説明

記録装置及び記録ヘッドの制御方法

【課題】 各記録素子に対する駆動信号を変更せずに、記録ヘッドの駆動状態に応じて必要な電力量を安定して供給する。
【解決手段】 複数の記録素子を有する記録ヘッドと、記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電力供給回路と、を備える記録装置において、記録データに基づいて、複数の記録素子のうち、同時に駆動される記録素子の数である同時駆動数を求め(S2)、同時駆動数の遷移量を求め(S6)、同時駆動数に応じて、電力供給回路の出力電圧を変更し(S3,S4)、遷移量に応じて、記録ヘッドに記録が行われない量の電気エネルギーを付与する非記録駆動を行う(S9〜S11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及び記録ヘッドの制御方法に関し、より詳細には、複数の記録素子を有する記録ヘッドと、記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電力供給回路と、を備える記録装置における、記録ヘッドへ供給する電圧の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ、ファクシミリ等に於ける情報出力装置として、所望される文字や画像等の情報を用紙やフィルム等シート状の記録媒体に記録を行う記録装置として、サーマルプリンタ、あるいは、記録媒体などの記録媒体にインクを吐出して文字や画像等を記録するインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
インクジェット記録装置では、インクジェット記録ヘッドと記録媒体との間の相対的移動の間にインクジェット記録ヘッドから記録すべき画像に基づいてインクを吐出して記録を行う。このようなインクジェット記録装置においては、インクジェット記録ヘッドと記録媒体との間の相対速度の制御、これに伴う吐出タイミングの制御、及び記録ヘッドへの電力供給の安定性等が記録画質を左右する要因である。
【0004】
インクジェット記録装置は、用いられているインクジェット記録ヘッドの形態に応じて、いわゆるシリアル方式とフルライン方式の種類に大別される。この中で、シリアル方式はインクジェット記録ヘッドを記録媒体上で移動(走査)させながらインクを吐出して記録を行う方式であり、一般に広く用いられている。
【0005】
またインクを吐出する記録ヘッドには、圧電素子の動作によってインクを吐出するものや、インクを瞬間的に面沸騰させることでインク吐出を行うものなどがある。インクを沸騰させて吐出を行う方式の記録ヘッドは、インク吐出口付近のインク流路近傍に設けられた電気熱変換体(ヒータ)に通電することで、近傍のインクを沸騰させることにより発泡させ吐出エネルギーを供給する。
【0006】
インクを吐出するためのエネルギーが常に安定的に供給され、かつ、同一条件でインク吐出が行われるようにすることで均一なインク滴が得られ、このことが、記録画質を良好に保つ上で重要である。しかしながら、記録動作においては画像データによってデューティ比が異なり、同時に通電されるヒータの数も変化する。そのため、電源の出力電流差による電圧変動、伝送系の抵抗分による電圧降下の差などの影響により、駆動の条件に変化が生じる。
【0007】
以上のようなインク吐出エネルギーは、従来、電源出力電圧の高精度化や伝送系のロスが少なくなる構成にするなどの工夫によって、安定な吐出条件を満たす範囲となるように制御されている。
【0008】
次に、記録ヘッドに電力を供給するDC/DCコンバータについて説明する。
【0009】
図7は、従来技術によるDC/DCコンバータを構成する電圧制御系の構成を示す回路図である。図示しない電源ユニットからDC/DCコンバータに供給される入力電圧Vinは、スイッチング素子201に入力され、このスイッチング素子201及びダイオード209によって変換された直流出力はリアクタ202を介して出力され、負荷としての記録ヘッドに出力電圧VHとして供給される。スイッチング素子201の直流側にはコンデンサ203が、交流側にはコンデンサ204が接続され、リアクタ202とコンデンサ204で平滑回路205を構成している。また平滑回路205の出力端における出力電圧信号VHは、電圧制御回路206に入力され、抵抗R1及び抵抗R2により分圧されて誤差増幅器207に入力されることで、フィードバック制御される。
【0010】
誤差増幅器207には基準電圧Vrefとフィードバックされた出力電圧信号VHが入力され、誤差増幅器207からの出力信号は、電圧制御回路206の出力信号としてスイッチング素子201のゲートを駆動する信号を生成するPMW比較器208に入力され、出力電圧VHが一定となるようにスイッチング素子201の駆動が制御される。誤差増幅器207の反転入力端子と出力端子間に接続される抵抗R5及びコンデンサC1は位相補償回路の一例である。
【0011】
従って、負荷となる記録ヘッドにおいて同時に駆動されるノズル数の変化に応じた出力電流の変化に対して、安定した出力電圧を供給するようにフィードバック制御を利用した電力供給を行っている。
【0012】
さらに、近年の半導体プロセスの向上により、DC/DCコンバータのスイッチングスピードはMHzレベルまで向上されており、カレントモード制御に見られるフィードバック制御の応答性についても、μsecオーダーでの応答性を実現している制御ICが登場し、精度良い電圧供給が可能となってきている。
【0013】
図5は、従来のインクジェット記録ヘッドにおける発熱抵抗体(ヒータ)と駆動スイッチ(トランジスタ)との接続例を説明する図である。
【0014】
図5において、2−106は発熱抵抗体であり、2−105は駆動スイッチ、101は電源と接続される電源ラインである。また、102は発熱抵抗体駆動回路の接続端子であり、発熱抵抗体2−106の一方は、電源から電圧の供給を受ける電源ライン101に接続され、他方はそれぞれ駆動スイッチ2−105に接続されている。
【0015】
ここでインクジェット記録ヘッドには、例えば64個のノズルが設けられている。この64個のノズルに対する発熱抵抗体16の片側は、駆動電圧を供給する電源ライン101に共通に接続されている。また、他方の側は駆動スイッチ2−105に接続され、更に発熱抵抗体駆動回路の接続端子102は、図示しない発熱抵抗体駆動回路に接続され、記録装置本体のメインボードからの駆動信号や記録用シリアル信号に応じて選択された発熱抵抗体2−106にのみ電流が流れるように制御される。図5では、左端のノズルに一連の番号N#1〜N#64を付してある。
【0016】
ここで示した例は、例えば64個のノズルを8個ずつの8つのブロックに分割し、各ブロックごとに駆動される構成である。図8では、N#1〜N#8をブロック1、N#9〜N#16をブロック2、…、N#57〜N#64をブロック8としている。
【0017】
各ブロックの8個のノズルは、記録する画像によって同時に駆動される可能性がある。ここでは、例えば、ヘッド制御ブロックから出力される信号において、熱源選択信号は8つに分割されたブロック内で、駆動するブロックを決定するために使用され、記録用シリアル信号は、64個のノズルそれぞれについて、インクを噴射するノズルを選択するために使用される。このとき、実質的に同時に駆動されるノズルの個数(以下、同時駆動数と呼ぶ)によって、電源ラインを流れる電流量は相違する。そのため、同じブロックを駆動する場合でも、ブロック内の同時駆動数によって配線抵抗による電圧降下量が相違する。また、電源における急激な電流量の変動による電圧降下量にも影響する。
【0018】
このように各ブロック内の同時駆動数によって、電圧降下量は違ってくる。従来は、この電圧降下量を、駆動パルスの幅を制御することによって補正し、どのノズルの発熱抵抗体にも均一な発熱エネルギー(電力)を供給するように制御していた。このような構成は、例えば特開平9−11463号公報(特許文献1)などにも記載されている。
【0019】
また、インクを膜沸騰させノズルから吐出するサーマル方式のインクジェットプリンタでは、駆動電圧や駆動パルス幅を制御することで吐出エネルギーを制御し均一なインク液滴を吐出している。言い換えると、発熱抵抗体へ印加するエネルギー量が変化することで吐出されるインク液滴は変化し、ダイナミックにエネルギー量を正確に制御することが可能であればインク液滴のサイズを変化させて記録するドット変調描画も可能である。
【特許文献1】特開平9−11463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
近年では、コンピュータ等の高速化、大容量化により、カラー画像を容易に扱うことが可能となり、またデジタルカメラの高画素化が進む等、出力装置としてのインクジェットプリンタも高画質と高速化の両立が求められている。一例としてインクジェットプリンタの記録動作における高速化は、吐出周波数の高速化、同時駆動数を増やすことによって可能であり。単位時間当たりのインク吐出量を微小液滴で増加させていくことで高画質、高速化の両立が可能である。
【0021】
この同時駆動数を増やして高速化する場合について考えてみると、同時駆動が可能なように構成されたノズルのうち実際にインクを吐出する必要性の有無は当然その時に記録する画像によって変化し、例えば黒ベタ画像を記録する際には駆動可能な全てのノズルを駆動する必要がある。他方、罫線など記録デューティの低い画像においては、一部のノズルだけを駆動するだけで必要な画像が得られる。
【0022】
前述したように、シリアル方式におけるインクジェット記録ヘッドの記録動作、すなわちインク吐出は、ヒータに電流を流すことによって生じる熱エネルギーを利用して行われる。
【0023】
このインク吐出には電流が必要であるため、同時駆動数が増えるに比例して必要とされる電流も大きくなる。しかも必要とされる電流は画像データに応じて変化するため常に一定ではなく、逐次記録ヘッドに送られる記録データによって決定される同時駆動数に比例して変化する。
【0024】
言い換えると、外部機器から送信される画像データによって、記録媒体上に画像や文字等を形成するインクジェットプリンタでは、外部機器から送信される画像データによってインク液滴を吐出する複数のノズルを備える記録ヘッドにおける単位時間当たりのインク吐出量が決まり、これに応じて記録ヘッドによって消費される電力も決定される。
【0025】
すなわち、単位時間当たりに記録する画像データ量が多いほど同時にオン状態となるノズル数が多くなり、記録ヘッドの消費する電力も大きくなる。逆に、単位時間あたりに記録する画像データ量が少なければ同時にオンとなるノズル数は少なくなり、記録ヘッドの消費する電力も小さくなる。このように、同時にオンとなるノズル(記録素子)の数に比例して、DC/DCコンバータから記録ヘッドに供給される電流量が決まる。
【0026】
従来の記録ヘッドの駆動方式では、記録ヘッド駆動用の直流電圧は、装置本体のメイン基板と可動するキャリッジ基板とを接続するフレキシブルケーブルを介して記録ヘッドに供給される。フレキシブルケーブルは、記録ヘッドの可動範囲をカバーする必要があるため、比較的配線が長くなる。このような長い配線を介して、記録ヘッド駆動用の直流電圧が供給されるため、配線のインピーダンス分による電圧降下の問題が生じる。プリンタの高速化、高画質化に伴い、記録ヘッドに設けられるノズル数が増え、記録ヘッド駆動電流が増加してきているので、上記電圧降下の影響は更に顕著になってきている。
【0027】
このような問題に対して、駆動パルス幅を記録ヘッドの状況により調整して記録ヘッドへ供給する電流量を制御する方法が提案されているが、この場合、ヒータを駆動するパルス幅として様々な変動要因に対して補正することができる最大時間幅を常に確保する必要があるため、単位時間あたりに駆動できるノズル数、ひいては記録速度が制限されてしまうという別の問題が生じる。
【0028】
また、各ブロック内で駆動するノズルの個数によって生じる電圧降下量を、駆動パルスの幅を制御することによって補正し、どのノズルの発熱抵抗体にも均一な発熱エネルギーを供給できるように制御する方法も提案されているが、この場合、駆動パルス幅を時間の関数として制御することになるため、インクジェット記録装置を高速化する際には処理速度が問題となる。
【0029】
一般に、記録する画像の種類や記録デューティ、記録媒体の種類、所望する記録画質や記録速度などに応じて、記録モードが設定されるが、設定された記録モードに従って、一つのノズルから吐出する液滴のサイズを変えるドット変調を行うことで、高画質化と高速化とのバランスを取っている。すなわち、高画質、高階調の画像を記録するモードではドット径の小さい微小液滴を用い、高速記録が要求されるモードではドット径の大きな液滴を用いる。
【0030】
以上、インクジェット記録装置に関して記録ヘッドへの電力供給に係る問題について述べたが、これらの問題はインクジェット記録装置に限らず、複数の記録素子を有する記録ヘッドによって記録を行う様々な方式の記録装置に共通の問題である。
【0031】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、各記録素子に対する駆動信号を変更せずに、記録ヘッドの駆動状態に応じて必要な電力量を安定して供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記目的を達成する本発明の一態様としての記録装置は、複数の記録素子を有する記録ヘッドによって記録を行う記録装置であって、
前記記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電力供給回路と、
記録データに基づいて、前記複数の記録素子のうち、同時に駆動される記録素子の数である同時駆動数を求める負荷算出手段と、
前記同時駆動数の遷移量を求める遷移量算出手段と、
前記同時駆動数に応じて、前記電力供給回路の出力電圧を変更する電圧可変手段と、
前記遷移量に応じて、前記記録ヘッドを記録が行われない程度の電力で駆動する非記録駆動によって、前記電力供給回路の電力を消費させる消費手段と、を備えている。
【0033】
また、上記目的を達成する本発明の別の態様としての記録ヘッドの制御方法は、複数の記録素子を有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電力供給回路と、を備える記録装置における記録ヘッドの制御方法であって、
記録データに基づいて、前記複数の記録素子のうち、同時に駆動される記録素子の数である同時駆動数を求める負荷算出工程と、
前記同時駆動数の遷移量を求める遷移量算出工程と、
前記同時駆動数に応じて、前記電力供給回路の出力電圧を変更する電圧可変工程と、
前記遷移量に応じて、前記記録ヘッドを記録が行われない程度の電力で駆動する非記録駆動によって、前記電力供給回路の電力を消費させる消費工程と、を備えている。
【0034】
すなわち、本発明では、複数の記録素子を有する記録ヘッドと、記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電力供給回路と、を備える記録装置において、記録データに基づいて、複数の記録素子のうち、同時に駆動される記録素子の数である同時駆動数を求め、同時駆動数の遷移量を求め、同時駆動数に応じて、電力供給回路の出力電圧を変更し、遷移量に応じて、記録ヘッドを記録が行われない程度の電力で駆動する非記録駆動によって、電力供給回路の電力を消費させる。
【0035】
このようにすると、同時駆動数に応じて電力供給回路の出力電圧が変更されると共に、同時駆動数の遷移に応じて記録が行われない程度の電力で記録ヘッドの非記録駆動が行われて電力供給回路の出力段に蓄積された電荷が速やかに放電される。
【0036】
従って、各記録素子に対する駆動信号を変更せずに、記録素子の同時駆動数に応じて電力供給回路の出力電圧を速やかに所望の電圧に変更することができるので、各記録素子の駆動条件を常に一定に保つことができ、高画質記録が可能となる。
【0037】
なお、電圧可変手段及び消費手段は、記録ヘッドによって記録が行われない期間に、出力電圧の変更及び非記録駆動をそれぞれ行うのがよい。
【0038】
この場合、電力供給回路は、出力電圧と基準電圧との間の偏差をなくすようにフィードバック制御されたDC/DCコンバータと、該DC/DCコンバータの出力端子間に接続されたコンデンサとを含み、非記録駆動の制御は、コンデンサの容量と、記録素子の抵抗値に基づいて、行われるのがよい。
【0039】
前記遷移量算出手段は、連続して送信された2つの前記単位の記録データから前記同時駆動数の差分を前記遷移量として求めることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【0040】
遷移量算出手段は、記録開始の際には、所定の値との差分を前記遷移量として求めてもよい。
【0041】
電圧補正手段は、遷移量に応じて所定時間を単位とした非記録駆動の回数を変更してもよい。この場合、遷移量と非記録駆動の回数との対応テーブルを更に備えていてもよい。
【0042】
電圧補正手段は、遷移量に応じて非記録駆動の対象となる記録素子の数を段階的に変更してもよい。
【0043】
記録ヘッドが、熱エネルギーを利用して記録を行う記録ヘッドである場合、記録ヘッドの温度を検出する温度検出手段を更に備え、電圧可変手段及び消費手段が、検出された温度の情報を考慮して出力電圧の変更及び非記録駆動をそれぞれ行うのがよい。
【0044】
記録ヘッドは、各記録素子からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであってもよい。
【0045】
また、上記目的は上記の記録ヘッドの制御方法をコンピュータ装置によって実行させるコンピュータプログラム、該プログラムを記憶する記憶媒体によっても達成される。
【発明の効果】
【0046】
本発明によれば、同時駆動数に応じて電力供給回路の出力電圧が変更されると共に、同時駆動数の遷移に応じて記録が行われない量の電気エネルギーが付与されて記録ヘッドの非記録駆動が行われて電力供給回路の出力段に蓄積された電荷が速やかに放電される。
【0047】
従って、各記録素子に対する駆動信号を変更せずに、記録素子の同時駆動数に応じて電力供給回路の出力電圧を速やかに所望の電圧に変更することができるので、各記録素子の駆動条件を常に一定に保つことができ、高画質記録が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0049】
なお、以下に説明する実施形態では、インクジェット記録方式を用いた記録装置としてプリンタを例に挙げ説明する。
【0050】
本明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0051】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0052】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0053】
またさらに、「ノズル」(「記録素子」と言う場合もある)とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0054】
図8は、本実施の形態におけるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。図示された通り、各色の記録を受け持つ4個のインクジェット記録ヘッド、Bk(ブラック)ヘッド2−1、Y(イエロー)ヘッド2−2、M(マゼンタ)ヘッド2−3、C(シアン)ヘッド2−4、及びそれに一体型のインクタンク1−1〜1−4、光学的ホームポジションセンサ(以下HPセンサという)8及び不図示のDC/DCコンバータ50が装着されたキャリッジ3が、キャリッジ駆動モータ5の駆動力を伝達する駆動ベルト4の一部に連結されて、走査方向に対して平行に配置されたガイドシャフト6に対して移動可能に取り付けられており、キャリジ駆動モータ5の駆動力により、インクジェット記録ヘッド2−1〜2−4の吐出面に対向して配置されたプラテン7に、不図示の媒体給送装置から給送される記録媒体の全幅にわたって、往復運動して記録媒体への記録を行う構成となっている。
【0055】
前述のインクジェット記録ヘッド2−1〜2−4は、記録媒体の記録面に対向する吐出面に、インクの吐出を行う細いパイプ状の複数のノズル口が並設されており、さらに一体化されたインクタンク1−1〜1−4から供給されるインクに吐出エネルギーを与える電気熱変換体としてのヒータ(発熱抵抗体)が各ノズル口近傍に設けられている。
【0056】
記録ヘッド2−1〜2−4のノズル口は、それぞれキャリッジ3の走査方向に対して交差する方向に配列されるように構成され、さらに4個の記録ヘッドはキャリッジ走査方向に並んで配置される。
【0057】
また、HPセンサ8は、初期動作においてキャリッジ3がガイドシャフト6上を移動した際に、基準位置検出用突起物12を検出することにより記録動作の走査方向の基準位置(キャリッジホームポジション)を決定するために用いられる。
【0058】
上述したインクジェット記録装置は、外部のホスト機器などから入力された画像情報や制御コマンドなどのデータを、後述する不図示の記録制御部で受け取り、受け取ったデータに従って各色の画像データに展開した後、各記録ヘッドにデータを転送すると共にキャリッジ3を走査させ、必要なタイミングでインク吐出を行う一連の記録動作を制御する。
【0059】
記録制御部とキャリジ3は、フレキシブルケーブル13によって接続され各種信号及びDC/DCコンバータ50にに必要な電力の供給を受ける。
【0060】
図1は、本発明に係る記録装置の実施形態の制御構成を表すブロック図である。
【0061】
図1に示す、記録制御部30は、装置全体を制御するCPU31と、記憶部であるROM32及びRAM33と、外部装置であるホスト機器51に対するインターフェイス回路34と、キャリッジ駆動モータ5及び紙送りモータ10を駆動するモータ制御回路35と、CPU31の動作を補って各制御を行う論理回路よりなるゲートアレイ36とで構成される。
【0062】
インクジェット記録ヘッド2の吐出タイミング制御及び駆動を行うヘッド制御ブロック37は、前述のゲートアレイ36の中に構成される。
【0063】
キャリッジ駆動モータ5にはステッピングモータが使用されている。CPU31は、ヘッドキャリッジ3を移動させるために、モータ制御回路35にキャリッジ駆動モータ5の信号を送出しながら、同時に走査方向基準位置からの動作信号数を管理することによって現在ヘッドキャリッジ3がどの位置にいるかについても把握している。
【0064】
ヘッドキャリッジ3が移動し、搭載された記録ヘッド2−1〜2−4がインク吐出を行うべき場所に達した時には、ヘッド制御ブロック37がインク吐出を行うように制御する。
【0065】
なお、本実施の形態では、このようにモータの駆動パルスの管理により走査方向の記録位置を検出しているが、専用のエンコーダを設けてキャリッジ位置検出を行う記録装置も一般的である。
【0066】
CPU31は、ROM32に予め格納されているプログラム、あるいはホスト機器51からインターフェイス回路34を介して入力される制御コマンドに従って、インクジェット記録装置の動作全般の制御を行う。
【0067】
ROM32には、CPU31が動作するためのプログラムや記録ヘッド制御に必要な各種テーブルデータ、文字データを作成するためのキャラクターデータ等が搭載されている。
【0068】
インターフェイス回路34は、ホスト機器51からインクジェット記録制御への画像データや制御データの入出力が行われる際のインターフェイス部である。
【0069】
RAM33は、CPU31の演算時などのワークエリアあるいは、ホスト機器51からインターフェイス回路34を介して入力された記録データ及び制御コードの一時格納エリアを含んでいる。また、記録データを記録ヘッドのノズルに対応したビットデータに展開した後、格納するプリントバッファもRAM33上に構成される。
【0070】
電源ユニット9は、記録制御部30にVcc電圧、モータ制御回路35及び紙送りモータ10、駆動モータ5にVM電圧、及びDC/DCコンバータ50にVH−r電圧を供給している。
【0071】
図中、鎖線で囲った43で示す部分は、電圧可変補正回路であり、電源ユニット9から供給されるVH−r電圧を、同時駆動数に応じて変更すると共に、同時駆動数の遷移状態や記録ヘッドの温度などに従って補正する。
【0072】
温度検知手段44は、各記録ヘッド2−1〜2−4のノズルヒータの近傍に設置され、各記録ヘッドのノズルヒータの温度を検出している。
【0073】
負荷検知回路38は、CPU31に含まれ、ヘッド制御ブロック37を含むゲートアレイ36からヘッドキャリッジ3に送られる制御信号の一部であるシリアルデータ信号37−13から、記録ヘッドのノズルの同時駆動数に対応する値N1を検知し、予めこの値N1に応じた電圧設定値のマッピング情報を持ったROM32内の同時駆動数−電圧設定値(N−Vh)のテーブル情報から、電圧可変信号回路39が次に駆動するノズル数に見合った電圧設定値信号を、電圧可変制御回路40に送出し、DC/DCコンバータ50の出力電圧値VHを可変する。
【0074】
負荷検知回路38及び電圧可変信号回路39は、記録開始から記録終了までの間、順次所定のノズル数を単位として送られてくるシリアルデータ信号に基づいてこれらの処理を行い、DC/DCコンバータ50の出力電圧VHを可変する。後に具体的に説明するが、記録ヘッドを駆動する際、駆動電圧が高い場合には適正な電圧レベルまで低下させる制御を行う。この制御を、1カラム分の記録動作毎(データ転送毎)に行えば、カラム毎に適切な駆動電圧で各ノズルヒータは駆動され、良好なインク吐出が行われ、その結果良好な画像記録を行うことができる。
【0075】
負荷遷移検知回路41は、CPU31に含まれ、ヘッド制御ブロック37を含むゲートアレイ36からヘッドキャリッジ3に送られる制御信号の一部であるシリアルデータ信号37−13から、同時駆動数に対応する値N1を検知し、RAM33に一旦この情報を格納する。
【0076】
次のシリアル信号についても、同時駆動数をカウントし、対応する値N2と先にRAM33に格納された同時駆動数N1とをCPUにより比較演算し、負荷量の遷移量(N1−N2)を算出すると共に、RAM33の同時駆動数情報N1をN2に更新して格納する。これらの処理は、記録終了まで順次行われ、記録ヘッドで消費される電力の遷移が求められる。
【0077】
この負荷量遷移検知回路41は、負荷量の遷移量が正となる場合、すなわち、N1>N2となる場合にのみ差分データを出力する。負荷量の遷移量である差分データは、電圧可変補正信号回路42に入力され、予め負荷量の差分データと電圧可変補正信号値とのマッピング情報を持ったROM32内の負荷量差分データ−電圧可変補正信号値のテーブル情報から、負荷量の差分データに対応する電圧可変補正信号が出力され、DC/DCコンバータ50の出力電圧値VHが補正される。
【0078】
温度検知手段41はCPU31に接続されており、その出力は、負荷検知回路38及び負荷遷移検知回路41からそれぞれ出力される同時駆動数及び負荷量の遷移量に対する重み付けに用いられる。また、記録ヘッドの温度変化に対する吐出量−電力量の変化を考慮して、DC/DCコンバータの出力電圧値の補正にも用いられる。
【0079】
更に、図2、図3及び図4を参照して、本実施形態におけるインクジェット記録ヘッドの吐出制御について詳細に説明する。
【0080】
本実施の形態では、4個のヘッドを搭載するものであるが、各々の動作原理は同一であるため、Bkヘッド2−1について説明を行う。図2は、Bkヘッド2−1に関して、電圧可変補正回路43をより詳細に示すブロック図である。
【0081】
ヘッド制御ブロック37内には、記録ヘッドにデータを転送するデータ転送回路37−1、記録ヘッドの駆動タイミングを制御するヒートタイミングコントローラ37−2、各色の記録ヘッドに対応して4つのカウンタ、Bkデータカウンタ37−4、Yデータカウンタ37−5、Mデータカウンタ37−6、及びCデータカウンタ37−7が設けられている。
【0082】
データ転送回路37−1は、記録ヘッドに対してシリアルデータ信号37−13、クロック信号37−15、ラッチ信号37−14を送出する。それぞれの信号はBkヘッド2−1に接続されている。
【0083】
シリアルデータ信号37−13は、Bkヘッド2−1上に構成されたシフトレジスタ2−101にクロック信号37−15に同期して順次格納され、構成されるノズルのうちどのノズルについて吐出を行うかを選択する目的で使用される。ノズル数分のデータの送出が終わるとラッチ信号37−14が送出されシフトレジスタ2−101に納められたデータはレジスタ2−102に転送されデータのセットは終了する。
【0084】
データのセットが終了すると、キャリッジ3の位置に合わせてヒートタイミングコントローラ37−2から3本のブロック選択信号37−16とヒート信号37−12が送出される。本実施の形態においては、同一ブロックのノズルは8本おきに配置されている。3本のブロック選択信号37−16によって選択されたブロックはBkヘッド2−1上に構成されるデコーダ2−103によって該当するブロックのAND回路2−104の入力をアクティブにする。
【0085】
上記手順に従ってデータセット及びブロック選択がなされたノズルに対して、ヒート信号37−12が入力されるとAND回路2−104の出力条件がそろい、各ノズルのヒータ抵抗2−106に接続されたドライブトランジスタ2−105が動作し、ヒート電流が流れる。
【0086】
以上説明した動作を繰り返すことによって、所望の位置にインク滴が吐出され、一連の記録動作が実現される。ここで、例えば、シリアルデータの1つの転送単位は1カラム分(64ノズル分のデータ)に相当する場合には、次の転送されるデータは、次のカラム位置に記録に用いられる。従って、記録ヘッドの主走査方向への移動に同期して10回のシリアルデータの転送が行われると、10カラム分の記録が行われる。もちろん、シリアルデータの1つの転送単位は1カラム分に限定することはなく、複数回(例えば2、4)に分けて転送しても構わない。
【0087】
ここで、Bkデータカウンタ37−4は、シリアルデータ信号37−13から実際に駆動されるノズル数をカウントし、負荷検知回路38及び負荷遷移検知回路41に駆動されるノズル数を表すデータを出力する。
【0088】
負荷検知回路38は、Bkデータカウンタ37−4によってカウントされたデータに基づき、ROM32に格納された、予め駆動されるノズル数Nと設定電圧値情報とのマッピング情報(対応テーブル)を参照し、次のタイミングで駆動されるノズル数に対応する電圧設定値を表すデジタル信号を、電圧可変制御回路40内のD−Aコンバータ50に出力する。
【0089】
負荷遷移検知回路41は、BKデータカウンタ37−4によってカウントされたデータを、RAM33に一旦保存する。そして、次のNビットのシリアル信号37−13からBKデータカウンタ37−4によってカウントされた同時に駆動されるノズル数を表すデータを、RAM33に保存された先にカウントされたデータと比較し、その差分データを負荷量の遷移量データとして出力する。
【0090】
なお、この負荷遷移検知回路41は、先のNビットのシリアル信号に対応した同時駆動数のデータよりも、次のNビットのシリアル信号に対応した同時駆動数のデータが少ない場合のみ、すなわち、差分データが正となり、目標電圧を低下させる必要がある場合にのみ、電圧可変補正信号回路42に信号を出力する。
【0091】
また負荷遷移検知回路41は、記録開始時のシリアル信号37−13に対応した同時駆動数のデータN1を、初期電圧設定値であるVoに対応した同時駆動数と比較して、記録開始の前に目標電圧を低下させる必要があれば信号を出力する。
【0092】
図4は、電圧可変制御回路40及び電圧可変補正回路43によるDC/DCコンバータ50の出力電圧VHの可変制御が行われるタイミングを示すタイミングチャートである。図示したようにシリアルデータ信号37−13がクロックに従ってシフトレジスタ2−101に順次格納され、ラッチ信号37−14によって、シフトレジスタ2−101に格納されたデータがレジスタ2−102に転送される間に行われる。
【0093】
言い換えると、ノズルが駆動されない期間、すなわち、駆動信号とその次の駆動信号の間の期間であり、DC/DCコンバータ50から見ると負荷を取られない無負荷期間において、本実施形態による電圧可変制御が行われる。
【0094】
ここで、電圧可変制御で、目標電圧を上昇させる際には、DC/DCコンバータ50のPWM動作によって、出力に電力を供給する方向であるため、フィードバック制御の応答遅れのみで電圧可変が行われるが、目標電圧を低下させる際には、PWM動作を停止させても、出力コンデンサにチャージされた電荷が放出されない限り、目標電圧が低下するまでに時間がかかってしまう。
【0095】
図3は、従来の電圧可変制御における無負荷状態での電圧が低下する様子を示すタイミングチャートである。図示されたように、無負荷状態でDC/DCコンバータ50の出力電圧VHが目標電圧まで低下するには、数mから数十msecというかなり長い時間を要する。
【0096】
本実施形態では、このような電圧VHの低下に要する時間を短縮させるべく、電圧可変補正回路43によってインクが吐出されない程度の時間だけノズルを駆動する(以降、空焚きと呼ぶ)。
【0097】
次に、電圧可変制御回路40及び電圧可変補正回路43の動作について、図2及び図4を参照してより詳細に説明する。
【0098】
電圧可変制御回路40は、DC/DCコンバータ50に含まれており、D/Aコンバータ211、基準電圧Vref212、誤差増幅器207、抵抗R1、R2、R5、コンデンサC1から構成される。
【0099】
D/Aコンバータ211の入力端子Dinは、CPU31に接続され、D/Aコンバータ211の出力端子Aoutは、誤差増幅器207の非反転端子に接続され、CPU31の電圧可変信号回路39から出力されるデジタル信号によりVref端子の電圧を可変し、誤差増幅器207の非反転端子に電圧Vref’として供給する。
【0100】
ここで、電圧Vrefの調整可能なステップ(段階)数はD/Aコンバータのビット数によって決まり、例えば、8ビットのD/Aコンバータを用いればVref電圧は2(=256)段階に調節可能になる。
【0101】
誤差増幅器207の非反転端子は、DC/DCコンバータ50の出力電圧VHとグランド間を抵抗R1及びR2で分圧した電圧が供給され、出力電圧VHは、
【数1】

で表される目標電圧となるように、PWM比較器入力208に対してフィードバック制御がかかる。
【0102】
電圧可変補正信号回路42の出力は、ヘッド制御ブロック37内のヒートタイミングコントローラ37−2に接続され、ラッチ信号37−14が入力されるインバータ回路3−103の出力とヒート信号37−12とが入力されるAND回路3−101から、ラッチ信号37−14がオン(ローレベル)となる間に各ノズルを駆動する信号が出力されるように動作する。このため、AND回路2−104には、シフトレジスタ2−102からの信号、ブロックデコーダーから出力されるブロック選択信号37−16、ヒート信号37−12の3つの信号が入力され、AND回路2−104の出力信号とAND回路3−101の出力信号とがOR回路3−102に入力され、OR回路3−102の出力はドライブトランジスタ2−105の入力端子に接続されている。
【0103】
先に述べたように、電圧可変補正回路43は、電圧生成手段であるDC/DCコンバータ50の電圧が下降する方向に移行する時のみ動作する。
【0104】
また、記録装置内部で扱うシリアルデータ信号37−17から、DC/DCコンバータ50の出力電圧を目標電圧値VH1からVH2へ下降させるための空焚きの駆動パルス数Nは以下の関係式から求まる。
【0105】
VH1からVH2への電圧降下は、以下の式、
【数2】

で求められるため、予めROM32内にマッピング情報を格納しておけば、電圧可変補正回路43によって、各ノズルを空焚きする回数Nは、
【数3】

によって求められる。
【0106】
ここで、nは記録ヘッドのノズル数、CはDC/DCコンバータ50の出力コンデンサの容量、Rは各ノズルのヒータ抵抗、tpはノズルからインクが吐出されないパルス幅(時間)をそれぞれ表している。なお、tpの値としては、0.5μsec程度とするのがよい。
【0107】
このように、負荷量の遷移量である差分データは、記録ヘッドが必要とする電圧可変幅である△V(VH1−VH2)に変換され、予めROM32に格納されたマッピング情報から、ノズル数nでの空焚き回数NをCPU31が演算し、ラッチ信号37−14に同期して空焚きが行われる。
【0108】
以上のように本実施形態では、シリアルデータ信号37−13がシフトレジスタ2−101からラッチ信号に同期してレジスタ2−102へ転送される期間であり、ノズルからインクを吐出しない(記録を行わない)期間において、電圧生成手段であるDC/DCコンバータ50の出力電圧を低下させる必要がある場合に、DC/DCコンバータ50の電力負荷として空焚きを行うことにより、出力コンデンサの電荷を放電させることができるため、出力電圧VHを所望の電圧まで低下させるのに要する時間を数μsecのオーダーまで短縮することができる。
【0109】
以下、図6のフローチャートを参照して、本実施形態における各処理を説明する。
【0110】
記録が開始されると(ステップS1)、データ転送回路37−1からシリアルデータ信号37−13が転送され、BKデータカウンタ37−4により同時駆動数Nをカウントする。(ステップS2)
カウントされた同時駆動数Nと、記録ヘッドの温度データ(ステップS14)とに応じて、予めROM32に格納されたマッピング情報である電圧設定テーブルを参照することにより(ステップS3)、電圧生成手段に内蔵されたD/Aコンバーター211に対する基準電圧値Vrefの変更として出力される(ステップS4)。以上のS2〜S4の処理は電圧可変処理と称する。
【0111】
また、記録開始から記録終了まで順次ラッチ信号により区切られて送信されるNビットのシリアル信号37−13における同時駆動数を、N1、N2、…、Nm、Nm+1、…と表わすと、負荷遷移検知回路41は、Nビットのシリアル信号37−13から、BKデータカウンタ37−4によってカウントされたNビットのシリアル信号の同時駆動数Nmのデータを一旦RAM33に保存する(ステップS5)。
【0112】
次のタイミングで転送されてくるNビットの信号についても同様に、BKデータカウンタ37−4により同時駆動数Nm+1をカウントし、先にRAM33に保存された同時駆動数との差分をCPU31により比較演算し、負荷量の遷移量として算出する(ステップS6)。
【0113】
この負荷遷移検知回路41は、負荷量の遷移量が先のNビットのシリアル信号における同時駆動数Nmと、次のNビットのシリアル信号における同時駆動数Nm+1とを比較演算し、Nm+1がNmより少ない場合にのみ信号を出力すべく、差分が正となるか否かを判定する(ステップS7)。
【0114】
よって、負荷遷移検知回路41は、NmとNm+1が等しい或いはNmよりもNm+1が多い場合には、出力電圧VHに対する電圧可変処理は実行されるが、負荷遷移検知回路41は何も信号を出力しない(ステップS8)。
【0115】
さらに、先のNビットのシリアル信号における同時駆動数Nmよりも、次のNビットのシリアル信号における同時駆動数Nm+1が少ない場合には、記録ヘッドの温度データ(ステップS14)と同時駆動数の差分データ(Nm−Nm+1)とに応じて、電圧可変量のマッピング情報から放電時間を求め(ステップS9)、CPU31により、n個の各ノズルをインクが吐出されないパルス幅(tp)で駆動する(空焚きを行う)回数を決定し(ステップS10)、ヒートタイミングコントローラー37−2から駆動パルス信号を出力してヒート信号を介して送信する(ステップS11)。
【0116】
この時、記録開始時の最初のシリアル信号N1であるか否かを判定し(ステップS15)、最初である場合には、初期電圧に対応する同時駆動数Voを参照し(ステップS13)、Vo−N1の値が演算される(ステップS12)。
【0117】
以上説明したように、本実施形態によれば、DC/DCコンバータ50の出力電圧VHを低下させる場合にのみ、ノズルをインクが吐出しない程度の時間だけ駆動する空焚きを行うことで、DC/DCコンバータ50の出力コンデンサの電荷を放電させ、出力電圧VHを所望の電圧まで低下させるのに要する時間を短縮することが可能となる、つまり、DC/DCコンバータ50の保持している電力(電圧)を記録ヘッドへ付与することで、DC/DCコンバータ50が保持している余剰の電力を消費することができ、出力電圧VHを低下させることができる。
【0118】
従って、同時駆動数や温度上昇によるインク吐出量の変動が抑制され、常に安定してインクを吐出することが可能となる。
【0119】
更に、電圧可変補正回路によって電圧を低下させる際に要する時間が短縮されることで、駆動パルスの時間幅補正を行わずにパルス幅を固定とし、電圧を高精度に可変できるようになるため、ノズル数が非常に多くなるインクジェットプリンタにおいても、高速、高画質化が可能である。
【0120】
また電圧を高精度かつ高速に制御できるため、同一ノズルからサイズの異なる液滴を吐出するドット変調を行う際にも、インク吐出量の変化をパルス幅と駆動電圧の変化との少なくともいずれかを制御することによってより高精度なドット変調制御が可能となる。
【0121】
なお、出力コンデンサの電荷を速やかに放電させるべく、電圧生成手段であるDC/DCコンバータ50の出力端にブリーダー抵抗等を挿入しておくことも可能であるが、このような構成とすると、常時電力ロスが生じDC/DCコンバータ50の効率が悪化することとなる。更に、μsecオーダーで出力電圧を所望の電圧まで低下させるように電荷をディスチャージさせるようなブリーダー抵抗を挿入するのは現実的に困難である。
【0122】
(変形例)
上記実施の形態では、空焚きの対象となるノズル数nをブラックの記録ヘッドの全ノズル数として、DC/DCコンバータの目標電圧までの差分に応じて空焚きの回数(パルス数)を変化させるようにしているが、通常の画像を形成する際に行われる駆動制御と同様に、空焚きの対象となるノズル数を変化させても良い。例えば、パラレル接続されているノズル数を単位として、目標電圧までの差分に応じて、空焚きするノズル数と回数との組み合わせを選択する構成としても良い。
【0123】
上記実施の形態では、ブラックの記録ヘッド2−1とカラーの記録ヘッド2−2、2−3、2−4とでは別系統で電力を供給する構成となっているが、全ての記録ヘッドに一系統で電力を供給する構成においても、全ての色のシリアルデータ信号から同時駆動数を求め、上記と同様に出力電圧を制御することが可能なことは当業者には明らかであろう。
【0124】
また、一系統で全ての記録ヘッドに電力を供給する構成では、モノクロ記録時に記録には使用しないカラー記録ヘッドを空焚きして、出力電圧を低下させるようにしても良い。
【0125】
更に、記録装置に搭載される全ての記録ヘッドそれぞれに異なる電力供給系統を設ける構成においても、各記録ヘッド毎に求めた同時駆動数に基づいて供給する電圧を制御することが可能なことも明らかであろう。
【0126】
また、上記実施の形態の構成に加え、DC/DCコンバーターの出力コンデンサを放電させる放電回路を設けて、上述のノズルの空焚きと組み合わせて制御することによって、目標電圧まで低下させる時間を一層短縮するようにしてもよい。
【0127】
<他の実施形態>
以上説明した実施形態では、インクジェット記録装置に本発明を適用した場合を例にあげて説明したが、本発明は複数の記録素子を有する記録ヘッドを用いて記録を行う方式であれば、様々な種類の記録装置に適用できる。なお、記録装置が採用する記録方式に応じて、上記の温度データに変えて他の情報を用いるようにしても良い。
【0128】
本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用しても良いし、また、一つの機器からなる装置に適用しても良い。
【0129】
例えば、本発明に係る記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体または別体に設けられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置、或いはそれらの機能を併せ持つ複合機の形態を取るものであっても良い。
【0130】
なお、本発明は、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラム(本実施形態では図6に示すフローチャートに対応したプログラム)を、システム或いは装置に直接或いは遠隔から供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータが該供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。その場合、プログラムの機能を有していれば、形態は、プログラムである必要はない。
【0131】
従って、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明のクレームでは、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
【0132】
その場合、プログラムの機能を有していれば、オブジェクトコード、インタプリタにより実行されるプログラム、OSに供給するスクリプトデータ等、プログラムの形態を問わない。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明にかかる記録装置の実施形態の制御構成を表すブロック図である。
【図2】Bkヘッド2−1に関する電圧可変補正回路43を詳細に示すブロック図である。
【図3】従来の電圧可変制御における無負荷状態での電圧が低下する様子を示すタイミングチャートである。
【図4】電圧可変制御回路40及び電圧可変補正回路43によるDC/DCコンバータ50の出力電圧VHの可変制御が行われるタイミングを示すタイミングチャートである。
【図5】インクジェット記録ヘッドにおける発熱抵抗体(ヒータ)と駆動スイッチ(トランジスタ)との接続例を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態における電圧制御処理のフローチャートである。
【図7】従来技術によるDC/DCコンバータを構成する電圧制御系の構成を示す回路図である。
【図8】本発明に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録素子を有する記録ヘッドによって記録を行う記録装置であって、
前記記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電力供給回路と、
記録データに基づいて、前記複数の記録素子のうち、同時に駆動される記録素子の数である同時駆動数を求める負荷算出手段と、
前記同時駆動数の遷移量を求める遷移量算出手段と、
前記同時駆動数に応じて、前記電力供給回路の出力電圧を変更する電圧可変手段と、
前記遷移量に応じて、前記記録ヘッドを記録が行われない程度の電力で駆動する非記録駆動によって、前記電力供給回路の電力を消費させる消費手段と、を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記電圧可変手段及び前記消費手段は、前記記録ヘッドによって記録が行われない期間に、前記出力電圧の変更及び前記非記録駆動をそれぞれ行うことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記電力供給回路は、出力電圧と基準電圧との間の偏差をなくすようにフィードバック制御されたDC/DCコンバータと、該DC/DCコンバータの出力端子間に接続されたコンデンサとを含み、前記非記録駆動の制御は、前記コンデンサの容量と、前記記録素子の抵抗値に基づいて、行われることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記遷移量算出手段は、連続して送信された2つの前記単位の記録データから前記同時駆動数の差分を前記遷移量として求めることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記遷移量算出手段は、記録開始の際には、所定の値との差分を前記遷移量として求めることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記電圧補正手段は、前記遷移量に応じて所定時間を単位とした前記非記録駆動の回数を変更することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記遷移量と前記非記録駆動の回数との対応テーブルを更に備えることを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記電圧補正手段は、前記遷移量に応じて前記非記録駆動の対象となる記録素子の数を段階的に変更することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記記録ヘッドは、熱エネルギーを利用して記録を行う記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの温度を検出する温度検出手段を更に備え、
前記電圧可変手段及び前記消費手段は、検出された温度の情報を考慮して前記出力電圧の変更及び前記非記録駆動をそれぞれ行うことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録ヘッドは、各記録素子からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
複数の記録素子を有する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを駆動するための電力を供給する電力供給回路と、を備える記録装置における記録ヘッドの制御方法であって、
記録データに基づいて、前記複数の記録素子のうち、同時に駆動される記録素子の数である同時駆動数を求める負荷算出工程と、
前記同時駆動数の遷移量を求める遷移量算出工程と、
前記同時駆動数に応じて、前記電力供給回路の出力電圧を変更する電圧可変工程と、
前記遷移量に応じて、前記記録ヘッドを記録が行われない程度の電力で駆動する非記録駆動によって、前記電力供給回路の電力を消費させる消費工程と、を備えることを特徴とする記録ヘッドの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−212823(P2006−212823A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25506(P2005−25506)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】