説明

記録装置

【課題】DCモータにおけるフィードバック制御の特徴と、プリンタシステムにおいて電力消費量が大きくなる状況(UT給紙用モータ221が給紙を行う際の突発的な負荷変動の発生)のもつ特徴を生かして、より合理的な制御を行い、少ない電源容量でより高性能な記録装置を提供するための手段を提案するものである。
【解決手段】記録ヘッドにより被記録材に記録する記録装置であって、被記録材の搬送の駆動源としてDCモータを用い、前記DCモータはフィードバック制御により制御され、該フィードバック制御においては対象シーケンスごとに前記DCモータへの最大出力リミットを別々に設定できることを特徴とする記録装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置に関するものであり、限られた供給電力を有効に活用するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のシリアルプリンタ装置、例えばインクジェットプリンタ装置(記録装置)においては、機能及び性能の向上に対応するため搭載するモータの数が増加している。このような装置においては、同時に駆動されるモータの数が増え、更に印刷ヘッドの駆動(インクジェットプリンタ装置においてはインク吐出動作を行うための手段)に要する電力を加えると、電源部への負荷が大変大きくなっている。例えば給紙経路として従来一般的であったストレートパス(筐体の上面から給紙する経路)に加えてUターンパス(筐体の前面から給紙する経路)を設けた装置では、Uターンパスの給紙経路がストレートパスの給紙経路よりも長いため、Uターンパス経由の印刷においてはスループットアップのために印刷動作中にUターンパスの給紙動作を行う場合がある。このような場合、主走査(キャリッジ)用モータの駆動と、印刷ヘッドの吐出動作と、Uターンパス搬送用モータの駆動が重なることになり電源部への負担が大きい。
【0003】
一方、静音化及び高速回転への対応のため、搬送系のモータとしてDCモータを採用する機種が増加している(特許文献1参照)。
【0004】
以上の構成について、図1〜図4を用いて説明する。
【0005】
図1は、前記印刷装置の一例であり、シリアル式インクジェットプリンタの全体図である。
【0006】
同図において、101はインクタンクを有する記録ヘッド、102は記録ヘッド101を搭載するキャリッジである。キャリッジ102の軸受け部には主走査方向に摺動可能な状態でガイドシャフト103が挿入され、そのシャフトの両端はシャーシ114に固定されている。このキャリッジ102に係合したキャリッジ駆動伝達手段であるベルト104を介して、キャリッジ駆動手段である駆動モータ105の駆動が伝達され、キャリッジ102が主走査方向に移動可能である。キャリッジ102にはエンコーダセンサ120が取り付けられ、リニアエンコーダフィルム121を読み取ることで速度、位置情報を得る。
【0007】
本印刷装置では、給紙経路がストレートパスとUターンパスの2つ設けられており、まずストレートパス経由で印刷媒体が搬送される場合について説明する。
【0008】
印字待機中において印刷媒体115は、給紙ベース106にスタックされており、印刷開始時には給紙ローラ(不図示)により印刷媒体が給紙される。給紙された印刷媒体を搬送するため、印刷媒体搬送用モータ107の駆動力により伝達手段であるギア列(モータギア108、搬送ローラギア109)を介して搬送ローラを回転させ、ピンチローラばね(不図示)により搬送ローラ110に押圧され従動回転するピンチローラ111とこの搬送ローラ110とにより印刷媒体115は適切な送り量だけ搬送される。ここで、搬送量は搬送ローラ109に圧入されたロータリーエンコーダフィルム116のスリットをエンコーダセンサ117で検知、カウントすることで管理され、高精度送りを可能としている。
【0009】
記録ヘッド101から吐出されたインクは、プラテン112上の印刷媒体115に着弾して印刷パターンを形成する。印刷パターンが完成すると、搬送ローラ110及び排紙ローラ113により印刷媒体115は排紙口142から排紙される。
【0010】
次に、Uターンパス経由で印刷媒体が搬送される場合について説明する。
【0011】
印字待機中において印刷媒体115は、前面給紙トレイ141にスタックされており、印刷開始時にはUターンパス搬送ローラ132により印刷媒体が給紙される。以下、排紙に至るまでの処理は前記ストレートパス経由で印刷媒体が搬送される場合と同様である。
【0012】
図2は、前記印刷装置に関して搬送パスの説明をするために横から見た断面図である。
【0013】
図2において、201は給紙ベース上の印刷媒体115、203は印刷済みの印刷媒体115、202は現在の印刷対象である印刷媒体115、204は図1で不図示であった給紙ローラ、205は図1で不図示であった排紙側のピンチローラを示している。
【0014】
221はUターンパス搬送ローラ132の駆動源となるUT給紙用モータであり、図1で不図示であった。UT給紙用モータの駆動力はベルト222を介して、Uターンパス搬送ローラ132に結合されているプーリー223に伝達される。211は前面給紙トレイ141上の未印刷の印刷媒体115を示している。
【0015】
図3は、Uターンパス経由で印刷媒体が搬送される場合の状態の一例について示したものである。
【0016】
301はプラテン上の印刷中の印刷媒体115、302はUターンパス搬送ローラ132によって給紙されんとしている印刷媒体115を示している。301に対する印刷処理をキャリッジ102を動かして行っている最中に、302に対して給紙動作を行うよう制御すると、301に対する印刷処理が終了した直後には既に302がプラテン112の近くに到達するようにコントロールすることができる。
【0017】
このシーケンスを実現するためには、キャリッジ102を動かすための駆動モータ105の駆動と、記録ヘッド101の吐出動作と、UT給紙用モータ221の駆動を同時に行う必要がある。
【0018】
図4は、図3の状態について、実際のシーケンスにおける時間の前後関係を明らかにすることでさらに具体的に説明するために設けた図であり、印刷媒体2ページをUターンパス経由で順番に給紙し、印刷し、排紙する処理の流れについて最も簡単な例を用いて示した図である。
【0019】
横軸は時間の経過を示している。
【0020】
401〜406は駆動モータ105の駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
【0021】
411〜416は記録ヘッド101の吐出動作が行われていることを示している。
【0022】
421〜425はUT給紙用モータ221の駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
【0023】
431〜437は搬送用モータ107の駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
【0024】
まず1ページ目の印刷媒体を給紙するため、421でUT給紙用モータ221を駆動すると同時に431で搬送用モータ107を駆動する。431が終了した直後から無駄時間無しに記録ヘッド101の駆動を開始できるよう、401のモータ105の駆動を開始しておく。
【0025】
431が終了すると、即座に411により記録ヘッド101の吐出動作が行われる。
【0026】
411による記録ヘッド101の吐出動作が終了し、主走査の処理が1ライン完了すると422でUT給紙用モータ221を駆動すると同時に432で搬送用モータ107を駆動する。ここでは、422の駆動により、1ページ目の印刷媒体がUターンパス搬送ローラ132から開放されるものとする。432が終了した直後から無駄時間無しに記録ヘッド101の吐出動作を開始できるよう、402のモータ105の駆動を開始しておく。
【0027】
432が終了すると、即座に412により記録ヘッド101の吐出動作が行われる。
【0028】
ここで、1ページ目の印刷媒体は既にUターンパス搬送ローラ132から開放されていることから、1ページ目の印刷媒体に対する処理とは独立して、2ページ目の印刷媒体の給紙処理を開始することが出来る。そこで423でUT給紙用モータ221を駆動して2ページ目の印刷媒体の給紙処理を開始する。
【0029】
423とは独立して継続している1ページ目の印刷処理については、412による記録ヘッド101の吐出動作が終了し、主走査の処理がもう1ライン完了すると433で搬送用モータ107を駆動する。433が終了した直後から無駄時間無しに記録ヘッド101の吐出動作を開始できるよう、403のモータ105の駆動を開始しておく。
【0030】
433が終了すると、即座に413により記録ヘッド101の吐出動作が行われる。
【0031】
413による記録ヘッド101の吐出動作が終了し、主走査の処理がもう1ライン完了すると434で搬送用モータ107を駆動する。434が終了した直後から無駄時間無しに記録ヘッド101の吐出動作を開始できるよう、404のモータ105の駆動を開始しておく。
【0032】
434が終了すると、即座に414により記録ヘッド101の吐出動作が行われる。ここでは414により、1ページ目の印刷媒体に対する印刷処理が終了するものとする。
【0033】
414による記録ヘッド101の吐出動作が終了し、主走査の処理が1ライン完了すると424でUT給紙用モータ221を駆動すると同時に435で搬送用モータ107を駆動する。これらの駆動により1ページ目の印刷媒体が排紙されると同時に、423によりプラテン112の近くに到達するようにコントロールされていた2ページ目の印刷媒体の給紙がなされる。435が終了した直後から無駄時間無しに記録ヘッド101の吐出動作を開始できるよう、405のモータ105の駆動を開始しておく。
【0034】
435が終了すると、即座に415により記録ヘッド101の吐出動作が行われる。
【0035】
415による記録ヘッド101の駆動が終了し、主走査の処理が1ライン完了すると425でUT給紙用モータ221を駆動すると同時に436で搬送用モータ107を駆動する。ここでは、425の駆動により、2ページ目の印刷媒体がUターンパス搬送ローラ132から開放されるものとする。436が終了した直後から無駄時間無しに記録ヘッド101の吐出動作を開始できるよう、406のモータ105の駆動を開始しておく。
【0036】
436が終了すると、即座に416により記録ヘッド101の吐出動作が行われる。ここでは416により、2ページ目の印刷媒体に対する印刷処理が終了するものとする。
【0037】
416による記録ヘッド101の吐出動作が終了し、主走査の処理が1ライン完了すると437で搬送用モータ107を駆動する。この駆動により2ページ目の印刷媒体が排紙される。
【0038】
以上述べてきた一連のシーケンスのうち、本発明が着目するのは423の動作である。1ページ目の印刷処理が行われている間に、スループットアップのために2ページ目の給紙動作が行われている。この結果、423と同時に402と412、または402と433などの動作が行われることになる。
【0039】
即ち、図3の説明でも述べたように、キャリッジ102を動かすための駆動モータ105の駆動と、記録ヘッド101の吐出動作と、UT給紙用モータ221の駆動を同時に行う場合、またはキャリッジ102を動かすための駆動モータ105の駆動と、搬送用モータ107の駆動と、UT給紙用モータ221の駆動を同時に行う場合が発生する。
【特許文献1】特開2002−337414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
このように複数の駆動を同時に行おうとすると、瞬間的な電力消費量は大きくなる。とくにUT給紙用モータ221で突発的な負荷変動の発生により大電力が求められたような場合に状況は深刻である。
【0041】
しかしながら該瞬間的な電力消費量にあわせて電源供給部分を設計するとことは、コスト面で効率的ではない。
【0042】
本発明は、以上述べてきた複数の駆動を同時に行う局面において、DCモータにおけるフィードバック制御の特徴と、プリンタシステムにおいて電力消費量が大きくなる状況(UT給紙用モータ221が給紙を行う際の突発的な負荷変動の発生)のもつ特徴を生かして、より合理的な制御を行い、少ない電源容量でより高性能な記録装置を提供するための手段を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0043】
本発明は記録ヘッドにより被記録材に記録する記録装置であって、被記録材の搬送の駆動源としてDCモータを用い、前記DCモータはフィードバック制御により制御され、該フィードバック制御においては対象シーケンスごとに前記DCモータへの最大出力リミットを別々に設定できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、限られた容量の電源装置を採用し、複数のモータ駆動あるいは記録ヘッドの吐出動作を同時に行うシーケンスを採用した印刷装置において、状況に応じて適切な出力リミットを適用したフィードバック制御を働かせることが出来る。
【0045】
これによって、小さな電源容量(出力リミットが存在することで、大きなマージンを取る必要がなくなる)を実現してのコスト向上と、システムの安定性(出力リミットが存在することで、電源への過負荷を回避できる)と、制御の最適化(出力リミットが弊害をもたらすシーケンスに対しては、出力リミットをマージンのある値に設定できる)と、処理速度の高速化(過負荷への対応を出力リミットによって行うため、設定駆動速度を落として過負荷を回避する必要がなくなる)を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下本発明を実施するための最良の形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0047】
本実施例装置においても、図1〜図4で説明した基本構成は同じである。
【0048】
ここではまず、本実施例装置の特徴となる手段を実装した結果、UT給紙用モータ221のフィードバック制御がどのように変化するかについての説明を図5、図6を用いて行う。
【0049】
図5は最大出力リミットを設定しないフィードバック制御によりUT給紙用モータ221の制御を行った場合の動作プロファイルであり、図6は最大出力リミットを設定してのフィードバック制御によりUT給紙用モータ221の制御を行った場合の動作プロファイルである。
【0050】
図5、図6において、横軸は時間を示している。縦軸はデータ各々に対してそれぞれ速度、位置、UT給紙用モータ221への出力の大きさを示している。
【0051】
501は理想速度プロファイルであり、該理想速度プロファイル501に従って位置をプロットしたものが位置指令プロファイル503である。該位置指令プロファイル503に追従するよう、図7で後述する位置のフィードバック制御をかけた結果の現実位置プロファイルが504であり、該現実位置プロファイル504に対応した現実速度プロファイルが502である。このときのモータへの出力の大きさの変遷を示したものが505の出力プロファイルである。
【0052】
加速時には大きなパワーを必要とすることから、駆動開始から25msecが経過した時点において、モータへの出力が極めて大きくなり、大きな電力を消費していることがわかる。
【0053】
図6は図5と同様の駆動に対して、図8で後述する最大出力リミット付きの位置のフィードバック制御をかけた場合について示している。
【0054】
601は理想速度プロファイルであり、該理想速度プロファイル601に従って位置をプロットしたものが位置指令プロファイル603である。該位置指令プロファイル603に追従するよう、図8で後述する最大出力リミット付きの位置のフィードバック制御をかけた結果の現実位置プロファイルが604であり、該現実位置プロファイル604に対応した現実速度プロファイルが602である。このときのモータへの出力の大きさの変遷を示したものが605の出力プロファイルである。
【0055】
最大出力リミットが設定されているため、図5における状況で大電力が消費されていた駆動開始から25msecが経過した時点において、出力プロファイル605は頭打ちになっている。出力が絞られているため現実速度プロファイル602も、現実速度プロファイル502と比べて低速であり、従って現実位置プロファイル604も現実位置プロファイル504と比べて遅れが大きくなっている。
【0056】
しかしながら位置のフィードバック制御を行っているため、駆動開始から35msecが経過し負荷が減少してきた時点で、大きな出力を必要とせずに速度を出すことが出来るために、現実速度プロファイル602は現実速度プロファイル502をはるかに上回るようになり、現実位置プロファイル604は現実位置プロファイル504に対する遅れを徐々に挽回していく。最終的に停止位置に到達する時間は、図5における結果に対し、図6における結果は遜色ないレベルとなっている。
【0057】
図6のような制御を、図4で説明した421や422において適用すると、431や432で示した搬送用モータ107との速度が合わずに、2軸で搬送中の印字媒体115は引っ張られて破損する可能性が出てくることがわかる。
【0058】
一方、図6で示した制御結果の一例は、図5で示した制御結果の一例に対して、最大出力リミットを設定した結果加速終了時点だけに着目すると制御成績が劣っているが、最終的に停止位置に到達する時間は同じであり、停止した時点での制御成績としては遜色がない。この図6の制御を423で説明したUT給紙用モータ221による2ページ目の印刷媒体の給紙処理として適用した場合には、加速終了時の制御成績の劣化は問題ではなく、むしろ最大出力リミットを設定したことのメリットのほうが注目されることになる。何故ならば423における状況で、図5のように際限なくモータ出力へのパワーを費やしてしまうと、キャリッジ102を動かすための駆動モータ105の駆動と、記録ヘッド101の吐出動作と重なることで非常に大きな容量を持った電源装置が必要になってしまうからである。
【0059】
以上説明してきたように、図5のフィードバック制御と図6のフィードバック制御は、シーケンス上の適性があり、本実施例装置の目的は双方の制御を適性に合ったシーケンスに対して合理的に適用する手段を提供することにある。
【0060】
図7は、一般的な位置のフィードバック制御を行う手段に関して説明したフローチャートであり、本実施例装置におけるUT給紙用モータ221の駆動に用いる制御の基本となる手段について示したものである。
【0061】
ステップ701〜ステップ703はソフトウェア的にはタスクの階層に属する処理であり、ステップ704〜ステップ715はタイマハンドラの階層に属する処理である。
【0062】
ステップ701で駆動処理が開始されると、ステップ702で変数intSumの初期化を行う。intSumはフィードバック制御において積分計算により算出される積分補償量を意味する変数である。
【0063】
ステップ703でフィードバック制御を行うためのタイマハンドラ(本実施例装置においては1msec)を起動すると、タスク階層での処理は終了となる。
【0064】
以下、タイマ処理を示すステップ704により1msecごとにステップ705以下の処理が起動されることになる。
【0065】
ステップ705では目標停止位置に到達したか否かの判定を行い、到達していればステップ706に進んでタイマを停止させ、ステップ707でモータへの電流出力を切り、ステップ715に進んで駆動処理終了となる。
【0066】
目標停止位置に到達していなければステップ708に進んで速度情報の取得を行う。具体的にはエンコーダから現在速度情報を得て変数spdNowに代入する。
【0067】
次にステップ709に進んで位置情報の取得を行う。具体的にはエンコーダから現在位置情報を得て変数posNowに代入する。
【0068】
次にステップ710に進み、理想位置プロファイル生成手段により、処理時点における理想の位置情報posCmdを取得する。理想の位置プロファイルの作成方法については、特許出願公開番号「特開2000−188894」において3次曲線及び5次曲線を速度指令プロファイルとして用いる方法が言及されており、理想の位置プロファイルは該速度指令プロファイルの積分により容易に求めることが出来る故に公知の手段と言ってよく、ここでは詳細の説明は省略する。
【0069】
以下、ステップ711からステップ713までの計算処理は、一般的にPID制御と呼ばれるフィードバック制御を、位置制御に適用した公知の構成の一例について示している。
【0070】
まずステップ711に進み、位置サーボを行うための位置の比例演算を行う。理想の位置情報posCmdから現在の位置情報posNowの差をとって距離の遅れ量を算出し、これに位置の比例ゲイン係数であるposTblを掛け合わせたものを、速度指令値spdCmdに代入している。
【0071】
次にステップ712に進み、速度サーボにおける積分演算を行うための処理を行う。速度指令値spdCmdから現在の速度情報spdNowの差をとって速度の遅れ量を算出し、これに速度の積分ゲイン係数であるintTblを掛け合わせたものを、1msecの周期タイマが前回割り込んだときに求めた積分補償量intSumに加算して、積分項の演算結果として新たなるintSumを得る。
【0072】
次にステップ713に進み、速度サーボにおける比例演算を行った上で電流出力値を決定するための処理を行う。速度指令値spdCmdから現在の速度情報spdNowの差をとって速度の遅れ量を算出し、これに速度の積分ゲイン係数であるintTblを掛け合わせる。このようにして得られた比例項の演算結果に、積分項の演算結果であるintSumを加えたものが、電流出力値mtr_pwmである。
【0073】
次にステップ714に進み、演算結果として求められたmtr_pwmの大きさに対応した電流をモータに対して出力する。この後ステップ704に戻り、1msecが経過するまでは別タスクの処理を行うことになる。
【0074】
図8は、図7で述べた一般的な位置のフィードバック制御を行う手段に対し、本実施例装置を実現する上で必要になる、出力リミットつきの処理を可能ならしめるための演算を追加したものである。このような出力リミットつきのフィードバック制御も公知であるが、本実施例の内容を明らかにするために説明を行う。
【0075】
ステップ801〜ステップ803はソフトウェア的にはタスクの階層に属する処理であり、ステップ804〜ステップ818はタイマハンドラの階層に属する処理である。
【0076】
ステップ801で駆動処理が開始されると、ステップ802で変数intSumの初期化を行う。intSumはフィードバック制御において積分計算により算出される積分補償量を意味する変数である。
【0077】
ステップ803でフィードバック制御を行うためのタイマハンドラ(本実施例装置においては1msec)を起動すると、タスク階層での処理は終了となる。
【0078】
以下、タイマ処理を示すステップ804により1msecごとにステップ805以下の処理が起動されることになる。
【0079】
ステップ805では目標停止位置に到達したか否かの判定を行い、到達していればステップ806に進んでタイマを停止させ、ステップ807でモータへの電流出力を切り、ステップ819に進んで駆動処理終了となる。
【0080】
目標停止位置に到達していなければステップ808に進んで速度情報の取得を行う。具体的にはエンコーダから現在速度情報を得て変数spdNowに代入する。
【0081】
次にステップ809に進んで位置情報の取得を行う。具体的にはエンコーダから現在位置情報を得て変数posNowに代入する。
【0082】
次にステップ810に進み、理想位置プロファイル生成手段により、処理時点における理想の位置情報posCmdを取得する。理想の位置プロファイルの作成方法については図7における説明でも述べたように公知の手段と言ってよく、ここでは詳細の説明は省略する。
【0083】
以下、ステップ811からステップ813までの計算処理は、一般的にPID制御と呼ばれるフィードバック制御を、位置制御に適用した公知の構成の一例について示している。
【0084】
まずステップ811に進み、位置サーボを行うための位置の比例演算を行う。理想の位置情報posCmdから現在の位置情報posNowの差をとって距離の遅れ量を算出し、これに位置の比例ゲイン係数であるposTblを掛け合わせたものを、速度指令値spdCmdに代入している。
【0085】
次にステップ812に進み、速度サーボにおける積分演算を行うための処理を行う。速度指令値spdCmdから現在の速度情報spdNowの差をとって速度の遅れ量を算出し、これに速度の積分ゲイン係数であるintTblを掛け合わせたものを、1msecの周期タイマが前回割り込んだときに求めた積分補償量intSumに加算して、積分項の演算結果として新たなるintSumを得る。
【0086】
ステップ813では、intSumを一時的にバックアップ用の変数領域であるintOldにコピーする。intSumに関しては後続の処理で上書きされてしまうが、後続の処理の結果いかんでは再度使用する可能性があるため、旧積分補償量としてintOldにバックアップしておく。
【0087】
次にステップ814に進み、速度サーボにおける比例演算を行った上で電流出力値を決定するための処理を行う。速度指令値spdCmdから現在の速度情報spdNowの差をとって速度の遅れ量を算出し、これに速度の積分ゲイン係数であるintTblを掛け合わせる。このようにして得られた比例項の演算結果に、積分項の演算結果であるintSumを加えたものが、電流出力値mtr_pwmである。
【0088】
ステップ815は、図7で述べた処理と本図8における処理の違いが最もよく現れた処理である。電流出力値mtr_pwmが、予め定められたmtrLimitを超えていなければそのままステップ818に進み、演算結果として求められたmtr_pwmの大きさに対応した電流をモータに対して出力する。しかし、超えてしまっている場合には、電流出力値mtr_pwmとしてmtrLimitを設定する。
【0089】
このままでは、一般にリセットワインドアップと呼ばれている問題が発生してしまう。リセットワインドアップとは、演算結果の出力が、制御対象の系において出力に対して課せられたリミットを超えたとき生じる問題である。
【0090】
出力がリミットを超えている時には、積分補償量の増加に比例して出力も増加するというフィードバック制御の基本機能が失われており、この際に積分処理を継続してしまうと積分補償量が巻き上げ(ワインドアップ)られてしまう。この結果、偏差が減少し積分補償量が減算され始めても、巻き上げた分の積分補償量が減算処理によって相殺されるまでは、積分補償量の減少に比例して出力も減少するという、本来のフィードバック制御の機能が回復しない。
【0091】
すなわち、巻き戻しの期間だけ本来のフィードバック制御の機能の回復が遅れ、制御結果のオーバーシュートが大きくなる等の弊害が出てしまう。
【0092】
これを解消するためには出力がリミットに達した時点でそれを超える方向の積分演算を停止する方法が広く知られており、ステップ817は積分補償量intSumをバックアップ変数であるintOldに戻すことで積分演算の停止を実現したものである。
【0093】
この後処理はステップ818に進み、演算結果として求められたmtr_pwmの大きさに対応した電流をモータに対して出力する。この後ステップ804に戻り、1msecが経過するまでは別タスクの処理を行うことになる。
【0094】
図9は、本実施例装置の特徴となるフローチャートである。
【0095】
ステップ901でUT給紙用モータの駆動命令を受信すると、ステップ902で、出力リミットを低く設定しても成立する駆動か否かを判定する。
【0096】
例えば図4で述べた423は、出力リミットを低く設定しても成立する駆動である。出力リミットを低く設定した結果、図6における駆動のように駆動最中の位置の遅れ量が甚だしく大きくなるようなことがあっても、最終的に停止位置に到達する時間は同じであり、停止した時点での制御成績としては遜色がないからである。423は給紙動作である故にメカ機構上負荷変動の発生する可能性が大きく、大きな電力を消費する危険が大きいが記録ヘッドの吐出動作413と同時に行う可能性があり出力リミットを設定するメリットは大きい。
【0097】
一方、421、422、424、425は出力リミットを低く設定すると成立しない駆動である。仮に出力リミットを低く設定して、図6における駆動のように駆動最中の位置の遅れ量が甚だしく大きくなるようなことがあると、431、432、435、436で示した搬送用モータ107との速度が合わずに、2軸で搬送中の印字媒体115は引っ張られて破損する可能性が出てくるからである。
【0098】
そこでステップ902では、423のように出力リミットを低く設定しても成立する駆動であればステップ904に、421、422、424、425のように出力リミットを低く設定すると成立しない駆動であればステップ903に進むよう、判定処理を行う。
【0099】
ステップ903では出力電流リミットmtrLimitは大きい値に設定し、ステップ905に進んで駆動処理を開始させる。
【0100】
ステップ904では出力電流リミットmtrLimitは小さい値に設定し、ステップ905に進んで駆動処理を開始させる。
【0101】
ステップ905では、既に説明した図8におけるステップ801以降の処理が行われる。
【実施例2】
【0102】
本実施例装置は、実施例1で述べた装置における図9のフローチャートを変更したものであるため、図1〜図8までの構成は踏襲しており、説明を省略する。
【0103】
図10は、本実施例装置の特徴となるフローチャートである。
【0104】
ステップ1001でUT給紙用モータの駆動命令を受信すると、ステップ1002で、ヒート処理と同時に行われる駆動か否かを判定する。
【0105】
例えば図4で述べた423は、出力リミットを低く設定しても成立する駆動である。出力リミットを低く設定した結果、図6における駆動のように駆動最中の位置の遅れ量が甚だしく大きくなるようなことがあっても、最終的に停止位置に到達する時間は同じであり、停止した時点での制御成績としては遜色がないからである。423は給紙動作である故にメカ機構上負荷変動の発生する可能性が大きく、大きな電力を消費する危険が大きいが記録ヘッドの吐出動作413と同時に行う可能性があり出力リミットを設定するメリットは大きい。
【0106】
一方、421、422、424、425は出力リミットを低く設定すると成立しない駆動である。仮に出力リミットを低く設定して、図6における駆動のように駆動最中の位置の遅れ量が甚だしく大きくなるようなことがあると、431、432、435、436で示した搬送用モータ107との速度が合わずに、2軸で搬送中の印字媒体115は引っ張られて破損する可能性が出てくるからである。
【0107】
そこでステップ1002では、423のようにヒート処理と同時に行われる駆動であればステップ1004に、421、422、424、425のようにヒート処理と同時に行われることがない駆動であればステップ1003に進むよう、判定処理を行う。
【0108】
ステップ1003では出力電流リミットmtrLimitは大きい値に設定し、ステップ1005に進んで駆動処理を開始させる。
【0109】
ステップ1004では出力電流リミットmtrLimitは小さい値に設定し、ステップ1005に進んで駆動処理を開始させる。
【0110】
ステップ1005では、既に説明した図8におけるステップ801以降の処理が行われる。
【実施例3】
【0111】
本実施例装置は、実施例1で述べた装置における図9のフローチャートを変更したものであるため、図1〜図8までの構成は踏襲しており、説明を省略する。
【0112】
図11は、本実施例装置の特徴となるフローチャートである。
【0113】
ステップ1101でUT給紙用モータの駆動命令を受信すると、ステップ1102で、印字媒体を搬送用モータ107(=LF)との2軸駆動で搬送するための駆動か否かを判定する。
【0114】
例えば図4で述べた423は、出力リミットを低く設定しても成立する駆動である。出力リミットを低く設定した結果、図6における駆動のように駆動最中の位置の遅れ量が甚だしく大きくなるようなことがあっても、最終的に停止位置に到達する時間は同じであり、停止した時点での制御成績としては遜色がないからである。423は給紙動作である故にメカ機構上負荷変動の発生する可能性が大きく、大きな電力を消費する危険が大きいが記録ヘッドの吐出動作413と同時に行う可能性があり出力リミットを設定するメリットは大きい。
【0115】
一方、421、422、424、425は出力リミットを低く設定すると成立しない駆動である。仮に出力リミットを低く設定して、図6における駆動のように駆動最中の位置の遅れ量が甚だしく大きくなるようなことがあると、431、432、435、436で示した搬送用モータ107との速度が合わずに、2軸で搬送中の印字媒体115は引っ張られて破損する可能性が出てくるからである。
【0116】
そこでステップ1102では、423のように印字媒体を搬送用モータ107(=LF)との2軸駆動で搬送するための駆動でなければステップ1104に、421、422、424、425のように印字媒体を搬送用モータ107(=LF)との2軸駆動で搬送するための駆動であればステップ1103に進むよう、判定処理を行う。
【0117】
ステップ1103では出力電流リミットmtrLimitは大きい値に設定し、ステップ1105に進んで駆動処理を開始させる。
【0118】
ステップ1104では出力電流リミットmtrLimitは小さい値に設定し、ステップ1105に進んで駆動処理を開始させる。
【0119】
ステップ1105では、既に説明した図8におけるステップ801以降の処理が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明を適用したシリアル式インクジェットプリンタの外装の斜視図であり、給紙トレイ及び排紙トレイを開いた状態を示す。
【図2】印刷装置の搬送パスの説明をするために横から見た断面図である。
【図3】印刷装置のUターンパス経由で印刷媒体が搬送される場合の状態の一例について示したものである。
【図4】印刷媒体2ページをUターンパス経由で順番に給紙し、印刷し、排紙する処理の流れについて示した図である。
【図5】最大出力リミットを設定しないフィードバック制御により制御を行った場合の動作プロファイルを示した図である。
【図6】最大出力リミットを設定してのフィードバック制御により制御を行った場合の動作プロファイルを示した図である。
【図7】一般的な位置のフィードバック制御を行う手段に関して説明したフローチャートである。
【図8】出力リミットつきの処理を可能ならしめるための演算を追加したフィードバック制御を行う手段に関して説明したフローチャートである。
【図9】実施例1における装置の特徴となるフローチャートである。
【図10】実施例2における装置の特徴となるフローチャートである。
【図11】実施例3における装置の特徴となるフローチャートである。
【符号の説明】
【0121】
101 記録ヘッド
102 キャリッジ
103 ガイドシャフト
104 ベルト
105 駆動モータ
106 給紙ベース
107 搬送用モータ
108 モータギア
109 搬送ローラギア
110 搬送ローラ
111 ピンチローラ
112 プラテン
113 排紙ローラ
114 シャーシ
115 印字媒体
116 ロータリーエンコーダフィルム
117 エンコーダセンサ
201 給紙ベース上の印刷媒体
202 現在の印刷対象である印刷媒体
203 印刷済みの印刷媒体
204 給紙ローラ
205 排紙側のピンチローラ
211 前面給紙トレイ上の未印刷の印刷媒体
221 UT給紙用モータ
222 ベルト
223 Uターンパス搬送ローラに結合されているプーリー
301 プラテン上の印刷中の印刷媒体
302 Uターンパス搬送ローラによって給紙されんとしている印刷媒体
401 駆動モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
402 駆動モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
403 駆動モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
404 駆動モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
405 駆動モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
406 駆動モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
411 記録ヘッドの吐出動作が行われていることを示している。
412 記録ヘッドの吐出動作が行われていることを示している。
413 記録ヘッドの吐出動作が行われていることを示している。
414 記録ヘッドの吐出動作が行われていることを示している。
415 記録ヘッドの吐出動作が行われていることを示している。
416 記録ヘッドの吐出動作が行われていることを示している。
421 UT給紙用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
422 UT給紙用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
423 UT給紙用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
424 UT給紙用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
425 UT給紙用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
431 搬送用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
432 搬送用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
433 搬送用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
434 搬送用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
435 搬送用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
436 搬送用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
437 搬送用モータの駆動速度を示しており、縦軸は速度を示す。
501 理想速度プロファイル
502 現実速度プロファイル
503 位置指令プロファイル
504 現実位置プロファイル
505 モータへの出力の大きさの変遷を示した出力プロファイルである。
601 理想速度プロファイル
602 現実速度プロファイル
603 位置指令プロファイル
604 現実位置プロファイル
605 モータへの出力の大きさの変遷を示した出力プロファイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドにより被記録材に記録する記録装置であって、
被記録材の搬送の駆動源としてDCモータを用い、前記DCモータはフィードバック制御により制御され、該フィードバック制御においては対象シーケンスごとに前記DCモータへの最大出力リミットを別々に設定できることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記DCモータは被記録材の搬送のうち、とくにUターンパスの給紙を司ることを特徴とし、前記モータへの最大出力リミットを別々に設定する手段として、出力リミットを低く設定すべきシーケンスにおいて前記モータの駆動がなされる場合には前記最大出力リミットを小さい値に設定し、その他のシーケンスにおいて前記モータの駆動がなされる場合には前記最大出力リミットを大きい値に設定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記出力リミットを低く設定すべきシーケンスとして、主走査の印刷処理と同時に行われる可能性の有る駆動を対象とすることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記出力リミットを低く設定すべきシーケンスとして、次ページの紙を給紙するための駆動を対象とすることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−76103(P2007−76103A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265306(P2005−265306)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】