説明

試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法

【課題】試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法を提供する。
【解決手段】燐光物質を試料内に分布させる段階と、
該試料内の前記燐光物質を光励起させ、これより発光する燐光の強度の経時変化を測定する段階とからなる、
前記試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法及び該方法に使用する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燐光物質の燐光寿命を測定することにより、試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法及び該方法に使用する装置に関する。詳細には、燐光物質を試料内に分布させる段階と、該試料内の前記燐光物質を光励起させ、これより発光する燐光の強度の経時変化を測定する段階とからなる、前記試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法及び該方法に使用する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人や動物といった生体にとって酸素は必要不可欠であり、酸素の取り込みや消費状況を把握することは健康状態や疾患を知る手段の一つである。現状の方法としては、血液中のヘモグロビン濃度や酸素飽和度を測定する方法や、微小循環系血管中で直接Pdポルフィリンといった燐光プローブを用いて燐光寿命を測定することにより微小血管中の酸素分圧や局所部の酸素分圧を測定するとともに血流速度の測定へと応用する方法などは知られている。この方法は、血中の酸素濃度を測定する方法であり、組織中の酸素濃度を測定する方法ではなく、それに組織全体にどうのように酸素が分布しているのかを測定することはできず、さらには組織を構成する各細胞が酸素を取り込んでいるのかを測定することもできない。生命体は、細胞が多数集まることにより組織を形成し、生体を形成していることからも各組織・臓器を構成する細胞の健康状態をしることが、より生体の健康状態や疾患状況を把握できるものと考えられる。しかしながら、上記の方法では組織中に流れている血液の酸素状況を把握するものであり、疾患を生じる原因を探る方法としては有効な方法である。しかし、組織・臓器を構成する細胞の酸素濃度すなわち活性状況を必ずしも知る方法はないのが現状であった。
【0003】
細胞の酸素消費状況を測定する方法としては、溶液中にて細胞を培養した容器中の酸素濃度と細胞を含まない溶液を含む容器内の酸素濃度を測定してその差を比較することにより細胞の酸素消費を把握する方法が知られている。しかしながら、この方法では間接的に溶液中に存在する多数の細胞が全体で消費する酸素消費量を知ることはできるが、実際に個々の細胞がどの程度酸素を取り込んで、どのように消費しているかは把握できない。また、細胞の真の活性状況を知るためには、個々の細胞の取り込み量とその細胞内で酸素がどのように酸素を消費するかを測定する必要がある。
【0004】
(i)細胞を蛍光物質で標識することにより、細胞の状態を知る方法の実用法としては、腫瘍細胞や腫瘍組織の診断薬が上げられる。この場合は、正常な組織を構成する体細胞と腫瘍細胞とを区別して、腫瘍細胞の存在を見出さなければならない。腫瘍細胞のみに蛍光物質を結合させて腫瘍細胞だけを光らせるだけでなく、蛍光物質の正常細胞への副作用などの作用も抑制しなければならない。蛍光物質を用いて腫瘍細胞や腫瘍組織を光らせようとする方法がいくつか報告されているが、単に蛍光物質を投与しただけでは、蛍光物質を正常な体細胞に結合させずに腫瘍細胞のみに結合させることはできず、場合によっては正常細胞に副作用を与えてしまう。特許文献6では、正常細胞より腫瘍細胞へ選択的に結合する化合物の創製が行われてはいるが、光照射により細胞を死滅させる作用を有する蛍光物質の使用だけに、腫瘍細胞への選択的に結合する機構を解明して正常細胞への結合がないことを明らかにして、蛍光物質自身の安全性を検討し、さらには生体への作用も検討していくなどの解決しなければいけない課題が多数有している。このように、診断法として安全性と有効性を両方の課題を同時に解決するものの創製研究が続いているのが現状である。
【0005】
(ii)その他の方法としては、生体組織から発生される蛍光を画像として撮像し、診
断前に測定した正常組織の画像の濃度を規格化しておき、その規格との差で腫瘍組織を検知する方法が知られている(特許文献5参照。)。この方法は、組織から発生する蛍光を測定するものであり、組織を構成する細胞が産生する生体分子またはその組織集散しうる生体分子が発する蛍光を測定するものと考えられる。通常、組織を構成する細胞の状態は、例えば増殖過程における細胞周期常態や分化過程、様々な活性状況にある細胞が存在しており、それぞれの状態にある細胞で産生する、または集散する生体分子は異なる。そのため、蛍光を撮影した画像の濃度だけでは、正確に正常組織と腫瘍組織との違いを把握するのは困難と考えられる。この課題を解決するには、組織を構成する個々の細胞や腫瘍組織を構成する腫瘍細胞の状態を直接的に測定する方法が考えられるが、この方法は組織全体を撮影するものであり、個々の細胞の発光を測定するには困難である。正常な体細胞と腫瘍細胞とを区別して個々の細胞を診断する方法としては、蛍光標識された抗体を用いて、腫瘍細胞の表面に存在する特定の蛋白質や特異的に発現する蛋白質、または特異的な遺伝子へ結合させて腫瘍細胞の存在を認識するものである。
【0006】
(iii)また、蛍光標識された抗体や酵素反応物または、発光性のある反応物を用いて腫瘍細胞に多く発現する酵素と反応させることによる診断方法も知られている。しかしながら、これらの方法で標的にする遺伝子、酵素、細胞表面に存在する蛋白質や細胞内の蛋白質は、特定の組織に出現する特定の腫瘍細胞にのみ特異的に発現または存在するものであり、または、細胞の増殖の過程における特定の時期に発現するものである。そのため、それぞれの臓器や組織にはそれぞれの特徴ある腫瘍細胞が出現し、かつそれぞれの臓器や組織ではいくつかの種類の腫瘍細胞出現する可能性がある。先に記した蛍光標識された抗体や酵素反応物を用いた診断法では、網羅性がなく特定組織や臓器に出現する特定の腫瘍細胞の存在を判断するには効果的であるが、出現している腫瘍細胞の種類や発現している部位が不明で広く診断していく場合には、腫瘍細胞や腫瘍組織の存在を判断するには極めて困難である(特許文献7ないし9参照。)。
【0007】
iv)細胞内や組織を構成している細胞内に存在する特定物質の濃度を測定しようとする場合、蛍光物質を用いる(非特許文献2参照)。発光物質は、蛍光物質と燐光物質の二種類ある。蛍光物質は酸素とは反応せず、燐光物質は酸素と反応する。細胞内に存在する特定物質のみの濃度を光励起物質の発光強度を用いて測定するには、酸素と反応しない蛍光物質で、さらに測定すべき特定物質とのみと反応する蛍光物質を見出して用いることになる。ただし、この場合は細部内への蛍光物質の取り込み量によって蛍光強度が異なる。そのため、正しく特定物質の濃度を測定するには蛍光の強度から求めることはできない。細胞内取り込まれた蛍光物質の光で励起された分子が特定物質と反応しての消失、すなわち蛍光の寿命を測定することで濃度を測定できる。しかしながら、このように蛍光物質を用いての細胞内に存在する特定物質の濃度を測定する方法のみ知られ、燐光物質を用いる方法はなく、かつ酸素濃度を測定する方法も知られていなかった。
【0008】
v)細胞内や組織を構成している細胞内に存在する特定物質の濃度を測定する方法を応用すると、その特定物質の細胞内分布も測定できる。細胞内の数箇所にて蛍光物質の寿命を測定すれば、測定する特定物質の分布を知ることができる。さらに、細胞内の蛍光物質が発する蛍光が消失する様子を画像として記録して細胞全体での蛍光の寿命を測定すれば、より簡便に分布状況を測定できる(非特許文献4参照。)。ただし、この場合も上記した特定物質の濃度測定と同様に、蛍光物質も用いた方法のみが知られており、燐光物質を用いた方法や酸素分布を測定する方法は知られていなかった。
【0009】
vi)酸素と反応する燐光物質すなわち酸素センサを用いて酸素濃度を測定する方法は知られている。光で励起された酸素反応性物質は、測定光を照射されるとこの測定光を吸収する。基底状態に落ちるにつれて測定光の吸収の度合いが低下する(非特許文献1参照。)。すなわち酸素の存在により励起状態の寿命が早まるので、酸素濃度をこの吸収強度
の低下として測定できる。しかし、この方法は細胞内や組織を構成する細胞の酸素濃度測定への応用は行われていなかった。以上のように、現状では細胞や組織を構成する各細胞の酸素濃度やその酸素分布の状態を測定する方法がないのが課題である。
【特許文献1】特開平11−37942号公報
【特許文献2】特公表2003−517342号公報
【特許文献3】特公表2002−534997号公報
【特許文献4】特公表2003−517342号公報
【特許文献5】特開2000−325295号公報
【特許文献6】特開平7−336557号公報
【特許文献7】特開2005−315862号公報
【特許文献8】特開2004−248575号公報
【特許文献9】特開2004−159600号公報
【非特許文献1】「バイオセンサ と バイオエレクトロニクス(Biosensor and Bioelectorinis)」 2003年 第18巻 p.1439−1445.
【非特許文献2】「アナリティカル ケミストリー(Analytical Chemistry)」 2004年 第76巻 p.2468−2505.
【非特許文献3】「スキャニング(Scanning)」 1992年 第14巻 p.155−159.
【非特許文献4】「テーシーブイジービーエッチ1(TCVBH1.DOC)」 2003年 2月p.1−41(http://www.becker−hickl.de/pdf/tcvghl.pdf).
【非特許文献5】電気学会化学センサシステム研究会資料 1998年 9月13日 CS−99巻、 26−42号、p35−38.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現行法では酸素と反応しない蛍光物質を用いていたため、生物試料における酸素濃度を測定することができなかった。本発明は、燐光物質を使用して、生物試料における酸素濃度を該燐光物質の分布に依存することなく測定できるようにすることを課題とし、さらには酸素濃度測定のみでなく、酸素濃度測定結果から酸素分布をも測定できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、燐光物質の燐光寿命を測定することで、生物試料における酸素濃度及び/又は酸素分布が該燐光物質の分布に依存することなく測定できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、
1.燐光物質を試料内に分布させる段階と、
該試料内の前記燐光物質を光励起させ、これより発光する燐光の強度の経時変化を測定する段階とからなる、
前記試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法、
2.前記試料は、単一細胞、細胞塊、細胞シート又は組織片である前記1.記載の方法、3.前記細胞が基本環境が低酸素状態にある癌細胞である前記2.記載の方法、
4.前記細胞が虚血性疾患又は虚血状態にある細胞である前記2.記載の方法、
5.前記燐光物質がポリフィリン系化合物である前記1.ないし4.の何れか1つに記載の方法、
6.前記燐光物質が金属原子を保有するポリフィリン化合物である前記5.記載の方法、7.前記燐光物質が白金ポルフィリンである前記6.記載の方法、
8.400nmから700nmのパルス光を用いて前記燐光物質を光励起する前記1.な
いし7.の何れか1つに記載の方法、
9.450nmから550nmのパルス光を用いて前記燐光物質を光励起する前記8.記載の方法、
10.前記光励起された燐光物質から発せられる燐光の強度の経時変化を画像化して測定するためにカメラ装置を使用する前記1.ないし9.の何れか1つに記載の方法、
11.前記燐光物質を試料内に分布させる手段、前記燐光物質を光励起するための光源、前記試料を観測するための顕微鏡及び燐光の強度の経時変化を画像化して測定するためのカメラ装置からなる、前記1.ないし10.の何れか1つに記載の方法に使用する装置、に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、生物試料、特に細胞内における酸素濃度を測定するために燐光物質を用いるのであるが、該燐光物質の燐光寿命により生物試料中の酸素濃度を測定することを特徴とするものであり、燐光物質の燐光強度により生物試料中の特定物質の濃度を測定しようとする従来の測定法とは異なる。
【0013】
燐光物質の燐光強度により生物試料内の酸素濃度を測定しようとする場合、該燐光物質の分布状態、即ち、該燐光物質の各部位における濃度の大小により燐光強度が変化するため必ずしも各部位における酸素濃度を反映しない場合があったのに対して、燐光寿命は、同一となるため、生物試料の各部位における該燐光物質の分布状態に依存しない。
そして、生物試料の各部位における、燐光物質と酸素との反応の結果である燐光強度の低下による燐光寿命の減少の程度を測定できれば、生物試料の各部位における酸素濃度を該燐光物質の分布状態に依存せずに決定することができることになる。
【0014】
本発明における燐光寿命の測定原理の概略図を図1に示した。
燐光物質を光励起すると燐光を発するが、その燐光強度は、時間の経過とともに減衰してゆき、最終的に消失する。この際、光励起後に一定の時間間隔で開くゲート等を設置し、経時的に燐光強度を測定することにより、その燐光強度の減衰から燐光寿命を算出することができる。
上記の原理を利用し、生物試料の各部位における燐光強度の経時変化から燐光寿命を測定すれば、各部位における酸素濃度が測定できることになり、これにより、前記生物試料における酸素分布を測定することもできる。
そして、上記のように、各部位における酸素濃度は、生物試料内の前記燐光物質の分布状態に依存しないものである。
前記燐光物質から発せられる燐光の強度の経時変化は、例えば、カメラ装置で記録し、該記録された画像を解析することにより測定することができ、また、該記録された画像は、画像間でフィッティング等を行うことにより、生物試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を画像化したものとして表示することができる。
これにより、前記燐光物質を播いた培地にて細胞を培養することにより、細胞内に前記燐光物質を取り込ませて、前記燐光物質を光励起させ、これより発光する燐光の強度の経時変化をカメラ装置で記録することにより、細胞内の酸素分布を測定でき、また、細胞内の酸素分布を視覚化することができる。
【0015】
細胞レベルでの細胞内酸素分布を測定する方法が知られていない現状において、本発明の方法にて細胞内酸素分布の測定を可能とすることは、細胞学、生物学、生化学や医学においては大きな効果をもたらすことが予想される。例えば、単一細胞での酸素取り込みから酸素の消費や細胞内での酸素の代謝過程や細胞の活性機構、または各細胞小器官での機能等で、新しい知見を得ることができ、また、単一細胞たけでなく、細胞シートや細胞塊、組織小切片、組織においても、これらを構成する細胞の単位で各細胞の活性状態を測定するとともに各細胞間での新しい学術的な知見を得ることが予想され、更には細胞に関る
産業に大きい効果をもたらすと考えられる。
【0016】
例えば、再生医療や移植治療などのように患者または他者の細胞を採取して培養して、患部に細胞移植する治療などでは、細胞内や組織内の酸素分布情報を得ることにより、培養するまたは培養した細胞や組織の健康状態や活性状況を把握できるなどの多くの情報が得られるとともに、培養する条件の確立にも活用できる。
【0017】
また、単に細胞の活性状態をしるだけでなく、診断分野に大きい効果をもたらすことが予想される。腫瘍組織は正常組織とはことなり低酸素状態にあり、腫瘍細胞は低酸素状態で生存して増殖している。一方、正常細胞は十分に酸素が存在している環境でなければ増殖も生存もできない。このような事実から、腫瘍細胞は正常細胞とはことなり少ない酸素の取り込みで十分に活性化して増殖することが予想でき、測定試験をおこなう細胞や組織の酸素濃度や分布を測定すれば腫瘍細胞または腫瘍組織を見つけることができるものと考えられる。
【0018】
虚血性の疾患の場合も血液が十分に行き届かずに酸素不足状態から生じてくる疾患である。現状の技術では、微小血管における酸素分布をみており、個々の細胞がどの程度酸素欠乏状況にあるかは把握できない。本発明を用いれば血管狭窄部位における真の酸素欠乏部位を見出すことができるとともに、現在の血管造影で造影できる血管の太さの限界を超えて酸素欠乏部位を検知することができることが考えられ、的確な治療を行なえるようになり患者にとっても大きな益を得ることができる。
本発明では細胞の酸素濃度や酸素取り込み消費状況を測定して細胞の活性状態を測定できることより、組織や臓器さらには生体の虚血状態になった時間帯や致死状態になってからの時間の予測値を算出することも可能になることが考えられる。
【0019】
さらに、医療の分野だけでなく、細胞を用いる産業としてバイオマス関連産業、醗酵による製造、細胞や細菌を持いた有機化合物、蛋白質、抗体、遺伝子の製造においても、製造に用いる培養細胞や細菌の活性状態を知るのにも役立ち、細胞や細菌の培養条件を検討することにより、前記製造においても有効に利用できる。
また、試料は生物試料に限定されず、試料中に何らかの形で酸素が取り込まれた試料であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に使用する燐光物質は、光励起して燐光を発する物質であり、励起状態において酸素と反応して燐光を消失する性質を有するものである。
該燐光物質としては、例えば、光化学酸素センサとして知られている燐光物質が挙げられ、具体的には、ピレン誘導体(ピレン、ペリレン等の多環式芳香族化合物、及びその誘導体等)、ルテニウム錯体(フェナンスロリン ルテニウム クロリド等の遷移金属錯体)、フタロシアニン錯体(白金、パラジウム、亜鉛等の金属錯体)及びポルフィリン系化合物(ポルフィリン、テトラベンゾポルフィリン、テトラナフトポルフィリン、テトラアントラポルフィリン、テトラニトロテトラベンゾポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリン、ピッケトフェンスポルフィリン及び金属原子を保有する前記のポリフィリン化合物が挙げられ、金属原子としては、コバルト、亜鉛、鉄、マンガン、スズ、イットリウム、ランタン、ルテニウム、パラジウム及び白金が挙げられる。)が挙げられ、好ましくはポルフィリン系化合物(ポルフィリン、テトラベンゾポルフィリン、テトラナフトポルフィリン、テトラアントラポルフィリン、テトラニトロテトラベンゾポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、テトラキスペンタフルオロフェニルポルフィリン、ピッケトフェンスポルフィリン及び金属原子を保有する前記のポリフィリン化合物が挙げられ、金属原子としては、コバルト、亜鉛、鉄、マンガン、スズ、イットリウム、ランタン、ルテニウム、パラジウム及び白金が挙げられる。)が
挙げられ、また、好ましくは、金属原子を保有するポリフィリン化合物(金属原子としては、コバルト、亜鉛、鉄、マンガン、スズ、イットリウム、ランタン、ルテニウム、パラジウム及び白金が挙げられる。)が挙げられ、また、好ましくは白金ポルフィリンが挙げられる。
【0021】
本発明に使用する試料としては、何らかの形で酸素が取り込まれた、測定可能な試料であれば特に限定はしないが、生物試料及び生物試料以外の試料が挙げられ、生物試料以外の試料としては、例えば、食品の包装内部における劣化状況の調査などに用いる試料等が挙げられる。
生物試料としては、測定可能な組織、臓器及び細胞であれば特に限定されないが、単一細胞、細胞塊、細胞シート及び組織片等が挙げられる。
好ましい試料としては、生物試料が挙げられ、また、腫瘍細胞、特に、基本環境が低酸素状態にある癌細胞及び虚血性疾患又は虚血状態にある細胞等が挙げられる。
【0022】
前記生物試料内に本発明に使用する燐光物質を分布させる方法としては、生物試料に本発明に使用する燐光物質を添加することにより行うことができるが、単に添加しただけでは、通常、細胞内には燐光物質が取り込まれない。
そのため、本発明に使用する燐光物質を細胞内に取り込ませる場合、通常、該燐光物質を添加した培地にて細胞を培養し、それにより培養細胞内に該燐光物質を取り込ませる。
上記培養における条件は既存の培養条件を用いることができる。
【0023】
本発明に使用する燐光物質を光励起させるための光源としては、パルス光が好ましく、具体的には、Nd:YAGレーザー、Nd:YLFレーザー、Nd:YVO4レーザー、
Ti:Sapphireレーザー、ガラスレーザー等の固体パルスレーザー、XeCl、KrF、ArFのエキシマレーザー等の気体パルスレーザー等が挙げられ、好ましくは、Nd:YAGレーザーが挙げられる。
照射する光の波長は、400nmから700nmのものであり、好ましくは450nmから550nmであり、より好ましい波長として、532nmが挙げられる。
細胞内に取り込まれた燐光物質を光励起させるために、例えばNd:YAGレーザーをパルス幅10nsで照射される。
【0024】
燐光の強度の経時変化を測定する方法としては、発せられた燐光をカメラ装置を用いて画像として記録し、該記録された画像を解析する事により、燐光の強度の経時変化を測定することができる。
カメラ装置としては、一般的な光学カメラを使用することもできるが、CCDカメラが好ましい。
また、燐光をカメラ装置を用いて画像として記録する場合、発せられた燐光を増倍するためのイメージ増強ユニット(イメージングインテンシファイア)等を使用するのが好ましい。
また、カメラ装置を用いて燐光の強度の経時変化を測定する場合、光源からの光照射の終了から一定時間でカメラ装置での画像の記録が行われるように、例えば、カメラ装置の受光部の前に光照射の終了から一定時間で開くゲート等を設置するのが好ましい。
【0025】
本発明の試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法に使用する装置としては、例えば、前記燐光物質を試料内に分布させる手段、前記燐光物質を光励起するための光源、前記試料を観測するための顕微鏡及び燐光の強度の経時変化を画像化して測定するためのカメラ装置から構成される。
前記試料を観測するための顕微鏡としては、倒立型顕微鏡が好ましい。
他の構成については、上述と同様のものを使用することができる。
【0026】
本発明の酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法に使用する装置の1例を図2を用いて説明する。
装置は、倒立型顕微鏡8(Nikon社製:EclipseTE2000−U)にて、励起光源としてNd:YAGパルスレーザー7(LaserCompact−Plus社製:Diode−Pumped Solid State Laser Model LCS−DTL−314−QT−20)を用いて、波長532nm、出力エネルギー>20μJ@1kHz、3μJ@10kHzでパルス幅<10nsの励起光を発生させる。この励起光をダイクロイックミラー3にて反射させて測定するサンプル1を照射する。光励起により発せられる燐光をゲート付きイメージングインテンシファイア4(Hmamatsu社製GaAsPイメージインテンシファイアユニット C8600)にてモニターして、コントローラ(C7350−275 AquaCosmos)を用いる。デジタルCCDカメラ5(Hamamatsu社製 Digital CCD Camera ORCA−ER C4742−95−12ER)を用いて記録する。この記録により、発せられる燐光の寿命を測定して、細胞の酸素濃度ならびにその酸素分布を測定できる。パルスレーザー7とイメージングインテンシファイア4のゲートをディレイジェネレーターで同期させ、パルス照射からゲートが開くまでの時間を少しずつ遅延させることで、燐光強度の衰退を直接測定することができる。遅延時間を変化させて得られた画像間でフィッティングすることで、燐光寿命分布、すなわち酸素濃度分布の画像化を行う。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
尚、以下に示す実施例は、図2で示される装置を用いて測定した。
実施例1
培養細胞としてHeLa細胞を用いた。
HeLa細胞は、10%FBS、炭酸水素ナトリウム 2.2 g、100 units / mlペニシリン、500 μg / mlストレプトマイシンを含むイーグルMEM培地で、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。
HeLa細胞への白金ポルフィリン(以下、PtTCPPと記載する。)の取り込みは、以下の方法で行った。HeLa細胞をφ35mmガラスベースディッシュに1 x 104個となるように継代
し、HeLa細胞をディッシュに接着させるために、37℃、5% CO2雰囲気下で一日以上インキュベートした。培地を取り除き、PBSで洗浄後、PtTCPPを所定濃度含むFBS不含イーグルMEM培地を2 ml加え、37℃、5%CO2雰囲気下で所定時間インキュベートした。インキュベート後、培地を除去し、PBSで二回洗浄後、FBS不含イーグルMEM培地を2 ml加えた。その後、
図2で示される装置を用いて測定した。
図3にパルス光照射前のHeLa細胞の明視野画像の写真を示した。
そして、図4〜7にパルス光照射後1μs、3μs、5μs、7μsのHeLa細胞における燐光の発光状態をそれぞれ記録した写真を示した。これらの写真より細胞の部位により、燐光強度の減衰が早い部位と遅い部位が存在することが判る。
【0028】
実施例2
実施例1と同様の手法により、MH134細胞にPtTCPPを取り込ませた。
その後、図2で示される装置を用いて測定し、その結果として得られた画像を図8に示した。
パルス光照射前のMH134細胞の明視野画像の写真を示した(図8の(a))。
PtTCPPは細胞全体に分布していた(図8の(b))。
遅延時間を変化させてリン光強度の減衰を測定し、得られた画像間でフィッティングして解析し、細胞内の酸素分布を画像化した結果を示した(図8の(c))。このように、本発明の生物試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法は、細胞内酸素濃度分布を視覚化して示すことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の酸素濃度の測定原理を示す概略図である。
【図2】本発明の酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法に使用する装置の1例を示す概略図である。
【図3】実施例1における、パルス光照射前のHeLa細胞の明視野画像の写真である。
【図4】実施例1における、パルス光照射後1μsのHeLa細胞における燐光の発光状態を記録した写真である。
【図5】実施例1における、パルス光照射後3μsのHeLa細胞における燐光の発光状態を記録した写真である。
【図6】実施例1における、パルス光照射後5μsのHeLa細胞における燐光の発光状態を記録した写真である。
【図7】実施例1における、パルス光照射後7μsのHeLa細胞における燐光の発光状態を記録した写真である。
【図8】実施例2における、MH134細胞を用いた細胞内酸素分布測定(a)明視野(b)蛍光像(c)細胞内分布測定を示す写真である。
【符号の説明】
【0030】
1 サンプル
2 対物レンズ
3 ダイクロイックミラー
4 ゲート付きイメージングインテンシファイア
5 CCDカメラ
6 ビームエキスパンダー
7 Nd:YAGパルスレーザー
8 倒立型顕微鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燐光物質を試料内に分布させる段階と、
該試料内の前記燐光物質を光励起させ、これより発光する燐光の強度の経時変化を測定する段階とからなる、
前記試料における酸素濃度及び/又は酸素分布を測定する方法。
【請求項2】
前記試料は、単一細胞、細胞塊、細胞シート又は組織片である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が基本環境が低酸素状態にある癌細胞である請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が虚血性疾患又は虚血状態にある細胞である請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記燐光物質がポルフィリン系化合物である請求項1ないし4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記燐光物質が金属原子を保有するポルフィリン化合物である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記燐光物質が白金ポルフィリンである請求項6記載の方法。
【請求項8】
400nmから700nmのパルス光を用いて前記燐光物質を光励起する請求項1ないし7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
450nmから550nmのパルス光を用いて前記燐光物質を光励起する請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記光励起された燐光物質から発せられる燐光の強度の経時変化を画像化して測定するためにカメラ装置を使用する請求項1ないし9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記燐光物質を試料内に分布させる手段、前記燐光物質を光励起するための光源、前記試料を観測するための顕微鏡及び燐光の強度の経時変化を画像化して測定するためのカメラ装置からなる、請求項1ないし10の何れか1項に記載の方法に使用する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−232716(P2007−232716A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24261(P2007−24261)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】