、支持台19の上面に開口する多数の吸引孔(図示せず)に負圧を及ぼすように駆動され、その負圧による吸引力によりシート13は支持台19の上面に吸着される。そして、記録ユニット30が主走査方向Xに移動してその移動途中に記録ヘッド33からインクを噴射する主走査と、記録ユニット30を次回の主走査位置まで副走査方向Yへ移動させる副走査とが交互に行われることで、シート13のうち支持台19上に位置する印刷エリアに印刷が施される。また、シート13が搬送方向(図1における右方)に搬送されることにより、シート13に対する印刷位置が主走査方向Xに変更される。このとき、吸引装置34の負圧が解除されることでシート13の支持台19上への吸着が解除され、その後、シート13は搬送されるようになっている。
【0036】
また、図1において印刷室15内の右端側となる非印刷領域には、非印刷時に記録ヘッド33のメンテナンスを行うためのメンテナンス装置35が設けられている。メンテナンス装置35は、キャップ36と昇降装置37とを備える。非印刷時にホーム位置で待機する記録ユニット30の記録ヘッド33は、昇降装置37の駆動により上昇したキャップ36でキャッピングされ、ノズル内のインクの増粘等が回避される。また、所定のメンテナンス時期になると、キャッピング状態の下でメンテナンス装置35の吸引ポンプ(図示せず)が駆動されてキャップ36内を負圧にすることによりノズルからインクを強制的に排出して、ノズル内の増粘インクやインク中の気泡等を除去するクリーニングが行われる。
【0037】
また、図1に示すように、本体ケース12内には、異なる色のインクをそれぞれ収容した複数個(例えば8個)のインクカートリッジIC1〜IC8が着脱可能に装着されている。8個のインクカートリッジIC1〜IC8は、例えば黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、白(W)、クリア(オーバーコート用の透明色)等の各インクを収容する。もちろん、インクの種類(色数)は適宜設定でき、黒インクだけでモノクロ印刷する構成や、インクを2色、あるいは8色以外で3色以上の任意の色数とした構成も採用できる。また、メンテナンス用の保湿液を収容するカートリッジが装着される構成も採用できる。
【0038】
各インクカートリッジIC1〜IC8はインク供給路等(図示省略)を通じて記録ヘッド33に接続されている。各記録ヘッド33は各インクカートリッジIC1〜IC8から供給されたインクを噴射してシート13に印刷を施す。このため、本例のプリンター11では、カラー印刷が可能となっている。また、本実施形態のプリンター11は、シート13上にまず下地層を印刷し、さらにその下地層の上に本画像等を印刷する複数版印刷が可能となっている。複数版印刷では、本画像の上に透明インク(クリアインク)を噴射して、印刷表面に耐性と光沢を付与するオーバーコート層を印刷することも可能である。
【0039】
次に、記録ユニット30の底面に設けられた複数の記録ヘッド33の構成を図2に基づいて説明する。図2に示すように、キャリッジ31の底面側(図2では手前側)に支持された支持板32には、複数個(本実施形態では15個)の記録ヘッド33が、シート13の搬送方向(図2において白抜き矢印で示す方向)と直交する副走査方向Yに亘って千鳥状の配置パターンで支持されている。つまり、15個の記録ヘッド33は、副走査方向Yに沿って一定ピッチで配列された2列(図2では7個の列と8個の列)の記録ヘッド33が、列間で副走査方向Yに半ピッチずれた状態で配置されている。そして、各記録ヘッド33の底面となるノズル形成面33Aには、多数個(例えば180個)のノズル38が副走査方向Yに沿って一定のノズルピッチで配列されてなるノズル列39が、主走査方向Xに所定間隔をおいて複数列(本実施形態では8列)形成されている。そして、複数(8列)のノズル列39は、8個のインクカートリッジIC1〜IC8のうちそれぞれ対応する1個のインクカートリッジからインクの供給を受け、それぞれ異なる種類のインクを噴射する。
【0040】
記録ユニット30が、図2における主走査方向Xへの移動(主走査)と、副走査方向Yへの移動(副走査)とを交互に行って、印刷解像度に応じた所定回数の主走査を行うことで、副走査方向Yの全ての行が埋まる1回のラテラルスキャンが行われる。ここで、記録ユニット30が主走査方向Xに移動する1回の主走査を「パス」と呼び、本例では、ラテラルスキャン1回のパスの回数が4回の4パス印刷と、パスの回数が8回の8パス印刷とがある。図2には、4パス印刷の例で、記録ユニット30の移動経路が矢印で示されている。すなわち、4パス印刷では、まず記録ユニット30が主走査方向Xへ一回移動する主走査を行って1パス目を印刷し、1パス目の印刷を終えると、記録ユニット30を副走査方向Yへ副走査送り量Δyだけ移動させる副走査を行って、記録ユニット30を次の主走査開始位置(次パス開始位置)に配置する。続いてその位置から2パス目の印刷を行い、2パス目の印刷後に副走査送り量Δyの副走査を行って、記録ユニット30を3パス目の主走査開始位置に配置する。以降、同様に主走査及び副走査を行って、3パス目と4パス目の各印刷を行う。
【0041】
ここで、ノズルピッチをΔpとおくと、副走査送り量Δyは、4パス印刷ではノズルピッチΔpの1/2の値(=Δp/2)に設定され、8パス印刷ではノズルピッチΔpの1/4の値(=Δp/4)に設定される。このため、8パス印刷では、4パス印刷のときの約2倍の印刷解像度が得られる。もちろん、副走査送り量Δyは、要求される印刷解像度に応じた適宜な値に設定できる。
【0042】
ところで、本実施形態では、記録ヘッド33のノズル38が目詰まりしないように比較的乾きにくい水系レジンを含むインク(以下「水性レジンインク」という)を使用し、印刷した後にはインクを熱乾燥させてインクを定着させる構成である。ここで、水性レジンインクに比べ、エコソルインク(有機溶剤系インクの一種)やUVインク(紫外線硬化性樹脂)は乾燥又は硬化しやすいので、シート13上に着弾したインクも滲みにくい。しかし、乾燥性又は硬化性の比較的悪い水性レジンインクを使用して印刷を行う場合、インクが乾燥しにくい分だけインクが滲みやすく、このインクの滲みが印刷品質の低下に繋がる。また、インクの滲みはシート13の材質にも依存する。そこで、本実施形態では、インクの滲みを抑制したい部分のシート13の材質を、予めインクを塗布してインクにより改質することにより、その後の印刷でのインクの滲みを抑制する方法を採用する。
【0043】
次に印刷システム100の電気構成を図3に基づいて説明する。図3に示すホスト装置120内のプリンタードライバー122は、モニター123に表示させるべきメニュー画面及び印刷設定画面などの各種画面の表示制御を行うと共に、各画面の表示状態において操作部124から入力した操作信号に応じた所定処理を行うホスト制御部125を備えている。ホスト制御部125は、プリンタードライバー122を統括的に制御する。
【0044】
また、プリンタードライバー122には、上位の画像生成装置110から受信した画像データに対して印刷データの生成に必要な画像処理を施すために、解像度変換部126、色変換部127及びハーフトーン処理部128を備えている。解像度変換部126は、画像データを表示解像度から印刷解像度へ変換する解像度変換処理を行う。色変換部127は、表示用の表色系(例えばRGB表色系やYCbCr表色系)から印刷用の表色系(例えばCMYK表色系)に色変換する色変換処理を行う。さらにハーフトーン処理部128は、表示用の高階調(例えば256階調)の画素データを印刷用の低階調(例えば2階調又は4階調)の画素データに階調変換するハーフトーン処理などを行う。そして、プリンタードライバー122は、これらの画像処理を施して生成した印刷画像データに、印刷制御コード(例えばESC/P)で記述されたコマンドを付して印刷ジョブデータ(以下、単に「印刷データPD」と称す)を生成する。
【0045】
ホスト装置120はデータの転送制御を行う転送制御部129を備える。転送制御部129は、プリンタードライバー122が生成した印刷データPDを、シリアル通信ポートU1を介して所定容量のパケットデータずつプリンター11へ順次シリアル転送する。また、ホスト制御部125は、プリンター11の制御装置Cと双方向の通信が可能になっており、転送制御部129を介してプリンター11へコマンドや制御信号を送信し、その応答をプリンター11から受信する。
【0046】
図3に示すプリンター11側の制御装置Cは、ホスト装置120からの印刷データPDをシリアル通信ポートU2で受信して印刷制御をはじめとする各種制御を行うためのコントローラー40を備えている。図2に示すように、コントローラー40には、複数個(N個(本例では8個))のヘッド制御ユニット45(以下、単に「HCU45」という)を介して複数個(本例では15個)の記録ヘッド33が接続されている。
【0047】
図3に示すように、コントローラー40には、キャリッジ31(つまり記録ユニット30)の移動経路に沿って設けられているリニアエンコーダー50が接続されている。コントローラー40は、リニアエンコーダー50からキャリッジ31の移動距離に比例する数のパルスをもつ検出信号(エンコーダーパルス信号)を入力する。コントローラー40は、エンコーダーパルス信号のパルスエッジ数の計数によりキャリッジ31の主走査方向Xにおける位置(キャリッジ位置)を取得すると共に、A相・B相の各エンコーダーパルス信号の信号レベルの比較結果に基づきキャリッジ移動方向を取得する。また、コントローラー40は、リニアエンコーダー50からのエンコーダーパルス信号を基に、記録ヘッド33の噴射タイミングを決める噴射タイミング信号を生成する。コントローラー40は、印刷データPD中の印刷画像データから記録ヘッド33が使用可能なヘッド制御データを生成し、そのうちキャリッジ31の1回の主走査分(1パス分)のデータずつHCU45を介して各記録ヘッド33に送信する。記録ヘッド33はヘッド制御データに基づき噴射すべきノズルから噴射タイミング信号に同期して、主走査における各記録ヘッド33の噴射制御を行う。
【0048】
図3に示すように、コントローラー40は、CPU51(中央処理装置)、ASIC52(Application Specific IC(特定用途向け集積回路))、ROM53、RAM54及び不揮発性メモリー55を備えている。CPU51は、ROM53及び不揮発性メモリー55に記憶されたプログラムを実行することにより、印刷制御に必要な各種の処理を行う。また、ASIC52は、印刷データPDの画像処理を含む記録系のデータ処理などを行う。
【0049】
また、図3に示すように、制御装置Cは、コントローラー40の出力側(制御下流側)に通信線SL1を通じて接続されたメカコントローラー43を備えている。コントローラー40は、印刷データPDに含まれるコマンドを所定のタイミングで送信することにより、メカコントローラー43にメカニカル機構44の駆動を指示する。メカコントローラー43は、コントローラー40から受信したコマンドに基づき所定のシーケンスに従って、主に搬送系及びキャリッジ駆動系を含むメカニカル機構44を駆動制御する。このとき、メカコントローラー43によるメカニカル機構44の駆動タイミングの制御は、コントローラー40が、送信したコマンドに従ったメカニカル機構44のシーケンス動作を終えた旨の応答をメカコントローラー43から受信すると、次のコマンドを送信する手順をとることにより行われる。
【0050】
図3に示すように、メカニカル機構44は、搬送系を構成する搬送モーター61と、キャリッジ駆動系を構成する第1キャリッジモーター(以下、「第1CRモーター62」ともいう)及び第2キャリッジモーター(以下、「第2CRモーター63」ともいう)とを備えている。メカコントローラー43には、モーター駆動回路60を介して搬送モーター61、第1CRモーター62及び第2CRモーター63がそれぞれ接続されている。搬送モーター61は各ローラー21〜27と軸20,28等により構成される搬送機構を駆動するためのものである。
【0051】
また、第1CRモーター62は、キャリッジ31を主走査方向Xに駆動させるための動力源であり、第2CRモーター63はキャリッジ31を副走査方向Yに駆動させるための動力源である。ラテラルスキャン方式では、キャリッジ31を主走査方向Xに移動させてその移動途中に記録ヘッド33からインクを噴射することにより1パス分の印刷を施す主走査(パス)と、キャリッジ31を副走査方向Yに所定ピッチだけ駆動させて記録ヘッド33を次パスの印刷位置までずらす副走査とを交互に所定回数(M回)繰り返す。そして、所定回数の主走査(パス)により、ラテラルスキャン1回分の印刷が施される。なお、本実施形態では、搬送モーター61及び搬送機構により、搬送手段の一例が構成される。また、第1CRモーター62及び第2CRモーター63により、記録手段を移動させるための駆動手段(動力源)の一例が構成される。
【0052】
さらに、図3に示すように、メカニカル機構44は、乾燥系を構成するヒーター19A及び乾燥装置16と、吸引装置34と、メンテナンス装置35とを備え、これらはメカコントローラー43と電気的に接続されている。また、このメカコントローラー43には、入力系として、電源スイッチ65、エンコーダー66及び温度センサー67,68がそれぞれ接続されている。電源スイッチ65のオン/オフ操作により、プリンター11の電源がオン/オフされる。
【0053】
また、メカコントローラー43は、コントローラー40から通信線SL1を通じて受信した各種コマンドに従って、各モーター61〜63、吸引装置34及びメンテナンス装置35を駆動制御する。エンコーダー66は、搬送モーター61を動力源とする搬送駆動系の回転軸の回転を検出するものであり、メカコントローラー43は、エンコーダー66の検出信号(エンコーダーパルス信号)を用いてシート13の搬送量及び搬送位置を検出する。
【0054】
また、温度センサー67は、支持台19の表面温度を検出するためのものである。メカコントローラー43は、温度センサー67の検出温度に基づき、支持台19の表面温度を設定温度に調整する温度制御を行う。また、温度センサー68は、乾燥装置16の炉内温度(乾燥温度)を検出するためのものである。メカコントローラー43は、温度センサー68の検出温度に基づき、乾燥装置16の炉内温度を設定温度に調整する温度制御を行う。
【0055】
制御装置Cは、印刷時に、シート13の次の印刷エリアを支持台19上に配置すべくシート13を搬送する搬送動作と、シート13の印刷エリアを支持台19に吸着させる吸着動作と、記録ヘッド33によるシート13への印刷動作(記録動作)と、1回分の印刷動作終了後にシート13の吸着を解除する吸着解除動作とを行わせる。
【0056】
図4は、コントローラー40の機能構成を示すブロック図である。図4に示すように、コントローラー40内には、CPU51がプログラムを実行することにより構築される機能部分、及びASIC52内の各種の電子回路により構成される機能部分などが設けられている。すなわち、コントローラー40内には、図4に示すように、主制御部71、画像処理部72、ヘッド制御部73及びメカ制御部74を備える。さらに画像処理部72は、解凍処理部75、コマンド解析部76、マイクロウィーブ処理部77及び縦横変換処理部78などを備える。なお、各部71〜78は、本例ではソフトウェアとハードウェアの協働による構成としたが、ソフトウェアのみ、あるいはハードウェアのみで構成してもよい。
【0057】
RAM54には、受信バッファー81と中間バッファー82と印刷バッファー83とが設けられている。ホスト装置120からシリアル通信ポートU2(USBポート)が受信した印刷データPDは受信バッファー81に格納される。
【0058】
次に、図4に示す各部71〜78について詳細に説明する。
主制御部71は、各部72〜78を統括的に制御する。
画像処理部72は、その内部の各部75〜78を用いて、印刷データPDの解凍処理、コマンド解析処理、マイクロウィーブ処理、縦横変換処理などの画像処理を行う。詳しくは、解凍処理部75は、受信バッファー81に格納された印刷データPD(圧縮データ)の解凍処理を行う。解凍された印刷データPDは、プレーンデータ(印刷画像データ)と、印刷言語で記述された印刷コマンドとを含む。コマンド解析部76は、解凍後の印刷データPD中のコマンドを解析してメカ制御部74へ送る。
【0059】
マイクロウィーブ処理部77は、プレーンデータに対してマイクロウィーブ処理を行う。ここで、マイクロウィーブ処理とは、記録ヘッド33のノズル位置のばらつきに起因する印刷ドットの位置のばらつきを抑制するために行われるマイクロウィーブ印刷方式(インターレース記録方式)で印刷を行うためのデータ処理である。ここで、記録ユニット30の主走査により、ノズル38から間欠的に噴射されたインク滴がシート13上に着弾して形成される印刷ドットが、主走査方向Xに1列に並ぶドット列を、「ラスターライン」と呼ぶ。マイクロウィーブ処理では、副走査方向Yに隣り合うラスターラインの間隔が、副走査方向Yに隣接するノズルの間隔に依存しないように、M回の各パスで印刷すべき画素データの並び順を並び替えて、画像データをパス毎に分解するパス分解処理が行われる。本実施形態におけるマイクロウィーブ処理は、M回のパスのうち1回目のパスで印刷されたラスターラインの間(行間)を、2回目以降のパスで印刷されるラスターラインで埋めるように、画像データをパス毎に分解する。
【0060】
すなわち、全て(n個)のノズルを用いて1パス目を印刷して最大n本のラスターラインを描画し、2パス目で前回パスのラスターラインの行間を埋めるようにラスターラインを描画し、これをMパス目まで行って1回目のラスターラインの行間を全て埋めることにより、1回のラテラルスキャンが行われる。このMパスで1巡するラテラルスキャンにより、ノズルの副走査方向Yの位置ばらつき(ノズルピッチのばらつき)に起因するラスターラインの行間のばらつきが原因で発生する主走査方向Xに延びるバンディング(スジ状の濃度むら)が抑制される。マイクロウィーブ処理後のプレーンデータは、マイクロウィーブ処理部77から順次転送されて中間バッファー82に格納される。
【0061】
縦横変換処理部78は、中間バッファー82から転送されたマイクロウィーブ処理後のプレーンデータに対し縦横変換処理を施す。ここで、プレーンデータは、画素が表示用の並び順で配列されたデータである。縦横変換処理では、記録ヘッド33のノズル38からインク滴を噴射する噴射順序に合わせて、表示用の横方向(ノズル列の並び方向)の画素の並び順を、縦方向(ノズル列方向)の並び順に変換する。つまり、1回のパスにおいて180個のノズル38から最初に噴射される180画素、2番目に噴射される180画素、…、最後に噴射される180画素の順番になるように、元の横方向の順番に並ぶ画素の並び順を、噴射順序に合わせた縦方向の順番に変換する縦横変換処理が行われる。縦横変換処理により生成されたヘッド制御データは、縦横変換処理部78から転送されて印刷バッファー83に格納される。
【0062】
ヘッド制御部73は、印刷バッファー83から転送されてきたヘッド制御データを、記録ヘッド33毎に分割し、分割した各データを各ヘッド制御ユニット45(HCU)へ逐次転送する。そして、HCU45は記録ヘッド33へヘッド制御データを逐次送信する。記録ヘッド33内の不図示のヘッド駆動回路は、ヘッド制御データに基づきノズル38毎の噴射駆動素子を駆動制御し、ノズル38からインク滴を噴射させる。このとき、記録ヘッド33の噴射タイミングは、リニアエンコーダー50のエンコーダーパルス信号を基にヘッド制御部73が生成した噴射タイミング信号に基づきヘッド駆動回路が噴射駆動素子の駆動タイミングを制御することにより行われる。なお、画像処理部72とRAM54との間、RAM54とヘッド制御部73との間におけるデータ転送は、CPU51の指示に従うDMAコントローラー(不図示)により行われる。
【0063】
図4に示すメカ制御部74は、コマンド解析部76から受け付けたコマンドをメカコントローラー43へ送る。このコマンドには、例えば搬送コマンド、吸着コマンド、第1キャリッジ起動コマンド(主走査コマンド)、第2キャリッジ起動コマンド(副走査コマンド)、吸着解除コマンドなどがある。メカ制御部74は、メカコントローラー43側の進捗に合わせた適宜なタイミングで、コマンドをメカコントローラー43へ送る。
【0064】
図3に示すメカコントローラー43は、例えば搬送コマンドであればこれに従って搬送モーター61を駆動してシート13を搬送させる。また、主走査コマンドであれば、メカコントローラー43はこれに従って第1CRモーター62を駆動してキャリッジ31を主走査方向Xに移動させる。このときコントローラー40に制御された記録ヘッド33がノズル38からインク滴を噴射し、シート13の印刷エリアへ1パス分の印刷が施される。そして、1パスを終える度に、メカコントローラー43は、副走査コマンドに従って第2CRモーター63を駆動させ、キャリッジ31を次の主走査位置まで副走査方向Yへ移動させる。以降、記録ユニット30の主走査と、副走査及び搬送とを交互に繰り返し、記録ユニット30のMパス毎に1巡するラテラルスキャンを1回終えると、例えば1版分の画像が印刷される。そして、ラテラルスキャンを必要な版数の回数終えて、1フレーム分の画像の印刷を終了すると、メカコントローラー43は、搬送コマンドに従って搬送モーター61を駆動してシート13を搬送方向(主走査方向Xの下流側)に次の印刷位置まで搬送する。
【0065】
ここで、本実施形態では、1回のラテラルスキャンにおいて、1パス分の印刷を終える度に、副走査に加え、シート13を所定の搬送量だけ搬送する。1回の主走査では、ノズルを用いて副走査方向Yに複数本のラスターラインが描画される。2パス目〜Mパス目では、1パス目で描画された複数本のラスターラインの行間を1パス毎に順次埋めるように毎パス複数本ずつのラスターラインを描画する。
【0066】
図5に示すように、記録ユニット30が主走査方向XにM回の主走査を行うことにより、シート13の被印刷領域には図5に示す印刷画像が印刷される。すなわち、図5に示すように、まずシート13の周縁部に主走査方向Xに一定の間隔でコード画像85が印刷される。次に、コード画像85が印刷されたロールR2を供給側のロールR1として繰出し部14にセットし、コード画像85が印刷されたシート13に画像86の印刷が行われる。この画像86の印刷時には、制御装置C(図3参照)は、シート搬送過程においてカメラ69が撮像したコード画像85の撮像結果を解析して取得したコード情報により、主走査方向Xに並ぶ3つの画像86の印刷位置及び印刷内容(品番、ロット、バリアブル情報など)を確認し、確認した印刷内容で正しければその印刷位置にコード画像87を含む画像86を印刷させる。ここで、バリアブル情報とは、例えば画像にその一部として印刷される画像毎に異なる情報を指し、可変の番号や可変のコード画像などが挙げられる。このように、印刷されるコード画像には、印刷位置の位置決め用のアイマークとして印刷されるコード画像85と、画像86の一部として印刷されるコード画像87とがある。なお、1つの画像86が1ページ分に相当し、本例では1回のラテラルスキャンで3ページ分ずつの印刷画像が印刷される。また画像86は例えば複数のラベルが複数配列された複数コマ画像でもよく、複数コマ画像である場合は、各コマ(ラベル)毎にコード画像87が印刷されてもよい。
【0067】
本実施形態ではコード画像を印刷するために2版印刷が行われる。図6はコード画像を印刷する場合の2つの版画像データを示す。1版目の第1版画像データPD1は、透明インク(クリアインク)又は白インクで、シート13におけるコード画像の印刷領域を、コード画像の印刷時に滲みにくくするための下地画像88を印刷するためのものである。2版目の第2版画像データPD2は、例えば黒インクでコード画像89(2次元コード)を印刷するための画像データである。
【0068】
なお、下地画像88の印刷に用いるインクの種類は、シート13が例えばフィルム等の透明体でかつコード画像89の背景が透明である必要がある場合は透明インクが好ましい。また、シート13が用紙の場合は透明インクと白インクのどちらでもよい。
【0069】
図7は、コード画像85の一部を構成する複数のセルを示す。図7では、比較的大きなサイズの四角環状のセル90と、比較的小さなサイズの四角形のセル91とが示されている。例えば四角形のセル91は最小サイズであり、四角環状のセル91の内側には最小サイズの四角形の余白領域がある。各セル90,91の外形線を含む内側領域が黒インクのドットが施されるセル形成領域CAとなる。
【0070】
図8は、インクが比較的滲みやすいシート13を用いて、図7に示すセルを下地層なしで印刷した場合のドットの様子を模式的に示した比較例である。なお、通常、最小サイズのセル91は、1辺当たり数ドット〜20ドット程度の長さの四角形で形成されるが、図8では、インクの滲みによる印刷ドットの広がりの様子を分かりやすくするため、模式的に、最小サイズのセル91を1ドットで形成する例で誇張して示している。図8(a)は、シート上に着弾したインク滴93の広がり途中の印刷ドット94Aを示し、図8(b)はインク滴93が広がり切って印刷ドットの径が確定したときの印刷ドットの様子を示す。図8(a)に示すように、セル形成領域CA内に着弾したインク滴93(インクドット)は次第に広がり、図8(a)に示す想定ドット径の印刷ドット94Aになっても、インクの滲みによりさらに広がる。そして、図8(b)に示すように印刷ドット94は、想定ドット径を超える過大なドット径になるまで広がってしまう。この結果、四角環状のセル90の中央部に形成されるべき四角形の余白がほとんど潰れてしまううえ、セル90,91の間隔が必要な値未満に狭くなってしまう。このため、カメラ69によってコード画像を読み取る際にコード情報が間違って読み取られてしまう。
【0071】
この種のインクの滲みによる印刷ドットの径の過大な広がりを回避するため、本実施形態では、図9に示す手順で下地画像88を先に形成した後、コード画像89を印刷する。すなわち、まず図9(a)に示すように、シート13のセル形成領域CAの周囲に透明インク又は白インクで印刷ドット(以下、「下地ドット95」という)を形成して下地画像88を印刷する。透明インク又は白インクのインク滴96(但し、図9では一部のみ図示)はシート13に着弾してから広がって乾燥して下地ドット95となり、シート13において下地ドット95の形成領域(つまり下地層形成領域)はインクが滲みにくいシート材質になる。そして、図9(b)に示すように、セル形成領域CAに黒インクのインク滴93が着弾し、着弾したインク滴93は広がる。このとき、セル形成領域CAの周縁部及び周囲が下地画像88(下地ドット95)によりインクが滲みにくくなっているので、図9(b)に示すように、印刷ドット97Aの広がりが制限される。そして、図9(c)に示すように、最終的に形成される印刷ドット97は、ほぼセル形成領域CA内に収まるか又は僅かにはみ出る程度のものとなる。この結果、セル90,91は、図7に示す想定される形状及びサイズどおりに形成される。このため、四角環状のセル90の中央部に必要なサイズの余白が確保され、しかもセル90,91の間隔も確保される。よって、カメラ69により正しくコード情報を読み取ることが可能になる。
【0072】
なお、図9の例では、セル形成領域CAを囲むように全周に亘り下地ドット95を形成したが、セル形成領域CAの周囲のうち必要な部分だけに下地ドット95を形成してもよい。例えば、図9に示した下地ドット95Bのみを形成し、セル90の中央の余白と、セル90,91の間隔が確保されるようにしてもよい。
【0073】
本実施形態における下地ドット95(下地層)は、インク滴93の滲む範囲に形成する。下地ドットを形成する滲み範囲は、予備実験を行って、シート種毎に計測しておく。図10に示すように、シート13の種類毎に、インク滴93をシート13上に着弾させ、インク滴93が滲んでできた印刷ドット94の径(半径)を計測する。図10の例では、シート13は、シートA、B,Cの3種類を示しているが、実際には、使用されうる全てのシートについて計測を行う。但し、シート材質が同じで滲み量が同じであると推定できるシート種については、その同じ材質のシート種の計測データを使用してもよい。
【0074】
図11に示すように、印刷ドット94を計測した実際の半径Rから、印刷ドット94Aの想定される半径rを減算して、滲み長Lを求める。シート種毎の滲み長Lは、ホスト装置120内のメモリー135(図13を参照)に記憶しておく。そして、滲み長Lに応じて、セル形成領域CAの外側に形成すべき下地ドット95の列数が決定されるようにしている。
【0075】
図12は、四角環状のセル90の中央の余白部分の左上コーナー近傍のドット形成状態を示す。なお、図12におけるドットは、想定ドットサイズで示している。このため、図12に示すドット配列は、印刷データPD(つまり版画像PD1,PD2)におけるドット配列(画素配列)に対応している。
【0076】
図12に示すように、セル形成領域CAの外側にはそのとき使用されるシート種に応じた滲み長Lが決まり、この滲み長Lで規定される滲み領域BAに下地ドット95を配列する。このとき、下地ドット95の列数は、下地ドット95が滲み領域BAに丁度収まるか、又は滲み領域BAから一部が外側にはみ出るように決定する。図12の例では、下地ドット95が滲み領域BAから若干はみ出るように、下地ドット95の配列数が2列に決定されている。詳しくは、下地ドット95の直径をD、下地ドット95の列数をKとおくと、K・D≧Lを満たすように列数Kを決定する。このため、図12の例では、下地ドット95を2列配列できる領域が、下地領域となる。
【0077】
次に、コード画像の下地層の印刷に用いられる第1版画像データPD1を生成するためにホスト制御部125に設けられた画像生成装置130の機能構成を、図13に基づいて説明する。図13に示すように、画像生成装置130は、コード検出部131、領域検出部132、ドット位置演算部133、画像生成部134及び滲み長データLが記憶されたメモリー135を備えている。
【0078】
コード検出部131は、画像データID中のコード画像89を検出する。
領域検出部132は、コード画像89が形成されるコード形成領域と、そのコード形成領域内の各セルの形成領域であるセル形成領域CAとを検出する。
【0079】
ドット位置演算部133は、下地ドット95のドット位置を演算する。このとき、ドット位置演算部133は、メモリー135から読み出した滲み長データLを用いて、前述の条件式 K・D≧Lを満たすように、下地ドット95の列数Kを算出する。そして、ドット位置演算部133は、セル形成領域CAの周囲に沿って列数Kの下地ドット95を配列し、その配列した下地ドット95の位置(着弾位置)を演算する。
【0080】
画像生成部134は、下地ドットの画像系座標上の位置に、透明又は白の画素データを配置して、第1版画像データPD1を生成する。なお、2版目のコード画像89の画像データは、画像データIDに含まれている。
【0081】
次にプリンター11の作用を、図15にフローチャートで示すコード画像印刷処理ルーチンに基づいて、必要に応じて図12及び図14等を用いて説明する。なお、図14は、図9に示す印刷手順を断面から見た模式図である。また、以下の説明では、セル形成領域CAの周囲の滲み領域BAに着弾される透明インク又は白インクを「第1インク」と呼び、セル形成領域CAに着弾される黒インクを「第2インク」と呼ぶ。もちろん、第1インクは透明インク又は白インクに限定されず、コード画像を認識でる限りにおいて、薄灰、薄青、薄赤、薄緑、黄色などの淡色インクでもよい。また、第2インクも黒インクに限定されず、コード画像を認識できる限りにおいて、濃灰、濃茶、濃紺、深緑などの他の濃色インクでもよい。
【0082】
ステップS1では、2次元コードの下地領域(本例では滲み領域BAに相当)に第1インクを着弾させて、インクドットにより滲み抑制部を形成する。つまり、第1版画像の印刷が行われる。詳しくは、図12に示すように、セル形成領域CAの周囲の滲み領域BAに、セル形成領域CAの内側と外側とを区画する境界線に沿って、K・D≧Lを満たすK列(図12の例では2列)で下地ドット95を形成する。このとき、図14に示すように、シート13上の滲み領域BAに着弾したインク滴96が広がって、ラテラルスキャン1回分の所要時間を経過する間にある程度乾燥して下地ドット95が形成される。図14に示すように、インク滴96はシート13が用紙の場合はその繊維に染み込んで乾燥する。このため、シート13には、図14(b)に示すように、インク滴96が濡れ広がって乾いた表面層95aの他、インク滴96がシート13の繊維に含浸してある程度乾いてできた含浸層95bが形成される。この下地ドット95の表面層95aと含浸層95bが形成されることにより、シート13は下地ドット形成領域が、インクの滲みにくい材質に変化し、インクの滲みを抑制する滲み抑制部140として機能するようになる。
【0083】
ステップS2では、2次元コードのセル形成領域CAに第2インク(黒インク)を着弾させて、インクドットによりセルを形成する。つまり、第2版画像の印刷が行われる。図14(c)に示すように、シート13上に黒インクのインク滴93が着弾し、着弾したインク滴93は次第に広がって、図14(d)に示すように印刷ドット97が形成される。このとき、インク滴93の濡れ広がりは、下地ドット95からなる滲み抑制部140により抑制される。すなわち、インク滴93は、下地ドット95の表面層95aの存在により濡れ広がりにくくなり、また含浸層95bの存在により、シート13の繊維に染み込んだインクも広がりにくくなる。そのため、表面層95aにより濡れ広がりが抑えられた表面層97aと、含浸層95bにより繊維へ染み込んで広がることが抑えられた含浸層97bとが形成される。
【0084】
以上詳述したように、第1の実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)セル形成領域CAの周囲に透明インク又は白インクで下地ドット95を形成して滲み抑制部140を形成したので、その後、セル形成領域CAに着弾した黒インクが滲みにくく、滲みが少なく抑えられたセル90,91を印刷することができる。すなわち、インクの滲みが抑えられたコード画像85,87を印刷することができる。
【0085】
(2)下地ドット95で滲み領域BAを埋められるように、セル形成領域CAの周囲に配列する下地ドット95の列数Kを決めたので、滲み抑制部140により印刷ドット97の滲みを効果的に抑えることができる。例えば下地ドットが滲み領域の一部にしかない場合、インク滴93が滲み抑制部140を乗り越えて濡れ広がることも起こりうる。この場合、セル90,91は滲んでしまい、場合によってはコード情報を読み取れなくなる。これに対して、本実施形態によれば、インク滴93が滲む可能性のある範囲(滲み領域BA)の全域に下地ドット95により滲み抑制部140を形成するので、インク滴93が滲み抑制部を乗り越えることをほぼ確実に回避し、滲みが抑えられた品質の高いコード画像85,87を印刷することができる。
【0086】
(3)滲み領域BAを規定する滲み長Lをシート13の種類毎に予め計測してメモリー135に記憶しておき、シート13の種類に応じた滲み長Lに基づき下地ドット95の列数Kを決める構成である。このため、シート13の種類によって滲み領域BAが異なっても、滲み領域BAを埋めるように下地ドット95を印刷することができる。例えば、滲み領域をシートの種類に関係なく一定の領域に設定した場合、比較的滲みにくいシートでは余分な下地ドットを印刷することになり、一方、比較的滲みやすいシートでは滲む範囲の全域に滲み抑制部140を形成できなくなる。これに対して、本実施形態によれば、シートの種類に応じた適切な数の下地ドット95を印刷できるので、下地ドット95が余分な場合の無駄や、下地ドット95の不足による滲みの発生を効果的に回避できる。
【0087】
(4)透明インク又は白インクを使用して下地ドット95を形成するので、下地ドット95が見た目には分からず、コード画像85,87の印刷品質を低下させることがない。特にシート13がフィルム等の透明体の場合は透明インクを使用することで、背景が透けたコード画像85,87を印刷でき、シート13が用紙等の場合には透明インク又は白インクを使用することで、シート13と同色の白色を背景色としてコード画像85,87を印刷することができる。
【0088】
(5)ラテラルスキャン方式のプリンター11を用いて、ラテラルスキャン1回目で下地画像88を印刷し、ラテラルスキャン2回目でコード画像89を印刷する。このため、下地画像88の印刷からコード画像89の印刷までに、ラテラルスキャン1回分の所要時間が乾燥時間として確保される。このため、下地画像88(下地ドット95)が適度に乾燥してから、コード画像89(印刷ドット97)を印刷できるので、滲み抑制部140の滲み抑制効果の高い状態で、しかもインク乾燥のための停止時間を設けるなどの無駄もなく、高品質のコード画像89を効率よく印刷することができる。
【0089】
(6)エコソルインクやUVインクに比べ乾きにくい水性レジンインクを使用しても、滲みの少ないコード画像85,87を印刷することができる。
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を図16〜図18に基づいて説明する。
【0090】
図16に示すように、版画像データPD3は1つだけであり、コード画像は1版印刷で形成される。版画像データPD3はコード画像138を含み、このコード画像138は、透明インク又は白インクからなる第1インクで形成する下地ドット95と、黒インクからなる第2インクで形成する印刷ドット97とが含まれる。詳しくは、本実施形態では、ラテラルスキャンの1パス目で第1インクを用いて下地ドット95を形成し、2パス目〜Mパス目で第2インクを用いて印刷ドット97を形成する構成である。
【0091】
図17は、セル90を印刷する際におけるパス毎のドット形成手順を示す。なお、図17における実線で示すドットは想定ドットサイズで描かれており、版画像データPD3のドット(画素)に対応している。つまり、版画像データPD3の画素もこのように配列されている。
【0092】
図17に示すように、1パス目に下地ドット95を形成する。このとき、下地ドット95は、セル形成領域CAの外側(図17で中央の余白領域側)に滲み長Lで規定される滲み領域BAに配列される。図17の例では、下地ドット95の周縁が、滲み長Lで規定される滲み領域BAに丁度収まるか、一部が滲み領域BAをはみ出るように、下地ドット95の列数Kを決定する。この場合、2列になるが、下地ドット95を形成できる位置が1パス目の位置に制限されるので、セル形成領域CAの境界線から最も近い1パス目の位置に下地ドット95を形成する。1パス目で印刷された下地ドット95は、インクの滲みにより図17に示す想定サイズからさらに外側へ広がって、図17に二点鎖線で示す円領域のサイズとなる。このとき、隣り合う下地ドット95は繋がり、セル形成領域CAの境界線の全体を含むように滲み抑制部140(下地層)が形成される。なお、図17では、二点鎖線で示す下地ドット95は、実線の下地ドット95のうち中心点が記されたものに対応するものだけを示している。
【0093】
そして、図17に示すように、2パス目〜4パス目の印刷が順次行われることによって、セル形成領域CA内に印刷ドット97が形成される。このとき、印刷ドット97は、1パス目の行が空いた状態で印刷されるが、インク滴93が濡れ広がることにより、2パス目の印刷ドット97と4パス目の印刷ドット97とが繋がるため、セル形成領域CAはほぼ隙間なく第2インク(黒インク)で埋められる。
【0094】
次に第2実施形態におけるプリンター11の作用を、図18にフローチャートで示すコード画像の印刷処理ルーチンに基づいて説明する。
ステップS11では、1パス目に2次元コードの下地領域(滲み領域BAに相当)に第1インクを着弾させて、インクドットにより滲み抑制部140を形成する。このとき、図17に示すようにセル形成領域CAの境界線に沿うようにその境界線に最も近い1パス目の行に下地ドット95は形成される。そして、着弾後、下地ドット95は図17に二点鎖線で示し円領域のサイズになるまで濡れ広がる。この濡れ広がった下地ドット95は、セル形成領域CAの境界線を全て含むように形成される。そして、二点鎖線で示される濡れ広がった下地ドット95は、次パス(2パス目)の印刷までの間に、そのインクの一部がシート13の繊維に染み込むなどしてある程度まで乾燥が進む。このある程度まで乾燥の進んだ下地ドット95からなるドット群により滲み抑制部140が形成される。
【0095】
ステップS12では、J値を初期値に設定する(J=2)。ここで、J値は、不図示のカウンターを用いてコントローラー40が、1回のタイムスタンプのうち何パス目かを示す計数値である。本実施形態では、1パス目(J=1)に下地ドット95が形成され、2パス目〜Mパス目(J=2〜M)の間に印刷ドット97が形成される。
【0096】
ステップS13では、Jパス目に2次元コードのセル形成領域に第2インクを着弾させて、インクドットによりセルを形成する。但し、1パス分の印刷ではセルを構成する一部のラスターライン(印刷ドット97からなるドット列)だけが形成される。
【0097】
ステップS14では、J=Mであるか否かを判断する。つまり、ラテラルスキャン1回が終了したか否かを判断する。J=Mでなければ、ステップS15においてJ値をインクリメント(J=J+1)してステップS13に戻る。以降、ステップS14でラテラルスキャン1回を終了した(J=M)と判断されるまで、ステップS13〜S15の処理を繰り返す。こうして2パス目〜Mパス目の印刷を繰り返すことで、パス毎に印刷ドット97のドット列からなるラスターラインが形成される。Mパス目の印刷を終えると、コード画像の印刷が完了する。この印刷では、下地ドット95の行が抜けて、セルの印刷が行われるが、その抜けた行は、その行の両側(本例では2パス目とMパス目の各行)に着弾したインク滴93が濡れ広がることにより、2パス目の印刷ドット97と4パス目の印刷ドット97が繋がるため、セルは問題となる余白なく全域が黒色に印刷される。
【0098】
このように本実施形態では、1版印刷でコード画像を形成することができる。このため、第1の実施形態に比べ、コード画像85の印刷や、コード画像87を含む画像の印刷を効率よく行うことができる。また、下地ドットの印刷から印刷ドット97の印刷までの時間間隔が1パス分の所要時間となるが、必要に応じて1パス分の所要時間を長く調整するので、特に問題はない。
【0099】
なお、上記実施形態は以下のような形態に変更することもできる。
・図19に示すように、下地ドット95をセル形成領域CAの外側に常に1列で配列する構成を採用してもよい。隣接する下地ドット95が繋がってできた滲み抑制部により、インク滴93の濡れ広がりが制限されるので、セルの滲みは抑制される。
【0100】
・図20に示すように、下地ドット95を間隔を空けて印刷し、その濡れ広がった同図に二点鎖線で示す下地ドット95によって、滲み長Lで規定される滲み領域BAを埋める構成でもよい。この構成によれば、下地ドット95のドット数を低減できる。
【0101】
・図21に示すように、セル形成領域CAの境界線の両側のドットを、他の位置のドットサイズより小さくしてもよい。この構成によれば、下地ドット95の境界線からのはみ出し量がより均一となるので、印刷ドット97の濡れ広がりが直線状に制限されやすくなり、セルがきれいな形状になる。また、小サイズであることから印刷ドット97の濡れ広がり範囲が比較的狭くなって直線状に制限されやすくなり、同様にセルがきれいな形状になる。
【0102】
・第2の実施形態において、下地ドット95を大小のドットサイズで形成してもよい。例えば図22に示すように、副走査方向Yに行の異なる下地ドット95を繋げる必要があるセル形成領域CAの副走査方向Yに延びている境界線に沿う下地ドット95については大サイズで形成し、主走査方向Xに延びている境界線に沿う下地ドット95は小サイズに形成する。この構成であれば、同図に二点鎖線で示す濡れ広がった下地ドット95からなる滲み抑制部140が、セル形成領域CAの境界線を含むように形成されて滲み抑制効果が高い。また、小サイズの下地ドット95により、第1インクを節約できるうえ、滲み抑制部140の境界線からのはみ出し量が均一になりやすいので、セルの形状がよくなる。
【0103】
滲み抑制部140を、セル形成領域CAの内部へはみ出ないように形成してもよい。
・コード画像は2次元コードに限定されない。バーコード等の1次元コードでもよい。また、本明細書においてコード画像を構成するセルとは、2次元コードのセルに限らず、1次元コードであるバーコードを構成するバーも含むものである。
【0104】
・印刷装置は、ラテラルスキャン方式のプリンター11に限定されず、シリアルプリンター、ラインプリンター、ページプリンターでもよい。例えばシリアルプリンターの場合、シートの搬送方向(副走査方向)に複数個の記録ヘッドを設け、上流側の記録ヘッドで下地ドットを印刷し、下流側の記録ヘッドでセルの印刷ドットを印刷するようにすればよい。また、長尺状の記録ヘッドを搬送方向にノズル群を分割して使用し、上流側のノズル群で下地ドットを印刷し、下流側のノズル群によりセルの印刷ドットを印刷する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0105】
11…記録装置の一例であるプリンター、13…記録媒体の一例であるシート、30…記録手段の一例である記録ユニット、31…記録手段を構成するキャリッジ、33…記録手段を構成する記録ヘッド、38…ノズル、39…ノズル列、40…コントローラー、43…メカコントローラー、44…メカニカル機構、45…ヘッド制御ユニット(HCU)、51…CPU、52…ASIC、53…ROM、54…RAM、55…不揮発性メモリー、61…搬送手段を構成する搬送モーター、62…第1CRモーター、63…相対移動手段の一例を構成する第2CRモーター、71…主制御部、73…ヘッド制御部、74…メカ制御部、76…コマンド解析部、77…マイクロウィーブ処理部、78…縦横変換部、85,87…コード画像、86…画像、88…下地画像、89…コード画像、90,91…セル、95…第1インクのドットの一例である下地ドット、97…第2インクのドットの一例である印刷ドット、100…印刷システム、110…画像生成装置、120…ホスト装置、122…プリンタードライバー、138…コード画像、140…滲み抑制部、C…制御手段の一例である制御装置、IC1〜IC8…インクカートリッジ、PD…印刷データ、X…主走査方向、Y…副走査方向、CA…セル形成領域、L…滲み長、BA…所定距離以内の領域の一例である滲み領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コード画像を記録媒体に記録する記録方法であって、
記録媒体におけるコード画像を構成するセルが形成されるセル形成領域の周囲に、透明、白色又は淡色の第1インクを着弾させて当該第1インクのドットにより滲み抑制部を形成する第1ステップと、
前記記録媒体における前記セル形成領域に黒色又は濃色の第2インクを着弾させて当該第2インクのドットにより前記セルを形成する第2ステップと、
を備えることを特徴とする記録方法。
【請求項2】
前記第1記録ステップでは、前記セル形成領域を囲むように前記第1インクでドットを記録することを特徴とする請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記第1ステップでは、前記セル形成領域から所定距離以内の領域に前記第1インクのドットを着弾させることを特徴とする請求項1又は2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記第1ステップでは、前記セル形成領域の境界線に沿って少なくとも1列のドット列を形成することを特徴とする請求項3に記載の記録方法。
【請求項5】
記録手段が、主走査方向に1回移動して記録を施す主走査と、前記主走査方向と交差する副走査方向へ前記記録手段と前記記録媒体とを相対移動させる副走査とを交互に行ってM回の主走査ごとに1つの画像を形成する構成であり、
前記第1ステップは、1回目の主走査で前記第1インクを着弾させることにより行われ、
前記第2ステップは、2回目以降の主走査で前記第2インクを着弾させることにより行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項6】
前記第2ステップでは、前記セル形成領域の内側1列目のドットはそれより内側の領域を記録する際のドットサイズよりも小さなドットサイズで記録することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項7】
記録媒体にインクを噴射して画像を記録する記録装置であって、
インクを噴射する記録手段と、
前記記録手段と記録媒体とを相対移動させる相対移動手段と、
前記記録手段及び前記相対移動手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記記録媒体にコード画像を形成する場合に、前記記録媒体における前記コード画像を構成するセルが形成されるセル形成領域の周囲に、前記記録手段から噴射させた透明、白色又は淡色の第1インクを着弾させて当該第1インクのドットにより滲み抑制部を形成するように前記記録手段を制御するとともに、前記滲み抑制部の形成後に、前記記録媒体における前記セル形成領域に、前記記録手段から噴射させた黒色又は濃色の第2インクを着弾させて当該第2インクのドットにより前記セルを形成するように、前記記録手段を制御することを特徴とする記録装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2012−148535(P2012−148535A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10580(P2011−10580)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】