説明

設計支援システム、設計支援方法および設計支援プログラム

【課題】携帯電子機器の設計初期段階において、装置実装状態における操作キーのクリック感を評価することを課題とする。
【解決手段】再設計判断部13は、シミュレーション部12から構造シミュレーション結果を受け付けると、Fa(最大反力)、Fb(最大反力からの加重落差)、La(スイッチが入るまでのストローク)、Lb(最大反力からの加重落差Fbが発生している間のストローク)を抽出して、加重クリック率CF(=Fb/Fa)とストローククリック率CS(=Lb/La)を算出する。再設計判断部13は、キースイッチのクリック感を最適化するために、あらかじめ定められた適正範囲内に、加重クリック率CF、ストローククリック率CS、最大反力Fa、最大ストロークFbがあるか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、小型の金属製のドームスイッチやメカニカルなスイッチを搭載した装置の設計に関し、特に、最適なキースイッチを自動的に選択して装置の設計を支援することができる設計支援システム、設計支援方法および設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の携帯電子機器においては、軽薄短小化が進み、入力デバイスとして小型の金属製のドームスイッチやメカニカルなスイッチが採用されてきている。そして、携帯電子機器の設計を行う場合には、携帯電子機器に操作キーとして搭載されたスイッチを押したときに、ユーザに感じられる反力(クリック感)について評価がなされる。
【0003】
例えば、特許文献1では、スイッチを押圧する際に発生する反力を測定したときのアナログ信号をデジタル信号に変換して表示する技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−5479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の技術では、携帯電子機器の設計初期段階において、装置実装状態における操作キーのクリック感を評価することができないので、製品開発の手戻りが発生する場合があるという問題点があった。
【0006】
ドームスイッチやメカニカルなスイッチが携帯電子機器に搭載された場合には、スイッチの上に被せられるキートップやスイッチの支持構造などにより、キートップの上からスイッチを押したときにユーザに感じられる反力がスイッチ単体の時とは異なる。
【0007】
すなわち、上記した従来の技術は、ドームスイッチやメカニカルなスイッチが携帯電子機器に搭載された後の操作キーのクリック感を評価することはできるが、携帯電子機器の設計初期段階においては、スイッチ単体のクリック感を評価することしかできないので、装置実装状態における操作キーのクリック感を評価する次第では、製品開発の手戻りが発生することとなる。
【0008】
そこで、この発明は、上述した従来技術の課題を解決するためになされたものであり、携帯電子機器の設計初期段階において、装置実装状態における操作キーのクリック感を評価することが可能な設計支援システム、設計支援方法および設計支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、開示のシステムは、弾性を利用して入力を行う第1入力装置を有する電子装置の構造データを用いて、該第1入力装置の構造シミュレーションを行うシミュレーション部と、前記シミュレーション部が出力した前記第1入力装置の反力特性データを用いて、前記電子装置の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知する再設計判断部と、前記反力特性データを判定する判定部と、前記判定部の判定の結果、前記第1入力装置が不適合だった場合に、入力装置データベースから前記第1入力装置より適切な第2入力装置を選択する選択部と、を有する。
【0010】
また、開示の方法は、弾性を利用して入力を行う第1入力装置を有する電子装置の構造データを用いて、該第1入力装置の構造シミュレーションを行うシミュレーションステップと、前記シミュレーション部が出力した前記第1入力装置の反力特性データを用いて、前記電子装置の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知する再設計判断ステップと、前記反力特性データを判定する判定ステップと、前記判定ステップの判定の結果、前記第1入力装置が不適合だった場合に、入力装置データベースから前記第1入力装置より適切な第2入力装置を選択する選択ステップと、をコンピュータに実行させる。
【0011】
また、開示のプログラムは、コンピュータに、弾性を利用して入力を行う第1入力装置を有する電子装置の構造データを用いて、該第1入力装置の構造シミュレーションを行うシミュレーションステップと、前記シミュレーション部が出力した前記第1入力装置の反力特性データを用いて、前記電子装置の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知する再設計判断ステップと、前記反力特性データを判定する判定ステップと、前記判定ステップの判定の結果、前記第1入力装置が不適合だった場合に、入力装置データベースから前記第1入力装置より適切な第2入力装置を選択する選択ステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0012】
開示のシステム、開示の方法および開示のプログラムによれば、携帯電子機器の設計初期段階において、装置実装状態における操作キーのクリック感を評価することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、設計支援システム、設計支援方法および設計支援プログラムを実施するための一実施の形態を詳細に説明する。なお、以下では、携帯電子機器として携帯電話を例に挙げる。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1に係る設計支援システムの概要を説明するための図である。同図に示すように、キースイッチ解析モデルを用いて構造シミュレーションを実行する設計支援装置10を含んでおり、設計支援装置10は、キースイッチライブラリ11と、シミュレーション部12と、再設計判断部13とを有する。
【0015】
そして、実施例1に係る設計支援システムは、キースイッチを有する携帯電話の構造データを用いて、キースイッチの構造シミュレーションを行い、その結果得られるキースイッチの反力特性データを用いて、携帯電話の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知し、先に取得した反力特性データの判定を行い、判定の結果、キースイッチが不適合だった場合に、キースイッチライブラリからより適切なスイッチデータを選択する。
【0016】
キースイッチライブラリ11は、キースイッチのスイッチデータを記録しており、例えば、スイッチごとに、構造シミュレーションに用いるパラメータとして、最大反力Fa、加重クリック率CF、最大ストロークLaおよびストローククリック率CS等を記録するとともに、構造シミュレーションにより評価済みか否かを示す評価済みフラグ、およびキースイッチのクリック感を最適化するために満足すべき全ての条件を満足していることを示す適合フラグを対応付けて記録している。
【0017】
なお、最大反力Fa、加重クリック率CF、最大ストロークLaおよびストローククリック率CSについては、後に、図7を用いて説明する。
【0018】
シミュレーション部12は、キースイッチライブラリのスイッチデータを用いて作成されたキースイッチ解析モデルについて構造シミュレーションを実行し、Fa(最大反力)、Fb(最大反力からの加重落差)、La(スイッチが入るまでのストローク)、Lb(最大反力からの加重落差Fbが発生している間のストローク)を含んだ構造シミュレーション結果を再設計判断部13へ送出する。
【0019】
再設計判断部13は、シミュレーション部12から構造シミュレーション結果を受け付けると、Fa(最大反力)、Fb(最大反力からの加重落差)、La(スイッチが入るまでのストローク)、Lb(最大反力からの加重落差Fbが発生している間のストローク)を抽出して、加重クリック率CF(=Fb/Fa)とストローククリック率CS(=Lb/La)を算出する。
【0020】
そして、再設計判断部13は、算出された加重クリック率CFとストローククリック率CSが、あらかじめ設定された適正範囲にあるか否かを判定する。判定の結果、加重クリック率CFとストローククリック率CSが、あらかじめ設定された適正範囲にない場合には、設計者に「設計変更要」のメッセージを通知して処理を停止する。
【0021】
なお、後に詳述するが、キースイッチの上に設けられるキートップの剛性が高すぎることを要因として、加重クリック率CFが適正範囲から外れることが多いので、設計者は、キートップを変更したキースイッチ解析モデルを作成して、再度構造シミュレーションを実行することになる。
【0022】
また、キースイッチの下に設けられる支持構造の合成が低すぎることを要因として、ストローククリック率CSが適正範囲から外れることが多いので、設計者は、支持構造を変更したキースイッチ解析モデルを作成して、再度構造シミュレーションを実行することになる。
【0023】
一方、再設計判断部13は、加重クリック率CFとストローククリック率CSが、あらかじめ設定された適正範囲にある場合には、続いて、最大反力FaおよびストロークLaが適正範囲にあるか否かを判定する。
【0024】
判定の結果、最大反力FaおよびストロークLaが適正範囲にない場合には、再設計判断部13は、最大反力FaおよびストロークLaが適正範囲に収まるように、新規のスイッチデータをキースイッチライブラリから選択して、新規のスイッチデータを採用したキースイッチ解析モデルを作成し、再度構造シミュレーションを実行する。なお、新たなスイッチデータをキースイッチライブラリから選択する場合には、現状のスイッチデータについて評価済みフラグをオンにする。
【0025】
これとは反対に、再設計判断部13は、最大反力FaおよびストロークLaが適正範囲にある場合には、該当スイッチデータについて、キースイッチライブラリ11の適合フラグをオンにする。
【0026】
そして、再設計判断部13は、全てのスイッチデータについて評価済みフラグ、あるいは適合フラグがONになるまで構造シミュレーションを実行し、そのシミュレーション結果について判定を行う。
【0027】
全てのスイッチデータについて判定を終えると、再設計判断部13は、適合フラグがONであるスイッチデータを提示する。このとき、適合フラグがONであるスイッチデータが複数存在する場合には、後述する式(1)で算出される理想の反力特性との差がもっとも最も小さいスイッチデータを最適解として提示する。
【0028】
このようにして、製品の設計初期段階で実機が存在しない場合であっても、構造シミュレーションにより、キースイッチのクリック感を最適化する処理を行うことができる。以上が、実施例1に係る設計支援システムの概要である。以下に、図を参照しつつ、実施例1に係る設計支援システムについて具体的に説明する。
【0029】
図2は、ドームスイッチの例を示す図である。図3は、ドームスイッチの動作説明図である。図3に示すように、上から加重が加わると金属性のドームシートが接点と接触し電気的に接続される。
【0030】
図4は、ドームスイッチの反力特性の例を示す図である。ドームシートの高さが高いほどストローク(横軸)が大きくなり、ドームシートの板厚が厚いほど反力(縦軸)が高くなる。
【0031】
図5は、キースイッチのモデル化例を示す図である。キーシートの接点位置と基板の間に、スイッチの反力特性を定義した非線形バネを定義する。
【0032】
図6は、キースイッチ解析モデルの例を示す図である。このキースイッチ解析モデルを用いる数値シミュレーションでは、製品形状、材料条件、拘束条件、加重条件をパラメータとして与えて、各部品の応力や変形量、各部に加わる加重を得るものである。有限要素法を用いた数値計算手法が一般的である。本発明では、キートップに強制変位を加え、反力を計算することでキーを押したときのクリック感を評価する。
【0033】
図7は、加重クリック率およびストローククリック率を説明するための図である。同図に示すように、ドームスイッチのようなキースイッチでは、最大加重Faを過ぎると一旦Fbだけ加重が低下する。この加重の落差がクリック感として使用者に伝わり、キーを押したという認識を助ける。
【0034】
このとき、加重の落差Fbを最大加重Faで割ったものを加重クリック率CFと定義する。加重クリック率が大きいほど、使用者にキーを押したという認識が容易になり、小さくなるとキーを押した認識が困難になる。
【0035】
また、スイッチが入るまでのストロークLaと、加重落差Fbが発生している間のストロークLbの比をストローククリック率CSと定義する。加重クリック率CFと同様に、ストローククリック率も大きいほど、キーを押した認識が容易になり、小さいとキーを押した認識が困難になる。
【0036】
図8は、スイッチの反力特性の変化例を示す図である。加重クリック率CFが低下するとキーが重く、クリック率が低下する。これは、キートップが硬いためにスムーズにスイッチが押せない場合に起こりやすい。
【0037】
また、ストローククリック率CSが低下すると無負荷でキーが沈みこみ、押してもスイッチが入らない区間が長くなるので使用者に違和感を覚えさせる。これは、装置内部のクリアランスが大きく、かつスイッチの実装された基板の支持構造が弱い場合に起こる。
【0038】
図9は、クリック感の評価結果例を示す図である。同図に示すように、最大反力Fa(最大加重に対する反作用)は、小さすぎるとクリック感が感じられないが、大きすぎるとキーが押しづらいので、下限値と上限値とからなる適正範囲を設定している。また、同様にストロークLaについても、小さすぎるとクリック感が感じられないが、大きすぎるとキーが押しづらいので、下限値と上限値とからなる適正範囲を設定している。
【0039】
同様に、加重クリック率CFおよびストローククリック率についても適正値を設定している。そして、シミュレーションでは、最大反力Fa、最大ストロークLa、加重クリック率CFおよびストローククリック率を適正範囲に収まった状態、すなわち、実施例1に係る設計支援システムは、図9の反力のグラフに示された理想の反力特性となるように、加重クリック率CFおよびストローククリック率等を最適化するためのクリック感最適化処理を実行する。
【0040】
図10を用いて、実施例1に係る設計支援システムによる処理を説明する。図10は、クリック感最適化処理の流れを示す図である。同図に示すように、キークリック解析モデル(例えば、図6参照)を作成した後(ステップS1001)、キースイッチ反力特定を定義するために、キースイッチライブラリからキースイッチを選択する(ステップS1002)。
【0041】
そして、選択されたキースイッチを適用したキースイッチ解析モデルを用いて構造シミュレーションを実行し(ステップS1003)、この構造シミュレーションの結果から、図7で説明したパラメータFa、Fb、La、Lbを抽出し、加重クリック率CF(=Fb/Fa)とストローククリック率CS(=Lb/La)を算出し、加重クリック率CFが最小加重クリック率CFmin以上であるか否かを判定する(ステップS1004)。
【0042】
判定の結果、加重クリック率CFが最小加重クリック率CFmin以上ではない場合には(ステップS1004否定)、キースイッチの変更では対処できないため、「設計変更要」のメッセージを出力して処理を停止する(ステップS1005)。
【0043】
つまり、キースイッチの反力特性に対して、キートップの剛性が高すぎることが原因で、加重クリック率が小さくなるため、このような場合には、キートップの構造を変更しなければ解決できない。
【0044】
図11は、キートップの剛性がクリック特性へ及ぼす影響を説明するための図である。同図の11−aに示すように、キースイッチの反力特性に対して、キートップの剛性が十分低い場合、クリック反力はスイッチの特性の最大反力に対して僅かに高くなるだけなので、加重クリック率への影響が少ない。
【0045】
これに対して、同図の11−bに示すように、キートップの剛性が高い場合は、同図に示すように、合成された反力の加重クリック率がキートップの剛性に比例して小さくなる。この場合、キースイッチを変更しても加重クリック率の改善は不可能であるので、キートップの剛性を下げるための設計変更が必要となる。
【0046】
ステップS1004の説明に戻ると、判定の結果、加重クリック率CFが最小加重クリック率CFmin以上である場合には(ステップS1004肯定)、ストローククリック率CLが最小ストローククリック率CLmin以上であるか否かを判定する(ステップS1006)。
【0047】
判定の結果、ストローククリック率CSが最小ストローククリック率CSmin以上ではない場合には(ステップS1006否定)、上述した加重クリック率CFが最小加重クリック率CFmin以下ではない場合と同様に、キースイッチの変更では対処できないため、「設計変更要」のメッセージを出力して処理を停止する(ステップS1007)。
【0048】
つまり、キースイッチの反力特性に対して、キースイッチの支持構造の合成が低すぎると、ストローククリック率が小さくなる。このため、キースイッチの支持構造の設計変更が必要である。
【0049】
図12は、スイッチ支持構造の剛性がクリック特性へ及ぼす影響を説明するための図である。同図の12−aに示すように、スイッチ支持構造の剛性が低い場合、装置内部のクリアランスがなくなって反力が急激に高くなるまで、キースイッチは動作しないため、クリックストロークが装置内部のクリアランスに比例して大きくなる。そのため、スイッチの支持構造の剛性を上げるか、装置内部のクリアランスを無くさなければストロークの改善はできない。
【0050】
これに対して、同図の12−bに示すように、スイッチ支持構造の剛性が高い場合は、僅かにストロークが大きくなるだけなので、スイッチを変更することでストロークを改善することが可能である。
【0051】
ステップS1006の説明に戻ると、ストローククリック率CSが最小ストローククリック率CSmin以上である場合には(ステップS1006肯定)、最大反力Faが最大反力の最小値(Fa min)以上であるか否かを判定する(ステップS1008)。
【0052】
判定の結果、最大反力Faが最大反力の最小値(Fa min)以上ではない場合には(ステップS1008否定)、より最大反力の高いスイッチに変更して(ステップS1009)、再度構造シミュレーションを実施する(ステップS1003)。このとき、例えば、キースイッチライブラリにおいて、現状のスイッチデータの評価済みフラグをオンにしておき、次回以降の選択候補とならないようにしておく。
【0053】
また、新規スイッチを選択する際には、スイッチの最大反力データを検索し、現在のスイッチの最大反力に、理想の最大反力((Fa max)−(Fa min))/2と現状の最大反力Faとの差を、現状の最大反力Faに足し合わせた値に最も近いものを選択する。
【0054】
ステップS1008の説明に戻ると、最大反力Faが最大反力の最小値(Fa min)以上である場合には(ステップS1008肯定)、最大反力Faが最大反力の最大値(Fa max)以下であるか否かを判定する(ステップS1010)。
【0055】
判定の結果、最大反力Faが最大反力の最大値(Fa max)以下ではない場合には(ステップS1010否定)、現状のスイッチデータの評価済みフラグをオンにして、より最大反力の低いスイッチに変更して(ステップS1011)、再度構造シミュレーションを実施する(ステップS1003)。
【0056】
ステップS1010の説明に戻ると、判定の結果、最大反力Faが最大反力の最大値(Fa max)以下である場合には(ステップS1010肯定)、ストロークLaが最小ストローク(La min)以上であるか否かを判定する(ステップS1012)。
【0057】
判定の結果、ストロークLaが最小ストローク(La min)以上ではない場合には(ステップS1012否定)、現状のスイッチデータの評価済みフラグをオンにして、よりストロークの大きなスイッチに変更して(ステップS1013)、再度構造シミュレーションを実施する(ステップS1003)。このとき、スイッチのストロークデータを検索して、理想のストロ−ク((La max)−(La min))/2と現状のストロークLaとの差を現状のストロークLaに足し合わせた値に最も近いものを選択する。
【0058】
ステップS1012の説明に戻ると、ストロークLaが最小ストローク(La min)以上である場合には(ステップS1012肯定)、ストロークLaが最大ストローク(La max)以下であるか否かを判定する(ステップS1014)。
【0059】
判定の結果、ストロークLaが最大ストローク(La max)以下ではない場合には(ステップS1014否定)、現状のスイッチデータの評価済みフラグをオンにして、よりストロークの小さなスイッチに変更して(ステップS1015)、再度構造シミュレーションを実施する(ステップS1013)。
【0060】
ステップS1014の説明に戻ると、判定の結果、ストロークLaが最大ストローク(La max)以下である場合には(ステップS1014肯定)、クリック感を最適化するための全ての条件(ステップS1004肯定、ステップS1006肯定、ステップS1008肯定、ステップS1010肯定、ステップS1012肯定、ステップS1014肯定)を満足したものとして、例えば、キースイッチライブラリにおいて、適合スイッチとして適合フラグをオンにする。
【0061】
なお、キースイッチライブラリ内に未評価のデータがある限りは、上述してきた処理を繰り返す。全てのデータを評価した後に、複数の適合スイッチが存在した場合には、以下(1)式で算出される理想の反力特性との差がもっとも最も小さいものを最適解として提示する。
【0062】
【数1】

【0063】
キースイッチライブラリ内の全てのスイッチデータを評価したにもかかわらず、全ての条件を満足するスイッチが無かった場合は、計算された加重クリック率とストローククリック率の小さい方の値を最悪クリック率とみなし、最悪クリック率の最もよいキースイッチを提示する。
【0064】
実施例1によれば、開示の方法および開示のプログラムによれば、携帯電子機器の設計初期段階において、装置実装状態における操作キーのクリック感を評価することができ、製品開発の手戻りが発生することを防止することができるという効果を奏する。
【0065】
また、軽薄短小化が進む携帯電子機器であっても、操作性を犠牲にしては顧客満足度を損なう恐れがあり、キースイッチのクリック感は操作性を決定付ける重要な要因である。これに対して、実施例1によれば、定量的にクリック感を評価でき、さらに理想のクリック特性を定義することにより、装置によらず安定したクリック感を顧客に提供することができる。
【実施例2】
【0066】
さて、これまで本発明を実施するための一実施の形態として実施例1を説明したが、本発明は上述した実施例以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。そこで、以下では、本発明を実施するための他の実施形態について説明する。
【0067】
(1)装置構成等
また、図1に示した設計支援装置10の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、設計支援装置10を構成する各構成要素の分散・統合の具体的形態は図1に示すものに限られず、例えば、シミュレーション部12と再設計判断部13とを統合するなど、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、設計支援装置10にて行なわれる各処理機能(図10等参照)は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0068】
(2)設計支援プログラム
また、上記の実施例1で説明した設計支援装置10の各種の処理(例えば、図10等参照)は、あらかじめ用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータシステムで実行することによって実現することができる。そこで、以下では、図13を用いて、上記の実施例1と同様の機能を有する設計支援プログラムを実行するコンピュータの一例を説明する。図13は、設計支援プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【0069】
同図に示すように、設計支援装置としてコンピュータ20は、入力部21、出力部22、HDD23、RAM24およびCPU25をバス30で接続して構成される。
【0070】
ここで、入力部21は、ユーザから各種データの入力を受け付ける。出力部22は、各種情報を表示する。HDD23は、CPU25による各種処理の実行に必要な情報を記憶する。RAM24は、各種情報を一時的に記憶する。CPU25は、各種演算処理を実行する。
【0071】
そして、HDD23には、図13に示すように、上記の実施例1に示した設計支援装置10の各処理部と同様の機能を発揮する設計支援プログラム23aと、設計支援処理用データ23bとがあらかじめ記憶されている。なお、この設計支援プログラム23aを適宜分散させて、ネットワークを介して通信可能に接続された他のコンピュータの記憶部に記憶させておくこともできる。
【0072】
そして、CPU25が、この設計支援プログラム23aをHDD23から読み出してRAM24に展開することにより、図13に示すように、設計支援プログラム23aは設計支援処理プロセス24aとして機能するようになる。そして、設計支援処理プロセス24aは、設計支援処理用データ23b等をHDD23から読み出して、RAM24において自身に割り当てられた領域に展開し、この展開したデータ等に基づいて各種処理を実行する。なお、設計支援処理プロセス24aは、図1に示した設計支援装置のシミュレーション部12および再設計判断部13において実行される処理にそれぞれ対応する。
【0073】
なお、上記した設計支援プログラム23aについては、必ずしも最初からHDD23に記憶させておく必要はなく、例えば、コンピュータ20に挿入されるフレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、DVDディスク、光磁気ディスク、ICカードなどの「可搬用の物理媒体」、さらには、公衆回線、インターネット、LAN、WANなどを介してコンピュータ20に接続される「他のコンピュータ(またはサーバ)」などに各プログラムを記憶させておき、コンピュータ20がこれらから各プログラムを読み出して実行するようにしてもよい。
【0074】
また、上記の実施例1において説明した設計支援システムにより、以下のような設計支援方法が実現される。
【0075】
すなわち、弾性を利用して入力を行う第1入力装置を有する電子装置の構造データを用いて、該第1入力装置の構造シミュレーションを行うシミュレーションステップと(例えば、図10のステップS1003参照)、前記シミュレーション部が出力した前記第1入力装置の反力特性データを用いて、前記電子装置の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知する再設計判断部と(例えば、図10のステップS1004〜ステップS1007参照)、前記反力特性データを判定する判定ステップと(例えば、図10のステップS1008、ステップS1010、ステップS1012およびステップS1014参照)、前記判定部の判定の結果、前記第1入力装置が不適合だった場合に、入力装置データベースからより適切な第2入力装置を選択する選択ステップと(例えば、図10のステップS1009、ステップS1011、ステップS1013およびステップS1015参照)、をコンピュータに実行させる設計支援方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1に係る設計支援システムの概要を説明するための図である。
【図2】ドームスイッチの例を示す図である。
【図3】ドームスイッチの動作説明図である。
【図4】ドームスイッチの反力特性の例を示す図である。
【図5】キースイッチのモデル化例を示す図である。
【図6】キースイッチ解析モデルの例を示す図である。
【図7】加重クリック率およびストローククリック率を説明するための図である。
【図8】スイッチの反力特性の変化例を示す図である。
【図9】クリック感の評価結果例を示す図である。
【図10】クリック感最適化処理の流れを示す図である。
【図11】キートップの剛性がクリック特性へ及ぼす影響を説明するための図である。
【図12】スイッチ支持構造の剛性がクリック特性へ及ぼす影響を説明するための図である。
【図13】設計支援プログラムを実行するコンピュータを示す図である。
【符号の説明】
【0077】
10 設計支援装置
11 キースイッチライブラリ
12 シミュレーション部
13 再設計判断部
20 コンピュータ(設計支援装置)
21 入力部
22 出力部
23 HDD(Hard Disk Drive)
23a 設計支援プログラム
23b 設計支援処理用データ
24 RAM(Random Access Memory)
24a 設計支援処理プロセス
25 CPU(Central Processing Unit)
30 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を利用して入力を行う第1入力装置を有する電子装置の構造データを用いて、該第1入力装置の構造シミュレーションを行うシミュレーション部と、
前記シミュレーション部が出力した前記第1入力装置の反力特性データを用いて、前記電子装置の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知する再設計判断部と、
前記反力特性データを判定する判定部と、
前記判定部の判定の結果、前記第1入力装置が不適合だった場合に、入力装置データベースから前記第1入力装置より適切な第2入力装置を選択する選択部と、
を有することを特徴とする設計支援システム。
【請求項2】
前記再設計判断部は、前記電子装置上の前記第1入力装置の加重クリック率およびストローククリック率が基準にみたない場合、前記電子装置の再設計が必要と判断することを特徴とする請求項1記載の設計支援システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記電子装置上の前記第1入力装置の最大反力およびストローク量を元に前記反力特性データを判定することを特徴とする請求項1記載の設計支援システム。
【請求項4】
前記選択部は、前記最大反力が基準より小さい場合には、前記第1入力装置の最大反力よりも大きな最大反力を有する入力装置を第2入力装置として選択することを特徴とする請求項3記載の設計支援システム。
【請求項5】
前記選択部は、前記最大反力が基準より大きい場合には、前記第1入力装置の最大反力よりも小さな最大反力を有する入力装置を第2入力装置として選択することを特徴とする請求項3記載の設計支援システム。
【請求項6】
前記選択部は、前記ストローク量が基準より小さい場合には、前記第1入力装置のストローク量よりも大きなストローク量を有する入力装置を第2入力装置として選択することを特徴とする請求項3記載の設計支援システム。
【請求項7】
前記選択部は、前記ストローク量が基準より大きい場合には、前記第1入力装置のストローク量よりも小さなストローク量を有する入力装置を第2入力装置として選択することを特徴とする請求項3記載の設計支援システム。
【請求項8】
前記選択部は、既に選択済の入力装置を第2入力装置として選択せず、かつ第2入力装置を前記構造データに適用して、前記シミュレーション部に前記構造データのシミュレーションを行うことを特徴とする請求項1記載の設計支援システム。
【請求項9】
弾性を利用して入力を行う第1入力装置を有する電子装置の構造データを用いて、該第1入力装置の構造シミュレーションを行うシミュレーションステップと、
前記シミュレーション部が出力した前記第1入力装置の反力特性データを用いて、前記電子装置の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知する再設計判断ステップと、
前記反力特性データを判定する判定ステップと、
前記判定ステップの判定の結果、前記第1入力装置が不適合だった場合に、入力装置データベースから前記第1入力装置より適切な第2入力装置を選択する選択ステップと、
をコンピュータに実行させる設計支援方法。
【請求項10】
コンピュータに、
弾性を利用して入力を行う第1入力装置を有する電子装置の構造データを用いて、該第1入力装置の構造シミュレーションを行うシミュレーションステップと、
前記シミュレーション部が出力した前記第1入力装置の反力特性データを用いて、前記電子装置の再設計が必要と判断した場合に、設計者に前記再設計を通知する再設計判断ステップと、
前記反力特性データを判定する判定ステップと、
前記判定ステップの判定の結果、前記第1入力装置が不適合だった場合に、入力装置データベースから前記第1入力装置より適切な第2入力装置を選択する選択ステップと、
を実行させる設計支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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