説明

試料における生体分子の含量を正規化するための方法

本発明は、以下の工程を有する、試料における生体分子の含量を正規化するための方法に関する:
a)容器表面が高塩条件下で生体分子を可逆的に結合できるように少なくとも定位置で、好ましくは容器の内部で官能化されている容器表面を有する反応容器を提供すること、
b)少なくとも1つの試料調製工程を実施すること、
c)高塩条件下で、調製された試料からの生体分子を容器表面に結合させること(「結合及び正規化の工程」)、
d)任意に洗浄すること(「洗浄工程」)、及び
e)少なくとも1つの後続の反応を実施すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料における生体分子の含量を正規化するための方法、使用及び装置に関する。該方法、該用途及び該装置は、たとえば、生化学、分子生物学、分子遺伝学、微生物学、分子診断学及び/又は分子法医学における応用に好適である。
【背景技術】
【0002】
試料における生体分子の含量を正規化することは、たとえば、分子診断学において、遺伝子発現の解析のために、活性物質に基づいた転写物レベルの解析、分子法医学、配列決定又は遺伝子型決定において試料の解析で主要な役割を担う。
【0003】
正規化の理由は、場合によっては、検出される生体分子、特に核酸及び/又はタンパク質が試料中に異なった量で存在する可能性があることである。加えて、調製試料の処理工程、たとえば、溶解、細胞変性、単離工程、又は逆転写は、異なったレベルの効率で問題の生体分子を提供する可能性がある。
【0004】
双方の場合、このことは、上述の不確定要素による試料における生体分子の未知の部分が、さらなる調製工程及び解析工程の再現性及び精度を複雑にし、又は定量のために追加の工程を必要とすることを意味する。
【0005】
このことは、既知の方法(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、逆転写、免疫−PCR(イムノPCR))を用いてその後に検出される核酸を含有する試料の調製にとって特に重要である。この場合、所望のサイクル数を達成するために、工程パラメーター、特に試料における生体分子の含量を調整することが重要である。
【0006】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、試験管内でDNAを増幅するシステムとしてこの2、30年で確立されたものである。同時に、PCRは、単なる複製から定性分析及び定量のための「リアルタイム」PCRに向かった技術のさらなる開発の結果、広く使用される解析ツール及びアッセイツールになっている。いわゆるメッセンジャーRNA(mRNA)である、特定の遺伝子断片のRNA転写物の検出は目下、標準のアプリケーションである。この点で、プライマー(多くはポリdT)と酵素(逆転写酵素)とを用いて、試料に存在するmRNAがすべてDNA(cDNA)に逆転写され、こうして形成されたcDNAがPCRアッセイで検出される。このようにして、一工程プロトコール又は二工程プロトコールにてアッセイを実施することが可能である。一工程プロトコールでは、逆転写(RT)及びPCRアッセイ自体がPCR機器において実施されるが、二工程プロトコールでは、逆転写が別に実施され、反応のアリコートがPCRマスターミックスに添加される。しかしながら、mRNAのレベルは、異なる試料では極めて異なる可能性があり、加えて、RTの効率は変動しやすい可能性がある。このことは、PCR反応に導入されるcDNAの量が極めて異なるという結果を生じることがある。
【0007】
従来技術では、通例、たとえば、OD測定又は蛍光測定を利用して、逆転写を開始する前に試料のRNA含量を決定する。逆転写の完了後、ヌクレオチド、リボゾームRNA及びそのほかの構成物質の存在がcDNAの定量を複雑にするので、cDNAレベルでの定量は一般に実施されない。
【0008】
そのような定量のやり方は、特にいわゆる二工程法で実施されてもよく、その際、試料の調製(たとえば、溶解、細胞変性、単離工程又は逆転写による)及びさらなる試料の処理(たとえば、PCRによる)は、別々の工程及び/又は異なった容器で実施されるので、2つの工程の間でピペッティング工程が行われてもよい。そのような工程は、すでに調製されてもよい試料がPCR工程に直接供される方法にも好適である。
【0009】
従来技術の二工程PCRの場合については、逆転写を別の容器で実施し、次いでPCRマスターミックスにピペットで入れる。この点で、逆転写後のcDNAの量は分光法で一回定量されうる。しかしながら、追加のレベルの尽力のためにこれは普通省かれ、RT反応のアリコートだけがqPCRに使用される。PCRマスターミックスの過剰な希釈を防ぐために、マスターミックス量の最大たった10%がアリコートとしてそれに添加されるべきである。このことは、2.5μLを用いた25μLのPCRでは、PCR反応では10%をやや上回る逆転写産物を使用してもよく、又は今一度さらに多い体積を回避しなければならないことを意味する。同時に、追加のピペッティング工程は、手動操作の場合のように、さらなる不正確を生じる。交差汚染のさらなるリスクもある。
【0010】
本方法では、cDNAは反応容器の決められた表面に可逆的に結合するので、PCR反応アッセイにおける追加の体積を考慮する必要はない。
【0011】
試料の調製(たとえば、溶解及び/又は逆転写による)及びさらなる試料の処理(たとえば、PCRによる)が同一の容器で生じ、可能であれば容器を閉じたままにする(いわゆる一工程法)方法にとって以前のやり方は実用的ではない。
【0012】
従来技術の一工程法では、任意に分光法で定量される生体分子(たとえば、mRNA)の量が使用される。逆転写及びPCR法自体が同一の反応容器で実施される。従って、できれば処理中、反応容器を開けないので、逆転写のアッセイ全体がPCR反応に移される。しかしながら、使用される試料については、(たとえば、mRNAの)生体分子含量が非常に異なる可能性があり、試料調製工程(たとえば、逆転写)の効率も変動しやすく、それが、試料調製工程の完了後、結果的に非常に異なった産物(たとえば、cDNA)の量を生じることがあり、次いでそれが後続の反応(たとえば、PCR)に導入されて再現性のない反応結果を生じる。通常20μLの追加反応のアッセイ体積のために、さらに、PCRに慣例である25μLの体積で操作するのは可能ではない。通例、一工程RT−PCRは50μL又は100μLのスケールで実施される。
【0013】
本発明による方法及び本発明による装置では、OD測定又は蛍光測定を用いてそれを定量する代わりに、たとえば、本発明に従って作製される結合表面を用いて装置で、核酸の絶対量を正規化する。対照的に、いわゆる「ハウスキーパー法」は、生物系の状態について表示するのに使用してもよい内部参照(internal reference)又は内在参照(endogenous reference)を表す。特定のハウスキーパー遺伝子の標準値は特定の細胞型と併せてその発現レベルについて存在するので、ハウスキーパー遺伝子を用いてアッセイの質を評価してもよい。
【0014】
しかしながら、この方法では、不確実性の可能性があるために正規化の精度は大きく限定されることが言及されなければならない。従って、理想的なハウスキーパー遺伝子は存在せず;すなわち、いずれの場合でも、複数のハウスキーパー遺伝子の使用によってさえ、完全に排除することができない遺伝子発現の種、型、段階又は状態に特異的な遺伝子発現の変動が認められる可能性がある。
【0015】
加えて、US20070231892では核酸を増幅するための方法が知られ、その際、溶解物中に含有される核酸を結合するために、容器中にて生物試料の溶解物をいわゆる「電荷スイッチ」("charge-switch")表面に接触させる。次いで結合しなかった溶解物を取り除き、結合した核酸を増幅する。参照される「電荷スイッチ」物質については、pHが変化すると表面電荷に変化が生じる。弱いイオン交換体のこの特性は、たとえば、表面基のpK値よりも低いpHにて出現するので、これらの表面基は正の表面電荷を有する。負に帯電した生体分子、特に核酸が次いで結合してもよい。他方、表面基のpK値より大きいpHについては、電荷が正から中性又は負に変わるので、負に帯電した生体分子、特に核酸は今一度放出されてもよい。従って、種々のpH値を有し、且つ低塩濃度も有する好適なバッファー(「低塩バッファー」)を用いることによってpHを介して結合と放出のプロセスがこうして制御されてもよい。
【0016】
参照される「電荷スイッチ」物質は、特にアニオン交換体の特性を有する。この方法の欠点の1つは、好適な物質が、たとえば、ポリプロピレン製の微量反応容器の表面に永続的に共有結合できないということである。物質は表面への単純な積層によって一般に固定化される。しかしながら、表面への永続的な付着は保証されず、それは、これらの方法の再現性に疑問を投げかけ、相応して被覆された容器の複数回の使用を不可能にもする。
【0017】
加えて、「電荷スイッチ」を使用し、かつ一般にアニオン交換体を使用した参照条件下での生物試料からのRNAの単離は、遍在するRNA分解酵素のために問題がある。普及している低塩条件下でこれらは手付かずのままであるので、RNAは2、3秒以内にひどく分解され、検出はさらに困難になるか又は不可能にさえなる。
【0018】
(定義)
本発明の意味の範囲内で用語「核酸」は、特に、天然の、好ましくは直鎖の、分枝鎖の又は環状の核酸、たとえば、RNA、特にmRNA、一本鎖の及び二本鎖のウイルスRNA、siRNA、miRNA、snRNA、tRNA、hnRNA、又はリボザイム、ゲノムの、細菌の又はウイルスのDNA(一本鎖及び二本鎖)、染色体及びエピソームのDNA、自由に循環する核酸など、合成の又は修飾された核酸、たとえば、プラスミド又はオリゴヌクレオチド、特にPCRに使用するためのプライマー、プローブ若しくは標準、ジゴキシゲニン、ビオチン若しくは蛍光色素で標識された核酸、又はいわゆる「ペプチド核酸」("peptide nucleic acid")(PNA)を意味するように理解されるが、これらに限定されない。
【0019】
用語「試料中の生体分子の含量を正規化すること」は、試料中の生体分子の含量が、(容器表面、好ましくは容器の内側の少なくとも一部の大きさと結合特性によって、本発明により)特定の程度を超えないことを保証する工程を意味するように理解される。これは、生体分子の含量を特定の値に定量する方法である。これには、この程度を超える生体分子のその後の廃棄が含まれ、また、試料が上述の特定の程度より少ない生体分子を含有するのであれば、正規化は奏功しない。
【0020】
本発明の意味の範囲内で用語「固定化」は、特に、適切な固相への可逆的な固定化を意味するように理解されるが、これに限定されない。
【0021】
用語「膜」は、特に、生体分子を可逆的に結合することができる固相を意味するように理解されるが、これに限定されない。
【0022】
用語「高塩バッファー」は、特に、高塩濃度(好ましくはカオトロピック物質)、好ましくは≧100mM、さらに好ましくは≧500mM、一層さらに好ましくは≧1Mを有するバッファーを意味するように理解されるが、これに限定されない。
【0023】
以下の用語「高塩条件」は、高塩バッファー、好ましくはカオトロピック塩を含有する高塩バッファーを使用する環境を意味するように理解される。高塩[バッファー]、好ましくはカオトロピック塩を含有する高塩バッファーを使用することによって水における核酸の溶解度を低下させる。理由は、水素架橋の切断と水中での核酸の二次構造及び三次構造の安定性の関連する低下である。そのとき極性の表面が水素架橋の供与体として提供されれば、その位置で水中よりそれらはさらに安定なので、核酸はこの表面に結合する。塩濃度が低下すると、極性表面よりも水が今一度良好な水素架橋供与体になり、核酸は表面から脱着されてもよい。
【0024】
用語「カオトロピック物質」又は「カオトロピック塩」は特に、タンパク質及び/又は核酸の二次構造、三次構造及び/又は四次構造を変え、且つ、少なくとも一次構造(primary structure)をそのままにし、水中での極性物質の溶解度を低下させ、及び/又は疎水性の相互作用を強化する物質を意味するように理解されるが、これらに限定されない。好ましいカオトロピック物質は、塩酸グアニジン、(イソ)チオシアン酸グアニジニウム、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、(イソ)チオシアン酸ナトリウム及び/又は尿素である。
【0025】
用語「シラノール基」は特に、組成(SiO2x(OH)α(OEt)βを有し、化学量論因子αがx及びβの関数(すなわち、α=4(1−x)−β)である酸化珪素(非晶性、結晶性)又はポリ珪酸を意味するように理解されるが、それには限定されない。二酸化珪素又はポリ珪酸は1以上の以下の置換基を含有してもよく、又は以下の酸化物によって完全に置き換えられてもよい。
・B23(0〜30%)
・Al23(0〜100%)
・TiO2(0〜100%)
・ZrO2(0〜100%)
【0026】
物質は表面が官能化されてもよい。たとえば、シラノール基が、シランによるシラン化によって処理されてあってもよい。表面は疎水化されてもよく、又はアニオン基及び/又はカチオン基及び/又はキレート剤が適用されてもよい。たとえば、ニトリロ三酢酸(NTA)部分がキレート基として適用されてもよい。これによって結合される生体分子に吸収剤表面を適合させることができる。
【0027】
別の選択肢は、シラン化プロセスを用いてシラノール基にハロゲン含有の原子移転ラジカル開始剤を適用することであり、シラノール基にて「グラフトフロム」("grafting from")法を用いてポリマー鎖を作製することができる。グラフト共重合とも呼ばれるこの方法は、連鎖停止(chain termination)、不均衡(disproportionation)又は組換え(recombination)に向かう傾向がわずかである重合プロセスを必要とする。グラフト共重合を行うために開始剤はシラノール基に適用しなければならない。ハロゲンを含有するシランでPECVD珪酸層を処理することによってこれを達成してもよい。或いは、PECVDプロセスに開始剤を直接導入する。この点で、揮発性のハロゲン含有化合物をプロセスガス(PECVDプロセスの前駆体)に加える。ATRPをそのようなハロゲン化合物含有表面で行うのであれば、表面に共有結合するポリマー(ホモポリマー、コポリマー、ブロックコポリマー)がその場で作製される。好適なモノマーは、たとえば、アクリレート、メタクリレート、スチレン、及びスチレン誘導体のようなラジカル重合可能な化合物である。
【0028】
原子移動ラジカル重合(ATRP)は、その場でのラジカル重合の形態である。ラジカルは、原子移動法を用いて、Cu(I)/Cu(II)酸化還元平衡を介して有機ハロゲン化合物から形成される。酸化還元平衡は、遊離ラジカルの濃縮において大きな還元を生じる。従って、不均衡又は組換えによる連鎖停止反応は大きく抑制される。
【0029】
用語「増幅反応」は、1以上の検体、好ましくは核酸の濃度を少なくとも二倍にすることができる方法を意味するように理解される。
【0030】
ここで等温増幅反応と熱サイクル増幅反応との間で対比を行う。前者では、プロセス全体の間、温度は一定のままであるが、後者では、反応と増幅を制御するのに使用される熱サイクルが実施される。
【0031】
以下は好ましい等温増幅反応の例である。
・ループ介在型等温増幅(loop mediated isothermal amplification)(LAMP)
・核酸配列に基づく増幅(nucleic acid sequence-based amplification)(NASBA)
・ローリングサークル連鎖反応(rolling circle chain reaction)(RCCR)又はローリングサークル増幅(rolling circle amplification)(RCA)及び/又は
・転写介在型増幅(transcription mediated amplification)(TMA)
【0032】
以下は好ましい熱サイクル増幅反応の例である。
・リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction)(LCR)及び/又は
・ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)(PCR)
【0033】
用語「ポリメラーゼ連鎖反応」(PCR)は、たとえば、バートレット(Bartlett)及びスターリング(Stirling)(2003)に記載されたように、核酸の試験管内増幅のための方法を意味するように理解される。
【0034】
用語「リガーゼ連鎖反応」(LCR)は、異なった酵素(ポリメラーゼの代わりにリガーゼ)を使用することを除いてポリメラーゼ連鎖反応と同様に機能する非常に少量の核酸のための検出方法を意味するように理解される。DNA鎖当たり2つの試料を連結して1つの試料を形成する。1サイクルで得られる増幅産物はたった30〜50bpの長さに過ぎないことが多く、それ自体、添加されたプライマーの出発点としてその後のサイクルで再利用される。
【0035】
用語「ループ介在型等温増幅」(LAMP)は、標的配列の特定の領域を認識し、それに結合する6つの異なったプライマーを使用する等温核酸増幅のための方法を意味するように理解される。LAMPは鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼを使用し、およそ65℃の定温で進行する。標的配列の増幅と検出とは単一工程で行われる。
【0036】
用語「核酸配列に基づく増幅」(NASBA)は、RNAを増幅するための方法(コンプトン(Compton), 1991)を意味するように理解される。RNAマトリクスを反応混合物に加え、第1のプライマーがマトリクスの3’末端の領域における相補的な配列に結合する。次いで逆転写酵素を用いてマトリクスと相補的なDNA鎖が重合される。その後、RNA分解酵素H(RNA分解酵素HはRNA−DNAハイブリッドのRNAのみを消化するが、一本鎖RNAは消化しない)を用いてRNAマトリクスを消化する。次いで第2のプライマーがDNA鎖の5’末端に結合される。DNA鎖に相補的であるRNA分子を合成するための出発点としてT7RNAポリメラーゼによってこのプライマーを使用し、このRNA分子を出発マトリクスとして今一度使用してもよい。NASBAは通常、41℃の定温で実施され、特定の状況下にてPCRより速く且つ良好な結果を提供する。
【0037】
用語「転写介在型増幅」(TMA)は、米国の会社ジェン-プローブ(Gen−Probe)によって開発され、NASBAに類似し、同様にRNAポリメラーゼと逆転写酵素とを使用する等温増幅法(ヒル(Hill), 2001)を意味するように理解される。
【0038】
用語「ローリングサークル連鎖反応」(RCCR)又は「ローリングサークル増幅」(RCA)は、ローリングサークル原理に従って一般的な核酸の複製を模倣した増幅方法を指し、数ある出典の中でも例えば米国特許第5,854,033号に記載されている。
【0039】
用語「「免疫−PCR」(イムノPCR)("immuno-PCR")(IPCR)は特に、標的特異的な抗体と核酸分子とのキメラ複合体が使用される、標的分子を検出する方法を意味するように理解される。
【0040】
本質的に、参照される標的分子は、この分子種に対する特異性の高い抗体が最も容易に産生されるので、主としてタンパク質及び/又はオリゴペプチドを含む。しかしながら、参照される標的分子はまた、この生体分子種に対する特異性の高い抗体が産生されてもよいという条件で、そのほかの生体分子種、たとえば、オリゴ糖類及び多糖類、又は脂質を含んでもよく、その結果、免疫−PCRを用いて抗体が検出されてもよい。
【0041】
核酸分子をマーカー又はプローブとして用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてシグナル生成のためにそれを増幅する。核酸増幅の非常に高い効率と結合の高い特異性とによって標的分子を検出する常法(たとえば、ELISA法)と比べて、感度で100倍〜10,000倍の上昇を生じてもよい。IPCRは1992年(サノら(Sano at al.), 1992)に開発された。
【0042】
用語「逆転写」は、逆転写酵素(RNA依存性DNAポリメラーゼも)が一般に使用される、mRNAをDNA(いわゆるcDNA)に転写するための方法を意味するように理解される。後者は最初に、RNA依存性DNAポリメラーゼ活性によって一本鎖RNAからRNA−DNAハイブリッド鎖を合成する。タンパク質の無関係な部分、RNA分解酵素Hの部分はRNA部分のその後の分解に関与する。一本鎖DNA鎖からの二本鎖DNAの形成の完了は、DNA堆積性のDNAポリメラーゼ活性によって生じる。この方法によって生成されたcDNAは次いでPCRを用いて増幅され、検出されてもよい。
【0043】
ほかのDNAポリメラーゼと同様に、逆転写酵素もDNA合成を開始するのにプライマーを必要とする。この場合、いわゆるオリゴd(T)プライマー、すなわち、多重チミン塩基が使用されることが多く、それは、mRNAの3’末端におけるポリ(A)尾部(テイル)に相補的である。
【0044】
逆転写酵素とその後のPCRとの組み合わせ(RT−PCRとも呼ばれる)を頻繁に使用して、たとえば、遺伝子発現の解析、遺伝子発現プロファイルの作成などで試料における1以上のmRNAの含量を検出する。いわゆる「二工程RT−PCR」では、とりわけ、異なったプライマーを逆転写及びその後のPCRで使用するが、「一工程RT−PCR」では、逆転写で使用した遺伝子特異的なプライマーがその後のPCRで使用されてもよく、2つの反応が同一容器で連続して行われる。使用される逆転写酵素(一般にウイルス起源)は使用されるDNAポリメラーゼ(たとえば、Taqポリメラーゼ)より低温で変性し、知られているようにDNAポリメラーゼは比較的高温でのみ変性するので、逆転写はその後のPCRより低温で実施されるという事実によって使用が構成される。熱可逆的に阻害される、いわゆる「ホットスタート」DNAポリメラーゼを好ましくは使用する。逆転写のより低い温度レベルからPCRのより高い温度レベルへのスイッチが入れられると、一方で、逆転写酵素が変性し、他方で、熱可逆的阻害を排除することによってDNAポリメラーゼが活性化される。参照される熱可逆的阻害は、たとえば、DNAポリメラーゼの活性中心に結合する抗体を用いて、又はたとえば、アルデヒドを用いたポリメラーゼの可逆的な共有若しくは非共有の化学的修飾(たとえば、本出願人の米国特許第6,183,998号を参照)によって達成されてもよい。概要についてはバーチ(Birch)ら(1996年)も参照のこと。
【0045】
用語「リアルタイムPCR」は、定量PCR又はqPCR(逆転写PCRと混同してはならない)を意味するように理解されるが、これは既知のポリメラーゼ連鎖反応に基づくものであり、増幅されたDNAを定量することもできる。定量はPCRサイクルの最中(従って、名称「リアルタイム」)に記録される蛍光測定によって行われる。PCR産物の量に比例して蛍光が増加する。1回の実行(複数のサイクルから構成される)の終了時、受け取った蛍光シグナルに基づいてPCRの指数期にて定量が行われる。最適な反応条件は指数期の間に存在するので、PCRのこの期(1回の実行で2、3サイクル続く)でのみ、正確な定量が可能である。従ってこの方法は、ほかの定量PCR法とは異なり、ほかの定量的PCR法は、PCR(たとえば、競合PCR)が進行した後、通常、PCR断片のゲル電気泳動分離を含めて定量的解析を行う。
【0046】
たとえば、臭化エチジウム、SYBRグリーンI及びFRETプローブ又はいわゆる二重色素オリゴ(TaqManプローブとも呼ばれる)のような染色は検出に好適である。
【0047】
用語「CT値」(閾値サイクル)は、増幅産物が最初に検出できるPCRサイクルを指し、通例、蛍光を測定し、初めてバックグラウンドの蛍光を超えた有意な増加があった最も直近のサイクルが示される。
【0048】
PCR反応の初期相では、鋳型(すなわち、増幅されるDNA上)の量がいまだに限定されるが、増幅の最終相では、産物の量は、これら産物が阻害を引き起こすように増大し、産物断片はますます互いにハイブリッド形成し、出発産物は徐々に消費される。中間の相においてのみ、増幅サイクルの数と増幅産物の量との間で指数関数の関係が存在する(「指数相」)。指数相が始まる時点を決定するために参照CT値が用いられる。
【0049】
さらに、低いCT値は少数のPCRサイクルがバックグラウンドノイズを上回る蛍光での初めての有意な増加に十分である(すなわち、相対的に多数の鋳型が存在する)ことを示すが、高いCT値は相応して、この目的で多数のPCRサイクルを必要とする(すなわち、相対的に少ない鋳型が存在する)ことを示す。
【0050】
用語「酵素結合免疫吸着測定法」("enzyme-linked immunosorbent assay")(ELISA)は、酵素呈色反応に基づく免疫的検出法を意味するように理解される。
【0051】
ELISAの使用によって、試料(血液血清、乳、尿など)においてタンパク質、ウイルス、並びにたとえば、ホルモン、毒素及び殺虫剤のような低分子化合物を検出することが可能である。この点で、使用は、検出される物質(抗原)に結合する特異抗体の特性で構成される。抗体又は抗原が酵素であらかじめ標識される。酵素によって触媒される反応を抗原の存在の裏付けとして用いる。いわゆる基質が酵素によって変換され、反応生成物は通常、色変化、蛍光又は化学発光によって検出されてもよい。シグナル強度は一般に抗原濃度の関数なので、定量的検出にELISAを用いてもよい。
【0052】
以下の用語「ハイブリッド捕捉アッセイ」("hybrid capture assay")(HCA)は、求められる標的DNAのRNA試料とのインキュベートによってRNA−DNAハイブリッドが形成される方法を意味するように理解される。ハイブリッドは表面に結合され、次いで酵素標識された抗体とインキュベートされる。ハイブリッド捕捉アッセイは特に、ダイジェン(Digene)社のHPVアッセイで使用される。
【0053】
以下の用語「ネストPCR」("nested PCR")は、すでに増幅されているDNA断片が時を改めて増幅される方法を意味するように理解され;この手順は、第1の反応で使用されたプライマー対の内部に提供された第2のプライマー対を用いて実施される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0054】
本発明の目的は、従来技術から生じる上記の欠点を少なくとも実質的に克服し、試料における生体分子の含量を正規化するための方法、使用及び/又は装置を特に広い範囲のアプリケーションで提供することである。
【0055】
本発明の特定の目的は、試料における生体分子を正規化するのにさらに好都合であり、且つ上述の一工程法及び二工程法と共に使用するために適切な方法、使用及び/又は装置を提供することである。
【0056】
さらなる目的は、広い範囲のアプリケーションのために、試料における核酸の含量を正規化するための方法、使用及び装置を提供することである。
【0057】
さらなる目的は、広い範囲のアプリケーションのために、RNA、好ましくはmRNAから逆転写によって作製されたcDNAの含量を正規化するための方法、使用及び装置を提供することである。
【0058】
さらなる目的は、広い範囲のアプリケーションのために、試料における核酸、特にRNAの含量を正規化するための方法、使用及び装置を提供することである。
【0059】
本発明の目的は、特に、高い精度及び再現性を特徴とする、試料における生体分子を正規化するための方法、使用及び/又は装置を提供することである。
【0060】
さらなる目的は、試料における核酸の含量を正規化するための、且つ反応容器の複数回使用を可能にする方法、使用及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0061】
これらの目的は、本発明の方法の独立請求項に記載の方法によって達成される。従って、以下の工程を有する、試料における生体分子の含量を正規化するために方法が提供される。
a)高塩条件下で容器表面が可逆的に生体分子を結合できるように少なくとも定位置で、好ましくは容器の内部で官能化された容器表面を有する反応容器を提供すること、
b)少なくとも1つの試料調製工程を実施すること、
c)高塩条件下で、調製された試料からの生体分子を容器表面に結合させること(「結合及び正規化の工程」)、
d)任意に洗浄すること(「洗浄工程」)、及び
e)少なくとも1つの後続の反応を実施すること。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る反応容器で使用するためのヒト全血に由来するパックスジーン(PAXGene)RNAのCT値を照合するための図を示す。
【図2】本発明及び比較例に係る反応容器で使用するためのヒト全血に由来するパックスジーン(PAXGene)RNAのCT値を照合するための図を示す。
【図3】本発明及び比較例に係る反応容器で使用するためのヒト全血に由来するキアアンプ(QIAamp)RNAのCT値を照合するための図を示す。
【図4】本発明及び比較例に係る反応容器で使用するためのジャーカット(Jurkat)細胞に由来するキアアンプ(QIAamp)RNAのCT値を照合するための図を示す。
【図5】本発明に係る反応容器及び異なったインキュベート時間で使用するためのジャーカット(Jurkat)細胞に由来するキアアンプ(QIAamp)RNAのCT値を照合するための図を示す。
【図6a】本発明に係るワークフローの一般的なパターンを示す。
【図6b】本発明に係るワークフローの一般的なパターンを示す。
【図7】本発明に従って官能化される表面を反応容器の内部に適用するための装置70を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
従来技術で既知の方法とは対照的に、本件では、反応容器の表面が最初に、高塩条件下で規定された量の生体分子の可逆的結合のための吸着表面として作用するので、試料における生体分子の含量を正規化するための手段として作用する。従って、反応容器の表面は高塩条件下で可逆的に生体分子を結合できるように官能化される。官能化の種類は、また、特に結合される生体分子の種類に依存する。このことは以下でさらに議論する。表面に結合してもよい生体分子の量は、表面の大きさ、試料に接触する表面、この表面の化学的官能化の種類、生体分子の表面とのインキュベート時間及び使用される結合バッファーの厳密性によって調整される。
【0064】
さらに、参照される高塩条件(上記定義を参照)は、存在するRNA分解酵素を失活させるのを助ける。このことは、電荷スイッチ物質に対して及び一般にアニオン交換体に対して存在する低塩条件の場合とは異なり、試料に含有されるRNAが実質的に完全な且つ無傷の様態で単離され、検出に供給されてもよい。
【0065】
従来技術では、前述のようにいわゆる「二工程法」については、必要に応じて後続の反応が実施される前に、単離された生体分子を新しい反応容器に移すために少なくとも1つの追加のピペッティング工程が必要である。この工程はまた、cDNAのレベルで正規化する機会としても使用される。このように、結果が比較され、解釈されてもよいように、細胞投入の変動、RNAの質及び量、並びにRT効率が補正される。
【0066】
一工程RT−PCR法では、ここで提案される手順を用いて、cDNAがその場(in situ)で合成され、ポリメラーゼと直接反応するので、正規化はRNAの投入レベルで行われる。このように、細胞投入における変動並びにRNAの質及び量が補正されてもよい。
【0067】
これらの工程に関連した前述の欠点は、本発明に係る方法については存在しない。生体分子は、本発明に係る表面が飽和されるまで本発明に係る反応容器の表面に可逆的に結合し、結果的に生体分子の量の正規化を生じる。この理由で、本発明に係る方法では、生体分子の単離された量について別個の定量工程を必要としない。さらに、追加のピペッティング工程なしで、後続の反応は、本発明に係る反応容器にて直接実施されてもよい。
【0068】
正規化はさらに、細胞の投入、RNAの質/量、及び種々の試料についての逆転写の効率における差異に関して発現データを補正するというさらなる利点を有する(後者の原理は二工程RT−PCRにのみ適用される)。
【0069】
参照される後続の反応が試料調製工程と同じ容器で実施されるということが好ましくは提供される。しかしながら、このことは絶対に必要であるわけではない。たとえば、結合及び正規化の工程の後、さらなる反応容器で少なくとも1つの後続の反応を実施するために、1以上のアリコートを反応容器から取り出し、1以上の新しい反応容器に移してもよい。
【0070】
参照される生体分子が核酸であることが特に好ましく提供される。
【0071】
核酸は、たとえば、PCRのような従来の増幅法を用いて特に検出されてもよい。
【0072】
しかしながら、参照される生体分子は一般に、抗体を用いて検出可能である生体分子種であってもよい。特にオリゴヌクレオチド標識した抗体(「免疫PCR」)又はELISA(下記参照)を用いて検出可能であるタンパク質が意図される。
【0073】
参照される少なくとも1つの試料調製工程が以下を含む群から選択されることも好ましく提供される。
・細胞溶解、
・細胞変性、
・生体分子の単離、
・生体分子の精製、
・DNAへのRNAの逆転写(RT)及び/又は
・酵素反応及び/又は試料の処理。
【0074】
参照される酵素反応及び/又は試料の処理には好ましくは、RNA分解酵素、DNA分解酵素及び/又はプロテアーゼを用いた試料の消化が関与してもよい。
【0075】
参照されるすくなくとも1つの後続の反応が以下を含む群から選択されることも好ましく提供される。
・増幅反応、
・酵素結合免疫アッセイ(ELISA)及び/又は
・ハイブリッド捕捉アッセイ。
【0076】
参照される増幅反応が以下の群から選択される反応であることが特に好ましく提供される。
・ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、
・ネストPCR、
・逆転写(RT)、
・免疫PCR。
【0077】
しかしながら、一般に、参照される生体分子種の少なくとも1つのためにほかの考えられる検出反応が提供されてもよい。
【0078】
本発明に係る方法の特に好適な一例は、mRNAのcDNAへの逆転写(試料調製工程)、容器表面への結合による形成されたcDNAの正規化(結合及び正規化の工程)及びリアルタイムPCRによるcDNAをその後に検出すること(後続の反応)を有する方法である。この方法は、「ワークフロー1」として表1において言及される。
【0079】
そのような方法では、逆転写は本発明に係る反応容器内で直接実施され、インキュベートの後、生成されたcDNAが本発明に係る表面に可逆的に結合される。こうして表面が飽和され、この方法で規定された量のcDNAを結合することが可能である。過剰なcDNAはその後の洗浄工程の間に取り除かれる。この洗浄工程の後、同一容器にてcDNAをリアルタイムPCRに供してもよい。
【0080】
従来技術の方法と比べた本発明に係るこの方法の利点は、逆転写の後、cDNAの得られた量の定量も、新しい容器へのピペッティングの追加工程も必要ではないことである。これによってプロトコールが簡素化され、又は短縮されるので、手間のレベル及び/又は操作コストを有意に減らすと共に、追加のピペッティング工程が原因となる交差汚染及び/又は不正確性のリスクが軽減される。
【0081】
従来技術の方法と比べた本発明に係るこの方法のさらなる利点は、cDNAの得られた量の定量を省略するにもかかわらず、元々使用したRNAの量にかかわりなく正規化された量のcDNAがPCRに用いられることである。加えて、25μLの体積で操作を行ってもよく、それは、PCRにとっては慣例であり、結果的に有意なコスト削減を生じる。
【0082】
逆転写並びにその後のPCRも好ましくは、記載されたように同一の容器で実施する。しかしながら、結合及び正規化の工程の後、1以上のアリコートを反応容器から取り出し、さらなる反応容器でPCRを行うために1以上の新しい反応容器に移すことも提供されてもよい。
【0083】
本発明に係る方法の別の好適な例は、たとえば、キアゲン(QIAGEN)製品、アールエヌイージー(RNeasy)を用いた、又は代わりに、たとえば、キアゲン(QIAGEN)製品、オリゴテックス(Oligotex)及び/又はターボキャプチャー(TurboCapture)を用いたmRNAの単離による試料の溶解及びその後のmRNAの回収(試料調製工程)と、容器表面への結合による放出された又は単離されたmRNAの正規化(結合及び正規化の工程)と、mRNAのcDNAへのその後の逆転写(後続の反応)を有する方法である。逆転写にはその後に追加の結合及び正規化の工程、並びに追加の後続の反応、たとえば、産生されたcDNAのリアルタイムPCRが任意で続いてもよい(表1、ワークフロー6を参照)。
【0084】
或いは、後続の反応として単純なハイブリッド形成反応が提供されてもよく;この場合、追加の結合及び正規化の工程は省略されてもよい(表1、ワークフロー2を参照)。
【0085】
本発明に係る方法についてのワークフローのさらなる例は表1に提供される。ワークフロー1〜5は、方法の最中に新しい試薬を添加するのに容器を開ける必要がないので一工程法に関与する。ワークフロー6は、この場合、mRNAレベル及びcDNAレベルの正規化が行われ、すなわち、第2の結合及び正規化の工程を開始するために2つの反応の間で容器が開けられるので、二工程法を示す。
【0086】
【表1】

【0087】
逆転写及び任意に続く第2の後続の反応(特にPCR)は試料調製工程と同一の容器で行ってもよい。しかしながら、第1の又は任意での第2の結合及び正規化の工程の後、1以上のアリコートを反応容器から取り出し、さらなる反応容器にて少なくとも1つの後続の反応を行うために、1以上の新しい反応容器に移すことも提供されてもよい。
【0088】
参照される正規化工程については、たとえば、修飾された表面の大きさ及び確立された結合条件に応じて、10〜50ngの生体分子(好ましくはRNA及び/又はDNA)を試料から単離することができる。
【0089】
本発明によれば、さらに
a)結合及び正規化の工程で結合バッファーが使用され、及び/又は
b)洗浄工程で洗浄バッファーが使用されることが提供される。
【0090】
少なくとも定位置にて官能化される容器表面は、
a)シラノール基、
b)不飽和有機酸、
c)カルボキシル基、スルホネート基及びそのほかの極性基、及び/又は
d)ヒドロキシル基を含有する金属酸化物及び半金属酸化物を含有することも好ましく提供される。
【0091】
上述の電荷スイッチ物質とは対照的に、参照される基は一貫して、好適な方法(以下を参照)を用いて微量反応容器及びPCR容器の表面に永続的に結合(すなわち、一般に共有結合)してもよい。
【0092】
シリカマトリクスへの核酸の結合は用語「ボーム原理」によって知られ、たとえば、EP819696に記載されている(ボゲルステイン(Vogelstein)及びギレスピー(Gillespie) (1979)、並びにボーム(Boom)ら (1990)も参照)。
【0093】
試料からの核酸の選択的な結合については、カオトロピック物質、たとえば、チオシアン酸グアニジニウムを含有するバッファーに試料をインキュベートする。任意で細胞を溶解し、得られたタンパク質を変性させ、核酸を、まだ遊離で利用できないのなら放出させ、カオトロピック物質の存在により核酸の周りの水和物の殻を溶解する。核酸は、シリカマトリクスのシラノール基(SiOx又はSiOH基)と核酸のリン酸主鎖の負のイオン電荷との間の水素架橋を介してシリカ表面に結合する。試料の残りの構成成分はその後洗浄によって取り除かれてもよい。最後にPCRの条件下でDNA又はRNAが放出される。
【0094】
核酸のアニオン交換体表面への結合は、核酸のリン酸主鎖の負のイオン電荷と本発明に係るアニオン交換体表面の正の表面電荷との間の静電相互作用に基づく。その電荷が結合バッファーのpHに無関係なので四級アンモニウム基は強い塩基性のアニオン交換体の基に属する。一級、二級及び三級アミンは弱い塩基性のアニオン交換体と呼ばれる。高いpH値では、これらのアミンは脱プロトン化形態で存在し、結果的に交換体機能を失う。従って、弱い塩基性のアニオン交換体の交換能力は、使用される結合バッファーのpHに大きく依存する。
【0095】
シラノール基、特にSiO2についてのものに似た現象は、表面にヒドロキシル基を有する金属酸化物及び半金属酸化物、特に酸化チタン、酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウム、それぞれ、たとえば、TiO2、Al23及びZrO2についても認められる。核酸はまた、カオトロピック塩の存在下でこれらの基と結合し、相応に被覆された又は官能化された表面は核酸を結合するために定まった条件下で同様に使用されてもよい。
【0096】
参照される不飽和有機酸は重合可能でなければならず、すなわち、たとえば、マレイン酸のように少なくとも1つの不飽和C=C結合(「ビニル性の基」)を含有しなければならない。加えて、さもなければ、それらはたとえば、ポリプロピレンに付着しないので、それらを純粋な形態で使用することはできない。従って、不飽和有機酸が、たとえばPECVD法を用いてビニルシランとの組み合わせで表面に適用される。
【0097】
この方法で結合する不飽和有機酸は高塩条件下で核酸を可逆的に結合することができるカルボキシル基(−COO-又は−COOH基)を提供する。この点で、水素架橋供与体官能性を有する極性表面を作製するために、不飽和有機酸は、PECVD塗付ポリマーにカルボキシル基を導入する目的への手段に過ぎない。
【0098】
水における核酸の溶解度は、高塩条件によって低下する。理由は、水素架橋の分解並びに水における核酸の二次及び三次構造の安定性の関連する低下である。次いで水素架橋供与体として極性表面が提供されれば、水中よりもその部位でそれらはさらに安定なので、核酸はこの表面に結合する。塩濃度が低下すると、水が今一度極性表面よりも良好な水素架橋供与体になり、核酸が表面から脱着してもよい。
【0099】
また、本発明に従って提供されるのは、容器表面が参照されるプロセス条件下で生体分子を可逆的に結合できるように、少なくとも定位置で、好ましくは容器の内部で官能化されている容器表面を有する、上述のような方法を実施するための反応容器である。
【0100】
本発明に従って官能化される反応容器の領域は、好ましくは容器当たり0.01mm2〜10cm2の表面、特に好ましくは0.01mm2〜1cm2の表面、極めて特に好ましくは0.01mm2〜500mm2の表面、特に好ましくは0.01mm2、特に好ましくは100mm2の一層さらに好ましくは表面を占有する。このことは、たとえば、96穴PCRプレート、PCR8連ストリップ又はマルチタイタープレートが、そのウエルの数で乗じられた参照される被覆表面を有することを意味する。
【0101】
当該生体分子用の当該反応容器の結合能は、官能化された表面の特徴(特に、官能基の種類及び密度)並びに寸法を選択的に調整することによって正確に設定されてもよい。表面に加えて、結合される生体分子の量は、結合バッファーの接触時間及び厳密性(ストリンジェンシー)を介して影響されてもよい。しかしながら、目的は、反応容器にて提供された表面を生体分子によって完全に飽和することによって正規化を達成することである。
【0102】
反応容器当たりの結合能は、1ng〜40μg、特に好ましくは1ng〜4μg、さらに好ましくは1ng〜2μg、非常に特に好ましくは1ng〜500ngの範囲内であることが好ましく提供される。
【0103】
たとえば、反応容器当たり50ngの結合能を想定すると、このことは、溶解、細胞変性、単離工程又は逆転写にあらかじめ供されている当該試料が、たとえば、50ngを超える当該生体分子種を含有する場合について、過剰分画の生体分子は結合せず、その後の洗浄工程で取り除かれることを意味する。従って、当該生体分子の定量的分画に関する情報は場合により失われてもよい。しかしながら、絶対的な量的情報の喪失は考えられるアプリケーションのシナリオの大半について認容される。
【0104】
逆に、このことは、試料が50ng未満の当該生体分子種を含有するのであれば、結合能が完全に利用されないので、正規化を行うことができないことを意味する。
【0105】
このことは、実際には、それが試料における生体分子の量のむしろ下限以下で変化する傾向があるような方法で(上記参照)結合能を調整する傾向があることを意味する。
【0106】
少なくとも定位置で官能化される容器表面は、
a)シラノール基、
b)不飽和有機酸、
c)カルボキシル基、スルホネート基及びそのほかの極性基、及び/又は
d)ヒドロキシル基を含有する金属酸化物及び半金属酸化物を含有することが好ましく提供される。
【0107】
上記で参照される官能基は、
a)プラズマコーティングによって反応容器の物質に適用され、
b)湿式化学法によって反応容器の物質に適用され、及び/又は
c)反応容器自体の物質の特性によって規定されることが好ましく提供される。
【0108】
本発明に係る反応容器の物質へのプラズマコーティングによる本発明に係るシラノール基の適用は好ましくは、たとえば、その内容全体が参照されるフラウンホファー表面工学及び薄膜IST研究所(Fraunhofer Institute for Surface Engineering and Thin Films IST)のDE102006036536B3及びDE000010322696B3に記載されたような大気圧プラズマにて実施される。
【0109】
この方法はまた、「プラズマ化学気相堆積法」("plasma enhanced chemical vapor deposition")(PECVD)とも呼ばれる。この方法はプラズマの助けを借りた化学反応を介して薄層を表面に塗布する化学蒸着(chemical vapor deposition)(CVD)の特殊な形態である。この目的のために、反応チャンバーにおいて、塗布される基材と対電極との間に強烈な電場が適用され、それはプラズマの点火を起こす。プラズマは、反応ガスとも呼ばれるガス蒸着媒体の結合の切断を結果的に生じ、それをガス相にてさらに反応する個々のラジカルに分解する。ガス相の反応産物は薄層(50〜300nmの間の層厚)の形態で基材上に蒸着する。プラズマのために、CVD法よりも高い蒸着率と同時により低い蒸着温度が、コロナ放電とも呼ばれるPECVD法によって達成される。
【0110】
所与の物質の蒸着のための基本的な必要条件は、この物質がガス状の凝集状態で提供されることができなければならないということであり;このことは、いわゆる前駆体、すなわち、所与の温度で特定の蒸気圧を有さなければならない、且つ蒸着されるべきである化学的に結合した形態の物質に含有する化合物を用いて達成されることが多い。この方法では、使用される蒸着媒体は既にガス相であるので、反応チャンバーの外に位置するガス供給系から反応チャンバーの中へ容易に導入され、プラズマに供給されてもよい。従って、炭素含有コーティングを作製するための前駆体として、たとえば「ダイヤモンド様炭素」("diamond like carbon")(DLC)又は炭素含有ガスアセチレン(C22)又はメタンが使用される。シリカコーティングを作製するためには、たとえば、テトラメチルシラン(TMS)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はテトラメトキシシラン(TMOS)が好適である。たとえば、TiO2、Al23及びZrO2の蒸着には、追加の好適な前駆体が存在する。
【0111】
前駆体がプラズマの放電ゾーンに搬送され、そこでガスが加速されるイオンに分かれる。たとえば、テトラメチルシランを用いてシリカコーティングを作製するためには(しかしながら、アセチレンを用いた炭素含有コーティングを作製するためではなく)、前駆体における考えられる有機分画を燃焼させるために同時に酸素を搬送することが多い。
【0112】
次いでガスイオンが被覆される加工対象物の表面と高速で衝突し、そこで、それらは還元され、当該コーティングを形成する。表面の物質とコーティング物質の間でコーティングの物質への永続的な結合を保証する共有結合が形成されることが多い。
【0113】
従って、C−C結合及びC−H結合の均等分裂によってポリプロピレン表面にてプラズマ中でポリプロピレン(PP)上にラジカルが生じる。これらのラジカルは、たとえば、コーティング物質の酸素、珪素又は炭素と共有結合を形成してもよい。
【0114】
コーティング物質はこのようにしてポリプロピレン表面と共有結合する。前駆体としてのTEOSを用いたSiO2コーティングの場合、PPへの共有結合はSi−O−Cの結合及びSi−Cの結合を介して生じる。前駆体としての有機モノマーの場合、PPへの共有結合は、たとえば、C−C結合及びC−O−C結合を介して生じる。
【0115】
しかしながら、共有結合が形成されない場合でさえ、この方法で非常に耐久性のあるコーティングが達成される。
【0116】
PECVD法は、また、プラズマ中のガス相にて有機ポリマーが生成され、基材に蒸着されることを可能とする。この場合、たとえば、無水マレイン酸、アクリレート、ビニルシラン及びそのほかの重合可能な前駆体(モノマー)のようなモノマーを使用してもよい。キャリアガス中では酸素なしで済ませ、有機構成成分の酸化を防いでもよい。
【0117】
しかしながら、この方法を用いて直接アニオン交換体層を生じるシラノール基含有層を蒸着してもよい。前駆体、アミノプロピルトリメトキシシランによって、たとえば、PECVD層にてシラノール基及びアニオン交換体基の直接的製造が可能である。
【0118】
好適な前駆体の選択によってカルボキシル基を含有するシリカ層も作製してもよい。
【0119】
前駆体、ビニルトリメトキシシラン及び無水マレイン酸を用いてポリプロピレン上にカルボキシル基を含有する層も作製してもよい。
【0120】
PECVD法を用い、酸素を添加したガス相において、相応する前駆体(金属アルコキシド及び半金属アルコキシド)から同様に金属酸化物及び半金属酸化物を作製し、たとえば、ポリプロピレン上に蒸着させてもよい。
【0121】
金属アルコキシド及び半金属アルコキシドに加えて、たとえば、アクリレートのガス相ポリマー及びそのほかの不飽和化合物を作製し、PECVDを介してその場(in situ)で被覆してもよい。モノマー(たとえば、HEMA、アクリル酸、無水マレイン酸など)及びビニルシランの適切な選択によって、たとえば、無水マレイン酸及びシラン(ビニルシラン)のような有機モノマーの混合コポリマーをポリプロピレン上に蒸着させてもよい。この場合、カルボキシル基並びにシラノール基を有するポリマーが作製される。
【0122】
ヒドロキシル基(ジェミナル、近接の)、ジオール基、カルボキシル基、アミノ基及びシラノール基は特に、ポリプロピレン上に水素架橋供与体特性を有する表面物質を提供するための好適な化学官能である。
【0123】
本発明の範囲内で、無水マレイン酸及びビニルシランのコポリマーもその場(in situ)で作製してもよい。この前駆体混合物がPECVDを介してガス相で重合可能であるのに十分な蒸気圧を有し、ポリプロピレン、すなわち、反応容器の物質上によく付着する層を形成することは有利である。
【0124】
PECVDを介してスルホン基を蒸着させるための前駆体として、たとえば、スチレンスルホン酸を用いてもよい。
【0125】
上述のCVD法とは対照的に、PECVD法では、温度はほぼ室温のままである。従って、PECVD法は、本発明に係る反応容器に使用されることが多いプラスチック、たとえば、ポリプロピレン及びポリエチレンのコーティングに適する。
【0126】
本発明の発明者らはまた、好適なコーティング装置を用いて、テトラエトキシシランと、ビニルシラン及び無水マレイン酸のカルボキシル基含有コポリマーとを前駆体として用いて微量反応容器、特にPCR反応容器(「8連ストリップ」、96穴プレート、マルチタイタープレート)、使い捨て反応容器及びピペットのチップの内部表面を被覆してもよいことも明らかにした。相当する装置を図7に示す。
【0127】
説明された装置は並行の配置で使用されてもよいので、複数の反応容器を同時に被覆することが可能である。
【0128】
例えば、ゾルゲル法はシアノール基を物質に適用するのに好ましい湿式化学法である。前駆体を規定された量の水及び考えられる触媒と一緒に溶媒、たとえば、水に溶解する。テトラエトキシシラン(TEOS)は二酸化珪素前駆体として好ましくは使用される。
【0129】
しかしながら、たとえば、物質がガラスである場合、本発明自体に係る反応容器の物質の特性によって本発明に係るシラノール基が決定されることが特に提供されてもよい。
【0130】
本発明によれば、反応容器は、
a)PCR容器、PCR8連ストリップ若しくはPCR96穴プレート、
b)キャピラリー若しくは微量流体チャンネル(microfluid channel)、
c)使い捨て反応容器
d)ピペットチップ及び/又は
e)マルチタイタープレート
を含む群からの容器であることも好ましく提供される。
【0131】
参照される微量反応容器は、たとえば、0.1〜2mLの体積を有し、口語用法でPCR反応容器(エービーアイ(ABI)、サーモ(Thermo)など)とも呼ばれてもよい任意に密封可能な容器であってもよい。これらの容器は一般にポリプロピレン、ポリエチレン、COC、PET又はポリカーボネートからできている。
【0132】
これはまた、参照されるピペットチップにも同様に適用され、それは一般に自動ピペット(口語用法で「エッペンドルフピペット」とも呼ばれることが多い)と併せて使い捨て物品として使用される。
【0133】
マイクロタイタープレートは、本発明の意味の範囲内で複数の反応容器(「ウエル」)を有する単位である。そのようなマイクロタイタープレートは一般に6〜1536のウエルを有する。典型的なマイクロタイタープレート形式を表2に示す。
【表2】

【0134】
加えて、上述のような方法を実施するためにキットが提供され、該キットは、少なくとも
a)結合バッファー、
b)洗浄バッファー、
c)試料調製工程、好ましくは逆転写(RT)を実施するための任意の試薬、
d)後続の反応、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施するための任意の試薬、及び
e)任意で上記記載に係る少なくとも1つの反応容器を有する。
【0135】
洗浄バッファーは、水、トリス、錯化剤、ポリオール、洗浄剤(デタージェント)及びポリマー、コポリマー及び/又はターポリマーを含有することも好ましく提供される。
【0136】
結合バッファーはカオトロピック物質を含有することも好ましく提供される。これは特に好ましくは、
・塩酸グアニジン
・(イソ)チオシアン酸グアニジニウム
・ヨウ化ナトリウム
・ヨウ化カリウム
・(イソ)チオシアン酸ナトリウム及び/又は
・尿素
又はこれらの混合物を含む群から選択される少なくとも1つの物質である。
【0137】
アニオン交換体表面にcDNAを結合するための結合バッファーは好ましくは低塩バッファーである。表面又は表面基のpK値を下回るpHは好ましくは、結合工程でアニオン交換体が正の表面電荷を有するように設定されるので、負に荷電した核酸を結合することができる。
【0138】
また提供されるのは、試料における生体分子の含量を正規化するための、本発明に係る反応容器及び/又は本発明に係るキットの使用である。
【0139】
これには好ましくは、RNA、好ましくはmRNAからの逆転写(RT)によって反応容器にて作製されているcDNAが関与し、該cDNAは次いでポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に供される。
【0140】
上述の構成成分及び本発明に従って使用される例となる実施態様において主張される及び記載される構成成分は、その大きさ、形状、物質選択又は技術的設計に関して特定の例外の対象とはならないので、アプリケーションの分野で既知の選択基準は無制限の適用を有する。加えて、以下の実施例は、本特許出願の保護の範囲に限定的な影響を有さず、それは、クレームに基づいてのみ定義される。
【0141】
図面と実施例
本発明の主題のさらなる詳細、特徴及び利点は、サブクレームから生じ、関連する図面及び実施例の以下の記載から生じるが、その際、本発明の複数の例となる実施形態及びアプリケーションの分野は実施例により説明される。
【0142】
図1は、本発明に係る反応容器で使用するためのヒト全血に由来するパックスジーン(PAXGene)RNAのCT値を照合するための図を示す。
図2は、本発明及び比較例に係る反応容器で使用するためのヒト全血に由来するパックスジーン(PAXGene)RNAのCT値を照合するための図を示す。
図3は、本発明及び比較例に係る反応容器で使用するためのヒト全血に由来するキアアンプ(QIAamp)RNAのCT値を照合するための図を示す。
図4は、本発明及び比較例に係る反応容器で使用するためのジャーカット(Jurkat)細胞に由来するキアアンプ(QIAamp)RNAのCT値を照合するための図を示す。
図5は、本発明に係る反応容器及び異なったインキュベート時間で使用するためのジャーカット(Jurkat)細胞に由来するキアアンプ(QIAamp)RNAのCT値を照合するための図を示す。
図6は、本発明に係るワークフローの一般的なパターンを示す。
図7は、本発明に従って官能化される表面を反応容器の内部に適用するための装置70を示す。
【0143】
以下の例となる実施形態を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、それらに限定されることは意図されない。
【実施例】
【0144】
(実施例1)
以下の手順を実施した:
本発明に従って使用される表面を修飾した反応容器(バイオザイム(Biozym)からのPCR容器、0.2mL、薄壁、PCRソフトストリップ)を大気圧プラズマ中にてテトラエトキシシラン(TEOS)で被覆した。
【0145】
実施した試験では、ヒト全血由来のパックスジーン(PAXGene)RNA及びキアアンプ(QIAamp)RNA、並びにジャーカット(Jurkat)細胞に由来するキアアンプ(QIAamp)RNAを用いた。キアゲン(QIAGEN)のクオンティテクト(QuantiTect)キットとオムニスクリプト(Omniscript)キットを利用し、ポリdTプライマーを用いて逆転写を行った。
【0146】
6MのGuHCl、0.1Mのフタル酸水素カリウム(pH2.5)を結合バッファーとして用い、TEバッファーにおいて2%ノニデット(Nonidet)(登録商標)P40及び0.1mg/mLのポリ(メチルビニルエーテル−アルト−マレイン酸)(poly(methylvinyl ether-alt-maleic acid)を洗浄バッファーとして用いた。エービーアイ(ABI)のタックマン(TaqMan)(登録商標)β-アクチン試料キットを用いてABI7700にてPCRを行った。
【0147】
試験のプロトコールを表3に示す。
【表3】

【0148】
ナノドロップ(Nanodrop)ND−1000分光光度計を用いて、逆転写に使用したRNAをあらかじめ定量した。
【0149】
対照として、それぞれの場合で、被覆されていないPCR容器におけるRTアッセイのアリコートを試験し、RT反応のアリコートをピペットで直接PCRマスターミックスに入れた。
【0150】
PCR実験のそれぞれにて8重の測定を行い、すなわち、定められた値は8つの個々の値の平均に相当し、誤差バーは標準偏差を示す。
【0151】
(実施例2)
図1は、ヒト全血からのパックスジーン(PAXGene)RNAのクオンティテクト(QuantiTect)cDNA合成に由来するcDNAについて実施されたタックマン(TaqMan)(登録商標)の結果を示す。使用したRNAの量は、小さな範囲内(113〜293ng)で変化した。
【0152】
結果は驚くべきことに、本発明に係る反応容器を使用する場合、使用したRNAの135ngから180ngへの推移の後、18.4〜19.1の間の相対的に均一なCTレベル、従ってCT値の正規化が達成されたことを示す。
【0153】
(実施例3)
図2は同様にヒト全血からのパックスジーン(PAXGene)RNAのクオンティテクト(QuantiTect)cDNA合成に由来するcDNAについて実施されたタックマン(TaqMan)(登録商標)の結果を示す。RNAの量は150〜450ngの間で変化し(カラム1〜5)、さらに各場合で、逆転写のアリコートを、PCRマトリクスを含有する未処理の容器にピペットで入れた(カラム6〜10)。これらのアリコートについて、その中に含有されるRNAの出発量が示されている。使用したRNAの量は最初の実施例に比べてさらに広い範囲にわたって変化した。
【0154】
結果は、本発明に係る反応容器を使用する場合、150〜450ngのRNAの使用について、17.9〜18.9の間の相対的に均一なCTレベル、従ってCT値の正規化が同様に達成されたことを示す。未処理の反応容器における対照試験は予想どおり、逆転写に出発材料として使用されるRNAが多ければ多いほど、相当するCT値の低下が大きかったことを示している。
【0155】
(実施例4)
図3は、ヒト全血からのキアアンプ(QIAamp)RNAのオムニスクリプト(Omniscript)のcDNA合成に由来するcDNAについて実施されたタックマン(TaqMan)(登録商標)の結果を示す。RNAの量は100〜1100ngRNAの間で変化し、対照試験は同様に非被覆容器で実施した。
【0156】
結果は、本発明に係る反応容器を使用する場合、100〜1100ngのRNAの使用について、17.2前後の相対的に均一なCTレベルが存在したので、CT値の正規化が同様に達成されたことを示す。未処理の反応容器における対照試験は予想どおり、逆転写に出発材料として使用されるRNAが多ければ多いほど、相当するCT値の低下が大きいことを示した。
【0157】
(実施例5)
図4は、ジャーカット(Jurkat)RNAのオムニスクリプト(Omniscript)のcDNA合成に由来するcDNAについて実施されたタックマン(TaqMan)(登録商標)の結果を示す。RNAの量は100〜1100ngのRNAの間で変化し、対照試験は今一度非被覆容器で実施した。
【0158】
結果は、本発明に係る反応容器を使用する場合、100〜1100ngのRNAの使用について、CT値の正規化が達成されたことを示す。未処理の反応容器における対照試験は今一度、逆転写に出発材料として使用されたRNAが多ければ多いほど、相当するCT値の低下が大きいことを示した。
【0159】
(実施例6)
図5は、ジャーカット(Jurkat)RNAのオムニスクリプト(Omniscript)のcDNA合成に由来するcDNAについて実施されたタックマン(TaqMan)(登録商標)の結果を示す。RNAの量は100〜800ngRNAの間で変化した。さらに、異なったインキュベート時間を選択した、すなわち、100〜400ngのRNAについては240分間及び500〜800ngのRNAについては20分間。
【0160】
結果は驚くべきことに、インキュベート時間を20分間から240分間に延ばすことによって、最低量のRNA(100ng)のCT値を、20分のインキュベート時間を用いた大量のRNA(500〜800ng)の飽和のレベルに持っていくことが可能だったことを示す。この実施例から、使用したRNAの300〜400ngの平均量と240分間の長いインキュベート時間について、相対的に低い15.9のCTレベルにて飽和が達成されたことも明らかである。
【0161】
図6aは、試料調製工程2、結合及び正規化の工程3、洗浄工程4並びに後続の反応6を含む、本発明に係るワークフローの一般的なパターンを示す。後続の反応には任意で第2の結合及び正規化の工程並びに第2の後続の反応(表1を参照)が続いてもよい。
【0162】
図6bには参照されるワークフローがPCRストリップでも実施されてもよいことを示す。
【0163】
図7は、本発明に従って官能化される表面を反応容器の内部に適用するための装置70を示す。
【0164】
参照される装置は平坦な電極72が設置されるチャンバー71を有する。チャンバーはまた、前駆体ガス73のためのガス導入装置、及びコーティング電極74も有する。前駆体ガスはたとえば、テトラエトキシシラン(TEOS)である。ガス導入装置73とコーティング電極74とを図7に係る装置において合わせ、その形状が被覆される反応容器75の内部に適合されている複合装置を形成する(本件では、口語用法では「エッペンドルフ容器」と呼ばれる0.2mLの体積を有するポリプロピレンのPCR微量反応容器)。
【0165】
次いで、周波数発生器76を用いて平坦な電極72とコーティング電極74との間に高周波交流電圧(たとえば、13.56MHz)を適用し、反応容器内部にてプラズマが発生する。プラズマは前駆体ガスの結合の切断を生じ、基材上に蒸着し、その位置でシリカ分子の化学蒸着反応をもたらす個々のラジカルにそれを分解する。
【0166】
本発明に従って官能化された反応容器を使用する場合、この方法で作製される官能化された表面は生体分子の反応容器内部への結合を生じる(たとえば、カオトロピック塩の存在下で官能化表面上のシラノール基への核酸の結合)。
【0167】
説明される装置はまた、複数の反応容器、たとえば、複数の「エッペンドルフ容器」又はたとえば、複数のウェルを有するマルチタイタープレートの同時コーティングにも好適である。
【0168】
反応容器の被覆される表面の大きさは本質的に電極の大きさの関数であり、0.2mLのPCR容器では10mm2〜300mm2であってもよい。
【0169】
(実施例7)
大気圧下にてPECVD法を用いて0.2mLの体積を有するポリプロピレンのPCR容器をテトラエトキシシランで被覆した。核酸の500ngまでの結合能が達成された。
【0170】
PECVD法については、他の因子の中でも互いに対する電極(陰極、陽極)の大きさ及び位置決めによって、コーティングの間に作製される表面は規定される。本件では、大きさはおよそ150mm2だった。
【0171】
(参照文献)
・バートレット(Bartlett)及びスターリング(Stirling)(2003), メソッドス・イン・モレキュラー・バイオロジー(Methods Mol. Biol.)226:3-6
・サノら(Sano et al.)(1992), サイエンス(Science) 258, 120-122
・バーチら(Birch et al.)(1996),ネイチャー(Nature)381, 445
・ボゲルステイン(Vogelstein)及びギレスピー(Gillespie)(1979), 米国科学アカデミー紀要(PNAS)76: 615-619
・ブームら(Boom et al)(1990),ジャーナル・オブ・クリニカル・マイクロバイオロジー(J. Clin. Microbiol.) 1990 3月(Mar); 28(3):495-503
・コンプトン(Compton)(1991),ネイチャー(Nature)350, 91
・ヒル(Hill)(2001),エキスパート・レビュー・オブ・モレキュラー・ダイアグノスティックス(Expert Reviews of Molecular Diagnostics) 1, 445

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を有する、試料における生体分子の含量を正規化するための方法:
a)容器表面が高塩条件下で生体分子を可逆的に結合できるように少なくとも定位置で、好ましくは容器の内部で官能化されている容器表面を有する反応容器を提供すること、
b)少なくとも1つの試料調製工程を実施すること、
c)高塩条件下で、調製された試料からの生体分子を容器表面に結合させること(「結合及び正規化の工程」)、
d)任意に洗浄すること(「洗浄工程」)、及び
e)少なくとも1つの後続の反応を実施すること。
【請求項2】
前記生体分子が核酸であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの試料調製工程が以下を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法:
・細胞溶解、
・細胞変性、
・生体分子の単離、
・生体分子の精製、
・DNAへのRNAの逆転写及び/又は
・酵素反応及び/又は試料の処理。
【請求項4】
前記少なくとも1つの後続の反応が以下を含む群から選択されることを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の方法:
・増幅反応、
・酵素結合免疫アッセイ(ELISA)及び/又は
・ハイブリッド捕捉アッセイ。
【請求項5】
前記増幅反応が以下の群から選択される反応であることを特徴とする、請求項4に記載の方法:
・ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、
・逆転写(RT)、
・ループ介在型等温増幅(LAMP)、
・核酸配列に基づく増幅(NASBA)、
・ローリングサークル連鎖反応(RCCR)又はローリングサークル増幅(RCA)、
・転写介在型増幅(TMA)、
・リガーゼ連鎖反応(LCR)、
・ネストPCR及び/又は
・免疫PCR。
【請求項6】
a)結合及び正規化の工程において結合バッファーが使用され、及び/又は
b)洗浄工程において洗浄バッファーが使用される
ことを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも定位置で官能化されている容器表面が、
a)シラノール基、
b)不飽和有機酸、
c)カルボキシル基、スルホネート基及びそのほかの極性基、及び/又は
d)ヒドロキシル基を含有する金属酸化物及び半金属酸化物
を含有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記請求項のいずれか1項に記載の方法を実施するための反応容器であって、容器表面が参照されるプロセス条件下で生体分子を可逆的に結合できるように、反応容器が少なくとも定位置で好ましくは容器の内部で官能化されている容器表面を有することを特徴とする、上記反応容器。
【請求項9】
少なくとも定位置で官能化されている容器表面が、
a)シラノール基、
b)不飽和有機酸、
c)カルボキシル基、スルホネート基及びそのほかの極性基、及び/又は
d)ヒドロキシル基を含有する金属酸化物及び半金属酸化物
を含有することを特徴とする、請求項8に記載の反応容器。
【請求項10】
請求項9に記載の官能基が、
a)プラズマコーティングによって反応容器の物質に適用され、
b)湿式化学法によって反応容器の物質に適用され、及び/又は
c)反応容器自体の物質の特性によって規定される
ことを特徴とする、請求項9に記載の反応容器。
【請求項11】
前記請求項のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキットであって、少なくとも
a)結合バッファー、
b)洗浄バッファー、
c)試料調製工程、好ましくは逆転写(RT)を実施するための任意の試薬、
d)後続の反応、好ましくはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施するための任意の試薬、及び
e)任意に請求項8から10のいずれか1項に記載の少なくとも1つの反応容器
を有する、上記キット。
【請求項12】
洗浄バッファーが、水、トリス、錯化剤、ポリオール、洗浄剤及びポリマー、コポリマー及び/又はターポリマーを含有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載のキット又は方法。
【請求項13】
結合バッファーがカオトロピック物質を含有することを特徴とする、前記請求項のいずれか1項に記載のキット又は方法。
【請求項14】
カオトロピック物質が以下を含む群から選択される少なくとも1つの物質であることを特徴とする、請求項13に記載のキット又は方法:
・塩酸グアニジン
・(イソ)チオシアン酸グアニジニウム
・ヨウ化ナトリウム
・ヨウ化カリウム
・(イソ)チオシアン酸ナトリウム及び/又は
・尿素
又はこれらの混合物。
【請求項15】
試料における生体分子の含量を正規化するための、前記請求項のいずれか1項に記載の反応容器及び/又はキットの使用。
【請求項16】
RNA、好ましくはmRNAからの逆転写(RT)によって前記反応容器において作製されているcDNAの含量を正規化するための、前記請求項のいずれか1項に記載の反応容器及び/又はキットの使用であって、cDNAが次いでポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に供される、上記使用。
【請求項17】
前記請求項のいずれか1項に記載の方法工程を有する、生体分子、好ましくは核酸、特に好ましくはRNAを検出するための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−502642(P2012−502642A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527310(P2011−527310)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061990
【国際公開番号】WO2010/031784
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】