説明

試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット、位置調整台、アトムプローブ、並びに試料及び電極の装置への組付方法

【課題】試料と電極との相互の位置調整を容易に行う。
【解決手段】保持した試料に電極を介して電界をかけて加工または分析する装置に用いられ、かつ、装置本体から取り外し可能とされた試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを用いる。この試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットは、試料を固定する試料ホルダ21と、電極5を固定する電極ホルダ22と、試料ホルダにより固定される試料と電極ホルダにより固定される電極との間の相対的な位置決めを行う位置決め機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット、位置調整台、アトムプローブ、並びに試料及び電極の装置への組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子のトンネル現象を利用した最初の高分解能顕微鏡は、針状試料の鋭い針先から電子を放射させ、拡大投映させた放射電子像を観察する電界放射顕微鏡(FEM:Field
Emission Microscope)である。この顕微鏡は真空状態の下で強電界をかけると、量子力学的トンネル効果により金属導体表面から表面ポテンシャルの障壁を越えて電子が放出される電界放射現象を利用したものであり、針状に形成された金属試料の先端表面から強電界の作用で蛍光体が塗布されたスクリーンに向けて電子放射がなされるように構成することによって、蛍光スクリーン上に放出金属表面の拡大像を映し出させるというものである。FEMの分解能は約1nmと低いので原子は見えないが、針に印加した負電圧と放射電流のI−V特性から針先の半球面上の微細な結晶面の仕事関数が求まる。針への印加電圧を負から正に切り替え、鏡体内に低圧の不活性ガスを導入すると、FEMは電界イオン顕微鏡(FIM:Field Ion Microscope)として作動し、針先の原子配列を直接観察できるようになる。FIMには、電界蒸発現象により針先の表面原子を陽イオンとして順序正しく脱離させることができる特性がある。脱離イオンを逐一検出同定すると針先の組成を原子レベルで解析できる。この発想にもとづいて、単一イオンを検出できる質量分析器とFIMとの複合器であるアトムプローブ(AP:Atom Probe)が開発された。アトムプローブは、針先の電子状態・原子配列・組成分布を解析できる唯一の装置である。電界蒸発は表面第1層から原子層ごと順序正しく進行するので、アトムプローブによって層ごとの組成や界面の組成分布、さらには電子状態変化を調べることができる(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平2002-42715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし,従来のアトムプローブにおいて、針状試料の針先の表面から原子を電界蒸発させるには、針先の電界を電界放射現象よりもはるかに高くする必要がある。そのため、アトムプローブの中には針先付近に円輪状の微小引出電極を設置し、局所的に高電界を発生させるものがある。微小引出電極を用いる場合、針先と微小引出電極の開口部の円の中心が同軸上となるように位置合わせする必要がある。また、針先と電極の距離は近づければ針先に高電界が発生するが、近づけすぎると電極から針先に電界放射し試料を傷つける可能性があり、シミュレーションによって計算された距離に両者を設置する必要がある。通常、針先の局率半径が50nm程度、微小引出電極の開口部の直径が最大100μm程度であるため、真空中で行うには、遠隔操作によって試料の針先と電極との3次元的な位置調整を行わなければならず、このため複雑で高価な機構及び手順が必要となる。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、試料と電極との相互の位置調整が容易に行える、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットが組みつけられて試料と電極の相互の位置調整を行う位置調整台、アトムプローブ、並びに試料及び電極の装置への組付方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットは、保持した試料に電極を介して電界をかけて加工または分析する装置に用いられ、かつ、装置本体から取り外し可能とされた試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットであって、前記試料を固定する試料ホルダと、前記電極を固定する電極ホルダと、前記試料ホルダにより固定される前記試料と前記電極ホルダにより固定される前記電極との間の相対的な位置決めを行う位置決め機構と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットによれば、装置本体から取り外した状態で、試料を固定する試料ホルダと電極を固定する電極ホルダとを相対的に移動させながらそれら相互の位置決めを行うことにより、例えば試料の針先と漏斗状の電極とを同軸状となるように配置することができる。また、それら試料と電極相互間の距離をシミュレーションによって計算された距離に正確に配置できる。また、装置本体から取り外した状態で位置決めを行うため、顕微鏡下での位置決めが可能となり、高精度の位置決めが可能になる。
【0007】
本発明の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットは、前記位置決め機構が、共通基台に対して前記試料ホルダが互いに直交する軸X、Y、Zのうちの一つの軸であるX軸に沿って移動調整された後その位置で固定可能とされ、かつ、前記共通基台に対して前記電極ホルダが残る軸であるY軸及びZ軸に沿った方向へそれぞれ移動調整された後その位置で固定可能とされる構成であることが好ましい。
この場合、試料ホルダをX軸に沿った方向へ移動させて位置決めするとともに、電極ホルダをY軸に沿った方向及びZ軸に沿った方向へそれぞれ移動させて位置決めすることで、結果的に、試料ホルダに固定される試料と電極ホルダに固定される電極とは、X、Y、Z軸にそれぞれ沿った方向の3次元の位置決めが可能になる。またこのような構成は、試料ホルダと電極ホルダを個々に3次元の位置決め調整を行う場合に比べて、構成の簡素化が図れる。
【0008】
本発明の位置調整台は、請求項2記載の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットが組み付けられて前記試料ホルダ及び前記電極ホルダのそれぞれの位置を調整する位置調整台であって、前記共通基台を固定するフレームと、該フレームに設けられ、前記試料ホルダを前記X軸に沿った方向へ移動調整する試料ホルダ調整機構と、前記フレームに設けられ、前記電極ホルダを前記Y軸及びZ軸に沿った方向へそれぞれ移動調整する電極ホルダ調整機構とを備えることを特徴とする。
本発明の位置調整台によれば、装置本体から取り外した試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを試料調整台に固定し、この状態で、試料ホルダ調整機構によって試料ホルダをX軸に沿った方向へ移動調整し、また、電極ホルダ調整機構によって電極ホルダをY、Z軸に沿った方向へそれぞれ移動調整する。そして、それらの移動調整が終了したら、位置決め機構によって試料ホルダ及び電極ホルダを共通基台に固定する。
【0009】
本発明のアトムプローブは、請求項1または2記載の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを備えたことを特徴とする。
本発明のアトムプローブは、請求項1または2に係る発明と同様な作用効果を奏する。
【0010】
本発明の試料及び電極の装置への組付方法は、装置本体から、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを取り外す工程と、取り外した前記試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットの試料ホルダに試料を取り付けて固定する工程と、前記試料ホルダと電極ホルダを相対的に移動させることにより前記試料ホルダに固定した試料と前記電極ホルダに固定してある電極との相対位置を調整した後、前記試料ホルダと前記電極ホルダを共通基台に固定する工程と、前記試料ホルダ及び前記電極ホルダが固定された前記試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを装置本体に戻してセットする工程を備えることを特徴とする。
本発明の試料及び電極の装置への組付方法によれば、装置本体から、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを取り外した状態で、試料ホルダ及び電極ホルダの位置決めを行うため、前記請求項1に係る発明と同様に、例えば、試料の針先と漏斗状の電極とを同軸状となるように配置することと、それら相互間の距離をシミュレーションによって計算された距離に正確に配置することが容易かつ高精度で行える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば試料の針先と漏斗状の電極とを同軸状に配置することと、それら相互間の距離をシミュレーションによって計算された距離に正確に配置できることとが容易かつ高精度で行える。また、試料ホルダ等の位置調整を装置外で行えることから、それら位置決めのための真空チャンバ内外の複雑な機構及び手順が一切必要なくなる。このことにより,真空装置が簡略化され,小型化,汎用性につながり,経済的負担も小さくて済むこととなった。
また,真空中で試料と電極の位置を合わせる手順がなくなるため,試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを真空チャンバ内に設置後すぐに分析を開始できる。さらに,分析中に、次の分析対象となる試料に対し試料と電極相互間の位置調整ができるため、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを交換するだけで、次の分析が可能となる。つまり連続分析が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を図1〜図9に基づいて説明する。図1は本発明に係わるアトムプローブの主要の構成要素を表す概略図である。アトムプローブ1は、針状試料2等を収容するチャンバ3と、チャンバ3内を真空排気する真空ポンプ4と、針状試料2を保持するとともに針状試料2との間に電位差を生じさせる漏斗状の引出電極5を保持する試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6と、針状試料2にレーザーLを照射するレーザー発振器7と、針状試料2から発生したイオンMを検出する2次元イオン検出器8と、これらアトムプローブ1の主要の構成要素をそれぞれ制御する制御部9とを備える。
【0013】
試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6は、アトムプローブ1のフレーム11から取り外し可能となっている。具体的には、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6は、チャンバ3に対し扉12を介して隔てられた箇所である試料待機室13にセットされ、そこから扉12をあけた状態で、フレーム11に設けられたレール11aを介してチャンバ3内に導かれ、チャンバ3内の所定位置に、図示せぬ位置決め手段で位置決めされるようになっている。なお、試料待機室13は、チャンバ3ほどの真空度は得られないものの、大気からは遮断されていて、ある程度の真空度が維持できるようになっている。
【0014】
試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6について図2〜図5を参照しながら説明する。図2は試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6の正面から見た断面図、図3は図2のIII矢視図、図4は図2のIV矢視図、図5は図2のVーV線に沿う断面図である。
図2において符号20Aは横フレーム、20Bは縦フレームをそれぞれ表す。これらフレームは互いに直交するように組み付けられていて、針状試料2を保持固定する試料ホルダ21及び電極5を保持固定する電極ホルダ22が、それぞれ位置決めされた状態で固定される共通基台20を構成する。横フレーム20Aの下側には、前記アトムプローブのフレーム11に設けられるレール11aに嵌合するあり溝23が設けられている(図4参照)。
【0015】
横フレーム20Aの上側には基台上に円筒部が取り付けたれた形状の絶縁体24が固定され、この絶縁体24内には試料移動台25が図示せぬボルト等の固定手段によって固定されている。試料移動台25の上側には溝25aがX方向に延びるように設けられ(図4参照)、この溝25aにはホルダ固定部材26が嵌合される。ホルダ固定部材26は溝25aに沿ってX方向へ移動可能であるが、試料移動台25の上側に配置された蓋部材28がボルト27により試料移動台25に向けて締め付けられると、蓋部材28と試料移動台25との間に挟みこまれて固定される(図2、図5参照)。また、ホルダ固定部材26には、針状試料2を保持する試料ホルダ21がボルト29によって固定される。また、ホルダ固定部材26には下方に向けて被押圧部材30が取り付けられていて、この被押圧部材30は、バネ31及びバネ31の先端に取り付けられたボール32からなる押圧手段33によって図2において左方へ付勢される。また、ホルダ固定部材26は、図5に示すように、側方から押圧手段34によって溝25aの一方の側壁面に向けて押し付けられていて、図3におけるY方向の正確な位置決めがなされている。なお、押圧手段34は前記押圧手段33と同様な構成である。なお、試料ホルダ21及び試料移動台25等は前記絶縁体24によって覆われている。
ここで、前述した試料移動台25、ボルト27及び蓋部材28は、横フレーム20Aに対して試料ホルダ21をX方向に移動調整された後その位置で固定する、X方向位置決め機構を構成する。
【0016】
図2に示すように、縦フレーム20Bは円板状に形成され、その中央に孔40が形成されている。一方、電極ホルダ22は、縦フレーム20Bに対応する円板状に形成されていて、中央には側方へ突出する円柱状の突部41が設けられている。突部41には前記引出電極5がボルト42によって固定されている。また、電極ホルダ22の中央には、突部41が設けられた側から他側に向けて拡径するテーパー状の孔43が形成されている。この孔43は、針状試料2の先端から飛び出るイオンMが通るためのものである。そして、電極ホルダ22は、突部41が孔40にはめ込まれ対向する面同士を接合された状態で、外周部に設けられた複数のボルト44により、突部41の先端に取り付けた電極5が針状試料2を向くように前記縦フレーム20Bに固定される。
【0017】
ここで、前記突部41の外径は孔40の内径よりも小に設定されている。また、電極ホルダ22に形成されたボルト挿通孔22aはボルト44の外径より大に設定されている。したがって、ボルト44によって締め付けられる前の状態においては、突部41と孔40との間の隙間並びにボルト挿通孔22aとボルト44の隙間の分だけ、電極ホルダ22が縦フレーム20Bに対しその接合面に沿って、つまりY・Z方向に沿って移動調整可能となっている。
【0018】
縦フレーム20Bには、バネ45及びボール46からなる押圧手段47が、中心から図3における斜め左下方に向くように組み込まれており、これにより、電極ホルダ22は、斜め上方に向けて付勢されている。
【0019】
また、前述したボルト44は、縦フレーム20Bに対して電極ホルダ21をY・Z方向に移動調整された後その位置で固定するY・Z方向位置決め機構を構成する。
【0020】
上記構成の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6は、試料ホルダ21及び電極ホルダ22の相対的な位置、具体的には共通基台に対する位置を調整する際、専用の位置調整台50に組み付けられて調整される。
位置調整台50について図6〜図8を参照しながら説明する。図6は位置調整台の正面から見た断面図、図7は図6のVII矢視図。図8は図6のVIII矢視図である。
これらの図において符号51は調整台フレームである。この調整台フレーム51は底板51A、底板51Aに直交する側板51B及び後板51C、並びに底板51Aに平行となる上板51Dからなっている。底板51Aには、前記試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6が横フレーム20Aの下面を底板51Aの上面に当接された状態で、かつ試料ホルダ21が後述するマイクロメータ52と平行となりしかも電極ホルダ22が後述するマイクロメータ53、54の軸線によって形成される面に平行となるように、ボルト等の適宜固定手段で固定される。つまり、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6のX・Y・Z軸が、位置調整台50の座標軸であるX・Y・Z軸に合致するように、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6が位置調整台50に固定される。そして、側板51Bにはマイクロメータ52が直交するように組み付けられている。マイクロメータ52は、試料ホルダ21の後端に当接して試料ホルダ21のX方向の位置を調整する試料ホルダ調整機構を構成する。
【0021】
また、後板51Cにはマイクロメータ53が直交するように、また上板51Dにはマイクロメータ54が直交するようにそれぞれ組み付けられている。それらマイクロメータ53,54は、電極ホルダ22の側面にそれぞれ当接して電極ホルダ22のY方向及びZ方向の位置を調整する電極ホルダ調整機構を構成する。
なお、図6において符号55は、電極ホルダの位置決めを行うときに用いられる顕微鏡の対物レンズの位置を示す。また、図7において符号56は、試料ホルダ21の位置決めを行うときに用いられる顕微鏡の対物レンズの位置を示す。
【0022】
次に、上記構成のアトムプローブ並びに位置調整台の作用について説明する。
アトムプローブ1によって針状試料2の先端の分析を行うには、まず、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6を装置本体であるフレーム11から取り外す(図9におけるステップ:S1)。つまり、扉12を開いた状態とし、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6をフレーム11のレール11aに沿わせて、チャンバ3から試料待機室13まで移動させる。そこから、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6を取り外す。
【0023】
続いて、試料ホルダ固定用のボルト29を緩め、予め針状試料を取り付けた試料ホルダ21をホルダ固定部材26にセットし、ボルト29を締め付ける。これにより、試料ホルダ21をホルダ固定部材26に固定する(ステップ:S2)。
【0024】
続いて、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6を図6〜図8に示すように、位置調整台50にセットし固定する(ステップ:S3)。
【0025】
続いて、ボルト44を緩めて、縦フレーム20Bに対する電極ホルダ22のY方向及びZ方向の移動を可能にする。この状態で、マイクロメータ53を操作し、このマイクロメータの先端で押圧することにより、電極ホルダ22をY方向へ移動させてその位置を調整する。また、マイクロメータ54を操作し、このマイクロメータの先端で押圧することにより、電極ホルダ22をZ方向へ移動させてその位置を調整する。このとき、電極ホルダは、マイクロメータ53、54の先端並びに押圧手段47の先端のボール46による、3点支持の状態でその位置調整が行われる。
これによって、針状試料2の針先と漏斗状の引出電極5の中心とを同軸状に配置させることができる。
【0026】
また、このような操作と並行してボルト27を緩めて、試料移動台25に対するホルダ固定部材26のX方向の移動を可能にする。この状態で、マイクロメータ52を作動させ、このマイクロメータの先端での押圧位置を調整することにより、試料ホルダ21をホルダ固定部材26と一体的にX方向へ移動させてその位置を調整する。つまり、マイクロメータ52の先端を前進させると(図2において右方へ移動させると)、ホルダ固定部材26を介して試料ホルダ21と一体的に移動する被押圧部材30に押圧されて押圧手段33のバネ31が収縮し、試料ホルダ21の同方向への移動を許容する。また、マイクロメータ52の先端を後退させると(図2において左方へ移動させると)、押圧手段33のバネが伸張して被押圧部材30を図2において左方へ押圧し、試料ホルダ21を同方向へ移動させる。
これによって、針状試料2と引出電極5との距離がシミュレーションによって計算された距離となるように、針状試料2を配置できる(ステップ:S4)。
【0027】
前述したように共通基台20に対し電極ホルダ22をY・Z方向へそれぞれ移動させての位置調整、並びに試料ホルダ21をX方向へ移動させての位置調整をそれぞれ完了した後、ボルト44、…を締め付けることで、電極ホルダ22をその位置に固定し、ボルト27を締め付けることで、蓋部材28と試料移動台25との間にホルダ固定部材26を強く挟み込んで、試料ホルダ21をその位置に固定する(ステップ:S5)。
【0028】
このような針状試料2及び引出電極5の位置調整は、装置本体から外部へ引き出して行い、しかも、専用の位置調整治具である位置調整台50に組み付けて行うので、その調整作業がきわめて容易である。加えて、専用の位置調整台50に組み付けて行う際に、図6及び図7に示すように、顕微鏡を利用して行うことができるので、高精度の位置調整が可能である。
【0029】
続いて、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6を位置調整台50から取り外し(ステップ:S6)、アトムプローブに再びセットする。そして、針状試料2の先端に対する分析を開始する(ステップ:S7)。
【0030】
すなわち、真空ポンプ4によりチャンバ3内の空気を排気した後で、制御部9により、針状試料2と引出電極5との間に高電圧を印加し強電界を発生させる。次に、レーザー発振器7により、パルス幅が約100フェムト秒程度のレーザーLを針状試料2の先端に照射する。すると、電界蒸発により針状試料2の先端の原子がイオンMとなって飛び出し、引出電極5に導かれて、2次元イオン検出器8に当たる。
【0031】
制御部9は、イオンMが発生してから2次元イオン検出器8に到達するまでに要した時間を計測し、計測した所要時間からイオンMの質量を求める。
また、制御部9は、2次元イオン検出器8で検出されたイオンMが当たった位置からイオンMが針状試料2の先端から飛び出した位置を求める。
こうして、アトムプローブ1により針状試料2の先端における、3次元の微小領域の物質の構造及び組織を分析することができる。
【0032】
上記構成のアトムプローブによれば、例えば針状試料2の先端と漏斗状の引出電極5とを同軸状に配置することと、それら相互間の距離をシミュレーションによって計算された距離に正確に配置できることとが容易かつ高精度で行える。また、試料ホルダ21及び電極ホルダ22の位置調整を装置外で行えることから、それら位置調整のための真空用のチャンバ内外の複雑な機構及び手順を一切不要にすることができる。またこれにより、真空装置が簡略化され,小型化,汎用性につながり,経済的負担も小さくて済む。
【0033】
また,真空中で針状試料2と引出電極5の位置を合わせる手順がなくなるため、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6をチャンバ3内に設置後すぐに分析を開始できる。さらに,分析中に、次の分析対象となる針状試料2に対し該針状試料2と引出電極5相互間の位置調整ができるため、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6を交換するだけで、次の分析が可能となる。つまり連続分析が可能になる。
【0034】
なお、本発明は前記実施形態に限られることなく、必要に応じて適宜設計変更可能である。
例えば、前記実施形態では、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット6を装置本体外に取り出して針状試料2と引出電極5との間の位置調整を行うことを、アトムプローブ1を例に挙げて説明したが、これに限られることなく、前記位置調整に係る発明は、電界放射顕微鏡や電界イオン顕微鏡等の他の装置にも適用可能である。
また、前記位置調整台5では、手動で動かすマイクロメータを利用して試料ホルダ調整機構並びに電極ホルダ調整機構を構成したが、これに限られることなく、これらの調整機構は、電動で動く螺子機構を利用したものであっても、あるいはピエゾ素子を利用したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係わるアトムプローブの一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】前記アトムプローブで用いられる試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットの正面から見た断面図である。
【図3】図3は図2のIII矢視図である。
【図4】図4は図2のIV矢視図である。
【図5】図5は図2のVーV線に沿う断面図である。
【図6】図6は位置調整台の正面から見た断面図である。
【図7】図7は図6のVII矢視図である。
【図8】図8は図6のVIII矢視図である。
【図9】図9は試料をアトムプローブにセットする手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 アトムプローブ
2 針状試料
5 引出電極
6 試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット
9 制御部
12 扉
20 共通基台
20A 横フレーム
20B 縦フレーム
21 試料ホルダ
22 電極ホルダ
25 試料移動台(X方向位置決め機構)
27 ボルト(X方向位置決め機構)
28 蓋部材(X方向位置決め機構)
44 ボルト(Y・Z方向位置決め機構)
50 位置調整台
52 マイクロメータ(試料ホルダ調整機構)
53 マイクロメータ(電極ホルダ調整機構)
54 マイクロメータ(電極ホルダ調整機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持した試料に電極を介して電界をかけて加工または分析する装置に用いられ、かつ、装置本体から取り外し可能とされた試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットであって、
前記試料を固定する試料ホルダと、
前記電極を固定する電極ホルダと、
前記試料ホルダにより固定される前記試料と前記電極ホルダにより固定される前記電極との間の相対的な位置決めを行う位置決め機構と、
を備えることを特徴とする試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット。
【請求項2】
前記位置決め機構は、共通基台に対して前記試料ホルダが互いに直交する軸X、Y、Zのうちの一つの軸であるX軸に沿って移動調整された後その位置で固定可能とされ、かつ、前記共通基台に対して前記電極ホルダが残る軸であるY軸及びZ軸に沿った方向へそれぞれ移動調整された後その位置で固定可能とされる構成であることを特徴とする試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニット。
【請求項3】
請求項2記載の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットが組み付けられて前記試料ホルダ及び前記電極ホルダのそれぞれの位置を調整する位置調整台であって、
前記共通基台を固定するフレームと、
該フレームに設けられ、前記試料ホルダを前記X軸に沿った方向へ移動調整する試料ホルダ調整機構と、
前記フレームに設けられ、前記電極ホルダを前記Y軸及びZ軸に沿った方向へそれぞれ移動調整する電極ホルダ調整機構とを備えることを特徴とする位置調整台。
【請求項4】
請求項1または2記載の試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを備えたことを特徴とするアトムプローブ。
【請求項5】
装置本体から、試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを取り外す工程と、
取り外した前記試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットの試料ホルダに試料を取り付けて固定する工程と、
前記試料ホルダと電極ホルダを相対的に移動させることにより前記試料ホルダに固定した試料と前記電極ホルダに固定してある電極との相対位置を調整した後、前記試料ホルダと前記電極ホルダを共通基台に固定する工程と、
前記試料ホルダ及び前記電極ホルダが固定された前記試料ホルダ電極ホルダ一体化ユニットを前記装置本体に戻してセットする工程を備えることを特徴とする試料及び電極の装置への組付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−110713(P2009−110713A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279318(P2007−279318)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月13日 独立行政法人 日本学術振興会主催の「マイクロビームアナリシス 第141委員会 第129回研究会」に文書をもって発表
【出願人】(507355467)
【出願人】(507355478)
【出願人】(507355490)
【出願人】(507355515)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】