説明

試料の物性評価方法及び半導体材料の物性評価装置

【課題】金属酸化物粒子又は金属硫化物粒子からなる半導体材料の物性、特に結晶欠陥量、結晶化度及び結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分を簡便且つ迅速に、非破壊な手段で評価し得る方法を提供すること、また、該方法の実施に使用するこれら物性の評価装置を提供すること。
【解決手段】試料に励起光を照射し、該励起光の照射により発生する特定波長における発光量を測定する試料の物性評価方法であって、評価対象となる物性が既知である基準試料の特定波長における発光量を測定し、前記基準試料の物性と前記測定された発光量との対応関係を予め得ておき、評価対象となる物性が未知である被測定試料の特定波長における発光量を測定し、前記測定された被測定試料の発光量と前記基準試料について得られた対応関係とを比較することにより該被測定試料の物性を評価することを特徴とする、試料の物性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の物性評価方法及びその方法に使用される物性測定装置に係るものであり、詳しくは、金属酸化物粒子又は金属硫化物粒子からなる半導体材料の結晶欠陥量、結晶化度又は構成成分(結晶型及び/又は非結晶型)等の物性を簡便に評価する方法、及びその方法に使用される半導体材料の物性評価装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
色素増感(湿式)太陽電池の半導体電極としては、一般的に、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、あるいは酸化マグネシウム(MgO)等の金属酸化物ナノ粒子の焼結体が一般的に用いられている。太陽電池の性能は、用いられる電極材料による影響を受けやすく、ナノ粒子等の結晶欠陥量や結晶化度によって大きく左右されることが知られている。これは、結晶欠陥や無定形(アモルファス)部分に色素から注入された電子が捕捉され、電解溶液中の物質と反応して電流が低下するためと考えられている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
一方、TiOやZnO等の金属酸化物や金属硫化物粒子からなる半導体材料は一般に光触媒材料としても用いられ、その結晶欠陥量や結晶化度によって光触媒性能が大きく左右されることが知られている。これは、結晶欠陥や無定形(アモルファス)部分に光励起電子が捕捉され、正孔との再結合反応が起こるためと考えられている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【0004】
かかるTiOやZnO等の金属酸化物粒子からなる半導体材料の物性評価方法として現在使用されている手段としては、例えば、結晶欠陥量に関しては、光化学反応によって試料中に蓄積する電子量を検出することにより結晶欠陥量を測定する方法が公知である(例えば、非特許文献3又は4を参照。)。粉末を対象とする結晶欠陥量の測定技術としてはこれ以外に知られていない。しかしながら、該測定方法は作業が煩雑で長時間を要し、更には破壊型の測定である。また、光触媒材料の物性を評価する方法としては、主にX線回折法による結晶型の測定や吸着法による比表面積測定が知られているが、前者は高価で高度な維持管理が必要な機器を用いるものであり、後者は前処理が必要で非破壊とはいえない方法である。
【0005】
このように、TiOやZnO等の金属酸化物や硫化物粒子からなる半導体材料において、その結晶欠陥量や結晶化度等の物性がその性能に与える影響は大きいものの、その物性評価を簡便且つ短時間に、しかも非破壊で評価する技術は存在しないのが実情である。
【非特許文献1】Kambe, S.; Murakoshi, K.; Kitamura, T.; Yanagida, S.; Kominami, H.; Kera, Y.; Solar Energy Mater. Solar Cells, 61, 427-441 (2000).
【非特許文献2】Ohtani, B.; Kominami, H.; Bowman, R.M.; Colombo Jr., P.; Noguchi, H.; Uosaki, K.; Chem. Lett., 579-580 (1998).
【非特許文献3】Ikeda, S.; Sugiyama, N.; Pal, B.; Ohtani, B.; Noguchi, H.; Uosaki, K.; Marci, G.; Palmisano, L., "Photocatalytic Activity of Transition-Metal-Loaded Titanium (IV) Oxide Powders Suspended in Aqueous Solutions: Correlation with Electron-Hole Recombination Kinetics, Phys. Chem. Chem. Phys., 3, 267-273 (2001).
【非特許文献4】Ikeda, S.; Sugiyama, N.; Murakami, S. S.-y.; Kominami, H.; Kera, Y.; Noguchi, H.; Uosaki, K.; Phys. Chem. Chem. Phys., 5, 778-783 (2003).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑み開発されたものであり、金属酸化物粒子又は金属硫化物粒子からなる半導体材料の物性、特に結晶欠陥量、結晶化度及び結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分を簡便且つ迅速に、非破壊な手段で評価し得る方法を提供すること、更に、該方法の実施に使用するこれら物性の評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、半導体材料に光を照射した際に発生する発光スペクトルを検出することにより、その結晶欠陥量や結晶化度等の物性を評価し得ることを見出した。すなわち、検出される発光スペクトルにおいて、特定波長における発光量と、結晶欠陥量や結晶化度、結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分との間に相関があることを見出し、簡便かつ非破壊型の半導体材料の物性評価方法を完成すると共に、本方法の実施において使用される物性評価装置をも完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明により、試料に励起光を照射し、該励起光の照射により発生する特定波長における発光量を測定する試料の物性評価方法であって、評価対象となる物性が既知である基準試料の特定波長における発光量を測定し、前記基準試料の物性と前記測定された発光量との対応関係を予め得ておき、評価対象となる物性が未知である被測定試料の特定波長における発光量を測定し、前記測定された被測定試料の発光量と前記基準試料について得られた対応関係とを比較することにより該被測定試料の物性を測定することを特徴とする、試料の物性評価方法が提供される。ここで、評価対象となる物性には、結晶欠陥量、結晶化度、または結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分並びにその含有率の少なくとも一つが含まれる。
【0009】
本発明の物性評価方法において、測定対象となる試料としては、金属酸化物あるいは硫化物粒子からなる半導体材料が含まれる。半導体材料としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、硫化カドミウム(CdS)等が挙げられ、中でも酸化チタン(TiO)からなる半導体材料の物性評価に好適に用いられる。
【0010】
評価対象となる物性が結晶欠陥量又は結晶化度である場合において、前記特定波長は1270±20nm又は620±20nmを中心波長とする光であり得る。
【0011】
また、評価対象となる物性が結晶型及び/又は非結晶型(構成成分)である場合においては、前記特定波長は結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分が既知である基準試料由来の2つの発光ピーク波長1及び2であり、該発光ピーク波長1及び2における発光量の比と結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分との対応関係を予め得ておき、結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分が未知である被測定試料の発光ピーク波長1及び2における発光量の比を測定し、得られた被測定試料の発光量の比と前記基準試料について得られた対応関係とを比較することにより該被測定試料の構成成分、すなわち、結晶型及び/又は非結晶型並びにその含有率を評価することができる。その際、測定試料が酸化チタンTiOからなる半導体材料である場合には、前記二つの発光ピーク波長1及び2は、560−580nm及び620−640nmの波長域にある。
【0012】
更に、本発明により、前記物性評価方法において使用される物性評価装置であって、特定波長の光照射手段と、微弱発光測定手段と、を具備する物性評価装置が提供される。
【0013】
また、本発明により、前記物性評価方法において使用される物性評価装置であって、試料セルと、前記試料セルを収容する試料室と、前記試料セルに収容されるべき試料に光を照射するための光照射手段と、前記試料から発生する発光強度を測定する発光強度測定手段と、前記試料室と前記発光強度測定手段との間に設けられた分光機構と、を具備する物性評価装置が提供される。
【0014】
この装置は、一態様において、前記分光機構として光学フィルター、分光器又は受光素子が用いられ、分光器としては、例えばグレーティングなどが好適に用いられる。
【0015】
また、他の態様において、前記試料セル及び/又は試料室が、照射される光により励起される物質を含まない材料から形成される。
【0016】
また、他の態様において、前記試料室が、前記試料セル中に収容されるべき試料の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換するためのガス入口及びガス出口を備えている。
【0017】
また、他の態様において、光照射手段としてレーザー光源が使用され、該レーザー光源は300〜450nmとされ得る。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、金属酸化物粒子又は金属硫化物粒子からなる半導体材料を用いてなる製品、例えばTiOからなる半導体電極を具備する太陽電池や光触媒効果を有する製品に用いられる材料の選択において、非破壊で且つ短時間に実施し得る簡便な品質評価技術の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
上述したように、本発明に係る物性評価方法は、半導体材料への励起光の照射により発生する特定波長における発光量と、当該材料における結晶欠陥量や結晶化度、結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分との間に相関があるとの知見に基づき開発されたものであり、材料に励起光を照射し、該励起光の照射により発生する特定波長における発光量を測定する物性評価方法である。
【0020】
まず、結晶欠陥、結晶化度、または結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分など評価対象となる物性が既知である複数の材料(基準試料)について、励起光照射により発生する発光スペクトルを得、特定波長における発光量を各々測定することにより、基準試料の物性と特定波長における発光量との対応関係を予め得ておく。次に、評価対象となる物性が未知である材料(被測定試料)について同じ特定波長における発光量を測定し、これを基準試料について得られた前記対応関係と比較することにより被測定試料の物性、すなわち、結晶欠陥や結晶化度の程度、あるいは結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分並びにその含有率の程度が測定される。なお、本発明において結晶化度の評価は比表面積を測定することにより結晶化度を評価することができる。すなわち、例えば比表面積が小さい場合は粒径が大きく結晶化度が高いことがわかる。
【0021】
本発明において物性の評価対象となる材料は、主として粉末又は固体状の半導体材料であり、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、あるいは酸化マグネシウム(MgO)等の金属酸化物粒子や金属硫化物粒子からなる半導体材料が挙げられる。
【0022】
本発明者等が鋭意検討した結果、本発明の一態様によれば、材料として酸化チタンを用い、評価対象となる物性が結晶欠陥量又は結晶化度である場合において、前記特定波長として1270nm±20nm(1250〜1290nm)、または620nm±20nm(600〜640nm)に中心波長を有する光を測定すればよい。具体的には、後掲の実施例1〜3及び5を参照することができる。
【0023】
このように特定波長として1270nm±20nmに中心波長を有する光を測定すればよいことに対しては、以下の推察が可能である。すなわち、酸化チタンはその禁制帯幅である約3eV以上のエネルギーをもつ光を吸収して価電子帯の電子が伝導帯に励起し、結果として励起電子と正孔(ホール)が生成する。次に、励起電子と正孔は次の3つの過程をとると考えられる(例えば、1)野坂芳雄、野坂篤子著「入門光触媒」、東京図書、2004、第3章『光触媒の反応機構』)。第一に、励起電子と正孔が再結合して熱を放出する過程、第二に、励起電子と正孔が再結合して光を放出する過程、および第三に、それぞれが粒子表面の化学物質と反応する過程、である。このうち、第一の過程は、結晶欠陥や結晶化していない部分において起こりやすいため、結晶欠陥量が大きく、結晶化度が低い試料においては、他の過程より優先して起こることとなる。第二の過程は、酸化チタンが室温に置かれたときには殆ど無視できることが知られており、実際に不活性ガス雰囲気下では発光は検知できないくらい小さい。第三の過程はいろいろなものが知られているが、通常の空気中では、励起電子が酸素分子と反応するのが主たる反応となる。結果として生じるスーパーオキシドアニオンラジカルは特に反応し易い化学物質を添加しない限り、正孔と反応して通常の酸素分子(三重項状態)より大きなエネルギーをもつ一重項酸素となることが知られている。上記のように、第二の過程は無視できるので、結晶欠陥量が少ないほど、結晶化度が高いほど第一の過程をとる励起電子と正孔の割合が減少し、結果として第三の過程によって生じる一重項酸素量が増大する。一重項酸素はそのエネルギーを失って三重項酸素に変換する際に主に波長1270nmの光を放出する。本発明の一態様において検出するのはこの発光である。
【0024】
また、本発明の他の態様によれば、評価対象となる物性が結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分並びにその含有率である場合には、前記特定波長として二つの発光ピーク波長1及び2、具体的には励起光照射により得られる発光スペクトルにおいて560〜580nm及び620〜640nmの波長域に見られる発光ピーク1及び2各々における発光量を測定し互いの比を測定することにより、結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分並びにその含有率を測定することができる。具体的には、後掲の実施例4を参照することができる。
【0025】
本発明に係る物性評価方法においては、材料への励起光照射により発生する発光スペクトルを高感度に測定することが必要であり、本発明により本物性評価方法の実施において好適に使用し得る物性評価装置として、特定波長の光照射手段と、低雑音で高感度に発光スペクトルを観測できる微弱発光測定手段とを具備する物性評価装置が提供される。図1は、本発明の物性評価装置の一態様を示すものであり、試料セル1と、試料セルを収容する試料室2と、試料セル1に収容されるべき試料に光を照射するための光照射手段10と、試料から発生する発光強度を測定する発光測定手段11と、前記発光測定手段11との間に設けられた光学フィルター12と、前記試料室の下方に設けられた加熱手段13とを具備し、更に前記試料室2は、該試料室内の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換するためのガス入口3及びガス出口4を備えている。前記光学フィルター12は、分光機構の一例である。また、前記試料セル1及び/又は試料室2は、照射される光により励起される物質を含まない材料、すなわち、高純度物質から形成されていることが好ましく、例えば、SiO、高純度ガラス、高純度石英ガラス、ステンレス、Si、SiCなどが具体例として挙げられる。また、光照射手段10としてレーザー光源が使用され得る。
【実施例】
【0026】
(実施例1)1270nm±20nm発光量と結晶欠陥量との関係
化学発光検出(Chemiluminescence detection: CL-detection)は、室温において、図1に示した低雑音で高感度に発光スペクトルを観測できる本発明の物性評価装置を用い、レーザー照射しながら行った。
【0027】
本実施例では、図1に示す装置において、発光測定手段11として発光検出器ケミルミネッセンスアナライザmodel CLA−310(検出波長領域300−1400nm)、光照射手段10としてレーザー光源を用い、更に分光フィルターとして1270nm発光測定のために1270±21.6nmのバンドパスフィルター、及び発光量を調節するためのNDフィルター(10−3)がセットされた装置を用いた。
【0028】
そして、被測定試料(基準試料)として、アナタース型とルチル型の酸化チタン粒子TiO各々2gを用意した(図2、後掲の表1を参照。)。基準試料を50mmφの試料セル1(ステンレスシャーレ)に秤量し、試料室2にセットした。レーザー光の波長は408nm、照射出力は6mW、化学発光の測定時間は30秒間とし、その平均値を求めた。
【0029】
図2A及び図2Bは、上記測定において検出された酸化チタン粒子TiO(基準試料)の1270nmにおける発光量と結晶欠陥量の逆数との関係をプロットしたものであり、図2Aがアナタース型酸化チタン、図2Bがルチル型酸化チタンに関するものである。ここで結晶欠陥量は、光化学反応によって試料中に蓄積する電子量を測定する方法であって、前記背景技術の項において言及した非特許文献4に記載の測定方法に従い求めたものである。
【0030】
図2A及び図2Bから、アナタース型酸化チタン及びルチル型酸化チタンのいずれにおいても、1270nmにおける発光量と結晶欠陥量との間には相関関係があり、1270nm発光量が高いほど結晶欠陥量が少ないことが確認された。そして、結晶欠陥の程度が既知である少数の基準試料について特定波長における発光量を測定し、図2A及び図2Bに見られるような、基準試料の結晶欠陥の程度と発光量との対応関係が得られれば、これとの比較により、発光測定という簡便な方法により結晶欠陥の程度が未知である被測定試料の結晶欠陥量を評価することが可能となる。なお、アナタース型とルチル型という結晶型の違いによってスーパーオキシドアニオンラジカルの生成効率が異なるため、図2A及び図2Bを比較したとき、直線の傾きに違いが生じているものと推測されるが、少数の基準試料について前記非特許文献4に記載の方法により結晶欠陥量の絶対値を測定してそれぞれの結晶について傾きを求めておけば、本発明に係る評価方法により結晶欠陥量の絶対値を知ることができる。
【0031】
(実施例2)1270nm発光量と結晶化度(比表面積)との関係
実施例1で使用した被測定試料(基準試料)について、その比表面積をBET法により求めた(表1を参照。)。図2C及び図2Dは、1270nm発光量と比表面積との関係をプロットしたものであり、図2Cがアナタース型酸化チタン、図2Dがルチル型酸化チタンに関するものである。ここで比表面積は、77Kにおける窒素吸着量からBET式に基づいて算出した。
【0032】
図2C及び図2Dより、アナタース型酸化チタンに関しては1270nmにおける発光量と比表面積との間に相関関係は認められないが、ルチル型酸化チタンに関しては1270nm発光量と比表面積との間に相関関係があり、1270nm発光量が高いほど比表面積が小さい(すなわち、粒径が大きく結晶化度が高い)ことが確認された。従って、比表面積が既知である少数の基準試料について特定波長における発光量を測定し、図2C及び図2Dに見られるような、基準試料の比表面積と発光量との対応関係が得られれば、これとの比較により、発光測定という簡便な方法により比表面積の程度が未知である被測定試料の比表面積、ひいては結晶化度を評価することが可能となる。
【表1】

【0033】
(実施例3)1270nm発光量の経時変化と結晶化度(比表面積)との関係
発光測定において検出される発光量は測定時間により変化し、更にその発光量の変化量は測定試料により異なることから、本実施例では、測定開始直後から150秒後における1270nm発光量の変化量を測定し(図3A、表2)、該変化量と比表面積(BET)との関係を求めた(図3B)。発光測定は、実施例1で使用した本発明に係る物性評価装置を使用し、照射出力を10mWに変更した以外は実施例1と同様の測定条件で行った。
【0034】
図3Bより、酸化チタン粒子において、1270nm発光量の変化量と比表面積との間には負の相関関係があり、比表面積が大きい(すなわち、結晶化度が低い)ものほど発光量の変化は小さいことが確認された。従って、比表面積が既知である少数の基準試料について特定波長における所定時間の発光量の変化を測定し、図3B見られるような、基準試料の比表面積と発光量の経時変化量との対応関係が得られれば、これとの比較により、発光測定という簡便な方法により比表面積の程度が未知である被測定試料の比表面積、ひいては結晶化度を評価することが可能となる。
【表2】

【0035】
(実施例4)結晶構成成分と発光スペクトルのピーク比との関係
被測定試料(基準試料)として、アナタース型とルチル型の各種酸化チタン粒子TiO各々2gを用意し(図4A、表1を参照。)、実施例1で使用した本発明に係る物性評価機構を具備し、測定波長の異なる検出デバイスを組合わせた装置を使用し、分光フィルターを替えた以外は実施例1と同様の測定条件(408nmレーザー励起)で発光測定を行い、図4に示す発光スペクトルを得た。
【0036】
図4に示される各発光スペクトルにおいて、420nmの発光ピークは光源由来のものと考えられるが、その特徴としていずれの試料においても560nm−580nm及び620nm−640nmにサンプル由来の発光ピークが見られるものの、試料により560nm−580nmピークと620nm−640nmピークにおける発光量の比が異なっていることが挙げられる。
【0037】
各測定試料の発光スペクトルについて、560nm−580nmピークの発光量と620nm−640nmピークの発光量の比を求め、該比率を試料の構成成分(結晶型)にと共に図5に示した。
【0038】
図5より、酸化チタン粒子の結晶型と、発光スペクトルの560nm−580nmピークと620nm−640nmピークにおける発光量比率との間には相関関係があり、ルチル型とアナタース型とでは、アナタース型の比率が高くなるほど620−640nm発光量/560nm−580nm発光量の比率が高くなることが確認された。従って、結晶型が既知である少数の基準試料について発光スペクトルを検出し、図5に見られるような、基準試料の結晶型と発光量比との対応関係が得られれば、これとの比較により、発光測定という簡便な方法により結晶の構成成分が未知である被測定試料の結晶成分を評価することが可能となる。
【0039】
(実施例5)620nm発光量と結晶欠陥量並びに結晶化度(比表面積)との関係
本実施例では、実施例1及び2における測定波長1270nmに対し、測定波長620nmにおける発光量と結晶欠陥量、並びに結晶化度(比表面積)との関係について発光測定を行った。被測定試料(基準試料)として実施例1及び2と同じアナタース型とルチル型の酸化チタン粒子TiO各々2gを用意し(図6、表1を参照。)、実施例1及び2と同じ本発明の物性評価装置を用い、測定波長以外は実施例1及び2と同様の測定条件において行った。
【0040】
図6A及び図6Cより、アナタース型酸化チタンの場合、測定波長620nmにおける発光特性は測定波長1270nmにおける発光特性と正の相関にあり、測定波長1270nmにおける場合と同様に620nm発光量が高いほど結晶欠陥量が少なく、一方620nm発光量が高いほど比表面積が小さい(すなわち、結晶化度が高い)ことが確認された。
【0041】
これに対し、図6B及び図6Dより、ルチル型酸化チタンの場合、測定波長620nmにおける発光特性は測定波長1270nmにおける発光特性と負の相関にあることがわかった。従って、ルチル型酸化チタンの場合、620nmにおける発光は一重光酸素とは別の要因に由来することが考えられるが、620nm発光量が高いほど結晶欠陥量が多く、一方620nm発光量が高いほど比表面積が大きい(すなわち、結晶化度が低い)ことが確認された。
【0042】
従って、アナタース型及びルチル型いずれの酸化ルチルについても、測定波長620nmにおいて少数基準試料から図6A〜Dに見られるような対応関係を得ることにより、これとの比較により、発光測定という簡便な方法により結晶欠陥量又は結晶化度が未知の被測定試料についての評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の半導体材料の物性評価装置の一態様を模式的に示す図。
【図2A】アナタース型TiOの1270nm発光量と結晶欠陥量との関係を示すグラフ。
【図2B】ルチル型TiOの1270nm発光量と結晶欠陥量との関係を示すグラフ。
【図2C】アナタース型TiOの1270nm発光量と比表面積との関係を示すグラフ。
【図2D】ルチル型TiOの1270nm発光量と比表面積との関係を示すグラフ。
【図3A】TiOの1270nm発光量の経時変化を示すグラフ。
【図3B】TiOの1270nm発光量の変化量(150秒後)と比表面積との関係を示すグラフ。
【図4】各酸化チタンの408nmレーザー励起時の発光スペクトルを示す図。
【図5】TiOの結晶構成成分と発光スペクトルのピーク比との関係を示すグラフ。
【図6A】アナタース型TiOの620nm発光量と結晶欠陥量との関係を示すグラフ。
【図6B】ルチル型TiOの620nm発光量と結晶欠陥量との関係を示すグラフ。
【図6C】アナタース型TiOの620nm発光量と比表面積との関係を示すグラフ。
【図6D】ルチル型TiOの620nm発光量と比表面積との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0044】
1・・・試料セル、2・・・試料室、3・・・ガス入口、4・・・ガス出口、10・・・光照射手段、11・・・発光測定手段、12・・・光学フィルター、13・・・加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に励起光を照射し、該励起光の照射により発生する特定波長における発光量を測定する試料の物性評価方法であって、評価対象となる物性が既知である基準試料の特定波長における発光量を測定し、前記基準試料の物性と前記測定された発光量との対応関係を予め得ておき、評価対象となる物性が未知である被測定試料の特定波長における発光量を測定し、前記測定された被測定試料の発光量と前記基準試料について得られた対応関係とを比較することにより該被測定試料の物性を評価することを特徴とする、試料の物性評価方法。
【請求項2】
前記評価対象となる物性が、結晶欠陥量、結晶化度、または結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分並びにその含有率の少なくとも一つである、請求項1に記載の試料の物性評価方法。
【請求項3】
前記試料が粉末又は固体状の半導体材料である、請求項1又は2に記載の試料の物性評価方法。
【請求項4】
前記半導体材料が酸化チタンTiOである、請求項3に記載の試料の物性評価方法。
【請求項5】
前記評価対象となる物性が結晶欠陥量又は結晶化度であり、前記特定波長が1250〜1290nmに中心波長を有する光である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の試料の物性評価方法。
【請求項6】
前記評価対象となる物性が結晶欠陥量又は結晶化度であり、前記特定波長が600〜640nmに中心波長を有する光である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の試料の物性評価方法。
【請求項7】
請求項1に記載の試料の物性評価方法において、評価対象となる物性が結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分であり、前記特定波長が結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分が既知である基準試料由来の2つの発光ピーク波長1及び2であり、該発光ピーク波長1及び2における発光量の比と、結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分並びにその含有率との対応関係を予め得ておき、結晶型及び/又は非結晶型の構成成分が未知である被測定試料の発光ピーク波長1及び2における発光量の比を測定し、得られた被測定試料の発光量の比と前記基準試料について得られた対応関係とを比較することにより該被測定試料の結晶型及び/又は非結晶型からなる構成成分並びにその含有率を評価することを特徴とする、請求項1に記載の物性評価方法。
【請求項8】
前記測定試料が酸化チタンTiOからなる半導体材料であり、前記二つの発光ピーク波長1及び2が、560−580nm及び620−640nmの波長域にある、請求項7に記載の物性評価方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の物性評価方法において使用される物性評価装置であって、特定波長の光照射手段と、微弱発光測定手段と、を具備する物性評価装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の物性評価方法において使用される物性評価装置であって、試料セルと、前記試料セルを収容する試料室と、前記試料セルに収容されるべき試料に光を照射するための光照射手段と、前記試料から発生する発光強度を測定する発光強度測定手段と、前記試料室と前記発光強度測定手段との間に設けられた分光機構と、を具備する物性評価装置。
【請求項11】
前記分光機構として光学フィルター、分光器、又は受光素子を具備する、請求項9又は10に記載の物性評価装置。
【請求項12】
前記試料セル及び/又は試料室が、照射される光により励起される物質を含まない材料から形成されている、請求項9乃至11のいずれか1項に記載の物性評価装置。
【請求項13】
前記試料室が、前記試料セル中に収容されるべき試料の雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換するためのガス入口及びガス出口を備えている、請求項9乃至12のいずれか1項に記載の物性評価装置。
【請求項14】
光照射手段としてレーザー光源を使用している、請求項10乃至13のいずれか1項に記載の物性評価装置。
【請求項15】
レーザー光源を300〜450nmとする、請求項14に記載の物性評価装置。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図6D】
image rotate


【公開番号】特開2007−271553(P2007−271553A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100163(P2006−100163)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000222026)東北電子産業株式会社 (11)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】