説明

記録装置

【課題】 シートの搬送領域が変化してもノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されるようにして、ノズル内のインク蒸発を抑制する。
【解決手段】 ライン型の記録ヘッドのノズル列の近傍に加湿気体を供給するための供給部を備え、ノズル列に対してシートが搬送される搬送領域に応じて、供給する加湿気体のノズル列の方向における流量分布を可変にすることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はライン記録ヘッドを用いるインクジェット方式の記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ライン型インクジェット記録装置では、記録領域の全幅にわたってノズル列が形成されたライン記録ヘッドが用いられる。ノズル列の中で使用頻度の低いノズルは、ノズル内のインクの揮発成分が蒸発してインク粘度が上昇していく。インク粘度が上昇が進むとそのノズルが吐出不能(目詰まり)になる畏れがある。
【0003】
この課題に対して、記録ヘッドのノズルの近傍に加湿気体を与えて保湿することで、インクの揮発成分の蒸発を抑える試みがなされている。例えば、特許文献1には、記録ヘッドとシートの間の隙間に向けて加湿気体を供給する構成を備えた記録装置が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−44021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ライン型記録装置では、ライン記録ヘッドのノズル列に対して、搬送されるシートが対向する領域(以降、搬送領域という)と、シートが対向しない領域(以降、非搬送領域という)の異なる2状態が存在する。記録装置では種々のサイズ(幅)のシートが用いられるので、使用するシートのサイズに応じて搬送領域と非搬送領域の位置関係や割合は変化する。
【0006】
非搬送領域に較べて搬送領域では、加湿気体が流れる隙間がシートの厚み分だけより狭くなる。そのため、非搬送領域に較べて搬送領域では加湿気体の流量はより少なくなって、ノズルのインク蒸発抑制の効果が搬送領域では非搬送領域に較べて小さくなる。また、紙のような吸湿性の高いシートを使用した場合は、搬送中にシート自体が加湿気体の水分を吸い取ってしまうので、搬送領域でのインク蒸発抑制の効果がさらに小さくなる。
【0007】
搬送領域に含まれるノズルの中で画像記録に使用されるものはノズルのインク蒸発はないが、画像によっては搬送領域の中でも使用頻度が極端に低いノズルも存在し得る。そのような搬送領域の中で画像形成中に使用頻度の極端に低いノズルは、インク蒸発による目詰まりが起き得る。特許文献1の装置ではこの課題に対しての考慮はなんらなされていない。
【0008】
本発明は上述の課題の認識にもとづいてなされたものである。本発明の目的の一つは、シートの搬送領域が変化してもノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されるようにして、ノズル内のインク蒸発を抑制することができる記録装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決する本発明の記録装置は、シートを第1方向に沿って搬送する搬送機構と、搬送される前記シートに隙間をもって対向するように設けられ、前記第1方向と交差する第2方向に沿ってインクジェット方式のノズル列が形成されたライン型の記録ヘッドと、前記ノズル列の近傍に加湿気体を供給するための供給部とを備え、前記供給部は、前記ノズル列に対して前記シートが搬送される搬送領域に応じて、供給する前記加湿気体の前記第2方向における流量分布を可変にすることが可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シートの搬送領域が変化してもノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給され、ノズル内のインク蒸発を抑制することができる優れた記録装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態に係る記録装置の全体斜視図
【図2】記録装置の内部構造を示す断面図
【図3】加湿部の概略図
【図4】記録部、供給部、回収部の構成を示す斜視図
【図5】図4の断面図
【図6】気流調整機構の構造及び動作状態を説明するための図
【図7】気流調整機構の構造及び動作状態を説明するための図
【図8】第2及び第3実施形態における気流調整機構の構造及び動作状態を説明するための図
【図9】気流調整機構の構造及び動作状態を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の第1実施形態に係る記録装置の全体構成を示す斜視図である。記録装置1は、シートの記録時における搬送方向の上流側から下流側に沿って、給紙部18、供給部5、記録部4、回収部6、カッタ部15、乾燥部16、インクタンク部20、制御部19、排紙部17を備える。
【0013】
図2は、図1の記録装置1の内部構造を示す断面図である。給紙部18は、ロール状に巻かれたシート3を回転可能に保持する。なお、本例では記録媒体であるシート3は連続紙であるが、カット紙としてもよい。給紙部18は、シート3を引き出して、シート搬送方向(Y方向、第1方向という)の下流側に供給するための送り機構を有している。
【0014】
記録部4は、異なるインク色にそれぞれ対応した複数の記録ヘッド2を備える。本例ではCMYKの4色に対応した4つの記録ヘッドとしているが、色数はこれには限定されない。各色のインクはインクタンク部20からそれぞれインクチューブを介して記録ヘッド2に供給される。複数の記録ヘッド2のそれぞれは、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲で、インクジェット方式のノズル列が形成されたライン型の記録ヘッドである。ノズル列の並び方向は、第1方向と交差する(本例では直角)方向(X方向、第2方向という)である。ノズル列は単位のノズルチップが千鳥配列等の規則的な配列によって幅方向全域に渡って形成されたもの、一列が幅方向全域に渡って形成されたもの、いずれであってもよい。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。
【0015】
記録部4は、記録ヘッド2に対向してシート搬送路が横切っており、シート搬送路に沿ってシートを搬送するための搬送機構10を有している。搬送機構10は、シート搬送路に沿って並べられた複数の搬送ローラと、隣り合う搬送ローラの間でシート3を支持する支持面を持ったプラテンを備える。これら記録ヘッド2、搬送機構10及びプラテンは筐体22の中に収容されている。上述したように、記録ヘッドのノズル列に対して、搬送されるシートが対向する領域(搬送領域)と、シートが対向しない領域(非搬送領域)の異なる2状態が存在し、使用するシートのサイズに応じて搬送領域と非搬送領域の位置関係や割合は変化する。
【0016】
記録部4の内部には、供給部5で生成された加湿気体が供給される。ここでは気体は空気であるが、空気以外のガスであってもよい。記録部4に供給された加湿気体は回収部6から回収される。回収部6で回収された加湿気体の少なくとも一部は、再利用のために還流ダクト11を介して供給部5に還流される。記録部4において、記録ヘッド2のノズル列の近傍には気体湿度を計測するための湿度センサ23が設けられている。
【0017】
供給部5は、加湿気体を生成し且つ生成した加湿気体を記録ヘッドのノズル列の近傍に供給するものである。供給部5の主な構成部材は、供給ダクト9、加湿部7、ファン8、フィルタ24である。供給ダクト9の下方には搬送機構の複数の搬送ローラのうちの一部を有し、シートの搬送経路が横切っている。供給ダクト9の端部は供給口9aとなっており、ここから加湿気体を噴き出す。供給口9aは、記録部4内部の記録ヘッド2とこれに対抗するシート3又はプラテンの支持面との隙間に対して、搬送方向の上流側から下流側に向けた方向に加湿気体を噴き出すように向きが定められている。供給された加湿気体は上記隙間を主としてシート搬送方向に沿って流れる。後述するように、供給部5は、供給する加湿気体の第2方向における流量分布を可変にすることが可能である。
【0018】
加湿部7は気化式で加湿気体を生成する。図3は加湿部7の構成を示す概略図である。吸水性の高い吸水部材で出来たもしくは吸水部材が貼り付けられた円盤25を有し、円盤25は軸30を中心に駆動機構31により回転するようになっている。円盤25の下方の一部は位置29において、水槽28に貯められた水27に接している。円盤25が回転することで吸水部材の全体が徐々に吸水されていく。供給部5において、フィルタ24により粉塵や異物が除去されたクリーンな気体は、ファン8で加湿部7に導入される。導入された気体は回転する円盤25の一部に位置32にて当たりながら通過するので、吸水部材の水分の一部が気体に移動して、加湿された加湿気体が生成される。加湿部7の加湿能力は、円盤25の回転速度とファン8の回転数によって調整が可能である。湿度センサ23の検出に基づいて適切な湿度の加湿気体が生成されるように、制御部19によってフィードバック制御がなされる。
【0019】
なお、加湿部7は本実施形態のものに限らず、気化式、水噴霧式、蒸気式の周知の方式のものを用いてもよい。気化式には、本実施形態の回転式の他に、透湿膜式、滴下浸透式、毛細管式などがある。水噴霧式には、超音波式、遠心式、高圧スプレー式、2流体噴霧式などがある。蒸気式には、蒸気配管式、電熱式、電極式などがある。
【0020】
加湿部7で生成された加湿気体は気流となって供給ダクト9を通って供給口9aから噴き出す。噴き出した加湿気体は、複数並んだ記録ヘッド2のうちの最上流の記録ヘッドのノズル面近傍に供給される。供給された加湿気体は主として第1方向に沿って上流から下流に、各色の記録ヘッドのノズル列とシート3又はプラテン表面との隙間を順に流れていく。つまり、加湿気体は搬送方向の上流側から供給されて、各記録ヘッドのノズル列とシートとの隙間を搬送方向の下流側に向けて流れる。ノズル先端は流れる加湿気体によって保湿されるので、ノズル内のインクの蒸発及び乾燥が抑制される。
【0021】
回収部6は、記録部4に供給された加湿気体を回収するものである。回収部6の主な構成部材は、回収ダクト12、ファン13、フィルタ14である。回収ダクト12の下方には搬送機構の複数の搬送ローラのうちの一部を有し、シート搬送経路が横切っている。回収ダクト12の端部は回収口12aとなっており、ここから加湿気体を吸い込む。回収口12aは、記録ヘッド2とこれに対抗するシート3又はプラテンの支持面との隙間を流れて最下流の記録ヘッド2を通過した加湿気体を吸い込む位置を設けられている。
【0022】
回収ダクト12に気流を発生させる吸込力はファン13の回転により生成される。フィルタ14は主にインクミストを除去する。回収ダクト12はファン13を経て還流ダクト11に接続され、還流ダクト11はフィルタ24を経て加湿部7及び供給ダクト9に接続されている。つまり、記録部4から回収された加湿気体は、還流ダクト11からなる還流路によって供給部に還流させて再利用される。再利用のために加湿部7に導入される気体は予めある程度の高い湿度を有しているため、装置トータルでみたときの加湿効率が向上する。なお、回収ダクト12から回収した加湿空気の一部を還流させ再利用し、残りは記録装置1の機内に排出するようにしてもよい。また、回収ダクト12に回収した時点で加湿空気の湿度が記録装置1の機内と同程度に小さくなっているのであれば、加湿効率の向上は大きくは見込めないので、還流ダクト11を設けずに加湿空気の再利用はしないようにしてもよい。
【0023】
カッタ部15は、記録部4で記録された連続したシートを所定のサイズごとにカットするためのユニットであり、カッタ機構が設けられている。乾燥部16は、カットされたシートのインクを短時間で乾燥させるためのユニットであり、ヒータ21と経路に沿って並べられた複数の搬送ローラが設けれている。排紙部17は、乾燥部16から排出されたカット済みのシートを収容するもので、複数のシートが積み重ねらていく。制御部19は、記録装置1全体の各種制御や駆動を司るコントローラであり、CPU、メモリ、各種I/Oインターフェースを備える。
【0024】
図4は、記録装置の中の記録部4、供給部5、回収部6の詳細な構成を示す斜視図である。図5は同じ箇所を横方向から見た断面図である。図4、図5において、記録部4の筐体22は、シート搬送経路の導入口と排出口を除いて密閉された閉空間を内部に提供する。筐体22の閉空間の中で、複数の記録ヘッド2はホルダ106でまとめて保持されている。
【0025】
ホルダ106は、記録ヘッド2のノズル列の使用頻度の偏りを抑制するために、第2方向もしくはそれに近いの角度方向にも移動することができるようになっている。このためにパルスモータ103、ベルト104、プーリ105を備えた変位機構(第1の変位機構)が設けられている。ホルダ106はベルト104に対して取付部108で固定されている。パルスモータ103により、ベルト104に取り付けられたプーリ105を駆動させている。制御部19は、ノズル列の各ノズルの累積吐出回数あるいは累積使用時間から、ノズル使用頻度の偏りを軽減するように、パルスモータ103を駆動して記録ヘッド2を移動させて、シートに対する使用ノズルを定期的に変更する。ホルダ106は別の変位機構(第2の変位機構)によって記録ヘッド2とシートが対向する上下方向(Z方向、第3方向という)にも変位することができるようになっている。ホルダ106が第3方向に変位することによって、記録時とメンテナンス動作時(予備吐出、ノズルのワイピング、ノズルの乾燥を抑制するキャッピング等)で異なる高さ位置に記録ヘッド2が移動する。
【0026】
ホルダ106の両側面と筐体22の2つの内側面とのそれぞれの間には、フレキシブルな素材からなる封止カバー102が取り付けられている。封止カバー102によって筐体22の内部にさらにチャンバ空間を有するチャンバ構造体が構成される。チャンバ構造体の中に複数の記録ヘッド2の少なくともノズル列を含む一部と、ノズル列に対向する搬送機構の少なくとも一部が内包されている。封止カバー102は水分を通さない防湿素材からなる。封止カバー102は、例えば第2方向及び第3方向にフレキシブルの変形する蛇腹構造であり、ホルダ106の第2方向及び第3方向への変位に追従して変形可能となっている。すなわち、記録ヘッド2が変位するのに伴なってチャンバ構造体の一部が密閉を保ちながら変形するようになっている。チャンバ構造体内部のチャンバ空間は第1方向に関しては開口があるので完全な気密ではないが、湿度が短時間に大きく変動しない程度に緩く略気密に保たれている。
【0027】
気流調整機構100は、最上流の記録ヘッド2のノズル列の近傍に供給する加湿気体の第2方向における流量分布を可変にすることを可能とする機構である。気流調整機構100によって、シートが搬送される搬送領域に向けてより大きな流量の加湿気体が供給されるように流量分布が設定される。気流調整機構100は、1つずつ若しくは所定の組ごとに個別に角度を変更することができる複数(本例では8つ)のフラッパを備えた可動ルーバー構造である。複数のフラッパは、ホルダ106とプラテン109の間の空間において、搬送されるシート3に触れないように、供給ダクト9の供給口9aの近傍に、第2方向に沿って複数並べて配置されている。供給口9aから噴き出した加湿気体は複数のフラッパの間を通過して、記録部4に導入される。
【0028】
図6、図7は気流調整機構100の構造及び動作状態を説明するための図である。フラッパは、支軸100aに平板の羽根100bを接続して、支軸100aを中心にして羽根100bが回転可能となっている。本例では、羽根100bにはステンレスを採用しているが、加湿により物性変化せず且つ風圧で耐えるだけの剛性を持つものあれば他の材質でもよい。支軸100aは供給部5の筐体に取り付けられており、羽根100bの一部は供給部5内に位置し残りは記録部4内に位置している。複数のフラッパのそれぞれに支軸100aには、モータや形状記憶合金などのアクチュエータが接続され、制御部19での指令によって個別に支軸100aを回転させることができるようになっている。支軸100aの回転に伴なって羽根100bが回転して向きを変える。
【0029】
図6では、全てのフラッパの羽根100bは同じ向き(第1方向)になっている。使用するシート3のシート幅が広い場合にこのように設定される。供給口9aから導入された加湿気体の気流120は、気流調整機構100の複数のフラッパによって分割される。全てのフラッパは同じ向き(第1方向)であるので、中央部の気流121から端部の気流122、123まで全て同じ方向に噴き出す。そのため、気流調整機構100から供給する加湿気体の第2方向における流量分布は中央部と端部とで差異が小さく、均一に近い分布となる。結果として、ノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されインク蒸発が抑制される。この例では、ライン型の記録ヘッド2の全ノズル領域を使用するシートを用いているのでノズル列の全てが搬送領域となる。記録する画像によっては搬送領域の中でも使用頻度が極端に低いノズルも存在し得るが、そのような画像形成中に使用頻度の低いノズルに対して加湿空気が与えられることで適切な保湿がなされ、ノズルでのインクの蒸発及び乾燥が抑制される。
【0030】
図7は使用するシート3のシート幅が狭い場合の気流調整機構100の状態を示す。ノズル列の中央の約3分の1の領域がシートが通過する搬送領域となり、その外側の約3分の1ずつが非搬送領域となる。図6の状態に較べて、気流調整機構100の複数のフラッパの角度が異なっている。各フラッパの向きは左右対称に内向きに設定される。中央の気流121及びその左右両側の計3箇所からの気流が主に搬送領域に供給され、その外側の2箇所からの気流が主に非搬送領域に供給される。これにより、ノズル列の近傍に導入される加湿気体の第2方向における流量分布が、シート3が存在する中央付近の流量が周辺に較べてより大きくなものとなる。
【0031】
上述したように、非搬送領域に較べて搬送領域では加湿気体が流れる隙間がシート3の厚み分だけより狭くなり加湿空気は流れにくくなる。また、シート3自体の吸湿によって搬送領域での局所的な湿度低下が起きる。記録ヘッド2に導入される加湿気体の流量分布が、搬送領域の方が大きくなるようにすることで、搬送領域に含まれる使用頻度の低いノズルに対して加湿空気が適切に与えられることで適切な保湿がなされ、低使用頻度ノズルでのインクの蒸発が抑制される。また、非搬送領域の非使用ノズルに対しても加湿気体が適切に与えられることで保湿がなされ非使用ノズルでのインクの蒸発が抑制される。結果として、シートの搬送領域にかかわらずノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されインク蒸発及び乾燥が抑制される。
【0032】
なお、使用するシートのシート幅が同じであっても、ノズル使用頻度の偏りを軽減するために、ノズル列に対してシートが通過する搬送領域が変える場合がある。その場合も、搬送領域に変位に応じて、気流調整機構100の複数のフラッパの向きを個別に設定して、搬送領域により多くの加湿気体が供給されるようにすればよい。
【0033】
以上のように本実施形態によれば、使用するシートのシート幅若しくはシート位置に応じてノズル列に対する搬送領域が変化する。そして、搬送領域の変化に追従して気流調整機構100の状態を変化させて、最上流のノズル列の近傍に供給する加湿気体の第2方向における流量分布を設定する。これにより、全ての記録ヘッドにおいて、ノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されインク蒸発を抑制することができる。
【0034】
本発明の第2実施形態について説明する。図8、図9は、第2実施形態における気流調整機構の構造及び動作状態を説明するための図である。
【0035】
本例では、気流調整機構110は、上述の実施形態のようなルーバー機構ではなく、供給ダクト9の供給口9aに第2方向に沿って並べて設けられた絞り弁を有する。複数の絞り弁の開口面積は制御部19の指令によって個別に非一様に可変にすることが可能である。絞り弁の開口面積を大きくするほど、その絞り弁からは大きな流量の加湿空気が噴き出す。したがって、複数の絞り弁を個別に開口状態を設定することで、最上流の記録ヘッド2のノズル列の近傍に供給する加湿気体の第2方向における流量分布を可変にすることができる。これにより、全ての記録ヘッドにおいて、ノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されインク蒸発を抑制することができる。
【0036】
図8は、使用するシート3のシート幅が広い場合であり、全ての絞り弁の開口面積は等しくしている。図9は 使用するシート3のシート幅が狭い場合であり、中央の絞り弁の開口面積を最大にして、周辺に行くほど開口面積が小さくなるように設定してる。中央の気流131及びその左右両側の計3箇所からの大きな流量の気流が主に搬送領域に供給され、その外側の気流は相対的に小さな流量で主に非搬送領域に供給される。最上流の記録ヘッドのノズル列の近傍に導入される加湿気体の第2方向における流量分布が、シート3が存在する中央付近の流量が周辺に較べてより大きくなものとなる。これにより、全ての記録ヘッドにおいて、ノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されインク蒸発を抑制することができる。
【0037】
本発明の第3実施形態について、図8、図9を流用して説明する。気流調整機構110は上述の実施形態のような複数の絞り弁に替えて、複数のファンとしている。複数のファンのそれぞれは独立したモータによって回転するようになっており、制御部19の指令によって各モータの回転数が個別に制御され、非一様に可変にすることが可能となっている。複数のファンの回転数を個別に開口状態を設定することで、最上流の記録ヘッド2のノズル列の近傍に供給する加湿気体の第2方向における流量分布を可変にすることができる。これにより、全ての記録ヘッドにおいて、ノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されインク蒸発を抑制することができる。なお、複数のファンによって供給ダクト9には気流が生まれるので、ダクト上流側のファン8は省略してもよい。
【0038】
以上の実施形態によれば、気流調整機構100によって、ノズル列に対してシートが搬送される搬送領域に向けてより大きな流量の加湿気体が供給されるように、第2方向における流量分布が可変になっている。そのため、ノズル列全体に対して加湿気体が適切に供給されるようにして、ノズル内のインク蒸発を抑制することができる。また、記録ヘッドのノズル列は、一部がフレキシブルなチャンバ構造体に収容されているので、記録ヘッドが変位しても必要な密閉が保たれ、加湿空気の利用効率を高めている。また、ノズル列の近傍に供給された加湿気体を、供給部に還流させて再利用するための還流路を有しているので、加湿気体の利用効率を更に高めている。
【符号の説明】
【0039】
1 記録装置
2 記録ヘッド
3 シート
4 記録部
5 供給部
6 回収部
7 加湿部
8 ファン
9 供給ダクト
10 搬送機構
11 還流ダクト
12 回収ダクト
13 ファン
14 吸引フィルタ
18 供給部
19 制御部
100 気流調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを第1方向に沿って搬送する搬送機構と、
搬送される前記シートに隙間をもって対向するように設けられ、前記第1方向と交差する第2方向に沿ってインクジェット方式のノズル列が形成されたライン型の記録ヘッドと、
前記ノズル列の近傍に加湿気体を供給するための供給部と、を備え、
前記供給部は、前記ノズル列に対して前記シートが搬送される搬送領域に応じて、供給する前記加湿気体の前記第2方向における流量分布を可変にすることが可能であることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記供給部は、前記搬送領域に向けてより大きな流量の前記加湿気体が供給されるように前記流量分布を可変にするものであり、供給された加湿気体は主として前記第1方向に沿って前記隙間を流れることを特徴とする、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記供給部は、前記加湿気体を生成するための加湿部と、前記生成された加湿気体を前記ノズル列の近傍に導くためのダクトを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記供給部はフラッパを有する気流調整機構を備え、前記フラッパの向きを変更して前記加湿気体の気流の向きを変えることが可能であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項5】
前記供給部は前記第2方向に沿って設けられた複数の絞り弁を有する気流調整機構を備え、前記複数の絞り弁の開口面積を非一様に可変にすることが可能であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項6】
前記供給部は前記第2方向に沿って設けられた複数のファンを有する気流調整機構を備え、前記複数のファンの回転数を非一様に可変にすることが可能であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項7】
前記シートと前記ノズル列との前記第2方向における相対的な位置関係を変更するための機構を有することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の記録装置。
【請求項8】
複数の前記記録ヘッドが前記第1方向に沿って並べられており、前記加湿気体は上流側から供給されて、各記録ヘッドのノズル列と前記シートとの隙間を下流側に向けて流れることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の記録装置。
【請求項9】
前記ノズル列の近傍に供給された前記加湿気体を、前記供給部に還流させて再利用するための還流路を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の記録装置。
【請求項10】
前記ノズル列と前記ノズル列に対向する前記搬送機構の一部を内包する空間を提供するチャンバ構造体を有することを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドを前記第2方向に変位させる変位機構を更に備え、前記記録ヘッドが前記第2方向に変位するのに伴なって前記チャンバ構造体の一部が変形することを特徴とする、請求項10に記載の記録装置。
【請求項12】
前記チャンバ構造体の一部は、前記記録ヘッドを保持して前記第2方向に変位することが可能であるホルダに取り付けられ、前記ホルダの変位に追従して変形するフレキシブルな部材であることを特徴とする、請求項11に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−98522(P2011−98522A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255228(P2009−255228)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】