説明

記録装置

【課題】ヘッドの過昇温を抑制するとともにスループット低下をできるだけ低減させる。
【解決手段】インクを吐出するための熱エネルギを発生する複数の発熱素子を備えた記録ヘッドと、前記記録ヘッドを記録媒体に対して往復走査する走査手段と、前記記録ヘッドの温度を検知する検知手段と、前記検知手段により検知された検知温度が閾値温度を超えた場合に、走査と走査との間で前記記録ヘッドを待機するように制御する制御手段と、前記記録ヘッドの使用を開始してからの前記複数の発熱素子の累積使用量に係る情報を取得する取得手段と、前記累積使用量に係る情報に基づいて、前記閾値温度を設定する設定手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体への記録を行う記録装置に関し、特にインクの吐出により昇温する記録ヘッドの温度制御を行う記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載する記録ヘッドでは、熱エネルギを利用してインクを吐出するタイプのものがある。このような記録ヘッドでは、インクを輸送するための液路と、当該液路内のインクに膜沸騰を生じさせるための電気熱変換素子(ヒーター)を備えた記録素子を、高密度に複数集積配置させた構成が一般的となっている。
【0003】
しかしながら、このような形態の記録ヘッドは、吐出を重ねるほどに記録ヘッドの蓄熱が進み、この蓄熱が問題となることがある。このような蓄熱問題は、より高速で高密度な出力を実現しようとするほど、顕著に現れやすくなる。
【0004】
例えば、記録ヘッドの蓄熱が進むとインク中で気泡が発生し、成長する。そして成長した気泡が吐出口からのインク吐出を妨害する。
【0005】
また、記録ヘッドの温度は百数十℃にまで到達することがある。その結果、記録ヘッドを構成しているプラスチック部品等が熱変形してしまったり、急激な熱膨張で接着部分が剥がれたり、ヒーター近傍に残っていたインクが焦げてしまうことがある。
【0006】
さらに、インクとヘッドの構成部材との接液性が温度上昇によって悪化してしまう場合もある。この場合は電極配線を腐食して電気的にダメージを与えたり、ノズルと基板との接着部分に侵食して密着性を低下させたりする。また、ノズル形成部分を変形させてしまう場合もある。結果としてヘッド寿命を低下させてしまう場合も少なくない。
【0007】
このような蓄熱問題に起因する弊害を回避するために、記録中に記録ヘッドの温度を検出し、検出された温度を所定の閾値と比較することによって、記録方法を制御する方法が知られている。例えば、現時点での検出温度と次の主走査の画像データに基づいて、次の主走査終了後の記録ヘッドの温度を推定し、当該推定温度に従って待機時間を設定する方法が知られている(例えば、特開2001−113678号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−113678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような方法では、待機時間を設けない場合と比較してスループットが著しく低下する。仮に、待機時間を設ける閾値温度を高く設定すれば、待機時間を実行する頻度も低下し、スループット低下を抑制できるが、過昇温によりヘッド故障を招く危険性が増大する。
【0010】
ところで、これら記録ヘッド故障の現象は、記録ヘッドの構成材料やインク処方、ヘッドの機械的構成など複合的な要因が絡み合って発生させている場合が多い。百数十℃においてヘッド故障に至るケースもあれば、数十℃レベルにおいてもヘッド故障に至るケースも存在する。また、温度による変形など瞬間的にヘッド故障に至るケースもあれば、インク侵食など温度による現象加速が緩やかなケースもある。そのため、過昇温を防止するために主走査間に待機時間を設ける閾値温度は、ヘッド故障に至る現象の中でも一番低い温度で発生する現象を防止するよう設定しておくのが一般的である。この場合、ヘッド故障に至らないよう温度抑制する効果は大きいものの、低いデューティの画像でもわずかにヘッド昇温するだけで待機時間が発生してしまい、スループットが大幅に低下してしまう。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、ヘッドの過昇温を抑制するとともにスループット低下をできるだけ低減させることのできる、インクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、インクを吐出するための熱エネルギを発生する複数の発熱素子を備えた記録ヘッドと、前記記録ヘッドを記録媒体に対して往復走査する走査手段と、前記記録ヘッドの温度を検知する検知手段と、前記検知手段により検知された検知温度が閾値温度を超えた場合に、走査と走査との間で前記記録ヘッドを待機するように制御する制御手段と、前記記録ヘッドの使用を開始してからの前記複数の発熱素子の累積使用量に係る情報を取得する取得手段と、前記累積使用量に係る情報に基づいて、前記閾値温度を設定する設定手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成によれば、記録ヘッドのヒーターの累積駆動回数が多いほど、閾値温度を低い温度に変更できる。したがって、インク侵食等の影響が少ないと想定される期間では、温度による変形など瞬間的にヘッド故障に至るケースのみを想定して、待機時間を実施する閾値温度を比較的高く設定できる。一方、記録ヘッドの使用履歴が長期に渡っているような場合には、インク侵食等が進行し、ヘッド故障に至る懸念が高まるため、閾値温度を低下させることでインク侵食によるヘッド故障を防止することができる。これにより、ヘッドの過昇温を抑制するとともにスループット低下をできるだけ低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のインクジェット記録装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の画像記録シーケンスを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第1の実施形態の累積吐出数と待機制御を開始する閾値温度との関係を示した図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における1枚の記録時間とヘッド故障が発生した累積吐出数を示した図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の画像記録シーケンスを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態における累積吐出数と待機制御を開始する閾値温度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下に図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を記録媒体上に形成する場合のみならず、無意の情報を記録媒体上に形成することも含む。また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成を表すものとする。
【0016】
図1は、本実施形態に適用可能なインクジェット記録装置の内部機構を説明するための概略斜視図である。搬送モータ1の駆動により、プラテンローラ2が図の矢印R方向に回転し、記録媒体Mが矢印F方向に搬送される。記録媒体Mの搬送方向F(副走査方向)と直交する方向には、ガイドシャフト3aおよび3bが平行に配設されている。インクジェット記録ヘッド5を搭載したキャリッジ4(走査手段)は、ガイドシャフト3aおよび3bに案内支持されながら、キャリッジモータ6の駆動によって図中矢印S方向(主走査方向)に往復移動(往復走査)する。キャリッジ4に搭載された記録ヘッド5は、キャリッジ4の移動走査中に記録データに応じてインクの吐出を実行し、記録媒体への記録が行われる。本実施形態では、記録ヘッド5が往路に沿って移動する場合と、復路に沿って移動する場合のいずれにおいてもインクを吐出して記録媒体に記録を行う、いわゆる双方向記録方式を採る。なお、記録ヘッド5が走査しつつインクを吐出して記録媒体上に記録を行う動作を、以下の説明において記録走査とも言う。記録ヘッド5による1回の記録走査が行われると、記録媒体Mは搬送モータ1によって所定量搬送される。
【0017】
本実施形態で適用するインクジェット記録ヘッド5には、副走査方向に1200dpi(ドット/インチ;参考値)のピッチで、1280個の吐出口が配列されている。各吐出口に連通したインク流路(液路)内には、画像データに応じて生成される電気信号を受けて熱を発生する電気熱変換体(発熱素子またはヒーター)が設けられている。この電気熱変換体が、駆動信号を供給されることにより発生する熱エネルギにより、インクは局所的に加熱されて膜沸騰を生じ、その際に生じる圧力によってインク滴が吐出口から吐出される。なお、以下の説明において、インクを吐出する吐出口、これに連通する液路、および液路内に設けられた電気熱変換体をノズル(記録素子)と称す。また、記録ヘッド5において、上記電気熱変換体が設けられた基板上には、記録ヘッド5の温度を検知するヘッド温度検知手段としてのダイオードセンサ50が設けられている。
【0018】
図2は、本実施形態におけるインクジェット記録装置の制御系の構成を説明するためのブロック図である。インターフェイス20は、ホスト装置Hとインクジェット記録装置本体側との間で画像データや制御コマンド等のデータ送受信を行う。MPU21は、種々の演算、判断および設定などの処理を行うと共に、記録装置全体の各種制御をも実行する。このMPU21が制御を行うためのプログラムや固定データはROM22に格納されている。DRAM23は、各種データ(記録ヘッド5に供給すべき記録データ等)を一時的に格納したり、MPU21が行う処理のワークエリアとして利用されたりする。なお、MPU21、ROM22およびDRAM23により、本発明の制御手段、待機制御手段、閾値温度低下手段および待機時間設定手段を構成している。
【0019】
ゲートアレイ24は、記録ヘッド5に対する記録データの供給制御を行う。また、このゲートアレイ24は、インターフェイス20、MPU21、DRAM23間のデータ転送の制御も行う。モータドライバ25および26は、キャリッジモータ6および搬送モータ1をそれぞれ駆動している。また、ヘッドドライバ27は記録ヘッド5を駆動している。また、記録ヘッド5の温度を検出するダイオードセンサ50からの出力データ(温度値)はMPU21へ送られるようになっている。
【0020】
以上説明した記録装置を用いて、本実施形態の記録を実行する場合のシーケンスを具体的に説明する。
【0021】
図3は、本実施形態の記録装置において、1ページ分の画像を記録する際にMPU21が実行する一連の工程を説明するためのフローチャートである。記録が開始されると(ステップS301)、ホスト装置Hからは制御データを含む画像データがインターフェイス20およびゲートアレイ24を介してMPU21に入力される。
【0022】
次に、使用履歴に係る情報に基づいて閾値温度設定手段により閾値温度を決定する。まず、MPU21がDRAM23に格納されている使用履歴計測手段により計測された記録ヘッドの累積吐出数(以下、ヘッドドットカウント値DHとも称する。)を読み込む。なお記録ヘッドの吐出数および累積吐出数は、記録ヘッドのヒーターの駆動回数および累積駆動回数に対応する。そして、予めROM22に格納されている所定の累積吐出数(以下、ドットカウント閾値DTH1とも称する。)と比較する(ステップS302)。ここで、ヘッドドットカウント値DHがドットカウント閾値DTH1より少ない場合には、ステップS304に進み、待機制御を実施する閾値温度IをDRAM23に設定する。一方、ヘッドドットカウント値DHがドットカウント閾値DTH1を超えている場合には、ステップS303においてヘッドドットカウント値DHと予めROM22に格納されている所定の累積吐出数(以下、ドットカウント閾値DTH2とも称する。)を比較する。この際、ヘッドドットカウント値DHがドットカウント閾値DTH2より少ない場合には閾値温度IIをDRAM23に設定する(ステップS305)。一方、ドットカウント閾値DTH2より多い場合には閾値温度IIIをDRAM23に設定する(ステップS06)。この一連の動作により、閾値温度が設定される。
【0023】
閾値温度の設定が終了すると、主走査が開始され(ステップS307)、画像の記録が開始される。この際、MPU21は1回(前回)の主走査における記録ヘッド5の最高到達温度(以下、ヘッド最高温度THとも称する。)をダイオードセンサ50から検知温度として取得する(ステップS308)。すなわちMPU21は、次(今回)の主走査前に、ヘッド最高温度THを取得する。そして、ステップS304〜S306においてDRAM23に設定した閾値温度(以下、ウエイト実施温度TWとも称する。)と比較する(ステップS309)。ヘッド最高温度THがウエイト実施温度TWよりも高いと判断された場合には、MPU21が一回(前回)の記録走査と次(今回)の記録走査の間に、すなわち次(今回)の記録走査の前に、ウエイト時間設定手段により設定された所定のウエイト時間分のウエイトを実施する(ステップS310)。このウエイト時間は、ヘッドドットカウント値DHに基づいて予め定められている。すなわち、本実施形態では、ヘッドドットカウント値DHが多ければ、ウエイト時間は延びる。そして、1ページ分の全ての画像データの記録が完了すると(ステップS311)、使用履歴を計測するために、1ページ分の総吐出数をDRAM23に格納されているヘッドドットカウント値DHに加算する(ステップS312)。そして、記録動作を終了する(ステップS313)。
【0024】
図4は、本実施形態において設定される待機制御の閾値温度と、記録ヘッドの累積吐出数との関係を示したグラフである。本実施形態において、記録ヘッドの累積吐出数が2×108発付近までは記録ヘッドの構成部材とインクとの接液性が良好でインク侵食などの影響を考慮する必要がない。このため、待機制御を開始する閾値温度を瞬間的にヘッド故障に至るケースのみを想定して80℃(閾値温度I)と高めに設定している。そして、記録ヘッドの累積吐出数が2×108発付近からは、記録ヘッドが高温状態で長期間保持されることでインク侵食が進み、ヘッド故障に至る危険性が高まる。従って、待機制御を開始する閾値温度を段階的に低下させ、3×108発までは70℃(閾値温度II)、それ以降は60℃(閾値温度III)とすることで、ヘッドの過昇温を抑制し、インク侵食の進行を抑える効果を得ることができる。
【0025】
また、図4には、従来例としてヘッドの使用履歴に関わらず待機制御を開始する閾値温度を常に80℃とした場合(従来例1)と、常に60℃とした場合(従来例2)の閾値温度と記録ヘッドの累積吐出数との関係をグラフに示している。閾値温度を常に80℃とした場合では、瞬間的にヘッド故障に至るケースは防止でき、且つスループット低下も抑制できるものの、インク侵食など記録ヘッドの使用履歴によって現象が進行していくようなヘッド故障を防止することは難しい。また、閾値温度を常に60℃とした場合では、インク侵食など記録ヘッドの使用履歴によって現象が進行していき、ヘッド故障に至るようなケースを防止できるものの、わずかなヘッド昇温でも主走査間に待機時間を設けてしまうため、スループット低下が著しい。
【0026】
図5は、A0サイズで50%の記録デューティの画像を、4パスのマルチパス記録方法で記録した場合の1枚の記録時間と、ヘッド故障が発生した時点の記録ヘッドの累積吐出数を示した表である。図4で示したように閾値温度を段階的に低下させる制御を実施した場合と、従来例としてヘッドの使用履歴に関わらず待機制御を開始する閾値温度を常に80℃とした場合(従来例1)と、常に60℃とした場合(従来例2)の結果も併記している。
【0027】
図5において、本実施形態の閾値温度制御を実施した場合では、記録ヘッドの累積吐出数が2×108発付近までは閾値温度を80℃に設定されているため、従来例1と同様に1枚の記録時間は4分9秒であった。一方で、従来例2では閾値温度が60℃に設定されているためスループットが低下しており、1枚の記録時間は5分11秒であった。記録ヘッドの累積吐出数が増えてくると、本実施形態の閾値温度制御により閾値温度は段階的に下がるため、記録ヘッドの累積吐出数が3×108発以降では閾値温度は60℃に設定される。この場合の1枚の記録時間は従来例2と同じく5分11秒であった。一方で、従来例1では閾値温度が常に80℃に設定されているため、記録ヘッドの累積吐出数が少ない場合と同様、4分9秒という結果であった。
【0028】
これらの制御を実施した場合、従来例1では記録ヘッドの累積吐出数が3.5×108発付近でヘッド故障が発生してしまった。一方、従来例2では記録ヘッドの累積吐出数が5×108発付近までヘッド故障が発生せず、その後5.2×108発付近でヘッド故障に至った。これに対し、本実施形態の閾値温度制御により閾値温度を段階的に低下させた場合は、インク侵食等の進行が抑制されるため、5×108発付近でヘッド故障が発生した。
【0029】
以上説明したように、本実施形態では、記録ヘッドの使用履歴がまだ短期間であって、インク侵食等の影響が少ないと想定される期間では閾値温度を高めに設定してスループット低下を防止でき、高速記録を達成することができる。また、ヘッドの使用履歴が長期に渡り、記録ヘッドが高温状態で長期間保持されることでインク侵食等が進み、ヘッド故障に至る危険性が高まるような期間では、閾値温度を段階的に低下させてヘッド温度を抑制し、ヘッド故障を回避する能力を高めることができる。これにより、スループットの低下をできるだけ避けることができるだけでなく、ヘッド故障の防止をも両立してヘッドの高寿命化を達成することができる。
【0030】
なお、本実施形態においては、記録ヘッドの使用履歴を記録ヘッドの累積吐出数から推定するようにしている。しかし、本発明は、その他の情報に基づいて記録ヘッドの使用履歴を推定し、閾値温度を段階的に低下させてもよい。例えば、記録ヘッドの交換を検知する交換検知手段(例えば、記録ヘッドとキャリッジとの電気的接続を検知する手段)、記録ヘッドが交換されてからの時間を計測するタイマーを設け、記録ヘッドが交換ないし装着されてからの累積使用時間ないし累積時間に基づいて、閾値温度を設定してもよい。または、記録された記録媒体の累積枚数に基づいて閾値温度を設定してもよい。また、これらの使用履歴に関する情報は、上記の交換検知手段が記録ヘッドの交換を検知したタイミングで、リセットされるように構成される。
【0031】
また、本実施形態においては、検知したヘッド温度が閾値温度を超えた場合に、ウェイト時間を設定している。このような形態においては、ヘッド温度が所定の温度を下回った時点で記録が開始されるように、検知したヘッド温度(具体的には前回の主走査時に検知したヘッド最高温度TH)が高いほどウェイト時間が長く設定される。さらには、記録装置の環境温度を検知する手段を設け、環境温度が高いほど、待機時間を長く設定するようにしてもよい。また、単に、記録ヘッド温度によらず所定時間だけ記録ヘッドの記録を待機させるようにすることも可能である。また、検出されるヘッド温度は、前回の記録走査中の最高到達温度に限られず、前回の記録走査と今回の記録走査との間で検出される温度であってもよい。
【0032】
なお、本実施形態において、閾値温度の変更を80℃から60℃の3段階に変更する制御としたが、記録ヘッドの構成やインク処方などの状況に応じて最適な温度および段階数を選択すればよい。より多くの多段階制御としたり、より温度を大幅に低下させたりして、ヘッド故障が防止できるような温度抑制制御とすればよい。
【0033】
また、本実施形態では、待機制御を開始する閾値温度のみ変更する制御について説明したが、閾値温度を低下させるのと同時に待機時間が長くなるように制御することで、より温度抑制効果が高まるような形態であってもよい。
【0034】
以上説明したように、記録ヘッドの使用履歴が短期間で、インク侵食等の影響が少ないと想定される期間では、温度による変形など瞬間的にヘッド故障に至るケースのみを想定して待機時間を実施する閾値温度を設定できる。また、記録ヘッドの使用履歴が長期に渡っているような場合には、インク侵食等が進行し、ヘッド故障に至る懸念が高まるため、段階的に閾値温度を低下させることでインク侵食によるヘッド故障を防止する効果が得られる。これにより、ヘッド故障に至る現象が百数十℃程度にならないと発生しないような期間では閾値温度を高めに設定してスループット低下を防止でき、高速記録を行うことができる。一方、ヘッドの使用期間が長期に渡り、ヘッド故障に至る現象が数十℃レベルで発生しやすくなる期間では閾値温度を段階的に低下させてヘッド温度を抑制し、ヘッド故障を回避する能力を高めることができる。
【0035】
更に、前記使用履歴の計測を、記録ヘッドの温度に応じた使用履歴の計測や、記録デューティに応じた使用履歴の計測とすることで、インク侵食等の影響がどの程度及んでいるかをより正確に把握することができる。このため、閾値温度を低下させるタイミングを最適化でき、個々の使用状態に応じたフレキシブルな制御が可能となる。
【0036】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、記録ヘッドの温度にかかわらず記録ヘッドの累積吐出数(ヘッドドットカウント値DH)をカウントし、そのカウント数に応じて閾値温度を変更するものであった。本実施形態では、記録ヘッドが所定の温度以上の状態で吐出された吐出数をカウントし、そのカウント数に応じて閾値温度を低下させる制御を行うものである。
【0037】
図6は、本実施形態の記録装置において、1ページ分の画像を記録する際にMPU21が実行する一連の工程を説明するためのフローチャートである。記録が開始されると(ステップS601)、ホスト装置Hからは制御データを含む画像データがインターフェイス20およびゲートアレイ24を介してMPU21に入力される。
【0038】
次に、MPU21がDRAM23に格納されている使用履歴計測手段により計測された記録ヘッドの一定以上の温度の累積吐出数(以下、ヘッドドットカウント値DH2とも称する。)を読み込む。そして、予めROM22に格納されている所定の累積吐出数(以下、ドットカウント閾値DTH1とも称する。)と比較する(ステップS602)。ここで、ヘッドドットカウント値DH2がドットカウント閾値DTH1より少ない場合には、ステップS604に進み、待機制御を実施する閾値温度IをDRAM23に設定する。一方、ヘッドドットカウント値DH2がドットカウント閾値DTH1を超えている場合には、ステップS603においてヘッドドットカウント値DH2と予めROM22に格納されている所定の累積吐出数(以下、ドットカウント閾値DTH2とも称する。)を比較する。この際、ヘッドドットカウント値DH2がドットカウント閾値DTH2より少ない場合には閾値温度IIをDRAM23に設定する(ステップS605)。一方、ドットカウント閾値DTH2より多い場合には閾値温度IIIをDRAM23に設定する(ステップS606)。
【0039】
閾値温度の設定が終了すると、主走査が開始され(ステップS607)、画像の記録が開始される。この際、MPU21は1回(前回)の主走査における記録ヘッド5の最高到達温度(以下、ヘッド最高温度THとも称する。)をダイオードセンサ50から検知温度として取得する(ステップS608)。すなわちMPU21は、次(今回)の主走査前に、ヘッド最高温度THを取得する。そして、取得したヘッド最高温度THを、予めROM22に格納されている所定の温度(以下、ドットカウント温度TCとも称する。)と比較する(ステップS609)。本実施形態においてドットカウント温度TCは60℃である。ヘッド最高温度THがドットカウント温度TC以上と判断された場合には、DRAM23に設定した閾値温度(以下、ウエイト実施温度TWとも称する。)とヘッド最高温度THを比較する(ステップS610)。ヘッド最高温度THがウエイト実施温度TWよりも高いと判断された場合には、MPU21が次の主走査が行われる前に所定のウエイト時間を設定およびその所定時間分のウエイトを実施する(ステップS611)。そして、ヘッド最高温度THがドットカウント温度TC以上のときに吐出された吐出数をDRAM23に格納されているヘッドドットカウント値DH2に加算する(ステップS612)。そして、1ページ分の全ての画像データの記録が完了すると(ステップS613)、記録動作を終了する(ステップS614)。
【0040】
図7は、本実施形態において平均10%、平均20%、平均30%デューティの画像をそれぞれ記録しつづけていく場合の、記録ヘッドの累積吐出数と待機制御を開始する閾値温度との関係を示した図である。本実施形態においては、記録ヘッドがドットカウント温度TC(60℃)以上の状態で吐出された吐出数をカウントし、そのカウント数が0.7×108発までは閾値温度を80℃とする。また、カウント数が0.7×108発から1×108発までは閾値温度を70℃とする。さらに、カウント数が1×108発以降は閾値温度を60℃とする制御とした。この場合、平均30%デューティの画像を記録しつづけると、ヘッド温度が60℃以上となる頻度が比較的高く、累積吐出数が1×108発の時点でカウント数が0.7×108発に到達した。従って、累積吐出数が1×108発の時点で閾値温度を80℃から70℃に変更し、同様に累積吐出数が1.5×108発の時点でカウント数が1.0×108発に到達したため、閾値温度を70℃から60℃に変更する制御とした。平均20%デューティの画像を記録しつづけた場合には、累積吐出数が2×108発、3×108発の時点でそれぞれカウント数が0.7×108発、1×108発に到達したため、閾値温度を80℃から70℃、および70℃から60℃に変更する制御とした。すなわち、所定領域の記録デューティと、その記録デューティにおいて印加される駆動信号の数とを関連づけて計測している。
【0041】
また、平均10%デューティの画像を記録しつづけた場合には、ヘッド温度が60℃以上となる頻度が低く、累積吐出数が4×108発になるまでカウント数が0.7×108発に到達しなかった。このため、累積吐出数が4×108発の時点で閾値温度を70℃に変更する制御とした。
【0042】
なお、本実施形態では、ドットカウント温度TCは、閾値温度IIIよりも小さいまたは同じであったが、本発明はこのような関係の数値に限定されるものではない。すなわち、ドットカウント温度TCが閾値I、IIおよびIIIよりも大きい数値であってもよく、閾値温度とドットカウント温度の関係が無関係なものであってもよい。
【0043】
すなわち本発明は、インクとヘッド構成部材との接液性が悪化しやすい高温領域にて記録ヘッドから吐出を行う場合にのみ吐出数をカウントする。そして、そのカウント数に応じて閾値温度変更を実施することで、累積吐出数に依らず、個々の記録ヘッドのインク侵食などの進行状態に合わせた最適なタイミングで、待機制御を変更できる。例えば平均30%デューティの画像を記録しつづけた場合には、記録ヘッドが高温状態で保持される頻度が高く、インク侵食等の進行を加速してヘッド故障に至る危険性が高まる。従って本実施形態では、累積吐出数が1×108発から、待機制御を開始する閾値温度を低下させる制御とし、ヘッド温度を抑制するタイミングを早めている。一方で平均10%デューティの画像を記録しつづけた場合には、記録ヘッドが昇温する頻度が低く、インク侵食等は加速されない。従って、本実施形態では、累積吐出数が4×108発となるまで、待機制御を開始する閾値温度を低下しない制御とし、長期に渡りスループットが低下しないようタイミングを遅めている。このように、記録ヘッドの温度に応じた使用履歴を計測することで、インク侵食等の影響がどの程度及んでいるかをより正確に把握することができる。このため、閾値温度を低下させるタイミングを最適化でき、個々の使用状態に応じたフレキシブルな制御が可能となる。
【0044】
なお、本実施形態では、記録ヘッドが所定の温度以上の状態で吐出された吐出数をカウントし、そのカウント数に応じて閾値温度を低下させる制御とした。しかしながら本発明は、記録ヘッドの温度により吐出数のカウントの有無を判断するものでなくてもよい。例えば、所定領域の記録デューティを判別し、所定の記録デューティ以上で吐出された吐出数をカウントしたり、記録ヘッド温度が所定の温度以上で経過する時間をカウントするものであってもよい。また、記録ヘッドの温度に応じた使用履歴を計測し、個々の使用履歴を正確に把握することで、最適なタイミングにて閾値温度制御を実行するものであってもよい。
【0045】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
【符号の説明】
【0046】
5 記録ヘッド
50 ダイオードセンサ
TH ヘッド最高温度
TW ウエイト実施温度
TC ドットカウント温度
DH ヘッドドットカウント値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための熱エネルギを発生する複数の発熱素子を備えた記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを記録媒体に対して往復走査する走査手段と、
前記記録ヘッドの温度を検知する検知手段と、
前記検知手段により検知された検知温度が閾値温度を超えた場合に、走査と走査との間で前記記録ヘッドを待機するように制御する制御手段と、
前記記録ヘッドの使用を開始してからの前記複数の発熱素子の累積使用量に係る情報を取得する取得手段と、
前記累積使用量に係る情報に基づいて、前記閾値温度を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記累積使用量が第一の使用量である場合の閾値温度を、前記累積使用量が前記第一の使用量より多い第二の使用量である場合の閾値温度より高くなるように設定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記検知手段により検知された検知温度が閾値温度を超えた場合に、前記検知温度に基づいて、前記記録ヘッドの待機時間を設定する待機時間設定手段を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記待機時間設定手段は、前記検知温度が第一の温度である場合の待機時間を、前記検知温度が前記第一の温度より低い第二の温度である場合の待機時間より長くなるように設定することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドの交換を検知する交換検知手段をさらに有し、前記取得手段は、前記記録ヘッドが交換されたことに応じて、前記累積使用量をリセットすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記累積使用量は、前記記録ヘッドの使用を開始してからの前記複数の発熱素子の累積駆動回数であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記取得手段は、前記温度が所定温度以上のときに前記複数の発熱素子が駆動された回数に基づいて、前記累積駆動回数に係る情報を取得することを特徴とする請求項6に記載の記録装置。
【請求項8】
前記取得手段は、所定領域の記録デューティが所定値以上のときに前記複数の発熱素子が駆動された回数に基づいて、前記累積駆動回数に係る情報を取得することを特徴とする請求項6または請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
インクを吐出するための熱エネルギを発生する複数の発熱素子を有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを記録媒体に対して往復走査する走査手段と、
前記記録ヘッドの温度を検知する検知手段と、
前記検知手段により検知された検知温度が閾値温度を超えた場合に、走査と走査との間で前記記録ヘッドを待機するように制御する制御手段と、
前記記録ヘッドが装着されてからの累積時間に係る情報を取得する取得手段と、
前記累積時間に係る情報に基づいて、前記閾値温度を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項10】
インクを吐出するための熱エネルギを発生する複数の発熱素子を有する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを記録媒体に対して往復走査する走査手段と、
前記記録ヘッドの温度を検知する検知手段と、
前記検知手段により検知された検知温度が閾値温度を超えた場合に、走査と走査との間で前記記録ヘッドを待機するように制御する制御手段と、
前記記録ヘッドにより記録された記録媒体の累積枚数に係る情報を取得する取得手段と、
前記累積枚数に係る情報に基づいて、前記閾値温度を設定する設定手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−158190(P2012−158190A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−125169(P2012−125169)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【分割の表示】特願2009−282863(P2009−282863)の分割
【原出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】