説明

試料の検査装置及び検査方法

【課題】液体に含まれた検査対象試料の観察又は検査を良好に行うことのできる試料検査において、装置のメインテナンスの向上を可能にする検査装置及び検査方法を提供する。
【解決手段】検査装置は、第1の面32aに液状試料20が保持される膜32と、膜32の第2の面32bに接する雰囲気を減圧する真空室11と、真空室11に接続され膜32を介して試料20に一次線7を照射する一次線照射手段1と、真空室11内において、膜32と一次線照射手段1との間の空間を部分的に仕切るシャッター4とを備え、一次線7の照射により試料20から発生する二次線である反射電子61をシャッター4に照射させることによって、三次的信号である二次電子62を発生させ、二次電子62を信号検出手段14により検出する。本装置は、真空室11内の圧力を検知する真空計15を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体に含まれた検査対象試料(検査対象物)や、液体の培地内で培養されて該培地内に存在する細胞等からなる検査対象試料の観察又は検査を良好に行うことのできる検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々生物は多細胞動物であり、細胞間の情報伝達が正常に行えなくなる事や、ウイルスや化学物質が細胞に取り付く事によって病気が発症する。このようなことから、分子生物学や、製薬分野では、生体から剥離した細胞をシャーレ(ディッシュ)上で培養し、その細胞に刺激(電気、化学物質、薬等)を与え、その反応を細胞レベルで観察することで研究を行っている。従来、このような観察には光学顕微鏡が使用され、細胞の刺激にはマニピュレータやピペットが用いられていたが、観察すべき重要な箇所は光学顕微鏡では観察不可能な0.1μm以下の微小領域であることも多い。
【0003】
例えば、細胞間の物質のやり取りが正常に行えなくなることに起因する病気に高血圧症、尿崩症、不整脈、筋肉疾患、糖尿病、うつ病等がある。この細胞間の物質のやり取りは細胞膜にある10nm程度の大きさのイオンチャンネルにより行われる。このようなイオンチャンネルは、光学顕微鏡では観察困難である為、分解能の高い走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」(Scanning Electron Microscope)という)を用いた観察が望まれていた。
【0004】
しかし、SEMの構成を備える検査装置において、検査対象となる試料は、通常、真空引きにより減圧された試料室内に配置される。そして、このように減圧雰囲気とされた試料室内に配置された試料に電子線(荷電粒子線)が照射され、当該照射により試料から発生する二次電子や反射電子(後方散乱電子)等の二次的信号が検出される。このようなSEMによる試料検査では、試料が減圧雰囲気に晒されることとなる。よって、試料から水分が蒸発して細胞が死んでしまい、生きた状態の細胞における刺激に対する反応を観察することは不可能であった。
【0005】
また、蛋白の固定された細胞(死細胞)においても、真空に試料を載置する際には、真空中での水分蒸発に伴う形状変化を防止する為、手間と、熟練の必要な脱水、乾燥、及び金属蒸着の前処理が必要であった。その為、観察までには膨大な時間が必要で、高スループット観察は不可能であった。
【0006】
従って、試料に水分が含まれた状態で検査を行う際には、試料から水分が蒸発しないように、試料を減圧雰囲気に晒さないようにする必要がある。このように試料が減圧雰囲気に晒されることなくSEMを用いて検査を行う例の一つとして、膜により開口(アパーチャ)が密封された試料容器(サンプルカプセル、もしくは密封型サンプルカプセル)の内部に試料を配置し、減圧雰囲気とされたSEMの試料室内に、このサンプルカプセルを設置する手法が考えられている。
【0007】
ここで、試料が配置されるサンプルカプセルの内部は減圧されない。そして、サンプルカプセルに形成された当該開口を覆う膜は、SEMの試料室内の減圧雰囲気とサンプルカプセル内の減圧されていない雰囲気(例えば、大気圧雰囲気)との間の圧力差に耐えられるとともに、電子線が透過するものとなっている(特許文献1参照)。
【0008】
試料検査を行う際には、まずサンプルカプセル内に細胞と共に培地を入れ、該膜上で細胞を培養させる。その後、減圧雰囲気とされたSEMの試料室内にサンプルカプセルを配置し、サンプルカプセルの当該膜を介して、サンプルカプセルの外部からサンプルカプセル内の試料に電子線を照射する。電子線が照射された試料からは反射電子が発生し、この反射電子はサンプルカプセルの当該膜を通過して、SEMの試料室内に設けられた反射電子検出器によって検出される。これにより、SEMによる像(SEM画像)が取得されることとなる。
【0009】
しかしながら、この発明では試料は閉じた空間内に封入させるので、マニピュレータやピペットを用いて細胞に刺激(電圧印加や試薬投与)を与えることは不可能であった。さらに、サンプルカプセル内に入れられる培地の量は15μl程度なので培地の蒸発にともなう塩濃度上昇により、細胞培養は困難であり、その細胞を生きた状態で観察・検査をする場合には問題があった。この問題は、サンプルカプセルを大きくし、中に入れられる容量を増加させることで解決可能である。しかし、膜が電子線や機械的な刺激に対し破壊された場合、大量の培地が流出して、装置内が培地で汚染されるという新たな問題が発生する。
【0010】
なお、このように真空と大気圧との圧力差に耐えられる膜を介して試料に電子線を照射し、試料から発生する反射電子を検出してSEM画像を取得する例は、非特許文献1(当該文献のChapter1 Introduction)にも記載されている。
【0011】
また、このような膜を対向して設置して一対の膜を構成し、該一対の膜の間に試料を配置して透過型電子顕微鏡による像を取得する例は、特許文献2及び特許文献3に記載されている。特に、特許文献2には、このような一対の膜を利用して、その間に配置された試料のSEM画像を取得する場合についても述べられている。
【0012】
さらに、特許文献4には、水分を含む試料を保持する膜の破壊が生じたときに、真空室内の汚染発生を防止するための開閉バルブを備える試料検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2004−515049号公報
【特許文献2】特開昭47−24961号公報
【特許文献3】特開平6−318445号公報
【特許文献4】特開2007−292702号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「Atmospheric scanning electron microscopy」 Green、 Evan Drake Harriman、 Ph.D.、 Stanford University、 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
細胞の微小領域を観察するためには、光学顕微鏡では分解能不足であり、SEMを用いた高分解能観察が必要である。液体を保持したまま細胞をSEMで観察する為には、従来技術においては、シャーレ上で培養していた試料(細胞)をサンプルカプセルに封入し、サンプルカプセルに備えられた膜を介して電子線を試料に照射することで像(試料像)を得ていた。
【0016】
しかし、サンプルカプセルは狭く閉じた空間である為、外部からマニピュレータやピペット等を用いて刺激(電圧印加や試薬投与)を与えた直後の様子を観察することが不可能であるという課題があった。さらに、サンプルカプセル内では、カプセル内の容量が少ないことから、水分の蒸発に伴う塩濃度上昇により細胞の長時間培養が困難で、細胞の長時間観察には問題があった。
【0017】
そこで、液体を含む試料を常圧の開放状態で膜の試料保持面(上面)に保持し、該膜における試料保持面の反対側の面(下面)に接する雰囲気を減圧状態とし、この減圧状態とされた雰囲気側から該膜を介して試料に電子線を照射することのできるSEMの開発が行われている。このようなSEMにおいては、膜の試料保持面に保持された試料は開放されているので、マニピュレータやピペット等によるアクセスが可能となる(特許文献4参照)。
【0018】
しかしながら、このような構成のSEMにおいて、膜の上下面に加わる圧力の差に起因して、膜の破壊が生じる場合がある。特許文献4に記載されたSEMの構成においては、真空室内における一次線照射手段と膜との間の空間を仕切るための開閉バルブを装置に設け、膜破壊が生じた場合には、当該開閉バルブを閉じるようにしている。しかし、このような開閉バルブの閉動作では、真空室内を完全に仕切るようにしているので、動作に時間がかかるという要改善点(課題)があった。
【0019】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、真空室内を部分的に仕切ることのできるシャッターを導入するとともに、試料からの二次線がこのシャッターに到達したときに該シャッターから発生する三次的信号を検出し、これにより検出された三次的信号に基づいて試料像を得るようにすることにより、シャッターの閉動作が速やかに行われて装置のメインテナンスが容易となり、かつシャッターの低コスト化を実現することのできる試料の検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に基づく検査装置は、第1の面に試料が保持される膜と、該膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され該膜を介して試料に一次線を照射する一次線照射手段と、該真空室内において該膜と該一次線照射手段との間に配置され、該一次線照射手段からの一次線が通過する構成を有するとともに、該膜と該一次線照射手段との間の空間を部分的に仕切るシャッターと、一次線の照射によって試料から発生する二次線が該膜を通過して該シャッターに到達し、これより該シャッターから発生する三次的信号を検出する信号検出手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明に基づく一の検査方法は、前記検査装置により試料の検査を行うことを特徴とする。
【0022】
本発明に基づく他の検査方法は、膜の第1の面に試料を保持する工程と、該膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する工程と、一次線照射手段により、該膜の第2の面側から該膜を介して試料に一次線を照射する工程と、一次線の照射により試料から発生した二次線を、該膜と該一次線照射手段との間の空間を部分的に仕切るシャッターに当てる工程と、これにより該シャッターから発生する三次的信号を検出する工程とを備えることを特徴とする。
【0023】
上記検査装置及び検査方法において、前記シャッターには、一次線が通過する構成として一次線通過用の孔が形成されていてもよく、膜の破壊時に真空室内に流入する試料を受け取る受け皿構造を有するとよい。該第一の面はアクセス可能なように開放状態で試料を保持してもよい。前記膜の破壊を検知する破壊検知手段とその検知により該シャッターを自動的に動作させ、該空間を部分的に仕切る機能を有する。この破壊検知装置は、前記膜の破壊に伴う前記真空室の圧力上昇を検知する。前記膜の第1の面が該膜の上面となっており、当該膜の第2の面が該膜の下面となっていてもよい。
【0024】
前記一次線は、荷電粒子線又は電子線であり、前記二次線は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであり、前記三次的信号は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、第1の面に試料が保持される膜と、該膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され該膜を介して試料に一次線を照射する一次線照射手段と、該真空室内において該膜と該一次線照射手段との間に配置され、該一次線照射手段からの一次線が通過する構成を有するとともに、該膜と該一次線照射手段との間の空間を部分的に仕切るシャッターと、一次線の照射によって試料から発生する二次線が該膜を通過して該シャッターに到達し、これより該シャッターから発生する三次的信号を検出する信号検出手段とを備えることを特徴とする検査装置、もしくは該検査装置を用いた検査方法に関し、装置のメインテナンスを容易にするものである。
【0026】
すなわち、該真空室内において、該膜と該一次線照射手段との間の空間を部分的に仕切るシャッター兼、三次的信号を発生させるシャッターを有する。これにより、膜が破れ、膜に保持された試料が真空室に流入したとしても、速やかにシャッターが一次線照射手段と膜との間を仕切り、試料による一次線照射手段の汚染を防止することができる。この場合、シャッターは汚染されるが、洗浄もしくは交換を行えばよい。
【0027】
シャッターの構造は単純であるため、コスト低減につながる。従来では膜が破損される度に装置内の洗浄が必要となったが、本発明により、その洗浄が容易もしくは不要(部品交換による)になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明における試料検査装置の第1実施例を示す概略構成図である(シャッター開状態)。
【図2】本発明における試料検査装置の第1実施例を示す概略構成図である(シャッター開状態)。
【図3】本発明における試料検査装置の第1実施例を示す概略構成図である(シャッター閉状態)。
【図4】本発明における試料保持体の構成を示す断面図である。
【図5】本発明における試料保持体を構成する枠状部材の概略図である。
【図6】本発明における試料保持体を構成する枠状部材の作成方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明における検査装置及び検査方法について説明する。
【0030】
図1は、本発明における試料検査装置の第1実施例を示す概略構成図である。構成の主部分は、光学顕微鏡27、マニピュレータ26、及び電子線装置部29(試料保持体40より下の部分)である。
【0031】
この図において、一次線照射手段である鏡筒1には、電子銃(電子源)2が配置されている。電子銃2から加速された状態で上方に向けて放出された一次線としての電子線(荷電粒子線)7は、集束レンズ(対物レンズ)3により集束される。
【0032】
これにより集束された電子線7は、試料保持体40に形成された試料保持膜32(後述)を介して、試料保持体40に保持された液状試料20に照射される。この液状試料20には、本実施例では、検査対象となる細胞38と培地39(それぞれ、図2を参照)が含まれている。
【0033】
鏡筒1の先端側は真空室11に接続されている。また、電子銃2が設けられた鏡筒1の基端側は真空室11の下方に位置している。この構成により、電子銃2から放出された電子線7は、鏡筒1内を上方向に進み、真空室11内の空間及び試料保持膜32を通過し、液状試料20に到達する。
【0034】
当該照射時において、電子線7は図示しない偏向手段により偏向され、これにより電子線7は液状試料20を走査する。このときには、液状試料20に含まれる細胞等の検査対象試料も電子線7により走査される。
【0035】
このように、この鏡筒1は、一次線照射手段を構成し、本実施例では倒立型鏡筒となっている。真空室11内であって鏡筒1の先端側には、シャッター4が設けられている。
【0036】
図2に、装置においてシャッター4が位置する部分の近傍の拡大図を示す。シャッター4は、液状試料20に電子線7を照射した際に、該試料20(細胞38及び培地39を含む)から発生する反射電子61が照射される位置に配置されている。当該反射電子61がシャッター4に到達する(照射される)と、シャッター4からは、二次電子62が発生する。シャッター4には、二次電子62が発生しやすいように、表面には金や酸化マグネシウム等をコーティングしておくとよい。
【0037】
なお、シャッター4には、電子線7が通過できる孔4aが形成されている。図1及び図2に示す状態では、シャッター4は、真空室11内において開状態となる位置となっており、シャッター4の孔4aは、鏡筒1から放出される電子線7の経路上に位置する。これにより、鏡筒からの電子線7は、孔4aを通過し、試料保持膜32を介して試料20に到達することとなる。
【0038】
シャッター4で発生した二次電子61は、検出器16によって検出される。検出器16は例えば、例えばPN接合を利用した半導体型検出器やYAG結晶等を用いたシンチレータ型検出器が用いられる。
【0039】
ここで再び、図1の説明に戻る。検出器16により検出された検出信号は、真空室11の外部に配置された画像形成装置22に送られる。画像形成装置22は、当該検出信号に基づいて、画像データを形成する。この画像データは、SEM画像(試料像)に対応する画像データとなる。当該画像データは、表示装置23に送られる。表示装置23は、送られた画像データに基づく画像を表示する。表示された画像は、SEM画像となる。
【0040】
また、画像形成装置22により形成された画像データは、必要に応じてコンピュータ25に送られる。コンピュータ25は、画像処理を当該画像データに対して施すとともに、当該画像処理の結果に基づく検査対象試料(検査対象物)についての判定を実行する。
【0041】
鏡筒1内は排気手段8により真空引きされて、所定の圧力まで減圧される。また、真空室11内は、排気手段9により真空引きされ、これにより所定の圧力まで減圧される。ここで、真空室11は、除振装置13を介して、架台10に載置されている。
【0042】
真空室11の上部には、試料保持体載置部12が設けられている。試料保持体載置部12には、電子線7を試料保持膜32に照射させるための孔12aが形成されている。この試料保持体載置部12には、Oリング21(図2参照)を介して、試料保持体40が載置されている。これにより、試料保持体40は真空室11に着脱自在に支持される。
【0043】
また、真空室11には、真空室11内の圧力を検知する真空計15が設置されている。鏡筒1先端と試料保持膜32の間には、前述したようにシャッター4が設けられており、シャッター駆動部14(図1及び図2では開放の状態)が動作することにより、真空室11内において鏡筒1から試料保持膜32へ向かう電子線7の経路を塞ぐようにシャッター4を移動させる(閉鎖の状態とする)ことができる。
【0044】
このシャッター駆動部14は、試料保持膜32が破壊され、真空計15が所定の圧力上昇を検知した際に自動的に図3のように移動し、電子線7の上記経路を塞ぐ。例えば、試料保持膜32が破壊され液状試料20が真空室11内に流入することで真空室が100Paより高い気圧になった場合、シャッター駆動部14を図3のように動作させる。これにより、真空室11内へ流入した液体試料20をシャッター4で受け止めることができ、鏡筒1や検出器16の汚染を防止する。シャッター4には図2のように液状試料を受け取る受け皿5が備え付けてあると多量の液体試料の流入に対応できる。
【0045】
シャッター4は、真空室11を上下2つの空間に完全ではなく、部分的に仕切る。その為、構造が簡単で動作も高速にできる。本実施例では、真空計15が圧力上昇を検知し、その後0.1秒でシャッターを動作する(図1の状態から図3の状態にする)ことが可能である。
【0046】
また、シャッター4の厚みも薄く出来るので、鏡筒1の先端と試料保持膜32の距離(SEMでのワーキングディスタンス)を縮め、高分解能を達成することも可能である。
【0047】
ここで、鏡筒1及び真空室11を備える電子線装置部29(シャッター4、シャッター駆動部14、真空計15、及び検出器16も含む)は電子線制御部24により制御される。また、試料保持体載置部12には、液状試料20(検査対象試料を含む)に刺激(電圧、化学物質、薬等)を与え、必要に応じて試料を移動させるマニピュレータ26と、試料20の観察やマニピュレータ26の位置を確認する光学顕微鏡27が載置されている。これらは制御部28で制御されている。
【0048】
なお、光学顕微鏡27と電子線7の光軸は一致しており、もしくは、光学顕微鏡27とSEM画像の視野中心は一致しており、光学顕微鏡の観察領域がSEM画像にほぼ一致させることができる。さらに、SEM画像の視野と光学顕微鏡27の視野調整は、マニピュレータ26や、試料保持体40が搭載されている試料保持体載置部12を移動させる(移動機構は図示していない)ことによって行う。
【0049】
本発明における検査装置は、電子線装置部29、マニピュレータ26、光学顕微鏡27、電子線制御部24、制御部28、画像形成装置22、及び表示装置23を備えており、各部とコンピュータ25が接続され、各部の情報がやり取りされることも可能である。
【0050】
試料保持体40は、図4のような構成となっている。この試料保持体40は、プラスチック又はガラスからなる皿状の本体部37と、電子線7が透過する試料保持膜32が設けられた膜保持体(枠状部材)18とから構成される。本体部37の内側に位置する凹部の底面は、試料保持面37aを構成する。この試料保持面37aは、開放されている。
【0051】
本体部37の試料保持面37aの一部(図4の例では中央部)には、貫通孔37bが形成されている。この孔37bの試料保持面37a側には、段差部37cが設けられている。この段差部37cに、膜保持体18が配置されている。膜保持体18は試料保持膜32を備えており、この試料保持膜32の第1の面32aは試料保持面37aを構成し、本体部37の試料保持面37aとほぼ面一となっている。これにより、試料保持体40の試料保持面37aの少なくとも一部は試料保持膜32により構成されている。
【0052】
また、孔37bの試料保持面37a側の反対側には、テーパ部37dが設けられている。このテーパ部37dは、試料保持面37aの反対側の面に向けて広がるように開いているテーパ構造となっており、その開き角度は90度〜120度に設定されている。
【0053】
さらに、試料保持体40の下面で真空雰囲気に晒され、電子線7が照射される可能性のある領域には、電子線7の照射に伴う帯電を防止するため導電膜301が形成されている。導電膜301は膜保持体18に接しており、電子線7の照射により蓄積された電荷を膜保持体18(シリコン製)を介して液状試料20へ逃がすことができる。この導電膜301があることにより試料保持体40の下面での帯電を低減させ、電子線7の軌道変位や、(電子線7が液状試料20に照射された際に発生する)反射電子の軌道変位により生ずるSEM画像の歪や輝度斑を防止することができる。
【0054】
また、電荷の蓄積を確実に防止するためには、液状試料20へのアース線の接続や、導電膜301を試料保持体載置部12と電気的に繋げておくことが有効である。導電膜301は、例えばアルミニウム、金、もしくは酸化インジウムスズ(ITO)を蒸着もしくはスパッタリングすることによって形成させても、銀ペーストで塗りつけてもよい。
【0055】
膜保持体18の構成を図5に示す。シリコン基板34に試料保持膜32が形成されており、この試料保持膜32の第1の面32a(図5では下面、図4では上面)は露出されている。この試料保持膜32の第1の面(試料保持面)32aには、培地等の液体(液体試料)39及び検査対象試料(細胞)38を含む液状試料20が配置される。第一の面32aは大気圧下にあるので、液状試料20からの水分の蒸発を極力抑えることができる。
【0056】
また、シリコン基板34の中央には開口34a(図5では上面、図1および図4では下面)が形成されており、この開口34aは、試料保持膜32により覆われている。ここで、試料保持膜32における第2の面32bの中央部は、該開口34aを介して真空室11の内部雰囲気に露出されている。
【0057】
次に、膜保持体18の作成方法を、図6を用いて説明する。まず、シリコン基板501にCVD(Chemical Vapor Deposition)を用いて窒化シリコン膜502、503を形成する(図6(a))。代表的な厚みは30nmである。この窒化シリコン膜502、503上にレジスト504、505を塗布する(図6(b))。レジスト505を、フォトリソグラフィー装置を用いてパターンニングし、レジスト505aを残す(図6(c))。レジストパターンをマスクとしてドライエッチングで窒化シリコン膜503を加工し、窒化シリコン膜503aを残す(図6(d))。このパターンをマスクとしてシリコン基板501をKOHでウエットエッチングし、開口510を作る(図6(e))。アッシングによりレジスト504、505aを除去し(図6(f))、膜保持体18が完成する。
【0058】
このようにして作成された膜保持体18は、図5の状態から上下反転され、試料保持膜32である窒化シリコン膜502の第1の面32aを上面とする。なお、第2の面32bを上面にすることも可能である。
【0059】
この膜保持体18を、試料保持体40を構成する本体部37に形成された孔37bの上記段差部37cに固着し、これにより試料保持体40を作成する(図4)。この固着には、エポキシ系、シリコーン系の接着剤等による接着、又は熱、超音波若しくはレーザによる融着によって行うことができる。これにより、膜保持体18は、本体部37の試料保持面37aにおける孔37bに対応する位置に固着される。
【0060】
また、本実施例では、本体部37と膜保持体18を組み合わせて試料保持体40を製作したが、本体部37に試料保持膜32を直接固着したり、本体部37と試料保持膜32を一体的に形成したりするようにしてもよい。さらに、試料保持膜32の第1の面32aを含む試料保持面37aに、試料付着用分子としての細胞接着分子(後述)を塗布することができる。
【0061】
ここで、窒化シリコン膜502の厚みは、10〜1000nmの範囲に設定される。なお、膜保持体18の試料保持膜32として用いられる膜としては、窒化シリコン膜の他に、酸化シリコン、窒化ボロン、ポリマー、ポリエチレン、ポリイミド、ポリプロピレン、若しくはカーボンからなる膜を用いても良い。これらの膜を用いた場合でも、その膜厚は10〜1000nmに設定される。上述した素材からなる試料保持膜32は、電子線7が透過するが気体や液体は透過しないものとなる。さらに、膜の両面で少なくとも一気圧の圧力差に耐えられる必要がある。なお、このような試料保持膜32は、その厚さが薄ければ電子線7の散乱が少なくなるので分解能が向上するが破損しやすくなり、また、その厚さが厚くなれば電子線7の散乱が増加して分解能が低下するが破損しにくくなる。好適な膜厚としては20〜200nmとなる。
【0062】
次に、本発明における検査方法について説明する。まず、図4のように試料保持体40を用いて、検査対象試料となる細胞38を培地39中で培養させる。細胞38をこのように培養させるには、予め細胞を培養してあるシャーレから試料保持体40へ植え接ぎを行う必要がある。それには、以下に示す通常の方法を用いる。
【0063】
まず、予め細胞の培養してあるシャーレ内から培地(例えばSigma社 D5796)を捨て、Tripsin+EDTA(ethylenediaminetetraacetic acid)混合液を当該シャーレの中に入れることで、このシャーレに吸着した細胞を剥がす。次に、剥がれた細胞を遠沈管に回収して培地を加え、Tripsinの活性を止めた後に遠沈させる。その後、遠沈管内から上澄み液を捨て、培地で攪拌する。その攪拌された液(細胞38を含む)の例えば1/10を試料保持体40に入れ、培地(液体試料)39を継ぎ足す。この状態で、培養室に静置後、数時間で試料保持体40の試料保持面37a(試料保持膜32の表面32aを含む)に細胞38が吸着し、増殖し始める。上記方法は細胞により異なり、一例として示した。これにより、試料保持体40内において、観察・検査対象である検査対象試料となる細胞38が培養され、培養された細胞38と培地39を含有する液状試料20が構成されることとなる。
【0064】
なお、細胞によっては試料保持体40の試料保持面37a、特に電子線による観察領域である試料保持膜32の第一の面(試料保持面)32aに細胞接着分子(試料付着用分子)を塗布しておくと培養が容易になる。細胞接着分子とは、培養のために配置された細胞及び培養により増殖した細胞を試料保持面に吸着させる作用を有し、例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、カドヘリン、インテグリン、クローディン、デスモグレイン、ニューロリギン、ニューレキシン、セレクチン、ラミニン、及びポリLリジンである。
【0065】
上述のように試料保持体40内で細胞が培養された後、試料保持体載置部12に当該試料保持体40を載置する。このとき、シャッター4は閉じられており、図3の状態になっている。続いて、排気手段8、9を用いて真空室11および鏡筒1内を所定の真空にする。例えば、真空室11内の圧力は、1Pa程度、鏡筒11内(特に電子銃2周囲)の圧力は、例えば、10−4Pa〜10−5Pa程度に設定される。
【0066】
次に、光学顕微鏡27で細胞38とマニピュレータ26の位置を確認する。マニピュレータ先端はガラス微小管(中に微小電極を設置)が設置してあり、微小電極による細胞への電圧の印加や、ガラス微小管による液体の流出及流入が可能になっている。
【0067】
この状態で、光学顕微鏡27で観察しながら細胞38とガラス微小管が近接するようにマニピュレータ26を移動させる。その後、ガラス微小管に負の圧力を掛けて細胞膜と密着させる。これにより、電位応答が測定可能となる。
【0068】
以上のようなマニピュレータ26の移動の際、誤って試料保持膜32を破損させ、真空室11内に液体試料20が流入することがあっても、シャッター4が閉まっているので、液状試料20をシャッター4で受け止め、鏡筒1の内部が汚染されることは無い。特に、シャッター4の閉状態において試料保持膜32の直下に位置する受け皿5によって液状試料20を受け止めることができるので、確実に液状試料20を受け止めることができるとともに、真空室11内部への汚染を最小限度に抑えることができる。これまでは、このような機構が無かった為、液状試料20は鏡筒1内に入り込み、鏡筒1内の洗浄が必要で、時には装置が使用不可能な状態になっていた。
【0069】
再び、観察の手順に戻る。液状試料20が載置された試料保持膜32が破壊されないことを確認した後、図1、2のようにシャッター4を開け、電子線7の経路を開ける。この状態では、真空室11内において、鏡筒1から放出される電子線7は、シャッター4の孔4aを通過して、試料保持膜32に到達可能な状態となる。これにより、電子線7を、試料保持膜32を介して試料20に照射させる準備ができる。
【0070】
その後、光が試料保持膜32を介して反射電子検出器4に入射させない為に、光学顕微鏡27の光の照射を止め、外光の遮蔽手段(図への記載は略)によって、外光の遮蔽を行う。この遮蔽は、膜保持体18や液状試料20に電子線7が照射した際に発生する放射線の防護の役目も果たしている。
【0071】
次に、図1、2のように鏡筒1から電子線7を液状試料20(細胞38を含む)に向けて照射して撮像を行う。電子線7は試料保持体40の試料保持膜32を透過して、検査対象試料である細胞38に照射され、当該照射に基づいて細胞38から発生する二次線としての反射電子(後方散乱電子)はシャッター4に照射され、これによりシャッター4から発生した三次的信号である二次電子62を検出器16で検出する。
【0072】
このとき、試料保持体40を構成する本体部37の孔37bには、上述したテーパ部37dが設けられているので、反射電子が孔37bの内側面に衝突して遮られることを極力防止することができ、シャッター4に当たる反射電子61の数を向上させることができる。
【0073】
検出器16からの検出信号は、画像形成装置22に送られる。画像形成装置22は、当該検出信号に基づいて、画像データを形成する。この画像データに基づいて、表示装置23は画像(SEM画像)を表示する。
【0074】
これに引き続き、細胞38に、マニピュレータ26の先端に設置してある微小電極を用いて電気刺激を加え、先ほどと同様にSEM画像を取得し、刺激に対する細胞38の応答を確認する。
【0075】
撮像後はシャッター4を図3のように閉じることにより、万が一にでも試料保持膜32が破壊される場合での鏡筒1への汚染を防止する。なお、上記のように細胞38に刺激を与えた後の変化をSEMで観察する前に、光学顕微鏡27で観察する場合もある。その際も、シャッター4を閉じておくと、試料保持膜32が破れた際の汚染のリスクを低減できる。すなわち、電子線7を液状試料20に照射させない時はシャッター4を閉じておくことで、装置内部の汚染を防ぐことができる。
【0076】
また、マニピュレータ26には、化学物質や薬物を液状試料20中に散布可能な機構を有すことができ、SEMで細胞を観察しながら化学物質や薬物に対する細胞38の挙動も観察・検査することができる。また、マニピュレータ26には、液体の流出機能を有することもでき、これにより散布した物質の回収を行うことや、培地のpHや浸透圧を一定にすることが可能になる。
【0077】
上記において、像を形成するための二次線(二次的信号)としては、試料からの反射電子を用いた。反射電子は、原子番号に比例した信号強度を持つ。その為、生物試料のようにほぼ全体が低原子番号の物質で構成されている場合、像のコントラストが非常に弱く、分解能を向上させることが困難である。そこで、細胞38の挙動で注目すべき部位に、金などの重金属を吸着させておくと良い。具体的には、該部位(抗原)に吸着する性質を持つ金粒子を標識した抗体を細胞に散布することで、抗原抗体反応を利用して、その部位(抗原)に該抗体を介して金を吸着させる。また、予め、電子線が照射されると発光する蛍光色素や量子ドット(例えばSiのナノ粒子、CdSeをZnSでコーティングした10〜20nmの粒子)を細胞38の特定部位に吸着させ発光を光学顕微鏡で観察しても良い。
【0078】
上記実施例において、通常用いられる金粒子は10〜30nmの粒径である。しかし、抗体と金粒子との吸着力が弱く、10〜30nmの金粒子を付けられないこともある。その場合には、まず粒径数nmと非常に小さな金(ナノゴールド)を抗体に付ける。このままでは金が小さすぎ、SEMでの観察は困難であるが、銀増感を利用して該金の周りに銀を吸着させることで、SEMで検出し易くする方法を用いても良い。
【0079】
なお、上記においては、予めシャーレにおいて培養されていた細胞を取り出して、試料保持体40に植え接ぎをして培養を行っていたが、生体から細胞を取り出して、この取り出された細胞を直接試料保持体40の試料保持面37aに配置し、試料保持体40内で当該細胞の培養をするようにしてもよい。
【0080】
SEMで観察中(シャッター4は、図1のように開放状態)に試料保持膜32が破れた場合には、液体試料20が真空室11に流入し圧力は上昇する。その圧力上昇を真空計15で、例えば100Paより高い圧力を検知した場合、その情報が電子線制御部24に送られ、シャッター駆動部14にシャッター4を閉鎖する命令が送られる。その結果、図3のようにシャッター4は閉鎖され、液体試料20はシャッター4で受け止められることとなる。この場合、真空室11内へ侵入する液体試料20の量が多い場合を想定して、図2のようにシャッター4には受け皿5が設けられている。
【0081】
圧力上昇を検知して、シャッター14を閉鎖するまでに要した時間は0.1秒以下であり、鏡体1の汚染を洗浄不要な程度にまで低減させることができる。このように、本発明により装置の使い勝手を向上することができる。
【0082】
このように、本発明を用いて試料保持膜32を介して液中試料のSEM観察が可能になった。特に開放された試料室を用いているため、外部から試料へのアクセスが可能で細胞に容易に刺激を与えることができる。
【0083】
本発明では倒立型SEMを用いたが、試料によっては密封型サンプルカプセル(背景技術参照)を用いた通常の正立型SEMでも問題は無い。ただし、この場合でもシャッター4は密封型サンプルカプセルと鏡筒1の先端の間にあることが必要である。
【0084】
なお、上記実施例においては、一次線として電子線を用いたが、試料保持膜32が他の荷電粒子(ヘリウムイオンビーム等)の照射に対する耐衝撃性及び強度が十分に高ければ、当該他の荷電粒子線を用いた場合でも適用可能である。
【0085】
また、上記実施例では二次線として反射電子を用いたが、それ以外でも二次電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光、及び細胞(試料)38への吸収電流を検出することにより、細胞38の情報を得ることが可能である。なお、吸収電流の測定はマニピュレータ26を用いると便利である。
【0086】
本実施例での試料保持膜32は、少なくとも一気圧の圧力差に耐えることができ、気体や液体の流入出がないことが必要である。具体的な物質としては、ポリマー、ポリエチレン、ポリイミド、ポリプロピレン、カーボン、酸化シリコン、窒化シリコン、又は窒化ボロンのうちの少なくとも一つを含むものを用いることができる。
【0087】
また、試料保持体40で細胞を培養し、グルタールアルデヒドやホルムアルデヒドを用いた細胞の固定を行った後、細胞を光学顕微鏡やSEMで観察しやすいように染色を行う用途にも適する。
【0088】
以上のように、シャッターに、試料からの二次線に基づく三次線発生機能を付加し、さらにシャッターに受け皿を設けることで、試料保持膜32が破壊されたとしても、大量の液体を受け皿で受け止めることができる。その際、シャッター及びその受け皿が汚染される(濡れる)為、シャッターの洗浄もしくは交換が必要となるが、構造が簡単な為、洗浄が容易で交換してもコスト低減が実現できる。
【0089】
このように、本発明における検査装置は、第1の面32aに試料が保持される膜32と、該膜32の第2の面32bに接する雰囲気を減圧する真空室11と、該真空室11に接続され該膜32を介して試料に一次線7を照射する一次線照射手段1と、該真空室内11において該膜32と該一次線照射手段1との間に配置され、該一次線照射手段1からの一次線7が通過する構成を有するとともに、該膜32と該一次線照射手段1との間の空間を部分的に仕切るシャッター4と、一次線7の照射によって試料から発生する反射電子等の二次線が該膜32を通過して該シャッター4に到達し、これより該シャッター4から発生する三次的信号を検出する信号検出手段15とを備える。
【0090】
そして、本発明における検査方法では、上記検査装置により試料の検査が行われる。
【0091】
また、さらに本発明の検査方法は、膜32の第1の面32aに試料を保持する工程と、該膜32の第2の面32bに接する雰囲気を減圧する工程と、一次線照射手段1により、該膜32の第2の面32b側から該膜32を介して試料に一次線7を照射する工程と、一次線7の照射により試料から発生した反射電子等の二次線を、該膜32と該一次線照射手段1との間の空間を部分的に仕切るシャッター4に照射させる工程と、これにより該シャッター4から発生する三次的信号を検出する工程とを備える。
【0092】
上記検査装置及び検査方法において、シャッター4には、前記構成として、一次線7が通過する孔4aが形成されている。さらに、シャッター4には、受け皿構造5が備えられている。また、膜32の第一の面32aは、アクセス可能なように開放状態で試料を保持する。
【0093】
そして、検査装置には膜32の破壊を検知する膜破壊検知手段15が備えられており、該膜破壊検知手段15による膜32の破壊の検知時には、検査装置は、シャッター4を移動させ、試料室1内部における上記空間内において一次線照射手段1から膜32に向かう一次線7の照射経路をシャッター4により遮断する。膜破壊検知手段15は、膜32の破壊に伴う真空室11内の圧力上昇を検知する。
【0094】
ここで、膜32の第1の面は該膜3232aの上面となっており、当該膜32の第2の面32bは該膜32の下面となっている。
【0095】
さらに、上記一次線は、荷電粒子線又は電子線とし、上記二次線は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つとし、上記三次的信号は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つとすることができる。
【0096】
このような構成により、膜32が破れ、膜32に保持された液状の試料20が真空室11に流入したとしても、速やかにシャッター4が一次線照射手段1と膜32との間を仕切り、試料20による一次線照射手段1の汚染を防止することができる。このとき、シャッター4は汚染されるが、洗浄もしくは交換を行えばよい。
【0097】
そして、シャッター4の構造は単純であるため、コスト低減につながる。従来では膜32が破損(破壊)される度に装置内の洗浄が必要となったが、本発明により、その洗浄が容易もしくは不要(部品交換による)になる。
【符号の説明】
【0098】
1…鏡筒(一次線照射手段)、2…電子銃、3…集束レンズ、4…シャッター、4a…孔、5…受け皿、7…電子線(一次線)、8…排気手段、9…排気手段、10…架台、11…真空室、12…試料保持体載置部(載置手段)、13…除震装置、14…シャッター駆動部、16…検出器(信号検出手段)、15…真空計、18…膜保持体(枠状部材)、20…液状試料、21…Oリング、22…画像形成装置、23…表示装置、24…電子線制御部、25…コンピュータ、26…マニピュレータ、27…光学顕微鏡(光学像取得手段)、28…制御部、29…電子線装置部、32…試料保持膜(膜)、32a…第1の面(試料保持面)、32b…第2の面、34…シリコン基板、34a…開口、37…本体部、37a…試料保持面、37b…孔、37c…段差部、37d…テーパ部、38…細胞(検査対象試料)、39…培地、40…試料保持体、61…反射電子(二次線)、62…二次電子(三次的信号(三次線))、301…導電膜、501…シリコン基板、502…窒化シリコン膜、503…窒化シリコン膜、503a…窒化シリコン膜、504…レジスト、505…レジスト、505a…レジスト、510…開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面に試料が保持される膜と、該膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する真空室と、該真空室に接続され該膜を介して試料に一次線を照射する一次線照射手段と、該真空室内において該膜と該一次線照射手段との間に配置され、該一次線照射手段からの一次線が通過する構成を有するとともに、該膜と該一次線照射手段との間の空間を部分的に仕切るシャッターと、一次線の照射によって試料から発生する二次線が該膜を通過して該シャッターに到達し、これより該シャッターから発生する三次的信号を検出する信号検出手段とを備える検査装置。
【請求項2】
前記シャッターには、前記構成として、前記一次線が通過する孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載の検査装置。
【請求項3】
前記シャッターには、受け皿構造が備えられていることを特徴とする請求項1又は2記載の検査装置。
【請求項4】
前記膜の第一の面は、アクセス可能なように開放状態で試料を保持することを特徴とする請求項1乃至3何れか記載の検査装置。
【請求項5】
前記膜の破壊を検知する膜破壊検知手段を備え、該膜破壊検知手段による前記膜の破壊の検知時には、前記シャッターを移動させ、前記空間内において前記一次線照射手段から前記膜に向かう一次線の照射経路を前記シャッターにより遮断することを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の検査装置。
【請求項6】
前記膜破壊検知手段は、前記膜の破壊に伴う前記真空室内の圧力上昇を検知することを特徴とする請求項5記載の検査装置。
【請求項7】
前記膜の第1の面が該膜の上面となっており、当該膜の第2の面が該膜の下面となっていることを特徴とする請求項1乃至6何れか記載の検査装置。
【請求項8】
前記一次線は、荷電粒子線又は電子線であり、前記二次線は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであり、前記三次的信号は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1乃至7何れか記載の検査装置。
【請求項9】
請求項1乃至8何れか記載の検査装置により試料の検査を行うことを特徴とする検査方法。
【請求項10】
膜の第1の面に試料を保持する工程と、該膜の第2の面に接する雰囲気を減圧する工程と、一次線照射手段により、該膜の第2の面側から該膜を介して試料に一次線を照射する工程と、一次線の照射により試料から発生した二次線を、該膜と該一次線照射手段との間の空間を部分的に仕切るシャッターに照射させる工程と、これにより該シャッターから発生する三次的信号を検出する工程とを備える検査方法。
【請求項11】
前記シャッターには、前記一次線が通過する孔が形成されていることを特徴とする請求項10記載の検査方法。
【請求項12】
前記シャッターには、受け皿構造が備えられていることを特徴とする請求項10又は11記載の検査方法。
【請求項13】
前記膜の第一の面は、アクセス可能なように開放状態で試料を保持することを特徴とする請求項10乃至12何れか記載の検査方法。
【請求項14】
前記膜の破壊の検知時には、前記シャッターを移動させ、前記空間内において前記一次線照射手段から前記膜に向かう一次線の照射経路を前記シャッターにより遮断することを特徴とする請求項10乃至13何れか記載の検査方法。
【請求項15】
前記膜の第2の面に接する雰囲気の圧力上昇を検知することにより、前記膜の破壊を検知する特徴とする請求項14記載の検査方法。
【請求項16】
前記膜の第1の面が該膜の上面となっており、当該膜の第2の面が該膜の下面となっていることを特徴とする請求項10乃至15何れか記載の検査方法。
【請求項17】
前記一次線は、荷電粒子線又は電子線であり、前記二次線は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであり、前記三次的信号は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項10乃至16何れか記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−230417(P2010−230417A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76908(P2009−76908)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】