説明

記録装置

【課題】記録ヘッドの吐出面に液体が残留しにくい。
【解決手段】インクを吐出するノズル108が開口したインク吐出面2aに、線状溝152が形成されている。インク吐出面2aを払拭するワイパが設けられており、かかるワイパをインク吐出面2aに当接しつつ位置X1から払拭方向に沿って位置X2まで移動させる。これによって、インク吐出面2aにおいてノズル108が開口した領域からインクが掻き寄せられ、線状溝152まで到達する。線状溝152まで到達したインクは、毛管現象によって線状溝152内へと流れ込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出する吐出口が形成された記録ヘッドを有する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置において、記録ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンスユニットが設けられることがある。特許文献1には、このようなメンテナンスユニットを有する記録装置が記載されている。特許文献1の記録ヘッドは、インクを吐出するノズル(吐出口)が形成されたノズル面(吐出面)を有しており、メンテナンスユニットにはノズル面を払拭するブレード(ワイパ)が設けられている。メンテナンスユニットは、ブレードをノズル面に当接させつつノズル面に沿って移動させることによってノズル面を払拭する。これによって、ノズル面に付着した液体が除去される。
【0003】
【特許文献1】特開2004−142450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によると、記録ヘッドの吐出面に付着した液体や異物をブレードがかき寄せることとなる。この場合、ブレードがノズル面から離隔する際に、ブレードがかき寄せた液体等が残留することがある。液体が大量に残留すると、印字の際に落下して印刷用紙を汚染したり、装置内を汚染したりするおそれがある。また、ノズル面に残留した液体の粘度が増すと、粘度が増した液体がブレードに再付着するおそれもある。
【0005】
本発明の目的は、記録ヘッドの吐出面に液体が残留しにくい記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の記録装置は、液滴を吐出する1又は複数の吐出口が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、前記吐出面と連結するように配置された表面であって、その表面に沿った線状の溝である線状溝が形成された溝形成面を有する溝形成部材と、前記吐出面を払拭するワイパと、前記吐出口を通過して前記線状溝の近傍に到達するように、前記吐出面及び溝形成面に当接させつつ前記吐出面に対して前記ワイパを相対移動させるワイパ移動手段とを備えている。
【0007】
本発明の記録装置によると、ワイパに吐出口を通過させた後に線状溝の近傍まで到達させるので、ワイパがかき寄せた液体は線状溝内に流れ込む。線状溝内に流れ込んだ液体は落下しにくいため、印刷用紙を汚染したり、装置内を汚染したりしにくくなる。また、線状溝内に液体が流れ込むため、その後に液体の粘度が増したとしても、ワイパに再付着しにくくなる。
【0008】
また、本発明においては、前記線状溝と連通する空洞が前記溝形成部材の内部に形成されていることが好ましい。これによると、線状溝と連通する空洞に液滴が流れ込むため、線状溝のみが形成されている場合と比べてより多くの液体を流れ込ませることができる。したがって、ワイパがかき寄せた液体が落下したりワイパに再付着したりすることがより効果的に抑制される。
【0009】
また、本発明においては、前記溝形成部材が、互いに積層された複数のプレートからなり前記溝形成面が表面に含まれた積層体を有しており、前記空洞が、前記積層体の内部において前記プレートの表面に形成された溝である内部溝と、前記線状溝及び内部溝の両方と連通する前記プレートに形成された連通孔とから形成されていることが好ましい。これによると、プレートの表面に内部溝となる溝を形成すると共にプレートに連通孔を形成した後にそのプレートを積層することによって溝形成部材を作製することができる。したがって、簡易な工程で溝形成部材を作製することができる。
【0010】
また、本発明においては、前記空洞が、前記溝形成部材の表面において前記溝形成面以外の領域に開口しており、前記空洞が開口した位置の近傍に配置された、液体を吸収する吸収部材をさらに備えていることが好ましい。これによると、空洞の開口の近傍に吸収部材が配置されているので、空洞に流れ込んだ液滴を吸収部材に吸収させることができる。したがって、ワイパがかき寄せた液体をより多く空洞内へと流れ込ませることができる。
【0011】
また、本発明においては、前記線状溝が、前記溝形成面の一端に達しており、前記溝形成面の一端において前記線状溝が形成された領域の近傍に配置された、液体を吸収する吸収部材をさらに備えていることが好ましい。これによると、線状溝の近傍に吸収部材が配置されているので、線状溝に流れ込んだ液体を吸収部材に吸収させることができる。したがって、ワイパがかき寄せた液体をより多く線状溝へと流れ込ませることができる。
【0012】
また、本発明においては、前記ワイパ移動手段が、前記線状溝の近傍まで到達した後に前記線状溝を通過するように、前記ワイパを相対移動させることが好ましい。これによると、ワイパが線状溝を通過することから、液体がより線状溝に流れ込みやすくなる。また、ワイパが線状溝を通過する際に、ワイパに付着した液体以外の付着物が線状溝に取り込まれやすくなる。
【0013】
また、本発明においては、前記ワイパ移動手段が、前記ワイパが前記線状溝の近傍まで到達した後に、前記吸収部材に当接する位置まで前記ワイパを相対移動させてもよい。これによると、ワイパが線状溝の近傍まで到達した際に線状溝に流れ込ませることができなかった液体を、吸収部材に吸収させることができる。
【0014】
また、本発明においては、前記線状溝が、前記ワイパの移動方向と交差するように延びていてもよい。これによると、線状溝がワイパの移動方向と交差するように延びているので、液体を流れ込ませることができると共に、ワイパに付着した液体以外の異物をも線状溝に取り込ませやすくなっている。
【0015】
さらに、上記の構成においては、前記ワイパが前記吐出面に沿って移動する際に前記ワイパの前記吐出面に当接する当接面において前記吐出口を通過するいずれの領域も、前記ワイパが前記溝形成面に沿って前記線状溝を通過する場合に前記線状溝のいずれかの部分を通過するように、前記線状溝が形成されていることが好ましい。これによると、ワイパの表面において吐出口を通過する領域のいずれの部分も線状溝を通過するので、かかる領域に付着した異物が線状溝に取り込まれ、除去されやすくなっている。
【0016】
また、本発明においては、前記線状溝が、前記ワイパの移動方向に沿って延びていてもよい。これによると、線状溝がワイパの移動方向に沿って延びているので、ワイパの表面が線状溝を通過させる場合に生じる磨耗が起こりにくくなる。
【0017】
また、本発明においては、前記溝形成部材が、前記吐出口からの液滴吐出方向に関して突出する複数の突出部を有しており、前記線状溝が、前記複数の突出部同士の間に形成されていてもよい。この場合に、ワイパに線状溝を通過させると、ワイパに付着した液滴や異物を突出部によってかき落とすことができる。
【0018】
さらに、上記の構成においては、前記複数の突出部同士の間に液滴を吸収する吸収部材が設置されており、前記吸収部材が、前記液滴吐出方向に関して前記吐出面より後方に配置されていることが好ましい。これによると、突出部同士の間に吸収部材が設けられているので、線状溝により多くの液滴を流れ込ませることができる。
【0019】
また、本発明においては、前記吐出面において前記吐出口の全てを取り囲む連続した当接領域が形成されるように前記吐出面と当接するリップ部を有する吐出口キャップと、前記ワイパが前記吐出面を払拭する際に前記リップ部が前記吐出面から離隔しているように前記吐出口キャップを前記吐出面に対して相対移動させるキャップ駆動手段とをさらに備えている場合に、前記ワイパ移動手段が、前記ワイパの表面の一領域が、前記当接領域に当接することなく前記吐出口を通過するように、前記ワイパを相対移動させることが好ましい。かかる吐出口キャップが設けられている場合、吐出面においてリップ部が当接する当接領域には、液体やその他の異物が付着しやすい。ワイパに吐出面を払拭させる際に、ワイパが当接領域に当接すると、その部分が当接領域に付着した液体等で汚染されることがある。かかる汚染された部分に吐出口を通過させると、吐出口やその周辺をワイパに付着した液体等で汚染してしまうおそれがある。これに対して、上記の構成によると、ワイパの表面の一部が当接領域に当接することなく吐出口を通過するようにワイパを移動させる。したがって、吐出口を汚染することが抑制される。
【0020】
さらに、上記の構成においては、前記ワイパが、当該ワイパの移動方向に直交する方向に関して前記当接領域を跨ぐ幅を有しており、前記ワイパ移動手段が、前記通過方向に直交する方向に関して前記当接領域を跨ぎつつ前記吐出口を通過するように、前記ワイパを移動させることが好ましい。これによると、ワイパに吐出面を払拭させる際に、ワイパに当接領域を跨ぐように移動させる。このため、当接領域に付着した液体等をもワイパに払拭させることができる。
【0021】
また、上記の構成においては、前記ワイパ移動手段が、前記吐出面から離隔した位置から前記吐出面に当接した位置へと前記ワイパを前記吐出面に対して相対移動させる移動機構を有し、前記ワイパに前記吐出面を払拭させる際に、前記吐出面において前記当接領域に取り囲まれた領域の前記移動方向に関して内側から前記ワイパを当接させ始めることが好ましい。これによると、当接領域に取り囲まれた領域の内側からワイパを当接させ始めるため、ワイパの表面において吐出口を通過させる領域が、吐出口を通過する前に当接領域に当接しないように、ワイパを移動させることが可能となる。
【0022】
また、本発明においては、前記記録ヘッドが、前記吐出口と、前記吐出口に液体を供給する液体流路とが形成された流路ユニットを有しており、前記溝形成部材が前記流路ユニットと一体に形成されており、前記吐出面と前記溝形成面とが、前記流路ユニットの表面において互いに連続した領域であることが好ましい。これによると、溝形成部材が流路ユニットと一体に構成されているため、製造工程を簡易にすることができる。
【0023】
また、本発明の別の観点によると、本発明の記録装置は、液滴を吐出する吐出口が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、前記吐出面と連結するように配置された一表面を有し、互いに積層された複数のプレートからなる積層部材と、前記吐出面を払拭するワイパと、前記積層部材の内部において前記複数のプレートのいずれかの表面にその表面に沿って線状に形成された溝である内部溝と、前記内部溝に連通すると共に前記一表面に開口するように前記積層部材に形成された連通孔と、前記吐出口を通過して前記連通孔の開口の近傍に到達するように、前記吐出面及び一表面に当接させつつ前記ワイパを移動させるワイパ移動手段とを備えている。これによると、積層部材の表面の開口から連通孔を通じて内部溝へと、ワイパがかき寄せた液体を流れ込ませることができる。このため、ワイパがかき寄せた液体が落下して印刷用紙を汚染したり、液体がワイパに再付着したりするのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、ワイパに吐出口を通過させた後に線状溝の近傍まで到達させるので、ワイパがかき寄せた液体は線状溝内に流れ込む。線状溝内に流れ込んだ液体は落下しにくいため、印刷用紙を汚染したり、装置内を汚染したりしにくくなる。また、線状溝内に液体が流れ込むため、その後に液体の粘度が増したとしても、ワイパに再付着しにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態について図を参照しつつ説明する。
【0026】
図1は、本発明に係る第1の実施形態であるインクジェットプリンタ(記録装置)の全体的な構成を示す概略平面図である。本実施形態のインクジェットプリンタ100は、外部機器等から受信した画像データに応じた画像を印刷用紙Pに形成する印刷動作を実行する。インクジェットプリンタ100は、インクを吐出するインクジェットヘッド1(記録ヘッド)と、インクジェットヘッド1の下方へと印刷用紙Pを搬送する用紙搬送部12とを有している。そして、用紙搬送部12が搬送した印刷用紙Pに向かってインクジェットヘッド1からインクを吐出させることにより、印刷用紙P上に画像を形成する。
【0027】
インクジェットプリンタ100は、制御部40を有している。制御部40は、インクジェットプリンタ100の各部の動作を制御する。図2は、制御部40の構成を示すブロック図である。制御部40は、プロセッサ回路や記憶回路などのハードウェアと、そのハードウェアを印刷制御部41などの各機能部として機能させるプログラムデータなどのソフトウェアとから構築されている。制御部40は、印刷動作を制御する印刷制御部41と、インクジェットヘッド1のメンテナンス動作を制御するメンテナンス制御部42とを有している。印刷制御部41は、インクジェットヘッド1と用紙搬送部12とを制御することにより印刷動作を行う。メンテナンス制御部42は、後述のメンテナンスユニット140とヘッド昇降部11とを制御することによりメンテナンス動作を行う。これらの制御内容の詳細については後述する。
【0028】
次に、用紙搬送部12について説明する。図1に示すように、用紙搬送部12は、ニップローラ15、搬送ローラ13、搬送ベルト14を有している。用紙搬送部12は、2つの搬送ローラ13からなる一対の搬送ローラを有しており、図1には2つの搬送ローラ13のうちの1つが示されている。もう1つの搬送ローラ13は、図1に示されている搬送ローラ13から副走査方向に沿って水平に離隔した位置に設置されている。2つの搬送ローラ13はいずれも主走査方向に長尺である。2つのうち一方の搬送ローラ13は、図示されていない駆動装置によって駆動され、図1のa方向に回転する。他方の搬送ローラ13は、a方向と同じ方向に回転自在にインクジェットプリンタ100に支持されている。
【0029】
なお、本明細書において、副走査方向とは印刷用紙の搬送方向と同じ方向(図1中、手前から奥に向かう方向)であり、主走査方向とは副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向(図1中、右方)である。
【0030】
搬送ベルト14は、2つの搬送ローラ13に巻き掛けられた無端のベルトである。搬送ベルト14は、2つの搬送ローラ13の間においては水平方向に沿っている。搬送ベルト14は、その厚み方向に関して互いに対向する2つの表面を有しており、その表面のうち、搬送ローラ13に接触していない方には印刷用紙Pが載置される。搬送ローラ13が回転すると、搬送ベルト14は搬送ローラ13の表面に沿って搬送ローラ13の回転方向に走行する。
【0031】
また、用紙搬送部12は、主走査方向に平行に連なる複数のニップローラ15を有している。ニップローラ15は、搬送ローラ13の上方において、主走査方向に沿った回転軸の周りに回転するように支持されている。ニップローラ15は、図示されていない付勢手段によって搬送ベルト14の上面へと下方向に付勢されている。
【0032】
印刷用紙Pは図示されていない給紙部から用紙搬送部12へと送られてくる。印刷用紙Pの一端がニップローラ15に達すると、印刷用紙Pは、ニップローラ15と搬送ベルト14とに挟まれる。搬送ベルト14が走行すると、これに伴ってニップローラ15と搬送ベルト14との間に挟まれつつ印刷用紙Pが副走査方向へと移動する。これによって、印刷用紙Pは搬送ベルト14の上面に密着されつつ載置される。印刷用紙Pは、ニップローラ15を通過すると、搬送ベルト14の上面に吸着されつつ搬送ベルト14と共に副走査方向に沿って搬送される。なお、本実施形態では、搬送ベルト14の表面に弱粘着性のシリコン樹脂層が形成されており、印刷用紙Pの搬送ベルト14への密着性が確保されている。
【0033】
次に、インクジェットヘッド1について説明する。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、搬送ベルト14の上方に設置された4つのインクジェットヘッド1を有している。インクジェットヘッド1は、平面視において主走査方向について長尺な矩形の概略形状を有している。4つのインクジェットヘッド1は副走査方向に沿って所定の間隔で固定されている。インクジェットヘッド1のいずれも上下方向及び主走査方向の両方について同じ位置に配置されている。インクジェットヘッド1の下部には、内部にインク流路が形成されたヘッド本体2が設けられている。
【0034】
図3はヘッド本体2の底面図である。また、図4は、図3のIV−IV線断面の一部拡大図である。ヘッド本体2の下面、すなわち、インクジェットヘッド1の下面には、インクの吐出口であるノズル108が開口したインク吐出面2a(吐出面)が形成されている。ノズル108の開口108aは主走査方向に関して配列されており、図3は開口108aの配置例の一つを示している。インク吐出面2aは水平且つ平坦な面であり、搬送ベルト14に対向している。ヘッド本体2の内部にはインク流路が形成されている。このインク流路の一端はインク吐出面2aに形成された各ノズルに連通しており、インク流路の他端は、インクジェットヘッド1の表面に形成されたインクの供給口(不図示)に連通している。このインクの供給口は、さらに、インクジェットヘッド1ごとに異なる色のインクを貯留するインクタンク(不図示)に接続されている。
【0035】
ヘッド本体2は、図4に示すように、9枚のステンレス鋼等の金属プレート122〜130から構成された流路ユニット9を有している。これらプレート122〜130は、主走査方向に長尺な矩形状の平面を有する。プレート122〜130には複数の貫通孔や溝が、エッチング加工やプレス加工によって形成されている。これらプレート122〜130を互いに位置合わせしつつ積層することによって、プレート122〜130に形成された貫通孔や溝が連結される。これによって、流路ユニット9内に、共通インク流路105と、共通インク流路105の出口から圧力室110を経てノズル108に至る多数の個別インク流路132とが形成されている。上述のインク供給口を通じてインクタンクから供給されたインクは、流路ユニット9内の共通インク流路105に流れ込む。さらに、共通インク流路105から、各個別インク流路132に流れ込み、アパーチャ112(絞り)及び圧力室110を介してノズル108に至る。
【0036】
流路ユニット9の上面にはアクチュエータユニット21が固定されている。アクチュエータユニット21は、各圧力室110に対向して設けられたアクチュエータを複数含んでおり、圧力室110内のインクに選択的に吐出エネルギーを付与する機能を有する。インクジェットヘッド1には、図示しない基板及びドライバICが設けられている。印刷制御部41からの制御指令が送信されると、基板及びドライバICを通じてアクチュエータユニット21へと駆動信号が供給される。かかる駆動信号に応じて、アクチュエータユニット21は、圧力室110内のインクに吐出エネルギーを付与する。これによって、ノズル108から所望量のインクが所望のタイミングで吐出される。
【0037】
一方、印刷制御部41は、用紙搬送部12を制御して、印刷用紙Pをインクジェットヘッド1と対向する対向位置へと搬送させる。そして、印刷用紙Pを搬送させながら、印刷用紙P上の所望の位置に所望の画像が形成されるように、各インクジェットヘッド1に制御指令を送信する。制御指令を受信したインクジェットヘッド1は、制御指令に応じたインクを吐出する。インクジェットヘッド1から吐出されたインクは搬送ベルト14上の印刷用紙Pに着弾し、用紙上にドットを形成する。これによって、印刷用紙P上に所望の画像が形成される。
【0038】
次に、メンテナンスユニット140及びヘッド昇降部11について図1及び図5を参照しつつ説明する。図1に示すように、インクジェットヘッド1の両端は、ヘッド昇降部11に支持されている。ヘッド昇降部11は、4つのインクジェットヘッド1を同時に同じ方向且つ同じ速度で昇降させる。これによって、ヘッド昇降部11は、4つのインクジェットヘッド1のインク吐出面2aが互いに水平且つ同じ高さに配置された状態のまま、インクジェットヘッド1を昇降させることができる。図5の矢印Aはインクジェットヘッド1の昇降方向を示している。
【0039】
メンテナンスユニット140は、インク吐出面2aを良好な状態に保持するメンテナンス動作を実行するためのものである。図1及び図5に示すように、メンテナンスユニット140は、ヘッドキャップ141(吐出口キャップ)、ワイパブレード143(ワイパ)、移動台145及び固定台146を有している。
【0040】
移動台145及び固定台146は、ヘッドキャップ141及びワイパブレード143を支持する台であり、いずれも水平な上面を有している。固定台146は、インクジェットプリンタ100内に水平に固定された平板状の部材である。固定台146は、図1においてインクジェットヘッド1より左方に配置されている。移動台145は、固定台146上に、主走査方向について往復移動が可能なように載置されている。図5の矢印Bは、移動台145の移動方向を示している。移動台145は、図5に示すようにトレイ部145a及びトレイ部145bから構成されている。トレイ部145aは固定台146の図5において右端から右方へと移動できるように固定台146に支持されている。トレイ部145bは、トレイ部145aの図5において右端からさらに右方へと移動できるようにトレイ部145aに支持されている。
【0041】
ワイパブレード143は、直方体の概略形状を有する部材であり、ゴムなどの弾性材料からなる。ワイパブレード143は、斜め上方に向かって延びるように移動台145の上面の、図1において右端近傍に固定されている。ワイパブレード143は、副走査方向に関して4つのインクジェットヘッド1を跨ぐような長さを有している。これによって、ワイパブレード143は、4つのインクジェットヘッド1のインク吐出面2aを同時に払拭できるようになっている。
【0042】
ヘッドキャップ141は、移動台145の上面に固定されたキャップ台141aと、キャップ台141aの上面に固定されたリップ部141bを有している。キャップ台141aは平板状の部材であり、上面が水平に配置されている。リップ部141bは、キャップ台141aの上面から上方へと突出した突起状の部材であり、樹脂材料などからなる。リップ部141bは、平面視において長方形の各辺に沿って延びるように形成されている。リップ部141bはインク吐出面2aに下方から当接するものであり、インク吐出面2aに当接した際に、その当接領域141cが図3に示すようにノズル108が形成された領域を取り囲むこととなるように構成されている。これによって、後述のようにインク吐出面2aをヘッドキャップ141で覆った際に、インク吐出面2a、キャップ台141a及びリップ部141bによって囲まれた密閉空間が形成される。そして、その密閉空間によってノズル108の開口108aが外部から保護されるようになっている。ヘッドキャップ141は、4つのインクジェットヘッド1に対応するように4つ設けられている。これら4つのヘッドキャップ141は、図1に示すように副走査方向に沿って配列されており、4つのインクジェットヘッド1同士の水平方向に関する位置関係と同様の位置関係を互いに有するように配置されている。
【0043】
また、メンテナンスユニット140は、移動台145を搬送する搬送機構を有している。この搬送機構は、従動ローラ147、駆動ローラ149及び駆動ベルト148を有している。従動ローラ147及び駆動ローラ149は、互いに主走査方向に沿って水平に離隔されており、いずれも副走査方向に沿った回転軸の周りに回転が可能なようにインクジェットプリンタ100内に設置されている。駆動ローラ149は、図示されていない駆動モータによって駆動されるようになっている。駆動ベルト148は、従動ローラ147及び駆動ローラ149の周囲に巻き掛けられている。一方、移動台145は、固定部144を介して駆動ベルト148に固定されている。したがって、駆動ローラ149が回転すると、従動ローラ147及び駆動ローラ149の周囲を駆動ベルト148が走行し、固定部144を介して移動台145が主走査方向に沿って移動する。
【0044】
例えば、図1において時計回りに駆動ベルト148が回転すると、トレイ部145bがトレイ部145aに対してスライドするように右方へと移動すると共に、トレイ部145aが固定台146に対してスライドするように右方へと移動する。逆に、図1において反時計回りに駆動ベルト148が回転すると、トレイ部145bがトレイ部145aに対してスライドするように左方へと移動すると共に、トレイ部145aが固定台146に対してスライドするように左方へと移動する。これによって、ワイパブレード143をインク吐出面2aに沿って往復移動させることができるようになっている。つまり、本実施形態においては移動台145を搬送する搬送機構によって、ワイパブレード143をインク吐出面2aに対して面方向に相対移動させる移動手段(ワイパ移動手段)が構築されている。
【0045】
メンテナンス制御部42は、メンテナンスユニット140及びヘッド昇降部11を制御して、インク吐出面2aをメンテナンスするメンテナンス動作を実行させる。メンテナンス動作には、インク吐出面2aから残留インクを払拭するワイピング動作と、インク吐出面2aをヘッドキャップ141によって覆うキャッピング動作とが含まれている。
【0046】
ワイピング動作においては、メンテナンス制御部42は、以下の一連の動作をメンテナンスユニット140及びヘッド昇降部11に実行させる。まず、ヘッド昇降部11が、インクジェットヘッド1を、メンテナンスユニット140の上端より上方の高さZ1(図5参照)へと移動させる。これによって、インクジェットヘッド1の下方をワイパブレード143が通過できるようになる。次に、メンテナンスユニット140が、図5の右方へと移動台145を移動させ、インク吐出面2aの下方へと移動させる。これによって、ワイパブレード143を図5の位置X1まで到達させる。次に、ヘッド昇降部11が、インク吐出面2aがワイパブレード143の上端の高さである高さZ2(図5参照)に位置するようにインクジェットヘッド1を降下させる。これによって、インク吐出面2aがワイパブレード143の上端に当接する。図5にはインク吐出面2aがワイパブレード143の上端に当接した直後の状態が示されている。
【0047】
そして、メンテナンスユニット140が、移動台145を図5において左方へと移動させ、インク吐出面2aの下方を通過させる。このとき、メンテナンスユニット140は、ワイパブレード143の上面をインク吐出面2aに当接させつつワイパブレード143を移動する。そして、ワイパブレード143のインク吐出面2aへの当接面が全てのノズル108を通過し位置X2まで到達すると、ヘッド昇降部11がインクジェットヘッド1を上昇させ、ワイパブレード143をインク吐出面2aから離隔させる。つまり、本実施形態においてはヘッド昇降部11によって、ワイパブレード143をインク吐出面2aに対して鉛直方向に関して相対移動させる移動機構が構築されている。
【0048】
かかるワイピング動作により、インク吐出面2aに付着したインクが払拭されたり、図5においてノズル108の形成領域より左方へと掻き寄せられたりする。また、ノズル108の開口108a付近において、ワイパブレード143の上面によって余剰のインクが掻き取られ、インクメニスカスの状態が整えられる。
【0049】
キャッピング動作においては、メンテナンス制御部42は、以下の一連の動作をメンテナンスユニット140及びヘッド昇降部11に実行させる。まず、ヘッド昇降部11が、インクジェットヘッド1を、メンテナンスユニット140の上端より上方の高さZ1(図6参照)へと移動させる。次に、メンテナンスユニット140が、図5の右方へと移動台145を移動させる。これによって、各インクジェットヘッド1のインク吐出面2aに対して4つのリップ部141bのそれぞれが、平面視において図3の当接領域141cにちょうど重なる位置まで、移動台145を移動させる。次に、ヘッド昇降部11が、インク吐出面2aがリップ部141bの上端の高さである高さZ3(図6参照)に位置するようにインクジェットヘッド1を降下させる。これによって、インク吐出面2aに開口した全てのノズル108がヘッドキャップ141に覆われる。なお、インク吐出面2aからヘッドキャップ141を取り外す場合には、キャッピング動作と逆の一連の動作が実行される。このように、本実施形態においては、ヘッド昇降部11によって、インク吐出面2aに対してヘッドキャップ141を相対移動させる移動手段(キャップ移動手段)が構築されている。
【0050】
かかるキャッピング動作により、インク吐出面2aにおいてノズル108が形成された領域がヘッドキャップ141によって覆われ、保護される。これによって、ノズル108の内部や開口108a付近のインクが乾燥するのが抑制されるため、インクの乾燥によってノズル108の吐出特性が変化するのが抑制される。
【0051】
ところで、ワイピング動作において、ワイパブレード143がインク吐出面2aを払拭すると、ワイパブレード143によってインクが掻き寄せられる。図5の物体Iは、このようにワイパブレード143が掻き寄せたインクを示している。そして、ワイパブレード143をインク吐出面2aから離隔させる際、このようなインクがインク吐出面2aに残留することがある。例えば、本実施形態のようにワイパブレード143をインク吐出面2a内のいずれかの地点で離隔させる場合、その離隔地点にワイパブレード143が掻き寄せたインクが残留する。また、ワイパブレード143に図5においてインク吐出面2aの左端まで移動させ、そのまま左端を通過させたとしても、その左端の近傍にインクが残留する。インク吐出面2aやその近傍にインクが大量に残留すると、残留したインクが落下して印刷用紙Pを汚染したり、インクジェットプリンタ100内を汚染したりするおそれがある。また、インク吐出面2a等に残留したインクが乾燥すると、インクの粘度が増し、ワイパブレード143にインク吐出面2aを払拭させる次の機会に、ワイパブレード143に再付着しやすくなる。
【0052】
また、インク吐出面2aにおいて図3の当接領域141cは、インクや異物等が付着しやすい領域である。当接領域141cはヘッドキャップ141のリップ部141bが当接する領域であるため、この領域に付着したインクの粘度が増加しやすく、また、リップ部141bに付着した異物が当接領域141cに残留しやすいからである。したがって、かかる領域をワイパブレード143に通過させると、当接領域141cが払拭されて清浄になる反面、ワイパブレード143が汚染されて、ノズル108の形成領域を払拭させた際にノズル108が汚染されるおそれがある。
【0053】
そこで、本実施形態においては、インクジェットヘッド1が以下のように構成されている。図3に示すように、インク吐出面2aには多数のノズル108の開口108aが形成されており、その周囲を取り囲むようにヘッドキャップ141のリップ部141bとの当接領域141cとなっている。そして、インク吐出面2aにおいて、当接領域141cとヘッド本体2の一端(図3において下方の一端)との間の領域151には、線状溝152が形成されている。線状溝152は、流路ユニット9を構成するプレートのうち、ノズル108が形成されたプレートであるノズルプレート130の下面に形成されている(図7参照)。つまり、本実施形態においては、流路ユニット9は、インク流路が形成された部材と線状溝が形成された部材(溝形成部材)との両方を兼ねている。したがって、インク吐出面2aが、ノズル108の吐出口が開口した面(吐出面)と、線状溝が形成された面(溝形成面)との両方を含んでいることになる。線状溝152は、ノズルプレート130にエッチング加工を施したり、プレス加工を施したりすることによって形成されている。
【0054】
線状溝152は、主走査方向に平行な線分状に形成された複数本の縦溝152aと、縦溝152aから斜めに延びた複数本の傾斜溝152bとを含んでいる。縦溝152aは、副走査方向に関して等間隔に配列されている。また、縦溝152aは、いずれもインク吐出面2aの端部まで達している。傾斜溝152bは、各縦溝152aについて複数本が設けられており、縦溝152aに沿って等間隔に配列されている。また、傾斜溝152bは、各縦溝152aに関して線対称に設けられており、互いに対称な位置関係にある各2本の傾斜溝152bは、主走査方向に向かって両端が開いた「<」字型の概略形状を構成している。また、各縦溝152aに設けられた傾斜溝152bの形成領域は、その隣の縦溝152aに設けられた傾斜溝152bの形成領域と、副走査方向に関して重なり合うようになっている。したがって、副走査方向に関して縦溝152a及び傾斜溝152bの形成領域は、図3の領域151内において隙間なく分布していることとなる。また、領域151は、副走査方向に関してノズル108が形成された領域よりも広く分布している。つまり、線状溝152は、ノズル108が形成された領域を副走査方向に関して全てカバーできるように形成されている。
【0055】
そして、図7に示すように、流路ユニット9を構成するプレート122〜129の各プレートの表面には内部溝153が形成されている。内部溝153は、主走査方向に沿って線状に各プレートの表面に形成された複数本の線状溝を含んでおり、これらの線状溝は、平面視において縦溝152aと重なるように配置されている。内部溝153は、流路ユニット9の一端(図7において右端)に開口している。なお、内部溝153は、各プレートの上面に形成されていてもよいし、下面に形成されていてもよい。また、ノズルプレート130の上面に形成されていてもよい。内部溝153は、各プレートにエッチング加工を施したり、プレス加工を施したりすることによって形成されている。
【0056】
さらに、プレート123〜130には、各プレートを積層方向に貫通する複数の貫通孔154(連通孔)が形成されている。貫通孔154は、平面視において縦溝152a及び傾斜溝152bとの交点152c(図3参照)のそれぞれに形成されている。貫通孔154は、プレート122〜129に形成された内部溝153を互いに連通させると共に、これらの内部溝153と線状溝152とを連通させるように形成されている。内部溝153及び貫通孔154は、流路ユニット9の内部に網目状に形成された空洞を構成している。
【0057】
また、図3及び図7に示すように、ヘッド本体2(流路ユニット9)の一端には、インク吸収部材161(吸収部材)が配置されている。インク吸収部材161は、インクを吸収する能力が高い多孔性材料等の材料からなる部材であり、図7に示すように流路ユニット9において内部溝153が開口した表面に当接するように配置されている。インク吸収部材161の下面161aはインク吐出面2aよりも上方に配置されている。
【0058】
一方で、本実施形態のメンテナンス制御部42は、メンテナンスユニット140に以下のようにワイパブレード143を移動させる。上述の通り、メンテナンスユニット140は、ワイピング動作の際に、図5に示すように、まずワイパブレード143を位置X1まで移動させる。ここで、この位置X1は、ヘッドキャップ141のリップ部141bが当接する当接領域141c(図3参照)の端部を、ノズル108を通過する前のワイパブレード143が通過しないように設定されている。
【0059】
具体的には、位置X1は、図3に示すように、インク吐出面2aにおいて当接領域141cが取り囲んでいる領域(インク吐出面2aにおいて当接領域141cが分割している2つの領域のうち、ノズル108が開口している方の領域)の主走査方向に関して内側に設定されている。これによって、ヘッド昇降部11がインクジェットヘッド1を降下させてワイパブレード143がインク吐出面2aに当接する際、図3に示される位置X1でワイパブレード143がインク吐出面2aに当接し始めることになっている。
【0060】
そして、メンテナンスユニット140は、図3に示すように、位置X1から主走査方向に沿ってノズル108へとワイパブレード143を移動させ、位置X2まで到達させる。位置X2は線状溝152の近傍に設定されている。ワイパブレード143が位置X2まで到達すると、ヘッド昇降部11がインクジェットヘッド1を上昇させ、ワイパブレード143をインク吐出面2aから離隔させる。なお、位置X2においてワイパブレード143をインク吐出面2aから離隔させるのではなく、インクジェットヘッド1を上昇させる前に、線状溝152が形成された領域151をワイパブレード143に完全に通過させてもよい。
【0061】
以上のようにワイピング動作を実行する本実施形態によると、以下のような効果を奏する。まず、ワイパブレード143が位置X2に到達することにより、ワイパブレード143が掻き寄せたインクを線状溝152に到達させることができる。したがって、これらのインクを、毛管現象によって線状溝152内へと流れ込ませることができる。線状溝152へと流れ込んだインクは、平坦な面に付着したインクと異なり落下しにくい。したがって、印刷用紙Pやインクジェットプリンタ100内を汚染したりすることが抑制される。また、線状溝152に流れ込んだインクの粘度が増加しても、ワイパブレード143に再付着しにくい。
【0062】
また、線状溝152内へと流れ込んだインクは、さらに毛管現象によって貫通孔154を通じて内部溝153内へと流れ込ませることができる。内部溝153及び貫通孔154は、図7に示すように流路ユニット9の内部において網目状の空洞を構成している。したがって、線状溝152へと流れ込んだインクをさらに内部溝153及び貫通孔154へと流れ込ませやすくなっている。これによって、ワイパブレード143が掻き寄せたインクを流路ユニット9内へと流れ込ませることができるため、これらのインクが落下して印刷用紙Pを汚染したりするのがより効果的に抑制される。
【0063】
さらに、内部溝153は流路ユニット9の表面(本実施形態では、流路ユニット9の端部の側壁面)に開口しており、その開口箇所にはインク吸収部材161が配置されている。したがって、内部溝153へと流れ込んだインクをさらにインク吸収部材161へと吸収させることができる。これによって、ワイパブレード143が掻き寄せたインクをより多く流路ユニット9内へと流れ込ませることができる。なお、縦溝152aもインク吐出面2aの一端に達しているため、縦溝152a内のインクもインク吐出面2aの一端からインク吸収部材161へと吸収されやすくなっている。
【0064】
また、ワイパブレード143を位置X2においてインク吐出面2aから離隔させず、インク吐出面2aに当接させたまま領域151を通過させた場合には、ワイパブレード143が掻き寄せたインクをより多くの傾斜溝152bへと到達させることができる。したがって、より多くのインクをより速やかに線状溝152へと流れ込ませることができる。また、傾斜溝152bはワイパブレード143の払拭方向に交差するように傾斜して形成されている。したがって、傾斜溝152bは、縦溝152aと比べると、ワイパブレード143が比較的大きな異物を掻き寄せた場合にも、ワイパブレード143が領域151を通過した際にこのような異物を取り込みやすくなっている。
【0065】
また、線状溝152は、図3の領域151に、副走査方向に関して隙間なく形成されている。そして、領域151は、副走査方向に関してノズル108が形成された領域をカバーしている。したがって、ワイパブレード143が線状溝152を通過する際、ワイパブレード143の当接面においてノズル108を通過する領域143aのいずれの部分も線状溝152を通過することとなる。これによって、領域143a付近に付着したインクや異物が線状溝152に取り込まれ、除去されやすくなっている。一方、ワイパブレード143は清浄に保たれることになる。
【0066】
また、ワイパブレード143は位置X1においてインク吐出面2aに当接し始め、位置X2まで移動する。そして、位置X1は、インク吐出面2aにおいて当接領域141cが取り囲んでいる領域の主走査方向に関して内側に設定されている。したがって、ワイパブレード143の当接面において領域143aは、位置X1からノズル108を通過し終えるまで、当接領域141cに当接することがない。これによって、領域143aは、当接領域141cに付着したインク等で汚染されることなく、ノズル108が形成された領域を払拭することができる。
【0067】
また、ワイパブレード143は、副走査方向に関して4つのインクジェットヘッド1を跨ぐような長さを有している。したがって、インク吐出面2aを払拭する際に、全てのインクジェットヘッド1に関して、当接領域141cを副走査方向について跨ぐようにインク吐出面2aに当接する(図3参照)。これによって、当接領域141cにおいて主走査方向に沿った長い領域をワイパブレード143に払拭させることができる。
【0068】
また、インク吸収部材161の下面は、インク吐出面2aよりも上方に位置している。したがって、例えばワイパブレード143をインク吐出面2aに当接させつつ移動させ、そのままインク吐出面2aの端部(図3の下端部)を通過させる場合にも、ワイパブレード143がインク吸収部材161に当接することがない。これによって、ワイパブレード143が当接することでインク吸収部材161が磨耗することが抑制される。
【0069】
以下、線状溝152の変形例について説明する。図8は、線状溝152とは異なる線状溝252、352及び452を示している。上述の実施形態において、線状溝152の代わりに線状溝252、352及び452のいずれかがインク吐出面2aの領域151内に形成されていてもよい。
【0070】
図8(a)の線状溝252は、主走査方向に沿った線分状の複数の縦溝253と、主走査方向に対して傾斜した複数の傾斜溝254とを有している。縦溝253は互いに同じ長さを有しており、主走査方向及び副走査方向のそれぞれに関して等間隔にマトリクス状に配列されている。傾斜溝254は、主走査方向及び副走査方向のいずれについても1つずれた位置関係にある2本の縦溝253同士をそれぞれ結ぶように形成されている。例えば、図8(a)において、縦溝253aと縦溝253dとは、主走査方向に関しても副走査方向に関しても1つずつずれた位置関係を有している。そして、傾斜溝254aは、このような位置関係にある縦溝253a及び253dの間を結んでいる。また、図8(a)において、縦溝253bと縦溝253cとは、主走査方向に関しても副走査方向に関しても1つずつずれた位置関係を有している。そして、傾斜溝254bは、このような位置関係にある縦溝253b及び253cの間を結んでいる。傾斜溝254a及び254bは「X」字型を構成するように交差している。
【0071】
線状溝252によると、主走査方向に傾斜した傾斜溝254を有しているので、線状溝152と同様に副走査方向に関して隙間なく形成することができる。したがって、ワイパブレード143においてノズル108を通過する領域143aのいずれの部分も線状溝252を通過するように線状溝252を形成することができる。また、傾斜溝254によって比較的大きな異物も取り込むことができる。
【0072】
図8(b)の線状溝352は、主走査方向に沿った複数の線分状の溝のみから構成されている。ワイパブレード143を線状溝352の近傍まで到達させると、線状溝152と同様に、ワイパブレード143が掻き寄せたインクを毛管現象によって線状溝352内へと流れ込ませることができる。その一方で、線状溝352によると、線状溝152のように主走査方向から傾斜した溝を有している場合と比べて、ワイパブレード143を通過させた場合にワイパブレード143側の当接面に作用する抵抗が少ない。したがって、ワイパブレード143の磨耗を抑制することができる。
【0073】
図8(c)の線状溝452は、副走査方向に沿った複数の線分状の溝のみから構成されている。ワイパブレード143を線状溝452の近傍まで到達させると、線状溝152と同様に、ワイパブレード143が掻き寄せたインクを毛管現象によって線状溝452内へと流れ込ませることができる。また、全ての溝が副走査方向に沿って延びているので、ワイパブレード143を通過させた際に、ワイパブレード143に付着した異物等を除去する能力も高くなっている。また、副走査方向に関して隙間なく溝が形成されているため、ワイパブレード143においてノズル108を通過する領域143aのいずれの部分も線状溝452を通過するように線状溝452を形成することができる。
【0074】
図9(a)及び(b)は、線状溝152に代わるさらに別の変形例を示している。この変形例では、流路ユニット9の下面に下方へと突出する複数の突出部210が形成されている。突出部210は方形の平面形状を有しており、主走査方向及び副走査方向を図9(a)において時計回りに45度回転させた方向C及びDのそれぞれについて等間隔にマトリクス状に配列されている。これによって、突出部210同士の間には、図9(a)の二点鎖線に沿った線状の溝が形成されており、かかる溝が線状溝152に代わる線状溝となっている。また、図9(b)に示すように、突出部210の先端面はいずれも水平であり、高さがZ4に設定されている。この高さZ4は、流路ユニット9のインク吐出面2aと同じ高さである。したがって、インク吐出面2aにおいてノズル108が形成された領域を払拭したワイパブレード143をそのまま同じ高さで移動させることにより、ワイパブレード143を突出部210の先端面に当接させつつ線状溝を通過させることができる。
【0075】
また、突出部210同士の間にはインク吸収部材261が設置されている。インク吸収部材261は、平面視において突出部210同士の間に隙間なく設けられており、図9(b)に示すように、突出部210の先端面の高さZ4よりも上方に配置されている。したがって、例えばワイパブレード143に突出部210の先端面を通過させる場合に、ワイパブレード143がインク吸収部材261に当接することがない。これによって、ワイパブレード143が当接することでインク吸収部材261が磨耗することが抑制される。
【0076】
この変形例によると、突出部210の間に形成された線状溝内にワイパブレード143が掻き寄せたインクを流れ込ませることができる。ここで、突出部210を通過するようにワイパブレード143を移動させる場合には、ワイパブレード143に付着した異物を突出部210に掻き落とさせることができる。また、突出部210同士の間にインク吸収部材261が設置されているので、線状溝内に流れ込んだインクをインク吸収部材261に保持させることができる。また、線状溝が主走査方向に対して傾斜するように形成されているため、線状溝152と同様に副走査方向に関して隙間なく形成することができる。
【0077】
<その他の変形例>
以上は、本発明の好適な実施形態についての説明であるが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、課題を解決するための手段に記載された範囲の限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0078】
例えば、上述の実施形態においては、流路ユニット9にインク流路と共に線状溝152が形成されている。しかし、図10に示すように、線状溝が形成された部材270が、インク流路が形成された部材202とは別部材であってもよい。この場合には、図10のように、線状溝が形成された表面270aが、ノズル108が開口したインク吐出面202aに連結するように、互いの部材が隣接して配置されていればよい。つまり、ワイパブレード143をインク吐出面202aに当接しつつ移動させ、インク吐出面202aから離隔させることなくそのまま表面270aに到達するように配置されていればよい。
【0079】
また、上述の実施形態とは異なり、図11(a)に示すように、インク吐出面2aに線状溝152が形成されていなくてもよい。この場合でも、ワイパブレード143が掻き寄せたインクを、インク吐出面2aに開口した貫通孔154を通じて流路ユニット9の内部へと流れ込ませることができるからである。流路ユニット9の内部には、貫通孔154及び内部溝153からなる網目状の空洞が形成されており、毛管現象によってこの空洞内へとインクを流れ込ませることができる。掻き寄せられたインクを、多量に速やかに内部に流れ込ませるという観点から、貫通孔154は、互いに等間隔に二次元的に分布するよう、複数形成されているとよい。
【0080】
また、上述の実施形態においては、インク吸収部材161の下面161aがインク吐出面2aより上方に配置されている。しかし、図11(b)に示すインク吸収部材261のように、下面261aがインク吐出面2aと同じ高さに配置されていてもよい。この場合には、ワイパブレード143に線状溝152を通過させた後に、そのままの高さでインク吸収部材261に到達させることにより、ワイパブレード143をインク吸収部材261の下面261aに当接させることができる。これによると、線状溝152を通過してもまだワイパブレード143にインクが付着していた場合に、その残留したインクをインク吸収部材261に吸収させることができる。
【0081】
また、上述の実施形態においては、内部溝153には主走査方向に沿った線状溝のみが含まれているが、線状溝152と同様に、傾斜溝152bのような主走査方向から傾斜した複数の溝が含まれていてもよい。この場合、できるだけ複雑な網目状に内部溝が形成されていることが好ましい。その方がインクを流れ込ませやすいからである。
【0082】
また、上述の実施形態においては、インクジェットヘッド1に対してワイパブレード143を主走査方向に関して移動させることにより、インク吐出面2aを払拭させている。しかし、ワイパブレード143に対してインクジェットヘッド1を主走査方向に移動させることにより、インク吐出面2aを払拭させる構成であってもよい。
【0083】
また、上述の実施形態においては、ヘッド昇降部11がインクジェットヘッド1を昇降することにより、ワイパブレード143とインク吐出面2aとを当接させたり、これらを互いに離隔させたりしている。しかし、インク吐出面2aに対してワイパブレード143を昇降させることにより、これらを当接させたり離隔させたりする構成であってもよい。
【0084】
また、上述の実施形態においては、ヘッド昇降部11がインクジェットヘッド1を昇降することにより、ヘッドキャップ141にインク吐出面2aを覆わせたり、ヘッドキャップ141をインク吐出面2aから離隔させたりしている。しかし、ヘッドキャップ141をインク吐出面2aに対して移動させることにより、インク吐出面2aを覆わせたり、インク吐出面2aから離隔させたりする構成であってもよい。
【0085】
また、上述の実施形態においては、平面視において縦溝152aと傾斜溝152bとの交点に貫通孔154が配置されている。しかし、貫通孔154の配置箇所は交点でなくてもよく、どの位置であってもよい。例えば、縦溝152aや傾斜溝152bの一端に配置されていてもよい。
【0086】
また、上述の実施形態において、インク吸収部材161の代わりに、内部溝153の開口からインクを強制的に吸引する吸引手段が設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェットプリンタの概略的な構成を示す斜視図である。
【図2】図1の制御部の構成を示すブロック図である
【図3】図1のヘッド本体の底面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面の一部拡大図である。
【図5】図1のインクジェットヘッドとメンテナンスユニットの側面図であり、ワイピング動作を示す図である。
【図6】図1のインクジェットヘッドとメンテナンスユニットの側面図であり、キャッピング動作を示す図である。
【図7】図3のIV−IV線断面において線状溝が形成された付近の一部拡大図である。
【図8】図8(a)〜図8(c)は、それぞれ図3の線状溝の変形例を示す図であり、ヘッド本体の一部底面図である。
【図9】図3の線状溝のさらに別の変形例を示す図である。図9(a)は、ヘッド本体の一部底面図であり、図9(b)は図9(a)のβ―β線断面図である。
【図10】インク流路が形成された部材と線状溝が形成された部材とが異なる場合を示すこれらの部材の側面図である。
【図11】図11(a)は、図7の線状溝のさらに別の変形例を示す図である。図11(b)は、図7のインク吸収部材の変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 インクジェットヘッド
2 ヘッド本体
2a インク吐出面
11 ヘッド昇降部
40 制御部
41 印刷制御部
42 メンテナンス制御部
100 インクジェットプリンタ
108 ノズル
108a ノズルの開口
130 ノズルプレート
140 メンテナンスユニット
141 ヘッドキャップ
141a キャップ台
141b リップ部
141c 当接領域
143 ワイパブレード
152 線状溝
152a 縦溝
152b 傾斜溝
153 内部溝
154 貫通孔
161 インク吸収部材
210 突出部
252〜453 線状溝
261 インク吸収部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する1又は複数の吐出口が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、
前記吐出面と連結するように配置された表面であって、その表面に沿った線状の溝である線状溝が形成された溝形成面を有する溝形成部材と、
前記吐出面を払拭するワイパと、
前記吐出口を通過して前記線状溝の近傍に到達するように、前記吐出面及び溝形成面に当接させつつ前記吐出面に対して前記ワイパを相対移動させるワイパ移動手段とを備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記線状溝と連通する空洞が前記溝形成部材の内部に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記溝形成部材が、互いに積層された複数のプレートからなり前記溝形成面が表面に含まれた積層体を有しており、
前記空洞が、前記積層体の内部において前記プレートの表面に形成された溝である内部溝と、前記線状溝及び内部溝の両方と連通する前記プレートに形成された連通孔とから形成されていることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記空洞が、前記溝形成部材の表面において前記溝形成面以外の領域に開口しており、
前記空洞が開口した位置の近傍に配置された、液体を吸収する吸収部材をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記線状溝が、前記溝形成面の一端に達しており、
前記溝形成面の一端において前記線状溝が形成された領域の近傍に配置された、液滴を吸収する吸収部材をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記ワイパ移動手段が、前記線状溝の近傍まで到達した後に前記線状溝を通過するように、前記ワイパを相対移動させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記ワイパ移動手段が、前記ワイパが前記線状溝の近傍まで到達した後に、前記吸収部材に当接する位置まで前記ワイパを相対移動させることを特徴とする請求項5又は6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記線状溝が、前記ワイパの移動方向と交差するように延びていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記ワイパが前記吐出面に沿って移動する際に前記ワイパの前記吐出面に当接する当接面において前記吐出口を通過するいずれの領域も、前記ワイパが前記溝形成面に沿って前記線状溝を通過する場合に前記線状溝のいずれかの部分を通過するように、前記線状溝が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の記録装置。
【請求項10】
前記線状溝が、前記ワイパの移動方向に沿って延びていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記溝形成部材が、前記吐出口からの液滴吐出方向に関して突出する複数の突出部を有しており、
前記線状溝が、前記複数の突出部同士の間に形成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記複数の突出部同士の間に液滴を吸収する吸収部材が設置されており、
前記吸収部材が、前記液滴吐出方向に関して前記吐出面より後方に配置されていることを特徴とする請求項11に記載の記録装置。
【請求項13】
前記吐出面において前記吐出口の全てを取り囲む連続した当接領域が形成されるように前記吐出面と当接するリップ部を有する吐出口キャップと、前記ワイパが前記吐出面を払拭する際に前記リップ部が前記吐出面から離隔しているように前記吐出口キャップを前記吐出面に対して相対移動させるキャップ移動手段とをさらに備えており、
前記ワイパ移動手段が、
前記ワイパの表面の一領域が、前記当接領域に当接することなく前記吐出口を通過するように、前記ワイパを相対移動させることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項14】
前記ワイパが、当該ワイパの移動方向に直交する方向に関して前記当接領域を跨ぐ幅を有しており、
前記ワイパ移動手段が、
前記移動方向に直交する方向に関して前記当接領域を跨ぎつつ前記吐出口を通過するように、前記ワイパを相対移動させることを特徴とする請求項13に記載の記録装置。
【請求項15】
前記ワイパ移動手段が、
前記吐出面から離隔した位置から前記吐出面に当接した位置へと前記ワイパを前記吐出面に対して相対移動させる移動機構を有し、前記ワイパに前記吐出面を払拭させる際に、前記吐出面において前記当接領域に取り囲まれた領域の前記移動方向に関して内側から前記ワイパを当接させ始めることを特徴とする請求項14に記載の記録装置。
【請求項16】
前記記録ヘッドが、前記吐出口と、前記吐出口に液体を供給する液体流路とが形成された流路ユニットを有しており、
前記溝形成部材が前記流路ユニットと一体に形成されており、
前記吐出面と前記溝形成面とが、前記流路ユニットの表面において互いに連続した領域であることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項17】
液滴を吐出する吐出口が形成された吐出面を有する記録ヘッドと、
前記吐出面と連結するように配置された一表面を有し、互いに積層された複数のプレートからなる積層部材と、
前記吐出面を払拭するワイパと、
前記積層部材の内部において前記複数のプレートのいずれかの表面にその表面に沿って線状に形成された溝である内部溝と、
前記内部溝に連通すると共に前記一表面に開口するように前記積層部材に形成された連通孔と、
前記吐出口を通過して前記連通孔の開口の近傍に到達するように、前記吐出面及び一表面に当接させつつ前記吐出面に対して前記ワイパを相対移動させるワイパ移動手段とを備えていることを特徴とする記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−248370(P2009−248370A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96062(P2008−96062)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】