説明

記録装置、制御方法

【課題】隣接トラックサーボ(ATS)の安定化を図る。
【解決手段】ATS制御系において、トラッキングサーボフィードバックループ内のトラッキング誤差信号に基づくサーボ演算部からの出力信号に対し、対物レンズを駆動するトラッキング機構の伝達特性を模した第1のフィルタ処理を施して得たATS光の照射スポット位置の推定値と、記録光の照射スポット位置とATS光の照射スポット位置との間の距離の値とに基づき、トラッキングサーボ制御部によるトラッキングサーボ制御の制御目標値の推定値を算出すると共に、推定値に対してトラッキングサーボループの伝達特性ゲインを全周波数帯域で0dB以下に抑制するための第2のフィルタ処理を施して生成した制御信号を、トラッキングサーボループに対して与えるフィードフォワード制御系を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる隣接トラックサーボにより光ディスク記録媒体に対する記録を行う記録装置に関する。また、そのような記録装置における制御方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2008−135144号公報
【特許文献2】特開2008−176902号公報
【背景技術】
【0003】
光の照射により信号の記録/再生が行われる光ディスク記録媒体(光ディスク)として、例えばCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc:登録商標)などが普及している。
【0004】
これらCD、DVD、BDなど現状において普及している光ディスクの次世代を担うべき光ディスクに関して、先に本出願人は、上記特許文献1や上記特許文献2に記載されるようないわゆるバルク記録型のものを提案している。
【0005】
ここで、バルク記録とは、例えば図13に示すようにして少なくともカバー層101とバルク層(記録層)102とを有する光記録媒体(バルク型記録媒体100)に対し、逐次焦点位置を変えてレーザ光照射を行ってバルク層102内に多層記録を行うことで、大記録容量化を図る技術である。
【0006】
このようなバルク記録に関して、上記特許文献1には、いわゆるマイクロホログラム方式と呼ばれる記録技術が開示されている。
マイクロホログラム方式では、バルク層102の記録材料として、いわゆるホログラム記録材料が用いられる。ホログラム記録材料としては、例えば光重合型フォトポリマ等が広く知られている。
【0007】
マイクロホログラム方式は、ポジ型マイクロホログラム方式とネガ型マイクロホログラム方式とに大別される。
ポジ型マイクロホログラム方式は、対向する2つの光束(光束A、光束B)を同位置に集光して微細な干渉縞(ホログラム)を形成し、これを記録マークとする手法である。
また、ネガ型マイクロホログラム方式は、ポジ型マイクロホログラム方式とは逆の発想で、予め形成しておいた干渉縞をレーザ光照射により消去して、当該消去部分を記録マークとする手法である。具体的に、ネガ型マイクロホログラム方式では、記録動作を行う前に、予めバルク層102に対して干渉縞を形成するための初期化処理を行う。すなわち、平行光による光束C,Dを対向して照射し、それらの干渉縞をバルク層102の全体に形成しておくものである。そして、このように初期化処理により予め干渉縞を形成しておいた上で、消去マークの形成による情報記録を行う。具体的には、任意の層位置にフォーカスを合わせた状態で記録すべき情報に応じたレーザ光照射を行うことで、消去マークによる情報記録を行うものである。
【0008】
また、本出願人は、マイクロホログラム方式とは異なるバルク記録の手法として、例えば特許文献2に開示されるようなボイド(空孔、空包)を記録マークとして形成する記録手法も提案している。
ボイド記録方式は、例えば光重合型フォトポリマなどの記録材料で構成されたバルク層102に対して、比較的高パワーでレーザ光照射を行い、上記バルク層102内に空孔を記録する手法である。特許文献2に記載されるように、このように形成された空孔部分は、バルク層102内における他の部分と屈折率が異なる部分となり、それらの境界部分で光の反射率が高められることになる。従って上記空孔部分は記録マークとして機能し、これによって空孔マークの形成による情報記録が実現される。
【0009】
このようなボイド記録方式は、ホログラムを形成するものではないため、記録にあたっては片側からの光照射を行えば済むものとできる。すなわち、ポジ型マイクロホログラム方式の場合のように2つの光束を同位置に集光して記録マークを形成する必要は無いものとできる。
また、ネガ型マイクロホログラム方式との比較では、初期化処理を不要にできるというメリットがある。
なお、特許文献2には、ボイド記録を行うにあたり記録前のプリキュア光の照射を行う例が示されているが、このようなプリキュア光の照射は省略してもボイドの記録は可能である。
【0010】
ところで、上記のような各種の記録手法が提案されているバルク記録型(単にバルク型とも称する)の光記録媒体であるが、このようなバルク型の光記録媒体の記録層(バルク層)は、例えば反射膜が複数形成されるという意味での明示的な多層構造を有するものではない。すなわち、バルク層102においては、通常の多層ディスクが備えているような記録層ごとの反射膜、及び案内溝は設けられていない。
従って、先の図13に示したバルク型記録媒体100の構造のままでは、マークが未形成である記録時において、フォーカスサーボやトラッキングサーボを行うことができないことになる。
【0011】
このため実際において、バルク型記録媒体100に対しては、次の図14に示すような案内溝を有する基準となる反射面(基準面Ref)を設けるようにされている。
具体的には、カバー層101の下面側にピットやグルーブによる案内溝(位置案内子)が形成され、そこに選択反射膜103が成膜される。そして、このように選択反射膜103が成膜されたカバー層102の下層側に対し、図中の中間層104としての、例えばUV硬化樹脂などの接着材料を介してバルク層102が積層される。
【0012】
また、このような媒体構造とした上で、バルク型記録媒体100に対しては、次の図15に示されるようにしてマークの記録用のレーザ光(記録用レーザ光)とは別途に、位置制御用のレーザ光としてのサーボ用レーザ光を照射するようにされる。
図示するようにこれら記録用レーザ光とサーボ用レーザ光とは、共通の対物レンズを介してバルク型記録媒体100に照射される。
【0013】
このとき、仮に、サーボ用レーザ光がバルク層102に到達してしまうと、当該バルク層102内におけるマーク記録に悪影響を与える虞がある。このため、従来よりバルク記録方式では、サーボ用レーザ光として、記録用レーザ光とは波長帯の異なるレーザ光を用いるものとした上で、案内溝形成面(基準面Ref)に形成される反射膜としては、サーボ用レーザ光は反射し、記録用レーザ光は透過するという波長選択性を有する選択反射膜103を設けるものとしている。
【0014】
以上の前提を踏まえた上で、図15を参照し、バルク型記録媒体100に対するマーク記録時の動作について説明する。
先ず、案内溝や反射膜の形成されていないバルク層102に対して多層記録を行うとしたときには、バルク層102内の深さ方向においてマークを記録する層位置を何れの位置とするかを予め設定しておくことになる。図中では、バルク層102内においてマークを形成する層位置(マーク形成層位置:情報記録層位置とも呼ぶ)として、第1情報記録層位置L1〜第5情報記録層位置L5の計5つの情報記録層位置Lが設定された場合を例示している。図示するように第1情報記録層位置L1は、案内溝が形成された選択反射膜103(基準面Ref)からフォーカス方向(深さ方向)に第1オフセットof-L1分だけ離間した位置として設定される。また、第2情報記録層位置L2、第3情報記録層位置L3、第4情報記録層位置L4、第5情報記録層位置L5は、それぞれ基準面Refから第2オフセットof-L2分、第3オフセットof-L3分、第4オフセットof-L4分、第5オフセットof-L5分だけ離間した位置として設定される。
【0015】
マークが未だ形成されていない記録時においては、記録用レーザ光の反射光に基づいてバルク層102内の各層位置Lを対象としたフォーカスサーボ、トラッキングサーボを行うことはできない。従って、記録時における対物レンズのフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御は、位置制御用光としてのサーボ用レーザ光の反射光に基づき、当該サーボ用レーザ光のスポット位置が基準面Ref上において案内溝に追従するようにして行うことになる。
【0016】
但し、記録用レーザ光は、マーク記録のために選択反射膜103よりも下層側に形成されたバルク層102に到達させる必要がある。このため、この場合の光学系には、対物レンズのフォーカス機構とは別途に、記録用レーザ光の合焦位置を独立して調整するためのフォーカス機構が設けられることになる。
【0017】
ここで、このような記録用レーザ光の合焦位置を独立して調整するための機構を含めた、バルク型記録媒体100の記録装置の内部構成例を図16に示しておく。
図16において、図中にLD1と示す第1レーザダイオード111は、記録用レーザ光の光源であり、LD2と示す第2レーザダイオード119はサーボ用レーザ光の光源である。先の説明からも理解されるように、これら第1レーザダイオード111と第2レーザダイオード119はそれぞれ異なる波長帯によるレーザ光を発光するように構成されている。
【0018】
図示するように第1レーザダイオード111より出射した記録用レーザ光は、コリメーションレンズ112を介して固定レンズ113・可動レンズ114・レンズ駆動部115から成るフォーカス機構に入射する。上記レンズ駆動部115によって上記可動レンズ114が記録用レーザ光の光軸に平行な方向に駆動されることで、図中の対物レンズ117に入射する記録用レーザ光のコリメーション状態(収束/平行/発散の状態)が変化し、記録用レーザ光の合焦位置を対物レンズ117の駆動による合焦位置の変化とは独立して調整することができる。
なお、この意味で、当該フォーカス機構については、記録光用独立フォーカス機構とも表記する。
【0019】
上記記録光用独立フォーカス機構を介した記録用レーザ光は、当該記録用レーザ光と同波長帯による光を透過しそれ以外の波長帯による光は反射するように構成されたダイクロイックミラー116に入射する。
図示するようにダイクロイックミラー116を透過した記録用レーザ光は、対物レンズ117を介してバルク型記録媒体100に対して照射される。対物レンズ117は、2軸アクチュエータ118によりフォーカス方向及びトラッキング方向に変位可能に保持されている。
【0020】
また、第2レーザダイオード119より出射されたサーボ用レーザ光は、コリメーションレンズ120を介した後、ビームスプリッタ121を透過し、上述したダイクロイックミラー116に入射する。サーボ用レーザ光は、当該ダイクロイックミラー117にて反射され、その光軸がダイクロイックミラー116を透過した記録用レーザ光の光軸と一致するようにして対物レンズ117に入射する。
対物レンズ117に入射したサーボ用レーザ光は、後述するサーボ回路125によるフォーカスサーボ制御によって2軸アクチュエータ118が駆動されることで、バルク型記録媒体100の選択反射膜103上(基準面Ref)に合焦するようにされている。また同時に、サーボ用レーザ光のトラッキング方向における位置は、サーボ回路125によるトラッキングサーボ制御によって2軸アクチュエータ118が駆動されることで、選択反射膜103に形成された案内溝に沿うようにされる。
【0021】
選択反射膜103からのサーボ用レーザ光の反射光は、対物レンズ117を介しダイクロイックミラー116で反射された後、ビームスプリッタ121にて反射される。ビームスプリッタ121にて反射されたサーボ用レーザ光の反射光は、集光レンズ122を介してフォトディテクタ123の検出面上に集光する。
【0022】
マトリクス回路124は、フォトディテクタ123による受光信号に基づきフォーカス、トラッキングの各エラー信号を生成し、それらの各エラー信号はサーボ回路125に供給される。
【0023】
サーボ回路125は上記各エラー信号からフォーカスサーボ信号、トラッキングサーボ信号を生成する。これらフォーカスサーボ信号、トラッキングエラー信号に基づき上述した2軸アクチュエータ118が駆動されることで、対物レンズ117のフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御が実現される。
【0024】
ここで、バルク型記録媒体100について予め設定された各情報記録層位置Lのうちから所要の情報記録層位置Lを対象としたマーク記録を行うとしたときには、レンズ駆動部115を駆動制御して、記録用レーザ光の合焦位置を、選択した情報記録層位置Lに対応するオフセットofに応じた分だけ変化させる。
具体的にこのような情報記録位置の設定制御は、例えば記録装置の全体制御を行うコントローラ126により行われる。すなわち、当該コントローラ126により、対象とする情報記録層位置Lxに応じて予め設定されたオフセット量of-Lxに基づいてレンズ駆動部115を駆動制御することで、記録用レーザ光による情報記録位置(合焦位置)を、上記対象とする情報記録層位置Lxに合わせるものである。
【0025】
また、記録時における記録用レーザ光のトラッキングサーボに関しては、上述のようにサーボ回路125がサーボ用レーザ光の反射光に基づいて対物レンズ117のトラッキングサーボ制御を行うことで、自動的に行われるものとなる。具体的に、記録用レーザ光のトラッキング方向におけるスポット位置は、基準面Refに形成された案内溝の直下となるように制御される。
【0026】
ちなみに、マーク記録が既に行われたバルク型記録媒体100について再生を行う際は、記録時のように対物レンズ117の位置を基準面Refからのサーボ用レーザ光の反射光に基づいて制御する必要はない。すなわち再生時においては、再生対象とする情報記録層位置Lに形成されたマーク列を対象として、再生用のレーザ光の照射を行うことで、当該再生用のレーザ光の反射光に基づいて対物レンズ117のフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御を行うことができる。
【0027】
上記により説明したようにバルク記録方式においては、バルク型記録媒体100に対し、マークの記録光としての記録用レーザ光と、位置制御用光としてのサーボ用レーザ光とを、共通の対物レンズ117を介して(同一光軸上に合成して)照射するようにされている。その上で、サーボ用レーザ光の反射光に基づいて対物レンズ117のフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御を行うことで、バルク層102内に案内溝やそれが形成された反射面が形成されていなくとも、記録用レーザ光のフォーカスサーボ、トラッキングサーボを行うことができるように図られている。
【0028】
しかしながら、上記により説明したようなサーボ制御手法を採る場合には、バルク型記録媒体100の偏芯や光学ピックアップのスライド機構のガタ等に起因して生じる対物レンズ117のレンズシフトによって、トラッキング方向における情報記録位置のずれが生じてしまうという問題がある。
確認のため述べておくと、スライド機構のガタに伴うレンズシフトとは、スライドサーボ制御中において、当該スライド機構におけるメカ機構的なガタの発生に起因して光学ピックアップの位置が急激(瞬間的に)に変位したことに伴って、トラッキングサーボ制御中の対物レンズ117の位置がその変位の吸収ためにシフトされることを意味する。
【0029】
図17は、上記のようなレンズシフトに伴う情報記録位置のずれが生じる原理について説明するための図である。
図17において、図17(a)は、バルク型記録媒体100に偏芯やスライド機構のガタが無く対物レンズ117のレンズシフトが生じていない理想的な状態を、また図17(b)は紙面左方向(外周方向であるとする)のレンズシフトが生じた場合(+方向の偏芯と称する)、図17(c)は紙面右方向(内周方向であるとする)のレンズシフトが生じた場合(−方向の偏芯と称する)をそれぞれ示している。
【0030】
先ず、図中の中心軸cは、光学系を設計する上で設定された中心軸であり、図17(a)に示す理想状態においては、対物レンズ117の中心は当該中心軸cに一致する。
【0031】
これに対し、図17(b)に示すような+方向のレンズシフトが生じた場合は、対物レンズ117の中心が光学系の中心軸cに対して+方向にシフトする。
このとき、サーボ用レーザ光(図中の柄付きの光線)に関しては、対物レンズ117に対して平行光により入射するので、上記のような対物レンズ117の中心軸cからのシフトが生じても、その焦点位置のトラッキング方向における位置に変化は生じない。これに対し、記録用レーザ光(図中の白抜きの光線)は、前述のように、基準面Refよりも下層側のバルク層102内の所要の情報記録層位置Lに合焦させるために、対物レンズ117に対して非平行光により入射されるので、上記のような+方向への対物レンズ117のシフトに対しては、図のように、記録用レーザ光の焦点位置(情報記録位置)が、レンズシフト量に応じた分だけ+方向に変化してしまうこととなる(図中、ずれ量+d)。
【0032】
また、図17(c)に示すような−方向のレンズシフトが生じた場合には、記録用レーザ光による情報記録位置は、図のようにレンズシフト量に応じた分だけ−方向に変化することとなる(図中ずれ量−d)。
【0033】
このようにして,先の図16にて説明したバルク型記録媒体100についての記録装置の構成、すなわち、

・記録用レーザ光とサーボ用レーザ光とを共通の対物レンズ117を介して照射する
・対物レンズ117のフォーカスサーボ制御を、サーボ用レーザ光がバルク型記録媒体100の基準面Refに合焦するようにして行う
・記録用レーザ光の焦点位置(情報記録位置)を対物レンズ117に入射する記録用レーザ光のコリメーション状態を変化させて調整する
・対物レンズ117のトラッキングサーボ制御を、サーボ用レーザ光の焦点位置が基準面Refに形成された案内溝に沿うようにして行う

という構成においては、ディスクの偏芯やスライド機構のガタ等に起因して、記録用レーザ光による情報記録位置がトラッキング方向にずれてしまうという問題が生じる。
このとき、偏芯の大きさ等やトラックピッチ(案内溝の形成間隔)の設定によっては、隣接する案内溝同士で情報記録位置が重なってしまうこともある。このようであると、正しく記録信号を再生することはできなくなる。
【0034】
なお、上記では情報記録位置のずれの要因として対物レンズ117のレンズシフトを主なものとして説明したが、情報記録位置のずれは、ディスクチルトによっても同様に生じるものである。
【0035】
上記のような情報記録位置ずれの問題を回避するための1つの対策としては、情報記録位置の変動以上にトラックピッチを広げておくということを挙げることができる。
しかしながら、この手法では、レンズシフト等の最大発生量が不確定であるため、どの程度トラックピッチを広げるかも不確定であるという問題がある。また、何よりトラックピッチの拡大により記録容量の低下を招いてしまうことが問題となる。
【0036】
また、情報記録位置ずれを回避するための他の手法としては、ディスクを着脱不能なシステムとすることが挙げられる。
ここで、偏芯の原因としては、ディスク内径とスピンドルモータへのクランプ径との誤差が挙げられる。加工上、両者の誤差を完全にゼロにすることは不可能であるので偏芯は不可避である。また仮に、両者の誤差をゼロにできたとしても、ディスクの基準面における記録信号中心と記録装置のスピンドル軸中心とが同一になるとは限らないので、この面でもやはり偏芯が生じる。そこで、ディスクの着脱を不能としたシステムにすれば、偏芯による影響が同じとなるので、記録位置が重なる問題を回避できる。そしてこのことで、トラックピッチを詰めることができ、その分、記録容量の増大を図ることができる。
【0037】
しかしながら、当然、この手法ではディスクの交換が一切できないので、例えばディスク不良時にディスクだけを交換するといったことができなくなる。さらには、或る記録装置で記録したデータを別の記録装置で読み出すといったこともできない。つまりこれらの点で、利便性が損なわれる結果となる。
【0038】
そこで、これらの問題を回避するための有効な手法として、いわゆるATS(Adjacent Track Servo:隣接トラックサーボ)の手法を採ることが考えられる。このATSは、元々はハードディスクドライブにおけるセルフサーボトラックライタ(SSTW)として検討されていたものである。
【0039】
図18は、ATSについて説明するための図である。
図のようにATSでは、記録用スポットSrecと隣接トラックサーボ用スポットSatsとを記録媒体上に形成するようにされる。これらスポットSrecとスポットSatsは、それぞれその元となる光線を共通の対物レンズを介して記録媒体に照射することで形成される。このとき、スポット間の距離は固定にする。
【0040】
ATSでは、記録用スポットSrecを先行スポット(つまり記録の進行方向が内周→外周である場合には外周側)とし、隣接トラックサーボ用スポットSatsを後行スポットとして、記録用スポットSrecによって形成したマーク列を対象として、隣接トラックサーボ用スポットSatsによりトラッキングサーボをかける。つまりは、記録用スポットSrecが形成した1本前のトラックに、隣接トラックサーボ用スポットSatsが追従するように対物レンズのトラッキングサーボ制御を行うというものである。
【0041】
このようなATSによれば、トラックピッチは各スポットS間の距離で一定とできるので、偏芯等の影響によってトラックが重なってしまう(情報記録位置が重なってしまう)という問題は生じないようにできる。すなわち、上述のように偏芯等に起因する情報記録位置のずれを考慮してトラックピッチを余分に広げたり、或いはディスクを着脱不能とするシステムとするといった必要は無いものとできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
しかしながら、ATSにおいて、隣接トラックサーボ用スポットSatsを用いたトラッキングサーボを従来行われているトラッキングサーボの手法と同様の手法で行った場合には、周回を重ねるごとにトラッキング誤差成分が次第に増大し、発散してしまうことが判明した。
以下、この点について説明する。
【0043】
図19は、ATS制御系を伝達関数ブロックにより表している。
図19において、K(z)と示す伝達関数ブロックは、トラッキングサーボ系における制御器としてのサーボ演算器(サーボフィルタ)の離散系伝達関数を表すものであり、またP(z)と示す伝達関数ブロックは、対物レンズを駆動するアクチュエータの離散系伝達関数を表している。
また、図中のrは制御目標位置であり、eはトラッキングエラー信号を表す。uは制御器の出力(トラッキングドライブ信号に相当)、ysは隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置を表す。
r-aは、記録用スポットSrecと隣接トラックサーボ用スポットSatsとの間の距離である。
【0044】
図示するように、隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置ysと目標位置rとの差がエラー信号eである。一般的なトラッキングサーボ制御系と同様に、この場合のサーボ系においてもエラー信号eをゼロとするように制御器(K(z))が動作する。
【0045】
ここで、先の図18の説明からも理解されるように、ATSでは、1つ前のトラックを記録したときの記録用スポットSrecの位置が、現記録対象のトラックを記録するときの目標位置rとなる。図19ではこの前提を下に、目標位置rを、ディスク1周分の回転時間に相当する遅延時間要素z-kと距離dr-aとを用いて表している。具体的に、目標位置rは、隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置ysに対して距離dr-aが加算されたものとして表すことのできる記録用スポットSrecの位置yrが、上記遅延時間要素z-kを介したものと表される。換言すれば、ディスク1回転分の時間だけ以前の記録用スポットSrecの位置が、目標位置rということである。
【0046】
この図19に示す制御系における目標位置rから位置ysへの伝達特性は、一般には、図20に示すような特性となる。
図20において、図20(a)は周波数−振幅特性、図20(b)は周波数−位相特性を示しているが、この図20を参照して分かるように、目標位置rから位置ysへの伝達特性(つまりATS制御系の伝達特性)としては、サーボ帯域の近辺の帯域で伝達特性ゲインが0dBよりも大きくなる。また位相については、サーボ帯域近辺にて遅れが生じる傾向となる。
【0047】
上記のようにサーボ帯域近辺でゲインが0dBより大となる特性から、当該サーボ帯域の成分がディスクの周回ごとに増幅されてしまい、その結果、隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置ysは、図21に示すように時間と共に発散してしまう。
【0048】
この点より、従来のATSでは、トラッキングサーボ制御を安定して行うことが非常に困難なものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0049】
上記のような問題点に鑑み、本発明では記録装置として以下のように構成することとした。
すなわち、光ディスク記録媒体に対し、共通の対物レンズを介して記録光と隣接トラックサーボ用のATS光とを照射するように構成されると共に、上記ATS光の上記光ディスク記録媒体からの反射光を受光するように構成された光照射・受光部を備える。
また、上記光ディスク記録媒体を回転駆動する回転駆動部を備える。
また、上記対物レンズを上記光ディスク記録媒体の半径方向に平行な方向であるトラッキング方向に駆動するトラッキング機構を備える。
また、上記光照射・受光部により得られる上記ATS光についての受光信号に基づき、上記光ディスク記録媒体に記録されたマーク列に対する上記ATS光の照射スポット位置の誤差を表すトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成部を備える。
また、上記トラッキング誤差信号に基づいて上記トラッキング機構を駆動することで、上記対物レンズについてのトラッキングサーボ制御を行うトラッキングサーボ制御部を備える。
そして、上記トラッキングサーボ制御部が、
トラッキングサーボループとしてのフィードバックループ内において上記トラッキング誤差信号に基づくサーボ演算を行うサーボ演算部と、
上記サーボ演算部からの出力信号に対し上記トラッキング機構の伝達特性を模した第1のフィルタ処理を施して得た上記ATS光の照射スポット位置の推定値と、上記記録光の照射スポット位置と上記ATS光の照射スポット位置との間の距離の値とに基づき、上記トラッキングサーボ制御部によるトラッキングサーボ制御の制御目標値の推定値を算出すると共に、当該推定値に対して、上記トラッキングサーボループの伝達特性ゲインを全周波数帯域で0dB(デシベル)以下に抑制するための第2のフィルタ処理を施して生成した制御信号を、上記トラッキングサーボループに対して与えるフィードフォワード制御部とを備えるようにした。
【0050】
上記本発明によれば、ATS制御系を構成するトラッキングサーボループの伝達特性ゲインを全周波数帯域で0dB以下に抑制できる。すなわち、従来のATS制御系のようにサーボ帯域で伝達特性ゲインが0dBよりも大となってしまう事態を解消できる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、サーボ帯域で伝達特性ゲインが0dBよりも大となってしまう従来のATS制御系の特性を改善でき、その結果、従来のATS制御系のようにトラッキング誤差信号が時間と共に増大して発散してしまうといった事態の発生を防止できる。
これにより、ATSの安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施の形態で記録対象とする光ディスク記録媒体の断面構造図である。
【図2】実施の形態の記録装置の内部構成を示した図である。
【図3】第1の実施の形態としてのATS制御系を伝達関数ブロックにより表した図である。
【図4】図3に示すATS制御系の等価図である。
【図5】第1の実施の形態のATS制御系の伝達特性について説明するための図である。
【図6】第1の実施の形態のATS制御系についてのシミュレーション結果を示した図である。
【図7】第1の実施の形態としてのフィードフォワード制御なしの場合(従来のATS制御系の場合)のシミュレーション結果を示した図である。
【図8】第1の実施の形態としてのATS制御を実現するためのATS制御回路の内部構成を示した図である。
【図9】第2の実施の形態のATS制御系を伝達関数ブロックにより表した図である。
【図10】第2の実施の形態としてのATS制御系についてのシミュレーション結果を示した図である。
【図11】第2の実施の形態としてのATS制御を実現するためのATS制御回路の内部構成を示した図である。
【図12】記録対象とする光ディスク記録媒体の他の例について説明するための図である。
【図13】バルク記録方式について説明するための図である。
【図14】基準面を備える実際のバルク型記録媒体の断面構造を例示した図である。
【図15】バルク型記録媒体に対するマーク記録時の動作について説明するための図である。
【図16】バルク型記録媒体に対して記録を行う従来例の記録装置の内部構成を示した図である。
【図17】レンズシフトにより情報記録位置のトラッキング方向における位置ずれが発生する原理について説明するための図である。
【図18】ATSについて説明するための図である。
【図19】従来のATS制御系を伝達関数ブロックにより表した図である。
【図20】従来のATS制御系の伝達特性を示した図である。
【図21】従来のATS制御系の時間経過に伴う出力特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について説明していく。
なお、説明は以下の順序で行うものとする。

<1.第1の実施の形態>
[1-1.記録対象とする光ディスク記録媒体の例]
[1-2.実施の形態の記録装置の内部構成]
[1-3.第1の実施の形態のサーボ制御手法]
[1-4.サーボ回路の構成例]
<2.第2の実施の形態>
[2-1.第2の実施の形態のサーボ制御手法]
[2-2.サーボ回路の構成例]
<3.変形例>
【0054】
<1.第1の実施の形態>
[1-1.記録対象とする光ディスク記録媒体の例]

図1は、実施の形態の記録装置が記録対象とする光ディスク記録媒体の断面構造図を示している。
実施の形態で記録対象とする光ディスク記録媒体は、いわゆるバルク記録型の光ディスク記録媒体とされ、以下、バルク型記録媒体1と称する。
光ディスク記録媒体としてのバルク型記録媒体1は、記録装置により回転駆動された状態にてレーザ光照射が行われてマーク記録(情報記録)が行われる。
なお、光ディスク記録媒体とは、光の照射により情報の記録(及び再生)が行われる円盤状の記録媒体を総称したものである。
【0055】
図1に示されるように、バルク型記録媒体1には、上層側から順にカバー層2、選択反射膜3、中間層4、バルク層5が形成されている。
ここで、本明細書において「上層側」とは、後述する実施の形態としての記録装置(記録装置10)側からのレーザ光が入射する面を上面としたときの上層側を指す。
【0056】
また、本明細書においては「深さ方向」という語を用いるが、この「深さ方向」とは、上記「上層側」の定義に従った上下方向(縦方向)と一致する方向(すなわち記録装置側からのレーザ光の入射方向に平行な方向:フォーカス方向)を指すものである。
【0057】
バルク型記録媒体1において、上記カバー層2は、例えばポリカーボネートやアクリルなどの樹脂で構成され、図示するようにその下面側には、記録位置を案内するための位置案内子が形成されている。
この場合、上記位置案内子としては、連続溝(グルーブ)又はピット列による案内溝が形成され、図のように凹凸の断面形状が与えられる。ここで、例えば案内溝がピット列で形成される場合、ピットとランドの長さの組み合わせにより位置情報(絶対位置情報:回転角度情報と半径位置情報を指すものとする)が記録される。或いは、案内溝がグルーブとされる場合、当該グルーブを周期的に蛇行(ウォブル)させて形成することで、該蛇行の周期情報により位置情報の記録が行われる。
カバー層2は、このような案内溝(凹凸形状パターン)が形成されたスタンパを用いた射出成形などにより生成される。
【0058】
また、上記案内溝が形成された上記カバー層2の下面側には、選択反射膜3が成膜される。
ここで、前述もした通り、バルク記録方式では、記録層としてのバルク層5に対してマーク記録を行うための記録光(記録用レーザ光)とは別に、上記のような案内溝に基づきトラッキングやフォーカスのエラー信号を得るためのサーボ光(位置制御用光、サーボ用レーザ光とも称する)を別途に照射するものとされている。
このとき、仮に、上記サーボ光がバルク層5に到達してしまうと、当該バルク層5内におけるマーク記録に悪影響を与える虞がある。このため、サーボ光は反射し、記録光は透過するという選択性を有する反射膜が必要とされている。
従来よりバルク記録方式では、記録光とサーボ光とはそれぞれ波長帯の異なるレーザ光を用いるようにされており、これに対応すべく、上記選択反射膜3としては、サーボ光と同一の波長帯の光は反射し、それ以外の波長帯による光は透過するという、波長選択性を有する選択反射膜が用いられる。
【0059】
上記選択反射膜3の下層側には、例えばUV硬化樹脂などの接着材料で構成された中間層4を介して、記録層としてのバルク層5が積層(接着)されている。
バルク層5の材料(記録材料)としては、例えば先に説明したポジ型マイクロホログラム方式やネガ型マイクロホログラム方式、ボイド記録方式など、採用するバルク記録の方式に応じて適宜最適なものが採用されればよい。
なお、本発明で対象とする光ディスク記録媒体に対するマーク記録方式は特に限定されるべきものではなく、バルク記録方式の範疇において任意の方式が採用されればよい。
以下、本例においては、ボイド記録方式が採用されるものとして説明を続ける。
【0060】
ここで、上記のような構成を有するバルク型記録媒体1において、上述の案内溝の形成に伴い凹凸断面形状パターンの与えられた選択反射膜3は、後述もするようにサーボ用レーザ光に基づく記録用レーザ光の位置制御を行うにあたっての基準となる反射面となる。この意味で、選択反射膜3が形成された面を以下、基準面Refと称する。
【0061】
先の図15においても説明したように、バルク型の光記録媒体においては、バルク状の記録層内に多層記録を行うために、予め情報記録を行うべき各層位置(情報記録層位置L)が設定される。バルク型記録媒体1においても、情報記録層位置Lについては、先の図15の場合と同様に、基準面Refからそれぞれ深さ方向に第1オフセットof-L1、第2オフセットof-L2、第3オフセットof-L3、第4オフセットof-L4、第5オフセットof-L5分だけ離間した第1情報記録層位置L、第2情報記録層位置L2、第3情報記録層位置L3、第4情報記録層位置L4、第5情報記録層位置L5が設定されているとする。
基準面Refからの各層位置Lへのオフセットof-Lの情報は、予め記録装置側に設定される。
【0062】
なお、情報記録層位置Lの数は5に限定されるべきものではない。
【0063】
[1-2.実施の形態の記録装置の内部構成]

図2は、図1に示したバルク型記録媒体1に対する記録を行う実施の形態としての記録装置の内部構成を示している。
実施の形態の記録装置は、先の図18にて説明したようなATS(Adjacent Track Servo:隣接トラックサーボ)によって記録光についてのトラッキングサーボを実現するように構成される。
【0064】
ここで、実施の形態の記録装置においては、ATS制御系と共に、サーボ用レーザ光によるトラッキングサーボ制御系も設けられるものとなるが、これは、未記録のバルク層5に対して初回にマーク記録を行うにあたり、基準面Refの位置案内子に基づく対物レンズのトラッキングサーボ制御が可能となるようにするためである。
仮に、サーボ用レーザ光に基づくトラッキングサーボ制御系が設けられていないとすると、位置案内子やそれが形成された反射面を一切有しないバルク層5に対して初回にマーク記録を行う(つまり1本目のマーク列記録を行う)際に、トラッキングサーボをかけることができず、対物レンズ(OL)がフリーの状態で(つまり偏芯成分や外乱成分等を一切キャンセルすることなく)記録を行うこととなってしまい、正確なスパイラル形状を描くことができない虞がある。
そこで、初回のマーク記録時において、基準面Refに形成された位置案内子を利用してトラッキングサーボをかけるために、サーボ用レーザ光に基づくトラッキングサーボ制御系を設けるものとしている。
【0065】
なお、正確なスパイラル形状が描けないとしても、その後のATS記録によれば、トラックピッチは既記録のマーク列に対し一定とできるので、特に記録容量が低下する等といった弊害は生じない。このことからも理解されるように、初回のマーク記録時に、上記のような基準面Refを利用したサーボ用レーザ光に基づく対物レンズのトラッキングサーボ制御を行うことは必須ではない。換言すれば、サーボ用レーザ光に基づくトラッキングサーボ制御系を設けることは必須ではない。
なお、サーボ用レーザ光に基づく対物レンズのトラッキングサーボ制御を行わない場合には、基準面Refに記録された位置情報を利用することはできないが、この場合、半径方向における位置情報は、例えばレーザスケールなどを用いた半径センサにより検出するものとし、また回転角度情報については例えばスピンドルモータ(10)の回転角度を検出した結果に基づき取得する等すればよい。
【0066】
図2において、記録装置に対して装填されたバルク型記録媒体1は、当該記録装置における所定位置においてそのセンターホールがクランプされるようにしてセットされ、図中のスピンドルモータ(SPM)10による回転駆動が可能な状態に保持される。
そして、記録装置には、スピンドルモータ10により回転駆動されるバルク型記録媒体1に対し、記録用レーザ光とサーボ用レーザ光、さらに隣接トラックサーボ用のビームスポットを形成するためのATS光とを共通の対物レンズOLを介して照射する光学ピックアップOPが設けられる。
光学ピックアップOPにおいて、対物レンズOLは、2軸アクチュエータ12によってフォーカス方向及びバルク型記録媒体1の半径方向に平行な方向(トラッキング方向)に変位可能に保持されている。
【0067】
また、この光学ピックアップOP内には、上記ATS光のバルク型記録媒体1からの反射光を受光するための受光部も設けられ、図中では当該受光部による受光信号を「DT-ats」と表記している。
さらに光学ピックアップOP内には、サーボ用レーザ光の反射光を受光するための受光部も設けられており、当該受光部による受光信号については「DT-sv」と表記している。
【0068】
本例の光学ピックアップOPは、記録用レーザ光とサーボ用レーザ光とを同一光軸上に合成してバルク型記録媒体1に照射するように構成されている。すなわち、トラッキング方向において、これら記録用レーザ光の照射スポット位置とサーボ用レーザ光の照射スポット位置とは同一位置に重なるようにされている(レンズシフトやチルトの影響は除く)。
また、光学ピックアップOPは、上記ATS光については、その照射スポット位置が、録再用レーザ光の照射スポット位置に対して所定の間隔だけ離間した位置となるように照射する。
先の図18にて説明したように、ATSにおいては、記録用のスポットが先行スポット、ATS光のスポットが後行スポットとなるように配置するので、光学ピックアップOPは、半径方向において記録が進行する方向を記録方向と呼ぶこととすると、ATS光の照射スポットが、記録用のスポットに対して記録方向とは逆方向に位置するようにATS光を照射するように構成される。
【0069】
なお、前述もしたように記録用レーザ光とサーボ用レーザ光とはそれぞれ波長帯が異なる。本例の場合、記録用レーザ光の波長はおよそ405nm程度(いわゆる青紫色レーザ光)、サーボ用レーザ光の波長はおよそ650nm程度(赤色レーザ光)とされるものとする。
【0070】
ここで、記録用レーザ光とATS光とについては、その光源を共通とすることができる。その場合、記録用レーザ光とATS光の波長は同一となる。
或いは、記録用レーザ光とATS光の光源を別とすることも可能である。その場合、ATS光の波長については、図1に示した波長選択膜3の波長選択性を考慮して、録再用レーザ光の波長と同一とするか、或いはそれに近い波長とする。
なお、録再用レーザ光とATS光の光源を共通とする場合、これらの光は上記光源からの出射光をグレーティング等で複数の光束に分割して生成する。
【0071】
なお、図示による説明は省略するが、実際において記録装置には、光学ピックアップOPをトラッキング方向にスライド駆動するスライド駆動部が設けられ、当該スライド駆動部による光学ピックアップOPの駆動により、バルク型記録媒体1に対する光照射位置を広範囲に変位させることができるようにされている。
【0072】
また、光学ピックアップOPの外部には、記録処理部11、エラー信号生成回路13、ATS制御回路14、マトリクス回路15、基準面側サーボ回路16、セレクタ17、トラッキングドライバ18、位置情報検出部19、及びコントローラ20が設けられる。
【0073】
記録処理部11は、入力される記録データに応じて光学ピックアップOP内に設けられる記録用レーザ光の光源を発光駆動して、バルク層5に対するマーク記録を実行させる。
【0074】
エラー信号生成回路13に対しては、光学ピックアップOP内に設けられる前述したATS光についての受光部からの受光信号DT-atsが入力される。エラー信号生成回路13は、受光信号DT-atsに基づき、記録されたマーク列に対するATS光の照射スポット位置の誤差を表すトラッキングエラー信号TE-atsを生成する。
【0075】
ATS制御回路14は、エラー信号生成回路13により生成されたトラッキングエラー信号TE-atsに基づき、当該エラー信号TE-atsが所定の目標値(ゼロ)となるようにするためのトラッキングサーボ信号TS-atsを生成する。図示するようにトラッキングサーボ信号TS-atsはセレクタ17に対して供給される。
なお、ATS制御回路14の内部構成については後に改めて説明する。
【0076】
マトリクス回路15に対しては、光学ピックアップOP内における前述したサーボ用レーザ光についての受光部からの受光信号DT-svが入力される。マトリクス回路15は、上記受光部が備える複数の受光素子からの出力電流に対応して電流電圧変換回路、マトリクス演算/増幅回路等を備え、マトリクス演算処理により必要な信号を生成する。
具体的にこの場合は、基準面Ref上のトラック(グルーブ又はピット列)に対するサーボ用レーザ光の照射スポット位置の誤差を表すトラッキングエラー信号TE-svと共に、基準面Refに記録された絶対位置情報の検出を行うための位置情報検出用信号Dpsを生成する。
【0077】
マトリクス回路15にて生成された位置情報検出用信号Dpsは、位置情報検出部19に供給される。位置情報検出部19は、位置情報検出用信号Dpsに基づき、基準面Refに記録された絶対位置情報(半径位置情報及び回転角度情報)を検出する。検出された絶対位置情報はコントローラ20に供給される。
【0078】
また、マトリクス回路15にて生成されたトラッキングエラー信号TE-svは基準面側サーボ回路16に供給される。
基準面側サーボ回路16は、トラッキングエラー信号TE-svに基づき、当該トラッキングエラー信号TE-svがゼロとなるようにするためのトラッキングサーボ信号TS-svを生成し、これをセレクタ17に対して出力する。
【0079】
また基準面側サーボ回路16は、コントローラ20から為される指示に応じて、トラッキングサーボループをオフとしてトラックジャンプ動作を実現するためのジャンプパルスの出力を行ったり、トラッキングサーボの引き込み制御等も行う。
【0080】
セレクタ17は、コントローラ20からの指示に応じて、ATS制御回路14からのトラッキングサーボ信号TS-ats、基準面側サーボ回路16からのトラッキングサーボ信号TS-svの何れか一方を選択してトラッキングドライバ18に出力する。
【0081】
トラッキングドライバ18は、セレクタ17から出力されるトラッキングサーボ信号TSに基づき、2軸アクチュエータ12が有する例えばトラッキングコイルなどのトラッキングアクチュエータを駆動するためのトラッキングドライブ信号TDを生成し、これを上記トラッキングアクチュエータに対して与える。
上記トラッキングアクチュエータがトラッキングドライブ信号TDに応じて駆動されることにより、セレクタ17においてトラッキングエラー信号TE-sv側が選択される場合には、「2軸アクチュエータ12→マトリクス回路15→基準面側サーボ回路16→トラッキングドライバ18→2軸アクチュエータ12」によるトラッキングサーボループが形成され、またトラッキングエラー信号TE-ats側が選択される場合にあっては、「2軸アクチュエータ12→エラー信号生成回路13→ATS制御回路14→トラッキングドライバ18→2軸アクチュエータ12」によるトラッキングサーボループが形成される。
【0082】
コントローラ20は、例えばCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのメモリ(記憶装置)を備えたマイクロコンピュータで構成され、例えば上記ROM等に記憶されたプログラムに従った制御・処理を実行することで、記録装置の全体制御を行う。
具体的に、コントローラ20は、基準面側サーボ回路16に対し、サーボ用レーザ光の照射スポットを基準面Ref上の所定位置に位置させるための指示を行う。すなわち、ディスク上の所定位置にアクセスするためのアクセス指示を行うものである。
また、本例のコントローラ20は、セレクタ17の切替制御も行う。
【0083】
ここで、これら基準面側サーボ回路16に対するアクセス指示やセレクタ17の切替制御は、未記録のバルク層5に対する初回のマーク記録を開始する際に実行する。具体的には、先ずは基準面側サーボ回路16に対しディスク上の所定の記録開始位置へのアクセス指示を行って、サーボ用レーザ光の照射スポットを上記記録開始位置に到達させるための動作を実行させる。つまりこれにより、記録用レーザ光の照射スポットの位置(トラッキング方向における位置)が、上記記録開始位置に対応する位置に到達されるようにする。このとき、セレクタ17については、トラッキングサーボ信号TS-sv側の選択状態を維持させて、サーボ用レーザ光による対物レンズOLのトラッキングサーボ制御状態を継続させる。
そしてその状態にて、マーク記録を開始させる。マーク記録の開始後は、例えば当該記録がディスク1周分完了したことに応じて、セレクタ17にトラッキングサーボ信号TS-ats側を選択させる。先の図18を参照して分かるように、少なくともディスク1周分の記録が完了したことによっては、後行スポットとしてのATS光の照射スポットが、記録済みマーク列上に位置することになるので、上記のようにセレクタ17の選択状態を切り替えることで、ATSにスムーズに移行することができる。
【0084】
なお、基準面側サーボからATSに移行するための具体的な手法は、上記手法に限定されるべきものではなく、ここではあくまで一例を挙げたに過ぎない。
【0085】
ここで、図2においては、フォーカス制御系の構成についてはその図示を省略したが、本例の場合も、フォーカス制御については、先の図16にて説明したものと同様の手法で行うものとすればよい。すなわち、記録用レーザ光(ATS光)のフォーカス制御については、サーボ用レーザ光が基準面Refに合焦するように対物レンズOLのフォーカスサーボ制御を実行しつつ、光学ピックアップOP内に設けられる記録光用独立フォーカス機構(図16における固定レンズ113・可動レンズ114・レンズ駆動部115に相当)により、対物レンズOLに入射する記録用レーザ光及びATS光のコリメーション状態を変化させることで行うものとすればよい。
この場合において、バルク層5内における情報記録層位置Lの選択は、例えばコントローラ20の制御に基づき行う。具体的には、予めコントローラ20に対し各情報記録層位置Lに対応して設定されたオフセットofの値(図15を参照)を設定しておき、コントローラ20が、記録対象とすべき情報記録層位置Lxに対応するオフセットof-Lxの値に基づいて、上記記録光用独立フォーカス機構のレンズ駆動部を制御して可動レンズを駆動させることで、記録用レーザ光(及びATS光)の合焦位置を上記情報記録層位置Lxに一致させる。
【0086】
[1-3.第1の実施の形態のサーボ制御手法]

上記のように本実施の形態の記録装置は、バルク層5にマーク記録を行う際のトラッキングサーボとして、ATS光を用いたトラッキングサーボを行うものであるが、先の図19〜図21を参照して説明した通り、ATS光を用いたトラッキングサーボを従来のトラッキングサーボと同様の手法で行った場合には、ディスクの周回ごとにトラッキング誤差成分が次第に増大し、発散してしまうという問題が生じる。
【0087】
ここで、ATSにおいて時間と共にエラー信号が増大する要因としては、先の図20にて説明したように、サーボ系の伝達特性ゲインとして、サーボ帯域近辺のゲインが0dB(デシベル)よりも大となってしまう点が挙げられる。
【0088】
また、ATSにおいて時間と共にエラー信号が増大する要因として、特に本例のバルク型記録媒体1のような着脱可能な記録媒体(リムーバブルメディア)とする場合には、ディスクの着脱に伴い偏芯の態様が変化する点も挙げられる。
つまり、或るディスクについて或る記録装置で記録を行った後に、ディスクを他の記録装置に付け替えて、当該他の記録装置により追記を行うという場合には、ディスクの付け替えに伴って偏芯の発生態様が変化することにより、ATSとして既記録のマーク列に追従するにあたってのトラッキング誤差成分がその分大となるというものである。
【0089】
実施の形態では、ディスクの着脱が可能とされる記録システムにATSを適用した場合においても、時間と共にエラー成分が増大し発散してしまうということが防止されるようにして、ATSの安定化を図ることを目的とする。
このため、先ず第1の実施の形態のサーボ制御手法として、以下で説明するような手法を提案する。
【0090】
図3は、第1の実施の形態としてのATS制御系を伝達関数ブロックにより表した図である。
図3において、K(z)と示す伝達関数ブロックは、トラッキングサーボ系における制御器としてのサーボ演算器(サーボフィルタ)の離散系伝達関数を表すものであり、またP(z)と示す伝達関数ブロックは、2軸アクチュエータ12(トラッキングアクチュエータ)の離散系伝達関数を表している。
また、図中のrは制御目標位置(制御目標値)であり、eはトラッキングエラー信号(TE-ats)を表す。uは制御器の出力(トラッキングドライブ信号TD-atsに相当)、ysはATS光の照射スポット位置を表す。
r-aは、記録用レーザ光の照射スポット位置とATS光の照射スポット位置との間の距離を表す。
なお、以下では説明の便宜上、伝達関数と伝達特性とは等価なものであるとして同視し、それらに同一符号を付す。
【0091】
図示するように、ATS光の照射スポットysと目標位置rとの差がエラー信号eであり、制御器(K(z))は、当該エラー信号eをゼロとするように動作する。
このエラー信号eを算出する減算ブロックと、制御器としての伝達関数ブロックK(z)と、アクチュエータの伝達特性を表す伝達関数ブロックP(z)とにより、トラッキングサーボループとしてのフィードバックループが形成されている。
【0092】
ここで、この図3においても、先の図19に倣い、記録光の照射スポット位置yrをATS光の照射スポット位置ysに距離dr-aが加算されたものとして表した上で、当該記録光の照射スポット位置yrがディスク1周分の回転時間に相当する遅延時間要素z-kを介したものが、制御目標値rであるものとして表現している。
すなわち、ディスク1回転分の時間だけ以前の記録光の照射スポット位置yrが、制御目標位置rであると表現しているものである。
【0093】
この図3に示す第1の実施の形態のATS制御系と、先の図19に示した従来のATS制御系とを比較とすると、本実施の形態のATS制御系は、従来のATS制御系(つまり前述のフィードバックループ)に対して、伝達関数ブロックP’(z)、距離dr-aの加算ブロック、遅延時間要素z-k、及び伝達関数ブロックKf(z)を追加したものとなっていることが分かる。
伝達関数ブロックP’(z)は、アクチュエータの伝達特性(P(z))を模したものである。この伝達関数ブロックP’(z)には、制御器の出力uが入力され、これによってATS光の照射スポット位置ysの推定値ys’が得られる。
そして、ここでは、当該推定値ys’に対して距離dr-aが加算されて記録光の照射スポット位置yrの推定値yr’が得られ、当該推定値yr’が遅延時間要素z-k(ディスク1周分の回転時間に相当する遅延時間)を介したものを、制御目標位置の推定値r’としている。その上で、図示するように当該推定値r’が伝達関数ブロックKf(z)を介したものを、フィードバックループに対して与えるものとしている。具体的にこの場合は、制御器としての伝達関数ブロックK(z)の出力から、上記伝達関数ブロックKf(z)の出力が減算されるようにして与えるものとしている。
【0094】
ここで、図3に示すATS制御系は、等価的には、図4のように表すことができる。
つまり、この図4に示されるように、本実施の形態のATS制御系は、従来のトラッキングサーボループとしてのフィードバックループに対し、制御目標位置rを入力して伝達関数ブロックKf(z)に基づくフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御系(以下、フィードフォワード制御部とも称する)が追加されたものとなる。
なお確認のため述べておくと、制御目標位置rは、実際の構成上は検出し得ないものである。このため、実際の構成上は、図3に示したように制御器の出力uからアクチュエータの伝達特性(P(z))を模した伝達特性P’(z)を用いて、制御目標値rを推定することになる。
【0095】
本実施の形態のATS制御系では、上記のような伝達特性Kf(z)を用いたフィードフォワード制御系により、制御器(K(z))を含むフィードバックループ(トラッキングサーボループ)の伝達特性ゲインを、全周波数帯域で0dB以下となるように制御する。
【0096】
ここで、この際の伝達特性Kf(z)、換言すればフィードフォワード制御器の伝達特性(フィルタ特性)Kf(z)は、上記トラッキングサーボループが元々有する伝達特性を考慮して、当該伝達特性ゲインを全周波数帯域で0dB以下に抑制することができるように算出すればよい。
一例として、本例においては、伝達特性Kf(z)を以下のように設定するものとした。
先ず、前提として、伝達特性P(z)、伝達特性K(z)が以下のものであるとする。


【数1】



【数2】



この前提の下、本例では伝達特性Kf(z)を下記のように設定した。なお、サンプリング周波数は400kHzとした。


【数3】


【0097】
図5は、第1の実施の形態のATS制御系の伝達特性について説明するための図である。
図5(a)は伝達特性ゲイン(周波数−振幅特性)、図5(b)は周波数−位相特性を示している。
なおこれら図5(a)、図5(b)では比較のため、第1の実施の形態としてのフィードフォワード制御を行わない場合(FFなし:従来のATS制御系に相当)の特性を破線により示している。
【0098】
この図5より、本実施の形態のフィードフォワード制御を行うものとすれば、FFなしとしての従来のATS制御系で0dBより大となっていた帯域のゲインが、0dB以下となるように抑制されていることが分かる。
これにより、時間と共にエラー信号が増大して発散してしまうといった自体の発生を防止することができる。
【0099】
ここで、図6に、第1の実施の形態のATS制御系についてのシミュレーション結果を示す。また、図7には比較として、第1の実施の形態としてのフィードフォワード制御なしの場合のシミュレーション結果も示す。
これら図6及び図7において、各(a)図はATS光の照射スポット位置ys(実線)と制御目標位置r(破線)のシミュレーション結果を示し、各(b)図は制御器の出力uのシミュレーション結果を示している。また各(c)図はエラー信号eのシミュレーション結果を示す。
なおシミュレーションにおいて、k=4000とした。またサンプリング周波数は400kHzである。なおこれらより、ディスク回転周波数は100Hzとしていることに相当する。
またこれらのシミュレーションにおいては、偏芯成分として±20μmの周期変動成分を与えた。
【0100】
先ず、各(a)図については、図6の本実施の形態の場合も図7のFFなしの場合(つまり従来の場合)も、照射スポット位置ysは制御目標位置rに追従しており、グラフはほぼ重なっている。
そして、各(b)図、及び各(c)図を参照すると、図7に示す従来の場合には、制御器の出力u及びエラー信号eは時間と共に増大して発散傾向となっているのに対し、図6の本実施の形態の場合には、制御器の出力u及びエラー信号e共にその増大が抑制されて、発散が防止されていることが分かる。つまりその分、安定な制御が実現されるものである。
【0101】
このようにして第1の実施の形態のATS制御手法によれば、サーボ帯域で伝達特性ゲインが0dBよりも大となってしまう従来のATS制御系の特性を改善でき、その結果、従来のATS制御系のようにトラッキング誤差成分が時間と共に増大して発散してしまうといった事態の発生を防止できる。
これにより、ATSの安定化が図られる。
【0102】
また、図6が偏芯成分を加味したシミュレーション結果であることからも理解されるように、本実施の形態によれば、バルク型記録媒体1のようなリムーバブルメディアに対する追記を行う場合においても、ATSの安定化を図ることができる。
【0103】
なお、図6(b)(c)において、制御器の出力uとエラー信号eとにはスパイク状のノイズが発生するものとなっているが、これは、シミュレーションにおいて、サーボオン時の過渡応答期間における伝達関数ブロックP’(z)の出力をメモリ(遅延時間要素z-k)に蓄積した結果現れたものである。
このスパイク状のノイズについては、例えばATSのサーボオン後、サーボが安定となるまでの所定期間フィードフォワード制御をオフとして周回を重ね、その後にフィードフォワード制御をオンとして伝達関数ブロックP’(z)の出力の蓄積を開始するなどといった対策を講じることで防止することができるものである。すなわち、スパイク状のノイズはこの場合のシミュレーションの手法上現れたものであって、その発生は不可避なものではない。
【0104】
[1-4.サーボ回路の構成例]

図8は、上記により説明した第1の実施の形態としてのATS制御を実現するためのATS制御回路14の内部構成を示している。
図示するようにATS制御回路14には、ATS用サーボフィルタ21、減算部22、アクチュエータ特性付与フィルタ23、遅延メモリ24、FF制御用フィルタ25、及び加算部26が設けられる。
【0105】
ATS用サーボフィルタ21には、先の図2に示したエラー信号生成回路13からのトラッキングエラー信号TE-atsが入力される。
このATS用サーボフィルタ21は、先の図3との対応で言えば、伝達関数ブロックK(z)に相当する。
ATS用サーボフィルタ21は、例えばFIR(Finite Impulse Response)フィルタなどのデジタルフィルタで構成され、トラッキングエラー信号TE-atsに対し、ループゲイン付与や位相補償等のトラッキングサーボ制御実現のために必要とされる所定の周波数特性を付与するためのフィルタ処理(サーボ演算処理)を施す。
図示するようにATS用サーボフィルタ21による処理結果は、減算部22を介してトラッキングサーボ信号TS-atsとして出力される。
【0106】
アクチュエータ特性付与フィルタ23は、図3に示した伝達関数ブロックP’(z)に相当する。
このアクチュエータ特性付与フィルタ23としても、例えばFIRフィルタ等のデジタルフィルタで構成され、そのフィルタ特性として、2軸アクチュエータ12(前述のトラッキングアクチュエータ)の伝達特性P(z)を模したものに相当するフィルタ特性が設定されている。
アクチュエータ特性付与フィルタ23は、トラッキングサーボ信号TS-atsに対して、このように設定されたフィルタ特性に基づくフィルタ処理を施すことで、トラッキングサーボ信号TS-atsに対し伝達特性P(z)に相当する周波数特性を与える。
このアクチュエータ特性付与フィルタ23の出力は、図3におけるATS光の照射スポット位置ysの推定値ys’に相当する。
【0107】
推定値ys’に対しては、加算部26により、距離dr-aが加算される。これにより、記録光の照射スポット位置yrの推定値yr’に相当する値が得られる。
【0108】
遅延メモリ24は、図3に示した遅延時間要素z-kに相当する。
この遅延メモリ24は、加算部26からの出力をディスク1周分の時間記憶した後出力することで、当該加算部26の出力をディスク1周分の時間だけ遅延させて出力する。
【0109】
FF制御用フィルタ25は、図3に示した伝達関数ブロックKf(z)に相当する。
このFF制御用フィルタ25としても例えばFIRフィルタなどのデジタルフィルタで構成され、そのフィルタ特性としては、前述の伝達特性Kf(z)に相当するフィルタ特性が設定される。FF制御用フィルタ25は、遅延メモリ24の出力(制御目標値rの推定値r’に相当)に対し、伝達特性Kf(z)に相当するフィルタ特性に基づくフィルタ処理を施すことで、上記遅延メモリ24の出力に対し上記伝達特性Kf(z)に相当する周波数特性を与える。
【0110】
図示するようにFF制御用フィルタ25の出力(つまりフィードフォワード制御部の出力に相当)は、減算部22によってフォードバックループに与えられる。具体的に、この場合の減算部22は、ATS用サーボフィルタ21の直後に設けられており、これにより減算部22は、ATS用サーボフィルタ21の出力からFF制御用フィルタ25の出力を減算するようにされている。
【0111】
<2.第2の実施の形態>
[2-1.第2の実施の形態のサーボ制御手法]

上記により説明した第1の実施の形態のように、従来のATS制御系が有するフィードバックループに対して制御目標値rの推定値r’を用いたフィードフォワード制御を行うフィードフォワード制御部を追加した構成とすれば、当該フィードフォワード制御部のフィルタ特性(Kf(z))の設定により、フィードバックループの伝達特性ゲインが0dBより大となることを防止でき、その面でATSの安定化が図られるものとなる。
【0112】
但し、先の図6(c)と図7(c)とを比較すると、第1の実施の形態で説明したままの構成とする場合には、トラッキング誤差成分が従来よりも大となってしまうことが分かる。具体的に、第1の実施の形態の場合のトラッキング誤差成分は、±20μmの偏芯に対しておよそ±1μm程度と比較的大きく、このため追従性能の面で不利となる。
【0113】
そこで第2の実施の形態では、追従性能の向上を図るためのフィードフォワード制御も導入する。
【0114】
図9は、第2の実施の形態のATS制御系を伝達関数ブロックにより表している。
先の図3と比較すると、この場合のATS制御系が備えるフィードフォワード制御部には、図3におけるフィードフォワード制御部における遅延時間要素z-kに代えて遅延時間要素z-k_fが設けられると共に、新たに伝達関数ブロックG(z)-1が追加され、上記遅延時間要素z-k_fの出力が当該伝達関数ブロックG(z)-1を介して、伝達関数ブロックKf(z)に与えられるものとなっている。
図示するようにこの場合の伝達関数ブロックKf(z)の出力は、当該伝達関数ブロックKf(z)の出力が、後述する乗算ブロックk1を介した後の伝達関数ブロックK(z)の出力から減算されるようにして、上記伝達関数ブロックK(z)を含むフィードバックループに対して与えられるようになっている。
【0115】
ここで、前述のような追従性能の低下が生じる要因としては、伝達関数Kf(z)の作用により、ATS制御系に位相遅れが生じることを挙げることができる。すなわち、先の図5(b)を参照して分かるように、伝達関数K(z)の作用によっては、ATS制御系の周波数−位相特性として、サーボ帯域の近辺にて位相遅れが生じるものとなってしまう。このことに起因して、第1の実施の形態で説明したままの構成によっては、追従性能の低下が生じる。
【0116】
この点を考慮し、第2の実施の形態では、伝達関数ブロックKf(z)を含むフィードフォワード制御部において、上述した遅延時間要素z-k_fと伝達関数ブロックG(z)-1とを設けるものとしている。
具体的に、遅延時間要素z-k_fは、図3に示した遅延時間要素z-kのように記録光の照射スポット位置yrの推定値yr’をディスク1周分の時間遅延させるのではなく、ディスク1周分の時間に満たない所定の時間だけ遅延させるものとなる。
つまり、この場合は上記のような位相遅れ帯域の位相を進ませるようにして位相特性の改善を図るので、第1の実施の形態の場合よりも先読みする形で記録光の照射スポット位置yrの推定値yr’を後段に与えるものである。
ここで、このような先読み出力としての遅延時間要素z-k_fの遅延出力のことを、以下、遅延出力r_fと表記する。
【0117】
伝達関数ブロックG(z)-1は、上記遅延出力r_fに基づいて、伝達関数Kf(z)の作用で生じる図5(b)の実線で示したようなサーボ帯域近辺での位相遅れを抑制することができるように算出された伝達関数を表す。すなわち、伝達関数ブロックG(z)-1の伝達特性G(z)-1は、当該伝達関数ブロックG(z)-1の出力が伝達関数ブロックKf(z)を介して制御器としての伝達関数ブロックK(z)を含むフィードバックループに与えられたときに、当該フィードバックループを含むATS制御系の周波数−位相特性におけるサーボ帯域近辺の位相遅れが抑制(理想的にはキャンセル)されるようにして設定されたものであればよい。
なお、後に説明するようにして本例ではG(z)-1=1と設定することからも明らかなように、伝達関数ブロックG(z)-1を設けることは必須ではない。
【0118】
ここで、上記のような遅延時間要素z-k_fと伝達関数ブロックG(z)-1とによる位相特性改善のための作用を、フィードフォワード制御側のみに与えて、フィードバックループ側には作用させないとした場合には、ATS制御系全体として矛盾が生じる虞がある。
そこで本例では、伝達関数ブロックG(z)-1の出力を制御目標位置rの値に相当する値(以下、出力r''と表記)として用いる、いわば擬似的なフィードバック制御系を形成し、その出力を伝達関数ブロックK(z)を含む真の(現実の)フィードバックループに合流(合成)させるものとしている。
【0119】
具体的に、上記擬似的なフィードバック制御系としては、伝達関数ブロックG(z)-1の出力r''から、伝達関数ブロックP’(z)の出力としてのATS光の照射スポット位置の推定値ys’を減算して、エラー信号eに準じたエラー信号e’を得るようにされている。
そして、当該エラー信号e’を、制御器の伝達関数K(z)を模した伝達関数ブロックK’(z)に入力し、当該伝達関数ブロックK’(z)の出力を、乗算ブロックk2を介して現実のフィードバックループに与えるものとしている。
なお確認のため述べておくと、伝達関数K(z)はフィルタ特性に相当するため、伝達関数K’(z)ブロックをフィルタ処理で実現する場合には、伝達関数K(z)と伝達関数K’(z)は同一に設定できる。
【0120】
このとき、乗算ブロックk2の出力は、図のように乗算ブロックk1を介した後の伝達関数ブロックK(z)の出力から減算するようにして現実のフィードバックループに対して与える(合成する)ものとしている。つまり本例では、乗算ブロックk1、乗算ブロックk2に与える係数によって、現実のフィードバック制御器としての伝達関数ブロックK(z)の出力と疑似的なフィードバック制御器としての伝達関数ブロックK’(z)の出力とを所定に重み付けして合成できるようにしている。
【0121】
この場合における重み付けは、ATS制御系全体のゲインが本来のゲインから変化してしまうことを防止するため、その総和が1となるようにして行う。すなわち、乗算ブロックk1が与える係数をk1、乗算ブロックk2が与える係数をk2としたとき、k1+k2=1を満たすようにして重み付けを行う。
【0122】
ここで、これら係数k1と係数k2とについて、係数k1を小さく設定し過ぎた場合には現実のフィードバックループ系の重みが過小となって外乱成分に追従しきれなくなる虞がある。一方で係数k2側を過小としてしまうと、擬似的なフィードバック制御系を設けた意義が薄れ、所期の効果を得ることができなくなる虞がある。係数k1,k2については、これらの効果のバランスを考慮して、実験的に最適とされる値を導出・設定するものとすればよい。
【0123】
図10は、図9に示した第2の実施の形態としてのATS制御系についてのシミュレーション結果を示しており、図10(a)はATS光の照射スポット位置ys(実線)と制御目標位置r(破線)のシミュレーション結果、図10(b)は制御器の出力uのシミュレーション結果、また図10(c)はエラー信号eのシミュレーション結果である。
なお、この場合のシミュレーションにおいてもk=4000、サンプリング周波数=400kHzとした。また、偏芯成分はこの場合も±20μmである。
【0124】
また、本例においては、伝達関数ブロックP’(z)について26サンプル分先読みを行うものとした。すなわち、遅延時間要素z-k_fはz-(k-26)_fである。
そして、本例において、伝達特性G(z)-1としては、G(z)-1=1と設定した。
【0125】
また、係数k1、係数k2についてはk1=0.25、k2=0.75と設定した。
【0126】
先ず、図10(a)と図6(a)とを比較すると、ATS光の照射スポット位置ysと制御目標位置rとについては第1の実施の形態の場合と同様の結果となることが分かる。
また、図10(b)の制御器の出力uについては、第1の実施の形態の場合(図6(b))とほぼ同様の結果となる。
【0127】
そして、図10(c)に示すエラー信号eについては、その変動幅は概ね±0.01μm(10nm)以下に抑えられており(スパイク状の部分は除く)、このことより、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の場合よりも追従性能が向上していることが分かる。
【0128】
なお、第1の実施の形態の場合と同様に、制御器の出力uやエラー信号eに生じるスパイク状のノイズはこの場合のシミュレーション手法に依るものであり、前述したように、これらはサーボをオンとした後からサーボが安定するまでの間伝達関数ブロックP’(z)の出力を蓄積しない等により防止できるものである。
【0129】
このようにして第2の実施の形態によれば、トラッキング誤差成分の発散防止によるATSの安定化を実現しつつ、サーボの追従性能の向上を図ることができる。
【0130】
[2-2.サーボ回路の構成例]

図11は、上記により説明した第2の実施の形態としてのATS制御を実現するとした場合のATS制御回路14の内部構成を示している。
なお図11において、既に先の図8にて説明した部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0131】
先の図8と比較して分かるように、この場合のATS制御回路14には、減算部22に代えて加/減算部31が設けられると共に、FF制御用フィルタ25を含むフィードフォワード制御系において、遅延メモリ24に代えて先読みメモリ32が設けられ、また位相特性改善用フィルタ33が追加される。
さらに、この場合には減算部34とサーボ特性付与フィルタ35、及び第1乗算部30と第2乗算部36が追加される。
【0132】
先ず、フィードフォワード制御系において、アクチュエータ特性付与フィルタ23の出力は、加算部26を介して先読みメモリ32に入力されると共に、減算部34に対しても入力される。
先読みメモリ32は、図9に示した遅延時間要素z-k_fに相当するものであり、加算部26の出力を、ディスク1周分の時間に満たない所定時間だけ遅延させて出力するように構成される。換言すれば、先読みメモリ32は、加算部26の出力(つまり推定値yr’)を過去所定時間分記憶可能とされ、記憶した上記推定値yr’のうちディスク1回転分の時間に満たない所定時間だけ過去の推定値yr’を順次読み出すように構成されている。
【0133】
位相特性改善用フィルタ33は、図9に示した伝達関数ブロックG(z)-1に相当するものであり、例えばFIRフィルタ等のデジタルフィルタで構成される。
先の説明からも理解されるように、位相特性改善用フィルタ33には、図5(b)に示したFFありの場合(実線)の周波数−位相特性、換言すればフィードフォワード制御部に対して先読みメモリ32と位相特性改善用フィルタ33とを介在させないとした場合におけるATS制御系の周波数−位相特性におけるサーボ帯域近辺の位相遅れが抑制(理想的にはキャンセル)されるように算出されたフィルタ特性を持たせる。
ここで、前述のように本例ではG(z)-1=1と設定している。この点より本例の場合、位相特性改善用フィルタ33を敢えて設ける必要性はなく、省略が可能である。
【0134】
位相特性改善用フィルタ33の出力は、FF制御用フィルタ25に入力されると共に、減算部34に入力される。
減算部34は、位相特性改善用フィルタ33の出力(つまり制御目標位置rの値に相当する値:図9の出力r''に相当)から、アクチュエータ特性付与フィルタ23の出力(ATS光の照射スポット位置ysの推定値ys’に相当)を減算する。つまりこれにより、図9に示すエラー信号e’に相当する信号を生成する。
【0135】
サーボ特性付与フィルタ35は、図9に示した伝達関数ブロックK’(z)に相当するものであり、例えばFIRフィルタ等のデジタルフィルタで構成される。先の説明からも理解されるように、サーボ特性付与フィルタ35には、伝達関数ブロックK(z)に相当するATS用サーボフィルタ21のフィルタ特性と同一のフィルタ特性を持たせる。
【0136】
また、図示するようにこの場合のATS用サーボフィルタ21の出力は、第1乗算部30を介して前述した加/減算部31に入力され、サーボ特性付与フィルタ35の出力は第2乗算部36を介して加/減算部31に入力される。
加/減算部31は、第1乗算部30の出力と第2乗算部36の出力とを加算する機能と、FF制御用フィルタ25の出力を減算する機能とを有する。加/減算部31は、これらの加/減算により得られた演算結果をトラッキングサーボ信号TS-atsとして出力する。
ここで、先の説明からも理解されるように、第1乗算部30がATS用サーボフィルタ21の出力に乗じる係数(k1)と第2乗算部36がサーボ特性付与フィルタ35の出力に乗じる係数(k2)とについては、k1+k2=1となるように設定する。
【0137】
なお、本例においては位相特性改善用フィルタ33のフィルタ特性に関してG(z)-1=1と設定するものとしたが、勿論、G(z)-1としては、図5(b)に実線で示した特性の逆特性となるものを設定することとして、位相遅れの特性がより改善(位相遅れがキャンセル)されるようにすることもできる。
【0138】
<3.変形例>

以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明としてはこれまでで説明した具体例に限定されるべきものではない。
例えばこれまでの説明では、本発明の記録装置が記録対象とする光ディスク記録媒体が、位置案内子やそれが形成された反射面を有しないバルク状の記録層を有するいわゆるバルク型の光ディスク記録媒体とされる場合を例示したが、本発明としては、例えば次の図12に示されるような複数の反射面(半透明記録膜)を有する多層構造の記録層を有する光ディスク記録媒体(多層記録媒体とする)を記録対象とする場合にも好適に適用できる。
図12において、この場合の多層記録媒体40は、上層側から順にカバー層2、選択反射膜3、及び中間層4が形成される点は図1に示したバルク型記録媒体1と同様となるが、この多層記録媒体40には、バルク層5に代えて、図のように半透明記録膜41と中間層4とが所定回数繰り返し積層された層構造を有する記録層が設けられる。このとき、最下層に形成された半透明記録膜41は基板42上に積層されている。なお、最下層に形成される記録膜については全反射記録膜を用いることができる。
なお、図中では図示の都合上、記録膜の数を5としているが、記録層に形成する記録膜の数はこれに限定されるべきものではない。
【0139】
ここで、注意すべきは、上記半透明記録膜41には、グルーブやピット列の形成に伴う位置案内子が形成されていないという点である。つまりこの多層記録媒体40としても、位置案内子は基準面Refとしての1つの層位置に対してのみ形成されているものである。
【0140】
このような多層記録媒体40が有する多層状の記録層においては、反射膜としても機能する半透明記録膜41が形成されているため、記録時において半透明記録膜41からの反射光を利用したフォーカスサーボ制御を行うことができるという利点がある。
【0141】
また、これまでの説明では、バルク型の光ディスク記録媒体や図12に示したような多層記録媒体に設けられる基準面Refが、バルク層5としての記録層や多層構造の記録層の上部に対して設けられるものとしたが、基準面Refはこれらの記録層の下部に設けるようにすることもできる。
【0142】
また、基準面Refに対しては、位置案内子として、グルーブやピット列などの案内溝を形成する場合を例示したが、当該位置案内子としては例えばマーク列の記録などの他の手法により形成することもできる。
【0143】
また、これまでの説明では、本発明の記録装置がマークにより記録された情報についての再生機能を具備しない記録専用の装置に適用された場合を例示したが、本発明の記録装置としては、再生機能も有する記録再生装置に対しても好適に適用できる。
【符号の説明】
【0144】
1 バルク型記録媒体、2 カバー層、3 選択反射膜、4 中間層、5 バルク層、Ref 基準面、10 スピンドルモータ(SPM)、11 記録処理部、12 2軸アクチュエータ、13 エラー信号生成回路、14 ATS制御回路、15 マトリクス回路、16 基準面側サーボ回路、17 セレクタ、18 トラッキングドライバ、19 位置情報検出部、20 コントローラ、OP 光学ピックアップ、OL 対物レンズ、21 ATS用サーボフィルタ、22,34 減算部、23 アクチュエータ特性付与フィルタ、24 遅延メモリ、25 FF制御用フィルタ、26 加算部、30 第1乗算部、31 加/減算部、32 先読みメモリ、33 位相特性改善用フィルタ、35 サーボ特性付与フィルタ、36 第2乗算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスク記録媒体に対し、共通の対物レンズを介して記録光と隣接トラックサーボ用のATS光とを照射するように構成されると共に、上記ATS光の上記光ディスク記録媒体からの反射光を受光するように構成された光照射・受光部と、
上記光ディスク記録媒体を回転駆動する回転駆動部と、
上記対物レンズを上記光ディスク記録媒体の半径方向に平行な方向であるトラッキング方向に駆動するトラッキング機構と、
上記光照射・受光部により得られる上記ATS光についての受光信号に基づき、上記光ディスク記録媒体に記録されたマーク列に対する上記ATS光の照射スポット位置の誤差を表すトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成部と、
上記トラッキング誤差信号に基づいて上記トラッキング機構を駆動することで、上記対物レンズについてのトラッキングサーボ制御を行うトラッキングサーボ制御部と
を備えると共に、
上記トラッキングサーボ制御部が、
トラッキングサーボループとしてのフィードバックループ内において上記トラッキング誤差信号に基づくサーボ演算を行うサーボ演算部と、
上記サーボ演算部からの出力信号に対し上記トラッキング機構の伝達特性を模した第1のフィルタ処理を施して得た上記ATS光の照射スポット位置の推定値と、上記記録光の照射スポット位置と上記ATS光の照射スポット位置との間の距離の値とに基づき、上記トラッキングサーボ制御部によるトラッキングサーボ制御の制御目標値の推定値を算出すると共に、当該推定値に対して、上記トラッキングサーボループの伝達特性ゲインを全周波数帯域で0dB(デシベル)以下に抑制するための第2のフィルタ処理を施して生成した制御信号を、上記トラッキングサーボループに対して与えるフィードフォワード制御部とを備えて構成される
記録装置。
【請求項2】
上記フィードフォワード制御部は、
上記ATS光の照射スポット位置の推定値に上記記録光の照射スポット位置と上記ATS光の照射スポット位置との間の距離の値を加算して得た上記記録光の照射スポット位置の推定値を過去所定時間分記憶可能とされ、記憶した上記推定値のうち上記光ディスク記録媒体の1回転分の時間に満たない時間だけ過去の上記推定値を順次読み出す先読みメモリ部を少なくとも有する位相特性改善処理部であって、当該位相特性改善処理部の出力に基づき上記第2のフィルタ処理が実行されたときに、上記トラッキングサーボループの周波数−位相特性の位相遅れが抑制されるようにするための位相特性改善用信号を生成する位相特性改善処理部を備えると共に、
上記位相特性改善用信号の値を上記制御目標値の推定値として、上記第2のフィルタ処理を行うように構成されている
請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
上記位相特性改善処理部は、上記先読みメモリ部の出力に対し第3のフィルタ処理を施す位相特性改善用フィルタ部を有し、当該位相特性改善用フィルタ部のフィルタ特性として、上記位相特性改善処理部を介在させずに上記第2のフィルタ処理を実行した場合における上記トラッキングサーボループの周波数−位相特性の逆特性となるフィルタ特性が設定されている
請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
上記トラッキングサーボ制御部は、
上記フィードフォワード制御部における上記第1のフィルタ処理で得られる上記ATS光の照射スポット位置の推定値と、上記位相特性改善処理部の出力信号とに基づいて、上記トラッキング誤差信号を推定した推定トラッキング誤差信号を生成する推定トラッキング誤差信号生成部と、
当該推定トラッキング誤差信号に対して上記サーボ演算部の伝達特性を模した第4のフィルタ処理を施すことで、疑似サーボ演算出力信号を生成する疑似サーボ演算部と、
上記トラッキングサーボループ内において、上記疑似サーボ演算出力信号を上記サーボ演算部の出力信号に合成する合成部とをさらに備える
請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
上記合成部は、
上記サーボ演算部の出力信号と上記擬似サーボ演算出力信号とを所定に重み付けして合成する
請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
上記合成部は、
上記サーボ演算部の出力信号と上記擬似サーボ演算出力信号との重み付けの総和が1となるように重み付けを行う
請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
光ディスク記録媒体に対し、共通の対物レンズを介して記録光と隣接トラックサーボ用のATS光とを照射するように構成されると共に、上記ATS光の上記光ディスク記録媒体からの反射光を受光するように構成された光照射・受光部と、上記光ディスク記録媒体を回転駆動する回転駆動部と、上記対物レンズを上記光ディスク記録媒体の半径方向に平行な方向であるトラッキング方向に駆動するトラッキング機構と、上記光照射・受光部により得られる上記ATS光についての受光信号に基づき、上記光ディスク記録媒体に記録されたマーク列に対する上記ATS光の照射スポット位置の誤差を表すトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成部と、上記トラッキング誤差信号に基づいて上記トラッキング機構を駆動することで、上記対物レンズについてのトラッキングサーボ制御を行うトラッキングサーボ制御部とを備える記録装置における制御方法であって、
トラッキングサーボループとしてのフィードバックループ内において上記トラッキング誤差信号に基づくサーボ演算を行うサーボ演算部からの出力信号に対し上記トラッキング機構の伝達特性を模した第1のフィルタ処理を施して得た上記ATS光の照射スポット位置の推定値と、上記記録光の照射スポット位置と上記ATS光の照射スポット位置との間の距離の値とに基づき、上記トラッキングサーボ制御部によるトラッキングサーボ制御の制御目標値の推定値を算出すると共に、当該推定値に対して、上記トラッキングサーボループの伝達特性ゲインを全周波数帯域で0dB(デシベル)以下に抑制するための第2のフィルタ処理を施して生成した制御信号を、上記トラッキングサーボループに対して与えるフィードフォワード制御を行う
制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−89198(P2012−89198A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234657(P2010−234657)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】